ダナエの神話〜星になった神様〜のイラスト(23)

  • 2017.02.28 Tuesday
  • 15:30

JUGEMテーマ:イラスト

 

            マナとコウ

ダナエの神話〜星になった神様〜 第七十一話 戦火(2)

  • 2017.02.28 Tuesday
  • 15:27

JUGEMテーマ:自作小説

「この声・・・・・嘘でしょ。」
キーマは後ろを振り返る。
そこには傷一つ負っていないダレスが立っていた。
「そんな・・・・どうして?あの砲撃を受けて無事だったっていうの!?」
地球の悪魔さえ葬る箱舟の砲撃。
そんな攻撃を受けて、どうして無事なのか?
キーマは「あんた・・・・何をしたの?」と睨んだ。
「たかが獣人があの砲撃に耐えられるわけがない。いったい何をしたの!?」
キっと睨み付けると、ダレスは「これさ」と何かを見せた。
「それは・・・・・、」
「そう、神殺しの神器だ。」
ダレスの手には、真っ黒に染まった斧が握られていた。
妖しく黒光りする刃、夜のように深い闇色の柄。
どんな神でも悪魔でも倒す力を持った、恐るべき神器の一つ。
それが彼の手にあった。
「どうしてあんたがそんな物を・・・・・それは邪神の武器でしょ?」
「貸してもらったのさ。いざという時の為にな。」
ダレスは斧を振りかざし、地面を切り裂く。
すると黒い砂埃が上がって、結界のように彼を守った。
「この斧には敵の攻撃を吸収する力がある。
こうやって大地を切り裂き、黒い砂埃を上げてな。」
「・・・・知ってるわ。その武器のせいで、私の魔法はほとんど防がれてしまったんだから。」
キーマはゴクリと息を飲む。
「だけどその神器は、神や悪魔にしか通用しない。
だからいくら力を吸い込んでも、私には効かないわよ?」
「ははは。」
「何がおかしいの?」
「いやあ・・・・かなりビビってるなと思ってよ。
さっきまでは余裕の笑みだったのに、今じゃ青ざめてるぜ。」
「そんなこと・・・・、」
「ああそれと、さっきから言いたかったんだがよ・・・・、」
「何?」
「今のあんた、真っ裸だぜ。服くらい着たらどうだ?」
そう言われて、キーマは「あ!」と気づいた。
「服を再生させるのを忘れてたわ。」
虫の精霊を呼び出し、糸を紡がせる。
するとその瞬間、轟音と共に大地が揺れた。
「何?地震!?」
大地はグラグラと揺れて、地中から何かを叩きつける音が響く。
「・・・・まさか!」
キーマはダレスのいた場所を振り返る。
そこには穴が空いていて、中から大きな音が響いていた。
「あいつ・・・・斧で穴を!」
キーマは穴を覗き込む。
また大地が揺れて、穴の中から轟音が響いた。
「まずい!地中へ潜って古代の秘薬を取り出すつもりだわ!」
キーマは慌てて後を追おうとする。
しかしその時、後ろからデーモンが襲いかかって来た。
「なッ・・・・まだいたの!?」
デーモンはキーマを羽交い絞めにして、大きな翼で包み込む。
そして口を開け、全身を青く光らせた。
「自爆する気ね!」
キーマはすぐに結界魔法を唱える。
彼女の身体から電気が走り、凄まじい衝撃波が放たれた。
デーモンは吹き飛ばされ、手足と翼を失った。
しかしまだ生きている。
殺気のこもった目で睨みながら、「死ネ!」と叫んだ。
デーモンの体内から青い光が溢れ、紺色の炎が噴き出す。
その炎の中には死者の顔が浮かんでいて、グルグルと渦巻きながら辺りを燃やし尽くした。
「・・・・・・ッ!」
激しい炎にキーマは顔をしかめる。
しかし結界魔法のおかげで炎は防がれた。
稲妻の嵐がキーマを包み、デーモンの自爆から身を守る。
「・・・・・・・・。」
紺色の炎は消え去り、デーモンは消滅。
キーマは「まったく・・・」と息をついた。
「これだから地球の悪魔は嫌なのよ。最後は自分の命まで武器にするんだから。」
長い髪をなびかせながら、「もう他にいないでしょうね?」と辺りを睨む。
するとその時、背後から誰かが掴みかかってきた。
「まだいたのね!」
後ろを振り向き、重力の魔法をお見舞いする。
空間が歪むほどの超重力が、キーマに襲いかかって来た敵を押し潰した。
地面はへこみ、敵はピクリとも動かなくなる。
「ふん!自爆に不意打ち。ほんとに地球の悪魔は嫌になるわ。」
そう言って髪をかき上げる。
しかし異変に気づき、「あれ?」と首を捻った。
「これ・・・・悪魔じゃない。」
へこんだ地面の中に横たわる敵。
てっきりデーモンだと思っていたのに、それはまったく違う者だった。
「これは・・・・・ダレス!」
へこんだ地面の中で、ダレスがめり込んでいる。
しかしすぐに立ち上がり、「おお痛え・・・」と首を回した。
「やっぱり邪神が一目置くだけある。すげえ威力だ。」
「あ、あんた・・・・まさか・・・・、」
「ああ、頂いたぜ。古代の秘薬とやらをな。」
ダレスはニヤリと笑う。
「地中の中に怪しげな液体が入ったビンがあってよ。
それを飲んだ途端に力が湧いてきた。」
グッと拳を握り、「見た目は変化ねえんだがなあ」と言う。
「だが身体の中から溢れんばかりのパワーが漲ってくる。
これなら並大抵の奴には負けねえだろうぜ。」
「・・・・・・・・・。」
キーマはゆっくりと後ずさる。
青い顔をしながら「あんた馬鹿よ」と言った。
「あんな物を飲んで、無事でいられると思ってるの?」
「何がだ?」
「あの薬を飲めば、確かに強くなれるわ。
でもその代わり大きく寿命を減らすのよ。
今は力が漲ってるでしょうけど、近いうちに身体の中から腐ってくるわ。」
「だろうな。」
「だろうなって・・・・知ってて飲んだの?」
「何かしらの副作用はあるだろうと思ってたさ。邪神は教えてくれなかったがな。」
「だったらどうして・・・・、」
「言っただろ、強くなる為だ。」
手を掲げ、握りしめた斧を見せつける。
「こいつだって何のリスクも無しに使えねえ。
借りたはいいが、さっきから身体中が痛くて仕方ねえ。
これは所有者以外が持つと、それだけで魂を削られるらしいからな。」
「だからどうしてそんな危険を冒すのよ。
欲深いにもほどがあるんじゃない?」
キーマは理解出来ないという風に首を振る。
「カプネから聞いてるわ。あんたは元々そこまで悪い奴じゃなかったって。
むしろ邪神を憎んでいて、あのお嬢さんたちに味方していたはず。
それなのにどうして・・・・、」
「分からねえ。」
「なんですって?」
「自分でもよく分からねえ。
ただよ、あのまま嬢ちゃんたちと一緒にいたら、俺は腑抜けになっちまう。
根っから良い奴に成り下がって、二度と金貸しなんて商売は出来なくなる。
そう思っただけさ。」
「いいじゃないそれで。」
「それを良しとするかどうかは俺が決めることだ。」
ダレスは飛び上がり、斧を振りかざす。
そしてキーマの結界を一刀両断した。
「ぐッ・・・・なんて力!」
デーモンの自爆さえ防いだ結界が、あっさりと破られてしまう。
神殺しの神器が、そして古代の秘薬が、ダレスに超人的な力を与えていた。
「いいわ・・・・そっちがその気なら本気でやるまで。覚悟しなさい!」
キーマは目を赤く光らせる。
手を広げ、右手に引力、左手に斥力を発生させた。
「異なる力の渦で、バラバラに引き裂かれるがいいわ。」
両手にたまった二つの力。
それをダレスに解き放つと、空間が歪み始めた。
引っ張る力と、突き放す力。
二つの力に挟まれて、ダレスは身動きが取れなくなる。
「・・・・・・・・・。」
「我慢してると本当に死ぬわよ?降参したらどう?」
「・・・・・・・・・。」
「言っておくけど、その神器にも弱点はあるわ。
それは神と悪魔以外には、真の力を発揮出来ないってことよ。
私は神でも悪魔でもない、ただの魔女。
いくらその神器を使おうが、完全に私の魔法を無力化することは出来ないわよ。」
キーマの言うとおり、黒い斧は二つの力を吸収仕切れずにいた。
ある程度は力を吸い取っているものの、完全に無効化することは出来ない。
「さっき箱舟の砲撃を吸収したでしょ?だったらこれ以上はもう無理よ。
これ以上意地張ってると、バラバラになって時空の彼方に消えることになるわ。」
引力と斥力。
相反する二つの力は、ダレスの身体を歪めていく。
そしてとうとう空間に穴が空き、亜空間へと繋がってしまった。
「これが最後の忠告。もし亜空間へ飛ばされたら、私でも助けることは出来ないわ。」
そう言ってゆっくりと手を差し伸べる。
「あなたはお嬢さんたちの仲間だったんでしょ?
だったらまだ良心が残ってるはず。
邪神なんかと手を組まなくても、あなたほどの才能なら自分の夢を叶えられるはずよ。
この星で一番の商人になるって夢を。」
キーマは優しく微笑む。
かつてダナエの仲間だったダレスを、これ以上痛めつけたくなかった。
しかしそんな彼女の優しさを嘲笑うように、ダレスは首を振った。
「お願い、もう降参して。」
「・・・・・・断る。」
「これは脅しじゃないのよ。本当に亜空間へ飛ばされることになる。
死ぬだけじゃすまないわ。あなたの魂は、行き場のないまま永遠に彷徨うことになるの。」
そう言って「さあ」と手を伸ばした。
しかしダレスは頷かない。
「誰が負けを認めるか」と言って、強引に斧を振り上げた。
「自分の行く道は自分で決める!誰の指図も受けねえ!」
ありったけの力を込めて、斧を振り回す。
すると空間の歪みは断絶されて、亜空間への道は閉ざされた。
「あんた無茶し過ぎよ!そんな力を出したら、余計に寿命を縮めて・・・、」
「あいにくだが、何の考えもなしにあの薬を飲んだわけじゃねえ。」
ダレスは知っていた。
邪神がやすやすと古代の秘薬の在り処を教えるはずがないと。
《ここでくたばるようなら、ただの捨て駒になる。
邪神は俺を試してるんだ。この先も手を組むに値するかどうかを。》
漲る力を込めて、さらに斧を振り回す。
呪われた神器は、最強の魔女の魔法さえ切り裂いていった。
引力と斥力。
二つの力は神殺しの神器の前に敗れ去った。
「そんな・・・・たかが獣人がここまでの力を・・・・、」
キーマは驚きを隠せない。
いくら神器を持とうが、いくら古代の秘薬を口にしようが、獣人では限界がある。
にも関わらず、ダレスはやすやすとその限界を超えてしまった。
《この男・・・・いつ死んでもいいって覚悟なんだわ。
でもそれと同時に、何が何でも生き延びようとしている。
一見矛盾しているように見えるけど、でもそれがこの男に力を与えているんだわ。》
力を左右するのは、体力や魔力だけではない。
何が何でも目的を成し遂げる。
そういった強い信念と、それを支える精神力。
この二つこそが、土壇場で底力を引き出す。
ダレスの恐ろしいところは、並外れた精神力にある。
大した力もない獣人に、邪神が一目置いているのはそれが理由だった。
呪われた斧を振り回し、キーマの魔法を完全に消し去るダレス。
しかしそれと同時に、体内に漲っていた力が枯れ始めた。
今まで大きな力を発揮していた反動が、一気に襲いかかる。
「ごあッ・・・・・、」
膝をつき、ドロリとした血を吐く。
それを見たキーマは「もう腐敗が始まってるわ」と言った。
「あんたの内臓は腐り始めてる。薬の副作用でね。」
「んなこたあ分かってる・・・・・。だがまだくたばらねえ。
こんな場所で・・・・こんな魔女相手に死んでたまるか・・・・。」
「でももう限界じゃない。ほら、皮膚まで腐敗が進んでるわ。」
キーマはダレスの顔を指さす。
体毛に覆われた狼の顔が、げっそりと痩せていく。
毛は抜け落ち、爛れた皮膚が露わになった。
「あの薬は呪術で生み出したもの。だから回復魔法でも治らないわ。
残念だけど・・・・あなたの命はここまでよ。」
そう言って傍に行き、「可哀想に・・・」と見つめた。
「邪神に利用されて、最後は腐って死ぬなんて・・・・・。下手すればレイスになるわよ。」
「レイス・・・?」
「醜いアンデッドよ。恐ろしく不幸な死に方をすると、そうなることがあるの。」
「・・・・そうか。俺は化け物になっちまうわけだな。」
ダレスはニヤリと笑いながら、また血を吐いた。
しかしその表情はまだ死んでいない。
膝に手をつき、どうにか立ち上がる。
「俺はよ・・・・やると決めたらやるんだ・・・・。
薬の副作用ごときで死にやしねえ・・・・。」
「まだ強がるの?」
「強がりじゃねえさ。それよりよお・・・・お前は後悔するぜ。」
「何を?」
「俺にトドメを刺さなかったことだ・・・・。
せっかくのチャンスなのに、みすみすそれを逃すなんざ・・・。
馬鹿としか言いようがねえな。」
口から血が溢れ、目玉まで腐り始める。
しかしダレスは笑っていた。
濁った眼でキーマを睨みながら「お前の言う通り、俺は化け物になる」と言った。
「元々は地球の人間だった・・・・それが色々あって、今じゃ狼男だ。
だが・・・・もうそれも終わりだ・・・・。
今から・・・もっと恐ろしい化け物に変わる・・・・。」
「化け物って・・・・あんたまた何かやるつもり?」
キーマは呆れたように首を振る。
「今なら獣人のまま死ねるのに、化け物に生まれ変わって生き延びようっていうの?」
「死ぬよりマシだ・・・・。」
そう言って「げえおおおおお・・・」とえづき、腐った内臓を吐き出した。
悪臭が漂い、キーマは顔をしかめる。
「見てられないわ・・・・。」
あまりに惨い光景・・・・あまりに惨い死に方・・・・。
下手をすれば本当にレイスになってしまう。
キーマは「いいわ、トドメを刺してあげる」と言った。
「このままじゃ死ぬより酷いことになる。だから楽にしてあげるわ。」
キーマは合掌のように手を合わせる。
するとほんのりと紫に光って、その手を前に突き出した。
そして合わせた手を上下に動かしながら離すと、淡い光が放たれた。
その光は空間を切り裂きながら、ダレスに向かっていく。
・・・・・次の瞬間、ダレスは真っ二つに切り裂かれた。
頭から股の間まで、見事なまでに両断される。
分かれた二つの身体は、ゆっくりと左右へ倒れていった。
中から腐り果てた内臓と肉が流れ出し、酷い悪臭が包む。
キーマはその悪臭に耐えながら、ダレスの傍に膝をついた。
「邪神にさえ出会わなかったら、ここまで堕ちることはなかったのに・・・。」
憐れな獣人を悲しみ、残念そうに首を振る。
「せめて弔ってあげるわ。」
右手を出し、手の中に炎を浮かばせる。
それをダレスに向けると、大きな火柱が上がった。
腐った身体は炎に包まれ、塵となって宙に舞う。
キーマは目を閉じ、「どうか安らかに」と祈りを捧げた。
煌々と燃え盛る赤い火柱。
ダレスの身体は煙となり、高い空へ昇っていく。
「・・・・・・・・・。」
彼女の瞳に、赤い火柱が映る。
高くそびえる炎の柱、それはとても情緒的だが、キーマはある違和感を抱いていた。
「変ね・・・・火が小さくならない。」
右手から放った火柱、それは時間と共に小さくなるはずだった。
ダレスの身体を燃やせば消えるように、魔力を調整していたからだ。
しかし火柱は小さくならない。
それどころか、まるで生き物のようにうねった。
「どうして!?なんでこんなに燃え上がってるの!」
火柱は空高く伸びていき、龍のように激しくうねる。
縦横無尽に空を巡り、遠吠えのように業火を滾らせた。
「これじゃまるで魔物じゃない!どうしてこんな・・・・、」
そう言いかけて、「まさか・・・・」と息を飲んだ。
ダレスの倒れていた場所に目を向けると、そこには何かの焼け跡が転がっていた。
「これは・・・注射器?ならやっぱり・・・・、」
焼け焦げた注射器が、三つ地面に転がっている。
しかも使用した後のようで、中には何も入っていなかった。
「間違いないわ・・・・あの獣人、自分を超人に変えて・・・、」
「その通りだ。」
「・・・・・・・ッ!」
頭上から声がして、火柱を見上げる。
すると炎の中にダレスの顔が浮かんでいた。
彼は火柱そのものとなり、キーマに襲いかかってくる。
「なんてしぶとい!」
咄嗟に冬の結界を張り、火柱を防ぐ。
しかしあまりの高熱に結界の方が押された。
「言ったはずだ、トドメを刺さなかったことを後悔すると。」
「何言ってんの!ちゃんと刺したじゃない!」
「刺すのが遅かったと言ってんだ。」
ダレスは口を開け、冬の結界を噛み砕いた。
「ぐうッ・・・・なんて奴!」
慌てて退避して、両手に魔力を溜める。
「そんな姿になってまで、いったい何がしたいの!?」
片手に重力、片手に斥力を発生させて、ダレスに解き放つ。
二つの力が空間に穴を開け、彼を亜空間へ引きずり込もうとした。
しかしダレスは黒い斧を振り回し、あっさりと亜空間への道を切り裂いた。
「なんでかって?決まってるだろう、夢の為さ。」
そう言って口を開け、青白い光を蓄えた。
その光はマグマを超えるプラズマの熱。
そしてさらに熱を上げて、真っ白な光へと変化した。
あまりの熱に空気が歪み、大地までもが溶けていく。
キーマは咄嗟に空間魔法を唱え、自分とダレスの間に空間の断裂を生み出した。
その断裂によって熱は遮断され、キーマは街の外まで退避する。
「無駄だ・・・・。」
ダレスは口の中に蓄えた真っ白な光を、キーマに目がけて解き放った。
何百万度という超高熱が放たれ、辺り一帯が蒸発する。
プアカブの街は一撃で半分も焼き尽くされ、余熱だけで街の外にも炎が広がった。
凄まじい熱は空気まで加熱して、光線を放った数秒後には大爆発が起きた。
爆風は空にまで届き、箱舟がグラグラと揺れる。
炎は地を這う化け物のように、街の周囲数キロを焼き払ってしまった。
たった一撃でプアカブの街は消滅する。
災害や魔力に対して強いはずの巨大な都市。
それがほんの一瞬で灰塵に帰してしまった。
ダレスはニヤリと笑い、「地ならしは完了だ」と言った。
「これで俺の魔城を建てることが出来る。だが・・・・とんでもない威力だ。
ムースが言っていたより遥かに強い。」
あまりの力に、ダレス自身が驚きを隠せない。
今日ここへ来る前、巻貝の科学者であるムースから、ある薬を渡されていた。
《ダレス様、かねてより研究していた薬です。
試作品なので三本しかありませんが、これを使えば超人を超える超人になれるはずです。
しかし副作用もあるのでご注意を。》
そう言って渡された三本の注射器。
その中には真っ白に光る液体が入っていた。
それはマグマの超人を超える、プラズマの超人になれる薬。
これを使えば地球の悪魔でさえも葬る力を持つことが出来る。
しかしその副作用として、一時間も経つと身体が耐え切れずに蒸発してしまうのだ。
どんなに強くなっても、一時間しか生きられないなら意味がない。
そこで考えたのが、古代の秘薬との併用だった。
あの薬は限界を超えて肉体を強化し、素手で兵器と渡り合える力を持つことが出来る。
その薬と合わせれば、一時間を超えても蒸発することはないのではないかと考えたのだ。
しかしダレスの読みは外れた。
古代の秘薬の副作用は、思ったよりも早く身体を蝕み始めた。
このままで腐り果てて死んでしまう。
そこで咄嗟にムースから渡された薬を使ったのだ。
古代の秘薬と超人になる薬。
二つの薬を使っても、腐敗は止められなかった。
なぜなら超人になる薬よりも、古代の秘薬の方が効果が強かったからだ。
秘薬の副作用は、超人薬の効果を押さえ込み、ダレスを腐らせ続けた。
このままでは死んでしまう。
そう思った時、キーマを利用することを思いついた。
この女は優しい。
ならば同情を誘えば、弔いをしてくれるのではないか?
その考えは当たっていて、キーマはダレスを弔った。
それも彼の目論見通り、火葬という手段を使って。
肉体は腐っているのだから、弔うのなら燃やすのが一番。
そう思って賭けに出たダレスだったが、その賭けは上手くいった。
キーマの放った火柱は、超人薬の効果を加速させてくれた。
熱を吸収し、それを力に変えて、瀕死のダレスを救ってくれたのだ。
しかも古代の秘薬の力はまだ残っていて、肉体は再び力を取り戻した。
強い副作用が身体を蝕もうとするが、それ以上に超人薬が力を与えてくれる。
二つの薬の効果が上手く重なり合い、ダレスは超人を超える超人として復活したのだった。
今の彼はただの金貸しではない。
ラシル最強の魔女を圧倒するほどの力を持っている。
もはやこの場に敵はなく、自分の魔城を造るのを邪魔する者はいない。
ただ一つ、空に浮かぶ箱舟を除いて・・・・・。
ダレスは空を見上げ、忌々しい箱舟を睨む。
あの船を生かして返したら、必ずダナエたちがやって来る。
ダレスにとって、それは何としても阻止したい事だった。
短い間でもダナエの仲間だった彼は、彼女の恐ろしさを知っている。
力はそこまで強くないが、ダナエの中には周りを惹きつける光がある。
かつて自分もその光に見せられて仲間になったのだから。
「あのオテンバは邪神とやり合って生きている。
しかも旅を続けるほどに成長し、仲間も増えていく。
早く俺も力を蓄えないと、必ずあのオテンバの光に飲まれちまう。
そうなる前にここに魔城を・・・・金を、人材を、そして力を!」
ダレスは口を開け、白い光を蓄える。
狙うは空に浮かぶ箱舟。
あれさえ撃ち落とせば、ダナエたちがここへ来るまでに時間を稼げる。
いずれは嗅ぎつけてくるだろうが、それまでに力を蓄える時間が欲しかった。
「カプネ、嬢ちゃんに寝返ったのは間違いだったな。
あのまま俺の元にいれば、それなりの地位を与えてやったものを。」
ダレスは少なからずカプネに同情を抱いている。
かつては自分と同じ地球の人間で、邪神と関わってしまったが為に、人間を捨ててこんな星へ来る羽目になってしまった。
だから自分に協力するなら、仲間として迎え入れようと思っていたのだ。
しかしカプネは離れて行った。
ダナエの光に見せられて、結局の彼女の元にいることを選んでしまった。
それは腹立たしくもあり、悔しいことでもあった。
「俺にあれだけの求心力があれば、もっと楽に夢を叶えられただろうに・・・。」
人の上に立ち、全てを支配する。
その為に一番必要なもの。
それは金でも力でもなく、人を惹きつける魅力である。
そのことを知っているダレスは、ダナエに対してわずかな劣等感を抱いていた。
彼女は放っておいても仲間が集まる。しかも喜んで力を貸してくれる。
金と暴力でしか支配出来ない自分と違って、ただそこにいるだけで人の上に立てる器。
「社長になるのが夢だとか言っていたが、それは許せねえ。
もしアイツが商売を始めたら、俺は簡単に駆逐されるだろう。
こんな金と暴力しか持たない男じゃ、ああいう奴にはどう足掻いても・・・・。」
ダレスはダナエも殺すつもりでいた。
このまま放っておけな、邪神よりも大きな障害になりかねない。
そうなる前に、何としても・・・・・。
「嬢ちゃん・・・・俺は感謝してるぜ。お前と出会い、自分の甘さに気づいた。
俺みてえな野郎は、決して良い奴に成り下がっちゃいけねえんだ。
お前といるほどに、いかに自分の器が小さいか思い知らされる。
だから・・・・もう迷わねえ。人間らしい心は捨て去って、テメエの夢に徹する!
人が死のうが戦争が起きようが、街が壊れようが星が汚れようが構わねえ。
俺は俺の為だけに生きる!優しさなんぞいらねえ!
金と暴力で全てを支配してやる!」
真っ白な光は強くなり、口からはみ出るほど輝く。
箱舟は逃げることもせず、むしろ戦うつもりでいた。
大砲を向け、ダレスに照準を合わせる。
「無駄だ!俺の方が速い!」
箱舟の大砲には溜めが必要になる。
先ほど一発撃ってしまったので、二発目を撃つには時間が必要だった。
箱舟が砲撃を手間取っている間にも、ダレスはさらに力を蓄える。
そして遂に自分の能力限界まで力を溜めた。
口の中には、太陽のような閃光が走る。
あまりの熱に空気は振動し、ダレスの周りが火の海に変わった。
「終わりだ。」
船の中にいるカプネに向かって、別れの挨拶のように呟く。
そして・・・・ダレスの周囲が真っ白な閃光に包まれた。
口から放たれた数百万度の熱線が、空気さえ焼き尽くしながら箱舟を襲う。
空気が燃えて、音さえ聞こえなくなる。
辺りは真っ白に染まって、何も見えなくなる。
熱は空を駆け巡り、街から二十キロ離れた大地までもが炎に包まれた。
あまりに強烈で、あまりに凄まじいダレスの灼熱。
しかしそんな攻撃を受けても、箱舟は落ちなかった。
表面が少し焦げただけで、ダレスの熱線はほぼ完全に防がれてしまったのだ。
「なッ・・・・何で出来てんだありゃあ!?」
跡形もなく蒸発すると思ったのに、表面の一部が焦げただけ。
あまりの呆気なさに、開いた口が塞がらなかった。
「残念ね。」
「・・・・・・・・ッ!」
燃え尽きたはずのキーマが、また元通りになって復活していた。
「あの船は魔王級の悪魔の攻撃にさえ耐えるのよ。
しかもエンジンの魔力を使って、隕石がぶつかってもビクともしないくらいの硬度になる。」
「そ・・・そんな馬鹿な・・・・・、」
「あの船は超高速で宇宙を航行する乗り物だからね。それくらいの力は備えてるわ。」
「・・・・・・・・・・。」
「せっかく化け物に生まれ変わったのに・・・・残念だったわね。」
キーマはニコリと笑う。
それはダレスを馬鹿にする為の笑いであったが、彼は怒らない。
「そうか」と潔く諦めた。
「壊せないんじゃしょうがねえなあ。」
「あら?もう諦めるの?わざわざ化け物になったのに。」
「結果の出ないことはしない主義だ。それに・・・・・、」
「それに?」
「ずっと化け物ってわけじゃねえさ。」
ダレスは火柱の身体を縮ませて、小さな火へと変わっていく。
そして・・・・・、
「元通りってわけにはいかねえが、ずっとあのままでいるよりかはマシだ。」
「あんた・・・・、」
ダレスは獣人の姿に戻っていた。
しかしまったく元通りというわけではない。
全身がマグマに覆われ、割れた表皮から青白い光が漏れていた。
「俺も超人の仲間入りだ。」
そう言って拳を握り、地面を叩きつけた。
大地が揺れ、地割れが起き、中からプラズマの光が溢れる。
キーマは咄嗟に結界を張り、灼熱の光を防いだ。
その光が晴れた後には、もうダレスはいなかった。
煮えたぎる大地が残るだけで、彼の姿はどこにもない。
「逃げられたか・・・・。」
キーマは感じていた。
このままあの男を放っておくと、もっと厄介な敵になると。
「彼の言う通り、あの時トドメを刺しておくべきだったわ。これは私の責任・・・・。」
目を伏せ、自分の甘さに嫌気が差す。
「いつもこう・・・。肝心な所で敵を逃してしまう。
もっと非情になれば、クインに負けることだってなかったかもしれないのに・・・。」
済んだことを悔やんでも遅く、しかし悔やまずにはいられない。
大きな力を持ちながら、最後の最後で詰めを誤ってしまう。
全ては自分の甘さが原因で、そんなことは昔から分かっていた。
しかし根が平和主義者のキーマは、完全に冷徹になることが出来ない。
「途中までがよくても、最後が駄目なら意味がない。
私は五百年経っても役立たずのままね。」
伏せた目を笑わせ、嘆くように首を振る。
空に浮かぶ箱舟から、心配そうにカプネが見つめていた。

登山

  • 2017.02.27 Monday
  • 15:37

JUGEMテーマ:写真

 

 

 

 

 

たまに山に登りたくなります。

登山には人を惹きつける何かがあります。

 

 

 

 

 

 

 

運動不足なんで、長い階段は辛いです。

でも登りきると気持ちいんですよね。

 

 

 

 

 

 

 

高いところから街を眺めると、どうしてこうも清々しい気分になれるのか?

もしかしたら、それを求めて山に登っているのかもしれません。

 

 

 

ダナエの神話〜星になった神様〜 第七十話 戦火(1)

  • 2017.02.27 Monday
  • 15:31

JUGEMテーマ:自作小説

ダレスの本社があるプアカブの街。
今、その街は戦火に包まれていた。
悪魔と犯罪者が、そしてマグマの超人たちが、めちゃくちゃに暴れ回っている。
高いビルは炎に包まれ、石畳の道はボロボロにヒビ割れていた。
人々は逃げまどい、炎に焼かれて死んでいく。
どうにか街の外へ逃れても、そこには魔物がうろついていた。
「外も駄目だ!引き返せ!」
「何言ってる!街は火の海だぞ!」
街の人々は右往左往しながら、どうにかこの地獄から逃れようとする。
そんな光景を、高い空から眺めている者がいた。
「焼け!全部焼き払え!」
厳つい狼の獣人が、リーバーの上で叫んでいる。
かつて自分の会社があった街。
それを何の躊躇いもなく破壊していた。
マグマの超人たちは次々に建物を燃やし、地球から来た悪魔が人々を襲う。
そしてニーブルの街から脱走した犯罪者たちが、金品を奪い、人身売買の為の誘拐を行う。
まさに地獄そのものの光景が、プアカブの街を包んでいた。
しかしそれに抵抗する者達がいた。
マニャとアラハバキは、逃げ出した犯罪者を追いかけて、この街までやって来た。
しかしそこで見た光景は、超人や悪魔が暴れ回る地獄絵図だった。
こうなっては犯罪者を捕まえるどころではなく、とにかく街の人を逃がさなければいけない。
マニャは必死に剣を振るい、超人たちに挑んだ。
アラハバキも地球から来た悪魔に戦いを挑んだ。
しかし二人だけでは到底勝てない。
超人も悪魔も、一人一人がとてつもなく強い。
しかもわんさかといるものだから、このままではマニャたちまで戦火に飲み込まれてしまう。
しかしそこへ助っ人が現れた。
長い髪を振り回し、空中に絵を描いて魔物を呼び出したのだ。
マニャもアラハバキも、彼が現れたことに驚きを隠せなかった。
いったいどうしてここにいるのか?
ダナエたちと旅をしているはずじゃないのか?
不思議に思ったが、ドリューは今は説明している暇はないと答えた。
とにかく悪魔や超人をどうにかしないと、街は壊滅させられてしまう。
三人は力を合わせて戦った。
しかし一人助っ人が増えたところで焼け石に水。
敵の数は圧倒的で、街を取り囲むほどいる。
しかもまともに戦えるのはアラハバキだけで、マニャやドリューでは超人や悪魔に敵わない。
三人はじりじりと追い詰められ、とうとう周りを囲まれてしまった。
するとそこへ、一人の女性が駆けてきた。
腕には赤ん坊を抱えながら、「ドリュー!」と叫ぶ。
「リラ!」
安全な場所へ逃がしたはずの妻と娘が、なぜかそこにいた。
「何してるんだ!戻って来ちゃ駄目だって言っただろ!」
「ドリュー!一緒に逃げよう!」
「馬鹿言うな!このままじゃ街は破壊されて、もっとたくさんの人が死ぬんだ。
逃げられるわけないだろ!」
「私は街の人よりも、ドリューの方が大事!
せっかく帰って来てくれたのに、もし死んじゃったら・・・・、」
リラはこちらへ駆け寄って来る。
すると超人の一人が彼女へ襲いかかった。
「やめろおおおお!」
ドリューは咄嗟に龍の絵を描く。
それを呼び出すと、リラへ向かって飛ばした。
龍はリラを咥え、空へ舞い上がる。
「そのまま遠くへ運ぶんだ!」
「ドリュー!」
リラは必死に手を伸ばす。
「一緒に逃げよう!」
「心配するな、すぐに迎えに行く。」
そう笑うドリューだったが、生きて帰る自信はなかった。
周りは悪魔と超人だらけで、どう足掻いても勝てない。
しかし何もせずに逃げ出すことだけはしたくなかった。
「ダナエさんたちだって戦ってるんだ。僕だけ逃げるわけにはいかない。」
負けると分かっていても、戦わねばならない時がある。
ここで敵を引き付けておかなければ、それこそリラと赤ん坊を危険に晒す。
ドリューは「僕たちの子供を頼んだぞ」と頷きかけた。
リラはまだ叫んでいる。
手を伸ばし、「ドリュー!」と呼んでいる。
彼女を咥えた龍は。どんどん遠ざかっていった。
「そのまま遠くへ逃げてくれ。リラを、僕たちの赤ちゃんを守ってくれ。」
するとその時、街の上に浮かんでいたリーバーが動いた。
「誰一人逃がさねえよ。」
ダレスは銃を構え、引き金に指をかける。
そして・・・・・、
「やめろおおおおおおお!」
ドリューは自分も空へ向かおうとする。
しかし間に合わなかった。
ダレスは銃を撃ち、龍を射抜く。
マグマの弾丸が炸裂し、爆炎を上げた。
「リラあああああああ!」
夜空に爆炎が飛び散り、もうもうと煙が上がった。
「そ、そんな・・・・、」
ドリューはがっくりと膝をつく。
しかし「ああ!」顔を上げた。
なんと煙の中から、龍が現れたのだ。
龍は身を挺してリラと赤ん坊を守っていた。
「あ・・・ああ・・・・生きてた・・・・。」
ドリューは立ち上がり、すぐに助けに行こうとする。
しかし超人たちが立ちはだかった。
「どけええええ!」
本気で戦うが、超人のパワーの前には手も足も出ない。
そこへアラハバキがやって来て、超人たちに体当たりをかました。
「アラハバキ!」
「・・・・家族の元へ。」
ピカピカと目を光らせて、ここま「任せろ」と言う。
「ごめん!リラたちを逃がしたら、すぐに戻って来るから!」
ドリューは家族の元へ駆け出す。
龍はボロボロになっていて、ゆっくりと地面へ落ちていった。
「リラ!今行く!」
そう言って必死に走るが、ダレスはまた銃を向けた。
「しぶといな。だがこれで終わりだ。」
マグマの弾丸が龍を貫き、爆炎を上げた。
「リラあああああああ!」
激しい炎が上がり、ドリューも吹き飛ばされる。
「うおおおおおお!」
ゴロゴロと転がって。建物で頭を打つ。
しかしすぐに立ち上がり、爆炎の中を睨みつけた。
「そんな・・・・・・・そんな・・・・、」
ドリューはふらふらと歩きながら、燃え盛る炎に近づいていく。
「リラ・・・・リラ・・・・生きてるよな?
死んでなんかないよな・・・・・。」
どう見たって、一目で生きていないと分かる状況だった。
しかしドリューはその現実を受け入れられない。
何度も「生きてるよな・・・・」と繰り返した。
すると炎の中から、「生きてるわよ」と声がした。
「あ・・・・ああ!この声は・・・・・、」
「大丈夫、奥さんと赤ちゃんは生きてる。」
炎の中から一人の女が現れる。
その腕にはリラと赤ん坊を抱えていた。
「キーマ!」
ラシル最強の魔女が、間一髪でリラと赤ん坊を助けていた。
ドリューは駆け寄り、「リラ!」と叫んだ。
彼女は気を失っているが、大きな怪我はない。
ドリューは妻と娘を抱きしめ「よかった・・・・」と涙ぐんだ。
「生きててくれた・・・・ほんとによかった・・・・。」
頬を寄せ、二人が生きていたことに感謝する。
「キーマ・・・ありがとう。僕の宝物を守ってくれて・・・・、」
「いいのよ。」
キーマは二人をドリューに預ける。
「嫌な予感がしたから、一度ここへ戻ってきたの。なんとまあ酷い有り様ね。」
そう言って炎に包まれるプアカブを睨んだ。
多くの人が倒れ、建物はボロボロに焼けている。
「もう少し早く来ていれば・・・・。」
悔しそうに言って、「でももう大丈夫」と頷く。
「後は私たちに任せて。」
「私たち・・・・?」
「カプネもいるわ。向こうの空に。」
キーマは遠くの空を指さす。
するとそこには箱舟二号が飛んでいた。
「あの船の大砲を使うわ。すぐにこの街から離れて。」
「いや、僕も戦う・・・・、」
「奥さんと赤ちゃんを危険に晒しても?」
「・・・・・・・・。」
「一番大切なものが、こうして無事だった。それでいいじゃない。」
キーマはポンと肩を叩く。
「後は私たちに任せて。」
「・・・・分かった。でもまだ生き残ってる人達がいるんだ。
それを助けてからじゃないと・・・・。」
ドリューは街を見渡し、逃げまどう人達に唇を噛んだ。
「そうね。なら彼女たちにも手伝ってもらうわ。」
キーマはそう言って、マニャとアラハバキに目を向けた。
「あなたは箱船まで避難して。」
「任せても・・・大丈夫だよね?」
「もちろん、約束するわ。」
キーマは微笑みながら頷く。
ドリューは再び龍を描き、リラと赤ん坊を抱えて空に舞い上がった。
するとまたダレスが迫って来て、マグマの銃を向けた。
「俺から逃げられると思ってんのか?」
ダレスは殺気のこもった目で睨む。
「今度こそ終わりだ。」
そう言って引き金を引こうとした時、突然リーバーが落下し始めた。
「うおおおおお!なんだこりゃあ!?」
「そのままぺちゃんこになりなさい。」
「テメエの仕業か!?」
ダレスは超重力に圧され、「がああああああ!」と悲鳴を上げた。
リーバーは墜落し、大地に砂埃を上げた。
「さあ、今のうちに。」
ドリューは頷き、箱舟まで逃げて行く。
「カプネ、しっかり守ってあげてよ。」
ドリューが無事に逃げたのを見届けると、「剣士さん」と呼んだ。
「超人や悪魔は私が引き受けるわ。あなた達は街の人を。」
「キーマ・・・・いつもいい所に来てくれるね。」
「昔からトラブルに遭遇しやすいのよ。ほんとは平和主義者なのに。」
マニャは「ならこいつらは任せるよ」と超人たちを睨んだ。
「どいつも強敵だ。油断してるとあんたでも負けるかも。」
「気をつけるわ。」
マニャは街の人達の方へ走っていく。
するとアラハバキもやって来て、ピカピカと目を光らせた。
「小生・・・・いつでも加勢するなり。劣勢なれば声をかけよ。」
「ありがと、地球の神様。」
マニャとアラハバキは、自分たちが盾になりつつ、人々を逃がしていった。
「出来るだけ早く街を離れてね。じゃないと砲撃出来ないから。」
「あいよ!」
キーマは箱船二号を見上げ、砲撃は待つように合図した。
そして後ろを振り返り、超人や悪魔たちを睨む。
「ざっと五十匹くらいか。ちょっと数が多いわね。」
超人部隊が四十人、そして地球の悪魔が十体ほど。
全ての敵が、キーマに向けて殺気を放っていた。
「やる気満々ね。でもその方が気が楽だわ。
逃げる相手を仕留めるのは好きじゃないから。」
そう言って両手を掲げ、巨大な重力の渦を発生させた。
「超人はともかく、地球の悪魔が厄介ね。
これで数を減らしてくれればいいんだけど・・・。」
溜めた魔力を一気に振り下ろす。
空間が歪むほどの超重力が、一瞬にして敵を押し潰した。
並の魔物ならこれで終わりだが、敵はそう弱くはない。
二十人ほどの超人は超重力で押し潰されたが、地球の悪魔はピンピンしていた。
「やっぱり強いわね。なら効くまで撃つだけよ。」
そう言って二発目を放とうとする。
しかしその時、「ざけんじゃねえやああああ!」と怒鳴り声がした。
「誰にも俺の邪魔はさせねえ!」
ダレスが地面の中から這い出して来る。
「あら、まだ生きてたの?」
「こんな所で死ねるかよ。おかげでリーバーを台無しにしちまった。」
ダレスはリーバーの中に逃げ込み、どうにか一命を取り留めていた。
しかし全身はボロボロで、あちこちから血を流している。
「じっとしてなさい。動くと死ぬわよ。」
「この程度でくたばるなら、とうに死んでる。」
そう言って銃を構え、キーマに向けた。
「おいテメエら!何をボケっとしてやがる!さっさとそいつを殺ぜ!」
ダレスに言われて、超人たちは一斉に襲いかかる。
赤い溶岩をまき散らしながら、キーマにしがみついた。
「無駄よ、たかが溶岩じゃ私は焼けない。」
キーマはあらゆる魔法を扱える最強の魔女。
重力の魔法だけではなく、空間魔法や結界魔法といった、難易度の高い魔法も使いこなす。
超人たちは自慢の熱で焼こうとすいるが、キーマは火傷一つ負わない。
なぜなら結界魔法を使って、熱を防いでいたからだ。
彼女の周りには真っ白な霜が浮かんでいて、そこだけ真冬のように気温が下がっていた。
「これは冬の結界。あんた達の力じゃ、この結界は破れないわ。」
冬の結界の中では、気温はマイナス九十度にまで下がる。
それに加えて身を切るようなブリザードを吹き荒れるのだ。
超人たちの熱は冷気に相殺されて、キーマを焼くことが出来なかった。
すると超人の一人が、別の超人に抱き付いた。
そして自分の熱を仲間に与えて、そのまま朽ち果ててしまった。
他の超人も次々に群がり、一人の仲間に熱を与えていく。
「何をする気?」
キーマは険しい目で睨む。
すると仲間から熱をもらった超人が、マグマの熱を超えて青く輝き出した。
「これは・・・プラズマ?」
超高音のプラズマの光が、冬の結界の冷気を消し去っていく。
そして拳を振り上げ、思い切り大地を叩きつけた。
地震のように地面が揺れ、地割れが起きる。
中から青白い光が溢れ、プラズマの熱がキーマを襲った。
しかしそれでも彼女は焼かれなかった。
プラズマの光に飲み込まれる前に、超重力の魔法を放ったのだ。
それは大地をへこませ、プラズマの光さえ沈めていく。
超人も潰されて、もはや立ち上がることは出来なかった。
「いくら超人って言っても、熱しか武器がないんじゃね。私の敵じゃないわ。」
超人部隊はたった二発の魔法で倒された。
ダレスは息を飲み、「なんて奴だ・・・」と慄いた。
「さすがはあの邪神が一目置くだけあるな。」
「金貸しダレス・・・あんたの良い噂は聞かないわ。
邪神と手を組んで、ますます悪さが増したみたいね。」
「全ては商売の為だ。この星をもっと発展させて、俺が支配する。」
「欲しか頭にないのね。憐れな男。」
キーマは馬鹿にしたように笑う。
ダレスは「欲がなきゃ男じゃねえさ」と返した。
「これは俺の街だ。俺が大きくしたんだ。だから焼こうと壊そうと俺の勝手だ。」
「いいえ、この街は誰のものでもない。ここに住んでいる全ての人たちのものよ。」
「いいや、違うね。これは俺のもんだ。ここを全て焼き払い、新たに俺の城を建てる。
この星の支配者が君臨する魔城をな。」
ダレスは悪魔たちを睨み「何してる?さっさとこいつを殺せ」と言った。
「わざわざ地球から呼び寄せたんだ。ちったあ役に立て。
でねえと後で邪神に殺されるぞ。」
そう言われて、地球の悪魔たちはキーマを取り囲んだ。
「そいつらはデーモンだ。」
「デーモン・・・魔王に仕える兵隊の悪魔ね。」
「地球じゃ下級の悪魔だが、この星なら活躍してくれると思ってな。」
「ふふふ。」
「何がおかしい?」
「本当はもっと強い悪魔を呼びたかったんでしょ?」
「なんだと?」
「この悪魔、邪神じゃなくてあなたが呼び寄せたんじゃないの?」
「それがどうした?」
「もし邪神が呼んだのなら、下級の悪魔なんか連れて来ないわ。
もっと強い奴を連れて来るでしょうね。」
「てめえ・・・・何が言いたい?」
ダレスはギリっと牙を剥く。
キーマはニコリと返した。
「これがあんたの実力ってことでしょ?
下級の悪魔しか呼び寄せられない、小さな器ってわけよ。」
「俺を馬鹿にしてんのか?」
「そうよ。だって強い悪魔ほど気位が高いもの。アンタごときに手を貸したりしないわ。」
「・・・・・・・・・。」
「本当なら下級の悪魔でさえも、あんたに従うはずがない。
でもこうして味方してくれるのは、邪神の後ろ盾があるからよ。」
「・・・・その通りだ。」
ダレスは頷き、葉巻を咥えた。
「これが今の俺の実力だ。自慢できるもんじゃねえ。」
「やけに素直ね?何か企んでる?」
「言ったはずだ。ここに俺の魔城を造ると。
金、力、人材、あらゆるものをここに集める。」
「無理よ、邪神がいなきゃ何も出来ないあんたには。」
「分かってる。だから俺は力が欲しい。この地中奥深くに眠っている古代兵器がな。」
「古代兵器・・・・。」
キーマの顔が曇る。眉間に皺が寄り、「まさか他にも・・?」と尋ねた。
「戦艦と大砲・・・・それに秘薬がある。」
「それを全部見つけたっていうの?」
「戦艦と大砲は邪神が持ってる。だが秘薬はここの地下に眠ってる。
それさえ飲めば、俺は超人をも越える力を手に入れられる。」
そう言ってグッと拳を握った。
「俺は商人だ。しかしそれなりの力を持ってなきゃ、いざって時に身を守れねえ。
だから秘薬を飲み、生まれ変わるんだ。」
ダレスの目は野望に燃える。
大きな力、大きな権力を手に入れる為なら、どんなことでもしてみせる。
そんな覚悟が目の中に浮かんでいた。
「おい悪魔ども!さっさとそいつを殺れ!」
デーモンたちは翼を広げ、一斉に飛びかかる。
「接近戦を挑むつもりね?」
さっきの戦いを見て、デーモンたちは魔力ではキーマに勝てないと悟った。
鋭い爪が、鋭い牙が、そしてナイフのような翼がキーマを襲う。
彼女は成す術なくバラバラにされ、悪魔たちの胃袋に収まった。
「なんだ?ずいぶん呆気ない終わり方だな。」
拍子抜けしたように笑うダレス。
しかしすぐに異変に気づいた。
彼女を食べた悪魔たちが、急に苦しみ出したのだ。
胸を押さえ、気持ち悪そうにえづく。
そして地面に手をついて、ゲロゲロと吐いた。
「悪魔のゲロか・・・見たかねえな。」
ゲロの中にバラバラになったキーマの身体が混じっている。
それは一瞬で元通りにくっ付いた。
「おお、こりゃすげえ。」
キーマは五百年の間、何があっても死なない。
邪神からそう聞かされていたが、実際にこの目で見ると驚いた。
復活したキーマはスンスンと臭いを嗅ぎ、「最悪・・・」と呟いた。
「よくもこんな乙女をゲロまみれに。」
眉間に皺が寄り、こめかみに血管が浮く。
「とりあえず消臭、シバくのはその後よ。」
キーマは大地の魔法を唱え、地面の土を盛り上げる。
土は彼女を包み込み、ゲロを吸い込んで分解した。
「・・・・うん、臭いは取れたわ。」
満足そうに頷き、「さて・・・」と街を見渡す。
「そろそろ避難は終わったようね。」
マニャとアラハバキのおかげで、街の人達は外へ逃れていた。
「これなら砲撃出来るわ。」
キーマは箱舟に手を振り、バン!と銃を撃つ真似をする。
すると箱舟の大砲が動いて、こちらに照準を合わせた。
「おいおい、街を砲撃する気か?」
「下級といえども、地球の悪魔は手強いからね。
ちまちま倒すより、まとめて吹き飛ばした方が楽だわ。」
そう言って魔法を唱え、地面から茨を生やした。
茨は悪魔たちに襲いかかり、投網のように絡みつく。
「金貸しさん、死にたくないなら逃げた方がいいわよ。」
「確かにここにいちゃヤベえな。」
ダレスは空を睨み、「カプネの野郎め」と唸った。
「あいつも食えね男だ。
こっちに味方するかと思いきや、結局あのオテンバに寝返りやがった。
とんだタヌキだな。」
「いいえ、カエルよ。」
キーマはニコリと笑う。
「もしここで改心するっていうなら、助けてあげてもいいわよ?」
「改心ねえ・・・俺の辞書にはねえ言葉だな。」
「あ、そ。ならこのまま吹き飛ぶだけよ。」
キーマは箱舟に向かって手を上げる。
すると次の瞬間、船の大砲がピカリと光った。
船から放たれた砲撃は、一瞬にして街の中央を塵に還す。
大地が抉れ、砂埃が舞い散り、街全体が地震のように揺れた。
砲撃を受けた場所には何もなくなり、悪魔もキーマもいなくなる。
そしてダレスも・・・・。
しかし少し時間が経つと、空気中から小さな粒子が集まった。
粒子は一か所に集まり、粘土細工のように固まっていく。
骨、内臓、肉、そして皮膚。
じょじょに人の形に変わっていき、やがてキーマが復活した。
「・・・・みんな吹き飛んだみたいね。」
目の前には大きなクレーターが出来ていて、まだ砂埃を上げている。
「地球の悪魔といえど、あの砲撃には耐えられないわ。
私も不死身の身体じゃなかったらあの世行きね。」
敵は全て倒した。
キーマは踵を返し、ふわりと宙に浮き上がる。
するとその時、「まだだ」と声がした。
「まだ終わりじゃねえ・・・・・。」
「この声・・・・・嘘でしょ。」
キーマは後ろを振り返る。
そこには傷一つ負っていないダレスが立っていた。

あてもなく

  • 2017.02.26 Sunday
  • 15:57

JUGEMテーマ:写真

 

 

 

 

 

なんで歩きたくなるのか?

カメラを持っていると、どこまでも歩けそうな気がします。

 

 

 

 

 

 

 

目的があって出かける時と、あてもなく歩く時では、撮りたいものも変わってきます。

今は目的があって撮ろうとすると、すごくしんどくなります。

あてもない方が楽しいんですよ。

撮りたくなきゃ撮らなくてもいいやって。

 

 

 

 

 

 

 

やってもやらなくてもいい。

これほど楽なことはありません。

趣味なんだから、楽にってことが一番大事ですね。

ダナエの神話〜星になった神様〜 第六十九話 第三の試練へ(10)

  • 2017.02.26 Sunday
  • 15:32

JUGEMテーマ:自作小説

「この山を攻略する方法、それはこのクモ女を殺すことだ。」
そう言って、首に当てたナイフをブスリと突き刺した。
「ひいいいいぎゃあああああああああ!」
クモ女は目を見開いて絶叫する。
ノリスはさらにナイフを刺し込み、グリュっと回転させた。
ピピっと赤い血が飛び散り、ダナエの足を汚す。
「・・・・・・・ッ!」
ダナエは口を押さえて後ずさる。
そこへコウがやって来て、「見るな!」と引き離した。
「お前こういうの見たら絶対に引きずるだろ。こっちへ来てろ。」
ダナエを抱え、遠くへ離れていく。
その間も、ダナエは青い顔で引きつっていた。
「・・・・さて。」
ノリスはナイフを抜き、「おい」とアドネを呼んだ。
「一応殺したつもりだが、ちゃんと死んでるか見てくれ。」
「わ、私が・・・・?」
「お前は死神だろ?だったら死んでるかどうか正確に判断できるはずだ。」
「別にいいけど・・・・どうして自分でやらないの?」
「コイツは卑怯な奴だ。死んだフリして生きてるかもしれねえからな。
お前が見た方が確かだろ?」
「・・・分かったわ。」
アドネはクモ女に近づく。
「あまり近寄るんじゃねえぞ。」
「・・・・・平気よ。これもう死んでるわ。」
クモ女は完全に息絶えていた。
死神のアドネには、一目でそれが分かった。
「よっしゃ。ここからが本番だな。」
ノリスは「船長さんよお」と呼ぶ。
「こっちへ来てくれ。その天秤を持ってな。」
そう言われても、ダナエはショックで動けなかった。
「なんだあ?ビビッてんのか?今まで散々戦ってきたクセによ。
敵にトドメくらい刺したことあんだろ?」
ノリスの言う通り、ダナエだって敵の命を奪ったことはある。
しかし命乞いをする相手の命を奪ったことなどなかった。
それも目玉をくり抜くなど、酷いを事をするなんて・・・・。
「・・・・・・・・・。」
ダナエは辛そうに唇を噛み、銀の天秤を握りしめる。
「ダナエ。」
コウがポンと肩を叩き、「行こう」と背中を押した。
「さっさと来い。」
ダナエが近くまで来ると、ノリスは「天秤を向けろ」と言った。
「このクモ女に近づけるんだ。」
「・・・・・・・・。」
「ビビってんじゃねえよ!さっさとやれ!」
ものすごい剣幕で言われて、ダナエはビクッと肩を竦める。
そして恐る恐る天秤を近づけた。
「・・・・・・・・・。」
クモ女は目を剥いて死んでいる。
首に穴が空き、ドクドクと血が垂れている。
そしてノリスにくり抜かれた目が、ぽっかりと空洞になっていた。
その顔はこの世の終わりのように、とてもおぞましいものだった。
ダナエは思わず目を逸らす。
吐き気がこみ上げ、ギュッとコウの手を握った。
「一緒にやろう。」
コウはダナエの手を支え、一緒に天秤を近づける。
するとカタカタと揺れて、また二つの虫が現れた。
右の天秤には小さなクモが、左の天秤には大きなクモが出てきた。
「やっぱりな。」
ノリスはニヤリと笑う。
「これがクモ女が何も教えなかった理由だ。
アイツを殺さないと、力の選択が始まらないんだからな。」
そう言ってクモ女を睨み、ペッと唾を吐いた。
「あの手この手で生き延びようとしてたのは、これが理由だ。
最初は治安機関に捕まるのをビビッてんのかと思ったが、途中からそうじゃないって気づいた。
目玉を抉られたら、普通は喋るはずだからな。」
ノリスは可笑しそうに笑い、クモ女の頭を踏みつける。
「呪いを使って散々殺しをやってきたような奴だ。お似合いの末路だぜ、なあ?」
そう言ってみんなに笑いかけるが、誰も笑わなかった。
「なんだよ?白けた面しやがって。感謝の言葉もねえのか?」
ノリスは不機嫌そうに顔をしかめる。
するとアドネが「足どけて」と言った。
「死んだ相手にすることじゃないわ。」
「おいおい、それが死神のセリフかよ?」
「・・・・・お願い。あなたのことを嫌いになりたくないの。」
アドネは真剣な目で見つめる。
その後ろではシウンも険しい顔をしていた。
「チッ!・・・・どいつも良い子ちゃんだな。」
面白くなさそうに言いながら、足をのける。
するとその時、天秤に現れたクモが動き出した。
「おお!なんか始まったぜ。」
天秤に現れた二匹のクモは、カサカサと動き回る。
そして仰向けに倒れて動かなくなってしまった。
「このどっちかを選べってことだな。」
ノリスはじっとクモを睨み、「船長さん」と呼んだ。
「どっちを取るのかさっさと選べ。」
怖い目で睨みながら、威圧するように言う。
「俺はこんな茶番は早く終わらせたいんだ。
さっさとダレスの野郎を殺しに行かなきゃいけねえんだからよ。」
そう言ってナイフを握り、首を斬る真似をした。
ダナエはまだ放心状態で、心ここにあらずという感じだった。
死んだクモ女を見つめ、スッと涙を流す。
「・・・・・ごめんなさい。」
俯き、肩を震わせ、クモ女の顔を撫でる。
そしてノリスを睨んでこう言った。
「あなたのやり方は酷過ぎるわ・・・・。」
「そうかい。どっちでもいいけどさっさとしろよ。時間の無駄だ。」
「あなたはここまで酷い事をして何とも思わないの?」
「ははは!何言ってやがる。お前だって散々敵をぶっ殺してきたんだろ?
テメエだけ良い子ぶるんじゃねえよ。」
「・・・・私もあなたと同じなの?」
「そうだろ?」
「・・・・・・・・・。」
「まあお前はまだガキだ。
ショックを受けるのも分かるが、そんなんじゃこの先戦えねえぜ。
なんたってあの邪神を相手にしようってんだ。
甘ったれてるとすぐにやられちまうだろうぜ。」
ノリスは言葉を選ばない。思ったことを率直にぶつけた。
するとコウが「もういいだろ」と言った。
「これ以上追い詰めないでやってくれ。」
「へ!ガキ同士で慰め合いか。」
「お前の言いたいことは分かるよ。
そもそもこの試練は、邪神に対抗する力を手に入れる為のものだ。
だったら・・・・本当は俺たちがソイツを殺さなきゃいけなかった。」
コウはクモ女を見つめ、惨たらしい死に方に目を細めた。
「どうしてこんな試練があるのか?
それはきっと、非情さを試されてるんだ。
時には鬼のようになって戦わないと、道が拓けないこともあるから。」
「よく分かってんじゃねえか。」
「でもダナエにはこういうのは無理だ。だから・・・・俺が選ぶよ。」
コウは天秤のクモを見つめ、じっと考えた。
「このクモ・・・きっとクモ女と同じように、魔法を逆転させる力を持ってるんだろうな。
問題はどうして大きさが違うのかってことだ。
片方は指の先ほどの小ささで、もう片方は手の平くらいの大きさがある。
それがひっくり返ってるってことは、もしかしたら・・・・、」
コウにはある考えがあった。
そしてしばらく迷ってから「こっちだ」と小さいクモを掴んだ。
するとその瞬間、突然山が揺れ始めた。
「おいヤベエぜ。」
ノリスは慌てて「逃げるぞ」と言う。
「こんだけガタガタ揺れてんだ。きっとこの山落ちちまうぜ。」
「だろうな。でもこのままここにいた方がいい。」
「はあ?馬鹿かお前は。山と一緒に落っこちたら死ぬだろうが。」
「普通ならな。でも多分・・・・いや、きっと死なない。」
「どうしてそう言える?」
「このクモのせいだよ。」
そう言って掴んだクモを見せつける。
「このクモはきっと魔法を逆転させる力を持ってるはずだ。」
「んなことは分かってる。どうして小さいクモを選んだのか聞いてんだ。」
コウは手にしたクモを持ち上げ、「小さいから選んだ」と答えた。
「このクモ、くるっと逆さまになって動かなくなった。
それって逆転を意味してるんだと思う。」
「逆転・・・・?」
「大きなものは小さく、小さなものは大きくなる。
だからこのクモを利用して魔法を使えば、少ない魔力で強力な魔法が使えるってことだ。」
揺れる山を見渡し、「このまま山が落ちれば、えらい事になる」と言った。
「こんなデカイもんが落ちたら、いったいどれだけの被害が出るか?」
「下に街はねえよ。落ちても問題ねえ。」
「馬鹿かお前は。」
「ああ?」
「この山のデカさを考えろよ。
こんなもんが落下したら、巨大な隕石が降ってきたのと同じだぜ。
遠くにある街まで被害が出る。」
「へ!知ったことかよ。」
ノリスはペッと唾を吐く。
それはクモ女の顔にかかり、たらりと流れていった。
「もしこの山が落ちたとしても、俺たちのせいじゃねえ。この化け物が悪いんだ。」
「いや、違うよ。」
「ああ?」
「もしそうなったら、悪いのは武神だ。
だってこんな試練を用意したのはアイツなんだから。」
「だったら俺たちのせじゃねえな。早いとこここからオサラバしようぜ。」
ノリスはイライラしていた。
用が済んだのなら、無駄なことに時間を使いたくなかったのだ。
生来短気な性格なので、イライラはさらに加速していった。
「俺はな、周りの奴らがどうなろうと知ったこっちゃねえ。」
「でも俺たちに手を貸してくれた。」
「それは自分の為だ。俺だけじゃこの山を抜けられねえからな。
お前らなんざどうでもいいし、俺が助かればそれでいい。
ちなみにそっちの死神さんは、俺の女になるってんなら別だけどな。」
そう言って笑いかけると、アドネは黙って目を逸らした。
コウは「ノリス」と肩を叩く。
「そんな考え方じゃ、先へは進めないんだ。」
「ああ?」
「さっきも言ったけど、この山では非情さが試される。
いくらクモ女が命乞いをしたって、それを殺さないと先へ進めないんだからな。」
「だったら非情になれよ。こんな山が落ちたって、俺たちは困らねえ。」
「下にいる人達が困るよ。」
「あのなあ・・・・非情になれって言ったのはテメえだろ?
さっきから何が言いたいんだ?」
ノリスはコウに詰め寄り、胸倉を掴む。
「あんまりイライラさせんなよ。いったい何を考えてやがる?」
そう言ってタバコをぺっと吐きつけた。
まだ火の点いているタバコが、コウの頬を掠める。
「俺はまどろっこいしのが嫌いなんだ。要点を言え。」
「優しさだよ。」
「はあ?」
「この山では非情さを試されるけど、でも非情なままじゃダメなんだ。
目的の為に手段を択ばないような奴になったら、それこそ邪神と変わらない。
だから・・・・この山を落としちゃいけない。
非情になる時間はもう終わったんだからな。」
そう言ってノリスの手を払い、「俺に任せてくれ」と頷いた。
「この山は落とさない。そしてみんなも死なせない。」
「そんなこと出来るのかよ?」
「やってみせる。必ず・・・・。」
コウはギュッと手を握りしめる。
すると小さなクモはカサカサと動き回り、コウの皮膚を食い破って、中へ入ってしまった。
鋭い痛みが走り、顔を歪める。
そしてそれと同時に、山が落ち始めた。
最初はゆっくりと、しかしじょじょにスピードを増していく。
「うおおおお!」
ノリスは「何とかしやがれ!」と叫ぶ。
コウは「アドネたちはコスモリングに戻ってくれ」と言った。
「コウ・・・ほんとに大丈夫なの?」
アドネが心配そうに尋ねる。
「任せろ。」
「・・・・分かった。ならあんたを信じるわ。」
アドネは頷き、シウンたちと一緒にコスモリングに戻っていった。
コウは「よし!」と気合を入れる。
「あのクモのおかげで、少ない力でも大きな力を出すことが出来るはずだ。
そして・・・・魔法は逆転する。」
コウは目を閉じ、両手を広げる。
「出来ると信じろ。俺だってダナエと同じ妖精だから、進化はするはずなんだ。
だから今までにない魔法だって、使ってみせる!」
手の中に小さな魔力を溜める。
するとそれは巨大な魔力に逆転し、両手の中に渦巻いた。
バチバチと電気が走り、空間が渦巻いていく。
それを見たダナエは「それってキーマの・・・・」と呟いた。
「そうさ、これは重力の魔法だ。」
「そんなの使えるの?重力の魔法なんて、とっても難しいはずなのに・・・・。」
コウは「大丈夫さ」と頷くが、あまりの魔力の大きさに顔をしかめた。
「すげえ負担がかかる・・・・腕が吹き飛びそうだ。」
手の中に渦巻く巨大な魔力。
それは空間を歪め、凄まじい重力を発生させた。
「うおおおおお!なんだこりゃ?いきなり重くなりやがった・・・・、」
ノリスは堪らず膝をつく。
まるで鉄の塊でも乗せられたかのように、全身が潰されそうになった。
ダナエも「うううう・・・」と歯を食いしばり、強い重力に耐える。
「まだだ・・・・もう少し耐えてくれ。」
コウは腕に血管を浮かばせながら、超重力に耐える。
しかしその間にも、山はどんどん落ちていった。
「おいガキ!まだかよ!?」
「もう少し・・・・もう少しだ・・・・・、」
空間はさらに歪み、重力も増していく。
コウは「むぎいいいいいいい!」と踏ん張った。
しかしあまりの重さに膝をつき、これ以上立っていられなくなる。
「早く・・・・早く逆転してくれえええええええ!」
ミキミキと骨が鳴り、このままでは押し潰されてしまう。
ダナエもノリスも限界に来ていて、あまりの重さに地面に張り付いていた。
「が、ガキいいいい・・・・もう限界だぞ・・・・・、」
「これ以上重くなったら・・・・ぺちゃんこになっちゃう・・・・、」
「ぐうううう・・・・早く・・・・早く変わってくれよ・・・・、」
コウは願う。
重力の魔法が逆転してくれと。
するとその願いが通じたかのように、重力の魔法は突然別の魔法に変わった。
みんなを押し潰そうとしていた超重力は消え去り、ふっと楽になる。
「重力が・・・・消えた?」
ダナエは不思議そうに顔を上げる。
そして「えええええ!」と叫んだ。
「な・・・・何それ!?」
コウの手の中に、真っ白な渦が浮かんでいる。
それは今までに見たことのない魔法だった。
「コウ・・・・それっていったい・・・・、」
「斥力だ。」
「せきりょく?」
「重力の反対だよ。物を突き放す力だ。
そしてこの力で、山を宇宙まで吹き飛ばしてやる!」
コウは宙に舞い上がり、山の下に回り込む。
「ダナエ!ノリスを抱えて山から離れろ!」
そう言われて、ダナエはすぐにノリスを抱えた。
そしてコウの傍まで飛んで行き、「何をするつもりなの?」と尋ねた。
「言っただろ、この力で山を吹き飛ばす。」
コウは手の中に浮かぶ白い渦を、山の方へ向かって投げた。
するとその瞬間、白い渦はシャボン玉のように弾け、辺りの空気を揺らすほどの衝撃を放った。
「きゃああああ!」
「うおおおお!なんてえ音だ、耳が壊れちまう!」
あまりの轟音に、ダナエとノリスは顔をしかめる。
そして次に顔を上げた時、山はどこにもなかった。
「あれ・・・・?」
「山がねえ・・・・。」
二人はポカンと口を開ける。
するとコウが「無事に飛んでったみたいだな」と笑った。
「飛んでった?」
「あんなデカイもんがか?」
山一つが、宇宙まで飛んで行く。
そんなことがあるものかと、二人は首を捻った。
「ほんとだよ。重力が逆転して、斥力に変わったんだ。」
「でもあんなに大きいんだよ?山が宇宙まで飛んでいくほどの力なんて・・・、」
「言っただろ?小さなクモは、少ない魔力で大きな力を出せるはずだって。
もし大きなクモの方を選んでたら、今頃山は落ちてたな。」
「そっか・・・・それで小さなクモを選んだんだもんね。」
ダナエは「よかった」と微笑む。
「これで地上にいる人達は守れたのね。」
「ああ。けど・・・・、」
「けど?」
「どうやって先へ進めばいいのか分からない。
あの山は無くなっちゃったし、それに次に繋がる道みたいなものもないし。」
コウは空を見渡し、「これじゃ先へ進めないよ」と困った。
しかしノリスが「そうでもなさそうだぜ」と答えた。
「あそこを見てみろよ。」
そう言って指さした先には、空間の歪みがあった。
さっきまで山があった場所に、まるでワープゾーンのような波が出来ている。
「ほんとだ!きっとあれが次の難関へ進む道よ。」
ダナエは嬉しそうに手を叩く。
「おいコラ!手を離すんじゃねえ!」
「ああ、ごめん!」
危うくノリスを落としそうになり、「ついうっかり」と苦笑いする。
「うっかりで殺されちゃたまんねえぜ。」
「あはは・・・ごめんね。」
「お前らコントやってる場合じゃないぞ。あの空間の歪みまで行ってみよう。」
コウは空間の歪みへ近づく。
すると何かに引っ張られるように、歪みへ吸い寄せられた。
「うおおお!やべ!」
慌てて逃げようとするが、吸い込む力はとても強い。
「コウ!」
ダナエはコウの手を掴み、どうにか歪みから引き離した。
「危ねえ・・・飲み込まれる所だった。」
そう言って冷や汗を流す。
「ねえ?どうしてこんな歪みがあるのかな?」
ダナエが不思議そうに尋ねると、コウはこう答えた。
「きっと重力と斥力の影響だと思う。」
「どういうこと?」
「重力と斥力は相反する力だ。
そしてどっちの力も、強力になれば空間を歪めちまう。」
「じゃあ別々の力が空間を歪めたせいで、あんな歪みが出来てるわけ?」
「多分な。そしてこの歪みが先へ進む道なんだろうぜ。」
コウは空間の歪みを睨みながら、難しい顔で唸る。
「近くへ行くと吸い寄せられた。
ということは、あの奥には別の空間があるのかも。」
「別の空間?」
「次の難関だよ。だけど先がどうなってるのか分からないから、迂闊には行けないな。」
そう言って困った顔をすると、案の定ノリスが突っかかってきた。
「へ!またビビッてんのか?」
「うるさいな。下手に飛び込んだら危ないだろ?」
「あれしか道がねえんなら、行くしかねえだろうがよ。」
「行って死んじまったらどうすんだよ?ちっとは考えろ。」
「ああ?んだとこの野郎。」
ノリスは拳を振り上げ、殴りかかろうとする。
しかしダナエがサッと引き離した。
「おいコラ!邪魔すんじゃねえ!」
「喧嘩はいつでも出来るわ。それより今は、あの歪みをどうするか考えないと。」
そう言って「何か良い考えはある?」とコウに尋ねた。
「う〜ん・・・行かなきゃいけないのは分かってるんだけど、でももし亜空間とかに繋がってるなら、俺たち死んじまうしな。」
「だよね。私たちはそういう場所で生きていけないし。
アドネやシウンなら平気かもしれないけど。」
「あいつらだけ行っても意味ないしな。どうしたもんか・・・・。」
コウは必死に考える。そして「ああ、そうだ!」と手を叩いた。
「マナに頼もう。」
「マナに?」
「あいつ結界魔法が使えるんだろ?だったら俺たちを護る為の結界を張ってもらおう。」
「なるほどね!その手があったわ。」
ダナエはさっそくマナを呼び出す。
すると何も言っていないのに「いいよ」と頷いた。
「中で聴いてたの?」
「まあね。」
「マナの結界魔法なら、亜空間でも平気よね?」
「多分ね。」
「なんか頼りないなあ・・・・。」
ダナエは大丈夫かなと肩を竦める。
マナはすぐに魔法を唱え、みんなを守る結界を張った。
「うお!こりゃすげえ。」
コウは息を飲んで驚く。
周りに呪術のような文字が出現し、その次に辺りの空間が紫色の波に覆われたのだ。
「これが結界か・・・・。」
「まあね。」
「これで身を守ることが出来るってわけだな。」
「多分ね。」
「どっちなんだよ・・・・・。」
本当に大丈夫かと思いながら、「じゃあ・・・行ってみるか?」と顎をしゃくる。
ダナエもノリスも頷き、空間の歪みを睨んだ。
「いよいよ最後の難関だ。みんな気い抜くなよ。」
「へ!ガキがカッコつけやがって。」
「しょうがないのよ、コウはこういうのが好きだから。」
「バカね。」
「お前らなあ・・・・・、」
プルプルと震えながら、「俺先に行くかんな!」と歪みに飛び込んだ。
「じゃあ私たちも行こっか。」
ダナエも空間の歪みへ近づく。
マナは「私は戻る」とコスモリングに戻り、ノリスは「さっさと終わらせようぜ」と下らなさそうに言った。
ダナエは一度だけ後ろを振り返り、クモ女のことを思い出す。
「もし生まれ変わったら、もう呪いなんて使っちゃダメよ。
今度は幸せになれるように生きてね。」
山と共に消えたクモ女。
彼女の冥福を祈りながら、歪みの中へ飛び込んで行った。

ダナエの神話〜星になった神様〜のイラスト(22)

  • 2017.02.25 Saturday
  • 15:10

JUGEMテーマ:イラスト

 

 

 

          コウ(クワガタモード)

ダナエの神話〜星になった神様〜 第六十八話 第三の試練へ(9)

  • 2017.02.25 Saturday
  • 15:07

JUGEMテーマ:自作小説

コウの目に毒牙が迫る。しかしその時、急にクモ女の動きが止まった。
いったいどうしたのかと見てみると、クモ女の後ろにダナエが立っていた。
「だ・・・・だ・・・だな・・・・、」
「コウ、もう大丈夫よ。」
ダナエはニコリと笑い、クモ女を睨んだ。
「お、お前え・・・・・、」
「動かないで。」
ダナエの銀の槍が、クモ女の首に当てられている。
「少しでも動いたらその時は・・・・・、」
そう言って刃を食い込ませると、「わ、分かった!」と手を上げた。
「うん、そのままじっとしててね。」
ダナエはクモ女の背中を見つめ、ぎゅっと目を凝らした。
「確かに色が違う目があるわ。一つは緑、もう一つは茶色ね。」
険しい顔で唸り、「この二つのうち、どちらかを選ばないといけないわけね」と頷いた。
「さて、どっちを選べばいいのかしら?」
唇を尖らせ、難しそうに唸る。
するとクモ女が銀の槍に手を伸ばそうとした。
「動かないで。」
槍を食い込ませ、殺気のこもった目で睨む。
「下手なことしたら本当に首が飛ぶわよ?」
「お、大人しくしてる!」
ダナエは二つの目を見つめながら、「ねえコウ?」と尋ねた。
「片方は緑、片方は茶色なんだけど、どっちが正解だと思う?」
そう言われて、コウは「その前に俺を助けろ!」と叫んだ。
「ああ、ごめん。」
ダナエは「コウを離して」と言う。
しかしツンと無視するので、「そういう態度なんだ」と怒った。
そして次の瞬間、ハチの精霊を呼び寄せて進化した。
銀の槍にマーブル模様が渦巻き、それをブスッとクモ女に刺す。
「ぎゃあ!」
「大丈夫、まだ死なないから。」
そう言ってクモ女から血を吸い取り、槍の中で毒に変えた。
「いい?もう一度言うけど、その髪をほどいて。」
「わ・・・・分かった。」
これ以上は本当に殺されると思い、素直に髪をほどく。
するとコウはバッと跳ね起きて、「お前元気じゃん!」と詰め寄った。
「魔力空っぽでヘロヘロじゃなかったのか?」
「ふふふ。」
「んだよ、気味悪い。」
「マナが助けてくれたの。」
「マナが?」
「あの子ね、面白い魔法が使えるのよ。」
「どんな?」
「結界魔法。」
「結界・・・・・?」
「うん。それを使うとね、結界の中では魔法が逆転しないの。
マナは結界魔法を使って、その後に回復魔法をかけてくれたわけ。
だからほら!もう元気いっぱい!」
ダナエはギュッとコウのほっぺをつねった。
「いでででで!痛いよバカ!」
バシッと手を払い、「おお痛てえ・・・」と押さえた。
「あいつそんな魔法が使えたのか。」
「すごいよね。」
「だったらもっと早く助けろってんだよ。」
ブチブチ言っていると、頭の上にマナが飛んできた。
「あ!お前!」
「へへ。」
「へへ、じゃねえよ。そんなこと出来るんなら、もっと早く手を貸せ。」
「まあね。」
マナはあっけらかんと笑う。
するとアドネたちもこちらへやって来た。
「お前ら!」
コウは手を振り、「みんな無事か?」と駆け寄った。
「うん。マナのおかげでね。」
アドネはニコッと肩を竦める。
シウンも「凄い奴だよ」と感心した。
「まあみんな無事で何よりだ。マナのおかげだな。」
そう言うと、アドネは「ノリスもね」と返した。
「彼がいなかったら全滅してたわ。」
アドネは後ろを振り返り、ぶっきらぼうな顔をしているノリスを見つめた。
「ノリス・・・・助けてくれてありがとう。」
「お前は命の恩人だからな。助けるのは当然だ。」
そう言ってタバコを咥え、「そっちのガキはどうでもいいけどよ」とコウを睨んだ。
「あのままクモの化け物に食われちまえばよかったのに。」
「お前は相変わらず素直じゃないな。」
「へ!」
ノリスは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
コウはクスリと笑い、「さて・・・」とクモ女を睨んだ。
「これでもうお前に勝ち目はない。卑怯な手も通用しないぞ。」
「ぐッ・・・・・、」
クモ女は悔しそうに項垂れ、「もう抵抗はしない」と手を上げた。
「よし!ならダナエ、銀の天秤を。」
「うん!」
ダナエはコスモリングから銀の天秤を呼び出す。
それをクモ女に近づけると、カタカタと揺れ始めた。
「おお!なんか動いてるぞ・・・・。」
「ここからが面白いのよ。」
ダナエはワクワクしながら天秤を見つめる。
すると右の天秤に緑の光が、左の天秤に茶色い光が灯った。
「前は可愛い虎と鷹が出てきたのよ。今度は何が出て来るかな?」
そう言って顔を近づけた時、光の中から二匹の虫が現れた。
緑の光からはイモ虫、茶色い光からはダンゴムシが現れた。
「全然可愛くない!」
「いや、可愛い必要はないだろ別に。」
コウは「こいつら何なんだ?」と指さした。
「なんで虫が出てきたんだ?」
「知らないわ。でも多分喋り出すと思う。」
「喋る?」
なんのこっちゃっと思って首を捻ると、突然イモ虫が喋り出した。
『恐縮ですが、一つお願いがあるのです。』
「んん!?」
コウは驚いて変な声を出す。
『ワタクシそろそろ成虫になりたいのですが、その前にサナギにならないといけません。
だからその・・・・どこか高い場所へ連れて行ってもらえませんか?』
「高い場所?」
『羽化するには、高い場所に繭を作らないといけないんです。
どうかよろしくお願いします。』
イモ虫はそう言って、頭から触覚を出す。
それをフリフリしながら、変な臭いをまき散らした。
「臭ッ!」
堪らず鼻を押さえると、今度はダンゴムシが喋り出した。
『ヘイよお!』
「こいつも喋るのかよ・・・・。」
『ブラザーたち!一つ頼みがあるんだ!』
「なんだよ?」
『俺を巣に帰してくんな!』
「巣?」
『地中にある巣だ。そこには俺のブラザーがたくさんいる。俺の帰りを待ってんだ。』
「ダンゴムシって地中に棲んでるのか?」
『俺はダンゴムシじゃねえ!ダンゴっぽい虫だ。』
「同じじゃねえか。」
『とにかく頼むよブラザー。俺はブラザーたちの所に帰りてえんだ。』
自称ダンゴっぽい虫は、クルンと丸まって『この通り!』と頼む。
コウは「う〜ん・・・」と難しい顔をした。
「なんだろう・・・・なんかどっちの頼みも聞きたくないな。」
『そんなこと言わないで下さい!』
『ヘイよお!冷たいぜブラザー!』
虫たちは必死に訴える。
コウは「ダナエ」と肩を竦めた。
「俺分かんねえや。お前が決めてくれ。」
「ええ!私が?」
「なんで驚いてんだよ?その天秤はお前のもんだろ?」
「だって私だって分からないもん。」
「でも第一の難関はちゃんと選んだじゃん。今度だっていけるよ。」
「それ、コウが決めるのが面倒臭いだけでしょ?」
「まあな。」
「もう・・・。」
ダナエはため息をつき、二匹の虫に顔を近づけた。
「ねえ?」
『なんでございましょう?』
『よおブラザー。元気かい?』
「その・・・・言ってることが全然分からないんだけど、どっちを選べばいいの?」
『ワタクシです!』
『へいよお!俺だぜブラザー!』
「う〜ん・・・困ったなあ。どっちを取ればいいんだろう?」
ダナエは考える。
この二匹の虫には、それぞれ異なる力があるはずだと。
そして正解を選ばないと、先へは進めない。
「イモ虫は高い場所へ行ってサナギになりたい。そして羽化したいのよね。
でもってダンゴムシは地中にいるブラザーの所に帰りたい。
・・・・・ということは、イモ虫は空を飛ぶ力で、ダンゴムシは地中を進む力なのかもしれないわ。」
イモ虫は成虫になれば蝶に変わる。それはすなわち、空を飛べるようになるということだ。
対してダンゴムシの方は、地中へ帰りたがっている。
ということは、地中で生きる力を持っているということになる。
ダナエは難しい顔をしながら考えた。
すると黙って聞いていたノリスが「よお」と口を開いた。
「お前らは先の難関へ進むのが目的なんだろ?」
「そうよ。」
「だったら選ぶんならイモ虫じゃねえのか?」
「どうして?」
ダナエは不思議そうに尋ねる。
ノリスは「分からねえのか?」とタバコの煙を飛ばした。
「お前らは空が飛べるんだ。だったら山から出ることは簡単だ。
だが先の難関へ進むとなると、今はまだ持っていない力が必要になるだろ?」
「まあ・・・それはそうね・・・・、」
「船長さんの言う通り、イモ虫は空を飛ぶ力、ダンゴムシは地中を進む力だとしよう。
だとしたら、ダンゴムシなんか選んだって意味ねえんだ。
なぜならこの山ではあらゆる力が逆転しちまう。
となると、地中を進む力を選んじまったら、それは空を飛ぶ力に変わっちまうってことだ。」
「・・・・・・ああ!」
ダナエはポンと手を打つ。
「私たちは空を飛べるんだから、そんな力を手に入れても意味がないってことね?」
「そういうこった。なら選ぶのはイモ虫だ。
そいつに空を飛ぶ力があるとしたら、それは地中を進む力に逆転するはずだ。」
「だったら三つ目の難関は、この山の地中にあるってことね?」
「船長さんの考えが正しいって前提ならな。」
「どういうこと?」
「イモ虫は空を、ダンゴムシは地中を進む力を持ってるとしたらってことだ。
だが俺は少し違う考えをしてる。」
「違う考え?」
ダナエは駆け寄り、「お願い教えて」と言った。
「ノリスはどう考えるの?どっちを選べばいいと思う?」
そう言って真剣な目で見つめると、ノリスはこう答えた。
「とっちも選ばねえ。」
「はい?」
「空を舞う力にしろ、地中を進む力にしろ、先の難関へ進むことは不可能だ。」
「ええ!?どうして?」
「さっきも言ったが、空を飛ぶ力を選んでも意味はねえ。
かといって地中に進んでも何もねえだろうよ。」
「だからどうして!?」
「いいか?もしこの山まで到達した奴が、地中を進む力を持ってたとしたらどうなる?
こんな難関に意味はねえだろうが。」
「ああ、言われてみれば・・・・、」
ダナエは小さく頷く。
「でもここでは二つの力を選ばないといけないんだよ?
だったらこの二匹の虫のどっちかを選べってことだと思うんだけど・・・。」
ダナエは困った顔で首を傾げる。
するとノリスは小さく笑いながら煙を飛ばした。
「目の前に見せられたもんだけを選択肢だと思うな。」
「え?」
ダナエは素っ頓狂な声を出す。
眉を寄せ、「でも他に選ぶ力なんてないよ?」と尋ねた。
「出て来たのはこの二匹の虫だけだもん。それともノリスには別の虫が見えるの?」
「ああ。」
「ど、どこにいるのその虫は!?」
「そこだ。」
そう言ってクモ女を睨んだ。
「え?この人が・・・・・?」
「そいつはあらゆる魔法を逆転させる力を持ってる。
そんな力は滅多にねえ。俺ならソイツを選ぶね。」
「この人を・・・・、」
ダナエはゴクリと息を飲む。
「ねえあなた・・・・もしかして、また私たちを騙したの?」
そう尋ねると、クモ女はギクリとした。
「この天秤に出てきた二つの虫・・・・これってどっちも正解じゃないんでしょ?
本当はあなたがこの天秤に乗るはずだったんじゃないの?」
「・・・・・・違う。」
「目が泳いでるけど・・・・。」
クモ女はビクビクと目を逸らす。
するとノリスが「おい」と顔を覗き込んだ。
「俺を騙そうなんざ無駄だぜ。」
そう言って髪を掴み、グイッとこちらを向かせた。
「俺はこれでもマフィアだ。」
「マフィア・・・・?」
「マフィアってのは、他のファミリーとドンパチやるだけが仕事じゃねえ。
どっちかっつうと、交渉事の方が多いんだよ。」
「交渉?」
「マフィアは徹底的に利益を追求する。だから相手のことなんざ考えねえ。
どれだけこっちが有利になるかだけを考えて話を進めるんだ。
企業相手だろうが、同業者が相手だろうが、時には国が相手でもな。」
そう言って牙を剥き出す。
「だがこっちが自分の事を考えている時、相手もまた同じだ。
いかにテメエが有利になるか考えて交渉してくる。
一見へりくだってるように見えても、後ろからこっそり毒針を回してたりするもんさ。」
ノリスはナイフを取り出し、クモ女に向けた。
「しょうもない真似はするな。動脈から血が噴き出るぜ。」
そう言われて、クモ女はノリスに回そうとしていた手を引っ込めた。
「ほらこれだ。一瞬の油断もならねえ。」
可笑しそうに笑いながら、「俺はな」と続ける。
「テメエみてえな奴は信用しねえ。なぜならこの鼻が嘘を嗅ぎ分けるからな。」
そう言ってスンスンと鼻を動かした。
「お前はいつだって自分のことだけを考えてる。
俺にはそれが分かる。だから・・・・これ以上嘘を吐くな。
目ん玉くり抜かれたくなかったら、知ってることを正直に話せ。」
目元にナイフを突き立て、少しだけ突き刺す。
「ぎゃあ!」
「ちょっとノリス!ダメよそんなことしちゃ・・・・、」
「ガキは黙ってろ!」
ノリスはものすごい剣幕で怒鳴る。
「俺がいなきゃ、テメエらコイツに騙されてんだ。」
「そんなこと・・・・、」
「船長さん、人を信用するってのは覚悟がいるんだぜ。
裏切られたら一瞬であの世行きってこともある。」
ダナエは「でも・・・」と言い返そうとしたが、ノリスの眼光に圧された。
「ダナエ、ここはノリスに任せよう。」
「コウ・・・・。」
「このクモ女、確かに信用出来ないよ。
たくさんの命を奪って、その罰としてここにいるような奴なんだから。」
コウは「続けてくれ」とノリスに言った。
「へ!」
鼻を鳴らし、ノリスはさらにナイフを食い込ませる。
「ぎゃああ!」
「オラ、とっとと吐け。でねえと目を失うぞ。」
「分かった!知ってることを話す!」
「言っとくがな、嘘ついても無駄だぜ。この鼻がすぐに嗅ぎ分ける。」
目元にナイフを突き立てたまま、「お前がこの山を攻略する力そのものなんだろ?」と尋ねた。
「偽の選択肢を提示して、俺たちを騙そうとした。
じゃあなぜそんな事をしたかというと、ここをクリアされたらお前がマズイことになるからだ。」
「ひいいい!」
さらにナイフを刺し込まれ、目玉が抉られそうになる。
「これは俺の勘だが、もしここをクリアされたら、この山は元に戻るんだろ?
空に浮かんでいられなくなって、地上へ戻る。
しかしそうなったら、お前は捕まるかもしれない。
討伐対象の魔物に指定されているから、治安機関が追いかけてくるだろう。」
「痛い!ちょっと待って!」
「動くんじゃねえ!」
ノリスは腹を蹴飛ばし、馬乗りになってナイフを突き立てる。
「ひいいいい!助けて!」
「助けてほしけりゃ正直に話せ。どうすればこの山を攻略し、先へ進める?」
「知らない!」
「そうかい。じゃあこっちの目はいらねえな。」
ノリスはナイフを刺し込み、本当に目玉を抉ってしまった。
眼球が落ちて、転がった跡に血が滲む。
「いいいいぎゃああああああああ!」
クモ女は目を押さえて絶叫する。
ダナエは「ダメえええ!」と止めに入った。
「お願いもうやめて!」
「おいガキ、船長さんを捕まえてろ。」
ノリスに言われて、コウは「ダナエ」と引き離す。
「ここはアイツに任せよう。」
「何言ってるのよ!こんな酷い事やめさせなきゃ!」
「でもあのクモ女は信用出来ない。ノリスに任せるしかないんだ。」
「だからってこんなのダメよ!私は許さない!」
ダナエはクモ女に近づき「ごめんなさい」と謝った
「ううう・・・よくも・・・・よくもおおお・・・・・、」
「ねえお願い。知ってることを正直に話して。その代わり、あなたの事は守るから。」
ダナエは転がった眼球を見つめる。
それを手に取ると、「マナ」と言った。
「この人に回復魔法をかけてあげて。」
そう頼むと、「うふふ」と笑った。
「どうしたの?」
「あんた・・・・死ぬわよ?」
「へ?」
「後ろ。」
マナはツンツンと指を差す。
するとダナエの後ろから、クモ女の手が伸びていた。
「きゃあ!」
慌てて身をかわすが、髪の毛を掴まれてしまう。
そして強引に引き寄せられて、毒牙を打ち込まれそうになった。
「いやあああ!」
ダナエはギュッと目を閉じる。
しかし間一髪でノリスが助けた。
ナイフを振るい、クモ女の顔を突き刺したのだ。
「ぎゃあああああ!」
「だから言ったろうが。」
ノリスはナイフを抜き、またクモ女の目に突き立てる。
「いいか船長さん。何度も言うが、コイツは信用ならねえ。」
「・・・・・・・・・。」
ダナエは引きつった顔でクモ女を見つめる。
「どうして?どうしてこんな状態になってまで、人を騙そうとするの?」
悲しい目で、理解できないという風に首を振る。
「素直に喋れば助かるんだよ?なのにどうしてこんな・・・・、」
「そこに秘密があるのかもな。」
「秘密?」
「口が裂けても言えない理由があるってこった。」
ノリスはナイフを動かし、クモ女の首に当てる。
「喋れば楽になるのに、意地でも喋ろうとしない。
それはつまり、喋ったら死んじまうってことだ。」
「死ぬ・・・・?」
「ああ。」
ノリスは頷き、こう続けた。
「この山を攻略する方法、それはこのクモ女を殺すことだ。」
そう言って、
首に当てたナイフをブスリと突き刺した。

大地主神社(2)

  • 2017.02.24 Friday
  • 16:10

JUGEMテーマ:神社仏閣

 

 

 

 

 

夕陽が強くなってきました。

街が眠る頃です。

 

 

 

 

 

 

 

街を眺めるかのような狛犬。

いつだって見守っているんでしょうね。

 

 

 

 

 

 

 

街を一望できる素晴らしい神社でした。

頭を下げて、暮れる街に帰りました。

ダナエの神話〜星になった神様〜 第六十七話 第三の試練へ(8)

  • 2017.02.24 Friday
  • 16:04

JUGEMテーマ:自作小説

「ぐぎぎ・・・・・・よくも・・・・・・、」
クモの中から人の声がする。
そして身体を突き破って、人の手が現れた。
「許さん・・・・・許さんぞ・・・・・・・、」
ベリベリとクモの皮を突き破り、たくさんの手が現れる。
コウはゴクリと息を飲んだ。
「よくも可愛い私の子供たちを・・・・許さん・・・・食い殺してくれる!」
クモの身体が真っ二つに割れ、中から人が現れる。
しかしそれは普通の人ではなかった。
胴体から十本の手が生えていて、その代わりに足がない。
髪はクモの糸のように絡まっていて、目が四つもあった。
背中にも四つの目を持ち、胸には七つの乳房がぶら下がっている。
口からは牙が伸び、毒液が滴っていた。
「妖精め・・・・・よくも私の愛しい子供たちを・・・・、」
灰に変わったクモたちを、悲しい目で見つめる。
「だがこの程度で私は死なない!
どんな力も、この八つの目の前では逆転してしまうのだから!」
そう言って顔と背中にある目を光らせる。
すると炎は水に変わり、森は砂に変わってしまった。
「なッ・・・・魔法を逆転させやがった!」
コウは「おいクモ女!」と叫んだ。
「もうこれ以上戦っても無駄だ!大人しく降参しろ!」
「何を馬鹿な・・・・。お前ごときに何が出来る?
頼みの綱の魔法も、私には通じなかったぞ。」
「そうだな。でもこれが最後の魔法だなんて言ってない。」
「なに?」
「最初から分かってたよ、クモを倒して終わりじゃないって。
必ず次に何かが出て来るはずだってな。」
「ふん!強がりを・・・・、」
「強がりじゃないさ。これは第三の試練なんだ。だったら必ず二つの力の選択を迫られる。
それが来るまでは終わったとは言えない。」
コウはクモ女の前に降り立ち、「来い!」と拳を構えた。
「お前なんざブッ飛ばしてやる。」
「素手で戦おうというのか?」
「ああ。お前には魔法は通用しそうにないからな。」
「何を言う。さっきは次の魔法があるみたいな言い方をしていたじゃないか。
やはりただのハッタリだったか。」
クモ女はニヤリと笑い、牙を剥き出した。
「言っておくが、素手なら勝てると思うのは大間違いだぞ。
私の力は魔法を逆転させるだけではないからな!」
そう言った次の瞬間、クモ女はコウの目の前から消えた。
「なッ!速ッ・・・・・、」
あまりの速さに言葉を失っていると、いつの間にか羽交い絞めにされていた。
「うおお!」
十本の手が絡みつき、身体中を締め上げられる。
「は・・・離せコラ!」
必死に暴れるが、身体の全てを締め上げられた状態では何も出来なかった。
「このまま骨をバラバラにしてやる。
首は最後まで残して、意識のある状態で食い殺してやる。」
クモ女は力を入れ、コウの手足をへし折ろうとした。
「ぬぐぐ・・・・なめんなよクソ虫あああああ!」
手足の関節がミキミキと音を立てる。
コウは痛みを堪えながら魔法を唱えた。
「無駄だ。私にはどんな魔法も通用しない。」
そう言ってさらに力を入れ、コウの手足を破壊しようとした。
「ほら、もう折れるぞ。」
限界まで曲がった手足の関節。あと一ミリでも動かせば折れる。
クモ女はわざとそこで止めて、「けひゃひゃ!」と笑った。
「痛いだろう?もうすぐ折れると思うと怖いだろう?」
顔を近づけ、べろりと舐める。
「まずは左腕の関節からだ。その次は右腕、その次に両足。
その次は肋骨をもぎ取ろうか。いや、それよりも股間を握りつぶしてやった方が面白いか。」
楽しそうに笑いながら、「まずは一本目」と左腕を折ろうとした。
コウの関節が嫌な音を立てながら、逆方向に曲がっていく。
そして遂にはベチン!と鈍い音が鳴った。
「ほら折れた。」
クモ女は嬉しそうに笑いながら、「叫べ!」と言う。
「我慢するんじゃない。痛いなら痛いと叫べ。けひゃひゃひゃ・・・・・・ひゃ?」
楽しそうに笑っていた顔が、「あれ?」と固まる。
「・・・・なんだこれは?腕が・・・・・取れてる?」
折ったはずのコウの腕が、ポロリと取れていた。
「なんで?千切った覚えなんかないのに・・・・・、」
不思議に思っていると、顎に鋭い衝撃が走った。
「げびゃッ!」
メキョン!と音が響き、クモ女の顎が外れる。
「はぎょろもおお・・・・・、」
口の中が切れ、ぼたぼたと血が流れる。
すると今度は鼻づらに衝撃が走った。
「めぎょッ!」
顎に続いて、鼻の骨も曲がる。
噴水のように鼻血が飛び出し、「どぼじて・・・?」コウを睨んだ。
「あんだ・・・・ひょほひゃはは・・・・・?」
「何言ってっか分かんねえよ。」
「あぎょろも!」
今度はボディに衝撃が走り、盛大にゲロを吐く。
「おぼろぼえろろろろろ・・・・・・・、」
クモ女はその場に崩れ落ちる。
コウは拳を握りながら「ふん!」と鼻を鳴らした。
「どうしたよ?さっきまでの勢いはどこいった?」
「あんひゃ・・・・しょの・・・しゅがたは・・・・いったい・・・、」
「ああ、これ?魔法だよ魔法。」
「ま・・・・まはおう・・・・?」
クモ女は八つの目でコウを睨む。
コウはマッスルモードのようにムキムキになっていた。
しかしそれはマッスルモードとは違う魔法だった。
全身が茶褐色に染まり、艶やかに光っている。
妖精の羽は退化して、その代わり盾のような頑丈な羽が伸びていた。
頭からは短い触覚が生えて、腕の内側にギザギザした棘が並んでいる。
拳は鉄を圧縮して固めたように思えるほど、重厚で硬そうだった。
その姿はロボットを思わせるほど無機質で、とにかく硬くて強そうだ。
「これは虫と植物の魔法を合わせたものだ。」
「む・・むひとひょくぶひゅ?」
「お前はどんな魔法も逆転させて防いでしまう。
だったら対抗手段は一つしかない。
自分自身に魔法を掛けて、強化することだ。」
「・・で、でも・・・・・、」
「分かってる。この山じゃ強化する魔法さえ逆転しちまう。
でも虫と植物だけは逆転しない。
それはどうしてか?・・・単に力が弱いからだ。」
コウはそう言ってライターを擦る真似をした。
「この山じゃライターのような弱い火ならそのまま使える。
それと同じで、植物や虫の魔法はそこまで力が強くないからそのまま使えるんだ。」
「だ・・・だったら・・・・どぼじてそんな身体に・・・・・、」
クモ女は不思議に思う。
力の弱い虫や植物の魔法で、どうしてそこまで身体を強化できるのかと。
するとコウはこう答えた。
「簡単さ。じょじょに力を強くしていっただけだ。」
「じょじょに・・・・・・?」
「まだ分からないか?」
コウはニヤリと笑う。
「俺は植物の魔法を使って森を作った。でもその前に自分にも魔法を掛けておいたんだ。
樹木の魔法と甲虫の魔法をな。」
「こ・・・こうちゅう?」
「まず魔法を使って、自分の体内に植物を生やす。
そうすりゃ小さな樹が生まれて樹液を出す。
その後に虫の魔法を掛けて、体内に虫の精霊を住まわせた。」
「な・・・・なにい・・・・、」
「虫の精霊は樹液を吸って、俺の体内で成長していった。
幼虫からサナギへ、そして硬い甲殻を持つ成虫へと姿を変えた。
俺は成虫になった虫の精霊と融合し、自分の身体を強化したわけだ。」
「ひょ・・・・ひょんなほほがへひるほは?」
「出来る。難しいけど・・・・でもやろうと思えばできるんだ。
その為には繊細な技術が必要になるけどな。でも俺はそういうのは得意だから。」
クモ女は信じられないという風に首を振った。
「しょんな・・・・ましゃかしょんなひょうひょうでふよくなるなんて・・・、」
「本当のことさ。そこに証拠がある。」
コウは地面を指さす。するとそこにはフニャフニャになったコウの皮があった。
「こ、これは・・・・?」
「俺の皮だよ。虫の精霊と融合した時に剥けたんだ。まあ脱皮に近いようなもんだな。」
「じゃあひゃっひおっは腕は・・・ただの皮・・・・?」
「そういうことだ。俺は虫の精霊の力を借りてパワーアップした。
そして・・・この腕で締め上げるとどうなるか?」
コウは腕を広げ、クモ女を締め上げた。
「ぎゃあああああああ!」
凄まじい力で締めあげられ、ミキミキと骨が鳴る
「痛い痛い!」
しかもコウの腕には棘が付いている。
それがブスブスと刺さって、いくら暴れても抜け出すことが出来なかった。
「どうだ、クワガタのパワーは?」
「く・・・クワガタああああ?」
「俺が融合したのはクワガタの精霊なんだ。」
「しょ、しょんな・・・・・げひゅう!」
「植物と虫の魔法の良い所は、生き物としての特性を備えてる所だ。
だから時間を掛ければ強化することが出来る。
森を作ったり、こうして強くなるまで成長させたり!」
そう言ってさらにクモ女を締め上げた。
「ぎゃあああああああああ!千切れるううううう!」
「悪いがクモじゃクワガタには勝てないぜ。
硬い甲殻がどんな攻撃も防ぐし、圧倒的なパワーで挟み潰すからな。」
「だあああああああああおおおおお!ちょっとタンマ!」
クモ女は必死に首を振る。
その時、コウの後ろに巨大なクワガタの精霊が浮かび上がった。
黒光りする甲殻、ガッチリと強そうな大顎、そして強い闘争心を感じさせる目。
クモ女はぶるぶると首を振り、「参った!」と叫んだ。
「わはひの負けだ!」
それを聞いたコウはすぐにクモ女を離した。
「ううう・・・このガキいいいい・・・・、」
クモ女は悔しそうに睨む。
しかしすぐに目を逸らした。
甲虫を宿した頑丈な外皮、全身をバラバラにされるかと思うほどのパワー。
それに何より、コウの後ろに浮かんで見える恐ろしいクワガタの精霊。
負けたフリをして毒牙を打ち込んでやろうと思ったが、そんなことをすれば自分が殺される。
「ぐうう・・・・クショ!」
傷ついた身体を撫でながら、がっくりと項垂れた。
「おいクモ女。」
コウは顔を近づけ、「この山の秘密を知ってんだろ?」と尋ねた。
「俺たちは次の難関に進みたいんだ。
どうすればこの山を攻略出来るのか教えろ。」
「・・・・・・・・・。」
「ああ、顎が外れてるんだっけ?なら・・・・、」
「もぎょッ!」
「ほら、これで喋れるだろ?山の秘密を教えろ。」
「誰がお前なんかに・・・・、」
「あっそ。」
「わあああ!やめろ!挟むな!」
「じゃあ教えてくれる?」
「言う!言うから挟むな!」
クモ女は「クソッタレ・・・」と吐き捨てた。
「この私が・・・・こんな妖精のガキに・・・・、」
「負けは負けだ。」
「分かってる・・・・。武神との約束通り、お前たちにこの山を攻略する方法を教える。」
「武神との約束?」
コウは首を捻る。
クモ女は「私はアイツにここへ連れて来られたんだ」と言った。
「私はその昔、普通の人間だった。
でも夫に浮気をされて、どうしてもそれが許せなかった・・・・。
だからどうにかして復讐をしようと思った。
色々と方法を考えたけど、どれもしっくり来なかった。
殺すだけなら簡単だけど、そんなのじゃ割りに合わない。
苦しんで苦しんで、苦しみぬいてから殺してやろうと思ったんだ・・・・。」
それは聞いたコウは「怖いよお前・・・」と青ざめた。
「ふん!浮気をする方が悪いんだ。」
「いや・・・話の腰を折って悪い。で、続きは?」
「私はありとあらゆる方法を考えた。毒殺、焼殺、リンチ、感電死・・・・・・、」
「ごめん・・・細かいところはいいや。」
コウはさらに青くなって、《コイツやばいな・・・》と首を振った。
「色々考えた挙句、私は虫を使うことにした。」
「虫?」
「呪術の中には、虫を使って呪い殺す方法がある。」
「なら呪術師にでも頼んで、旦那を呪い殺したのか?」
「違う。私がやった。」
「え?お前が?でもさっきはただの人間って言ったじゃん。呪術なんて使えるの?」
「最初は無理だった。でも呪術師に弟子入りして、寝る間も惜しんで修行した。」
「・・・・・・・・・。」
「復讐は私の手でやらないと意味がない。
だから・・・・この手で呪い殺してやろうと頑張った!
修行して、勉強して、日々自分を鍛え上げて・・・・。
二年も経つ頃には、師匠から免許皆伝のお墨付きをもらった。」
「ごめん・・・・ほんとに怖いよお前。」
コウは少しだけクモ女から離れた。
「何度も言うけど、浮気をする方が悪いんだ。私がどだれけ夫のことを愛してたか・・・。」
「うん、いや・・・・まあその・・・話を続けてくれ。」
「ふふふ・・・・あんたもよく覚えておくといい。
愛が強ければ強いほど、裏切られた時の憎しみは大きくなる。」
「・・・・ゴクリ。」
「たった一度の裏切りが、愛を殺意に変える。逃げられないわ・・・・・ふふふ。」
コウはアリアンロッドの顔を思い出す。
もし自分が他の女に走ったらどうなるか?
「・・・・鬼の形相で剣を抜く所までは見えた。後は・・・・想像したくないな。」
ブルリと震えて、「で、その後は?」と尋ねる。
「私は呪術を使い、夫を呪い殺した。
たくさんの毒虫や気持ちの悪い虫が、夫に襲いかかったわ。
ついでに浮気相手の女にもね。」
「・・・・・・・・。」
「ふふふ・・・・あの時の悲鳴と顔、今でも忘れられない。
助けてくれえ〜って・・・・馬鹿みたいに・・・・。
悪いのはお前だってのに・・・・ふふふふふふふ・・・・。」
クモ女はニヤニヤ笑い、ついには吹き出した。
「あは!最高の気分だったわ!」
「いや、あの・・・細かいところはいいからね、大事なところだけ教えてくれないかな?」
「その顔・・・あんたも女に恨みを買うような覚えがあるのね?」
「ち、違うよ!そんなものは断じてない!天地天命に誓って!」
「そんなこと言う奴ほど怪しいのよ。もし私があんたの妻だったら・・・・、」
「だから何にもないって!いいから先を続けろ!」
コウはダラダラと冷や汗を流す。
クモ女はクスクス笑い、「いつか天罰が下るわ」と言った。
「私の呪いは上手くいった。夫も浮気相手の女も、もがき苦しんで死んでいった。
気持ちが良いくらい大成功だったわ。でも・・・その後がよくなかった。」
笑顔を消し、暗い表情に変わる。
「私はつい調子に乗り過ぎた。
あまりに強力な呪いを使ったが為に、私自身にも呪いが跳ね返って・・・・、」
「なら相当な目に遭わせて殺したんだな・・・・。」
「人を呪わば穴二つ・・・・。師匠にそう忠告されていたのに、それを忘れてた。
夫と浮気相手の女を殺した後、、虫たちは私にも襲いかかってきた。
私は死にかけて意識を失った。そして・・・・次に目を開けたらこの様よ。」
そう言って、クモだが人だか分からない姿を見つめた。
「私は虫の呪いにかかった。もう普通の人間には戻れない。
でもその代わり、不思議な力を手に入れたわ。」
「それが魔法を逆転させる力か。」
「そう・・・。どうせ人間に戻れないなら、化け物として生きていこうと決めた。
愛を裏切る悪者たちを、この手で次々と・・・・、」
十本の手を見つめ、この手で息の根を止めた者達を思い出す。
「とても良い気分だったわ。愛を踏みにじるような奴らを殺すのはね。
でもあまりに殺し過ぎたせいで、私はとうとう討伐対象の魔物に指定された。
そしてその時に私を捕まえたのが武神よ。」
クモ女は遠くを見つめ、「あの男め・・・」と歯ぎしりをした。
「アイツは私を捕まえた後、治安機関に引き渡さなかった。
その代わりとして、ある山へ連れて行かれたわ。」
「それがこの山か?」
「ええ。私の罪は死んだ程度では償えない。だからこの山で試練の壁になれと言われたの。
最初は何のことだか分からなかった。でも武神は時が来れば分かると答えたわ。
・・・・・それから何百年も経って、武神は邪神に殺された。
その時、この山は宙に浮かび上がり、逆さまの状態で空に浮いたの。」
「試練の始まりってわけだな。」
「ここへ来たあんた達なら知ってるでしょうけど、武神は自分にもしもの事があった時の為に、大きな力を残したの。
そしてそれを守るのが私の役目。
あんた達が戦ったレイスの群れは、武神の力に目がくらんでやって来た者達よ。
それをこの私が・・・・ふふふ。」
「ならノリスの推測は正しかったわけだ。」
コウは腕を組みながら、「アイツ、嫌な奴だけど頭はキレるな」と頷いた。
「お前は今でもその役目を守ろうとしているわけか。
だから俺たちにも襲いかかって来たんだな?」
「そうよ。そうでなければ、誰がこんな場所に棲みつくもんか。」
「でもさ、そんなにここが嫌なら出れば良かったじゃん。
お前はこの山を攻略する方法を知ってるんだろ?」
そう尋ねると、「知ってるけど、私じゃ無理よ」と答えた。
「私はあくまで試練を与える者。だからここから出ることは許されない。」
「俺たちがクリアしても?」
「分からないわ。」
「分からない?」
「いつまでここにいればいいのか、武神は何も言わなかった。
でも確かなことが一つある。それはこの山から出ると・・・・、」
「出ると・・・・?」
「本当の虫に変わる。それも誰からも嫌われるような醜い虫に。」
「武神がそう言ったのか?」
「そうよ。お前の居場所はここしかないって。
もし出たりなんかしたら、ゴキブリとかゲジゲジとか、とにかく気味の悪い虫に変わって、何百年と生き続けることになるだろうって。」
「そうなのか・・・なんか辛いな。」
「残念だけど、これは自業自得だから。
私に掛かった虫の呪いは、今でも私を蝕もうとしている。
でもここにいる限りは、完全な虫に変わることはない。
いったいいつまでここにいればいいのか・・・・・。」
そう言って十本の腕で自分の身体を抱いた。
「もうこんな話はいいでしょ。」
「ああ。俺が聞きたいにはこの山の攻略方法だ。」
コウは山を見渡し、険しい顔になる。
「この山のどこかに、二つの力があるはずなんだ。
そしてどちらの力を取るか選ばなきゃいけない。
問題はその力がどこにあるかなんだけど・・・・・、」
「ここにあるわ。」
「ん?」
「だからここ」
クモ女は自分の背中を指さす。
「ここって・・・・背中の目か?」
「そう。背中にある四つの目のうち、二つだけ色が違うでしょ?」
「そうか?」
「よく見て。」
そう言われて、コウは顔を近づける。
するとその瞬間、クモ女は髪を伸ばして巻き付けた。
「うお!何すんだ!」
「ふふ・・・ふふふふ・・・・・。」
「何笑ってやがる!早く解け・・・・・・て、あれ?」
コウは目眩がして、その場に膝をついた。
「な・・・なんで・・・・?」
平衡感覚がなくなって、そのまま倒れてしまう。
クモ女は「きゃはあああああ!」と笑った。
「引っかかった!」
「な・・・・なにい!?」
「その髪には幻惑作用があるんだよ!」
「幻惑・・・・作用・・・・?」
「足元がおぼつかなくなって、立っていることが出来なくなる。お前はもうお終いだ!」
「馬鹿かお前。こんなもんで俺をどうにか出来ると思うなよ!」
コウは「むぎいいい!」と力を入れて、髪を千切ろうとした。
「むぎいいいいいい・・・・・・・切れない。なんで?」
クワガタの精霊と融合してパワーアップしたはずなのに、クモ女の髪はまったく切れなかった。
「ふふふふ・・・・・きゃはあああああ!」
「クソ!なんで切れないんだよ!」
「切れるわけないだろ!私の髪はクモの糸と同じなんだ!
一度絡まったら最後、私が解くまで絶対に解けない!」
「お・・・お前ええ・・・・騙したな!」
コウはギリっと歯を食いしばる。
クモ女は「はあ?」と笑った。
「騙すって何?」
「だって背中を見ろって言ったじゃねえか!目の色が違う場所があるって。
それで顔を近づけたらこのザマだ!最初から狙ってたんだろ?」
「背中の目の色が違うのは事実よ。」
「だったらなんでこんな・・・・、」
「お前が油断して近づくのを待ってたんだよ!」
「ならやっぱり騙したんじゃねえか!」
「うるさい、騙される方が悪いんだ。」
クモ女は顔を近づけ、「お前も殺してやる」と睨んだ。
「いくら硬くても、弱点だってあるわ。」
そう言ってコウの目に毒牙を刺そうとした。
「うお!やめろ!」
「動くんじゃない!」
さらに髪を絡ませて、ガッチリと顔を固める。
「むぐうううう・・・・ダメだ・・・。やっぱ切れない。」
クモ女の髪はとても丈夫で、まったく千切れない。
悔しそうに顔を歯を食いしばっていると、目の前に毒牙が迫ってきた。
「うわあ!」
「きゃはああああ!」
「うわああああ!嫌だ!」
「お前もレイスになるんだよ!」
「ひいいいいい!ちょっとタンマ!」
「私に卵を産み付けられて、子供たちの餌になるんだ!
そして永遠に私にコキ使われるがいい。醜い化け物になってな!」
クモ女の毒牙が、コウの目に迫る。
「ぎゃあああああ!」
ギュッと瞼を閉じるが、指で強引に開けられてしまった。
「た・・・・頼む!一回タンマ!」
「嫌よ。」
「でも俺は許しただろ!お前が降参って言って、ちゃんと助けたじゃねえか!」
「そうね。だったらやめてあげる。」
「ほっ。良かった・・・・・・、」
「はい、じゃあ毒牙を打つわ。」
「おいコラ!助けてくれるんじゃないのか!?」
「一回だけやめてあげたでしょ?だからこれは二回目。」
「ふざけんな!そんなの屁理屈だ!」
「お互いに一回ずつタンマした。だから借りは返したわ。」
「いやいやいやいや!そういう問題じゃないって!」
「そういう問題よ。」
「ひいいいいいいいい!」
コウは引きつった顔で叫ぶ。
目玉に毒を打たれ、その後にクモ女の卵を産みつけられる・・・・。
もしそんな死に片をすれば、自分もレイスになってしまうだろうと思った。
「うわああああ!マジでタンマ!ほんとにお願い!」
涙目になりながら頼んでも、クモ女は聞いてくれない。
そしてとうとう目に毒牙が触れた。
「もう・・・・お終いだ・・・・・。」
自分は醜い化け物になる。そしてクモ女にコキ使われる。
コウは「なんて最低な終わり方だ・・・」と運命を呪った。
放心した顔に、一筋の涙が流れていく。
しかしその時、クモ女の毒牙が止まった。
いったいどうしたのかと見てみると、クモ女の後ろにダナエが立っていた。

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