蚊に刺されにくくなった

  • 2017.06.30 Friday
  • 10:20

JUGEMテーマ:日常

昔はバカみたいに蚊に刺されていました。
子供の頃なんか、友達と一緒の遊びに行っても、自分だけ異様に刺されるほどでした。
蕁麻疹かよ!って思うほど、あちこち赤くなるほどで。
それから大人になってもよく刺されていました。
夏になれば、掻きむしってかさぶただらけです。
でも何年か前からあまり刺されなくなりました。
ていうか刺されてもそんなに痒くならないんです。
おっさんになって血が不味くなったのかもしれません。
蚊も寄り付かないみたいな。
それに年齢と共に体質って変わるそうで、だから刺されても痒くなりにくくなったのかもしれません。
年配の人って、あまり蚊に刺されて痒いってしてるの、見たことがありません。
逆に子供や若い人はよく刺されてるみたいで。
子供の頃なんか、藪蚊に刺されたらちょっと腫れるほどでした。
きっと蚊も若い人の血の方が美味いんでしょうね。
蚊に狙われないってことは、歳取った証拠。
でも痒くならずにすみます。
これは喜んだ方がいいんでしょうか?
歳取って良い事の一つなんでしょうか?
もちろん蚊に刺されたくなんかないけど、虫にすら見向きされないって・・・ちょっと悲しいです。
そのうち蚊の方から私を避けるようになったりして。
なんともいえないけど、これは良い事なんだって思うようにします。

勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜 第六十六話 タヌキの恩返し(1)

  • 2017.06.30 Friday
  • 10:18

JUGEMテーマ:自作小説
カモンは旅立って行った。
幸せだったと言い残し、手を振りながら空に消えた。
俺はしばらく見送っていたけど、急に意識が朦朧とした。
何も見えなくなって、何も聴こえなくなる・・・・。
夜の海に抱かれているような、夜空を飛んでいるような、不思議な感覚だった。
しばらく真っ暗な中を漂う。
でもどこかから光が射してきて、「うん・・・・」と目を開けた。
「・・・・・・・・。」
辺りは明るくなっていた。
夜だったはずなのに、朝みたいに眩しい・・・・・。
すると誰かが目の前にやって来た。
「おはよう。」
「マイちゃん!」
「よく寝てたみたいだね。」
「寝る・・・?」
俺はベッドの上にいた。
布団がかけてあり、「なんで?」と顔をしかめる。
「それ、たまきさんが持って来たんだよ。」
「たまきが?」
「悠一君、疲れて寝ちゃったでしょ?だからたまきさんが持って来てくれたの。だって全然家具がないから。」
マイちゃんは殺風景な部屋を見渡す。
新しい部屋なので何もないのは当然だが、すごく寂しく感じる。
「俺、朝まで寝てたんだな。」
「もうお昼前だよ。」
「マジで!」
俺は慌てて飛び起きる。
「動物の餌やらないと!それにマサカリの散歩!」
「それもたまきさんがやってくれた。」
「アイツが・・・・?」
「悠一君の目が覚めたら、よろしく言っといてって。」
「そうか・・・・・。」
ベッドに腰掛け、「ああ〜・・・・」と頭を押さえる。
「なんか気分悪い・・・・。」
「大丈夫?」
「うん・・・・。けど変な感じなんだ。記憶の一部がすっぽり抜けてるような・・・・。
昨日ここへたまきが来た。それで・・・・何か話した後に、いきなり頭を掴まれたんだ。
その後気を失って、それで・・・・夢を見たんだ。なんか仙人みたいな爺さんが出てくる夢を・・・・・、」
そこまで思い出した時、頭の中に電気が走った。
「ああ!」
「どうしたの?」
「カモン・・・・・。」
そう、昨日カモンが旅立った。
帰って来たら、もうお迎えが来ていた。
そしてその後たまきが来て、それで・・・・・、
「・・・・そうだ、夢の中にカモンが出てきたんだ。龍に乗った仙人みたいな爺さんと一緒に。」
おぼろげに記憶がよみがえる。
詳しいことは思い出せないけど、でもカモンに会ったことだけは覚えている。
じっと頭を抱え込んでいると、「悠一君」とマイちゃんが呼んだ。
「辛かったね、カモンのこと。」
「・・・・・ああ。でも最後にお別れを言えたから。」
「え?だって悠一君が帰って来た時、カモンはもう・・・・・、」
「夢の中に出て来てくれたんだよ。それで・・・・幸せだったって言ってくれた。
俺やマサカリたちといられて、楽しかったって。」
あの時、カモンは本当に幸せそうな顔をしていた。
ただの夢だけど、でも・・・・本当に会いに来てくれたんだと思う。
最後のお別れを言う為に。
「俺にも幸せになれって言ってくれたよ。マイちゃんやマサカリたちと一緒に、楽しくやれって。」
「・・・・・・・・・。」
マイちゃんはじわっと涙ぐむ。
そこへ動物たちもやって来て、「それ本当か?」とマサカリが言った。
「アイツ・・・・本当にそう言ってたのか?」
「ああ。ただの夢かもしれないけど、でも俺は本当に会いに来てくれたんだと思う。」
「そうか・・・・。そう言ってくれるなら、悪い気はしねえよな。」
マサカリは嬉しそうに頷く。
モンブランは目が真っ赤で、一晩中泣いていたようだ。
「私にも会いに来てよ!カモンのバカ!」
マリナも切ない顔で「ほんとにねえ」と言った。
「でも・・・・これ以上悲しむのは良くないかも。だって泣いてたらカモンに馬鹿にされちゃう。
天国から毒舌が飛んでくるわ。」
チュウベエも「だな」と頷く。
「悠一、そろそろ弔ってやろう。あのちっこいネズミを。」
「そうだな。光雲和尚の所に行こう。」
カモンは昨日と変わらず、箱の中で眠っている。
綺麗な花と、好きだった物に囲まれて。
俺たちはみんなで手を合わせてから、そっと箱を閉じた。
そしてお寺に行って、和尚に御経を上げてもらった。
ちゃんと焼香も用意してあって、みんなで念仏を唱えた。
葬式が終わり、火葬に入る。
和尚の奥さんのヨモギさんが、庭に穴を掘って火葬場を作ってくれていた。
そこへカモンを寝かせて、薪を並べていく。
俺は先っぽの長いライターを持ち、付け火用の紙に火を灯す。
メラメラと燃え上がって、煙が昇っていった。
みんな神妙な顔で炎を見つめる。
やがて薪は燃え尽き、火が小さくなっていく。
棒でたたいて残り火を消し、穴の中の灰を掬った。
アイツは小さいので骨は残らない。
代わり灰を小瓶の中に入れた。
それを和尚に渡して、「お願いします」と頭を下げた。
「お任せ下さい。今日中に墓を作りますでな。」
お礼を言って、お寺を後にする。
帰りの車の中、誰も喋らなかった。
なんだか気が抜けたみたいに、みんな空を見上げている。
・・・しばらくこんな日が続くだろう。
でもいつか、また馬鹿みたいに騒げる日が来る。
その時、本当の意味でカモンを弔えるようが気がした。
寂しさを抱えながら、家に戻る。
すると部屋の前にたまきがいた。
周りには何かの業者らしき人達がいて、その人たちにお金を渡していた。
「毎度!」
そう言って業者はこちらに歩いて来る。
俺たちの脇をすり抜けて、エレベーターに消えていった。
「なんだあの人たち?」
じっと睨んでいると、「お帰り」とたまきが言った。
「お葬式は終わった?」
「ああ。ていうかさっきの人たちは?」
「引越し業者よ。」
「引越し・・・・?」
「家具を運んでもらってたの。」
そう言って「ほら」と中に手を向ける。
「・・・・・おお!」
タンス、テレビ、冷蔵庫、こたつ、ソファ、他にも色んな家具が揃っている。
動物たちは興奮して「すげえや!」と駆けこんだ。
「おい見ろ!このソファふかふかだぜ!」
「あ、このクッション私専用ね。」
「おい、これブルーレイ内蔵のテレビだぞ!しかもデカイ!」
「大きな冷蔵庫ねえ。いっぱい餌が入りそう。」
ウキウキしながらはしゃぐ動物たち。
俺は「これ・・・まさかお前が?」と尋ねた。
「ええ。」
「いや、悪いよこんなの。」
「いいのよ。些細なお礼。」
「些細って・・・・豪華過ぎるだろ。」
「そう思うなら、この部屋に負けないくらい仕事をすればいいわ。だってここは事務所でもあるんだから。」
たまきは玄関の傍にあるドアを開ける。
中には事務用の机と椅子、それにパソコンやプリンターが揃っていた。
「・・・・・すご。」
「良い感じでしょ?」
「良い感じ過ぎるよ・・・・・。なんでここまでしてくれるんだ?」
「アンタに期待してるから。これからも頑張ってくれるって。」
クスっと肩を竦めて「たまに私にも使わせてね」と言った。
「お前も?」
「いいでしょ別に。」
「いや、構わないけど・・・・・でもお前って普段は何してるんだ?ていうかどうしてこんなに金持ってるんだよ?」
「秘密。」
クスクス笑って、「まあそのうち分かるわ」と言った。
「さて、今日はこれで帰るわ。」
「なんか悪いな・・・・・色々と良くしてもらって。」
「いいのよ。また大きな仕事を持ってくるから。」
「え?」
「来週の火曜は空けといてね。依頼を持ってくるから。」
「ま、マジで!?」
俺は喜ぶ。
マイちゃんも「やったね!」と手を叩いた。
「悠一君!特大の顧客が出来たね!」
「ああ!たまきが常連になってくれたら、食いっぱぐれることもない!」
喜んでハイタッチする。
でも次にたまきが言った一言で、俺たちは固まった。
「今度は人食い狼の捕獲ね。」
「へ?」
「え?」
「ヨーロッパから渡ってきた魔獣なの。すでに何人かの犠牲者が出てるみたい。」
「ま・・・・、」
「魔獣・・・・。」
「魔獣は恐ろしいわよ。化け猫なんかより遥かに残忍だからね。きっと命懸けの仕事になるわ。」
遠い目をしながら、「無事に終わればいいけど」と呟く。
「まあそういうことだから、来週の火曜は空けといて。」
そう言って「それじゃまた」と去って行く。
「おい待てよ!なんだよそれ!?」
慌てて追いかけると、たまきはマンションから飛び降りた。
「うわあ!」
「きゃあ!」
俺は引きつる。マイちゃんは目を閉じる。
「・・・・・・・。」
恐る恐る見下ろすと、平気な顔で歩いていた。
「ここ九階だぞ・・・・・・。」
さすがはたまき。
いったいどこをどう見て、俺と対等なんて言ったんだろう?
一生頑張っても、アイツの足元にも及びそうにない。
「まあ・・・・いいか。仕事をくれるっていうんだから、頑張ればいいだけだ。」
人食い狼とは恐ろしいが、俺一人で相手にするわけじゃあるまい。
たまきがいればどうにかなるだろう。
「おい悠一!お前ここ座れよ!ふかふかだぞ!」
マサカリがソファの上で寝転んでいる。
モンブランはクッションを抱きしめ、チュウベエはテレビをいじっている。
マリナは冷蔵庫を見上げ、勝手に野菜室を開けていた。
「ほらほら、私たちも入ろ!」
マイちゃんに背中を押されて、新居に入る。
「すごいな・・・・。本当にこんな所に住んでいいのかな。」
そわそわして落ち着かない。
あまりに良い部屋、あまりに良い家具、それに仕事場まで用意してもらって、なんだか窮屈な思いがした。
「どうしたの悠一君?あんまり嬉しそうじゃないけど。」
「ちょっとね・・・・・。」
「・・・・ごめん、まだ喜べないよね。だって昨日の今日で・・・・・、」
「いや、カモンのことじゃないんだ。
なんていうのかな・・・・・・・なんて言うんだろう?」
なんか釈然としない。
だってこんなに贅沢なもの、本当に貰ってもいいんだろうか?
そりゃ嬉しくないわけじゃないけど、でもなあ・・・・・なんか違う気がする。
《たまきは報酬だって言ってたけど、これは明らかに報酬の範囲を超えてるよ。》
高級分譲マンションに、立派な家具がたくさん。
・・・・・・うん、やっぱりこれは報酬とは言えないよな。
「みんな!ちょっと聞いてくれ。」
先生みたいにパンパンと手を叩く。
「んだよ?この幸せを邪魔すんなよ。」
「そうよ。悲しいことがあったんだから、幸せに浸らせてよ。」
「おい悠一!チュタヤに言ってブルーレイ借りようぜ。この大きなテレビで見たい。」
「私は冷蔵庫の中をいっぱいにしたいわ!お肉、野菜、それにお肉!もうぎゅうぎゅうのパンパンにするの!」
みんなウットリしながら言う。
嬉しさ半分、悲しみを誤魔化すの半分ってところだろう。
「あのさ、俺から一つ提案があるんだけど。」
「このソファは俺のだぜ。」
「このクッションは私のよ。」
「これは俺のテレビだ。」
「この冷蔵庫は私の。」
「俺はどれもいらない。だからこの部屋を返そう。」
動物たちの目が点になる。
『このバカ何言ってんだ?』
そんな感じの目だ。
「おい悠一!そりゃいったいどういうことでい!」
「そうよ!せっかくもらったのに、なんで返すなんて言うの!?」
「俺はこれでテレビが見たい!」
「みんな!落ち着いて!悠一は悲しみでおかしくなっちゃったのよ。だから温かい目で見守ってあげましょ。」
動物たちはぎゃあぎゃあと喚く。
俺はもう一度手を叩いた。
「はい注目。」
「みんな注目してるってんだ!」
ぎゃんぎゃん吠えるマサカリを無視して、先を続けた。
「もう一度さ、あの町に戻らないか?」
「あの・・・・、」
「町・・・・・?」
みんな首を傾げる。
俺は「龍名町」だよと言った。
「前に住んでた町だ。」
「んなとこ戻ってどうすんだよ?」
「そうよ。前のボロいアパートはもうないのよ?」
「またどこか借りるさ。俺の給料で払える所を。」
「おいおい・・・・こんなに良い部屋なんだぞ?それを捨てるって言うのか?」
「せめてこの冷蔵庫だけでも持って行かない?」
「いいや、全部返す。」
部屋の鍵を握って、「これはいらない」と呟いた。
「こんなのもらったら、きっと俺はダメになる。
いくらたまきの気持ちだって言っても、これは俺の人生なんだ。
こんな贅沢がしたいなら、自分の手で掴んでいかないと。」
報酬は報酬でも、度を超えた報酬はもらわない。
それだってプロの流儀だろう。
青臭いかもしれないけど、でも俺はそう思う。
動物たちはいっせいに「え〜・・・・」とブーイングを飛ばす。
飛ばすけど、本気で嫌がっているようには思えなかった。
散々文句を言った後に、しょうがないかと納得してくれた。
「まああの町に戻るのも悪くねえかもしんねえな。
あそこの川原の土手は、お気に入りの散歩コースだし。」
「ていうかまたカレンに会えるわ!マサカリだってコロンに会えるじゃない。」
「う〜ん・・・・あの辺のミミズは美味いからなあ。悪い話じゃないか。」
「高い建物が少ないから、お日様もよく当たるしね。」
みんなうんうんと頷いて、「付き合ってやる」と偉そうに言った。
「なんでふんぞり返ってんだよ・・・・・。」
「だってお前のワガママだし。」
「ねえ?振り回される私たちの身にもなってほしいわ。」
「こいつはアホなんだよ。たまきからお墨付きをもらったって、それは変わらない。」
「悲しいわあ・・・・アホの飼い主なんて。・・・・あらヤダ!カモンみたいな毒舌が出ちゃった。」
「ならみんなOKってことだな。」
「まあな。でも引っ越すまではこの部屋を堪能しようぜ。」
「そうよ。それくらいならバチは当たらないでしょ。」
「おい悠一!チュタヤ行くぞ!ブルーレイでミミズを見るんだ。」
「それより肉よ!この冷蔵庫にいっぱい詰め込みましょう!」
うん、ちょっと普段らしくなってきた。
俺はマイちゃんを振り返り、「いい?」と尋ねた。
「え?」
「だって一年後にはマイちゃんだってここに住む予定だったんだから。
それがボロいアパートに変わるかもしれないけど・・・・・いいかな?」
「うん、それはいいんだけど・・・・、」
「どうしたの?」
「ちょっと・・・・気になることがあって。」
急に暗い顔になって、俯いてしまう。
「マイちゃん?何か悩んでるの?」
肩を抱きながら、顔を覗き込む。
するとサッと離れていった。
《なんだ・・・・?いつもなら骨が折れるくらい抱きついてくるのに。》
不思議に思っていると、マイちゃんは急に笑顔になった。
「ごめんごめん!私もちょっと寂しくなっちゃって。」
「寂しい?」
「だってカモンが亡くなったんだもん。それに・・・・、」
「それに?」
「ノズチ君、またどっか行っちゃったんだ。」
「・・・・・・ああ!そういえば忘れてた。」
影のたまきにホームランをかまされてから、まったく見ていない。
「アイツあれからどうなったの?」
「一度家に戻って来たんだけど、すぐ出て行っちゃった。『全部ホームランなんて悔しい!山で鍛え直す!』って。」
「ノズチ君らしいね。」
クスっと笑うと、マイちゃんはまた暗い顔になった。
《なんだ?いったいどうしたんだ?》
心配していると、頭にチュウベエが飛んできた。
「おい悠一!チュタヤ行くぞ!」
「今からかよ?」
「当たり前だろ。この部屋返すんだから、今のウチに楽しまないと。」
「へいへい・・・・付き合いますよ。」
チュウベエを乗せて出かけようとすると、「俺も行く!」とマサカリがついて来た。
「お前もかよ。何も買わないぞ。」
「べらんめえ!散歩だ散歩!」
そう言ってリードを咥えてきた。
「たまきのやつ、こんなモンも買ってくれたのか?」
マサカリは「これ気に入ってんだ」と笑う。
「ピンクだけどオシャレだ。これ付けてくれ。」
かなりお気に入りなようで、ウキウキしている。
《意外と派手な柄が好きなんだな、コイツ。まあこれくらいなら貰っといてもいいかな。》
カチっとリードを付けてやると、「私も!」とモンブランが飛んできた。
「お前もかよ!」
「たまにはみんなでお出掛けもいいじゃない。マリナも行こ。」
「そうねえ。今日はお日様も出てるし、外に出ようかしら。」
「へいへい、分かりました。そんじゃ揃ってお出掛けしますか。」
マリナを首に巻き、モンブランを抱え、頭にチュウベエを乗せ、手にはマサカリのリード。
なんちゅうフル装備だ・・・・・。
「おい悠一、スマホにアイツの写真があっただろ?」
チュウベエはパタパタと羽ばたく。
「アイツって・・・・カモンか?」
「あれ壁紙してやれ。遺影代わりに。」
「嫌な言い方するなよ・・・・・。」
スマホを取り出し、カモンのドアップの写真を壁紙にする。
チュウベエと喧嘩して、顔を蹴られて歪んでいる写真だ。
《これはこれで面白い写真だけど、遺影には向かないな。
もっと良いのがあったはずだから、落ち着いたら遺影を作ってやるか。》
画面の中のカモンに笑いかけ、「ほんじゃ行くか」と出かける。
「マイちゃんも一緒に行こうよ。」
そう言って振り返ると、「私はいい」と首を振った。
「どうして?こんなにいい天気なのに。」
「ええっと・・・・お留守番してる。」
「でも明日になったら帰っちゃうんだろ?そうしたら一年後まで会えないのに。」
「う、いや・・・・そうだけど・・・・ほら!水を差しちゃ悪いから!」
「水?」
「今日は悠一君とマサカリ達で楽しんできなよ!」
そう言ってニコッと笑う。
お尻から尻尾が出て来て、フリフリと揺れた。
《なるほど・・・・気を遣ってるのか。》
相変わらず優しい子だ。
「分かった。じゃあお留守番お願いね。」
「うん!みんなで楽しんできて。」
笑顔で見送ってくれるマイちゃん。
俺は「変な奴が来ても入れちゃダメだよ」と言った。
「平気平気。そんじょそこのら悪い人には負けないから。」
「それもそうだな。それじゃちょっと行ってくる。」
靴を履き、外に出る。
マイちゃんは「いってらっしゃい」と手を振った。
パタンとドアが閉じて、オートロックの音が鳴った。
「そんな気を遣わなくていいのに。俺たちは結婚するんだから。」
ドアを見つめ、「でもマイちゃんらしいか」と呟く。
マサカリが「行こうぜ」とリードを引っ張る。
モンブランは「コマチさんの為に何か買って来てあげましょ」と言う。
チュウベエが「良いミミズ獲ってやる」と頷き、マリナは「もうちょっとマシなもんにしなさいよ」とツッコんだ。
エレベーターを降り、外に出ると、一気に陽射しに包まれた。
「ほんとに良い天気だな。」
最近は大変なことばかりだったので、ホッと気持ちが和らぐ。
それはみんなも同じで、ホッとしたように表情が緩んでいた。
「気持ちいい〜・・・・・。」
「このままどこかでお昼寝したい気分ね。」
「それよりまずチュタヤだ!ミミズのブルーレイ借りるぞ。」
「生のやつ見とけばいいでしょ。もうちょっと面白そうなの借りましょうよ。」
《なんて立ち直りの早い奴らだ・・・・。でもまあ・・・それがコイツらのいいところか。》
俺はスマホを取り出し、画面の中のカモンを見つめた。
《こっちは楽しくやってるぞ。お前はどうだ?桃源郷で楽しくやってるか?
お盆でもお正月でもいいから、たまには帰ってこいよ。》
空を見上げ、旅立った家族を思い浮かべる。
動物たちのお喋りを聞きながら、街へと繰り出していった。

勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜のイラストまとめ(10)

  • 2017.06.29 Thursday
  • 14:15

JUGEMテーマ:イラスト

 

     タヌキの神主

 

 

 

     結ばれた夜

 

 

 

     猫神の過去

 

 

 

     化けタヌキと化け猫の戦い

曇りの匂い

  • 2017.06.29 Thursday
  • 14:12

JUGEMテーマ:写真

 

 

 

 

 

いつ雨が降ってもおかしくないような曇り空でした。

ヌメヌメした空気だけど、そう不愉快なものではありません。

 

 

 

 

 

 

 

湿気が多いと、いろんな匂いが立ち込めます。

匂いっていいですよ。

記憶をくすぐられます。

曇り空の日は、色んな匂いで懐かしい気持ちになります。

勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜 第六十五話 戻る者と旅立つ者(3)

  • 2017.06.29 Thursday
  • 14:06

JUGEMテーマ:自作小説

カモンが旅立った夜、俺は光雲和尚に電話した。
アイツを弔ってあげてほしいと頼んだのだ。
和尚は快く引き受けてくれた。
よかったら墓も立てようとまで言ってくれた。
お寺にハムスターのお墓・・・・なんと贅沢な。
きっとカモンも喜んでくれるだろう。
そういえば戒名も欲しがっていたから、それもお願いできないかと尋ねた。
『有川さんの頼みですからな、喜んで付けさせて頂きますぞ。』
俺はお礼を言って、明日には連れて行くと電話を切った。
カモンは小さな箱の中で眠っている。
大好きだった餌、それにホームセンターで買ってきた花を詰めて、綺麗にしてあげた。
カゴの中に付いているクルクルを外して、それも入れてあげた。
これ、かなりのお気に入りだったからな。
最近はめっきり使ってなかったけど、昔はよくこれで走っていた。
あ、ついでにこのブランコも入れてあげないと。
小さな箱にはギッシリ物が詰まって、その真ん中にカモンが眠る。
モンブランはずっと傍に張り付いて、悲しい目で見つめている。
マリナは潤んだ目をしながら、窓の外を見上げている。
マサカリはカモンとの思い出に浸るように、しんみりと座っていた。
チュウベエは「俺がボケたら、天国からちゃんとツッコめよ」と相変わらずだ。
みんなそれぞれの想いを抱えながら、別れの時を惜しんでいる。
俺は少し離れた場所に座って、その様子を眺めていた。
今日は有川家始まって以来の静かな日かもしれない。
・・・・時が経てば、みんな元気を取り戻すだろう。
そしていつもみたいにはしゃぐに違いない。
でもそこには一匹足りない。
いつもと同じ光景は、もう二度と戻って来ないのだ。
そう思うと、少し涙が出てきた。
目が潤んで、グイっと拭う。
さっきまで全然涙が出なかったから、少し不安だった。
俺、カモンの死を悲しんでないのかなって・・・・・。
静かな夜の中、ただ時間が過ぎていく。
マサカリは餌をねだらないし、モンブランは恋バナをしない。
マリナは窓際でウットリしないし、チュウベエは相方を失って漫才を出来ない。
俺は家具のない殺風景な部屋を見渡して、また涙を拭った。
するとその時、部屋のチャイムが鳴った。
立ち上がり、廊下の壁際に行く。
このマンションには良い物が付いている。
チャイムを鳴らしたら、室内にある液晶に外の様子が映るのだ。
今時当たり前のシステムなのかもしれないが、貧乏な俺にとっては無縁の代物だった。
誰が来たのかと液晶を覗き込むと、たまきが立っていた。
玄関に向かい、ドアを開ける。
「こんばんわ。」
たまきはニコリと微笑む。
「どう?気に入ってくれた?」
部屋を見つめて、クスっと首を傾げる。
「ああ、すごく良い部屋だ。俺なんかにはもったいないよ。」
「その割には浮かない顔してるわね?もしかして広すぎて落ち着かなかった?」
「いや、そうじゃないんだ。」
俺は部屋の中に手を向ける。
たまきは「お邪魔します」と上がる。
そして何があったのかをすぐに理解した。
「いつ?」
「俺がこっちに戻って来てすぐ。」
「そう。」
たまきはカモンの傍に行き、膝をつく。
目を閉じ、手を合わせ、弔いの言葉を呟いた。
「今まで悠一の力になってくれてありがとう。」
モンブランはグスっと潤んで、またわんわん泣き出す。
たまきはしばらく手を合わせてから、俺の方へやって来た。
「辛いでしょうけど、別れは避けられないもの。泣いてもいいけど、気を落とさずにね。」
「ああ・・・・。」
グイっと目尻を拭って、鼻をすする。
「ちょっと話があるの。いいかしら?」
そう言って隣の部屋を指差す。
動物たちを残して、二人で隣の部屋に向かった。
何もない部屋に、ほんのりと月明かりが射している。
たまきは窓際に立ち、「いい部屋でしょ?」と尋ねた。
「ああ、恐縮するくらい。」
「これはアンタが自分の力で手に入れたものよ。遠慮なく使って。」
そう言ってニコッと微笑んだ。
「さて、いきなりだけど本題を切り出すわね。」
真剣な顔になって、俺を睨む。
「悠一、あなたは今回の件で、知らなくてもいいことを知ってしまった。」
「・・・・・?どういうこと?」
「前世の記憶よ。」
とても厳しい声で言う。
俺は首をかしげた。
「何度も言うけど、前世は前世。魂は同じでも、イーとアンタは別人よ。
だから・・・・その記憶を消させてもらう。」
たまきの目が紫に光る。
妖しい輝きが全身を包み、俺に向かって手を伸ばした。
「前世の記憶なんて持つもんじゃない。そんなものを持っていたら、これからの人生で必ず支障をきたすわ。」
「・・・・俺の記憶を消すのか?」
「前世に関することだけね。他は覚えてるから大丈夫よ。」
「ホワンが救われたことや、お前の依頼を解決したことは・・・・、」
「残る。」
「なら・・・・イーとイェンのことは?」
「消えるわ。」
「・・・・・・・・・。」
「正確には、あの金印で見た記憶を消すだけ。
前世の追体験によって、あの記憶は自分の一部のように残ってしまったはずよ。」
「・・・・ああ。俺の人生の中で、実際に起きたことみたいに焼きついてる。」
「消すのはそれだけよ。現世において、アンタ自身の目と、耳で知り得たことは残る。だから怖がることはないわ。」
「だけどこれは俺の記憶だ。わざわざ消さなくても・・・・、」
「知らなくてもいいことなのよ。」
「でも依頼を解決するには、前世の記憶が必要だった。これがなきゃ・・・・、」
「もう終わった。」
「だけどお前からの依頼だぞ?お前が頼むから、俺はイーのことを思い出して・・・・、」
「それも分かってる。申し訳ないと思ってるわ。だからこそのこの部屋じゃない。」
そう言って広い部屋に手を向ける。
「あんたは一人前になったし、これからは私と肩を並べて仕事が出来る。
でもね、やっぱり前世の記憶なんて必要ないのよ。」
「・・・・・いや、これは消さない。」
「前世のことを覚えてるなんて、不幸でしかないのよ?今の人生を縛られることになる。」
「でも!これは忘れちゃいけないんだ!だって仙人が言ってたから。俺と藤井には・・・・、」
「呪いが掛かってるって?」
「・・・・・知ってたのか?」
たまきはクスっと頷く。
「あの金印に詰まっていた記憶は全て知っている。」
「そ、そうなの・・・・・?」
「以前にコマチさんが暴走したでしょ?あの時、私は彼女から金印を取り上げた。
その時にね、全部見えたのよ。イーの記憶が。」
「マジかよ・・・・・。」
「まるで激流のように、私の中に流れ込んできた。きっとイーが見せたんだと思うわ。」
「・・・・・・・・。」
「だから全部知っている。私に神獣としての素質がなかったことや、仙人が余計なことをベラベラ喋ったこともね。」
そう言って「あの爺さん、ホントお喋りなんだから」と顔をしかめた。
「今度会ったら、もうちょっと仙人らしくしろって言っとかないと。」
「なら・・・・なんで教えてくれなかったんだ?
あの金印に詰まった記憶を知っていれば、もう少し早くホワンを助けることが出来たかもしれないのに。」
「無理よ。言葉で言ったって、アイツは納得しない。
ギリギリまで追い詰められて、その時にイーの想いを知る必要があった。
そうすることで怨念が晴れるはずと思ったからね。
だけど事前にアンタに言ってしまえば、きっと言葉で説得しようとするはず。
そうなれば確実に依頼は失敗。だから黙ってたのよ。」
「・・・・全部、お前の計算だったのか?」
「怒ってる?」
「・・・・いや、強かな奴だって知ってるから、別に怒ってはないよ。
でもさ、やっぱりこの記憶は消したくない。
だって仙人が言ってたんだ。俺は前世の前世で、神獣を殺してしまったって。
悪意はなかったけど、でもそのせいで罰を受けることになった。
動物と話せる力を使って、一万の魂を救えって呪いを・・・・。」
俺は思い出す。
記憶の中で、仙人から聞いた話を。
今から二千年前、俺は中国にいた。
前世の前世の時の話だ。
その時、俺には恋人がいた。
藤井だ。
アイツも前世の前世で中国にいて、俺と一緒に暮らしていた。
ある時、俺たちの前に神獣がやって来た。
その神獣は炎の鳥で、いわゆる不死鳥ってやつだ。
不死鳥は500年に一度、生まれ変わる。
死んで、でもすぐに蘇って、それで永遠の命を保つのだ。
ではどうやって生まれ変わるかというと、死ぬ前に卵を残す。
そこから生まれたヒナは、あの世から転生した不死鳥。
新たな命ではなく、以前の不死鳥が再び命を吹き返すわけだ。
不死鳥は俺たちの前にやって来て、あることを頼んだ。
『もうじき卵を産むから、それを預かってほしい。』
卵の間は無防備なので、誰かに守ってもらう必要がある。
しかし誰でもいいというわけではない。
もし悪人の手に渡ってしまえば、そいつは永遠の命を手にいれることになるからだ。
この卵を食べてしまえば、そっくりそのまま不死鳥の力が手に入る。
だから預ける相手は慎重に選ばないといけない。
不死鳥は言った。
『お前たちなら大丈夫だろう。悪人でもないし、欲深いわけでもない。
腹が減ったからといって、焼いて食う間抜けでもないだろうし。』
そう言って、俺たちの前で卵を生んだ。
『羽化するまで三日かかる。それまでどうか頼んだぞ。』
不死鳥は火柱となって、そのまま消え去った。
俺たちは大事に卵を預かった。
人に知られてはまずいので、こっそりと家の中に隠しておいた。
だけどその晩、泥棒に入られて、卵を盗まれてしまった。
不死鳥の卵はとても綺麗で、ルビーのように輝いている。
こんな美しい物を、泥棒が放っておくわけがない。
俺たちは慌てて泥棒を追いかけた。
どうにか捕まえることはできたけど、でも卵は返ってこなかった。
なぜならこの泥棒騒ぎを聞きつけたお役人が、卵を奪いに来たからだ。
『これこそは不死鳥の卵!不死の命を得る秘宝ではないか。』
その役人は欲深いやつで、町の者たちからも嫌われていた。
権力をふりかざして悪さをするし、欲の為なら平気で人を殺すような奴だった。
俺たちは困った。
これはえらいことになったぞ・・・・と。
もしあの役人が卵を食べてしまえば、永遠の命を持つことになる。
そうなれば永遠に悪さをするだろう。
どうにか取り返したいけど、普通に行っても追い返されるだけ。
だったら屋敷に忍び込んで、こっそりと奪い返すことにした。
人気のない夜、俺たちは屋敷に向かった。
けど俺たちは忍者じゃない。泥棒のプロでもない。
どうにか侵入したはいいものの、あっさり見つかって捕らえられてしまった。
『賊めが。この卵を奪いに来たか!』
俺たちは処刑されることになった。
けどその前に、役人は俺たちの前で卵を持ってきた。
『いつ賊に奪われるか分からん。とっとと食ってしまおう。』
これみよがしに、俺たちの目の前で食べようとした。
家来に命令して、卵を割るように言う。
もし役人がこれを食べてしまったら、悪人が永遠の命を持つことに・・・・・。
俺たちは一瞬の隙をついて、卵を奪い返した。
家来が襲いかかってくるが、『これがどうなってもいいのか!』と卵を盾にした。
役人は『やめろ!』と家来を止める。
俺たちは屋敷を逃げ出し、深い山の中に逃げ込んだ。
三日・・・・その間だけ守ることが出来ればいい。
預かってから一日経っているので、あと二日、山の中に潜んでいれば・・・・。
そう思ったけど、そんなに甘くはなかった。
次の日、役人は大勢の家来を連れて、山狩りを行ったのだ。
これではいつ奪われるか分からない。
もっともっと深い山に逃げようと、ひたすら走った。
でもその時、恋人の足に矢が刺さった。
敵が追いついてきたのだ。
俺たちは周りを囲まれて、逃げ場を失った。
『さあ、卵を渡せ。』
手を向ける役人。
俺たちは目を見合わせて、コクリと頷いた。
そして・・・・・、
『ああ!何をする!!』
深い深い谷の底に、卵を投げ落とした。
慌てる役人、ざわつく家来。
そして俺たちも谷底に身を投げた。
どうせ捕まったら殺される。
卵を渡そうが渡すまいが、どの道死ぬことになる。
ならばこうするしかなかった。
不死鳥は死ぬが、悪人が永遠の命を持つよりはマシだ。
そして俺たちもまた、自分の命を絶つしかない。
神獣を殺してしまったという罪、そして捕まったら殺されるだけではすまないという恐怖。
散々に拷問を受けて、生き地獄の上に殺される。
それならば、ここで命を絶った方がいい。
俺たちは手を繋ぎ、また来世で会おうと約束して、谷底に沈んだ。
そして約束通り、来世で出会った。
イーという男と、イェンという女に生まれ変わって。
でも俺たちの魂は、呪いを受けていた。
谷底に沈んだあの日、死んだ俺たちの前に、霊魂となった不死鳥が現れた。
『お前たちを信じて預けたのに、生まれ変わることができなくなってしまった。』
俺たちは謝ったけど、不死鳥は許してくれなかった。
『人間が神獣を殺すなど、あってはならない大罪!如何な理由があろうともだ!』
不死鳥は真っ黒な炎に変わって、俺たちの魂を焼いた。
『神獣殺しの大罪、人が償うには重すぎる。その魂を焼き払い、二度と同じ間違いが起きぬようしてやる。』
俺たちはの魂は消えかかった。
灼熱と苦痛に焼かれて、拷問のような苦しみを受けながら。
でもそこへ、龍に乗った仙人がやって来た。
『待て待て、そこまでやるのは可哀想じゃ。』
仙人は不死鳥を説得してくれた。
この者たちはああするしかなかった。
悪人の手から卵を守るには、これしか方法はなかったと。
仙人が説得してくれたおかげで、不死鳥は怒りを鎮めた。
だけど完全には納得してくれなかった。
『仙人の顔に免じて、魂を焼き尽くすことは許してやる。だがその代わり、呪いを受けてもらうぞ。』
不死鳥は黄金色に輝き、俺たちの魂を包んだ。
『お前たちに特別な力を与える。その力を使い、一万の魂を救うのだ。
それが終わるまで、お前たちが結ばれることはない。』
俺たちの魂には呪いが刻まれた。
一万の魂を救うまで、何世代にも渡って続く呪いが・・・・。
この呪いを解くまで、俺たちは永遠に結ばれることはない。
なんと大変な難行・・・・・一万って・・・・・。
すると仙人がこう言った。
『これをくれてやろう。』
首からかけた金印を、俺たちの前に差し出した。
『人の身では、神獣の呪いを解くのは厳しいじゃろ?だからこれを授けよう。』
金印はとても綺麗で、不思議な光を放っていた。
『お前たちは1000年後に生まれ変わる。その時、どちらかの手にこの金印が渡るようにしておく。』
どうやって?と俺たちは尋ねる。
『そうじゃな・・・・生まれ変わったお前たちの先祖にでも預けるか。
そうすれば時を超え、その手に渡るじゃろう。』
仙人は『まあ頑張れ』と肩を叩く。
『お前たちは悪くない。ただ運がなかっただけじゃ。遠い未来、お前たちは結ばれて、必ず幸せになる。この儂が約束する。』
そう言い残し、『ほんじゃ』と去って行った。
不死鳥も羽ばたき、天に昇っていく。
『高い空から見ているぞ。一万の魂を救い、いつか呪いを解く日を。』
大きな翼を羽ばたいて、空に昇っていく。
そこには仙人が待っていて、並んで雲の中に消えていった。
・・・・・これが仙人から聞いた話、俺と藤井が受けた呪い。
それは来世まで続き、そのまた来世まで続いている。
もしもこれを忘れてしまったら、大変なことになる。
「俺はやらなきゃいけないんだ。一万の魂を救い、必ずこの呪いを解く。そうしないと藤井まで辛い目に・・・・、」
そう言いかけたとき、ガシっと頭を掴まれた。
「痛だだだだ!」
たまきは指を立てて、俺の頭を握り締める。
「ちょ、ちょっとッ・・・・・、」
「忘れなさい、全て。」
「待ってくれ!これを忘れたら、いったいいつ呪いが解けるか分からない!
だって一万だぞ!モタモタしてたら、今世で終わらない。来世まで続いて、そのまた来世まで続くかもしれないんだ!」
「いいじゃない。」
「え?」
「続いてもいいじゃない。」
「な、何言ってるんだ!こんな呪い、さっさと解かないと・・・・、」
そう言いかけると、たまきは首を振った。
「今を生きなさい。」
強い目で言う。
その眼光に圧されて、俺は黙り込んでしまった。
「何度も言うけど、前世は前世。そして来世は来世よ。今のアンタには関係ない。」
「関係あるだろ!だって呪いが・・・・、」
「ならその為だけに動物を助けるの?」
「え?」
「アンタは呪いから解放されたいが為に、動物探偵を続けるの?」
「そ、それは・・・・違うけど・・・・、」
「今までは呪いのことなんて知らなくても、その目に映る動物を・・・・・いいえ、困っている者を助けようとしてきた。」
怖い目が柔らかくなって、小さく微笑む。
「呪いなんて関係ないのよ。アンタ自身がそうしたいからそうしてきた。だったら・・・これからもそれでいいじゃない。」
「・・・・でも、それだったら俺と藤井はどうなる?呪いのせいで、永遠に結ばれないままで・・・・、」
「あら?コマチさんと結婚するんじゃないの?」
「へ?」
「彼女のこと愛してるんでしょ?」
「も、もちろんだよ!でもさ、次に生まれ変わったら、その時はどうなるか分からないだろ?だから・・・・、」
「だから今を生きるのよ。」
たまきはまた厳しい目になる。
「次はどうなるか分からない。だったら分からないことを気にしてもしょうがない。
今、目の前にあるアンタの人生を大事にしなさい。仕事を、マサカリたちを、そしてコマチさんを。」
ギュッと指を立てて、メリメリと食い込ませる。
「痛だだだだだだ!」
「前世は前世、来世は来世、例え呪いが続いたとしても、そんなの関係ないわ。」
「ちょ!頭が割れる!!」
「アンタは有川悠一という一人の人間。過去や未来に囚われず、自分の人生を生きればいいのよ。」
「ぎ、ギブ!ほんとに割れる!!」
「そうやって今を大事に生きていれば、いつか必ず光が射す。」
「あ・・・・ああああ・・・・・また・・・・仏さんと天使が・・・・、」
「今というこの時が一番大事だってこと、忘れないで。」
たまきがそう呟いた瞬間、俺の意識は遠のいた。
・・・・頭の中に、紫に光る手が入ってくる。
ゴソゴソと俺の記憶を探って、金印によって追体験した部分を掴んだ。
その瞬間、ふと痛みが治まった。
仏さんと天使は相変わらずで、舌打ちとラッパを投げていく。
・・・・・その時、どこかから俺を呼ぶ声がした。
『よう悠一、また死にかけてんのか。』
『・・・・カモン!』
俺の後ろから龍が飛んでくる。
仙人が乗っていて、その手の上にカモンがいた。
『あ、あんたは!?』
『がはは!1000年ぶりじゃな。』
『なんでアンタがここに!?』
『ジャンケンで勝ったから。』
『は?』
『そこに仏さんと天使がおるじゃろ?だから儂も混ぜておらおうと思って。』
『・・・・・・・・。』
『なんじゃその顔は!儂がお迎えだと不満なのか!』
『・・・・・いや、そいういうわけじゃないけど。なんかイラっとして。』
『ふん!相変わらず儂に敬意をもたん奴じゃな。』
『でも怒ってるぞ、仏さんと天使。』
仏さんは鬼のような顔でメンチを切り、天使はラッパでどついている。
『痛いじゃろうがこの!儂が勝ったんじゃから、儂がお迎えするんじゃ!』
仙人、仏さん、天使の喧嘩が始まって、ボコボコにどつき合う。
龍は迷惑そうな顔をしていた。
しばらく喧嘩が続き、仏さんと天使はキレたまま帰って行く。
仙人は鼻血と青痣でボロボロになっていた。
『はあ・・・・はあ・・・・こっちは年寄りじゃぞ。ちょっとはいたわらんかい・・・・・。』
鼻血を拭きながら、『そういうことじゃから』と言う。
『どういうことだよ・・・・。』
呆れていると、カモンが『よう』と頭に乗ってきた。
『お前も行くか?』
『行くわけないだろ!』
『冗談だよ、本気で怒るな。』
小さな手で、ペシペシと俺の頭を叩く。
『孫の顔が見れないのは残念だけど、まあ仕方ない。』
『・・・・・本当に行っちゃうんだな。』
『まあなあ・・・さすがにこれ以上寿命を伸ばしてもらうのは悪いし。
それにさ、お前はもう一人前なんだろ?なんたってたまきが認めてくれたんだから。』
『・・・・ああ。』
『なら安心して向こうに行ける。これからは桃源郷をエンジョイだぜ!』
ちっこい親指を立てて、ニコっと笑う。
『ほれ、もう行くぞい。』
仙人が手を伸ばすと、カモンはピョンと飛び乗った。
『まあそういうわけで、これでお別れだ。達者でな。』
『カモン!』
思わず手を伸ばす。
すると龍が威嚇してきた。
『うおッ!』
『言っただろ、もう時間なんだよ。』
『でも・・・・でも・・・・やっぱ寂しいよ!
もう二度と・・・・みんなで騒ぐことが出来ないなんて・・・・、』
『泣くな馬鹿。辛気臭いのは嫌だぜ。』
『・・・・・ごめん。』
グイっと目を拭い、顔を上げる。
すると龍は空に昇っていくところだった。
『カモン!』
『悠一!俺は幸せだったぞ!お前やみんなと一緒にいられて!』
高い空から、小さな手を振る。
また涙が出てきて、まっすぐ上を向くことが出来なかった。
『だからお前も幸せになれ!コマチやあのバカ共と一緒に、楽しく生きろ!』
『カモ〜ン!』
『じゃあな。いつかまた。』
龍は空の中へ消えて行く。
カモンは見えなくなるまで手を振っていた。
『カモン・・・・・。』
四年間一緒に過ごした、大事な家族。
幸せだったと言ってくれて、何よりも嬉しい。
アイツは立派に生きた。
与えられた命を全うし、桃源郷へと旅立っていった。
俺はカモンが消えた空に手を振る。
またいつか、きっと会えると信じて。
『またな、カモン・・・・・。』

まずは体を描くか?それとも服を同時に描くか?

  • 2017.06.28 Wednesday
  • 09:31

JUGEMテーマ:アート・デザイン

JUGEMテーマ:漫画/アニメ

人を描く時どうするか?
大きく二つに分かれるようです。
まずは体を描いて、その上に服を着せていく。
もう一つは最初から服を着た状態で描いていく。
これ、どっちが正しいんでしょうね。
私はまず体を描きます。
その次に服を描いていきます。
このやり方だと時間がかかります。
体+服を描くという二つの作業になるし、それに後から線が分かりづらくなる時もあります。
それに下絵がけっこう汚くなるんですよ。
最初から服も一緒に描くなら、時間の短縮になります。
ペン入れの時も迷わずにすみますし。
漫画家さんは時間がないから、服を一緒に描く人が多いかもしれません。
デフォルメの強いキャラも、服を一緒に描いた方が効率的でしょうね。
だけどリアルなタッチで描くなら、体から描いた方がいいと思います。
服と体を同時に描くってことは、服も体の一部として描くのと同じです。
服を着ている状態なら違和感はないけど、もし裸の状態にしてしまったら、かなりバランスが悪いでしょう。
リアルな絵の場合だと、デッサンが狂っているとアウトです。
だからやっぱり体から描く方がいいと思います。
もしもちゃんと体がイメージできるなら、服も同時に描いて大丈夫でしょうけど。
すごく絵の上手い人って、タッチが柔らかいです。
きっと線に迷いがないからでしょうね。
あれこれとアタリばっかりつけていると、最終的に硬い絵になってしまいます。
あまり動きがなくて、止まっているように見えるんです。
本当に上手い人は絵が見えているわけだから、そういう人にとっては服を同時に描くかどうかは問題ではないでしょう。
自分のイメージ通りに描けるだろうし、難しい依頼でもこなすだろうし。
何をどうするかで迷う。
そうならないくらいに上手くなりたいです。

勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜 第六十四話 戻る者と旅立つ者(2)

  • 2017.06.28 Wednesday
  • 09:29

JUGEMテーマ:自作小説

たまきは無事に一つに戻った。
これでようやく一件落着。
でもまだ大きな心配事が残っている。
《マイちゃん・・・・無事でいてくれよ!》
彼女は霊獣の世界にいる。
大怪我を負ったから、モズクさんが連れて帰ったのだ。
俺はウズメさんに頼んで、マイちゃんのいる世界まで運んでもらうことにした。
《今行くからな!》
光を失った金印を握りしめ、彼女の無事を祈る。
ウズメさんはあっと言う前に神社の前まで来て、「行くわよ!」と叫んだ。
彼女の巨体は、鳥居よりも遥かに大きい。
でも構わず突っ込んでいく。
すると突然鳥居が巨大化して、ウズメさんが通れるサイズになった。
「身を低くして、しっかりしがみ付いてて!」
「はい!」
鳥居を潜った瞬間、グニャリと空間が歪んだ。
すべての景色が捻れて、強烈な風が襲いかかってきた。
「うわああああああああ!!」
ギュっとしがみ付いても、あまりの突風に吹き飛ばされそうになる。
もう限界だ・・・・・。
そう思った時、突然風がやんだ。
「着いたわよ。」
「・・・・・・・・・。」
恐る恐る顔を上げる。
「ここは・・・・・。」
俺たちが出た場所。そこは岡山だった。
マイちゃんの家がある、山の麓の草むら・・・・。
「家がある・・・・。消えたはずなのに。」
ウズメさんは家の前に俺を下ろす。
それと同時に、ガラガラと玄関が開いた。
中から現れたのはモズクさん。そして・・・・・、
「ワラビさん!」
マイちゃんの両親が、じっと俺を睨む。
「あ、あの・・・・・、」
二人の視線に圧されて、ゴクリと息を飲む。
「・・・あの・・・・マイちゃんは・・・・?」
二人は俯く。そして・・・・・首を振った。
「まさか・・・・そんな!だってそんなこと・・・・、」
膝から力が抜ける・・・・その場に崩れ落ちそうになる・・・・・。
《そんな・・・・そんなのウソだ!》
思わす叫びそうになった時、家の中からダダダダ!と足音が聴こえた。
「悠一君!」
人間に化けたマイちゃんが飛び出してくる。
ガバっと抱きついてきて、とんでもないパワーで締め付けられた。
「よかった!無事だった!」
「ぐ・・が・・・・・ごうふッ!」
「心配してた!無事でよかったああああああ!!」
「ぎゃあああああああああ!!」
骨が鳴る・・・・内蔵を吐き出しそうになる・・・・。
意識が遠のいて、魂が抜けそうになる・・・・。
「悠一くうううううん!」
「あ、またお迎えが・・・・・、」
見上げた空には、仏さんと天使がいた。

            *

「大丈夫ですか?」
ワラビさんが包帯を巻いてくれる。
俺は「お構いなく・・・」と苦笑いした。
でも笑うとビキっと骨が鳴る・・・・・痛い!
《ついさっきまで仏さんの手に乗ってたからな・・・・。》
またしても死ぬところだった。
ワラビさんが助けてくれたおかげで、どうにか死なずにすんだけど。
「これでよし。」
包帯を巻き終えたワラビさんは「ごめんなさい」と謝る。
「マイのせいで、危うく故人にしてしまうところでした。」
「いえいえ、いいんですよ。いつものことだから。」
そう言って笑うと、またビキ!っと痛んだ。
「ごめんね悠一君・・・・嬉しくてつい。」
俺の隣でマイちゃんが申し訳なさそうにしている。
モズクさんが「まあ無事だったんだからよかったじゃねえか」と笑った。
「兄ちゃんが来るまで大変だったんだぜ。『悠一君の所に行くうううう!』ってよ。
おかげでほれ、家ん中がめちゃくちゃだ。」
タンスは逆さまになり、天井には穴が空き、床は抜けている。
辛うじて残っているのはちゃぶ台だけで、これにも爪痕が付いていた。
「怪我が治った途端に暴れ出してよ。『行くったら行く!』って聞きゃしねえ。
そこへちょうど母ちゃんがやって来て、どうにか宥めてくれたってわけだ。」
「大変だったんですね・・・・・。」
俺がここへやって来た時、二人は沈んだ顔をしていた。
そして悪いことでもあったかのように、首を振ったのだ。
俺はてっきちマイちゃんに何かあったのだと思った。
でもそうではなくて、あまりに暴れるマイちゃんに辟易としていたのだ。
そこへようやく俺がやって来て、これで大人しくなるとホッとしたのだった。
「悠一君・・・・ほんとに無事でよかった。」
グスっと泣いて、また抱きつこうとする。
「あ、ちょっとッ・・・・、」
慌てて仰け反り、「今は勘弁・・・・」と手を振る。
「マイ、いい加減にしなさい。これ以上やったら、本当に鬼籍に入ってしまいますよ。」
「ご、ごめんなさい・・・・。」
シュンと項垂れるマイちゃん。
俺は「そう落ち込まないで」と肩を叩いた。
「もう全て終わったんだ。アイツは・・・・ホワンはたまきの中に戻った。もう悪さをすることはないよ。」
「ホワンさん・・・・可哀想だね。ずっと長い間い一人ぼっちだったなんて・・・・。」
「ああ。でも最後には救われた。本人が言ってたんだから間違いないよ。」
たまきの言葉はホワンの言葉。
だからたまきが救われたと言うのなら、それはその通りなのだろう。
「それよりさ、こっちの方が問題だよ。」
俺は金印を見せる。
黄金の輝きは失われて、ただの鉄みたいになってしまった。
「どういうわけか分からないけど、急にこんな風になっちゃったんだ。
これがなきゃマイちゃんは人間の世界にいられないのに・・・・。」
沈んだ顔をしていると、「ちょっといいですか?」とワラビさんが手を出した。
俺は金印を預ける。
ワラビさんは真剣な目で睨んで、「力を失っていますね」と言った。
「なら・・・・もう役に立たないってことですか?」
「このままではね。だけど力を込めれば大丈夫。」
「力を込める・・・・?」
「この金印、霊力の貯蔵庫のような物だと思います。
そして溜まった霊力を使い果たすと、だたの金属に戻ってしまうのでしょう。」
「・・・・ということは、また力を込めれば・・・・、」
「ええ、マイを守ってくれるはずです。」
「ほ、ホントですか!?」
嬉しくなって立ち上がる。でもまた骨が鳴った・・・・。
「痛ッ・・・・、」
「悠一君!」
「大丈夫大丈夫、平気・・・・。」
アバラを押さえながら、「これで人間界に戻って来れるね」と笑いかけた。
しかしワラビさんは首を振る。
「霊力を込めれば力を発揮しますが、そうすぐにというわけにはいかないでしょう。」
「どういうことですか?」
「マイを守るほどの力を込めるとなると、しばらく時間がかかります。」
「しばらくって・・・・どれくらい?」
「100年ほど。」
「100年!!」
「ええ。」
「そんな・・・・・。」
大きな仕事を終え、たまきから一人前のお墨付きをもらい、俺の人生はこれからだと思っていた矢先に、なんてことだ・・・・。
「どうにかならないんですか!?」
「どうにもなりません。」
「そんな・・・・・。だって100年先って言ったら、俺はもう死んでますよ。
これじゃあ・・・・結婚なんて無理じゃないか。」
目の前が暗くなって、がっくりと項垂れる。
《人生って上手くいかないもんだ・・・・。仕事が充実しそうになったら、今度はプライベートで打撃を受けるなんて。》
成功者はプライベートで恵まれないというが、果たしてどっちがいいんだろう?
仕事を取るか、大事な人を取るか。
・・・・・そんなの決められるわけないじゃないか!
しかしがっくりする俺とは対照的に、マイちゃんはそう落ち込んでいなかった。
「ねえ悠一君。」
明るい顔で「100年も待つ必要ないよ」と言った。
「え?」
「私ね、前から考えてたことがあるんだ。」
「考えてたこと?」
「上手くいけば、金印なしで人間界にいられるかもしれない。」
「ほ、ホントに!?」
マイちゃんはコクっと頷く。
「私ね、聖獣を目指そうと思うんだ。」
「聖獣・・・・。」
「ほら、霊獣って格があるでしょ?霊獣、聖獣、そして神獣。
今の私は一番下の霊獣。だけど聖獣になれば、金印なしで人間界にいられるかもしれないの。」
そう言って「ね、お父さん?」と振り返った。
「ああ。聖獣は霊獣より遥かに力が強ええからな。霊的にも、そして肉体的にも。」
「肉体も・・・・・。」
「マイは幻獣だから肉体が弱ええ。腕力はあっても、穢れに対する免疫がねえんだ。
だが聖獣になれば話は別だ。肉体がパワーアップして、少々の穢れじゃ動じなくなるだろうぜ。」
「ほ、ホントですか!?」
「それに霊力も増すから、穢れを追い払う力も付く。そうなりゃそんなモンなしで人間界で暮らせるはずだ。」
「やった!だったら結婚出来るよ!」
俺はマイちゃんの手を握りしめる。
「だがすぐにってわけにゃいかねえ。」
「え?」
嫌な予感がする・・・・・。
「あの・・・・また100年とか言うんじゃ・・・、」
「1年。」
「1年・・・・?」
「そんだけありゃいけるはずだ。」
「・・・・・・・・ホントですか!」
100分の1に縮まった!これならじゅうぶん待てる。
「本当ならもっともっと時間が掛かるんだが、マイは幻獣だ。
潜在能力は神獣並だから、普通の霊獣よりも早く昇格できるはずだぜ。」
「おお・・・・ここへきて幻獣ってことがプラスに!」
一瞬そう思ったけど、そもそも幻獣でなかったらそのまま人間界にいられる。
俺、けっこうアホなんだな・・・・・。
「兄ちゃんよ。」
「はい・・・・。」
「おめえ・・・・さてはアホだな?」
「・・・・・ッ!」
ちょっと傷つく。
シュンと項垂れると、「お父さん!」とマイちゃんが怒った。
「悠一君はアホなんかじゃない!ちょっと的外れなところがあるだけだもん!」
「そう怒るない。」
煙管を咥え、先っぽに普通のタバコを挿す。
それをプカリと吹かして、話をつづけた。
「マイは幻獣だから、成長するのも早ええはずだ。それに加えて・・・・・、」
そう言ってワラビさんを見つめる。
「母ちゃんが直々に鍛えてくれるからよ。」
「ワラビさんが?」
「母ちゃんは神獣だ。しかも神主やってるから、弟子を鍛えるのも上手いしよ。」
「なるほど・・・・。マイちゃんの才能、そしてワラビさんの指導。この二つがあれば、一年で人間界で暮らせるようになると?」
「おうよ。兄ちゃんが一年間浮気をしなかったらの話だけどな。」
「しませんよ!」
「どうだか・・・・。独り身の所へ良い女が現れたら、コロっといくかもしれねえ。なあ母ちゃん?」
「いいえ、私はそうは思いません。
悠一さんは立派な殿方です。きっと一途にマイのことを待って下さいますよ。」
そう言って俺を振り返る。
「マイのこと、信じて待っていて下さい。私が必ずや聖獣にしてみせますから。」
「お、お願いします!」
手をつき、頭を下げる。
ワラビさんは立ち上がり、俺とマイちゃんの前に立った。
「これからの二人に幸運を願って、祈りを捧げます。」
手を合わせ、目を閉じるワラビさん。
俺とマイちゃんは背筋を伸ばした。
ワラビさんはパンパン!と手を叩き、カッと目を開いた。
「キイエエアアアアアア!」
「・・・・・・・ッ!」
「ヒイイエヤアアアアアアア!」
「え?いや・・・・・、」
「アアアアカアアアアアンンテエエエエエ!!」
「な・・・・え?」
「これでよし。」
《・・・・・なに今の?》
突然わけの分からない奇声を発した・・・・。
なんか怖くてドキドキする・・・・。
「お母さん・・・・ありがとう・・・・グス。」
「ええええ!?」
「久しぶりにお母さんのお祈りを見た・・・・。きっとこれで幸運間違いなし!」
《呪いの間違いじゃないのか・・・・。》
涙ぐむマイちゃん。
「幸せになるのよ・・・・」と鼻をすするワラビさん。
モズクさんはスポーツ新聞を読んでいた。
《・・・・・この家族と上手くやっていけるのかな・・・・・。》
まあ・・・・悪い人達ではない。どうにかなるだろう。
とにかくマイちゃんが戻って来れそうでよかった。
100年なんて言われた時はドキっとしたけど、一年ならあっという間だ。
忙しく仕事をこなしていれば、すぐに時間が経つんだから。
変わり者の家族を眺めていると、ウズメさんが入って来た。
「どんな感じ?」
「ええっと・・・・こんな感じです。」
手を向けると、ウズメさんはクスっと笑った。
「ハッピーエンドってわけね。」
「まあ・・・・一応は。」
「じゃあそろそろ帰りましょうか。人間があまりこっちの世界にいるとよくないから。」
「そうなんですか?」
「幻獣の逆バージョン。清浄過ぎる空気のせいで、人間には馴染めないのよ。」
ウズメさんは「それじゃモズクさん、今日はこれで」と手を上げる。
「おう!」
モズクさんはスポーツ新聞を見ながら頷く。
「母ちゃん、兄ちゃん帰るってよ。」
「え?・・・・ああ!ごめんなさい・・・・。」
グスっと涙を拭いて、「マイをよろしくね」と頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそ。ていうか早く聖獣になってくれるのを待ってます。」
「明日、一日だけそちらに向かわせます。
一年とはいえ離れ離れになるわけだから、一緒にいてやって下さい。」
「それは嬉しいですけど、金印がないのに大丈夫なんですか?」
「一日くらいでしたら。ねえマイ?」
「うん!平気平気!」
「そっか。じゃあ・・・・待ってるよ、マサカリ達と一緒に。」
ニコっと頷くと、「悠一君!」と抱きついてきた。
「ぎあッ!」
「私・・・・頑張るからね!絶対に聖獣になるから!」
「ちょッ・・・・やめて・・・・、」
「だから待ってて!いっぱい修行して、うんとパワーアップして、もっともっと強くなるから!」
「だあああああああああ!これ以上強くなんなくていいい!!」
メキメキっと骨が鳴る・・・・。
ワラビさんは「マイ・・・・」と鼻をすすっているし、モズクさんは新聞から顔を上げない。
《この一家とやっていくの・・・・命懸けかもしれない・・・・。》
天使と仏さんが見える頃、ようやく離れてくれた。
倒れる俺を抱えて、ウズメさんは「それじゃお暇します」と言った。
「ほら、悠一君もご挨拶。」
《出来るか!》
「じゃあまた明日!」と手を振るマイちゃん。
俺は白目を痙攣させて、「また・・・・」と気絶した。

            *

マイちゃんは無事だった。
そして金印がなくても人間界にいられることになった。
一年は離れ離れになっちゃうけど、でもそれは仕方ない。
聖獣になってくれることを信じて、ただ待つのみ!
このことを動物たちに話したら、きっと喜ぶだろう。
俺はウキウキしながらウズメさんの車に乗っていた。
「嬉しそうねえ。」
「ええ、まあ。」
「顔がデレデレよ。この幸せ者。」
パチンとおでこを叩かれる。
「すいません」と笑いながら、「でもいいんですか?」と尋ねた。
「しばらくウズメさんのマンションにご厄介になって。」
「いいのいいの。ていうか君の家はもうないじゃない。」
「吹き飛んじゃいましたからね。ていうか・・・・テレビでもえらいことになってるな。」
車に付いているテレビから、今日の事件が流れていた。
粉々になった俺の部屋、現場検証する警察、群がる報道陣と野次馬。
こりゃあ城崎温泉の時よりも大事になる・・・・・。
「ああ・・・・どうしよう・・・。もしマンションを弁償しろとか言われたら・・・・。
いやいや!それより警察沙汰になるんじゃ・・・・。」
青い顔をしながら、頭を抱える。
するとウズメさんが「平気平気」と笑った。
「この件の対処は彼女に任せてるから。」
「彼女?」
「ん、鬼嫁。」
テレビを見ていると、どどめき庵の女将さんがマンションの前にいた。
「なんでこの人が!?」
鬼の龍と称される、正真正銘の鬼嫁。
あの時の記者会見と同じように、屁理屈で記者の質問を受け流している。
「ウズメさん!なんでこの人が!?」
「私からお願いしたの。この前あなたの旦那で大変なことになったから、ちょっと協力してって。
そうしたら二つ返事で引き受けてくれて。」
「いや。引き受けるって、全然関係ない人じゃないですか!!」
「でも人間界に顔が利くのよ。」
「そ、そうなんですか・・・・・?」
「強面だけど仕事の出来る人だから。色んな所にコネを持ってるのよ。」
「はあ・・・・・。」
「まあしばらくは騒がれるでしょうけど、君が責任を負うことじゃないわ。」
「いや、でもですねえ・・・・・、」
「マンションの補償はたまきがやってくれるし、迷惑を被った人は私が助けるし。」
「そんな!だって俺の依頼でこんな事になったのに・・・・、」
「いいのいいの。たまきがそう言ってるんだから。幸い怪我人もいなかったし、人脈とお金でどうにかなる問題だから。」
そう言ってのほほんと笑う。
《笑ってるよオイ・・・・・。やっぱ人間とは違う感覚の持ち主なんだなあ。》
ウズメさんの車に揺られながら、彼女のマンションへと向かう。
そこは金持ちしか住めないような高級マンションで、「すげえ・・・」と声が漏れてしまった。
「いい所に住んでるんですね・・・・。」
「見た目よりも安いのよ。」
「ていうか引っ越したんですね?」
「ん?」
「ほら、去年の夏に一度だけお邪魔したじゃないですか。怪我したマイちゃんを預かってもらう為に。」
「ああ、あのマンション?狭いから引っ越したわ。」
「そうですか?けっこう広かったですけど・・・・。」
「私には狭かったの。」
《う〜ん・・・・けっこうバブリーな人なんだなあ。人じゃないけど。》
大きな銭湯の経営者なんだから、それなりにお金を持ってるんだろう。
そもそも稲荷の長なわけで、お金なんてどうとでもなるのかもしれない。
車を降りた俺たちは、エレベーターに向かった。
部屋は最上階。
エレベーターに運ばれながら、「動物たちはもう来てるんですよね?」と尋ねた。
「ええ。」
「あ、ああ・・・・そうですか。」
「どうしたの?そわそわして。」
「いや、だって・・・・ねえ。気持ちはすごくありがたいですけど、でも・・・・やっぱりウズメさんのマンションにお世話になるっていうのは。」
「でも住む場所がないんだから仕方ないでしょ?」
「それはそいうですけど、僕は婚約中の身でして・・・・。
いくらご厚意とはいえですね、その・・・・別の女性の所にお世話になるというのは、かなりマズイような気が・・・・、」
「え!悠一君・・・・・私にマズイことするつもりなの?」
「へ?」
「だってエッチな顔してるから。」
「ち、違いますよ!そういうことじゃなくてですね、こういうのはその・・・・倫理的にいかがなものかと・・・・、」
「ふふふ、冗談よ。」
ペチンとおでこを叩かれる。
それと同時にチンとドアが開いて、「こっちよ」と歩いていく。
「ここね。」
そう言ってトントンと表札を指さす。
「・・・・・動物探偵、有川悠一事務所。なんですかコレ?」
「だから君の部屋じゃない。」
「・・・・・えええ!だってこれウズメさんの部屋でしょ?」
「違うわよ。」
「へ?」
「これは君の部屋。」
「俺の・・・・?」
「たまきからの成功報酬よ。」
「ほ・・・・報酬?」
「1000年の悩み事を解決してもらったんだから、部屋くらいは当然でしょ。・・・・だって。」
「・・・・ええっと、じゃあウズメさんの部屋は?」
「私は三つ向こう。」
離れた部屋を指さして、ニヤニヤと笑う。
「・・・・・・・・・。」
「あれえ?何その顔?」
「あ、いえ・・・・なんでも。」
「君・・・・もしかして私の部屋に住むと思ってたの?」
顔を近づけながら、さらにニヤニヤする。
「いや!だってウズメさんのマンションだって言うから・・・・、」
「でも私の部屋だなんて言ってないわよ?」
「う、や、それは・・・・・、」
「もしかして・・・・期待してた?私と一緒に住めるんじゃないかって。」
「ち、違いますよ!」
「じゃあなんでガッカリしてるの?」
「してません!その・・・・ちょっと勘違いしてただけです。」
俺は顔を真っ赤にしながら部屋を睨む。
「だってここに俺の部屋があるなんて思わないじゃないですか。
だからついですね・・・・てっきりウズメさんの部屋のことかと・・・・、」
「婚約者がいるのに、私の部屋に住めなんて言うはずないでしょ。」
「・・・・・ですよね。」
すっごく恥ずかしくなって、《俺、やっぱりアホなんだな》と項垂れた。
「やっぱり妙なこと期待してた?」
「してません!」
「でも勘違いしたままついて来たってことは、一緒に住むつもりだったってことでしょ?」
「う、あ、それは・・・・・・、」
「やっぱり下心があったんでしょ?」
「う、うむう・・・・・ぬううおお・・・・・、」
この人、なんでこんなに嬉しそうなんだ・・・・。
ニヤニヤして、まるで俺をからかう時のマサカリたちみたいだ。
「こ、これは誘導尋問だ!誰か弁護士を・・・・、」
「ふふふ、冗談よ。」
「冗談がキツいですよ・・・・。」
「はい、コレ鍵ね。」
「え?あ・・・・ありがとうございます。」
「お礼なんていいわよ。これはたまきが買ったもんだし。」
「買う!ここって分譲マンションなんですか?」
「当然よ。こんな所の家賃、君が払えるわけないでしょ。」
「・・・・・・・・・・。」
「そう恐縮しなくてもいいって。たまきはこれでも足りないと思ってるくらいなんだから。」
「アイツ・・・・なんでそんなに金持ってんだ?」
分譲マンションなんてもらって、恐縮しない方がおかしい。
するとウズメさんは「仕事よ仕事」と言った。
「ここは君の住居兼仕事場。」
そう言ってトントンと表札を指さす。
「動物探偵、有川悠一事務所。これはお礼でもあるけど、君への期待も込めてるのよ。」
「期待?」
「君は一人前になった。だからこれからはたまきの戦友ってわけ。
だったら仕事場もそれなりじゃないと。」
「はあ・・・・・。」
「気のない返事をしない。せっかく与えてもらった立派な仕事場なんだから、ビシっとしなさい!」
バシン!と背中を叩いて、「それじゃ」と去って行く。
「私はこがねの湯があるから。」
「あ、あの・・・・今回も助けてもらって、ありがとうございました!」
ペコっと頭を下げると、ヒラヒラと手を振りながらエレベーターに消えていった。
「俺の・・・新しい仕事場。」
ここは立派なマンションだ。
仮に賃貸だとしても、決して俺の給料じゃ払えないような場所だ。
「なんかオシャレだし、ドアも立派だな。・・・・どれ、ちょっと覗いてみるか。」
この向こうにはマサカリ達が待っている。
部屋を見るのも楽しみだけど、それ以上に動物たちの反応が楽しみだった。
《マイちゃんは無事で、一年後には戻って来れる。きっとみんな喜ぶぞ。》
ウキウキしながら鍵を挿す。
そして「ただいま!」とドアを開けた。
「お前ら喜べ!マイちゃんは無事だ!そして一年後には戻って来れ・・・・・、」
そう言いかけて、口を噤んだ。
「・・・・・・・・・・。」
動物たちは背中を向けている。
広い部屋の中で、中央に集まって佇んでいる。
でも・・・・一匹足りない。
マサカリ、モンブラン、チュウベエ、マリナ。
みんなは黙ったまま、ある一点を見つめていた。
「・・・・・・・・。」
俺は黙って部屋に入る。
ドアを閉め、靴を脱ぎ、ゆっくりとマサカリ達に近づいた。
「お迎え・・・・・・来たんだな。」
そう尋ねると、マサカリが「ああ・・・・」と答えた。
「逝っちまいやがった。」
「そっか・・・・・。」
「ついさっきだ。パタンと倒れて、そのまま眠るみてえに・・・・・、」
みんなの見つめる先に、カモンが倒れている。
眠っているように見えるけど、でも・・・・もう動かない。
どんなに呼んでも起きることはない。
俺は膝をつき、そっと手に乗せた。
「カモン・・・・・。」
小さな身体を撫でる。
微かに体温が残っていて、本当についさっき旅立ったようだ。
「ありがとう・・・・最後まで手伝ってくれて。お前がいなかったら、俺はどうなってたか。」
ホワンに連れ去られる時、コイツも一緒についてきた。
あの金印を持って。
もしもあれがなければ、ホワンは正気に戻ることはなかった。
そうなれば依頼は失敗、俺だってどうなっていたことか・・・・。
「とうに命のロウソクは尽きてたのに・・・・・。ほんとに・・・・ほんとにありがとう。」
残っていた体温は、ゆっくりと消えていく。
身体は硬くなり、無機物のように冷たくなっていく。
カモンの魂は、もうここにはいない。
きっと天使か仏さんの手に乗って、遠い世界へ旅立って行ったんだ。
悲しい・・・・・けど涙は出ない。
どうして分からないけど、泣くことが出来なかった。
それはカモンが天寿を全うしたからか?
それとも後から大きな悲しみがやってきて、その時に涙するのか?
どちらか分からないけど、なぜか妙に静かな気持ちだった。
動物たちも神妙な顔をしている。
普段はどんな事でも茶化すのに、この時だけは何も喋らない。
モンブランは俺を見上げ「なんで・・・・?」と言った。
「なんでもっと早く戻って来てくれなかったの!」
泣きながら猫パンチする。
「もうちょっと早く戻って来てくれたら、カモンを看取ってあげられたのに!」
「ごめん・・・・・。」
「コマチさんに会ってデレデレしてたんでしょ!」
「・・・・・・・・・・。」
「そんなのカモンが可哀想よ!もう・・・二度と会えないのに・・・・。」
モンブランは「うわあああああん!」と泣き出す。
「ヤだよおおおお!もう会えないなんて!戻って来てよおおおお!」
モンブランを抱え、「ごめんな」と謝る。
「最後の瞬間にいなくて悪かった。」
広い部屋が震えるほど泣く。
マリナもグスっと泣いて、マサカリも辛そうな顔をしていた。
チュウベエはカモンの所に飛んできて、そっと羽を伸ばした。
「餞別だ、持ってけ。」
羽に隠していたミルワームの切れ端。
それをカモンの傍に置く。
今日、一人の仲間がいなくなった。
我が家で一番の毒舌で、我が家で一番の小さな仲間が。
でも小さな身体とは反対に、気は大きかった。
みんながビビるような中でも、コイツだけは逃げなかった。
いったい今までどれほど助けてもらっただろう。
この小さな身体を張って、俺の為に、動物の為に、どれだけ頑張ってくれただろう。
「カモン・・・・俺な、たまきからお墨付きをもらったんだ。
これからは師弟じゃなくて、戦友だとさ。
だからもう何も心配しないでくれ。安心して・・・・・ゆっくり眠ってくれ。」
尽きたロウソクが燃え続けたのは、俺の心配してのこと。
それがなくなった今、手を振って旅立って行ったような気がした。
部屋の中は静かで、泣き声だけが響く。
俺も泣きたいけど、でも涙が出てこない。
動かなくなったカモンを抱いたまま、じっと座り込んでいた。
     ワラビとモズク

勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜のイラストまとめ(9)

  • 2017.06.27 Tuesday
  • 11:50

JUGEMテーマ:イラスト

 

     屋根裏の侵略者 

 

 

 

     雪降るクリスマス

 

 

 

     春奈と春風(猫)

 

 

 

     たまき(本物)

命の楽園 田んぼ

  • 2017.06.27 Tuesday
  • 11:38

JUGEMテーマ:生き物

JUGEMテーマ:写真

 

   オタマジャクシ

 

 

 

   カイエビ

 

 

 

   ホウネンエビ

 

 

 

   ルリアリ

 

 

 

   ナマズの稚魚?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   カブトエビ

 

 

 

田んぼは命の楽園です。

実に様々な生き物がいます。

もっと田舎に行けば、ゲンゴロウやタガメもいるでしょう。

そういえばこの前「ダーウィンが来た!」てやっていたんですが、タガメってマムシを狩るんです。

大きな前脚でガッチリ捕まえて、口吻から毒を注いで仕留めていました。

自分より何倍も大きな相手なのに・・・。

さすがは田んぼ最強の昆虫です。

他にもカブトエビやホウネンエビ、それにデカいミジンコみたいなカイエビがいます。

コブナやカメ、ナマズ、メダカがいることもありますよ。

初夏の一時だけ拝める命の楽園。

水が抜かれたらみんないなくなります。

限られた時間の中を一生懸命生きているから、楽園のように輝くんですね。

 

勇気のボタン〜タヌキの恩返し〜 第六十三話 戻る者と旅立つ者(1)

  • 2017.06.27 Tuesday
  • 11:20

JUGEMテーマ:自作小説
俺の腕に、綺麗な白猫がいる。
流れるような毛並みと、雪のように美しい体毛。
尻尾はフリフリと揺れて、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
「イー・・・・・。」
ウットリした顔で呟く。
俺はギュッと抱きしめて、「ホワン」と言った。
「ごめんな、長い間一人ぼっちにしちゃって。寂しかったよな。」
頭を撫で、背中を撫で、喉をくすぐる。
ホワンはゴロゴロと喉を鳴らしながら、「会いたかった」と言った。
「ずっとずっと会いたかった。」
「うん。」
「またあの家に戻って、イーと一緒に暮らしたかった。」
「うん。」
「でもイーはどこにもいない。どこにもいなかった・・・・。」
目を開け、俺を見つめる。
「ずっとずっと寂しかった。こうして抱きしめてほしくても、思い出の中にイーがいるだけ。
だから私は捜した。きっとどこかにイーがいるはずだって。」
「だから会いに来たんだろ?生まれ変わった俺を見つけて。」
「・・・・嬉しかった。でも・・・・。会うのが怖かった・・・・。
素直になれなくて、猫神神社で再会した時も・・・・ひどいことをしてしまった・・・・。
だって私は・・・・悪い化け猫になってしまったから。」
ホワンは俺の腕から飛び降りて、人間に化ける。あの家にいた頃の姿に。
「イー・・・・ごめんなさい。私はずっと誤解していた。
イェンは素晴らしい人だった。彼女が来てくれたおかげで、あなたは短い間だけど幸せを手に入れた。」
「そんなことないよ。お前が傍にいてくれた間、俺はずっと幸せだった。
子猫の時に拾ってきてから、どれだけお前との時間が大事だったか・・・・。」
手を伸ばし、ギュッと抱きしめる。
「また戻って来てくれてよかった。ありがとう・・・ホワン。」
ポンポンと背中を撫でて、よしよしと頭を撫でる。
「イー・・・・・。」
ホワンは何度も「ごめんなさい」と呟く。
「イーの記憶を見て、私はとんでもない馬鹿だったんだって気づいた。
私は・・・なんてことをしてしまったんだろうって・・・・、」
「もういいんだよ。」
「イェンを殺してごめんなさい・・・・。傍を離れてごめんなさい・・・・。」
「いいよもう。こうして戻って来てくれた。それでいい。」
ギュっと抱きしめて、ホワンの目を見つめる。
「俺は駄目な飼い主だったな。お前だって苦しかったのに、何も出来なくて。」
「・・・・・・・・・。」
ホワンはしばらく甘えていた。
お尻からポンと尻尾が生えてきて、また猫に戻る。
「イー・・・・大好き。」
「うん。」
「ずっとずっとこうしていたい。」
「うん。」
「でも・・・・・私は行かなきゃ。」
「どこに?」
「ここじゃない世界。だってもう死んでるから。」
そう言ってニコリと笑った。
「祠の戦いの後、私は死んだ。遼斗から受けた傷が開いて、そのまま海の中に沈んで・・・・・。
でもどうしてもこれで終わりにしたくなかった。
だからまた会いに来たの。イーのことだけを考えて・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「強い執念のおかげで、死んだ後でもこの世にとどまった。
でもそれは・・・・間違いだった。
執念は怨念に変わって、私は悪魔のようになってしまった。
この世に留まる代わりに、化け猫ですらなくなっちゃったわ。」
可笑しそうに笑って、「もしあのままだったら・・・」と俯く。
「イーへの想いを遂げるどころか、あなたを殺していたかもしれない。
そして本当の悪魔になって、延々とこの世を彷徨っていたかも・・・・・。」
後悔するように首を振り、「でもそうならずにすんだ」と頷く。
「もう怨念はない。イーの記憶が、私を正気に戻してくれたから。」
俺の手から飛び降りて、じっと見つめる。
「ありがとう、イー。もう私を縛る物は何もない。」
「ホワン・・・・。」
「イェンへの誤解も解けたし、イーがどれだけ私を大事に想っていてくれたのかも分かった。
それに・・・・最後の最後で、また抱きしめてもらえた。
あのボロっちい家にいた頃みたいに、幸せな時間をもらえた・・・・・。」
ホワンはニコっと笑う。
背後に人間の姿が浮かび、同じように微笑む。
「あなたに拾ってもらえて本当によかった。一緒に暮らせて幸せだったわ。」
「待てホワン!まだ逝くな!」
俺は慌てて手を伸ばす。
でもその手はスルリとすり抜けてしまった。
「今のあなたは新しい人生を歩んでる。動物探偵、有川悠一として。
これからも、たくさんの動物を助けてあげて。」
ホワンはゆっくりと消えていく。
陽炎のように、幻影のように。
「さようなら、イー。」
「待てホワン!せっかく怨念が消えたのに、このまま終わりなんて・・・・、」
いくら手を伸ばしても、ホワンには届かない。
だんだんと薄くなっていて、この世から消えようとした。
《嫌だ!だってそんなの・・・・このままじゃホワンが可哀想過ぎる!》
胸が熱くなって、消えゆくホワンを掴もうとする。
・・・・するとその時、誰かが空から降ってきた。
真っ黒な着物を翻し、ホワンの前に立つ。
「たまき!」
俺に背中を向けたまま、じっとホワンを見つめる。
手を伸ばし、そっと抱き上げた。
「戻りましょ、一つに。」
消えかかったホワンを、強く抱きしめる。
するとパッと弾けて、たまきの中に吸い込まれていった。
「・・・・・・・・・。」
俺は呆気に取られる。
たまきは背中を向けたまま、ポンポンと自分の胸を叩いた。
「お帰り、もう一人の私。」
二つに分かれていたたまきが、今一つに戻った。
一瞬だけ紫に光って、大きな力を感じた。
たまきは振り向き、ニコリと笑う。
「悠一。」
「え?あ・・・・はい。」
たまきは射抜くような視線を向けてくる。
その顔は真剣そのもので、周りの空気まで針のように震えた。
「依頼を果たしてくれてありがとう。感謝します。」
ビシっと手足を揃え、深く頭を下げる。
「あ、いや・・・・・、」
「あなたに頼んでよかった。これで1000年の心配事が消えました。」
顔を上げ、真剣な目で見つめる。
その目はいつもと違う。
俺を叱る時、俺を諭す時、そして俺に勇気を与えてくれる時。
そのどれとも違った、今までにないまっすぐな目だった。
なんていうか・・・・そう、対等に見てくれているような・・・・そんな感じがした。
「見事な仕事ぶりでした。このお礼は必ずさせて頂きます。」
「い、いやいや!お礼なんてそんな・・・・。だって元はと言えば俺だって悪いわけだし・・・うん。
あの時もっとホワンの気持ちを考えてあげていれば・・・・、」
そう言いかけると、たまきは首を振った。
「今のあなたは有川悠一。イーではない。」
「でもイーは俺の前世で・・・・・、」
「前世は前世。例え魂が同じでも、生まれ変わったなら別の人間。」
たまきの声には迫力がある。
でもそれは俺に向けられた迫力ではなく、自分を戒めるものに聴こえた。
「私から生まれたもう一人の私。本来なら、私がケリを着けなければいけなかった。
なのに1000年もの間、アイツをほったらかしにしていた。いや、逃げていた・・・・。
そのせいで、生まれ変わったあなたにまで迷惑をかけてしまった。
本当に・・・・心からお詫び致します。」
そう言ってまた頭を下げる。
「その・・・・なんていうか・・・上手くいってよかったよ、うん。」
どう答えていいのか分からず、ポリポリ頭を掻く。
「あのさ・・・・ホワンはその・・・・救われたんだよな?」
そう尋ねると、たまきは少しだけ表情を動かした。
「あいつはお前の中に戻った。ということは・・・・救われたんだよな?
誤解も解けて、恨みも消えて、一つに戻ることが出来た。
だったら・・・・、」
そう言いかけると、たまきは俺の口を押さえた。
「むぐッ!」
「言ったはずよ、前世は前世。」
「・・・・・?」
「イー、イェン、ホワン、そして私・・・・この四人の因縁は、本当ならばあなたに関係のないことだった。
だから・・・・もう忘れて。」
「いや、でも気になるじゃないか。だってホワンは・・・・可哀想だった。
アイツはただ寂しかったんだ・・・・。居場所を失くして、大事な人も亡くして、長い間寂しがっていた。
だったら最後には救われてほしい!」
そう叫ぶと、たまきは「はあ〜・・・」と首を振った。
「ほんとに・・・・相変わらずのお人好しね、あんたは。」
いつもの顔に戻り、クスっと肩を竦める。
「前世のことなんて首を突っ込むことじゃないのに。」
「でも依頼したのはお前だぞ。」
「・・・・・そうね。偉そうなこと言える身じゃないわ。」
ちょっとだけ俯いて、「ごめんなさい」と言う。
「私のせいで、本当に苦労をかけてしまった・・・・。」
「いいんだよそんなのは。それより・・・・どうなんだ?ホワンは救われたんだよな?」
そう尋ねると、たまきは胸に手を当てた。
目を閉じ、じっと耳を澄ます。
「・・・・・・・・・。」
「たまき・・・・・?」
「・・・・・ありがとう・・・・。」
「え?」
「・・・・・それだけ聞こえたわ。」
「それだけって・・・ならもう消えちゃったのか?」
「いいえ、私の中に戻っただけ。これからはずっとここにいるわ。」
ポンポンと胸を叩いて、小さく微笑む。
「そうか・・・・。なら・・・・良かったんだよな?」
「これ以上ないくらいにね。」
「・・・・・・・・。」
「納得いかない?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど、でもやっぱり可哀想だったなあって・・・・。」
「そんなことはない。私は救われた。」
「え・・・・?」
「本人が言うんだから間違いないわ。」
そう言ってニコっと頷く。
「・・・・そうか、そうだよな。ホワンはお前なんだ。ならお前が言うなら間違いないよな。」
アイツが救われたなら、それでいい。
これでようやく1000年の孤独から解放されたんだから。
きっとたまきの中で喜んでるだろう。
「さて、これでようやく1000年越しの心配事が消えた。」
たまきはホッとしたように言う。ポンと俺の肩を叩いて、「お疲れ様」と笑った。
「これでもう立派な動物探偵ね。」
「いやあ・・・まだまだ食えないよ。もっと依頼が来ないことには。」
「それはこれからの頑張り次第よ。道はもう開けた。アンタは間違いなく一人立ちしたわ。」
そう言って「う〜ん・・・」と背伸びをした。
「これで私も楽になる。」
「楽?」
「だってアンタって戦友が出来たから。」
「戦友?」
「もう師弟じゃないわ。肩を並べる対等な存在。」
「いやいや!お前と対等だなんて、まだまだそんな・・・・、」
「困ったことがあったら、ちょくちょく依頼させてもらうわ。」
「い、依頼を!」
俺は飛び上がって喜ぶ。
「お前が俺を認めてくれるなんて・・・・・。しかも仕事までくれるなんて・・・・、」
「嬉しい?」
「当たり前だろ!師匠からお墨付きをもらったんだぞ!喜ばない弟子がいるか!」
ヒャッホウ!と叫んで、「やるどおおおおお!」と叫んだ。
「俺はやる!いまこそ我が人生が始まる時だ!」
ピョンピョン飛び回って、ガバっとたまきに抱きつく。
「ちょっと・・・・、」
「ホワン!見ててくれ!たまきの胸の中から、俺の頑張りを!」
そう言ってじっと見ていると、パチンとおでこを叩かれた。
「人の胸をガン見しない。」
「ご、ごめん・・・・。」
「それとも・・・そういうお礼を望んでるのかしら?」
「へ?」
「別にいいわよ。1000年越しの心配事を解決してもらったんだから。
アンタがそういうことを望むなら・・・・、」
胸元を開いて、色っぽい目で見つめてくる。
「・・・・・・ゴクリ。」
目が釘付けになるけど、《イカンイカン!》と首を振った。
《何を考えてるんだ俺は・・・・・。そんなことをするくらいだったら、前世でホワンと結ばれればよかったわけで、アホか俺は!》
ガツ!っと頭を殴り、自分を戒める。
たまきはクスクス笑って、「冗談よ」と言った。
「じょ、冗談・・・・?」
「あら?がっかりした?」
「いやいやいや!別にがっかりなんて・・・・、」
「気をつけなさいよアンタ。」
「はい・・・?」
「あんた婚約してるんだから、他の女に気を取られてどうするの。」
「と、取られてなんか・・・・、」
「エロい目えしてたじゃない。」
「それはまあ・・・・男の性というか、本意ではないにしろ、やっぱり反応しちゃうというか・・・・、」
「まだチラチラ見ちゃって。」
「いやいや!そんなことは・・・・、」
「人生に誘惑は付き物。浮気したらコマチさんに捨てられちゃうわよ。」
可笑しそうに笑って、胸元を戻す。
「それに彼女には怖いお父さんがいるはず。もしコマチさんを泣かせるような真似をしたら・・・・、」
「・・・・・・・・・。」
モズクさんの顔が思い浮かぶ。
あの迫力、鉄みたいな拳・・・・・もしマイちゃんを泣かすようなことがあれば、多分俺は殺されるだろう。
「ま、まあ・・・・俺はマイちゃん一筋だから、うん。」
バシっと頬を叩いて、エロくなった顔を戻す。
たまきはクスクスと笑った。
するとその時、遠くの空から「悠一く〜ん!」と声がした。
「なんだ?」
空を見上げると、大きな狐がこちらに迫っていた。
恐竜以上に大きくて、尻尾が七本もある。
「ウズメさん!」
風を纏いながら、空を走ってくる。
頭の上にはマサカリたちが乗っていた。
「おお!みんな!」
俺は手を振る。
ウズメさんは少し離れた場所に下りて、ギラっと牙を剥いた。
「そこの化け猫!悠一君から離れなさい!」
龍のような尻尾を動かしながら、怪獣みたいに吠える。
「ひいいいいいッ!」
俺は思わずたまきの後ろに隠れる。
「悠一君!今助けるからね!」
ウズメさんは「グウウオオオオオオ!」と飛びかかる。
でも途中でピタリと止まった。
「・・・・・・あれ?」
首をかしげながら、不思議そうにする。
「あんた・・・・・たまき?」
「ええ。」
「ならアイツは・・・・・・、」
「ここよ。」
たまきはトントンと胸を叩く。
「悠一が見事に解決してくれたわ。」
「そ、そうなの・・・・・・?」
「私たちは一つに戻り、無事解決。ね?」
「え?あ・・・・ああ!もう解決解決!」
俺はコクコクと頷く。
ウズメさんはしゅるしゅると萎んで、人間の姿になった。
「よかったあ〜・・・・心配したのよ!」
ダダっと駆け寄って、「よくやったわ!」と俺の肩を叩く。
「アイツの怨念を晴らすことに成功したのね!」
「ええ。でもそれは俺の前世のかげなんです。イーの想いが伝わったから・・・・、」
「何言ってんの!悠一君が頑張らなきゃ、その想いが伝わることもなかったでしょ。」
ウズメさんは「よかったよかった」とバンバン叩く。
「さすがはたまきの見込んだ男!やる時はやるわね。」
「あ、ありがとうございます・・・・。」
肩が痛い・・・・ていうか折れるよ!
ウズメさんはニコニコ笑いながら、たまきを振り向く。
「たまきい〜・・・・よかったあ無事で。」
目が潤んで、ギュッと抱きつく。
「あんたが大怪我したって聞いて、慌てて飛んできたのよ!」
「ごめんね、心配かけちゃって。」
「なんで私に言ってくれないのよ!」
「だってあんた忙しいじゃない。それにこれは私の問題だし。」
「もう!友達なのに水臭い。」
ツンとおでこをつついて、グスっと涙ぐんでいる。
そこへマサカリたちもやって来て、「悠一!」と叫んだ。
「無事だったかこの野郎!」
「心配だったのよ!これからは誰に餌を貰えばいいんだろうって・・・・。」
「ほんとだぜまったく。まあ俺はもうじき逝くから関係ないけど。」
「俺もミミズを獲るから関係ないけど。」
「ちょっとアンタ達!少しは心配そうな顔しなさいよ!・・・・・まあ私も餌のことは不安だったけど。」
動物たちは「よかったよかった」と肩を抱き合う。
「お前らな・・・・・・心配事は餌だけかよ!」
「当たり前だろバッキャロウ!俺は一日六食食わないと死んじまうんでい!」
「これはもう翔子さんの家にお世話になるしかないと思ったのよ。せめて私だけでも。」
「ならみんなまとめてお迎えに来てもらおうぜ!あの世は極楽一度はおいでってな。」
「行ったら戻って来れないだろ。俺はミミズが食えなくなるなんて嫌だぞ。」
「そういえば朝から何も食べてないわ。悠一、そろそろ餌にしない?」
「・・・・お前らな・・・・・。」
こいつらは頼りになるのかアホなのか分からない。
ツッコむのも面倒くさくなって、プイっとそっぽを向いた。
でも大事なことを思いだし、「お前ら!」と叫んだ。
「マイちゃんは!マイちゃんはどうなった!?」
彼女だけここに来ていない。
「マンションから投げ落とされてたけど、まさか・・・・、」
「無事よ。」
モンブランが答える。
「タヌキのおじさんが間一髪で助けたから。」
「そ、そうか・・・・よかった。」
「でも怪我をしてるから、おじさんと一緒に霊獣の世界へ帰ったわ。」
「また無理してたからな・・・・。」
自分の光に焼かれて、手足が崩れていた。
それでも俺を助けようと、必死に戦おうとして・・・・・。
「ウズメさん!」
まだたまきに抱きついているウズメさんを振り返り、「俺を霊獣の世界へ連れて行って下さい」と言った。
「マイちゃんが心配なんです。無理して大怪我を負ってたから・・・・。」
そう言うと、ウズメさんは「いいわよ」と頷いた。
「私も心配なの。一緒に行きましょ。」
ウズメさんはまた巨大な狐に化ける。
そして尻尾を向けて、「乗って」と言った。
「すぐに向こうまで運んであげる。」
「お願いします!」
俺は尻尾にしがみつく。
でも「ちょっと待って」と飛び降りた。
「どうしたの?」
「アレを持っていかないと。」
俺はゴソゴソと草村の中を探す。
「・・・・・あった!」
金印。
これがないと、マイちゃんは人間の世界で生きていけない。
「待ってろよマイちゃん。すぐに会いに行くからな。」
金印を首に駆け、ギュッと握り締める。
すると・・・・・
「あれ?なんで急に・・・・、」
金印から光が溢れる。
黄金色に輝いて、熱を帯びていく。
「なんだ?いったいどうなって・・・・・・って、なんじゃこりゃあああああ!」
金印は金印ではなくなっていた。
黄金の輝きは失われ、ただの鉄みたいになってしまった。
「なんで!どうして!?」
振っても叩いても元に戻らない。
もう一度握りしめても、もう光らなかった。
「そんな!これ・・・・どうなっちゃったんだ?なんで急にただの鉄みたいに・・・・。」
呆然としていると、たまきが手を伸ばしてきた。
金印を手に乗せ、「これ、力を失ってるわ」と言った。
「え?」
「もう何の霊力も感じない。」
「そんな・・・・・、」
俺は呆然とする。
だってこれがなければマイちゃんは・・・・、
「悠一君、とにかく行きましょう。コマチさんの元へ。」
ウズメさんは尻尾を伸ばす。
俺は金印を睨んだまま「クソ!」と叫んだ。
《どうしてこうなっちゃったんだ!これがないとマイちゃんは人間の世界にいられないのに。》
焦る気持ちを抱えながら、ウズメさんの尻尾を掴む。
すると頭の上に乗せられて、「しっかり掴まっててね」と言った。
・・・・次の瞬間、ウズメさんは弾丸のように駆け出した。
風を纏い、空を走る。
向かうはこがねの湯。
その近くにウズメさんの稲荷神社があるのだ。
ここを通れば、別の場所にワープ出来る。
離れた神社や、霊獣の世界に。
《マイちゃん・・・・すぐ行くからな!》
鋭い風を受けながら、光を失った金印を握りしめた。

 

 

 

     ホワン(たまき)

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