お休み

  • 2017.04.30 Sunday
  • 17:20
通信速度の制限がかかってしまったので、今日はお休みします。
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    不快なパーソナリティ

    • 2017.04.29 Saturday
    • 18:12

    JUGEMテーマ:日常

    車のお供といえば音楽とラジオ。
    この二つは欠かせません。
    最近はラジオを聴くことが多いんですが、上手いパーソナリティのラジオは気持ちいいです。
    ターザン山下さん、藤原美咲さんのラジオはとても好きです。
    二人ともすごく上手いですよね。
    面白いし明るいし、聴いていて気持ちよくなります。
    最近はテレビをあまり見なくて、ラジオの時間が増えました。
    テレビだと芸もないのに毒舌をする人がいるから、気持ちよくなるどころか不快になることの方が多いです。
    上岡龍太郎さんや談志師匠、それにダウンタウンややしきたかじんさんの毒舌は大好きです。
    仕切りや芸が上手いから、毒を吐いても楽しく見られるんですよ。
    有吉さんもかなりの毒舌家だけど、下積みのある芸人さんなので、やはり上手いと思います。
    最近はあまりやらないけど、あの毒の利いたあだ名は好きでした。
    マツコさんは頭がいいし、コラムニストだけあって、言葉選びも上手いです。
    とんでもない暴言になることもあるけど、的を射た指摘が多いので、聞き入ってしまうことも多々あります。
    それに対して、子役から役者あがりの某タレントさんの毒舌は聴いていられません。
    滲み出る横柄な態度、不機嫌を固めたような仏頂面、毒を吐くというより、言いたいことだけ言ってはいお終いという感じです。
    以前に宮根誠司さんと共演した際、あまりの無礼な態度にキレられていました。
    さすがに報道畑の腕のある司会者は怖かったようで、怒られた後はシュンと萎れていましたが。
    宮根さんに「なんであんな無茶苦茶するん?」と聞かれて、「自殺願望があるのかも・・・」と答えていました。
    どうぞ一人で自殺なさってください。
    巻き込まれる周りが迷惑です。
    共演者も視聴者も。
    構ってほしいなら構ってほしいと、素直に言えばいいんです。
    テレビがこんな人を持て囃す状態なので、せめてラジオくらいは気持ちよく聞きたいんです。
    多くのパーソナリティは、気持ちよくラジオを聴かせてくれます。
    上に挙げた方々はもちろんのこと、やまだひさしさんのはっちゃけたトークも面白いです。
    それに朝のラジオでパーソナリティを務めている、女優の朝倉あきさんの話し方も、とても丁寧で好きです。
    腕のあるパーソナリティは男女問わず人気があるでしょう。
    そしてその人気の秘訣は、リスナーを一番に考えているってことだと思います。
    丁寧に話すのか?それともやまだひさしさんのようにはっちゃけた感じで話すのか?
    それは個々のパーソナリティによって違います。
    だけどどのパーソナリティも、リスナーのことを一番に考えているなあという印象を受けます。
    このラジオを聴いている時間は、絶対に楽しませるとか、和ませるとか。
    リスナーが心地よく聴けるように進めています。
    しかしそうでない人がいるのも確かで、とあるラジオを聴いて「なんだコイツは?」と顔をしかめました。
    あまりに不快になったので、途中で切ってしまうほどでした。
    夕方のラジオ。
    男女二人のパーソナリティで、男性の方はとても聴き取りやすい声と喋り方でした。
    進め方も上手く、キャリアのある人だなとすぐに分かるパーソナリティでした。
    対して女性の方のパーソナリティ、この方が聴くに堪えませんでした。
    のっけからポンと毒が出たので、そういう芸風の方なのかなと聴いていました。
    しかし出て来るのはただの毒、それも相手のパーソナリティに対してです。
    そこには上に挙げた芸人さんたちのような芸はなく、マツコさんのような博識もありません。
    某タレントさんと同じく、ただただリスナーを不快にさせるものでした。
    挙句には相手のパーソナリティが選んだ曲(その方が好きな曲をいくつか選ぶコーナー)に対して、楽しんでいるのはあなただけですよという始末。
    あのね、もしもその方が選んだ曲のファンがそれを聴いたら、間違いなく腹が立つと思いますよ。
    パーソナリティが個人の好き嫌いを言うのは自由ですが、その先に芸なり博識なりがなければ、ただの悪口に成り下がってしまいます。
    また相手のパーソナリティが、曲について詳しく解説していく中でも、単純な相槌しか打てない様子。
    興味がないというよりは、話についていくだけの知識がないという印象を受けました。
    椅子に座り、相槌を打つだけでお金がもらえるなら、なんとも羨ましい商売です。
    まだかなり若い方らしく、本業はミュージシャンであるようです。
    そういった若い人を起用するのは良いことです。
    ベテランにはない斬新さや面白さがあります。
    しかし斬新さや面白さと、ただのハネっ返りは違います。
    芸もなく、知識もなく、上手く進める腕もキャリアもなく、プライドだけが先行している。
    そういった印象を受けました。
    話の内容からして、どうやら相手のパーソナリティを快く思っていない様子でした。
    人は誰でも合う合わないがありますから、好き嫌いが出るのは仕方ありません。
    しかしね、そんなのはリスナーの耳のないところでやってほしいものです。
    例えばコンビニなりスーパーなりに買い物に行き、店員さんが仲悪そうにギスギスしていたら、お客さんまで不愉快になってしまいます。
    事務所やバックヤードで揉めるのは自由です。
    しかし客の目や耳のあるところでやられては、ただただ迷惑。
    ラジオも同じで、個人的な鬱憤ならば、リスナーの耳のないところで発散してほしいものです。
    個人的に意見を述べたいだけなら、ニコニコ動画やYouTubeでも発信できます。
    今はブログもツイッターもありますから、気兼ねなしに自分の空間が持てるんですから。
    今までにない新しい風を吹き込むのに、今までにない新しい人を入れるのは良いことです。
    しかし中身がないのであれば、新しい風どころか、ただの台風になってしまいます。
    せめてラジオくらいは気持ちよく聴けるものであってほしいです。

    勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜 第五話 仲良くしましょう(1)

    • 2017.04.29 Saturday
    • 18:10

    JUGEMテーマ:自作小説
    鶴の恩返しならぬ、タヌキの恩返し。
    鶴は機織りをしてくれたが、タヌキは野菜を届けてくれた。
    今の時代、いったいどちらがありがたいんだろう?
    今年は気候の影響で野菜が不作だ。
    だからこういう年なら野菜の方がありがたいんだろうな。
    そういう人間の事情を理解した上で、あえて野菜を届けたとしたら、そのタヌキは間違いなく賢い。
    賢いけど・・・・でもそれは普通のタヌキだったらの話だ。
    もしそいつが化けタヌキだとしたら、話は変わってくる。
    マイちゃんを見てれば分かるけど、化けタヌキは人間と同程度の知能がある。
    だったらわけの分からない手紙と共に、野菜を置いていくのは賢い行為とは言えないだろう。
    タヌキを追いかけてから十分後、俺たちは犯人を追い詰めた。
    恩返しのタヌキ君は、慌てて逃げるもんだから、用水路に落っこちてしまったのだ。
    『ぬおおおおお!流される!』
    水なんてほとんど流れてないのに、すさまじい慌てっぷりだった。
    どうやらカナヅチのようだ。
    『クソ!こうなっては仕方あるまい。』
    覚悟を決めたように言って、ボワンと煙が上がった。
    タヌキは若い男の姿になって、用水路から這い出た。
    『はあ・・・はあ・・・・死ぬかと思った・・・・。』
    江戸時代の農民みたいな恰好をしていて、鼻はよっぱらいみたいに赤い。
    頭には手ぬぐいを巻いていて、恥ずかしそうに俯いた。
    そして俺たちを睨みながら、一言こう呟いた。
    『斬れ。』
    胡坐を掻き、スッと首を差し出す。
    俺はどうしていいか分からずに、立ち尽くすしかなかった。
    しかしノズチ君が『なら俺がやってやろうと』と、ボールみたいに丸まった。
    『首を落とすことは無理だが、頭を潰すことはできる。・・・・そこを動くなよ。』
    おっかない事を言いながら、コロコロ転がっていく。
    俺は『待て!』と足で押さえた。
    『コラ!俺を踏むな!』
    『踏むに決まってるだろ。』
    『そいつの願いを叶えてやるんだ!』
    『却下する!』
    『コラ、用水路の間に挟むんじゃない!』
    ノズチ君はコンクリートの割れ目にハマったダンゴムシみたいになって、身動きが取れない。
    『しばらくじっとしててくれ。』
    『ふざけんな!ツチノコとしての正当な扱いを要求する!』
    『断る。』
    『なら弁護士だ!弁護士を呼んでくれ!』
    『ツチノコに弁護士は付かない。』
    『なんで!?』
    『人間じゃないから。』
    『ぬうう・・・・なんて不公平な世の中だ。こんなの差別だぞ!』
    『文句があるなら弁護士会にでも言ってくれ。相手にされないだろうけど。』
    『そんなのやってみなきゃ分からんだろうが!弁護士会とやらの電話番号を教えてくれ!』
    その後もノズチ君はぎゃあぎゃあ騒いでいて、大人しくなるまで時間がかかった。
    ようやく静かになり、俺は化けタヌキの前に膝をついた。
    『いきなり追いかけて悪かったな。ちょっと聞きたいことがあるんだ。』
    百姓の恰好をした化けタヌキは、観念したように『分かったよ』と俯いた。


                *

    彼の名は田吾作。
    えらく古めかしい名前だけど、それも仕方ない。
    なんたって江戸時代から生きてるんだから。
    田吾作さんは、普段は人間社会の中で生活をしている。
    江戸時代から農業をしていて、今は酪農も始めようかと考え中らしい。
    「農業だけだと生活がキツくなってきたんだ。
    外国から安い野菜とか果物がたくさん入ってきてよ、この国の農家は大変なんだ。」
    10分ほど現代農業の講座が続いて、俺は「それはまた今度聞かせてくれ」と話題を戻した。
    「なんで栗川さんの家に野菜を届けてたの?
    手紙には恩返しだって書いてたけど、でも君はあの子に撥ねられたんだよね?」
    「そうだよ。でもそのおかげで命拾いしたんだ。」
    「そこが分からないんだよ。なんで車に撥ねられるのが命拾いになるんだ?」
    そう尋ねると、固く口を閉ざしてしまった。
    「田吾作さん?」
    「・・・・・・・・・。」
    むっつり黙ったまま動かない。
    するとノズチ君が「おうおう!」と詰め寄った。
    「肝心な所でなんで黙るんだ?お前、何か隠してやがんな?」
    「・・・・・へん!ツチノコ風情が。あっち行ってろ。」
    「こんにゃろ!ぶっ潰してやる!」
    「やめろ。」
    「だから踏むな!」
    「マサカリ、こいつ押さえといて。」
    「おうよ。」
    マサカリはノズチ君の上に乗っかる。
    ムイムニの腹で押さえつけられて、肉の割れ目にめり込んでいった。
    「ぎゃあ!やめろ!」
    「蒸し焼きにしてやる。」
    「熱い!臭い!」
    「臭いはずがねえ!毎日ペロペロ舐めて綺麗にしてるんだからな。」
    そう言ってヨダレまみれの舌を出した。
    「ぎゃあ!汚い!」
    ノズチ君は「穢れるうううううう!」と喚いていた。
    「うるさい奴だなまったく。」
    俺は田吾作さんを振り返り、「ごめんね」と笑った。
    「ちょっと騒がしい奴で。」
    「・・・・・・・・・。」
    「あのさ、ずっと黙ってるけど、何か言いたくないことでもあるのかな?」
    「・・・・・・へん!」
    腕を組み、プイッとそっぽを向く。
    《う〜ん・・・・どうしても喋りたくないみたいだ。何か深い事情でもあるのかな?》
    そう思っていると、マイちゃんが「あの・・・」と話しかけた。
    「実は私も化けタヌキなんだ。」
    「分かるよ、同じニオイがするから。」
    「あのね、田吾作さんの恩返しは素晴らしいと思う。
    でもね、そのせいで栗川さんは困ってるんだ。
    だからどうにかしてあげたいんだけど、でも田吾作さんにも事情があるんでしょう?
    できればそれを教えてほしいんだけど。」
    「・・・・・・・・・。」
    「同じ化けタヌキでも言えない?」
    「・・・・・俺はな、」
    「うん。」
    「受けた恩は返す。義理は通さねえといけねえから。」
    「分かるよ、私だってタヌキだもん。タヌキってそういう性分だから。」
    「俺たちゃキツネや猫みてえな、勝手で気ままな奴らとは違うからな。奴らはたま〜に悪さをするだろ?」
    「まあねえ・・・・去年もそいいう事があって、けっこう大変だったんだ。
    お稲荷さんと揉めちゃって、悠一君なんか命が危なかったんだから。」
    「へん!そういう奴らなんだよ、タヌキだの猫だのは。
    俺らは人間社会で真面目にやってるのに、奴らときたら勝手なことばっかしやがる。
    だから俺たちみてえな真面目なタヌキが生きづらくなるんだ。」
    どうやらずいぶん怒ってるようだ。
    怒りの矛先はキツネと猫のようで、そこに何かの事情があるのかもしれない。
    でも俺が聞いても答えてくれないだろうから、ツンツンとマイちゃんとつついた。
    「ごめんだけど、何を隠してるのか聴き出してくれないかな・・・・・?」
    「いいよ、任せて・・・・・。」
    マイちゃんは田吾作さんの前に立って、ボワンと煙を上げた。
    そして頭をお団子に結った、人間の女の姿に変わる。
    「それが人間の時のあんたか?」
    「うん。」
    「えらくべっぴんじゃねえか。」
    マイちゃんは俺を振り向き、「べっぴんだって」と笑った。
    「褒めてもらえてよかったな。」
    「悠一君はどう思う?人間の時の私。」
    「可愛いと思うよ。」
    「ホント!?」
    ニコッと笑って、「頑張るからね!」と拳を握る。
    マイちゃんよ、やる気になるのはいいが、尻尾が出たままだぞ。
    モフモフの尻尾をフリフリしながら、「田吾作さん」と話しかける。
    「どうして車に撥ねられたことで、命が助かったの?」
    「それは・・・・、」
    「深い事情があるの?」
    「ああ・・・・・。」
    「私は田吾作さんと同じ化けタヌキだよ。だから遠慮しないで話して。」
    「遠慮なんかしてない。ただな・・・・、」
    言いづらそうに俯く田吾作さん。
    マイちゃんは根気強く答えを待った。
    じっと睨んで、顔を近づけて。
    そしてなぜかふんふんと臭いを嗅いだ。
    「不安の臭いがする。」
    「チッ・・・・タヌキの鼻は誤魔化せねえか。」
    「なにか怖いことでもあるの?」
    「ああ・・・・。」
    「私で出来ることなら力になるよ。」
    「いや、人様に迷惑を掛けるわけには・・・・、」
    「何言ってるの、困った時はお互い様じゃない。ねえ?」
    そう言って俺を振り向く。
    「そうだよ。俺は動物探偵をやってるんだ、だから悩みがあるなら何でも話してくれ。」
    「動物探偵?なんだそりゃ?」
    「人と動物、双方の悩みを解決する仕事さ。」
    「へ!聞いたこともねえな。」
    「俺が勝手に作った職業だからね。でもこれは俺にしか出来ない。
    なんたって・・・・、」
    「動物と話せるからか?」
    「そうだよ。」
    「さっきから普通に犬と話してたからな。変わった人間だとは思ったよ。」
    「そんな変わった人間だから、動物の力になれるんだ。
    化けタヌキだって動物なんだから、力になれることがあったら手を貸すよ。」
    そう言うと、田吾作さんは「ほんとかよ?」と睨んだ。
    「嘘は言わない。」
    「でも金取るんだろ?」
    「まあ仕事だから。でも今お金がないなら、出来てからでもいいよ。
    それに田吾作さんが満足しない結果になったら、依頼料はいらない。
    だから・・・・どうかな?君の悩みを話してもらえないか?」
    「動物探偵ねえ・・・・ほんとに信用できるのか?」
    田吾作さんは顔をしかめる。
    百姓の恰好でこんな顔すると、ひょっとこみたいだ。
    「う〜ん・・・」と悩む田吾作さん。
    するとマイちゃんが「悠一君は良い人だよ」と言った。
    「私が子供の頃からの友達で、今は一緒に住んでるんだ。」
    「一緒に?同棲してんのか?」
    「うん。」
    「てことは・・・・あんたらは夫婦ってことか?」
    驚いた顔で俺たちを見つめる。
    俺は「いやいや」と首を振った。
    「そういう関係じゃないよ。ただマイちゃんを預かってるだけなんだ。」
    「預かる?」
    「彼女のお父さんがね、俺に預けてるだけなんだ。
    以前は自分に自信がなくて、すごい引っ込み思案だったんだ。
    でも最近は変わってきたけど。」
    そう言うと、マイちゃんはニコっと頷いた。
    「悠一君のおかげで、私はすごく毎日が楽しくなったんだ。
    だから彼はすごく良い人だよ。信用出来る人だって保証する。」
    「ふうむ・・・・化けタヌキにここまで言わせるとは、あんたは確かにいい人なんだろうなあ。」
    腕を組み、ひょっとこみたいな顔で悩んでいる。
    そして「分かった!」と頷いた。
    「だったら俺の悩みを聞いてもらおうじゃないの!」
    「そこなくちゃ!」
    マイちゃんはパチパチ手を叩く。
    「ほらほら、ここから先は有川探偵の仕事だよ。」
    そう言って俺の背中を押した。
    「ええっと・・・・じゃあ聞かせてもらおうかな、君の悩みを。」
    「おうよ!しかと聞いてくんな!」
    田吾作さんはポツポツと語り始める。
    どうして栗川さんに撥ねられて、命が助かったのか?
    そこにはある事情が隠されていた。
    全ての話を聞き終えた頃、俺は腕を組んで唸った。
    「なるほどねえ・・・・うん。」
    「そういうわけで、俺は命拾いしたわけだ。
    あの・・・あの猫さえいなきゃ、俺は・・・・・、」
    「うんうん、そうだろうね。」
    「これだから猫だのキツネだのは嫌いなんだ!」
    「うんうん、そうだろうね。」
    「あ、でもその後に出会ったインコは良い奴だったぜ。」
    「うんうん。」
    「そのインコの飼い主は、すごく良い奴らしくてよ。
    動物を助ける活動をしてるんだそうだ。
    だから俺の為に、飼い主に一肌脱いでもらえないか頼んでみるって言ってくれた。」
    「うんうん。」
    「なあアンタ。俺はどうしてもあの化け猫を追い払いたいんだ。
    いったいどうすりゃいいかな?」
    田吾作さんは真剣な目で見つめる。
    俺は腕を組んだまま、遠い空を見上げた。
    《事情は分かった。田吾作さんは化け猫のせいで、嫌な目に遭ってたんだ。
    でもなあ・・・・その化け猫の正体がアイツだったなんて・・・・。》
    出来ることなら力になる。
    そう言った手前、「うんうん、なるほど」と頷くしかなかった。
    でも心の中ではこう思っていた。
    《ごめん田吾作さん!それは俺にも責任がある!
    だってその化け猫・・・・我が家の問題児、白猫のモンブランだから!》
    遠い空を見上げながら、ここから消え去りたい気分だった。

    不滅のシグナル 第十九話 不滅のシグナル(1)

    • 2017.04.29 Saturday
    • 18:09

    JUGEMテーマ:自作小説
    月だけが灯る暗い夜。
    田んぼの畦は青く染まり、遠い山は水墨画のように滲む。
    田所は御神体の鏡を抱えて、安桜山神社の奥宮に向かっていた。
    途中で職場に寄り、車に乗り込む。
    山まで向かい、山道を上り、ブルーシートに覆われた小さな神社にやって来た。
    人の背丈ほどの社、手に乗るほどの小さな狛犬。
    その手前に鏡を置いた。
    「持ってきました。ここからどうしたらええですか?」
    鏡に向かって語りかけると、中に喜衛門が映った。
    《ちょっと待っとれ。》
    そう言ってピカリと光ると、社の扉が開いた。
    奥にはレプリカの御神体がある。
    《それはもういらん。代わりにこれを。》
    「はい。」
    レプリカの鏡をどかして、御神体を置く。
    すると扉は勝手に閉まって、ガチャリと鍵がかかった。
    《これでええ。》
    奥から喜衛門の声が響く。
    田所は手を叩き、そっと頭を下げた。
    「喜衛門さん、これで俺はもう自由ですか?」
    《そや。黄泉のモンが関わることはもうない。自由に生きろ。》
    「あの・・・・・、」
    《なんや?》
    「もし誰かがここを見つけたら?この御神体を奪おうとしたら、その時はどうされるんで?」
    《呪い殺す。》
    「また死人を作るんですか?」
    《それしかないがな。儂の力を悪用されてはたまらんからな。》
    「・・・・・・・。」
    《納得いかんか?》
    「人知を超えたもんは、不幸しか招きません。だからやっぱり・・・・もういっぺんチャンスをくれませんか?」
    《御神体を破壊したいんか?》
    「そうです。もう俺や美由希のような人間を生み出したあないんです。」
    《気持ちは分かるけどな。無理はやめとき。下手に関わると、また災いが降りかかるで。
    お前だけやのうて、周りにおるモンにも。》
    喜衛門の声は優しい。
    聞き分けのない子供を諭すように、とても耳に馴染んだ。
    田所は納得のいかない顔をしていた。
    しかしこれ以上できることはない。
    一礼を残し、奥宮を後にした。
    鳥居を出る時、一度だけ振り返る。
    喜衛門が《もうここへ来るなよ》と忠告した。
    《お前は自由や。自分の人生を。》
    「はい。」
    頷き、山を降りていく。
    路肩に停めた車に乗り込んで、安桜山神社に向かった。
    ・・・・奥宮を出る時、レプリカの御神体を持ってきた。
    助手席に置いたそれを見つめて、「神社なんやから、レプリカでも御神体はいるやろ」と呟いた。
    「安桜山神社に神様はおらん。でもこれがないと、お参りした人が神様を想像できへんからな。」
    神社に着いた田所は、レプリカの御神体を安置した。
    蛍光灯の光を受けて、鈍く輝いている。
    しかし妖しい輝きはない。
    本物の御神体のように、人を惑わせる力はない。
    「これでええんや。これで。」
    扉を閉め、石を置いて開かないようにする。
    「鍵は誰かが直すやろ。」
    パンパンと手を叩き、「もうここへ来ることはありません」と語りかけた。
    「美由希、オヤジさん、それに今までに出会った幽霊。俺はここを離れます。
    これからどうなるか分からんけど、そろそろ自分の人生を生きようかなと・・・・・。
    天国で見守ってて下さい。」
    踵を返し、神社から出る。
    家に向かう車の中で、ここへ来てからのことを考えた。
    「色々あったな・・・・。」
    ボソっと呟き、首を振る。
    「これでよかったんかどうか、俺には分からん。
    喜衛門の御神体がある限り、またおんなじ事が起きるような気がするわ。
    でも・・・もう俺はええ。もう疲れた。」
    家に着くと、泥のように眠った。
    そして翌日、朝早くに職場に向かった。
    オヤジはいなくなっていて、みんな混乱している。
    家にもいないし、ケータイにも繋がらない。
    社長が行方不明とあって、大騒ぎだった。
    田所はオヤジと仲が良かったものだから、「居場所を知らないか?」としつこく聞かれた。
    しかし「知りません」と首を振って、逃げるように職場を去った。
    「オヤジさん、今までありがとうございました。」
    どうしても職場へ行って礼を言いたかった。
    もうオヤジはいないが、それでも感謝を述べたかった。
    それから田所は、町を離れ、一年間東京で過ごした。
    その後は大阪、広島、福岡と転々とした。
    仕事もコロコロ変えて、何か一つに安定するということを嫌った。
    まるで巡業師のように、全国を転がり続け、気がつけば町を出てから10年も経っていた。
    歳は48になり、白髪が増えた。
    皺も増えて、体重だけが減っていた。
    あの町を離れてから、一度も幸せを感じることができなかった。
    心の底から笑えないし、何をしても楽しいと思えない。
    なぜか?
    それは御神体のことが気になって気になって仕方なかったからだ。
    あれがある限り、また同じような事が起きる。
    しかし再びあれに関わるには、気力も体力も衰え過ぎた。
    モンモンと憂鬱を抱えながら、ただ人生を消費するだけ。
    そんなある時、夢の中にあの子が出てきた。
    美由希と手を繋いで、《久しぶりやな》と笑う。
    田所は喜んだ。
    『おお!久しぶりや!』
    これは本物の幽霊か?ただの夢か?
    どちらか分からないが、それでも嬉しかった。
    『どうや?天国で元気にやってるか?』
    《うん。》
    少年は微笑む。
    美由希も微笑み、彼女にまとわりつく肉塊も、喜びを表すようにうねった。
    『そうか、みんな幸せなんやな。』
    そう呟いた瞬間、ボロボロと涙が出た。
    そして『俺も連れてってくれんか?』と尋ねた。
    『あの町を離れてから、生きてる心地がせえへん。どうしてもあの御神体が気になるんや。』
    《ほなもっぺんあの町来れば?》
    『そうしたいけど、もう疲れたっちゅうか・・・・また黄泉のモンと関わらなあかんかと思うと、気が滅入ってな。』
    《ていうか来てほしいねん。》
    『なんで?』
    《あのな、奥宮にあの御神体があるのがバレたんや。そんでな、喜衛門の子孫が集まって来て、喧嘩してんねん。》
    『それホンマか!?』
    《町はもう滅茶苦茶やで。喜衛門の子孫に占領されとんや。
    元々おった人は、住みにくうなって引っ越した。あとは追い出そうとして、逆に殺されたり。》
    『殺すやと!そんな・・・・、』
    《なあおっちゃん。もういっぺん戻って来てえや。》
    《私からもお願い。》
    『美由希・・・・町はそんなに酷いんか?』
    《喜衛門の子孫てな、遺された力を巡って、すごい対立してるんよ。
    それぞれ組織があって、それが争ってるもんやから、あんな小さい町なんかすぐに飲み込まれる。》
    『・・・・御神体は?今はどうなってる?』
    《まだ奥宮にあるよ。でも奪われるのは時間の問題やと思うわ。》
    『ほなすぐに行かな!』
    《気をつけて。あいつらすごい危ないから。下手したらあんたも殺されかねへん。》
    『いっぺん死んだ身や。今さら死ぬのなんか怖いことあるかい。
    それより怖いんは、死人みたいに生き続けることや。今の俺はゾンビやで。』
    この10年、本当にゾンビのように生きてきた。
    何の感慨もなく、何の感動もない。
    ゼンマイで動かされているような人生だった。
    『俺な、それが終わったらもう死んでもええわ。多分やけど、喜衛門の残した力を破壊する為に俺は生まれてきた。そういう気がするねん。』
    ニコっと笑うと、美由希は《そんなん言わんといて》と悲しい顔をした。
    《私は死んで分かったことがある。それはまだまだ生きていたかったってことや。
    だからな、死んでもええなんて言わんといて。危険な仕事やけど、どうか無事に・・・・・・、》
    そう言い残し、美由希と少年は消えた。
    夢から目覚めた田所は、すぐにあの町に向かった。
    今は神戸に住んでいる。ここからだとそう遠くない。
    車を飛ばし、早る気持ちに胸を弾ませた。
    《怖いけど、なんでか嬉しいと思ってる。》
    田所の顔は緩んでいた。
    これでようやくゾンビのような人生に終止符を打てる。
    心残りだったあの御神体、それと向き合う時が来たのだ。
    《喜衛門さん、あんたの御神体は、やっぱりこの世にあったらあかんのや。俺が終わりにしたるさかい、加護を頼むで。》
    10年経って、五度目の神頼み。
    しかし今度の神頼みは、神を守る為の神頼みだ。
    恐怖と喜びを感じながら、あの町へ向かって行った。


                *

    「なんやこれ・・・・。」
    町は異様な光景に変わっていた。
    そこかしこに寺や神社が建ち、殺気だった人間で溢れている。
    田所は国道を走りながら、その様子を観察した。
    寺にいる人間は神社にいる者を睨み、神社にいる人間は寺にいる者を睨んでいる。
    「そういえばオヤジさんが言うてたな。仏教と神道で派閥が分かれてるって。」
    喜衛門の力は本来神道系のものだが、後に仏教の人間も関わってきた。
    そのせいで二つの宗教にその力が残されている。
    どちらも喜衛門の力を欲しがっていて、そのせいで争いが起きていた。
    「細かい宗派を含めたら、もっとある言うてたからな。」
    路肩に車を停めて、町へ降りる。
    するとさっそく絡まれた。
    「すいませんがこの町の方で?」
    寺から出てきた数人の男女が近づいてくる。
    口調は柔らかいが、目は笑っていない。
    「ええっと・・・・ただ通りすがっただけです。えらい寺や神社が多いから、珍しい場所やなあと思って。」
    そう答えても、まったく信じていない様子だった。
    《そういえば喜衛門の子孫には、人の色が見える奴がおる言うてたな。
    その色を見れば、嘘ついてるかどうかも分かるって・・・・。》
    オヤジから聞いた話を思い出し、背筋が寒くなる。
    《これ、確実に疑われてるよな・・・・。》
    どうしたもんかと困っていると、すっかり周りを囲まれていた。
    近くの寺からぞろぞろ人が出てきて、殺気だった目を向けてくる。
    「ちょっとそこまで来てもらえますか?」
    一人の女が出てきて、腕を掴む。
    それを振り払おうとすると、ガタイのいい男が威圧してきた。
    「抵抗しない方がいいですよ。」
    低い声でそう言われて、田所は目を逸らした。
    《ヤバイなこいつら・・・・明らかに普通の奴とちゃうで。》
    誰も彼もが異様な目つきをしている。
    抵抗しても勝目はなさそうで、ここは大人しく従うしかないと思った。
    ・・・・するとその時、別の寺から一人の男が出てきた。
    「あかんて、あんまり手荒なことしたら。」
    まだ若い男だ。
    しかし声には威厳があり、田所を囲っていた集団は、サッと道を開けた。
    「どうしました?ここに何か御用で?」
    ニコリと笑うその顔は、とても不気味だった。
    爽やかな顔をしているが、この世のものとは思えない、冷たい気配を放っている。
    「・・・・・・・・・。」
    「ここ、寺と神社以外はなんもないですよ。遊ぶ場所もないし、見所もない。」
    そう言って国道に手を向けた。
    「ここからちょっと北に行ったらね、棚田やら滝があるんですよ。すごいええ所やから、そっち行かれた方がええと思いますよ。」
    「・・・・・・・・。」
    「・・・・なんか事情がおありで?」
    男の顔から笑顔が消える。
    田所は本当のことを話そうかどうしようか迷った。
    《喜衛門のこと、伝えた方がええかな・・・・・。》
    唇をすぼめながら、若い男を睨みつけた。
    「あの・・・・、」
    「はい?」
    「実はですね、山奥にある神社に行きたいんです。」
    「山奥に神社なんかありませんよ。」
    「いえ、あるんです。安桜山神社の奥宮が。そこにね、喜衛門ちゅう人の御神体を祀ってあるんですわ。」
    そう答えると、男は険しい顔をした。
    周りの者たちも色めきだつ。
    「ええっと・・・・喜衛門のご子孫で?」
    「違います。でもしばらく前にこの町に住んでたんですよ。そこでね、ちょっと喜衛門さんと因縁がありまして。」
    「ほう。会ったことがあると?」
    「ええ。色々と頼みごとをされまして。」
    「どんな?」
    「それは言えません。」
    「う〜ん・・・・。」
    若い男は、後ろにいた女に耳打ちする。
    女は頷き、寺へと戻っていった。
    しばらくすると、神社の方からも人が出てきた。
    その中から中年の女が現れて、田所へと近づいた。
    「ここに何か御用で?」
    柔らかい笑顔で尋ねるが、やはり目は笑っていない。
    「ちょっとね。」
    「ちょっと?」
    田所は先ほどと同じことを説明した。
    女は頷き、「喜衛門さんとねえ・・・」と腕を組んだ。
    「それで?」
    「へ?」
    「その因縁というのは?」
    「言えません。」
    「あなたがこの町へ来たことと関係が?」
    「言えません。」
    「どうして?」
    「・・・・・・・・。」
    「聞かれるとマズイことでも?」
    女はしこつく尋ねてくる。
    すると寺に戻った女が出てきて、若い男に耳打ちをした。
    男は頷き「あの・・・、」と手を向けてくる。
    「はい?」
    「お名前は?」
    「田所といいます。」
    「じゃあ田所さん。ちょっとこっちで詳しくお話を聞かせて頂けますか?」
    男は寺へ手を向ける。
    すると神社の女が「勝手なことをされては困ります」と詰め寄った。
    「無関係な人間には手を出さない。それがお互いが決めたルールでしょう?」
    「無関係ではないでしょう。この方は喜衛門と因縁があるそうだ。」
    「でも子孫というわけじゃないでしょう?お引き取り願った方がいいんじゃありませんか?」
    「それはこちらが決めることです。」
    「また余計な争いになります。上の方に叱られるのではありませんか?」
    「それこそそちらにとやかく言われることではない。そもそもウチの住職が連れて来いと行っているんです。
    この方はウチで預かります。」
    「預かりますって・・・・なんの権利があってそんなことを・・・・、」
    「そちらこそ引き下がって下さい。でないとそれこそ余計な争いになりますよ?」
    男が手を上げると、周りの寺からぞろぞろと人が出てきた。
    その気配を感じたのか、神社からもぞろぞろと人が現れる。
    両者はピリピリと睨み合う。
    まるで暴動寸前のような緊迫感だった。
    よく見れば銃やナイフを持っている者もいて、田所は冷や汗を流した。
    《なんやねんコイツら・・・・ちょっとおかしいぞ。》
    二つの集団に挟まれて、田所は身動きが取れない。
    しかしこのままじっとしていれば、それこそ危険な目に遭いそうだった。
    《どうにか逃げんと。》
    ジリジリ後ずさると、若い男が「動かないで」と言った。
    「喜衛門に詳しいならご存知でしょう?私たちの中には、人の発する感情や人格が、色として見える者もいます。
    よからぬことを企んでも無駄ですよ。」
    「・・・・ほな正直に言います。俺ね、喜衛門の御神体を壊しに来たんですよ。」
    「なに?」
    男の顔が・・・・いや、その場にいる全員の顔が曇る。
    《やっぱり殺気だつよな・・・・でもいつかはバレることや。》
    この集団相手に、隠し事は不可能。
    田所は一筋の希望に賭けることにした。
    「あのね、喜衛門さんは自分の子孫が争うことに心を痛めてはるんです。
    だから俺に頼んで、最後の御神体を破壊しようとしてたんです。」
    「破壊って・・・・、」
    男の顔がさらに曇る。
    首を振り、ため息をつき、「死にたいですか?」と睨んだ。
    「そんなこと言ってると、今ここで死にますよ?」
    幽霊よりも冷たい顔、冷たい殺気。
    田所は震え上がった。
    「多くの仏像や御神体が破壊され、あれは唯一残された御神体なんです。
    破壊するなんて言うだけで、ここにいる人間が何をするか分かりませんよ。」
    田所を囲う集団は、針のような殺気を向けてくる。
    《あ、これ死ぬな・・・・・。》
    生きてここから出られない。
    そう思った。
    《死ぬのは構へん。その前にどうにか御神体を壊さんと・・・・。》
    そう思った時、奥宮のある山が光った。
    それは閃光のように眩い光で、誰もがそちらを振り返る。
    ・・・次の瞬間。
    辺りに無数の幽霊が現れた。
    それは町全体を覆い尽くすほどで、誰もが呆気に取られる。
    《今のウチや!》
    田所はその隙に逃げ出した。
    「おい!」
    若い男が叫び、「追いかけろ!」と怒鳴る。
    そこへ神社の女が「ちょっと待って!」と止めに入った。
    「どけ!」
    「誰が呼んだの!?」
    「何が!?」
    「この浮遊霊!そっちでしょ!」
    「俺たちじゃない!」
    「ならどうしてこんなに・・・・、」
    「だから知るか!いいからどけ!」
    男は女を突き飛ばす。
    その瞬間、二つの集団が争いを始めた。
    銃声が鳴り、ナイフが振り下ろされて、本当に暴動が起きてしまった。
    田所は浮遊霊に紛れて、暴徒と化した集団を駆け抜けた。
    《喜衛門さん!すまん!》
    さっきの閃光、そしてこの浮遊霊たち。
    きっと喜衛門の仕業だろうと思った。
    《護ってくれて助かる。その代わり、絶対に御神体を壊したるからな!》
    右を見ても左を見ても幽霊。
    足元も空にもウヨウヨいる。
    後ろからは銃声と怒声が響いて、それに混じって悲鳴も響いた。
    《勝手に喧嘩しとれ!》
    走りながら、田所は思う。
    こんな子孫ばかりなら、そりゃあ喜衛門も頭を悩ませるだろうと。
    《やっぱり人知を超えたモンなんかこの世にいらん!》
    大きな力は、幸せよりも災いをもたらす。
    下らない身内争いに終止符を打つ為、幽霊の波を掻き分けていった。

    その土地の景色が浮かぶ 民族音楽

    • 2017.04.28 Friday
    • 16:24

    JUGEMテーマ:音楽

    最近よく民族音楽を聴きます。
    中国、日本、ケルト、アンデスがすごく好きです。
    まだまだ全部聴いていないので、他にもいいのがあると思います。
    中国の音楽は悠久って感じがしていいですよ。
    どこまでも伸びる河、広がる大地。
    仙人が住んでいそうな山に、雲で霞む空。
    日本の雅楽は風流で和みます。
    桜や赤い鳥居、平安時代の服を着た人が、ゆるりと歩いている姿が思い浮かびます。
    アンデスは山と風です。
    その上には高い空が浮かんで、鳥が悠遊と舞っている感じです。
    有名な曲だと「コンドルは飛んでいく」があります。
    FF6の「仲間を求めて」って、アンデス系の感じがします。
    あのゲームに悠大な神話を感じるのは、BGMがアンデスの雰囲気を感じさせるせいかもしれません。
    ケルト音楽もいいですよ。
    イメージは弾む感じです。とても力強いリズムです。
    「ターンAガンダム」はどこかケルトっぽい雰囲気があります。
    あのアニメのBGMも跳ねる感じのが多いです。
    躍動感とエネルギーを感じるんですよ。
    アフリカ系の音楽もいいですね。
    大地のパワーというか、命の鼓動みたいなものを感じます。
    遠い地平線に太陽が浮かび、大地が赤く燃え上がるような風景が浮かびます。
    伝統音楽や民族音楽には、その土地の景色を思い浮かべる力があります。
    おそらくですけど、景色という画が先にあって、そこから音が来ているんだと思います。
    目の前に広がる景色は、自分が住んでいる世界そのもの。
    だから国が変われば、面白いほど音も変わります。
    遠い世界へ旅立ちたい時、民族音楽を聴くといいですよ。
    心だけでも、ここじゃない世界を旅している気分になります。

    勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜 第四話 タヌキの恩義(2)

    • 2017.04.28 Friday
    • 16:22

    JUGEMテーマ:自作小説

    冬の朝は寒い。
    辺りには霜が降りていて、収穫の終わった田んぼを白く染めていた。
    俺たちは栗川さんの家に来て、缶コーヒーを片手に張り込みをしていた。
    栗川さんの家はけっこう大きくて、そこそこのお金持ちらしい。
    庭は広く、田んぼの中にポツンと立っているから、すごく目立つ。
    俺たちは塀に身を隠し、いつタヌキが来るかと待っていた。
    朝の四時から見張っているから、もう二時間になる。
    でも待てど暮らせどタヌキは現れない。
    家の前にも野菜は置かれていないし、まさか今日は来ないのか?
    「ねえ悠一君。」
    マイちゃんが寒そうに震えている。
    「私タヌキに戻っていい?」
    「ダメだよ。ここでタヌキになったら、栗川さんが勘違いするかもしれないだろ?
    あ、家の前にタヌキが来てるって。」
    「でも寒くて。」
    「人間にはタヌキみたいな毛皮はないからね。」
    「どうして?」
    「いや、どうしてって言われても・・・・、」
    マイちゃんは青い顔でブルブル震える。
    唇も震えているし、そうとう寒いんだろう。
    「これ着なよ。」
    上着を脱いで、マイちゃんの肩に掛ける。
    「ありがとう。でも悠一君は寒くない?」
    「寒いけど、ここでタヌキに戻られたら困るからね。・・・・・ヘックシ!」
    ずずっと鼻水をこすって、「ああ寒・・・・」と震えた。
    するとマサカリとノズチ君がゲラゲラ笑った。
    「この程度で寒いなんて軟弱だな。俺様を見習えってんだ。」
    マサカリはぷるんぷるん顎の肉を揺らす。
    「デブデブって馬鹿にするけど、俺様は肉のコートを着込んでるわけだ。
    もし氷河期が来ても、俺だけは生き残るだろうぜ。」
    「でも夏はへばってるだろ。」
    「それはそれ、これはこれでい。」
    「同じだと思うけど。」
    マサカリと気の抜けたやり取りをしていると、ノズチ君が「へん!」と唸った。
    「やっぱり人間だの犬だのの下等動物はダメだな。
    俺様みたいに特別な生き物は、こんなのへっちゃらだぜ!」
    「ノズチ君は寒くないのか?」
    「へ!冬が寒くてツチノコが務まるか!」
    「じゃあ夏は?」
    「夏が暑くてツチノコが務まるか!」
    「春と秋は?」
    「春夏秋冬、弱音を吐くようじゃツチノコは務まらないぜ。」
    「季節の変化に強くなきゃツチノコにはなれないみたいだな。」
    「そういうこった!」
    「ちょっと羨ましいよ。成りたいとは思わないけど。」
    「へ!ツチノコは高尚な生き物だからな。人間が成りたいって言ったって無理だぜ。」
    「いや、だから成りたくはないんだけど・・・・、」
    これまた気の抜けたやり取りをしていると、家の中から栗川さんが出てきた。
    パジャマの上からフワフワのコートを羽織っていて、「今日も寒い」と腕をさすった。
    「来ましたか?」
    「いや、まったく。」
    「もう六時だから、いつもなら野菜が置いてあるはずなんだけど・・・、」
    「もうちょっと待ってみよう。」
    「私も待ちます。」
    「いや、寒いから中にいた方がいいよ。風邪引くよ。」
    「このコート暖っかいから平気です。」
    栗川さんも俺たちと一緒に見張る。
    マイちゃんが栗川さんのコートを羨ましそうに見つめた。
    「暖ったかそう・・・・。」
    「マイちゃん、もうちょっと我慢しようね。」
    「でも寒い・・・・。」
    「分かる、気持ちは分かる。でもね、もしもこんな所でタヌキに戻ったりなんかしたら・・・、」
    そう言いかけた時、栗川さんが「タヌキ?」と言った。
    「タヌキが来たんですか?」
    「え?」
    「だってタヌキがどうとか言ってたじゃないですか。」
    「ええっと・・・ああ、その・・・・タヌキが来ないなあって意味で・・・、」
    俺は苦笑いして誤魔化す。
    マイちゃんよ、お願いだからもう少し耐えてくれ。
    でないと事態がややこしいことに・・・・、
    「あの、ちょっといいですか?」
    栗川さんはおどおど手を上げる。
    「な、なんだい?」
    「その・・・・ずっと気になってたんですけど、その生き物ってなんですか?」
    そう言ってノズチ君を指さした。
    「それ、ヘビとかじゃないですよね?」
    「え?」
    「私ヘビって苦手なんです。でもヘビとは違うみたいだし、でも似てるといえば似てるし・・・・、」
    「ええっと・・・これはアレだよ。ロボットだから!」
    「ロボット?」
    「うん、ロボット。ほら、犬のロボットとかあるでしょ?アレと同じで、ヘビみたいなロボットなんだ。」
    「なんでそんなロボットがあるんですか?」
    「そりゃあれだよ・・・・爬虫類が好きな人が買う為だよ。」
    「じゃあ有川さんも爬虫類が好きなんですか?」
    「も、もちろん!俺は動物なら何でも好きだからね!はははは!」
    変な汗が出てくる。
    《クソ・・・・やっぱりノズチ君を連れくるんじゃなかったな。》
    ホントならこのヘビモドキを連れてくる予定はなかった。
    しかし朝の張り込みは寒く、マサカリ以外の動物が嫌がったのだ。
    正体不明の相手を突き止めるなら、人手は多い方がいい。
    そう思って連れて来たんだけど・・・・失敗だったようだ。
    栗川さんはノズチ君に興味津々で、「ロボットなら触れるかも」と手を伸ばした。
    「あ、ダメダメ!」
    「なんでですか?ただのロボットなんでしょ?」
    「いや、このロボットは飼い主にしか懐かないんだよ。」
    「そうなんですか?」
    「そうそう。そういう風にプログラムされてるからね。下手に触ると、鋭い牙でガブ!っとやられて・・・、」
    その時、「もう無理!」とマイちゃんが叫んだ。
    「これ以上耐えられない!」
    「ちょ、ちょっとマイちゃん・・・、」
    「人間のままだと凍えちゃう!」
    ボワっと白い煙が上がる。
    その煙の中から、もふもふのタヌキが現れた。
    「ああ〜・・・暖っかい。」
    「・・・・・・・・・・。」
    モフモフの毛皮、フサフサの尻尾。
    冬毛のコートを着込んだマイちゃんは「やっぱりタヌキの毛皮は最高だね!」と笑った。
    「悠一君もタヌキに化けられたらいいのにね。」
    「・・・・・・・・・。」
    「そしたら冬なんかへっちゃらだよ!」
    「・・・・・・・・・。」
    「あ、この上着返すね。」
    口で咥えて、俺の足元にポトっと落とす。
    「・・・・・・・・・・。」
    「どうしたの?青い顔して。」
    「・・・・・・・・・・・。
    「あ!もしかして悠一君も我慢できなくなった?だったら私がマフラーになってあげる。」
    そう言って俺の首によじ登り、グルっと巻き付いた。
    「どう、暖っかいでしょ。」
    「・・・・・・・・・・。」
    温かいです、すごく・・・・。
    でも冷や汗が止まらんですよ・・・・。
    俺は恐る恐る栗川さんを振り返る。
    するとその時、右手に鋭い痛みが走った。
    「ぎゃあ!なんだ!?」
    「おうコラ!誰がロボットだって?」
    ノズチ君が俺の手に噛みつく。
    「俺様はれっきとした生き物だ!断じて機械なんかじゃねえぜ。」
    「おいノズチ君ッ・・・・・、」
    「おうおうそこの姉ちゃん。俺が何者かって聞いたな。だったら教えてやるぜ!」
    「馬鹿!よせ・・・・、」
    「黙れ!」
    「ぎゃあ!」
    「いいか姉ちゃん!俺様はツチノコのノズチ!断じてロボットじゃねえし、ヘビでもねえ。」
    ノズチ君は胸を張って言う。
    栗川さんは大きな目を開いたまま、石みたいに固まっていた。
    「あ、あの・・・・栗川さん・・・・、」
    「・・・・・・・・・。」
    「こ、これはだね・・・・その・・・・なんと言うか・・・・、」
    「・・・・・・・・・。」
    瞬きすら忘れ、マイちゃんとノズチ君を見つめる。
    するとノズチ君、「とう!」と栗川さんの腕に飛び込んだ。
    「こ、コラ!何してんだ!」
    「気安く触るんじゃねえ!」
    「ぎゃあッ!」
    「おうおう姉ちゃん。感謝しろよアンタ。ツチノコを抱けるなんて滅多にないんだからよ。」
    「・・・・・・・・・・。」
    「へ!感極まって言葉もねえか。」
    ノズチ君はご機嫌なようで、チロチロと舌を出していた。
    「おう悠一!この姉ちゃんと記念撮影してやる。写真撮れ。」
    そう言ってビシっとポーズを決める。
    斜め45度をキープして、俳優みたいに顔を作りながら。
    「・・・・・・・・・・。」
    「・・・・・・・・・・。」
    栗川さんは固まったまま。
    そして俺も同じように固まった。
    化けタヌキとツチノコ。
    存在しないはずのものを、二匹も同時に見せられる。
    その精神的ショックはいかほどか。
    ゲテモノマニアなら生唾たらして喜ぶだろうが、あいにく栗川さんは普通の子だ。
    さっきから瞬きさえしないから、きっと目を開けたまま気を失っているんだろう。
    《なんてこった・・・・。これでもし依頼をキャンセルでもされたら、動物探偵への道が・・・・。》
    暗い未来がよぎって、「はあ〜・・・」と俯く。
    後ろからツンツンとマサカリがつついてきて「えらい事になったな」と言う。
    「これ、どうするよ?」
    「想定外だよ・・・・。」
    「そこの姉ちゃん気い失ってるぜ。」
    「そうだな・・・・・。」
    「このままじゃ風邪引くぜ。家まで運ぶか?」
    「そうだな・・・・・。」
    俺は「はあああああ〜・・・・・」とため息をついて、ワシャワシャと頭を掻きむしった。
    《化けタヌキとツチノコ・・・・やっぱり連れて来ない方がよかったなあ・・・。
    これ、明らかに俺のミスだよな。》
    初歩的かつ痛恨のミスをしでかして、今後の自信が崩れる。
    《藤井よ、お前は頑張ってるか?俺は頑張っても空回りばかりだ。》
    遠い国にいる元カノを思い出し、情けない気持ちになってくる。
    《やっぱりお前と一緒じゃないと、上手くいかないみたいだ。
    お前は言ってたよな、ペット探偵は甘い仕事じゃないって。
    だからやめとけって・・・・。》
    藤井の言葉を思い出し、遠い空を見上げる。
    《ペット探偵改め、動物探偵として走り出したはいいものの、今は現実の厳しさを痛感してるよ。
    依頼は来ないわ、来ても上手くいかないわ。お前はこんな仕事を一年も続けてたんだな・・・。
    それなのに、お前はへこたれるどころか、もっともっと大きな仕事がしたいって、遠い国に羽ばたいて行った。
    今はどうだ?アフリカの動物たちを助けてるか?》
    別れた彼女を思い浮かべ、現実逃避を試みる。
    するとその時、庭の向こうから大きな物音がした。
    「なんだ?」
    目を向けると、野菜が散らばっていた。
    大根やカブ、それに米俵まである。
    「あれ、もしかして・・・・、」
    立ち上がると、散らばった野菜の傍にタヌキがいるのが見えた。
    「いた!アイツだ!」
    俺が叫ぶのと同時に、マサカリが走り出した。
    「俺様がとっ捕まえてやるぜ!」
    ぶるんぶるん腹の肉を揺らしながら「待てタヌキ野郎!」と追いかける。
    「クソ!見つかった・・・・。」
    タヌキはそう言って、一目散に逃げ出した。
    高い塀をよじ登り、モフモフと走って行く。
    「おのれ!逃がすか!」
    マサカリはUターンして、門の方から出て行く。
    「何してんだ悠一!早く追いかけるぞ!」
    「お、おう!」
    俺も慌てて走り出す。
    でも途中で止まって、栗川さんの所へ行った。
    「さっきのは全部幻さ。栗川さんは寝ぼけてて、夢と現実がごっちゃになってるだけだから。
    だから家に入って、ぐっすり眠って。」
    そう言い残し、庭から駆け出した。
    後からノズチ君も追いかけてきて「出やがったな!」と言った。
    「やっぱりタヌキが犯人だったんだな。」
    「そうだな。君とマイちゃんのおかげで、依頼はキャンセルになるかもしれないけど。」
    「へ!んなことにはなりゃしねえよ!」
    「なんでそう言える?」
    「あの姉ちゃん俺のこと気に入ってる。言葉も出ないほど感極まってたからな。」
    「・・・・気を失ってただけだと思うよ。」
    ポジティブなのはいい事だけど、ここまでポジティブだと、危機感がなくて困る。
    「先行くぜ!」
    ノズチ君はボールみたいに丸まって、コロコロ転がっていく。
    するとマイちゃんも「私も!」と俺の首から飛び出した。
    「悠一君!」
    「なに?」
    「この依頼、絶対に成功させるよ!」
    「そうだね、依頼がキャンセルにならなければの話だけど。」
    「暗い顔しないで。隠し事はいつかバレるんだから、今のウチに私たちのこと知っててもらった方がいいよ。」
    「君もノズチ君に負けず劣らずポジティブだよな。ある意味羨ましいよ。」
    「でしょ!でも元々は引っ込み時間て暗い性格だった。それは悠一君も知ってるでしょ?」
    「まあね。でも最近変わったよ、別人みたいに明るくなってる。」
    「ふふふ、人間の社会で暮らしたおかげだよ。それと・・・・、」
    「それと?」
    「悠一君と、マサカリたちのおかげ。あんなに楽しい場所にいたら、自然と明るくなるよね。
    だから悠一君も自信持って。じゃないと藤井さんに笑われちゃうよ?」
    「藤井に・・・・、」
    そうだ・・・アイツは遠い国で、自分の信念の為に頑張ってるんだ。
    だったら俺だけウジウジしていられない。
    アイツみたいに、信念を貫かなきゃ。
    「ほらほら、しょげてないで行こう!」
    動物たちのおかげで、ちょっと励まされる。
    そうだよ、弱気になってちゃダメなんだ。
    やると決めたんだから、とことんまでやり抜かないと。
    こんな所でつまづいてちゃ、藤井と合わせる顔がなくなる。
    それに何より、いつまで経ってもアイツに手が届かない。
    俺の人生を変えてくれた、あの猫神に・・・・・。
    《やる!やるしかないんだ!》
    胸が熱くなり、闘志の炎が湧いてくる。
    「逃がすか!」と謎のタヌキを追いかけた。

     

     

    不滅のシグナル 第十八話 雪桜の幻郷(2)

    • 2017.04.28 Friday
    • 16:20

    JUGEMテーマ:自作小説

    必ず明日がやって来るというのは、何の根拠もない希望だった。
    一日後、いや数分後でさえ、人が生きているという保証はどこにもない。
    毎日やってくる朝陽は、無事に命を長らえた証拠。
    しかしそうではないこともある。
    今、田所は朝陽を眺めているが、生きてはいない。
    肉体を失い、魂だけとなって、ふわふわと彷徨っていた。
    四カ月前の夜、田所は安桜山神社に行った。
    そこで充分な徳も積まないままに、御神体を破壊してしまった。
    結果、彼は死んだ。
    喜衛門の呪いを受けて、あっけなくこの世を去った。
    あの時、痛みのあまり気絶した。
    そして全てがオレンジに溶ける夢を見て、何もかもこうして溶けてしまうんだと思った。
    しかし溶けたのは肉体だけで、魂は残った。
    幽霊となった田所は、社殿の中に横たわる、哀れな自分を見つめた。
    強酸に浸けたように、身体の半分が溶けていた。
    周りには美由希や少年の霊がいて、田所にこう言った。
    《ごめんなさい・・・・。》
    それだけ言い残し、天国へ消えていった。
    一人残された田所は、御神体の鏡を睨んだ。
    『喜衛門、許さへんぞ。お前を許すことはあらへん。』
    無限の泉のように、いくらでも怒りが湧き上がる。
    良いように利用され、たった一つ間違いを犯しただけで、命を奪われた。
    いくら神様とはいえ、こんな理不尽を我慢できなかった。
    『消したる・・・・お前なんかこの世にいらん。』
    怒りを纏わせながら、鏡に触れる。
    しかしその瞬間、焼けるような痛みが走って、思わず叫んだ。
    『お前な!覚えとけよ!絶対に復讐したる!許さんからな!』
    そう言い残し、神社を後にした。
    あれから四カ月、季節は冬に変わった。
    今日は雪で、灰色の雲からキレイな粉が舞い落ちる。
    田所は思った。
    死んだ後でも情緒を抱くのだなと。
    降り注ぐ雪を見て、心が洗われるような美しさを感じていた。
    《・・・いつまでもずっと見てたい。》
    もう自分は死人で、この世のしがらみに囚われることはない。
    社会も、法律も、犯した罪も。
    自分を縛るものは何もなくて、それならばずっとここで雪を眺めていたいと思った。
    今、田所がいる場所は、安桜山神社の奥宮がある山だった。
    あの神社から、しばらく登った場所に沼がある。
    人工の沼で、麓に向かう水路には堰があった。
    降り注ぐ雪と、誰からも忘れられたような人工の沼。
    情緒と無機質、自然と人工物。
    相反するものが、奇妙なほど上手く調和して、極楽のように田所を和ませた。
    田所は長く同じ場所に座っていた。
    一年、二年、いや、もっとかもしれない。
    時間の概念さえ消えそうなほど、ずっと同じ場所にいた。
    ・・・・不思議なことに、その間ずっと雪はやまなかった。
    春になり、夏になり、秋になっても、雪は絶えない。
    田所は不思議な思いでそれを見ていた。
    《・・・・・あれ?ここってもしかして・・・、》
    立ち上がり、山を駆け下りる。
    今、季節は春。
    山を下りれば桜が咲いていて、国道沿いを彩っていた。
    そして雪も降っている。
    淡いピンクに真っ白な雪。
    それは何とも美しい光景で、極上の絵画のようだった。
    田所は国道を歩いていく。
    ザクザクと雪を踏みしめ、辿った足跡を振り返った。
    しかし足跡はない。
    降り注ぐ雪が消したのかとも思ったが、そうではなかった。
    一歩前の足跡さえないのだ。
    《・・・・・・・・・。》
    歩き、振り返る。
    その度に足跡が消えている。
    ・・・今度は桜の枝を掴み、ボキっとへし折った。
    そして花弁を千切って、辺りにまき散らした。
    目を閉じ、そして開ける。
    すると折れた枝は元に戻り、散った花弁も消えていた。
    《美しい景色が傷つへん・・・・。これはやっぱり。》
    どこを見渡しても極上の景色。
    傷つけてもすぐに元通りになってしまう。
    田所は頷く。きっと間違いないと。
    《ここ天国か。》
    フラフラと彷徨う浮遊霊だと思っていたのに、いつの間にか天国へ来ていた。
    なぜか?
    田所は考える。
    《自分が行きたいと望んだからか?》
    あの少年は言っていた。
    行きたいと願えば、いつでも天国に行けると。
    田所は雪を見上げ、《そういえば思ったな・・・》と呟いた。
    《この雪をずっと見てたいって。なんにもしたあなくて、こうやってずっと・・・・・。》
    そう思ったのは、田所の本心。
    行きたいという願いは、田所を天国へと運んでいた。
    ・・・・不思議だった。
    誰もいなのに、寂しさを感じない。
    あの少年は周りには友達や母(美由希)がいる。
    なのに自分はどうして・・・・・?
    雪の上に座り、じっと考える。
    《天国は善人が行く場所や。それやったら、ここにようさん善人が来てるはずや。
    やのになんで俺だけ・・・・・・。》
    色々と考えを巡らせる。
    《天国ちゅうのは、本人が望んだ世界になるんか?それとも、もうちょっと歩いたら人がおるかな?》
    立ち上がり、後者に賭ける。
    長い長い国道を歩き続けて、かつての職場まで辿り着いた。
    建物はあるが、人はいない。
    田所は職場を後にして、安桜山神社を目指した。
    《あそこに行ったら、美由希かあの子があるかもしれんな。》
    ザクザクと雪を踏みしめ、安桜山神社までやって来る。
    そこで不思議な光景を目にした。
    《なんやあれ?》
    神社のある場所だけが、真っ黒に塗りつぶされていた。
    墨汁でもぶちまけたみたいに、綺麗に景色から浮いてみえる。
    《他はそのままやのに、なんであそこだけ・・・・・。》
    足を進め、鳥居の前までやってくる。
    《これ・・・・なんちゅう不思議な光景や。》
    黒く塗りつぶされた神社。
    それは三次元のシルエット、奥行きをもった影のようだった。
    鳥居に手を触れると、焼けるような痛みが走る。
    それは御神体の鏡に触れた時と同じ痛みだった。
    《触るなっちゅうことか。》
    ここは天国。
    それは間違いない。
    そうでなければ、傷ついた景色が、美しく元に戻るわけがない。
    そう思ったが、この神社だけは異様だった。
    およそ天国に相応しくない物体。
    3Dのシルエットは、そこだけ空間が抜けたような、言葉にできない不気味さがあった。
    《どうなってんねや・・・・。》
    中に入ってみたいが、踏み込めば痛みが襲う。
    田所は迷った。
    深いことは考えず、あの沼に戻って、永遠に景色を眺めていようか?
    それともこの神社の謎に挑んでみるべきか?
    《これ、間違いなく喜衛門が関わってるよな。》
    腕を組み、雪桜を見つめる。
    《ええ景色や。ほんまに・・・・なんでも忘れて、心地ええ気分になる。》
    ここに身を留め、穏やかな快楽に浸るのも悪くない。
    しかしそう決断するには、ちょっぴりの悔しさがあった。
    《これがもし喜衛門の用意した景色やとしたら、それは癪やなあ。
    利用されて、殺されて、その後は美しい天国か。
    ここでずっと景色を眺めてたら、それはある種の飼い殺しやろ。》
    田所は迷う。
    ここは良い場所だが、あいつに尻尾は振りたくない。
    だから決めた。
    ここを後にしようと。
    そしてその為には、この神社に挑まないといけない。
    触れれば焼ける痛みが襲うが、自分はもう死んでいる。
    それならば恐れるものなどないはずだと、腹を決めた。
    《行こか。》
    ゆっくりと深呼吸して、一歩踏み出す。
    鳥居をくぐった瞬間、焼けた鉄を押し付けられるような痛みが走った。
    《・・・・・・・ッ!》
    頑張って階段を登っていくが、とても耐えられない。
    《死ぬ!》
    階段を転げ落ちて、鳥居の外に逃げ出した。
    身体を見ると、傷一つ負っていない。痛みもない。
    《景色だけじゃなくて、俺の傷もすぐに治るんか。》
    神社の外にいる限りは安全。
    しかしここへ踏み込めば、魂ごと焼き尽くされそうな激痛が襲ってくる。
    《どうしたもんか・・・・。》
    鳥居の前に座り込んで、恨めしそうに見上げた。
    ・・・・何か方法はないか?
    思案するうちに、一つのことが思い当たった。
    《そういえば神社は穢れを嫌うんやったな。》
    今の自分は死人。
    それならば、鳥居を潜ることは許されないのかもしれない。
    しかし美由希やあの少年は神社にいた。
    ということは、祭神の許しを貰えば、この中に入れるのではないか?
    《喜衛門から許可を取らんとアカンのかもしれへん。でもそれはアイツに頭を下げることになるな。》
    そこまで考えて、ふと思い当たった。
    《・・・・そうか!あいつ・・・俺を怖がってるんかもしれへん。
    復讐するからな!なんて言うてもたから、俺をこんな場所に閉じ込めて・・・・。》
    ここは天国、とても良い場所だ。
    永遠にここに住むならそれで良し。
    しかし復讐を果たそうとした時、この神社に足を踏み入れねばならない。
    だがその為には喜衛門に頭を下げる必要がある。
    《復讐する相手に頭を下げるって・・・・えらい矛盾や。》
    田所はとても不愉快だった。
    《喜衛門よ、お前はそれを狙ってるんやな?俺が頭を下げ、許しを乞うのを。》
    彼の用意した仮初の天国で過ごすか?
    それとも復讐心を捨て去って、ここから抜け出すか?
    ・・・・仮に抜け出したとして、その後はどうするのか?
    《もういっぺん復讐に走ろうとしたら、またここへ閉じ込められるやろな。
    そもそも復讐心を持ったままやったら、いくら頭を下げても許してくれそうにないしな。》
    かつて田所は、自分の為に頭を下げたことがある。
    あの少年と、その両親に対して。
    しかしそれは間違いだと知った。
    謝罪は自分の為にあるのではなく、傷つけてしまった相手の為にある。
    傷つけてしまった相手へ許しを乞うのは、謝罪ではないのだ。
    申し訳なかったと、ただその気持ちを伝える。それが謝罪だ。
    田所は雪の上に膝をつく。
    そして両手もついて、深く頭を下げた。
    《喜衛門さん、俺をここから出して下さい。
    ここはええ場所やけど、あんたが用意した天国にはおりたあない。
    俺は美由希がおる天国に行きたいんや。》
    まずは自分の願望を伝える。
    これは神頼みだ。
    《神様に頼むのに、リスクがあるのは承知です。でもやっぱり本物の天国がええ。》
    賽銭があれば投げ込みたかったが、今は頭を下げるしか出来なかった。
    《謝ります。神様のあなたに対して、無礼な言動を取ってしまいました。その上復讐までしたいなんて、大それたことを。
    いち人間が思い上がってました。・・・・・申し訳ありません。》
    神頼みと謝罪。
    喜衛門がこの二つをどう受け取るか、神のみぞ知る。
    田所はじっと頭を下げ続ける。
    利用されたこと、美由希を殺されたこと、そして自分も殺されてしまったこと。
    憎しみはあるが、今はただ謝るだけ。
    神の威厳を傷つけてしまうような態度を取ってしまって、申し訳ありませんでしたと。
    田所は一時間もそのままだった。
    目を閉じ、喜衛門に対する畏敬の念を抱きながら、ただ頭を下げていた。
    ・・・・その時、誰かが頭に触れてきた。
    顔を上げると誰もいない。
    その代わり、神社の様子が変わっていた。
    「色が・・・・。」
    真っ黒だった神社が、いつも通りに戻っている。
    境内には桜が咲き、白い雪が積もっている。
    田所は立ち上がり、鳥居の前で一礼する。
    足を踏み入れても、もう痛みはない。
    ザクザクと雪の感触を確かめながら、階段を上っていった。
    そこにはもう一つ鳥居があって、また頭を下げた。
    そしてその先にある小屋まで来ると、《止まれ》と喜衛門の声が響いた。
    田所は直立不動になる。
    本殿を見上げ、『喜衛門さん』と語りかけた。
    『お会いできますか?』
    真っ直ぐに本殿を見つめて、喜衛門の声を待った。
    《座れ。》
    『はい。』
    いつものように、小屋の椅子に腰かける。
    すると喜衛門が現れた。鏡に映っていたあの男だ。
    喜衛門は向かいに座り、こう言った。
    《まだ死んでへん。》
    『俺生きてるんですか?』
    驚く田所。
    喜衛門は続けた。
    《一つ頼み事があるんや。》
    『なんですか?』
    《ここにある御神体を、奥宮に移してほしいんや。》
    『あのオヤジさんがおった所にですか?』
    《御神体を破壊するのはもう無理や。》
    『なんでです?俺、まだ生きてるんやったら、また徳を積んで・・・・、』
    《これを必要とするモンがおる。》
    『必要・・・・・誰ですか?』
    《お前や。》
    『俺?』
    《生きてるが、瀕死の状態や。お前と親しかったモン、お前に助けられたモン、みんな頼んでくんねや。
    これ以上お前を苦しめんといたってくれと。》
    『それは・・・・美由希やあの子が?』
    《他にもおる。儂の分霊もな。》
    『オヤジさんも!?』
    《儂としては御神体を破壊してほしいんやがな。でもお前を助けるには、御神体の力が必要や。
    そんでアレを破壊するとなると、またお前みたいな人のええ奴を探さなあかん。
    これな、けっこう骨が折れるんや。徳を積ませるのも大変やし。》
    そう言ってどこからか煙管を取り出し、プカリと吹かした。
    《吸うか?》
    『いえ・・・・。』
    《儂の願いは御神体を破壊し、この世から儂の力を消し去ることや。
    でもそれはなかなか難儀なことや。ほならな、壊すよりも隠した方がええかと思ってな。》
    『だから奥宮に移すんですか?』
    《そや。引き受けてくれるんやったら、お前は助かる。そんで儂はもう二度と人間を利用せえへんと約束しよう。どや?》
    田所の答えは決まっている。二つ返事で引き受けた。
    『やります。』
    《ほな頼むで。失敗したら・・・・分かってるな?》
    『神様は怒らせたら怖い。よう知ってます。』
    喜衛門は満足そうに頷く。
    煙管を吹かしながら、ゆっくりと消えていった。
    その次の瞬間、田所のこめかみに痛みが走った。
    頭痛と吐き気、この二つが襲ってきて、その場にうずくまる。
    ・・・・そして次に目を開けた時、本殿の前に転がっていた。
    辺りは暗く、蛍光灯に虫がたかっている。
    「・・・・・・・・・。」
    もしやと思い、スマホを取り出す。
    「・・・・あの日のまま。」
    日付は呪い殺されそうになった日と変わっていなかった。
    時刻も同じ。
    「幻か・・・・。」
    本殿を見上げ、一つ頷く。
    「やりますよ、喜衛門さん。」
    壊したはずの扉も元に戻っていて、また体当たりをかました。
    その時、悲鳴を上げるほどの痛みが全身を襲った。
    「なんッ・・・・、」
    鋭く焼ける痛みが走る。
    服をめくってみると、胴体と手足の一部が溶けていた。
    「なんや!」
    驚き、固まっていると、見る見るうちに傷が治っていった。
    「そうか・・・・これ、喜衛門さんが治してくれて・・・・、」
    自分は瀕死の状態だった。
    きっと奥にある御神体のおかげで、一命を取り留めたのだろうと頷いた。
    ・・・・ふうっと息をつき、扉に飛び蹴りをかます。
    それを三度繰り返すと、鍵が外れた。
    取っ手を掴み、深呼吸。
    御神体を奥宮に移せば、全てが終わる。
    誰も喜衛門に利用されることはなくなる。
    緊張しながら取っ手を引き、扉を開けた。
    蛍光灯の明かりが、アメーバのように中に漏れていく。
    その時、一瞬だけ美由希たちの姿が見えた。
    オヤジ、あの少年、今までに出会った幽霊たち。
    ほんの一瞬だが、漏れる光の中に浮かんだ。
    「・・・・・・・・・。」
    田所は無言で頷く。
    自分を助ける為に、喜衛門に頭を下げてくれてありがとうと。
    皆が消えた向こうには、御神体の鏡がある。
    漏れる光を反射して、鈍く輝いている。
    神秘的で、魔性的で、人を惹きつける妖しい輝き。
    田所は手を叩き、頭を下げた。
    人知を超えたものは、人目に触れる場所には置いておけない。
    神を宿すその鏡は、幸と不幸を同時にもたらす、諸刃の剣。
    神は拝むもの。
    頼るものではないのだと、改めて感じた。

    もしミサイルが飛んできたら

    • 2017.04.27 Thursday
    • 17:44

    JUGEMテーマ:社会の出来事

    北朝鮮への緊張が高まっています。
    もしミサイルが飛んできたらどうなるのか?
    私は兵器や軍事に詳しくありません。
    北朝鮮がミサイルを飛ばしたら、それを撃ち落とす為に迎撃ミサイルを飛ばすことくらいは分かります。
    だけど「撃ち落とせる」っていう人もいれば、「無理だ」と言う人もいます。
    迎撃システムは向上してるから大丈夫。
    いや、弾道ミサイルを撃ち落とすなんてほぼ無理。
    どっちの意見が正しいのか分かりません。
    飛んでこないのが一番なんですが、飛んできたら迎撃してくれることを願うしかありあせん。
    弾道ミサイルはとても高価なので、通常の弾頭を積むことはまずないそうです。
    核か、あるいは化学兵器か?
    大規模に被害を与える武器じゃないと、弾道ミサイルを飛ばす意味はないそうです。
    北朝鮮は核を持っています。
    そして現代の核兵器って、広島や長崎に落としたものよりも、はるかに強力だそうです。
    もし東京に落ちたら、関東一円はほとんど壊滅だと聞きました。
    関西に落ちるとしたら大阪でしょうか。
    となると京阪神は壊滅、名古屋だと中部地方の中心は壊滅でしょう。
    どこに落とされようが、辺り一帯は壊滅ってことになると思います。
    ・・・・なんでそんな武器を持ちたがるんでしょうね。
    戦争が文明の発展を促すいう意見もあるけど、核兵器のある現代では、むしろ崩壊しそうな気がします。
    かのアインシュタインは、こんな言葉を残しています。
    「第三次世界大戦がどのように行われるのかは分からない。
    だが第四次世界大戦が起こるとしたら、人類は石と棍棒で戦うだろう。」
    これは有名な言葉なので、知っている人も多いでしょう。
    次なる世界大戦は、核によって文明が崩壊するって意味です。
    第四次世界が起きる頃には、原始人と変わらない世界になってますよって警告とも取れます。
    それほど核は危険ってことです。
    SF映画みたいに、人類が宇宙で暮らすなら、核エネルギーも必要になるでしょう。
    だけど地球上で暮らす限り、どこに必要性があるのか分かりません。
    もし北朝鮮からミサイルが飛んでくるとすれば、核弾頭を飛んでいる可能性が大です。
    核は核の抑止力になるという意見があります。
    確かにそうかもしれません。
    撃ったら撃たれるんだから、お互いに使えないってことになります。
    だけど抑止力になるからこそ、かえって拡散しているのも事実でしょう。
    日本に敵意を持ち、なおかつ本当に攻撃してくるかもしれない国が傍にある。
    その国には核兵器があって、いつ落ちてくるか分からない。
    怖い時代になりました。

    勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜 第三話 タヌキの恩義(1)

    • 2017.04.27 Thursday
    • 17:43

    JUGEMテーマ:自作小説
    冬は陽が暮れるのが早い。
    冬至はもう過ぎたけど、でも夕方を過ぎればすぐに暗くなる。
    腕時計は7時を指していて、「けっこう時間かかっちゃったなあ」とぼやいた。
    今日、銭湯のバイトが終わると、栗川さんから仕事の依頼を持ち掛けられた。
    6時からは別のバイトがあったけど、でも動物探偵こそが俺の本業。
    だから次なるバイトをサボって、ついさっきまで栗川さんの話を聞いていたのだ。
    『それじゃよろしくお願いします。』
    正式に契約を交わした俺たちは、暗い空の元別れた。
    今、俺の手には契約書が握られている。
    動物探偵を始めて二ヶ月。
    ようやく二度目の依頼がやってきた。
    「これを上手くこなせば、きっと次に繋がる。動物探偵として身を立てられるチャンスだ。」
    ウキウキしながら、車の中でほくそえんだ。
    するとポケットの中で、ブルブルっとスマホが震えた。
    6時から行くはずだった、バイト先のコンビニからだ・・・・。
    「ああ、やっぱり怒られるよな・・・・。」
    憂鬱な気分になるが、出ないわけにはいかない。
    あと一ケ月で30になるのだから、さすがに学生のようにバックレるわけにはいかない。
    やや緊張しながら「はい、もしもし」と電話に出た。
    『おい有川、お前なんで来ないんだ。』
    「すいません、ちょっと仕事の話をしてまして。」
    『仕事お・・・・?』
    「ええっと・・・・雇って頂く時にお伝えしたと思うんですが、動物探偵というのをやっておりまして。
    それでさっきまで依頼者の方とお話を・・・・・、」
    『くだらねえ嘘ついてんじゃねえよ。』
    「嘘?」
    『お前どうせアレだろ?良い歳してフリーターってのが恥ずかしいから、そんな嘘ついてたんだろ?』
    「いえいえ、本当のことですよ。僕はれっきとした動物探偵で・・・・、」
    『ていうか動物探偵ってなんだよ?ペット探偵なら知ってるけどよ。』
    「まあ似たようなものです。しかし動物探偵は、ペット探偵ではこなせないような、難易度の高い動物のトラブルを解決してですね・・・、」
    『ごたくはいいからさっさと来い。でないと今いる奴が上がれないんだよ。』
    「分かりました。では今から行かせて頂きます。」
    電話を切り、「なるほどねえ・・・」とため息をついた。
    「嘘か・・・・。まあそう思われても仕方ないよな。」
    動物探偵なんて聞き慣れない言葉だ。
    俺が勝手に作った職業なんだから当たり前だけど。
    でも断じて嘘などついていない。
    なぜなら俺には、普通の人間にはない力があるからだ。
    「どういうわけか分からないけど、昔っから動物と話せるんだもんなあ。
    だったらこの力を活かさずして、なんとするって話だよ。」
    もちろんこんな力があることは、周りには伝えていない。
    知っている人も何人かいるが、それは付き合いの長い人だったり、心から信頼できる人だけだ。
    「嘘と思われても仕方ないのが現状か。だったらそれを打破する為にも、やっぱりこの依頼は頑張らないと。」
    ハンドルを切り、バイト先のコンビニを目指す。
    店に入るなり、「バックレてんじゃねえよ!」と怒られてしまった。
    「すいません」と謝り、すぐに制服に着替える。
    そして仕事が終わった後、オーナーにこう伝えた。
    「これから動物探偵の仕事が忙しくなるので、しばらく休みを下さい」と。
    答えはNO。
    またしても「しょうもない嘘ついてんじゃねえよ」と怒られてしまった。
    でもこれは俺の本業なので、やはりこっちのバイトを優先させるわけにはいかない。
    だから「本日で退職させて下さい」と伝えた。
    オーナーは激怒し、「てめえは学生のバイトか!」と灰皿が飛んできた。
    「30にもなろうって大人が、仕事をバックレる気か!」
    《痛ってえ〜・・・・思い切り頭に当たったぞ。》
    足元に転がった灰皿を睨んで、こいつを投げ返してやろうかと思う。
    でも悪いのはこっちなんだから、グッと堪えた。
    「ご迷惑をお掛けしてすみません」と頭を下げる。
    二個目の灰皿が飛んできたけど、でも我慢我慢。
    しばらく頭を下げ続けていると、とうとうオーナーの方が折れた。
    「お前さ・・・・ホントに動物探偵なんてやってるのか?」
    「はい。」
    「・・・・・マジかよ?」
    「もしオーナーも動物でお困りのことがあれば、是非ご相談下さい。」
    「ねえよ。俺は動物は嫌いだ。」
    そう言ってボリボリ頭を掻いて、「勝手にしろ」と言った。
    「すみません、急にこんなこと言って。」
    「いいからさっさと失せろ。でないとまた灰皿が飛ぶぞ。」
    オーナーはしっしと手を払う。
    俺はもう一度頭を下げて、「短い間でしたが、お世話になりました」と言った。
    店の外に出て、「悪いことしちゃったな」と呟く。
    「今はどこも人手不足だもんな。でもオーナーには悪いけど、ここのバイトで本業をおろそかにすることは出来ない。」
    やりたい事と、やらなければいけない事の両立は、けっこう難しい。
    ここを辞めたはいいものの、もしも本業の方がコケたら、また頭を下げてどこかに雇ってもらわないといけないんだから。
    しかしそんな暗い未来を考えても仕方ない。
    動物探偵の道を切り開く為に、目の前の仕事に集中しないと。
    とっぷり暗くなった空を見上げ、星のように希望を灯した。


                *

    タヌキのことはタヌキに聞け。
    というわけで、俺は依頼の話をマイちゃんに伝えた。
    すると「来た!キタアアアアアアアア!」と飛び上がった。
    「やったね悠一君!動物探偵を始めて、二度目の依頼だよ!」
    「痛だだだだだだ!本気で手を握るな!」
    化けタヌキのマイちゃんは、人間とは比べものにならない腕力をしている。
    俺は「おお痛・・・」と手をフーフーした。
    「悠一君!この依頼、なんとしても解決しなとね!」
    「ああ、失敗は許されないよ。」
    俺はいとまいを正し、マイちゃんを見つめた。
    「だからマイちゃんの意見を聞きたいんだ。依頼の内容はタヌキに関することだからさ。
    なら同族に聞くのが一番でしょ?」
    「任せて!この小町舞が、なんでもレクチャーしてあげるから!」
    そう言ってドンと胸を叩く。
    他の動物たちも、がぜんやる気になっていた。
    「おうおう悠一!俺たちだって手伝うぜ!」
    「そうよ!記念すべき二度目の依頼だからね。ここは悠一軍団全員で臨むべきよ!」
    「俺は全員出動は反対だね。そこのブルドッグは足を引っ張るだけだ。
    ていうか俺一人いれば万事解決。」
    「だはは!ハムスターに何ができるんだ?ここは機動力と知力を兼ね備えた、鳥類である俺の出番だろ。」
    「機動力はともかく、知力は疑わしいわね。なんたって正真正銘の鳥頭なんだから。
    さっき聞いたことだって、五分後には忘れてるんじゃない?」
    「おうおうコラ!ここは俺に任せとけばいいんだよ。
    お前ら普通の動物なんざ役に立たねえ。
    俺みたいな超人的な生き物でないと、動物探偵の助手は務まらねえぜ。」
    「何よアンタ。太ったヘビのクセに。我が家でマサカリの次にデブでしょ。」
    「俺は太ってなんかねえ!元々こういう体形だ!」
    「だはは!丸まって突進しか出来ない奴に、何ができる?やっぱりここは、機動力と知力を兼ね備えた鳥類の俺が・・・、」
    「やいテメエら!さっきから黙って聞いてりゃ、俺がデブって前提で話しやがって。
    俺は太ってんじゃねえ。ちょっと丸い体形をしてるだけだ。」
    「それをデブっていうのよ。お腹、肉割れしてるわよ?」
    「だはは!ホントだ。ケツが二つある。」
    「くうのおおお・・・・言わせておけばああああ・・・・、」
    動物たちは勝手に盛り上がっている。
    でもその方がいい。
    下手に話に入って来られたら、余計にこじれるというもの。
    俺は専門家の意見を拝借すべく、「で、どう思う?」とマイちゃんに尋ねた。
    「う〜ん・・・・そうだねえ・・・・。」
    頬杖を突きながら、天井を見上げる。
    眉を寄せて、険しい顔で唸っていた。
    「ちょっと整理させてほしいんだけど・・・・。」
    「ああ、いいよ。」
    「依頼の内容はこうだよね?」
    そう言って親指を立てて、俺が話した内容を繰り返した。
    「今から二週間ほど前、栗川さんって子は仕事から帰る途中に、車でタヌキを撥ねちゃった。
    そして慌てて車を降りると、撥ねたはずのタヌキがいなかった。」
    「うん。」
    「周りは田んぼばっかりで、ちょこちょこっと民家があるくらい。
    だから撥ねたはずのタヌキがいなくなるなんておかしいなあって・・・・そう思ったと。」
    「そうだよ。どこを探してもいなかったらしい。」
    「そして次の日の朝、家の前にたくさんの野菜が置いてあった。大きなカゴ一杯の野菜が。」
    「けっこうな量みたいだったよ。家族みんなでも全然食べきれないくらいの。」
    「そして次の日も、また次の日も、同じように野菜が置いてあったと。」
    「朝起きたら必ず置いてあるんだって。」
    「それでもって、野菜には手紙が添えられていた。
    内容は『この前助けて頂いたタヌキです。これはウチの畑で採れたものです。遠慮せずにどうぞ召し上がって下さい』と。」
    「ああ。」
    「でも栗川さんは、『なんのこっちゃ?』と首をひねった。
    家族は誰かのイタズラだろうと思って、でも野菜だけはしっかり頂いたと。」
    「まあタダで貰えるんだからね。今年は野菜が高いから、みんな喜んだらしいよ。」
    「だけど栗川さんは気になって仕方なかった。
    だから自分もお手紙を書いて、玄関に置いておいた。
    『あなたはいったい誰なんですか?どうしていつも野菜を置いていくんですか?』って。」
    「栗川さんには、ちょっと気になることがあったんだ。
    数日前にタヌキを撥ねて、でもそのタヌキはどこにも見当たらなかった。
    もしかしたら、それが関係あるのかなって思ったそうだよ。」
    「でもそうなると、手紙の内容とは合わなくなる。
    だって手紙には、『この前助けて頂いたタヌキです』って書いてあったから。」
    「うん。助けるどころか、傷つけたかもしれないわけだからね。
    だから栗川さんは余計に気になったんだよ。」
    「それで自分も手紙を書いてみた。
    そしたら次の日の朝、野菜と一緒に返事の手紙が置いてあった。」
    「律儀だよな、手紙を返すタヌキなんて。まあ本当にタヌキだったらの話だけど。」
    「そうだね。でもタヌキってけっこう気を遣う生き物だから。」
    「そうなの?」
    「少なくとも私は。」
    「確かにマイちゃんはそういう所あるね。でもそれはタヌキ全部に共通することなの?」
    「う〜ん・・・みんなとは言えないけど、そういうタヌキは多いよ。」
    「なるほど。」
    「まあそんなこと今は置いといて、返事の手紙にはこう書かれてたんだよね?
    『あなたのおかげで命拾いしました。野菜はほんの些細なお礼です。
    これからも毎日お届けしますので、遠慮なく召し上がって下さい。』って。」
    「結局なんのことか分からないよな。だから栗川さんはもう一度手紙を書いた。
    『ごめんなさい。よく意味が分かりません。
    野菜は嬉しいけど、でも毎日もらってもちょっと困るっていうか・・・・。
    まずあなたが誰なのか教えてほしいです。それと私はタヌキを助けた覚えはありません。
    轢いたかもしれない覚えはあるけど・・・・。
    だからまずあなたが誰なのか教えてほしいし、野菜はもう置いていかなくてけっこうです。』
    するとこれが返ってきた。」
    俺は栗川さんから渡された手紙を振る。
    握りつぶしてしまったせいで、しわくちゃになってしまった。
    必死に伸ばしたから、どうにか文字は読めるけど。
    マイちゃんはその手紙を持って、声に出して読み上げた。
    「私は先日あなたの車に撥ねられたタヌキです。
    あの時はビックリしてしまって、そのまま逃げてしまいました。
    でもあなたに撥ねられたおかげで、私は命拾いをしたのです。
    そうでなければ、多分もうこの世にいなかったでしょう。
    だから恩返しがしたいんです。
    野菜はいらないとのことですが、じゃあ何で恩返しすればいいでしょうか?
    私はタヌキなので、あまり大したことは出来ません。
    もしあなたが望むことがあったら、何でも言って下さい。
    私にできることならさせてもらいます。」
    手紙を読み上げたマイちゃんは「チンプンカンプンだね」と言った。
    「タヌキのマイちゃんでも分からない?」
    「だってこれだけじゃ何とも。それにこの手紙を出した人が、ホントにタヌキかどうかも分からないし。」
    「そうだよねえ・・・・まずは相手の正体を突き止めないことには。」
    「でも毎日野菜を持って来るくらいだから、きっと普通のタヌキじゃないよ。
    私と同じ化けタヌキなのかも。」
    「その可能性はあるね。でもさ、化けタヌキってそうそういるもんなの?」
    「けっこういるよ。実際にお稲荷さんだってたくさんいるわけだし。」
    「言われてみれば・・・・。こがねの湯なんてお稲荷さんだらけだしな。」
    「キツネとかタヌキとか猫とか、人間に化ける生き物は多いからね。」
    「そうだなあ。でもさ、キツネは稲荷、猫は猫又。じゃあタヌキはなんで化けるの?神様でも妖怪でもないのに。」
    そう尋ねると「ふふふ」と笑った。
    「どうしたの?」
    「私も詳しいことは知らない。」
    「なんだよ・・・・思わせぶりに笑うから、何かあるのかと思ったのに。」
    「あるにはあるんだけど、なんで化けられるかは分からない。お父さんなら知ってるかもしれないけど。」
    「マイちゃんのお父さんか・・・・。職人気質で怖そうな感じだよね。」
    「見た目は怖いけど、中身は優しいんだよ。」
    マイちゃんはいかにお父さんが立派かを力説する。
    俺はうんうんと聞いていたけど、「今は依頼の話をしよう」と言った。
    「栗川さんは、正直このタヌキに迷惑してる。
    毎日大量の野菜を置いていかれても困るし、それに何より相手の正体が分からない。
    彼女は稲荷や化けタヌキが実在するなんて知らないから、きっと誰かのイタズラだろうと思ってるんだ。」
    「普通はそう思うんじゃない?」
    「だからこそ怖がってるんだよ。だから相手の正体を知りたがってるし、できればもうやめてほしいと思ってる。」
    「なら家の前にいればいいのに。野菜を持って来た時に会えるんだから。」
    「何度かそうしたらしいよ。でも会えないんだって。」
    「会えない?来なかったってこと?」
    「いや、気がついたら野菜が置かれてるんだってさ。
    どんなに周りを見張ってても、ちょっと油断した隙にもう。」
    「なるほど・・・・じゃあ普通の人間の仕業とは考えにくいね。となるとやっぱり化けタヌキなのかな?」
    難しい顔をしながら、腕を組むマイちゃん。
    俺は「あのさ」と尋ねた。
    「もし相手が化けタヌキだとしたら、それってマイちゃんには分かるものなの?」
    「まあ一応ね。でも変化の上手いタヌキだったら見破れないかも。」
    「そうか・・・・。」
    俺は腕を組み、マイちゃんと同じく難しい顔になった。
    「まあ・・・・アレだな。とにかくその手紙の主に会ってみないとな。
    だから明日は栗川さんの家の前で、張り込みをしようと思うんだ。」
    「いいねそれ!探偵っぽい!」
    手を叩いて、楽しそうに喜ぶ。
    「とりあえず明日のバイトは全部休もうと思ってるんだ。
    ていうか今日なんか一個辞めて来ちゃったし。」
    「いんじゃない?だってこっちが悠一君の本当のお仕事なんだから。」
    「仕事かあ・・・・まだまだ食えないから、胸を張って言えないな。」
    「胸を張って言えるように頑張らなきゃ。私も手伝うから!」
    そう言ってグッと拳を握った。
    《マイちゃんもやる気になってくれてる。何としてもそのタヌキの正体を掴まないとな。》
    人間というのは、追い詰められた時にこそ、本当の力が出てくるものだ。
    今の俺は、生活できなくなるかもしれないという、赤字財政の崖っぷちに立たされている。
    しかしここで退いては未来はない。
    来るべき未来の為に、なんとしても踏ん張らないと!
    「マイちゃん、明日は頑張ろうな。」
    「うん!みんなで力を合わせれば、きっと上手くいくよ。」
    二人でコツンと拳を合わせる。
    その時、丸い何かが飛んできて、俺の横っ面を抉った。
    「ぐはあッ!」
    「悠一君!」
    とんでもない衝撃をくらって気絶しそうになる。
    マイちゃんは俺を抱えながら「コラ!」と怒った。
    「ノズチ君!悠一君に体当たりしちゃダメじゃない。」
    「へん!そいつにやろうと思ったわけじゃねえ。そこのブルドッグにやろうと思ったんだ。
    あの野郎、デブのクセに意外と俊敏だ。」
    「だから転がっちゃダメだってば!」
    「離せ!ツチノコたるのも、たかが犬に馬鹿にされてたまるか!」
    「おうおうコラ!ツチノコがなんだってんだ!ていうか我が家で一番のデブはお前だろ!」
    「俺は元々こういう体形なんだ!無駄にコレステロールを溜めた前と一緒にするな!」
    「「俺の肉は栄養の塊でい!不健康みたいに言うな!」
    「肉割れで腹がケツになってるクセに偉そうに・・・・成敗してやる!」
    「だからあ・・・・喧嘩しないの!」
    騒がしい我が家の日常。
    楽しくもあり、うるさくもあり、時に激痛が走ることもある。
    ノックアウト寸前の俺をよそに、動物たちはますますエキサイティングしていた。
              コマチ マイ

    不滅のシグナル 第十七話 雪桜の幻郷(1)

    • 2017.04.27 Thursday
    • 17:40

    JUGEMテーマ:自作小説
    暦は秋でも、暑さは居座り続ける。
    一日の仕事を終えた田所は、まどろむような空を見上げた。
    太陽はとろけそうで、空は光に滲む。
    いつの日か、全てがあのように溶けてしまうのではないかと、妙に感傷的になった。
    淡い情緒を抱いたまま、職場に戻る。
    するとオヤジが手招きをして、事務所へ呼んだ。
    「なんですか?」
    「まあ座りいな。」
    ギシっとパイプ椅子に座り、オヤジを見つめる。
    「・・・・もしかして、」
    「今日で終わりや。」
    「クビですか?」
    「卒業と言え。」
    「やっぱり俺はこの町から離れなあかんので?」
    「他の仕事を紹介したる。だから食いっぱぐれることはないで。」
    「そらありがたいですけど、俺はまだやることがあるんです。」
    「ここでの事はもう忘れ。兄ちゃんの為にならん。」
    「・・・・本霊は?」
    田所は遠慮がちに尋ねる。
    真っ直ぐに見つめながら、「もう一人のアンタはなんて?」と言った。
    「ほんまもんの喜衛門さんはなんて言うてるんですか?」
    「そら嫌がってるわ。でもな、別に兄ちゃんやのうてもええねん。
    あんたがおらんようになったら、他のモンにやってもらうだけや。」
    「代わりを見つけるんですか?ほなまた不幸な目に遭う人間が出ますね?」
    「そういうことやな。」
    「アンタはそれでええんですか?あんたかて喜衛門や。ほならそれを止めようとは?」
    「昨日も言うたけど、俺にそこまでの力はない。出来るならとうにやっとるわ。」
    「御神体の破壊はそれほど難しいんで?」
    「呪いがかかっとるからな。下手に手え出したら俺でも終わりや。
    破壊するにはようさん徳をつんだモンやないとあかん。」
    「ほならね、どこぞの高名なお坊さんにでお頼んだらどうですか?普通の人より徳があるでしょ?」
    「無理や。」
    「なんで?」
    「あのな、徳いうのはそういうモンと違うねん。坊主やから、神職やからって、徳があるわけと違う。」
    「ほな何が徳なんですか?」
    「さあなあ。」
    「さあなあって・・・・適当に言うただけですか?」
    「徳とは何か?難しい問題やで。でもな、少なくとも喜衛門にとっての徳というのは、人助けや。
    それも自分の危険もかえりみんと、誰かを助けようとするような。」
    「ほな消防士とか救命士にでも頼んだら?」
    「そういうのは仕事でやってるわけやろ?そうと違て、仕事だの金だの関係ないところで、人を助けられるようなモンのことや。
    兄ちゃんは優しい。思いやりもある。だから困ってる奴は放っておけへんやろ?相手が幽霊でも。」
    「まあ・・・そのせいでようさん損してるなあとは思います。」
    「そういうことやねん。あんた人が好すぎて、利用されんねん。美由希ちゃんとおんなじくらい人がええで。
    だからな、これ以上苦しんでほしいないんや。今日でこの町を離れ。」
    オヤジは立ち上がり、机から封筒を取り出した。
    「これは?」
    「退職金や。それと次の仕事の紹介状。」
    「・・・・受け取らなあきませんか?」
    「あきまへん。」
    「・・・・ほな。」
    田所は素直に受け取る。
    そしてペコリと頭を下げた。
    「今までお世話になりました。」
    「おう、新しい街に行っても頑張れよ。」
    「いや、ここは離れません。」
    「なんやて?」
    オヤジの顔が曇る。
    田所は笑顔を返した。
    「仕事は辞めます。でもここに住むのは続けます。」
    「それやったら辞める意味がないやないかい。」
    「いや、ここにおったらアンタに心配かけてまう。
    だから俺のことはもう忘れて下さい。しょうもない社員をクビにしただけやって。」
    「・・・・本気かい?」
    オヤジの顔はますます曇るが、田所は笑顔を崩さない。
    「今までお世話になりました。」
    深くお辞儀をして、事務所を出る。
    「どうなっても知らんど!」とオヤジの声が追いかけてきた。


                *

    陽が沈む頃、田所は安桜山神社に向かった。
    小屋の椅子に座り、少年が現れるのを待つ。
    しかし待てども待てども現れない。
    時刻は午前二時で、ここへ来てから六時間も経っていた。
    「いっつも来てくれるわけと違うんか。」
    立ち上がり、本殿を見上げ、煌々と輝く蛍光灯に目を細める。
    もう少し待って来なかったら帰ろう。
    そう思って腰を下ろした時、誰かが背中をつついてきた。
    「・・・・おお!」
    田所は「よう来てくれた!」と肩を叩いた。
    「いつもはすぐ出て来るクセに、今日はえらい時間がかかったな。なんかあったんか?」
    『うん。』
    少年の表情は浮かない。
    田所は「どないした?」と尋ねた。
    「天国で嫌なことでもあったか?」
    『向こうは楽しいで。お母さんもおるし。』
    「美由希はどうや?元気にしとるか?・・・死んだモンに元気かって聞くのもアレやけど。」
    笑いながら尋ねると、コクリと頷いた。
    「そらよかった。でもほんならなんでそんな悲しい顔してんねん。いっつもニコニコしとるのに。」
    『おっちゃんがな・・・・、』
    「ん?俺?」
    『ちゃう。喜衛門のおっちゃんがな、神様を殺したんや。』
    「なんやて?」
    田所の顔が引きつる。
    しかし少年の顔はもっと引きつっていた。
    『俺にも手伝って言われて、さっきまで神様殺してた・・・・。』
    そう言ってポロリと泣いた。
    「どういうことや?詳しい話せ。」
    『喜衛門のおっちゃんが、違う喜衛門のおっちゃんを殺したんや。そんで俺もさっきまで手伝ってた。』
    「なんやて!それ奥宮の喜衛門さんのことか!?」
    『山ん中の小さい神社に、もう一人喜衛門のおっちゃんがおってな、それをさっきまで殺してたんや。
    喜衛門のおっちゃんがギュウって押さえつけてな、そんで俺が刀で刺して殺したんや。』
    「なんやそれ・・・・・。」
    田所は言葉を失う。
    なんと言っていいのか分からず、眉間の皺が深くなる。
    『俺は嫌やったのに、喜衛門のおっちゃんが怖い顔して怒るから、やったんや。』
    少年は涙を拭う。
    田所は「お前は悪うない。なんも悪うない」と抱きしめた。
    「悪いのは喜衛門や。あいつなんちゅうことを・・・・、」
    神殺しを子供に手伝わせる。
    そんなことがあっていいのか?
    田所は怒りに湧く。
    それと同時に、分霊の喜衛門が殺されたことがショックだった。
    《オヤジさん・・・・俺を逃がそうとしてたから・・・・、》
    分霊の喜衛門のことを、本霊の喜衛門はよく思っていなかった。
    これ以上邪魔をされないように殺したのだろう。
    田所はそう考え、「オヤジさん・・・」と嘆いた。
    「なあ?この神社の喜衛門は今どこにおる?」
    少年に尋ねると、本殿を指差した。
    「ここにおるんかい。」
    田所は鬼のような目で睨む。
    「なあ、今の俺ってどのくらい徳が溜まってんねん。」
    そう尋ねると、少年は首を振った。
    『そんなん俺にわからへん。喜衛門のおっちゃんじゃないと。』
    「もしも充分に徳が溜まってるんやったら、御神体を壊すことは出来るはずや。無理やったら・・・・死ぬやろな。」
    田所は腹を括る。
    これ以上、身勝手な神の行いを放っておけなかった。
    「ここにおれよ」と少年に言い残し、本殿の前に立つ。
    鍵のかかった扉を睨みつけながら、鼻が触れそうなほど近づく。
    中は真っ暗で、何も見えない。
    しかしここには喜衛門がいる。
    彼の力を宿した御神体がある。
    田所は賽銭箱を掴み、力いっぱい引きずった。
    かなり重いが、最後は蹴り飛ばした。
    賽銭箱をどかしたおかげで、本殿の前はスッキリする。
    田所は助走をつけて、本殿の扉に体当たりした。
    重く、大きな音が響く。
    錆びかけた南京錠がギチっと鳴って、木造りの扉もミシミシと軋んだ。
    もう一度体当たりをかます。
    また軋む。
    そして三度目は飛び蹴りをかました。
    硬い靴のかかとが、上手く鍵を捉える。
    大きな音が響いて、鍵の付け根がへこんだ。
    「ええ加減開かんかい!」
    もう一度飛び蹴りを放つと、小さな雷鳴のように音が鳴った。
    扉は開き、中に蛍光灯の光が漏れる。
    「・・・・・・・・。」
    奥に安置された鏡が、光を受けて反射する。
    田所はヅカヅカと近づき、鏡を手に取った。
    人の顔くらいの大きさで、表面が曇っている。
    反射する鈍い光が、神様のようにも魔物のようにも思えた。
    「これさえ壊したら。」
    持ち上げ、床に叩きつける。
    バリンと鳴って、粉々に砕けた。
    「なんや、えらい簡単なことやんか。」
    ビビっていたのが恥ずかしくなるほど、あっけなく壊れた。
    破片を掴み、「こんなもんのせいで・・・」と睨む。
    「どれだけの人間が不幸になったか。人知を超えたモンなんかこの世にいらんねん。」
    人間は人間らしく生きればいい。
    人を超えたものなど、不幸しかもたらさない。
    田所は破片を握りしめて、「これで満足やろ?」と呟いた。
    「もう御神体はない。これを巡ってしょうもない争いが起きることはないんや。」
    そこに喜衛門がいるかのように、重い声で語り掛ける。
    ・・・・その時、不思議なことが起こった。
    握りしめていた破片が、突然消えてしまったのだ。
    「なんや?」
    何もない手の平を見つめて、眉を寄せる。
    「あれ?破片が・・・・、」
    足元に散らばった破片も全て消えていた。
    田所は息を飲み、「まさか・・・」と顔を上げた。
    「・・・・・・・。」
    御神体は復活していた。
    傷一つなく元通りになっている。
    「まだ無理やったんか・・・・。」
    壊した鏡が元に戻る。
    こんなことが出来るのは喜衛門だけで、田所は「どこにおるんじゃい!」と叫んだ。
    「出て来い!俺の前に来んかい!」
    また鏡を破壊する。
    破片を踏み砕き、「こんなもんがなんじゃい!」と吠えた。
    「おうコラ喜衛門!お前な、神様のクセにコソコソしとんとちゃうど!
    ここまでようさん人を利用してきたんや!ええ加減姿見せえ!」
    社の中に声が響く。
    それと同時に、鏡はまた復活した。
    《ここにおる。》
    鏡から声が響く。
    田所は一歩後ずさった。
    「喜衛門・・・・出てこい。」
    恐怖を抑え込むように、グッと歯を食いしばる。
    すると鏡の中に人が映った。
    彫りの深い顔に、色黒の肌。
    頭は江戸時代の町人のように結っていて、なんとも大きな目をしていた。
    「これが喜衛門・・・・。」
    田所は目が離せない。
    ランランと輝く、喜衛門の大きな目。
    それは妖しい魅力を放っていて、今にも虜にされそうだった。
    《もう少し・・・・。》
    「何がや?」
    《もう少しやった、徳が溜まるまで。お前は焦って・・・・・。》
    「ほなすぐに徳を積んだるわい。神頼みでもなんでもしたるから、役目を寄こせ。命懸けでもやり遂げたる。」
    《もうアカン・・・・お前は死ぬ。》
    「なんやて?」
    《徳を積まんと鏡を壊した。もう呪いが始まってるんや・・・・。》
    喜衛門は残念そうに首を振る。
    田所は「なんやと・・・・」と引きつった。
    「おい喜衛門。お前はここまで来て俺を殺そういうんか?
    そんなことしたら、また新しい奴を探さなあかんぞ?
    それやったら俺に猶予をくれ。その間に徳を積んで、御神体を壊し・・・・、」
    そう言いかけた時、後ろから誰かが首を絞めてきた。
    「なんや・・・・、」
    あの少年が首に腕を回している。
    子供とは思えない怪力で、田所を締め上げた。
    「ぐッ・・・・あ・・・・、」
    どうにか振りほどこうとするが、どうにもならない。
    たまらず外へ駆け出すと、そこにはミミズのような肉塊がいた。
    《こいつは美由希の旦那やないか!》
    天国にいるはずの彼女の夫が、田所に襲い掛かる。
    身体に巻き付いて、万力のように締め上げた。
    「ひいぎッ・・・・・、」
    短い悲鳴が響く。
    田所の手足は一瞬で砕かれ、折れた肋骨が肺に刺さった。
    「ぐひゅうッ・・・、」
    息が出来なくなる。
    陸にいるのに、溺れたようにもがいた。
    すると今度は、以前に助けた少女の霊が現れた。
    その隣には下半身のないあの少年が立っている。
    《こいつらも・・・・、》
    二人は田所の目に指を突っ込んで、眼球を抉り出してしまった。
    「ああああああああああ!」
    痛みと共に光が消える。
    すると今度は、耳元で誰かがささやいた。
    『あんた・・・・。』
    《美由希か!助けてくれ!》
    声にならない声で悲鳴を上げる。
    美由希は指を立て、田所の耳にグリグリと押し込んだ。
    《やめい!お前まで・・・・、》
    鼓膜を突き破り、脳にまで達する。
    あまりの痛みに、田所は気絶した。
    ・・・・無数の霊が自分に覆いかぶさる。
    手が、足が、そして指が絡みついてきて、ここではないどこかへ誘おうとした。
    《んなアホな・・・・・こんな・・・死に方は嫌や・・・・・。》
    気絶した頭の中で、ぼんやりと意識が加速する。
    昨日の夕暮れに見た、全てが溶けてしまいそうな空。
    太陽はとろけ、空は滲む。
    いつか全てあのように溶けるのではないか。
    あの時感じた妙な感傷が、再び蘇る。
    《俺も・・・・溶けてなくなるんか・・・・。》
    暗い意識の中、絵具をぶちまけたように、鮮やかなオレンジが広がっていった。

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