春の鳴き声 第一話 イジメられっ子の再会(1)

  • 2016.12.31 Saturday
  • 15:31

JUGEMテーマ:自作小説
夏が終わるのは早い。
ついこの前始業式だったのに、窓の外は寒い風が吹いている。
校庭の木々は枯れ葉を着込み、強い風に服を持って行かれまいと、枝をしならせて抵抗している。
僕は頬杖を突きながら、学ランのボタンをいじっていた。
「ほな明日もテストやから。しっかり勉強しとくように。」
ホームルームを終えた先生が、「今日の委員長」と最前列の生徒を見る。
「起立、礼!」
みんな適当に頭を下げて、いっせいにお喋りが始まる。
僕も立ち上がり、体操着のバッグに荷物を詰め込んで、教室から出た。
重いバッグを担ぎ直し、下駄箱に向かう。
すると「おい」と呼ばれて、身体を固くした。
「アホがまた全部持って帰ってんで。」
僕を呼んだ声の主は、取り巻きの連中と笑い合う。
身体はさらに固くなり、鼓動が跳ね上がった。
決して後ろを振り向かず、またバッグを担ぎ直して、下駄箱を目指した。
その時、ボンとバッグが持ち上がった。
蹴られたのだ。
「おいコラ。」
また蹴られて、「おい!」と怒鳴られる。
それを無視して、逃げるように廊下を走った。
靴を履き、駐輪場まで向かい、重たいバッグをカゴに詰める。
目尻に涙が溜まり、グイと拭った。
ペダルを漕ぎ、学校という場所からとにかく離れる。
家までは自転車で40分、距離にして14キロ。
脚に力を入れ、ギアを切り替え、一気にトップスピードまでもちあげた。
そして家まで半分の距離まで来たところで、ゆっくりとスピードを落とした。
田んぼがよく見える道を漕ぎながら、「なんで・・・」と呟く。
「なんで次は俺やねん・・・・。」
また涙が溜まり、泣いてもいいかどうか確認する為に、周りを見渡した。
急いで自転車を漕いだおかげで、どの生徒も僕に追いついていない。
だから田んぼを眺めるフリをしながら、ボロボロと泣いた。
「死ねアイツら・・・・。」
言いようのない感情がこみ上げて、怒りとも悔しさともつかない気持ちになる。
家に帰ると、すぐに自分の部屋に駆けあがった。
イジメられてるなんて親に知られたくないので、涙で腫れた目は見せられない。
重いバッグを下ろし、すぐに学ランを脱ぎ、言いようのない感情を押し殺す為に、ゲームのスイッチを入れた。
嫌な気分の時は、明るいゲームはやりたくない。
僕はプレステの蓋を開けて、ホラーゲームに入れ換えた。
ホラーといっても、幽霊が出て来るようなやつじゃない。
どこかの孤島で、殺人事件が起きるゲームだ。
上手く進めていかないと、どんどん人が死んでいく。
途中で選択肢がいくつも出て来て、最悪なパターンだと恋人に殺されることになる。
怖いし暗いし、エンディングによっては鬱になるゲームだ。
でも嫌な気分の時は、むしろこういうゲームが気持ちいい。
二時間ほどプレイしていると、少しだけ気持ちが楽になった。
「ここら辺でやめとこか。」
セーブして電源を切る。
それから漫画を読みながらゴロゴロしていると、スマホが鳴った。
「もしもし?」
《シュウちゃん?今から行ってええ?》
電話の向こうからよく知った声が返ってくる。
僕は「ええで」と答えた。
「あ、でも外に行かへん?」
《ええで、どこ?》
「竜胆公園にしようや。」
《なに?またホームレスのおっさんからかうん?》
笑い声が返ってきて、「ちゃうちゃう」と答えた。
「この前な、あそこ行ったらめっちゃ可愛い子おってん。
そんで短いスカートでブランコとか乗っててさ。」
《マジで?》
「今日もおったらパンツ見れるかなと思って。」
《どんな感じの子?》
「そやなあ・・・俺らより年下やと思うわ。
でもマジで可愛いで。下手な子役とかより全然可愛い。」
あの日見たあの子のことを思い出し、もう一度見たいなあと妄想する。
《でも俺らより年下やったら小学生やろ。》
「そやなあ。」
《でも今日火曜日やで。小学校はまだ学校終わってへんやろ。》
そう言われて「そういやそうやったな」と頷いた。
《それにな、今そういうの厳しいなっとんやで。》
「何が?」
《だからさ、ロリコンとかおるやん?》
「うん。」
《ああいうの取り締まる為に、法律とか世間の目えとか厳しいなってんねん。
俺も可愛い子のパンツ見たいけど、でもあんまジロジロ見とったら警察呼ばれるで。》
「いや、でも僕らだって子供やん。まだ中二やし、この前まで13歳やってんで?」
《まあそうやな。ほな大丈夫なんかな?》
「だってあの可愛い子、たぶん小六くらいやと思うわ。
それやったら僕ら中二なんやから、二つしか違わへんやん。」
《でも小学生なんやろ?》
「でも来年なったら中学上がるやん。
中一と中三が付き合ってたって、別におかしいないやろ?」
そう答えると、井口は《確かにな》と頷いた。
《溝渕なんか中一で初体験やってたからな。》
「相手一個下やから小六やんな?」
《うん。今はどっちも中学やけど。でもこの前別れたって言うてて・・・・、》
他愛ない話を続けてから、《ほな竜胆公園行くか》と決まった。
それから10分後、僕は竜胆公園に来ていた。
ここはたくさんホームレスのおっさんがいて、中には若い感じの人もいた。
この前犬のウンコを投げて、おっさんどもをからかった。
そしたらマジギレされて追いかけられた。
でも足はこっちの方が速いから、余裕で逃げ切ったけど。
ホームレスのおっさんは、遊歩道の向こうに住んでいる。
だから遊具のあるこっち側にはあまり来ない。
ていうかこっちへ来ると、警察とかに苦情が入るらしい。
子供を遊ばせてる親とかが、怖いからこっちへ来ないようにしてくれって感じで。
まあそういうわけで、遊具のある方にいれば安全だ。
僕はブランコに乗りながら、この前の可愛い子のことを思い出していた。
「今日はおらへんな。ほなやっぱり学校なんかな?」
ブランコを漕ぎながら、数日前のことを思い出す。
「ほんま可愛かったなあ。色白いし、ちょっとおっぱいもあったし。
でもアレやな。やっぱブランコ乗ってる時のパンチラが・・・・。」
色々と妄想に浸っていると、ふと「あれ?」と思い出した。
「あの日って確か平日やんな。ほななんでここにおったんやろ?」
あの可愛い子を見たのは、先週の木曜日だ。
あのバカどもにイジメられるのが嫌で、僕は学校をサボっていた。
その時この公園へ来て、それであの子を見つけたのだ。
「確か昼くらいやったよなあ。ほんなら学校のはずやろ?
サボるような感じの子でもなさそうやし、なんでやろ?
もしかして、あの子もイジメとかに遭うてんのかな?」
男子の場合だと、カッコいいとほとんどイジメられない。
でも女子の場合だと、可愛いからイジメに遭うって聞いたことがある。
もしそうだとしたら、これはあの子と仲良くなれるチャンスかもしれない。
だってお互いに共通の話題があるんだから。
まあポジティブな共通点じゃないけど・・・・・。
それからしばらく妄想に耽っていると、井口がやって来た。
「おうシュウちゃん。」
中二なのに身長が180もあって、体重は90キロもある。
しかも脂肪で90じゃなくて、全身筋肉の塊なのだ。
一言で言うならゴリラモドキみたいな奴だった。
冬なのに半パンを穿いていて、足も裸足にサンダルだ。
「どや?可愛い子おるん?」
そう言いながら、隣のブランコを漕ぎ始めた。
「いや、今日はおらんわ。」
「ほなやっぱ学校やな。」
井口は中学生とは思えないマッチョな筋肉で、グイグイブランコを漕ぐ。
「でもな、この前見た時も平日やってん。しかも昼間。」
「そうなん?」
「だから多分サボってたんやと思うんやけど。」
「サボりか。ほなヤンキーっぽい感じか?」
「いや、逆。すごい真面目そうな子。」
「じゃああれか?シュウちゃんと一緒で、イジメられてるとかか?」
「かもしれへん。」
「ほなラッキーやん。そういうのって、お互いに仲良くなれるかもしれへんで?」
「やっぱそう思う?」
「話すキッカケはあるわけやん。ほなあとは自分次第やろ。」
井口はさらにブランコを漕いで、勢いをつけて飛び降りる。
ブランコの前にある柵を、軽々と飛び越えながら。
「ええなお前。」
そう呟くと、「何が?」と返された。
「だってお前めっちゃ強いやん。僕もそれくらい強かったら、柴田とかにイジメられへんのに。」
暗い顔で言うと、「ほな俺がシバいたろか?」と笑った。
「どいつもヒョロガリやろ?4、5人くらいやったら二分もかからんで。」
「いや・・・・今はええわ。」
「なんで?」
「だってお前やり過ぎるやん?」
「手加減するって。」
「でもあんま大事にしたあないねん。だからもっと酷うなった時に頼むわ。」
「まあいつでも言えや。どいつも病院送りにしたるから。」
中学生とは思えないムキムキの筋肉を見せつけながら、ニカっと笑う井口。
家が空手の道場だから、幼稚園の時からやっている。
それに頭も良いから、僕とは別の進学私立に通っていた。
《喧嘩なんかしたら、私立やったら退学になるかもしれへんのに。
でもそういうの気にせんと、気に入らへん相手をシバけるからこそ、コイツは強いんやな。》
身体も心も強くて、それに頭も良くて、もう初体験も済ませていて、そんなハイスペックな奴なのに、なぜかコイツは僕みたいなショボイ奴と一緒にいる。
本人曰く、優越感に浸れるかららしいけど、コイツのスペックなら誰相手でも優越感に浸れるはずだ。
だから僕と一緒にいる理由は別にあるんだろうと思っているけど、本人ははぐらかすばかりだった。
でも井口がいるおかげで、どうにかイジメに耐えることが出来ていた。
だっていざとなれば、コイツに頼めばいいんだから。
「なあ?」
シャドーボクシングみたいに空手のパンチやキックをしている井口を見つめながら、「30分くらい待とか」と言った。
「何が?」
「だからその可愛い子が来るの。」
「そやな。俺も見てみたいし。」
「ブランコ乗ってくれたらパンチラ見れるかも。」
「ええな。」
井口はまた隣のブランコに座って、ものすごい勢いで漕ぎ始めた。
「なあシュウちゃん。」
「なに?」
「その子のこと好きなん?」
「好きっていうか、可愛いから見たいねん。」
「ほな仲良うなったら、告白とかするんか?」
「いや、それはまだ分からんけど。」
「でもさ、もし彼氏とかになったら、イジメられてるとかダサいやん?」
「そやな。」
「だからその子と付き合えることになったら、俺がシバいたるから。」
「うん。」
僕は素直に頷く。
柴田の顔を思い出すと、また嫌な気持ちになってきた。
「ほんまは俺がターゲットとちゃうねん。」
「つい最近やろ?目えつけられたん。」
「最近っていうか、先月くらいから。」
「元々イジメられてた子、なんやったっけ・・・・なんか普通と違うんやろ?」
「発達障害ってやつらしい。」
「なんか最近よう聞くよな、それ。」
「有名人とかでもけっこう多いらしいで。」
「誰?」
「イチローとかアインシュタインとか。」
「マジで?」
「ほら、最近ようテレビ出てる栗原類っておるやん?」
「ああ、モデルの人な。」
「あの人もそうやって。」
「そうなん!ほな発達障害持ってる奴って、けっこうすごい人ばっかやん。」
井口は感心したように言う。
でも俺は頷かなかった。
「そういうのはごく一部やって。あの子はめっちゃ変な子やった。
空気とか読まれへんし、いっつもじっとしてないねん。なんか挙動不審やし。」
「だからイジメられたんやろ?」
「やと思うで。小学校の時からイジメられてたらしいし。」
「なんか可哀想やな。」
「そんなん誰でも言えるわ。」
「ほな助けたろか?」
「その子を?」
「いや、シュウちゃんを。」
「いや、だから僕はまだええって・・・・、」
「でもこのままやったら、シュウちゃんもいつその子みたいになるか分からへんで?
だってその子引きこもっとんやろ?」
「引きこもるっていうか、なんか病院とか行ってるらしい。
そういう障害を持った子が行く、施設みたなんがあるんやって。」
「ほなその子が戻って来たら、シュウちゃんイジメられへんようになるわけやな。」
「多分な。」
僕は学校に来なくなった、あの子の顔を思い出す。
なんかジャガイモみたいな顔で、すごいブスだった。
最初は男子がからかってたんだけど、女子もそれに乗っかるようになった。
イジメてるのはもちろん柴田で、アイツと仲の良い女子も加わったのだ。
最後の方は見てられないくらいの酷さで、他人事なのに胸が痛むほどだった。
「あの子な、おばあちゃん子なんや。
でもそのおばあちゃんが亡くなって、昔に買ってもろた筆箱を大事にしとった。」
僕は思い出す。
夏休みに入る前の、掃除の時間を。
あの子は校庭の掃除当番だった。
柴田たちはすぐ隣の、駐輪場の掃除。
あいつらはあの子が大事にしていた筆箱を、あの子の目の前で捨てた。
教室から奪ってきて、本人をからかうように、仲間どうしてパスしたりしながら。
あの子は必死にそれを追いかけていた。
あの子と当番を組んでいた子が、見かねて注意したけど、柴田たちは面白がるだけ。
そして駐輪場の向こうにある、用水路に投げ捨てた。
ちょうど田んぼの時期だから、たくさん水が流れていた。
だから筆箱はあっという間に流されて、その後に先生たちが探しても見つからなかった。
あの子は泣かなかったけど、でもすごい辛かったと思う。
ていうか思い返すと、イジメられて一度も泣いていたことがない。
いや、本当は家に帰ってから泣いていたのかもしれないけど、でも僕の知る限りじゃ泣いているところは見たことがなかった。
きっと強いんだろうと思う。
そんな強い子が学校へ来なくなるくらいだから、あいつらのイジメは相当なものだった。
「シュウちゃん、暗い顔してんで?」
「・・・・・・・・・。」
「あんま無理せんときや。いつでも俺シバいたるから。」
「うん・・・。」
嫌な気持ちが蘇ってきて、柴田もあの子も頭から追い払う。
それからしばらく、井口と喋っていた。
ゲームとか井口の学校のこととか。
ふと公園の時計を見ると、もう30分が経っていた。
「今日は来んみたいやな。」
そう言うと、井口は「ほな俺ん家いくか」とブランコから飛び降りた。
「姉ちゃんがな、この前誕生日やってん。ほんでWiiの新しいやつ買ってもらってさ。」
「マジで!?」
「いま姉ちゃんおらんから、一緒にやろうや。」
「ええな、すぐ行こ。」
僕たちは自転車に跨り、公園から出て行く。
するとそれと入れ違いにして、一台の車がやって来た。
赤い軽自動車で、すれ違う時に中が見えた。
「あ!」
僕はその車を振り返る。
「どうしたん?」
「あの子。」
「え?」
「あの可愛い子が乗ってた。」
「マジで?」
「ちょっと行ってみよ。」
地面に足を着いて、グルっと自転車を回す。
車は遊歩道の近くの空き地に停まって、中からあの子が出てきた。
それを見た井口は「うお!めっちゃ可愛いやん!」と驚いた。
「な?」
「あれなんかのアイドルちゃうの?」
「そう思うくらい可愛いよな。」
車から出てきたその子は、この前と同じようにミニスカートを穿いていた。
なんかヒラヒラした感じのやつで、スラっと長い足に見惚れた。
「・・・・ブランコの後ろに回るか。」
自転車を置き、公園を囲う植え込みに沿って歩く。
散歩してるだけですよみたいな、何気ない雰囲気をだしながら。
「シュウちゃん、またパンツ見るん?」
「そら見たいやろ。早よ来いよ。」
二人してブランコの後ろに回る。
あんまりジロジロ見ると怪しまれるので、少し距離を置いた。
「なあシュウちゃん。」
「なに?」
「あの子の近くに親おんで。」
「そやな。」
「だからな・・・・、」
「うん。」
「スマホはしまい。」
「・・・・そやな。」
あわよくばと思ったが、バレたらただではすまない。
いそいそとスマホをしまうと、「盗撮はあかんで」と井口に言われた。
「シュウちゃん、たまにそういうとこあるよな。」
「健全やろ。」
「気持ちは分かるけどさ、でもバレたら恥ずかしいで。
喧嘩して補導やったら構へんけど、パンツ盗撮で捕まったら、イジメがなくても学校行かれへんようになるから。」
「分かっとるがな。ちょっとした出来心や。」
井口はたまにこうやって僕を注意する。
時々親のような奴だと感じるけど、まあ僕を思ってのことだろう。
「見いな、あの子こっち来るで。」
井口は背中越しに顎をしゃくる。
僕も背中を向け、チラリと振り返って確かめた。
この前と同じように、思い切りブランコを漕いでいる。
短いスカートがフワフワとめくれて、その中身が・・・・・、
「スパッツ穿いとるな。」
井口が冷めた口調で言う。
僕も同じように冷めた。
「・・・・・・・・・・。」
「落ち込みすぎやろ。」
ドンと肩をぶつけられて、よろめく。
「マッチョな身体でぶつかんな。痛いねん。」
「すまんすまん。でもさ、あの子ちょっとおかしいないか?」
「何が?」
「あの子さ、どう見ても小六か中一くらいやで。
やのに幼稚園児みたいにはしゃいで、ブランコ乗っとる。」
「よっぽど好きなんやろ。」
「かもしれんけど、あの歳であんなにはしゃぐかな?」
井口は口をへの字に曲げる。
そして眉間に皺を寄せて、じっと睨んでいた。
その時、勢いをつけすぎたブランコから、その子が足を滑らせた。
しかもちょうど僕たちのいる方に向かって。
「ヤバッ!」
僕の正面にその子が飛んでくる。
すると井口が僕を突き飛ばして、その子を受け止めた。
「あおッ・・・・、」
変な声を出しながら、その子を抱えて倒れる井口。
それを見ていたその子のお母さんが、慌てて走ってきた。
「すいません!大丈夫!?」
我が子を抱えてから、井口の手を引く。
「いや、大丈夫っす。」
「ごめんねえ・・・・怪我とかない?」
「いや、平気っす。」
笑って答える井口。
どうやらマッチョな身体のおかげで助かったようだ。
そして肝心のその子はというと、またブランコに乗っていた。
何事もなかっかのように、小さな子供みたいにはしゃぎながら。
「ほんまにごめんねえ・・・・。」
「いやいや、全然大丈夫っす。マジで。」
ごめんと大丈夫を繰り返す、おばちゃんと井口。
でも俺はそんなことはどうでもよかった。
だってその子は、さっき落ちた拍子に、思い切りスカートがズレていたからだ。
しかもスパッツもずれて、パンツが丸見えになっている。
そんな恥ずかしい恰好で、でも全然気にする素振りも見せずに、ブランコを漕ぎ続けている。
この時僕は、井口と同じような考えだった。
《この子、やっぱちょっと変かもしれへん。》
パンツを見れるのは嬉しいけど、それ以上に《なんなんやこの子?》と不思議に思った。

ダナエの神話〜星になった神様〜 第十二話 武神の秘薬(2)

  • 2016.12.31 Saturday
  • 15:28

JUGEMテーマ:自作小説

恐る恐る振り返ると、そこには小さな死神がいた。
「ペイン!」
「・・・・・・・・・。」
ペインは悪魔の爪を受け止めていた。
小さな鎌を握りしめ、ぶるぶると震えている。
「・・・・・・・・・。」
「おい!大丈夫か?」
「こ・・・・・・怖い!」
ペインは「ぬわああああああ!」と叫び、めちゃくちゃに鎌を振り回した。
「寄るな!来るな!どっか行け!」
目を瞑りながら、ブンブンと鎌を振り回す。
悪魔たちは呆気に取られ、ふん!と肩を竦めた。
「ジャマダ死神。」
「ぎゅぎゃう!」
デコピン一発で吹き飛ばされ、「もう無理・・・・」と倒れる。
「ペイン!」
「ドリュー・・・もはやここまでのようだ・・・・。」
「もっと頑張れよ!」
「だって・・・悪魔怖いんだもん・・・・。」
「お前は死神の皇帝になるんだろ!だったら悪魔なんかにビビるな!」
「・・・・・アドネ。」
「ん?」
「出て行ったぞ。」
「何?」
「ニーズホッグを連れて出て行った・・・・。」
「はい?」
「随分怒ってた・・・・。もう戻らないって言ってた。」
「な・・・・なんだってえええええ!」
ドリューは頭を抱えて絶叫する。
「どうして早く言わないんだよ!?」
「だって・・・外に出ると悪魔がいるから・・・・。」
「ていうか止めろよ!」
「止めたよ!でも『シバくわよ?』って脅されて・・・・、」
「くあ〜・・・・なんて情けない!」
ドリューは「しっかりしろよ!」と怒った。
「そんなんじゃいつまでたっても死神の皇帝になんかなれないぞ!」
「うるさい!出来る限りのことはやったのだ!俺は悪くない!」
そう言って筆の中に戻ってしまった。
「なんて頼りにならない奴だ。」
ドリューは大きくため息をつく。
しかしそこへ悪魔が迫り、首根っこを掴まれた。
「うわあああああ!」
「黄泉ノ向コウヘ来イ。」
「イヤだ!」
「ココハアノ世ヘ旅立ツ者ガ来ル所ダ。オ前モソウダロウ?」
「違う!僕たちは秘薬を取りに来ただけで・・・・・。」
「問答無用。アノ世ハイイトコ一度ハオイデ。」
「行ったら戻れないじゃないか!」
「ソレハ仕方ガナイ。ダッテアノ世ナンダカラ。」
悪魔はドリューを持ち上げ、「歓迎スルゾ」と笑った。
「イヤだ!僕はまだ死ぬわけにはいかないんだ!
みんなを助けないといけないし、それに子供だって生まれるんだ!」
「ミンナイツカ死ヌ。仲間モ子供モナ。」
「でもそれは今じゃない!僕はまだ死ねないんだよおおおお!」
ドリューは必死に暴れるが、悪魔は「大人シクシロ」と殴った。
「ぐはッ・・・・、」
「ナアニ、行ケバ好キニナル。アノ世ハコノ世ホド捨テタモノデハナイカラナ。
ムハハハハハ!」
悪魔たちは顔を見合わせ、うんうんと頷く。
「デハ一命様ゴ案内〜!」
「一命様入リマ〜ス!」
「ハイ一命様〜!」
悪魔たちはパンパンと手を叩き、「ドウゾアノ世へ〜!」と黄泉の入り口に向かう。
「い・・・イヤだ・・・・みんなを・・・・助けないと・・・・。」
髪に包んだコウとマニャを見つめ、「せめてこの二人だけでも・・・」と呟いた。
しかし成す術はなく、「みんな・・・・ごめん・・・」と項垂れた。
《コウさん、マニャ、カプネさん、それに・・・・・ダナエさん。
僕は役に立てなかった。この旅はもう・・・・・、》
全てを諦め、身体から力を抜く。
するとまたペインが現れて、「おいドリュー!」と叫んだ。
「ペイン・・・・お前だけでも逃げろ。」
「何か聴こえないか?」
「何かって・・・・何が?」
「誰かがここへ迫ってる。」
「なんだって・・・・?」
ドリューは顔を上げ、じっと耳を澄ます。
すると先ほどウルズが消えた天井の亀裂から、かすかに水の音が漏れていた。
「これは・・・・もしかして水脈の音か?」
マニャは言っていた。ここはかつて地下水脈だったと。
それならば、この近くに別の水脈が通っていてもおかしくない。
「水の音か・・・心が安らぐな。今から死ぬっていうのに、おかしな話だ・・・・、」
そう呟いて亀裂を見上げていると、突然地響きが鳴った。
地震のように辺りが揺れ、「なんだ・・?」と顔をしかめる。
「地震?いや、違うな。何かがここへ迫ってるような音・・・・、」
そう言いかけた時、天井の亀裂がピシっと鳴った。
そして次の瞬間、その亀裂を突き破って水が噴き出した。
「鉄砲水か!?」
ドリューは天井を見上げ、吹き出す水流に息を飲んだ。
するとその水流の中に、ウネウネと動くアメーバがいた。
「あれは・・・・ウルズ!」
「ぬっはああああああ・・・・・・、」
ウルズは水流に押し出され、黄泉の入り口に激突する。
「ぎゃはッ!」
さらに悪魔も水流に飲まれ、「ヌアアアアアア!」と流された。
「チャンス!今のうちに・・・・、」
ドリューは長い髪を伸ばし、空中に巨大な鳥の絵を描く。
それを呼び出すと、コウとマニャを抱えてその上に乗った。
「ヌアアアアアア!」
「フハアアアアアアア!」
悪魔たちは見る見るうちに流されて行く。
鉄砲水に飲まれ、そのまま黄泉の向こうへと消え去った。
「よかった・・・・助かった・・・・。」
びしょ濡れになった服を絞り、「とにかくここから出よう・・・」と首を振った。
「入り口まで飛んでくれ。」
呼び出した鳥にそう命じると、「逃がさああああああん!」とウルズが迫って来た。
ドロドロのアメーバになりながら、ベチョっと貼りつく。
「ウルズ!逃げたんじゃないのか!」
「ああ、逃げたがね。でもいきなり鉄砲水が襲ってきたんだ。」
「あれはお前がやったんじゃないのか?」
「まさか。」
「ならどうして・・・・、」
「あの水脈はたまに流れが強くなるんだがね。
でもいつもはあそこまで水が噴き出すことはないのに、いったいどうしたのか?
・・・・分からんがね。」
不思議そうに言ってから、ボンと煙が上がる。
そして元の姿に戻ると、「早く秘薬を取れ」と睨んだ。
「まだチャンスはあるがね。墓石を持ち上げて秘薬を当てろ。」
「そんなのお断りだ。自分でやれ!」
「それこそ断るがね。僕はまだまだ研究しなければいけないことがたくさんあるからねえ。
凡人のチミたちとは違うのだよ。」
ウルズは「マッスルモード!」と叫び、「さあ行け!」とドリューを持ち上げた。
「やめろ!」
「この妖精と女剣士は人質だがね。殺されたくなければやれ!」
そう言って「とおりゃああああ!」と投げ飛ばした。
「うわあああああああ!」
宙に投げ出されたドリューは、必死に手足をばたつかせる。
このままでは水流に落ちて、そのまま黄泉の向こうへ流される。
急いで絵を描き、鳥を呼び出そうとしたが、とても間に合わなかった。
「今度こそダメだああああああ!」
目の前に水が迫り、ギュッと目を閉じる。
しかし亀裂の向こうから誰かが飛んできて、ドリューを受け止めた。
「大丈夫!?」
そう言われて、「この声は・・・・」と目を開けた。
「ダ、ダナエさん!」
「ごめんね、助けに来るのが遅れて。」
「人質になってたんじゃないんですか!」
「そうだったんだけど、ちょっと色々あって。」
「色々っていったい・・・・、」
「後で話すわ。それより今は・・・・、」
そう言ってウルズを睨み「もう逃げられないわよ!」と槍を向けた。
「大人しく地獄へ戻りなさい!」
「へん!誰があんな所に。」
ウルズは肩を竦め「動けば人質を殺すがね」とコウを踏みつけた。
「ダナエさん!コウさんとマニャが危ないんです!早く助けないと死んじゃう!」
「怪我をしてるのね・・・・血が出てるわ。」
「魔獣にやられたんです。それにマニャは呪いを受けてしまって・・・・。
でも僕は魔法が出来ないし、アラハバキは敵の相手で手一杯だし。
それにそれに・・・・いきなり鉄砲水が出て来て、ウルズが戻って来て、それにダナエさんまでやって来て、もう何が何だか・・・・・、」
ドリューは頭を抱えて項垂れる。
ダナエは「大丈夫よ、もう大丈夫だから」と微笑んだ。
「ドリューは安全な場所にいて。」
そう言って「水と風の精霊!」と叫んだ。
「大きな水の泡と、風の揺り籠を!」
魔法を唱えると、小さなカニの精霊が現れた。そしてブクブクと泡を吹き出し、やがて特大のシャボン玉に変わった。
次にシルフという風の精霊が現れ、シャボン玉に向かってふっと息を吹きかけた。
すると柔らかな風が吹き、シャボン玉を包んだ。
「戦いが終わるまでここにいて。」
ダナエはドリューをシャボン玉の中に入れ、「すぐ終わらせるからね」と頷いた。
「ダナエさん!一人じゃ危ないですよ!」
「平気平気。」
「だってウルズは強いんですよ!一人だとまたやられて・・・・、」
「だから平気だって。私、さっきコツを掴んだから。」
「コツ?」
「うん、上手く魔法を使うコツをね。」
そう言ってニコリと微笑み、後ろを振り返った。
「ウルズ・・・・・もう終わりよ。」
「ぬは!チミごときに何が出来るんだね?」
「私ね・・・今まで戦いって好きじゃなかった。喧嘩はよくしてたけど、でも血を流す戦いは嫌い。」
そう言って少しだけ目を伏せる。
その目は悲しそうで、ギュッと槍を握りしめた。
「でもそれじゃダメなんだって分かった。戦うべき時は、本気で戦わなきゃいけない。
そうしないと、きっと後悔する。大切なものを失ったり、大事な人を亡くしたり。
だから私・・・もう迷わない。邪神を倒すまでは、戦うことを躊躇わない!」
ダナエは槍を振り回し、「手加減は無しよ!」と睨んだ。
「ぬは!チミごときが本気になったところで・・・・、」
「てやあ!」
「ぶへッ!」
ダナエは一瞬でウルズの懐に入る。そして思い切り槍を突き刺した。
「ぼ・・・僕の胸に・・・ヒビが・・・・・、」
「まだまだ!」
ダナエは凄まじい速さで槍を突く。あまりの速さに、槍が分身しているように見えるほどだった。
「ぐへ!ぷぎゃ!ごばお!」
「やっぱり硬いわね。ならこうするわ!」
ダナエは魔法を唱え、槍に金属の精霊を集めた。
アンモナイトの精霊がたくさん集まり、槍に吸い込まれていく。
すると槍の穂先が巨大化し、ウルズの身体よりも硬くなった。
「とりゃあああ!」
「ぶほああああ!」
強烈な突きを喰らい、ウルズの腹に穴が空く。
「ぼ・・・・僕の・・・鋼のボディが・・・・・、」
「ここからが本番よ!」
ダナエは槍を刺したまま「火と風と水の精霊!」と叫んだ。
するとサラマンダー、シルフ、ウンディーネが現れ、槍の中へと吸い込まれた。
「な・・・何をする気かね・・・・、」
「言ったでしょ、上手く魔法を使うコツを掴んだって。
だから前よりもずっと強力よ!」
「や・・・やめろ・・・・、」
「いいえ、やめない。あんたは隙を見せたら何をするか分からない。
だから・・・・二度と起き上がれないようにしてやるわ!」
ダナエは深く槍を刺し込む。
ウルズは「ぎゃぐうう!」と悶え、「こんな物をおおおおおお!」と槍を掴んだ。
「ぐ・・・ぐううううう・・・抜けない・・・・。」
「当然よ。だってこの槍とあんたの鋼のボディ、金属の精霊の力でくっ付けてるんだから。」
「な・・・なああにいいいい・・・くっ付けるだとおおおお・・・・、」
「今まで金属の魔法は苦手だったんだけどね。
でも今なら上手く扱える。もう逃げられないわよ!」
「そ・・・そんな・・・・負けてたまるかああああああ!」
「それはこっちも同じよ!」
ダナエは目を吊り上げ、身体全体から魔力を解き放った。
「行くわよ!三つの精霊の融合魔法、受けてみろ!」
そう言って槍に魔力を流し込むと、三つの精霊が力を放った。
サラマンダーの炎、シルフの風、ウンディーネの水が渦を巻き、槍の穂先に集まる。
三つの精霊の力が混ざり合い、ウルズの体内で弾けた。
「ぎゅうううわあああああああああ!」
ウルズの体内から光が溢れる。身体のヒビ割れた部分から、強烈な閃光がほとばしった。
「ぼ・・・ぼ・・・僕のボディがあああああああああ!」
光は激しさを増し、ウルズの体内を突き破る。
爆炎が上がり、次に水のつぶてがボディを砕き、最後に強烈な風が衝撃波を放った。
「はぎょろもおおおおおおおおお!」
三つの力が炸裂し、ウルズは木っ端微塵に吹き飛ぶ。
硬いボディは砂粒のように砕け、辺り一面に飛び散った。
「・・・・・・・・・・・。」
ダナエは槍を構えたまま動かない。
じっと眉を寄せ、砕け散るウルズを見つめていた。
「・・・・・・・・。」
戦うと決めたのに、ドス黒い感情が胸を満たす。
ほんのひと時とはいえ、ウルズは仲間だった。
それをこの手で殺さなければいけないことに、強い罪悪感を覚えた。
「ごめんね・・・・。」
ぽつりと呟き、槍を下ろす。
しかしその瞬間、「ぬっはああああああ!」とウルズが復活した。
砕けた身体が一か所に集まり、頭だけ元通りになったのだ。
「そんな!どうして・・・・、」
「どうしてもこうしてもあるか!僕は細菌の神だぞ!
この程度でくたばるわけがないがねええええええ!」
ウルズは口を開け、ダナエに噛みついた。
「あああああ!」
危うく首を噛まれそうになり、咄嗟に身をよじる。
しかし肩に噛みつかれて、じっとりと血が滲んだ。
「この・・・・離せ!」
槍で叩きつけるが、ビクともしない。
ウルズは血走った目で、《殺してやる・・・・》と怨霊のような声を響かせた。
《お前も・・・お前の仲間も・・・・皆殺しにしてやる・・・・・。》
「ウルズ・・・・しつこいにもほどがあるわよ!」
魔法を唱えて追い払おうとするが、ウルズは《殺す・・・》と歯を立てる。
「あああああああ!」
《この世の全ては僕の実験の為にある・・・・邪魔する奴は皆殺しにしてやる・・・。》
「どうして・・・そこまでこだわるの・・・・、」
《僕は真理を追究したいだけだ・・・・。この並外れた頭脳で、学問を究める。
今まで誰も無しえなかった偉大な発見をして、偉大な発明をする・・・・。
それを邪魔する奴は万死に値する!》
「ウルズ・・・・あなたは本当に賢い神様だと思うわ・・・・。
色んな薬を作ったり、それに誰にも負けない情熱がある・・・・・。
だけどそれを間違ったことに使ってる!正しいことに使えば、きっとみんなから認められたはずなのに・・・・、」
《名誉などいらん!欲しいのは真理だ!真理の追究と、新たな発見だ!
僕はその為だけにいる・・・・・その為だけに・・・・・・、》
ウルズはダナエの血を吸い取る。そして失われた身体を復活させようとした。
「もう・・・何を言っても無駄ね・・・・・。」
ダナエは項垂れ、悲しそうに唇を噛む。
「なら・・・もう一度あなたを倒すしかない。今度は跡形もなく吹き飛ばすわ!」
そう叫んで、「菌の精霊!虫の精霊!」と魔法を唱えた。
「この細菌の神を分解して!」
目を紫に光らせながら、魔力を解き放つ。
するとダンゴムシのような小さな虫が、どこからともなくワラワラと涌いてきた。
そしてウルズの頭に張り付き、皮膚を食い破って中に侵入した。
《ぐげええええええ・・・・気持ち悪い!》
頭の中に侵入した虫は、大量の菌をばら撒く。
それは猛毒を持った恐ろしい菌で、ウルズの頭を溶かしていった。
《僕は細菌の神だ!細菌に殺されてたまるか!》
ウルズはダナエから離れ、《むおおおおおおお!》と自分の菌を操る。
ダナエはその隙に次の魔法を唱えた。
「雷の精霊!炎の精霊!」
頭上に両手をかかげ、手の中に精霊を呼び集める。
炎の精霊サラマンダーと、雷の精霊であるライジュウが召喚される。
ライジュウはトラともライオンともつかない、獰猛な獣の姿をしていた。
バチバチと電気を放ち、けたたましい雄叫びをあげる。
そしてサラマンダーと融合して、プラズマ状の巨大な鳥へと変わった。
「ウルズ!もし生まれ変わることがあったら、今度は正しいことにその頭脳を使って。」
《頭脳に正しいも間違いも無い!あるのは真理の追究だけだ!》
「そう・・・ならもう何も言わない。あなたが真理を追究するように、私だって追い求めるものがある。
だからその為にここであなたを倒すわ!」
ダナエは槍を構え、プラズマの鳥と一体化する。
そして「どおりゃあああああ!」とウルズに突撃した。
翼を羽ばたきながら、激しいエネルギーを放射する。
ウルズは《死んでたまるかあああああ!》と絶叫を響かせた。
次の瞬間、ダナエの槍がウルズの額を貫いた。
《ぎいいやあああああああああああ!》
この世の終わりのような顔をしながら、断末魔の叫びをあげる。
「これで終わりよ!」
ダナエは灼熱の光を放つ。その光に飲み込まれたウルズは、一瞬で蒸発してしまった。
《僕は・・・・・まだやるべきことが・・・・。真理の追究が・・・・・・、》
肉体は消え去り、魂だけがふわふわと彷徨う。
そして黄泉の道に吹く風に乗って、あの世へと消えてしまった。
「・・・・・・・・。」
ダナエはウルズの最後を見届ける。
そして今度はもう悲しんだりしなかった。
「あなたが真理を求めるなら、私はいつだって笑っていられる幸せを求めるわ。
笑顔の絶えない日々ほど、素敵なものはないもの。」
消えたウルズに語り掛け、槍を下ろす。
戦いは終わり、「ダナエさん!」とドリューが叫んだ。
「やりましたね!」
「うん。」
ニコリと頷き、「早くコウとマニャを助けなきゃ」と言った。
二人の元に下りて、「風と炎の精霊」と呼びかける。
「暖かい風に乗せて、命の炎を二人の中に。」
そう呟くと、蝶の精霊と蛍の精霊が現れた。
二つの精霊は混ざり合い、暖かな風になって二人を包んだ。
「・・・・・・うう。」
コウが目を開け、「ダナエか・・・・」と呟く。
「うん。もう敵はやっつけたよ。安心して。」
「・・・・お前・・・・捕まってたんじゃ・・・・、」
「抜け出してきちゃった。」
「・・・やっぱり・・・・どうしようもないオテンバだな・・・・。」
コウはニコリと笑う。するとマニャも目を開け、「ダナエ・・・?」と尋ねた。
「マニャ、助けに来るのが遅くなってごめんね。でももう大丈夫だから。」
「ウルズは・・・・?」
「やっつけた。もうこの世にはいないわ。」
「そう・・・かい・・・・。あんた・・・・ほんとに大した子だよ・・・・。」
手を伸ばし、ダナエの手を握る。
コウとマニャはだんだんと力を取り戻し、命の危機から救われた。
しかしまた目を閉じ、そのまま寝てしまった。
「ごめんね、私も回復魔法は得意じゃないの。怪我や呪いは治せても、体力までは戻せない。
だからゆっくり休んで。」
二人の頭を撫で、「さてと」と黄泉の入り口を振り返る。
「ドリュー。武神の秘薬はまだよね?」
「ええ。あの六つの墓石のどれかに埋まってるんです。」
「そっか。なら墓石をのけてみれば分かるわけね。」
「でも外れを引くと、恐ろしいことになるんです。それにもし当たりを引いても、強力な結界が邪魔をして。」
「分かった。後は私に任せて。」
ダナエは墓石の前に立ち、じっと見つめる。
「私、こういうのは得意なのよね。」
勘の鋭さには自信があって、「きっとこれだわ」と右から三つめの墓石を見つめる。
槍を墓の根本に突き立て、テコの原理で動かした。
大きな音を立てて墓石が倒れ、中から光が溢れる。
そしてその光に包まれながら、小さな瓶が浮かび上がった。
「すごい・・・・本当に一発で当てた。」
「だから言ったでしょ、こういうのは得意だって。」
「こういうのに得意とかあるんですか?」
「私ね、子供の頃からババ抜きで負けたことないんだ。
ジャンケンだってほとんど負けないし。」
「すごい強運ですね。」
「運じゃなくて勘。なんとなく『これだ!』って分かるのよね。」
可笑しそうに肩を竦め、「問題はこの結界ね」と睨んだ。
「すごく強い力を感じるわ。無理矢理取るのは難しそうね。」
どうしたものかと腕を組み、「う〜ん・・・」と悩む。
すると「これを使え」と誰かが言った。
「アラハバキ!」
ダナエは驚き、「あなたどうしたちゃったの!」と尋ねた。
「全身真っ黒焦げじゃない!」
「その結界のせいなり。おかげで奴の洗脳が解けた・・・・。」
「なんのこと?」
「他愛のないことなり。それよりこれを・・・・。」
アラハバキは武神の剣を差し出す。
「水に流される前に拾っておいた・・・。これなら結界を斬れるはずなり・・・。」
「さすが!ありがとう。」
ダナエは剣を受け取り、結界の前に立った。
「さてと・・・・私、剣は得意じゃないのよね。だからちょっと槍の中に吸い込んでっと。」
そう言って銀の槍をかかげた。
この槍には武器を融合させる力がある。ダナエは魔力を込め、槍と剣を合わせた。
すると武神の剣は、魚が躍るようにぐにゃぐにゃと揺れた。
そしてシュルシュルっと槍の中に入り込み、完全に融合してしまった。
「これでこの剣の力が使えるわ。」
ダナエは「ふう」と息をつき、しっかりと槍を構える。
「武神の剣は、魔力を込めれば込めるほど、どんな物でも斬り裂ける。
私の魔力でこの結界が斬れるかしら?」
散々魔法を使ったので、魔力は残り少ない。
持てる力の全てを注いで、槍に力を与えた。
「どんどん力が吸い取られく・・・・・。」
頭がフラフラとしてきて、「ドリュー・・・・帰る時はお願いね」と頼んだ。
「任せて下さい!僕がみんなを外まで運びます。」
「じゃあ・・・・いくわよ!」
槍を振り上げると、穂先が長く伸びた。
薄い緑に輝き、螺旋状にエネルギーが放出される。
「てえりゃああああああああ!」
結界に向かって、袈裟懸けに槍を振り下ろす。
するとあれだけ頑丈だった結界が、あっさりと斬れた。
「やった!」
結界の切れ目に手を伸ばし、秘薬を掴む。
「取った!武神の秘薬を取ったよ!」
ピョンピョンと飛び跳ねながら、秘薬の小瓶を振る。
するとドリューが「ダナエさん後ろ!」と叫んだ。
「え?」
後ろを振り向くと、黄泉の入り口が揺れていた。
まるでそこだけ地震が起きているみたいに、グラグラと揺さぶられる。
「何これ?」
呆然と見つめていると、突然地割れが起きた。
「きゃあ!」
黄泉の入り口は飲み込まれ、ダナエの足元にも地割れが伸びる。
慌てて羽を動かし、宙に舞い上がった。
しかし力を使い果たしたせいで、ヨロヨロとよろけてしまう。
「ダメ・・・・力が・・・・、」
ダナエはフラフラと落ちていく。そして地割れの中に飲み込まれそうになった。
「危ない!」
ドリューはシャボン玉を突き破り、「てえええええい!」と髪を伸ばす。
しかしそれより早く、ペインが助けに入った。
「ペイン・・・・ありがとう。」
「なんのこれしき。」
ペインはダナエを抱きかかえ、黄泉の道を引き返す。
「ドリュー!急ぐぞ!」
「ああ。」
ドリューは大きな鳥の絵を描き、コウとマニャをその上に乗せた。
「出口まで飛んでくれ!」
ドリューが命じると、巨大な鳥は翼を羽ばたいた。
小さなつむじ風が起き、弾丸のように飛び出した。
黄泉の道は地割によって崩れていく。
さらに亀裂から吹き出す水のせいで、何もかもが飲み込まれていった。
その勢いは凄まじく、ドリューたちの元へ迫った。
「もっと速く!」
巨大な鳥は懸命に羽ばたく。
ペインも迫りくる水に怯えながら、「ふいやああああああ!」と飛んで行った。
しかし行く手に敵が立ち塞がった。悪魔や魔獣が周りを囲む。
ドリューは「戦ってる暇はない!」と言って、空中に「消」と文字を書いた。
するとドリュー達の姿が、敵の目に映らなくなった。
その隙に敵の群れをすり抜け、また次の敵と出くわす。
「くそ!」
ドリューの「文字」はそこまで長く効果が続かない。
すぐに敵の目に映るようになり、周りを囲まれた。
「どけ!後ろから地割れと水が来てるんだ!」
背後からは激しい音が響いていて、すぐに水が押し寄せる。
しかしどんどん敵が群がってきて、行く手を阻まれた。
「万事休すか・・・。」
「ドリュー!俺は・・・俺は・・・・・、」
「ペイン!お前だけでも先に行け!」
「俺は・・・・死神の皇帝になる男だ!」
「その割には頼りないけどな。でも今はそんなこと言ってる場合じゃ・・・・、」
「ここでやらねば、俺はうだつの上がらない死神のままだ!
やってやる!魂を狩ってやるぞおおおおお!」
そう言ってドリューに向かってダナエを投げた。
「うわ!落ちたらどうするんだ!」
「ごちゃごちゃ言わず俺について来い!ひいいやああああ!」
奇声を挙げながら、赤いローブをはためかせる。
「死神は命を狩った分だけ強くなる!貴様ら俺が狩ってやる!」
そう言って「かああああ!」と鎌を振り上げ、悪魔に襲いかかった。
しかしすぐにやられてしまい、ボロボロになりながら筆に戻った。
「だから無理するなって言っただろ。」
「ごめん・・・・・。」
グスグスと泣きながら、「俺、しばらく出ないから・・・」と落ち込む。
ドリューは「僕がどうにかしないと」と敵を睨みつけた。
その時、道の先から誰かが現れた。
「おらおらおら!どけ悪魔ども!」
それはカプネだった。
手には銃を持っていて、燃え盛る弾丸を撃つ。
その弾丸は一撃で悪魔を焼き尽くし、灰に変えてしまった。
「死にたくなきゃどいてろ!」
カプネはバンバン銃を撃つ。
その後ろからは子分たちもやって来て、銃を乱れ撃ちした。
「カプネさん!」
「画家の兄ちゃん!無事か?」
「はい!秘薬を取りましたよ!」
「よっしゃ!だったらすぐにこんな場所からずらかるぜ!」
カプネの援護もあって、ドリューは敵の群れを切り抜ける。
そしてどうにか出口まで辿り着くと、後ろを振り返った。
「道が壊れていく・・・・地割れと水のせいで・・・・、」
「おい、ボケっとしてんな!」
カプネにどやされ、すぐに地上へ出る。
そして祠の扉を閉めると、地上にまで地割れが押し寄せた。
「うわ!こんな所まで!」
「近くに箱舟一号を停めてある!急げ!」
「一号?」
「武装してない方の箱舟だ!いいから急げ!」
森の向こうに停めた箱舟に向かい、一目散に乗り込む。
そして地上から飛び立つと同時に、辺り一帯が地割れに飲み込まれた。
「・・・・・・・。」
ドリューは息を飲んでその光景を見つめる。
カプネが「あの祠はもう用無しだ」と言った。
「秘薬は取ったんだ。なら黄泉へ繋がる道なんて残しとくもんじゃねえ。」
「誰かが壊したってことですか?」
「ああ、武神の奴がな。」
「武神が?」
「あれは試練の為だけにあるんだ。用が終わったら壊れる仕掛けになってるんだろうぜ。」
そう言ってダナエの手に握られている秘薬を見つめた。
「まったく・・・ほんっとに無茶しやがるぜ。
目が覚めた途端に、すぐに戦いに行くんだからよ。
止めても聞きやしねえ。」
「ダナエさん・・・何があったんですか?ウルズに捕まってたはずじゃ?」
「まあ色々とな。帰りながら話してやるよ。」
カプネは舵を握りながら、箱舟を飛ばしていく。
コウとマニャはまだ眠っていて、ダナエも気を失ったように目を閉じていた。
「とにかくみんな無事でよかった。秘薬も手に入れたし、これで次の試練に進める。」
ドリューも目を閉じ、「次の試練はもっとキツイのかなあ・・・」と呟いた。
「これじゃいつ死んでもおかしくない。それに出て行ったアドネとニーズホッグも捜さないといけないし・・・・気が滅入るな。」
ふうと息をつき、「宿に返ったらお風呂に入りたい」と項垂れる。
しかしすぐに顔を上げ、「あれ?」と呟いた。
「なんだろう?なんか忘れてるような・・・・・、」
眉を寄せ、首を傾げて考える。
「・・・・・まあいっか。みんな無事だったんだ。深く考えることなんてないや。」
そう言って寝転がり、そのまま寝てしまった。
箱舟は宿を目指し、夜の風を漕いでいく。
その少し後ろを、真っ黒に焦げた土偶が追いかけていた。
「小生・・・・忘れられたり。ちょっと寂しいなり・・・・。」

新しい小説

  • 2016.12.30 Friday
  • 15:20

JUGEMテーマ:自作小説

ダナエの神話と並行して、新しい小説を載せます。

「春の鳴き声」という小説です。

ダナエの神話と違って、ファンタジー要素はいっさい無い、ちょっと恋愛系の小説です。

明日から載せますので、よかったら読んでやって下さい。

ダナエの神話〜星になった神様〜 第十一話 武神の秘薬(1)

  • 2016.12.30 Friday
  • 15:17

JUGEMテーマ:自作小説

星屑の青年がダナエを助けた頃、コウたちは激しい戦いを強いられていた。
「くっそ!どんどん敵が強くなる!」
黄泉の道は先へ進むほど敵が多かった。
入り口には悪霊やゾンビくらいしかいなかったが、今では魔獣や悪魔が襲いかかって来る。
マニャは剣を振り、並み居る敵を切り裂いた。
「私はこういう敵の方がやりやすいね!」
そう言って居合に構え、敵陣を突き抜ける。
彼女が通った後には、細切れになった悪魔が落ちていた。
「マニャ!あとどれくらいだ!?」
「もう中程は過ぎてるはずだよ!前に私が来た所は過ぎたからね。」
「そうか。なら一気にここを抜けちまおう。」
コウは魔法を唱え、両手を金属の拳に変える。さらに風の魔法を唱え、拳に竜巻を宿した。
「オラオラ!吹っ飛びたいくない奴はどいてろ!」
ボクシングのように拳を構え、パンチを連打する。
「ギャアアアアアア!」
「ギイイエエエエエエエ!」
悪魔も魔獣も、竜巻をまとった鋼鉄の拳に吹き飛ばされる。
そこへ一際大きな悪魔がやって来て、コウに襲いかかった。
「ゴオオオオオオオ!」
「邪魔だつってんだよ!」
巨大な悪魔の攻撃をかわし、懐に入り込む。
「バラバラにしてやんぜ!」
身体を回転させながら、右アッパーを叩き込む。
悪魔の顎に拳がめり込み、激しい竜巻が起こった。
「グッシャアアアアアア!」
巨大な悪魔は上に吹き飛ばされる。コウは素早くその後ろに回り、今度は上から左ストレートをぶちかました。
「グギャアアオオオオオオオ・・・・・。」
脳天に拳がめり込み、ベコっとへこむ。そして右アッパーとは逆の竜巻が発生し、二つの渦に飲み込まれた。
「ギャアアアアアアアアア!」
巨大な悪魔の身体は、渦巻く二つの竜巻に耐えられない。
やがてバラバラに砕け散り、そのまま崩れ去った。
それを見ていたドリューが「今のは必殺技ですか!」と尋ねた。
「うん、まあ・・・・適当に打っただけだけど。」
「それ、今度僕にも教えて下さい!」
「いや、お前魔法は使えないじゃんか。」
「でも男子たるもの、必殺技の一つは欲しいじゃないですか!是非!」
「考えとくよ。」
そう言って次々に拳を振るい、敵の群れを吹き飛ばした。
《こんな所でモタついてる場合じゃねえんだよ。早くしないと・・・・・。》
コウはダナエのことが心配だった。
なぜなら彼女が大人しく捕まっているはずがないからだ。
《あいつ絶対に暴れてるに決まってる。でも今のウルズは強いから、ダナエだけじゃ勝てない。下手したら最悪は・・・・・、》
嫌な考えがよぎり、すぐに頭を振る。
《弱気になるな。こういうのは焦ったら負けなんだ。冷静に冷静に。》
そうは思っても、心配で心配で仕方がない。
そのせいで動きが鈍り、攻撃も大雑把になった。
するとその隙をついて、一匹の魔獣が迫ってきた。
コウの脇腹がガラ空きになった所を、大きな爪で弾き裂いたのだ。
「ぎゃッ・・・・・痛って・・・・・、」
「コウさん!」
コウは脇腹を押さえ、苦しそうに呻く。
肉を抉られて、赤い血が噴き出した。
「くそ・・・・このままじゃ死ぬ・・・・。」
素早く魔法を唱え、傷を治そうとする。
そこへまた魔獣が襲いかかって来て、恐竜のように大きな尻尾を振った。
「ぐはううッ・・・・・・、」
傷ついた脇腹に、大きな尻尾がめり込む。
コウは血を吐き、そのまま気絶してしまった。
「クソ!」
ドリューは慌ててコウを抱え、魔獣の方を振り向く。
「ヘビだからドラゴンだか分からない魔獣だな。身体も大きいし、何より強そうだ。」
コウを襲った魔獣は、恐竜に棘を生やしたような姿をしていた。
頭から背中まで、背びれのように大きな棘が伸びている。
前足は身体の倍くらいあって、その先に大きな鉤爪が付いていた。
先ほどコウを斬った時についた血が、ポタポタと滴っている。
ドリューは息を飲み、「僕だけで勝てるかな・・・」と不安になった。
するとそこへ青いビームが飛んできた。
それは魔獣を貫通し、さらに尻尾まで焼き払った。
「弱き者・・・・後ろへ。」
「アラハバキ!」
青銅の土偶が、ピカピカと目を光らせる。
そして「ミャアアアアア!」と叫びながら、頭、腕、足をドリルのように回転させた。
魔獣は鉤爪を振り上げて襲いかかって来る。
しかし次の瞬間、アラハバキは魔獣に向かってロケット弾のように突っ込んだ。
「ミャアアアアアアア!」
高速で回転する頭と手足が、いとも簡単に魔獣の鱗に穴を空ける。
硬い棘も粉砕され、魔獣は悲鳴を上げた。
「ビイイイイイイイイイイ!」
アラハバキは更に回転を強め、そのまま魔獣を貫通した。
落雷のような轟音が響く。そして次の瞬間には、魔獣は木っ端微塵に吹き飛んでいた。
「すごい!あんなに強そうな魔獣を跡形も無く・・・・・。」
ドリューは息を飲んで驚く。
しかしすぐに我に返り、「コウさん!」と叫んだ。
「しっかりして下さい!」
「・・・・・・・・・。」
「目を覚まして!」
「・・・・・あ・・・ああ・・・。」
「このままじゃ死んじゃいますよ!しっかりして下さい!」
ドリューは必死に励ます。
コウは薄く目を開け、口から血を吐き出した。
「マニャ!コウさんが!」
「分かってる!でも私は回復系の魔法は苦手なんだ。そこまで大きな傷は治せないよ。」
「・・・・アラハバキは?出来ないか!?」
「小生・・・・癒しの術を心得ている。」
「よかった!なら早く治して・・・・、」
「無理である。小生・・・敵を葬るので手一杯なり。」
周りは敵だらけで、強そうな悪魔や魔獣がウヨウヨいる。
しかしアラハバキがビームを撃ち続け、それを退けていた。
「ダメか・・・・。アラハバキが攻撃をやめたら、それこそお終いだ・・・。」
がっくりと項垂れ、「このままじゃコウさんが・・・」と嘆く。
しかしすぐに「そうだ!」と顔を上げた。
「他の神様を呼べばいいんだ!」
そう言ってコウの鞄からコスモリングを取り出す。
「なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。」
ドリューはコスモリングを見つめ、「出て来てくれ!」と叫んだ。
「アドネでもニーズホッグでもいい!コウさんを助けてくれ!」
必死に呼びかけていると、後ろから「無理なり・・・」と声がした。
「アラハバキ・・・・無理ってどういうこと?」
「ニーズホッグはこのような場所で呼び出さない方がよい。」
「どうして?」
「ここ、黄泉の道では常に風が吹いている。その風に乗らねば、先へ進むことは出来ない。
しかしニーズホッグは重すぎる。呼び出したとしても、風には乗れない。その場に置き去りになるだけである。」
「でもさっきは巨大な悪魔がいたよ?ちゃんと風に乗ってたじゃないか。」
「あの悪魔には翼があった。だから風に乗れた。」
「じゃあ・・・・空を飛べないニーズホッグは・・・・、」
「呼び出しても意味がない・・・・。」
「そうか・・・・ならアドネに頼むしかない。」
「それも無理である。」
「だからなんでさ!?」
ドリューは苛立つ。
「アドネは空を飛べるし、それに軽いから風にも乗れるじゃないか!
彼女が戦っている間に、君がコウさんを治せばいい。」
「アドネは怒っている。」
「怒る?」
「先ほどその妖精と喧嘩をしたせいで、とても怒っている。呼び出しても無駄なり。」
「そんな・・・・だって仲間が危ないのに!」
「小生に言われても困る。」
「クソ!こんなピンチなのに・・・・。」
ドリューはコスモリングを見つめ、「アドネ!」と叫んだ。
「お願いだ、出て来てくれ!」
コスモリングを揺さぶり、何度も呼びかける。
「このままじゃコウさんが死ぬ。君だけが頼りなんだ!」
腕に抱えたコウを見つめ、「頼むよ・・・」と涙ぐむ。
「君は仲間だろ?今まで一緒に戦ってきたじゃないか。
なのにどうしてあんな喧嘩くらいで・・・・。」
グッと唇を噛み、「仲間を見殺しにする気か!」と叫んだ。
「君はかつて、悪い死神だった。でも今は違う。
滅ぶ運命だった君を、ダナエさんが助けた。それから僕たちの仲間になってくれた。
だから・・・力を貸してくれよ・・・・。
このままじゃ・・・コウさんも、それにダナエさんだって助けられない・・・・。」
ドリューは強くコスモリングを握りしめる。
頼むから出て来てくれと、心の底から願った。
するとその時、「ドリュー!」と呼ぶ声がした。
「マニャ・・・・コウさんが・・・このままじゃコウさんが・・・・、」
「こっちも大変さ!前を見な!」
マニャは道の奥に剣を向ける。
するとそこには鳥居のような形をした門が建っていた。
色は真っ赤で、周りには墓石が幾つも並んでいる。
「あれは・・・・・、」
「黄泉への入り口さ。」
「あれが・・・・。じゃああの近くに武神の秘薬が?」
「そうさ。たくさんある墓石のどれかに埋まってはずさ。」
「でもその前にコウさんを助けないと・・・・、」
ドリューはまたアドネに呼びかける。
しかし何の返事もなく、「ダメか・・・」と項垂れた。
「こうなったらとにかくここを出るしかない。」
そう言って長い髪でコウを包んだ。
「傷は治らないけど、少しはダメージを抑えられるはずだ。」
ドリューの髪には魔力が宿っていて、コウの傷ついた身体を包み込む。
そのおかげで少しだけ出血が抑えられた。
「コウさん・・・外に出るまでの辛抱です。頑張って下さい。」
ドリューは目の前を見つめる。
遠くには黄泉の入り口が建っていて、「絶対に秘薬を持って帰るぞ!」と頷いた。
そこへマニャが近づき、「スピードを緩めな」と言った。
「このまま風に乗ってたら、黄泉の向こうへ言っちまうよ。」
「分かってる。」
二人は上手くバランスを取りながら、風の流れから逸れる。
そして地面へ降り立つと、後ろから「ミャアアアアア!」と声が響いた。
「どうしたアラハバキ!?」
「し・・・・痺れる・・・・。」
「痺れる?」
「何者かが・・・・小生に・・・・毒薬を・・・・、」
アラハバキはピカピカと目を光らせる。
頭と手足がグルグルと回り、「小生・・・・もはやこれまで・・・」と呟いた。
すると次の瞬間、アラハバキの身体に異変が起きた。
まるで壊れたプラモデルのように、身体のパーツがバラバラになってしまったのだ。
「アラハバキ!」
アラハバキの頭が、ぼとりと地面に落ちる。
しかし胴体や手足は風に乗ったまま、道の奥へと流された。
そして・・・・そのまま黄泉の入り口を越え、あの世へ行ってしまった。
「アラハバキ!」
ドリューは叫び、地面に落ちた頭に駆け寄る。しかしマニャは「誰かいるよ!」とアラハバキの後ろに剣を向けた。
「怪しい奴がいる!下手に近づくと危ない。」
「怪しい奴?」
ドリューは目を向ける。そこには巨大なアメーバがいて、ウネウネと動ていた。
「な、なんだアレは・・・・・、」
呆然としていると、そのアメーバは「ぬははははは!」と笑った。
「この声・・・・まさか・・・・、」
「そうだがね。僕だよ。」
アメーバは形を変え、白衣を着た眼鏡の男になった。
「ウルズ!」
「ぬは!」
「どうしてお前がここに!?」
ドリューはゴクリと息を飲む。マニャも剣を構え、「ダナエは?」と尋ねた。
「あの子は無事なんだろうね?」
「もちろんだとも。」
「あんたはほんとに卑劣な奴さね。人質を取るなんて。」
「ぬははは!卑怯?何を言ってるんだね。油断したチミたちが悪いのだよ。」
「まさか風呂に睡眠薬なんてね。確かに油断したよ。」
「ぬはは!チミたちの友達は僕の手の中にある。返してほしければ秘薬を取るのだ!」
ウルズは黄泉の入り口を指出し、「さあ!」と睨んだ。
「早くするんだがね。」
「あんたなんかに命令されたくないね。」
マニャは剣を向け、「言われなくても取ってやるさ」と睨み返した。
「ぬはは。なら早くするんだがね。でないとチミの友達は・・・・、」
「分かってる。」
マニャは黄泉の入り口を見つめ、「私が行ってくるよ」と言った。
「あんたはコウを頼む。」
「マニャ・・・・気をつけて。」
マニャは頷き、黄泉の入り口へ向かう。
するとそこへ悪魔や魔獣が群がって、行く手を塞いだ。
「マニャ!」
「チッ!アラハバキがいなくなったもんだから、敵が押し寄せてきたみたいだ。
これじゃ秘薬は取れないよ。」
そう言ってウルズを振り返り、「こいつらをどうにかしておくれ」と頼んだ。
「・・・仕方ないねえ。ならちょこっとだけ力を貸してあげよう。」
ウルズは白衣の中から注射器を取り出した。
そしてアラハバキの頭の後ろにプスリと刺した。
「こいつ硬いがね・・・・。特別性の針が折れてしまいそうだ。」
「何をする気だ?」
ドリューが尋ねると、「目を覚まさせるのさ」と言った。
「目を覚まさせる?」
「さっきこの土偶に強力な睡眠薬を打ち込んだのだよ。
たった一滴で一万匹の悪魔を眠らせるほどのね。」
「そんなに強力な薬を・・・・。」
「だからコイツで目を覚まさせる。」
そう言って紫の液体が入った注射を打ち込んだ。
「ミャ・・・ミャアアアア・・・・・・、」
「ぬは!起きてきた起きてきた。」
ウルズは飛び退き、「おい土偶」と呼んだ。
「頭がボーっとしてるだろう?」
「・・・・・・・・・・。」
「超絶に強力な睡眠薬を打ち込んだからねえ。しかも催眠作用も混じってる。
意識が朦朧としているはずだがね。」
「・・・・・・ミャア。」
「いいかよく聞け。僕はチミの主だがね。」
「・・・・・・・・?」
「チミは僕に仕える兵隊なのだよ。」
ウルズはニヤニヤしながら教え込む。
薬のせいで意識がハッキリしない今なら、言うことを聞くだろうと思っていた。
するとドリューが「おい!」と止めた。
「何をでたらめなことを・・・・、」
「チミは黙っとくがね。」
「黙ってられるか!いつもいつも勝手なことばかり・・・・、」
「でもこの土偶は信じたようだがね。」
「なんだって?」
目を覚ましたアラハバキは、「ミャアアアアアア!」と吠える。
すると頭の中から胴体と手足が生えてきた。
「ぬは!こいつ面白いがね!」
ウルズは興味深くアラハバキを見つめる。
「どうやら頭が本体のようだがね。失ったパーツも、頭があれば復元可能というわけか。」
ふむふむと頷き、「土偶一号!」と叫ぶ。
「あの女剣士を守るのだ!敵をぶち殺せ!」
「ミャアアアアアア!」
アラハバキは紫色に目を光らせ、敵に突撃していく。
ビームを撃ちまくり、手足を回転させて体当たりをかまし、さらに魔法を唱えて辺りを焼き払った。
「うわああああああ!」
「マニャ!」
あまりの激しい攻撃に、マニャは吹き飛ばされる。
しかしどうにか立ち上がり、「こっちまで死んじまうよ」と顔をしかめた。
「でも今のうちさね。早く秘薬を手に入れないと。」
アラハバキは猛攻で敵を粉砕していく。
マニャは巻き込まれないように注意しながら進んだ。
そして墓石の前まで来ると、「どこに埋まってるんだろうね」と見渡した。
「六つも墓石がある。・・・・まあいいさ、順番に調べてみりゃ分かる。」
とりあえず一番右の墓石から調べる。
「埋まってるってことは、墓石をどかさないとね。・・・・ふん!」
墓石を掴み、軽々と持ち上げる。
するとその下から「ぎゃあああああああああ!」と悲鳴が響いた。
「なんだいこれ!気味が悪い・・・・、」
マニャは必死に耳を塞ぐ。
しかし「ぎゃあああああああ!」という叫び声の前に、意識が朦朧とした。
「これ・・・呪いの・・・・言葉・・・・・・・、」
そう呟きながら、バタリと倒れる。
「マニャ!」
ドリューが駆け寄り、「しっかりしろ!」と頬を叩いた。
「・・・・・・・・・・。」
「息はある・・・・・。」
ホッと胸を撫で下ろし、「今の叫びはいったい・・・」と墓石の下を見つめた。
「あれも試練だがね。」
ウルズが言い、ドリューは「試練?」と振り返る。
「僕も一度死にかけたんだ。」
「まさか・・・ハズれの墓石を開けると、呪いが飛び出してくるってことか?」
「そうだがね。そして・・・・ほら。墓石はすぐに元通り。しかもシャッフルまでする。」
ウズルは墓石を指さす。
するとマニャの持ち上げた墓石が、宙に浮いて元通りになった。
そして六つの墓石が動いて、位置が入れ替わった。
「・・・・・・・。」
「ね?」
「・・・・なんてこった。」
「ちなみにハズれには色んなパターンがあるようだがね。
さっきのは呪いの悲鳴だったけど、他にも入り口へ戻されるとか、突風が吹いて黄泉の向こうへ吹き飛ばされるとか。」
「・・・・・・・・・・。」
「一発で当てないと、何度でもシャッフルする。危険な試練だがね。」
「そんな・・・・そんなの聞いてないぞ・・・・。」
ドリューは真っ青な顔で息を飲む。
「もし・・・もし僕まで倒れたら、もうどうしようもなくなる・・・・。
コウさんもマニャもここで死んで、ダナエさんも助けられない・・・・。」
そう言って墓石を睨み、「僕が・・・・正解を引かないと・・・」と息を飲んだ。
「さあ、早くするがね。」
「・・・・・分かってる。」
ドリューはフラフラと立ち上がり、墓石を見つめる。
六つある墓石は、どれもまったく同じだった。
さっきマニャが開けたのはどれなのか?全然分からない。
「僕・・・・ギャンブルは弱いんだよな・・・・。でもここは絶対にハズせない!」
息を吸い込み、「よっしゃ!」と気合を入れる。
「・・・・・左から二つめにしよう。」
大きく深呼吸して、墓石の前に立つ。
そして両手で抱え、「ぬうううむ!」と持ち上げた。
「お・・・・重い・・・・・・。」
どうにか持ち上げ、「うわあ!」と転んだ。
「・・・・・・どうだ?」
墓石の下を見つめ、ゴクリと唾を飲む。
すると眩い光が輝いて、小さな瓶が出てきた。
「ぬは!これは・・・・、」
ウルズは目を見開き、光に包まれる小瓶を見つめた。
「・・・・間違いない・・・あの小瓶からは微かに薬品の香がする・・・。
これが・・・・これこそが武神の秘薬だがね!」
そう言って、「そいつは僕の物だがねえええええ!」と飛びかかった。
しかし手を触れようとした瞬間、眩い光に弾かれた。
「ぎゅわ!」
火傷のように手が爛れ、「これは結界だがね!」と叫んだ。
「なんてこった・・・正解を引くだけじゃダメなのか・・・・。」
ヒリヒリ痛む手を撫でながら、「この結界・・・・相当強力だがね」と睨んだ。
「残念ながら、僕の力じゃ無理だ。・・・・おい土偶一号!」
「ミャア。」
「この結界を破壊しろ!」
「ミャアアアアアア!」
アラハバキはほとんどの敵を倒していて、残った悪魔は僅かだった。
しかし黄泉の向こうからまた悪魔が現れ、ウルズに襲いかかって来た。
「なんのこれしき!マッスルモード!」
鋼鉄のマッチョマンに変わり、「どうりゃあああ!」と悪魔を殴り飛ばす。
「土偶一号!早くするんだがね!また敵に囲まれる。」
「御意。」
アラハバキは目からビームを放つ。
しかし結界はビクともせず、逆にビームを跳ね返してしまった。
「ぬううう・・・・もっとだ!もっと攻撃しろ!」
「御意。」
今度は頭と手足を回転させ、ロケット弾のように突撃した。
しかしこれまたビクともせず、「ミャアアアア・・・」とその場に倒れた。
「かあ〜・・・・役に立たん奴だがね!」
「ミャア・・・・・。」
「お前なんかもういらん。ずっと寝てろ。」
倒れたアラハバキを蹴り飛ばし、「どうすればいいんだがね!」と頭を掻きむしる。
しかしその時、ふとある物が目に入った。
「あれは・・・・、」
ウルズはマニャに近づく。そして傍に落ちていた剣を拾った。
「この剣・・・・・見覚えがあるがね。」
ウルズが拾ったのは武神の剣だった。それを見つめながら、「確か武神に関する文献でこれを見たような気が・・・・」と首を捻った。
「・・・・・・ああ!そうだがね!これは武神の剣だ!」
ポンと手を叩き、「思い出したがね」と笑った。
「これこそは、武神の残した砂の剣。これさえあれば・・・、」
そう言って剣を構え、「てやああああああ!」と結界を斬りつけた。
しかしビクともせず、「なんで?」と首を捻った。
「おかしいがね?確か文献には、この剣は何でも斬れるって書いてあったはずなのに。」
また首を捻り、「・・・・・ああ!」と何かを思い出す。
「そうだった・・・これは魔力を込めないと力を発揮しないんだったがね・・・。」
そう言って頭を掻きむしり、「僕、そういうのは苦手だがらねえ」と呟いた。
どうしたものかと困っていると、武神の秘薬が墓の下に戻ろうとしていた。
「ああ!いかんがね!」
慌てて手を伸ばし、また「ぎゅひ!」と火傷する。
「せっかく当たりを引いたのに、このままでは・・・・、」
墓の下に戻ってしまえば、また一からやり直しである。
ウルズは「むむう・・・」と困り果てた。
「どうにか・・・・どうにかしないと・・・・、」
頭を掻きむしり、ブツブツ独り言を言い、「ぬはあああああ!」と絶叫する。
「なんのアイデアも浮かんでこんがね!」
そうこうしているうちに、黄泉の向こうから悪魔の群れが現れる。
あっという間に周りを囲まれ、「まずいがね・・・」と引きつった。
「・・・・残念だが、ここはいったん退くしかないがね。」
ポケットから青い液体の入った小瓶を取り出し、ゴクゴクと飲んだ。
すると次の瞬間、ウルズは巨大なアメーバに変わった。
「おいチミたち!必ず武神の秘薬を持って来い!でないと人質の命はないぞ!」
そう叫んで、するりと悪魔の群れをすり抜けて行く。
「おい待て!」
「待てと言われて待つ馬鹿がいるかね。ぬははははは!」
ウルズはウネウネと動きながら、天井の亀裂へ入り込んでいく。
「あいつ・・・あんな場所から出てきたのか。」
ウルズが消えた亀裂を見つめ、「僕はどうしたら・・・」と困り果てた。
コウとマニャは虫の息で、いつ死んでもおかしくない。
しかも周りは敵だらけで、とても突破出来そうになかった。
「アラハバキ!起きてくれ!」
唯一の便りであるアラハバキは、結界のダメージで痺れていた。
プスプスと煙が上げながら、「ミャアア・・・」と呻いている。
「ダメか・・・・。今度こそ終わりかも・・・・・、」
そう言いかけて、ハッと何かに気づいた。
「そうだ!この場所ならニーズホッグを呼び出せる!」
黄泉の道の最深部まで来ている今なら、ニーズホッグが置き去りにされることはない。
ドリューはコスモリングを掴み、「ニーズホッグ!」と叫んだ。
「頼む!出て来てくれ!」
必死に呼びかけるが、まったく返事がない。
「おいニーズホッグ!どうしたんだよ?出て来てくれ!」
何度も呼びかけるが、やはり出て来なかった。
「そんな・・・・ニーズホッグまで出て来ないなんて・・・・どうしてなんだ!」
焦りが募り、地面を叩きつける。
するとそこへ悪魔が迫り、鋭い爪を向けて来た。
「うわあああああ!」
ドリューはマニャとコウを庇う。
長い髪で包み、自分の身体を盾にした。
しかし服の中がもぞもぞ動いて、何かが飛び出した。
そして次の瞬間、ガキ!っと鈍い金属音が響いた。
「なんだ・・・・?」
恐る恐る振り返ると、そこには小さな死神がいた。

ダナエの神話〜星になった神様〜 第十話 星屑の青年(3)

  • 2016.12.29 Thursday
  • 15:15

JUGEMテーマ:自作小説

「てやああああああ!」
「ぬっはああああああ!」
コウたちが祠の中を進んでいる頃、ダナエはキングアメーバと戦っていた。
お互いにボロボロになりながら、それでも死闘を演じる。
ダナエは何発も強力な魔法を使い、魔力が限界に来ていた。
対するキングアメーバも、ダナエの魔法でダメージを受けている。
身体は小さく縮み、再生能力も弱くなっていた。
二人は一進一退の攻防を続け、どちらが先に倒れてもおかしくなかった。
「はあ・・・はあ・・・しつこいアメーバね・・・・。」
「チミこそ・・・・早く降参したらどうかね・・・・・・・・。」
「誰が降参なんか・・・・するもんか!」
ダナエは両手を掲げ、「受けてみろ!三つの精霊の力!」と叫んだ。
「水の精霊!風の精霊!金属の精霊!このしつこいアメーバを倒す力を!」
そう叫ぶと、手の中に三つの精霊が集まってきた。
小さな魚の精霊、美しい羽を持った蝶の精霊、そしてアンモナイトのような貝の精霊。
三つの精霊が手の中で回り、グルグルと渦を描いた。
「ぬううう・・・・今までにないほど強い魔力を感じる・・・・。」
キングアメーバはうろたえ、ゆっくりと後ろに下がる。
「だがしかし!これを耐えれば僕の勝ちだがね!
なぜならチミにはもう魔力が残されていないからね!」
そう言って石のように丸くなり、「さあ来い!」と言った。
「耐えられるものなら耐えてみなさい!」
ダナエはありったけの魔力を込め、「三つの精霊の力、受けてみろ!」と叫んだ。
「まずは水の精霊!」
魚の精霊が、口から水鉄砲を吐く。
強烈な水流が襲いかかり、キングアメーバを貫いた。
「むひょおおお!なんのこれしきいいい!」
水流に貫かれた穴が、瞬く間に再生する。
しかし魚の精霊は水を吐き続け、キングアメーバを水浸しにした。
「次は金属の精霊よ!」
アンモナイトの精霊がグルグル回り、キングアメーバに突撃する。
「ぐっはああああ・・・・・痛い!痛いけど負けんがね!」
強烈な体当たりを受けて、身体がべっこりへこむ。
しかしこれもすぐに再生した。
アンモナイトの精霊はまた体当たりをかまし、そのまま弾けて金属の粒子に変わった。
それはキングアメーバに降り注ぎ、水浸しになった身体に張り付いた。
「今度は!風の精霊!」
美しい羽を持った蝶が、ヒラヒラと舞い上がる。
すると次の瞬間、激しい風が巻き起こった。
風は真空の刃を飛ばし、キングアメーバを斬りつける。
「ぬっはああああああ!これはヤバイ!ヤバイけど・・・・耐えてみせる!」
真空の刃を受け、キングアメーバは細切れになる。
しかしこれまたすぐに再生し、「ぬはははは!」と笑った。
「チミの魔法・・・・全て受けきったがね!」
勝ち誇ったように笑うと、ダナエは「まだよ!」と叫んだ。
「これが最後の攻撃!ビリビリのバリバリに感電しなさい!」
「何?感電?」
キングアメーバは不思議そうに呟く。
次の瞬間、頭上に不穏な気配を感じて、「なんだね!」と見上げた。
そこには蝶の精霊がいて、グルグルと回っていた。
小さなつむじ風が起き、どこからともなく雲が集まる。
「ま・・・まさか・・・・・、」
もくもくと雲が出来上がっていく様子を見て、「まずいがね!」と怯えた。
「今電気を浴びたら僕は・・・・、」
そう言って自分の身体を見つめた瞬間、雲から雷が落ちた。
バリバリ!っと雷鳴が響き、青白い稲妻が走る。
「ぬっぎゃあああああああああああ!」
雷が直撃し、キングアメーバは悶える。
「むっはああああああ!ぬぎょむごろおおなめごぎヴあににゅおおおお!」
雷は一瞬で終わった。しかし電撃は終わらない。
なぜなら全身が水浸しになって、金属の粒子が張り付いているからだ。
しかもそれはただの金属ではなかった。
魔力を蓄え、しばらくの間エネルギーを発することが出来る。
金属の粒子は雷の電気を蓄え、それをキングアメーバに向かって放出する。
しかも水浸しになっているものだがら、隅々までしっかりと電気が通った。
「ぎょごろおぶぎょヴぇおぎいっやああああのおむっほおおおおおおおう!」
バリバリと眩い稲妻が走り、キングアメーバは焦げていく。
プスプスと煙を上げ、少しずつ蒸発していった。
「ど・・・どうだ・・・・見たか・・・・私の切り札・・・・。」
ダナエは膝をつき、その場に倒れる。
三つの精霊を同時に呼び出す魔法は、大きな負担がかかった。
ただでさえ魔力が限界にきていたのに、さらにエネルギーを削ってしまった。
もはや立つことも出来ず、ぐったりと倒れ込む。
「はあ・・・はあ・・・・動けるようになるまで、ちょっと休もう・・・・・。」
今すぐにでもウルズを追いかけたいが、身体が言うことを聞かない。
バリバリと響く電気の音を聴きながら、ゆっくりと目を閉じた。
「むぎょろおおおおあひょうおおおおううういいいっやおおおぎゃうう!」
キングアメーバはまだ感電している。
身体はどんどん小さくなり、遂にはダナエの半分にまで縮んでしまった。
そこでようやく電撃が収まり、「ぎゅうううう・・・・」と倒れ込んだ。
「こ・・・・この・・・僕が・・・・アメーバの王が・・・・こんな小娘に・・・。」
悔しそうに呻きながら、ベちょっと崩れる。
もはや形を保つことも出来ず、「ここまでか・・・・」と嘆いた。
しかしその時、何かが身体に触れた。
それは隠し通路を塞いでいた、あの大きな岩だった。
「こ・・・これは・・・・・、」
キングアメーバは岩を見上げ、「希望の光だ・・・」と喜んだ。
「これを吸収して・・・・・吸収して・・・・・・・。」
残された最後の力を振り絞り、岩に張り付く。
そして少しずつ溶かしていって、体内に取り込んだ。
「ああ・・・・・再生していく・・・・力が・・・・戻ってくるうううう・・・・。」
大きな岩を吸収し、むくむくと巨大化する。
「おおおおお!復活完了!」
キングアメーバは完全に力を取り戻した。
大きな岩を吸収し、岩石のように頑丈なアメーバとなった。
「すごい!屈強な身体を手に入れたがね!」
そう言ってダンゴムシに形を変えた。
「うう〜ん・・・・頑丈になったのはいいが、その分自由に動けんがね。
あまり形を変えていると、壊れてしまいそうだ。」
頑丈になった身体は、柔らかさを失う。
動く度にギシギシと鳴って、しかもやたらと重かった。
「あまり姿を変えない方がよさそうだがね。無理していると割れてしまう。」
そう言ってもぞもぞと動き、「戦うのは問題なさそうだ」と笑った。
「さあて・・・・この小娘をどうしてくれようかね。」
倒れたダナエを睨み、勝ち誇ったように笑う。
「このまま踏み潰すのもいいし、体当たりでぺちゃんこにするのもいい。
いや、なんなら食べてしまうというのも面白そうだがね。」
ゆっくりとダナエに近づき、硬い触覚で持ち上げる。
「おい、意識はあるかね?」
「うう・・・・。」
「ぬはははは!もう力が底を突いたようだがね。」
「なんて・・・・しつこい奴・・・・・。」
「残念ながら、チミの魔法では倒せなかったがね。もう大人しく諦めることだ。」
「そんな・・・・こんな所で・・・・負けるなんて・・・・・、」
「戦いとはそういうものだよ。勝てるとタカを括っているからそうなる。」
「あ・・・・あんただって・・・・私のこと見下してたクセに・・・・・、」
「ああ、だからこうして勝ったじゃないかね。」
「・・・・悔しい・・・・負けたく・・・・ない・・・・。」
「もうチミの負けさ。でもここまで戦った根性を認めて、せめて死に方くらいは選ばせてやるがね。さあ、どういう風に死にたい?」
「うう・・・い・・・イヤだ・・・・まだ・・・・終われない・・・・、」
「勝負はついたっていうのに、まだ戦う気かね?」
「だって・・・・私は・・・邪神を倒さないと・・・・・、」
それを聞いたキングアメーバは盛大に吹き出した。
「ぬははははは!僕にも勝てないような奴が、邪神なんか倒せるわけないがね!」
「そんなの・・・・・やってみなきゃ・・・・分からないじゃない・・・・、」
「ならやってみたまえよ。僕を倒して、邪神の所まで行ってみたまえ!
ぬはははははは!」
キングアメーバは高らかに笑い、「それじゃさよならだ」と言った。
「チミは強かったよ。だから敬意を表して、僕の一部にしてやるがね。」
そう言ってカチカチと歯を鳴らし、頭から飲み込もうとした。
大きな牙が迫り、ダナエに触れる。
「い・・・イヤ・・・・こんな所で・・・・・、」
「なあに、またこの世に戻って来れるよ。僕のウンチになってね。ぬははははは!」
「さ・・・・最悪・・・・・。」
ダナエはどうにか立ち上がろうとする。
しかしまったく力が入らず、悔しそうに目を閉じた。
《みんなゴメン・・・・。こんなことなら、みんなの所に戻っておけば・・・・。》
後悔が滲み、閉じた目から涙が落ちる。
するとその時、「待て待て〜い!」と野太い声が響いた。
「そこまでだこの野郎!」
「むむう!誰かね!?」
キングアメーバは後ろを振り向く。するとそこには剣を構えたカエルがいた。
「貴様は誰だ!」
「俺はカプネ!泣く子も黙る盗賊よ!」
「盗賊〜?こんな場所にまで盗みに入るとは。」
「違わい!仲間を助けに来たんでい!」
そう言って剣を振り上げ、「ぬううりゃあああ!」と斬りかかった。
しかしアメーバの硬い甲殻に弾かれて、「ぐおおお!」と転んだ。
「むうう・・・・なんて弱いんだね。こっちが恥ずかしくなるくらいだ。」
「ちっくしょう・・・・・よくもやってくれたな!」
「そっちが勝手に転んだんだがね。ていうか邪魔だから消えたまえ。」
硬い触覚でカプネを弾く。
「ぎゃふ!」
カプネは壁まで飛ばされ「負けた・・・」と項垂れた。
「諦めるのが早過ぎだがね・・・・何なんだコイツは。」
呆れたように言って、「こんな奴は相手にしてられんがね」とため息をついた。
「さあて。ではチミを食してしまおう・・・・って、あれ?どこ行ったがね?」
さっきまでそこにいたダナエが、忽然と消えていた。
どこへ行ったのかと見渡していると、《ここだよ》と声がした。
「誰だ!」
《僕?僕はかつてこの館の主だった者さ。》
「何い?」
《今はもう死んでるけどね。》
「死んでる?なら悪霊かね!?」
《はははは!悪霊じゃないよ。星になっただけさ。》
「むううう・・・・ふざけたことを!姿を見せろ!」
キングアメーバは辺りを見渡す。
すると天井に誰かが立っているのに気づいた。
「むは!そんな所に。」
そこには爽やかな顔立ちをした青年がいた。
なびくような緑の髪をしていて、逞しい身体つきをしている。
腰には斧を下げていて、ポンチョのようにマントを羽織っていた。
《やあ。ずいぶん大きなダンゴムシだね。》
「ダンゴムシではない!キングアメーバだ!ていうか・・・・そいつを返すがね!」
《こいつ?ああ、この妖精?》
青年は腕に抱いたダナエを見つめる。
「他に誰がいるんだがね!もし返さないというのなら、チミごと吹っ飛ばしてやるだけだ!」
《勇ましいね。でも勝負はもう終わってるよ。》
「そんなの分かってるがね。僕はその妖精に勝った。だからこれから食べてやるんだがね。」
《いや、そうじゃなくて・・・・。》
青年はニコリと笑い、《終わるのは君の方さ》と言った。
「何〜?」
《動かない方がいい。動けば本当に終わるから。》
「小癪なことを。余裕ぶったその態度・・・・気に食わんがね!」
キングアメーバはくるりと丸まり、「その妖精ごと吹っ飛ばしてやる!」と叫んだ。
「岩石のアメーバになった僕の体当たり・・・・・受けてみろ!」
グルグルと転がり、部屋中を駆け回る。そして勢いのついた所で天井に飛びかかった。
「吹っ飛べチミいいいいいい!」
巨大な岩の塊が、天井に向かって飛んでいく。
しかし青年は動かなかった。
爽やかな笑顔のままこう呟く。
《動くなって言ったのに。》
次の瞬間、キングアメーバの身体がパキっと鳴った。
そしてビキビキっと大きな音を立て、身体じゅうに亀裂が走った。
「な・・・・なんだ・・・・、」
《斬ったのさ。》
「き・・・・斬った・・・・・?」
キングアメーバは細切れになり、ボロボロと崩れていく。
硬い身体はバラバラになって、床に散らばった。
そして頭がコロコロと転がって、天井を見上げた。
「そ・・・そんな・・・・斬ったって・・・・いつの間に・・・・、」
《さっきカエルの盗賊が入って来ただろう?あの時さ。》
「ま・・・まさか・・・・あいつは・・・・オトリ・・・・・?」
青年はニコリと笑う。
キングアメーバは「む・・・無念・・・・だがね・・・」と絶命した。
そのままボロボロと崩れて、砂のようになってしまった。
「さてと。」
青年は床へ降り、《大丈夫かい?》とダナエを見つめた。
「・・・・・・・・・。」
《かなり参ってるな。よほど力を使ったと見える。》
ポンポンと頭を撫で、《今はお休み》と笑いかけた。
するとそこへ「やったのか?」とカプネが駆け寄ってきた。
「あのダンゴムシ野郎は!」
《ご覧の通りさ。》
「おお!砂みたいに崩れてやがる。」
《アメーバを無理矢理巨大化させてただけだからね。
力を失えば、形を保つことが出来なくなる。憐れな最後だよ。》
砂に還ったキングアメーバを見つめながら、《それよりカプネ》と言った。
「さっきのは名演技だったね。」
《ん?そうだったか?》
《見事なやられっぷりだったよ。》
「へへん!大したもんだろ?」
《ああ。迫真の演技だった。というより、本当にやられただけだろうけど。》
そう言って笑うと、「違わい!」と怒った。
「お、俺が本気を出せばなあ・・・・あんなダンゴムシ野郎なんざ・・・・、」
《うん。》
「その・・・・アレをこうして、ナニをこうして・・・・一撃だぜ!」
《そういうことにしておくよ。》
青年は可笑しそうに笑う。カプネは「ふん!」とそっぽを向き、でもすぐに目を潤ませた。
《どうした?どこか痛いのかい?》
「ち・・・違わい!そうじゃなくて・・・・、」
《うん?》
「ま・・・・まさか・・・またこうしてお前に会えるなんて・・・、」
《久しぶりだね。》
「・・・・・・ぐふ!」
《僕はずっと見てたよ。空の彼方から、君が一生懸命生きているのを。》
「・・・・・・ひぐ!」
《またこうして話すことが出来て嬉しいよ。》
「・・・・・・ぶひゅ!」
カプネはハンカチを取り出し、ズズっと鼻をすすった。
「てめえこの野郎!生きてんなら会いに来いってんだ馬鹿野郎!」
そう言ってチーン!と鼻をかみ、おいおいと泣いた。
「お・・・俺は・・・・てっきりお前が死んだものだと・・・・、」
《死んでるよ、もう。》
「でもこうして生きてんじゃねえか!」
《これは仮の姿さ。本当は天に輝く星になんだ。そう説明しただろ?》
「でもよお・・・・、」
《ああ、分かってる。僕だって嬉しい。かつての友人と会えたんだから。》
「・・・・・・ぐふう!」
カプネはハンカチを濡らす。二枚目を取り出し、それもまた濡らした。
「カプネ、泣きたいのは分かるけど、今は泣いてる場合じゃないはずさ。」
《分かってら!ただちょっと花粉症が酷くてだな・・・・・、》
ズビビっと鼻をすすり、ベチョベチョになったハンカチを折りたたむ。
《カプネ。》
青年は彼の前に立ち、《この子を》と言った。
《僕は長くここにいられない。》
「ああ・・・・・。」
《だから頼んだよ、この子のことを。》
腕に抱えたダナエを見つめ、《この子が邪神を倒す希望だ》と言った。
《でも一人じゃ無理だ。》
「分かってら・・・・みんなその子と一緒に戦ってんだ。邪神を倒す為に。」
《それだけじゃないだろ?》
「・・・・・・・・・。」
《この子には周りを惹きつける力がある。繋げる力と言ってもいい。》
「・・・・・・ああ。」
《それは邪神にはない武器さ。彼女は強いけど、でもこの子のような仲間はいない。
手下は大勢いても、それは心を通わせる相手ではないんだ。》
「あいつも寂しい奴だよな。あんたみたいな最高の婚約者がいながら、怒りと憎しみに飲まれちまって・・・・・。」
《今の彼女を突き動かしているのは、怒りや憎しみだけじゃない。
果てしない欲望がそうさせているんだ。》
「あいつは銀河の支配を企んでやがる。でもそれだけじゃ終わらねえはずだ。
銀河を手に入れたら、いずれ次の銀河に手を伸ばすはずだろうぜ。」
《そう、いつまでもたった一人で欲を追い求める。それはすごく悲しいことさ。》
青年は寂しそうに笑い、《僕は今でも彼女を愛している》と言った。
《だから止めたいんだ。》
「・・・・・・・。」
《その為にはこの子の力が必要だ。だから頼んだよ、僕の古い友よ。》
カプネの腕にダナエを預け、そっと後ろに下がる。
《いずれまた会うだろう。その時まで、天の星から君たちを見守っているよ。》
青年はニコリと頷き、星屑のように輝く。
そしてキラキラと光る粒子に変わって、どこかへ消えていった。
カプネは腕に抱えたダナエを見つめ、「無事でよかったぜ」と頷いた。
「まったく嬢ちゃんは無茶するぜ。心配する方の身にもなれってんだ。」
カプネがここへ来たのは、あの青年の声を聞いたからだった。
箱舟の中にいると、突然懐かしい声が響いてきたのだ。
《カプネ。僕について来て。》
それが誰の声なのか、すぐに分かった。
カプネは箱舟の外に走り、暗い夜空を見渡した。
すると天に輝く星の中に、ひときわ大きな光を放つものがあった。
その星を見上げていると、懐かしい友の顔が浮かんだ。
次の瞬間、その友が目の前にいた。
ふわふわと宙を舞いながら、ニコリと微笑んだ。
あの時、これは幻かと思った。
彼は死んだはずで、もうこの世にはいない。
もしかしたら幽霊になって会いに来たのかと思ったが、そうではないこと知った。
青年は星に生まれ変わり、今でもラシルを見つめていた。
この星の平和を願い、邪神の悪行に心を痛めている。
今の自分には力もないし、命すら持っていない。
しかしそれでも、黙って見ていることが出来なかった。
そう聞かされて、カプネは首を振った。
嬉しいやら悲しいやら、何と言っていいのか分からずにハンカチを濡らした。
《君の仲間が傷ついている。助けに来るのを待っている。》
青年は背中を向け、遠い空へ飛んで行った。
カプネは急いで船の中に戻り、舵を握った。
整備中だからやめておけという子分の忠告も聞かず、一目散に青年を追いかけたのだった。
「よかったよ・・・・ほんとに。危うく死ぬところだったんだぜ。」
腕に抱いたダナエを見つめながら、小さく笑いかける。
「感謝しなよ嬢ちゃん。あんたは周りに恵まれてるぜ。
なんたって、星になった奴まであんたを助けようとしてくれたんだから。」
ダナエを抱いたまま、館の外に出る。
子分たちが駆け寄って来て、「大丈夫ですかい?」と心配した。
「ああ。屁でもなかったぜ。」
「さすが親分だ!」
「やる時はやる!俺らのお頭だけあるぜ。」
満足そうに頷く子分たちを見て、《ほんとは俺のおかげじゃねえんだけどな》と肩を竦めた。
夜空を見上げ、星を眺める。
さっきまであった大きく輝く星は、いつの間にか消えていた。
しかしこの星のどこかにいるはずだと思い、ズズッと鼻をすすった。

格闘技の魅力は宝石と同じ

  • 2016.12.29 Thursday
  • 15:13

JUGEMテーマ:格闘技全般

もう年末です。
あっという間ですね、一年は。
そういえば何年か前は、年末になると格闘技番組をやっていました。
あの時は三つくらのやつが、別の局でやっていました。
確か曙とボブ・サップも年末の格闘技だったと思います。
格闘技ってブームがあって、流行る時は流行るけど、そうでない時はほとんど放送がありません。
前はしょっちゅうK−1とかやってたんですけどね。
ボクシングの世界タイトルもよく放送していました。
もっと昔はプロレスも普通に放送していましたね。
それに深夜だけど、ボクシングの日本タイトルマッチなんかもやっていました。
日本ランカーの試合とか、日本王座戦とかって、世界タイトルとは違った面白さがあるんですよ。
世界戦よりも、そういう試合の方がガンガン打ち合ったりします。
一発逆転とかもあったりして、けっこう見応えがあるんですよ。
ボクシングが好きなので、録画して何度も見ていました。
人は強さを欲しがります。
男女問わず、人は強さに憧れるんじゃないかと思います。
強いってそれだけで価値があるんですよ。
美しいってだけで価値があるダイアモンドと同じです。
何の役に立たないとしても、欲しがったりするもんです。
でも武器が発達した今、格闘技をやるよりも、武装した方が簡単に強くなれます。
人類の歴史でも、鉄の時代になってから、個人の強さよりも、武器の性能が大事になりました。
そして火薬の時代に突入して、個人の力で戦況をひっくり返すなんてことは、まず不可能になります。
昔は一騎当千とかあって、たった一人の兵士の力で、戦況がひっくり返ることだってあったかもしれません。
だけど長年鍛えた兵士でも、銃で撃たれたらお終いです。
その辺を歩いている人でも、ショットガンを持てば横綱だろうが格闘技のチャンピオンだろうが、余裕で勝てるでしょう。
だけどそれでも格闘技は廃れません。
時代と共に消えるものもあるけど、新しく生まれるものもあります。
剣術は剣道に変わり、柔術も柔道に変わりました。
時代と共に変化して、ちゃんと生き延びています。
それはなぜか?
やっぱり人は強さに憧れるからだと思います。
銃を持てば誰でも強くなれるけど、そういった強さじゃなくて、体を鍛えて、技を身に着けて、自分を磨く強さに憧れがあるんです。
強いっていうのは、誰かを倒す力のことじゃありません。
自分を鍛えて、前より逞しくなるってことです。
人は強さへの願望があるから、格闘技が無くなることはありません。
達人ならナイフにも勝てるかもしれません。
上手くいけば、銃を持った相手だって倒せる可能性だってあるかも。
でもさすがに戦闘機や戦車は無理で、いくら鍛えたところで、やっぱり武器には負けます。
それでも無くならない格闘技は、有史以来人類が持つ願望を、分かりやすく体現したものだと思います。
役に立たなくてもダイアモンドが石ころ扱いにならないのと同じで、格闘技の強さには、武器にはない宝石のような輝きがあるんです。
力だけじゃ語れないのが強さ。
強さへの憧れが強くなった時、またいつか格闘技ブームが来るかもしれませんね。

ダナエの神話〜星になった神様〜 第九話 星屑の青年(2)

  • 2016.12.28 Wednesday
  • 12:30

JUGEMテーマ:自作小説

「気味の悪い場所だなあ。浮遊霊がウジャウジャいるぜ。」
コウたちは山の中に来ていた。
周りは深い森に覆われ、星の明かりだけが足元を照らしている。
辺りは浮遊霊だらけで、死者の晩餐のように群れていた。
コウは周りを見渡しながら、「これが武神の祠?」と尋ねた。
「そうさね。この祠の中に秘薬があるのさ。」
「ふ〜ん・・・・何の変哲もなさそうな祠だけど。」
そう言って目の前に建つ祠を睨んだ。
大きさは人の背丈と同じくらいで、真四角の形をしている。
硬そうな石で出来ていて、中央に小さな扉があった。
その扉には取っ手が付いていて、「危険!開けるべからず!」とラシルの文字で書いてあった。
星明かりを受けた祠は、ほんのんりと青く染まっている。
コウは肩を竦め、「こんなの楽勝じゃん」と笑った。
「中から秘薬を取り出せばいいだけだろ?」
「そうさね。だけどその為にはある試練をクリアしないといけないのさ。」
「試練?そんなのどこにあるんだよ?」
グルリと辺りを見渡し、「何にもねえじゃん」と首を傾げる。
「周りは薄暗い木立だ。危険なんて何もない。」
「今はね。でも祠の扉を開けると・・・・・、」
「開けると・・・・・?」
「開ければ分かるさ。」
「もったいぶるなよ。何が起きるのか教えてくれ。」
そう尋ねると、マニャは辺りを漂う浮遊霊を見上げた。
「扉の中にはあの世と繋がる道があるのさ。」
「あの世?」
「黄泉の国さね。一度そこへ足を踏み入れたら最後、二度とこっちへ戻れない。」
「そりゃ危険だな。」
「この浮遊霊たちは、行き場をなくした憐れな魂さ。
だから祠の中にある黄泉の道に惹かれて、こうして集まってくるんだ。」
マニャは浮遊霊に手を向け、「扉を開けば一斉に中に押し寄せてくる」と言った。
「その時、下手すると私たちまで黄泉の国へ飲み込まれちまう。」
「なら注意しながら開けないとな。」
コウは頷き、「で、肝心の試練は?」と尋ねた。
「この中に黄泉への道があるのは分かったけど、それと試練と関係あるのか?」
「ある。武神の秘薬は黄泉の国の一歩手前に隠してあるんだ。
だからもし間違って黄泉の国へ入っちまうと・・・・・、」
「そのままあの世行きってことか?」
「ああ。」
マニャは頷き、「私はそこまで行けなかった」と呟いた。
「あまりに危険だったから、途中で引き返したんだ。」
「お前がそこまで言うなら、よっぽど危険なんだろうな。」
「黄泉の道では浮遊霊が凶暴化することがある。それにうようよ魔物がいるし、楽な道じゃないよ。」
「分かった。なら心して掛からないとな。」
コウは大きく深呼吸し、鞄に入れたコスモリングを叩いた。
「こいつがあればどうにかなるだろ。」
そう言って後ろを振り向き、「準備はいいか?」と尋ねた。
マニャは「いつでも」と頷き、ドリューも「行きましょう!」と拳を握る。
「ようし・・・・そんじゃ秘薬を取りに行くか!」
祠の取っ手を掴み、「そおりゃ!」と力を入れる。
「うぎぎぎぎぎ・・・・固いなコレ・・・・。」
扉は重く、中々開くことが出来ない。
ドリューが「手伝いますよ」とコウの身体を引っ張った。
「ぬうううううううう!」
「どおおおおおおおお!」
二人は思いっきり引っ張るが、全然開かない。
見かねたマニャが「どきな」と言った。
取っ手を掴み、グッと力を入れる。すると重い音を立てながら開いた。
「すげえ!」
「さすが。」
「感心してる場合じゃないよ。浮遊霊が押し寄せてくる。」
祠の扉が開いた途端、浮遊霊が一斉に群がって来た。
コウたちは慌てて飛び退く。そして祠に吸い込まれる浮遊霊たちを見つめた。
「なんか・・・排水溝に飲まれる水みたいな勢いだな。」
「ていうか掃除機ですよこれ。中から吸い込まれてる。」
浮遊霊は次から次へと群がって、祠の中に消えていく。
呆然とそれを見つめていると、コウの背中に何かがぶつかった。
「ぐは!」
「コウさん!」
コウの背中にぶつかってきたのは、ゾンビの大群だった。
呻き声を上げながら、祠の中に向かって行く。
「なんだコイツら!どっから湧いてきやがった!?」
ゾンビはグイグイとコウを押しながら祠に向かう。
そしてそのまま中へ消えてしまった。
「ぎゃああああああ・・・・・、」
「コウさああああああん!」
ドリューは慌てて追いかける。するとマニャが「待ちな!」と止めた。
「今入ったら浮遊霊やゾンビの大群に巻き込まれる。そのままあの世行きだよ。」
「でもコウさんが・・・・・、」
「油断したよ。まさかゾンビまで群がって来るなんて。」
マニャは祠へ群がるゾンビを見つめた。
「こいつらも行き場のない連中さ。生きるでも死ぬでもなく、当てもなく彷徨ってる。
だから黄泉の国へ行って、楽になりたいんだ。」
「クソ!どうすればいいんだ・・・・。」
「待つしかないさね。」
祠には次々に浮遊霊やゾンビが集まって来る。
木立の中からわらわらと現れて、救いを求めるようにやって来る。
しかししばらくすると、その群れも途切れ始めた。
マニャは剣を抜き、「今だ!」と祠に向かった。
「行くよドリュー!」
「え・・・・ああ、うん!」
二人はゾンビを押しのけ、祠に飛び込む。
その先は真っ赤なトンネルになっていて、掃除機のように奥へ吸い込まれた。
「ここが黄泉への道・・・・。」
ドリューは辺りを見渡し、ゴクリと息を飲んだ。
中は巨大な遺跡のようになっていて、遥か遠くまで道が続いている。
辺りには湿った風が吹いていて、掃除機のように奥へと吸い込まれていた。
「そこらじゅうに浮遊霊がいる。それにゾンビも・・・・・。」
「さっき吸い込まれた連中だけじゃない。前から居座ってる奴らもいるんだ。」
「居座る?ここに?」
「幽霊やアンデッドにとっては居心地がいいみたいでね。
だけど長いことこんな場所にいると、まともじゃいられなくなる。
その証拠に見なよ、道の奥を。」
マニャは遠くを指さす。
そこには凶暴化した悪霊や、アメーバのように群がるゾンビがいた。
「あれは・・・・、」
「レギオンにコープスさ。どっちも死者の集合体さ。」
「確かレギオンは悪霊の塊、コープスはゾンビの融合体だったよね?」
「低級な魔物さ。だけどここの奴らは普通じゃあり得ないくらいにたくさん集まってる。
油断してるとやられちまうよ。」
そう言って駆け出し、奥へと吸い込まれる風に乗った。
「マニャ!」
「ドリュー!後ろを頼んだよ!」
マニャは風に乗り、そのまま奥へと飛んでいく。
ドリューは少しためらったが、「ええいもう!」と覚悟を決めた。
「今さらビビッてなんかいられない!僕だって修羅場を潜ってきたんだから!」
芸術の神である父の血が目覚め、髪が長く伸びていく。
角も大きく反り返り、身体に力が湧いてきた。
「まずはコウさんを見つけなきゃ。とりゃあああ!」
マニャと同じように風に乗り、道の奥へと吸い込まれる。
するとレギオンが迫ってきて、「ヴううええええええ!」と気持ちの悪い声を上げた。
真っ黒な霊体に、全身に光る気味の悪い目。
そして身体の真ん中には大きな口が開いていて、ガチガチと歯を鳴らした。
その大きな口から、呪いの言葉を放ってくる。
この呪いを聞いた者は、魂を取られるか、もしくはレギオンの一部になってしまう。
ドリューは耳を塞ぎ、呪いの言葉を聞かないようにした。
そして長い髪を振り、宙にゴグマの絵を描いた。
「出て来い!灼熱の竜!」
宙に描かれた絵から、マグマの竜が現れる。
「行け!レギオンを焼き払え!」
ゴグマは吠え、灼熱のブレスを吐く。
その反対側では、マニャが剣を振っていた。
片手に自分の剣、片手に武神の剣を握り、群がって来るコープスを斬り裂いている。
しかし斬っても斬っても再生してきてキリがない。
特大のかまいたちを飛ばしても、焼け石に水だった。
「まずいねこりゃ・・・・単純な物理攻撃じゃ歯が立たない。」
以前にここへ来た時のことを思い出し、背筋が寒くなる。
「あの頃は若かったね。今なら絶対に一人で来られないよ。」
群がるコープスを斬り払い、どうしたものかと眉を寄せる。
すると前方から光が射し、辺りが眩く輝いた。
次の瞬間、コープスは塵に還っていた。
「なんだいこの光は?」
マニャは呆然と口を開ける。するとまた光が飛んできて、次々にコープスを消滅させていった。
「小生、異星の地にて悪を滅ぼさん。」
突然声がして、マニャは目を向ける。そして「なッ・・・」と言葉を失った。
「こ・・・これは・・・なんだい?」
マニャの目の前には、巨大な土偶が浮かんでいた。
全身が青銅で出来ていて、神々しいような、それでいて不気味なような魔力を放っている。
目は青く輝いていて、まるでロボットのように手足が回っていた。
「これは・・・・敵かい?それとも・・・・、」
マニャが言葉を失っていると、後ろから「うわああああ!」と悲鳴が響いた。
「なんだい!?」
「マニャ!レギオンが群がって来る!」
ドリューは周りを囲まれていた。
絵に描いたゴグマは呪い殺され、次に呼び出したサラマンダーも葬られた。
「このままじゃ呪い殺される!」
「待ってな!すぐに助ける!」
そう言ってかまいたちを飛ばすが、レギオンには効かなかった。
「クソ!斬ってもすぐに元に戻る・・・・どうすれば・・・、」
「小生に任せよ・・・・。」
土偶はピカリと目を光らせ、青いビームを撃った。
それは一撃でレギオンを蒸発させた。
ピカ!ピカ!っとビームを撃ち続け、あっさりとレギオンの群れを葬る。
「すごい!こいつはいったい・・・・、」
マニャは呆然と見つめる。
すると「お前ら大丈夫か!」とコウの声がした。
アドネの背中に乗りながら、「早く来いよ」とやって来る。
「コウ・・・・この土偶はいったい・・・・?」
「コスモリングに宿る神様だよ。アラハバキっていうんだ。」
「アラハバキ?」
「地球の神様さ。ていうか今はそんなことどうでもいいんだよ。
早く行かないとどんどん群がって来る。」
黄泉の道には無数の悪霊やゾンビがいる。
先ほど倒したばかりなのに、もう周りを囲み始めていた。
「ダナエが人質に取られてるんだ。モタモタしてる暇はない。」
「そうだね・・・なんだか足を引っ張っちまって。」
「こういう場所はグズグズしてると不利になるんだ。雑魚には構わず、とっとと突っ切るぞ!」
そう言って「アラハバキ」と目を向けると、「御意」と目を光らせた。
「弱き者よ・・・・小生の腕に。」
「あ・・・ちょっと!」
「そっちの獣人も。」
「え?ちょ・・・うわあああ!」
アラハバキはマニャとドリューを抱きかかえる。
コウは「よし!」と頷きく。そして「じゃあ行ってくれ」とアドネの頭を叩いた。
「・・・・・・・・・・。」
「ん?どうしたアドネ?」
「あのさ・・・・・、」
「早く行けよ。ダナエを助けないといけないんだから。」
「うん、それは賛成なんだけど・・・・、」
「モタモタしてんな。お前ならこんな場所くらいなんてことないだろ。」
そう言って「出発進行!」とお尻を叩いた。
「・・・・・・・・・・。」
アドネはゆっくりとコウを振り返り、ニコッと微笑む。
「ん?何?」
「あんた・・・・・、」
「うん?」
「殺すわよ?」
顔が髑髏に変わり、大きな鎌を振り上げる。
「ちょ、ちょっと!何怒ってんだよ!?」
「怒るに決まってるでしょ!人を乗り物みたいに扱って!」
「だってしょうがねえじゃん。お前が一番速く飛べるんだから。」
「しかもお尻を叩いたわね!」
「んな怒るなよ。ダナエなんかいっつも俺に叩かれてるぞ。」
「ああ!ダナエが怒る気持ちがよく分かる!」
「お前アレだな?」
「何!?」
「ダナエよりケツねえな。」
「はあ!?」
「でも胸はお前の方がデカそう・・・・・・ごびゅうッ!」
「ぶっ殺すわよ!」
鎌の柄で思いっきり殴り、「ほんとにエロいんだから」と怒った。
「いつかセクハラで訴えてやるからね!」
「ず・・・ずびばぜん・・・・。」
コウは曲がった鼻を押さえながら、「ツッコミが激しすぎる・・・」と怖がった。
「もうちょっとお淑やかに出来ないもんかね?」
「何?まだ言う気?」
「いえ、なんでも。」
「今度はこっちでやるわよ?」
そう言ってギラリと刃を光らせた。
「だから悪かったって。」
「ダナエを助けたら言いつけてやる。二人でボッコボコにしてやるから。」
「おお、怖・・・・、」
コウは肩を竦める。そして魔法を唱えて、曲がった鼻を治した。
「コウさん・・・・アドネは女の子なんですから、もうちょっとデリカシーを持たないと。」
「そうだよ。あんたは頼りになるんだか馬鹿なんだか分からないよ。」
「うるせえな。両方俺なんだよ。」
まったく反省する様子もなく、ドリューとマニャは肩を竦める。
アドネが「こんなバカはほっとけばいいのよ」と言った。
「それより黄泉の道の奥へ行かないと。飛ばすからちゃんとついて来てね。」
そう言ってアラハバキを見つめると、「御意」と目を光らせた。
アドネは猛スピードで飛んで行く。
レギオンたちが行く手を塞ぐが、「邪魔!」と薙ぎ払った。
「どいてないとこいつの餌食になるわよ。」
そう言って大きな鎌を振り回し、野菜でも刻むように敵を倒していく。
それを見たマニャは「すごい・・・」と感心した。
「私とはレベルが違う・・・・さすが死神だね。」
「まあね。こんなのタダの雑魚よ。」
アドネはリズミカルに鎌を振るう。鼻歌混じりに悪霊やゾンビを斬り裂いていった。
「アドネがいれば楽勝だね。」
マニャは満足そうに笑う。
するとコウが「こいつこう見えても歳食ってんだぜ。俺らの中で最年長なんだから」と茶化した。
「強いのは当たり前。だって年季が違うもん。なあアドネ?」
「あんた・・・・後で絶対にシバく!」
アドネの目に殺気が宿る。鎌を嵐のように振り回し、敵を細切れに切り裂いていった。
「危なッ!俺まで斬る気か!?」
「なら避ければ?」
「あのな・・・・俺たち仲間だろ?こんなのでいちいち怒んなよ。」
「はあああ?」
「他愛ない冗談じゃんか。コミュニケーションだよ。」
「・・・・・・・・。」
「だいたいお前はいっつもカッカし過ぎなんだよ。
そりゃ強いのは認めるけどさ、でもちょっと高飛車過ぎないか?」
「・・・・・・・・。」
「せっかく一緒に旅してんだ。もうちょっと気楽に行こうぜ。
でないとせっかく可愛い顔してるのにモテないぞ。」
コウはあっけらかんと言う。
アドネの殺気はどんどん増していき、ドリューが「コウさん・・・」と諌めた。
「もうそれ以上は・・・・、」
「なんだよ?ドリューはこいつの味方か?」
「そういうことじゃなくて、もうちょっと言い方を考えた方が・・・・。」
「私もそう思う。あんたは口が悪すぎだよ。」
「普通だろ、こんなもん。」
「それを普通と思ってる時点で口が悪いのさ。
あんた根っこは良い奴なんだ。ならもうちょっと相手の気持ちを考えてだね・・・、」
マニャがそう言いかけると、アドネはピタリと止まった。
「うお!急に止まんなよ。」
「・・・・・・・・。」
「んだよ?怖い顔して。そんなに怒ったのか?」
「・・・・・・・・。」
「なら謝るよ。はいごめんなさい。」
コウはペコッと頭を下げる。そして「これでいいだろ」と言った。
「早く先へ進んでくれ。秘薬を取ってダナエを助けないと。」
「・・・・・・・・。」
「おいアドネ。いつまでも拗ねてんなよ。ガキじゃないんだから。」
「・・・・・・いい。」
「はい?」
「・・・・もういい。」
「何が?」
「あんたなんかとやってらんない。後はお好きにどうぞ。」
アドネはそう言ってコスモリングに戻ってしまう。
「おいアドネ!」
コウは宙に投げ出され、奥へと吸い込まれそうになる。
アラハバキが咄嗟に抱え、「気をつけろ・・・」と目を光らせた。
「あいつ・・・何をあんなに怒ってんだよ?」
コウはしかめっ面で愚痴る。するとドリューが「怒って当たり前ですよ」と言った。
「あんな言い方されたら誰だって怒りますって。」
「それにグチグチ長いんだよね、あんたの悪口は。」
「口が悪いのは生まれつきでね。文句言われても困るんだよ。」
そう言ってプイッとそっぽを向く。
「ほら、それですよ。そうやっていつも言い訳する。」
「よくないよ、そういうのは。ちゃんと謝って仲直りしなよ。
でないとダナエを助けるのにも差し支える。」
「むうう・・・・それはまあ・・・そうだけど。」
コウはしぶしぶといった感じでコスモリングを取り出す。そして真ん中の宝石に向かって語り掛けた。
「アドネ、ごめん。ちょっと言い過ぎたよ。」
そう言って「頼むから出て来てくれ」と頼んだ。
「お前の力が必要なんだよ。俺が悪かったから機嫌直してくれ。」
何度も何度も謝り、「この通り」と頭を下げる。
しかしアドネは返事をせず、宝石の中に籠ったままだった。
「・・・・・おいアドネ!ちゃんと謝ってんだろ!」
何の返事もしないアドネに、コウは苛立つ。
すると「だからそれですよ」とドリューに言われた。
「そうやってすぐ怒るからいけないんです。」
「だって謝ってんじゃん。なんでうんともすんとも言わないんだよ?」
「そりゃさっきの今じゃ無理ですよ。もう少し時間を置いてから謝ったらどうです?」
「はあ・・・・女って難しいわ。」
「だからそういう問題じゃなくてですね・・・・、」
「もういいさドリュー。この子に何言ったって無駄さ。
根っからこういう性格なんだろうから。」
「ふん!俺は悪くないぞ。あんなのでヘソ曲げるアドネが悪いんだ。」
コウは腕を組み、しかめっ面になる。
「まだまだ子供だね。」
マニャは肩を竦め「まあいいさ」と笑った。
「とにかく先へ進もう。こっちの神様だけでも充分さね。」
アラハバキは「御意」と言い、奥へ向かって飛んで行った。
群がる悪霊やゾンビは、全てビームで消滅させる。
しかしそのビームを掻い潜る者もいて、コウが魔法を唱えて倒した。
「こいつら弱っちいな。なんなら俺一人でも行けそうだ。」
そう言って笑うと、「油断大敵さ」とマニャが注意した。
「まだ半分も来てないんだ。」
「あとどのくらい?」
「そうさね・・・・私が以前に来たのは、もう少し先までだった。
でも道はまだ続いてるはずだよ。」
「ふうん。ていうか奥まで行ってないのに、よく先のことが分かるな?」
「ここは元々地下水脈だったんだ。それを武神が改築して、黄泉へと繋げたのさ。」
「なるほど。じゃあさ、もしかしたら奥へ行くほど強い魔物が出て来るとか?」
「かもね。なんたって黄泉と繋がってるんだ。ゾンビや悪霊とは比べものにならない奴がいるかもね。」
「そっか。じゃあここからが本番ってことだな。」
コウは奥を見つめる。
湿った風は奥まで吹いていて、先へ進むにつれて不穏な空気が流れていた。
「だんだん嫌な気配を感じるようになってきた。やっぱり強い魔物が潜んでるんだな。」
表情を引き締め、「鉄の拳骨でブッ飛ばしてやる!」と気合を入れた。
「待ってろよダナエ。絶対に助けてやるからな。」
バシっと拳を叩き、目に闘志が宿る。
不穏な空気はますます強くなり、湿った風が気味悪く感じられた。

感傷の雨

  • 2016.12.28 Wednesday
  • 12:26

JUGEMテーマ:写真

 

冬は雨が多いですね。

寒くて雨。

どよんと沈んだ気持ちになります。

 

 

 

 

 

急に寒くなったり、暖かくなったり。

おかげで風邪を引いてしまいました。

 

 

 

 

 

風邪を引いても気づきにくい体質なんですが、これって体力が落ちてる証拠なんだそうです。

免疫がしっかりしていれば、体が風邪と戦うからすぐに異変に気づくんでしょうね。

やっぱ若い頃より体力が落ちてるんだなあと実感しました。

 

 

 

なんでも昔と同じようにはいかないです。

ていうか年取ると、考え方や好みまで変わりますよね。

もうビックリするくらいに。

昔は受け入れられなかったことも受け入れられるようになったり。

でも逆に受け入れられないことも出てきたり。

成長というよりか、変化が出てきます。

寒い雨の日、ちょっと感傷的になってしまいました。

ダナエの神話〜星になった神様〜のイラスト(7)

  • 2016.12.27 Tuesday
  • 14:55

JUGEMテーマ:イラスト

 

             ダナエ

ダナエの神話〜星になった神様〜 第八話 星屑の青年(1)

  • 2016.12.27 Tuesday
  • 14:52

JUGEMテーマ:自作小説

薄暗い地下室に、ロウソクの火が灯っている。
ぼんやりと壁を照らし、とても不気味な空気が流れていた。
どこからかかすかに水の音が聴こえ、それと同時に地鳴りも聴こえた。
「なんなのよここは・・・。」
ダナエは眉を寄せ、「ちょっとあんた!」と叫んだ。
「ここはどこ?」
ダナエは大きな岩に縛り付けられていた。
真っ黒な鎖で全身を縛られ、「これ取ってよ!」と怒る。
「ぬは!動かない方がいいがね。それは呪いの鎖だから。」
「なんですって?」
「動けば呪いが染み込むのだよ。」
ウルズは肩を竦め「ぬはははは!」と笑う。
「あんた・・・・私をさらってどうするつもり?」
「チミは人質だがね。」
「人質?」
「チミの友達は武神の秘薬を取りに行くんだろう?だったらチミと秘薬を交換してもらうのさ。」
「なるほど・・・・だから私をさらったのね。」
ダナエは悔しそうに唇を噛み、「絶対にタダじゃおかないわ」と睨んだ。
「こんな事したって、きっと後悔するわよ!」
「ぬは!何をどう後悔するんだね?」
「あんたをブッ飛ばしてやるって言ってるのよ!」
「出来もしないことを・・・・。今のチミには武器もないし、仲間もいない。
恐れるに足りんがね。」
「そうかしら?私にはこれがあるけど。」
ダナエはニコリと笑う。
「火の精霊!雷の精霊!この邪悪な細菌の神を倒して!」
そう叫んで魔法を使おうとすると、全身に痛みが走った。
鎖から毒液が染み出て、ダナエの肌を蝕む。
「きゃああああ!」
「馬鹿な子だねえ。言っただろう?それは呪いの鎖だって。」
「うう・・・・。」
「下手なことすると、全身がボロボロになって腐っちゃうがね。」
ダナエはぐったりと項垂れ、「くそ〜・・・」と悔しがった。
「油断した・・・・。まさかお風呂に睡眠薬が入ってたなんて・・・。」
「しかも宿の主人に化けた僕を、疑いもしなかった。」
「そんなの分かるわけないじゃない・・・・。どこからどう見ても宿の主人だったんだから・・・・。」
「ぬはははは!すごいだろう?僕が開発したこの薬のおかげだよ。」
ウルズはポケットに手を入れ、ガラスの小瓶を取り出した。
そこには青い液体が入っていて、「これを飲めば姿を変えられるんだがね」と笑った。
「誰でも自分の望む者に姿を変えられる。ただし効果は数分で切れるがね。」
「相変わらずそんな研究ばかりしてるのね・・・・。その薬を作る為に、いったいどれだけ大勢の人を犠牲にしたの?」
「さあねえ。そんなのいちいち数えてないがね。」
ウルズは嫌らしい笑みを浮かべ、「でもまだ完璧じゃない」と続けた。
「たった数分しか変われないんじゃ、大した意味はないがね。
でも武神の秘薬を手に入れれば、研究が進むかもしれない。
なんたってあの武神の残した薬だからねえ・・・・きっともっと良い薬が出来るがね。」
そう言って「ぬは!ぬは!ぬはははははは!」と笑った。
「しかし武神の祠は危険だがね。だからチミを利用するわけだ。
あのコウとかいう妖精なら、どうにかして秘薬を取って来るはず。
そしてチミを餌におびき出し、秘薬を頂いたら全員抹殺だがね!」
青い薬を揺らしながら、「それまで大人しくしていることだ」と言った。
「下手な抵抗は死を早めるだけだがね。」
「あんた・・・・本当にどうしようもない奴ね。」
「よく言われるよ。でもそんなのどうでもいいがね。
僕は細菌の神ウルズ。研究だけが僕の存在意義なのだよ。」
そう言って、コツコツと足音を響かせながら出て行った。
「待って!」
「何かね?」
「あのさ・・・・これもうちょっとどうにかならない?」
「ん?」
「だってこのままじゃ恥ずかしいから。」
ダナエの身体には布一枚だけが巻かれていた。しかも汚れだらけのボロボロだ。
「これでも一応女の子なのよね。だからもうちょっとマシな物はないの?」
「人質のクセに贅沢を言うのかね?」
「でもこのままだったら、恥ずかしくて仕方ないわ。
もう死んだ方がマシって思って、散々動きまわって死んじゃうかも。」
そう言って呪いの鎖を見つめる。
「もし私が死んだら、あんただって困るでしょ?」
「むう・・・それはまあ・・・確かに。」
「だったらもう少しマシな物を着せてよ。」
ダナエは真剣な瞳で見つめ、「お願い」と言う。
するとウルズは「はあ・・・・」とため息をついた。
「仕方ないがね・・・・余った白衣をあげよう。」
「ほんとに?ありがとう!」
ダナエはニコッと笑顔になる。
ウルズは白衣を持って来て、「ほら」と差し出した。
「ほらって言われても、縛られてるから動けないわ。」
「なら着せてあげるがね。」
「イヤ、それはダメ。」
「なんで?」
「だって恥ずかしいから。見られたくないもん。」
「むううう・・・・・心配しなくても、僕はムチムチナイスバディの美人にしか興味ないがね。」
「そういうことじゃなくて、私が恥ずかしいから。
だからお願い!ちょっとだけ鎖をほどいて。」
「それは無理だがね。」
「ほんのちょっとでいいの。絶対に暴れたりしないから。」
「信用出来ないがね。」
「絶対!絶対に約束する!」
「しつこいねチミも。無理なもんは無理だがね。」
ウルズはイライラし始める。眉間に皺を寄せ、「わがまま言うならこれはあげない」と白衣を引っ込めた。
「そんな意地悪なこと言わないで。だって今の私には武器もないし、仲間もいないのよ?」
「でも魔法があるがね。」
「魔法だけじゃあんたに勝てない。だって今のウルズ・・・・すっごく強いから。」
「そ・・・そうかね?」
「そうよ。昼間戦った時、あんまりパワーアップしてるからビックリしちゃった。」
「それはまあ・・・・研究に研究を重ねたからねえ。パワーアップして当然だよチミ。」
ウルズは照れながら眼鏡を直す。
「やっぱりあんたって天才なのね。さすが細菌の神様!」
「ま、まあ・・・・大したことじゃないがね。他の奴らがボンクラなだけで。」
「きっと頭の出来が違うのね。私・・・・ウルズみたいな賢い神様は初めて会ったもん。」
「・・・・・ほんとに?」
「ほんとほんと!月や地球にいるどんな神様よりも賢いわ。ラシルでも一番賢いと思う。」
「いやいや・・・それはさすがに褒め過ぎだがね。」
ウルズは嬉しそうに手を振る。クイクイっと眼鏡を直し、「賢いのは認めるがね」と肩を竦めた。
「ほら、僕は勉学が命だから。」
「うんうん。」
「それに研究に命を懸けてるし。」
「うんうん。」
「研究の道は茨の道だよ。でも僕は諦めないがね。
この頭脳と情熱がある限り、研究の道はどこまでも続くんだがね!」
ウルズは熱く語る。拳を握り、遠い目をしながら天井を見上げた。
ダナエは「カッコいい!」と褒めちぎり、「銀河一の天才だわ」と頷いた。
「天才ウルズ!」
「いやいや、それほどでも・・・・、」
「今世紀最高の頭脳!」
「まあまあ・・・・否定はしないがね。」
「きっと歴史に名を残すわ。」
「まあ・・・・それも否定しないがね。でもそう褒められるとちょっと歯がゆいがね。」
ウルズの顔はゆるゆるで、ニヤニヤ笑いが止まらない。
「ねえウルズ。私はあなたのことを尊敬してるわ。」
「そ・・・・尊敬?」
「うん。この世で一番尊敬してる。」
「そ・・・そんな風に言われたのは初めてだがね。」
「だから・・・・私を信じて。鎖をほどいても絶対に暴れたりしないから。」
「む、むうう・・・・それとこれとはまた別で・・・・、」
「お願い・・・・天才ウルズ。」
ダナエは瞳を潤ませながら見つめる。
ウルズは「ううん!」と咳払いをして、「じゃあ・・・・ちょっとだけだよ」と言った。
そしてダナエを縛る鎖を、器用な手つきで解いていった。
「さあ、これでいいかね?」
「うん、ありがとう。」
ダナエはニコリと微笑む。
「そしてさよなら。」
「ん?」
サッと拳を構え、「ギャラクシイマグナムパ〜ンチ!」と右アッパーを放つ。
「ふぃべらあッ!」
「ついでにウルトラサンダーデンジャラスキ〜ック!」
「ごぶにゅッ!」
強烈なアッパーと強烈な飛び蹴りが炸裂し、ウルズの顔面は酷いことになる。
「ぶっはあああああ・・・・、」
床に倒れ、噴水のように鼻血を吹き出し、もんどり打って転げながらズボンのお尻が破れた。
ついでに壁に頭を打ち、「ぬおおおおおお・・・」とたんこぶを押さえた。
ダナエはサッと白衣を来て、地下室から逃げ出す。
しかしふと足を止め、ウルズの近くに駆け寄った。
「・・・・・・。」
じっと一点を見つめ、手を伸ばして何かを拾う。
「ぐおおおお・・・・、」
ウルズはまだ鼻血を吹き出していて、「おのれえ〜・・・・」と顔を歪める。
ダナエはすぐに逃げ出し、一瞬だけ振り返った。
「バ〜カ。」
「・・・・・・ッ!」
あかんべえをしながらそう言って、地下室の階段を駆け上がっていく。
「く・・・くっそ〜・・・・この僕を騙したなあ〜・・・・。」
ウルズは怒りに燃える。
ブフー!っと鼻血を吹き出しながら、「マッスルモード!」と叫んだ。
全身が鋼鉄のムキムキになり、ゴリラも真っ青のマッチョマンに変わる。
「ぬははははは!この僕を怒らせたこと・・・・後悔させてやる!」
グルグルと拳を回しながら、「逃がすものかね〜!」と追いかけた。
階段を駆け上がり、廃墟になった館に出る。
「どこだあ〜?」
薄暗い廊下を見渡し、遠くにダナエの影を見つける。
「逃っがさ〜ん!」
ウルズは全速力で追いかける。
床がギシギシと鳴り、重さに耐え切れずに壊れてしまった。
「ぐほ!」
床に穴が空き、足が取られる。
「ぬうう・・・・ボロい館だがね。まあ五百年以上も前の物だから仕方ないが。」
足を抜き、「おお痛・・・・」とさする。
「僕は何としても武神の秘薬を手に入れる。その為にはチミを逃がすわけにはいかんのだがね!」
そう叫び、ヒクヒクと耳を動かした。
「マッスルハイパーイヤー発動!」
耳が巨大化し、どんなに小さな音で聴き分けられるようになる。
「・・・・・そっちか!」
かすかに足音を感じ、「ぬははははは!」とダナエを追いかける。
「どうやったって逃げれっこないがね!」
ウルズは壁をぶっ壊し、ダナエの足音のする方へ迫る。
そして館の外まで出た時、「どこかな〜?」と辺りを見渡した。
空は夜に染まり、星の明かりがほんのりと照らしている。
館の周りは森になっていて、ホ〜ホ〜とフクロウの声が聴こえた。
森の中は真っ暗で、目を凝らしても何も見えない。
「隠れたって無駄だがね。僕からは逃げられないのだよ。」
そう言って「ギャラクティカウルトラア〜イ!」と目を見開いた。
すると目玉が巨大化し、夜の闇でも見えるようになった。
ウルズは注意深く森の中を見渡す。
巨大化した目は、まるで暗視スコープのように夜の闇を捉えた。
「どこかな〜?」
くまなく見渡し、ダナエを捜す。
しかしどこを捜しても見つからす、フクロウが枝の上で鳴いているだけだった。
「ぬううう・・・・どこへ行ったんだがね?」
そう言えばダナエは空を飛べることを思い出し、「まさか!」と夜空を見上げた。
しかしどこにも見当たらず、「くそ!逃がした!」と悔しがった。
「なんてこった!この僕がこんな失態を犯すなんて!」
ギリギリと歯を食いしばり、地団駄を踏む。
「こうなったら作戦変更だがね。祠で待ち伏せして、奴らが秘薬を取った所で横取りしてやる!」
ウルズは館に戻り、地下室に駆け下りていく。
そしてダナエを縛っていた岩を掴み、「ぬううりゃあああ!」と持ち上げた。
「お・・・重いがね・・・・。」
よろよろとよろめきながら、「そおれ!」と投げ飛ばす。
岩は床を砕き、大きな音を立ててめり込んだ。
「明日は筋肉痛だがね・・・・・。」
ウルズは岩のあった場所を見つめ、「ぬははははは!」と笑う。
そこには隠し通路があって、下の方まで梯子が伸びていた。
「ここを通れば祠の最深部に出られる。あの場所へ行くのはちと危険だが、この際仕方ないがね。」
梯子に足を掛け、ゆっくりと降りていく。
その先は地下水が流れる水脈になっていて、祠のある裏山まで続いていた。
「さあて。それじゃ行くがね!」
ウルズは水脈に飛び込み、勢いよく流されていく。
神様は呼吸をしなくても平気なので、水の中でも自由に動ける。
《ぬはははは!見てろよチミたち!最後に笑うのはこの僕だがね!》
高らかに笑いながら、犬かきで水脈を泳いでいった。
・・・・・その頃、館の外では一羽のフクロウが鳴いていた。
月を見上げながら、ホ〜ホ〜と声を上げる。
しかし次の瞬間、フクロウはボワン!と弾けた。
もくもくと煙が上がり、その中からダナエが現れる。
「よかった・・・・上手くいったわ。」
ホッと息をつき、手に持った瓶を見つめる。
「すごいわねこの薬。何でも姿を変えられるなんて。」
ダナエが持っている瓶は、ウルズの作ったあの薬だった。
地下室から逃げる時、彼の傍に落ちていたのを拾ったのだ。
「この薬、ちゃんと使えば色んな役に立つわ。」
ダナエは思っていた。こんなにすごい薬を作れるのに、どうしてそれを悪いことに使うんだろうと。
「もったいないなあ。せっかく頭が良いのに、どうして悪さばっかり・・・・。」
空になった瓶を見つめながら「ウルズ・・・・あなたが賢いのは本当のことよ」と呟いた。
「でもその賢さを間違ったことに使ってる。だから・・・もう一度戦う。
今のままほっといたら、またたくさんの人が研究の犠牲になるから。」
枝から飛び降り、廃墟の館を見上げる。
「なんだか怪しい館よね。」
廃墟になった館からは、不穏な空気が流れていた。
ダナエは空を見上げ、「どうしよう?」と呟いた。
「みんなの所に戻るべきか?それともこの館を調べるべきか?」
きっとみんなは心配している。しかしどうしてもこの館が気になって仕方なかった。
口元に手を当て、「う〜ん」と悩む。空を見上げ、館を見上げ、眉を寄せながら悩んだ。
「迷うけど、やっぱり館を調べてみよう。」
そう言って廃墟の館を見渡した。
「あのウルズが隠れ家に選ぶくらいだもんね。きっと何かあるに決まってるわ。」
足音を殺しながら、ゆっくりと館に近づく。
ドアから顔を覗かせ、注意深く中を見渡した。
ウルズが壁を壊したせいで、星明かりが射し込んでいる。そのおかげでぼんやりと館の中が浮かび上がった。
「中はボロボロね。穴の空いた床に、壊れたベッド。
埃まみれのシャンデリアに、倒れたタンス。もう長いこと誰も住んでないのね。」
館はとても立派で、よほどの大金持ちが住んでいたのだろうと思った。
「せっかく立派な館なのに、どうして誰もいなくなったんだろう?
もしかして・・・借金で取り上げられたとか?」
ダレスの顔を思い浮かべ「まさかね」と笑う。
「まだウルズはいる。油断しないようにしなきゃ。」
そろりそろりと足を踏み入れ、注意深く辺りを見渡す。
白衣のボタンを止めながら、床の穴に落ちないように歩いた。
「怪しいのは地下室ね。あそこを調べたいけど、でもきっとウルズがいるわ。」
ダナエは悩む。
ウルズは強くなっていて、丸腰では勝てない。
だから武器になるような物がないか探していると、壁に剣と甲冑が飾られているのに気づいた。
「あの剣・・・まだ使えそうね。」
壁に掛けられた剣を掴み、ピュンと振ってみる。
「私が使うにはちょっと大きいかな。でも何もないよりかはマシだわ。」
そう言って、甲冑が持っていた盾も手に取る。
「剣と盾。まるで騎士みたいね。」
小さく笑いながら、二つを構えて地下室を目指した。
足音を殺し、息使いも殺し、極力気配を消す。
ピンと耳を立て、廊下の先の音に注意した。
「・・・・水の音が聴こえる。まるで川が流れているような・・・。」
廊下の先からかすかに水の音が響いている。
「この音、さっきも聴こえてたわ。でも近くに川なんてないし、いったいどうして?」
不思議に思いながら、さらに足を進める。
そして地下室の階段まで来た時、ゴクリと息を飲んだ。
「・・・・・誰の気配もしない。」
地下へ降りる階段の先からは、人の気配を感じなかった。
「もしかして、ウルズはいないのかな?」
そう呟き、「なら今がチャンスだわ」と降りて行った。
「あいつのいない間に、くまなく調べてやる。きっと何かを隠してるに違いない。」
剣と盾を構え、一歩一歩階段を下りて行く。
そして地下室まで来た時、「あ!」と声を上げた。
「岩が床にめり込んでる・・・。」
ダナエを縛っていた岩が、半分以上も床にめり込んでいた。
不思議に思いながら近づくと、大きな水の音が聴こえた。
「何?」
慌てて振り返ると、床から噴水のように水が噴き出した。
地下室は水浸しになり、ダナエもびしょびしょに濡れてしまった。
「ちょっと!何なのこれ?」
ブルブルと髪を振り、水が噴き出した穴を見る。
「何この穴?」
さっきまで岩のあった場所に、大きな穴が空いている。
しかも下には梯子が伸びていて、その先から水の音が響いていた。
「ああ、なるほど・・・・そういうことね。」
ダナエはニコリと頷く。
「あの岩でここを隠してたのね。ということは、これは秘密の通路ってことだわ。」
穴を覗き込み、「ウルズはきっとこの先に・・・」と息を飲んだ。
「きっと誰にも知られたくない秘密があるんだわ。その秘密、私が暴いてやる!」
ダナエは梯子に足を掛け、ゆっくりと降りていく。
「・・・・盾が邪魔ね。もったいないけど置いて行こう。」
そう言って盾を捨て、梯子の先に向かう。
するとまた水が噴き出してきて、天井まで吹き飛ばされた。
「きゃあああああ!」
天井にぶつかり、その後は岩の上に落ちて、思い切りお尻を打った。
「痛った〜い・・・・何なのよもう!」
お尻をさすりながら立ち上がると、ふと目の前に殺気を感じた。
剣を掴み、慌てて飛び退く。
するとそこには巨大なアメーバがいた。
「な・・・何?魔物!?」
巨大なアメーバはウネウネと動いて、ダナエに襲いかかって来る。
「魔物なんかに構ってられないのよ!邪魔しないで!」
そう言って剣を振るが、アメーバには効かない。
ヌルっと滑って、剣を絡めとられてしまった。
「ああ!」
「・・・・・・・・。」
アメーバは剣を飲み込み、体内で溶かしてしまう。
そして次の瞬間、「ぬはははは!」と笑いだした。
「この笑い声・・・・ウルズ!?」
「無断でここを通る者は許さんがね!」
アメーバはウネウネと動き、ダンゴムシのような姿に変わっていく。
「ウルズ様の邪魔をする者は許さあああああん!」
そう言ってクルっと丸まり、体当たりをしてきた。
ダナエはサッとかわし、階段の傍まで逃げる。
ダンゴムシは壁に激突し、ベチョっと潰れた。
そして壁の一部を吸い取って、体内で溶かしてしまった。
「ウルズ様の邪魔をする者は死あるのみ!」
「あんた・・・・ウルズの仲間?」
「ウルズ様は創造主だがね!」
「創造主?」
「僕はウルズ様の忠実な僕!何人たりとも創造主の邪魔はさせ〜ん!」
そう言ってまた体当たりをかましてくる。
ダナエは高く飛び上がり、クルっと一回転する。
そしてダンゴムシの背後に回ると、「なるほどね」と頷いた。
「あんたはウルズが生み出した魔物ね?」
「魔物ではない。キングアメーバだ!」
「キングアメーバ?」
「ウルズ様の開発した細菌の力により、巨大なアメーバとなったんだがね!
我こそはアメーバの王!どうだ?すごいだろう!」
「全然。」
「ぬはッ!」
「アメーバの王なんて言われても、ただの大きなアメーバってだけじゃない。」
「そんなことない!普通のアメーバが喋るかね?こんな風に姿を変えられるかね?」
そう言ってウネウネと動き、今度はダナエの姿に変わった。
「きゃあ!気持ち悪い!私に化けないでよ!」
「すごいだろう?羨ましいだろう?」
「だからあ・・・・全然羨ましくなんかないってば!」
「ぬははは!チミもすぐに僕の体内で溶かしてやる。むっほおお!」
アメーバはまたダンゴムシに変わり、体当たりをかます。
ダナエはサッと盾を拾い、その攻撃を防いだ。
しかし盾はダンゴムシに吸収され、また溶かされてしまう。
「ああ!また・・・・、」
「チミい・・・・言っておくがね、僕は吸収すればするほど強くなるのだよ。」
「そ・・・・そうなの?」
「下手な抵抗したって無駄なのだよ。大人しく僕の養分になりなさい。」
「誰があんたの養分になんかなるか!」
ダナエは頭上に手をクロスさせ、「火の精霊!雷の精霊!」と叫んだ。
「この気持ちの悪いアメーバを焼き払って!」
そう叫ぶと、右手にトカゲの精霊、左手にウナギの精霊が集まった。
二つの精霊が混ざり合い、雷をまとう巨大なトカゲに変わる。
「魔法か!そうはさせんがね!」
アメーバはまた体当たりをしてくる。
ダナエはそれを迎え撃つように魔法を放った。
雷をまとった炎のトカゲが、キングアメーバに突き刺さる。
そして稲妻を放ちながら、プラズマの火球へと変わった。
「ぬっぎゃあああああああ!」
キングアメーバは叫びをあげる。プラズマのせいで身体の半分が蒸発し、その場に崩れ落ちた。
「お・・・お・・・・おのれええええ・・・・、」
「やった!魔法なら効く!」
「ぬうう・・・・物理攻撃しか吸収できんことがバレてしまったがね・・・。」
「魔法が効くなら戦えるわ!アメーバウルズ!覚悟しろ!」
「それはこっちのセリフだがね!僕の一部にしてやる!」
ダナエは魔法を唱え、キングアメーバは辺りにある物を吸収して巨大化する。
激しい戦いが起こり、地下室は水と炎でボロボロに壊れていった。
《こんな奴に手こずってる場合じゃない!早くウルズを追いかけないと!》
ダナエは白衣を脱ぎ、背中から羽を伸ばす。
縦横無尽に宙を駆け、魔法を放ち続けた。

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