虫の戦争 第二十話 未知のウィルス(2)

  • 2017.11.30 Thursday
  • 15:07

JUGEMテーマ:自作小説

生き物が進化する理由。
それは変わっていく環境に適応する為だ。
どんな場所でも、常に同じ状況ということはない。
最適だと思っていたデザイン、機能。
そんなものは、環境が変われば途端に通用しなくなる。
しかし生き物が進化するのには、もう一つ理由がある。
それは病気に対抗する為。
例えば血統書の付いている犬よりも、雑種の方が病気にかかりにくい。
人間の場合でも、近親交配を繰り返せば、奇形児が生まれる確率だけでなく、病気に対する抵抗力も衰えるのだ。
異なる血を混ぜることで、今までにない力を得る。
そうすることで、恐ろしい細菌やウィルスに打ち勝つことが出来るのだ。
今日、人類にとって未知のウィルスがばら撒かれた。
隕石に乗ってやってきた、宇宙からのウィルスだ。
人間が感染した場合の致死率は99.9%。
感染力も強く、小さな町なら一日で飲み込んでしまう。
アビーたちは、そんな恐ろしいウィルスを体内に宿していた。
中核都市の空に舞いながら、眼下を歩く人間たちを睨む。
「ムー、ちょっとしんどくなってきたわ・・・・。」
「俺も・・・・もう長くないみたいだ。」
隕石に触れてしまった為に、アビーたちの身体も蝕まれていく。
目眩、吐き気、そして脱力感。
気がつけば、関節の隙間から体液が漏れていた。
神経や血液が破壊されているのだ。
あと一時間もしないうちに、この世を去ってしまうだろう。
「私たちはまた復活できる。でも人間はそうはいかないわ・・・・。」
アビーは「みんな!」と叫ぶ。
「このウィルスを使って、人間たちを絶滅させてやるのよ。次に生まれ変わる頃、きっと人間はいなくなってるはずだわ。」
ムー、ナギサ、マー君。
みんなが頷き、街ゆく人間に目を向けた。
髪を赤く染めたおばちゃん。
何に怒っているのか知らないが、怒っていないと不安になる病気にでもかかっているような顔をして歩いている。
「あのメス猿は無防備ね・・・・・。私はアイツを狙うわ。」
そう言ってお尻の毒針を伸ばす。
「じゃあ俺はあっちの奴を。」
ムーはハゲ散らかした爺さんを狙う。
「じゃあ・・・・私はアイツ!」
ナギサは小学生くらいの子供に目を付ける。
マー君は「僕はアイツだ!」と、交番の前に立っている警官を睨んだ。
「それぞれターゲットは決まったわね・・・・。」
「いよいよ人間に鉄槌を下す時が来たんだ・・・・。」
「次にこの世に戻ってきたら、虫の世界が広がってるのね・・・・。」
「地球は僕らの楽園になるんだ。もう猿モドキの思い通りになんかさせるもんか・・・・。」
死ぬほど辛いのに、気持ちだけは燃え上がる。
アビーはみんなを見渡し、「じゃあ・・・また」と笑う。
目をつけたおばちゃんに向かっていき、毒針を突き刺した。
「痛ッ・・・・・・、」
首元にチクリと電気が走る。
今、毒針を通してウィルスが送り込まれた。
それと同時にアビーは力尽きる。
ポトリと地面に落ちて、道行く人に踏み潰されてしまった。
「俺も行くぜ・・・・。」
ムー、ナギサ、そしてマー君。
みんなそれぞれの獲物に特攻する。
ムーは爺さんの口の中に飛び込んだ。
ビックリした爺さんは思わず口を閉じてしまうが、そのせいでムーを噛み潰してしまった。
ブチュっと身体が潰れて、ウィルスまみれの体液が溢れる。
ナギサは子供の前に飛んでいき、ニコリと手を振った。
「なにこれ!カワイイ!」
喜ぶ子供。そっと手の平に乗せた。
しかしナギサの羽には、ウィルスの付着した鱗粉がついている。
それは子供の手を侵し、瞬く間に体内に入り込んでいった。
ナギサはニヤリと笑い、そのまま力尽きる。
排水溝へ落っこちて、どこかへ流されていった。
マー君は警官の背後に回り、気配を殺して近づいた。
暇なのか、大きな欠伸をしている。
その瞬間、口の中へと特攻した。
「むがッ・・・・、」
警官は慌てて取り出そうとする。
しかしマー君は奥歯にしがみつく。
警官は無理にそれを引っぱり出そうとしたもんだから、脚をちぎってしまった。
切断された脚の付け根から、ウィルスの宿った体液が滲み出す。
それと同時にマー君は引っこ抜かれ、警官に踏み潰された。
アビー、ムー、ナギサ、マー君。
みんなこの世を去ってしまう。
しかし作戦は大成功。
宇宙からやってきた未知のウィルスは、すべてのターゲットの中に入り込んだ。
・・・・・それから5日後、この街は封鎖された。
前代未聞の感染症・・・・人が死ぬほどの病気が広がって、街はほとんどの機能を停止するまでに至った。
その原因は未知のウィルス。
誰も見たことのない微生物のせいで、日本は一気に混乱してしまった。
この街へ繋がる道は、警察と自衛隊によって塞がれる。
すでに7000人以上の死者が出て、今もなお犠牲者は増え続けている。
そうなれば当然逃げようとする者が現れる。
それと同時に、内部の状況を探ろうと、メディアの人間が潜入を試みた。
制止してもキリがないので、政府はやむなくこんな決断を下した。
「無許可で出入りする者に対しては、射殺もやむなし。」
もしも外にウィルスが漏れたら、死者が増えるだけ。
非情な決断ではあるが、全ては被害の拡大を防ぐ為だった。
脱走者と侵入者、合わせて5名が射殺された。
あまりの殺傷力、あまりの感染力。
射殺された者がいるというニュースが流れても、大きな反論は起きなかった。
それよりも、何がなんでも被害の拡大を防いでくれとの声がほとんどで、中には核を落としてもいいから街ごと潰すべきだという意見もあった。
専門家によって、ウィルスの解明、そしてワクチンの開発が急がれているが、何もできずに死者だけが増えていく。
やがて海外にもニュースが流れて、ウィルスに対する恐怖は、世界中へと拡散していった。
そして感染から10日後、アメリカやフランスなど、複数の国で作った合同チームが、街へやって来た。
この時点で、街の生き残りは1500人ほど。
60万人もいた街の人たちは、そのほとんどがこの世を去ってしまっていた。
・・・・脳だけを綺麗に残して。
突然現れた未知のウィルス。
ありえない殺傷力と感染力と、脳だけが残るという奇怪な特徴。
優秀な専門家を集めた国際チームでさえ、まったくわけがわからずに悩むばかりだった。
宿主の特定も出来ず、ウィルスの解明も進まず、当然ワクチンなど作れるはずもない。
そして感染から二週間後、とうとう恐れていた事態が起きてしまった。
なんと隣の町、そして二つ離れた街でも感染者が出たのだ。
ウィルスは人間の囲いを飛び出して、勢力を拡大しようとしていた。
致死率は99.9%。
感染すればまず助からない。
このままでは日本だけでなく、他の国へ飛び火しておかしくなかった。
感染初期に挙がっていた、核を使ってでも拡大を止めるべきという意見。
それがだんだんと現実味を帯びてくる。
もちろん反対意見も多数ある。
核を使えばウィルスどころの騒ぎではないと。
しかし未知のウィルスは、明らかに核以上の脅威だった。
圧倒的な致死率と感染力は、人が作ったいかなる兵器をも凌ぐのだから。
ならば核の次に強力な気化爆弾はどうか?という意見が挙がった。
挙がったが・・・やるなら確実な方がいい。
国民には知らされない秘密裏の話し合いで、核使用の方向へと突き進んでいた。
すでに核弾頭を搭載した米潜水艦が、街から最も近い海に潜っている。
核が搭載可能な爆撃機も、いつでも出撃できるように控えていた。
未知のウィルスが相手といえど、核で街を焼き払うのは、誰でも抵抗がある。
しかしそうしないといけない状況は、すぐそこまで迫っていたのだ。
もはや世論がどうのと言っていられない。
人道的な問題はあっても、地球人類をウィルスから守る方が優先である。
感染から20日後、最初に感染者が出た街は、全ての人がウィルスによって亡くなった。
そして新たに感染が確認された街は、あれから2つも増えていた。
もはや日本だけの問題ではない。
これ以上の死者を出さない為、そして他国への拡大を防ぐ為に、大きな決断をせざるを得なかった。
・・・・感染から一ヶ月後、一つの街が灼熱に包まれた。
その半日後には、別の街の空にも、業火の閃光が炸裂した。
落とされた核爆弾は、全部で五発。
熱で対象物を焼き払う水爆だ。
原子爆弾を超えるその熱は、光が走るのと同時に、ほとんどの物が蒸発してしまう。
ウィルスはもちろんのこと、建物も、草木も、そして人間も。
後に残るのはまっさらな大地だけ。
感染が確認された五つの街すべてが、地上から消え去った。
しかし脅威は終わらない。
目に見えないウィルスは、着々と侵略を進めていく。
核爆弾の投下から一週間後、タイや中国でも感染者が現れたのだ。
その一ヶ月後には、ヨーロッパや中東、アメリカにも拡大していた。
理由は簡単で、街の封鎖を脱出した外国人が、祖国へ帰ってしまった為だ。
いったん外へ飛び火したウィルスは、もはや誰にも止められない。
未だウィルスの解析が終わらず、ワクチンも作れない。
全世界に飛び火した今となっては、核で焼き払うことも不可能だ。
・・・・このままでは人類が絶滅してしまう。
頭を悩ます人間たち。
恐怖と絶望と、いつかワクチンが出来るはずという僅かな希望。
暗い中に射す些細な光を信じて、どうか自分や家族には感染しないようにと、ただ祈るしかなかった。
・・・・感染から半年後、人類の数は三分の一にまで激減してしまった。
中には国を維持できない国もあったり、経済の麻痺で暴動が起きる国もあった。
しかしすべての人間が諦めたわけではない。
非常事態、必ずそれに立ち向かう者が現れるのだ。
大して有名でもない大学の昆虫学者が、コツコツと研究を続けていた。
学者としては誰にも見向きされず、家に帰れば「役たたず」と妻に罵られ、「昆虫オタク」と娘に敬遠される切ないおじさんだが、それでも研究を続けていた。
その結果、ある事を発見したのだ。
昆虫がこのウィルスに感染した場合、奇妙な進化が起きるのだ。
このウィルスにかかった昆虫は、僅か一ヶ月で進化の兆候が現れる。
例えばハチが感染した場合、100匹いたとしたら、80匹は二時間以内に死んでしまう。
残りの15匹は一日後に死んで、残った5匹は10日程度でウィルスに耐性を得てしまう。
人間が成す術がないこの悪魔に、わずか10日で打ち勝ってしまうのだ。
しかしそれで終わりではない。
体内にウィルスを取り込んだ昆虫は、ある部分が急速に進化していくのだ。
それは脳。
正確には脳に似た神経の集まりが、瞬く間に肥大化していく。
虫には人間のような脳はない。
それと似た神経の集まりがあるだけだ。
その部分が、人間の脳のように変化していき、やがて本物の脳へと変わってしまう。
ここまで来ると、ウィルスはなぜか死滅してしまう。
そして一度肥大化を始めた脳は、特殊なホルモンを分泌して、肉体にも変化をもたらす。
感染から一ヶ月後、六本ある脚のうち、二本が退化してしまう。
頭、胸、腹と三つに分かれていた体節は、関節部分が補強され、一つの塊へと変化する。
最終的には、人間と虫を混ぜたような、奇妙な生き物へと進化を遂げるのだ。
「・・・・・妖精?」
学者は信じられない思い出それを眺める。
おとぎ話に出てくるような、愛らしくも、どこか虫に似たあの生き物。
今までの実験で、すでに四匹の妖精らしき生き物が誕生した。
しかし一分ほどで姿を消してしまう。
まるで手品にかかったように、忽然と消え去ってしまうのだ。
「・・・・・どうなってる?」
何度も実験を繰り返しては、その様子を映像に収める。
だが何も映ってはいなかった。
肉眼では確認出来るのに、カメラには記録されないのだ。
学者は眠るのも忘れるほど興奮し、知り合いの学者にこの話をした。
研究室まで連れて行き、実際に妖精誕生の現場を目撃させた。
「なんだこりゃ?」
友人の学者も、開いた口がふさがらない。
虫が人間のような脳を獲得し、妖精に似た生き物になる。
いったい誰がこんな話を信じよう?
何匹も誕生させては、消えていく妖精を捕まえようとした。
しかし・・・・無理だった。
煙のように消え去ってしまうので、捕獲も飼育も無理。
無理だったが・・・・一つだけ消えないものがあった。
一匹のアリで実験をした時、消え去ってしまう前に、宝石のような美しい結晶を残したのだ。
「これは・・・?」
「さあ?」
「昆虫はすぐにウィルスへの耐性を獲得した。もしこの結晶が妖精の中から出てきたものだとしたら・・・・、」
「ワクチンが作れると?」
「可能性はある。」
二人は国際チームのメンバーを呼び寄せて、目の前で妖精誕生の実験をしてみせた。
虫が進化し、妖精・・・らしき生き物になる。
どう受け止めていいのか分からない現象に、誰もが呆気に取られ、ただ立ち尽くす。
二人の学者は結晶を差し出して、これを元にワクチンを作れないかと提案した。
こんな実験を見せられては、誰もNOとは言えない。
ただでさえ打つ手がない中、藁をもすがる思いで研究を始めた。
・・・・それからわずか六日後、ワクチンの開発に成功した。
あの結晶は、半分は地球の虫や植物の成分、もう半分は未知の成分で出来ていた。
これを湯に入れると、一瞬で溶けてしまう。
その結晶入りの溶液を、注射で昆虫に打ち込む。
昆虫は最初のうちは苦しむが、ものの数分で元気を取り戻す。
その虫にまた注射を刺し、体液を抜き取る。
たったこれだけでワクチンの完成だ。
未知の成分は謎のままだし、どうしてこれでワクチンが作れるのかは分からない。
分からないが、どこからかやってきた蛍を思わせるような女が、あの二人の学者にワクチンの生成法を伝えていったのだ。
地球人類の数は、三分の一にまで減ってしまった。
今でも感染者が増えているし、死者も増加の一途。
しかしワクチンができたとあれば、もう恐れる必要はない。
人類は絶滅してしまうのか?
いや、必ずワクチンが出来るはずだ。
暗い中で抱いていた僅かな希望は、人類滅亡より先にやってきた。
・・・この日を境に、大量のワクチンが生成されて、多くの命を救った。
人間だけではない。
植物、魚、トカゲや鳥や猿。
地球に住むあらゆる生き物は、絶滅を免れることが出来た。
人間としても、こんなウィルスは一匹たりとも残しておきたくない。
ワクチンは注射でも有効だが、農薬のように散布して使えば、予防にも役立つことが分かった。
ありとあらゆる場所に薬が散布され、徹底的にウィルスを駆逐していった。
宇宙から飛来した未知のウィルス。
ようやく人類は打ち勝つことが出来た。
人間を、この星の生き物たちを、自らの手で守ることに成功したのだ。
しかし二人の学者はふと思う。
突然現れ、ワクチンの生成法を伝えていったあの女。
もちろん人間ではあったが、どこか蛍のような雰囲気をまとっていて、人間とは違う神秘的な生き物に思えた。
あれはいったい誰だったのか?
名前も連絡先も全てがデタラメで、探る手がかりはない。
彼女の正体は、今となっては知る由もなかった。
人類を激減させるほどの恐怖のウィルス。
それを乗り越えたのだから、今はよしとするかと、勝利の喜びに浸ることにした。
人類未曾有の流行病は、半年と少しで幕を閉じたのだった。
しかし問題は残る。
あのウィルスはいったいなんだったのか?
どこから来て、どの生き物を宿主としているのか?
そしてあのウィルスに感染した虫は、どうして妖精のように進化するのか?
妖精が生み出す結晶は、どうしてウィルスを駆逐する薬になるのか?
すでにウィルスは絶滅した。
したが・・・・それは自然界での話。
人間は未知のものを完全に滅ぼしたりはしない。
危険なオモチャにほど惹かれるのが人間ならば、一つ残らず駆逐することはあり得ない。
しかるべき機関で、密かに研究が続けられている。
だがそれも束の間のこと。
ウィルスの脅威が去ってから一年後、日本で不思議な子供が生まれた。
その子は通常の乳児の10分の一の大きさで、体重は200gしかない。
目は虫の複眼のように大きく、手足には鋭い毛が生えていた。
背中には四つの膨らみがあり、しばらくすると翅のような物が生えてきた。
医者も親も驚いたが、もっと衝撃的なことが起きていた。
なんと虫の中からも、同じような生き物が出現し始めたのだ。
それはあの昆虫学者が発見した、妖精のような生き物にそっくりだった。
人から生まれる、虫に似た人間。
虫から生まれる、人間に似た虫。
どちらも非常に妖精に似ている。
そして日に日にその数は増えていった。
最初は奇形児と考えられていた、虫に似た子供。
今では世界中で生まれて、何十万人という数になっている。
虫も同じだ。
妖精みたいな可愛らしい虫が、あちこちで誕生するようになった。
ハチ、アリ、バッタ、それにクモやムカデの中からも。
それぞれの虫の特徴を残した、神話の中の生き物が溢れかえった。
これはいったいどういうことか?
鍵はきっとあのウィルスが握っている
人間たちは徹底的に未知のウィルスを調べたが、やはり詳しいことは分からない。
しかし一つだけ判明したことがあった。
これは地球上のものではないということ。
遺伝子解析の結果、地球上のどの生き物にも見られないDNAが見つかったのだ。
そのDNAがどんな意味を持っていて、どういう働きをするのかは分からない。
しかし地球上のものではないことは確か。
研究者たちはますます頭を悩ませ、それと同時に「良いオモチャを手に入れた!」と喜んだ。
真実を解明するのが楽しいのではない。
こういうオモチャを手に入れた時、答えにたどり着くまで弄るのが楽しいのだ。
未知なる部分には何があるのか?
人間の好奇は尽きない。
世間の人々は妖精のような生き物が増えることに戸惑いを覚え、学者はオモチャの研究に没頭する。
商人はこれをどう儲けに活かそうか考え、政治家は次の選挙での利用を考える。
人間の世界にも、自然の世界にも、大きな変化が起きているというのに、人間のやることは相変わらずだ。
変化の波は着実に押し寄せている。
増え続ける妖精のような生き物。
人の中から、虫の中から。
それはすなわち、人と虫の境目がなくなりつつあるということ。
・・・かつて蛍子は危惧した。
未知のウィルスの到来は、この星に今までにない変化をもたらすと。
そして最後は乗っ取られてしまうと。
その憂いは足音と共に近づいていた。

 

漫画「ARMS」の強さの順番

  • 2017.11.30 Thursday
  • 15:05

JUGEMテーマ:漫画/アニメ

何度かこのブログでも書いたことがありますが、皆川亮二宇先生の「ARMS」って漫画が好きなんですよ。
少年漫画バトルアクションの王道をいく内容なんですが、まったくブレないその王道ぶりは、皆川先生の魅力です。
ある意味これほど少年漫画らしい少年漫画はないかしれません。
小難しい展開はなく、とても分かりやすい話と展開も、少年漫画としては最高です。
それになんといってもアクションを描く画力の高さ。
とくに戦闘シーンの演出は最高です。
さて、少年漫画といえば気になるのが、「誰が一番強いのか?」です。
ARMSにはたくさんの超人たちが出てきます。
超能力部隊、強化人間、サイボーグ部隊などなど。
中にはコウ・カルナギのような、元々が化け物のように強い奴もいたり。
ジェームズ・ホワンなんか素の状態でもめちゃくちゃ強いです。
空間転移に遠隔透視に、挙句の果てにはARMS適正因子まで持ってるって・・・ちょっと反則です。
でもそれに勝ってしまう通りすがりの某サラリーマンはもっと最強ですけど。
あとそのサラリーマンの奥さんも。
この二人がARMSを宿していたら、多分一巻もかからないうちに終わっていたでしょう。
ただそうなると序盤からスーパーサイヤ人3になれるほどの強さなので、やってはいけない反則技です。
史上最強の弟子ケンイチに例えるなら、全て長老が戦うみたいな展開になってしまいますから。
色んな部隊やキャラクターがいる中、やはり最強なのはARMSです。
大きく分けると三つのARMSがいます。
主人公たちが宿しているオリジナルARMS。
キースシリーズが宿しているアドバンストARMS。
そして終盤に出てきたモデュレイテッドARMSです。
それぞれのメリットとデメリットとしてはこうです。
オリジナル:他のどのARMSよりも進化の可能性を秘めている。
ARMSの超再生能力を無効化する「ARMS殺し」を持つ為、対ARMSの戦いでは有利。
自我があるので、宿主が瀕死の状態になると勝手に戦ってくれる。
ただし自我があるせいで、宿主の言うことを聞かず、意に反した戦いを強いられることもある。
未知数な部分が多く、完全なコントロールは至難の業。
アドバンスト:オリジナルよりも戦闘に特化した高度なARMSであり、自我がないのでコントロールが容易。
世界中から特殊な遺伝子を持つ人間を集め、その能力を付加しているので、オリジナルにはない強力な攻撃が可能。
再生能力が半端ではなく、ARMS殺しを使わないと仕留めるのは困難。
ただしオリジナルほどの進化の可能性はない。
その為、能力が通用しなくなると途端に劣勢になる。
モデュレイテッド:量産型のARMS。大量生産が可能なので、兵隊の強化に有効。
ただし完全体になると二度と元に戻れなくなる。
オリジナルやアドバンストほど強力な力は備えていない。
ざっと書くとこんな感じです。
まずモデュレイテッドは最強候補からは除外です。
力はオリジナルやアドバンストに及ばず、完全体になると二度と戻れないっていうのも大きな欠点です。
ホワンだけが例外的に強かったですが(このキャラもモデュレイテッド)、あれはホワン自身が元々強力な力を備えていたからです。
もしホワンがオリジナルかアドバンストを宿していたらと思うと・・・・下手すると通りすがりのサラリーマンでさえ負けていた可能性もあると思います。
なら最強はオリジナルかアドバンストということになります。
オリジナルは全部で四体。
まずはジャバウォック。
どのARMSよりも進化の可能性を秘めていて、作中でもとんでもない速さで進化していました。
またすぐに耐性が出来てしまう為、下手な攻撃はジャバウォックを強化させてしまうだけ。
それに両手の爪にはARMS殺しを宿しており、これで引き裂かれると二度と再生しなくなります。
ていうかこの爪、空間の断裂を引き裂くわ、サラリーマンの手でビームサーベルに変わるわで、作中最強の武器なんじゃないかと思うほどです。
そしてもう一つ忘れてはならないのが「反物質砲」です。
核すら凌ぐその威力は、握りこぶし大の砲弾で世界を崩壊させる威力。
作中ではマッドハッターを倒す時に使われました。
全てのARMSの中で、最も危険な奴といえるでしょう。
次はナイトです。
その名の通り、中世の騎士のような出で立ちをしています。
左腕には盾とブレード、右腕には「ミストルティンの槍」を備えています。
ブレードはARMSの中でも最強の硬度を誇るらしいですが、作中ではポキポキ折られていました。
ナイトは盾と鎧に覆われた重武装なのに、その硬度が役に立たないとなると・・・・なかなか不憫です。
ただしミストルティンの槍は強いです。
キースレッドの超振動ですら凌駕するほどの振動を放ち、さらにはARMS殺しまで備えています。
序盤、あれだけ強かったキースレッドをあっさりと葬ってしまいましたからね。
まあそれもそのはず、ナイトの役目はジャバウォックに対するカウンターですから、それだけ強くないといけません。
弱点はあまり動きが速くないことです。
宿主の隼人からも「お前はちょっと鈍いんだよ!」と言われていました。
次はホワイトラビット。
全ARMS中最速です。
本気を出せば軽くマッハを超え、さらにはかまいたちのような衝撃波で、サイボーグ部隊を切り裂いていました。
速さ以外に目立った特徴はないんですが、その強さはかなりのもの。
なぜならこいつもジャバウォックに対するカウンターとして生まれたからです。
速いってのはそれだけで大きなメリットなので、作中ではかなり活躍していました。
もしかしたらホワイトラビットもARMS殺しを持っていた可能性があるかもしれません。
次にクイーンオブハート。
光り輝くエネルギー体のARMSです。
遠隔透視能力を持ち、そして強力なフィールドを形成することでバリアを張れます。
そのバリアは敵の攻撃をそのまま跳ね返すほと強力ですが、それ以外に攻撃手段を持たないARMSです。
しかしクイーンには他のどのARMSにもない最強の技があります。
それは全てのARMSのプログラムを停止させる技。
クイーンは「審判者」という立場なので、宿主の恵が「滅べ」と念じれば、全てのARMSは機能を停止します。
しかしそんなことをすれば仲間のARMSまで巻き込んでしまうので、作中で使われることはありませんでした。
オリジナルは以上の四体です。
次はアドバンスト。こちらは全部で六体います。
まずはハンプティダンプティ。
このARMSはジャミラそっくりの真っ黒な姿をしています。
なぜなら自身を特殊なフィールドで覆っているから。
クイーンのフィールドが敵の攻撃を跳ね返すのに対し、ハンプティダンプティは敵の攻撃を吸収し、無効化してしまいます。
さらに一度受けたARMSの攻撃は、自分も使えるようになるというチート仕様。
最終的にはクイーン、ホワイトラビットを除くすべてのARMSの攻撃が使えるようになっていました。
(グリフォンの攻撃は不明ですが)
次はマッドハッター。
やたらと長い手足をしていて、髑髏のような恐ろしい形相をしています。
このARMSの目的は破壊です。
その長い腕から、荷電粒子砲というビームを放ちます。
数万度にも達する熱と、何キロも先まで届く射程。
その威力はすさまじく、深い地下室から岩盤を貫いて、地表まで届くほどです。
ただし作中ではあまり良い結果は残せずでした。
というのも対戦相手がジャバウォック、それも二回も。
破壊者としてはジャバウォックの方が上位に位置し、さらには相性も悪かったと思います。
ジャバもマッドハッターも熱を用いた攻撃が得意ですが、そのパワーはジャバの方が上です。
自慢のビームも吸収されて、反物質砲として撃ち返されてしまいました。
タイマンよりも、敵の殲滅や都市の破壊に向いているARMSではないかと思います。
いわば戦略兵器のような役割です。
次はマーチヘア。
このARMSは全身が光学兵器と化しており、自在にレーザーを放ったり、ステルスで姿を消すことが可能です。
さらにはナノマシンを散布することで、リアルな幻影を生み出すことも可能。
その際はあらゆる方角から目標に向けてレーザーを放つことが出来ます。
非常に強力なARMSですが、ナイトの蹴り一発で腕を砕かれていたので、装甲が脆いのが弱点です。
次はチェシャキャット。
人型の多いARMSの中、唯一四足歩行の動物型の姿をしています。
能力はとても強力で、空間に干渉することが出来ます。
そのおかげでどこへでもワープできるし、敵の攻撃を回避することも朝飯前です。
さらには空間に裂け目を作って飛ばすことで、どんな物体でも切断可能な攻撃を繰り出します。
大きな尻尾を振れば、360度へ向けて無数の空間の断裂を飛ばすことも可能。
宿主がグリーンではなくホワンだったら、ほぼ無敵と化したARMSではないかと思うほど強いです。
次はグリフォン。
両腕にブレードを持ち、超振動によってどんなに硬い物でも切断してしまいます。
ていうかグリフォンそのものが超振動兵器であり、例え両腕のブレードを失っても、全身から超音波攻撃を出すことが出来ます。
再生能力は極めて高く、人間状態のままでも、銃で頭を撃たれても瞬く間に再生してしまうほどです。
次はドーマウス。
宿主が完全にARMSに適応できなかった為に欠陥品とされていました。
しかしその戦闘力はなかなかのものです。
両腕から無数の針を飛ばし、刺さった後に爆発します。
おそらくですが、その気になれば全身から針を飛ばすことも出来るでしょう。
ドーマウスの能力を取りこんだハンプティダンプティは、隠れる敵に対してそうしていました。
威力こそは他のARMSの攻撃に劣るかもしれませんが、広範囲への攻撃という意味ならば、一番効率的かもしれません。
キースホワイトからも「欠陥品にしては実戦的な力だ」と言われていました。
以上がアドバンストARMSです。
この中で最強のARMSは誰か?
対ARMSという意味なら、私はクイーンだと思います。
宿主が「滅べ」と念じれば、全てのARMSが消滅するわけですから。
巨大ジャバウォックだろうがハンプティダンプティだろうが、クイーンの審判の前には無力です。
ただし仲間さえも殺してしまう技なので、実用性はとても低く、先に描いたように、宿主の恵は使用しませんでした。
(正確には判断への重圧が大きすぎて、気を失ってしまいました)
なのでどんな敵にも遅れを取らないという意味ならば、ジャバウォックかハンプティダンプティになるでしょう。
ではどちらが強いかとなると、私はジャバだと思います。
戦いの度に進化を続け、さらには反物質砲という核以上の攻撃が可能。
そして空間の断裂や念動力さえも切り裂き、ARMS殺しまで宿した爪。
この力の前ではハンプティダンプティも分が悪いと思います。
なんでも吸収するブラックホールのようなフィールドも、ドーマウスの自爆によってダメージを受けていました。
ということは、あのフィールドには限界があるということです。
ドーマウスの自爆でダメージを受けるなら、とてもじゃないけど反物質砲を無効化できるとは思えません。
ていうか本気になったジャバの爪なら、フィールドごとハンプティダンプティを切り裂いてしまいそうです。
なので一位はジャバウォック。
二位がハンプティダンプティ。
三位はクイーンオブハートかなと思います。
念じればすべてのARMS(自分も含めて)を抹殺可能というのは、やはり強力です。
ただしARMS以外には効かない技なので三位としました。
四位はチェシャキャット。
宿主がグリーン坊やなので、甘さに付け込まれてホワンに負けていましたが、それはグリーンの未熟さえ故。
もしグリーンが歴戦の戦士だったら?宿主がホワンだったら?
ジャバウォックやハンプティダンプティ以外には負けないでしょう。
五位はナイト。
他のARMSに比べてやや不遇な能力ですが、最終的にはビームの槍に進化しました。
グルグル回せばビームシールドみたいになるし、振り回して突進するだけで敵をなぎ倒せます。
そして何よりARMS殺しを持っているので、対ARMSにおいては強いです。
六位はホワイトラビット。
速さ以外に取り柄がありませんが、その速さが半端ではありません。
音速で動き回って戦えるって、かなり強いですよ。
隼人かあのサラリーマンみたいに「水の心」が使えないと、動きを捉えることすら困難です。
それに作中での戦いを見る限り、意外と頑丈なのではないかと思います。
いくら海中とはいえ中性子爆弾の爆発を受けて生きていたし、最終戦ではモデュレイテッドの自爆を受けても致命傷にはなっていませんでした。
スピードを生かして体当たりが武器なので、ナイトの次に頑丈だったりするかもしれません。
となるとやはり強いです。
攻撃は当たらないだろうし、かわせないほどのスピードで突っ込んでくるわけだし。
例えるなら戦車の強度を持った戦闘機が、白兵戦を行うようなものです。
七位はタイでマッドハッターとマーチヘア。
もし両者が戦えば、最初はマーチヘアが圧倒するでしょう。
ナノマシンの散布で幻影を作り、あらゆる方向からレーザーを照射すれば、マッドハッターにかわす術はありません。
空間転移も使えない、ARMS殺しも持っていないのであれば、かわすこともナノマシンの散布を無効化することも不可能ですから。
ただしマッドハッターは追い込まれた時が怖いです。
熱を蓄え、全身が白熱化するほどの高温になります。
こうなればマーチヘアの散布したナノマシンは蒸発するだろうし、近づくことすらできなくなります。
ジャバウォック以上に高温になったマッドハッターに、どこまでレーザーが有効かも疑問です。
それにマーチヘアは防御力が低く、一発でも荷電粒子砲を喰らえばアウト、ていうか掠っただけでもヤバいでしょう。
最終的にはマッドハッターが勝利すると思いますが、自分もメルトダウンを起こして蒸発するだろうから、相討ちになるかと思います。
九位はドーマウス。
地味な印象のあるARMSですが、全身から針を飛ばす「魔弾タスラム」は強いです。
完全体のARMSに致命傷を与えられるかどうかは分かりませんが、連続で食らわせればどうにかなるかも。
ただしドーマウス自身が取り立てて頑丈でもなければ動きが速いわけでもなく、パワーがあるようにも見えません。
敵兵を一掃するとか、隠れた相手をあぶりだすには持ってこいの能力だけど、対ARMSとなるとやや弱いかなと思います。
十位はグリフォン。
デザインだけなら全ARMSの中で一、二を争うほどカッコいいです。
だけど強さとなると・・・・・。
確かに超振動は強い武器だけど、終盤では超振動を使うサイボーグも出てきました。
マーチヘアと同じくレーザーを使う敵も出てきましたが、マーチヘアは幻影+ステルス+多角的なレーザー攻撃が可能なので、サイボーグでは敵いません。
しかしグリフォンは・・・果たして超振動を使うサイボーグ部隊、ネクストに勝る部分があるかと聞かれると・・・・難しいです。
おそらくですけど、ネクストの前ではグリフォンはやられてしまうんじゃないかと思います。
いくらグリフォンに凄まじい再生能力があっても、ネクストから総がかりで攻撃を受けたら、きっと再生が間に合わないでしょう。
超振動を打ち返しても、互いに相殺するだけ。
その隙にネクストの隊長であるヒューイが撃ったレーザーでやられるか、ネクストの完璧なコンビネーションの前に成す術がないか。
残念だけど、グリフォンはARMSの中ではかなり不遇だと思います。
・・・・ちなみにラストの方では、バンダースナッチというジャバウォックの亜種が出てきます。
真っ白なジャバウォックの姿で、冷却系の攻撃を得意としています。
いちおうラスボスの位置づけなんですが、どうもこいつからは強さを感じなかったというか・・・・。
ジャバウォックもそうダメージを受けずに勝っていたようにも思うし。
なのでランキングからは除外しました。
バンダースナッチを語るなら、ジャバウォックがいるからいいかなと。
王道中の王道の少年漫画ARMS。
いい意味で中二病をくすぐる漫画で、今でも大好きです。
どのARMSが最強かは予想するしかありませんが、それを考えるのも楽しみの一つです。
いったい誰が最強なのか?
少年向けのバトルアクションではかなり大事な要素です。
今でも胸を熱くさせてくれるARMSは、きっとこれからも好きなんだろうなと思います。

 

虫の戦争 イラスト(13)

  • 2017.11.29 Wednesday
  • 10:55

JUGEMテーマ:イラスト

 

     月を目指して

 

 

 

     謎の隕石

 

虫の戦争 第十九話 未知のウィルス(1)

  • 2017.11.29 Wednesday
  • 10:53

JUGEMテーマ:自作小説

地球には常に隕石が降り注いでいる。
しかし地表へ到達する物は少ない。
ほとんどは大気圏で燃え尽きてしまうからだ。
夜、空に尾を引く閃光は、蒸発した隕石の軌道。
アビーとムーは電線の上に座り、消えていく光の群れを眺めていた。
「あれがしし座流星群ってやつらしいぜ。」
「なにそれ?」
「知らない。蛍子さんが言ってたんだ。」
「物知りだもんね、蛍子さん。」
「なあ。」
「ねえ。」
アビーは花の蜜を、ムーは樹液の塊を舐めながら、空を走る光を眺め続けた。
「そういえばさ、俺らのご先祖様って、宇宙から来たって噂があるらしいぜ。」
「そうなの?なんで?」
「なんでって聞かれても知らないけどさ。でも俺らって他の生き物とは似ても似つかないじゃん?」
「私たちからすれば、他の生き物の方が変わってるんだけどね。特にあの猿モドキが。」
電線の下の自販機で、髪の薄いおじさんがジュースを買っている。
プシュっとタブを開け、ゴクゴク飲みながら、流星群を見上げた。
しかし興味もなさそうに、すぐに目を逸らす。
スマホをいじりながら、家へと消えていった。
「私たちの見た目が変だから、宇宙から来たってことになってるの?」
「人間はそう思ってるらしい。」
「それ逆じゃない?人間の方が宇宙から来たのよ、きっと。」
「となると猿も宇宙からってことになるな。」
「虫以外はみんなそうかもよ?」
空に走る無数の光は、地球の外からやってきた物。
あの隕石の中には、いったい何が潜んでいるのか?
もし・・・もしも燃え尽きずに落っこちてきたら、そこには他の星の生き物がくっついているのではないか?
アビーはそう考えて、「どれか一つくらい落ちてこないかしら?」と言った。
「無理だよ、あれは小さいから。」
「大きいやつなら落ちてくる?」
「多分な。今までに何回も落ちてるんだぜ。それこそ地球がヤバイくらいの奴が。」
月を見上げ、「あれだって隕石が落ちて、地球から千切れた一部だって説があるらしいから」と言った。
「へえ、元は地球の一部だったんだ。だったら月にも虫がいるかな?」
「いないだろ。水も空気も無いらしいから。」
「水も空気もなくて、でも生きてる虫もいるかもよ?」
想像することは尽きない。
アビーもムーも他愛ない話が好きで、暇つぶしの定番だ。
しかし二匹の思う先は違う。
ムーは意外とロマンチストで、「今日は月が綺麗ですね」と名作の一文を口ずさむ。
それに対してアビーは「月へ行こう」と立ち上がった。
「向こうにも仲間がいないか調べてみようよ。」
「無理だよ。月って滅茶苦茶遠いんだぞ。」
「なんで?」
「知らないよ。でも蛍子さんがそう言ってた。」
「でもさ、もし向こうにたくさん虫がいたら、これは私たちにとっていい事よ。」
「なんで?」
「地球の虫と月の虫で手を組んで、猿モドキを絶滅させるの。」
「いいなそれ!」
ムーも立ち上がる。
「善は急げ。人間どもを撲滅する為に、月へ行ってみるか?」
「急げばすぐよ。明日の朝には帰って来れるかも。」
二匹は無謀な旅に出る。
空に見えるあの月。
遠いという知識はあっても、どれほど遠いのかという実感がない。
何年か前に行った東京よりも近いだろうと思っていた。
二匹の虫が空に舞う。
天にそびえるあの光には、きっと仲間がいるはずと信じて。
しかし二時間ほど飛び続けて、やっと気づいたのだ。
向こうに仲間がいるかどうかは別にして、どうやってもたどり着けないと。
いくら頑張って飛ぼうが、目に映る月の大きさは変わらない。
しかも上空へ行けば行くほど、気温が下がって体力が奪われる。
変温動物の虫にとって、冷たい風は天敵だ。
「やっぱり帰ろうか?」
「そうだな。」
早々に人類撲滅作戦を諦める。
二匹は「バイバイ」と触覚を振って、それぞれの寝床へ戻った。
しかし次の日、再び人類撲滅作戦を掲げることになる。
なんと本当に隕石が落ちてきたのだ。
かなり小さな物だが、隕石は隕石。
第一発見者はおチョウさんで、山の中にみんなを集めた。
「今日のお昼頃、この山の中腹に隕石が落っこちたわ。暇なんで調べてみましょう。」
アビー、ムー、ナギサ、そして地元へ帰って来ていたマー君。
妖精種だけが集まって、大木の根元を貫通した隕石を取り囲む。
「この根っこの穴の中に隕石があるのね。」
アビーは興味津々に覗き込む。
おチョウさんが「悠長にしてる暇はないわ」と言った。
「いずれ人間が嗅ぎつけてくるはず。その前にいっぱい遊んでやりましょう。」
みんな乗り気で、「いやっほう!」と穴に飛び込もうとする。
しかし「待った!」と誰かの声が響いた。
「今の声は・・・・、」
アビーは振り返る。
そこには物知りの彼女が立っていた。
「蛍子さん!」
「その隕石に触っちゃダメよ。」
「どうして?」
「どうしても。それには宇宙のウィルスが潜んでいるのよ。」
「宇宙の・・・・・、」
「ウィルス・・・・。」
アビーとムーはゴクリと息を飲む。
「それもおっかないウィルスよ。もし地球で広がったら、たくさんの生き物が死んじゃうわ。」
「たくさんって・・・私たちも?」
「虫は助かるかもね。数も多いし、世代交代が早いから抗体を獲得する可能性もある。
だけど大きな生き物は無理よ。ウィルスに対抗できずに死ぬわ。」
「大きな生き物かあ・・・・。」
アビーは上目遣いに考える。
頭に浮かんだのはあの生き物。
「それって人間も?」
「ええ。」
「じゃあさ、そのウィルスが広まったら、人間は絶滅するってことね?」
「可能性はあるわ。」
「よっしゃああああああ!絶対に掘り出すわ!」
そんな事を聞いては黙っていられない。
一目散に穴に飛び込んで、隕石を引っ張り出そうとした。
しかしガッツリとめり込んでいるので、ハチ一匹の力ではビクともしなかった。
「誰か手伝って!」
「おう!」
ムーも穴に飛び込む。
しかし二匹でも持ち上がらない。
「私も!」とナギサが飛び込み、「僕も!」とマー君も手伝った。
「だから触っちゃダメだって!」
蛍子さんは鬼の形相で叫ぶ。
するとおチョウさんが「なんでそんなに慌てるのよ?」と尋ねた。
「この隕石があれば、人間を滅ぼせるかもしれないんでしょ?」
「それだけで終わらないから言ってるのよ。」
「未知のウィルスってそんなの恐ろしいの?」
「ええ。だって生き物が死滅するだけじゃすまないかもしれない。最悪は・・・・この星が乗っ取られるかも。」
「乗っ取る!?ウィルスが?」
おチョウさんは「そんなまさか」と首を振った。
「本当のことよ。だって生命は宇宙から来たんだもの。」
「嘘でしょ?みんな地球で生まれたんじゃないの?」
笑えない冗談だと思いながら、それでも気になる。
蛍子さんは真面目な顔でこう返した。
「パンスペルミア説って知ってる?」
「何それ?」
「地球にいる生き物は宇宙から来たって説よ。元々この星に生き物はいなくて、隕石に紛れてやって来たってこと。」
「隕石って・・・中に生き物がいたとしても、大気圏で燃え尽きるでしょ?」
「それがそうでもないのよ。」
蛍子さんは丁寧に説明した。
パンスペルミア説とは、星と星の間で起こる、生き物の移動のことである。
他の星からやって来た生き物が、別の星で定着し、数を増やしていくのだ。
何も宇宙人がUFOに乗ってやって来たという意味ではない。
例えば彗星が飛来し、地球へ落ちたとしよう。
その時、彗星の内部に微生物が宿っていたとする。
その微生物は地球に定着し、時間と共に進化していく。
やがて進化の枝分かれが起き、生き物の種類が増える。
長い長い時間の後、元々生き物のいなかった地球に、生命が溢れるというわけだ。
これは生命誕生の秘密を説明するものではない。
地球に生命が溢れた理由を説明する説だ。
宇宙には元々たくさんの生き物がいて、中には人間と同等か、それ以上の文明を持つ生命がいる。
地球に飛来した微生物が、偶然にやってきたのかどうか?
もしも他の惑星の住人が送り込んだものだとしたら、それは意図した生命の飛来になる。
これを意図的パンスペルミアという。
まるでSF映画のような話だが、これを真面目に提唱した学者もいるのだ。
今のところ、地球生命がどのようにして誕生したのかは分かっていない。
この星で生まれたのか?
それとも別の星から飛来したのか?
パンスペルミア説は、あくまで地球生命誕生の一説でしかない。
しかしこの物語では、パンスペルミア説が正しいという設定で話を進めていく。
蛍子さんはパンスペルミア説について説明を終える。
「・・・・というわけなのよ。隕石は頑丈だから、大きな物だと中まで燃え尽きないの。
もし微生物が宿っていたとしたら、死なずに落ちてくることもあるのよ。」
おチョウさんは「そうなの・・・・」と頷いた。
「じゃあこの隕石にも・・・・、」
「アンタたちが来る前に、私が確かめた。案の定危ないウィルスが宿っていたわ。」
「さっきこの星が乗っ取られるとか言ってたわね。ほんとにそんな事が起きるの?」
「ええ。これは本当に危ないウィルスなの。まあウィルスを生物とするかどうかは、色んな意見があるけど。」
ウィルスは細胞を持たない。
それゆえに、自己増殖することは不可能だ。
他の生き物の体内に宿り、その細胞を使うことでしか、数を増やせないのだ。
どんな生き物だって細胞を持ち、自らの力で増えることが出来る。
それが出来ないウィルスは、生命ではないという意見もある。
蛍子さんは服の中から妖精の蜜を取り出す。
紫色をした宝石のような蜜の塊だ。
「この蜜の中にウィルスがいるわ。」
「ちょっと!近づけないで!」
「今は閉じ込めてるから大丈夫。だけどもし野に放たれたら、すぐにこの星の生き物に宿るはずよ。」
「もしそうなったら・・・・、」
「未知の病気が流行って、たくさんの生き物が絶滅する。でも虫は数が多いし、耐性を獲得するのも早いわ。
だから私たちが滅ぶことはないと思う。だけど他の生き物はそうはいかない。
人間の力をもってしても、このウィルスに勝つことは無理ね。」
「・・・・・・・・・。」
おチョウさんの顔が引きつる。
人間が滅んでくれるのはありがたい。しかし・・・・・、
「もし地球で大量絶滅が起きたら、虫にとってもいい結果にならないわね。」
「たくさんの生態系が破壊されるわ。そうなれば虫の生きていける環境も少なくなる。
絶滅は免れても、今までのような生活は無理でしょうね。」
「もしそうなったら、この星はそのウィルスだらけってことよね?」
「ええ。でも一番怖いのはそこじゃないわ。」
「なに・・・・?もっと怖いことがあるっていうの?」
「一番怖いのは、ウィルスのせいでこの星の生き物が変わってしまうことよ。
遥か昔、この星に降り注いだ微生物。今ある生物群は、全てそこから発生しているの。
だけどそこへまったく別の生物が混じったらどうなると思う?」
「ど、どうなるの・・・・?」
「まったく見たこともない生き物や、地球の常識に当てはまらないような生き物が誕生するかもしれないの。
そうなったら私たちの知ってる地球じゃなくなる。
もちろん虫にとって良い結果になる可能性もある。だけどそうじゃなかったら・・・・。」
「・・・・・・。」
「アビーたちは人間が滅んでくれるって喜んでるけど、実際はもっと恐ろしいことになるかもしれないの。
ウィルスのせいで地球の環境は変わり果ててしまうかもしれない。そうなったら取り返しがつかないわ。」
蛍子さんの心配は、この星のありようが変わってしまうこと。
未知のウィルスが流行すれば、今までの生物群は消えてしまうかもしれないのだ。
そうなれば地球を乗っ取られたも同然。
それを恐れているのだ。
今までに何度も大量絶滅は起こっているし、それを乗り越える度に生き物は強くなってきた。
大昔、バージェス動物群という奇怪な生物たちがいた。
どれもこれも、神様が気まぐれでデザインしたような生き物たちだ。
有名なのはアノマロカリス。
ウミサソリという、今では絶滅してしまった種族だ。
他にもピンクのナマコにたくさんのトゲトゲを生やしたような生き物、ハルキゲニア。
恐竜図鑑などでよく出て来る、ダンゴムシを平べったくして、さらに巨大化させたような三葉虫。
カンブリア紀と呼ばれる、5億年以上も前の時代のことだ。
この時、なんらかの原因で大量絶滅が起きた。
なんと地球上の85%の種が死滅してしまったのだ。
火山煙による地球の冷却化や、超新星爆発の際に起こるガンマ線バーストの影響など、様々な説があるが、まだはっきりとした原因は分かっていない。
生き残った15%の生き物たちは、それぞれに異なる進化を遂げていった。
この中にミミズを平べったく引き伸ばしたような、ピカイアという生き物がいた。
これが現在のすべての脊椎動物の祖先と言われている。
もしピカイアが滅んでいたら、人類も誕生しなかったのだ。
カンブリア紀を含め、今までに五回の大量絶滅が起きたと言われている。
特にペルム紀という時代に起きた絶滅は、地球史上最大の絶滅とされている。
なんと地球上の生物の95%の種が死に絶えたのだ。
しかしそれらを乗り越え、激変してしまった環境でも生きていけるように、デザインも機能も変えてきた。
地球の歴史上で、生態系や生物群の変化は何度も起きているのだ。
しかしそれらは全て同じ祖先から誕生した生き物。
遥か昔、彗星に乗って降り注いだ、遠い宇宙からの来訪者なのだ。
今の地球の生物群は、過去を遡れば同じルーツにたどり着く。
もしそこへ、異なる星からの生き物が紛れたらどうなるか?
良い結果になるのか?
悪い結果になるのか?
誰にも予想はつかない。
地球の生命は、今のところ絶滅の危機には立たされていない。
であれば、大きなリスクを背負ってまで、別の星のウィルスを受け入れる必要はないのだ。
蛍子さんは「これは必要のないものだわ」と言い切った。
「だからたっぷり私の蜜をかけて、ウィルスが外へ出ないようにしようと思うの。
その後は誰にも分からない場所へ捨てるしかない。人間に見つかる前に。」
大昔から生きている蛍子さんは知っていた。
人間は危ないオモチャにほど惹かれることを。
もしもこの隕石に宇宙からのウィルスが宿っていると知れば、あの手この手で弄ぶはずである。
必要のない研究をし、お金の為にと無意味に増殖させて、欲しがる国や科学者に売るだろう。
だがこれは人間の手に負えるウィルスではない。
地球上に存在する、どんなウィルスよりもたちが悪いのだ。
人間が感染した場合だと、致死率は99.9%。
まず皮膚が侵され、その一時間後には腕や足の神経がやられる。
その二時間後には脊髄が侵され、免疫機能は打撃を受ける。
そして骨、筋肉と蝕まれ、その後は眼球や耳や鼻といった、感覚器官が侵されていく。
その次には胃や腸がやられて、ひどい嘔吐と下痢に襲われる。
わずか半日で満身創痍の状態になるのだ。
立つことも喋ることも出来ず、完全に寝たきりとなる。
その次には心臓が狙われる。
血液を送り出す強い筋肉が、じょじょに蝕まれていくのだ。
肺も同時期にやられていく。
肺の中の神経が破壊され、激痛と呼吸困難に喘ぐことになる。
一日が過ぎる頃には、中世の拷問を受けているような苦痛に見舞われるだろう。
しかし不思議なことに、ここまで来ても脳は無事だ。
骨や筋肉や神経は侵されても、脳だけは綺麗なまま残る。
痛みや苦しみをありありと感じながら、病魔に侵略されていくことになるのだ。
そして感染から二日目、脊髄が完全に破壊されて、免疫機能は無力化される。
ここまでくればもう助からない。
刻一刻と、死が近づいてくるのを待つしかなくなる。
そして感染から三日後、命はいつ尽きてもおかしくない状態となる。
しかし普通に死ぬことは出来ない。
全身に広がったウィルスは「この宿主はもうもたない」と判断すると、特殊な毒素を分泌するのだ。
その毒素は骨と筋肉を腐らせて、ヘドロのように溶かしていく。
血管も神経も内蔵も、シェイクされたようにペースト状へ変わってしまう。
やがて肉体は溶け去り、綺麗なままの脳だけが残るのだ。
ウィルスはしばらく脳内に寄生し、なぜか自然消滅してしまう。
だが脅威は終わらない。
このウィルスの感染力は、地球上のどんな細菌やウィルスよりも強力だからだ。
患者の呼吸、唾、そして触れたもの。
ありとあらゆる場所から他者へと移動していく。
小さな町ならば、一日で全ての人間に感染するほどだ。
蛍子さんは、このウィルスの脅威について説明した。
おチョウさんはますます怖くなって、自分の脚をさすった。
「怖いわ・・・・。ていうかなんでそんなに詳しいのよ?まるでその目で見てきたみたいじゃない。」
「実際に見たことがあるから言ってるの。」
「見たことがあるって・・・・このウィルスは前にも地球に?」
「いいえ、別の星。」
「別の・・・・、」
「私がまだ地球へ来る前の話よ。ここと似たような星で、このウィルスが猛威をふるってたわ。
あの星は地球より進んだ文明を持っていた。それでもこのウィルスには勝てなかったのよ。」
「ちょっと待ってよ!別の星ってどういうこと?アンタは地球の生き物じゃないの?」
思いもよらないことを聞かされて、おチョウさんは「どうなのよ?」と詰め寄る。
「アンタ・・・もしかして宇宙人とか?」
「それは追々ね。今はこのウィルスをどうにかしなきゃってこと。だから・・・・、」
穴の中からアビーたちが出て来る。
ムーとマー君がクワガタに変身して、えっちらおっちらと隕石を引っ張り出していた。
「ようし・・・これで猿モドキを退治できるぞ。」
目の前にあるのは、テニスボールほどの隕石。
表面は黒く、所々に茶色い斑点があった。
見た目よりも軽く、まるで軽石のようだった。
「じゃあこれを人間の街に持っていこう。そうすれば・・・・・ぶふッ!」
アビーは笑いを堪えられない。
自分自身もすでに感染しているのだが、死んでも復活できる身なので、まったく危機感がなかった。
蛍子さんは「だからコイツらをどうにかしなきゃ」と睨んだ。
「ちょっとナギサ、あんたは離れてた方がいいわ。感染したらあの世行きよ。」
「まだ触ってないから平気だけど?」
「もし触ったら終わりよ。まだ不死にはなってないでしょ?」
「もうなったよ。アビーとムーから蜜をもらったから。」
「・・・・馬鹿ガキども!ポンポンあげちゃダメでしょ。」
ゴツンとゲンコツを落とされて、二匹は「むうあああッ・・・」と悶えた。
「これは私が預かっておくわ。」
蛍子さんは大量の蜜を吐く。
それで隕石を包んで、ウィルスを封じ込めた。
そして人間の手のひらほどもある蛾に変身して、隕石を空へ運んでいった。
「あ!独り占めはスルイわよ!」
「そうだそうだ!俺たちが掘り起こしたんだぞ!」
怒るアビーたち。
しかしおチョウさんが「これでいいのよ」と宥めた。
先ほど聞いた恐ろしいウィルスの話。
それを伝えると、アビーたちは「マジで?」と青ざめた。
「あれは私たちがオモチャにしていいものじゃないの。蛍子に任せましょ。」
「せっかく人間をぶっ潰すチャンスだったのに。」
「もったいねえなあ。」
「人間だけですまなくなるから仕方ないわ。」
おチョウさんは背中を向け「私はこれで」と飛んでいく。
「帰っちゃうの?」
「やる事なくなっちゃったからね。どこかで蜜でも吸ってくるわ。」
そう言い残し、遠くへ飛んでいくが、ふと戻ってきた。
「どうしたの?」
「いま気づいたんだけど、アンタら死ぬまでここにいなさいよ。」
「なんで?」
「だって感染してるじゃない。死んで復活するまでは、ここを動かないように。」
「ああ、そういうこと。」
「アンタらみんな復活できるんだから、ちょっとの辛抱よ。それじゃ。」
優雅な羽をはばたいて、青い空の中へと消えていった。
アビーたちは「またね」と手を振る。
「・・・・じゃあ行こうか。」
誰一匹としてここにとどまる気はない。
今の自分たちには強力な武器がある。
これを使えば、憎き人間たちを撲滅することが出来るのだ。
「おチョウさんは危ないウィルスだって言ってたけど、このチャンスを逃さない手はないわ。」
「だな。」
アビーとムーはやる気満々だ。
しかしナギサは少し不安だった。
「でもさ、人間以外の生き物だって絶滅するって言ってたよ。」
そう言うと、マー君が「気にすることないよ」と答えた。
「可哀想だとは思うけど、僕ら虫の不遇を考えれば、そこまで同情しなくてもいいと思う。」
「そう言わればそうね。」
「虫は根っこで自然界を支えてるんだ。なのにいっつも食われたり害虫扱いされたりばっかりだ。」
「そろそろ反乱を起こす時ってことね。」
「虫は何億年も前から地球にいるんだ。最古の生き物の一つなんだ。
なのに後からでてきた生き物たちに、いいようにやられっぱなしだった。
だからさ、もうそろそろ僕たち虫が覇権を取ってもいいと思うんだよ。みんなはそう思わない?」
かつてドブネズミと手を組み、人間と戦おうとしたマー君。
彼の中に宿る野心と怒りは、今でも激しく燃えていた。
その炎はアビーたちにも燃え移る。
もう我慢の時はおしまい。
これからは、虫の虫による、虫の為の世の中に変えていくのだ!
と、一致団結の絆が生まれる。
目指すは人間の街。
いつも根城にしている町の隣に、中核都市に指定されている地方都市がある。
そこでこのウィルスをばら撒けば、甚大な被害は絶対!
「早く行きましょ。私たちだって感染してるんだから、モタモタしてたら死んじゃうわ。」
この世から人間を消し去る。
そして虫の王国を作る。
今までのような小さな世界ではない。
この星そのものが虫の楽園に変わるのだ。
四匹は同じ夢を見ながら、ひたすら街を目指す。
次に生まれ変わる頃には、人間がいなくなっているはずと信じて。

 

昔の漫画やアニメの印象的なフレーズ

  • 2017.11.29 Wednesday
  • 10:49

JUGEMテーマ:漫画/アニメ

昔の漫画家やアニメの言語センスってすごいと思います。
テクマクマヤコンテクマクマヤコン。
アッコちゃんが鏡で変身する時の呪文ですが、これっ何語でもありません。
なのになぜか鏡で変身するのにピッタリはイメージです。
元に戻る時のラミパスラミパアスルルルルルもいいですね。
変身より解除に向いていそうなイメージです。
語感が気持ちをアップさせるよりも、クールダウンさせるような響きですから。
ちなみにこの呪文は赤塚不二夫が考えたものではなく、アニメの第一話の脚本家が考案した物のようです。
ケンシロウの「アタタタタタタタ!」と同じく、元々は原作に存在しなかったそうですよ。
後に漫画へと逆輸入されたそうです。
サリーちゃんのマハリクマハリタ、ヤンバラヤンヤンヤンという響きも好きです。
魔法使いっぽい、でもおどろおどろしくない、可愛い響きです。
そしてこちらも原作には登場しなかった言葉だそう。
アニメで使われた言葉なんだそうです。
そして考案したのはあの小林亜星さんです。
亜星さんはサリーちゃんのテーマ曲も創られたそうで、その際に浮かんで来たのが「マハリクマハリタ」なんだそうです。
一度聞いたら忘れられないほどインパクトのある呪文。
おそらく今後、これを超える響きの呪文は現れないでしょう。
あと呪文じゃないですけど、天才バカボンの「これでいいのだ!」も耳に残るフレーズです。
上に挙げたものは、どれも類を見ないほどのインパクトがあります。
そういえば手塚治虫は、漫画についてこんな言葉を残しています。
「絵を描いているというより、特殊な文字で物語を書いている気がする。」
これはつまり、漫画は文学の亜種ということになるのかもしれません。
リアルタッチの劇画は別として、デフォルメの強い絵は、確かに記号にも見えます。
山なりに湾曲した口は不機嫌を表し、ピンと跳ね返った髪の毛の一部はアホ毛と呼ばれ、間抜けなキャラクターを表すのに最適です。
こういったシンプルながらも効果絶大な表現方法は、手塚治虫以前には見られなかったそうです。
そういえばのらくろって、いっつも同じような表情をしていますよね。
そここに「人のパーツのデフォルメ」という特殊な記号を組み合わせると、人だろうが動物だろうが、表情が豊かになるから面白いです。
そう考えると、昔の作家というのは、文学者じゃなくても、優れた言語感覚を持ち合わせていたのかもしれません。
一度聞いたら絶対に忘れないであろうフレーズ。
漫画を一変させた、特殊な文字ともいえるデフォルメの強い絵。
漫画の何もかもが文学から成り立っているとは言いませんが、どこかでその流れを汲み、文学の亜種となっている部分はあるように思います。
漫画やアニメというのは、絵と等しいほどに言葉のセンスが必要な表現媒体なんだと分かります。
抜群の言語センスを持った偉大なクリエイターには、ただ脱帽するばかりです。

 

仏様の猫

  • 2017.11.28 Tuesday
  • 14:54

JUGEMテーマ:にゃんこ

猫にも個性があります。
人格ならぬ猫格です。
お馬鹿な子もいれば賢い子もいるし、喧嘩っ早い子もいれば温厚な子もいます。
我が家には仏様のような猫がいました。
真っ白な猫なんですが、どこか間の抜けた顔をしていました。
性格は穏やかで、まず他の猫と喧嘩をしません。
ていうか怒っている所を一度も見たことがありません。
他の猫が喧嘩していても大して気にせず、自分が喧嘩を売られても「え?」みたいな表情でキョトンとしているだけです。
玄関の内に犬を繋いでいるんですが、この犬は猫が嫌いで、近づいてきただけでも吠えまくります。
「おどりゃこのボケ!」って感じで威嚇するんです。
でもこの猫だけには尻尾を振っていました。
猫嫌いの犬からも好かれていたんです。
そして無抵抗なもんだから、犬にやられ放題です。
ベロッベロに舐め回されたり、思いっきりマウンティングされたり、プロレスごっこに巻き込まれたり。
だけどちっとも怒らない。
そこまでされても平気な顔で寝ていたりします。
ここまでくると、おおらかというより悟りを開いているような感じです。
諸行無常、全ては成るように成る。
その結果、頭を抱えてマウンティングされたりしてました。
それにまったく人見知りをしないから、人間の赤ちゃんからも好かれていました。
まだ甥っ子が赤ちゃんの頃、猫を怖がっていたんですが、この猫だけは撫でていました。
姪っ子にも大人気です。
猫からも犬からも人からも好かれる、ほんとにいい猫でした。
別に八方美人ってわけじゃありません。
この猫じたいは普通なほど普通に過ごしているだけです。
ナチュラルを体現したような奴です。
でもだからこそ、みんなから好かれたんです。
きっとほんとに悟りを開いていたんでしょう。
だから仏様です。
昨日、その猫が旅立ちました。
本物の仏様になってしまったんです。
戒名はいりません。
悟りを開いていたあの猫ならば、猫如来とか猫大明神とか、位のすごい奴になって、向こうに旅立ったはずです。
さようなら、仏様の猫。
迷わず天国へ。

 

虫の戦争 第十八話 白銀ナイト(2)

  • 2017.11.28 Tuesday
  • 14:39

JUGEMテーマ:自作小説

対立、共存、寄生、共生。
一つの場所に複数の生き物が集まると、このどれかを選ぶことになる。
どの選択がベストであるかは、状況によって変わるだろう。
戦って勝てそうな相手なら、対立を選ぶのもいい。
相手が自分より強そうなら、上手く立ち回って寄生という手もあるだろう。
多くの生き物が集まる場所で生き抜くには、どういった選択をするのがベストなのか?
その見極めを誤ってしまうと、すぐさま地獄行きである。
春が終わり、木々に緑が宿る頃、一匹のイモムシが卵から顔を出した。
初めて見る空、初めて踏む土。
どれもこれも初めてのものであるが、イモムシは自分が何をすべきか知っていた。
「・・・・・・・。」
しばらく這いずりまわり、一本の木を見つける。
もそもそと細長い身体を動かして、大きな木に登り始めた。
身体の色は茶色く、樹皮に馴染む。
そのおかげで敵には見つかりにくいが、もし目に止まれば即アウトだ。
鳥か?トカゲか?はたまたムカデかクモか?
今日生まれたばかりの未知の世界には、数え切れないほどの敵が蠢いている。
それでも行動に迷いはない。
鈍間な動きではあるが、せっせと木を登っていった。
するとある生き物がイモムシの傍にやって来た。
アリだ。
アリは小さな身体をしているが、身体能力は高い。
力もあるし動きも早いし、大きさの割には頑丈だ。
中には毒針を持つ者もいる。
今、イモムシが出くわしたアリは毒針を持っていた。
このアリはサソリのように尻尾を持ち上げて、自慢の毒針を突き刺す。
離れた敵には毒液を飛ばすことさえある。
かなり獰猛な種類だ。
そんな恐ろしいアリが、2匹、3匹と群がって来る。
当然だろう。
いいご馳走を見つけたのだから。
アリはフェロモンを出し、さらに仲間を呼ぶ。
イモムシはあっという間に囲まれてしまった。
逃げ場はない。
かといって戦っても勝てない。
もはやイモムシの運命は決した。
美味しそうなご馳走を見つけたアリたちは、ヒタヒタと近寄ってくる。
大きな顎を見せつけながら、イモムシの背後へと回り込む。
そして・・・・・、
「・・・・甘〜い!」
恍惚とした表情で叫んだ。
「ほら、あんたも飲みなよ。」
「うん!」
アリはイモムシのお尻に顔を近づける。
そして・・・・、
「甘〜い!」
「ウチもウチも!」
一匹、また一匹と「甘〜い!」と叫ぶ。
「こんな甘味を出せるなんて、あんたは昆虫界の川越シェフや〜!」
感極まった一匹が叫び、「川越シェフは料理だけはしないのよ」と冷静な一匹がツッコんだ。(注 料理します)
「こんなご馳走が食べられるなんて、私たちアンタを守るわ!」
アリたちは「お家へどうぞ」とイモムシを連れていく。
その途中、イモムシを狙ってトカゲが現れたが、アリの猛攻によって撃退された。
毒針を受けたトカゲは、憐れ地面へ落ちていく。
「この子は私たちが飼うの。」
「そうそう、他の誰にも渡さないわ。」
毒針を持ったアリが護衛については、おいそれと手が出せない。
クモもムカデも、うらめしそうに眺めているしかなかった。
やがてイモムシはアリの巣の連れて行かれる。
「ここが私たちの家よ。」
「遠慮せずにどうぞ。」
アリの巣は木の中にあった。
樹皮の間や、穴の空いた隙間に営巣しているのだ。
巣の中にはたくさんのアリがいて、誰もが「甘〜い!」と虜になった。
「このイモムシ、お尻から濃密な甘い液を出すのね。」
「こんなご馳走他にないわ。」
「大人になるまで私たちが守ってあげましょう。」
「その見返りとして、あなたの甘い露をちょうだいね。」
イモムシはニヤリとほくそ笑む。
それからしばらくの間、イモムシはアリの巣で過ごした。
ここにいる限り、外敵に襲われる心配はない。
それに餌も貰える。
イモムシはすくすくと育っていった。
ある日、イモムシは外に出たくなった。
「・・・・・・・・・。」
「え?なに?散歩に行きたいって?」
「しょうがないなあ。」
アリたちは忙しい。冬に備えて食料を集めているのだ。
しかしイモムシたっての希望とあれば、無視するわけにはいかなかった。
お尻から出る甘い露は、何よりのご馳走だから。
「じゃあちょっとだけね。」
外出中に何かあってはまずい。
クソ忙しい最中だというのに、数十匹のアリが護衛についた。
巣の中から這い出て、久しぶりのシャバを堪能する。
辺りにはカマキリやクモがいるが、誰も手を出せない。
下手に近づけばアリの毒針の餌食だ。
イモムシはえっちらおっちらと木の上を這い回る。
「はい、もうおしまい。」
「外は危ないからね。」
アリたちはイモムシをせっつく。
全然帰りたがらないので、無理矢理に引っ張っていった。
それからさらに月日が経ち、イモムシに成長の兆しが現れた。
樹皮の隙間へ移動して、じっと動かなくなってしまったのだ。
アリたちが呼んでも、うんともすんとも返事をしない。
やがて姿たかちまで変わってしまった。
サナギになったのだ。
それからさらに時間が流れ、イモムシは殻の中から這い出てきた。
その姿は幼虫の時とは似ても似つかない。
身体はスラっと細くなり、頭には触覚を備えている。
短かった足は長く伸び、口はストローのように変化していた。
何もかも変わってしまったが、最も大きな変化は羽が生えてきたことだ。
身の丈を超える大きな羽。
黄色を基調として、幾つもの黒い筋が走っている。
その羽をパタパタと動かすと、風になびく凧のように、大空へと舞い上がっていった。
しばらく辺りを飛び回り、巣の傍へ戻ってくる。
「育ててくれてありがとう。私に子供ができたら、その時はまたよろしく。」
そう言い残し、遠い空へと旅立っていった。
アリたちは「元気でね」と触覚を振った。
・・・あのイモムシの名はキマダラルリツバメ(黄斑瑠璃燕)
美しい羽をもつチョウだ。
それを育てたアリの名はハリブトシリアゲアリ(針太尻挙蟻)
この二つの虫は共生関係にある。
キマダラルリツバメはアリにボディガードをしてもらい、ハリブトシリアゲアリはイモムシから甘い露をもらう。
アリとチョウ。
まったく異なる虫同士が手を組んで、Winwinの関係を築いているのだ。
そんな様子を遠くから眺めている者がいた。
「へええ・・・賢いチョウがいたものねえ。」
ウスバアゲハのナギサだ。
かつて蛍子さんに服を作ってもらったあのチョウだ。
今では立派な妖精になっている。
「チョウは大人になれば空を飛べるけど、幼虫の時は無防備だからね。別の生き物に守ってもらうのはアリかもしれないわ。」
ナギサは早速この事を仲間に伝えた。
「いいみんな?次に産卵したら、別の生き物に幼虫を守ってもらうの。そうすれば敵に食べられずにすむわ。」
この目で見たキマダラルリツバメとハリブトシリアゲアリの共生関係。
それをみんなに説くことで、いかに共生が素晴らしいか知ってもらおうとした。
「なるほどね。」
「そりゃいい考えだ。」
「でも私たちの幼虫を守ってくれる生き物なんているかしら?」
「探せばきっといるわよ。」
「だけどこっちだって、何らかの見返りをあげないとダメなんだろ?」
「そんなの俺たちには無いしなあ。」
「もう!やる前から諦めない。知恵を出し合って考えるのよ。」
ウスバアゲハたちは、あーでもないこーでもないと話し合う。
するとそこへムーがやって来た。
「オッス!おらカナブン。」
「あら、久しぶりね。悪いけど帰って。」
「んだよ。冷たい言い方するなよ。」
「今は大事なことを話し合ってるの。」
「へえ、なになに?」
「カナブンには関係のないこと。」
「聞かせてくれよ。」
「だからアンタには関係ないって。」
「関係ないから聞きたいんじゃん。」
「なんで?」
「責任がないから。」
「なるほど、冷やかしってわけね。」
「そうとも言う。で、何を話し合ってたんだ?」
ムーは「聞かせろ」としつこい。
やがてナギサの方が折れて、「実はね・・・」と話した。
「ほう、お前らも共生をしたいと?」
「だって幼虫の時は危ないから。」
「まあなあ・・・・確かに無防備ではあるよな。」
「カナブンは幼虫の時は土の中だし、アビーはハチだから大人に守ってもらえるでしょ?けど私たちには何もないのよ。」
「でも身体の中に毒持ってんだろ?ウスバアゲハは。」
「大した毒じゃないもの。大人になればけっこう強くなるけど。」
「でも共生っていったって、いったい誰とやるつもりなんだよ?」
「だからそれを話し合ってるの。」
ナギサはそっぽを向き、しっしと触覚を振った。
「冷やかしに付き合ってる暇はないの。そのうち遊んであげるから帰ってちょうだい。」
幼虫時代をどう生き延びるか?
これは大きな課題だ。
もしこの課題を解くことが出来たら、幼虫の生存率が上がるかもしれない。
ナギサを始め、他のチョウも真剣に話し合った。
気がつけばたくさんのチョウが集まって、ちょっとした会議になっていた。
しかし答えは出ない。
夕暮れに始まった会議は、月が昇る頃まで続いた。
「・・・・ダメね、結論が出ないわ。」
ナギサはうなだれる。
ゴロンと葉っぱの上に寝転ぶと、背中に硬い物が当たった。
「なにコレ・・・・・、」
「オッス!おらカナブン。」
「アンタまだいたの!?」
「暇だからさ。」
「アビーの所に行けばいいじゃない。」
「あいつこの前死んじゃってさ。まだ復活してないんだよ。」
「あっそ。とにかくアンタは帰って。今は遊んでる暇はないの。」
「・・・・・・・・。」
「なによ?じっと睨んで。」
「アビーに頼んでみるか?」
「は?」
「共生だよ共生。」
「なんでアビーに頼むのよ?」
「だってあいつはハチだぜ?マルハナバチっていうミツバチの親戚だ。」
「知ってるわよ。」
「じゃあハチとアリが親戚だってことも知ってるか?」
「そうなの?」
ナギサは目をパチクリさせる。
「ます最初にハチがいて、そこから進化の枝分かれで生まれたのがアリなんだよ。だからケツに毒針を持ってる奴がいるだろ?」
「へえ、そうだったんだ。そういえば見た目もちょっと似てるもんね。」
「お前の見たチョウはアリに守ってもらってたんだろ?だったらお前らはハチに守ってもらえばいいじゃん。」
「でも上手くいくかな?」
「スズメバチやアシナガバチみたいな肉食系だと無理だろうな。でもハナバチは大人しいハチだ。
肉食じゃないから、チョウの幼虫を食べたりしないだろうし。」
「だけど何にも見返りをあげられないわ。それじゃ守ってもらえないでしょ?」
「いいや、見返りならある。」
「どんな!?」
ナギサは身を乗り出す。
ムーはいじらしく脚の爪を立てた。
「毒だよ。」
「毒?」
「ウスバアゲハには毒があるだろ?それを見返りにやるんだよ。」
ムーはどうだと言わんばかりに胸を張るが、ナギサは「?」と口を尖らせた。
「毒ならハチにもあるでしょ。見返りになんかならないじゃん。」
「いいや、なる。」
「なんで?」
「種類が違う。」
「種類?」
「ハチの毒はタンパク毒っていうんだ。そんでもって、お前の持ってる毒はアルカロイドってやつだろ?」
「そうよ。幼虫の時にムラサキケマンっていう植物を食べるの。それが体内に溜まって毒になるのよ。」
ナギサは自慢気に言う。
「いいか?タンパク毒ってのは、簡単に言うと細胞をぶっ壊す毒なんだ。
ハチに刺された人間が痛がるのはその為なんだよ。
刺された場所が真っ赤に腫れて、ほっとくと壊疽することだってある。」
「怖いわね。」
「細胞をぶっ壊し、なおかつ強い痛みを与える。コブラとかの神経毒に比べると致死性は低いけど、その代わり苦痛を与える効果があるわけだ。
オオスズメバチなんかは強いタンパク毒を持ってるから、どの生き物からも恐れられてるってわけさ。」
「ふ〜ん。じゃあ私のアルカロイドは?」
「アルカロイドはタンパク毒と同じく、生き物によって生成される毒なんだ。
だけどタンパク毒とは全然違った効果がある。」
「例えば?」
「麻薬さ。」
「麻薬?」
「人間は麻薬を使うだろ?あれは植物から作ってるんだよ。ケシの実とか大麻とかな。」
「馬鹿よね。毒なのに好き好んで使うなんて。」
「そうだな。でも使いようによっては薬にもなるんだよ。」
「そうなの?」
「人間って痛みに弱いじゃん?ちょっとした怪我でも大げさに喚くし。」
「分かるわ、ほんっとにすぐ喚くもんね。情けない猿モドキどもは。」
「だから人間は病院に行って、治療を受けるわけさ。でも治療によってはすごく痛みがあるらしいんだ。そんな時どうすると思う?」
「どうするの?」
「アルカロイドを使うんだよ。」
ムーは腕を組み、「いいか?」と続ける。
「アルカロイドには色んな作用がある。代表的なのだと幻覚作用だな。麻薬を使うと幻覚を見るのはその為なんだ。」
「へえ、それで?」
「他にも効果がある。それは痛みを取り除く効果さ。」
「痛みを・・・・?」
「アルカロイドを元に作った薬に、モルヒネってのがあるんだよ。
これはアヘンから抽出して作るんだ。アヘンにはモルフィンってアルカロイドが含まれてて、これには痛みを取り除く効果がある。」
「うん。」
「このようにアルカロイドには色んな作用があるんだ。単に細胞をぶっ壊すだけのタンパク毒とは違うんだよ。」
「へえ。」
「だからさ、それを手土産にハチに共生を持ちかけるんだよ。アルカロイドは色んな効果を持っていて、きっと役に立ちますよって。」
「なるほどね。幻覚作用に痛みを取り除く効果か・・・・。」
ナギサは腕を組み、「う〜ん」と唸る。
しばらく悩み、考えがまとまった。
「・・・・いいわ、その方向で行ってみよう。」
「じゃあアビーが復活したら話を通しとくよ。あいつならきっと引き受けてくれるはずさ。」
「お願いね。」
ムーの協力により、ナギサは光明を得た。
もしハチと共生関係を築くことが出来れば、ウスバアゲハにとってこれほど有益なことはない。
・・・・それから一年後、アビーが復活してきた。
ムーは早速「かくかくしかじかで・・・」と話を通した。
「うん!いいわよ。友達の巣の女王に頼んでみる。」
「任せたぜ。」
「任せてちょうだい!」
アビーはドンと胸を張る。
その翌日、ナギサはマルハナバチの女王と会うことになった。
ハナバチ類は地面に巣を作る。
ネズミなどが使っていた古い巣を再利用するのだ。
いつもの川原から少し北に上がった所に、広大な草地がある。
ここにウスバアゲハの群れと、マルハナバチの群れが向かい合い、大規模な会議が行われた。
議長はナギサ。
徹夜で考えた演説により、仲間のみならず、ハナバチからも拍手が沸いた。
「これは良いアイデアね。」
ハチの女王も満更ではない。
しばらく話し合いが続き、結論へとたどり着いた。
ナギサが前に出る。
女王も前に出る。
二匹はガッチリと握手を交わした。
「これからよろしく。」
「こちらこそ。」
一斉に拍手が沸く。
アビーとムーも「やったね!」とハイタッチした。
今日、虫の世界に一つの革命が起きた。
ウスバアゲハとマルハナバチの共生。
今までにない新たな関係が築かれたのだ。
「歴史的瞬間だわ!」
ナギサは空を舞う。
雨が降りそうな曇り空ではあるが、心は快晴だった。
「共生!なんて素晴らしいのかしら!!」
歌うように、踊るように空を舞い続ける。
大衆からの拍手は鳴り止まなかった。

          *****

桜が散り、青い葉が色づく頃になった。
一匹のイモムシが孵化して、初めて見る世界を歩き始める。
そこへ数匹のマルハナバチがやって来た。
「こんにちわ。」
「早速だけど、あなたをウチの巣に案内するわ。」
「え?ああ・・・色々と大人の事情があるのよ。幼虫のあなたはまだ知らなくていいことなの。」
イモムシはわけも分からずハチに連れて行かれる。
「ここが私たちの家よ。」
「あなたの家でもある。」
「いつかチョウになるまで、ここで一緒に暮らすのよ。」
マルハナバチは草を掻き分け、イモムシを招き入れる。
ここにはたくさのハチがいる。
大人しいハチではあるが、ハチはハチだ。
もしも巣を襲撃されたら、毒針をもって応戦する。
この場所にいる限り、イモムシは安全な日々を過ごすことが出来るのだ。
しかしタダでというわけにはいかない。
お互いが得をしてこその共生なので、マルハナバチ側にもメリットが必要だ。
残念ながら、このイモムシに大したことは出来ない。
キマダラルリツバメのように、お尻から甘露を出すことは無理だ。
だったらどうするか?
なんと大人のチョウがやってきて、マルハナバチにあるプレゼントを贈るのだ。
イモムシがハチの巣へやって来てから二日後、ナギサがヒラヒラと空を舞ってきた。
「あなた達の仲間から聞いたわ、ここへウスバアゲハの幼虫がやって来たって。だから・・・ハイこれ。」
ナギサは大きな羽を振る。
鱗粉が舞い散って、たくさんのハチに降り注いだ。
「ああ・・・・。」
ハチは恍惚とする。
なぜならこの鱗粉には二つの作用があるからだ。
一つは麻薬としての作用。
気分を落ち着かせ、それと同時に快楽をもたらす。
二つめは鎮痛作用。
ハチは外を飛び回ることが多いので、生傷が絶えない。
その傷によるダメージがふわりと軽減されていった。
といっても、痛みが消えたわけではない。
虫には痛覚がないので、どんな傷を受けても痛がることはないのだ。
ただし反射作用によって、痛そうにもがくことはある。
いくら痛覚がなくても、怪我を追えば普段通りというわけにはいかないのだ。
しかしそれも鱗粉に含まれるアルカロイドによって癒えていく。
快楽をもたらす麻薬作用。
怪我を忘れさせてくれる鎮痛作用。
アルカロイドという毒は、使いようによって様々な効果を生み出すのだ。
ハチの毒にはない特殊な力。
ウスバアゲハと共生関係を組むことで、初めて手に入れた秘宝だ。
「いい・・・・気持ちよくなっていくわ。」
「身体が楽になる・・・・疲れも感じないし、いくらでも空を飛べるわ。」
ハチは働き者である。
巣のメンテナンスに蜜の収集。
それに子育てだってある。
ナギサがもたらした鱗粉は、それらの疲労や苦労を全て忘れさせてくれた。
「これならもっと働けるわ!」
ハチは普段の何倍も働いた。
あの日、ナギサが行った演説。
それはアルカロイドの作用によって、ハチの労働率を上げようというものだった。
精神的な疲労、肉体的な疲労。
アルカロイドを使えば、そんな煩わしいものから解放される。
その見返りとして、私たちの幼虫を育ててほしい。
労働を至上とするハチは、その演説に拍手喝采を送ったのだった。
ここに誕生した新たな共生関係。
それはお互いの種族に大きなメリットをもたらす・・・・はずだった。
・・・・事件が起こったのは、イモムシが巣へやって来てから一ヶ月後のことだ。
ウスバアゲハがくれる鱗粉のおかげで、ハチの労働率は何倍にも増した。
まだ梅雨にもなっていないというのに、冬を越せるだけの蜜が溜まっていた。
子供だってたくさん育ったし、巣だって大きくなった。
「みんな!もっと働こうぜ!」
バリバリゴリゴリ働くマルハナバチの群れ。
でもそんな生活は長く続かない。
ある日のこと、精力的に働いていた一匹のハチが、なんの前触れもなくこの世を去った。
集めた蜜を持ち帰る途中に、パタリと死んでしまったのだ。
それを皮切りに、ハチの突然死が増えるようになった。
一匹、また一匹と、仲間が消えていく。
溢れんばかりにいたハチの群れは、いつしか数匹にまで減ってしまった。
「なんてこと!これじゃ巣が破綻するわ!!」
女王は絶叫する。
立て続けに起こった突然死の原因は何か?
巣の回りをグルグル飛びながら、頭をひねった。
そして・・・・、
「・・・・イモムシ。あいつが来てからこの現象が起こり始めた。ということは・・・・、」
ある疑惑が首をもたげる。
そこへナギサがやって来て、「はい、いつもの」と鱗粉を撒こうとした。
「待って!」
「なに?」
「・・・・あなた、私たちを騙してない?」
「え?」
「見てよ、あれだけいた仲間が、ほんのちょっとに減ってしまったわ。」
悲しそうな顔をしながら、巣の上を歩き回る。
「多くの仲間がいきなり死んでしまったわ。なんの前触れもなく。」
「なにそれ・・・・病気でも流行ってるの?」
「違うわ、きっとこれのせいよ。」
そう言って巣に付着した鱗粉を睨んだ。
「これはアルカロイドという毒よね?」
「そうだけど・・・・まさか私たちを疑ってるの?」
「突然死が起こり始めたのは、あなた達のイモムシが来てからのことよ。となると、この鱗粉しか原因が考えられないわ。」
怒りを滲ませながら、ナギサを見上げる。
「ちょっと待ってよ!演説の時にも説明したけど、ハチが死ぬほどの毒は撒いてないわ。
あくまで怪我の苦しみを和らげたり、心を癒す程度の量で・・・・、」
「だったらなんで私の子供たちが死んでいったのよ!説明なさい!」
「説明なさいって・・・・私は知らないわ。」
いきなり水を掛けられた気分だった。
ナギサの頭は軽く混乱する。
「あのね女王様、考えてもみてよ。あなた達が死んでしまったら、いったい誰が私たちの幼虫の面倒を見るの?
あなた達を殺して得をすることなんて一つもないのよ。」
「それは・・・・確かにそうね。」
「私たちの幼虫は身を守る手段を持ってないわ。だからこそ共生関係を持ちかけたんじゃない。」
「じゃあなんで私の子供たちは死んでしまったの?なんの前触れもなくバタバタと。」
「そんなの私に聞かれても知らないわ。」
「このままじゃ巣は全滅。そうなったらこのイモムシだってどうなるか分からないわよ?クモやムカデに食べられちゃうかも。」
「そんな!ちゃんと守ってよ!」
「守れるだけの数がいないの!みんな死んでしまったから!」
二匹は激しく言い争う。
「やっぱりアンタが仕組んだんでしょ!」とか「そっちこそロクに蜜も食わせてなかったんでしょ!」とか。
そうやって言い争いをする中で、ナギサがこんな事を言った。
「だいたいね、アンタらハチは働きすぎなのよ!あんなに馬鹿みたいに働いてたら、疲れも溜まるし怪我もするわよ!」
「なんですってえッ・・・・・、」
女王は怒りに染まる。
「一生懸命働いて何が悪いのよ!」
労働の侮辱はハチへの侮辱。
毒針を伸ばし、「それ以上は許さないわよ」と睨んだ。
「な、何よ・・・・やろうっての・・・・。」
怯えるナギサ。
いきりたつ女王。
そこへムーがやってきた。
「おっす!おらカナブン。」
「るっさいわね・・・今はアンタにかまってる暇はないのよ。」
ナギサはシッシと追い払う。
女王は「ちょうどいい所に来たわ」と言った。
「ムー、アンタはどっちが悪いと思う?」
「何が?」
「最近私の仲間たちがバタバタ死んでいくの。」
「ふう〜ん、伝染病でも流行ってるのか?」
「違うわよ、それなら私も死んでるわ。きっとそのチョウの毒のせいだと思うの。」
そう言って今までの経緯を話した。
「・・・というわけなのよ。」
「う〜ん・・・・。」
「なのにそのチョウときたら、ベラベラと言い訳ばっかり。挙句の果てにはハチを侮辱するのよ。」
「侮辱?」
「私たちは働き過ぎだって。一生懸命働いて何が悪いのよ。」
憎しみを込めながらナギサを睨む。
するとムーは「働きすぎ・・・・」と唸った。
腕を組み、険しい顔で空を見上げる。
「あのさ、もしかしたらそれが原因なんじゃないの?」
「なにが?」
「だってさ、ナギサの毒をもらうようになってから、今までの何倍も働くようになったんだろ?」
「そうよ。疲れも辛さも吹っ飛ぶから、今までの10倍は働いたわね。」
「多分それだよ。それが原因でみんな死んでいったんだ。」
「・・・・どういうこと?」
女王は不思議そうに首をひねる。
ムーはこう説明した。
「人間の世界にはさ、過労死ってのがあるらしいぜ。」
「何よそれ?」
「働きすぎて死ぬこと。」
「意味が分からないわ。生きる為に働くのに、どうして働いて死ぬのよ。」
「限界を超えて働くからだよ。誰だって休息が必要だろ?働いたら疲れるから。
でもそれを無視して働きすぎるから、限界を超えた瞬間にパタっと逝っちゃうらしいんだよ。」
「そんなの初めて聞いたわ。」
虫の世界に・・・・いや、人間以外の世界に過労死などない。
疲れれば休むのが当然だからだ。
それを無視して働くのは人間・・・・いや、日本人くらいだろう。
「生きる為に働いてるのに、そのせいで死ぬ人間がいるんだ。」
「ハチはそんなことしないわ。いくら働くのが好きだからって、そこまでは・・・・、」
「普通はしないだろうな。でもアルカロイドのせいで普段より働いてたはずだろ?」
「・・・・・・あ。」
固まる女王。
ナギサも「なるほど」と頷いた。
「私の毒のせいで、疲れたら休むってことが出来なくなってたのね。」
「多分な。それ以外に突然死の理由が思いつかない。」
過労死。
虫の世界にはない現象。
というよりそんな概念自体がない。
女王はワナワナと震えだした。
「そんな・・・・いっぱい働けば、たくさん蜜も溜まるし、仲間だって増える。いい事ずくめのはずじゃないの!?」
「ないんだろうなあ。だって働きすぎて死ぬ人間がいるんだから。
俺らだって生き物だから、体力に限界はある。疲れたら休むし、睡眠だって取るし。」
そう、虫も睡眠を取る。
例えば夜行性の虫なら、昼間は草陰などで眠っている。
餌を取ったり巣を作る時など、働く時間帯は決まっていて、それ以外は休んでいるのだ。
中にはまったく寝ない虫もいるというが、睡眠を取る虫の方が圧倒的に多い。
「そんな・・・・そんなのって・・・・。」
働きすぎて死ぬ。
いい事だらけだと思っていた労働力の倍増は、死という危険と隣り合わせだったのだ。
働いたら、休む。
疲れたら、眠る。
あえて働かない時間を作った方が、結果的には労働率が上がる。
ムーの意見を聞いて、女王は仲間の死を申し訳なく思った。
「ごめんなさいみんな・・・・こんな事になるなんて思わなくて・・・・。」
ナギサも暗い顔で俯く。
「私のせいだったのね・・・・。」
「誰のせいでもないよ。」
「でも私がアルカロイドをあげたから・・・・、」
「それは俺の提案だから。」
「でも共生関係を作りたいって言いだしたのは私だもん!」
巣にはほんの数匹のハチしかいない。
もし敵が襲来したら、イモムシを守ることは不可能だろう。
「ハチはいっぱい死んで、私たちの幼虫だってどうなるか分からない・・・・。これじゃ失敗だわ。」
女王もナギサも途方に暮れる。
お互いにとって最高だと思った関係は、過労死という不幸な出来事のせいで幕を閉じた。
異なる種族が手を結ぶことで、生存率を上げる。
共生は理想的な関係だが、それはお互いが得をしてこそ。
噛み合わない利益の提供は、共生どころか不幸をもたらしてしまった。
この日を最後に、ウスバアゲハとマルハナバチの共生関係は終わった。
アルカロイドを摂取しなくなったハチは、突然死することがなくなった。
じょじょに数も増え、巣も破綻せずにすんだ。
ムーの言ったことは正しかったのだ。
イモムシは巣を追い出され、自分の力で生きていくことになった。
それ以来、ナギサは共生をしたいとは言い出さなくなった。
イモムシの頃は危険でも、それをどうにか生き抜くしないのだ。
アビーはムーからその話を聞いて、「大変だったのねえ」と呟いた。
「でも一回失敗したからって、諦めなくてもいいのにね。探せばウスバアゲハにとって最高の共生相手が見つかるかもしれないのに。」
「それを見つけるのが大変なのさ。」
キマダラルリツバメとハリブトシリアゲアリ。
両者の共生関係は、一朝一夕のものではないだろう。
手を組む相手を間違え、共生のつもりが寄生されてしまった生き物もいるだろう。
理想的に見えるその関係は、きっと多くの犠牲の上に成り立っている。
この先、ナギサがまた共生を求めるかどうかは分からない。
しかし今はゴメンだと思っていた。
虚ろな目をしながら、地面を這うイモムシを見つめていた。

 

虫の戦争 イラスト(12)

  • 2017.11.27 Monday
  • 12:14

JUGEMテーマ:イラスト

 

     白銀の中で

 

虫の戦争 第十七話 白銀ナイト(1)

  • 2017.11.27 Monday
  • 12:11

JUGEMテーマ:自作小説

冬は死神の季節である。
少なくとも虫にとっては。
夏、あれほど涌いていた虫たちは、寒さの到来と共に消え失せた。
死ぬ者もいれば、越冬する者もいる。
どちらにせよ、暖かい季節のように、地表を動き回ることは出来ないのだ。
・・・・ある一部の虫を除いては。
冬、雪が積もった川原に行くと、せっせと歩いている虫を見ることができる。
カワゲラだ。
別名「雪虫」とも呼ばれ、俳句の季語にもなっている。
とても原始的な昆虫で、何億年も前からほとんど姿を変えていない。
大きさは一センチほどで、羽はあったりなかったりと、種類によって違う。
細長い体形をしていて、脚の生えたイモムシのように見えなくもない。
幼虫の時は水の中で過ごし、成虫になると陸へ上がる。
カワゲラは雪が積もる季節になると、寒さを我慢して地表を歩く。
なぜそんなことをするのかというと、幼虫時代に下流へ流されてしまうことがあるからだ。
普段は岩の裏側などにくっついているが、何かの拍子で流されてしまうことがある。
下流の環境はカワゲラにといって良いものではなく、酷い時などは海まで流れて死んでしまう。
大人になり、川から這い出たカワゲラは、流されてしまった分だけ登らないといけないのだ。
今年、アビーたちが暮らす町にも雪が降った。
夜中から降り続けた粉雪は、陽が昇る頃には10センチほどの嵩になっていた。
日曜日ということもあり、土手には人間の子供の姿が溢れている。
定番の雪だるま、正月にやりそびれた凧揚げなど、冬という季節を満喫していた。
「人間はいいなあ。冬でも自由に動けるんだから。」
捨ててあったパンを毛布にしながら、ムーが愚痴る。
「ほんとよねえ。恒温動物って羨ましいわ。」
拾ってきた手ぬぐいに包まって、アビーが頷く。
ちなみに恒温動物とは、体温が変わらない生き物のことだ。
哺乳類、鳥類がこれにあたる。
それ以外の生き物は、周りの環境によって体温が変化する。
これを変温動物という。
虫も含めた小動物たちは、寒い季節には行動に制約を受けるのだ。
ちなみに同じ変温動物でも、魚は制約を受けにくい。
なぜなら水温というのは、気温よりも変化が少ないからだ。
冬でも泳いでいる魚がいるのは、この為である。
いつでも自由に動き回れる人間は、虫たちにとって羨ましいことこの上ない。
しかしカワゲラは冬でも地表に出てくる。
そうしないと環境の悪い場所で産卵をしないといけないからだ。
アビーは雪の上を歩くカワゲラを見つけた。
クロカワゲラという、羽を持つ種類だ。
「こんにちわ。」
声をかけると、怪訝な目を向けられた。
「なによアンタたち。冬に動き回ってちゃ死ぬわよ?」
「だから毛布にくるまってるのよ。」
「どこが毛布よ。ただの薄汚れた手ぬぐいじゃない。」
「けっこうあったかいのよ、ねえムー?」
「そうだぜ。このロールパンの切れ端なんか、断熱性が抜群なんだ。」
「ちょっとカビが生えてるじゃない。」
「ん?まあ細かいことは気にしない主義なんだ。」
「どうでもいいけど邪魔はしないでね。私には目指す場所があるんだから。」
雪の上をせっせと這っていくカワゲラ。
アビーが「どうして飛ばないの?」と尋ねた。
「せっかく羽があるんだから、飛んだ方が早いでしょ?」
「寒いから。」
「え?」
「冬は風が強いでしょ?モロに冷気を受けるじゃない。」
「ああ、なるほど。」
「それに私はそこまで飛ぶのは得意じゃないから。ハチやカナブンが羨ましいわ。」
せっかく羽があっても、この寒さでは使えない。
過酷な道のりだろうと、歩いていくしかないのだ。
「ここから2キロほど上流が、私たちカワゲラの溜まり場なの。そこまで行けばゴールよ。」
「じゃあさ、一緒について行ってあげる。」
「おう、ボディガードだぜ。」
「アンタらなんか役に立つの?」
「こう見えても妖精種よ。」
「そりゃ見れば分かるけどさ。二匹ともチンチクリンって感じじゃない。」
「チンチクリンはムーだけ、私はしっかり者だから。」
「いいや、アビーこそチンチクリンだね。俺こそが賢者だ。」
「どっちも似たようなもんでしょ。」
うるさいアビーたちを無視して、先を歩いていく。
道のり自体は平坦だ。
何せ雪が積もっているので、歩きやすいことこの上ない。
体重が軽い虫は、いくら歩いても雪に沈むことはないのだ。
しかし2キロという距離は遠い。
飛んで行くならあっという間だが、徒歩でとなると行軍に近い。
道のりは平坦でも、たどり着くまでに幾つもの危険が待っているのだから。
「あ!危ない!!」
遠くからボールが飛んでくる。
アビーは手ぬぐいを脱ぎ捨て、カワゲラを抱えて空に舞った。
ドッゴン!!と大きな音を立て、野球ボールが雪にめり込む。
虫からすれば、戦艦大和の主砲を撃たれたような衝撃だ。
「危なかったあ・・・・大丈夫?」
「なんとか。それよりさ、このまま運んで行ってくれるとありがたいんだけど。」
「そうしたいんだけど、飛んでると寒くて。」
カワゲラの言った通り、冬の飛行はこたえる。
変温動物のアビーにとって、冷気は天敵なのだ。
そっとカワゲラを落とし、再び手ぬぐいにくるまる。
すると今度はムーが「危ない!」と叫んだ。
先ほどのボールを取りに、人間の子供が走ってきたのだ。
ズズン・・・ズズン・・・と辺りが揺れる。
アビーたちにとってはシン・ゴジラの襲来に近い。
「逃げるぞ早く!」
虫にとって人間の子供は天敵である。
殺されるだけではすまない。
脚や羽をちぎられて、散々弄ばれた後に、ポイっと捨てられてしまうのだ。
「こっち来んな!猿モドキの幼虫!」
冬の空は寒いが、懸命に羽ばたいて難を逃れた。
「寒う・・・・、」
ムーはブルっと震える。
急いで逃げ出したので、パンを捨ててしまったのだ。
それはアビーも同じで、手ぬぐいは子供の傍にある。
「死ぬ・・・・。」
二匹で身を寄せ合うが、変温動物なので暖まらない。
カワゲラは「だから言ったのに」と呆れた。
「とっとと巣に帰りなよ。」
「ここまで来たら最後まで付き合うわ。」
「どうせ帰っても暇だし。」
二匹は妖精の蜜を吐き出し、ピザ生地のように伸ばした。
「こうやって身体に巻いとけば、ちょっとは楽になるわ。」
「便利なもんだね、妖精は。」
カワゲラは気合で歩いていく。
身を切る寒さは堪えるが、過酷な自然に負けては生きていけない。
途中、また子供のボールが飛んできたが、臆することなく進み続けた。
・・・目的地まで、ようやくあと1キロの所までやってきた。
カワゲラは「もうちょっとだね」と、辿った足跡を振り返る。
しかし残念ながら、虫の体重では足跡は残らない。
頭の中に歩いた分を想像し、自分を励ます。
ゴールまであと半分、気合を入れて歩みだすが、思わぬ障害が立ちはだかった。
「なんだいこりゃ・・・・・。」
10メートルほど先に、コンクリートの段差が出現したのだ。
高さはざっと50センチ。
「去年はこんなもんなかったのに。」
「これ堰ね。」
「堰?」
「ほら見てよ、川の方まで伸びてる。」
段差は川を横切って、対岸まで続いている。
「去年に大雨があって、土手が水浸しになったのよ。」
「知ってるよ、それでアタイも流されたんだから。」
「だから人間が堰を作ったの。」
「また余計なことを。」
顔をしかめながら、コンクリートの壁を登っていく。
だが苦難は終わらない。
登りきったその先には、恐ろしい敵が待ち構えていたのだ。
なんと人間の子供が立ち小便をしていた。
カワゲラはその直撃を受けて、雪の中にめり込んでしまう。
「ちくしょおおおおお!」
子供の小便を受けながら、雪の最新部まで沈んでしまった。
やがて黄色い濁流はやみ、人間の子供が去っていく。
アビーは「大丈夫?」と雪の中を覗き込んだ。
「大丈夫なもんか・・・・こんだけ埋まってるのに。」
「ちょっと待ってて。」
アビーとムーはよっこらしょっと引っ張る。
辺りの雪は黄色く染まり、ツンと鼻をつく臭いがした。
「ほんとに人間め・・・・。」
オシッコにもめげることなく、目的地を目指していく。
しかしそこへ次なる刺客が。
オレンジ色の羽毛をした小鳥が襲いかかってきたのだ。
この鳥の名はジョウビタキ。
冬になると日本へやってくる渡り鳥だ。
オスは鮮やかなオレンジの羽毛をしていて、頭は白く、顔は黒い。
メスは褐色系で、オスほど鮮やかではない。
キジやカモ、クジャクの場合もそうだが、鳥はオスの方が鮮やかな色彩をしている。
派手な色でメスの注意を惹く為だ。
中にはダンスを踊ってメスにアピールする鳥もいる。
今、目の前に現れたのはオスのジョウビタキ。
この鳥は雑食性で、昆虫や木の実を食べる。
当然カワゲラも食事の中に含まれる。
「あ・・ああ・・・・・、」
天敵に睨まれて、慌てて逃げる。
しかし鳥の翼から逃げられるわけがない。
舞い上がったジョウビタキは、隕石のごとくカワゲラに飛びかかった。
「ムー!」
アビーが叫ぶ。
「任せろ!」」と叫んで、巨大なタランチュラに変身した。
人間の手の平ほどもあるこのクモの名は、ゴライアスバードイーター。
アマゾンに生息する世界最大のクモだ。
特別大きな個体になると、大人の両手の大きさを超える
毒はそう強くはないが、その巨体ゆえに牙の威力は絶大だ。
全身を鋭い体毛で覆っていて、この毛を撒き散らすことで、敵から身を守る。
ちなみにバードイーターとい名前がついているが、本当に鳥を食うわけではない。
その大きさゆえに、鳥さえも捕食してしまいそうな印象を与えているのだ。
性質は獰猛で、巨大なムカデと渡り合うこともある。
日本の野生下にはまずいない虫だが、その虫が目の前に現れて、ジョウビタキは「ぎゃあ!」と悲鳴を上げた。
「な、な、な・・・・なんだこりゃ・・・。クモか?」
「外国産のな。その気になれば、お前ていどの小鳥なら仕留められるぜ。」
そう言って「シュー!」という威嚇音を鳴らした。
歩けば音がするほどの大きなタランチュラ。
そんなものに睨まれては、さすがの鳥も退散するしかなかった。
「逃がすか!」
ムーは思い切り飛びかかる。
彼は今、鳥に恨みを抱いていた。
去年の初夏、ゴイサギに生餌として利用されてしまったからだ。
何度も何度も川に落とされて、最後の最後は食われてしまった。
『お前は奴隷だ。』
あの時ゴイサギに言われた一言は、怒りの炎となって胸に残っている。
ムーにとって、鳥は人間の次に憎い生き物なのだ。
「鳥なんざロクなもんじゃねえ!たまには虫に食われりゃいいんだ!!」
ゴライアスバードイーターの脚先は、硬い爪になっている。
俊敏なこのクモは、ジョウビタキが空へ逃げる前に、その爪で引っかけた。
「ひいい!やめろ!!」
「嫌だね。」
開脚20センチを超える脚で、ガッチリと抱え込む。
拘束具で縛り上げられたかのように、ジョウビタキは身動きが取れない。
ムーは上体を持ち上げ、小型犬ほどもある牙で、首元を突き刺した。
「ぎゃッ・・・・、」
短い悲鳴が響く。
いくらこのクモの毒性が強くないといっても、小鳥にとっては致命傷となる。
ムーはありったけの毒を注いで、哀れな小鳥の体内を溶かした。
溶けた肉はタランチュラにとって最高のスープ。
ゴクゴクと吸い上げて、「げふ」とげっぷをした。
恐ろしい天敵がいなくなり、カワゲラはほっとする。
人間に堰に鳥。
たった2キロの道のりだが、カワゲラにとっては過酷な冒険だ。
アビーとムーはそれからもカワゲラを守り続けた。
溶けた雪にはまったのを助けたり、危うく道を間違えそうになったり。
紆余曲折あったものの、どうにか目的地までたどり着くことが出来た。
「ありがとう。アンタらのおかげで安心して卵を産めるわ。」
最初は頼りなさそうな奴らだと思ったが、約束通りボディガードを務めてくれた。
「なんにもお返しはできないけど・・・・。」
「いいのそんなの。」
「虫だって助け合いが必要だぜ。俺たちは弱肉強食だけで成り立ってるわけじゃないんだから。」
カワゲラは「ほんとにもうね・・・言葉もないっていうか」と感極まる。
「アンタらがいなきゃとうに死んでたわ。この恩・・・・絶対に忘れないから。」
「じゃあね、カワゲラさん。」
「いつかまた。」
手を振り、カワゲラの元を後にする。
あのカワゲラがちゃんと卵を産み、その子が育つかは、誰にも分からない。
しかしまだ見ぬ可能性にこそ、大きな希望が詰まっている。
先ほどムーが言った通り、自然界は弱肉強食だけで成り立っているわけではない。
人間以外の生き物だって、時に割に合わない行動をすることがあるのだ。
ライオンのメスが小鹿を育てたり、シャチが遊びでアザラシを殺したり。
良くも悪くも合理的ではない行動をすることがある。
小鹿を育てるメスラインは母性のせい。
アザラシをいたぶるシャチは頭がいいからこその遊び。
理屈を付けることは可能だが、それでも合理的とは言えない。
今日、アビーとムーが行ったことは、合理的な事ではない。
多くの危険からカワゲラを守るのは、アビーたち自身にとっても危険なことだ。
それでも最後までカワゲラを守ったのはなぜか?
その答えはアビーたちにも分からない。
しかし生き物にはこういうことがある。
損得抜きに、なぜかこういう行動を取ってしまうことが。
合理的な自然界といえども、全てが理屈で成り立っているわけではないのだ。
その日の夜、また雪が降った。
今朝の雪とは違って大粒の雪だ。
暗い空から落ちてくる雪は、優雅に舞う白アゲハのよう。
アビーとムーは、手ぬぐいにくるまりながら眠った。
日中、二匹は散々に冷気を浴びてしまった。
無理して空を飛び、極端に体温を下げてしまった。
ずっと手ぬぐいにくるまっているが、いっこうに体温は上がらない。
夜に降り出した雪は、手ぬぐいをつつむほど降り注ぐ。
やがて次の朝が来る事、二匹はこの世を旅立っていた。
しかしこの世を旅立つ前に、二匹揃って同じ夢を見た。
それは今日のカワゲラのこと。
自分たちにとってなんの得もないのに、どうしてあんな行動を取ったのか?
理屈に合わないその行動に、奇妙な幸福を抱いていた。

 

「○○だからお前は○○なんだ!」と決めつける迷惑な人

  • 2017.11.27 Monday
  • 12:08

JUGEMテーマ:日常

何を食べているかで、その人が分かる・・・という言葉があります。
元は何を着ているかで、その人が分かるという言葉だったと思います。
身なり、食事。そういったもので人が分かるんだそうです。
確かにその通りかもしれません。
高い服を着てるんなら金持ちだろうし、しょっちゅう上手い物を食べてるならグルメだろうし。
ちなみに私はジャンクフードが好きです。
そして服装は動きやすいものが好きです。
オシャレをするのも好きですが、特別にどこかへ出かける時とか、滅多に会わない人に会う時でもでなければ、凝った格好はしません。
あまりにダサい格好は嫌ですが、普段は特別に服装にこだわろうとも思いません。
食べ物も同じで、味も気にするけど、腹が膨れるかどうかも、それと同じほどに気にします。
いかに上手い食べ物であれ、高価で量が少ないのならば、まず手は出しません。
服装や食事で人の成りが分かるのは本当のことだと思いますが、全て分かるわけではないはずです。
この人は金持ちなんだとか、グルメなんだとか、オシャレなんだとか、食事は量が優先なんだとか、あくまで服や食に直結する部分のみしか見えてきません。
なんでもそうだけど、何かにこだわる人って、自分が好きな道の事においては、万全の自信を持って人に判断を下します。
私にだってそういうところはあって、例えば高価な一眼レフに安価なレンズを着けている人がいたら、「この人は何も分かってないんだな」なんて思ったりします。
カメラの画質を最大限引き出すには、それなりのレンズが必要です。
高価なカメラと安価なカメラの組み合わせは、最も最悪なものです。
藤原信也さんのように、あえて安価なレンズのチープさを活かすという考えがあるなら別ですが。
ただ仮にそうだとしても、カメラが高価である必要はありません。
それならまだ安価なカメラに高価なレンズの方が良い組み合わせです。
レンズが良いならそれなりの写りになるものですから。
だけどそれはあくまでカメラの話であって、他の部分にまで結びつけて評価するものではありません。
「この人は○○だから○○に違いない」
そう断言する人がいたら、確実に間違っています。
元2ちゃんねる管理人のひろゆきさんじゃないけど、「それはあなたの感想ですよね?」となって終わりです。
服でも食でもカメラでも、たった一つのことを持って、人に判断を下すことはできません。
しかしなぜだか「服装で人が分かる」とか、「食べている物で人が分かる」だなんて、トンチンカンな言葉を残す人がいます。
だったら逆にこう返したい。
「自分のこだわりでしか人を見ることが出来ないなんて、自分勝手な人ですね」と。
視野が狭いということも付け加えたいですね。
人は単純な生き物だとは思いますが、生きていくこと自体は複雑です。
他の生き物も同じです。
虫なんて人に比べたらとてもシンプルな構造だけど、自然界での役割は複雑なものになっています。
理由は簡単で、他の生き物と関わり合いながら生きているからです。
だからこそ安易に一つの種族を駆除すると、後から思わぬところでしっぺ返しを喰らったりするわけです。
年間20人近くの命を奪うスズメバチも、もしいなくなってしまえば他のハチが増えてしまうだけです。
増えたハチはどのように自然界や人間界に影響をもたらすか分かりません。
人の生活圏の防衛の為にスズメバチの駆除は必要だとしても、山の中にまで踏み込んで駆除しないのはこの為です。
人が人に対して判断を下すのは難しいです。
もちろんやらなきゃいけない場合もあります。
学校の先生、職場の上司、警察や検察、それに裁判官。
ただしこれらの立場にある人は、あくまで仕事や学業、その人の犯した罪に限定された、部分的な判断です。
一から十まで「この人はこうだ」なんて言えるわけがありません。
「お前は○○だから○○だ。だからダメなんだ」と言われて、腹が立ったり傷ついたリした人もいるでしょう。
だから私は、そういう人に対してこう思うことにしています。
こいつはアホなんだ・・・・と。
論理的な議論が強い人ほど、大声で屁理屈を喚く人を相手にしません。
昔の哲学者が言ったように「馬鹿と議論するな、傍から見たらどっちが馬鹿か分からない」ってやつです。
自分のこだわりだけを見て、なんでも決めてかかる人はいます。
きっと昔からいるんだろうし、これからもい続けるんでしょう。
まったく迷惑な話ではありますが、そういった人はそういった人で、何かしらの役に立っている可能性もあります。
「田んぼを荒らすスズメを駆除したら、害虫が増えてしまった」というような、予測しない悪い出来事さえも起こるかもしれません。
だからやっぱり、そういった人たちは相手にしないのが一番です。
人は単純だけど、人生は複雑なんですから。

 

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