ダナエの神話〜魔性の星〜 第四十一話 散りゆく仲間(1)

  • 2015.05.31 Sunday
  • 11:02
JUGEMテーマ:自作小説
死は死を呼ぶ鐘となり、争いの渦中に魂を引きずりこんでいく。
累々と屍が積み上がり、大地は嘔吐のごとく吸い込んだ血を吐き出す。
神、天使、魔王、悪魔、そして神獣・・・・・。
インドの地にて、大きな力を持った者たちがぶつかり合い、うねるような戦いの咆哮が響いていた。
見渡す限りにいた悪魔の群れは、その半分が屍となっていた。
また天使の軍勢も、悪魔を討ち取る為に屍の山を築くことになっていた。
この戦場の指揮官であるサンダルフォンは、自分もここで果てることを覚悟していた。
あまりに激しい戦い。あまりに多い敵の数。
戦力の差を埋める為に気力を振り絞っていたが、それも長くは続くまいと感じていた。
「元々100倍の戦力差があるんだ。楽にはいかないと思っていたけど、こりゃあ過酷過ぎる・・・・。」
配下の天使たちは、その数を半分以上減らしていた。
「天使だけじゃない。神獣も何体かやられたようだ。黄龍が強いからどうにか均衡を保ってるけど、でもこのままじゃいずれ・・・・、」
指揮官という立場である以上、サンダルフォンは戦場の中心で戦っているわけではなかった。
一番激しい場所からは距離を取り、全体を見渡して指示を出していた。
「僕が前に出るのはまだ早い。きっとまだ敵の援軍が来るはずなんだ。せめてその時まで持ち堪えないと。」
天使の軍勢の隙間を縫った悪魔が、サンダルフォンに襲いかかって来る。
それを軽く一蹴すると、少しだけ前線の方へと近づいた。
「兵隊の悪魔はともかく、魔王級の悪魔が何体もいるのが厳しいな。それに・・・悪魔以外の敵も増えて来た。魔獣や妖魔、巨人族に邪龍・・・・悪霊やアンデッドの類もいる。せめてこっちにも多少は援軍が来ないことには。」
そう言いながら空を睨み、「兄ちゃん、早く来てくれよ・・・」と呟いた。
「アーリマンに負けちゃったなんてことはないだろ。早く・・・・早く応援に来てくれ!頼むから・・・・。」
遠くにいる兄に語りかけるように、サンダルフォンはじっと空を睨む。
すると「おおおおおおおおお!」と激しい雄叫びが聞こえて、そちらを振り返った。
「あれは・・・・太陽神ルーか。すごく強い神だけど、かなり苦戦してるみたいだな。相手は・・・・・北欧の魔王ロキか。単純な強さなら引けを取らないだろうけど、ロキはすごく狡猾は悪魔だ。気をつけてくれよ。」
ロキと対するルーを見つめながら、ふと横に気配を感じて振り向いた。
「君は・・・・アマテラス。エジプトへ行ったんじゃないのか?」
そう問いかけると、アマテラスはゆっくりと首を振った。
「わらわもここで戦うと決めた。あの男、ルーが何をしでかすか分からぬのでな。」
「あのルーっていうのは、君の知り合いなのかい?」
「わらわの弟の友じゃ。やんちゃくれの荒ぶる戦神だが、強さは折り紙つき。」
「それは戦いぶりを見てれば分かるよ。だけどちょっと危ないよね、あれ。なんか必要以上に戦いを煽ってる気がするんだけど・・・・、」
「いや、実際にそうなっておる。現に続々とエジプトから増援が駆け付けている。あの男の持つ戦の血が、さらに戦いを呼び寄せておるからだ。このまま暴れ続ければ、さらに戦火は酷くなる。わらわたちは・・・・負けるだろう。」
アマテラスは憂いのある声で呟き、前に歩いて行った。
「あ、ちょっと!君は後ろにいた方がいいんじゃない?前線で戦うようなタイプじゃないんだろ?」
「こう見えても、一度サタンを退かせておるぞ。」
「それは兄ちゃんから聞いたけどさ・・・。でもあんまり無理はしない方が・・・・、」
「いや・・・本気で戦わねば、ここに残った意味がない。お主も指揮官なら、よく戦況を考えた方がよいぞ。」
「なんだよそれ?僕に説教しようっていうのか?」
サンダルフォンはカチンと来て、口調が荒くなる。
するとアマテラスは振り返り、ニコリと微笑んだ。
「もし指揮官がメタトロン殿なら、この戦況をどうお考えになるであろうな?」
「兄ちゃんなら?」
「サンダルフォン殿は強い天使であるが、まだまだ兄上には及ばぬと感じる。」
「そんなの分かってるよ。いちいち異国の神に偉そうに言われたくない。」
「そうであろうな。しかし、もしここに兄上がおられたら、きっとこうお考えになるはずじゃ。
これはダフネ殿が予想された展開とは違う。おそらく、ここにいるほとんどの同胞が果てるだろうと。」
そう言われたサンダルフォンは「どういうことさ?」と首を捻った。
「全てはルーという男の登場によって、台無しになったということじゃ。あの男のせいで、ここはダフネ殿が予想した以上に激しい戦場となった。その分エジプトは手薄になるであろうが、わらわ達はその煽りを受ける。おそらくここで果てるであろう。」
「その程度のことなら僕にだって分かるよ。だからそれをどうにかしようと悩んでるんじゃないか。」
「・・・・悩んで解決することなら、大いに悩めばよかろう。しかし悩んでも仕方のない事というのはある。酷なようじゃが、ここは敗北を受け入れた上で戦わねばならぬ。自らの命を剣として、終わりがくるまで戦うのみぞ。」
アマテラスは裾を翻し、悪魔の群れに歩いて行く。
きっとこの戦いで、自分は命を落とすだろうと思っていた。
いずれ復活するにしても、次にこの世に戻って来た時、そこは悪魔の支配する地球になっているかもしれない。
しかしそれでも、この身を砕く覚悟で戦うつもりだった。選択肢と呼べるものはなく、それしか道が残されていなかった。
《ダフネ殿たちが、敵の大将を討ってくれれば全てが終わる。その為なら、わらわはこの命を散らしてでも戦おう。しかし・・・・この胸には、暗い雲のような不安が込み上げる。この星のどこかで、予期せぬ災いが起こったような気がしてならぬ。》
アマテラスは感じていた。この星に大きな災いが振りかかろうとしていることを。
今の彼女は、クインが地球に来たことを知らない。そして月が侵略されたこと、毬藻の兵器が地球をラシルに変えようとしていること。その全てを知らない。
しかしそれでも、鋭い勘がそれらの災いを感じていた。言葉に出来ない何かが、ずっと胸の底を突いているような感覚があった。
「何事も、予期せぬことは起きるものか・・・・。しかし災いだけが予期せぬものでもあるまい。必ず・・・・必ず災いが転じて吉となる。その為の光を・・・・なぜかあの妖精から感じたのだ。」
アマテラスは足を止め、ダナエのことを思い出す。
ほんの少ししか一緒にいなかったが、それでもダナエの中に光るものを感じていた。
力でもなく、知恵でもなく、勇気や情熱でもない。
ダナエの中には、『何かと何かを繋ぐ』、そういった可能性がある。
言葉では説明しきれない、淡い期待を抱かせるものを秘めていた。
「あの子なら、必ずやこの星に吉兆をもたらしてくれるであろう。」
そう言いながら歩き出し、服の袖を見つめた。
「これは戦う服ではないな。変えるか。」
今アマテラスが来ているのは、コウに作ってもらった服だった。
鮮やかな黄色いドレスに、薄く透き通るローブ。そして天女のような羽衣。
どれも美しい物だが、戦いには向かない。
だから戦う為の衣装に替えることにした。
目を瞑り、両手を左右に広げて、ゆっくりと頭上に持ち上げる。
すると足元に小さな水面が広がり、それは鏡へと変わっていった。
そしてその鏡の中から、錆びた剣と、茶緑色の勾玉が現れる。
アマテラスは右手に剣を、左手に勾玉を持ち、じっと足元の鏡を見つめた。
そこには自分の姿が映っていて、鏡の中の自分と目が合う。
「幻光の術により、わらわ自身を召喚する。出でよ、もう一人のアマテラス!」
アマテラスは左手に持った勾玉を、鏡に映る自分に向かって落とした。
すると鏡に波紋がたち、太陽のような暖かい光が溢れた。
その光は勾玉に吸い込まれ、ふわりと浮かび上がった。
そして鏡の中からもう一人のアマテラスが出て来て、そっと勾玉に手を伸ばした。
鏡の中の幻だったもう一人のアマテラスが、勾玉を取り込むことで実体を持った。
二人のアマテラスは向かい合い、お互いに見つめ合う。
そしてそっと手を伸ばして触れ合った。
手と手が触れあった瞬間、二人は磁石のように引き合い、そのままぶつかって粘土のように潰れる。
そしてグニャグニャと動いて、だんだんとの元の姿に戻っていった。
一糸まとわぬアマテラスが、太陽のように光り輝きながら現れる。
そして天に向かって両手を掲げると、足元の鏡が水となって舞い上がった。
その水はアマテラスを包み、戦う為の衣装となっていく。
鮮やかな緑と、鮮やかな黄色の水が、身体に張り付いて服に変わる。
その服はピタリと身体を覆い、緑と黄色の際立つボディスーツのようになる。
そして透明な水が雨のように降り注ぎ、羽衣となって首元に巻きついた。
その羽衣は、アマテラスを守るように包みこんだ。
手には金色の手甲、足には金色の具足が現れ、長い髪は後ろで結いあげられて、戦いに赴く勇ましい戦士の姿となった。
そして・・・・錆びた剣を掲げ、白い羽衣を動かして包みこむ。
するとサファイアのような青い剣に生まれ変わり、透けて見えるくらいの美しい刃になっていた。
「ルーをどうにかして止めねばならぬ。あやつがいる限り、いつまでたっても戦は終わらぬ。」
アマテラスは羽衣をはためかせ、剣を構えて「いざ!」と叫んだ。
すると悪魔の群れの中から、「ドオオオオオオオン!」と奇声を発する怪物が現れた。
「雌ノ匂イガスルド!喰ワセロ!モシクハ交尾サセロ!」
そう叫びながら現れたのは、九つの頭をもつヒュドラという化け物だった。
ヒュドラはギリシャ神話の怪物で、不死身の身体を持つ邪龍であった。
何度頭を切り落とされても、たちどろこに再生してしまう。
しかも鱗はとても硬く、並の武器では歯が立たない。
それに加えて、神々でも殺せる強力な毒を持っていた。
ヒュドラは鼻を動かし、アマテラスの匂いを嗅ぎつける。
濃い緑色の鱗をジャリジャリ鳴らし、「ドコダ?」と辺りを探っている。
ヘビのような細い目を動かしながら、チロチロと舌を出す。
ワニのようなずんぐりした四本の足を動かしながら、じょじょにアマテラスの方に近づいて来た。
「・・・・・・・アア!イタ!雌ガイタド!!」
ヒュドラは嬉しそうに舌を出し、「餌カ交尾カドッチガイイ?」と尋ねた。
「どちらもごめんだ。わらわは獣の餌でもなければ、子を成す相手でもない。」
「ドオオオオオン!ソレハ駄目エ〜!ソウイウコト言ウ奴ハ、交尾シテカラ食ッテヤル!」
「できるものならやってみるがよい。」
アマテラスは剣を構え、真っ直ぐに突進していった。
「馬鹿馬鹿!コイツハ馬鹿ダ!ソンナチビデ突進ナンカ馬鹿ダ!」
ヒュドラは笑い、口を開け襲いかかった。
そして・・・・一口でアマテラスを飲み込み、胃袋へと流し込んでしまった。
「・・・・・ア!交尾スルノヲ忘レタ。」
残念そうに言って、「吐キ出セナイカナ?」と口を開けた。
「ング!ググググ・・・・・駄目ダ・・・・。出テ来ナイ。」
どうにか吐き出そうと頑張るが、アマテラスは出て来ない。
いくら胃袋を動かしても、出て来るのは唾液だけだった。
「オカシイナ・・・・。中デ何カガツッカエテルヨウナ・・・・・、」
ヒュドラは腹を動かし、身を捩って吐き出そうとする。
しかしどう頑張ってもアマテラスは出て来なかった。
「・・・マアイイカ。天使ニモ雌ハイルシ、交尾シテ喰ってヤル。」
ヒュドラは身体の向きを変え、群れの方に戻っていく。
しかし異変に気づいて、「アレ・・・?」と立ち止まった。
「ナンカ変ダナ・・・・。悪魔ドモガ大キクナッテル?」
群れにわんさかといる悪魔の兵隊たちが、いつの間にか大きくなっていた。
いや、悪魔だけではない。天使も神獣も、誰もが巨大化していた。
「ナ・・・ナンダア?ドウシテミンナ大キクナッテ・・・・・、」
そう呟いた時、腹の中に違和感が走った。
最初はムズムズとこそばゆく、やがてズキズキと痛みだす。
ヒュドラは不思議そうに首を捻り、また歩き出した。
「・・・・アレ?サッキヨリモ悪魔ガ大キクナッテル・・・。」
悪魔の兵隊は、先ほどよりも一回り大きくなっていた。
そして悪魔と戦う天使や神獣も、また巨大化していた。
「・・・・・・・マサカ?」
ヒュドラは自分の身体を見つめて、「ヤッパリ・・・・」と呟いた。
「周リガ大キクナッテルンジャナイ。俺ガ小サクナッテルンダ・・・。」
ヒュドラの身体は、元の大きさの半分くらいにまで縮んでいた。
そして今もどんどん縮んでいて、もう人間と変わらないほどの大きさになってしまった。
「ナ・・・ナンデダアアアア!?」
ヒュドラは絶叫する。元は巨人に匹敵するくらい大きかったのに、今では人間と変わらないサイズになってしまった。
どうしてこんな事になっているのか、首を捻って考える。
するとそこへ別の邪龍がやって来て、「んん〜?」とヒュドラを見つめた。
それはラードーンという名の邪龍で、100の頭を持つギリシャ神話の竜だった。
ラードーンは赤い鱗に小さな角を持ち、獰猛な顔つきをしていた。
そして縮んだヒュドラを見つめて「弟よ、その姿はどうした?」と尋ねた。
「兄チャン!分カンネエヨ!ナンカドンドン縮ンデイクンダ!」
「ほう。敵の呪いにでもかかったか?」
「サア?特ニソンナ覚ハナイケド・・・・、」
ヒュドラは困り果てたように言い、「雌ナラサッキ喰ッタケド」と答えた。
「どんな雌だ?」
「女神ダト思ウ。チビノクセニ自分カラ突進シテキタンダ。」
「それを飲み込んだのか?」
「マアナ。交尾シヨウト思ッタノニ台無シダ。」
「お前は何でも喰うからな。どれ、ちょっと見せてみろ。」
ラードーンに言われて、ヒュドラは口を開ける。
「どの口で飲み込んだんだ?」
「エエット・・・右カラ二番目。」
「・・・・・よく見えんな。もっと開けてみろ。」
ラードーンはさらに顔を近づけ、ヒュドラの口を覗きこむ。
するとその瞬間、ヒュドラはブルブルと震えだした。
「どうした弟よ。腹でも痛いのか?」
「・・・・・・・・・・。」
「おい?顔が真っ青だぞ?どうしたんだ?」
「・・・ウウ・・・・・。」
「ヒュドラよ。吐き出せ!その女神とやらを早く吐き出すんだ!」
様子がおかしくなっていくヒュドラを心配して、ラードーンは叫ぶ。
しかしヒュドラの震えは止まらない。ガクガクと顎を揺らし、白目を向いて痙攣する。
「おいヒュドラ!早く飲み込んだ雌を吐き・・・・・、」
そう言おうとした時、ヒュドラが「グオオオオオオオ!」と雄叫びを上げた。
そしてそのまま突進して、ラードーンの口の中に飛び込んだ。
「ムグ!・・・・・・・ググ。」
いきなり口の中に入って来たものだから、ラードーンはそのままヒュドラを飲み込んでしまう。
顔をしかめ「なんということだ・・・」と腹を撫でた。
「弟を飲み込んでしまった。アイツめ・・・きっと飲み込んだ女神に、呪いでもかけられたに違いない。何でもかんでも食べるからだ。」
ラードーンは呆れたように言い、「まあ食ってしまったものは仕方ない」とゲップをした。
「さて、まだまだ天使や神獣はいる。早い所蹴散らして、このインドがルシファー様のものだと教えてやらねば。その時、俺様は大出生間違いなし。きっと龍神に格上げしてもらえる。」
ラードーンの頭にあるのは、手柄を立てることだけだった。
今までは黄金のリンゴを守るだけの仕事だったので、いい加減もっと別のことをしたいと思っていたのだ。
「龍神になれば、きっと俺様も崇められるに違いない。使われる立場から、コキ使う立場へと変わるのだ。むはははは!」
弟を飲み込んだことなどもう忘れ、とにかく手柄を立てる為に暴れ回る。
天使を貪り、神獣を葬り、百の頭と巨体でもって、戦場を荒し回った。
しかしラードーンは気づかない。自分もまた、弟と同じように縮んでいることを。
それに気づかないまま戦い続け、違和感を覚えた時にはもう遅かった。
周りはみんな自分よりも大きくなっていて、「俺様もか!」と叫ぶ。
そして別の魔獣に見つかり、面白半分に食われてしまった。
その魔獣も時間と共に縮み、しかも誰か操られるように他の悪魔の口へ飛びこんでいく。
気がつけば、邪龍が二体、魔獣が三体、魔王が一体。そして兵隊の悪魔は100体もそうやって消えていった。
そして最後に飲み込んだのは、リッチというアンデッドだった。
リッチは魔術師がゾンビ化したもので、強力な魔法を操る恐ろしいアンデッドだった。
縮んだ悪魔を飲み込んでしまったリッチは、すぐに異変に気づいた。
飲み込んだ途端に、何者かに力を吸われている感覚があったからだ。
リッチは魔法を使い、自分の身体を隅々まで探ってみた。
すると小指ほどの小さな小さな女神が、自分の体内に宿っているのに気づいた。
その女神は白い羽衣で身体を覆い、手足を抱えて赤子のような姿で眠っている。
しかもリッチの魔力をどんどん吸い取っていた。
これは不味いと思ったリッチは、闇の魔術によって、その女神を葬ろうとした。
身体の中に毒蜘蛛を発生させて、女神を食らい尽そうとしたのである。
しかし・・・無理だった。女神を覆う羽衣は固く、毒蜘蛛では歯が立たない。
だから自分の手を突っ込み、どうにか外に引きずり出そうとした・・・・・が、これも無理だった。
その小さな女神に触れた途端、強烈な光で焼かれてしまったのだ。
リッチーは闇の魔法を得意とする為、光の力には弱かった。しかもこの女神が発する光は、太陽のように熱い光だった。
リッチは炎にも弱く、もはやこの女神を取り出す術はなかった。
どんどん力は吸い取られ、まともに魔法が使えなくなる。しかしなぜか身体は縮まなかった。
ただ力だけが吸い取られ、やがて意識まで乗っ取られてしまう。そしてフラフラと戦場を離れて行った。
まるで誰かに糸を引かれるように、真っ直ぐ歩くのもおぼつかない足取りで・・・。
リッチはふらふらと歩き続け、やがてロキの元までやって来た。
ロキはケルトの三人を人質に取り、部下に指示を出してルーと戦わせていた。
「やはり強いな、ケルトの太陽神。モリーアン、ターラカ、牛鬼を相手にしても引けを取らない。というより、人質がいなければとうにやられているか・・・。」
ロキはルーに交換条件を出していた。
武器を使わず戦い、モリーアン、ターラカ、牛鬼を倒してみせろと。
しかしそれでもルーの方が遥かに勝るので、サマエルからもらった輪っかで、ルーの足首を縛っていた。
さらに右腕も使用禁止にしているので、ルーは左腕だけで戦わなくてはいけない。
もちろん魔法も禁止なので、戦える手段は限られている。
左腕で殴るか、あるいは頭突きをかますか。足首は縛られているので、動く際はいちいち飛び跳ねないといけない。
しかしそんな不利な条件でも、ルーは二つ返事で頷いた。
それはこの戦いに勝利すれば、人質を返してやると言われたからだった。
不利なルールでの戦いは、人質解放の交換条件。
ルールを破って戦えば、その度に人質を殺されることになっていた。
ロキは狡猾なやり方でルーを追い込んだつもりだったが、少々計算が甘かった。
なぜならそれだけ不利な条件の中でも、ルーは平気な顔で戦っていたからだ。
巧みに身体を動かし、華麗に攻撃を捌いていく。
しかも素手の攻撃力も半端ではなく、軽いジャブだけで牛鬼の足が三本も吹き飛んでしまうほどだった。
もはや牛鬼が討ち取られるのは時間の問題で、ターラカもかなり怪しくなっていた。
自慢の怪力でどうにか持ち堪えているが、手にした出刃包丁はボロボロに砕かれていた。
しかもルーの攻撃を防ぐたびに、骨がミシミシと軋んでいる。
「ターラカも駄目だな。まあしょせん、牛鬼もターラカも力だけの悪魔だ。もしターラカがやられたら、次の作戦に移るとしよう。」
ロキは親指の爪を噛み、陰険な目で笑った。
そしてふと横を見た時、リッチが立っているのに気づいた。
「なんだゾンビ?何を勝手に前線を離れている?さっさと戻って戦え。」
ロキは高圧的な口調で命令する。
いかにリッチが強力なアンデッドであろうと、ロキのような高位の魔王からすれば、取るに足らない存在である。
ロキはすぐにルーに視線を戻し、その戦いぶりを観察した。
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・おい、いつまでそこにいる気だ?気が散るだろうが。」
立ち去らないリッチに腹を立て、ロキは前を向いたまま言った。
「命令に従わないのなら、塵一つ残さず消すだけだぞ。アンデッドといえども、葬る手段などいくらでもあるのだからな。」
そう言って脅しても、リッチは微動だにしない。それどころか、手にした杖を掲げて、ロキを睨みつけた。
「反抗する気か?お前ごときゾンビが。」
挑発的な態度に、ロキはギロリと目を向ける。
しかしすぐに異変に気づいて、「お前・・・・操られているのか?」と尋ねた。
「お前の中から、嫌な気配を感じるぞ。誰かに乗っ取られているんじゃないか?」
「・・・・・・・・・・・。」
「返事は無し。もはや自我はないようだな。」
ロキはリッチの前に立ち、懐から銀色の輪っかを取り出した。
それはルーの足を縛っている輪っかと同じ物で、指でクルクルと回しながら投げつけた。
銀の輪っかはニョキニョキと大きくなり、リッチを締め上げる。
ロキはその隙に杖を奪い取り、リッチの腹に向けた。
「そこにいるのは分かってるぞ。さっさと出て来い。」
「・・・・・・・・・・・。」
「しらけるつもりか?ならこのまま貫いてやろう。」
ロキは手にした杖を逆さに持ち替え、尖った先端を突き刺した。
リッチの黒いローブが破れ、肋骨が折れて背中まで貫通する。
するとその瞬間、リッチは口を開けて、中から茶緑色の勾玉を吐き出した。
そしてそのまま崩れ落ちて、リッチは砂となって消えてしまった。
ロキは地面に落ちた勾玉を睨み、「これか・・・」と手を伸ばした。
しかし危険な雰囲気を感じて、その手を止める。そしてリッチの杖で、思い切り叩きつけた。
ゴリ!と鈍い音が鳴るが、勾玉は傷一つつかない。それどころか、杖の方が折れてしまった。
「随分と硬いようだな。隠れてないで出て来い。」
そう言って足で踏みつけ、グリグリと動かした。
「いつまでも隠れるつもりなら、このまま壊すぞ?」
ロキは手を開き、親指と人差し指の間に、小さな氷を生み出した。
それをポトリと地面に落とすと、強烈な冷気が広がり、凍てつく風が吹き荒れた。
地面に落ちた勾玉も、真っ白に凍って霜が付いていた。
ロキは足を上げ、ブーツの先を突き破って、爪を伸ばした。
そしてその爪で勾玉を踏みつけ、ガリガリと動かして、粉々に砕いてしまった。
「死んだか?」
地面に膝をつき、顔を寄せて覗きこむ。
すると粉々になった勾玉は、まるで磁石に引き寄せられるように、ピタリと元に戻った。
そして粘土のようにグニャグニャと動いて、その形を変えていった。
ロキは「死んでないのか」と警戒し、また指の間に氷を生み出した。
それを指で弾いて飛ばすと、先ほどよりも強烈な冷気が広がった。
地面だけでなく、空気まで凍って霜が舞う。
辺りには冷気が立ち込め、もうもうと白い煙が上がった。
しかし粘土のようになった勾玉は傷つかない。中から太陽のように眩い光を放ち、ロキを退かせた。
「うおおおおおお!これは・・・・太陽の光!ということはどこぞの太陽神か!?」
勾玉から放たれる光は、灼熱のごとく辺りを燃やす。
霜は蒸発し、凍った地面も瞬く間に溶けていった。
ロキは「これしき!」と叫び、懐からドラムのスティックを取り出した。
そのスティックで地面を叩くと、大地が振動して波のようにうねった。
勾玉はその波で宙へ舞い上げられるが、まだグニョグニョと動いている。
そしてだんだんと人の姿に変わっていき、目も開けられないほど眩く輝いた。
「なんという光・・・・そしてなんという力・・・・。まだこれほどの力を持った神が残っていたとは・・・、」
ロキは驚き、目を見開いてその光を見つめる。
今目の前に現れようとしている神は、ロキですら警戒を抱くほどの者だった。
「これほどの力を持つ神・・・なぜ地上にいる?海底の決戦で、全て牢獄に閉じ込めたはずだぞ。」
ほとんどの神々は、ルシファーとサタン、それにベルゼブブによって牢獄へ送られた。
ならばこの神はいったい何者なのか?
ロキは困惑し、「姿を見せろ!」と吠えた。
勾玉はまだ粘土のように動いていて、じょじょに人の形になりつつある。
そして眩い光を放って、アマテラスが現れた。
「き・・・・貴様はアマテラス!?どうしてここにいる!?海底の決戦で葬られたはずでは・・・・、」
驚くロキに対し、アマテラスはニコリと笑ってみせる。
そして白い羽衣を翻し、大地に降り立った。
「お前の言う通り、わらわは確かに牢獄へ送られた。しかしサタンの手によって、こうして地上に戻ることが出来たのじゃ。」
「さ・・・サタン様が?」
「あやつはわらわを牢獄から引きずり出し、オモチャのようにいたぶりおった。しかし仲間が助けてくれたおかげで、こうして戻って来ることが出来た。」
「な・・・・なんて事だ・・・。せっかく邪魔な神々を封じ込めたというのに・・・・。サタンの馬鹿女め・・・余計なことを・・・・、」
そう言いかけて、ロキはハッと口を噤んだ。
「どうした?なぜ急に黙る?」
「あ・・・いや・・・・、」
「今の言葉・・・サタンをなじるものであったな?」
「そ、そんなことはない!この俺がサタン様をなじるはずが・・・・、」
「いいや、わらわは確かに聞いた。あの馬鹿女とな。」
「い・・・いや、だからそれは・・・・、」
ロキは真っ青な顔になって、ダラダラと冷や汗を掻く。目が宙を彷徨い、何度も唾を飲み込んでいる。
「ふふふ、よほどサタンが怖いと見えるな。」
「・・・・・・・・・・・。」
「まあ仕方なかろう。あやつは悪魔の中でも特に冷酷非道じゃ。それにルシファーに匹敵する力を持っておる。怖がらぬ方がおかしいというものぞ?」
「だ・・・・黙れ・・・・。知ったようなことを・・・・、」
ロキは怒りのこもった目で睨につける。するとアマテラスは口元に指を当て、「告げ口しちゃおっかな〜」とわざとらしく言った。
「ちゅ・・つ・・ちゅ・・・つ・・・告げ口だと!?」
「だって聞いちゃったしい〜。これ聞いたら、きっとあの女は怒るだろうな〜。」
「な・・・何おう・・・・。この俺を脅す気か!?」
「私も同じ女として、陰口なんて言う男は最低って思うな〜。だからこれ告げ口しちゃったら、あんたねえ・・・・どうなることやら・・・・。」
アマテラスは目を細め、チラリとロキを見る。そして「きっと死ぬより辛い目に遭うんだろうなあ・・・・可哀想」とわざとらしく言った。
「ぐ・・・ぬ・・・おお・・・・。き、貴様という女はあ・・・・・・、」
「陰口なんか言う男の方が悪いんでしょ?しかも敵の前で堂々と。こっちにキレられてもねえ。」
アマテラスはそう言いながら、退屈そうに枝毛をいじっていた。
「こ・・・この女あ・・・・・俺をコケにする気か!!」
ロキは鼻血を吹き出す勢いで怒り、両手のスティックを振り回した。
「誰が告げ口などさせるものか!貴様はここで死ね!!」
二本のスティックを高速で回しながら、思い切り地面を叩きつける。
すると大地震が起きて、大地がガラスのように割れていった。
「この大地の下・・・・何かおるな?」
アマテラスは咄嗟に飛び上がり、剣を逆手に構えた。
「姿を見せよ!」
そう叫びながら地面を突き刺すと、大きな雄叫びが響いた。
「ぬうううおおおおお!!」
割れた大地の中から声が響き、さらに大地が揺れる。
ロキは「ちょっと早いが、伏兵を使わせてもらう」と笑った。
「出て来い!ヨルムガント!!」
するとまた「ぬううおおおおお!」と雄叫びが響いた。
そして大地を突き破って、とてつもなく巨大な蛇が現れた。
その全長は10キロはあろうかというほどで、全身が茶色い鱗で覆われていた。
目は赤黒く、長い牙が口からはみ出している。そしてその牙の先からは、黄色に滲んだ毒液が垂れていた。
その毒は神でも簡単に殺せるほどの猛毒で、ヨルムガント最大の武器である。
ロキはヨルムガントの頭の上に乗り、「どうだ俺の息子は!イカすだろう?」と笑った。
「コイツは神でも瞬殺できる猛毒を持つぞ!貴様にその毒を浴びせてやろう!」
そう言ってスティックでヨルムガントの頭を叩くと、アマテラスに牙を向けた。
「やれ!アマテラスを葬れ!」
「ぬううおおおおお!!」
ヨルムガントは身体を震わせ、牙の先から毒を放とうとする。
しかしアマテラスは「笑止!」と叫び、自分の髪を三本抜いた。
それを白い羽衣に巻きつけると、ダイアモンドのように硬くなった。しかも透明な液体がべったりとついていて、気味悪く滴っている。
「猛毒ならわらわも持っている!とくと味わえ!」
ダイアのように硬くした髪を、羽衣に巻きつけて飛ばす。
するとヨルムガントの口の中に突き刺さり、頭の中までめり込んだ。
「はははは!馬鹿か貴様!10キロもある大蛇だぞ?そんな程度の攻撃で・・・・・、」
ロキは高らかに笑う。しかしヨルムガントの様子がおかしいことに気づき、「どうした?」と顔をしかめた。
「・・・・・ぬう・・・・おお。」
「おい!我が息子よ!何をしている?その程度の攻撃は効くまい?」
「ご・・・・・ああ・・・・。」
「・・・・ヨルムガント?」
「・・・・・ごおおお・・・・ぐっぎゃあああああああ!!」
ヨルムガントは地鳴りのような声で叫び、ブルブルと痙攣する。
そして白目を向いて、天に向かって口を開けた。
「ぎゃあああああああああ・・・・・ぐばあ!!」
「うおおおおお!空に向かって毒を吐くな!!」
ロキは慌ててヨルムガントから離れる。
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
ヨルムガントは毒を吐き続け、その毒は天高く昇っていく。
そして触れただけで即死するような猛毒が、死の雨となって降り注いだ。
ロキは氷の壁で身を守り、アマテラスは羽衣をマントのようにして毒を防いだ。
「あああっぎゃあああああああ・・・ああ・・・あ・・・ああ・・・・・。」
ヨルムガントはひたすら毒を吐き続け、遂には全ての毒を吐き出してしまった。
ガクガクと痙攣しながら、口を開けたまま泡を吹く。そしてそのまま大地に倒れ込んでしまった。
10キロもある巨体が倒れた為に、地割れはさらに酷くなる。
大地は揺らぎ、地割れが広がって、大きな大きな海溝のような溝が出来た。
ヨルムガントはその溝に飲み込まれ、そのまま絶命してしまった。
ロキはヒビ割れた大地に立ち、「なぜだ・・・・」と呟いた。
「ヨルムガントはトールとも相討ちになるほどの猛者だぞ!それがどうして・・・・、」
「毒じゃ。」
アマテラスは宙に浮きながら、強い目でロキを見下ろした。
「わらわも毒を使ったのじゃ。ヒュドラの毒をな。」
「ひゅ・・・ヒュドラだと?」
「わらわはこの羽衣により、敵の力を吸い取ることが出来る。だからヒュドラの中に入り込み、その毒を宿したというわけじゃ。」
「ば・・・馬鹿な!奴の毒も猛毒だぞ!!それも巨神を殺せるほどの!それを吸い取ったというのか!?」
「わらわは融合が得意でな。だから敵の体内に入り、この羽衣に毒を融合させたわけじゃ。もっとも・・・吸い取った力を使えるのは一度切りじゃがな。」
「なんという・・・・・。貴様!いったいどれほどの力を吸い取った!?先ほどはリッチに取りついていたようだが・・・・他にも吸い取っているんだろう!?」
「さあのう。それをお前に教える義理はないと思うが?」
アマテラスは微笑み、遠くに横たわるケルトの神々を見つめた。
「可哀想に・・・皆ひどく痛めつけられておるな。早く手当てをせねば、いずれ息絶えてしまう。」
クー・フーリン、アリアンロッド、スカアハ。ケルトの三人は無惨に敗北し、気を失って横たわっている。
三人の命の灯は消えかかっていて、このまま放っておいては、近いうちに死ぬことは目に見えていた。
「魔王ロキよ、相も変わらず卑劣な戦法よな。どうせあの三人は人質か何かなのだろう?」
「その通りだ。あのルーとかいう男を抑える為のな。」
「ほう?ルーをなあ。しかし・・・それはあまり良い策とは言えぬな。」
「どういうことだ?」
「どうもこうも・・・・・ルーは人質程度で大人しくなるようなタマではないぞ。」
「何を言うか。奴は交換条件を飲んだのだぞ。人質を解放したければ、不利なルールで戦えという条件を・・・・、」
そう言いかけた時、ロキの背後に巨大な影が降り立った。
ズズン!と大地が揺らぎ、辺りに殺気が立ち込める。
ロキはまさかと思い、恐る恐る振り返った。
するとそこには、ターラカ、牛鬼、そして二体の魔獣の生首を持ったルーが立っていた。

公園と神社

  • 2015.05.31 Sunday
  • 10:51
JUGEMテーマ:神社仏閣


誰もいない公園。
遊ぶ人のいない公園は寂しいものです。





子供の頃はよく水道水を飲んでいました。
蛇口をひねって、真上に飛び出す水をゴクゴク飲む。
今は衛生面に気を遣って、飲む子供も少ないかもしれませんね。





木陰の砂場。
葉が落ちて、なんだか寂しい感じがします。
昔ここで犬を拾ったんです。

あれままだ小学生の頃で、ほとんど友達のいない私の支えになってくれました。




公園ってよく神社が建っています。
この公園にも神社があって、お参りをさせて頂きました。







こういった小さな神社にも、ちゃんと綱と鐘が下がっています。
神社の造りはほとんど共通しているけど、神社そのものには個性があるんですよ。








鳥居に灯篭。石を削って造ったものは、長く形を保ちます。
きっとこの神社の神様は、長くこの場所に祭られていて、公園で遊ぶ子供たちを見守っていたんでしょうね。





鳥居のすぐ傍には、大きな木が立っていました。
きっと御神木だと思います。

神社を守るように、悠然とそびえていました。
公園と神社。
遊ぶ場所とお参りする場所。
二つの場所が、同じ場所にある。
祭られた神様が、公園で遊ぶ子供たちを守ってくれているのかもしれませんね。

 

ピエロ恐怖症

  • 2015.05.31 Sunday
  • 10:36
JUGEMテーマ:社会の出来事
ピエロ恐怖症というのがあるそうです。
ピエロの顔を見ただけで、震えが止まらなくなったり、酷い時には呼吸困難になったり。
パニックを起こすほど怖がる人もいるそうです。
原因ははっきりとは解明されていないそうですが、幼少期にピエロのトラウマを抱えてしまったのが原因ではないかと言われています。
恐ろしいピエロが出て来る映画で、「IT」というのがあります。
最近この映画を観たんですが、確かに不気味だなと思いました。
しかし怖いかと聞かれれば、別にそうでもないような・・・・。
きっと私が大人だからでしょう。
もし子供の頃にこの映画を観ていたら、ピエロが怖くなっていたかもしれません。
ピエロが怖いという感覚はよく分かりませんが、不気味という感覚はよく分かります。
いつでも笑っていて、おどけた動きをしていますよね。
そのメイクはこれでもかというほどひょうきんで、白塗りの顔に、やたらと小さな目をしています。
だけど口は大きく、明太子かと思うほど分厚い唇をしていますよ。
服はダボダボのパジャマのようで、曲芸が得意な印象を受けます。
ピエロは日本語で「道化」と言いますが、これはいわゆる「笑い者」とか「晒し者」って意味です。
「道化を演じる」って言い方がありますが、「演じる」ってことは、本人は至って普通の人間ってことです。
あえて「笑い者」や「晒し者」になり、人目を惹きつけるのが道化の役割です。
これは根っからの変な奴ではないってことを意味しています。
本当はまともな人間なのに、目的の為にあえて「笑い者」や「晒し者」になる。
そういう部分もまた、不気味に感じる原因かもしれません。
ピエロ恐怖症を持つ人は大変だそうで、実物のピエロはもちろんのこと、写真やイラストも受け付けないそうです。
とにかくピエロの顔を見ると、パニックになったり震えたり、失神までする人もいるそうです。
私はピエロ恐怖症は持っていないけど、高所恐怖症は持っています。
だから恐怖症に悩まされる気持ちは、すごくよく分かります。
「たかがピエロの何が怖いんだ?」なんて思いません。
だって私も、脚立に上るのさえ怖いから。
たかが脚立くらいでと思うなかれ!
高所恐怖症の人間というのは、基本的に地面に両足が着いていないと駄目なんです。
階段や建物の中なら、高い所にいても平気です。
でも不安定な足場、ほそい足場の場合だと、地面から50センチ離れるだけでも怖いと感じます。
だからピエロのイラストで震える人がいたとしても、その気持ちはよく分かります。
ピエロは怖くないけど、恐怖症が怖いのはよく分かりますから。
ピエロはいつだってひょうきんで、いつだって笑顔です。
ピエロ恐怖症の人にとっては、きっと笑顔を振りまく悪魔に見えるんでしょうね。
辛いと思うけど、なるべくピエロの顔を視界に入れないようにするしか、方法がないでしょう。
高所恐怖症の人間が、少しでも高い所を避けるように。
一部の人にとっては、悪魔にしか見えないピエロという存在。
だけどピエロから笑顔が消えたら、それはそれでまた不気味でしょうね。

ダナエの神話〜魔性の星〜 第四十話 太陽神ルー(8)

  • 2015.05.30 Saturday
  • 12:27
JUGEMテーマ:自作小説
黒い毬藻の中から出て来たのは、ボロボロに傷ついた鳳竜だった。
装甲がほとんど剥がれ落ちて、中の機械部分が剥き出しになっている。
全身にヒビが入り、両肩のガトリングが破壊されている。
しかしまだ完全には壊れていないようで、わずかに目が光っていた。
「鳳竜よ、いったい何があったのだ?この毬藻のような物は、いったい何なのだ?」
「グウウウ・・・・・、」
「かなりダメージを負っているな。しかし残念ながら、私の力では治せない。」
メタトロンは鳳竜を抱えながら、どうにかして詳しい説明が聞けないものかと思った。
鳳竜はかなり傷ついていて、いつ機能を停止してもおかしくない。そうなる前に、何があったのか聞き出さなければならなかった。
「鳳竜よ・・・・お前はいったい何を見たのだ?どうしてそこまで傷ついている?それにクトゥルーとスクナヒコナはどこへ行った?」
「・・・・・・・・・・。」
「マズイな。もう限界が来ているのか・・・。」
鳳竜は小さく口を動かしながら、だんだんと目の光が弱くなっていく。
そして完全に機能を停止しようとした時、二つの目が突然輝きだした。
「ど、どうしたというのだ!?鳳竜の中から、大きな力が溢れている。」
鳳竜の目はさらに輝きを増し、やがて身体全体が光に包まれた。
そして目の中から二つの光の玉が飛び出し、グルグルと回り始めた。
「この気配は・・・・・神獣のものか?」
鳳竜から出て来た二つの光は、じょじょにその姿を変えていく。
一つは鳥の姿に、そしてもう一つは龍の姿に変わり、眩く光ってから、完全にその姿を現した。
「おお!これは鳳凰ではないか!その隣にいるのは白い龍か?」
メタトロンは鳳竜を地面に下ろし、二匹の神獣を見つめた。
すると鳥の姿をした神獣が、「私の名は鳳凰。機械竜を動かす心臓の一つでございます」と名乗った。
鳳凰は孔雀のような美しい鳥で、全身がキラキラと宝石のように輝いていた。
特に尾羽は美しく、孔雀模様に染められた天女の羽衣のようだった。
そして鳳凰の隣には、一点の曇りもない真っ白な龍がいた。
白い鱗に白い髭。そして白いタテガミに白い瞳。
その白は恐いほど美しく、そして氷のように冷たい印象を抱かせるものだった。
「・・・・・・・・・・・・・。」
白い龍は喋らない。ただじっとメタトロンを見つめている。だから代わりに鳳凰が喋った。
「こちらは白龍。龍神の仲間でございます。」
「ほう、龍神か。ならば黄龍の同胞だな。」
「ええ。私たちは二身一体となって、鳳竜を動かしているのでございます。」
「先ほど心臓の役目を果たしていると言ったが・・・・要するに動力のようなものか?」
「そう受け取って頂いて構いません。鳳竜は人間と神獣によって生み出された竜です。機械の身体は人間が造り、それを動かす力は私たちが与えているのです。」
「ふむ。ならば今の鳳竜は、魂の抜けた殻のようなものということか。」
「いいえ、この機械竜には自分の意志がございます。私たちはあくまで力を与えているに過ぎません。しかし私たちがいなければ、鳳竜の力は普通の兵器と大差ない物になってしまうのです。」
「要するにハードは人間が造り、ソフトは神獣の力によって成り立っているわけか。」
「パーソナルコンピューターのことでございますね?その例え方、間違ってはおりませんよ。」
鳳凰はニコリと頷き、ゆるりと尾羽を振った。
「私たちがこうして出て来たのは、あなた様にお伝えしたいことがあるからです。」
「私に伝えたいこと?その前に私からも聞きたいことが・・・・、」
メタトロンが口を開きかけると、鳳凰は「分かっております」と頷いた。
「なぜこのような事態になったのか、それをお知りになりたいのでしょう?」
「そうだ。ここは祠の建つ神聖な雲だったはずだ。生き残ったこの星の命が守られ、そして私の仲間もいたはずだ。それがこのような姿になってしまって・・・・、」
メタトロンは頭上を見上げ、空を覆う藻に顔をしかめた。
「人間たちは藻の巨人になっているし、鳳竜が造られた祠も無くなっている。何もかもが以前とは変わってしまった。
残っているものといえば、この美しい景色のみ。これはいったいどういうことなのだ?」
悲しそうに言いながら、周りに手を向けるメタトロン。すると鳳凰は首を振り、「これは月からの侵略なのです」と答えた。
「月?月とは・・・あの月のことか?」
「そうです。天に浮かぶ、あの月のことです。」
そう答えると、メタトロンは「馬鹿な」と笑った。
「いま月にいるのは、私たちの仲間であるぞ。天使に死神、そして月の妖精だけだ。その者たちが、地球を侵略しに来たとでもいうのか?」
皮肉っぽい口調で尋ねると、鳳凰は「そうではありません」と答えた。
「あなた様の仲間が、侵略などしようはずがありません。」
「ならばどういうことだ?お主は先ほど、月からの侵略と言ったではないか?」
「申しました。しかしそれは、天使でもなければ死神でもなく、ましてや月の妖精でもありません。」
「ではいったい誰だと言うのだ?」
メタトロンは少々苛立ちながら尋ねた。鳳凰はとても丁寧な口調で話すが、ややもったいぶった答え方をする。
そのことが腹立たしく感じて、「私の質問に答えるのだ」と強い語気で言った。
「悠長に話している時間はない。この地球は今、悪魔との決戦に臨んでいる。それはお主も知っていよう?」
「ええ、もちろんです。」
「だったら早く答えて・・・・、」
「月が侵略されたのです。」
「何?」
「月にはもう、あなた様の仲間はおりません。天使も死神も、そして妖精さえも、全て滅ぼされました。」
「な・・・何を馬鹿な!?我が同胞たちが滅ぼされただと!いったい誰に!?」
「邪神です。」
「邪神・・・?」
「ラシルの邪神、クイン・ダガダによって滅ぼされました。」
「く・・・・クイン・ダガダだとおおおお!!」
メタトロンは雷のような声で叫び、「馬鹿な!!」と怒った。
「奴はラシルにいるはずだ!どうして月を侵略することが出来る!?」
「それは宇宙の海を通って来たからです。」
「う・・・宇宙の海・・・・・。」
「そうです。空想と現実の狭間に流れる、二つの世界が溶けあった、たゆたう空間。あそこを通れば、距離など関係ありません。
同じ銀河内であれば、瞬く間に移動できます。天使の長たるあなたなら、ご存知のはずです。」
「・・・・・・・・・・・。」
「言葉を失くされるのも無理はありません。本来あそこを通れるのは、ごく限られた者のみ。この地球だと、黄龍、燭龍、九頭龍の三大龍神だけでしょう。天使の長たるあなたでも、おそらく宇宙の海を渡ることは不可能なはず。」
「・・・・当然だ。宇宙の海とは、空想と現実が溶けあった、二つの世界の狭間にある空間だ。あれはこの世界が誕生した原始のなごり。あんな場所に足を踏み入れたら、途端に溶けてなくなってしまうであろう。」
「その通りです。そして宇宙の海は血管のように、この銀河全体に巡っています。あの場所がなければ、空想と現実は激しくぶつかり合い、やがて混沌とした原始の世界に戻ってしまうでしょう。」
「うむ。いわばあれは、空想と現実のバランスを保つ、緩衝地帯のようなものだ。ゆえに三大龍神のように、原始的なエネルギーである『波の気』を扱える者でなければ、あの場所を通ることは出来ない。」
「仰るとおりでございます。だからこそクイン・ダガダは、宇宙の海を通る事が出来ました。」
「む?何を言っておるか分からぬな。クインが『波の気』を扱えるなど聞いたことが・・・・・・、」
そう言いかけた時、メタトロンはハッと気づいて口を噤んだ。
「お気づきになりましたか?」
「・・・・・・・・・・。」
「クインは今、九頭龍の身体を乗っ取っているのです。であれば、宇宙の海を通ることは可能です。」
「・・・な・・・・なんということだ・・・・・。」
メタトロンは頭を押さえ、「そんな・・・・そんな基本的なことを失念していたとは・・・・、」と嘆いた。
「そうだった・・・。奴は九頭龍の身体を乗っ取っているのだった・・・。」
そう呟いた後、「いや、しかし・・・それはあくまで可能性の話だったはずだ・・・・」と顔を上げた。
「黄龍は、もしかしたら九頭龍がクインに取り憑かれたかもしれぬと言っていた。あの推測は当たっていたというわけだな?」
「そのようです。クインは月を侵略したあと、ここへ訪れました。なぜならここの祠には、クインの興味を引く物があったからです。」
鳳凰はそう言って、後ろの黒い毬藻を振り返った。
「これは人間が造った兵器です。神獣から授かった知恵を用いて、第二の鳳竜を造ろうと企んだのです。」
「第二の鳳竜か・・・・。似ても似つかぬが・・・・失敗作ということか?」
「いえ、これでいいのです。この毬藻は、あらゆるモノの心臓になる力を持った兵器。機械ではなく、生命を武器にする、生物兵器というものです。」
「生物兵器だと・・・・?」
「はい。この雲が毬藻のようになってしまったのは、この生物兵器が心臓の役割を果たしているからです。心臓とは、その生命の生殺を握る核、そして命を維持させる器官です。だからこの毬藻に取りつかれると、命がないモノに、命を吹き込むことが可能というわけです。」
「なるほど・・・・人間たちはその毬藻を用い、無機物に命を与えて武器にするつもりだったのだな?」
「そういう兵器と考えて頂いて、間違いありません。」
「人間め・・・・命の無い物に命を与えるなど、まるで神の真似事ではないか。思い上がった行為をしおって・・・。黄龍はこうなることを予測しなかったのか?人間は力を与えすぎると、ロクな真似しかしない生き物だというのに。」
メタトロンは怒りと落胆を覚え、「それで・・・クインは?」と尋ねた。
「クイン・ダガダはもうここにはおらぬのか?」
「はい、またラシルへ戻ったようです。」
「それは理屈に合わんな。奴はこの毬藻を奪いに来たのだろう?ならばどうして持ち去らなかった?」
「いいえ、この毬藻はすでにクインの手に落ちています。もはや彼女の言うこと以外は聞かないでしょう。」
「なんと!ではこの毬藻は、すでに邪神の手駒というのか!?」
「残念ながら・・・・。」
鳳凰は目を瞑り、悲しそうに首を振った。
「クトゥルーもスクナヒコナも、必死に邪神に応戦したのです。もちろん私共も・・・・。」
そう言って白竜の方を見つめ、また悲しそうに目を閉じた。
「しかし相手はあの邪神。クトゥルーとスクナヒコナは神殺しの神器に討ち取られ、私共もこのように敗北を・・・・、」
鳳凰は鳳竜に目を向け、悲しそうな視線を投げかけた。
「以前の邪神なら、私共でも勝てたでしょう。彼女の切り札である神殺しの神器は、私共には通じませんから。」
「そうだな。神獣と機械竜。どちらも神殺しの神器は受け付けまい。しかし今の邪神は・・・・・、」
「ええ、九頭竜を乗っ取っています。私共では到底歯が立ちませんでした。こうして生きていられるのは、鳳竜がその身を盾にして守ってくれたから・・・。機械というのに、並々ならぬ強い意志を持った竜です・・・。」
ボロボロに傷ついた鳳竜を見つめながら、鳳凰はそっと尾羽で撫でた。
「もうじき鳳竜は寿命を迎えるでしょう。」
「そのようだな。目に力が無くなっている。」
「鳳竜はよく戦いました。どうにかして皆を守ろうと、持てる力の全てで戦いを挑んだのです。しかし・・・・邪神は強かった。クトゥルー、スクナヒコナに続き、鳳竜までもが負けてしまったのです。後はご覧のありさま。黒い毬藻は糸を伸ばし、この雲の心臓となりました。そして人間は藻に浸食されて、化け物に変わってしまった。その他の動物は養分として吸収され、ここには植物以外の生命はおりません。」
鳳凰は邪神が襲来して来た時のことを思い出し、辛そうに目を閉じた。
忘れようとしても忘れられない、凄惨な光景。
邪神のあまりの力の前に、ここに生き残った多くの命が消えていった。
人間は藻に犯され、醜い化け物に変わってしまった。
その中には必死に家族の名前を叫ぶ者もいた。『ヒロオミ・・・ヒロオミ・・・』と。
そして馬や像、虎や熊も、藻の中に吸収されてしまった。
鳥も魚も、そして虫までもが、毬藻の養分となって消えていった。
多くの生命が蹂躙される、地獄のような光景と叫び。それは鳳凰の目と耳にこびりついていて、激しい悲しみと怒りが湧いてきた。
そしてそんな激しい感情を飲み込むように、目を閉じて黙っていた。
「鳳凰よ、相手はあの邪神だ。何も出来なかったとしても、あまり自分を責めてはならぬ。」
「・・・・・分かっております。」
「ではお主の伝えたい事というのは、それだけだな?」
「ええ。」
「ならばいくつか質問なのだが、どうして植物だけ生き残っているのだ?」
そう言いながら、メタトロンは周りの美しい景色に目を向けた。
「人間も動物も、そして魚や虫さえも消えたというのに、なぜ植物だけが残っている?」
祠の雲は、毬藻に浸食された後でも美しい景色を残していた。
大地に広がる一面の緑。緩やかな丘に咲く花々。
それに小さな森もそのまま残っていて、植物だけは傷一つなく無事だった。
「人間や動物だけが消え、草や木、花は残っている。それに・・・・・海も川も綺麗なままだ。これはクインがわざとそうしたのか?」
「そのようです。クインはあえて植物を残し、自然を綺麗なままに保ったように感じられました。」
「ふうむ・・・あの邪神がそのようなことを。いったいなぜ・・・・?」
クインが残虐非道な邪神であることは、メタトロンもよく知っていた。
だからこそ、なぜ川や海や植物を傷つけなかったのか、謎だった。
腕組みをしてじっと考え込んでいると、「これは私の推測ですが・・・・、」と鳳凰が口を開いた。
「クインは、ここを第二の故郷にしようとしているのではないかと。」
「第二の故郷?」
「明確な根拠はありませんが、どうもそう感じられたのです。そして、そう推測するに当たる理由があります。」
「ほう、それはどのような理由か?」
「クインは九頭龍を乗っ取ることに成功しました。しかしその力は、想像を絶するほど大きかった。だから上手く扱う事が出来なかったであろうと思います。」
「それはそうだろう。九頭龍はこの星の大地を支える龍神だ。単純なパワーだけなら、三大龍神の中で最も強いのだから。」
「ええ。ですからクインは、自分の星を滅茶苦茶に壊してしまった可能性があるかと。」
「なるほど。九頭龍のパワーを持て余し、ラシルを荒らしてしまったということか。充分考えられるな。何せあの龍神のパワーは桁外れだ。身動ぎ一つで、小さな島なら沈んでしまうだろう。」
「そうです。だからラシルの自然を破壊してしまい、荒野のような星に変えてしまった。いずれは自然が復活するとしても、それまでには膨大な時間がかかる。だから地球を第二の故郷にしようと企んだ・・・・。私はそう推測しています。」
「うむ。それなら理屈に合うな。・・・・・そう考えると、この雲はモデルケースというわけか?」
「そう思います。とりあえずここの自然を残しておいて、自分の星から幾つか動物を連れて来るつもりなのでしょう。そして地球に馴染むか観察し、適応しそうであれば大量に移住させる。それが実行されれば、地球はラシルに生まれ変わってしまうわけです。」
「邪神め・・・・なんという企みを・・・・・。何もかも自分の思い通りに変えようというのか。」
メタトロンはギリギリと歯を食いしばり、「この毬藻・・・・どうにかせねばならんな」と睨んだ。
「コイツが生きている限りは、邪神の意志の元に悪さを働くだろう。すぐに破壊せねば。」
そう言って脇に拳を構え、リュケイオン光弾を撃とうとした。
しかし鳳凰が「おやめなさい!」と叫んだ。
翼を広げ、毬藻を守るように立ちはだかる。
「鳳凰よ!なぜその毬藻を守る!?まさかお前も邪神に支配されて・・・・、」
「そうではありません。この毬藻をよくご覧なさい。」
鳳凰のあまりの剣幕に、メタトロンは拳を下ろした。
「いったいなんだというのだ・・・・?」
そう呟きながら毬藻を睨むと、そこには恐ろしい物が浮かんでいた。
「あれは・・・・指輪?」
毬藻の前には、黒光りする小さな指輪が浮かんでいた。
その指輪は恐ろしいほどの邪気を放っていて、メタトロンでさえも寒気を感じた。
「これは・・・・神殺しの神器ではないか!」
「そうです。この黒い毬藻の中には、神殺しの神器の一つが宿っているのです。もし迂闊に手を出せば、あなた様は死んでいたでしょう。」
「なんと・・・・邪神め!」
メタトロンは悔しそうに歯ぎしりをして、「お主たちでどうにか出来んのか!?」と叫んだ。
「あれは神獣には効かぬはずだ。ならばお主たちで・・・・、」
「無理です。」
「なぜだ!?」
「この黒い毬藻、そう弱くはありません。」
そう言って、毬藻から伸びる紐を見つめた。
「迂闊に攻撃すると、あの紐で巻かれてしまいます。そして毬藻の中に取り込まれ、あっという間に吸収されてしまうでしょう。」
「ならば・・・どうすれば破壊できるというのだ!?」
「神殺しの神器が効かず、それでいてこの毬藻より強い者でないと、破壊することは無理でしょう。しかしこの兵器は生き物。放っておけばどんどん力を増していきます。やがては誰も倒せない怪物になる恐れも・・・・、」
「ならば尚のこと早く破壊しなければ!私はインドへ赴き、黄龍を呼び戻す。あやつならこんな毬藻程度、楽に破壊出来よう。」
「・・・・そう上手くいくといいのですが・・・・。」
「なんだ?含みのある言い方だな。もしやお主・・・・何かを隠しておるのか?」
メタトロンは鳳凰に詰め寄り、ギロリと睨んだ。
「知っていることがあるなら教えてもらおう。拒否は許さぬぞ。」
そう言って威圧すると、「隠すつもりなどございません」と答えた。
「誤解の無きように言っておきますが、黄龍は必ずしもあなた方の味方というわけではありまんよ。」
「ほう・・・それはどういう意味か?」
「黄龍は誰の味方でもないという意味です。神の味方でもなければ、人間の味方でもありません。もちろん悪魔の味方をすることもありません。黄龍が最も大切にしているのは、この星そのものなのです。」
鳳凰はそう言って、地球全体を示すように翼を広げた。
「黄龍にとって大切なことは、この星が美しくあること。そして生命を宿す母であり続けるという事なのです。もしこの毬藻が地球環境の保全に役立つのなら、黄龍は必ずしもこの毬藻を悪とは考えないでしょう。」
そう答えると、メタトロンは「馬鹿な!」と吐き捨てた。
「この毬藻はクインの兵器も同然なのだぞ?あの邪神はこれを用い、地球を我がものにしようと企んでいる。黄龍はそれを見過ごすつもりなのか!?」
「クインの思想が、黄龍の望む地球の在り方に貢献するのなら、必ずしも拒否はしないだろうと言っているのです。」
「それではクインの味方をしているも同然ではないか!奴の危険な思想に同調するなど、断じてあってはならん。私は今から黄龍に会い、あやつの真意を確かめてくる。そして・・・・もしクインに味方するなどということがあれば、私は迷わず奴を討つ!」
メタトロンは拳を握り、その目に激しい怒りを宿した。すると鳳凰は首を振り、「天使と神獣では、根本的な価値観が違うものです」と言い返した。
「あなた方は、光や善というものを重んじるでしょうが、私共はそうではありません。神獣が大切に考えることは、この星の生命そのものです。一つの命の在り方を見るのではなく、命と命の繋がりを重視しているのです。この星が生命を生み、それを育み続ける世界であることが、地球を地球たらしめている理由なのですから。」
「それではなにか?お前たちの言う理想の地球を保つ為なら、この星の支配者が邪神になっても構わぬと?」
「黄龍ならば、それも一つの選択肢として考えるでしょう。もちろん、数ある選択肢の一つとしてですが。」
鳳凰は凛として言い切る。メタトロンは顔をしかめ、「話にならん・・・」と切り捨てた。
「だから申したのです。天使と神獣では、根本的に価値観が異なると。」
「そのようだな。これ以上お主と話しても埒が明かん。私はとにかく黄龍に会いに行く。そして・・・・その後は月だ。」
「月・・・ですか?しかしあそこは・・・・、」
「分かっている。クインの支配下にあるのだろう?」
「そうです。いくらあなた様とはいえ、一人ではさすがに・・・・、」
「それでも行かねばならぬ。あの星には、内部に大きな魔力が宿っているのだ。それこそが、月が魔性の星と呼ばれるゆえんだ。」
メタトロンは背中を向け、降りて来た穴の下へ歩き出した。
「鳳凰よ。お主も私と共に来るのだ。鳳竜はまだ動くのだろう?」
「寿命は近いですが、もう一戦交えるくらいなら。」
「ならば来い。そして悪魔と戦うのだ。元よりその為に生み出された兵器なのだからな。」
胸に湧く怒りを抑えながら、メタトロンは歩いて行く。
そして頭上の穴を見上げて、そこから射し込む光に目を細めた。
《黄龍は気づいていたはずだ。人間どもが神獣の知恵を用いて、新たな兵器を造っていることを。しかしあえてそれを見過ごした。
その理由はただ一つ。あの毬藻が、黄龍の望む地球の在り方に、役立つかもしれぬからだ。》
メタトロンは光に目を細めながら、黄龍に対する疑惑を膨らませる。
元々油断のならない所があると思っていたが、ここへ来てその疑念がさらに強くなった。
そして後ろを振り返り、黒い毬藻を睨みつけた。
「この毬藻、なんとしても破壊してみせる。邪神の思い通りになどさせるものか。」
翼を広げ、外へと飛び出す。すると足早にワダツミが寄って来て、「中の様子は?」と尋ねた。
「酷いものだ。人間だけでなく、植物以外の生命がいなくなっている。」
「なんと!ではスクナヒコナとクトゥルーは・・・・、」
「殺されたようだ。邪神クイン・ダガダによってな。」
「く・・・クインだと!?ラシルの邪神がなぜこんな所に・・・・、」
「説明は後だ。すぐにインドまで向かうぞ。黄龍に真意を確かめねば。」
メタトロンはワダツミの横を通り過ぎ、ヤマタノオロチの前に立った。
「まだ幻覚を見ているようだな。その方がいい。無駄に暴れられると困るからな。」
ヤマタノオロチは「美女だ!酒だ!」と叫びながら、ニコニコと笑っていた。
メタトロンはそんなオロチを掴み上げ、ワダツミの方を振り返った。
「早く私に乗れ。インドまで急ぐぞ。」
「それは良いのだが・・・中から何か出て来るぞ。」
ワダツミは穴の中を睨んでいた。するとボロボロに傷ついた鳳竜が、雄叫びを上げながら飛び出してきた。
「グオオオオオオオ!」
「こ・・・・これが鳳竜という機械竜か!なんとも勇ましい姿だが・・・・傷が酷い・・・・。」
鳳竜は毬藻の外に飛び出し、傷ついた身体を軋ませた。
その姿は痛々しく、すでに寿命が近いことを物語っていた。
「機械の竜なれど、そのような姿で戦えるものなのか?」
ワダツミは心配そうに問いかける。すると鳳竜の背中から孔雀の翼が伸びてきて、ふわりと舞い上がった。
「おお!あれは鳳凰の翼ではないか!ということは・・・・、」
「神獣が宿っているのだ。鳳凰と白龍という神獣たちがな。」
「メタトロン殿。この機械竜・・・・神獣の鎧というわけか?」
「いや、そうではないが・・・・とにかく説明は後だ。インドへ向かうぞ。」
メタトロンはワダツミを肩に乗せ、ヤマタノオロチを抱えて飛び上がる。
そして「行くぞ!」と叫んで、翼を羽ばたいた。
瞬く間に音速を超え、超スピードでインドへ向かう。
鳳竜も翼を羽ばたき、その後を追いかけていった。
「黄龍め、食えん奴だと思っていたが、我らと志を共にしているわけではなかったようだ。しかし・・・今気づいてよかったと言うべきかもしれぬ。あの手の輩は、最後の最後で裏切りかねんからな。事と次第によっては、お前をタダではおかぬぞ。」
天使の長であるメタトロンは、いつ何時でも正義に燃える。
神に仕える彼にとって、神獣の思想は受け入れがたいものだった。
「己が正義であるということは、己自身が正義であり続けることで証明される。私の正義とは、悪を討つ光となること。邪神も悪魔も、それに与する者も、私は決して許しはせん。」
激しい怒り、そして激しい使命感が燃え上がり、メタトロンはさらに速く飛んで行く。
風を切り、雲を抜け、流れる景色の中を、ミサイルより速く飛んで行く。
すると突然「グオオオオオオオ!」と雄叫びが響いて、「どうした!?」と振り返った。
「鳳竜よ、何を騒いでおる?もしや・・・もう限界が来たか?」
鳳竜は目を光らせ、また雄叫びを上げた。そして急に向きを変え、後ろの空を睨みつけた。
「鳳竜!何をしているのだ。早くインドへ向かわねば。それとも・・・・もしや鳳凰が邪魔をしているのか?」
メタトロンは鳳竜に近づき、じっと目を見据えた。
「あの神獣がどういう思想を抱こうと、お前には自分の意志があるはずだ。惑わされる必要などないのだぞ?」
「グウウウウ・・・・・。」
「お前は元々、悪魔と戦う為に生み出された兵器だ。ならば悪魔と戦わずして何とする?」
「グウウウ・・・・グウオオオ!!」
「やけにいきり立っているな。鳳凰に支配されているというわけでもなさそうだが・・・・・どうしたというのだ?」
鳳竜はずっと唸りっぱなしだった。まるで家を守る番犬のように、ただひたすら牙を剥いている。
そんな様子を見たワダツミが、「何かを警戒しているのではないか?」と言った。
「警戒だと?敵が迫っているというのか?」
「鳳竜は機械なれば、レーダーという物を積んでいるのだろう?ならば遠くより迫る敵に気づいたのやも・・・・。」
「ふうむ・・・・。それは有り得る話だが、こやつが警戒するほどの敵ともなれば、私が気づかぬはずが・・・・・、」
そう言いかけた時、遥か遠くの空に、黒い点が浮かんでいるのに気づいた。
「あれは・・・・、」
メタトロンは黒い点を睨み、じっと気配を窺った。
「・・・・・これは・・・知っているぞ!この気はアイツではないか!!」
そう叫んだ途端、鳳竜は一際大きな雄叫びを上げた。
それに呼応するように、遠くの空からも雄叫びが返ってくる。
ワダツミの言うとおり、鳳竜は敵の襲来を警戒していた。
そしてその相手とは、遠くに浮かぶ黒い点。
自分と同じく、戦う為の兵器として生み出された、敵の機械竜であった。

夏の神社

  • 2015.05.30 Saturday
  • 12:18
JUGEMテーマ:神社仏閣


夏の神社は不思議な空気が漂っています。
神社は夏が似合います。











夏独特の、陽気だけど寂しい空気。
それが神社の光と影に重なって見えます。
夏は二面性のある季節です。

荒魂と和魂という二つの顔を持つ神社の神様と、なんだか似ていると思います。










強い光が、影を作りながらも神社の隅を照らしています。
暑い中を、ダラダラと汗を掻きながら歩きました。
夏の空気、神社の空気の中に、溶けてしまいそうでした。








神社において、門というのはとても重要です。
鳥居だって門の一部のようなものでしょう。
ここから先は、神様の家って意味なんだと思います。
だから鳥居をくぐる時、門を通る時は、必ず一礼します。
お邪魔しますという意味をこめて。





田んぼの向こうに広がる、鎮守の森。
あの中に神社が建っています。

ほとんどの神社の周りには、こうして森が立っています。
夏の景色として美しいです。
楽しさと切なさ、二つの空気の中に佇む神社は、夏という季節と一体化しているように見えました。

 

古代ローマの剣闘士

  • 2015.05.30 Saturday
  • 12:08
JUGEMテーマ:格闘技全般
以前にこのブログに、「セスタス」という漫画の事を書きました。
古代ローマの拳闘士の物語で、セスタスという少年が命を懸けて拳闘試合をする漫画です。
現代のように安全性などという概念はなく、むしろより試合が派手になるように、拳に固い皮を巻いて戦います。
しかもその皮には鉄の鋲が付いていて、当たれば大怪我をするような代物です。
古代ローマの拳闘は、現代のボクシングよりも遥かに危険だったわけです。
しかしこの時代、コロシアムで闘うのは拳闘士だけではありません。
現代でいうところの総合格闘技の試合もあり、格闘士も命を懸けて戦っていました。
しかしそれ以外にもう一つ、命懸けで戦う人種がいました。
それは「剣闘士」です。
鎧を装着し、盾を持ち、剣を武器に戦う人種のことです。
奴隷の者もいれば、職業剣闘士と呼ばれるプロもいました。
古代ローマでは、この剣闘士の戦いがメインです。
過激さと血生臭さを求める、コロシアムの観客たち。
そういう観客にしてみれば、素手の戦いよりも、剣の戦いの方が面白いに決まっています。
拳闘や格闘は前座であり、メインイベントは剣闘士の斬り合いというわけです。
剣闘士の戦いは色々あり、剣での斬り合い、馬に乗っての騎馬戦、それに戦車に乗って戦ったり(現代の戦車とは別物)時には猛獣と戦うこともあったようです。
敗北は死を意味し、勝者でさえも、大きな怪我を負うこともあったでしょう。
そしてその怪我が元で、死んでしまうことさえも・・・・・。
それでも多くの剣闘士が、コロシアムで闘いました。
奴隷は自由を勝ち取る為に、職業剣闘士はただ戦いの為に。
「命」というものが現代ほど保護されていなかった分、命知らずな剣闘士も多かったことでしょう。
試合において真剣で斬り合う、しかも負ければ死ぬ。
そんな中で戦い続ける剣闘士たちは、戦いが怖くなかったのでしょうか?
戦い続けて感覚が麻痺しているのか?それとも戦うことが最大の喜びなのか?
もしかしたら、恐怖そのものを快楽と感じていたのか?
現代人の感覚では、なかなか理解出来ません。
だけど一つ思うのは、この時代の剣闘士は、精神力という意味においては、現代のどんな格闘家も凌ぐのではないかということです。
負けたら死ぬような試合なんて、現代のどの格闘家だってしたくはないでしょう。
剣道家も、フェンシングの選手も、「死」というものを意識して戦ってはいないと思います。
当たり前ですよね、どちらもルールのあるスポーツなんですから。
負けたら死ぬ。でもそれを日常としていた剣闘士たちは、やはり並大抵の精神力ではないと思います。
真剣で斬り合うなんて普通の感覚じゃ出来ないし、それにいくら武器を持っているからって、猛獣と戦うなんて・・・・・。
もし日本の侍が古代ローマにタイムスリップしたら、果たして勝てるでしょうか?
日本の侍、特に戦国時代や幕末の志士たちは、命懸けで戦ったはずです。
そういう人達なら、古代ローマの剣闘士とも戦えるかもしれませんね。
全ては妄想でしかないけど、剣闘士と侍との戦いを考えてしまいます。
やはり戦いにはロマンがありますね。
命懸けで戦う剣闘士には、確かなロマンを感じてしまいます。

ダナエの神話〜魔性の星〜 第三十九話 太陽神ルー(7)

  • 2015.05.29 Friday
  • 13:00
JUGEMテーマ:自作小説
スクナヒコナたちが雲の祠にいる頃、メタトロンは海の中へ来ていた。
ここは太平洋側の日本近海で、海の中にも悪魔が溢れていた。
魚は食い尽され、イルカもサメも、そしてカメも海藻でさえも、無惨というほどに食い散らかされていた。
海そのものは綺麗だが、生命のいない海というのは寂しかった。
見渡す限り濃い青色だけが続き、海底にはでこぼこした岩が広がっているだけ。
しかも上半身は魚、下半身は馬の姿をした悪魔が泳ぎ回っていて、とてもではないが美しいと呼べる光景ではなかった。
メタトロンはそんな海の中を進んで行く。翼を広げ、まるで空でも飛ぶように突き進んでいた。
悪魔たちは、メタトロンが近づくと慌てて逃げた。
ここにいる悪魔たちは、インドにいるような兵隊ではない。
本能のままに動く、ただの下級悪魔だった。
だからメタトロンのような強大な天使には、決して近づこうとはしない。
遠巻きに眺めながら、目が合うとサッと逃げていった。
「おぞましいものだな。母なる海が悪魔の巣窟になるというのは。」
メタトロンは心を痛めていた。
本当ならここは、魚やイルカ、それにカメや海藻など、海の生命が謳歌している場所である。
しかし見渡す限りでは、そういった生き物は一匹たりともいない。
ただ悪魔だけが泳ぎ回っていた。
「生命の母たる海が、悪魔に汚される・・・。決してあってはならぬことだ。このような事態を収める為にも、私は急がねばならん。」
メタトロンは悪魔を尻目に海中を進み、遥か先の方に大きな気配を感じた。
「これか・・・。」
スクナヒコナの言っていた、ヤマタノオロチとワダツミ。
この気配は二人のものに違いないと思い、そちらの方へと進んで行く。
すると大きな気配のするその周りだけ、悪魔が寄りついていなかった。
魚やカニ、それに海藻や貝も残っていて、まるで悪魔から逃れるように身を固めていた。
「ここに避難しているということか。地球の生命たちよ、悪魔の脅威は必ずや私が打ち払うぞ。」
そう語りかけながら、魚の群れを縫って行く。すると・・・・海底が大きく窪んだ場所があり、その中に一人の男が浮いていた。
彼は「みずら」という形に髪を結っていて、長い杖に白い布服を着ていた。
顔はとても凛々しく、身体は逞しい。
メタトロンは「お主がワダツミか?」と尋ねた。
すると男はゆっくりと振り返り、メタトロンを見つめた。
「・・・・天使?あなたは確か・・・・メタトロン?」
「いかにも。我が名はメタトロン。神の代理たる天使の長である。」
「おお、やはりそうか・・・。以前に一度だけ見たことがあるのだ。ルシファーたちを牢獄に閉じ込める戦いの時に。」
「ほう、お主も参戦しておったのか?」
「もちろんだ。しかし・・・・天使の長がどうしてこのような所へ?」
ワダツミは不思議そうに言い、メタトロンの近くへ寄って来た。
「この海にはもう何もない。ご覧のとおり、悪魔のせいで荒れて果ててしまった。」
そう言いながら、生命の死に絶えた海に手を向けた。
「私の周りに、ほんのわずかな命が残っているだけだ。海は死んだも同然になってしまった。」
悲しそうに言いながら、顔をゆがめるワダツミ。そして窪んだ海底を睨みながら、「地球は悪魔のものになってしまった・・・」と嘆いた。
「私は海の神である。この日の元の海を守護することこそが、私の使命だった。」
「外では多くの悪魔が暴れている。このような状況になるのは仕方がない。」
「悲しきかな・・・。この星からはもう、同胞の気配を感じない。きっと悪魔たちにやられてしまったのだろう。
スサノオ様も戻って来られぬし、私はここで果てるのを待つのみ・・・・。」
ワダツミは悲しみに満ちていた。じっと海底を睨み、眉を寄せている。
メタトロンはそんな彼の悲しみを遮るように、強い言葉で言った。
「ワダツミよ、まだ戦いは終わっておらん。これからが悪魔との決戦の時なのだ。」
「まさか・・・。もう負けたではないか。海底にて神と悪魔の決戦が行われたことは知っている。神々は・・・・負けたのだ。」
「いいや、まだ終わらない。全ての希望が途絶えたわけではないのだから。」
「希望・・・?思わせなぶりな。悪魔の満ちるこの星に、いったいどのような希望があるというのか?」
「ある。光はまだ射している。私の仲間が、インドの地で、そしてエジプトの地で戦っているのだ。だからお主にも加わってもらいたい。この海底に眠る、ヤマタノオロチと共に。」
そう言って海底を睨みつけると、「ヤマタノオロチだと・・・・?」とワダツミが顔をしかめた。
「私は奴めを見張る為、ここを動けなかった。もし解き放ってしまえば、悪魔と同じように暴れ回ってしまうぞ。」
「そんなことは私がさせない。いいかワダツミよ、お主が海にいる間に何が起きたのか、私が説明してやろう。」
メタトロンはこれまでの戦いのことを語った。二度に渡るアーリマンとの戦いや、月にベルゼブブやヘカーテが襲いかかってきたこと。
そして悪魔を打ち滅ぼす為に、多くの仲間がインドとエジプトへ向かったこと。
ワダツミは真剣な顔で聞いていて、「まだ希望は潰えていなかったか・・・」と喜んだ。
「私の力が必要というのなら、喜んで助力しよう。」
「うむ。一人でも味方は多いがいい。」
「しかし・・・やはりヤマタノオロチを連れて行くのは不安だな・・・・。こやつはいつ何時暴走するか分からん。
あのスサノオ様でさえ、酒を飲ませてから討ち取ったのだ。下手をすれば私たちに牙を剥くやも・・・・。」
「その時はその時だ。私がどうにかしてみせる。」
「あなたが・・・?」
「天使の長たるもの、たかが物の怪に遅れを取るわけにはいかん。ヤマタノオロチが暴走した際は、私が討つ!」
メタトロンは拳を握って言った。ワダツミは少し迷ったが、やがて「そこまで言うのなら・・・」と頷いた。
「あなたほどの力なら、それも可能かもしれない。その言葉・・・・信じよう。」
「うむ。ではすぐにオロチを連れてここを出るぞ。」
「それは良いが・・・・ここに残った命たちが・・・・。」
ワダツミは自分の周りを見つめ、生き残った魚や貝に目を向けた。
「私がここからいなくなってしまったら、わずかに残った生命たちは・・・、」
「案ずるな。それも私がどうにかしよう。」
そう言ってメタトロンは、腕をクロスさせて「でやあ!」と叫んだ。
するとクロスさせた腕から、光り輝く十字架が放たれた。
その十字架は海の中に浮かび、生き残った命を守るように結界を張った。
「ここにいる悪魔は対して強くない。こうして十字架の結界を張っておけば、寄り付くことはないだろう。」
「おお、これなら安心だな。」
ワダツミはニコリと頷き、窪んだ海底まで降りていった。そしてコンコンと杖で叩き、「起きるのだ」と言った。
「お前のような暴れん坊でも、役に立つ時が来たぞ。目を覚ませ。」
そう言って海底を叩いていると、「がああああああああ!」と雄叫びが響いた。
その雄叫びは海の中を揺らし、激しい海流を生み出した。
海底はグラグラと揺れて、悪魔たちが慌てて逃げて行く。
「いかんな・・・機嫌が悪いぞ。」
ワダツミは海底から離れ、杖を振りかざす。
そして荒れた海流を鎮めて、「メタトロン殿・・・」と振り返った。
「うむ、私に任せよ。」
メタトロンは海底まで降りていき、「むうん!」と宝玉から光を放った。
するとその光に照らされて、海底の中にヤマタノオロチのシルエットが浮かび上がった。
「ここか!」
メタトロンはシルエットの浮かぶ場所に拳を突き刺し、「だああああ!」と引き抜いた。
するとメタトロンに首根っこを掴まれたヤマタノオロチが、「ぐおおおおおお!」と叫んで姿を現した。
「誰だ!俺様の眠りを妨げるのは!」
「私は天使の長メタトロン。お前の力・・・・私に預けてもらおう。」
「ああん?メタトロンだあ・・・・?」
ヤマタノオロチはギロリと睨み、口から炎を吹いた。
海の水が一瞬で沸騰し、水蒸気爆発を起こす。
辺りは泡だらけになり、ヤマタノオロチはその隙に逃げ出そうとした。
「俺様は誰にも従ったりせん!邪魔する者は喰らい尽くす!」
八つの頭を動かしながら、辺り構わず火を吹く。
ヤマタノオロチは濃い紫の身体に、頭にトサカを持っていた。
龍ともヘビともつかない顔をしていて、目は赤く滲んでいる。
そして・・・・とにかく大きかった。
メタトロンよりも二回りほど大きく、頭から尻尾の先までは、ゆうに二キロを超えていた。
そんな巨体が暴れ回るものだから、海の中は激しく荒れていく。
まるで海底火山が噴火したように、赤い炎が水を吹き飛ばしていった。
「むうう・・・・確かにとてつもない化け物よ。だがしかし!天使たる私が、ヘビの怪物ごときに遅れはとらぬ!」
メタトロンは「でやあ!」と飛び上がり、ヤマタノオロチの前に立ちはだかった。
「聞けいヤマタノオロチよ!お前はこれからインドへ向かい、悪魔の軍勢を喰らい尽くすのだ!」
「うるさい!俺は誰の言うことも聞かん!」
「そうか。そのような反抗的な態度を取るのなら・・・・痛い目を見ることになるぞ?」
「ぬかせこのチビ!俺様は邪神にも負けないヤマタノオロチ様だ。俺様に頼み事をするなら、美女か酒を貢ぐのだ!」
「やれやれ・・・・オツムの弱い物の怪め・・・・。」
メタトロンはうんざりしたように首を振り、「では痛い目を見てもらおう」と言った。
「ぬううう・・・・はああ!」
メタトロンが頭上で腕をクロスさせると、身体の色が赤色に変わった。
「おお!色が変わった!お前・・・・奇術師か?」
ヤマタノオロチは興味津々に目を輝かせた。
「いや、これはティガの力だ。」
「ティガ?」
「説明は不要。その身をもって教えてくれよう。」
そう言ってヤマタノオロチの下に回り込み、そのまま持ち上げた。
「こら!何をする!?」
「このまま空の上まで運んでやろう。」
「なあにい〜?俺様を海から持ち上げるってのか?」
「いかにも!私とお前の力の差・・・・・とくと思い知れ!」
メタトロンは「でやああああ!」と真上に飛び、そのまま海面へと飛び出す。
「ぬうう・・・・水が無いとさすがに重いな・・・・。しかし負けぬ!」
ありったけの力を込め、ヤマタノオロチを持ち上げたまま空に舞い上がる。
ワダツミはそのパワーに驚嘆し、「なんという剛力!」と叫んだ。
「タヂカラオでもあの様な真似は出来ぬ!」
全長が二キロを超える巨大なオロチを、メタトロンはグングンと持ち上げていく。
500メートル、1000メートル、2000メートル、そして・・・・・遂には雲を突き抜けて、上空15000メートルまで持ち上げた。
「のおおおおおおお!こ、こんな・・・・こんな高い空まで・・・・・、」
ヤマタノオロチは怯えていた。
こんなに高い場所から海を見下ろすのは初めてで、恐怖と驚きを感じながら震えていた。
「どうだヤマタノオロチよ!このような風に景色を眺めるのは初めてだろう?」
「あ・・ああ・・・・・目眩が・・・・・あまりの高さに目眩がするぞ・・・・・。」
ヤマタノオロチは周りを見渡し、信じられないという風に首を振った。
水平線は遥か遠くまで広がっていて、自分のすぐ下を雲が流れている。
遠くに見える地平線も水平線も、地球の丸さを伝えるようにゆるりと湾曲していた。
「むうう・・・・凄い景色だ・・・・・。俺様には翼がないから、こんな景色を見る機会はなかった・・・・。」
最初は怖がっていたヤマタノオロチの様子が、じょじょに変わってくる。
そして恐怖は消え去り、代わりに喜びが湧いてきた。
「俺様にも翼があれば・・・・・。」
初めて見る高い景色に、ヤマタノオロチは感銘を受ける。
八つの頭をキョロキョロと動かし、興味深そうに見入っていた。
「ヤマタノオロチよ、もう暴れる気はなくなったか?」
「む?そういうわけじゃないが・・・・・、」
「この遥か遠くの空には、別なる国が広がっている。」
「それくらい知っているぞ。馬鹿にするな。」
「馬鹿になどしておらん。私が言いたのはだな、こういった景色が、今まさに悪魔に侵されようとしているということだ。
お前がいたあの海も、悪魔の巣窟と化している。それを許せるか?」
「ぐうう・・・そんな手には乗らん。こんなものを見せて、俺様の心を落とそうとするとは小癪だぞ!」
「そうか。ならばこのまま海へ落ちるがいい。高い空から落ちてゆく感覚、なかなかに刺激的だぞ?」
メタトロンはさらに高く舞い上がり、成層圏の近くまで昇っていく。
高く昇れば昇るほど、地球の丸さが際立ち、ヤマタノオロチは「こういう姿をした星なのか・・・」と唸った。
「さて、ここから海へ落ちてもらおう。」
「なに!?」
「言っただろう。言うことを聞かないのなら、痛い目に遭ってもらうと。」
「ふん!海へ落ちたくらいでどうにかなるものか!」
「・・・・なるほど。空を知らぬ物の怪だな。」
メタトロンはニヤリと笑い、「高さがあれば、水は凶器に変わるのだぞ!」と叫んだ。
「よもや死ぬことはあるまいが、死ぬほど痛いことは覚悟しておけ!」
そう言って大きく振りかぶり、「でやああああ!」とヤマタノオロチを投げ落とした。
「ぐうううおおおおおおおおお!!」
ヤマタノオロチは猛スピードで落ちていく。
風を切り、景色が流れ、初めて体感する空からの落下という状況に、舌を巻いていた。
「こ・・・・怖い!これは怖いぞおおおおおお!!」
八つの頭がウネウネと動き、どうにか飛び上がろうともがく。
しかし空を飛ぶ力がないので、ただただ重力に引っ張られるばかりだった。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ヤマタノオロチは目を瞑っていた。落ちて行く感覚が怖くて、早く海へ着いてくれと願う。
しかし成層圏からのダイブは、なかなか海面まで辿り着かせてくれない。
落ちてゆく恐怖がずっと続き、「ぬがああああああ!!」と発狂した。
「早く・・・・・早く落ちろ!俺様はやっぱり陸地がいい!!」
一瞬だけ空をいいものだと思ったが、やはり大地に腹をつけていた方が落ち着く。
空に縁のないヤマタノオロチは、陸地を愛しい母のように感じていた。
やがて雲が迫り、そのまま中に突入する。
雷が身体がを打ったが、そんなものは屁でもない。それよりも落ちていく恐怖の方が勝っていた。
あっという間に雲を突き抜け、遠くに海面が見えた。
「おお!もうすぐだぞ!早く・・・・早く落ちるのだ!!」
ヤマタノオロチは喜び、嬉しそうに「グ!グ!」と鳴いた。
そして・・・・・・海は目前まで迫り、目の前いっぱいに青色が広がった。
「戻って来たぞおおおおおおお!!」
雷鳴のように大きく吠えながら、海面に向かって頭を伸ばす。
そして・・・・・・・凄まじい轟音を響かせながら、海面に叩きつけられた。
「へぎょあッ!!」
噴火のように水柱が立ち上り、大きな波がたって海面を歪ませる。
ヤマタノオロチは気絶しそうなほどの激しい衝撃を受けて、ピクピクと痙攣した。
そしてそのまま海底まで落ちていき、ブクブクと白い泡を吹き出した。
「い・・・・痛い・・・・。身体が・・・・バラバラに引き裂かれたようだ・・・・。」
七つの頭は気絶していて、残った頭も白目を剥いている。
ワダツミは「ああ・・・・」と嘆きながら、心配そうに寄って来た。
「おい・・・・生きているか?」
「・・・・・・・・・・・。」
「とんでもない高さから落ちたようだな。お前のような怪物でなければ、五体がバラバラになっていただろう。」
「・・・バラバラになるかと思うほど・・・・痛かった・・・・。」
「気の毒に。しかし大人しく言うことを聞かぬからこうなるのだ。いい加減暴れるのはやめて、メタトロン殿と共に行こう。」
「嫌だ・・・・。俺様は誰にも従わない・・・・。」
「強情な奴め。また落とされてもいいのか?」
「ぐ・・・・ッ。しかし・・・・やはり誰かに従うのは・・・・・、」
ヤマタノオロチはどうにか身体を起こし、フラフラと頭を振った。
「俺様は・・・・誰にも従わない・・・・。例えこの身をバラバラにされてもだ・・・・。」
「なんという覚悟に満ちた目・・・。これは痛みでは言うことを聞かせられんな。」
ワダツミは困り果て、「どうしたものか・・・」と頭を掻いた。
そこへメタトロンが降りて来て、「どうだ?大人しくなったか?」と尋ねた。
「大人しくはなったが、言うことを聞くつもりはなさそうだ。」
「ふうむ。それでは大気圏の外から落としてみるか。」
「それではさすがに身体がもたないだろう。死にはしなくても、戦える状態ではなくなる。」
「・・・・・ならば飴で釣ってみるか?」
「飴?」
「鞭が駄目なら飴しかあるまい。私に任せよ。」
メタトロンはヤマタノオロチの前に立ち、「お前は酒が好きであったな?」と尋ねた。
「酒と美女だ。」
「では酒の方を与えてやろう。極上の葡萄酒・・・・その舌で味わうがいい。」
そう言って両手を前に出し、額の宝玉を光らせた。
「我こそは神の代理なり。ほんのささやかな奇跡、この手の中に起こしてみせよう。」
メタトロンは宝玉から淡い光を飛ばし、両手の中に集めていく。
するとその光の中から葡萄が現れ、それと同時に酒樽まで現れた。
葡萄は酒樽の中に吸い込まれ、グルグルと回りだす。そしてメタトロンが「むん!」と叫ぶと、辺りにワインの香りが広がった。
「おお!これは酒の匂い・・・・。」
ヤマタノオロチはクンクンと鼻を動かし、メタトロンの手の中を見つめた。
「この酒樽には葡萄酒が熟成されている。飲み頃だぞ。」
「く・・・くれ!その酒を俺にくれ!!」
ヤマタノオロチは首を伸ばし、酒樽に食いつこうとした。
しかしメタトロンはサッと手をかわし、「私と共に戦うか?」と尋ねた。
「もし悪魔の軍勢と戦うというのなら、この酒をやろう。」
「ぬぐぐ・・・それはその酒を味わってからでないと答えられん。もし俺様の舌に適うモノであったなら、力を貸してやらんこともない。」
「そうか。ならばお試し用ということで、酒樽を一つ与えよう。とくと味わえ。」
そう言って酒樽を投げると、ヤマタノオロチはパクリと口に入れた。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「これは・・・・美味!口に入れた瞬間、濃厚かつ芳醇な香りがふわりと広がった。その香りは平原を駆ける野生馬のように力強く、それでいて晴れた日に微笑みを投げかける貴婦人のような優しさがある。」
「む?」
「味は・・・・極上と言わざるを得ない。あえて若い葡萄を使うことで、甘酸っぱくほのかな甘味が広がっている。それはまるで、セーヌ川の川面を流れる、うららかな春の花びらのようだ。太陽の光が川面を輝かせ、花弁が光の中に旅立つような情景が浮かび上がる。」
「ほう。」
「総合的に判断を下すならば、これはモーツァルトの奏でるピアノの傍で、ゴッホの絵画を眺めるが如し。野性味の溢れる複雑な味と香りが混ざり合った、至高の一品と言えるだろう。葡萄、熟成方法、また熟成の期間。さらには葡萄酒造りに生涯を捧げた職人だけが生み出せる、真なる葡萄酒の一つと評せる。」
「うむ、見事な洞察と評価だ。お前の酒の味わう舌は本物だな。」
ヤマタノオロチの見事な評価に、メタトロンは深く頷く。
その後ろでは「こんな物の怪がワインの良し悪しを評するとは・・・、」と、ワダツミが驚いていた。
そしてメタトロンの足元に何かが散らばっているのに気づいて、「これは・・・」と拾った。
「・・・・・瓶?」
メタトロンの足元に散らばっていたのは、小さな空き瓶だった。
ラベルを見ると、コンビニのロゴが入っていた。値段は一本400円である。
「・・・・・・・・・・・。」
ワダツミは何も見なかったことにして、「ゴミは拾わんとな」と懐に隠した。
「さて、ヤマタノオロチよ。もし悪魔の軍勢と戦うというのなら、今味わった極上の葡萄酒をもっとくれてやるが?」
メタトロンがそう尋ねると、ヤマタノオロチは「いいだろう」と頷いた。
「あれほどのワイン、そうは味わえない。喜んで協力しよう。」
「うむ。さすがは酒好き、味の違いが分かるようだ。」
「・・・・・・・・・・・。」
ワダツミは冷めた目で二人を見つめていて、懐の瓶をいじっていた。
「しょせんは物の怪だったか・・・。」
そう呟くと、「・・・・余計なことは喋るなよ・・・・」とメタトロンが釘を刺した。
「分かっている。せっかく言うことを聞いてくれたのだからな。」
二人はヒソヒソと話し合い、ヤマタノオロチは「どうした?」と尋ねた。
「いや、なんでもない。それでは悪魔の元へ向かおう。・・・・・と言いたいが、その前に・・・・、」
メタトロンは海の上を見上げ、「まずは雲の祠に向かわねば」と呟いた。
「ヤマタノオロチは私が運ぼう。ワダツミは・・・・・、」
「私も空は飛べない。」
「ならば私の肩に掴まっていろ。飛ばすから落ちないようにな。」
メタトロンはヤマタノオロチを抱え上げ、ワダツミは言われた通りに肩に乗った。
「では行くぞ!まずは神獣の建てた雲の祠へ!でやあああ!!」
メタトロンは海から飛び上がり、猛スピードで雲の祠へと飛んでいく。
いったい何事だったのかと、海の悪魔がたち顔を覗かせて戸惑っていた。


            *


「な・・・・なんなのだこれは!?」
雲の前まで来たメタトロンは、目の前に広がる異様な光景に驚いていた。
「雲が・・・・雲が毬藻になっている!これはいったいどういうことだ!?」
祠の建っていた雲は、藻を固めたような丸い姿になっていた。
あちこちから藻が伸びて、まるで毬藻のようになっている。
それも雲全体を飲み込むほどの、あり得ないほど巨大な毬藻に。
メタトロンは言葉を失い、ただ毬藻を睨みつける。
すると肩に乗っていたワダツミが、「これは何なのだ?」と尋ねた。
「あなたのお話では、ここには祠の建つ雲があるとのことだった。しかしどう見ても、これは雲ではない。大きな毬藻だ。」
ワダツミは杖を向けながら、顔をしかめてそう尋ねた。
メタトロンは「私にも分からぬ・・・」と答え、毬藻の上まで舞い上がった。
「雲全体が藻に覆われているようだが・・・・中はどうなっているのだろう?皆は無事なのか?」
ここにはスクナヒコナとクトゥルー、そして悪魔から逃れたこの星の生命がいる。
メタトロンはその事を心配していて、「中に入ってみるか」と言った。
「外からではまったく様子が分からない。皆無事ならいいのだが・・・、」
そう言いながら毬藻の上に降りようとすると、「迂闊に近づかない方が・・・、」とワダツミが言いかけた。
そしてその瞬間、毬藻の中から、藻に覆われた巨人が現れた。
全身緑の藻だらけで、丸い目だけが剥き出しになっている。
「ウオウウウウオオオ!!」
「何やら吠えているな。悪い気配は感じぬが・・・・。」
メタトロンは藻の巨人を警戒し、毬藻から距離を取る。
「答えよ、お前は何者か!?」
「ウウオオウオオオ!!」
「話が通じんか・・・・。」
困りながら見つめていると、藻の巨人はたくさん現れた。
まるで毬藻の中から生えてくるように、気持ち悪いくらいにたくさん湧いてくる。
どの藻の巨人も、意味不明な言葉を叫んでいる。それは威嚇にも見えるが、それと同時に助けを求めているようにも感じられた。
「不気味だな。敵か味方か判断がつかん。」
そう呟くと、「俺様が燃やしてやろうか?」とヤマタノオロチが言った。
「俺様の炎なら、あんな奴ら一掃出来るぞ。」
「いや待て。迂闊に攻撃してはならん。ここは私に任せよ。」
メタトロンは「むうう・・・」と目を輝かせ、「エンジェルアイ・アナライズモード!」と叫んだ。
すると二つの目に数式が浮かび上がり、正体不明の相手を解析するスコープとなった。
「あの巨人は、おそらく何かの亜種だ。その元となる者が私の記憶にあるならば、即座に照合、解析する。」
聞かれてもいないのにエンジェルアイ・アナライズモードの解説をして、目から光を放った。
藻の巨人はその光に照らされ、メタトロンの記憶に合致する者がいないかどうか照合していく。
亜種の元になる者が記憶の中にいれば、例え姿形が違っても、即座に解析してくれる。
メタトロンの目は忙しく数式を並べ立て、ピーピー!と機械音を発した。
「なんと!この巨人の正体は・・・・、」
エンジェルアイ・アナライズモードにより解析した結果、メタトロンの中にはこの巨人の元となる者の記憶があった。
「これは・・・・人間だ。」
「人間?これが?」
ワダツミは藻の巨人を見つめ、「まさか・・・・」と首を振った。
「人間がこのような巨人に化けたというのか?」
「化けたかどうかは分からないが、元は人間であることは間違いない。何かが原因となって、このような姿になってしまったのだろう。」
「では・・・・その何かとは・・・?」
「残念ながら、そこまでは解析出来ない。しかし・・・・これでは迂闊に攻撃出来んな。」
メタトロンは顔をしかめながら、毬藻に生える巨人たちを見つめた。
「いくら元が人間といえど、敵対するなら私は容赦しない。しかし・・・この巨人たちからは、敵意を感じない。かといって友好的な気配を感じるわけでもない。さて・・・・どうすればよいか・・・・。」
メタトロンは厳しい天使である。神の代理である彼は、悪に染まるなら誰であれ容赦はしない。
人間だろうが天使だろうが、悪に堕落するならその手で討つのみである。
しかし敵対しない者を攻撃するのは、己の信条に反していた。
アーリマンのような敵意が剥き出しの者なら躊躇はないが、そうでない限りは力による解決は望まなかった。
「あの毬藻に降りれば、おそらく巨人どもは群がって来るだろう。悪意はなくとも、微かに攻撃的な意志は感じる。・・・・ふうむ、困ったものだ。」
そう言って藻の巨人たちを見つめていると、ヤマタノオロチが「ぐうう・・・・」と唸った。
恐ろしい顔で巨人たちを睨み、頭のトサカを光らせる。
そして・・・・・口から巨大な火柱を吹き出して、巨人たちを焼き払ってしまった。
「貴様!何をしている!?」
メタトロンは慌てて止めさせようとしたが、ヤマタノオロチは炎を吐くのをやめない。
灼熱の業火を吐き続けて、目に見える巨人を全て焼いてしまった。
「な・・・なんということを・・・・。」
炎は激しく燃え上がり、毬藻が焼かれていく。
そして瞬く間に燃え広がり、毬藻の半分が業火に覆われてしまった。
すると毬藻の中から、「オオオオオオオオ・・・・」と絶叫が響き、たくさんの巨人が湧いてきた。
どの巨人も炎にまみれていて、苦しそうに手を伸ばしている。
ヤマタノオロチは延々と炎を吐き続け、完全に毬藻を焼き尽くそうとしている。
メタトロンは「貴様!これ以上な勝手なことは許さんぞ!!」と睨み、額の宝玉からビームを放とうとした。
しかしその瞬間、ワダツミがサッと杖を振り上げた。
すると眼下に広がる海から、モコモコと海面が盛り上がって、海水で出来た魚たちが飛んで来た。
その魚たちは次から次へと海から現れ、毬藻に突っ込んでいく。
海水の魚は炎を鎮め、もうもうと水蒸気が立ち昇る。
そしてヤマタノオロチの方にも飛んで来て、炎を吐く口の中に突撃していった。
「ごおおおおお・・・・。」
口の中が海水で溢れ、ヤマタノオロチは苦しそうにもがく。しかしそれでもまだ炎を吐こうとしていてる。
メタトロンは「言うことを聞かぬなら、力づくで大人しくさせるのみよ!」と言った。
掴んでいた手を離し、ヤマタノオロチを毬藻の上に落とす。そして胸の前で腕をクロスさせて、力を溜めた。
周りから光が集まり、メタトロンの腕が七色に輝く。
そしてその腕を前に突き出すと、螺旋状の七色の光線が放たれた。
その光を受けたヤマタノオロチは、ピタリと炎を吐くのをやめた。
急にニコニコと笑いだして、「美女が大勢いるぞ!」と叫んだ。
「ああ、見渡す限り美女だらけだ・・・・。しかも酒を持っているではないか!もっと・・・・もっと近こう寄れ!」
そう言って何もない場所を見つめ、酒を飲むような仕草をしていた。
「上手く幻術にかかってくれたようだ。しばらくは大人しくしているだろう。」
メタトロンは自分も毬藻の上に降り、焼け死んだ巨人を見つめた。
「酷いことをしてしまったな。許せ。」
元は人間であって藻の巨人。その死を悼みながらも、なぜこのような事態になってしまったのかを考えた。
「ワダツミよ、私は毬藻の中へ入ってみる。お主はここでオロチを見張っていてくれ。」
「心得た。メタトロン殿も、どうかお気をつけて。」
ワダツミはヤマタノオロチの元へ向かい、これ以上暴れないように見張る。
メタトロンは「さて・・・・」と毬藻を睨み、中に手を入れてみた。
「・・・・表面は柔らかいようだが、奥はどうなっているのか・・・・?」
深く腕を指し込んでいくと、何やら硬い物に当たった。
指で軽く叩いてみると、鉄のような金属音が返ってきた。
「中は金属で覆われているようだな。ならば・・・・、」
メタトロンは立ち上がり、脇に拳を構えた。そして力を溜めて、その拳を輝かせた。
「むうん!リュケイオン光弾!!」
力を溜めた拳を突き出すと、螺旋状の光が放たれた。
その光は毬藻の表面を貫き、大きな穴を空けた。
メタトロンはその穴から中を覗きこみ、「これは・・・、」と唸った。
「中は以前のままだな。違いがあるとすれば、生き物が一切見当たらないことか。」
毬藻の中には、以前と同じように自然が広がっていた。
山があり、川があり、海まであり、まさに楽園のような景色だった。
祠も残っており、人間や動物の姿だけが無くなっていた。
「人間と動物だけがいなくなっている?地面を覆う植物は無事のようだが・・・。どれ、入ってみるか。」
メタトロンは中に飛び降り、大きな音を響かせて着地した。
地面から土煙りが上がり、大きな足型が残る。
そして一歩前に踏み出して、じっと周りを見上げた。
「空にも藻が広がっているのか・・・・。」
中は藻の空に覆われていて、とても不気味な光景だった。
しかも藻の奥から光が漏れていて、そのおかげでとても明るい。
メタトロンは歩きながら周りを見渡し、ふとあることに気づいた。
「む?一番大きな祠が無くなっている。その代わりに・・・・なんなんだあれは?」
鳳竜が造られた巨大な祠は消えており、その代わりに黒くて丸い物が鎮座していた。
それはよく見ると毬藻に似ていて、周りから紐のような物を伸ばしていた。
その紐はケーブルのように長く伸びていて、空を覆う藻、そして地面にも突き刺さっていた。
「もしやアレが原因でこのような事態になってしまったのか?」
メタトロンは毬藻のようなその物体に歩み寄り、再びエンジェルアイ・アナライズモードを使った。
「・・・・・・駄目だな。私の記憶の中に照合出来る存在がない。ということは、これは人間ではないわけか。」
そう言ってさらに歩み寄り、注意深く観察してみた。
毬藻のようなその物体は、全体が黒い藻で覆われていた。
そして周りからは藻を束ねたケーブルのような物が伸びていて、空と地面に刺さっている。
メタトロンはそっと手を伸ばし、毬藻のようなその物体に触れてみた。
「・・・・これも表面は柔らかい。しかし・・・・中に何かが埋まっているな。これはいったい・・・?」
毬藻のような物体の中には、明らかに金属と思われる硬い物があった。
掴んで揺らしてみると、少しだけ動く。メタトロンは少し迷ったが、その硬い物を引っ張り出してみることにした。
力を入れて引っ張ると、中の硬い物はさらじょじょに外へ出て来た。
「これは・・・・金属の爪か?」
毬藻のような物体の中から、金属で出来た、黒くて大きな爪が出て来る。
さらに引っ張ってみると、爪に続いて腕が出て来た。
「これは・・・見覚えがあるぞ。」
メタトロンは両手を突っ込み、「むうん!」と強引に引きずり出した。
そして中から出てきた物を睨んで、「やはり・・・・、」と唸った。
「お前は鳳竜ではないか!」
中から出て来たのは、ボロボロに傷ついた鳳竜だった。

コンクリートと川

  • 2015.05.29 Friday
  • 12:48
JUGEMテーマ:写真


大きな川は、どこも護岸工事がしてあります。
増水によって、川が溢れるのを防ぐ為ですが、そこへ生き物が集まることもあります。





小魚が、段差を登ろうとジャンプしています。
これを狙って鳥が集まって来ます。
鳥にとってはパラダイスだろうけど、小魚にとっては厳しいでしょうね。
果たしてこの段差を登れるのか?





鯉が死んでいました。
鯉は淡水では最もよく見かける魚の一つです。
橋の上から眺めていると、何匹も泳いでいるのが分かります。
成長した鯉は、大きな猛禽類が相手でなければ、捕食される心配はありません。








段差を下り、コンクリートの突起の間を縫って、川は流れていきます。
小さく波打つ川面には、時折魚が跳ねています。





小魚が泳いでいました。
メダカかなと思いましたが、他の魚の稚魚かもしれません。
川は生き物の宝庫です。
いつまでも、命が根付く川であってほしいです。


 

夏には最高のポロシャツ

  • 2015.05.29 Friday
  • 12:37
JUGEMテーマ:日常
最近よくポロシャツを着ています。
暑くなると、自然と薄着になるものです。だけどもう20代というわけではないので、あまりにラフすぎる恰好は避けようと思いました。
元々何着かポロシャツを持っていたんですが、そこまで頻繁に着ることはありませんでした。
しかし最近はほとんどポロシャツです。
Tシャツに比べてラフ過ぎず、かとってそこまで堅くもない。
しかも一枚着るだけでそれなりに形になるから、わざわざ襟付きのシャツを着る必要もありません。
春ならTシャツの上に、襟付きのシャツを羽織るところですが、さすがに今の時期になると暑く感じます。
そうなると、やはりポロシャツが最高です。
まず襟が付いているので、これ一枚でもそこまでラフに見えません。
それなりに清潔感のある感じに見えると思います。
それに生地が普通のTシャツと違うから、汗で肌に張り付くということも起こりにくいです。
だけどポロシャツを着る場合、Tシャツのように本当にコレ一枚着るわけではありません。
一応下にインナーを着ています。
その方が心地良いんですよ。
汗はインナーが吸ってくれますし、ポロシャツの生地のおかげで、インナーを着てもそこまで暑くなりません。
上はポロシャツ、下はジーンズ。
日常生活なら、ほとんどこの恰好でどこでも行けます。
気をつけるのは、ボトムスとの色と柄の組み合わせくらいです。
ジーンズにも合うし、チノパンにも合うし、正装を必要とする場所以外なら、ほとんどこの恰好でOKです。
ああ・・・・なんて素晴らしい服なんだろう・・・・。
私は面倒臭がりのクセに、服に気を遣うのです。
でもいつも面倒臭さに負けて、ダサい恰好をしていまします。
別にファッションセンスがあるわけじゃありませんが、やっぱり外へ出る時は、それなりに服には気を遣いたいと思っているのです。
だけど若い頃だと、なんだかポロシャツってダサいなあと敬遠していたんです。
事実、10代や20代くらいの人だと、そこまでポロシャツは着ないんじゃないでしょうか?
私自身がそうだったし、街でも若い人のポロシャツはそこまで見かけないように思います。
でもそれなりの歳になってくると、ラフ過ぎる恰好は避けたいと思ってしまうのです。
そこでポロシャツの登場です。
楽な着心地。
ラフ過ぎず、かといって堅過ぎない見た目。
20代を過ぎた男が夏を過ごすには、これほど最適な服はありません。
今ではほとんどポロシャツを着ています。
この服を生み出してくれた人、どうもありがとう。心から感謝します。

ダナエの神話〜魔性の星〜 第三十八話 太陽神ルー(6)

  • 2015.05.28 Thursday
  • 11:39
JUGEMテーマ:自作小説
先を行こうとするスクナヒコナの前に、餓鬼が立ちはだかる。
そして手を出して、「手形」と言った。
「手形?そのような物は持っておらぬが?」
「手形がないと入れませ〜ん。出直して来て下さ〜い。」
餓鬼はおちょくるような口調で言い、ケラケラと笑った。
「すまぬが急いでいるのだ。我はスクナヒコナと申す神で、この祠を建てた黄龍の仲間である。どうか通してもらえ・・・・・、」
「お前アホか?話聞いてるか?手形がいるんだよ手形が〜。」
「むむう・・・餓鬼のクセに偉そうに・・・・。」
スクナヒコナは弓矢を構え、「ならば圧し通るだけだ」と狙いを定めた。
「餓鬼よ、そこをどかねば、我が矢で射抜かれることになるぞ?」
「ゲゲゲゲゲ!旦那あ〜!こいつ手形無しで通ろうとしてますぜ!」
そう言って天井の鬼門を見上げると、怒った顔で降りて来た。
天井から顔だけニュッと伸びて、鳥居の前に立ち塞がる。
「手形無き者、何人も通すことまかりならん!去ねい!」
「いや、手形が必要なのは分かったが、今は急いで・・・・、」
「去ねいと言っておる!去ね!去ぬのだ!ぺっぺ!」
「のわ!唾を飛ばすでない!」
鬼門は「去ね!」」を繰り返し、餓鬼は「手形がないならお断り〜!」と馬鹿にする。
スクナヒコナは「おのれ・・・」と怒り、ギュッと矢を引いた。
「鬼門と餓鬼ぶぜいが調子に乗りおって!退治してくれる!」
「ぬぬ!こやつ去なぬのか!ならば去なせるのみ!」
「ゲゲゲゲゲ!ちびっ子なんかイチコロだであ〜!」
鬼門と餓鬼は口を開けて襲いかかって来る。
スクナヒコナはまじないのかかった矢を飛ばし、辺りにひょうたんの木を生やした。
「ぬぬ!」
「ゲゲ!」
ひょうたんの木はツタのように伸びて行き、二匹の鬼を絡め取る。
そしてがんじがらめに締め上げて、身動きを封じてしまった。
「不覚!敗北!」
「ゲゲ!負けたわ!」
「・・・・・・・・弱い。」
あっさりと決着がつき、スクナヒコナは「はあ・・・」と首を振る。
「実に無駄な時間であった。警戒した自分が馬鹿馬鹿しい。」
そう言って鬼たちをすり抜け、鳥居の奥へと向かう。
すると「ゲゲゲ!手形が無きゃエレベーターは開かないぜ〜」と餓鬼が言った。
「何?」
「そいつは特別製のエレベーター。その下には工場があって、兵器を造ってんだよ〜。」
「それは知っておる。鳳竜を造った場所であろう?」
そう尋ねると、餓鬼は「ゲゲゲゲ!」と笑った。
「鳳竜も・・・・だぜ〜!」
「鳳竜も?どういうことだ?」
スクナヒコナは踵を返し、餓鬼に詰め寄った。
「ここで造られたのは、鳳竜だけではないのか?」
「ゲゲゲ!負けたわ!」
「ちゃんと答えんか!」
「アウチ!」
スクナヒコナは矢を飛ばし、餓鬼のおでこに刺した。
「鳳竜も・・・とはどういう意味だ?ここには二体目の鳳竜がいるとでもいうのか?」
「不覚!敗北!」
「貴様は黙っておれ!」
「痛し!」
鬼門も矢を飛ばされ、頭にひょうたんの木が生えた。
「我は真面目に聞いておるのだ!これ以上ふざけるならば・・・・、」
そう言って矢を引いた時、後ろから低い機械音が響いた。
スクナヒコナはエレベーターを振り返り、「誰か来るのか?」と睨んだ。
エレベーターの昇降ボタンは青になっていて、扉の向こうから音が聞こえる。
そして・・・・・チンと音がしたかと思うと、ゆっくりと扉が開いた。
「・・・・・・・・・・・・。」
エレベーターの中には、黒くてグニャグニャとしたものが詰まっていた。
それも一ミリの隙間もないくらいに、パンパンのギュウギュウに詰まっている。
「あれは・・・・なんだ?」
正体不明かつ意味不明の物体に、スクナヒコナは顔をしかめる。
エレベーターに詰まった黒いグニャグニャとしたものは、モゾモゾと動いて抜けだしてきた。
長い足がいくつも動き、満丸い赤い目が現れる。頭にはコウモリの小さな羽が生えていて、外に出て来るなり「ぶはあ〜!」と息を吐いた。
「せ・・・・狭いべこのエレベーター・・・。」
そう言って出て来たのはクトゥルーだった。スクナヒコナは矢を落としそうになり、「お主だったのか!?」と叫んだ。
「おお、スクナヒコナでねえか。あの人間と話は終わったのか?」
クトゥルーはスクナヒコナの前までやって来て、「修理はすぐ出来るってよ」と言った。
「おお!それでは直るのだな?」
「んだ。あれくらいなら小一時間でいけるってよ。」
「そうかそうか。それは良かった。」
スクナヒコナは満足そうに頷き、「しかし・・・、」と首を捻った。
「お主・・・よくエレベーターに乗ることが出来たな?」
「んだ。オラは身体が柔らけえから、どうにか押し込めば乗れたべ。」
「いや、そういうことではない。あのエレベーターに乗るには手形が必要だったはずだ。しかしお主は手形など持っておらぬだろう?」
そう尋ねると、「ああ、そのことけ」と笑った。
「手形ってのは鳳竜のことだべ。」
「鳳竜?あやつが手形なのか?」
「鳳竜か、それかこの下にいる人間でねえと、エレベーターは動かせねえんだと。」
クトゥルーはエレベーターを振り返り、「オラだけじゃ乗れなかったなあ」と言った。
「あのエレベーター、ちょっと不思議でよ。なんか結界みてえのが張ってあんだよな。」
「ほう、結界とな?」
「多分悪い奴が入れねえようにする為だと思うんだけど、どうも厳重過ぎんだよなあ。」
「それは厳重にするであろう。ここには人間と神獣が造った兵器があるのだから。」
「いや、それはおかしいべ。」
「おかしい?どうしてだ?」
「だってここには敵なんていねんだべ?だったらどうして結界なんて張って守ってんのかなと思って。それに下にある工場でも、何重にも結界が張ってあったんだあ。もし鳳竜がいねかったら、オラは通ることが出来なかったべ。」
「ほほう、お主が通れぬほどの結界か・・・。それはまた随分と強力な。」
「んだ。だからなあ・・・オラはこう思うんだ。ここの下では、鳳竜以外にもなんか造ってんじゃねえかってな。」
「ふうむ。鳳竜以外の何かか・・・・。」
スクナヒコナはじっと考え込み、後ろの鬼たちを振り返った。
「おい、お主たち。」
そう言って近づくと、「ゲゲゲ!負けたわ!」と笑った。
「それはもう分かった。ちょっと質問に答えてもらいたいのだが・・・・、」
「不覚!敗北!」
「それも分かった。」
スクナヒコナは首を振り、真剣な目で鬼たちを睨んだ。
その視線に気圧されて、二匹の鬼はサッと目を逸らす。
「おい?どうしたのだ?なぜ目を逸らす?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・怪しいな。」
スクナヒコナは鬼たちに詰め寄り、「何か隠しておるな?」と睨んだ。
「お主たち・・・・先ほどこう言っていたな。ここでは鳳竜『も』造っておると。あれはどういう意味だ?」
「ゲゲゲ!負けたわ!」
「不覚!敗北!」
「誤魔化すでない!」
二匹の鬼たちはスクナヒコナから逃げようとする。しかしひょうたんの木が絡まっているので、逃げ出すことが出来ない。
するとクトゥルーが「こいつら何だべ?」と言った。
「どうしてこんな場所に鬼さいるんだ?」
「いや、どうもここの鳥居を守っておるようなのだ。お主は邪魔されなかったのか?」
「いんや、こんな奴らいねかったぞ。」
「しかし手形のことを知っておったではないか?この鬼たちに要求されたからではないのか?」
そう尋ねると、クトゥルーは「何言ってんだべ」と顔をしかめた。
「オラはこんな鬼さ知らねえ。その代わりに、鳥居の前で人間が立ってたんだあ。」
「人間が?」
「んだ。青い作業服を着た奴と、スーツを着た奴が立ってたんだべ。そんで部外者は立ち入り禁止だって言われたんだ。だども鳳竜を連れてたから、中に入っていいって言われたんだ。」
そう説明すると、スクナヒコナは「それは本当か!?」と叫んだ。
「んだ。さっきも言ったけど、あのエレベーターには結界みてえなのが張ってあるんだ。だから部外者は入れねえ。鳳竜か、ここにいる人間じゃねえと無理だべ。オラはそういう意味で手形って言ったのかと思ったんだべ。」
「むむむ・・・・これは・・・・実にキナ臭いぞ。」
クトゥルーの話を聞いて、スクナヒコナの頭にはある疑惑が湧いていた。
「人間は大きな力を手に入れると、ロクなことに使わん。ほとんどの場合は、戦争を起こすか金儲けを企むかのどちらかだ。」
神として長らく人間を見てきたスクナヒコナは、人間とはどういう生き物であるかを知っていた。
「人間は、善と悪を併せ持つ生き物だ。普段は善人であったとしても、状況によっては悪人に変わることもあるし、その逆もあり得る。悪魔によって追い詰められた今、人間たちが神獣の力を用いて、新たな兵器を造ろうとしているのやも・・・。」
疑惑は大きく膨らんでいき、嫌な予感が胸を駆け廻る。
不安そうな目で考え込んでいると、「あいつら逃げるべ!」とクトゥルーが叫んだ。
「あいつら?・・・・・ぬあ!いつの間に抜け出しおった!?」
餓鬼と鬼門はひょうたんの木から抜け出して、祠の外へ逃げようとしていた。
「クトゥルー!奴らを捕まえるのだ!」
「んだ。」
クトゥルーは長い足を伸ばし、二匹の鬼を絡め取った。
「ゲゲゲ!負けたわ!」
「不覚!敗北!」
「ようし!そのままここへ。」
餓鬼は必死に暴れて抵抗する。鬼門はガシガシとクトゥルーの足に噛みついていた。
「噛むでね!」
「痛し!」
鬼たちはスクナヒコナの前に連れて来られ、しょんぼりと項垂れた。
そしていきなり頭を下げて、「ごめんなさい」と謝った。
「我らが悪うござんした。どうか命だけは勘弁を。」
「この世を去ぬのは嫌だ。我らを去なせないでくれ・・・。」
切なくなるほど悲しそうな顔をして、ただひたすら謝る鬼たち。
スクナヒコナは「そう怖がらんでもよい」と言った。
「我の質問に正直に答えれば、このまま見逃してやる。」
「ホンマでっか!」
「去なずに済むのか!?」
「うむ。ただし嘘をついてはいかんぞ。このクトゥルーが食べてしまうからな。」
そう言ってクトゥルーに指をさすと、「オラ鬼なんか食べたくねえべ」と顔をしかめた。
「し!こういう時は嘘でもいいから、お前らを食ってやると言えばいいのだ・・・・。」
「んだ。コラ!オメえら!嘘ついたら頭っから齧ってやるど!」
そう言って口を開けると、「ひいいいい!」と怯えた。
「喋ります喋ります!聞かれてない事でも喋りますとも!」
「そうだ!正直にある事ない事喋るから食わんでくれ。」
「ない事は喋らんでいい。」
スクナヒコナは厳しい口調で言い、二匹の鬼に詰め寄った。
そして堂々と胸を張り、射抜くような視線で尋ねた。
「今から三つの質問をする。お主らの分かる範囲でいいから答えてくれ。」
そう前置きしてから、コホンと咳払いをして質問を始めた。
「まずは一つ目の質問だが、ここでは鳳竜以外にも機械竜がいるのではないか?」
そう尋ねると、二匹の鬼は首を傾げた。
「ええっと・・・・機械竜?」
「竜ではないな。なんかこう・・・・モサッとしたのならおるが。」
「モサッとした?」
「そうそう。なんかこう・・・・モサっとしてるんだよ。」
「うむ、モサっとしておるな、アレは。」
「・・・いまいち要領を得んな。もっと詳しく話せ。」
そう言ってさらに詰め寄ると、クトゥルーが「モサッとって、アレのことだべか?」と呟いた。
「クトゥルーよ、お前は中に入ったのだったな?どんな様子であった?」
「んんっと・・・いっぱい機械があったべ。たくさん人間もいたし。みんな作業服みてえなの来て、一人だけスーツを着た男がいたべなあ。」
「スーツの男か。そいつはお主を案内した男か?」
「いんや。そいつはいつの間にかいなくなってた。」
「どこかへ消えたというのか?」
「分かんねえべ。でも中は広くて、なんか造船所みてえな感じなんだ。アレ・・・・ドッグっていうのけ?デカイ船とか飛行機を収容する場所みてえなやつ。ほんでコンピューターとか、なんか太いケーブルとかがあって、それがモサっとしたアレに繋がってたんだあ。」
「ふうむ・・・モサっとなあ。まったく想像が湧かん。」
スクナヒコナは困った顔で唸る。すると餓鬼が「そういえばアレに似てるな・・・」と呟いた。
「アレ?アレとは何のことだ?」
「ほら、こう・・・・アレだよ!な?分かるだろ?アレ。」
そう言って鬼門の方を振り向くと、「アレか・・・・確かに似ている」と頷いた。
「こらこら、お前たちだけで頷いても分からん。アレとは何のことだ?」
「だから・・・・アレだよアレ!こう・・・モサッとしてさ、な?」
そう言って餓鬼は、何かを伝えるように手を動かした。するとそれを見たクトゥルーが、「ああ!アレな!」と足を指した。
「確かに似てるべ!アレはアレに似てるんだあ。」
「そうそう!アレはアレに似てんだよ!な?」
「不覚!今の今まで気づかなんだ・・・。アレはアレに似ておるのだ。だが・・・アレの名前が出てこん・・・。」
「どうでもいいじゃねえか、名前なんて。」
「む?そうか?」
「だべだべ。名前なんかどうでもいいべ。オラ、アレが何かに似てると思ってたんだあ。いやあ、分かってスッキリしたべ!」
「だよな〜。俺も何かに似てると思ってたんだよ。アレはアレに似てたのかあ〜。」
「不覚!・・・と言いたいところだが、そうでもないな。アレがアレに似てると分かっただけで、大分スッキリした。名前などどうでもいいか。」
「うんうん、似てると分かっただけで充分だ。」
「んだな。これで万事解決だべ。」
クトゥルーと二匹の鬼は、スッキリした顔で頷く。そしてお互いに肩を組み合って、「いやあ、よかったよかった!」と笑った。
「なんにも良くないわ!このバカたれども!!」」
スクナヒコナは顔を真っ赤にして怒り、クトゥルーたちに矢を放った。
「いで!」
「アウチ!」
「痛し!」
「おのれら・・・・会話が曖昧過ぎるであろう!何が万事解決なものか!?なんも解決なんかしとらんわ!」
茹でダコのように顔を真っ赤にしながら、「アレとは何のことだ!?」と叫んだ。
「我にも分かるように説明せい!!」
「そう怒るでねえ。ちょっと思い出すから待ってろ。」
クトゥルーは長い足を動かしながら、「アレは・・・・水の中の生き物だべなあ・・・」と呟いた。
「なんかこう・・・・苔を丸めて作ったような生き物だべ。丸っこくて、下手すりゃ藻屑が絡まったゴミにしか見えねえんだけども・・・・、」
するとスクナヒコナが「もしかして毬藻か?」と尋ねた。
「おお!おお!それそれ!毬藻だべ!」
「OK!あんた物知りだぜ!」
「不覚!思い出せなんだ・・・・。」
「貴様らは漫才のトリオか・・・・。いい加減真面目にやれい。」
スクナヒコナはうんざりしたように首を振り、「では毬藻のような兵器があるということか?」と鬼に尋ねた。
「まあなあ〜・・・あれは兵器っちゃあ兵器なんだろうけど、機械じゃないような・・・・。」
「機械ではない兵器か・・・。生物兵器ということか?」
「さあなあ。詳しいことは知らんけど、でも戦う為のモンなんじゃないの?いや、詳しいことは知らんけど。」
「そうか・・・。毬藻のような兵器か?して、それは大きいのか?」
「うん、鳳竜の五倍くらいはあるんじゃないか?」
「五倍だと!?」
「だって生き物みたいな感じだから、日に日にデカくなってんだよ。俺、こっそり中に入ってチェックしてっからさ!」
そう言って餓鬼は、なぜか自慢気に指を立てた。
「ううむ・・・・毬藻のような生物兵器か・・・・。よく分からぬが、鳳竜以外にも兵器があることは分かった。」
スクナヒコナはコホンと咳払いして、「では二つ目の質問だ」と言った。
「お主たちはなぜここにおる?」
そう尋ねると、「そんなもん決まってんだろ!」と餓鬼が言った。
「この先のエレベーターを守ってんだよ。」
「どうして?」
「ど・・・・どうして?それは・・・・どういう意味?」
「あのエレベーターを動かすには、鳳竜かここの祠の人間が必要なのだろう?ならばわざわざお前たちが守る必要はあるまい?」
「・・・・・・・・・・・。」
「それにもしエレベーターを守る為というのなら、どうしてクトゥルーを止めようとしなかった?我は止めたクセに。」
「それは・・・・、」
「これは我の推測だが、お前たちの本当の役目は監視ではないのか?」
強い口調で尋ねると、餓鬼は「う・・・」とうろたえた。
「やはりか・・・。ならばもう一つ。お前たちが監視しているのは、外から入って来る者ではない。中から逃げ出そうとする者たちだ。違うか?」
「うおう!」
「お前たちは誰かに命令されて脱走者を見張っている。そして・・・お前たちに命令を出しているその『誰か』は、この祠の中にいるのであろう?」
「ぐえあ!」
「正直な反応で分かりやすい。」
スクナヒコナは肩を竦めて笑い、「お前たちの役目は、この祠にいる人間の監視であろう?」と言った。
「クトゥルーを襲わなかったのは、単に勝てないと思ったからだ。しかし我のようなチビには勝てると思った。だから遊び半分で襲いかかって来たのだろう?」
「・・・す・・・鋭い・・・・。」
「こんな事で驚かれては困る。次はもっと鋭い質問をするぞ。」
そう言ってニヤリと笑い、真顔に戻って鬼たちを見つめた。
「では最後の質問だ。お前たちに命令を出している『誰か』とは・・・・人間ではないな?」
「・・・・・・・・・・・。」
「この中で造られている毬藻のような兵器。そして脱走者を見張る為に、餓鬼と鬼門を置いている。
どちらも人間では無理なことだ。ならば答えは一つ、この祠には悪魔がいるのだ。」
「・・・・・・・・・ぐ!」
「神獣のいない隙を見計らって、ここに入った悪魔がいる。それがどのような悪魔かは分からぬが、この場所を利用して何かを企んでいるはずだ。」
「・・・・・・・・ぬぐ!」
「ここにいる人間たちは、悪魔に脅されて新たな兵器を造っている。だから脱走しないように、お前たちが見張っている。違うか?」
「・・・・・・・・・おふ!」
スクナヒコナはビシッと指を突きつけ、「我の推測、当たっているかどうか答えてもらおう!」と叫んだ。
「え、ええっと・・・・、」
二匹の鬼は顔を見合わせ、ダラダラと冷や汗を流した。
「答えぬのなら、クトゥルーに食べてもらうが?」
そう言ってクトゥルーに顎をしゃくると、大きな口を開けて吠えた。
「オメえら!どうなんだ!?スクナヒコナの質問に答えねえか!さもなくば食っちまうど!!」
「ひいいいいいい!」
「不覚!去ぬのは勘弁!!」
鬼たちは身を寄せ合い、ブルブルと震えた。
「そ・・・・その質問には答えられない!」
「どうかご勘弁を!」
「ならば食われてもいいのか?」
「イヤだ!イヤだけど・・・・・喋ったら殺される!」
「我らは去にたくない!喋るのも食われるのも拒否する!!」
「むうう・・・・相当怯えておるな。こやつらのバックには、いったいどんな悪魔が・・・・・。」
スクナヒコナは腕を組み、険しい顔をした。
もしかしたらここには、想像以上に強大な悪魔が入りこんでいるのかもしれない。
もしそうだとするならば、自分たちだけで中に行くのは危険かもしれないと思った。
「ここはメタトロン殿が戻って来られるまで、大人しく待っていた方がいいやもしれぬ。」
そう呟いてエレベーターを睨んだ時、祠がグラグラと揺れた。
「じ・・・地震か!?」
「んな馬鹿な。ここは雲の中だど。地震なんかあるわけねえべ。」
「ならば・・・この揺れはいったい・・・・、」
祠の中が激しく揺れ、天井にヒビが入る。鬼たちはピタリと寄り添い、「ひいいいいい!」と叫んだ。
「この揺れは・・・・下からであるな。メタトロン殿を待っている時間はなさそうだ。我らだけで中へ・・・・、」
そう言いかけた時、祠の中に大きな叫びがこだました。
「これは・・・鳳竜の雄叫び!?」
揺れる祠の中に、鳳竜の雄叫びが響き渡る。そして凄まじい爆音が響いて、辺りの床が吹き飛んだ。
「いったい何が起こっておるのだ!」
揺れは激しさを増し、天井が砕け落ちる。そしてまた床が吹き飛んで、祠の中は滅茶苦茶になっていった。
そして・・・・遂には粉々に崩れてしまい、爆撃を受けたかのようにバラバラになってしまった。
そんな光景を、外の人間たちは息を飲んで見つめる。
ざわざわとどよめき出し、中には恐怖で泣き出す者もいた。
「ああ・・・・博臣・・・。どうか死ぬ前に一度だけ、博臣に会わせて・・・・。」
博臣の両親が、手を握り合って祈っていた。

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