ダナエの神話〜魔性の星〜 第十話 空想の牢獄(2)

  • 2015.04.30 Thursday
  • 12:40
JUGEMテーマ:自作小説
「ダフネ!お父さん・・・・お母さん!」
月の中に戻ったダナエは、壊れた城で三人と再会した。
「よかった・・・・みんな死んだと思ってた・・・よかった!」
泣きながら三人に抱きつき、「心配したんだから!」と叫ぶ。
アメルは「ごめんね」と娘を抱きしめ、「お母さんの方こそ心配したんだから・・・」と涙ぐんだ。
「目を覚ましたら月へ戻ってて、ダナエだけがいなかった・・・。どれほど心配したか。」
するとケンも「無事でよかった」と娘を抱いた。
「ほんまに・・・・お前はとんでもないオテンバや。船は飛ばすわ、地球まで行くわ、挙句にベルゼブブと戦おうとするなんて・・・・このアホたれ!」
「ごめんなさい・・・・。だってみんながアイツにやられたと思ったから・・・・。」
ダナエは声を上げて泣き、ひたすら両親に抱きついていた。
「ダナエ、やっぱりあんたは一筋縄じゃいかない子よね。凄いんだか凄くないんだか分からない時がある。」
そう言ってダフネは笑い、よしよしと頭を撫でた。
「ベルゼブブは倒した。けどまだまだ油断は気出ないわ。いつ次の悪魔が襲って来るか分からない。」
「うん・・・。ミカエルとウリエルは、先に地球へ行ったわ。黄龍って龍神さんと一緒にね。」
「ガブリエルが言ってたわね。なら・・・・私たちも行かないと。早く地球から悪魔を追い払って、ラシルの邪神を倒すわよ!」
ダフネは拳を握り、城の外へ歩いて行った。
するとたくさんの妖精が城の前に集まっていて、不安そうな顔をしていた。
「ダフネ・・・・月は大丈夫よね?」
子供を抱いた妖精が、不安そうに尋ねてくる。
ダフネは「もちろんよ」と微笑み、その妖精に触れた。
「月は絶対に守ってみせる。いざとなったら、私の命に代えてもね。だからみんなは安心しててちょうだい。」
「本当に・・・・本当に大丈夫よね?」
「うん、約束する。だって・・・・ここにいる妖精は、私がダーナだった頃に傷つけた人たちだもの・・・・。だから私には責任がある。例え死んでも、みんなを守らなきゃいけない責任が。」
ダフネは力強く言い、「絶対に約束する」と微笑みかけた。
「じゃあみんな、私たちは地球に行って来るわ。悪魔と邪神を倒して、また平和を取り戻す為に。」
そう言って妖精たちに手を振り、箱舟を停めた森まで向かう。
アメルは「私たちも行きましょう」とダナエの背中を押し、後をついて行く。
するとミヅキが「私はどうすればいいの?」と駆け寄ってきた。
「みんな地球へ行っちゃうんでしょ?なら私とあの人は・・・・、」
そう言って父を振り返り、バツの悪そうな顔をした。
「ミヅキ、あなたと叔父さんはここにいて。」
「でも・・・・、」
「月にいた方が安全よ。それに・・・もうそろそろお父さんと仲直りしないと。」
「・・・・・・・。」
「色んな事情があるのは分かるわ。でも仲直りっていうのは、時間が立つほど難しくなるのよ。
だからちょっとだけ意地を張るのはやめて、お父さんと話してみれば?それで・・・・もしまた腹が立ったら、その時は喧嘩をすればいいのよ。」
「じゃあ仲直りの意味ないじゃん・・・。」
「そんなことないわ。喧嘩と仲直りを繰り返して、お互いの絆は強くなるんだから。
一つも喧嘩をしないで一緒にいると、いつか喧嘩をした時に大変なことになっちゃうものよ。」
「ダナエはそういう経験があるの?」
「まあね。小さい頃に、コウと喧嘩をしたことがあって。」
「今でもちょいちょいしてるじゃない。」
「そうよ。だから私とコウは仲が良いのよ。不満を溜めるくらいなら、バーっと喧嘩して仲直りすればいいのよ。それが本当に仲がいいってことだから。」
そう言ってミヅキの背中を押した。
「さ、さ、私は地球へ行って悪魔をやっつけて来る。それに・・・ジャムやトミーが無事か確かめないと。」
「・・・・そうだね。じゃあ私は月で待ってる。あの人と仲直り出来るかどうかは分からないけど、でもちょっとくらいなら口を利いてあげてもいいかもしれない。」
「そうそう、何事も小さなことからよ。じゃあね、必ず悪魔を倒して戻って来るから。」
ダナエは踵を返し、手を振って箱舟に向かう。
「ダナエ!」
「なあに?」
ミヅキはササッと駆け寄って来て、ヒソヒソと耳打ちをした。
「ダナエってジャムから告白されたんだって?」
「ほえ?」
「とぼけないでよ。面と向かって、『ダナエちゃんが好きだ』って言われたんでしょ?」
「・・・・・・・・・。」
ミヅキはニヤニヤしながら尋ねる。ダナエは顔を真っ赤にして、「誰に聞いたの・・・・?」と尋ねた。
「コウよ。」
「・・・・アイツ・・・・なんでそういうことをベラベラ喋るかな!」
「あはは!赤くなってる!」
「指差さないでよ・・・・。」
「で、で、ダナエは何て答えたの?コウは何にも教えてくれなかったんだ。だから気になってたのよ。OKしたのかフッたのか?どうなの?」
ミヅキはさらにニヤニヤして、鼻がくっつくほど顔を近づけてくる。
「ねえねえ、どうなの?まさか・・・・OKしたの?」
「さあ、早く地球に行かないと!」
ダナエはわざとらしく言い、「じゃあね」と手を振る。
「ちょっとダナエ、答えてよ。」
「まあ・・・・戦いが終わって戻って来たらね。」
「フッたんでしょ?相手はゾンビだし、だいたいあんなガキっぽい性格じゃあねえ。」
ミヅキは一人で妄想に浸っている。「いや、意外とダナエはああいうのがタイプだったりして・・・」などと呟き、完全に自分の世界に没頭している。
ダナエはその隙に逃げ出し、顔を赤くしたまま箱舟に駆けていった。
それを見ていたケンは、「ミヅキ、今の話はホンマか?」と尋ねた。
「ジャムとかいう男が、ダナエに告白したいうのは・・・・ホンマなんか?」
「ちょ、ちょっと伯父さん・・・・顔が怖いよ・・・・。」
「年頃の娘を持つ父として、今のは断じて見過ごせへん会話や。ダナエ!その話をお父さんにも聞かせてくれ!そのジャムとかいうのはどんな男や?コラ!なんで逃げるねん!お父さんにも詳しく説明しなさい。コラ、ダナエ・・・・・、」
ケンは父親の顔丸出しでダナエを追いかけていく。ミヅキは「父親って妖精も人間も同じねえ」と笑い、後ろに立つ自分の父を振り返った。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
父と目が合う。なんだか気まずい空気が流れ、またしても意地を張りそうになっていた。
《分かってる・・・・。ダナエの言うとおり、こんなんじゃいつまで経っても仲直り出来ない。でも・・・・やっぱり気が重いなあ・・・。》
ミヅキは瓦礫の上に腰を下ろし、深くため息をついた。
すると子供を抱いた妖精が飛んで来て、「あなたもしかして・・・・、」と話しかけてきた。
「あの・・・・違ってたらごめんなさい。あなたって、もしかして加々美幸也の娘さん?」
見知らぬ妖精に尋ねられ、ミヅキは返事に困った。
「ええっと・・・・あの・・・・、」
「ごめんね。さっきの会話・・・・聞くつもりはなかったんだけど聞こえちゃって。」
「はあ・・・・。」
「あなたは・・・ミヅキちゃんっていうのね?」
「そうだけど・・・・。」
「私はサトミっていうの。元々は地球にいた人間よ。その時に加々美幸也って人と仲良くしてたんだけど・・・・ミヅキちゃんって彼に雰囲気がそっくりだから。」
「そう・・・・ですか?」
「うん。目元とか鼻がそっくり。だから・・・・どうなのかなと思って。」
サトミと名乗った妖精は、ニコリと微笑みながら尋ねる。
ミヅキはしばらく躊躇ってから、「そうです・・・・」と答えた。
「ああ!やっぱり・・・・。娘がいるって言ってたから、会いたいと思ってたのよ。」
サトミは小さな手を伸ばし、握手を求めた。ミヅキは「どうも・・・」と頭を下げ、その手を握る。
「幸也にこんなに大きな子供がいるなんてねえ・・・・ちょっとビックリだわ。」
「あの・・・・サトミさんは、お父さんの友達だったんですか?」
「う〜ん・・・・まあ友達といえば友達ね。でも普通の友達より仲が良かったわよ。」
「彼女・・・・ってことですか?」
「こういうのを娘さんのあなたに話していいかどうか分からないんだけど・・・・、」
「そういう言われ方をしたら気になります。教えて下さい。」
ミヅキは真剣な目で見つめる。サトミは「そうね・・・・私から話しかけたんだし」と頷いた。
「私はね、幸也の婚約者だったの。」
「こ・・・婚約者!」
「そうよ。ある事件が元で死んじゃったんだけど、そうじゃなかったら幸也と結婚してたはず。」
「・・・・・・・・・。」
「うふふ、ビックリした?」
「・・・・ええっと・・・・まあ・・・・。」
ミヅキは言葉を失くしていた。見知らぬこの妖精が、まさか父の元婚約者だったとは思わなかった。
「じゃ、じゃあ・・・・・もしサトミさんとお父さんが結婚してたら、私は生まれてなかったってことですよね?」
「そうなるわね。あなただけじゃなくて、この子も生まれてなかったわ。」
そう言って腕に抱いた我が子を見せる。まだ赤ん坊の妖精は、人間の親指くらいの大きさしかない。
ミヅキは「可愛い」と微笑み、そっと頬を撫でた。
「赤ちゃんはみんな可愛いものよ。ミヅキちゃんだって、こんなふうに赤ん坊だった時があるでしょ?」
「まあ・・・そうですね。その時のことなんて覚えてないですけど。」
「でも親は覚えてるわよ。この腕に赤ん坊を抱いた時のことは、決して忘れたりしないわ。」
そう言って遠くに立つ幸也を見つめ、「よ!」と手を振った。
幸也は小さく微笑み、手を振り返す。そしてこちらに来たそうに、もじもじと手を動かしていた。
「幸也が月へ来た時、私たちは十五年ぶりの再会を喜んだ。私が赤ちゃんを見せると、幸也も子供がいるって言ってたわ。でも・・・・なんだか色々と悩んでたみたい。何か事情があるのね?」
そう問いかけると、ミヅキは目を逸らして黙り込んだ。
「いいのいいの、誰だって人に言いたくない事はあるわ。ただね・・・・あなたたち親子が、どうも上手くいってないんじゃないかって心配になっただけ。」
「他人に心配される筋合いはありません・・・。」
「そうね。元婚約者だっていっても、もう幸也と私は他人だもの。親子のことに首を突っ込んでほしくなんかないわよね。」
「・・・・・・・・・・。」
「でもね、これだけは覚えていてほしいの。大切な人っていうのは、ずっと傍にいるとは限らないのよ。
幸也はお兄さんを亡くして、そして私まで亡くした。幸いこうして月で再会出来たけど、そんな幸運は滅多にないわ。
だから・・・・あんまり意地を張って大切な人を遠ざけてると、いつか後悔するかもしれないわよ?
もしそうなった時、どんなに悔やんでも遅いの。それだけは覚えておいて。」
サトミはニコリと微笑み、「それじゃ」と去って行く。
「あ・・・あの!帰るんですか?お父さんとは・・・・、」
「幸也とは再会した時にうんと話したもの。だからもういいの。今の私たちは別々の道を歩いている。婚約者だったのは過去のことよ。」
「でも・・・・なんか向こうは話したがってるみたい。」
ミヅキは父に目を向け、その優柔不断な態度にイライラしていた。
「こっちに来たいなら来ればいいじゃない。どうしていつもハッキリしないんだか・・・・。」
そう言って唇を尖らせると、サトミは「それは違うわよ」と答えた。
「幸也は私と話したがっているんじゃない。ミヅキちゃんと話したがっているのよ。」
「私と?」
「父親って不器用だからね、面と向かって娘と話すのは苦手なのよ。ウチのお父さんもそうだったし。」
「・・・・・・・・。」
「ミヅキちゃんにはミヅキちゃんなりの悩みがあるのは分かる。でも幸也だってきっと悩んでるはずよ。だから話してあげなさいよ、ね?」
サトミはミヅキの頭を撫で、「じゃあね」と飛んで行く。
「幸也によろしく言っといて。神話ばっかり追いかけてないで、ちゃんと娘を見なさいって。」
そう言い残し、サトミは森の方へと消えていった。
ミヅキは彼女が消えた方を睨み、躊躇いがちに父を振り返った。
「・・・・・・・・。」
幸也は小さく笑いながら手を上げる。そしてゆっくりとこちらに歩いて来た。
「ミヅキ・・・・・。」
「・・・・・何?」
「いや・・・・何っちゅうことはないんやけど・・・・。」
そう言ってガリガリと頭を掻き、「・・・ええっと、サトミは何か言うてたか?」と笑った。
ミヅキはプイッと顔を逸らし、「神話ばっかり追いかけてるんじゃないわよってさ」と呟いた。
「そ、そうか・・・・。サトミらしいな。」
「あの人、お父さんの婚約者だったんでしょ?」
「そうや。ほんまやったらあの人と結婚するはずやった。でもある事件で亡くなってもて、妖精としてここに住んでるんや。」
「・・・・じゃあさ、もしサトミさんとやり直せるなら、そうしたいと思う?」
「ん?」
ミヅキは「ん?じゃなくて」と振り返り、父を見つめた。
「もしもタイムマシンがあって過去をやり直せるなら、サトミさんと結婚したいと思う?」
「いいや、まったく思わん。」
「なんで?もうサトミさんのことを好きじゃないから?」
「そんなことはないよ。サトミと再会した時、胸に詰まるもんがあった。だからアイツの事は、今でも好きなんかもしれん。」
「じゃあなんでやり直したいと思わないの?サトミさんと結婚してたら、今とは違う人生があったかもよ?
こんなひねくれた子供じゃなくて、もっと素直な子が出来てたかも。」
ミヅキは皮肉を込めて言う。自分が意地っ張りだと自覚しているから、自分で自分を責めるように・・・。
しかし幸也はすぐに首を振った。そして「お前ほど素直は子はおらんよ・・・」と微笑んだ。
「サトミとやり直したいと思わへん理由はな、ミヅキの方がよっぽど大事やからや。
もしアイツと結婚してたら、お前は生まれへんかった。だからやり直したいなんてちっとも思わへん。」
幸也はミヅキの隣に腰を下ろし、「それにな・・・」と続けた。
「現実の世界っていうのは、過去に戻ることは出来へんのや。空想の物語なら、過去に戻ってやり直せる。でも現実はそうはいかへん。だから今を大事にせなあかんのや。過去でも未来でもない、今自分が生きてるこの時間が大事なんや。」
そう言ってミヅキを見つめ、「今の俺には、お前という娘がおる。だから・・・それが一番大事や」と笑った。
「お前がお父さんのことを許すつもりがないんやったら、それでもええ。でもな、お父さんはお前と離れてる間でも、ずっとお前のことは気にかけとった。それだけは・・・・信じてほしい。」
「・・・・・・・・・・。」
ミヅキは何も言えず、ただ俯いた。言いたいことはたくさんあったはずなのに、その全てがどうでもよくなっていた。
そしてたった一言、父にこう尋ねた。
「お父さんは・・・・今でもお母さんのことは好き?」
「ああ、好きや。でもお母さんには新しい人がおる。」
「でもまだ結婚してないよ。」
「そうやな。でもいずれするやろ。」
「・・・・もし・・・・もしもだよ、私がお願いしたら、お母さんとやり直してくれる?」
ミヅキは期待を込めて父を見つめる。
余計な言葉が胸から消えたおかげで、ずっと閉じ込めていた素直な気持ちが出てきた。
もう一度、父と母と一緒に暮らしたい。まだ父が大好きだったあの頃みたいに、三人で仲良く暮らしたい。
そう期待を込めて問いかけたが、幸也は「それは無理や」と答えた。
「親子の愛と夫婦の愛は違うもんなんや。だからお母さんとやり直すのは無理や。」
「でも・・・さっきはまだお母さんのことが好きだって・・・・、」
「お母さんは、もうお父さんのことは好きじゃないやろ。それに・・・・いくら好きでも、やり直すのが無理な時はある。どんなに離れてても、親子ならどっかで糸が繋がってる。でも夫婦ってのは違うんや。だから・・・無理や。」
「・・・・・・・・・・。」
ミヅキは顔を逸らし、強く唇を噛んだ。そして勢いよく立ち上がって、「二度と話かけんな!」と幸也の脛を蹴った。
「痛ッ!おい・・・どこ行くねん!?」
「あんたのいない所!」
「なんでや!?お父さん・・・・なんかまずいこと言うたか?」
「知るか!ついて来るなよ!」
ミヅキは走りだし、妖精の隠れる森へと去って行った。
「ミヅキ・・・・・。」
幸也はがっくり項垂れ、その場に座り込む。頭を抱えて「またやってしもた・・・」と唸った。
「俺・・・・またいらん事を言うてしもたんや・・・・。せっかくミヅキが心を開きかけてくれたのに・・・。」
自分を情けなく思い、ガシガシと頭を掻いて悔しがる。
なんと不甲斐ない・・・・なんと情けない・・・・。
ミヅキに嫌われるのも当たり前だと、自嘲気味に笑った。
そして壊れた城を見上げて、地球に向かった者たちのことを思った。
「地球にはベルゼブブ以上の悪魔がおる。みんな無事に帰って来てくれよ。」
戦いに行った者たちを心配しながら、月に広がる空を見つめていた。

家猫たち

  • 2015.04.30 Thursday
  • 12:32
JUGEMテーマ:にゃんこ


野良猫には野良猫の顔が、家猫には家猫の顔があります。
生活に心配がない分、家猫の方が穏やかな顔をしています。





餌の争い、縄張りの争いがない分、表情には険がありません。




勝手に外に出て、でもすぐ帰って来るんですよ。
外には野良猫がいるから、怖いんでしょうね。





血は繋がっていなくても、親子のように仲良くなることもあります。
母乳は出ないんだけど、自分のおっぱいを吸わせていました。
子猫もよく懐いています。





猫にも色んな性格があって、社交的な猫、それに猫見知りをする猫がいます。
この子は社交的で、すぐに家に馴染みました。





家猫なのに、やたらと気が強い奴もいます。
この子は尖った性格をしていて、新参者は寄せ付けません。
気高い猫です。





猫にもクセが遺伝するのか、姉妹で同じポーズを取ることがあります。
この子はパタちゃん。
一枚目の写真の猫、リロちゃんの姉妹です。








姉妹揃って、足を伸ばして寝そべるんですよ。
普通は足をたたむものなんですが、ピーンと足を伸ばして寝るのは、この姉妹だけです。
見た目は違っても、クセはよく似ているんですね。
家猫は大人しく、野良のような険はありません。
環境や状況が違えば、猫だって人間同様に、その生き様が顔に表れます。
家猫たちは、常に丸みのある目をしているように思いました。



 

アサヒカメラと日本カメラ

  • 2015.04.30 Thursday
  • 12:22
JUGEMテーマ:写真
デジタルカメラ、そしてネットの登場によって、ブログやツイッターにはたくさんの写真が上がっていますね。
写真の投稿サイトや、写真で仕事が出来るサイトまであるようです。
私もほぼ毎日のように、このブログに写真を載せています。
きっと写真というものが登場してから、今ほど多くの人が写真に親しむ時代はないでしょう。
写真は撮るのはもちろん楽しいけど、見るのも楽しいものです。
その最たるものが、カメラ雑誌です。
本屋さんに行けばたくさんのカメラ雑誌があって、これも昔よりも増えたなあと感じます。
しかし多くの雑誌が、カメラの紹介がメインだったり、初心者向けのハウツー本だったりするのに対し、写真というのを深く掘り下げている雑誌があります。
それはアサヒカメラと日本カメラです。
この二つの雑誌は、写真そのものをテーマにしており、多くの写真家の作品を載せています。
有名な写真家から、新人の写真家、それにポートフォリオもあるから、様々な写真が楽しめます。
それにジャンルは問わず、人物、風景、動物、昆虫、ランドスケープ、ヌードやポートレートもあります。
美しい写真もあれば、問題提起の為の写真もあるし、生々しい人間模様の写真も見ることが出来ます。
だから写真を始めて間もない頃、この二つの雑誌にはお世話になりました。
一つの雑誌に多くの写真家の作品が載っているのは、色々な作品を知るうえで助かります。
それに写真家へのインタビューや、写真家同士の対談、また評論家と写真家が、写真の在り方や未来について語ったりもします。
写真をとことんまで深く追求するから、面白いんですよ。
それにコンテストもやっていて、後ろの方にはたくさんのアマチュア写真家の作品が載っています。
アサヒカメラや日本カメラのコンテストに通る人って、アマチュアとは思えないほど上手いんですよ。
特に上位の常連の人などは、セミプロレベルです。
もちろんカメラの紹介もあって、最新の物だけでなく、往年の名機や、隠れた名玉の紹介などもしてくれます。
ただし最近はあまり読んでいません。
フィルム時代のアサヒカメラは本当に面白かったんだけど、デジタルカメラが登場してから、少し内容が薄くなった気がします。
それでも読んでいたんですが、やはり昔の方が面白いです。
もっと写真に対して肉迫していて、すごく生々しい感じがして、読み応えがあったんですよ。
毎月購入するほど好きだったんですが、最近は目を通すことも少なくなってしまいました。
デジタルカメラはすごい早さで次の機種が出るから、雑誌もそれなりにページを割かないといけないんでしょう。
フィルムカメラの時代は、次の機種が出るまで、数年かかったりしていました。
だからカメラの紹介だけで、そこまでページが割かれることはなかったんですけどね。
それに一つの機種を長く紹介することで、掘り下げたカメラの分析が出来ることもあります。
写真にしろカメラにしろ、中身の濃い記事が載っていました。
でも多くの写真雑誌がある中で、やはりアサヒカメラと日本カメラは、他の雑誌よりも写真そのものを掘り下げていると思います。
写真は撮るのも楽しいし、自分の作品を見るのも楽しいです。
けどプロの作品を見たり、プロの意見や考えを読むのも、それと同じくらいに楽しいのです。
そして好きな写真家が出来たなら、ぜひその写真家の写真集を見るべきです。
写真集こそ写真家の集大成であり、一冊写真集を見るだけでも、うんと写真の奥深さを味わえますよ。
私は好きな写真家が出来る度に、貪るようにその人の写真集を見ていました。
風景でも人物でも動物でも、どんなジャンルのものでも見ました。
アサヒカメラと日本カメラは、より深く写真を楽しむには、とても良い雑誌です。
撮ったり見たりすることだけが写真の楽しみじゃないと、そう知ることの出来る雑誌でした。

ダナエの神話〜魔性の星〜 第九話 空想の牢獄(1)

  • 2015.04.29 Wednesday
  • 08:00
JUGEMテーマ:自作小説
ミカエルたちと別れたダナエは、箱舟を飛ばして月を目指していた。
「みんな・・・お願いだから無事でいてよ。」
ダフネとアメル、そしてケンのことを思い、胸に不安が広がっていく。
すると隣に立つスカアハが、「肩の力を抜くのだ」と言った。
「不安なのは分かる・・・。しかしあまり焦っていると、つまらぬミスで失態を犯すぞ・・・。」
「分かってる・・・。でも不安なの。ミカエルには偉そうに言ったけど、でも不安・・・・。もしみんなに何かあったらって・・・。」
「そうだな・・・。ケン殿とアメル殿は、ダナエの親。そしてダフネ殿もまた、家族のようなものであろう?」
「そうよ。だから心配なの・・・・。早く月へ行かないと!」
ダナエは舵を前に押し、船を加速させていく。
足元のペダルを踏めば一瞬で月へ行けるが、あの力は危険過ぎると思っていた。
「このペダル・・・もうちょっとスピードを調節出来ないのかな?あれじゃ一瞬で太陽系の外まで行っちゃうわ。」
この船にはまだまだ隠された秘密がある。
そう思ったダナエは「一回きちんと説明書を読まないとね」と呟いた。
スカアハは険しい顔で前を睨んでいて、ふとコスモリングに目をやった。
「新たな神々・・・・どの者も強い力を持っているな。」
「そうでしょ!みんなラシルで大活躍してくれたんだから。」
「空間を操るブブカに、死神族で二番目に強いアドネ、そして神殺しの神器が効かないニーズホッグ・・・・。皆強力な仲間だ。」
スカアハは安心していた。自分がいない間、ダナエは無事に旅をしていたのだと。
そしてこれだけの仲間を集められるということは、ダナエという妖精に大きな人望があるのだと。
「なかなかこれだけの仲間は集められるものではない。皆お前の魅力に惹かれたのだろうな・・・。」
「ううん、私がみんなを好きになったの。だから友達になってって言ったら、快く仲間になってくれたのよ。」
「そうか・・・・。やはりお前には、言葉で表せない魅力があるのだろうな。」
スカアハは一人頷き、ダナエのコスモリングに触れた。
「特にニーズホッグが仲間というのは心強い。こやつは神でも悪魔でもないゆえ、邪神の持つ神殺しの神器が効かぬ。それだけでも大きな戦力だ。」
そう言ってリングを撫でると、ダナエは「あ!」と叫んだ。
「どうした・・・?」
「スカアハの言葉で思い出した。私・・・・邪神から神殺しの神器を奪ったんだった。」
「そうか。やはりお前は大した奴・・・・・・・・って、なんとおおおおおおお!!」
スカアハは目を見開き、口を開けてのけ反った。
「あははは!スカアハがそんなリアクションするなんて珍しいね。クーならいつものことだけど。」
「な、な、な、な、な・・・・・・今なんと言った!?神殺しの神器を・・・・・う、う、う、う、う・・・・、」
「奪ったのよ、この槍でね。」
そう言ってコスモリングに触れると、銀色の粒子が舞い上がった。
それはダナエの手に集まり、瞬く間に銀の槍に変わった。
「そ、それは・・・・ジル・フィンの槍か・・・?」
「うん。これってね、敵の武器を吸収して、この槍の力に変えることが出来るの。ユグドラシルに教えてもらったんだ。」
「なんと!ユグドラシルにも会ったのか!?」
スカアハは開いた口が塞がらず、「ふふ・・・」と呆れたように笑った。
「まったく・・・・やはりお前はとんでもない奴だな。」
そう言ってから「神殺しの神器を奪ったのは、他の者たちも知っているのか?」と尋ねた。
「ええっと・・・・月に戻ってからは、誰にも言ってなかったわね。」
「ではラシルで共に旅をしていた者は知っているのだな?」
「う〜ん・・・・どうだろう?あの時はみんなピンチだったし、私は邪神と戦うのに必死だったし・・・・・よく覚えてないや。」
ダナエは肩を竦めて笑った。しかしスカアハは笑えない。ダナエの肩に手を置き「あのな・・・・、」と困った顔をした。
「神殺しの神器は、どんな神や悪魔でも倒せるのだ。」
「知ってるよ。」
「ならばそれを使えば、ベルゼブブも一瞬で倒せたのではないのか?」
そう言われたダナエは、ピタリと固まる。そしてすぐに「ああああああああああ!!」と叫んだ。
「そ・・・・そうだった!すっかり忘れてた!」
「・・・・・お前という奴は、凄いんだか凄くないんだか・・・・。」
スカアハは呆れたように首を振る。しかしすぐに笑顔になった。
「まあいい。それさえあれば、もはや悪魔の軍勢など恐るるに足らず。それどころか、邪神さえも恐れる必要はないわけだ。」
しかしダナエは「それは違うよ」と言った。
「違う?何が違うのだ?」
「だって全ての神器を奪ったわけじゃないからね。この槍で奪ったのは三つだけ。確か・・・・剣と弓矢と棍棒だったかな?」
「ならば残りは邪神が持っているわけか・・・・。」
「うん。奪った三つは、カプネが爆弾を仕掛けておいたの。」
「爆弾?」
「邪神の仲間になったフリをして、こっそりと仕掛けておいたのよ。それが爆発して、邪神の力が弱まったの。
この神器は持ってる者の魂と繋がるから、傷つけられたりしたら、自分まで怪我をするんだって。」
「ほう・・・・あのカエルもなかなかやるな・・・・。」
「カプネは頼りになる仲間だよ。」
「うむ。お前の言うことが本当なら、邪神はまだまだ恐ろしい敵ということだ。しかし悪魔の軍勢には勝てる。神殺しの神器さえあれば、もはや恐るるに・・・・、」
そう言いかけた時、ようやく月に近づいてきた。
二人は目を凝らし、じっと月を睨む。
「もう悪魔が来てるかな?」
「・・・・ここからではよく分からんな・・・。もっと近づくのだ。」
ダナエは慎重に船を進めていく。速度を落とし、息を飲んで月の様子を窺った。
すると月へと近づくにつれて、天使の群れが見えてきた。
そしてその群れの中に、大きな大きな氷柱が浮かんでいるのが見えた。
「あの氷柱は何・・・・?ここからでも大きな力を感じるけど・・・・。」
「ダナエ、慎重に近づけ・・・・。敵の攻撃かもしれぬ・・・・。」
船はさらに月へと近づく。すると大きな氷柱の中に、蠅の姿をした悪魔がいるのに気づいた。
「ああ!あれは・・・・、」
「ベルゼブブだな・・・・。しかしまったく動いていない。もしやあの氷柱に閉じ込められているのでは?」
ダナエは舵を切って氷柱に向かう。
そして天使の群れの中に入った時、遠くによく知る顔がいることに気づいた。
「サリエルだ!」
ダナエは船から駆け出し、サリエルに向かって手を振る。
「おお〜い!サリエ・・・・・、」
そう言いかけた時、「いやあ!」と叫んだ。
「どうした!?」
スカアハが慌てて飛び出して来る。すると彼女も「これは・・・・、」と震えた。
「これは・・・・何という残酷な・・・・・、」
二人が目にしたものは、おびただしい数の天使の骸だった。いや、天使だけではない。バラバラになった死神の骨も漂っている。
「ダナエ!目にしてはいけない!」
スカアハはダナエの目を塞ぎ、あまりに凄惨な光景に顔を歪めた。
「これはベルゼブブがやったのか・・・・・。」
宙を漂う肉片や骨、それらに目を向け、激しい怒りを感じた。
「おのれ悪魔め・・・・・好き放題を・・・・。」
スカアハの拳に、怒りで血管が浮かび上がる。すると近くにいた天使たちが、訝しそうな目で近づいて来た。
「お主は何者だ?その腕に抱いているのは・・・・・なんと!妖精の王女ではないか!」
天使たちはざわめき、「早くガブリエル様に報告を!」と飛んで行った。
するとしばらくしてから、ガブリエルとラファエルがこちらにやって来た。
「戻って来ましたね。」
ガブリエルはニコリと微笑み、ダナエの傍に下りた。
「ええっと、あなたは・・・・・、」
「ガブリエルです。そしてこちらはラファエル。」
「ごめんなさい、名前を忘れちゃって。」
「いいのですよ。それより・・・色々と大変だったそうですね。」
「そうなのよ!私のせいでいきなり箱舟が飛び出しちゃって・・・・、」
「知っています。」
「え?知ってる?どうして?」
そう尋ねると、ガブリエルは「ミカエルが知らせてくれました」と答えた。
「彼がこの髪に言葉を込めて飛ばしてくれたのですよ。」
そう言って指に摘まんだ髪の毛を見せた。するとダナエは「それなら話が早いわ!」と喜んだ。
「ダフネたちは戻って来てる?月に帰って来てるよね?」
期待を込めて尋ねると、ガブリエルは「いいえ」と首を振った。
「彼女たちはまだ戻って来ていません。」
「そんな!だってどこにもいないんだよ?だったら絶対に月に帰って来てるはずよ!」
ダナエは手を広げて叫ぶ。しかしガブリエルは首を振り、「残念ですが・・・」と呟いた。
「おそらくベルゼブブにやられてしまったのでしょう。そうでなければ、ここに戻って来ているはずです。」
「違う!ダフネたちは絶対にやられたりなんかしてない!」
「辛い気持ちは分かりますが、相手はあのベルゼブブなのです。見てごらんなさい、辺りに漂う天使の骸を。」
ガブリエルは天使たちの亡骸に手を向け、同胞の死を悼んだ。
「名のある神や天使は、時と共に復活します。しかしそれ以外の者たちは、死んだらそこで終わりなのです。
今日ここで散った天使たちは、そのほとんどが復活することはないでしょう。」
「・・・・・ならみんなは?ダフネやお父さんやお母さんは・・・復活出来るんでしょ?」
「いいえ、あの三人は無理です。」
「どうして!?」
「ダフネは神としては若すぎるし、ケンとアメルは妖精です。転生は可能だとしても、同じ人物には戻らないでしょう。」
「そんな・・・・そんなのって・・・・・、」
ダナエは目を瞑り、唇を噛んで震えた。スカアハはそっと肩に手を起き、無言の視線で慰めた。
「みんな・・・みんな死んじゃったなんて・・・・そんなの酷いよ・・・。」
青い瞳から涙がこぼれ、周りを漂う天使や死神の骸を睨む。
「あの蠅が・・・・・アイツがこんなことをしたのね!ダフネやお父さん、それにお母さんまで・・・・・絶対に許さない!!」
ダナエは船の先に立ち、銀の槍を構えた。
「私が・・・・私がみんなの仇を討ってやる!邪神から奪ったこの武器で、アイツをボッコボコにして消し去ってやるわ!」
そう言って船から飛び立ち、銀の槍を回した。
すると槍が七色に輝き出し、その周りに三つの武器が浮かんだ。
それは黒く血塗られた剣、弓矢、そして棍棒だった。
「な・・・・なんと!あれは神殺しの神器!!」
ガブリエルは目を見開いて驚く。ラファエルも「どういうことだ!?」と叫んだ。
するとスカアハが「ダナエが邪神から奪ったのだ」と答えた。
「あの槍は他の武器を吸い取る力があるそうだ。カプネというカエルがあの神器に爆弾を仕掛け、邪神の力が弱った所で奪い取ったそうだ。」
「そう・・・なのですか・・・・。なんともまあ・・・・常識外れな・・・・。」
ガブリエルは呆れていた。全ての神と悪魔が恐れる神器を、たった一人の妖精が奪ったことに。
「神器は・・・・全てあの妖精が?」
「いや、奪ったのはあの三つだけだ。残りはまだ邪神が持っている。」
「・・・・ならばまだまだ邪神は警戒すべき相手です。しかし・・・・これは実に良い!三つもあの神器があれば、悪魔の軍勢など恐るるに足らず!サタンやルシファーでさえ、簡単に討ち取ることが出来る。」
「うむ、私も同感だ。これで楽に地球を取り戻すことが出来るであろう・・・・。」
ガブリエルとスカアハは、余裕の笑みで言う。
神殺しの神器さえあれば、いくらベルゼブブが強かろうと問題ない。悪魔である以上は、神器で簡単に倒せるのだから。
ダナエは槍の周りに三つの神器を纏わせ、そのままベルゼブブに突っ込んでいく。
「みんなの仇だ!とおりゃああああああああ!!」
七色の光が溢れだし、ダナエを包む。そしてベルゼブブを封じ込めた氷柱に直撃した。
眩い光が放たれ、神殺しの神器が氷柱を砕いていく。
そしてベルゼブブ目がけて、グルグルと回りながら飛んでいった。
その瞬間、誰もが息を飲んだ。これでベルゼブブを討ったと。
しかし・・・・神殺しの神器はベルゼブブを殺せなかった。
蠅の魔王の硬い表皮にぶつかり、ボトリと落ちてしまったのだ。
「???????」
ダナエは首を傾げる。周りで見ていた者たちも、思わず首を捻っていた。
「・・・・・なんで?」
ダナエはまた首を傾げる。
「これはどんな悪魔でも倒せるんでしょ?なのにどうして・・・・、」
そう思った時、ピンと閃くものがあった。
「そっか!この氷柱を砕いたから、力が落ちちゃったのね。ならもう一度。」
気合いを入れ直し、再び神器を操る。しかし結果は同じ。どの神器もベルゼブブには効かなかった。
「これは・・・・どういうこと?」
ダナエは後ろを振り返り、「倒せないよ!」と叫んだ。
「これってどんな悪魔でも倒せるんでしょ?でも全然効いてな・・・・・、」
そう言いかけた時、スカアハが「危ない!」と叫んだ。
ダナエは「ほえ?」と目を丸くする。そして背後に恐ろしい気配を感じて飛びのいた。
「・・・・妖精よ、よくぞこの氷柱を壊してくれた。礼を言うぞ。」
「あ・・・ああ・・・・・。」
氷柱の一部を砕いてしまったが為に、ベルゼブブが復活してしまった。
蠅の魔王は「ぬうううう!」と唸り、両手に熱球を溜めた。
「ダナエ!早く離れるのだ!」
スカアハは咄嗟に飛びだす。ガブリエルは「なりません!」と止めようとしたが、その手をすり抜けて「ダナエええええ!」と駆けて行った。
「貴様のような間抜けのおかげで、窮地を脱することが出来た。勝利の鍵は心強い味方ではなく、間抜けな敵にありということだな。」
ベルゼブブはダナエに向けて熱球を放つ。そこへスカアハが駆けて来て、ダナエを守るように抱きかかえた。
「くッ!」
ガブリエルとラファエルは弾かれたように飛び出し、二人を守ろうとする。
だがもう間に合わない。ベルゼブブの手から放たれた熱球は、灼熱の閃光を炸裂させて二人を飲み込もうとした。
魔王の業火が、二人の命を奪った。月の王女とケルトの女神、二人の命をこの世から消し去った・・・・・はずだった。
はずだったが、二人は死んでいなかった。なぜなら彼女たちの目の前に、青い翼を持つ天使が立ちはだかっていたからだ。
「お・・・・お主は・・・・サンダルフォン!」
スカアハは叫んでいた。するとサンダルフォンも、「スカアハ・・・」と笑った。
「君は死なせない・・・・。地球で黙示録の魔獣と戦った時は守れなかったけど、でも今度は・・・・・・守ってみせる!!」
サンダルフォンは背筋を伸ばし、両手腕を広げて十字架のポーズを取る。
青い翼から光が溢れ、十字架の結界が出来て熱球を遮った。
「サンダルフォン・・・・・メタトロンの弟か・・・・。」
「ベルゼブブ・・・・・僕の友達は殺させないぞ・・・・・。うううりゃあああああああ!!」
サンダルフォンの目が青く光る。十字架の結界は力を増し、遂には熱球を掻き消した。
「ぐおおおおおお!!おのれ!!これしきでええええ!!」
ベルゼブブは羽を動かし、無数のハエを放つ。しかし援軍に駆け付けたガブリエルとラファエルが、それぞれの手から水と風を放ってハエを消し飛ばした。
「ベルゼブブ!もはやお前に勝ち目はありません!」
「そうさ!僕とガブリエル、それにサンダルフォン殿を相手にしては、いかにお前でも分が悪い!」
「ぐうううう・・・・・舐めるなよおおおおおお!!」
怒り狂ったベルゼブブは、大きな目を赤く光らせた。
そして六本の足を広げ、体中からハエを放ってきた。
そのハエは天使たちの足元に集まり、やがて大きな髑髏の顔になった。
「全員空想の牢獄へ送ってやる!我が死の呪いに飲み込まれるがいい!」
そう言って指を鳴らすと、足元に浮かんだ髑髏が天使たちを飲み込もうとした。
「なんのこれしきいいいい!!」
サンダルフォンはさらに力を込め、結界の力が増す。
ガブリエルとラファエルも武器を構え、髑髏に目がけて攻撃した。
ガブリエルの杖からはクリスタルのように輝く水が、ラファエルの弓矢からはエメラルドのように透き通った風が、それぞれの力が混ざり合い、幾つもの雪の結晶が降り注いだ。
しかし・・・・ベルゼブブの力には勝てなかった。髑髏は天使たちの力を食い破り、そのまま押し寄せて来る。
「いけない!」
このままでは飲み込まれると思ったサンダルフォンは、スカアハとダナエを掴んで放り投げた。
「サンダルフォン!!」
スカアハは手を伸ばして叫ぶ。二人は宙に投げ出され、そのままベルゼブブから遠ざかっていった。
「スカアハ・・・・君は僕の数少ない友達さ。だから・・・・守れてよかった。」
サンダルフォンはニコリと笑う。しかしガブリエルは「まだです!」と叫び、サンダルフォンを掴んで舞い上がった。
「ここで死ぬわけにはいきません!まだ地球には強大な悪魔が残って・・・・、」
そう言いかけた時、後ろから首根っこを掴まれた。
「ああ!」
「ガブリエル!」
「逃がすと思うたか?」
ベルゼブブはニヤリと笑い、サンダルフォンに巨大な爪を振り下ろした。
「ぐあああああ!!」
「サンダルフォン殿!」
ラファエルが慌てて助けに入るが、そこへまたベルゼブブの熱球が襲いかかってきた。
「風よ!宇宙を駆ける神なる風よ!僕たちを守ってく・・・・・、うああああああああ!!」
ラファエルは咄嗟に風の盾を張ったが、熱球は止まらなかった。
強烈な光を放ちながら、サンダルフォンとラファエルを吹き飛ばす。
そしてその下には蠅で出来た髑髏が待ち受けていて、その口で二人の天使に噛みついた。
「ぬううああああああ!!」
「うああああああああ!!」
「ラファエル!サンダルフォン殿!おのれベルゼブブめ・・・。」
ガブリエルは杖から水を放ち、大きな天使を形作った。それはクリスタルの彫像のように輝き、ガブリエルによく似た形をしていた。
「我が最終奥義!熾天使の光翼!!」
水で出来たクリスタルの天使から、陽が反射した水面のように光が溢れ出す。
そして翼を広げ、その中に煌めく光を集めた。
羽の一枚一枚から超低温のレーザーが放たれ、ベルゼブブを撃ち抜く。
どんなモノでもたちどころに凍らせるレーザーが、ベルゼブブに集中砲火を浴びせる。
「このまま凍り、砕け散れ!」
ガブリエルは杖を掲げ、さらに激しくレーザーを放つ。
「うぬうう・・・・この程度・・・・小癪!」
無数のレーザーに貫かれ、ベルゼブブは白い煙を上げながら凍っていく。
しかし蠅の群れを呼びだし、またしても死の髑髏を生み出した。
「死を運ぶ悪魔の力・・・この程度では潰えぬ!蠅の集りし髑髏に飲み込まれるがいい!!」
そう言って指を鳴らすと、髑髏は瞬く間にクリスタルの天使を飲み込んでしまった。
最終奥義があっさりと破られ、ガブリエルな「そんな・・・・、」と絶望する。
「これで貴様に撃つ手はない!苦痛の狭間で、二度と出られぬ牢獄に落ちるがいい!!」
ベルゼブブはガブリエルの首根っこを掴んだまま、巨大な爪を何度も振り下ろす。
「ああああああああ!!」
ガブリエルは絶叫し、黄色い鎧と服が引き裂かれていく。
白い肌から鮮血が飛び散り、長い髪を揺らしてのけ反った。
「おのれ!やめろベルゼブブ!」
ラファエルは怒りの形相で叫ぶ。しかし髑髏の口に噛みつかれ、「うおおおおお!」と叫びを上げた。
「くそ・・・・・こんな・・・・こんな所でやられてたまるか!」
サンダルフォンは両腕を広げ、再び十字架の光を放った。
しかしアッサリと髑髏の口に吸い込まれ、光は消え去っていく。そして身体がメキメキと音を立てるほど噛みつかれた。
「うわあああああああ!」
「ふふふ・・・・ミカエル、そしてメタトロンのいない貴様らなど恐るるに足らんわ!まあ今さら呼んだところで、もう遅いがな。」
月の中には、ダフネたちを人質に取ったヘカーテがいる。それさえあれば勝機は揺るがない。
ベルゼブブはほくそ笑み、さらにガブリエルを痛めつけた。
巨大な爪と無数の蠅、そして鋭い尻尾の針が襲いかかって来る。
「あああはあああああああ!!」
鎧と服が引き裂かれ、ボロ布のように僅かに身体から垂れている。
裸体のほとんどが露わになり、そこへ容赦なくベルゼブブの爪が襲いかかって来る。
もはや抗う力は残されていないが、それでも激痛が気絶することを許さない。
何度も何度ものけ反り、苦痛の悲鳴を上げる。
容赦ない攻撃で翼はむしられ、痛みの中でただただ悶えていた。
「おのれえええええええ!!これ以上の暴挙、わが命に代えても許さん!!」
ラファエルの怒りは限界を超え、髑髏の口をこじ開ける。
そして翼を広げて飛び上がり、自分自身がエメラルドの風になって突進していった。
「ふん・・・捨て身技か。」
ベルゼブブはクルリと身体の向きを変え、ガブリエルを盾にした。
「ぐッ・・・・。」
ラファエルの動きが一瞬鈍る。そこへまたもや髑髏が噛みついた。
「うおおおおおお!!」
「ラファエルうううううう!!」
ガブリエルは苦悶の表情で手を伸ばす。しかし爪で背中を抉られ、またもや悲鳴を上げた。
「ああああああああ!!」
それを見たサンダルフォンは、自分の中で何かが切れるのを感じた。
すると身体から力が溢れ、青い翼が炎のように燃え上がった。
「こ・・・・こんな・・・・なんて酷い・・・・・なんて酷いことするんだああああああ!!」
最強の天使の弟は、本気で怒っていた。青い炎は全身を包み、噛みついていた髑髏を一瞬で消し飛ばした。
「むうう・・・・なんという力・・・・。メタトロンの弟・・・侮れぬ・・・・。」
危険を感じたベルゼブブは、ガブリエルを盾にして後すさる。
「貴様も捨て身技を撃つ気だな?ならばこの天使を盾にするまでよ!」
「お前はあ・・・・・どこまでも卑怯な・・・・・。」
サンダルフォンは気を失ったラファエルを抱え上げ、じっとベルゼブブを睨む。
このままでは本当にガブリエルが危ない。しかし下手に手を出せば、それこそ彼女を危険に晒してしまう。
いったいどうしたらいいのかと焦った時、ふと大きな力を感じた。
「な・・・なんだ?この巨大なエネルギーは?もしかして兄ちゃんか?」
キョロキョロと辺りを見渡していると、その巨大なエネルギーの正体に気づいた。
「あれは・・・・戦の箱舟!」
ダナエの駆る戦の箱舟に、大きなエネルギーが集まっていた。
三つの大砲がベルゼブブに狙いを定め、その砲身に虹色の粒子を溜めていた。
「撃つ気か!?でもそんなことしたらガブリエルにも当た・・・・・、」
そう言いかけた時、大砲から大きな音が響いた。
そして一瞬遅れて、ベルゼブブが「ぐうおええええええええ!!」と叫んだ。
蠅の魔王は大砲の直撃を受け、顔の半分が吹き飛んでいた。
羽はボロボロに穴が開き、六本ある足の半分が千切れた。
口からは緑の液体をまき散らし、硬い表皮はヒビだらけになっていた。
足が千切れたおかげで、捕まっていたガブリエルが投げ出される。
サンダルフォンは咄嗟に飛びだし、彼女を抱きかかえた。
「ガブリエル!しっかりするんだ!」
「・・・・・・・・・。」
ガブリエルは薄く目を開け、ぐったりと手足を投げ出している。
それはラファエルも同じで、二人ともサンダルフォンの手の中で意識を失っていた。
「ああ・・ああああ・・・・こおおおのおおおおお!!」
サンダルフォンは二人を抱きしめ、我が身の力を与えていく。
傷ついた二人は目を覚まし、「ああ・・・」と呟いた。
「暖かな光・・・・。」
「これは・・・命の炎か・・・・・。」
二人の天使はサンダルフォンの炎を吸収し、次第に力を取り戻していく。
そして傷が癒えて復活すると、その腕の中から飛び上がった。
「・・・・許さない・・・・よくもこの私にあのような仕打ちを・・・・。」
ガブリエルは怒りに燃えていた。水を身体に纏わせ、瞬く間に服と鎧を再生させる。
ラファエルも怒っていた。優しい顔はなりを潜め、今や悪魔を討つ勇敢な戦士の顔になっていた。
そしてサンダルフォンはまだ燃えている。命のパワーが漲る青い炎が、まるで天を突く塔のように燃え上がっていた。
「な・・・なんださっきの衝撃は!?この儂が一撃でこんな・・・・・。」
ベルゼブブは戦の箱舟を睨み、「アレのせいか・・・・」と唸った。
「許さぬ!たかが妖精の駆るオモチャが、この儂に傷を与えるなど・・・・・断じて許さんぞおおおおお!!」
怒りに駆られたベルゼブブは、「おおおおおおお!!」と絶叫しながら箱舟に飛びかかる。
しかし彼はミスを犯していた。頭に血が昇ったせいで、箱舟の正面から飛びかかって行ったのだ。
三つの大砲は再び虹色の粒子を集め、凄まじい衝撃波を放つ。
その直撃を受けたベルゼブブは、「ごげえええあッ!」と吹き飛ばされた。
「やった!また当たった!!」
ダナエはガッツポーズを取って喜ぶ。そして三発目を撃とうとした時、目まいがして倒れた。
「あ・・・・あれ?身体が・・・・、」
スカアハはダナエを抱きとめ、「あれを三発も撃つのは無茶だ・・・」と言った。
「見よ、この説明書を。箱舟のエネルギーは、全て宇宙を漂う精霊の力を借りて行うと書いてある。
そして精霊の力を借りるには、操縦者の魔力が必要とある。お前は魔力を使い過ぎたのだ。」
「じゃ、じゃあ・・・・もう撃てないの?」
「うむ。これ以上は無理だ。しかしまあ・・・・もう撃つ必要はなさそうだがな。」
そう言ってスカアハは外に目を向けた。
そこには大砲の直撃を食らったベルゼブブが、苦しそうに叫んでいた。
「おおおおおお・・・おお・・があああああああ!!」
ベルゼブブの身体は、その半分が吹き飛んでいた。
足は全てもげてしまい、羽も無くなっている。
目も片方が潰れ、残った身体さえもボロボロだった。
「こ・・・・これ・・・・これしき・・・・小癪なり!」
ベルゼブブは最後の力を振り絞り、辺りを埋め尽くすほどの蠅を放った。
「このままオメオメとは帰れぬ・・・。せめて・・・・貴様らを道連れに・・・・・。」
解き放たれた蠅は、巨大な髑髏となって叫び声を響かせる。
それを聞いたダナエは、「うわあああああ!」と耳を塞いだ。
「怖い!この声怖いよおおおおお!!」
「ダナエ!この声を聞くな!これはベルゼブブが命と引き換えに放つ、最後の呪い・・・・・ああああああ!!」
ベルゼブブは死の断末魔を上げる。それは地獄から漏れる亡者の叫びのようで、聞くだけで頭がおかしくなりそうだった。
「みんな!今こそトドメだ!」
サンダルフォンは叫び、青い炎の翼をはばたく。
ガブリエルとラファエルも彼に続いた。
「サンダルフォン殿!私の力を!」
ガブリエルは再びクリスタルの天使を生み出し、翼からレーザーを放った。
「僕の分も頼むよ!そおれ!」
ラファエルは翼を弓矢に変え、サンダルフォンに向けて放つ。
深い緑の風が、サンダルフォンを守るように包んだ。
そしてガブリエルのレーザーがその風に吸い込まれ、二人の天使の力がサンダルフォンに融合する。
「これで最後だあああああ!!」
サンダルフォンは拳を突き出し、ベルゼブブに向かって突っ込んだ。
三人の天使の力が弾け、青い炎の竜巻が立ち昇る。
「ぬううえええあああああああ!!」
ベルゼブブはその竜巻に飲み込まれ、蠅と共に焼かれていく。
「おお・・・る・・・ルシファー様・・・・・儂は・・・・これにて・・・・、」
蠅の魔王は天を仰ぎ、青い炎に巻かれて消えていく。
最後に「ぎゃああおおおおおおおお!!」と悲鳴を轟かせ、黒い閃光を放って死んでいった。
「やった!遂に倒したよ!!」
サンダルフォンは拳を握って喜び、ガブリエルとラファエルも顔を見合わせて頷いた。
「すごい・・・・あの強い悪魔をやっつけちゃった・・・・。」
ダナエは船の前に立ち、「やったね!」と手を振った。
「力を合わせれば、あんなに強い悪魔でも倒せるんだわ!ねえスカアハ!」
「うむ・・・。神殺しの神器が効かぬ時は、どうしたものかとヒヤヒヤしたが・・・・我らの勝利だ!」
スカアハはサンダルフォンに向かって微笑みかける。
「みんな無事でよかった・・・。僕だって・・・やれば出来るんだ。」
気弱なサンダルフォンは、ベルゼブブを倒したことが嬉しかった。
そして何より、スカアハという大切な友を守ることが出来て、心の底からホッとしていた。
するとそこへメタトロンが飛んできて、「悪魔はどこだ!?」と叫んだ。
「兄ちゃん!やった、僕やったよ!みんなと一緒にベルゼブブを倒し・・・・、」
そう言いかけた時、メタトロンは「そこか!」と叫んだ。
そして箱舟の後ろに向かって、「リュケイオン光弾!」と必殺技を放った。
螺旋状の光が飛んで行き、一匹の悪魔が粉砕される。
「うぎゃあああああ!せっかくここまで来たのにいいいいいい・・・・・。」
そう叫んで消えていったのはパズスだった。
こっそりと月を奇襲しようと思ったのに、あっさりと見つかって葬られる。
憐れな魔王は塵に還り、月に襲いかかってきた悪魔たちは全て倒された。
「この戦い、我らの勝利なり!!」
メタトロンは高々と拳を上げる。
天使たちから歓声が湧き、誰もが月の無事を喜んでいた。

山の麓

  • 2015.04.29 Wednesday
  • 07:49
JUGEMテーマ:自然風景


山の麓には、キャンプ場があったり棚田があったりします。
水も空気も綺麗です。








滝へ続く階段に、ヤマメの水槽がありました。
ヤマメは水の綺麗な川にしかいません。
清流にいる魚って、どれも綺麗な模様をしていますよ。








ここは山の麓の棚田です。
ポツポツと花が咲いていて、雨のせいで緑の匂いが漂っていました。





ボロくなった納屋が、里山らしさを感じさせます。




高い場所から棚田を見下ろすと、段々に広がっていく田んぼには、迫力があります。




大きな川ですが、ここも綺麗な水です。
夏には水遊びを楽しむ人たちが大勢やってきます。





山の麓に行くと、少し違う世界に来たように感じます。
空気が違うというか、落ち着く場所です。
特に夏は素晴らしく、雪の降る冬もなかなか綺麗です。
山の麓は、ただそこに行くだけで、気持ちよくなれる場所です。


 

映画「羊たちの沈黙」

  • 2015.04.29 Wednesday
  • 07:00
JUGEMテーマ:映画
映画「羊たちの沈黙」を観ました。
これはサイコサスペンスの名作で、下手なホラーよりずっと怖いです。
主人公はクラリスという、若きFBI捜査官。まだ実習生で、実戦に出た経験はありません。
ある日クラリスは、上司からある囚人に会って来いと言われます。
その囚人の名は、ハンニバル・レクター。
元天才精神科医で、人を殺して食べた罪で、牢に閉じ込められています。
レクターはとにかく危険な男で、多くの囚人の中でも、最も危険な囚人として、特別な部屋に閉じ込められています。
クラリスはレクターに会い、ある連続殺人事件の協力を要請しました。
レクターはそんな事件よりも、クラリスに興味津々。
なぜならクラリスは実習生にも関わらず、とても聡明で、しかも優秀だからです。
レクターは才能のある若者が好きで、後に制作された「レッド・ドラゴン」でも、若く優秀な捜査官に入れ込んでいました。
レクターは捜査に協力する代わりに、クラリスのプライベートを聞き出します。
クラリスは自分の事を語り、その見返りとして、レクターからアドバイスをもらいました。
そのおかげで、捜査は少しずつ進展していきます。
しかし最後の最後で、レクターはでたらめなアドバイスをして、しかも牢獄を抜け出してしまいました。
その際には看守を殺害し、腹を切り裂いて磔にしました。
レクターはどこかへ消え、クラリスは困り果てました。
彼がいなくては、連続殺人犯を見つけられないからです。
しかしレクターは、最後に一つだけ助言を残していきました。
今までの資料をよく見れば、犯人は見つけられると言ったのです。
クラリスは同僚からの助言も得て、どうにか犯人の自宅を見つけました。
そこには一人の少女が捕えらえていて、早く助けないと、いつ殺されるか分かりません。
クラリスは単身犯人の家に乗り込み、銃を突きつけます。
しかし自分が殺されそうになり、犯人との一騎打ちの末、どうにか射殺しました。
無事少女を助け出し、連続殺人事件は幕を閉じたのです。
そして上司と共にパーティーに出席していると、突然クラリス宛に電話がかかってきました。
電話の主はレクター博士で、これから自分を馬鹿にし続けた、監獄に勤務する精神科の博士を殺すことを示唆しました。
クラリスはレクターの居場所を尋ねますが、教えてくれません。
そして電話を切ったレクターは、憎き監獄の精神科医を殺す為に、街中の雑踏に消えていくのでした。
この映画が初めて登場した時、かなり衝撃的だったようです。
それまでサイコサスペンスなどという映画はなく、しかもアンソニー・ホプキンス演じるレクターが、本当に恐ろしい殺人鬼に見えたからです。
今見るとそこまで怖くないのですが、当時はかなり話題になり、大きな賞をたくさん獲ったそうです。
この映画は、物語そのものはシンプルです。
頭のおかしくなった人間が、猟奇的な殺人を犯すという話です。
そしてそれを捕まえる為に、若き美人捜査官と、天才精神科医の囚人が追い詰めるという設定です。
しかしクラリスとレクターの掛け合いは、とても見応えがあり、クラリス演じるジョディ・フォスターの演技も素晴らしいです。
若くて聡明な美人捜査官。年老いた元天才精神科医。
この二人の対比が、映画を盛り立てています。
これに続くシリーズとして、「ハンニバル」と「レッド・ドラゴン」があります。
「レッド・ドラゴン」は、時系列で言うと「羊たちの沈黙」より前の話になります。
クラリスが出会う前の話なのに、レクター博士が歳老いちゃって・・・。まあこればっかりは仕方ないですけどね。
「羊たちの沈黙」は、人間そのものの恐怖を描いた映画です。
連続殺人事件よりも、レクター博士の方がよほど恐ろしい・・・・。
そう思わせるくらいに、ハンニバル・レクターというキャラクターの個性が際立っていました。
怖くてドキドキしながらも、その背徳的な世界観に惹き込まれる、見応えのある映画でした。

ダナエの神話〜魔性の星〜 第八話 月と地球の攻防(8)

  • 2015.04.28 Tuesday
  • 12:37
JUGEMテーマ:自作小説
ラファエルから命を受けた数名の天使は、月の中へ来ていた。
しかし月の中には予想もしない光景が広がっていて、息を飲んで固まっていた。
「これは・・・・なんということだ・・・・。」
月の中に広がる妖精の国が、まるで真っ赤な絨毯のように色を変えていた。
その原因は、天使たちの死体のせいであった。
守りについていた大勢の天使が、無惨にも引き裂かれ、血を流して大地を赤く染めていたのだ。
「な・・・・なぜこのようなことに・・・・。」
赤く染まる大地を睨みながら、天使の一人が震える。
そして何かに気づいて、「あれは・・・・」と呟いた。
「城が・・・・妖精の城が破壊されている!」
遠くに見える妖精の城が、無惨にも破壊されていた。
城の上半分が抉り取られ、周りに瓦礫が散乱している。
天使たちは「何があったのだ・・・」と呟き、じっと城を見つめていた。
すると眼下に広がる森から、小さな妖精たちが姿を現した。
「あ・・・・あの・・・・、」
妖精の一人が天使に声を掛けてきた。それは腕に子供を抱いた、女の妖精だった。
天使たちは妖精の傍に舞い降り、「何があったのだ!?」と尋ねた。
「我が同胞は殺され、城は破壊されている。これではまるで戦場のようだ。いったい何があった?」
そう尋ねると、妖精は子供を抱きしめながら首を振った。
「大きな悪魔が攻めて来たんです・・・・。」
「悪魔が?そんな馬鹿な!?入り口はしっかりと守っていたはずだぞ!」
「いえ・・・その・・・・、」
妖精は口ごもり、辛そうに俯いた。
「黙っていては分からん。はっきりと答えろ。」
「・・・・人質を・・・・取っていたんです。」
「人質?」
「はい・・・。ここに攻めて来た悪魔たちは、人質を取っていました。それを盾にして、見張りの天使を黙らせ・・・・そして殺したんです。」
「ということは、見張りの者たちは、悪魔の言いなりになって援軍を呼べなかったということか?」
「そうだと思います・・・。」
それを聞いた天使は考えた。
外では激しい戦いが繰り広げられ、皆ベルゼブブを相手に必死に戦っていた。
きっとその隙を突いて、中へ侵入したのだろうと。
「それで・・・・その人質というのは誰なのだ?」
「ダフネとアメル・・・それにケンです。」
「な・・・なんと!あの三人がか!」
天使たちはどよめき、顔を見合わせて息を飲んだ。
「なぜだ!どうしてあの三人が人質に!?」
「分かりません。でも氷柱を纏った悪魔の中に閉じ込められていたんです。」
「氷柱の・・・・?いったいどんな奴だ?」
「女でした。なんだかとても冷たい表情をしていて、目を合わせるのも怖いほどの・・・・。」
「攻めて来たのはそいつだけか?」
「いえ、他にもいました。大きな一つ目をした悪魔に、猫と犬と馬の顔をした、魔女みたいな奴です。」
それを聞いた天使たちは、すぐにピンと来るものがあった。
「おそらく・・・バロールとヘカーテだな。そして氷柱の悪魔というのは、ヘルの可能性が高い。どいつも恐ろしい力を持つ悪魔だぞ。」
「ええ・・・・。一つ目の悪魔は、天使を石に変えていました。」
「ならばやはりバロールだな。」
「他の悪魔もとても強くて・・・・・みんなこんな事に・・・・、」
妖精は喉を詰まらせ、周りに転がる天使の死体を見渡した。辛そうに顔を歪め、傍にいた夫らしき妖精が肩を抱いた。
「本当に酷い光景でした・・・・。あれは戦いなんかじゃなくて、一方的な虐殺だった・・・・。」
「まあ・・・そうだろうな。相手は主神級の魔王たちだ。中を守っていた天使では歯が立つまい。それで・・・・その悪魔たちはどうした?」
「妖精の城へ向かいました。そして城を破壊して中へ・・・・・。」
「なるほど・・・・。」
それを聞いた天使は再び考えた。
あの城にはメタトロンがいて、悪魔が攻めて来たなら戦わないはずがない。
しかし月の統治者を人質に取られているせいで、おそらく手出しが出来なかったのだろうと。
天使たちは険しい表情を見せ、「どうする?」と尋ね合った。
「メタトロン様なしでは、ベルゼブブは討ち取れないぞ。」
「しかしこの状況では動くことは出来まい?」
「ならば外の者たちは見殺しか?人質の命は守るクセに、同胞は死んでもいいというのか?」
天使たちはガヤガヤと騒ぎ始め、引きつった顔で困り果てていた。
すると妖精は、「お願いです!」と叫んだ。
「お願いだから、月を守って下さい!ここにいる妖精たちは、かつて地球に住んでいた人間なんです!でもダーナの神話のせいで・・・・・みんな酷い目に遭って・・・・、」
妖精は泣き出した。子供を抱きしめ、夫に背中を撫でられながら泣いていた。
それを聞いた天使たちは、「ダーナの神話のことだな?」と尋ねた。
「まだダフネがダーナと名乗っていた頃、地球で暴れて多くの命が死んだ。それが妖精となり、ここへやって来た。」
「・・・・そうです・・・。だから・・・だからもう二度とあんな思いはしたくない!せっかく家族も出来て・・・・ここで平和に暮らしていたのに・・・・もうあんな酷いことだけは・・・・、」
妖精は泣き崩れ、仲間の妖精から慰められていた。
天使たちは険しい表情のまま、「何とかしよう・・・」と答えた。
「とりあえず、この事はガブリエル様に報告せねば。このような事態は誰も想定していなかった。我々ではどうにも判断が出来ない・・・。」
そう言って宙に舞い上がり、「森の中に身を隠していろ」と忠告した。
「またいつ悪魔が戻って来るやも分からん。我々が戻って来るまでは、決して外に出な・・・・・・、」
そう言いかけた時、妖精たちが「うわああああああ!!」と叫んだ。
天使たちは何事かと思い、ふと後ろを振り向いた・・・・・・その瞬間だった。
巨大な拳が振り下ろされ、一人の天使が潰されてしまった。
「天使の気配を感じて来てみれば・・・・・まだ生き残りがいたか・・・・。」
「ば・・・・バロール!!」
そこにいたのは、大きな一つ目を持つバロールだった。
天使たちは咄嗟に武器を構える。しかし正面から目を合わせてしまい、ビキビキと石に変わってしまった。
そしてゴトリと地面に落ちると、バロールの大きな足で踏みつけられてしまった。
「あ・・・ああ・・・・・・。」
妖精たちは恐れをなして後ずさる。バロールが足をどけた跡には、粉々に砕かれた天使たちがいた。
「ここにいた天使は全て殺したはずだ。ということは・・・・コイツらは外から入って来たということだな。」
バロールは一歩前に進み、ジロリと睨んだ。
妖精たちはすぐに視線を逸らし、森の中へと逃げて行く。
しかし子供を抱いた妖精は、腰を抜かしてへたり込んでしまった。
「何してる!早く逃げるぞ!」
仲間が腕を掴み、森の中へと逃げていく。するとバロールは森を破壊しながら追いかけてきた。
「あの天使は貴様らが呼んだのだろう!」
「ち・・・・違う!私たちは何もしてないわ!」
「いいから飛べ!追いつかれるぞ!」
妖精たちは羽を動かし、森の中に散らばっていく。
その動きは早く、瞬く間に姿が見えなくなってしまった。
「逃げ足だけは速い奴らめ・・・・。妖精とはまさに羽虫だな。仕留めるだけ時間の無駄か・・・・。」
バロールは踵を返し、そのまま城に戻っていく。
子供を抱いた妖精は、ブルブルと震えながら森の中に隠れていた。
「幸也・・・・何とかして・・・・何とかしてよ・・・・。」
我が子を抱きしめながら、祈るように目を閉じていた。


            *


城へ戻ったバロールは、床が破壊されて剥き出しになった地下室に下りた。
そこにはヘカーテとヘルがいて、「天使は仕留めたの?」とヘカーテが尋ねた。
「ああ。どうやら外から入って来たらしい。おそらく妖精が呼んだのだろう・・・・・。」
「虫の分際で余計なことを・・・。まあいい。外の連中はベルゼブブ様に任せておけばいいわ。どうせこの月は私たちのモノ。あとはユグドラシルの在り処を聞き出せばいいだけ。」
そう言って長い鞭を振り、床に刺さった氷柱を叩いた。
「さて・・・・この中には憐れな子羊たちがいる。月の支配者を気どる、無力で無知な者たちが。私たちにとってはどうでもいい存在だけど、お前たちにとってはそうではないだろう?」
そう言ってもう一度鞭を振り、氷柱を叩きつけた。
その衝撃が中まで伝わり、囚われた三人が悲鳴を上げる。
「やめろ!」
幸也は叫び、氷柱に向かって走り出す。しかし博臣に「ダメだよ!」と止められた。
「おじさん落ち着いて。」
「これが落ち着いてられるか!兄ちゃんらが囚われとんや!早よ助けんと!」
「気持ちは分かる。でも下手に動いたら、本当に人質を殺される。」
「・・・・なら・・・君がメタトロンに変身せえ!それなら助けられるやろ!」
「だからあ・・・何度も言ってるだろ!そんなことした途端に、人質を殺されちゃうよ!」
博臣は必死に幸也を宥め、「とにかく今は落ち着いて」と言った。
するとそれを見ていたミヅキが、「ホントにバカな親父・・・」と呟いた。
「バカ?何がバカやねん!囚われてるのは俺の兄ちゃんや!お前の伯父さんでもあるんやぞ?」
「あのね、人質は三人もいるんだよ?こっちが下手なことしたら、見せしめに一人くらい殺すかもしれないって考えないの?」
「ガキのクセに冷静な意見を返しよってからに・・・・、」
「私はガキだけど、頭はアンタより大人よ。神話に浸ってる馬鹿オヤジは、いつまで経っても子供だけど。」
そう言ってプイっとそっぽを向き、不機嫌そうに顔をしかめた。
「おじさん、今は親子喧嘩してる場合じゃないよ。」
「そら分かってるけど・・・・・。でも身内が人質に取られてるんや。冷静になれるわけがないやろ。」
幸也は辛そうに眉を寄せ、ガリガリと頭を掻いた。
「さて、何度も同じ質問をさせてもらうけど、この星のユグドラシルはどこにあるの?それさえ教えれば、人質を解放してもいいわよ?」
ヘカーテは鞭を振り、床を叩いて威圧する。
「もうこの星は落ちたも同然。お前たちを殺した後で、ゆっくりと探してもいいの。」
「ならそうしたらええやろ。」
「手間を省きたいだけよ。教えてくれるなら、それにこしたことはないでしょ?」
そう言って隣に立つヘルに目配せをすると、氷柱の中からケンを取り出した。
ヘカーテはケンを摘まみ上げ、鞭で叩きつけた。
「うがあッ!!」
「兄ちゃん!」
「そこのお嬢ちゃんが言ったとおり、見せしめに一人殺すとしましょ。」
ヘカーテはケンを持ち上げ、犬の頭に近づけた。
「目の前で肉親が殺される。悪魔に食われて、悶えながら死んでいく。きっと一生消えない心の傷になるでしょうね。」
そう言ってニヤリと笑い、口の中にケンを放り込んだ。
「やめええええええええい!!」
幸也は走り出す。手を伸ばしてヘカーテに向かって行く。
しかしその瞬間、ヘカーテの立つ足元から、床を貫いて青い光線が飛んできた。
その光線は犬の頭を貫通して、空へと消えていった。
「アオオオオオン!!」
犬の頭は叫び声を上げ、口を開いてケンを吐き出す。
幸也は必死に走り、「兄ちゃん!」と叫んで受け止めた。
そしてそのまま倒れ込み、ケンを受け止めた衝撃で「うおお・・・・」と唸っていた。
「か・・・肩が・・・・肩が外れたかもしれん・・・・・。」
痛みを我慢して立ち上がると、目の前にはケンが倒れていた。
「兄ちゃん!しっかりせえ!」
「・・・・・・・・・・。」
ケンはぐったりしたまま動かない。薄く目を開け、今にも死にそうなほど弱っている。
「あかん!死んだらあかんで!しっかりしてえや!」
必死にケンを揺すっていると、「今のは誰だああああ!!」とヘカーテが叫んだ。
「誰だ!私の顔に傷を付けた者は!?」
ヘカーテは高く飛び上がり、床に向けて鞭を振り下ろした。
巨大な鞭が幸也に迫り、「うおおおお!」と叫んでケンを庇った。
ヘカーテの鞭は床を砕き、大きな音が響いて破片が飛び散る。
それを見たミヅキは、「お父さん!」と叫んだ。
「ダメだミヅキ!今行ったら危ない!」
「だってお父さんが・・・・お父さんが死んじゃう!」
ミヅキは狂ったように「お父さん!」と叫ぶ。博臣の腕を払いのけ、父のいた場所に走って行く。
するとその時、破壊された床から、何かが突き出しているのに気づいた。
「あれは・・・・何?」
ミヅキは床から突き出した物体を見つめ、息を飲んだ。
それは白銀に輝く、とても大きな拳だった。
「何あれ・・・・・?」
ミヅキは立ち尽くし、その巨大な拳を睨む。
すると博臣が「あれはメタトロンだよ」と答えた。
「メタトロン?あの大きな天使の?」
「そうさ。一時的に俺の身体から抜けだしたんだ。」
床から突き出した巨大な拳は、ゆっくりと手を開いた。すると手の平の上に、幸也とケンがいた。
「お父さん!」
ミヅキは叫び、父の元へと走っていく。その時、またヘカーテの鞭が襲いかかってきた。
「危ない!」
博臣が手を伸ばして叫ぶ。すると床からもう一本手が出てきて、バシ!っとヘカーテの鞭を掴んだ。
「おのれ!何奴!!」
ヘカーテは鞭を引っ張るが、まるでビクともしない。それどころか、力任せに引っ張られて転びそうになった。
「くうう・・・・なんだこの馬鹿力は・・・・って、がはおおおおお!!」
床の下から白銀に輝くメタトロン飛び出し、ヘカーテの顎に拳をめり込ませる。
邪悪な魔女は天高く舞い上がり、そのまま地面へと落ちていった。
「悪魔どもよ!これ以上貴様らの好きにはさせんぞ!」
メタトロンは悪魔たちを睨みつけ、手に乗せた幸也とケンを、そっと下ろした。
「お父さん!」
「ミヅキ!こっちに来たら危ないやないか!」
「だって!だって・・・・・、」
ミヅキは泣きそうな顔で父を見る。目に涙を溜め、俯いて首を振った。
「お父さん・・・・。」
「ミヅキ・・・・とにかく今は避難や。ここにおったら危ない。」
幸也はケンをおぶり、ミヅキの手を引いて走り出した。
メタトロンは立ち上がり、「博臣!」と叫んだ。
「分かってる。そう長い時間は分離出来ないんだろ?」
「うむ。私はお前の中に戻る。そして・・・・この悪魔たちを滅ぼす為に、光の力をもって変身するのだ!」
メタトロンは光の粒子となって、博臣の中に吸い込まれる。
二人は一つに融合し、博臣の額に緑色の宝玉が現れた。
「な・・・・なんなの・・・・・これは・・・・。」
ヘカーテは顎を押さえながら立ち上がり、「人質を!」と叫んだ。
ヘルは床に突き立てられた氷柱を掴み、胸の中に戻す。バロールは目を見開き、博臣を石に変えようとした。
「メタトロンは人間のガキと融合しているのか・・・。ならばそのガキごと石に変えてや・・・・・、うおおお!眩しい!」
博臣から眩い光が放たれ、バロールは目を閉じる。
「悪魔よ!今こそ私の新たな力を見せる時!裁きの光の元に、魂まで滅するがいい!」
博臣は目の前で両腕をクロスさせ、「むうん!」と唸った。
すると額の宝玉がピカリと光り、メタトロンに変身した。
「ぬうう・・・・何が新たな力だ。さっきと全く変わっていないではないか!」
バロールは怒り、目を開けて睨みつけた。
しかしその瞬間、メタトロンは両手を前に出してバリアを張った。そのバリアは鏡のようにバロールの視線を映し、石化の呪いを反射させた。
「し・・・・しまったあああああああ!!」
自分の目を見たバロールは、瞬く間に石に変わった。
メタトロンは「だああ!」と飛び上がり、強烈なキックをお見舞いした。
バロールは粉々に砕け散り、そのまま絶命していった。
「悪魔よ!この月は断じて貴様らには渡さん!でやあ!!」
メタトロンは羽を二枚抜き、ヘカーテとヘルに向かって投げた。
その羽は赤いレーザーとなり、二体の悪魔を貫いた。
「ぐほおッ!」
「はうえッ!」
「まだまだ!だあああ!」
最強の天使は翼を広げ、ヘカーテに飛びかかる。
そして拳を構え、ボディに一発、こめかみに一発、最後に顎に一発パンチをめり込ませた。
「ぐべあッ!」
ヘカーテは堪らず膝をつく。
「この・・・・化け物めがあ・・・・。ヘル!援護をしろ!」
ヘカーテは距離を取り、三つの頭から雄叫びを放った。
すると彼女の頭上に青い月が浮かび、ブラックホールのようにメタトロンのエネルギーを吸収し始めた。
そこへヘルの氷柱が飛んできて、メタトロンを貫こうとする。
「笑止!これしきで!」
メタトロンは顔の前で腕をクロスさせる。すると額の宝玉がピカリと光り、瞬く間に身体の色が変わった。
美しい白銀のボディが、燃えるような赤に変色したのだ。
そこへヘルの氷柱が飛んできて、メタトロンのボディに直撃する。
しかし氷柱はメタトロンの硬さに負けて、粉々に砕け散った。
「これぞ光の巨人、ティガの力なり!」
メタトロンは手を広げ、そのままゆっくりと頭上に掲げる。するとの手の中に赤いエネルギーが溜まり、まるで火の玉のように真っ赤な球体に変わった。
「ヘカーテよ!そんなに私の力が吸いたいのなら、思う存分くれてやろう!光の巨人ティガの必殺技、食らえ!テラジウム光流!」
メタトロンは手に溜まった赤いエネルギー弾を、ヘカーテの頭上に浮かぶ青い月に投げつけた。
ティガの必殺技、デラジウム光流が炸裂し、青い月は粉々に消し飛ぶ。
「ぬうおおおおおおおあああああ!!」
凄まじい爆発が起こり、その衝撃でヘカーテも吹き飛んでいく。
「まだまだ!」
メタトロンは拳を握り、ゆっくりと脇に構える。
すると拳に光が集まってきて、まるで太陽のように光り輝いた。
「こっちは私の技だ!リュケイオン光弾!」
脇に構えた拳を突きだすと、光の弾が螺旋状に飛び出した。
その弾はヘカーテの胸に直撃し、そのまま空高く舞い上げていく。
「ぬうおおおおおおおああああああ!!」
「ぬうううん!!砕け散れええええええい!!」
メタトロンはさらに力を込め、リュケイオン光弾の威力が増す。
ヘカーテは遥か上空まで吹き飛ばされ、大爆発を起こした。
「ああああああ!ベルゼブブ様ああああああああ・・・・・・・。」
凶悪な魔女は断末魔の悲鳴を上げ、光に飲み込まれて消滅していった。
それを見届けたメタトロンは、残る一体の悪魔を振り返った。
「北欧の悪魔ヘルよ!次は貴様の番だ!」
「ひいいい!!」
メタトロンの圧倒的な強さを見せつけられ、ヘルは震えながら後ずさる。
そして胸に封じた人質を取り出し、その手に握った。
「あ・・・・アンタ!手を出したらコイツらを握りつぶすわよ!」
そう言ってダフネとアメルを握りしめ、これみよがしに振って見せた。
月の統治者はミシミシと締め上げられ、悲痛な叫びを響かせる。
「いやああああ!!」
「きゃああああ!!」
「おのれ・・・・最後まで悪あがきを・・・・。」
メタトロンは怒りを滲ませ、ヘルを睨みつける。しかし人質がいる以上は、おいそれと手が出せない。
拳を下ろし、「その者たちを放せ」と言った。
「もしその二人を傷つけたら、私はすぐさまの貴様の首を飛ばすぞ。」
「それはこっちのセリフよ!下手なマネをしたら、こいつらをくびり殺すわよ!!」
ヘルはパニックになっていた。メタトロンが強い天使だとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。
《コイツはヤバイ・・・恐らくベルゼブブよりも上だわ。私では到底勝ち目はない・・・。ここはもう人質を盾にして逃げるしか・・・・、》
そう思った時、月の外から凄まじい音が聞こえた。
そして一瞬遅れて衝撃波が伝わり、月の中が地震のように揺れた。
「な・・・・何!?」
ヘルは慌てて音のした方に目を向ける。しかし・・・・メタトロンはその隙を見逃さなかった。
「だあああ!!」
胸の前に両手を構え、光の刃を作って飛ばしたのだ。それはウルトラマンティガの必殺技の一つであり、巨大な怪獣でも切り裂く強力な光の刃だった。
ヘルの首は一瞬で斬り落とされ、ゆっくりと頭が落ちていく。
メタトロンはサッと駆け寄り、彼女の手からダフネとアメルを救い出した。
「・・・・ぐうう・・・・こんな・・・・こんなのって・・・・納得出来るかあああああ!!」
ヘルは最後の力を振り絞り、全身の氷柱を震わせた。
「むう!自爆する気か!?」
ここで自爆されたら、自分はともかく周りの者が危険に晒される。
そう思ったメタトロンは、片手で十字架を切り、光のロザリオを浮かび上がらせた。
それは邪悪を封じる祈祷であり、「むん!」と叫んでヘルに放った。
光のロザリオはヘルの力を封じ込め、そのままドロドロと溶かして消し去ってしまった。
「・・・・・・終わったか。」
メタトロンは手に乗せたダフネとアメルを見つめ、彼女たちの無事を確認した。
「力は弱っているが、まだ息はある。安静にしていれば、すぐに力を取り戻すであろう。」
メタトロンの活躍のおかげで、絶体絶命の危機は乗り越えられた。
しかしその時、また月の外で大きな音が響いた。
それと同時に断末魔のような叫びが聞こえ、月の中に不安が広がっていった。
「悪魔が攻めて来ているようだな・・・。もはや戦力の温存などと言っておられん。私も打って出る!」
メタトロンはダフネとアメルを下ろし、「この二人を頼むぞ!」と幸也に預けた。
そして額の宝玉を光らせ、翼を広げて月の外へと向かって行った。

野良猫たち

  • 2015.04.28 Tuesday
  • 12:12
JUGEMテーマ:にゃんこ


野良猫は、けっこうどこにでもいます。
猫嫌いな人は嫌だろうけど、猫好きは野良猫を見つけると嬉しいんです。








よく注意していないと、野良猫を見逃してしまいます。
こっちは気づいていないけど、向こうはこっちに気づいていることは、よくあります。







野良猫でも、色んな顔をした奴がいます。
優しい顔、いかにも野良らしい顔、ボス猫なんかは、とても厳つい顔をしています。





猫ってよく舌を出します。
口を閉じている時でも、ちょっとだけ舌が出ていたりします。
舌を出している時の方が可愛いですけどね。





この猫は鼻炎気味で、鼻の音が鳴っていました。
でも毛並みは綺麗で、もしかしたら、元々は飼い猫だったのかもしれません。





この子は凛々しい顔をしています。
でも少しキツイ表情だから、野良歴が長いのかもしれません。





日光浴が気持ち良さそうですね。
野良猫にも色んな奴がいて、人に懐く子、決して人に近づかない子がいます。

人に懐けば、餌をもらえるかもしれないし、人を避ければ、危険から身を守ることも出来ます。
どちらも、それぞれの野良が生きていく為に身に着けた知恵なんでしょうね。
野良猫は逞しく、そして強く生きています。

 

自分と向き合えない不幸

  • 2015.04.28 Tuesday
  • 11:56
JUGEMテーマ:日常
自分は悪い意味で、人とは違うのではないか?
そう思うことは、誰にでもあるのではないでしょうか?
突き抜けるほどポジティブな人間は別として、そうでないなら、自分に対して後ろ向きな考えを持つのは、普通なことだと思います。
しかしそうやって自分というものに向き合い、自分がダメなんじゃないだろうかという考えは、決して悪いものではないはずです。
自分を知る、自分を見る。
良いも悪いも、他人の中にではなく、自分の中に見出そうとする。
自分に否定的になる瞬間、それが後ろ向きな感情であったとしても、自分と向き合うきかっけになるはずです。
ただ世の中には、ひたすら他者に依存し、自分の思い通りに行かなかったり、少しでも気に障ることがあると、異常なまでに負の感情を放つ人間がいます。
それは心を病んでいるからか?それとも通常とは違った、人格的な障害を抱えているからか?
私はどちらも違うと思います。
まず心の病というのは、普段とは違った、おかしな心の状態に陥ってしまうことです。
私自身経験があるのですが、病気というのは、身体であれ心であれ、普通の状態ではなくなります。
だからかなり深刻なところまで来ると、自分はどこかおかしいんじゃないかと、疑いを持つようになります。
心に病を抱え、普段よりも負の感情に飲み込まれることがあったとしたら、それは自分のせいではありません。
病気が悪いのです。
だから病気さえ治せば、また元通りになれるんですよ。
それに病気になるということは、どんな状態よりも強く自分と向き合うことなんです。
だから病気から立ち直った時、人生観というのは大きく変わります。それも良い意味で。
だから異常なまでに負の感情を放つ人間というのは、病気とは違います。
では障害を抱えているからか?
自閉症、アスペルガー症候群。発達障害。
様々な障害がありますが、どれも頭の働きに影響を及ぼすものです。
これらは病気とは違うので、治療は不可能です。
生まれながらにして脳の働きが、普通の人とは異なるからです。
実際に私も発達障害を持っており、心の病を経験するまで、自分が人とは違う考え方や、感じ方をしているのだと知りませんでした。
でも病気を経験して、そういう障害を持っていると知ったことは、とても幸運なことです。
自分に障害があるのだと分かれば、どうして自分が他人と違うのか、納得がいくというものです。
元々脳の働きが普通の人と違うのだから、考え方や感じ方が異なって当たり前なんです。
要は発達障害を抱えながら、どうやって生きていくかってことなんです。
自分を知れば、自ずと自分に出来ること、出来ないことが分かります。
また注意深く観察することで、相手が何を思い、どういう感情を抱いているのか、言動の端々から読み取ることが出来ます。
発達障害を持つ人って、なかなか感覚は鋭いんですよ。
それに知能は決して低くないから、コミュニケーション能力の欠落は、感覚と知能でカバーできるんです。
もちろん完璧には無理だし、普通の人ほど上手くはいきません。
でもある程度はカバー出来るから、そう深い付き合いをするわけじゃなければ、コミュニケーションを成立させることは可能です。
でもね、疲れるんですよ、やっぱり・・・・・。
感覚と知能でカバーなんて言うとカッコいいけど、実際は神経をすり減らすんです。
だから発達障害を自覚している人というのは、必要以上にコミュニケーションを取ろうとしません。
それは人間が嫌いだからではなく、コミュニケーションが苦手なゆえに、どうしても疲れてしまうからです。
普通の人が普通に出来る付き合い方を、神経をすり減らさないと出来ない。
でも自分に障害があるかどうかを知っていれば、神経をすり減らしながらも、どうにか会話を成立させることは可能です。
これは病気の時に相談に乗ってもらった先生の言葉だけど、「君の障害は、最終的には自分でどうにかするしかない」と言われました。
これは当たっていて、何かを抱えて生きているのは、みんな同じってことです。
たまたま私は発達障害があるけど、世の中には別の障害を抱える人や、お金が無くて困っている人、それに辛い過去があってトラウマを抱えている人もいるでしょう。
だから発達障害があるからといって、自分だけ特別じゃないし、自分だけ何かを抱えているわけじゃないんです。
だから結局は、何でも自分次第なんです。
自分ときちんと向き合うことさえ出来れば、障害があったってどうにかなるもんですよ。
だから自閉症やアスペルガー症候群、発達障害をを抱えているからといって、異常なまでに負の感情を放つ人間にはならないんです。
ではどういう人間が、病的なまでに負の感情を放ち、それに支配されるのか?
それはきっと、自分と向き合うことが出来ない人間だと思います。
いるんですよ、そういう人って。
素直に自分を見ることが出来ず、なんやかんやと言い訳を考えて、いつまで経っても周りの意見を受け入れられない人が。
ちゃんと自分のことを大事にしてくれているのに、ちゃんと自分のことを見てくれているのに、そういう人がちゃんと周りにいるのに、そんな事にも気づかないで、自分を見ようとしない人が。
私の経験から言うと、そういう人とは関わらないのが賢明です。
相手に求めることしか頭にないので、付き合えば付き合うほど、こちらのエネルギーが消耗していくだけの人って、世の中にはいるんです。
自分と向き合えない、自分を見ることが出来ない。
これほど寂しいことはなく、不幸なことはないと思います。
自分はいつだって傍にいて、離れることも別れることも出来ません。
だから自分と向き合えない人は、やっぱり不幸な人間だと思います。

ダナエの神話〜魔性の星〜 第七話 月と地球の攻防(7)

  • 2015.04.27 Monday
  • 13:42
JUGEMテーマ:自作小説
コウたちが空想の牢獄へ続く穴の中に入った頃、ミカエルとウリエルは月から遠く離れた場所まで来ていた。
そしてバラバラになったスペースシャトルの破片を見つけ、険しい顔で唸った。
「ミカエル、この破片はおそらく・・・・、」
「うむ。ベルゼブブたちが乗っていた物だろう。しかしこの近くに奴の気配は感じない。」
ミカエルは破片を手に取り、じっと辺りを見渡した。
「問題は、どうしてスペースシャトルが壊れているのかということだ。」
「誰かに撃墜されたとか?」
「いや、それは考えにくい。相手はあのベルゼブブだ。奴の乗った船を撃墜出来る者など・・・、」
そう言いかけた時、ハッと気づいた。
「これは・・・・事故か?」
「事故?」
「月から飛び出した箱舟が、これに激突したのかもしれん。」
「しかし箱舟など見当たらんぞ?」
「・・・・どこかへ移動したか?それともやられてしまったか・・・?」
「ふうむ・・・後者の方が可能性が高いな。いかにあの箱舟が強力であろうと、ベルゼブブに襲われたのなら跡形もなく消し飛ぶだろう。」
「それはどうかな。ダフネが言うには、あの箱舟はかなり強力な物らしいからな。」
「しょせんは一介の女神と妖精の造った物だろう?そこまで大した物とは思えないが。」
「まあ全ては推測でしかない。箱舟の捜索を続けるとしよう。破壊されずに残っていればの話だが。」
そう言って破片を投げ捨て、翼を広げて飛び立とうとした。
しかしその時、背後に強い力が迫って来るのを感じ、思わず身構えた。
「なんだこの波動は・・・。何かがワープして来るそ!」
ウリエルは剣を構え、ミカエルも眉間に皺を寄せる。
二人の目の前では空間が波打っていて、時空に穴が空こうとしていた。
何かが迫って来る・・・。波打つ空間の向こうから、大きな力を持った者がやって来る。
二人の天使は臨戦態勢に入り、殺気を放って武器を構えた。
空間の波はさらに大きくなり、じょじょに巨大な力が迫って来る。それも二つ・・・・。
二人の緊張は高まる。しかしミカエルは「む・・・?」と唸り、武器を下ろした。
「大きな力を二つ感じるが・・・・一つは知っている気だ。これは箱舟の波動だ。」
「箱舟だと?」
「ああ、間違いない。しかしもう一つの大きな気にも覚えが・・・・・、おお!これはまさか・・・・、」
空間の波はさらに激しくなり、大きな衝撃波を放った。
すると次の瞬間、波の向こうから戦の箱舟が現れた。そしてそれに続いて、箱舟より一回り大きな黄金の龍が現れた。
「やはりか!」
ミカエルは叫ぶ。ウリエルも「この龍は・・・・、」と息を飲んだ。
黄金に輝く龍は、箱舟を守るように巻きついていた。そして二人の天使に向かって、「久しいな顔触れだな」と笑った。
「ミカエルにウリエル・・・・ルシファーたちを空想の牢獄に叩きこんで以来だな。」
「黄龍!」
ミカエルは叫び、黄金の龍に駆け寄った。
「お前は地球にいるのではなかったのか!?」
「いかにも。しかしこのような変わり者が飛び込んできた次第でな。事情を聞けば、月が落とされるやもしれぬということ。ゆえにこうして参じた次第である。」
黄龍はそう言って船から離れ、ミカエルたちの方に押した。
戦の箱舟はゆっくりと進み、ミカエルはそっと手を伸ばして受け止めた。
そして船を見つめると、そこにはダナエとアドネ、それにブブカとニーズホッグがいた。
「おお、無事であったか。」
ミカエルがそう言うと、ダナエは船の外に出て来た。ダナエも宇宙では呼吸が出来ないので、コウと同じように魔法のシャボン玉の中に入っていた。
ミカエルはダナエを手に乗せ、「無事で何よりだ」と笑いかける。
そして他の者たちに目をやり、「この者たちは・・・・?」と尋ねた。
「あの白い龍はニーズホッグだな。しかし赤毛の少女と、その隣の魚は知らぬ。」
そう呟くと、ダナエは「大変なの!!」と叫んだ。
「私のせいで箱舟が飛んじゃって、でもって大きな蠅とか一つ目の悪魔とかが出て来て、それからダフネとお父さんとお母さんが戦ったんだけど、でも私は蠅にやられそうになって・・・、」
「落ち着け。何がなんだかサッパリ分からん。」
ミカエルはダナエを船に下ろし、「何があったのだ?」と尋ねた。
「あのね、実は私がドジしちゃったせいで、この箱舟を動かしちゃって・・・・・、」
ダナエは箱舟を飛ばし、そしてベルゼブブと遭遇してしまったことを話した。
そして彼らと戦いになり、大きな熱球を放たれた後、気がつけば地球までワープしていたと説明した。
「ワープ?この場所から地球へか?」
「うん。ほら、後ろに魚みたいな神様がいるでしょ?彼はブブカっていって、海王星の神様なの。」
「海王星の・・・・。」
「空間を操る力を持っていて、間一髪のところでベルゼブブからワープして逃げたの。」
「なるほど、ならばそのまま地球へワープしたというわけだな。」
「うん。でも一回じゃ無理だから、何度も何度もワープしたの。だってベルゼブブに追いかけられたら困るでしょ?」
「ふうむ・・・。それで、その後はどうしたのだ?」
「地球までワープすると、すぐに悪魔の群れに出くわしちゃったの。危うく襲われそうになったんだけど、その時にこの龍神さんが助けてくれたのよ。」
ダナエはそう言って黄龍に手を向けた。
「悪魔に襲われそうになった瞬間に、雲の中からこの龍神さんが出て来て、助けてくれたの。角から稲妻のビームを撃って、一発で悪魔の群れを消し飛ばしちゃったんだから!」
ダナエは興奮気味に言って、黄龍を見つめた。
「ありがとね、龍神さん。」
「もう何度も礼を聞いたぞ。」
黄龍は小さく笑い、長い髭を動かしながらミカエルを見つめた。
「我はその者たちを助け、雲の中に築いた祠に連れて行った。そこで事情を聞き、こうして参じたというわけだ。」
「ふうむ・・・話は分かったが、お前が地球を離れて大丈夫なのか?あの星はいつ悪魔が暴れ出してもおかしくはないというのに・・・。」
「問題ない。ルシファーはラシルへ赴き、サタンは空想の牢獄へ向かった。そしてベルゼブブは月を目指し、今の地球で悪魔が暴れ出す可能性は低い。」
「・・・・・・・・・・。」
「ミカエルよ、お主は知っているのだろう?ルシファーとサタンの動きを。あの二体はベルゼブブを遥かに凌ぐ強さだ。常にその動向を探っていたに違いない。それをあえて月の者たち・・・・いや、四大天使以外の者には伝えていない。違うか?」
「・・・・・・・・・・。」
「そのようなことをする理由はただ一つ。これから起こるであろう戦いの実権を自分たちが握り、勝利の暁には地球を我がモノとする為だ。」
「・・・・・・・・・・。」
「地球は稀有な星だ。多くの自然が芽生え、生命に溢れ、人間が登場して文明を持った。現実世界において、そのような星は数少ない。ゆえにあの星を欲しているのだろう?天使の楽園を築く為に。」
「・・・・・・・・・・。」
「誤解の無いように言っておくが、我はお主たちを責めているわけではない。地球とは戦いの星。全ての者に『闘争』という意志が宿った、戦場の惑星だ。あの星を欲する者は数多くいる。そして・・・・戦って勝利した者が、全ての覇権を握る。地球とはそういう星だ。あの星に・・・・真の平和などない。」
「・・・・・知ったようなことを・・・。」
「我はお主たちよりも遥か昔からあの星に住んでいる。その間にどれだけ多くの争いが起こり、覇権が移ろいでいったか知れぬ・・・・。ゆえに、我は誰も責めない。あの星は、闘争に勝ち残るという条件付きで、全ての支配が許される。我はただあの星の自然を管理し、維持する者に過ぎない。お主のたちの敵でも味方でもないゆえ、安心するがいい。」
「随分と長い一人言だな。まだ聞く必要が?」
「いいや、ただの戯れ言だ。問題はお主たちではなく、異星の者が地球を狙っていることだ。クイン・ダガダという邪悪な神が、この星を支配せんと画策している。我は断じてそれを見逃すわけにはいかぬ!地球を支える龍神の一柱として、クイン・ダガダの暴挙を許すつもりはない。」
「その思いは我々も同じだ。前半の戯れ言には同意できんがな。」
「なれば戯れ言として聞き流せ。今我々がやるべきことは、悪魔の手から地球を取り戻すことである。いかにルシファーといえど、クインが相手では分が悪い。奴の持つ神殺しの神器の前では、成す術なく殺されるだろう。そうなれば地球は邪神の手に落ちたも同然。早急に地球から悪魔を追い払う必要がある。」
「分かっている。」
ミカエルは頷き「ではこのまま地球を目指そう」と言った。
「地球へ?」
「今の地球には、そう大した悪魔はおらぬはず。この隙をつけば、我らだけでも勝てるであろう。」
ミカエルはそう言って、戦の箱舟を見つめた。
「私とウリエル、それに黄龍と戦の箱舟。ルシファーたちのいない地球を落とすには充分な戦力だ。」
その言葉を聞いたダナエは、「ダメよ!」と叫んだ。
「ダフネとお父さんとお母さん・・・・みんなどうなったか分からない。早く助けに行かないと。」
ダナエは銀の槍を握りしめて言う。しかしミカエルは「無駄だ」と首を振った。
「その三人は、もうベルゼブブにやられてしまっただろう。」
「そんなことないわ!三人ともとっても強いんだから、まだ生きてるはずよ!」
「残念だが、その望みは薄い。我らがスペースシャトルのあった場所に駆け付けると、誰もいなくなっていた。きっと悪魔たちにやられてしまったのだろう。」
「そんな!絶対にそんなことはないわ!きっと悪魔をやっつけて、月に戻ったに決まってる!」
ダナエは船に戻り、椅子に座って舵を握った。
「操縦は前の箱舟と同じはずだわ。ならこのままで月まで飛んで行ってやる!」
「待て!我々はこれから地球に・・・・、」
「あなたの指示になんか従わないわ!どうせ地球を狙ってるんでしょ!だったら手は貸さない!」
「違う!我らは地球を狙ってなどいない!」
「じゃあどうして龍神さんに反論しなかったの?バツが悪そうに黙ってたじゃない!ルシファーとかサタンとかいう悪魔が、どう動いているのか知っていたんでしょ?」
「・・・・それには理由がある。確かに黄龍の言ったことは、その半分が当たっている。」
「じゃあやっぱり地球を狙ってるんじゃない!」
「ああ、そうだ。しかし我々の目的は、地球の支配ではない。一時的にあの星を手に入れ、光の壁を強化することにあるのだ。」
そう言って箱舟の前に周り、「見よ」と地球を指差した。
そこには宇宙を縦断する光の壁があって、オーロラのように綺麗な光を放っていた。
その一部が地球へ引きずり降ろされ、歪んだ形になっている。
「光の壁があのような事になってしまったせいで、今や空想と現実はその境目を失くしてしまった。ゆえに我ら天使は、光の壁を修復する必要がある。」
「修復?」
「そうだ。光の壁とは、我ら天使がお仕えする偉大な神が創り出したもの。ならばそれを修復出来るのは、神か天使しかいないのだ。だから神に代わって、光の壁を修復せねばならぬのだ。」
「そう・・・・だったの?」
「光の壁の修復には時間がかかる。ゆえに地球を一時的に天使の物にする必要があるのだ。」
「だったら最初からそう言えばいいのに。」
「それが出来たら苦労はしない・・・・。」
ミカエルは首を振り、苦労の滲む顔をした。
「あの星には数えきれぬほどの神がいて、しかも宗教や思想も多種多様だ。そんな星を我ら天使が一時的にでも占拠するとなると、これは多くの者が反発するに決まっている。異なる宗教、異なる神々、そして異なる国の人間。それらが反発して、余計な争いを招く恐れがある。だからこうして隠していたのだ。」
ミカエルは「はあ・・・・」とため息をつき、さらに疲れた顔を見せた。
「天使と言うのは、上に行くほど気苦労が増すのだ。人間でも天使でも、組織のトップというのは、いつでも過酷なストレスに晒されるものだ・・・。」
そう愚痴ってから、「今のは忘れてくれ」と表情を戻した。
ダナエはミカエルの話に納得し、「ごめんね、悪者扱いして」と謝った。
「でもこのまま地球へは行けない。やっぱりダフネたちが心配だから・・・。」
「ではこうしよう。私とウリエル、そして黄龍だけが先に地球へ行く。お前はいったん月へ戻り、ダフネたちが無事かどうか確かめてくればよい。その後に地球に来てもらう。それでどうだ?」
「いいけど・・・・もし月がベルゼブブに襲われてたら?」
「心配ない。月にはガブリエルとラファエルがいるし、それにサンダルフォン殿とメタトロン殿もいる。急襲を受ければ危うかっただろうが、もはやその心配はない。」
「そっか・・・・そうだよね!じゃあ私、月までひとっ飛びして来る。そうしたらすぐに地球へ応援に行くからね。」
そう言って舵を切り、月へ向けて飛び立とうとした。
「待て。」
黄龍はダナエを呼び止め、「お前の仲間も連れて行ってやれ」と言った。
「へ?私の仲間?」
「スカアハというケルトの女神・・・知っていよう?」
「もちろんよ!彼女は私の腕輪に宿っていた神様だからね!」
そう言って右腕の腕輪を見せると、黄龍は「コスモリングか・・・」と呟いた。
「海の結晶より生まれし腕輪・・・・あらゆる神器を凌ぐ可能性があると聞く。」
「この腕輪は凄いのよ。今までにいっぱい助けてもらったんだから。」
「そうか・・・。ならばその腕輪に宿っていた神に会わせてやろう、それ。」
黄龍は髭を伸ばし、たてがみの中を探った。するとその髭に巻かれて、一人の女が出て来た。
「ああ!スカアハ!」
ダナエは手を叩いて喜ぶ。スカアハと呼ばれたその女は、「ん・・・?」と目を開けた。
スリットの入った黒い武道服に、長い黒髪を後ろで束ねている。
その顔は凛々しく、目は炎のように赤かった。
スカアハはゆっくりと目を開け、辺りを見渡した。そしてダナエに気づくと、「なんと!」と驚いた。
「ダナエではないか!どうしてここに!?」
「それはこっちのセリフよ!」
ダナエは箱舟から飛び上がり、スカアハの傍に舞い降りた。
そして嬉しそうに手を握り、「また会えてよかった!」と微笑んだ。
「コウがラシルに戻って来た時、スカアハだけがいないから心配してたの。無事でよかった・・・。」
「我も再会出来て嬉しいぞ。」
スカアハはそう言ってから、黄龍を振り返った。
「また助けてもらったな。礼を言う・・・・。」
「お主は無茶をし過ぎだ・・・。いくら人間や動物を助ける為とはいえ、単身で悪魔の群れに挑むなど・・・・自殺行為であるぞ。それも幾度も幾度も・・・。」
「あの星の命が、悪魔に蹂躙されるのを見てはいられないのだ・・・・。」
スカアハは辛そうな顔を見せ、ダナエの手を握りしめた。
「黄龍はな、もう我の面倒が見切れなくなったようだ。」
「どういうこと?」
「我が幾度も無謀な戦いをするせいで、彼に迷惑をかけている・・・・。これ以上は、我の面倒を見切れないのだろう。だからお前の元に行けと・・・・。そうだな?」
スカアハは皮肉っぽい笑みで黄龍を見つめる。
「さあな。しかしダナエとやらはお主を必要としているようだ。地球へ戻るか、その娘と共に行くか、自分で選べばよい。」
「そんなもの・・・・答えは決まっている。」
スカアハはニコリと笑い、ダナエを見つめた。
「また・・・共に行ってもよいか?」
「当然じゃない!月へ戻ればアリアンもクーもいるわ!それにコウだって!」
「そうか・・・・。ならば・・・早く皆に会いたい。」
「うん!一緒に行こう!」
ダナエはスカアハの手を握ったまま、箱舟の上に飛び下りた。
「新しい仲間が増えたの。月へ行きながら紹介するわね。」
そう言ってドームの中に入り、舵を切って月を目指した。
戦の箱舟は車輪を回転させ、宇宙の中を漕いでいく。そして瞬く間に遠ざかり、米粒ほどの大きさになって消えてしまった。
「やれやれ・・・・騒がしい娘だ。」
ミカエルは苦笑いし、髪の毛を一本抜いた。
「ガブリエル達には、我らが地球へ向かったことを知らせなばならん。」
そう言ってふっと髪の毛を飛ばした。それは一筋の光となって、月へと向かって消えていった。
「では・・・・参るか。」
黄龍は大きな身体を動かし、地球へ戻っていく。ミカエルとウリエルもそれに続き、悪魔の蠢く地球へと向かって行った。


            *


その頃、月では激しい戦いが起きていた。
ベルゼブブが攻めて来て、月を守る者たちと死闘を繰り広げていたのだ。
「いくら数を集めようが、所詮雑魚は雑魚。アリがライオンに戦いを挑むようなものぞ。」
そう言って大きな爪を振りおろし、まるで紙クズのように天使を引き裂いていく。
10万の軍勢は必死に応戦するが、どんな攻撃もベルゼブブには通用しない。
剣も、槍も、弓矢も魔法も、ベルゼブブを傷つけるには遠く力が足りなかった。
また死神族も劣勢を強いられていた。
サリエルを中心に戦いを挑むが、これといって大きなダメージは与えられない。
サリエルの鎌も、タナトスの呪いも、イシュタムの鞭もダメージが通らない。
チェルノボグは果敢にも正面から挑むが、彼の鎖鎌はあっさりと引き千切られてしまった。
そして大きな爪で顔を掴まれ、まるでリンゴのように握りつぶされてしまった。
「おのれええええ・・・・・・。」
悔しそうに消えていくチェルノボグ。するとその後ろからモトが迫って来た。
二本の角から蒸気を上げ、ベルゼブブに突進してくる。その角は、触れた者を冥界へ誘う力を持っていた。
二本の角がベルゼブブに直撃し、角から大きな怨霊が湧いてくる。
そしてベルゼブブに絡みつき、聞くのも恐ろしい悲鳴を上げて、冥界へと連れ去ろうとした。
「なんじゃこの児戯は・・・・・。遊びにもならぬぞ。」
そう言ってデコピン一発で怨霊を消し飛ばし、ついでにモトを掴んで頭を食い千切った。
「ごはああああ!」
「不味いわ・・・・・ぺ!」
齧った頭を吐き出し、そのまま身体を握りつぶしてしまう。そして背後にいたイシュタムにも掴みかかり、尻尾の針で突き刺した。
「ああああああああ!!」
「儂は死を運ぶ悪魔、ベルゼブブなるぞ?いうなれば、貴様ら死神の総帥である。」
そう言ってさらに針を突き刺す。イシュタムは絶叫し、白目を剥いて震えだした。
「死神が苦痛に悶えるか・・・・これほどの恥はあるまい?ほれ、もっと辱めてやろう。」
「あっぎゃあああああああ!!」
イシュタムはさらに絶叫し、「殺せえええええええ!!」と叫んだ。
「おのれベルゼブブ・・・・・好き放題に!」
サリエルは鎌を振りあげ、ベルゼブブの尻尾に切りかかる。しかし硬い音が響いて、逆に鎌の方が欠けてしまった。
「むうう・・・・なんという・・・・。」
「サリエルか・・・・。貴様ごときでは、儂に一つ与えられぬ。まあ赤い死神ならば、それなりに戦えたかもしれぬがな。」
「赤い死神か・・・・。奴は今、空想の牢獄に繋がる回廊にいる。あの場所を守る為に。」
「知っておる。まあどちらにせよ、空想の牢獄にはサタンがおる。封印した神々を見張る為にな。」
「なんと!牢獄にはサタンが!?」
「知らぬのか?」
「初めて聞いたぞ・・・・。奴は地球にいるのではないのか?」
「まさか。神々を閉じ込めた空想の牢獄を、そのまま放っておくわけがなかろう。」
「・・・・言われてみれば・・・・。」
「おそらく四大天使は知っていよう。貴様らが知らされていないだけだ。」
「なんと!ミカエルたちは知っているというのか!?そのような大事な情報を、どうして我らに知らせぬのだ?」
「ふふふ・・・・地球を我がモノとする為であろう。まあそんなことはどうでもよい。貴様ら全員消えされ!」
そう叫んで、手の中に熱球を集める。するとそこへ南斗星君と北斗星君が立ちはだかり、手にした武器で熱球を攻撃した。
南斗星君の剣が、そして北斗星君の扇が、核をも超える熱球を弾き飛ばす。
「小癪な。」
ベルゼブブは尻尾に突き刺したイシュタムを、二人に向かって放り投げた。
そして羽を動かして指を鳴らすと、イシュタムの身体の中から、無数のハエが湧いて出て来た。
イシュタムの身体は一瞬にして食い尽され、南斗星君と北斗星君に襲いかかる。
「むおおおおお!」
「これしきいいいいい!」
二人は神は武器を振ってハエを追い払うが、ベルゼブブはさらにハエを放って来る。
二人の神はハエに取りつかれ、その姿が見えなくなってしまった。
そしてベルゼブブが指を鳴らすと、ハエたちは散っていった。
そこには二人の神の姿はなく、骨一つ残さず食らい尽されていた。
「なんという・・・・・・。」
あまりの強さに、サリエルは言葉を失う。隣でそれを見ていたタナトスは、悲鳴を上げて逃げ出した。
するとハエが追いかけて来て、一気にタナトスを貪り始めた。
「のおおおおおおお!!」
ギリシャの死神は一瞬で食らい尽され、苦悶の中で絶命していった。
天使の軍勢も無数のハエの襲われ、肉を食われて死んでいく。
無惨な死体がそこらじゅうに漂い、骨や肉が辺りを埋め尽くしていく。
死神たちも果敢に立ち向かうが、やはり歯が立たない。
何も出来ずに殺され、命を狩る鎌までもが食らい尽くされていく。
・・・蹂躙・・・という言葉がピッタリだった・・・・。
天使も死神も、凶悪な魔王の前に成す術なく死んでいく。
サリエルは鎌を振りあげ、ハエを払いながら叫んだ。
「サンダルフォン殿!何をしておられる!早く加勢を!!」
「・・・・・・・・・・。」
サンダルフォンは何も出来ずに震えていた。ジリジリと後ずさり、首を振って「無理だよ・・・・」と言った。
「こんな悪魔に勝てっこない!みんな殺される!」
「何を情けないことを!皆命を懸けて戦っているのだぞ!」
「でも・・・・・、」
「でももへったくれもない!早く・・・・早く加勢を!・・・・ぐおおおおおおお!!」
ハエは遂にサリエルにも纏わりつき、その身を食らい尽そうとする。
鎌は一瞬にして浸食され、乗っていた馬も苦痛の悲鳴を上げる。
「セバスチャン!耐えろ!耐えるのだあああああ!!」
サリエルは必死に鎌を振る。そして死の呪いを解き放ち、辺りに赤い波動を放出した。
ハエたちは一瞬たじろいだが、それでも止まらない。赤い波動にやられながらも、次々と群がって来る。
「ああ・・・・このままじゃサリエルが・・・・・、」
サンダルフォンは泣きそうになりながら震える。
するとその時、頭上から「そこをどくのです!」と声がした。
見上げてみると、そこにはガブリエルとラファエル、そして合唱のように歌う天使の群れがいた。
「ああ・・・二人とも!この悪魔をどうにかしてくれ!」
サンダルフォンは手を広げて叫ぶ。するとガブリエルは杖をかざし、ラファエルは弓矢を構えた。
天使の合唱が光となって力を与え、二人の武器が輝きだす。
そしてガブリエルの杖からは水が、ラファエルの弓からは風をまとった矢が放たれた。
二つの力がぶつかり合い、辺り一面に強烈な光が走る。
ハエの群れはその光に飲み込まれ、一瞬で全滅していった。
「ラファエル!」
「分かっている!」
ガブリエルは杖から水を放ち、ラファエルの矢に纏わせる。その水は矢を覆う風と混ざり合い、綺麗な雪の結晶を作りだした。
「悪魔め!破邪の矢に貫かれ、魂まで凍るがいい!」
ラファエルは狙いを定め、ベルゼブブに向かって矢を放つ。
その矢は雪をばら撒きながら飛んで行き、ベルゼブブの眉間に刺さった。
「ぬおおおおお!!おのれ!ガブリエルとラファエルか!」
ベルゼブブは顔をゆがめ、刺さった矢を抜こうとする。
しかし雪の結晶が猛吹雪を放ち、その身体を包んでいく。
そこへガブリエルが水流を放つと、雪と混ざり合って巨大な氷柱が出来た。
ベルゼブブはその氷柱の中に閉じ込められ、爪の先まで凍らされていた。
「サンダルフォン殿!今です!あの悪魔にトドメを!」
「・・・・・・・・・・。」
「サンダルフォン殿!!」
「・・・・無理だよ・・・・怖いもん・・・・。」
サンダルフォンはまだ震えていて、ベルゼブブから目を逸らしていた。
するとラファエルが肩に手を起き、「また兄上を悲しませる気ですか?」と尋ねた。
「メタトロン殿は、あなたのことをいつでも気に掛けておられる。せっかく大きな力を秘めているのに、気弱なせいでその力を発揮出来ないからです。」
「・・・・だって・・・怖いものは怖いじゃないか・・・・。」
「それは誰でも同じです。見て下さい、あの天使や死神の骸を・・・・。」
ラファエルはベルゼブブの周りに手を向けた。そこには無惨に殺された者たちの亡骸が浮かんでいて、目を向けるのも躊躇われる光景だった。
天使の翼が、肉が、そして死神の骨が、鎌が、すり鉢で引っ掻き回したように、グチャグチャに散乱している。
それを見たサンダルフォンは、堪らず目を逸らした。
「いいですか、今ベルゼブブを仕留めないと、またあのような惨劇が繰り返されるのです。しかし・・・あなたならそれを食い止められる。」
「そんなことないよ・・・・君たちがトドメを刺してくれ・・・・。」
「無理ですよ。ベルゼブブを閉じ込めているあの氷柱は、私とガブリエルの全てのエネルギーを注いでいるのです。もしここで力を緩めれば、また奴は動き出すでしょう。だからあなたしかいないのです。」
「そ、そんなこと言ったって・・・・・。」
ここまで励まされても、サンダルフォンは首を振った。
ガブリエルとラファエルは顔を見合わせ、困り果てたようにため息をついた。
「ラファエル・・・・メタトロン殿を呼んで下さい。」
「彼をかい?でもミカエルは彼を呼ぶなと・・・・・、」
「分かっています。しかし・・・・ここはもうやむをえないでしょう。」
「・・・そうだね。」
ラファエルは頷き、「誰か!メタトロン殿を!」と叫んだ。
近くにいた天使たちが、「はは!」と言って月の中へ入っていく。
サンダルフォンは「ごめんよ、みんな・・・」と、自分を情けなく思いながら俯いていた。
ベルゼブブの圧倒的な強さのせいで、多くの者が命を落とした。
命を落としたといっても、天使や神は時間が経てば復活する。
しかしそれでも、このような惨劇を許すことは出来なかった。
ガブリエルとラファエルは、胸の中に強い怒りを燃やし、氷柱の中の魔王を睨みつけていた。

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