- 2016.04.30 Saturday
- 07:04
ビジネスホテルの一室で、メジャーリーグの中継を眺める。
去年渡米した期待の若手が、ホームラン王のスラッガー相手に見事なピッチングを見せていた。
「やるなあこいつ。いつの間にこんな良い球投げるようになったんだ?」
据え置きのコーヒーをすすりながら、試合に見入る。
若手のピッチャーは奮闘したピッチングを見せるが、詰めを誤って打たれた。
球は弾丸のようにスタンドまで飛んで行き、ホームラン王は悠遊とベースを回って行った。
「なんでそこで打たれるかね。油断するなよ。」
途中までがどんなに良くても、最後の最後で負けたら意味がない。
試合は8回裏で、相手との点差は3点。
巻き返せない状況とは言えないが、終盤での失点は痛かった。
確実に勝ちたいのなら、最後の詰めこそ誤ってはいけない。
俺はチャンネルを変え、名前も知らないタレントが料理をする番組を眺めた。
するとコンコンとドアがノックされて、「来たかな・・・」と立ち上がった。
「俺俺、俺だよばあちゃん。」
ドアの向こうから下らない冗談が聴こえる。
俺は「はいはい」と聞き流し、鍵を外した。
「よう!」
ドアの向こうから、饅頭みたいな顔をした少年が入って来る。
「待たせちゃったな。」
「いや、野球見てたから。」
「あ、そ。まあとにかくすぐに始めよう。」
少年はヅカヅカと部屋に入って来て、「おい」と後ろを振り返った。
「さっさと入って来いよ。」
外に向かってそう言うと、頼りなさそうな一人の青年が現れた。
「あ、あの・・・・どうも。」
引きつった笑顔を見せながら、ぺこぺこと頭を下げる。
安物の薄っぺらいスーツは皺だらけで、一目でだらしない奴だと分かる。
俺は「よく来たな」と言い、中に招き入れた。
この青年の名は冴木晴香。
どうしようもないほど使えないボンクラの社員だが、たった一つだけ凄い才能を持っている。
それは一度見た光景を絶対に忘れないということだ。
本人曰く、まるで写真のように頭に焼き付けることが出来るらしい。
そういう人間がいるという話は聞いたことがあるが、まさか実際にお目にかかれるとは思わなかった。
しかも画家が夢だったということもあって、絵が非常に上手い。
だから頭の中にある光景を、精密に描き起こすことが出来る・・・・・らしい。
らしいというのは、実際にまだこの目で確認したわけではないからだ。
記憶力の良さは昨日会った時に確認させてもらったが、絵の腕前の方はまだだ。
今日はそれを確認するのと同時に、ある一つの仕事をしてもらうつもりでいた。
俺は外を見渡し、尾行している者がいないか確認する。
廊下には誰もおらず、安心してドアを閉めた。
鍵を掛け、チェーロックも忘れない。
そして部屋に戻ると、「また抜け出して来てもらって悪いな」と笑いかけた。
「ああ、いえ・・・・どうせ暇ですから。」
「昨日は忙しかったんだろ?もうてんてこ舞いだって言ってたじゃないか。」
「そうなんですよ。たま〜にああいう事があって。」
「小さな販売所は大変だな。他所の店から売れない商品を押し付けられて。」
「アウトレットセールなんて儲からないですからね。捨てるわけにもいかないから、赤字覚悟で放出してるだけです。」
「まあそれも仕事さ。」
そう言いながら、「何か飲むか?」と冷蔵庫を開けた。
「あ、いえ・・・・、」
「遠慮するな。酒もあるぞ。」
「ええっと・・・・ならビールを。」
「昼間っからか?」
「あ、いや!なら別の物で・・・・・、」
「冗談だよ、ほれ。」
据え置きの冷蔵庫からビールを取り出し、「ん?」と手渡す。
冴木は「どうも」と受け取りながら、緊張した面持ちでソファに座った。
キョロキョロと辺りを見渡し、落ち着かない様子でビールを流し込む。
あまりにゴクゴク飲むので、「おいおい」と宥めた。
「飲むのはいいけど、酔っぱらうのは勘弁してくれよ。お前の絵の腕前が見れなくなる。」
「平気ですよ。ちょっと酔ったくらいじゃ腕は落ちませんから。」
「そりゃ頼もしいな。なら俺も舐める程度に頂こうかな。」
冴木の向かいに座り、缶ビールをチビリと舐める。
「さて、今日来てもらった要件は分かってるな?」
声のトーンを少し落としながら尋ねると、「はい」と頷いた。
「今日は絵を描けばいんですよね?」
「そうだ、簡単なテストだ。お前が噂通りの腕前ならな。」
「一度見た景色は忘れませんから。」
「分かってる。昨日はたった一度だけ見た写真の内容を、事細かに答えて見せたからな。」
俺は頷き、またチビリとビールを舐めた。
「ごちゃごちゃした雑踏の写真なのに、ほんの些細な事まで覚えていた。隅に小さく写る車のホイールのデザイン。
写真に写った全ての人間の服装。それにビルの数や電柱の数、果ては雲の位置や形まで当てて見せた・・・・正直驚きだよ。」
「自分ではそんなに大したことじゃないと思ってるんですけどね。子供の頃は誰でも出来るものだと思ってたし。」
「誰でも出来る芸当じゃないから、カメラが売れるのさ。お前は特別だよ。」
「はあ・・・どうも。」
冴木はまったく嬉しくなさそうにビールを煽る。
いつもと変わらぬその態度こそが、彼に特別な才能が宿っていることを物語っている。
人間というのは、生まれた時から持っているものに対しては、それが特別なものだとは思わない。
才能、財産、恵まれた家系、生まれながらにそういうものを持った人間は、それらがどれだけ貴重なものかを知らない。
それは目の前でビールを煽っているこの男も同じで、自分の才能にどれだけの価値があるのかを、まったく理解してしなかった。
凄い才能があるのに、その価値を自覚しない。
だから簡単に利用されるのだ。前社長の北川隼人にも、そして・・・・・俺とこの少年にも。
冴木はビールを飲み干し、手持無沙汰に窓を見ている。
俺はバッグから一枚の紙を取り出し、それをテーブルの上に置いた。
「テストは簡単だ。この絵を記憶して、それをそっくりそのまま別の紙に描き写して・・・・、」
そう言いかけた時、テレビからアニメの声が聴こえて来た。
見ると我が社の少年社長、加藤猛が楽しそうにテレビを眺めていた。
「おい加藤、音を小さくしろ。仕事の邪魔だ。」
「やだ。」
「集中出来ないだろ。」
「簡単なテストをするだけだろ?問題ないよ。」
「あのな・・・・これは大事なテストなんだ。こいつの超人的な記憶力が、本当に使い物になるかどうか・・・・、」
「あはははは!おい見ろ!敵が吹っ飛んだぞ。」
加藤はバトルアニメを見つめながら、面白そうに手を叩いた。
俺は眉をしかめながら、「お前・・・・」と呟いた。
「身体だけじゃなくて、頭まで子供になっちまったのか?」
嫌味な口調でそう言うと、「まさか」と笑った。
「脳ミソまで子供になったら終わりだよ。」
「そうかい。でも今のお前は中身も子供に見える。」
「楽なんだよ、子供でいるのって。」
「羨ましいな。俺も子供みたいに自由に振る舞ってみたいよ。」
そう言うと、「そうそう!それなんだよ!」と手を叩いた。
「誰だって一度は想像するだろ?頭は大人のままで、身体だけ子供の頃に戻ってみたいって。」
「そうだな。死ぬほど楽に生きられそうだ。」
「今の俺がその状態。羨ましいだろ。」
「お前は元々子供っぽいところがあったが、最近は本当の子供みたいに見える。今は誰も見てないんだから、もうちょっと大人らしくだな・・・、」
「何言ってんの。普段から子供っぽくしとかないと、いつボロが出るか分からないだろ?」
「ボロが出たって、身体は本当に子供なんだ。誰にもバレやしない。」
そう答えると、「分かってないな」と首を振った。
「俺たちの傍には、いつだってアイツがいるんだぜ?隙を見せたら、いつ正体を見破られるか・・・・。」
「・・・・確かにな。あの婆さん、恐ろしく勘が鋭いから。」
「あの婆さんは、俺が死んだと思ってる。でもところがどっこい、こうしてちゃんと生きてるのさ。あの寄生虫みたいなクソババアに・・・・トドメを刺す為にな。」
加藤はアニメを消し、俺たちの傍に座る。
その表情は完全に大人のもので、猛禽類のような鋭い眼光を見せた。
「俺は絶対にあの婆さんを許さないよ。何があっても絶対に・・・・・、」
「それは俺も同じだ。だからこいつに協力してもらうんだろうが。」
そう言って冴木を見つめると、加藤も頷いた。
「あの婆さんは靴キング!を完全に私物化してやがる。まるで寄生虫みたいに、ただただ利益を貪っていく。
そして完全に貪り尽くしたなら、また次の会社を狙うはずだ。」
「パラサイト・・・・それがあいつの通り名だからな。」
「本名も素性も、完全に謎だ。あらゆる手を尽くして調べようとしたけど、年齢さえも分からない・・・・・。」
「敵の情報が無いんじゃ、倒しようもない。このまま放っておけば、お前の言う通り靴キング!は完全に喰らい尽くされる。」
「あの会社は俺の親父が建てたんだ・・・・。死にもの狂いで頑張って、死ぬまで働き続けた。いつか俺やお袋を楽させてやるって言ってな。」
加藤は唇を噛み、悔しそうに目を細める。
俺も沈んだ気持ちになりながら、「今は感傷的になってる場合じゃないぞ」と言った。
「このままじゃあの婆さんを倒せない。いや、もし倒せなくても、追い払うことさえ出来れば・・・・・、」
「・・・・・・・・・・。」
「加藤、あの婆さんは手強い。無理にトドメを刺そうとすると、こっちが危うくなる。だから追い払うことが出来ればそれでいいんだ。」
「・・・・・・・・・。」
「お前の怒りは分かるが、目的を見失うな。俺たちがやらなければいけないことは、何があっても靴キング!を守ることだ。・・・・そうだろ?」
「・・・・・・ああ。」
「その為にお前は社長選挙に立候補するんだ。本社の社長になれば、今までとは比べものにならないくらいの力が手に入る。そうすりゃあの婆さんを追い払うことも容易い。」
「・・・・そうだな・・・。なんたって稲松文具の社長だ。政治にだって影響力を持てるほどだ。」
「その点だけはあの婆さんに感謝しないとな。売れ行きが怪しくなってきた靴キング!を建て直す為に、稲松文具の傘下に入れてくれたんだから。」
そう言うと、「自分の利益を守りたかっただけだろ」と舌打ちをした。
「靴キング!が倒れちゃ、美味い汁が吸えなくなる。それを避ける為に、稲松文具の傘下に入っただけだ。」
「あの婆さん、いったいどんな手を使ったんだか・・・・。ウチみたいな上場もしてなかった会社が、まさか天下の稲松文具グループに入れるなんて・・・・。」
「さあな。どうせクソみたいに汚い手を使ったんだろ。」
「だろうな。」
俺は頷き、ビールを煽った。
アルコールの混じった息を吐き、「しかしだからこそ・・・」と呟いた。
「だからこそ俺たちに有利でもある。あの婆さんは目的の為なら手段を択ばないからな。」
「ああ。俺を本社の社長に据えて、裏から操るつもりだ。その為にあちこちに相当根回ししてる。」
「あの婆さんは稲松文具まで貪るつもりなんだろうか・・・・。」
「さすがにそれは無理だろ。なんたってウチとは規模が違い過ぎるからな。チョビチョビ美味い汁を吸う程度ならともかく、欲を掻きすぎると逆に消される。」
「その辺は弁えてるってわけか・・・・。」
「だからこそウザいんだよ。いっそのこともっと欲を掻いてくれれば、本社が潰してくれるのに・・・・。」
「そうだな・・・。しかしあの婆さんの根回しのおかげで、今はお前が最有力候補だ。」
「まあな。きっと当選してみせるよ。」
「しかし本社の白川常務は要注意だぞ。実力もあるし、本社の中でも慕う奴は多いらしいからな。」
「知ってる。あのダンディーな色男だろ?女子社員に人気があるって聞くぜ。」
「女性票はデカイよ。でもお前だって女性を味方に付けられるだろ?なんたって今は子供なんだから。」
そう言って笑いかけると、「上手く立ち回って見せるよ」と笑いを返した。
「必ず社長になって見せる・・・・俺の親父が作った会社を潰させはしない。」
顔は子供だが、気迫は大人のそれである。
俺は「その為にも・・・・」と目の前の青年を睨んだ。
「彼の協力が必要だ。」
冴木はビクリと顔を上げ、「え?」と素っ頓狂な声を出した。
「あ、あの・・・・何か?」
「いや、なんでもない。昨日話したのと同じことだ。」
「昨日・・・・?ああ!あの香川とかいうクレーマーの婆さんの?」
「そうだ。私腹を肥やすことしか知らない、汚らわしい寄生虫だよ。」
「あの人・・・・課長にも酷いこと言ったんですよね?そのせいか知らないけど、なんか元気がないみたいで・・・・。」
「あの婆さんは人をいたぶるのが好きでな。特に若くて優秀な女を。」
「女の敵は女ってやつですか?」
「まあそんなもんだ。今でこそ女性の社会進出は当たり前になってきてるが、あの婆さんの時代はそうじゃなかったんだろう。
事あるごとに『私の時代はねえ・・・』と愚痴をこぼしてるよ。」
「でもそんなの課長のせいじゃないのに。」
「優秀な奴ほど嫉妬を買うもんだ。上に登るには、相手をビビらせる爪や牙が必要になる。」
「課長は優しいから・・・・きっと爪も牙もないと思います。」
「いや、持ってるはずだ。ただ優しいからそれを使わないだけだ。」
「そうですかね?いつもおっとりしてるから、そんな風に思えないけど。」
「隠してるんだよ。ただ優しいだけの奴が、本社の課長になれるものか。」
残ったビールを煽り、「もう与太話はいいだろ」と言った。
「冴木、その絵を覚えたか?」
「はい。」
「ならそっちの白紙に、そっくりそのまま描き写して・・・・・、」
そう言おうとして、俺は言葉を失った。
「・・・・・・・・・・。」
「あの・・・・勝手に描いちゃまずかったですか?」
「いや・・・・上出来だよ。まるで機械でコピーしたみたいだ。凄い・・・・。」
俺は息を飲み、冴木の描いた模写を見つめた。
「まるでプロの画家だな。素人が見ても凄いと分かる。」
「そうですか?そんなの美大生なら誰でも出来ると思うけど・・・・。」
「まあ絵のことは詳しくないから何も言えん。しかしこれだけ描ければ充分だ。」
冴木は見事な模写を披露してみせた。
見本に渡した絵は、伊藤若冲という江戸時代の画家の絵だ。
そのタッチは繊細にして緻密。細部に至るまで息を飲むほど鮮やかに描かれるのが、この画家の特徴だ。
その繊細にして緻密な絵を、冴木はほぼ完璧に模写して見せた。
それも俺と加藤が話している僅かの間に・・・・・。
「お前・・・・画家になった方がよかったんじゃないか?」
「なれるもんならなりたかったですよ。でも上手いだけじゃなれないんです。」
「芸術ってのはそういうもんか。」
「でも模写は昔から得意でしたよ。だって一度見た絵は頭に焼き付いてますからね。あとは描くだけだから。」
「まるで人間コピー機だな。頭の中に機械でも入ってるんじゃないのか?」
冗談を飛ばすと、冴木は「かもしれません」と笑った。
「まあとにかくテストは合格だ。」
「はい。じゃあ・・・・やっぱりその・・・・、」
「ああ、お前にも出てもらう。社長選挙にな。」
「はあ・・・・・。」
「気の無い返事をするな。理候補出来るのは金曜まで、今日を入れてあと三日しかない。気を引き締めろ。」
「分かってます。でも・・・・もし失敗したら?加藤社長が当選できなかったらどうなるんですか?」
冴木は真っ直ぐな目で尋ねる。
その目は力強く、頼りなさそうな表情の中に、確かな光を感じさせた。
俺は立ち上がり、冷蔵庫からもう一本ビールを取る。
そいつを煽りながら、「負けた時のことを考えて、博打が打てるか」と言った。
「ビビってちゃ何も出来やしないんだ。仕事でも恋でも・・・・な?」
そう言って笑いかけると、冴木は「そのことなんですけど・・・」と不安そうに俯いた。
「課長・・・・本当に会社に残るんですかね?もう辞めるって決心してるのに。」
「大丈夫だ。もう手は打ってある、なあ加藤?」
「え?ああ・・・・まあね。」
加藤はゲームに夢中で、自分が子供であることに没頭している。
冴木はますます不安そうになり、「もし課長が辞めるなら、俺は・・・・、」と呟いた。
「俺はあんた達に協力は出来な・・・・・、」
「なあ冴木。」
彼の言葉を遮り、ピッと指を向ける。
「女にモテる方法・・・・教えてやろうか?」
「え?」
「女ってのはな、ここ一番でケツ捲るような男を一番嫌うんだ。」
「・・・・・・・・・・。」
「逆に言えば、普段はだらしなくても、いざって時に頼りになる男はモテる。」
「はあ・・・・・・。」
「もし本気で北川課長が好きなら、お前は戦わないといけないぞ。それが彼女への信頼に繋がるんだからな。」
そう言うと、冴木は「信頼ですか・・・」と呟いた。
「そう、信頼だ。女ってのは、いつだって男を信頼したいんだよ。この人なら受け止めてくれる、この人なら守ってくれる。この人なら・・・・自分だけを見てくれる。
でも信頼に値する男なんて、そうそういるもんじゃない。浮気したり暴力振るったり、都合のいい時だけ金や身体を求めたり。」
「・・・・・・・・・・。」
「そんな男はクズと一緒だ。冴木・・・・お前はクズか?」
「ち・・・違いますよ!俺はそんな事はしません。」
「もし北川課長と付き合ったら、お前は彼女を傷つけたりするのか?」
「するわけないでしょう!もし課長が傷つきそうになったら、俺が盾になってでも守りますよ!」
「本当か?口だけならなんとでも言えるぞ?」
「口だけじゃありません!俺は課長の為なら、例え火の中水の中でも・・・・・、」
「じゃあ行ってもらおうか。火の中水の中に。」
俺はバッグから一枚の紙を取り出し、テーブルの上に置いた。
「立候補の為の誓約書だ。こいつにサインをしろ。」
大人になると好きな食べ物が変わります。
子供の頃は苦手だったものも、歳と共に美味しいと思うようになりました。
私はずっと辛いものが苦手だったんですが、今は大好物です。
逆に子供の頃好きだっためちゃくちゃ甘いジュースがあるんですが、今は飲めません。
辛いもの、苦いもの、酸っぱいもの。
これらは子供の舌には刺激が強いでしょう。
だから歳と共に食べられるようになるのは分かります。
だけどキツイ味のものでなくても、大人になってから好きになるものはあります。
例えば御浸し。
子供の頃でも食べてましたが、特別好きってわけではありませんでした。
でも今は美味しいと感じます。
それに茶碗蒸しも子供の頃は苦手でした。
でも今は大好物です。
どちらも優しい味なのに、子供の頃は好物ではなかったんです。
年齢による趣向の変化は分かります。
オモチャから卒業して、車や服に興味を持つ。
だけど味覚の変化はどういうシステムで起きるんでしょうね?
子供の頃は、とにかく味が単純なものを好みました。
でも大人になると、よく噛んでじんわりと味わえるものが好きになります。
辛いものが平気になったんだから、味覚は鈍ってると思うんですが、そうではないようです。
子供は感性が鋭いというけど、私はそう思いません。
明らかに大人の方が優れた感覚、そして優れた感性を持っているはずです。
そもそも物事の判断基準って、どう考えても子供の方が単純です。
物事の深い部分まで読み取るなんて出来ないし、思考もそう複雑ではありません。
だから食べ物だって、分かりやすい味のものを好むということなんでしょう。
時間と共に思考や感性が複雑になり、大人になってからようやく美味しいと思えるものがあるということです。
だから味覚の変化は喜ぶべきことです。
単純な味しか分からなかったのに、より複雑で深みのある味が理解できるようになったということなんですから。
御浸しや茶わん蒸しを美味しいと思える。
大人の味覚の方が、断然食を楽しめますね。
- 2016.04.28 Thursday
- 11:29
不安と焦りを誤魔化す為に、しばらく夜道を走った。
本当なら10分で着く場所を、30分も遠回りしてから来てしまった。
小さな駐車場に車を停めると、二人は怯えた様子で降りていった。
特に冴木の方はビクビクしていて、明らかに私の視線を避けていた。
《何を隠してるのか知らないけど、じっくり聞き出してやる。もし危ないことに首突っ込んでるなら、引きずってでもやめさせてやるわ。》
きっと私の顔は般若のようになっている。
これでもかと引きつり、醜いほど歪んでいるに違いない。
美樹ちゃんが店を指さし「ね?オシャレでしょ!」と怯えを誤魔化すように笑った。
「そうね・・・・確かにオシャレね。」
「今時レンガ造りなんて珍しいですよ。しかもこれ、本物のレンガなんですから。」
「一から十までレンガなの?」
「もちろんです!あ、でも・・・・中身はオール電化で・・・・、」
「いいじゃない、近代的で。」
私はツカツカと歩き、ドアを開けて中に入った。
中もそれなりにオシャレで、モダンな雰囲気が落ち着く。
ちらほらと客もいて、静かな空気が流れていた。
若いマスターが「いらっしゃい」と言い、席へ案内してくれる。
「マスター、私のバイト先の先輩です。」
美樹ちゃんがニコニコと紹介し、「とりあえずいつもので」と言った。
「ここってすっごく紅茶が美味しいんですよ。箕輪さんもどうですか?」
「なら貰うわ。」
「冴木さんは?」
「・・・・・水で。」
「そんなのダメです。ここに来て水なんてもったいないですよ。」
美樹ちゃんはぷくっと頬を膨らませる。
その表情は自然に馴染んでいて、全然ぶりっ子に見えないのが羨ましい。
《可愛いキャラしてるわこの子。》
私もいつか挑戦してみようかと思ったが、絶対に似合わないのでやめておくことにした。
マスターが紅茶を運んで来るまで、私たちは無言だった。
美樹ちゃんが場を和ませようと何かを言いかけたが、重い空気に負けて黙り込む。
やがて良い香りのする紅茶が運ばれてきて、「ごゆっくり」とマスターが去って行く。
美樹ちゃんは「ほらほら、冴木さん!」と紅茶をすすめた。
「え?ああ・・・・。」
「・・・・・どうですか?」
「・・・・うん、まあ・・・・どうなんだろ?美味しいんじゃない?」
「なんですかそれ。美味しいって言ってほしかったのに。」
「ええっと・・・・じゃあ美味しいかな。」
「じゃあってなんですか、じゃあって。ちゃんと飲んで下さい。」
「だって紅茶の味とか分かんないもん。」
「普段何飲んでるんですか?」
「炭酸、あと酒。」
「いかにも一人暮らしの男性っぽい・・・・。きっとカップ麺とかばっかり食べてるんでしょ?」
「いや、たまには作るよ。でも紅茶の味なんてやっぱり分かんないって言うか・・・・、」
そう言いながらもう一口すすり、「こういう空気じゃなければ美味しいのかもしれないけど・・・」と私の方を見た。
「さっきから物凄いプレッシャーを感じるんだよ・・・・。味なんて分かんないくらいに・・・・。」
ズズッと紅茶をすすりながら、また目を逸らす。
美樹ちゃんは私と冴木を交互に見つめ、「なんか・・・・変な空気ですね」と苦笑いした。
「二人はいつも喧嘩してるけど、でも今日はなんだか違う感じがします・・・・。その・・・何かあったんですか?」
これ以上この空気に耐えられなくなったのか、美樹ちゃんが尋ねる。
「箕輪さん・・・なんだかすごく怖いっていうか・・・・怒ってるっていうか・・・・。冴木さんが夜まで戻って来なかったのが、そんなに腹が立つんですか?」
ビクビクしながら尋ねる美樹ちゃん。
これ以上怖がらせても可哀想なので、「冴木はね・・・」と口を開いた。
「バカでマヌケで役立たずだけど、でも一つだけ凄い才能を持ってるの。」
「凄い才能・・・ですか?」
「こいつは一度見た景色は絶対に忘れないの。そしてそれを正確に絵に描くことが出来る。」
それを聞いた美樹ちゃんは「すごいじゃないですか!」と手を叩いた。
「私そういうの知ってます。なんかテレビでやってました。超人的な記憶力を持つ人っていうのを。」
「そういう人と同じ才能を冴木は持ってるのよ。」
「へえ〜!知らなかった。私冴木さんのこと見直しました!」
そう言って羨望の眼差しで冴木を見つめる美樹ちゃん。しかし当の冴木は、暗い顔で紅茶をすすっていた。
「でもね、そんな才能があるせいで、こいつは危険な目に遭った。」
そう続けると、美樹ちゃんはパタッと笑顔を消した。
「危険な目・・・・・?」
「今から一カ月ほど前、ある大きな事件があってね。冴木はその事件の中心にいたのよ。」
「・・・・それって・・・まさか会社を乗っ取る事件のことですか・・・・?」
美樹ちゃんは不安そうに言い、「なんか店長が言ってたのを聞きました」と視線を落とした。
「一か月前に、すごく大きな事件があったって。店長も詳しくは知らないみたいだけど・・・・・。」
「あの事件の真相は、上の人たちが揉み消したからね。でも私は知ってる。だって・・・・私もその中心の近くにいたから。」
「箕輪さんもですか!?」
大きな声で叫び、まるでUFOでも見つけたかのように目を丸くした。
「私も冴木も、あの事件に関わってたのよ。詳しくは言えないけど、でも大変な事件だった。たくさんの人が傷ついて、たくさんの人が危険な目に遭って・・・・。」
紅茶に目を落とし、カップに浮かぶ自分の顔を見つめる。
なんだか前より老けたような気がするけど、きっと顔が強張っているせいだろう。
断じて老けてなんていないと言い聞かせつつ、先を続けた。
「あの事件の中で、たくさんの人が傷ついた。そして冴木もその一人。こいつは・・・・刺されて死にかけたのよ。」
カップに浮かぶ自分を見つめながらそう言うと、美樹ちゃんは「刺された・・・・?」と声を震わせた。
「そう・・・刺されたの。それも二回も。」
「・・・・・・・・・・。」
「たまたま助かったからよかったようなものの、死んでても全然おかしくなかった。」
「・・・・・・・・・・。」
「ていうか生きてるのが不思議なくらいね。普通に生きてればまず刺されることなんてないから。それも二回も。」
「刺されるって・・・・・そんな・・・・・、」
「信じられないでしょ?そういうのってどこか遠い世界の出来事だと思ってたから。まさか自分の周りでそんなことが起きるなんて思わないじゃない。」
「そ・・・そうですよ!もしそんなことがあったら、多分私トラウマになるかも・・・・、」
「そうね、私はもうなってるわ。」
紅茶をすすり、鼻をくすぐるような良い香を吸い込む。
なるほど・・・・確かにここの紅茶は美味しい。
一口飲んだだけで、あったかいお風呂に浸かっているみたいに、身体じゅうがホッとする。
「ああいう事が起きて、私ははっきり気づいた。ああ・・・・私って、自分が思ってたより弱い人間なんだなあって。
あの事件に関わった中じゃ、すごく弱い方の人間だったんだって。」
「そ、そんなの・・・・弱いとか弱くないとかの問題じゃないですよ!誰だってトラウマになると思います。」
美樹ちゃんは力強く言う。愛嬌のある大きな目を、さらに大きくしながら。
「箕輪さんは弱くなんかないですよ!うん・・・絶対にそう・・・・。弱いとか弱くないとか、そんなんじゃないと思います。」
「ありがとう、慰めてくれて。」
「違います!そういうつもりじゃなくて・・・・・、」
「うん、分かってる。人が刺されるなんて、そんなの誰だって嫌だって言いたいんでしょ?」
そう尋ねると、美樹ちゃんはコクコクと頷いた。
「だってそんなの・・・・怖いじゃないですか。死んじゃったりとかするかもしれないし、それに刺されるって言葉だけでもショックだし・・・・、」
「そうね、私はショックを受けてる。でもね、そのショックに負けない人もいるのよ。あの事件に関わった中で、今でも強く戦おうとしてる人がいる。」
私はまた紅茶に目を落とし、そこに北川課長の顔を思い浮かべた。
あの事件の中心にいて、ある意味一番の被害者だった課長。
会社と家族・・・・その二つの中に挟まれて、大きなプレッシャーを受けてたはずだ。
それなのに、今でも颯爽と仕事をこなす。
あの若さで本社の課長を務め、いかつい重役連中にだって引けを取らない。
私は絶対にあんな風になれないなと思いながら、それと同時にあの人のことを尊敬していた。
「追い詰められた時や怖い目に遭った時、自分が強い人間かどうかはっきり分かる。私はあの人みたいに強くなれない・・・・。」
カップに思い浮かべた北川課長の顔・・・・・それはいつの間にか、別の顔に変わっていた。
あの事件に関わって、危険な目に遭って、それでも平然と今を過ごしている人間の顔に。
でもそれは、北川課長のように強いからじゃない。
いや・・・・強いといえば強いんだけど、でもそれだけが理由で平然としてるんじゃない。
死ぬような目に遭っておきながら、今でも平然としていられるのは、単に鈍いからだ。
危ない目に遭ってもすぐに忘れて、また危険に首を突っ込む。
凄い才能を持っていても、それ以外のところがボンクラだから、すぐに人に利用される。
自分がどういう状況に立っていて、その先にどういう未来が待っているかをまったく考えない。
だからこそ今でも平然としていられる・・・・このどうしよいもないボンクラ男。
こいつがこんなにバカじゃなければ、私は気を揉まないのに・・・・・。
カップに浮かんだ人物は、今目の前にいる。
私は顔を上げ、「冴木」と呼んだ。
「お願いだから正直に話して。あんた・・・・店を抜けてから今まで、いったい何をしてたの?」
怒りは消えて、ただこいつを心配する気持ちだけがあった。
・・・・いや、違うな。こいつがどうこう言うよりも、私が安心したいんだ。
もう二度と、身の回りで不幸なことが起こらないように・・・・。
冴木は黙々と紅茶を飲んでいて、それに飽きると水に口を付けている。そしてまた紅茶に戻っていた。
ほんとに子供みたいな奴だなと思いながら、「あんたはさ・・・」と呟いた。
「怖いとか恐ろしいとか、そういうのは思わないの?死ぬような目に遭ったのに、どうして平気でいられるわけ?
私はどんなにお金を貰おうが、どんなに良い男を紹介されようが、平和な日常がなくなるなんて耐えられない。なのになんであんたは・・・・、」
「・・・・・・・・・・。」
「答えてよ冴木。あんたはどうして平気でいられるの?鈍いから?それとも北川課長みたいに強いから?それとも・・・・ただ単にバカだから?」
「・・・・・・・・・・。」
「私はこれ以上あんたのことなんかで、気を揉みたくない。どうしてこんなアホの為に心配しなくちゃいけないのか・・・・考えれば考えるほど腹が立つ。」
「・・・・・・・・・・。」
「だから教えてよ。あんた今までどこ行ってたわけ?あの子供社長と何やってたの?・・・・どうせまともな事じゃないんでしょ?」
「・・・・・・・・・・。」
「お願いだから教えてよ。お茶ばっか飲んでないで答えてよ。」
「・・・・・・・・・・。」
「ねえ冴木。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・答えろつってんだよこのバカ!」
グラスを掴み、水を掛ける。
飛沫が美樹ちゃんにまで飛んでしまい、ビクッと肩を竦めていた。
他の客も目を向け、何事かと目を丸くしている。
若いカップルが、おばさんの二人組が、そして・・・若い男がじっと見つめてくる。
「私はね!課長やあんたみたいに強くないのよ!この平和な日常がいつ壊れるかって思うと、怖くて怖くてたまらない・・・・・。
どんなに強がったって、強い人と同じようには出来ないのよ!それが分かんねえのかこのボケナス!!」
胸倉を掴み、拳を振り上げる。すると「ダメですよ!」と美樹ちゃんが止めた。
「暴力はダメです!」
「うるさい!放せ!」
「放しません!」
「あんたは関係ない!引っ込んでろ!」
「関係なくないです!だって話を聞いちゃったから!」
「あんたはあの時のことを知らないでしょ!偉そうに言うな!」
「でも殴っちゃダメです!お願いだから手え下ろして!」
二人で揉み合っていると、マスターが慌てて走って来た。
「ちょっとちょっと・・・・、」
私たちの間に割って入り、「喧嘩はやめて下さい」と睨んだ。
「他のお客さんに迷惑です。」
そう言って美樹ちゃんを振り返り、「こういうの困るよ」と顔をしかめた。
「ご、ごめんなさい・・・・・。」
「喧嘩するなら外でやってよ。」
「すいません、すいません!」
何度も頭を下げ、申し訳なさそうに謝る。
マスターは「頼むよ」と言い残し、奥へ戻って行った。
美樹ちゃんはまだ頭を下げていて、「はあ・・・」と腰を下ろした。
「怒られちゃった。」
小さく笑い、紅茶をすする。
「お茶も冷めちゃった。お代わり頼みません?」
そう言って私たちを見つめ、「今日は私が奢ります」と笑った。
「・・・・・・・・・・。」
「箕輪さん?」
「・・・・・・・・・・。」
「お代わりいりません?」
「・・・・・・・・。」
「ここ、パンケーキも美味しいんですよ。よかったら食べません?」
「・・・・・・・・・。」
美樹ちゃんはニコニコと気を遣ってくれる。
でも私は何も答えず、椅子に座り込んだ。
そして頭を抱え、「怖いのよ・・・・」と言った。
「事件が終わった後は何ともなかったのに、時間が経つほど怖くなる・・・・。危ない事とか、誰かが刺されるとか・・・・もうそんなの嫌・・・・・。」
ギュッと目を閉じ、掻きむしるように頭を押さえる。
冷めた紅茶からほんのんりと匂いが立ち込め、鼻の奥をくすぐった。
良い匂いだけど、でもさっきみたいに落ち着けない。
しばらく頭を抱えたまま座り込み、やがてバッグを掴んで立ち上がった。
「あ!箕輪さん・・・・、」
「ごめん・・・・悪いけど帰るね。」
「え?ああ・・・・でも・・・・、」
「家は近所なんでしょ?」
「ああ・・・・はい・・・・。」
「心配なら迎えに来てもらって。それか・・・・そこのボンクラに送ってもらえばいいわ。」
そう言い残し、店を出て行く。
美樹ちゃんが「箕輪さん!」と呼んだが、振り返らずに車まで走った。
エンジンを掛け、逃げるように走り出す。
点滅しかけた信号を突っ切り、グングンとメーターを上げる。
「クソバカの冴木!クソバカの冴木!役立たずのアホのクセに!!」
どうしてあんな奴の心配をしないといけないのか、腹が立って仕方がない。
でもそれはきっと、私が弱いせいだろうと思った。
誰かが傷つく・・・・平穏な日常が壊れる・・・・・。
当たり前だと思っていた毎日が、突然誰かに取り上げられる・・・・。
きっと・・・・きっとこんな不幸なことはない。
周りにいる人間が傷つき、いつかは私まで・・・・・・。
自分がこんなに弱い人間だとは知らず、それもまた腹が立った。
そんじょそこらの男より逞しいはずと思っていたのに、下手をしたら美樹ちゃんよりも弱いかもしれない。
怒りは身体に伝わり、アクセルを踏む力が強くなる。
すると巡回していたパトカーに捕まり、高い切符を切らされた。
「ちょっとスピード出し過ぎ。これ免停になるよ。」
私は真っ直ぐ前を向いたまま、もしまた不幸な事件が起きたらどうしようと、恐怖にさいなまれる。
ハンドルを握る手が震え、唇が渇いていく。きっと今の私は、顔が青く染まっているだろう。
勘違いした警官が「今さら後悔しても遅いからね。免停は取り消せないよ」と言った。
- 2016.04.28 Thursday
- 11:27
喧嘩が強いというのは憧れます。
もちろん手を出したら駄目なんだけど、でも憧れます。
格闘技をやっている人が強いのは分かるけど、そうじゃなくても強い人に憧れます。
刃牙という漫画に花山薫というヤクザが出てくるんですが、とにかく喧嘩が強いです。
格闘技じゃなくて、喧嘩が強いんです。
だから試合形式だと負けることもあるけど、ルール無用の喧嘩ならほぼ負け無しです。
負けたのは勇次郎と刃牙にだけです。
花山は骨の髄から任侠道を行く人間なので、小細工は使いません。
花山曰く、格闘技で鍛えるのは女々しいことだそうです。
特に生まれながらにしての強者が格闘技をやるのは、女々しいを通り越して卑怯との考えを持っています。
元々強い者が、日々鍛錬に勤しむ。
それは他者を出し抜く行為に他らないってことです。
だから花山は鍛えません。
格闘技もやりません。
生まれ持った肉体、生まれ持った拳だけで戦います。
花山は漫画のキャラだけど、でも確かに喧嘩と格闘技って違います。
喧嘩自慢が格闘技をやっても、プロの選手には勝てないでしょう。
逆に格闘技のプロだからといって、喧嘩が強いとも限りません。
マイク・タイソンや竹原慎二さんのように、元々喧嘩の強いタイプの格闘家なら別でしょう。
ていうかむしろ喧嘩の方が強そうな感じです。
だけど喧嘩に縁のない人間が格闘技をやっても、喧嘩が強くなるとは思えません。
肉体的には強くなるだろうし、技だって覚えます。
でも強面のオジサンに「なんじゃお前コラァ!」と怒鳴られたら、多分足が竦むでしょう。
喧嘩ってビビったら負けなので、いくら格闘技をやっていようが、相手の迫力に飲まれたらお終いです。
何も出来ずにボコボコにされ、その後には青痣と傷つけられたプライドが残るだけでしょう。
でも喧嘩の強い人ってビビらないんですよね。
勝つとか負けるとか考えていない感じです。
大事なのはやるかやらないか。
勝ち負けよりも、そこが重要なんだと思います。
先を考えるなら喧嘩なんて出来なくて、今その場で決めるしかありません。
喧嘩の強い人って、負けることよりも逃げることの方が嫌なんだと思います。
相手が怖いとかじゃなくて、自分に背中を向けるのが一番の屈辱なんでしょうね。
でもほとんどの人は、相手じゃなくて自分から逃げます。
自分から逃げてもいいなら、全てのことに対して逃げることが出来ます。
だから目の前の敵から逃げても、全然OKなわけです。
私は喧嘩になると逃げる部類なので、自分に背を向けっぱなしです。
喧嘩の強い人って、常に自分との戦いなんでしょう。
勝つか負けるかではなく、やるかやらないか。
だから昔ヤンチャをしてましたって人ほど、意外と社会に出てから成功したり。
ゴチャゴチャ言わずにやりゃええんじゃ!
そう思えるくらいに強くなりたいです。
喧嘩の強い人、カッコいいと思います。
- 2016.04.27 Wednesday
- 10:06
月曜の午前、私は目の回る様な忙しさに追われていた。
「箕輪さん、これ在庫あります?」
冴木がシャーペンを振りながら尋ねてきたので、「自分で探せ!」と怒鳴った。
美樹ちゃんが気を利かせて「こっちの段ボールの中に・・・」と助け船を出す。
アホの冴木は「これ消しゴムの箱だと思ってた」と、頓珍漢なことを言う。
「いい加減在庫の場所くらい覚えろ。」
嫌味を飛ばしながら、レジに並ぶ客を捌いていった。
基本的にウチの販売所は暇である。
だけど年に数回、たま〜にこうして混むことがある。
それはウチの販売所がやっているセールのせいで、特定の商品の価格が五分の一にまで下がるからだ。
ウチみたいなあってもなくてもいいような販売所は、時に厄介事を押し付けられる。
他の店で余った在庫を、ウチで捌けと送られてくるのだ。
早い話がアウトレットセールをしろということなんだけど、でもウチでまともに働けるのは私と美樹ちゃんだけ。
冴木はいつまで経ってもアホのままだし、あの店長は使い物にならない。
このクソ忙しいというのに、なぜか事務所でパソコンを叩いているんだから・・・。
「いくらウチがしょうもない店だからって、もうちょっとマシな奴を寄こせっての・・・・まったく。」
お客さんに聴こえない程度に愚痴りながら、ひたすらレジを打ち続ける。
アホの冴木は頓珍漢な接客でお客さんに怒られ、美樹ちゃんだけがどうにかこの忙しさについて来ている。
目の回る様な忙しさの中、私のイライラは頂点に達していた。
《ああ・・・・お願いだから早くこの波が引いて・・・・。じゃないとお昼の休憩にも行けない・・・・。》
お客さんはまだまだ続々と入って来て、「ちょっとこれ他にもある?」とか「これやっぱり返品したいんですけど」などと声を掛けてくる。
私はレジを打ちながら、「少々お待ちください」と笑った。
《あああああ・・・・もう限界だっての!これ以上来られたらどうにもなんねえ!!》
笑顔はピキピキと引きつり、きっとこめかみには血管が浮いている。
しかしその時、一人の少年が「手伝ってやるよ」とやって来た。
「人手が足りないだろ?」
「え?ああ・・・・でも・・・・・、」
「遠慮すんな。まだここの社長じゃないんだから。」
さっきまで事務所で漫画を読んでいた少年が、私の代わりにレジを打ち始める。
「あんた接客行って。」
「あ・・・はい!」
「それと・・・・美樹ちゃんだっけ?冴木には構わなくていいから。とにかく商品補充して。」
「わ・・・・分かりました。」
「ああ、それと冴木。事務所行ってスタンプカード持って来い。戸棚の二番目にあるから。」
「りょ・・・了解です!」
少年はてきぱきと指示を出し、状況を見ながら仕事を捌いていく。
その手際は凄まじく、彼の指示の元に、どうにか忙しい波を乗り切ることが出来た。
「お・・・・終わった・・・・・ようやくお客さんが引いてくれた・・・・。」
ガランとした店の中で、ぐったりと腰を下ろす。
「箕輪さん、お疲れ様です。」
「ああ・・・・美樹ちゃん・・・・あんたよく頑張ってくれたわ・・・・助かった。」
「いえ・・・・私もけっこうテンパっちゃって。こんなに忙しいの初めてだから。」
「一か月目でここまらついて来れたら上出来よ。いつまで経っても役に立たないアホもいるんだから。」
そう言って冴木を睨むと、大して働いてもいないのにくたびれていた。
「なんでアンタが疲れてんのよ・・・・。何もしてないクセに。」
「そんなことないですよ。俺だってちゃんと頑張りましたよ。」
「どこが?在庫の場所すら覚えてないクセによく言うわ・・・・。」
嫌味たっぷりに罵ってやると、「冴木はよく頑張ったぞ」と声がした。
「こいつはこいつなりに頑張ってた。けっこう面倒くさい客もそれなりに捌いてたからな。」
「あ!手伝ってもらってすみません・・・・。」
私は立ち上がり、慌てて頭を下げた。
「おかげで助かりました。何て言うか・・・・その・・・・凄い仕事ぶりで、感心しました。」
「ん?まあ元々現場にいたからな。扱う物が違っても、やることは一緒だ。」
「でも・・・・いいんですか?将来社長になるかもしれない人が、こんなちっぽけな店を手伝ってもらって・・・・・、」
「なんか現場にいる時を思い出してな。ちょっと血が騒いだ。けっこう楽しかったぞ。」
少年はニコリと笑い、「さて・・・・」と背伸びをした。
「もう忙しい波は来ないだろ。特価品もほとんど売れたし。」
「そうですね。あとはいつも通りだと思います。」
「んじゃ俺はちょっと出掛けるわ。」
そう言って「おい」と冴木の手を引っ張り、「いつまでもへばってるな」と立たせた。
「本当の仕事はこれからだぞ。」
「いや、まだ疲れが残って・・・・・、」
「疲れた時こそいい仕事が出来るんだ。余計な力が入ってないからな。」
「でもまだ昼飯も食ってない・・・・、」
「途中でなんか奢ってやる。いいから来い。」
少年は無理矢理冴木を立たせ、店を出て行く。
美樹ちゃんが「何なんですかね、アレ?」と不思議そうな顔をした。
「冴木さんなんか連れて、どこ行くつもりなんしょう?」
「さあね。」
「だってあんな人連れて行ったって、何の役にも立たないですよ。どんな仕事するにしたって。」
「・・・・・・・・・。」
「どうしたんです?変な顔して。」
「あいつがね・・・・ああやってコソコソ抜け出して行く時は、あんまり関わらない方がいい。ロクな仕事じゃないから。」
「そうですね。なんたって冴木さんが出来るような仕事ですもんね。」
美樹ちゃんはのほほんと言い、「先にお昼頂いていいですか?」と尋ねた。
「いいわよ。どうせもう暇だし。」
「じゃあお先に頂きます。」
そう言って事務所へ向かい、パタンとドアを閉じた。
「・・・・冴木に出来るような仕事か・・・・。また前みたいにならないといいけど。」
最近入ったばかりの美樹ちゃんは知らない。
冴木が人にはない特殊な才能の持ち主で、それを使ってどういう仕事をしていたのかを。
「あいつがスパイとして雇われてたって知ったら、美樹ちゃん腰抜かすだろうな。」
冴木の出て行ったドアを睨み、「よっこらしょっと」と立ち上がる。
以前の事件の時、冴木は刺されたことがある。それも二回も。
あんなアホがどうなろうと知ったこっちゃないけど、でもやっぱり二度とそんな事は起きてほしくない。
あいつはどうしようもないバカだけど、でも・・・・決して悪い奴じゃないから。
いつも罵ってばかりいるけど、嫌ってるわけじゃないのよね・・・・。
「いざとなったら男気のある奴だし、強敵にだって立ち向かうし・・・・。アレで普段からしっかりしてたら、男として見れるんだけどなあ。」
腰をトントンと叩きながら、うんと背伸びをする。
すると美樹ちゃんが事務所から走って来て、「大変です!」と言った。
「どうしたの?」
「店長が青い顔で震えてるんです。」
「あ、そう。更年期のせいじゃないの。」
「それが違うんです。靴キング!の社長さんに、『俺が社長になったら、お前真っ先にクビな』って言われたみたいで。」
「あら!それなら絶対に社長になってもらわないと。ねえ店長〜!」
事務所を覗きながらそう言うと、ガタっと物音が聴こえた。
「店長ね・・・・今奥さんと電話中なんです。」
「奥さんと?なんで?」
「もしクビになっても、僕の傍にいてくれるかい?って。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「ダハハハハハハハ!アーハッハッハッハッハッハ!ヒイーヒッヒッヒッヒ!」
「ぶふッ・・・・・箕輪さん・・・・笑い過ぎ。」
事務所からまたガタガタ音が聴こえる。
私たちは涙目になりながら、二人して腹を抱えた。
*
「それじゃお疲れ様です。」
美樹ちゃんが頭を下げて出て行く。
私も「お疲れ〜」と手を振り、時計に目をやった。
「七時か・・・・あれ以降ずっと暇だったな。」
あの忙しい波が引いてから、ほとんどお客さんは来なかった。
私と美樹ちゃんは小一時間も笑い続け、いたたまれなくなった店長が「みんな酷いよ!」と逃げるように帰って行った。
『あのオジサン、本当にクビになったらどうするつもりなんだろ?』
『それより奥さんに捨てられる方が先じゃないですか?最近上手くいってないらしくて、お弁当作ってもらえないんですって。』
『ずっとカップ麺ばっか食ってるもんねえ。あれじゃ身体壊して、クビになる前にいなくなったりして。』
ついさっきまでそんな話を続けて、時間を潰していた。
私は店を閉め、ガラガラとシャッターを下ろす。
寒い季節はとっくに過ぎたが、それでも冷え性の私にはまだまだ夜は寒い。
帰ってあったかいお風呂に浸かろうと思いながら、駐車場へと歩いた。
「冴木の奴・・・・結局帰って来なかったな。危ない目に遭ってなきゃいいけど。」
以前ならあいつの心配をするなんてあり得なかった。
でも今は心のどこかで気に掛けている。
前にあいつが刺された時、どうしようもないほど胸が締め付けられた。
自分の周りにいる人が刺される・・・・・それがどれほどショックなことか、身をもって知った。
平穏な日常は当たり前のようにあるけど、でもそれはいつ崩れてもおかしくない。
私の周りで誰かが刺されるなんて・・・・そんな思いはもうゴメンだった。
ぼんやりとあのアホのことを考えながら、車に乗り込む。
すると誰かが走って来て、コンコンと窓を叩いた。
「箕輪さん!」
美樹ちゃんが血相を変えて震えている。
私は窓を下ろしながら、「どうしたの?」と尋ねた。
「顔が真っ青じゃない。もしかして変な人でもいた?」
そう尋ねると、美樹ちゃんはコクコクと頷いた。
「お店からちょっと離れたとこの電柱に、なんか変な人が・・・・・、」
「どこ?」
私は車から降り、そっちへ歩き出す。
「ダメですよ!もし何かあったらどうするんですか!」
「でも気になるじゃない。もし本当に変質者なら、警察に通報しないと。」
「ダメダメ!危ないから関わらない方がいいです!」
美樹ちゃんはブルブル震えながら、「車で来ればよかった・・・」と涙目になった。
「お天気がいいから歩いて来たのに・・・・最悪。」
「いいわよ、私が送って行ってあげる。」
「ホントですか!」
「だって危ないじゃない。何かあってからじゃ遅いし。」
「あ・・・・ありがとうございます〜・・・・。」
美樹ちゃんはギュッと抱きついてくる。
私は離れた場所に立つその電柱を睨みながら、「帰ろ」と車に乗り込んだ。
アクセルを踏み、ゆっくりと走り出す。
そしてライトをその電柱の方へ向けると、ササッと隠れる人影が見えた。
「あれか・・・・・。」
確かに怪しい動きをしている。
そわそわと落ち着きがなく、でもコソコソとこっちを窺っている。
「どんな顔してんのか見てやる。」
そう言いながら車を近づけると、美樹ちゃんは座席にかがんだ。
「どうしたの?」
「だって顔を覚えられたら怖いじゃないですか・・・・。」
「暗いから中まで見えないと思うけど・・・・。」
「でも万が一ってことがあるし・・・・・。」
「美樹ちゃん・・・・けっこう怖がりだったのね。」
「怖いですよ!だって変な人って何するか分からないじゃないですか・・・。」
「だから変質者って言うんだけど・・・・。」
怖がる美樹ちゃんを尻目に、電柱へと近づく。
そしてすれ違いざまに、首を伸ばして覗き込んでやった。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
変質者と目が合う。
私はため息を漏らし、「美樹ちゃん・・・・」と呟いた。
「心配しなくても平気みたい。」
「え?どういうことですか・・・・。」
「だってあれ・・・・私たちのよく知ってる変質者だから。」
そう言って車を止め、外へ降りる。
「あ!危ないですよ!」
美樹ちゃんは青い顔でブルブル震える。
でも私はお構いなしに電柱へ近づいた。
「あんた・・・・何やってんの?」
「・・・・・・・・・・。」
「なんでコソコソ隠れてんのよ。美樹ちゃんが怖がってるじゃない。」
「・・・・・・・・・・。」
「なんで黙ってるの?さっさと出て来なさいよ。」
そう言って睨むと、背中を向けて走り出した。
「あ、コラ!逃げんな!」
慌てて追いかけ、襟首を掴む。
「ぐひッ・・・・・、」
「なんで逃げんのよ!こっちへ来い。」
襟首を掴んだまま、車の方へ引っ張る。
コンコンと窓をノックし、「美樹ちゃん」と呼びかけた。
「・・・・・・・・・・。」
「大丈夫、怖くないから。」
「・・・・・・・・・・・。」
「心配しないで顔上げな。これ、あんたもよく知ってるボンクラだから。」
そう言うと、美樹ちゃんは「ボンクラ・・・」とすぐに顔を上げた。
「・・・・・冴木さん!」
「・・・・・やあ。」
「何してるんですか!電柱にコソコソ隠れて!」
車から降りて来て、「変質者かと思ったじゃないですか!」と怒った。
「ご・・・・ごめんよ・・・・。でもこれには訳が・・・・・、」
「ほんとにビックリしたんですよ!もし変な人だったらどうしようって!」
「だ、だからごめんて・・・・、」
「ごめんで済みません!明日からはもう歩いて来れないと思ったじゃないですか!」
「申し訳ない・・・・、」
「だいたいなんで隠れる必要があるんですか!こっちに気づいてたなら、普通に出てくればいいのに!」
「そんな怒らないでよ・・・・、」
「怒るに決まってるでしょ!女の子が夜道で変な人に会うなんて・・・・どれほど怖いか分かってるんですか!」
「うう・・・・・だからごめんてば・・・・。」
美樹ちゃんは鬼のように怒りまくる。よっぽど怖かったんだろう。
冴木は恐縮しながら、何度も「ごめん・・・」と謝っていた。
「美樹ちゃん、もうその辺で許してあげな。」
「でも・・・・・、」
「こいつは変な奴だけど、意味もなく変なことする奴じゃないから。きっと訳があるのよ。」
そう言って「ね?」とボンクラに笑いかけた。
「あんた今まで何やってたの?」
「え?何って・・・・・ちょっと仕事を・・・・、」
「どんな仕事?」
「秘密です。」
「また余計なことに首突っ込んでんじゃないの?」
「・・・・・別に。」
「図星か。」
「・・・・ああ!また顔に・・・・、」
「不器用にもほどがあるだろバカ。」
パチンとおでこを叩き、睨みながら顔を近づける。
「あ、あの・・・・箕輪さん・・・・・、」
「・・・・・・・・・。」
「その・・・・勘弁して下さい・・・・・、」
「何を?」
「だって・・・・俺そういうつもりはないですから・・・・、」
「ん?」
「悪いけど・・・・俺は課長一筋なんで・・・・、」
「あ?」
「それに美樹ちゃんだって見てるし・・・・・・、」
「は?」
「いや・・・・だってそんなに顔近づけて・・・・・チューとかするつもりなんでしょ?」
「・・・・・・・・。」
私のこめかみに血管が浮く。美樹ちゃんが「怖・・・」と後ずさった。
「冴木・・・・あんたさ・・・・、」
「は、はい・・・・・・・。」
「あの世へ旅立ってみるか?」
胸倉を掴み、鼻が触れるほど顔を近づける。
冴木はブルブルと首を振り、「じょ・・・冗談です・・・」と謝った。
「次やったらブッ飛ばす!」
グーでおでこを叩くと、「いぎゃッ!」とのけ反った。
けっこう強く殴ってしまったので、私も「ぎゅッ・・・」と拳を押さえる。
「あ、あの・・・・、」
見かねた美樹ちゃんが、オロオロしながら私たちの間に割って入る。
「ぼ・・・暴力はいけません!とりあえず落ち着いて話をしませんか?」
そう言って交互に私と冴木を見つめ、「ね?」と微笑んだ。
「ここじゃアレだから、いったん店に戻りましょうよ。」
笑顔でそう言うが、その顔はかなり無理をしていた。
そして「ね、ね?」と私たちの腕を叩く。
「・・・・いいわ。でも今さら店に戻るのも面倒くさい。どっか別の場所にしよ。」
「あ!それなら良いお店知ってるんです。私んちの近くにある喫茶店が、すごくお洒落なんですよ。」
「分かった。じゃあ案内して。」
私は車に乗り込み、「さっさとしな」と言った。
冴木はまだおでこを押さえていて、美樹ちゃんが「大丈夫ですか・・・?」と心配そうに覗き込む。
「平気平気・・・いつものことだから・・・、」
「いくら箕輪さんでも、いつもはグーで殴らないですよ。」
「あの人年々酷くなるんだよ。きっと人より早い更年期障害に・・・・・、」
「そういうこと言ったらまた殴られます。いいから車に乗りましょ。」
更年期がどうとか聞こえたけど、美樹ちゃんの顔を立てて聞こえないフリをしてやる。
二人は車に乗り込み、明らかに私を怖がった様子で肩を竦めていた。
《このバカ・・・・また危ないことに首突っ込んでるに決まってる。刺されて死にかけたこと忘れたのか。》
怒った顔でルームミラーを見つめ、怯える冴木を睨んでやった。
《いい加減危ない仕事から引き離さないと、今度は本当に死んじゃうかもしれない・・・・・。そんなのは絶対に・・・・。》
冴木は友達でもなければ、恋人でもない。
特別好きなわけでもないし、アホ極まりない役立たずだと思ってる。
でも・・・それでもやっぱり、周りの誰かが危険な目に遭うなんて嫌だった。
会社の乗っ取りだの誘拐だの、それに刃物で刺されるだの・・・・・そんなのは前の事件だけで充分だ!
もう二度と、誰もあんな不幸な目に遭ってほしくない。
怒りは不安に変わり、苛立ちは焦りに変わる。
美樹ちゃんの「あ、そこの信号右です!」という声を無視して、夜の道を飛ばしていった。
- 2016.04.27 Wednesday
- 10:04
特にダイエットもしていないのに、最近痩せてしまいました。
多分季節が変わったせいだと思います。
冬は太りやすくなるそうで、春に変わって体形が変わったのかもしれません。
でも筋力は衰えていないので、むしろよかったかなと思っています。
何もしていないのに痩せると、ちょっと不安です。
病気なんじゃないかと疑ったけど、そうでもないようなので一安心です。
太るのはよくないけど、痩せすぎるのもよくありません。
知り合いに野球好きな奴がいるんですが、そいつもかなり体重が落ちたと言っていました。
理由は毎日走るようになったからです。
そうすると見る見るうちに痩せていったそうで、確かに一目見て体形が変わっているほどでした。
だけどあまりに体重が落ちた為に、パワーが出ないと言っていました。
バッティングの時、球が遠くへ飛ばせないそうです。
それにスタミナも落ちたと悩んでいました。
結局走るのをセーブし、筋トレの量を増やしたそうです。
すると体重が戻ってきて、パワーもスタミナも復活したとのこと。
もう何年も前の話ですが、ふとそれを思い出しました。
人には適正体重というのがあって、太り過ぎも痩せ過ぎもよくないということなのでしょう。
身長や骨格に見合った体重があるということです。
私も昔はかなり痩せていて、中三から二十歳過ぎまでほとんど体重が変わりませんでした。
でも背は伸びるので、明らかに体重不足です。
今は前より太ったけど、でも今の方が疲れにくい体になりました。
きっと必要な肉が付いたおかげだと思います。
筋肉は当然として、脂肪だって必要だから付いているわけです。
あまりに体脂肪を落とし過ぎると、これもかえってよくないと聞きます。
力士やプロレスラーは、筋肉と同時に脂肪も付けています。
そうすることで怪我をしにくい体にしているのでしょう。
格闘技なんか見ていても、ムキムキの人ほど打たれ弱い傾向にあります。
パワーはすごいんだけど、脂肪が少ないと脆くなるってことなのでしょう。
だからあまりに脂肪を敬遠するのもよくありません。
自分に見合った体重、そして程よい脂肪。
それこそが健康的な肉体を維持する秘訣だと思います。
箕輪凛
美樹美樹
亀の甲より年の功。
私は靴キング!の香川総務部長の前で、いいようにあしらわれていた。
《ダメだ・・・・完全に相手に飲まれてる・・・・。このままじゃ何も出来ないまま終わっちゃう。》
どうにか巻き返しを図ろうと、「あの・・・・話を戻させて頂きたいのですが・・・」と切り出した。
しかしすぐに撃沈された。
香川部長の「話?何のお話かしら?」という言葉に。
「いえ、だから選挙の候補者を募るというお話に・・・・、」
「大変ですわねえ、本社の方も。社長を選挙で決めるだなんて、ワタクシどものような一グループ会社にはとても思いつかないような斬新さがありますわ。」
「選挙は再来週に迫っています。そして立候補出来るのは、来週の金曜まで。あと六日しかありません。」
「北川課長はさぞお忙しいでしょうね。その若さで選挙委員長を任されるなんて、やはり会長の娘さん。ウチの孫とは出来が違いますわ。」
「それでですね、先ほども申した通り、あと三人の候補が必要なので・・・・、」
「稲松文具は現会長の北川一族が興したもの。やはりその血筋の方は優秀ですわ。ウチの孫にも見習わせたい。」
「すみませんが、話を進めさせて頂きたいんです。早急に候補者を確保しろというのが、会長の命令でして・・・・、」
「やはり優秀な血筋というのは、こうして優秀な方を育むものなんですわねえ。」
「あの・・・香川部長。今は選挙の話を・・・・、」
「あ!でもそうでもないのかしら。だって一月前の事件で辞任に追い込まれた前社長・・・・アレ、北川課長のお兄さんでしたものね。」
「・・・・・・・・・・・。」
そう言われて、一瞬頭の中が真っ白になる。そしてすぐに暗い感情が湧いてきて、頭の中がカッと熱くなった。
「いくら優秀な血筋と言えど、やはり間違いは起こるものなのかしら?ワタクシどものような凡人には分かりかねますわね。」
「・・・・・・・・・・・。」
「でも北川課長はそんなことはありませんわね。その若さで本社の課長ですもの。あ、でもあまりに若くして出世すると、周りから浮いたりしませんこと?
ほら、いくら実力主義だといっても、ここは日本ですから。アメリカなんかと違って、若くして出世すると妬みも買うんじゃありません?」
「・・・・・・・・・・・。」
「実力があって出世するのは良い事ですが、あまりに目立ちすぎると、やはり嫉妬は買うものなんでしょうねえ。
あいつは会長の娘だから課長になれたとか、北川一族の人間だから、放っておいても出世出来るとか。そういう嫌味もお耳に入るのでしょうねえ・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「北川課長は実力で課長の椅子を勝ち取ったのに、誰もそうは思ってくれない。でも私は分かっておりますわよ。
北川課長は自分の力で今のポストに就いたと。私だって若い頃は苦労したもので、今よりも働く女に対して風当りが強かったから。
だからねえ・・・・羨ましいですわ、今の若い女性たちが。もし私も今の時代に生まれていたら、もっとバリバリ働けただろうに。」
「・・・・・・・・・・・。」
「あらすみません、関係のない話をベラベラと。それで・・・・ええっと、選挙のお話でしたわね。ごめんなさい、年を取るとついつい話が脱線しちゃって。」
そう言って、今度は口に出してオホホホと笑った。
「・・・・・・・・・・・・。」
「あら、じっと黙ってどうなさったのかしら?激務でお疲れ・・・・という感じでもなさそうですわね。」
「・・・・いえ・・・、」
「ならどうして黙り込んで・・・・・、ああ!ワタクシったらつい余計なことを・・・・。」
香川部長は嫌味ったらしいほどの顔で驚き、「触れてはいけないことに触れてしまって・・・」と頭を下げた。
「前社長の北川隼人さん・・・・・彼がいらぬことを企てたせいで、社長の椅子が空白なんですものね。
そのせいで北川課長は選挙委員長なんて激務を押し付けられて・・・・・。まったく・・・・本当に怖い敵とは身内にいるものですわ。
愚かな身内ほど、組織にとって害悪なことはございませんもの。」
胸が苦しくなる・・・・。一番触れられたくない部分に触れられて、怒りとも悲しみともつかない気持ちが、全身を駆け巡っていく。
「無能な身内とは、まさに体内に紛れ込んだ病原菌のようなもの。早急に駆除しないと、やがて全身が蝕まれますわ。」
「・・・・・香川部長・・・・、」
私は俯き、膝の上で拳を握る。唇を噛みしめ、胸の中から湧き上がるどうしよもないほど暗い感情を堪えていた。
「でもね、無能な身内はもういない。北川一族はこれからもきっと安泰ですわよ。」
「香川部長・・・・もう・・・・、」
「え?・・・・ああ!ワタクシったらまた余計なことを・・・・。年を取ると、ついついいらぬことを口走ってしまって・・・・。
全て年寄りの戯言ですから、聞き流して下さい。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「あら?どうなされたの?さっきから顔色が優れないようだけど・・・・。」
「・・・・いいです・・・・、」
「もしよければ、こちらで休んでいって下さい。部屋を用意させますから。」
「・・・いいです・・・・・もう・・・・、」
「いくらお若いからって、無理をしているとよくありませんわ。ほら伊礼君。北川課長の為に、どこか休めるお部屋を。」
「あ?ええ・・・・分かりました。」
伊礼さんは慌てて立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
私は彼に釣られるように立ち上がり、「もうけっこうです・・・」と呟いた。
「もう・・・・充分分かりました・・・・。」
伊礼さんは足を止め、困ったようにこちらを振り向く。
香川部長は「何が分かったのかしら?」と首を傾げた。
「北川課長は立候補者を募る為にここへいらした。しかしまだ他愛ない世間話しかしておりませんわよ?」
「・・・・いえ・・・・もう充分です・・・・。」
「あら、そうですの?せっかくお見えになったのに。」
「・・・・・・・・・・・。」
「先ほどから目が真っ赤だけど、寝不足でお疲れなのかしら?」
「・・・・・・・・・・・。」
「顔も赤くなってらっしゃるし、もし熱でもあったら大変ですわ。やはりウチで休んでいって下さい。」
香川部長は立ち上がり、「ほら、こちらへ」とドアに手を向ける。
「体調が戻ったら、ご自宅までお送りしますわ。遠慮なさらずに。」
「・・・・・・・・・・。」
「北川課長?」
「・・・・・・かに・・・・しないでよ・・・・。」
「え?何か仰った?」
「・・・若いからって・・・・女だからって・・・・・、どうしてそれだけで・・・・・、」
目が熱くなり、叫びたいほどの暗い感情がこみ上げる。
カバンを掴み、真っ直ぐにドアまで歩き、取っ手に手を掛ける。
伊礼さんは慌てて「開けますよ」と、ドアを押し開けた。
「北川課長・・・・あの・・・・、」
「何も言わないで下さい・・・・・・。」
「・・・・・すみません。」
何か言いたそうな伊礼さんを無視して、私は部屋を出る。
どんなに嫌な相手でも、いつもなら必ず一礼してから部屋を後にする。
だけど・・・・・今日だけは無理だった・・・・。
胸にこみ上げた暗い感情が、もう喉元までせり上がっていたから。
このままあそこにいれば、私はあり得ないような失態を犯してしまう。
自分の感情に任せ、暗い感情をそのまま表に・・・・。
だからそうなる前に部屋を出た。
頭を下げる余裕もないほど、胸の中を掻き乱されていたから・・・・・。
香川部長・・・・・彼女は最も触れられたくない部分に触れてきた。
それも嫌らしいほどに陰湿に、そしてなじるように・・・・・。
一か月前に起きた事件のこと・・・・・兄が巻き起こした騒動のこと・・・・それを止める為に、いったいどれほどの人が傷ついたか・・・・。
あの事件の黒幕は兄だったが、ある意味その兄でさえも被害者のようなものだった。
今では抜け殻のようになり、ひっそりと部屋に閉じこもっている。
これ以上余計な騒ぎを起こさないように、父に飼い殺しにされながら・・・・・。
あの事件以来、私は人というのを信用出来なくなった。
尊敬していた父、敬愛していた兄、一番信用出来るはずの家族が、恐ろしい敵に思えた。
それに会社の中からも裏切り者が出て、人を信じるのが怖くなっていた。
・・・・誰にも触れられたくない部分・・・・誰からもなじられたくない部分・・・・・。
それをグリグリと踏みま回されるようなことをされて、私の目は真っ赤に染まっている。
歩く度にボロボロと涙が落ちてきて、結んだ口元から息が漏れるほどだった。
・・・・・こんな時、私の行く場所は決まっている。
私の一番大切な友人である、彼がいるあの川原へ・・・・。
*
時刻は午後二時半。
大きな川が流れる土手には、ちらほらと散歩をする人がいた。
私はその土手に立ちながら、行き交う人に目を向ける。
特に犬を連れている人を注意深く見つめた。
もしかしたら、彼が来るかもしれない。
いつものように、あの腕白なブルドッグを連れて・・・・。
そう期待してやって来たけど、彼は来ない。
まだ散歩の時間には早いようで、しばらく待っても姿を見せなかった。
「・・・・・会いたいな・・・・・。」
そう呟きながら、来た道を引き返す。
しかし途中で足を止め、また土手の方へと歩いた。
せっかく来たんだから、しばらく一人で佇もうと思った。
会社に戻っても、どうせ仕事は手に付かない。
しばらくここで一人になって、気持ちを落ち着けよう。
土手を降り、遊歩道が伸びる広場へ向かう。
その向こうには大きな川が流れていて、階段のようになった堤防がある。
私はその堤防に腰を下ろし、ゆっくりと流れる川を見つめた。
「・・・・・・・・・・・。」
こうして川を眺めていると、私の人生って何なんだろうと、青臭い考えが浮かんでくる。
人間は誰だってこうやって世の中を流れていき、いつかは大きな海に出る。
狭い川じゃなくて、遮る物が何もない大きな海へ・・・・・。
でもそれは、道なき道なんだろうと思った。
川は狭いけど、でも流れに沿って行けばゴールにたどり着く。
だけど海にはそれがない。
あまりに自由で、あまりに広くて、下手をすると深い海中へ沈むことになる。
川なら流れと共に浮き出ることもあるだろうけど、海の中へ沈んでしまえば、それはもう二度と浮かんで来られないだろう。
いつかボロボロになって、知らない場所へ打ち上げられるまでは・・・・。
「私・・・・ただ逃げたいだけなのかもしれない。会社のこととか家のこととか、それに・・・・色んな嫌味を向けてくる人たちから・・・・。
海へ出たって、本当に変わるのかな?逃げたいだけの気持ちで海へ出たって、ただ沈んじゃったりして・・・・。それなら・・・・まだ川にいた方が・・・・、」
馬鹿みたいに感傷的になっている自分に嫌気が差し、でも今は感傷的になっていないと、冷静でいられなかった。
青臭かろうが、馬鹿みたいに思えようが、こうやって感傷に浸っていないと、心を保つことが出来ない。
延々と同じようなことを考え、ひたすら流れる川の水を見つめた。
すると背後から「ヴォン!」と大きな鳴き声が響いた。
《この声・・・・・間違いない!》
私は弾かれるように振り向き、声のした先を睨んだ。
「マサカリ!」
目の前にはぽっちゃりしたブルドッグがいて、ふんふんと鼻を鳴らしていた。
私は思わず駆け寄り、「マサカリ〜!」と抱きしめた。
「よかった・・・・・来てくれた・・・・・。」
マサカリの頭を抱えるように撫でながら、その後ろに立つ人物を見上げる。
「・・・・・有川さん。」
そこにはのほほんとした青年が立っていて、「どうも」と頭を下げた。
「こんな時間にいるなんて珍しいですね。しかもスーツだし。」
「有川さん・・・・・。」
「どうしたんですか?目が真っ赤じゃないですか。」
「・・・・・・・・・・。」
「翔子さん?」
私は思わず俯き、熱くなった目を閉じる。
ギュッとマサカリを抱きしめ、声を押し殺して泣いた。
「あの・・・・何かあったんですか?」
有川さんは私の傍に腰を下ろし、心配そうに見つめる。
マサカリも「ヴォン!」と吠え、慰めるように頬を舐めてくれた。
「翔子さん・・・・・。」
彼の声が響き、胸が苦しくなる。
でもそれは、嫌な意味でじゃない。
胸に溜まった暗い感情を押しのけるように、別の感情が湧いてきたのだ。
信頼できる友達・・・・・心を開いて話せる大切な人・・・・・。
切ないほど暖かい感情が、暗い感情を消し去っていく。
マサカリを抱いたまま、私はしばらく泣いていた。
絵を描くのが趣味なので、もっと上手くなりたいと思っています。
だけど好きな画家や漫画家、イラストレーターに憧れたりもするので、味のある絵やインパクトのある絵も描きたいと思ったりします。
むしろそっちの方が重要なんじゃないかと。
でも上手くないと思い通りに描けないものだから、もどかしさが募ります。
上手い絵と個性的な絵。
どっちが大事かというと、私は個性的な絵の方が大事だと思います。
いくら上手くても、味や個性のない絵はすぐに忘れられてしまいます。
見た人に強烈なインパクトを残すには、やはり強烈な個性が必要でしょう。
でも上手くならないと、その個性を発揮できないというのもあります。
本来自分の中に眠っている絵の力は、練習なしでは引き出せません。
せっかく優れた個性があったとしても、技術なしでは意味がないはずです。
この前遊戯王の映画を観てきました。
そして漫画も読み返しました。
遊戯王の生みの親の高橋和希先生は、すごく個性的な絵を描きます。
プロなんだから上手いのは当たり前なんだけど、でも上手いで終わらない絵です。
先生はキャラクターを描く時、とにかくシルエットを意識するそうです。
漫画は登場人物が多いですから、似たようなキャラクターが出て来るのを防ぐ為だそうです。
それと同時に、シルエットだけでどのキャラか分かるような個性を持たせる為だそうです。
先生はご自身のことを、漫画家ではなくデザイナーだと仰っていました。
もし漫画家になっていなかったら、ゲームデザイナーになっていただろうと答えています。
優れたデザインはどれも個性的です。
特に漫画やアニメのキャラクターは、個性がないと魅力を感じません。
遊戯王のキャラクター、そしてモンスターは、どれも個性的です。
それはきっと、先生が強烈な個性と、高い画力を持っているからです。
絵が上手くなりたい。
でも見た人にインパクトを残すような絵を描きたい。
どっちも大事だと思うし、失くしてはいけないものです。
絵を描くって難しいですね。
でも難しいからこそ、楽しいと思えるんでしょうね。
calendar
GA
にほんブログ村
selected entries
categories
archives
recent comment
recommend
links
profile
search this site.
others
mobile
powered