短編小説「去年の夏」

  • 2020.06.30 Tuesday
  • 16:24

JUGEMテーマ:自作小説

夏、酒を飲んで浮かれることも多いだろう。
地元に帰って昔の友達と会った時なんかは特に。
俺は古いトンネルの前に佇みながら、去年の夏を思い出す。
この一年間、ずっと気分が沈んでいる。
あんな事があったせいでずっと・・・・。

 

     *

 

去年の夏こと、地元へ帰った時に同級生と酒を飲んだ。
同じ部活で特に仲の良かった奴らと集まったのだ。
高校を出てから10年。
滅多に会わなくなった奴がほとんどで、なかなか楽しい夜だった。
一次会、二次会と続き、ほんとならそれでお開きだった。
けどみんなで集まるなんてほんとに久しぶりだったし、酒の勢いもあって肝試しに行こうとなった。
一人下戸がいるので、そいつが車を出すことになった。
場所はどこがいいか話し合った。
やっぱり一番はあそこだろうと、町の外れにあるトンネルへ向かうことにした。
隣には大きな街があって、このトンネルを通るのが一番近い。
けどその分交通量も多く、しかも狭いときてる。
長さはそんなにないんだけど、照明がショボイせいで中はかなり暗い。
なもんだから事故が多い。・・・・いや、多かった。
老朽化の進んだトンネルは、事故防止も兼ねて使われなくなった。
今は少し離れた場所に新しいトンネルが出来ている。
こっちはとても広いし明るい。歩道もかなりの幅があるので事故はほぼ皆無である。
こんな場所で肝試しをしても面白くない。
だから事故の多かった旧トンネルへ向かった。
町の外れにある坂道を登る。
トンネルへ続く細い別れ道の前には立入禁止のロープが張られていた。
俺たちは路肩に車を停め、徒歩で入口まで向かう。
まずトンネルってのは山を通すものだ。
だから旧トンネルへ続く道は草木が茂っていた。
ライトを照らすと気持ち悪い虫が足元を這って逃げていく。
伸びた枝が行く手を阻み、道路には蔦が伸び、ピー!だのギャ!だの鳥だか動物だかの不気味な鳴き声が響いてくる。
それらを我慢して奥へ進むとトンネルの入口が現れる。
当たり前のことだけど中は真っ暗だ。
ライトを向けると余計に不気味だった。
ヒビ割れたコンクリートの壁、二度と灯ることのない電灯、それに舗装されなくなったアスファルトの道は雑草が根を張ってでこぼこしている。
なにより怖いのは、ここは事故が多発した場所ということだ。
噂は絶えない。
夜に一人で帰っていた学生が幽霊の声を聴いただの、車のルームミラーに人の顔が映っていただの。
後ろからとつぜん誰かに肩を叩かれて、服を脱いだら手形が付いていただの。
数え上げればキリがないほどだ。
その中でも一番多い噂が、ボサボサ頭にモジャモジャの髭をした幽霊に追いかけられたって話だ。
奇声を上げながら走ってきて、車に乗っても追いかけようとしてくるらしい。
今まで耳にした噂が蘇り、恐怖が増していく。
俺一人なら間違いなく引き返しているだろう。そもそも来なかっただろうけど。
他の連中も顔が引きつっていた。
さっきまでの酒の勢いはどこへやら。
誰もが無口になる。
俺たちはしばらく立ち尽くす。
そして誰かがこう言った。
「ジャンケンして負けた奴だけ行くってのは?」
すると別の奴がこう答えた。
「あみだクジで負けた奴にしよう。」
するとまた別の奴がこう言った。
「・・・・帰らないか?」
またみんな無言になる。
でも答えはもう決まっていて、誰ともなく足が車を停めてある方へ向かい出す。
・・・・その時だった。
後ろから誰かがついて来る足音がしたのだ。
みんな立ち止まり、振り返る。
足音は確実に迫っていて、だんだん距離を縮めてくる。
一人が恐怖に耐えかねて後ずさる。
別の一人は逃げる体勢に入る。
そしてもう一人は思い切ってライトを照らした。
真っ暗な夜道の向こう、光が切り裂いた先に人の姿があった。
ボサボサの髪にモジャモジャの髭。服はボロボロだった。
目は血走っていて、わけの分からない寄声を上げながら走って来る。
俺たちは一目散に逃げ出した。
足がもつれそうになる・・・・でも足音は追いかけてくる・・・・だから余計にもつれそうになる・・・・・。
それでもなんとか車にたどり着いた。
俺の車じゃないけど、慌てていたから運転席に乗り込んでしまった。
「早く出せ!」
鍵を渡され、エンジンを掛ける。
ギアをドライブに入れ、サイドブレーキを下ろした時だった。
奇声と共に足音が追いかけてきて、ドンドンドン!と車を叩いた。
車内はパニックになる・・・・・・・・。
もう何かを考えている余裕はない。
アクセルを踏み込んで急発進させた。
猛スピードで坂道を下る。トンネルから離れていく。
でもまだパニックは収まらなくて、俺たちはみんな青い顔をしていた。
とにかくもっとトンネルから離れないといけない・・・・。
法定速度なんて無視して夜道を突っ切る。
・・・・そして事故を起こした。
赤信号を見落としてしまったのだ。
右から車が走ってくる。
俺は咄嗟にハンドルを切った。
相手も急ブレーキを掛けたみたいで、キュキュキュ!とタイヤと道路の摩擦音が耳を刺す。
けど合わなかった。
俺たちの車の後ろに、相手の車のフロントの角がぶつかる。
すごい音がした・・・・・ひっくり返るかと思うほどの衝撃があった・・・・。
俺たちは電柱にぶつかり、相手は歩道を乗り上げてコンビの車止めにぶつかっていた。
「どこ見てんだテメエ!」
車から厳つい感じのオジサンが降りてくる。
コンビニの店員さんが何事かと顔を覗かせている。
俺たちはただただ呆然としていた。
やがて警察が来る。事情を聴かれる。
「実はトンネルに肝試しに行って、そこで誰かに追いかけられて・・・・、」
言葉に詰まりそうになりながらたどたどしく説明する。
話を聞き終えた警官は、表情を険しくしてこう言った。
「つまり酒飲んで運転してたのね?」
「え?」
「あんた酒入ってるんでしょ。」
「いや、ええっと・・・・・、」
「これ君の車?」
「違います・・・・。」
「行く時に運転してた下戸の子は誰?」
「助手席の奴で・・・・・、」
「行きはその子が運転して、帰りは君だった。だから運転席に座ってるんでしょ?」
「はい、まあ・・・・。」
「じゃあ飲酒でしょうが。」
「で、でもいきなり誰かに追いかけられたから・・・・、」
「そもそも旧トンネルは立入禁止でしょうが。」
「中には入ってませんよ!途中で引き返して・・・・・、
「旧トンネルへ続く別れ道にロープ張ってあったでしょ。立入禁止って。」
「まあ・・・・。」
「この季節になるとよくいるんだよ。ああいう場所に行ってトラブル起こす奴が。なんで行ったの?」
「ちょっと肝試しに・・・・・、」
「ほらそうでしょ。そういうこと言ってるんだよ。」
「・・・・・・・・。」
「だいたいさ、老朽化して危ないから立入禁止なんだよ。」
警官は「現行ね」と手錠を取り出す。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「抵抗しない方がいいよ。」
「でもいきなりそんな・・・・、」
「大量に酒飲んで事故起こしてさ、捕まるに決まってるでしょ。」
「だけどアイツが悪いんですよ!あの変な奴がいきなり追いかけて来るから慌てて逃げ出したんです!
あそこが立入禁止なら、アイツだって悪いわけじゃないですか!」
「あとで調べる。」
「今から調べて下さい。アイツが追いかけて来なかったらこんな事にならなかった!」
「だから言ったでしょ。トラブル起こすって。」
「はい?」
「ああいう場所は誰が入り込んでるか分からないんだからさ。仕事も家もない人が雨風凌ぐのに使ったりとかあるんだよ。」
「ホームレス?」
「かもしれない。まあとりあえず署まで来てよ。」
俺は手錠を填められた。
そして警察はトンネルへ行き、俺たちを追いかけたアイツを調べてくれた。
しかし誰もいなかったという。
そんなはずはないと訴えたけど無駄だった。
この年、俺にとっては史上最悪の夏になったのだった。

 

     *

 

翌年の夏、俺は免許を持っていなかった。しばらく持つことが許されないからだ。
あの事故では幸い怪我人はいなかった。
だけどそれでも相応の罰は食らうことになった。
運転が出来ないと不便なもので、配達をやっていたから仕事もクビになってしまった。
今は地元に戻り、バイトで食いつないでいる。
あの時のメンバーとはもう連絡を取り合っていない。
互いに気まずくなってしまったから。
去年は本当に最悪の夏だった。
一年経った今でも気分は沈んだままだ。
・・・・・俺はトンネルの前に佇む。
ゆっくりと足を踏み入れ、夜になるまでひたすら待った。
真っ暗な中、外から響いてくる鳥だかなんだか分からない鳴き声を聴きながら。
最初は怖かった。けどもう慣れた。
こうして夜のトンネルで過ごすのは今日で10日目だからだ。
誰もいないトンネルの中、一人で時間が過ぎるのを待つ。
そしてとうとうお目当ての獲物がやって来た。
外から声が聴こえる。
おそらく若い男女のグループだろう。
「やっぱり怖い」とか「私ぜったいムリ!」とか叫んでいる。
怖がる女に良いところを見せようと、男が「俺がついてるから」とか「なんかあったら守るから」なんて言っている。
入口付近をウロウロしながら、入ろうかどうしようか迷っていた。
俺はカツラを被り、髪をボサボサにかき乱す。
そして仙人みたいなモジャモジャの髭を付けた。
やがてライトが中を照らした。
一筋の光がトンネルの闇を切り裂き、ゆっくりと移動しながら俺の顔を直撃する。
何も見えない・・・・でもライトの持ち主がどういう感情を抱いているのかは分かる。
トンネルの外から悲鳴が上がった。
続いて誰かが逃げ出す足音。
「置いてかないでよ!」と女も駆け出す。
俺は立ち上がり、これみよがしに足音を響かせながら追いかけた。
「車!早く車に!」
逃げていく獲物たち。
俺は奇声を上げながらダッシュした。
「来た!ちょっと・・・・、」
「シュウジ!車!運転早く・・・・、」
「いや運転はお前だろ!俺酒飲んで・・・・、」
「じゃあ運転席に乗るんじゃねえよ!」
席を代わろうとしている。
俺は車に飛びかかり、ドンドンドン!と窓を叩いた。
また悲鳴が上がる。
車内がパニックになる。
そしてタイヤをスリップさせながら猛スピードで走り去っていった。
「・・・・・・・・。」
彼らは逃げていった。でも獲物を逃がしたわけじゃない。
俺としては出来る限りのことはやったわけで、後は運に任せるしかないのだ。
しばらく息を潜める。
じっと耳を澄ます。
・・・・数十秒後、遠くから音が聴こえた。
急ブレーキの音と、何かががぶつかる凄まじい衝突音が。
俺は笑いを噛み殺す。
吹き出しそうな口元を押さえ、誰にも見つからないようにトンネルから離れていく。
去年の夏から沈んでいた気分がようやく晴れた。

短編小説「日暮れの待ち人」

  • 2020.06.29 Monday
  • 10:48

JUGEMテーマ:自作小説

夏の登山は辛い。
汗だくになるし喉は乾くしTシャツは貼り付くし。
それに山道の蜘蛛の巣も手強い。
木陰になるような場所では二メートルおきくらいに張り巡らされていて、こいつを払うだけでも鬱陶しい。
油断してると顔に掛かるし。
それに山頂にたどり着いたからといって涼しいとは限らない。
1000メートル級の山ならともかく、標高が400メートルと少しくらいでは大して気温は変わらない。
それでも僕は山へやって来た。
毎年思う。来年はやめとこうって。
なのに今年は今年でまた夏の登山に挑もうとしている。
別に辛い事や過酷な事が好きなわけじゃない。
なのにこうして麓までやって来て、うだるような暑さに負けまいと、すでに水を飲み始めている。
鮮烈な青さの空と、目眩がしそうなほど濃く染まった緑に、油絵の中に閉じ込められたような気分になるけど、ここまで来て踵を返すことはありえない。
トンビの鳴き声に背中を押され、麓の奥へと続く山道へ向かった。
「今から登るの?」
ふと誰かに声を掛けられる。
振り向くと細身のおばさんがいた。
足元には桶と柄杓、手には仏花を握り、手首には数珠?・・・・と思ったけど、古い縄のような物を巻いている。
ペコリと頭を下げ、柔和な表情でこっちを見る。
「山に登るの?」
「はい、ちょっと。」
相槌を打つと「男の子だもんねえ」と言われた。
「私も子供の頃にお兄ちゃんとお兄ちゃんの友達と一緒に来たんだけど、登らせてもらえなかったのよ。
女の子には無理だって。特にお前は怖がりだし引っ込み思案だからって。
疲れたりトイレに行きたくなっても言わないままで、ギリギリになって慌ててみんなを心配させるからって。
だからここで待ってろって。それか帰るか。だからずっと麓で待ってたわ。」
僕は愛想笑いを返し、すぐに登山へ向かおうかとした。
けど話しかけてくれた人を無碍にするのは悪い。
これは性格の問題なんだろうけど、気を使ってくれる人にはこっちも気を返さないとモヤモヤしてしまう。
だから「お墓参りですか?」と尋ねた。
おばさんは墓地を見渡しながらさっきと同じ話を繰り返した。
「小さい頃にね、お兄ちゃんたちと一緒に来たのよ。でも登らせてもらえなかったわ。
お前は臆病なくせに我慢強いから、歩けないほどしんどくなってから歩けないとか言ってみんなを困らせるからって。」
「きっと危ないと思ったんですよ。この山って標高は低いけど道は険しいから。途中にロープを掴まないと登れないほど急な道とかもあるし。
ずっと昔に滑落事故があったって話を聞いたことがあります。あと何年か前にも同じような事故があったらしいですよ。
小さい女の子だと危ないから、お兄さんは心配したんでしょうね。」
「でね、私はずっと待ってたのよ。一人で虫を捕まえたり、そこの小川で魚を眺めたりしながら。日が暮れるまでずっと。」
おばさんは目の前の墓石に茂る雑草を撫でる。
「おばさんはお墓参りですか?」
「男の子は力があるものね。だからお兄ちゃんたちは元気いっぱいに登って行ったわ。でも私は駄目だって。
一緒に行きたかったけど、引っ込み思案だから言えなかったわ。」
「子供なのにこの山をすぐ登るってすごいですね。僕なんか途中ですぐ息が切れて・・・・、」
「私はここで待ってなさいって。お兄ちゃんと友達はスイスイ登っていって。私は夕方になるまで一人で遊んでた。親が迎えに来るまでずっと。」
首を伸ばして山道を見つめている。
「山に登るんでしょ?」
「はい、今からちょっと。」
「私はここで待ってなさいって言われて、ずっと待ってたわ。一緒に登るって言ったらお前には無理だって。」
「・・・・・・・・。」
「一緒に行きたかったけど、怒られるのが怖くて我慢してたわ。ずっと待ってたんだから、せめてお帰りって言ってくれたらいいのに。
私はずっと待ってたのに。お前はここにいろって、お兄ちゃんは登って行って。」
「・・・・・・・・。」
何度も同じ会話が繰り返される。
こっちの話はほとんど聞いていなくて、自分の思ってることだけを話している。
僕はしばらくその場にいた。
おばさんは一歩も動かない。ずっと墓石の前に立っている。
いつまでたっても柄杓で水を掛けることもなく、仏花を供えることもしないまま。
やがて寂しそうな目で墓石に茂る雑草を撫でていた。
僕はおばさんが変わり者だとは思わない。
何度も同じ受け答えをしたって、墓石の前から一歩も動かなくたって、柄杓も仏花も手に持ったまま寂しそうに固まっていたって。
少しも変わり者だなんて思わなかった。
少し人とは違うけど、変わり者じゃない。
もっと違う理由で同じ受け答えを繰り返し、その場に佇んでいるんだろうと感じた。
でもそれは尋ねなかった。
たんなる僕の思い込みかもしれないし、おばさんにとっては聞かれたくないことかもしれないし。
「じゃあ今から登って来ます。」
「頑張ってね。」
おばさんは手を振る。
この時だけは同じ受け答えはしなかった。
僕は大変な思いをしながら山に登った。
流れる汗と喉の渇きと蜘蛛の巣と格闘しながら。
ロープを掴む急な斜面は特に気をつけた。
黒と黄色の模様をした真新しいロープに体重を預け、斜面を蹴る。
去年はもっとボロボロだった。傷んでいたから替えたんだろう。そういえば何年か前にも替わっていたことがある。
何年か毎にこうして新調するんだろう。
頑張って登って、頂上で弁当を食べた。
別に涼しくない。特別に綺麗な景色でもない。
でも夏になると無性にここへ登りたくなる。
楽しいわけでも気持ちいいわけでもないのに。
強いていうならこの場所が呼んでいるような気がするのだ。
夏になったらここへ来いって。
「もう何年もここへ来てるのに、あのおばさん初めて話しかけてきたな。今までは姿さえ見せなかったのに。
きっと似てたんだろうな。僕は童顔だし背も低いし。だったらもっと早く言ってくれれば・・・・。」
そういえば引っ込み思案だって言っていたっけ。
そのクセ我慢強くて、我慢が限界に来るまで辛いことを言い出さないって。
きっと遠慮してたんだろう。他人に頼むようなことじゃないって。
いつもなら弁当を食べて少し休んだら下山する。
だけど今年はいつもより長めに頂上にいた。
傾いていく太陽を見上げ、そろそろかなと思って山を下りていく。
麓のお墓に来るとおばさんはいなくなっていた。
変わりに小さな女の子がいて、虫を採ったり小川の魚を眺めたりしている。
やがて一人遊びにも飽きたみたいで、おばさんが立っていた墓石の前に座り、オレンジ色に染まっていく空を見上げて寂しそうな顔をした。
僕は驚かせないように近づき、腰を屈めながらこう言った。
「ただいま。」
女の子は寂しそうな顔を消し、はしゃぎ出しそうな笑顔に変わる。
「もう日暮れだし早く帰ろう。」
僕が歩き出すと、トコトコと後ろをついて来る。
そして麓から離れて田園に差し掛かる頃、僕の背中に一言だけ呟いた。
『おかえりなさい。』
一瞬だけ風が吹く。夏を思わせる草木の匂いだった。
僕は振り返らなくても分かった。後ろをついて来る気配が消えたことを。
このまま帰ろうかと思ったけど、ふと立ち止まって麓へ引き返した。
案の定、あの子はもうどこにもいない。
・・・・いや、いるにはいる。
僕の目の前、枯れ果ててボロボロに崩れた仏花が活けてある向こうに。
夏の陽は長い。夕暮れといっても、もう七時前だ。
花屋は無理でもホームセンターなら開いているだろう。
僕は車を走らせて街へ出て、もう一度山へ戻って来た。
墓前が彩る。柄杓の水に濡れる。
翌年から山に呼ばれることはなくなった。

火花

  • 2020.06.29 Monday
  • 10:47

JUGEMテーマ:

目の中に火花が上がる

 

おでこの横が痛い

 

壁掛け花壇があると分かっていたのに

 

タンコブなんて久しぶりだ

 

ちゃんと前を見よう

薄くなったサンダル

  • 2020.06.28 Sunday
  • 13:31

JUGEMテーマ:

足裏に激痛が走る

 

小石が一つ転がっていた

 

いつの間にかサンダルの底が薄くなっていて

 

痛い思いをするまで気づかないことに

 

感覚が鈍っていることを実感する

 

心は尖るクセに体は鈍る

 

最近良い事がない

今日はお休みです

  • 2020.06.27 Saturday
  • 15:04

今日はお休みです。

  • 0
    • -
    • -
    • -

    コンビナート

    • 2020.06.26 Friday
    • 14:26

    JUGEMテーマ:

    対岸が陽炎に歪む

     

    本当にそこにあるのだろうか

     

    コンビナートのシルエット

     

    赤と白の煙突

     

    全て幻に見える

     

    さっきまであそこにいたんだ

     

    陽炎のせいで曖昧になる

    短編小説「風鈴塔」

    • 2020.06.26 Friday
    • 14:15

    JUGEMテーマ:自作小説

    夏といえば風鈴。
    あの涼しい音色が僕は大好きだ。
    近所のお寺に風鈴塔と呼ばれる塔がある。
    その名の通り風鈴が付いている塔だ。
    五重の塔を小さくした感じのような建物で、高さは二メートルほどしかない。
    とても細いので中に住めるわけでもない。
    つまりオブジェだ。
    この塔には夏になると数え切れないほどの風鈴がぶら下がる。
    たくさんの風鈴がチリンチリンチリンチリンと忙しなく音を響かせるものだから、少し五月蝿く感じる時もある。
    だけど近所の人たちは慣れたもので、道路を走っていく車の音のように、日常音として聞き流していた。
    僕は暇な時はよく風鈴塔を眺めている。
    狭いアパートの二階、少し身を乗り出しながら。
    他所から来た人は珍しがって写真を撮っていくこともある。
    季節は夏の終わり、明日から九月に変わる。
    ぼんやりカレンダーを眺めつつ、風鈴塔に目を移す。
    お寺から住職が出てきて、風鈴を五個もぶら下げた。
    そして数珠を握り、手を合わせて拝む。
    「毎年八月の終わりになると増えていくな。てことは今年は五匹旅立ったわけか。」
    あの風鈴の数は命の数である。
    風鈴塔はお寺の床下や蔵に住み着く猫たちの墓標である。
    住職は野良猫に住処を提供しているのだ。
    別にどこかから拾って来るわけじゃない。
    あちこち彷徨う猫が流れ着き、居候しているのである。
    このお寺、猫たちにとってはよっぽど居心地がいいのか、一度住み着いたら離れない。
    ということはここで一生を終えるわけで、天に召される度に墓標の風鈴は増えていく。
    住職なりの供養なんだろうけど、なぜ風鈴なのかは知らない。
    そもそも決まって夏の終わりに旅立つのはどうしてだろう。
    暑さのせいで年寄りの猫なんかは耐えられなくなるんだろうか。
    いつか尋ねてみようと思いつつ、なんとなくキッカケもなくて、ずっと尋ねられないままだった。
    翌年の春、僕は大学を卒業して就職した。
    遠い街に引っ越し、四年が経つ頃には、それなりに仕事もこなせるようになって肩書きも一つ上がった。
    営業職は大変だけど、もともとの性格が向いていたのか、そうストレスを溜めずに続けられていた。
    ある夏の日のこと、出張で学生時代に住んでいた街に行った。
    案外早く仕事が終わったので、ちょっとノスタルジーにでも浸ろうかなと、街をブラブラ歩いていた。
    大学、よく行ったファミレス、彼女と喧嘩別れした映画館。
    良くも悪くも色んな思いでが詰まっている。
    そしてふと風鈴塔のことを思い出した。
    「あの頃とは比べ物にならないくらい風鈴が付いてるだろうな。」
    あの住職はどうして猫が亡くなる度に風鈴を付けていたのか?
    知らないまま街を離れてしまったことを思い出す。
    「せっかくだし行ってみるかな。」
    バスに乗り、昔住んでいたアパートの近くまでやって来る。
    向かいにあるお寺を覗き込むと、そこには予想に反して風鈴が一個も付いていない塔が立っていた。
    一瞬なんで?と思った。
    風鈴が多すぎて五月蝿いから外したのかなと考えていると、お寺から住職が出てきた。
    「住職も別の人になってるな。」
    俺の知っている人じゃなかった。
    どうしようかと迷ったけど、もう二度と来ることもないだろうから、モヤモヤした疑問を抱えたままでいたくない。
    「あの、すいません・・・・、」
    声をかけると「はい」と愛想のいい返事をくれた。
    僕は軽く自己紹介をしてから、「前にここにいた住職は?」、「塔に付いていた風鈴は?」と口早に尋ねた。
    「なるほど、向かいのアパートにおられたんですか。残念ですが前の住職は一昨年の夏に亡くなられました。
    身内に後を継ぐ方がおられなかったので、私が本山から派遣されて来まして。
    風鈴はですね・・・・あまりに数が増えたものだから音がすごくて。ご近所からやんわりとですがクレームが出たのです。
    でもあれはこのお寺の風物詩みたいなものでしょう?だからかなり悩んですけど、これ以上の苦情が出るのは良くないので取り外すことにしました。」
    「そうだったんですか。・・・あのですね、もしご存知だったら教えてほしいんですけど、どうして前の住職は風鈴を付けていたんですか?
    猫が亡くなる度に増えていったから、供養か何かだとは思うんですけど、なんで風鈴なのかなって。」
    そう尋ねると「ちょっと待っていて下さい」とお寺に引っ込んでいった。
    数分後、大きな段ボールを抱えて出てきた。
    「覗いてみて下さい。」
    言われるままに覗き込むと、たくさん風鈴が詰まっていた。
    その中には一際大きな風鈴が混ざっていた。
    住職はその大きな風鈴を手に取り、音色を奏でる。
    涼やかな音が響き、心地良さを感じた。
    すると塀を飛び越えて一匹の猫が入ってきた。
    そして境内の木陰に寝そべり、後ろ足で耳を掻きながらリラックスしていた。
    「音色に惹かれた・・・・?」
    不思議そうにする僕に「あの猫、もうこの世にはいません」と住職が言った。
    「風鈴を鳴らすと行き場のない猫の魂がやって来るんです。」
    「あの・・・・意味がよく分からないんですけど・・・・、」
    「夏は不思議な季節です。この世とあの世の境目が曖昧になり、場所によっては繋がることさえあるんですよ。このお寺のように。
    だからね、この大きな風鈴を鳴らして知らせてあげるんです。このお寺は今あの世と繋がってるぞって。
    音色に惹かれてやって来た猫は一夏の間だけここで寛いていきます。そして夏が終わる頃、この世とあの世の繋がりが消えてしまう前に天へ旅立って行くんですよ。
    塔に付いていた小さな風鈴は墓標です。夏が閉じる前に涼しい音色に乗って、苦しみや辛さから解放され、あの世へ旅立てるようにと。」
    「ええっと・・・・。」
    「そういえば前の住職とお話をされたことはありますか?」
    「いえ・・・・。」
    「ではよくご存知ない?」
    「まあ・・・・。」
    曖昧に頷くと、住職は段ボールの中から小さな風鈴を一つ取り出した。
    「これ、一昨年の夏にぶら下げた風鈴です。八月の終わり、前の住職が亡くなられた時に。」
    どういう意味か分からずに唇をすぼめていると、胸の内を見透かされたように「そのままの意味ですよ」と笑われた。
    「せっかくなので塔に付けておきましょう。一つくらいなら苦情も出ないでしょうし。」
    何もなかった塔に涼やかな音色がぶら下がる。
    すると住職は「おや?」と首を傾げた。
    「気配が似ていたのでまさかとは思ったんですが・・・・まだ旅立っていなかったのですか?何か未練が?」
    そう言って木陰で休む猫を振り返る。
    猫は大きな声で鳴きながら、尻尾をふわりと振った。
    いま気づいたんだけど尻尾が二つに分かれている・・・・・。
    まるで何かを伝えるように鳴き続け、大きな欠伸をして眠り込んだ。
    「・・・・そうですね。苦情は来るかもしれませんが、これを必要としている猫はいますものね。」
    そう言って「すみませんが手伝って頂けますか?」と、段ボールの中の風鈴を差し出された。
    かつて向かいのアパートに住んでいた頃のように、塔にたくさんの風鈴がぶら下がっていく。
    風鈴塔が復活する。
    木陰にいた猫はいつの間にか消えていた。

    梅雨の花

    • 2020.06.25 Thursday
    • 16:33

    JUGEMテーマ:

    濃い紫や薄い紫の花びらが広がって

     

    梅雨時の鬱陶しさを風情に変える

     

    遊歩道の隅でひっそりと

     

    カタツムリがゆっくりと葉っぱの上を移動していく

     

    雨の日は一段と綺麗だ

    光異

    • 2020.06.24 Wednesday
    • 10:53

    JUGEMテーマ:写真

     

     

     

     

     

    木立の中にいると光のコントラストが目立ちます。

     

     

     

     

     

     

     

    田んぼだとグラデーションは滑らかです。

    同じ天気、同じ光でも、立つ場所によって何もかもが異なった印象になりますね。

    短編小説「夏が来る前に」

    • 2020.06.23 Tuesday
    • 12:02

    JUGEMテーマ:自作小説

    俺はバッタだ。
    今年の梅雨に生まれた。
    まだ羽も生えてない小さな身体だけど、ジャンプ力には自信がある。
    だけど今日、向こう岸までのジャンプが届かなくて用水路に落ちてしまった。
    ああ終わった・・・・。
    俺は夏を謳歌することが出来ないんだ・・・・。
    いやまあ、もう何度もこの世に生まれ変わってるから、去年も一昨年も夏は謳歌したんだけど、今年は今年で楽しみたいじゃないか。
    でもそれも無理だ。
    バッタの俺じゃ用水路の水でさえ大河の激流に飲み込まれたのと同じだから。
    さよならこの世、またいつか生まれ変わる日まで・・・・。
    そう思いながら水に流されていると、巨大な手に掬われた。
    見上げると人間がいた。
    ああヤバイ・・・・。
    すぐに逃げ出そうと思ったけど、ふと思いとどまった。
    用水路に落ちた小さなバッタを助けるこの人間、悪いヤツじゃないのかもしれない。
    顔を見るとしょぼくれていて、ぜんぜん自信のない感じがした。
    なにか悩んでるみたいだ。
    人間てのはとにかく悩みがいっぱいらしいから、こいつもきっとそうなんだろう。
    まあ命を助けてもらったわけだし、ここは一つ恩返をしするのも悪くない。
    実はこれ内緒のことなんだけど、虫は人間の言葉が分かる。
    喋りかけることだって出来るんだ。
    理由は簡単。
    俺たちは妖精の末裔だからだ。
    そのおかげで、そう大したもんじゃないけど魔法が使える。
    あと妖精の体質的に、死んでも一年すれば同じ姿で生まれ変わってくるし。
    人間が知らないだけで、虫ってのは意外とすごいモンなんだ。
    ただいきなり話しかけるとビックリして、踏み潰されたり捕まえられたりするかもしれない。
    そこでこいつの顔だけしっかり覚えておいて、今日の夜に夢で話しかけてみることにした。
    やがて夜が来て、俺はちょっとした魔法を使った。
    出会ったことのある人間の夢に出るって魔法を。
    ただし顔を覚えておかなきゃいけないんで、何日も経ってからじゃ使えない時もあるけど。
    人間は夢ってやつを現実とは思わない。
    だからバッタの俺が話しかけても特に驚いたりはしなかった。
    『今日は助けてもらってありがとな。お返しになんか出来ることあるか?』
    人間は悩みを打ち明けた。
    なんとこいつ、人間を辞めたいらしい。
    でもって他の生き物に生まれ変わりたいと言う。
    『もう人間は疲れた・・・・それに人生にも飽きた・・・・。これ以上生きる自信もないし、自殺でもしようかと思ってたところなんだ。
    けど死ぬのはやっぱり怖い。出来るなら人間以外の生き物になりたいな・・・・・。』
    俺は『じゃあ何に生まれ変わりたいんだよ?』と尋ねてやった。
    『何も考えなくていい生き物に。』
    そんなことを言うのでこう返してやった。
    『悪いけど他の生き物に変えてやる魔法は使えないんだ。でも考えなくていいだけなら出来るぜ。』
    俺はちょっとした魔法を使った。
    『あんたに恩返しをしてやるよ。嫌なことや辛いことがある度に考える力が減っていく魔法を掛けた。これで楽になるはずだぜ。』
    人間はまだ自信のない顔のまま辛そうにしてたけど、これ以上話を聞くこともない。
    『これで借りは返したからな。じゃあな。』
    良いことをすると気分がいい。
    俺はピョンと夢の中から飛び出した。
    ・・・・それから二ヶ月が過ぎて夏になった。
    八月は暑い。雲も高いし緑がギラギラしてる。
    いいじゃないか、夏ってやつは。この解放感と高揚感。
    素晴らしいの一言に尽きる!
    ああ、生きててよかったあ・・・・。
    これもあの人間が助けてくれたおかげだ。
    今頃は何してんだろってちょっと気になって、魔法で居場所を探ってみた。
    『ほうほう、こんな場所にいるのか。ここからそう遠くないな。羽も生えたことだしちょっと飛んでいくか。』
    俺は30分ほどかけて病院って所に来た。
    あいつの部屋は三階の端っこだったはずだ。
    頑張って飛び上がって、窓に張り付く。
    そこには無表情でベッドに横たわるあいつがいた。
    もはや何も考えてないって顔をしてる。
    ていうか考える力が消えてるんだ。
    そのおかげか、この前みたいに辛そうな顔はしていなかった。
    ずっと雲を見てるみたいにポカンと口を開けたままだから。
    『やっと悩みから解放されたんだな。』
    これであいつも願いが叶った。
    こんな素晴らしい季節に悩むなんて馬鹿らしいってもんだ。
    何も考えずにセミの声でも聴いてればいい。
    きっと今は幸せなはずだ。
    良いことをすると気分がいい。
    高い空を見上げながらピョンと飛び上がった。

    calendar

    S M T W T F S
     123456
    78910111213
    14151617181920
    21222324252627
    282930    
    << June 2020 >>

    GA

    にほんブログ村

    selected entries

    categories

    archives

    recent comment

    recommend

    links

    profile

    search this site.

    others

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM