陶磁器の持つ魔力(2)

  • 2014.11.30 Sunday
  • 13:44
JUGEMテーマ:陶芸


前回の続きで、陶磁器を載せていきたいと思います。
これは天目という焼き目の茶碗です。
独特な模様ですね。





黒い中に靄のような白が美しいですね。
欲しいけど高いです。陶器の中じゃ安い方だけど、でも私の財布からすると・・・・ね。





さっきのお椀の隣にあったやつ。
見ようによっては気持ち悪いかも・・・・。





でも中は面白い柄なんですよ。
こんな茶碗でご飯を食べたら楽しそうです。





私の大好きな孔雀焼。でも陶芸的な価値はそこまで高くないそうです。
けどそんなことはどうでもいい!
この焼き物が一番野性味があって面白い。
お上品なだけじゃない、力強い美しさがあるから。
ちなみに正面の白いやつは、窯に当たって出来た傷です。
こういうのが逆に魅力なんですよ。





こうして見ると、孔雀というより星雲みたいです。
広い宇宙を連想しました。





中華風の磁器ですね。綺麗だし可愛い。




これは備前焼です。
備前は釉薬を使わず、土の色を活かすんだそうです。
時間が経つと変色するようで、それもまた魅力だそうです。





鮮やかなお皿。
シンプルな絵に、きめ細かい周りの模様とのギャップがいいです。




これは磁器ですね。
青を基調にしているのがいいです。
無数の花模様がいい演出をしていて、金色と青の対比も似合いますね。





これは西洋画風の磁器ですね。
海外向けに輸出された日本の陶磁器は、ヨーロッパの焼き物に影響を与えたそうです。
それを逆輸入するようになって、こういう再洋画風の陶磁器が生まれたそうです。
和洋合作ですね。
次回で最後です。

 

山の水

  • 2014.11.30 Sunday
  • 13:08
JUGEMテーマ:写真


山に流れる水はとても綺麗です。
夏でも冷たく、ずっと触っていると痺れてきます。





岩の窪みを駆ける水。
この窪みは水が作ったんだと思います。
あの広大なグランドキャニオンも、大昔に流れていた川が、岩肌を削って出来たものだそうです。
水の力ってすごい。





岩を縫う水は勢いがあります。
障害物があった方が、より激しく流れるみたいです。
水って穏やかなイメージがあるけど、実際は力の塊ですよ。
これくらいの浅い川でも、流れが強いと簡単に足を取られますからね。





山の麓の川です。
ここまで来ると、多少流れは穏やかになります。
でも水量は増えるから、やっぱり危ないんですよ。
川遊びはよくよく注意が必要です。
見てる分にはすごく綺麗なんですけどね。





最近陶器にハマっているんですが、岩と水のコントラストは陶器を連想させました。
地味で渋い岩肌に、白く滑らかな水の色。
自然にできるその色合いは、陶器と同じです。
陶器も焼いてみるまで仕上がりが分かりませんからね。
また次回へ続きます。

 

勇気のボタン〜猫神様のご神託〜 第三十三話 白鬚ゴンゲン(2)

  • 2014.11.30 Sunday
  • 12:47
JUGEMテーマ:自作小説
『藤井さんのことが好きなら、しっかり捕まえておきなさいよ。』
アカリさんにそう言われて、ふと大事なことを思い出した。
《そうだよ・・・アカリさんからの電話で忘れてたけど、藤井はもう結婚してるんだった・・・。なんか訳ありな感じだけど、きちんと話を聞いておかないとな。》
俺はチラリと藤井の方を見つめた。すると向こうもこちらの様子を窺っていて、言いようのないくらいに不安な顔をしていた。
「すいませんアカリさん、これから藤井と大事な話があるんです。もしかしたら沖田に関することかもしれないので、とりあえず一旦切っても大丈夫ですか?」
『ええ、いいわよ。こっちも進展があったらまた教えるから。』
「お願いします。それじゃ・・・・翔子さんのことよろしく頼みます。」
そう言って電話を切ろうとした時、『待って!』と止められた。
『この前ベンジャミンがあんたに会いに来たでしょ?』
「ええ、なんかわけの分からない言いがかりをつけられて、七億払えとか言われましたよ。」
『あれね・・・・あんたに会うのが目的だったのよ。』
「はい?俺に会うのが・・・・・、」
『さっきも言ったけど、ベンジャミンは藤井さんに恩がある。だから彼女を沖田から守ろうとしたんだけど、逆に脅される羽目になった。でもこのままだと藤井さんはいつか必ず酷い目に遭うと分かっている。だから・・・・あんたに会いに行ったのよ。
藤井さんの彼氏がどんな男なのか?頼りになる奴なのか?藤井さんを守るだけの気概と力があるのか?そして・・・・どうやらあんたはベンジャミンのお眼鏡にかなった。だから沖田のことを忠告していったのよ。アイツと一緒にいると、藤井さんが酷い目に遭うとね。』
「それは・・・・自分の代わりに藤井を守れってことですか?」
『何を言ってるのよ、藤井さんを守るのは元々あんたの役目でしょ?ベンジャミンは、あんたが藤井さんの彼氏に相応しいかどうか会いに行っただけよ。そして・・・あんたなら藤井さんを任せても大丈夫だと思ったんでしょう。だからこそ、自分は翔子さんを誘拐してまで目的を果たそうとしているのよ。もうここまで来たら、沖田に脅されてるなんて関係ないからね。ベンジャミンの企みが上手くいったら、沖田も必ず殺されるわ。けどそんな血生臭いことになる前に、あんたに藤井さんを沖田の元から離してほしかったんだと思う。ベンジャミンは確かに野蛮なところはあるけど、根は義理堅くて情に厚い奴なのよ。それは同じ稲荷の私がよく知ってるから・・・・。』
アカリさんは少し寂しそうな声で言った。電話の向こうから声が途切れ、重い空気だけが耳に響いた。
『ベンジャミンは・・・私とよく似た過去を持ってる・・・。私もアイツも元々はただのキツネで、愛する者を人間に殺された・・・・。だから傷を舐め合うわけじゃないけど、アイツとは仲良くやっていたの・・・・。
私たちは元がただのキツネだから片身は狭かったけど・・・・お互いの痛みを理解出来るから・・・・ずっと傍にいたの・・・。私とアイツは・・・・友達だった・・・・。』
アカリさんの声は震えていた。小さく鼻をすする音が聞こえ、電話の向こうから彼女の悲しみが伝わって来るようだった。
『ねえ悠一君・・・・ベンジャミンを助けてあげて・・・。このままだとアイツは必ずダキニ様に殺される・・・・。こんな馬鹿な企みが通用するほど、ダキニ様は甘くない。だから・・・・アイツを助けてあげて・・・・。』
「アカリさん・・・・・。」
『アイツは頭が良いクセに馬鹿なのよ・・・・。馬鹿みたいに義理堅くて、馬鹿みたいに真っ直ぐなだけなの・・・・・。
だから大事な者を守れなかった自分が、悔しくて悔しくて堪らないだけなのよ!
悠一君は動物を助ける活動をしているんでしょ?だったらベンジャミンを助けてあげて!あの馬鹿を助けてあげてよ・・・・・お願い・・・・。』
電話の向こうからアカリさんの押し殺した泣き声が聞こえる。それはいつもの気丈な彼女からは想像出来ないほど、自分の心をさらけ出した叫びに聞こえた。
俺はしばらく黙っていた。アカリさんが電話の向こうで俺の返事を待っているのを感じながら、ただ宙を見つめていた。
「悠ちゃん・・・・何があったの・・・・?」
藤井が堪りかねたように尋ねてくる。俺はそんな藤井の顔を見つめながら、アカリさんやベンジャミンの境遇を自分に置き換えてみた。
《もし藤井が誰かに理不尽に殺されるようなことがあったら、きっと俺は憎しみを抱くだろう。藤井を殺した奴を拷問にかけ、苦しみ抜いた末に殺してやりたいとさえ思う・・・・・。けどそんなことをしたって藤井は生き返らない。俺はただただ胸に空いた虚無感に苛まれることになるはずだ。》
・・・・藤井がいなくなる。いや、俺にとっての大切な者たちがいなくなる・・・。我が家の動物たちや、翔子さんやたまきがいなくなったら・・・・俺は・・・・・、
「アカリさん、任せて下さい。ベンジャミンは俺が何とかしてみせます。」
そう返事をすると、『ほんとに・・・?』と呟いた。
「ほんとです。だってアカリさんの言ったとおり、俺は動物を助ける活動をしていますからね。だから・・・・きっと何とかしてみせますよ。」
『・・・・あんた・・・・馬鹿じゃないの?こんなの感情に任せて頼んだだけなのに・・・・本当に引き受けてくれるの?』
「ええ、今俺の目の前には藤井がいるんです。俺たちは今までにたくさんの動物を助けてきたから、今回もきっと上手くやってみせますよ。」
胸を張って偉そうに言ったものの、上手くいった試しの方が少ない。しかし今日の俺は男らしいそうなので、多少の見栄は許されるだろう。
それに何より、ここまで話を聞いて、俺にはある考えがあった。それが上手くいけば、ベンジャミンを助けることが出来るかもしれない。
『・・・分かった、あんたを信じるわ。きっとベンジャミンを助けてあげてね。』
「はい!任せて下さい。」
『それじゃ一旦切るね。また何かあったら連絡する。・・・ああ!それと藤井さんにもよろしく言っておいて。あなたに会ったことはないけど、私はあなたを信用するって。・・・・それじゃ。』
俺はスマホをポケットにしまい、みんなの方を振り返った。
目の前では藤井とマイちゃんが息を飲んで俺の言葉を待っていて、ノズチ君はなぜか俺に飛びかかろうとしていた。
「おいコラ!ボケっと突っ立ってないで電話の内容を言え!みんな不安で仕方ないんだからよ!」
「分かってるよ。けどその前に聞いておくことがあるんだ。」
俺は藤井の顔を見つめながら、頭に浮かんだある質問をぶつけてみた。
「お前が結婚した相手って・・・・もしかして死んだ犬を捜してくれって依頼してきたおじさんじゃないのか?」
そう質問をぶつけた途端、見る見るうちに藤井の顔が青ざめた。
「やっぱりか・・・・。ベンジャミンの奴、そこまでして藤井に恩を返そうと・・・・。」
一人で納得していると、ノズチ君が「スカした顔で納得してんじゃねえや!」と叫んだ。
「なんで分かったのか説明しやがれ!」
「お前はいつもカッカしてるな。もうちょっと落ち着けよ。」
「へん!カッカするのがツチノコなんだ!図鑑にもそう書いてあるぜ!」
「書いてないよ。ていうか図鑑にツチノコは載ってない。」
ノズチ君の相手をしていたら話が進まない。適当に受け流し、藤井を見つめて問いかけた。
「なあ藤井・・・お前は知っているんじゃないか?死んだ犬を探すおじさんが、実はベンジャミンだってことを。」
「・・・・・・・・・。」
「黙ってても表情でバレバレだよ。お前はベンジャミンを助けたことは覚えてなくても、アイツが稲荷だってことは知っていたはずだ。稲荷ってのは人間に化けられるから、姿形だってある程度は自由に変えられる。だからきっと・・・そのおじさんはベンジャミンなんだ。ベンジャミンはどうにかしてお前を守りたいと思い、沖田から引き離すことを考えた。
だから死んだ犬を捜してくれだなんて嘘の依頼を持ちかけた。そうすれば沖田は呆れて相手にしないだろうけど、お前は食いつくと踏んだんだ。死にかけた自分を助けてくれるほど優しいお前なら、きっとこんな依頼でも信じてくれると思ってな。」
一息にそう問い詰めると、藤井は視線を逸らして手元を見つめた。
「お前だって、心の底ではそんな馬鹿げた依頼は信じていなかったはずだ。けどどうしてもそのおじさんの気持ちを汲んであげたいから、沖田に黙って一人で会いに行った。そこでそのおじさんは、自分がベンジャミンであることを明かしてこう言ったんじゃないか?『沖田は危ない奴だから、すぐに奴の元を離れろ』ってな。
お前はその時に、沖田がどういう人間か教えられたはずだ。そして・・・・・きっとショックを受けたと思う。まさか自分が師事している人間が密猟者だなんて思わなかっただろうからな。動物好きのお前は沖田に怒りを覚えて、奴を一人で追い詰めることを決意した。だから沖田を説得して、ベンジャミンの嘘の依頼を引き受けるように頼んだんだ。」
相変わらず藤井は顔を上げない。しかしそれこそが俺の言っていることを認めている証拠で、構わず先を続けた。
「お前はベンジャミンから聞いていたんだろう?沖田がこの山で密猟をしていることを。
だからベンジャミンの嘘の依頼を利用して、奴と一緒にここまでやって来た。沖田が密猟をしている証拠さえ押さえれば、後は警察に行くだけだからな。
けど・・・ベンジャミンはそんな危険なことは許さなかった。お前を引き留めようと説得はしてみたものの、全く聞く耳を持ってくれなくて困ったはずだ。お前を守る為に沖田の本性をバラしたのに、それがかえってお前の心に火を点けてしまったんだからな。だからベンジャミンは慌てた。そこで思いついたのが、ノズチ君が自分の神社を壊した事を利用することだったんだ。
ノズチ君はお前の友達だから、その責任を追及することを思いついた。金を払うか、自分の元で働くかしない限り、沖田の元には帰さないってな。けど・・・・ベンジャミンはもう一つ選択肢を突きつけたはずだ。それは・・・・沖田を自分一人で追い詰めるなら、俺と結婚しろって選択肢だ。違うか?」
俺は目に力を込めて藤井を睨んだ。もうここまで来てだんまりは許さない。ここから先は藤井の口から認めてもらわないと意味がない。
そうでなければ、全ては俺の勝手な推測になってしまうから・・・・・。
藤井はひどく困っていた。忙しなく手元を動かし、泣きそうな顔でまばたきを繰り返していた。
すると黙って見ていたマイちゃんが、「もういいじゃない、全部話してスッキリしちゃお・・・」と呟いた。
「悠一君は藤井さんの大切な人なんでしょ?だったら・・・きっと受け止めてくれるよ。どんなことがあったって、きっと受け止めてくれる。私は藤井さんより前から悠一君を知ってるからね、それは保証するよ。」
マイちゃんはそう言って優しく藤井の肩を撫でる。顔を上げた藤井は目元に涙を溜めていて、「ごめんなさい・・・」と呟いた。
「さっき悠ちゃんが言ったこと・・・・ほとんど当たってる・・・・。」
「そうか・・・。アカリさんから話を聞いた時、ベンジャミンが悪い奴じゃないって分かったんだ。だったら、マイちゃんがずっと俺のことを想っていてくれたように、ベンジャミンだってお前のことを想っていたはずだ。そんな義理固い奴が、命の恩人を放っておいて自分の目的を遂行するはずがない。アイツは・・・・今でもちゃんと藤井のことを守ろうとしている。結婚の条件まで飲んで、沖田を追い詰めることを選らんだお前を守る為に・・・・俺に会いに来たんだ・・・・。」
自分の考えは全て正しかった。ちょっと自信はなかったけど、でも藤井が認めてくれてよかった。
だって・・・こういう理由なら、藤井の結婚も納得出来るから。藤井はあくまで動物の為にベンジャミンと結婚したんだ。
沖田の罪を暴き、これ以上密猟の犠牲となる動物を出さない為に・・・・・。
「藤井・・・俺はもう怒ってないよ。お前はやっぱり昔のままだ。いつだって動物の為に無茶をする、出会った頃の藤井のままだ。」
そう言って藤井の手を握ろうとすると、なぜかサッと避けられた。
「どうした?もう俺は怒ってないんだぞ?そんなに怖がらなくても・・・・・、」
「違うの!そうじゃないの!」
藤井は喚くように言い、目に溜まった涙を流しながら俺を見つめた。
「・・・・私・・・まだ悠ちゃんに言ってないことがある・・・・。」
「俺に言ってないこと?」
「だっておかしいと思わない?私はチュウベエとカモンが来る前から、沖田君がどういう人間か知っていたんだよ。
だったらもっと早く悠ちゃんの元に帰ってるはずじゃない・・・・。」
「ああ、言われてみれば確かに・・・・・。」
藤井がここへ逃げて来たのは、チュウベエとカモンが沖田の本性を伝えに行ったからだ。
でも藤井は、それ以前から沖田が密猟者であることを知っていたわけだから、これは確かに変だった。
「まだ・・・・悠ちゃんに言ってないことが二つある・・・・。そのうちの一つはベンジャミンのこと・・・・。」
「ベンジャミンの・・・・?」
「私は知ってたの・・・・彼が何を企んでいるかを・・・・。だって彼の口から全てを聞かされたから・・・・。
けどそんな事をしたら、きっと彼は不幸な目に遭うと思った。私は・・・・私を守ってくれようとしている彼を放っておけなかった。」
藤井は辛そうに顔を歪めながら言う。俺はそんな藤井の顔を見て胸が痛んだ。
「お前は気にしてたんだな。アイツの企みを知りながら、それを黙っていたことを。」
「だって・・・・そのせいで翔子さんがさらわれちゃったから・・・・。悠ちゃんの大事な友達なのに・・・・ごめんなさい・・・・。」
そう謝る藤井は、心の底から申し訳なさそうにしていた。俺はさらに胸が痛み、「お前のせいじゃないよ」と言った。
「私は彼の企みをやめさせようと思って、悠ちゃんに電話した。」
「俺に電話?」
「この前したでしょ?ベンジャミンのことで。」
「ああ、あれか・・・・。ノズチ君が神社を壊してどうのこうのって・・・・。でもあの時は、ベンジャミンの企みなんて一言も話してなかった気がするけど・・・・?」
そう尋ねると、藤井は黙り込んだ。まるで毒でも盛られたように、胸にグッと手を当てながら。
「言いたかったけど言えなかった・・・・。だって私は・・・・・もう悠ちゃんに頼みごとを出来る立場じゃないと思ったから・・・・。」
「どうして?俺とお前の仲なんだぞ。何でも言えばいいじゃないか。」
「それが出来ないから言えなかったの!私が昨日言ったこと覚えてる・・・・?」
「昨日言ったこと?・・・・・ええっと、なんだっけ?」
「沖田君のことよ。彼に何かされたのかって聞いたでしょ?」
「ああ、あれか・・・。途中でたまきに止められたから、あれ以上聞けなかったけど・・・・。それが何か関係あるのか?」
なんだか嫌な予感がして、思わず腕を組む。この先は聞かない方がいいような気がするけど、ここで背を向けるわけにはいかなかった。
「なあ藤井。もう結婚の話まで聞かされたんだ。今さら何を聞いても驚きゃしないよ。だから何でも言ってくれ。」
努めて優しい口調で言うと、藤井は小さく首を振った。
「なんだよ、ここまできて言いたくないのか?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
藤井は無言で俯き、小さく震えていた。胸に当てた手を握りしめ、痛みを抑えるように力を込めていた。
・・・・長い沈黙が流れる。ここから先は聞かない方がいいという警告が頭の中に流れているけど、それでも聞かないわけにはいかない。
ただじっと藤井の言葉を待ち、流れる沈黙に耐えていた。
「・・・あのね・・・・昨日・・・私は嘘を言った・・・・。」
藤井は震える声で言う。まるで大きな罪でも告白するように、その顔は色を失くして沈んでいた。
「昨日は・・・・沖田君に何もされていないって言ったけど・・・・それは嘘なの・・・・・。
私・・・・私は・・・・・もしかしたら・・・・沖田君に抱かれていたかもしれない・・・・。」
「え?」
「・・・・今から半年ほど前に、仕事が忙しくて彼の事務所に泊まったの・・・・。
すごく疲れてたから、ソファに横になってすぐ眠たくなった・・・・。ウトウトして眠りに落ちていく途中・・・・ふと沖田君の匂いを近くに感じたの。ううん、匂いだけじゃない。彼の息遣い、それに私の頬に触れる感触も・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「けどあまりに眠かったから、特に気にせずにそのまま寝ちゃった・・・・・。でも次の日の朝に起きたら・・・・・毛布が掛けられていて、私は彼の服に着替えさせられていた。私の着ていた服は全部事務所の洗濯機に入っていて・・・・下着もその中にあった・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「だから慌てて自分の身体を調べてみたら、お腹に違和感があって・・・・それで・・・・。」
藤井は目を瞑り、堪りかねたように泣き出した。マイちゃんがその肩を抱くと、身を預けるように項垂れていた。
「きっと・・・・寝ている間にやられちゃったんだと思う・・・・。あの時はすごく疲れてたから、何をされても気づかなかったんだと思う・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「目を覚ましたら沖田君はいなくなっていて、今日は疲れているみたいだから休んでいいって書置きがあった。普段は風邪を引いても休ませてくれないのに、こんなのおかしいと思った・・・・。でももしかしたら私の勘違いかもしれないし、それに彼に直接聞くのも怖かった・・・・。最初は何かの間違いだって忘れようとしたんだけど、日に日に胸の中で大きくなっていって、我慢が出来なくなって・・・。」
藤井は言葉を詰まらせながら、強く目を閉じた。眉間に皺が寄り、必死に言葉を絞りだそうとしている。
「だからその日からしばらく、沖田君の元から逃げてたの。それで・・・・一度だけ悠ちゃんのアパートの前まで行ったことがある。そこまで行った時、すぐにでも悠ちゃんに会いたい衝動に駆られた・・・。昔みたいに、あのアパートの階段を上って、あの部屋に入って・・・・。悠ちゃんやマサカリ経ちと一緒に、昔みたいにみんなで楽しく過ごしたかった・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「でも・・・無理だった・・・・。だって知らない間に、沖田君にひどい事されていたかもしれないって思うと、悠ちゃんに会うのが怖くなった・・・。偉そうなことを言ってあの街を出ていったクセに、そんな状態で会うなんて・・・・とてもじゃないけど出来なかった・・・・。だから・・・・沖田君の所に戻った・・・・。あの日のことは忘れることにして、何もなかったかのように振舞った・・・・。でも・・・・昨日チュウベエとカモンが会いに来た時に、もう我慢が出来なくなって・・・・・。もうこんな所にはいたくない・・・・そう思ったから・・・。私は・・・・みんなの所に帰りたかった!悠ちゃんとマサカリ達がいる・・・あの街に・・・・・。」
藤井の絞り出した声は、大きく震えて宙に消えていった。そして藤井自身も、この場所から消えてしまいたいという風に力を抜いていった。
「・・・ごめんなさい・・・・嘘ついちゃって・・・・。本当は私の方が先に参ってた・・・・。この前だって山で悠ちゃんに会った時、飛び上がるほど嬉しかった・・・。でもやっぱり怖かったから、冷たい態度を取っちゃった・・・・。もっと早く帰りたかったけど、このことがバレるのが怖くて・・・・ずっと黙ってた・・・・ごめんなさい・・・・。」
藤井は胸の支えを吐き出すように、口元に手を当てて泣いていた。マイちゃんは慰めるように藤井を抱きしめ、その背中を撫でていた。
「藤井。」
声を掛けると、藤井はビクリと肩を動かした。でも顔は上げない。俺の目を見るのを拒絶するように、決して顔を上げようとはしなかった。
「・・・・・もういいじゃんか、戻って来いよ・・・・。」
藤井は小さく首を振り、子供のように泣きじゃくっていた。
「俺はさ・・・・お前がそんなに苦しんでるなんて知らなかった。だから・・・謝るのは俺の方だよ。」
そう言いながら藤井に近づくと、マイちゃんがそっと離れていった。ノズチを抱きかかえ、足音を消して部屋から出て行く。
「アカリさんっていう同僚がいるんだけど、その人にこう言われたよ。彼女をほったらかしにしたらダメだって。だから俺は・・・・きっと怠けてたんだろうな。大切な人ならいつだって気に掛けてないといけないのに、俺は怠けてた。もっと・・・・もっと早く、お前が苦しんでいることに気づいてやればよかった・・・・。だから・・・・俺の方こそごめんな。」
そっと手を伸ばし、藤井の肩を抱き寄せる。藤井はしばらく固くなっていたが、やがて俺の背中に手を回してきた。
「ごめん!ほんとうにごめんなさい・・・・・。」
「なんで謝るんだよ?お前は何も悪くないだろ。」
「だって・・・・私は沖田君と・・・・・、」
「それはお前のせいじゃない。誰だって疲れたらぐっすり寝ちまうもんだよ。だから・・・・自分を責めたらいけない。
悪いのはお前を放ったらかしにしていた俺の方だ。」
俺は藤井を強く抱きしめ、その匂いを感じるように頭をくっつけた。柔らかい藤井の髪が頬に触れ、とても懐かしい気持ちにさせられた。
「なあ藤井・・・・俺たちが倒すべき敵はもう決まっている。だから・・・・手を貸してくれないか?」
藤井は顔を上げ、まだ潤んだ瞳で俺を見上げた。
「俺は約束したんだ。さっき電話で話していたアカリさんって人と・・・・。」
「アカリさん・・・・悠ちゃんと同じ銭湯の人だね?」
「うん。ミッションが失敗したら死んじゃうかもしれない人・・・いや稲荷だ。そのアカリさんにさ、ベンジャミンを助けてやってくれって頼まれたんだよ。だから俺はこう言った。藤井と一緒なら、きっとベンジャミンを助けてみせるって。」
「・・・・・・・・・・・。」
「俺はアカリさんの境遇を知ってる。だから絶対に彼女の気持ちは裏切れない・・・・。」
「・・・・うん。」
「藤井・・・・もう一回俺たちで始めようよ。俺とお前、そしてマサカリ達と一緒に、動物を助ける活動をさ。だから・・・戻って来い。あの街に、そして・・・・俺の傍に・・・・。」
ずっと伝えたいと思っていた言葉が、ようやく言えた。藤井が俺の元を離れてから一年・・・・ずっと胸にしまっていた言葉をようやく言えた。
俺は藤井の目を見つめながら返事を待った。昇った朝陽が窓から射し込み、俺たちをぼんやりと照らした。
「いいの?私、またあのアパートに戻ってもいいの?」
藤井の潤んだ瞳が、陽の光を受けて小さく光る。それはきっと、胸の中に射した希望の光なんだろうと思った。
「いいに決まってるだろ。誰だって自分の居場所ってのがある。だから戻って来いよ。俺もマサカリたちも、ずっとお前が帰って来る日を待ってたんだから。」
「・・・・・ありがとう・・・・。」
藤井は掠れる声で頷き、身を預けるように抱きついてきた。
俺はそんな彼女の頭を撫でながら、「お前がいないもんだから、モンブランとマリナにオモチャにされてかなわないんだよ」と笑った。
「・・・またみんなと一緒に過ごせる。もう・・・・意地を張るのはやめる。」
そう言って藤井は涙を拭い、いつもの気丈な顔に戻った。
窓から射す光はだんだんと強くなり、光の射す角度も変わっていく。
朝陽というのは、いったん顔を出すとすぐに昇っていく。長かった夜が嘘のように、夜明けの光は瞬く間に世界を照らしていく。
「藤井・・・・おかえり。」
「・・・・うん。」
俺たちはお互いの温もりを感じるように、しばらく抱き合っていた。そしてふと視線を感じて顔を上げると、部屋の外からみんながこちらを見ていた。
マイちゃんにノズチ君、そして我が家の動物たち。マサカリは涙ぐんで鼻をすすり、モンブランはニヤニヤしながら笑いを隠し、カモンは小さな腕を組んで頷いていた。
そしてチュウベエはなぜかミミズの切れ端を咥えていて、マリナはうんうんと頷いて目尻を拭っていた。
それに気づいた藤井は「ただいま」と笑いかけ、その横顔に朝陽を受けて輝かせた。
きっと・・・・また夜はやって来ると思う。陽が昇るなら、その陽が沈む瞬間が必ずやって来る。
でも長い夜を乗り切れば、また陽が昇って光を照らしてくれる。辛い時間が嘘だったように、世界を明るく照らしてくれる。
マサカリたちは嬉しそうに駆け寄ってきて、口々に茶化し始めた。
藤井は楽しそうに動物たちと笑い合い、俺の手を握りしめて微笑みかけた。
これが・・・これこそが俺の宝物だった。絶対に失うわけにはいかない、俺の人生で最高の宝物だった。
陽は昇っても、まだ全てが終わったわけじゃない。沖田という敵を倒さない限りは、本当の夜明けはこないのだから。
俺と藤井は手を握りしめ、じっと見つめ合って頷いた。
言葉は交わさなくとも、本当の夜明けを迎える為に、必ず沖田を倒すことを誓い合った。

陶磁器の持つ魔力

  • 2014.11.29 Saturday
  • 13:49
JUGEMテーマ:陶芸


近所にある骨董屋さんに行ってきました。
近くにある店なのに、入るのは初めてです。
これは入口にあった飾りです。





もう一個飾りがありました。
芸術的ですね。神話か何かの一場面でしょうか?





店に入って色々と焼き物を拝見。
これは伊万里焼というそうです。
私も名前くらいは知っているけど、本当に美しい・・・・。
陶磁器って実物を見ると惹き込まれそうになるんです。





後ろには楽しい絵が。




サイドにも素晴らしい模様が描かれています。
う〜ん・・・・・・綺麗だ。





こちらは陶器です。さっきの伊万里焼は磁器。
陶器は土が原料で、磁器は石が原料だそうです。
最近までそんなことすら知りませんでした。
すごく綺麗な色合いですね。
赤と紫を混ぜて、とことんまで柔らかくしたような色です。





このへこみがいい。
陶器ってけっこう歪んでたりへこんでたりするんですよ。
でもそれがいいんです。
土をこねて作るんだから、歪んで当たり前なんです。
それこそが、二つと同じ陶器がないことの証です。





これはさっきとは別の陶器。
こっちの方がインパクトのある色をしていますね。
青が混じっているのがいい。
海底マグマ・・・・・。そんなイメージが湧きました。





中も美しい。
深い深い洞窟のようですね。
焼いている時に釉薬が垂れて、中に溜まるんだそうです。
予測不可能な自然の色。それが陶器の魅力です。





他にもたくさん陶器がありました。
鮮やかな色合いの陶器もいいけど、こういう渋いのもカッコいいですね。
特に一番右のお椀が気に入りました。天目という焼き目だそうです。
また次回に続きます。


 

雪景色

  • 2014.11.29 Saturday
  • 13:25
JUGEMテーマ:写真


もうすぐ冬です。
冬と言えば雪、雪は無駄な飾りのないダイヤモンドのようです。





山の上は真っ白に染まり、葉を落とした木々が並びます。
このシンプルな景色こそが、四季で一番気高い気がします。




分厚い雲の隙間から、時折陽が射します。
その時だけ雪は本物のダイアモンドのように輝きます。
無駄がないから光が活きるんです。





雲が山の頭を覆っています。
よどんだ光も魅力がある。
寂し気な景色に心を奪われそうです。





表面は凍っても、中は水が流れています。
こんな寒い中でも、元気に泳ぐ魚がいるんですよ。





遠くまで続く雪の道。
点々と残っているのは私の足跡です。
雪を踏みしめる独特な音。どこまでも歩きたい衝動に駆られます。





遠くにリフトが写っています。
あまりに雪が激しいと、スキーもままなりません。
山の稜線を沿う、雪の絨毯。
人が生み出す芸術とは違った、自然が織りなす天然の芸術。
人の手では届かない美を、冬の雪が作っていました。

 

勇気のボタン〜猫神様のご神託〜 第三十二話 白鬚ゴンゲン

  • 2014.11.29 Saturday
  • 12:35
JUGEMテーマ:自作小説
山の朝は夏でもひんやりする。
陽が昇れば暑くなるけど、まだ太陽は顔を見せない。青白い光を空に投げているだけだ。
山の稜線から漏れる光は、麓にある民宿を包んでいる。
俺は窓の傍に立ちながら、澄んだ山の空気を全身で感じていた。
昨日は具体的な考えが何も思い浮かばず、結局沖田をどうするかは決められなかった。
それにたまきからは何の連絡もなく、こちらから一度だけ電話を掛けたが圏外になっていた。
「・・・・・不安が消えない。全てを悪い方向に考えてしまうな・・・・。」
人間というのは、一つの辛いことはには耐えられる。しかし幾つも不安が重なると、精神的なストレスは倍増するものだ。
翔子さんのこと、そして沖田のことが気になって、昨日はほとんど眠れなかった。
動物たちは俺の後ろでスヤスヤと眠っているが、隣の部屋にいる藤井はどうだろう?
あいつは俺より神経が太いから、案外ぐっすり眠っているかもしれない。
『悠ちゃんと動物たちは自分の部屋で寝てね。私はコマチさんと一緒にこっちで寝るから。』
昨晩はそう言われてあの部屋から追い出された。
あの後藤井とマイちゃんがどんな話をしていたのか分からないけど、今はそんなことを気にしても仕方が無い。
俺は湯飲みにお湯を注ぎ、安物のティーパックを沈ませた。
安物といえども、朝のお茶は心を落ち着かせてくれる。熱いお茶が腹に染みわたり、身体の隅々まで染み渡っていくような気がした。
「さて・・・・これからどうするか?沖田の密猟の証拠を押さえるには、奴を尾行しないといけないわけだけど・・・・。
でも山の中で尾行ってなあ・・・上手くいくかな?」
沖田はプロの探偵だ。いくらペット探偵といえど、俺みたいな素人が簡単に尾行出来る相手じゃないだろう。しかも山の中で・・・・・。
しかしここでじっとしていても何も始まらないわけで、何かしら行動を起こさないといけない。
残ったお茶を一気に飲み干し、とりあえず部屋を出た。すると隣の部屋から話声が聞こえてきた。
「藤井もマイちゃんも起きてるのか?」
時刻は午前五時半。ずいぶん早起きだなと思ったが、それは俺も同じだった。
もしかしたら藤井も眠れていないのかもしれない。いくら神経が太かろうが、あいつだって色々と心配になることはあるだろう。
俺はクマの出来た目をしばたきながら、そっとドアに手を掛けた。するとその瞬間、急にドアが開いて黒い塊が飛んできた。
「痛ッ!」
黒い塊は思い切りおでこにぶつかり、鈍い痛みを走らせた。
「なんだよ!」
おでこを押さえながら黒い塊を睨みつけると、ムクムクと動いて赤い舌を出した。
「コラ!そんな所にボケっと突っ立てるな!オシッコ漏れちゃうだろ!」
ノズチはプリプリ怒りながら、またボールのように丸まってトイレに駆けこんでいった。
そしてしばらくすると、トイレを流す音が聞こえてきた。
「あいつ・・・どうやってトイレを流したんだろう・・・?」
どうでもいいことを真剣に考えていると、後ろから「おはよう」と声を掛けられた。
「おお、おはよう。」
藤井がニコリと笑って手を挙げる。その隣ではマイちゃんがお茶を飲んでいて、「おはよう」と言った。
「おはよう。さっきから話し声が聞こえてたけど、もう起きてたのか?」
そう尋ねると、藤井は「まあね」と肩を竦めた。
「昨日は夜遅くまで起きてたから、ちょっと眠いけど。」
「やっぱりお前も眠れなかったのか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだ。ちょっとコマチさんと色々と話てて・・・・。」
藤井はそう言ってマイちゃんの方を見る。二人は顔を見合わせてニコリと笑い、何やら秘密の会話でもしていたかのようだった。
「なんかもったいぶった言い方だな。何を話してたのか俺にも教えて・・・・、」
そう言いかけた時、また背中に重い衝撃が走った。
「痛ッ!」
「コラ!そんな所にボケっと突っ立てるな!部屋に入れないだろ!」
「お・・・お前なあ・・・・いちいちぶつからなくてもいいだろ!」
「へん!どこを通ろうと俺の勝手だ!邪魔な所に立ってる奴が悪いんだ。」
ノズチ君はまったく悪びれず、コロコロと転がってマイちゃんの腕に収まった。
「ゆっくり転がれるんじゃないか・・・・。次からはそうしろよまったく・・・・。」
背中を押さえながら立ち上がると、藤井が「まあまあ、座って」と向かいに手を向けた。
「悠ちゃんは昨日眠れなかったの?」
「まあな。人間色々と心配事があると、眠くても眠れないもんだ。」
「そうだね・・・。沖田君のことも不安だけど、一番の心配は翔子さんだね・・・。」
「昨日の夜中に、一度だけたまきに電話を掛けたんだ。でも圏外だったよ。きっとダキニの所へ行ってるんだと思う。」
「ダキニって・・・・悠ちゃんが言ってたお稲荷さんだね。確か一番偉い稲荷なんでしょ?」
「ああ、アイツと関わったせいで、俺は命を懸けたミッションをやらされる羽目になった。
今回のことだってそうだよ。元はといえばアイツのミッションが始まりなんだ。密猟者を捕まえろだなんて、俺一人で出来るかってんだ・・・。」
ダキニはいつも無茶を言ってくる。きっと俺の困る姿を想像して楽しんでいるに違いない。
そう思うと腹が立ってくるが、翔子さんを助けるにはダキニの協力が必要だ。
「悠一君・・・・目の下にクマが出来てるよ。昨日は本当に寝てないんだね。」
マイちゃんが俺の目の下を指差す。
「眠りたくても眠れなかったよ。動物たちはグーグー寝てるけど。」
「やっぱり友達がさらわれたら心配になるよね・・・・。」
「そりゃそうだよ。もし翔子さんに何かあったらと思うと、気が気じゃないからな。でもきっとたまきが何とかしてくれる。だから俺たちは俺たちのやるべきことをやらないと。」
無理矢理笑顔を作ってそう言うと、藤井とマイちゃんはまた顔を見合わせた。
「藤井さん・・・・やっぱり昨日のことは悠一君に話すべきですよ。そうじゃないと、きっと密猟者は捕まえられないから・・・・。」
「そうだね・・・。出来れば黙っておきたかったけど、そうもいかないみたいだし・・・・。」
藤井は俺と同じように無理矢理笑顔を作り、自分を納得させるように頷いた。
「なんだよさっきから。俺に聞かれたらまずい話でもあるのか?」
俺はじっと二人を睨み、唇を尖らせて尋ねた。昨日はいったい何を話していたのか?それを聞かないといけないような気がした。
「今は非常事態なんだ。沖田を捕まえる上で役に立つことがあるなら、ぜひ聞かせてくれよ。」
「分かってる・・・・。でも・・・・・、」
「なんだよ、お前にしちゃ煮え切れない態度だな。俺に聞かれたらまずい話なのか?」
「いや、まずいっていうか・・・・困るっていうか・・・・・。」
「困る?何が困るんだよ?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「黙ってないでさっさと言えよ。悪いけど、昨日は寝てなくて気が立ってるんだ。あんまりじらされたらイライラしてくるじゃないか。」
少し語気を強めてそう言うと、マイちゃんが「まあまあ」と取り成した。
「藤井さんだって心の準備がいるんだから、そう急かさないで。」
「心の準備?なんだよそれ・・・ますます気になるじゃないか。」
イライラしてさらに語気が強まる。するとノズチ君が「藤井を困らせるな!」と怒鳴った。
「女子には色々と心の準備があるんだよ!そんなことも分からねえのか!」
「妖怪にそんなこと言われたたくないよ。」
「誰が妖怪だ!俺は妖怪じゃなくてツチノコだ!」
「同じだろ。わけの分からないいかがわしい生物なんだから。」
「い、いかがわしいだと!おのれ・・・・・ボウリングのピンみたいに跳ね飛ばしてやる!」
ノズチ君はボールのように丸くなり、俺に飛びかかろうとした。しかしアッサリとマイちゃんに抱え込まれ、「大人しくしてて」と怒られていた。
「なんだよコマチまで・・・・。藤井の抱えてる秘密はペラペラ喋れるようなことじゃないんだぞ!」
「それは分かってるよ。だから大人しくしててって言ってるの。無理矢理喋らせたら可哀想だから・・・・。」
「可哀想なら話さなくてもいいんだよ!だいたいこんなアンポンタンに秘密なんか喋る必要はないんだ!藤井が誰と結婚してようが関係ないんだからな!」
「あ!言っちゃダメ!」
マイちゃんは慌ててノズチ君の口を押さえる。しかし時すでに遅しで、俺は「結婚・・・?」と藤井を睨んでいた。
「あ!違うんだよ!これはアレだから!ノズチ君の戯言だから!」
マイちゃんが慌てて誤魔化そうとする。しかし今の俺には誰の言葉も耳に入らない。ただ一人、藤井の言葉以外は・・・・・。
「なあ藤井。さっきノズチ君が言ったことは本当なのか?お前・・・・もしかして俺に内緒で・・・・・、」
そう言いかけた時、藤井は「違う!」と叫んだ。
「これは違うの!動物を助ける為に仕方なく・・・・・、」
「動物を助ける為・・・・?いったいどういうことだよ?詳しく聞かせろ。」
俺は藤井に詰め寄り、真っ直ぐにその顔を睨んだ。藤井の目は明らかに泳いでいて、青い顔で唇を震わせていた。
「・・・・・・・・・。」
「なんで黙る?結婚ってどういうことか説明しろよ。」
「・・・それは・・・その・・・・・。」
「お前・・・昨日言ってたよな?俺には言いたくないことがあるって。それってもしかして、結婚のことだったんじゃないのか?お前は俺と離れてる間に、他に好きな男でも出来たんだろう?だからそいつと結婚を・・・・・、」
そう問い詰めると、藤井は金切り声を挙げて「違うってば!」と叫んだ。
「何が違うんだよ!さっきノズチ君は確かに結婚って言ったじゃないか!」
「だから話を聞いてよ!ちゃんと理由があるんだから!」
「理由?理由ってなんだよ?理由があれば俺に黙って結婚してもいいっていうのか?」
「そうじゃないってば!これは依頼を引き受ける為に仕方なくやったの!全てが終わったらちゃんと離婚届を出すつもりよ!」
「はあ?依頼の為に結婚って意味が分かんねえよ。ていうかいったい誰と結婚したんだ?まさか沖田とか言わないよな?」
俺はさらに藤井に詰め寄った。もしここで沖田と結婚したなんて言ったら、俺はどう出るか分からない。
今から沖田を殴りに行くか?それともこの場で藤井と縁を切るか?
「なあ答えろよ。いったい誰と結婚したんだ?」
「・・・・それは・・・・・・、」
「ゴニョゴニョ言ってないでハッキリ答えろよ!」
思わず声を荒げると、マイちゃんが「落ち着いて!」と俺を突き飛ばした。
「ぐはあッ!」
稲荷もそうだが、化けタヌキも力が強いらしい・・・・・。俺は思い切り後ろに倒れ、後頭部を打ちつけて悶絶した。
「悠一君!ちゃんと藤井さんの話を聞いてあげて!」
「いや、だって藤井が全然喋らないから・・・・・、」
「そんなにまくしたてたら喋れないに決まってるよ!急かさないでってさっきから言ってるのに、どうしてそんなに怒るの?」
マイちゃんは泣きそうな顔で俺を睨む。そしてノズチ君をこちらに向け、「藤井さんの話を聞かないならノズチ君を解き放つよ?」と恐ろしいことを言った。
「ちょ、ちょっと待って!そんなことをしたら宿が壊れる!」
「じゃあ黙って聞いてくれる?」
「そりゃ聞くけどさ・・・・。でもこっちだっていきなり結婚とか言われて混乱してるんだよ。だから、とりあえず誰と結婚してるのかを・・・・、」
「・・・・ノズチ君、やっちゃっていいよ。」
「オウ!」
「いや、待て待て!お前が暴れたらおじさんとおばさんにまで迷惑が掛る!」
「じゃあ黙って聞いてくれるのね?」
「いやあ・・・・こっちにだって色々と聞きたいことが・・・・・、」
「ノズチ君。」
「おうよ!」
「わ、分かったから!大人しく聞くからその妖怪を引っ込めて!」
俺は慌ててマイちゃんを座らせた。
「ちゃんと藤井の話を聞くから、だからノズチ君は引っ込めて、な?」
「分かった・・・・。」
マイちゃんは素直に大人しくなったが、ノズチ君はまだやる気満々で俺を睨んでいた。
「次に妖怪って言ったら月まで飛ばすぞ。」
「もう言わないよ。だからお前も落ち着け。」
怒るノズチ君を宥め、俺も気持ちを落ち着けて藤井の向かいに座った。
「取り乱して悪かった。ちょっとあまりにショックだったから・・・・。」
そう謝ると、藤井は「いいよ、悪いのは私だから」と目を伏せた。
「出来ればずっと黙っていたかったけど、そうもいかないからね。」
そう前置きしてから、深呼吸を繰り返して口を開いた。
「あのね・・・・まず誰と結婚したかっていうと・・・・・・、」
そう口を開きかけた時、俺のポケットでスマホが鳴った。
「ちょっとごめん!」
慌ててスマホを確認してみると、それはアカリさんからだった。
「もしもし!翔子さんはどうなったんですか!?無事なんですよね?ていうかたまきと連絡が取れないんですよ。アイツはダキニと話をつけたんですか!?いや、それより翔子さんの安否は・・・・、」
まくしたてるように質問すると、『うるさい!』と怒られてしまった。
『そんなにまくしたてられたら話せないでしょ!黙って聞け!』
「す・・・すいません・・・つい焦っちゃって・・・・。」
『まあ気持ちは分かるけどさ・・・・。』
アカリさんは声を落とし、『今から言うことをよく聞いてね』と言った。
『まず翔子ちゃんだけど、今のところは無事よ。ベンジャミンから連絡があって、翔子ちゃんに代わってもらったから。』
「よかったあ・・・・無事だったか・・・・。」
『でもまだまだ油断は出来ない状況よ。ベンジャミンは自分の神社に立て籠って、翔子ちゃんを人質に強請りをかけてきてるからね。』
「ゆ、強請りですって!?」
『そうよ。ベンジャミンが翔子ちゃんを人質に取った理由は二つある。一つは身代金目当て。あの子の家はお金持ちだから、多額の身代金を取れると思ったんでしょうね。ほら、この前あんたが七億を立て替えてもらったでしょ。どうもアレで味を占めたみたいで・・・・。』
「そんな・・・じゃあ俺のせいで翔子さんは・・・・・、」
『誰もそんなこと言ってないわよ。悲観的になる前に話を聞きなさい。』
話を聞きなさいか・・・・。どうも最近これを言われる機会が多いな。どうやら俺は、自分が思っている以上に焦っているみたいだ。
『ベンジャミンは金に汚い奴だから、誘拐までしても私腹を肥やしたいのよ。でも稲荷だからいくらでも警察から逃げようがある。きっと今回が初めての誘拐じゃないわね。今までにも何度かやってるのよ。そうでないと手際が良すぎる。私の目の前から翔子ちゃんをさらって行く時も一瞬だったからね。』
そんなことを聞かされると余計に不安になってくる。金に汚く手段を選ばないということは、翔子さんの身の保証は出来ないということだ。
『不安になる気持ちは分かるわ・・・。私だって翔子ちゃんが心配だもの。
でも今は焦っている場合じゃない。それは翔子ちゃんを誘拐したのには、もう一つ理由があるから。』
「もう一つの理由・・・・・?」
『そうよ。ていうかこっちが本来の目的って言っても過言じゃないわ。実はね、ベンジャミンは過去に自分の彼女を密猟者に殺されてるのよ。』
「彼女を殺されるですって?それはいったいどういう・・・・?」
『ベンジャミンは今でこそ禍神になっちゃってるけど、元々はただのキツネなのよ。アイツが稲荷になったのは、密猟者に彼女だったキツネを殺されたせいなの。その恨みから人間を憎むようになったんだけど、それを憐れに思ったダキニ様が、特別に稲荷に取り立ててあげたのよ。アイツは頭だって回るし、仕事だって出来る。それに腕っ節も強いから、きっと役に立つと踏んだんでしょうね。』
「ダキニ・・・・またダキニか・・・・。」
面倒なことにはだいたいダキニが関わっている。いったいどこまで人に迷惑を掛ければ気が済むのかと思ったけど、今はダキニに腹を立ててもしょうがない。
「それで・・・その後ベンジャミンはどうなったんですか?」
『稲荷になってからしばらくは落ち着いていたわ。でもある事がキッカケで禍神になっちゃったのよ・・・・。』
「ある事ですか?」
『ベンジャミンはね、稲荷になってから密猟に遭う動物を助けようと奮闘してたのよ。
けどいくら頑張っても密猟は無くならない。だからダキニ様に訴えて、稲荷の力を集めて人間に反旗を翻そうとしたわけ。だけどダキニ様はそれを却下した。なぜならダキニ様は、人間社会との調和を望んでいたからね。』
「調和ですか?人間の社会を支配下に治めたいだけのような気がするけど・・・・。」
『まあそういう部分もあるかもね。でもダキニ様は心の底では人間と争うことなんて望んでいないのよ。個人を利用してメリットを得ることはあるけど、社会全体を敵に回そうだなんて思っていないわ。あの御方だって名のある神様なんだから、ちゃんと人間のことも考えてるわよ。だからこそベンジャミンの訴えは退けた。それどころか、ベンジャミンの目に余る行動を咎めていたわ。』
「目に余る行動ですか?なんか無茶しそうな奴ではあるけど、いったい何をして咎められたんですか?」
『それはね・・・・・人間を殺してるのよ。』
「こ・・・殺してるって・・・・いったいどういうことですか!?」
『ベンジャミンは密猟者を憎んでいる。だから動物を守る為に、密猟者を殺したことがあるのよ。
このまま放っておけば、あと何人殺すか分からないってくらいに残酷にね。だからダキニ様はベンジャミンを咎めた。このままアイツが人間を殺し続ければ、いずれ人間との間に大きな摩擦が出来る。稲荷の中にはベンジャミンに同調する者もいたから、ダキニ様としては放っておけなかったのよ。』
「そりゃそうでしょうよ。人を殺し続けたりなんかしたら、いずれ世間で騒がれますよ。いったい誰が犯人なんだ?って。」
『その通りよ。だからダキニ様はベンジャミンにこう言ったわけ。『これ以上人間を殺したら、あんたを稲荷の世界から追放する』ってね。そう言われたベンジャミンは、ダキニ様に食ってかかった。『稲荷は動物を見捨てて、人間の味方をするのか』って。その時のダキニ様の返事はたった一言。『青臭いこと言うんじゃない、この若僧』それがキッカケとなって、ベンジャミンはダキニ様の元を離れた。そして禍神となって、人間に災いをもたらすようになったっていうわけよ。』
俺はスマホを握りしめ、その時の様子を思い浮かべてみた。言い争うダキニとベンジャミン。二人の姿が容易に想像がつき、思わず身震いしてしまった。
《きっと言い争うだけじゃ終わらなかったんだろうな。あのベンジャミンのことだ、ダキニに挑みかかったに違いない。
でもコテンパンに返り討ちにされて、それが元でダキニと袂を分かったんだろう。だったらこの二人の関係は修復不可能ってことか・・・・。》
たまきは言った。ダキニには稲荷の長としての責任があると。それを逆手に取って、ベンジャミンを捕えるのを手伝わせると。
けどアカリさんの話が本当だとしたら、きっとダキニは手を貸さないだろう。
なぜなら今のベンジャミンは稲荷じゃないからだ。ただの悪魔のような存在に成り下がり、しかもかつての長であるダキニとは袂を分かっている。
だったら到底ダキニが協力してくれるとは思えない。きっと上手い具合に言い逃れ、たまきにベンジャミンを討たせようとするに決まっている。
そう考えると、さらに不安が増してきた。早いところ翔子さんを助けないと、本当に何をされるか分からない。
『もしもし?悠一君?』
「・・・・・ああ!すいません・・・・ちょっと不安になってきちゃって・・・・。」
『分かるわ、こんな事を聞かされたら冷静じゃいられないわよね。だって翔子ちゃんの身にいつ危険が及んでもおかしくないんだから。』
「その通りです。けどベンジャミンが翔子さんをさらった理由って何なんですか?身代金が一つの目的ってことは分かったけど、二つ目の目的っていったい・・・?さっきのダキニとの話に関係があるんですか?」
そう尋ねると、アカリさんは『大アリよ』と答えた。
『さっきの話からも分かるとおり、ベンジャミンはダキニ様にも憎しみを抱いている。だからダキニ様をどうにかして稲荷の長から引きずり落として、自分が頂点に君臨するつもりなのよ。そして密猟をする人間・・・・いえ、動物を苦しめる人間は、手段を選ばすに殺すつもりでいる。でもその為にはダキニ様を引きずり下ろすキッカケがいるわよね?そのキッカケっていうのが翔子ちゃんなのよ。』
「どうして翔子さんがキッカケになるんですか?」
そう尋ねると、『鈍いわねアンタは』と怒られてしまった。
『彼女は稲松文具っていう世界的に有名な大企業の娘さんなのよ。だから彼女を誘拐し、身代金を受け取った後で殺せばどうなるか?きっと世間は大騒ぎ。いったい誰が犯人なのかって血眼になって捜すわよ。その時にベンジャミンは、ダキニ様を犯人に仕立て上げるつもりでいるわけ。ダキニ様は人間の世界でも結構な有名人でね。大きな化粧品会社を経営してるわ。他にも幾つも事業を起こしていて、財界じゃ知らない人間はいないわね。』
「なるほど・・・・そんな人が誘拐を起こして殺人を犯したとなれば、世間は放っておきませんね。」
『そういうこと。しかも運が悪いことに、今はダキニ様の会社と稲松文具はちょっとした敵対関係にあるのよ。この二つの会社は家具も作ってるんだけど、今から一年ちょっと前にある事で揉めてね。ダキニ様の持ってるカマクラ家具の特殊技術が、稲松文具に盗まれたのよ。決定的な証拠が無いから法的に訴えることは出来ないけど、それでもダキニ様を誤魔化すことは出来ない。だからダキニ様は稲松文具の株を買い占めて報復しようとしたんだけど、そのせいでまた揉めちゃって・・・・。』
「なんかややこしい話ですね。でも話の要点は分かります。ダキニは翔子さんを誘拐する動機があるってことですね?彼女は稲松文具の娘さんだから。」
そう答えると、『鈍い割に物分かりがいいじゃない』と褒められた。
『ベンジャミンは翔子ちゃん誘拐して殺し、その罪をダキニ様になすり付けようと企んでいるわけ。だからこのままじゃ確実に翔子ちゃんは殺される。一刻も早く助けないと。』
「それは分かりますけど、よく短時間でそこまで調べましたね。アカリさんて意外と頭が良い・・・・・、」
『うるさいわね!調べたのは私じゃなくてウズメさんよ!意外と頭が悪くてゴメンね!』
耳がキンキンするほどの声で怒鳴られ、思わず電話から耳を離した。
「話はよく分かりましたけど、結局は何の進展も無いってことでしょう?じゃあここはやっぱりたまきに任せるしか・・・・・。」
そう答えると、『情けないこと言ってんじゃないわよ!』と怒鳴られた。
『いい?私があんたに電話をしたのは、翔子ちゃんのことだけじゃなくて、沖田に関することもあるからなのよ。』
「沖田にですって!?」
『ほら、たまきから聞いてるはずでしょう?私がベンジャミンからケータイを奪ったって。そしてそのメモリーの中に、沖田って奴の名前があったことも。』
「ええ、聞いてますよ。沖田啓二・・・・俺たちが捕まえようとしている密猟者の名前です。」
『ベンジャミンのケータイの中に沖田の名前があったってことは、この二人には何かしらの繋がりがあるってことよね?』
「そうなりますね。ていうかどっとかが指示して、密猟をしているんじゃないかと俺は疑ってるんですけど・・・・。」
そう答えると、アカリさんは『その通りなのよ!』と叫んだ。
『これもウズメさんが調べたことなんだけど、どうやら利用されているのはベンジャミンの方みたいなの。』
「ベンジャミンが?だってあいつは神様なんですよ?だったら沖田に利用されるなんてことは・・・・・、」
『普通なら無いわね。けどベンジャミンには弱みがあったの。』
「弱み・・・・ですか?」
『そうよ。ベンジャミンはかつてキツネだった頃に、人間に助けられた過去があるの。そして彼を助けた人間っていうのが・・・・藤井さんなのよ。」
「なんですって?藤井が・・・・?」
思わず声を上げると、藤井が不安そうにこちらを見つめていた。俺は声のトーンを落とし、藤井から目を逸らして尋ねた。
「どういうことなんですか?藤井が過去にベンジャミンを助けたって・・・・。」
そう尋ねると、アカリさんは『あんたとコマチちゃんの関係と同じよ』と答えた。
『あんたは子供の頃にコマチちゃんを助けたでしょ?それと同じように、藤井さんも一匹のキツネを助けたことがあるの。
まだ子供だった頃に、道端で撥ねられているキツネをね。』
「じゃ、じゃあ・・・・そのキツネがベンジャミンってことですか?」
『そういうこと。藤井さんはベンジャミンの命の恩人なのよ。だけど当の藤井さんはそのことを覚えていないみたいでね。
だからベンジャミンは自分の正体を隠して、彼女に恩返しをしようとしていた。その恩返しの方法っていうのが、沖田から守ってやることだったのよ。』
「藤井を守る・・・ですか?」
『ベンジャミンはあれでも神様の端くれだからね。どんなに表面を良く見せても、ちゃんと人間の本性は見抜くわよ。だから藤井さんが地元に戻って来た時、沖田と一緒にいるのを見つけて、奴の本性を見抜いたんでしょうね。こんな奴と一緒にいたら、いつか藤井さんが酷い目に遭わされるって。だからどうにかして二人を引き離そうとしたんだけど、逆に自分が追い詰められることになった。』
「ベンジャミンが追い詰められる?そんなまさか・・・・、いくら沖田でもそこまでは・・・・、」
『やるわよ。』
「え?」
『沖田ならやる。いや、出来るのよ。だって沖田はベンジャミンの弱みを握っているから。さっき私が言ったことを覚えてる?ベンジャミンは人間を殺したことがあるって。』
「ええ。でもそれがどうかしたんですか?」
『どうかしたどころじゃないわよ。いい?ベンジャミンが殺した密猟者っていうのは、沖田の仲間なのよ。』
「はい?沖田の仲間・・・・?」
『沖田はかなり前から密猟をやっていたの。でもそれをベンジャミンに見つかって殺されそうになったのよ。幸い沖田は運よく逃れることが出来たけど、でも目の前で仲間を殺された。それはもう・・・口では言えないくらいに無惨にね。だから沖田はそのことを根に持ってるわけ。そしてペット探偵と称して、その実は仲間を殺した犯人を捜していたのよ。でも自分だけじゃ限界があるじゃない?だから藤井さんを仲間に引き込んだってわけ。彼女の動物と話せる力を使えば、きっと仲間を殺した犯人を見つけられると思ってね。』
「そ、そんな・・・・じゃあ藤井は最初から利用されていたってことじゃないですか・・・・。」
『そういうこと。沖田は藤井さんを口説き落として仲間に入れた。そして・・・・それは仲間を殺した犯人を捜すには最高の手段だったのよ。だってベンジャミンは藤井さんの命の恩人だからね。たまたま彼女を見つけたベンジャミンが、自分の方から近づいて来てくれたんだもの。』
「あああ!それで逆にベンジャミンが追い詰められたってことか・・・・。」
人間、素直に納得すると声が大きくなってしまう。そのせいでまた藤井が不安そうな顔をするので、咳払いをして声を落とした。
「もちろん沖田は藤井とベンジャミンに繋がりがあるなんて知らないだろうから、嬉しい誤算だったでしょうね。」
『その通りよ。きっとベンジャミンは沖田たちに襲いかかった時、人間に化けている時の姿を見られていたんでしょうね。
そしてベンジャミンが藤井さんに近づいて行った時も、当然人間に化けていたはず。だから・・・・・、」
「だから・・・一目見てこいつが犯人だとバレてしまったと?」
『そういうこと。ようやく犯人を見つけた沖田は、自分からベンジャミンに接触していった。彼のことを調べ上げ、とうとう近くの神社に住んでいるという所まで突きとめた。だからベンジャミンを呼び出し、自分の仲間を殺されたことをネタに復讐しようとしたのよ。』
「それ・・・なんか無謀ですね。あのベンジャミンに正面から挑むなんて・・・・。」
『別に無謀じゃないわよ。だってこの時点では、沖田はベンジャミンが稲荷だなんて知らないもの。刃物の一つでも持っていけば勝てると思ったんでしょう。それに平気で密猟をするような人間だから、肝だって座ってるだろうし。』
「そ、そういうもんですか・・・・・・?」
『まあ気の弱いあんたには分からい感覚だろうけどね。でもとにく沖田はベンジャミンに会いに・・・・いや、復讐しに行った。でも相手は稲荷だから、当然勝てるわけはないわよね?沖田はアッサリとやられて、逆に殺されそうになった。けどそこでベンジャミンの正体を知ることになった。ベンジャミンは自分の身を守る為、稲荷の姿になって戦ったはずだから。沖田はそれを見た時、ベンジャミンがこの神社に祭られている稲荷だと知ったわけ。でもこれは、沖田にとって二つ目の嬉しい誤算だった・・・・。』
アカリさんはそこで一呼吸置き、少し間をとってから続けた。
『実は沖田の実家は、昔から続く地主の家柄でね。だから地元の神社の管理だって任されてるのよ。もしベンジャミンが殺人者だとバレたら、神社の管理を任されている地主は、それを放っておくわけがない。だって神社に殺人者が住んでいたら、怖くて誰も近寄れないでしょ?だから当然警察に通報して、ベンジャミンを排除しようとするでしょうね。
するとどうなるか?自分の神社を失った神様というのは、急速に力が衰えるものなの。神様は神社を寄り代とし、そこから人々の信仰を集めることで力を保っているからね。有名な神様ほど力を持っているのはその為よ。』
「なるほど・・・・。ということは、沖田はそれをネタに強請りをかけたわけですね?お前を殺人者だとバラし、この神社から追放するぞと。」
「そうよ。だからベンジャミンは沖田に従うしかなかった。だって今ここで自分の神社を失えば、それこそダキニ様を引きずり下ろすどころじゃなくなるからね。それに翔子ちゃんを誘拐して身代金を要求したのだって、もしかしたら沖田が絡んでいるのかも。」
「そんな!アイツは翔子さんまで利用しようとして・・・・・、」
『落ち着いてよ。今のはただの私の推測だから。けどそれ以外のことは全部ウズメさんが調べたことだから、間違いないわよ。
自分の仲間の稲荷を使って、一晩中ベンジャミンのことを調べていたからね。』
「そう・・・ですか・・・。なら間違いないですね・・・・。」
ここへ来て急にベンジャミンに対する印象が変わってしまった。てっきりアイツが黒幕かと思っていたのに、実は沖田の方が黒幕だったなんて・・・・。
翔子さんのことに関しては、まだ沖田が関わっているかどうかは分からない。けど無関係とは思いにくいから、それはやはり沖田の口から直接聞かねばなるまい。
『悠一君、もしかして傍に藤井さんがいる?』
突然そう尋ねられ、ビクリとして「ええ・・・」と答えた。
『やっぱりか・・・・。』
「やっぱりってどういう意味ですか?」
『なんだかね、今のあんたと話してるとそんな気がしたのよ。』
「それは・・・・勘って奴ですか?」
『違うわよ。今日の悠一君、いつもよりしっかりしてるなと思ってさ。普段はもっとアンポンタンでビクビクしてるはずなのに、今日はやけに男らしく感じたから。だからもしかしたら近くに彼女がいるのかと思ってさ。』
「いや、確かに近くに藤井はいますけど、でも俺はいつも通りですよ。別に男らしいなんてことは・・・・。」
『それはあんたが自覚してないだけ。今日の悠一君は、絶対にいつもより男らしいわよ。あんたをそんな風に変えるなんて、きっとすごく良い彼女なんでしょうね。絶対に他の男に取られないように、しっかりと捕まえておきなさいよ。逃がしたら一生後悔するから。』
そんなことを言われても、こっちとしてはどう返していいのか困ってしまう。でも藤井にはずっと傍にいてほしい。
この先別れるかもなんて思っていたけど、出来ればこれからも一緒にいたいな・・・・・なんて・・・・・、
でもそう考えた時、ふと思い出した。
《そうだよ・・・アカリさんからの電話で忘れてたけど、藤井はもう結婚してるんだった・・・。なんか訳ありな感じだけど、きちんと話を聞いておかないとな。》
そう思いながら藤井を振り返ると、不安そうにこちらを見つめていた。

時代劇の王道 水戸黄門

  • 2014.11.28 Friday
  • 14:41
JUGEMテーマ:時代劇
「助さん、格さん、懲らしめてやりなさい。」
このセリフが印象的な水戸黄門。
他の時代劇が軒並み消えて行く中、最後まで時代劇の枠を守っていました。
その理由としては、やっぱり王道だったからだと思います。
遠山の金さんや暴れん坊将軍も王道ですが、やはり水戸黄門の方が分かりやすいんですよね。
遠山の金さんだと、悪人に正体をバラスのはお白洲での裁きです。
桜吹雪の刺青を見せなくても、顔を見た時点で分かるだろって思うんですが、そこは突っ込まないお約束です。
顔で正体バレるなら、セーラームーンなんかどうなるんだ?って話ですからね。
遠山の金さんの長所と短所は、戦闘後すぐに正体をバラさないということです。
お白洲の裁きまでひっぱり、そこでババーン!と桜吹雪を見せつける。
実にインパクトのある見せ方ですが、高揚感に欠けるのも事実です。
せっかく戦闘で温まった空気を逃してしまうわけですからね。
なら暴れん坊将軍はどうか?
これは戦闘前に正体を明かします。
「たわけが。予の顔を見忘れたか?」
「こんな所に上様がおられるわけがない!斬れ!斬れえ〜い!」
他にも「ここで死ねばただの徳田新之助」とかいうパターンもありますね。
この演出に対して、私は二つの疑問を持ちます。
まず散々正体を隠して敵を追い詰めたクセに、どうして戦闘前に上様であること明かすのか?
これでは今まで引っ張ってきた「徳田新之助」という設定が台無しです。
戦った後にバラすからカッコいいのに・・・・・。
もう一つの疑問は、上様は舐められ過ぎってことです。
上様の正体を知りながら襲いかかって来るなんて、いったいこの国の統治はどうなっているのか?
上様といえば、江戸時代の最高権力者です。
誰も逆らうなんてことは出来ません。もしそんなことをしたら、即刻処刑か、お家断絶で藩が潰れてしまいます。
それにも関わらず、「ここで死ねばただの徳田新之助」だなんて、「悪者無茶し過ぎだろ!」って思います。
上様に勝つにしろ負けるにしろ、ただでは済まないというのに・・・・。
酷い言い方ですが、ちょっと悪役のオツムが足りないように感じます。
では水戸黄門はどうか?これは王道時代劇としては、文句のつけようがないくらいに素晴らしいです。
というより、時代劇の王道は水戸黄門が作って来たといっても過言ではありません。
まずはご老公がちりめん問屋の隠居に扮し、お供を従えて旅をしています。
そして困っている人に出会うと、身分を隠して助けてあげようとします。
まあこの先の展開は重要ではないので省きます。
アレやコレやとあって、悪代官なり悪徳商人なりを追い詰めます。
そして敵の屋敷に乗り込むと、「なんだこのジジイは!」と言いわれて「出会え!出会え〜!!」と流れるように進みます。
美しいテンポです。エンターテイメントとしては隙のない見せ方です。
グダグダやられても、見てる方は疲れるから、これくらいがちょうどいいんです。
そしてその後は助さん格さん、飛び猿と女忍者、たま〜に弥七も出て参戦しますね。
そこでビシバシと敵をシバキ倒し、時にご老公自らも敵を倒します。
この時杖で敵の刀を受けているのに、なぜか金属音がします。でもそれも突っ込まないお約束。
そして散々敵を懲らしめた後で、ババーン!と印籠を見せつけるのです。
大抵の敵は「へへえ〜!」となりますが、そうならない敵もいます。
ネットでよく出回る麻呂なんかは、公家だから通用しませんね。
でもそういう敵はごく少数、大抵は印籠の前にひれ伏すのです。
これ!これなんですよ!!
序盤は隠居じいさんを演じて周りを騙し、敵をシバく時は滅法強い(強いのはお供の人たちですが)
そして全てを終えた後に、お待ちかねの印籠とご老公の説教です。
これが時代劇ファンのみならず、一般の視聴者の心を揺さぶるんですよ。
だから他の時代劇が消えていく中、最後まで奮闘していたわけです。
私も水戸黄門はよく見ていました。
まあ大抵再放送なんですが、里美浩太朗の演じる水戸黄門までちゃんと見ていましたよ。
子供の時なんかは、学校から帰って来ると、おじいちゃんとおばあちゃんが再放送を見ていたんです。
だから一緒によく見ていました。
里美浩太朗も悪くないけど、でもやっぱり東野英治郎の方が好きでしたね。
里美浩太朗はちょっと上品すぎるというか・・・・。
それに比べて東野英治郎は豪快なんですよ。特に笑った顔が怖い・・・・・。
でもそれが水戸光圀の凄味を感じさせてくれたんです。
全然関係ないけど、東野英治郎と合気道の塩田剛三って、なんか似てる気がするんですよね。
豪快な笑顔とか、喋り方とか。あと表情も。
とにかく水戸黄門は、時代劇の黄金時代を築いた名作であり、最後まで生き残ったラスト時代劇です。
これから新作が作られる可能性はほとんどないでしょうが、今までの作品は忘れません。
水戸黄門よ、素晴らしい時代劇をありがとう。

秋を求めて散策

  • 2014.11.28 Friday
  • 13:10
JUGEMテーマ:写真


秋を求めて散策へ。
車で少し離れた所まで行きました。
のどかな感じがいいですね。





紅葉や銀杏も綺麗だけど、こういう何気ない景色も好きなんです。
身近な所にも季節の色は出ます。
ススキとちょっと枯れ始めた草は、まさに秋の色です。





秋の厄介者といえばコレ。
犬の散歩をしていると、よくズボンにくっ付くんですよ。
しかも取れにくい。

でも自然ってよく出来てますよね。
動物や人間にくっ付いて種を運んでもらうなんて、頭良すぎですよ。
ずる賢い奴が生き残るのが自然界なんでしょうね。





キウイが成っていました。
熟すと美味しいですよね、キウイ。
でも舌がピリピリするんです。あれって口の中を守る防御反応らしいですね。
ていうかキウイが秋の果物だって知らなかった。





最近めっきり減った竹林。
風情があっていいと思うんですが、蚊が湧くからと嫌う人もいるようです。
蚊なんてどこでも湧くし、竹林は関係ないように思うんですけどね。
風になびく竹の葉はとても綺麗で、なかなか気持ちの良い散策でした。
小さい秋見つけた。

 

勇気のボタン〜猫神様のご神託〜 第三十一話 密猟者を追え(8)

  • 2014.11.28 Friday
  • 12:50
JUGEMテーマ:自作小説
翔子さんがさらわれる・・・・・。
予想もしない出来事は、俺の胸に嫌なモヤモヤを掻き立て、そして不安にさせていった。
アカリさんからの電話を終えると、たまきはすぐに出掛けて行った。
『今からダキニの所に行って来るわ。あんた達はここで待ってて。』
そう強く念を押して、急いで宿を出て行った。
俺はみんなと一緒に宿に残され、ただただ翔子さんの身を案じていた。
《翔子さん・・・どうか無事でいて下さい・・・。》
何度も何度も同じことを願い、なるべく悪い方向へ考えないようにする。
しかしそれでも不安は消えず、胸の中に重たい石が置かれたような気分だった。
《翔子さん・・・どうか無事で・・・・。》
暗い窓の外を見上げながら、たまきとの会話を思い出していた。


            *****


『私は一旦戻るわ。あんた達はここにいなさい。』
そう言って宿を出て行こうとしたので、『俺も行く!』と追いかけた。
『ダメよ、あんたはここにいなさい。』
『どうして!?翔子さんがさらわれたんだぞ!じっとしていられないよ!』
『・・・・・アカリから聞いたんだけど、翔子ちゃんをさらった奴は、どうも沖田と関係がありそうなのよ。』
『沖田と・・・・?』
『まだ断定は出来ないけどね。けど・・・・翔子ちゃんをさらった犯人は、私たちの知る人物よ。』
『俺とたまきが知っている奴・・・・誰だよ?』
そう尋ねると、たまきは射抜くような視線を向けてきた。
『ベンジャミンよ。』
『べ、ベンジャミンが・・・?』
『そう。あの金貸しがやったの。』
『そ、そんな・・・・・ベンジャミンだって一応は神様なのに・・・・・、』
そう言って俯くと、たまきは『禍神(マガツカミ)ね』と言った。
『マ・・・マガツカミ・・・・・?』
『禍神は、その名の通り禍々しい神様ってことよ。己の欲に溺れ、神様でありながら災いをもたらす存在。西洋で言うところの悪魔と同じものね。』
『そ、そんな・・・・そんな奴に翔子さんが・・・・・、』
『禍神は恐ろしい相手よ。このままだと、翔子ちゃんがどんな目に遭わされるか分からない。だから私はすぐに戻るわ。
あんたは達はここで沖田の動向を探ってなさい。沖田とベンジャミンはどこかで繋がってるはずだから。』
『アカリさんがそう言ってたのか?』
『そうよ。翔子ちゃんがさらわれたのは、こがねの湯から出て来たところだったらしいの。
だから近くにいたアカリが助けようと飛びかかったんだけど、アッサリと負けたみいたい。
でもその時にベンジャミンのケータイを奪ったらしいのよ。』
『ベンジャミンのケータイを・・・・?じゃあもしかしてその中に・・・・・・、』
『ええ、密猟者とおぼしき相手と連絡を取った形跡があった。しかもその相手の名前は、沖田啓二。』
『沖田・・・啓二・・・・。』
そう呟きながら藤井を振り返ると、『それ、沖田君のフルネームだよ・・・』と顔を青くしていた。
『だったらやっぱり沖田が・・・・・。』
『まだ断定は出来ないけど、その可能性は高いわね。まあ全てはベンジャミンを捕まえれば分かることよ。だから私はダキニに会いに行ってくるわ。』
『ダキニに?どうして?』
『どうしてって決まってるでしょ。ベンジャミンは稲荷なのよ?だったら一族の長に責任を取ってもらわないと・・・・。』
そう言ってたまきは意地悪く笑った。
『同族が罪を犯したとなれば、ダキニだって動いてくれるはずよ。ていうか意地でも動かすけどね。』
そう言いながら玄関に向かい、靴を履いてから振り返った。
『きっとダキニは、ミッションを利用して悠一を働かせるつもりだったのよ。』
『どういうことだ?』
『ベンジャミンが禍神だってことは、当然ダキニも知ってるはず。だからミッションという形で、あんたを動かしたってことよ。』
『で、でも・・・・俺なんかが禍神とやらに勝てると思えないんだけど・・・・・、』
そう返すと、たまきは『馬鹿ね』と笑った。
『ダキニが本当に動かしたかったのは、あんたじゃなくて私よ。一回のミッションにつき、一度だけ私の力を借りられるでしょ?だから私を動かして、ベンジャミンを消してほしかったのよ。』
『消すって・・・どうやって?』
『ベンジャミンは神社の建て替え費用を払えなんて、あんたにイチャモンをつけてきたでしょ。しかも七億も。もしそれを断ったら、きっとあんたに襲いかかったでしょうね。けど私が傍にいる限り、そんなことは許さない。あんたを守る為に、ベンジャミンを殺していたかもしれないわ。』
『ああ、なるほど・・・・。』
『けど翔子ちゃんが七億を肩代わりしてくれたから、ダキニの計画は狂った。きっと今頃、次はどんな手であんたを利用しようか考えているはずよ。』
『・・・・・・・・・・・・・・。』
たまきの話を聞いて、何も言葉が出てこなかった・・・。
もしあの時たまきがいなかったら?もしあの時翔子さんがお金を払ってくれなかったら?俺は最悪殺されていたかもしれないってことだ・・・・。
そう思うと怖くなってきて、ただ黙ってその場に立ち尽くしていた。
するとたまきは『これであの女の恐ろしさが分かったでしょ?』と肩を叩いた。
『俺・・・・とんでもない奴に喧嘩を売ってたんだな・・・・。なんて卑怯で狡猾な奴だよ・・・。』
『ダキニは計算高い女だからね、他人を利用する術に長けてるのよ。ダキニならベンジャミンにも勝てるでしょうけど、極力自分の手は汚したくないのよ。』
『なんかダキニらしいな、それ。』
唇を尖らせながらそう言うと、『そういう奴よ、昔からね』と笑っていた。
『でもまさか密猟に手を出しているとは知らないでしょうね。いくら禍神に堕ちたとしても、ベンジャミンは一応は稲荷だもの。人間に災いを向けることはあっても、同じ動物に悪さをするとは思っていないはず。ダキニにとっては痛い誤算よ。』
そう言いながらドアを開け、暗い夜道に踏み出した。
『でも考えようによっては、これはチャンスよ。ベンジャミンの悪事を逆手に取って、ダキニを動かすことが出来る。もしベンジャミンを捕まえることが出来れば、翔子ちゃんも助かるし、あんたはミッションをクリア出来る。』
『なんでミッションがクリア出来るんだ?』
『さっきも言ったでしょ?ダキニには稲荷の長として責任を取ってもらうって。そうすればもうこんな馬鹿げたミッションなんてお終い。あんたは晴れて自由の身よ。』
『そうかもしれないけど・・・・でももし翔子さんに何かあったら・・・・・。』
ベンジャミンは非道な奴だ。それに加えて禍神ともなれば、いったいどんな悪さを働くか分からない。
一刻も早く翔子さんを助け出さないと、無事ではすまない可能性が・・・・・・。
『悠一。』
翔子さんの身を案じて不安になっていると、たまきはニコリと微笑んだ。
『大丈夫、翔子ちゃんは必ず助けてみせる。私を信じて。』
『たまき・・・・・。』
『あんな金貸しキツネ野郎に、あんたの友達を傷つけさせたりはしないわ。』
たまきは安心させるように微笑みかけてくる。だから俺は迷わず頷いた。
『うん、翔子さんのことは頼んだよ。お前なら・・・・きっと助けてくれるはずだから。』
『任せておいて。何かあったら連絡するから、それじゃあ。』
たまきは手を振り、赤いスポーツカーに乗って去って行った。
それを見送った俺は、部屋に戻ってじっと翔子さんの身を案じていた。


            *****


食べ掛けの料理が並ぶテーブルの前で、誰もが難しい顔をしていた。
・・・翔子さんがさらわれる。
それは俺の胸だけでなく、動物たちや藤井の心も揺らしていた。みんな険しい表情で目を落とし、誰も口を開こうとはしなかった。
すると向かいに座っていたマイちゃんが、おずおずと手を挙げた。
「あ・・・・あの・・・・。」
「どうしたマイちゃん?」
「翔子さんって、この前悠一君の家で会った人だよね?」
「ああ、藤井に化けてる時にな。」
そう答えると、藤井は「私に化ける?」と首を捻った。
「ああ、お前にはまだ言ってなかったな。ていうかマイちゃんのことだけじゃなくて、たまきや稲荷のことも話してなかったっけ?」
「何も聞いてないよ。だってさっき来たばかりだもの。」
「動物たちは何も言ってなかったか?」
「全然、みんなはしゃいでただけだから。藤井が帰って来た!って。」
「そうか・・・・なら話しておかないとな。たまきや稲荷のこと。それに・・・・この夏から俺の周りで起こった事を・・・・・、」
俺はたどたどしくも、この夏の始めから起きたことを説明していった。
アカリさんを助けたところから始まり、今までのミッションのこと。そしてダキニやたまき、翔子さんやマイちゃんのことも・・・・。
全てを聞き終えた藤井は、神妙な顔で口を噤んでいた。口元に手を当て、まるで俺の説明を反芻しているようだった。
「・・・大変だったんだね、悠ちゃん。こんなに大変な時に一人にして・・・・ごめんね・・・・。」
そう言って俺を見つめ、瞳を揺らしながら手を重ねてきた。俺はその手を握り返し、小さく首を振った。
「大変な思いをしていたのは俺だけじゃないだろ?お前だって遊んでたわけじゃないんだ。動物の為にしっかりと頑張ってたじゃないか。」
「そう言ってもらえると嬉しい・・・・。けど・・・まさか沖田君が密猟者だったなんて・・・・。」
藤井は悲しそうに呟き、拳を握って胸に当てた。
「昔はね、そんな人じゃなかったんだよ。もっと真面目で、そして純粋だった・・・・・。」
「それはお前が付き合ってた頃の話か?」
悪いとは思いつつも、ついつい聞いてしまった。すると藤井はコクリと頷き、重ねた手を離した。
「もう何年も前の話だけどね。実を言うと、ここを離れて彼の元で働き始めてから、ちょっと違和感はあったんだ・・・・。
あれ?こんな人だったかな?・・・って。けどカッコつけて悠ちゃんから離れたわけだから、今さら戻れないじゃない?だから・・・・・、」
「意地を張って続けていたと?」
「うん・・・。たまきさんの言うとおり、もっと早く彼の元を離れておけばよかった。ほんとうに・・・・意地を張るとロクなことがないね。」
そう言って悲しそうな目で笑い、チビリとお茶を飲んだ。
「なあ藤井。俺は沖田を捕まえるつもりだ。だから・・・・よかったらお前も協力してくれないか?」
俺は藤井の手を握って尋ねた。
「沖田はなんとしても捕まえないといけない。けどその為には密猟をしている証拠が必要だ。
だから・・・・教えてくれないか?沖田とはどういう奴なのか?お前の知っている範囲でいいから。」
俺は握った手を揺らし、悲しみに包まれる藤井の目を見つめた。久しぶりに握る藤井の手は少しだけ荒れていて、ペット探偵という過酷な仕事を続けてきたことが分かる。
「いいよ、私の知ってることでよかったら。でもそんなに大した事じゃないから、役に立つかどうか分からないけどね。」
「どんな情報でもいいよ。何も知らないよりかはマシだからな。」
俺は沖田の事は何一つ知らない。知っているのは奴が密猟者だとういこと。そして気に食わない奴だということくらいだ。
だから腕を組んで顔をしかめていると、藤井は可笑しそうに笑いながら喋り出した。
「じゃあ私の知ってる限りで話すね。まず沖田君はとっても頼りになる人ってこと。仕事は出来るし、動物にも優しいし。」
「そんな優しい奴が密猟なんかするかね?」
「そうだね・・・・。でもそういう一面は確かにあるんだよ。高校の時からそんな感じだったから、女の子にもよくモテてたなあ。なんかちょっとだけ悠ちゃんに似てる感じはあるよ。」
「死んでも似つかないよ。あんな奴と一緒にしないでくれ。だいたい俺はモテないし。」
「昔の話だよ。それに今の悠ちゃんはモテモテじゃない。翔子さんにコマチさんに・・・・ねえ?」
藤井は悪戯っぽく目を細める。俺は居心地悪く咳払いし、「話の腰を折って悪かった・・・」と謝った。
「冗談だよ。ちょっとからかっただけ。」
そう言って藤井は笑い、また真剣な顔に戻って話を続けた。
「沖田君は頼りになるし、優しい面だって持ってる。でも・・・・ちょっと得体の知れない部分があるのも確かなんだ・・・・。私が一年前に彼の元に行った時、なんだか違和感があった。本当はもっと穏やかなはずの人なのに、たまに怖い時があるっていうか・・・・。」
「怖い時?例えばどんな?」
「ペット探偵ってね、依頼者からかなりキツイことを言われる時があるんだ。
ペットが見つかれば問題ないんだけど、もし見つけることが出来なかったら、最悪は訴えられることもある。
人間を追う探偵なら、何かしら仕事をした形跡が残るものだけど、ペットを追うのってもっと地味だから。
自分の足で街を徘徊して、ただじっと動物が現れるのを待つことだってあるの。
そうすると本当にペットを探していたのかどうかっていう仕事の跡が残りにくいの。
だからもし見つからなかった時、依頼者から『本当は探してなかったんだろう!』って怒られることもあるんだ。
金だけもらって仕事をしないなんて、詐欺と一緒だってね。」
「それはキツイな・・・・。でも依頼者からしてみれば、本当に仕事をしていたかどうかは分からないもんな。」
「そうなの。でね、そういう事が三回ほどあったんだけど、その時は沖田君はこう言ったんだ。『訴えるのは勝手だけど、痛い目に遭うのはそっちですよ』って。そんなことを言われたら、もちろん依頼者は怒るよね。でも・・・訴えを起こされることはなかった・・・・。それどころか、後になって謝りに来た人だっている。」
「後から謝りに・・・・?それっていったいどういう・・・・、」
「分からない。けどとにかくそういうことがあったの。それに・・・・他にもあるよ。あれは資産家の家の奥さんが依頼に来た時なんだけど、とにかく態度が横柄だった。いなくなったフェレットを見つけてほしいって言うんだけど、絶対に二日以内に探し出せっていうの。三日後に友達に見せる約束をしてるから、必ずそれまでに見つけろって。なんか自分で契約書まで作って来てて、無理矢理サインしろって迫られて・・・・、」
「そりゃ滅茶苦茶だな。そんなのは断ればいいじゃないか。」
「うん、確かにそのとおりなんだけど、沖田君はなぜか引き受けたんだよね。それで結局二日を過ぎても見つからなかったんだけど、依頼者が怒ることはなかった・・・・。」
「どうして?そんなに横柄な奴なら怒りそうに思うけど?」
不思議に思って顔をしかめると、藤井は俯いて答えた。
「なんかね・・・どうも沖田君に怯えてるみたいだったの・・・・。」
「怯える?資産家の奥さんがペット探偵に怯えるってのか?」
「理由は分からないけど、確かに怯えてた。しかも旦那さんまで一緒に来てて、『依頼料は払うから、どうか何も無かったことにしてほしい』って土下座までするの。これって・・・ちょっと普通じゃ考えれないかなあって・・・・。」
「いや、普通じゃなくても考えられないよ。それっとどう考えても沖田が向こうを脅したに違いないだろ。どういう手段で脅したのかは分からないけど・・・・。」
「やっぱりそうだよね?他にも時々それに近いようなことはあって、なんだか怖くなっちゃって・・・・。でもさっきも言ったように、優しい面もちゃんとあるから、いったい沖田君はどうしちゃったんだろうって不思議だった・・・・。動物に対してはいつだって真摯だったし、礼儀の良い依頼者さんにはいつも笑顔で応対してたから。
でも彼の元で働くうちに、やっぱり不信感は募っていった。それに加えてペットの盗難や、密猟の疑いまで出て来たじゃない?
だから・・・・もう沖田君のことは信用出来ないかなって・・・・・。」
「そりゃそうだろ。俺がお前の立場ならとっくにそんな奴は見限ってるよ。よく一年も堪えて働いたな。」
半ば呆れ、半ば感心しながら言うと、藤井は困ったように笑った。
「だって仕事そのものは好きだったから。自分でやってみて思ったんだけど、私はこの仕事が向いてると思った。だから沖田君のことはともかくとして、ここで修業を積んで、いつかは独立したいなって思うようになって・・・・。その為にはまだまだ頑張らなきゃいけないから、一年も経たずに逃げ出すのは嫌だったの。」
「いや、逃げ出すわけじゃないだろ。ただ沖田の元を去ればよかっただけじゃないか。なにもペット探偵は沖田だけじゃないんだからさ。」
「そうだけど・・・・でも悔しかったから・・・・。」
「悔しい?何がだ?」
そう尋ねると、藤井は言いづらそうに口を噤んだ。
「いや、言いたくないことならいいんだよ。無理に聞くつもりはないからさ。」
「・・・・ごめん・・・なんだか思い出すと余計に悔しくなってきちゃったから・・・。」
藤井は何かを堪えるように唇を噛み、そしてじっと俺の目を見つめた。
その目はわずかに潤んでいて、深い怒りが宿っているように思えた。
「沖田君にね・・・・私たちのやっていたことは、素人遊びだって言われたの・・・・。」
「素人の遊び?どういうことだ?」
「・・・私と悠ちゃんがやっていた活動のこと・・・。頑張ってたくさんの動物を助けようとしてきたのに、頭ごなしにそれを否定された・・・。いくら動物と話せるからって、しょせんは素人の遊びだって・・・・。本当に動物の為に何かをしたいのなら、ずっと俺の傍にいるべきだって・・・・。」
藤井は悔しそうに拳を握り、我慢出来ずに声を荒げた。
「そう言われた時、私は本当に悔しかった!私と悠ちゃんがどれだけ動物と向き合ってきたかも知らないクセに、素人の遊びだなんて言われる筋合いはない!だから沖田君を見返す為にも、絶対に逃げ出すのは嫌だった。ここで何かしら結果を出して、彼をギャフンと言わせたかったの。
だって私のことだけじゃなくて、彼は悠ちゃんのことまでバカにしたから!それだけは・・・・腹が立って許せなかった・・・・。悠ちゃんのことを何も知らないクセに、知ったかぶってバカになんかされたくない!」
藤井の拳が怒りで震えている。激しく声を荒げていたけど、それでもかなりオブラートに包んで言ったんだろう。
沖田の奴・・・・・本当はもっとボロカスに俺のことを言っていたに違いない。
そうでなければ、我慢強い藤井がここまで怒るものか。
俺たちが素人だってことは認める。それにプロの沖田からすれば、俺など歯牙にもかける相手ではないだろう。
別にそんなことはどうでもいいんだけど、藤井を傷つけたことだけは許せない。
《けど・・・今のはちょっと嬉しくもあったな。一年も遠く離れていたのに、まだこんな風に俺のことを想っていてくれたなんて・・・・。》
藤井の怒りは、俺が馬鹿にされたことに対しての怒りである。
だから俺は藤井の手を握りながら、「ありがとうな」と笑いかけた。
「でももう無理しなくてもいいからな。沖田の所なんて二度と戻る必要はない。」
「うん・・・・。頼まれてもゴメンだよ。」
藤井はニコリと笑い、俺の手を握り返した。
「今回氷ノ山へ来たのは、ある依頼が入ったからなんだ。」
「ある依頼?」
「そう・・・。犬を飼っていたおじさんからの依頼でね、逃げた猟犬を見つけてほしいって頼まれたの。」
「猟犬か・・・。だったらその依頼者は猟師なのか?」
「そうだよ。マタギって言ってたから。」
「マタギか・・・それで?」
「そのおじさんの犬がいなくなったのって、今から二十年も前なの。」
「二十年・・・・?」
「うん・・・。狩りをしている時に、イノシシに突かれて死んじゃったんだって。」
「死んだって・・・・それなら探しようがないじゃないか。」
そう尋ねると、藤井は困った顔で眉を寄せた。
「実はね・・・・この山でおじさんの犬を見たって人がいるの。」
「死んだ犬をか?」
「そう・・・。ちょっと信じられない話なんだけど、でも目撃者がいるの。」
「目撃者?」
「うん。氷ノ山に登ってた人が、実際に見たって言うのよ。道に迷っている時に、麓の親水公園まで案内してくれたって。」
「おいおい、死んだ犬がどうやって人を案内するんだよ?」
「・・・・・分からない。けどおじさんが言うには、確かにその犬に助けられた人がいるんだって。ここの山で迷っていると、どこからか現れて道案内をしてくれたらしいの。そして麓まで案内すると、忽然と姿を消しちゃったんだって。」
「いや・・・それは作り話だろ?そのおじさんが自分で考えたに決まってるよ。」
藤井には悪いと思ったが、俺は笑いながらそう言った。しかし藤井は首を振り、「私・・・実際にその犬に助けられたっていう人に会ったの」と答えた。
「悠ちゃんと同じように、沖田君もこんな話は信じなかった。でもどうしても気になったから、私は一人だけでそのおじさんに会いに行ったのね。そうしたらおじさんの犬に助けられたって人の元に案内されて、話を聞かされたの。その話を聞いて・・・・おじさんは嘘を言ってないって確信した。だってその犬に助けられた人の話を聞くと、それってまさにおじさんの犬そのものだったから。」
そう言って藤井は、脇に置いたバッグから一枚の写真を取り出した。
そこには黒地に斑模様の犬が写っていて、凛々しい顔をこちらに向けていた。
「この子はシュウ君っていうの。これは二十年前に撮った写真で、この時で五歳だったんだって。」
「五歳か・・・・。だったらやっぱりもう死んでるじゃないか。犬は二十五年も生きないからな。」
「普通に考えればそうだよね。でも確かにこの犬に助けられたって人がいるの。だからおじさんは何としてもこの犬に会いたがっているのよ。」
「うう〜ん・・・・でもやっぱり信じられないなあ。その目撃者もグルなんじゃないのか?」
「それは・・・・何とも言えないけど・・・・。でもおじさんは諦めきれないのよ。どうかもう一度だけでもいいから、シュウ君に会いたいって・・・・。私はもう沖田君のところに戻る気はないけど、その犬のことだけは気になるの。だから・・・・・一緒に探してほしい。今が大変な時だっていうのは分かってるけど、悠ちゃんと一緒なら見つけられそうな気がするから。」
藤井は写真を見つめながら、かつての柔らかい表情を見せた。
すると黙って聞いていた動物たちが、ワラワラと藤井の周りに集まり出した。
「悠一よ、俺は真奈子の味方だぜ。」
マサカリが鼻息荒く言う。
「私も。ここは藤井さんと一緒にシュウ君とやらを探してあげましょうよ。」
モンブランが尻尾を振りながら真剣な顔で言う。
「今ここに悠一と藤井の同盟が復活する。その為なら俺は助力を惜しまない。・・・・多分。」
チュウベエが羽を広げて主張する。
「まあなんていうか・・・・お前ら二人は結局これしかないんだよ。密猟者だのミッションだのもいいけど、地味に動物を助ける方が似合ってるぜ。」
カモンがカッコをつけながら腕を組む。
「私もみんなと同じ意見よ。悠一だって大変だろうけど、藤井さんあってのあなたじゃない。断るなんてしないわよね?」
マリナが流し目を寄こしながら微笑む。
「お前ら・・・・なんだかんだ言って、結局藤井が好きなんじゃないか。」
動物たちは嬉しそうに藤井に寄りそう。あんなに茶化していたモンブランだって、今は藤井に頬を寄せていた。
「死んだ犬を探すか・・・・。そんなのは初めてだけど・・・・・、」
どうせ見つかるはずがない・・・・。そうは思っても口に出来なかった。
なぜならそんなことを言おうものなら、我が家の動物たちからどんな反撃を食らうか分かったもんじゃないからだ。
それに何より、藤井の頼みを断る気にはなれない。また一緒に動物を探そうと言うのなら、俺には断る理由なんてないのだから。
「分かったよ・・・・一緒にその犬を探そう。」
そう答えると、藤井は笑顔を弾かせてで喜んだ。
「ほんと!ほんとんに?」
「ほんとだよ。でも沖田や翔子さんのことが優先だからな。」
「もちろん分かってる。ていうか別に今からじゃなくてもいいの。まず最初にやらなきゃいけないのは、翔子さんを助けること。そして次に沖田君のこと。私の頼みは最後でいい。全てが終わってからでも、じゅうぶん間に合うから。」
藤井は動物たちを抱き寄せ、「みんなもありがとう」と呟いた。
それを見ていたマイちゃんとノズチ君が、キョトンとした目でこう言った。
「なんか楽しそう・・・・。人がさらわれたっていうのに・・・・。」
「そうだな。こいつらって案外自分のことしか考えてなかったりして・・・・。」
痛いところブスリと突かれ、思わず首を振った。
「いやいやいや!まずは翔子さんのことが第一だよ!」
「ほんとかなあ・・・・今完全に藤井さんのことしか考えてなかったような・・・・。」
「いや、実際に考えてたんだよ。この男は藤井にデレデレなのさ。でも俺は諦めねえぜ!藤井は俺の女だ!」
きっと今日この中で一番まともなのはマイちゃんだ。確かに俺は、藤井と再会して浮かれていた。
こうやってなじられても仕方が無い。
「藤井・・・悪いけどお前の頼みは一番最後だ。」
「うん、分かってる。ごめんなさい・・・こんな時にこんな話をして。」
マイちゃんとノズチ君のおかげで、また場に緊張感が戻ってきた。
すると今度はおじさんとおばさんが首を傾げて呟いた。
「なんのことだか分からねえけど、とにかく大変そうだな。」
「ていうか・・・・さっきから動物と喋ってるし・・・・。でもそんなことはどうでもいいか!ゴマを見つけてくれたんだから。」
二人は不思議そうな顔で俺たちを見ていたが、やがておじさんの方が酒を飲みながらこう言った。
「なんだかよく分からねえけど、俺らで力になれることがあったら何でも言ってくれよ。」
「ああ・・・はい・・・ありがとうございます。」
「詳しい話は分からねえけど、さっきから密猟がどうとか言ってるから、あんまり危険なことはするんじゃねえぞ。いざとなったら警察を呼べばいいんだから。」
「はい、気をつけます。」
俺は頷き、手元に置いたグラスを見つめた。残った酒に自分の顔が映り、ふとそこに違和感を覚えた。
《・・・俺ってこんな顔してたっけ?なんか・・・・前より歳をとった気が・・・・・。》
こんな場面でふと感慨深くなり、頭を振って余計な感傷を追い払った。
《今はこんなこと考えてる場合じゃない。翔子さんを助けること、そして沖田をどうするかを考えないと。
翔子さんのことは心配だけど、とりあえずはたまき達に任せるしかない。アイツならきっと翔子さんを助けてくれるはずだ。
だったら俺はどうする?沖田の密猟の証拠を押さえる為には、奴がまさに密猟をしている現場を押さえるしかないわけだけど・・・・。果たして上手くいくかな?向こうは動物に関しても狩猟に関してもプロなわけで、こっちはただの素人の寄せ集めだ。いったいどうしたら・・・・・。》
沖田はプロで、しかも仲間までいる。
対してこちらは動物と話せるだけの人間。それに犬、猫、ハムスター、インコ、イグアナだ。
あとは化けタヌキのマイちゃんと、馬鹿丸出しのツチノコだ。
《・・・・・これって勝ち目はあるのかな?こっちの戦力が測定不能過ぎて、どうにも予想出来ないよ・・・・。》
酒に映った自分の顔を眺めながら、どうやって沖田を追い詰めるかを考える。
グラスに映る自分の顔は、やはり前より歳を取ったように感じた。

人の意識を揺さぶる名曲 スモークオンザウォーター

  • 2014.11.27 Thursday
  • 12:52
JUGEMテーマ:音楽
ディープパープルというバンドがあります。
洋楽を知る人なら、誰もが知っているバンドです。
そして洋楽を知らない人でも、この人たちの曲は聴いたことがあると思います。
数々の名曲を残したディープパープルですが、今日はその中でも特に名曲の「スモークオンザウォーター」について書きたいと思います。
この曲の歌詞は英語なので、私には内容は分かりません。
しかし言葉が分からなくても伝わるのが音楽。ロックは国境だの言葉の壁だのを超えるのです。
私がこの曲を聴いて感じたこと。
それは人の意識を歌い、そして演奏しているということです。
スモークオンザウォーターって、水の上の煙ってことです。
要するに、これって水蒸気のことなのかなと。
水蒸気は目に見えるし、確かにそこに在ります。
しかし捕まえることは決して出来ません。
見えるのに、そこに在るのに、この手で触れることは出来ないのです。
これって、人の意識によく似ていると思います。
人の意識は言動となって表に出てきますし、頭の中に在ることは確かです。
しかし決して触れることは出来ません。
漫画や映画みたいに、意識だけ取り出してどうこうなんて出来ないのです。
だからその意識を考えた時、私は「?」となります。
見えるし、在るし、でもその正体は分からない。だからいくら考えても「?」となるんです。
スモークオンザウォーターからは、まさにそういう人の意識みたいなものを感じました。
あの特徴的でインパクトのあるイントロ、そして気怠いながらも力強いサウンド。
ギターの音、歪み、ヴォーカルのハスキーでパワフルな歌声。
強烈なそれらの音が、耳を通して頭の中に入り、意識を根底から揺さぶるんです。
だから私の中のいくら考えても「?」の部分が、まるで身体から抜け出していく感じがします。
私の身体が水だとしたら、頭の上にスモークがゆらゆらしているような感覚です。
私は意識というのは、肉体の一部だと思っています。水から蒸気が生まれるように、肉体から意識が生まれるはずなんです。
蒸気だけだと霧散してしまうし、意識だけだと何も行動を起こすことが出来ない。
水があってこそ、肉体があってこそ、そこに存在出来るし、行動を起こすことが出来る。
スモークオンザウォーターは、人の意識のみならず、肉体と意識を繋ぐ何かを感じさせます。
いくら考えても「?????」なんだけど、でもちゃんと頭の中にあるんです。
スモークオンザウォーターはその「?」の部分を的確に捉え、ぐわんぐわんと揺さぶる曲です。
ただの音楽で終わらないし、ただのロックで終わらない名曲です。
身体を越えて、心を越えて、深い意識に問いかける、理屈から脱出した哲学のような感じです。
そして何が一番凄いって、こんな曲を作り、そして超ハイレベルで演奏するディープパープルですよ。
彼らなしにこの名曲は生まれず、今聴いてもまったく古臭さがありません。
レッドツェッぺリンにしろディープ・パープルにしろ、それにビートルズやクイーンもそうだけど、やっぱり今後のロックでこの人たちを超える人は現れないと思うんですよね。
音楽で終わらない音楽、ロックで終わらないロック。それらを生み出した偉大な先人たちは、天才を超えた超人です。
その超人が作ったスモークオンザウォーター、聴く度に意識が蠢めき、「?」の感覚が目を覚まします。

calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< November 2014 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM