幽霊ハイスクール 第十六話 猫の幽霊

  • 2010.11.15 Monday
  • 09:14
 「あんた達、どうして昨日学校を休んでたの?」
朝、教室で木原と喋っていると、美保が聞いてきた。
「昨日は大変だったんだよ。
木原が悪い霊にとり憑かれてさ。」
俺は昨日の除霊の出来事を話した。
美保は目を丸くして驚いていた。
「そんなことがあったの。」
「そうなんだよ。
悪い霊にとり憑かれるのが、あんなに苦しいとは思わなかったよ。」
木原が言う。
「でもその霊能者のおばさんすごいね。
ちゃんと除霊してくれたんでしょ。」
「ああ、木原にとり憑いた霊と話していたよ。
その霊は、最終的には霊能者のおばさんに心を委ねて成仏したんだけどね。」
美保は木原を見て言った。
「よかったわね。
ちゃんと除霊してもらえて。」
「本当だよ。
これも霊能者に除霊を頼んでくれた健太郎のおかげだよ。
昨日はありがとうな。」
改まって感謝されると、照れてしまう。
「べつに俺が除霊したわけじゃないけどな。」
俺は言った。
「でも本当によかったですね、木原君。
もしあのまま悪い霊にとり憑かれたままだったら、どうなっていたことか。」
佳恵さんが言う。
「もしかして、俺死んでたりして。」
木原が笑いながら言った。
「笑いごとじゃないですよ。
あのまま放っておけば、もっとひどいことになったかもしれないんですから。」
佳恵さんが言った。
「昨日は大変だったんだね。」
美保が言う。
「その通りさ。
もう悪い霊にとり憑かれるのはごめんだね。」
すると美保は、真剣な表情になって言った。
「あのさ、話は変わるんだけど・・・。」
そこで朝のホームルームのチャイムが鳴った。
「何だよ。
何か話があるのか?」
木原が聞く。
「うん。
また後で言う。」
そう言って美保は、自分の席へと行った。
そして朝のホームルームが終わり、一時間目の授業が始まった。
俺の右斜め前の席にいる木原は、なんだか眠たそうだった。
昨日の除霊の疲れが、まだ残っているのかもしれない。
そして一時間目の授業が終わった。
俺は美保の席へ行った。
「さっき何か言おうとしてただろ。
一体何の話なんだ?」
そう言うと、美保はまた真剣な表情になった。
そこへ木原がやって来た。
「さっき何か言おうとしてただろ。
何の話だ?」
俺と同じことを聞いている。
すると美保は言った。
「実はね、昨日私の飼ってた猫が病気で死んだの。」
「お前猫飼ってたのか?」
木原が言う。
「うん。
それでね、ちょっと佳恵さんに聞きたいことがあるの。」
「何ですか?」
「私の飼ってた猫、ルナっていうんだけど、ルナに最後のお別れの挨拶が出来なかったの。」
「どういうことだ?」
俺は聞いた。
「昨日部活を終えて家に帰ったら、もうルナは死んでたの。
ルナは大分前から病気で弱っていたの。
お母さんが言うには、ルナは私が帰る直前まで生きてたみたいなの。
まるで私が帰って来るのを待ってたみたいだったって。」
美保は悲しい顔をして言った。
「それで、私に聞きたいこととは何ですか?」
佳恵さんが言った。
「あのね、ルナってもう成仏しちゃったのかな?
それともまだこの世にとどまっているのかな?
もしまだこの世にとどまっているのなら、最後のお別れの挨拶をしたいなって思ったの。
ねえ、佳恵さん。
ルナが成仏しちゃったかどうか分かる?」
美保は佳恵さんを見た。
すると佳恵さん微笑んで言った。
「そういうことだったんですね。」
佳恵さんは一人で頷いている。
「どうしたの。
そういうことだったって、どういうこと?」
俺は聞いた。
すると佳恵さんは言った。
「実は今、美保さんの後ろに猫の霊がいるんです。」
「本当!」
美保は言った。
「ねえ、どんな猫?」
美保は聞いた。
「白くて、毛が長い猫ですね。
青い瞳をしています。」
それを聞いて美保は言った。
「間違いない。
ルナだわ!」
美保は喜んでいるようだった。
「ねえ、佳恵さん。
私、ルナの姿を見たい。
それって出来る?」
「出来ますよ。」
佳恵さんは言った。
「よかったな、美保。
そのルナって猫にまた会えるじゃないか。」
木原が言った。
「うん。
私、ルナに会って、最後のお別れの挨拶をしたい。」
美保がそう言ったところで、二時間目の授業のチャイムが鳴った。
「じゃあまた続きは後でね。」
美保は嬉しそうに言った。
俺と木原は自分の席に戻った。
そして俺は佳恵さん小声で聞いてみた。
「さっき美保の飼ってた猫の霊を、美保に姿を見せられるって言ってたけど、それって本当?」
「本当ですよ。
どうしてそんなことを聞くんですか?」
「だって相手は猫だろ。
人間の言葉が通じないじゃないか。
美保に姿を見せるようにって、どうやって伝えるの?」
「ああ、そのことですか。」
佳恵さんは「そんなの簡単ですよ。」と言った。
「猫と話せばいいんです。」
「でも相手は猫だろ。
人間の言葉は通じないじゃないか。」
すると佳恵さんは言った。
「健太郎君は、昨日の木原君の除霊を忘れたんですか?」
「木原の除霊?
それがどうしたっていうのさ。」
「健太郎君は見ていたはずですよ。
霊能者と犬の霊が話すのを。」
「あ、そういえば。」
「幽霊になってしまえば、言葉は関係ないんです。
思念で会話出来ますから。」
俺は納得した。
「それなら美保に猫の霊の姿を見せてあげられるね。」
「そうです。
美保さんはきっと、その猫をとても可愛がっていたんでしょう。
だから最後のお別れの挨拶がしたいんです。」
ペットは家族だという人もいる。
美保にとって、そのルナという猫も家族同然だったのかもしれない。
やがて二時間目の授業が終わった。
俺と木原は美保の席に行った。
「さっきの話の続きだけど。」
美保が言った。
「今日の放課後に、体育館の裏でルナと会わせてほしいの。」
それを聞いた佳恵さんは頷いた。
「分かりました。」
そして美保は佳恵さんに聞いた。
「今、私の後ろにルナがいるんだよね。
どうしてる?」
「ずっと美保さんのことを見てますよ。
きっとルナちゃんも、美保さんに最後のお別れの挨拶を言いたいんでしょう。」
それを聞いた美保は、泣きそうになった。
「ルナも、私にお別れを言いたいんだね。」
「ええ、そのようです。」
佳恵さんが言った。
「よかったな、美保。
またそのルナって猫に会えるぞ。」
俺がそう言うと、美保は目に涙をにじませた。
「うん。
早くルナに会いたい。」
それから俺達は放課後になるのを待った。
授業がどんどん終わっていき、昼休みの間も、美保は早くルナに会いたいと言っていた。
そして放課後。
「よし、体育館の裏に行こうぜ。」
木原が言った。
俺達は体育館の裏へとやって来た。
「じゃあ美保さん、ルナちゃんに姿を見せるように言いますね。」
佳恵さんが言った。
美保は「うん。」と言って頷いた。
佳恵さんが美保の後ろに何か話しかけている。
すると次の瞬間、美保の後ろに猫の霊が現れた。
白く長い毛をしている。
瞳は綺麗な青色だ。
とても凛々しい顔をしていた。
「ルナ!」
美保が言った。
「ルナ。
ごめんね。
最後のお別れの挨拶が出来なくて・・・。」
美保は泣きながら言った。
「美保ちゃん。」
ルナという猫の思念が、頭の中に入ってくる。
「僕、美保ちゃんに飼われて本当によかったよ。
美保ちゃんと一緒に過ごした時間は忘れないよ。」
「ルナ・・・。」
美保は声をあげて泣いた。
「美保ちゃん、泣かないでよ。
僕まで寂しくなっちゃうから。」
「だって、もうルナと会えなくなるんだもん。」
「美保ちゃん。
僕は天国から、ずっと美保ちゃんのことを見守ってるよ。」
「ルナ・・・。
私、ルナのこと大好きだからね。」
「うん、
僕も美保ちゃんのことが大好きだよ。」
「ルナ・・・、ルナ・・・。」
美保は泣き続けている。
「美保ちゃん、僕もう行かなきゃ。」
「嫌だ!
行かないで!」
美保が泣きながら言う。
「美保ちゃん。
僕も美保ちゃんと一緒にいたいよ。
でももうお別れしなきゃいけないんだ。」
「ルナ・・・。」
「美保ちゃん。
ずっと可愛がってくれてありがとう。
僕、美保ちゃんの家族になれて幸せだったよ。」
ルナの体が光に包まれていく。
「私もルナと一緒にいられて幸せだった。
私、絶対にルナのことを忘れないから!」
「ありがとう、美保ちゃん。
僕はずっと天国から見守ってるよ。」
「うん、ありがとう・・・、ルナ。」
「じゃあね、美保ちゃん。」
「ルナ・・・、さようなら・・・。」
「さようなら、美保ちゃん。」
ルナは光になり、空へと昇って行った。
「バイバイ・・・、ルナ・・・。」
美保は空を見上げて言った。
泣き続ける美保を、俺達はしばらく見つめていた。
美保は、もう一度「ルナ・・・、さようなら。」と呟いた。

                                  第十六話 完

幽霊ハイスクール 第十五話 霊能者現る(2)

  • 2010.11.14 Sunday
  • 09:11
 昨日学校の帰り道で出会った、霊能者の鏡純子さんという関西弁のおばさん。
俺と木原、そして佳恵さんは今、その鏡さんの家にいた。
それは俺が木原の除霊を鏡さんにお願いしたからだ。
今朝、学校に向かっていると、元気のない木原がやって来た。
すると佳恵さんは、木原が悪い霊にとり憑かれていると言った。
俺は鏡さんからもらった名刺を取り出し、連絡を取った。
鏡さんは除霊のお願いを引き受けてくれた。
そして今、木原は鏡さんの家で横に寝かされている。
「ほな、除霊を始めるで。」
鏡さんが言った。
俺と佳恵さんは、木原を見守っていた。
鏡さんは木原の傍に座り、手に持っていた塩の盛られた小皿を、自分の横に置いた。
そして数珠を握り、お経を唱え始めた。
「うう・・・、うぐ・・・。」
木原が苦しみだす。
鏡さんはかまわずお経を唱え続けた。
「うぐう・・・。」
さらに苦しむ木原。
佳恵さんが胸の前で手を組み、心配そうな目で木原を見ている。
俺も木原のことが心配だった。
今、木原はすごく苦しんでいる。
鏡さんはお経を唱え続ける。
そして鏡さんは、小皿に盛られた塩を一つまみして、木原の体にふりかけた。
「うううう・・・。」
木原の体がビクンとなる。
すると次の瞬間、木原の体の上に犬の霊が現れた。
俺はその犬の霊を見て、怖いと思った。
憎悪に満ちた顔をしている。
全身から邪悪な気が放たれていた。
鏡さんはお経を唱えるのをやめ、犬の霊に話しかけた。
「なんで人間にとり憑いてるんや?」
すると、犬の霊が大きく吠えた。
「なんで人間にとり憑いてるんか、聞いてるんや!」
鏡さんが声を荒げた。
すると犬の霊の目が光った。
「人間が・・・、憎い・・・。」
そう言う犬の霊の言葉が聞こえる。
犬の霊の思念が、頭の中に直接入ってくる感じだった。
「人間が憎いんやな。
なんで憎いんや?」
すると、また犬の霊の思念が頭の中に入ってきた。
「酷い仕打ちをうけた・・・、裏切られた・・・。」
鏡さんは犬の霊を真っすぐ見据えて言った。
「酷い仕打ちをうけたんやな。
虐待されとったんか?」
また犬の霊の思念が頭の中に入ってくる。
「いっぱい殴られた・・・、いっぱい蹴られた・・・。」
「そうか。
辛い目に遭っとったんやな。
裏切られたっていうのはどういうことや?」
「つれて行かれた・・・。」
「つれて行かれた?
どこにや?」
「犬や、猫が・・・、たくさんいる場所・・・。
みんな・・・、狭い檻の中にいた・・・。」
鏡さんは頷いた。
「そうか。
保健所につれて行かれたんやな。」
犬の霊の目がまた光った。
「みんな死んでいく・・・。
順番に死んでいく・・・。」
鏡さんは黙って犬の思念を聞いている。
「怖かった・・・。
死ぬのが怖かった・・・。」
犬の霊がまた吠えた。
「それで、どないなったんや?」
鏡さんが聞く。
「他の犬と一緒に・・・、部屋に入れられた・・・。
だんだん息が出来なくなった・・・。
とても苦しかった・・・。」
犬の殺処分は二酸化炭素を使って行われると聞いたことがある。
きっとこの犬の霊は、二酸化炭素で満たされていく部屋の中で苦しんだのだろう。
「みんな・・・、死んでいった・・・。
でも・・・、生きている犬もいた・・・。
俺も・・・、生きていた・・・。」
「そうか。
あんたは生きとったんやな。
それでどないなったんや?」
「燃やされた・・・。」
「燃やされた?」
「生きたまま・・・、燃やされた・・・。
熱かった・・・、苦しかった・・・。」
これも聞いたことがある。
体力のある犬は、二酸化炭素の充満した部屋でも生きていることがあるらしい。
そういう犬は、生きたまま燃やされると。
「人間に酷い目に遭わされたんやな。」
鏡さんが言った。
犬の霊はまた吠えた。
「人間が憎い・・・。
俺をいっぱい殴った人間が憎い・・・。
俺を裏切った人間が憎い・・・。
俺を殺した人間が憎い・・・。」
そして犬の霊は今までで一番大きく吠えた。
「憎い・・・、憎い・・・、人間が憎い・・・。」
犬の憎悪が増していくのが分かった。
それにともなって、木原も苦しんでいる。
「あんたの気持ちはよう分かった。」
鏡さんが言った。
「あんたは人間に酷い目に遭わされたんやな。
あんたの人間を憎む気持ち、分かるで。」
鏡さんがそう言うと、犬の霊は言った。
「人間に・・・、俺の気持ちは・・・、分からない・・・。
人間は・・・、嘘をつく・・・。
お前の言ってること・・・、信用出来ない・・・。」
すると鏡さんは言った。
「そんなことあらへん。
私はあんたの気持ちがよう分かる。
私かて、あんたと同じ目に遭わされたら、人間を憎いと思う。
それは嘘やない。
私の本心や。」
すると鏡さんは立ち上がって、犬の霊に触れた。
「私の言うてることが嘘やと思うんやったら、私の心を覗いてみい。」
犬の霊は、しばらくだまって鏡さんの方を見ていた。
鏡さんの心を覗いているのかもしれない。
犬の霊はしばらく黙ったあと、鏡さんに向かって言った。
「あんたの言ってること・・・、本当・・・。
あんた・・・、嘘をついていない・・・。」
「そうやろ。
私の言ってることはほんまや。」
そして鏡さんは犬の霊の頭を撫でた。
「今、あんたは苦しいやろ。
死んでからも、苦しくて辛くてたまらんやろ。」
「苦しい・・・、俺・・・、今苦しい・・・。」
鏡さんはもう一度犬の霊の頭を撫でた。
「私があんたを楽にしたる。
あんたを天国に行かしたる。」
「俺・・・、苦しいの・・・、嫌・・・。
楽になりたい・・・。」
「そうやろ。
それやったら私のことを信じてくれへんか。
もうその子にとり憑くのはやめて、私に心を委ねてくれへんか。」
犬の霊は黙っている。
「私があんたを楽にしたる。
約束する。」
すると犬の霊は吠えた。
「俺・・・、分からない・・・。
人間が憎い・・・。
人間は信じられない・・・。
でも・・・、あんたの言ってること・・・、本当・・・。」
犬の霊が迷っている。
鏡さんに自分の心を委ねようかどうしようか。
「このままこの世をさまよってても、辛いだけや。
私が天国に行かしたる。
そやから、私に心を委ねてくれんか?」
犬の霊はしばらく黙ったあと、上に向かって吠えた。
「俺・・・、信じる・・・。
あんたの言うこと・・・、信じる・・・。」
「そうか。
ほな、私に心を委ねてくれるんやな。」
すると犬の霊は言った。
「約束するか・・・?
俺が楽になれると・・・、約束するか・・・?」
「もちろんや。
約束する。」
俺と佳恵さんは、鏡さんと犬の霊のやり取りをただ見守っていた。
犬の霊は小さく吠えたあと、また目を光らせて言った。
「分かった・・・。
あんたに・・・、俺の心を・・・、委ねる・・・。」
それを聞いた鏡さんは言った。
「ありがとう。
私のことを信じてくれて。」
鏡さんは再び座り、お経を唱え始めた。
犬の霊は目をつむっている。
そして鏡さんがお経を唱え続けると、犬の霊から邪悪な気がだんだんと薄れていった。
鏡さんは数珠を握り、なおもお経を唱え続ける。
すると犬の霊が光りに包まれていった。
犬の霊は最後に上に向かって、大きく遠吠えをした。
次の瞬間、犬の霊は光になって、上へ昇り始めた。
その光は天井をすり抜けていく。
きっと、屋根もすり抜けて、空を昇って行ったのだろう。
「さて、最後にお清めの塩をかけて終わりや。」
鏡さんは小皿から塩を一つまみし、木原の体にふりかけた。
「はい、除霊は終わったで。」
鏡さんは言った。
「大丈夫か、木原。」
俺は木原の傍に行った。
木原は半分眠っているような状態だった。
「なんか・・・、体が楽になった・・・。」
木原は言った。
「除霊でその子は疲れてるんや。
しばらくそのまま横に寝かしとったり。」
鏡さんが言った。
「鏡さん。
ありがとうございました。
おかげで友達が助かりました。」
すると鏡さんは木原を見て笑顔で言った。
「あんた、ええ友達もってるなあ。」
木原は笑いながら頷いた。
木原の除霊は成功した。
「よかったですね、木原君。」
佳恵さんが笑顔で言った。
俺は安心すると、あることを思った。
「あの、鏡さん。」
「なんや?」
「その、除霊ってお金がかかるんですかね?」
すると鏡さんは言った。
「普通やったらなんぼかもらうんやけどな。
今回は特別や。
無料にしといたるわ。」
「ありがとうございます。」
木原に憑いていた悪い霊はもういなくなった。
俺は心から、鏡さんに感謝した。

                                  第十五話 完


幽霊ハイスクール 第十五話 霊能者現る

  • 2010.11.13 Saturday
  • 09:15
 学校が終わり、佳恵さんと家まで帰っていた。
今は十二月の上旬だ。
時折吹く風が冷たい。
「うう、寒い。」
俺がそう言うと、佳恵さんが笑った。
「健太郎君は、寒いのは苦手なんですよね。」
「そうだよ。
早く冬が終わって欲しいな。」
「そう言ったって、まだ冬は始まったばかりですよ。」
「分かってるよ。
でも春が恋しい。」
俺は寒さでぶるっと身を震わせた。
学校の帰り道、すれ違う人達は少ない。
しかしその少ない人達の中で一人、俺に話しかけてきた人がいた。
「あんた、幽霊にとり憑かれてるで。」
関西弁のおばさんだった。
そのおばさんは俺の後ろをじっと見ている。
普通の人には幽霊は見えないはずなのに、まるでその人は佳恵さんが見えているようだった。
「この人、霊能者ですよ。」
佳恵さんが言った。
「霊能者?」
「はい。
とても強い霊力を感じます。
私の姿も見えていると思います。」
「本当に?」
俺と佳恵さんが話していると、そのおばさんは言った。
「なんや、あんたその幽霊と話せるんかいな。」
おばさんは驚いた目で俺を見ていた。
「はい、まあ。」
俺は曖昧に答えた。
おばさんは、じっと佳恵さんを見ている。
そして頷いた。
「悪い霊ではないみたいやな。
放っておいても問題ないわ。」
俺と佳恵さんは顔を見合わせた。
そして俺はそのおばさんに聞いた。
「あの、あなたは一体誰なんですか?」
するとおばさんは財布を取り出し、その中から名刺を出した。
それを俺に手渡してくる。
霊能者 鏡純子。
名刺にはそう書かれていた。
「霊能者なんですか?」
俺は聞いた。
「そうや。
私には霊が見えるんや。
除霊も出来るで。」
「へえ、なんだかすごいですね。」
すると鏡さんというおばさんは言った。
「誰でもある程度の霊力は持ってる。
それが人によって強いか弱いかだけや。
私はたまたま霊力が強かったんや。
だから霊能者をしとる。」
「でも普通の人には無い力があるってことですよね。
それってすごいじゃないですか。」
そう言うと、鏡さんは喜ぶように笑った。
「あんまり褒めんといてえな。
恥ずかしいわ。」
「いや、すごいことですよ。」
それから鏡さんは俺と佳恵さんを交互に見た。
「あんたらは強い絆で結ばれとるみたいやな。
波長も完全に一致しとる。
あんた、その幽霊に触れるやろ?」
俺は驚いた。
そんなことまで分かるのか。
「はい、この前触れるようになりました。」
「そうか。
あんたらは出会うべくして出会った人間と幽霊やな。
運命的なものを感じるわ。
その出会い、大事にしいや。」
そう言って鏡さんは笑いながら去って言った。
「霊能者って本当にいるんだね。
びっくりしたよ。」
俺は言った。
「いますよ、霊能者は。
今の人は、かなり強い霊力を持っていました。
きっと名のある霊能者なんだと思います。」
「ふーん、なんだかすごいね。」
俺はもらった名刺を、学生服のポケットに入れた。
そしてその翌日。
俺はいつもと同じように佳恵さんと学校に向かっていた。
途中にある坂道を上っていると、後ろから木原がやってきた。
「よう、木原。」
俺は元気に挨拶した。
「よう・・・。」
木原も挨拶を返してくるが、なんだか元気がない。
「どうしたんだよ、風邪でもひいたのか?」
俺は聞いた。
「なんかだか分からないけど、体の調子が悪いんだよ。
すごく体が重く感じる。
息切れもするんだ。」
よく見ると、木原の顔色は悪かった。
「大丈夫か?
今日は学校を休んだ方がいいんじゃないのか。」
俺がそう言うと、佳恵さんが口を開いた。
「木原君、体調が悪くなったのはいつからですか?」
「えっと、昨日の夜からかな。」
それを聞いて佳恵さんは頷いた。
「木原君、あなたは今、悪い霊にとり憑かれています。」
「ええ、そうなの?」
俺は驚いて言った。
「はい。
動物霊です。
犬の霊ですね。
昨日学校で会った時は木原君に霊はとり憑いていませんでした。
おそらく、昨日の夜にその霊がとり憑いたんでしょう。」
それを聞いた木原は、とても不安そうな顔になった。
「どうしよう、健太郎。」
木原が力の無い声で言ってくる。
「どうしようって言われても。」
すると佳恵さんが言った。
「健太郎君、昨日会った霊能者に頼んでみてはどうでしょう。」
「そうか、その手があったか!」
俺は頷いた。
「なんだ、霊能者って?」
木原が聞いてくる。
「昨日霊能者のおばさんに会ったんだよ。
それで名刺をもらったんだ。」
俺は学生服のポケットに入れておいた名刺を取り出した。
霊能者 鏡純子
そう書かれた下に、住所と連絡先が書かれていた。
この人に頼んで、木原に憑いた霊を取り除いてもらおう。
俺がケータイを取り出すと、自転車に乗っていた木原が転んだ。
「大丈夫ですか、木原君!」
佳恵さんが言う。
俺は倒れた木原を起こした。
「しっかりしろよ。
今日は学校は休もう。
それで霊能者の所に行って、除霊してもらおう。」
「はあはあ・・・、今から行くのか?」
木原の息が荒くなっていた。
「そうだよ。
今から行くんだ。」
俺はケータイで、名刺に書かれた番号に電話をかけた。
数回のコールのあと、電話は繋がった。
「もしもし。」
昨日聞いた霊能者のおばさんの声だ。
「もしもし、鏡さんですか?」
「そうやけど、どちらさん?」
「昨日会った幽霊と一緒にいた高校生です。」
それを聞くと、鏡さんは「ああ、あの時の。」と言った。
「どないかしたん?」
「はい。
実は俺の友達が悪い霊にとり憑かれているみたいなんです。
今もすごく体調が悪くて。
今から行くんで除霊をお願いできませんか?」
「あらまあ、そら大変やな。
ええよ、今からおいで。」
「ありがとうございます。
じゃあ今から行きます。」
「はいはい、待ってるで。」
そして電話を切った。
俺は名刺に書いてある住所を見た。
ここからそう遠くはなかった。
「木原、今から霊能者の所に行くぞ。
俺が自転車をこぐから、お前は後ろに乗れ。」
木原は言われるままにした。
「じゃあ行くぞ。」
俺は自転車をこぎ始めた。
木原の息がどんどん荒くなっていく。
俺は急いだ。
その後を佳恵さんがついて来る。
そして自転車をこいで十分ほどすると、名刺に書かれた住所に着いた。
そこにあったのは、普通の家だった。
名刺を出して住所を確認した。
ここで間違いない。
俺はその家のインターフォンを押した。
「どちらさん?」
インターフォンから、鏡さんの声が聞こえてくる。
「さっき友達が霊にとり憑かれたって電話した者です。」
「ああ、はいはい。
今ドア開けるさかい、ちょっと待っとってな。」
そして少ししてから家のドアが開いた。
鏡さんは木原を見るなり言った。
「こらまた、たちの悪いのにとり憑かれとるなあ。
さあ、家に入り。」
俺は木原の肩を支えながら、佳恵さんと一緒に鏡さんの家に入った。
「除霊は二階の部屋でやるさかい、ついてきい。」
俺達は鏡さんのあとをついて行った。
そして二階にある部屋の一つに通された。
大きな鏡と箪笥がる、畳の部屋だった。
「ほな、そのとり憑かれた子を横に寝かし。」
俺は言われた通りにした。
「除霊の用意をしてくるさかい、ちょっと待っとってや。」
そう言って鏡さんは部屋を出て行った。
「大丈夫か、木原?」
息の荒い木原に話しかける。
「なんか・・・、はあはあ・・・、どんどん体が重くなっていく・・・。」
木原は辛そうだった。
「木原君、可哀想に・・・。」
佳恵さんが心配そうな声で言った。
すると鏡さんが戻って来た。
首に大きな数珠をつけ、手にも数珠を持っている。
それに塩が盛られた小さなお皿も持っていた。
鏡さんは木原の横に座った。
「ほな、除霊を始めるで。」
佳恵さんが心配そうな目で木原を見つめている。
早く木原に憑いた霊を取り除いてやって欲しい。
俺は固唾を飲んで、除霊が始まるのを待った。

                                 第十五話 つづく



幽霊ハイスクール 第十四話 丘の上の幽霊(2)

  • 2010.11.12 Friday
  • 09:05
 美保が、学校の裏の丘に幽霊がいると言った。
それを聞いた木原は、案の定確認しに行こうと言った。
そして俺達は夜、学校の裏の丘にやって来た。
そしてそこには美保の言った通り、確かに幽霊がいた。
若い男性の幽霊だった。
ポロシャツにジーパン姿で、中々整った顔立ちをしている。
その幽霊は丘の上から、じっと街を見下ろしていた。
「本当にいたな、幽霊。」
木原が言う。
「だから言ったでしょ。
幽霊がいるって。」
美保が言う。
俺達はしばらくその幽霊を見ていた。
するとその幽霊は、俺達の方を見て言った。
「消してくれない。」
「はい?」
木原が何のことか分からないというふうに答える。
「懐中電灯。
眩しいから。」
美保は懐中電灯でその幽霊を照らしていたのだ。
「ごめんなさい。」
美保はそう言って懐中電灯を切った。
懐中電灯が無くても、月明かりのおかげで辺りはよく見える。
月明かりに照らされたその幽霊は、また街を見下ろした。
「おい、幽霊はいたな。
これからどうする?」
「どうするって、何も考えてないわよ。」
美保が答える。
「とりあえず話しかけてみよう。」
俺は言った。
「あのう、すみません。」
俺は幽霊の様子を窺いながら話しかけた。
「こんな所で何をやっているんですか?」
するとその幽霊は答えた。
「見れば分かるだろ。
街を見下ろしているんだよ。」
素っ気ない口調だった。
「どうして街を見下ろしているんですか?」
美保が聞いた。
するとその幽霊は俺達の方を見て答えた。
「俺はこうやってぼーっと街の景色を見てるのが好きなんだ。」
「へえ、そうなんですか。」
木原が言った。
「君達こそなんでこんな夜にこんな場所に来たんだい?」
今度は幽霊が尋ねて来た。
「実はこの丘に幽霊がいると聞いたもので。
それで本当にいるかどうか確認しに来たんです。」
俺は答えた。
「そうかい。
それはご苦労なことだ。」
幽霊は感心したように言った。
「俺は星野勝っていうんだ。
君達は?」
「坂入健太郎です。」
「ふーん。
そっちの二人は?」
星野勝と名乗った幽霊が木原と美保の方を見る。
「木原良人です。」
「野村美保です。」
二人が名乗ると、星野さんは頷いた。
「それで、そっちの女性の幽霊は何ていう名前?」
星野さんは佳恵さんを見て言った。
「西野佳恵といいます。」
俺達が名乗り終えると、星野さんは言った。
「君達珍しいね。
幽霊と行動をともにしてるなんて。」
星野さんは佳恵さんを見ながら言った。
「これには事情がありまして。」
佳恵さんが言った。
「事情?
どんな事情?」
その問いには俺が答えた。
「神様から、しばらく行動をともにするだろうって言われたんです。」
「神様から?」
「はい、そうです。」
星野さんは信じられないという表情をしていた。
「それは本当かい?」
「はい、本当です。」
「ふーん、おかしな話もあったもんだ。」
星野さんはそう言うと、また街を見下ろした。
「いつもここにいるんですか?」
俺は聞いてみた。
「そうだよ。」
「ずっと街を見下ろしていて、楽しいですか?」
「うん、楽しいね。
俺はこうやってぼーっと街の景色を眺めるのが好きなんだ。
心が落ち着くから。」
すると、木原が聞いた。
「星野さんは、どうして幽霊になったんですか?」
それは俺も聞こうかどうしようか迷っていたところだ。
どうして幽霊になったんですかって聞くということは、どうして死んだんですかって聞くのと同じことだ。
デリケートな質問なので、俺はその質問をしようかどうか迷っていたのに、木原はあっさりと聞いた。
「随分ストレートに聞いてくるね。」
星野さんは言った。
「いやあ、気になっちゃって。」
木原はそう言って笑った。
星野さんは俺達の方を向くと、その質問に答えた。
「病気で死んだんだ。
二年半くらい前にね。」
「じゃあその二年半の間、ずっとここにいたんですか?」
美保が聞く。
「いや、この丘に来たのは半年くらい前だな。
それまでは、街を見下ろせそうな建物の上や山を転々としていたよ。
でもどこも眺めが悪くてね。
ここが一番街の眺めがいいんだ。」
そう言って、星野さんは街を見下ろした。
「星野さんは、生きている時はどんな人だったんですか?」
木原が聞く。
「つまらない人間だったよ。
特に夢や希望があったわけじゃない。
ただ毎日働いて、家に帰って寝て、そしてまた働きに行く人生だった。
それに友達もほとんどいなかったな。
もちろん恋人なんて存在もいなかった。
だから俺が病気で入院してる時、見舞いに来たのは両親だけだよ。」
「なんだか寂しい人生ですね。」
木原が言った。
こいつは失礼なことをあっさりと言う。
しかし星野さんは笑った。
「そうだよ。
君の言う通り、寂しい人生だった。
俺は生きている間に、確かにこの世に生きていたんだっていう証が無いんだ。」
月が星野さんを青白く照らしている。
その横顔は、どこか寂しそうだった。
「でもね、それでいいと思ってる。
人生なんてそんなもんだって。
俺は自分の人生に、特に期待なんてしていなかったから。」
星野さんのその言葉を聞いて、俺はこの人は本当に寂しい人だと思った。
「どうして自分の人生に夢や希望を持てなかったんですか?」
佳恵さんが聞いた。
「さあ、何でだろう。
自分でもよく分からない。
もしかしたら、最初から人生というものを諦めていたのかもしれないな。」
「そんな。
それはあまりにも寂しい考え方です。」
佳恵さんが言った。
「じゃあ君には何か夢があったのかい?」
「はい。
弁護士になるという夢がありました。」
それを聞いた木原と美保が感心したような顔になった。
「佳恵さん、弁護士になりたかったんだ。」
美保が言う。
「はい。
それが私の夢でした。」
すると星野さんは聞いた。
「それで、君の夢は叶ったの?」
「いえ、弁護士になる一歩手前で死んでしまいました。」
「じゃあ夢は無駄に終わったわけだ。」
星野さんは言った。
「そんな言い方はないと思います。」
美保が怒るように言った。
「だってそうじゃないか。
夢を持っていたけど、その夢は叶わなかったんだ。
じゃあ最初から夢を持っていないのと同じじゃないか。」
星野さんが軽く笑いながら言った。
俺はその言葉にカチンときた。
「それは違うんじゃないですか。」
俺も美保と同じように怒るように言った。
「何が違うんだい?」
星野さんが聞いてくる。
「夢が叶わなかったからといって、最初から夢を持たないのと、夢を追いかけたのとでは違うと言ったんです。
佳恵さんは一生懸命自分の夢の追いかけた。
その夢は叶わなかったかもしれないけど、それは夢を持たずに生きることとは違うと思います。」
「随分偉そうに言うね。」
星野さんが言った。
「じゃあ君には夢はあるの?」
星野さんにそう聞かれ、俺は困った。
今のところ、俺に夢はない。
俺が答えられずにいると、星野さんが言った。
「何も答えられないところをみると、君は夢を持っていないようだね。
なら、どうしてそんな偉そうなことが言えるのさ。」
星野さんにそう言われて悔しかった。
悔しいが、言い返せない。
だって、今の俺には夢がないから。
「夢を叶えられる人間なんてごくわずかだよ。
その他大勢の人間は、夢を叶えられずに人生を終えるんだ。
だったら、最初から夢を持っていないのと何が違う?
どうせ叶わない夢なら、最初から持たない方がいい。
無駄な努力をすることになるからな。」
星野さんはそう言って笑った。
すると佳恵さんが言った。
「そんなことはないですよ。」
「そんなことはないって言ったって、君の夢も叶わなかったんだろう?」
「はい。
確かに私の夢は叶いませんでした。
けど、夢を持って生きていると、人生が充実します。
毎日が楽しくなります。
夢は叶える為だけにあるんじゃありません。
夢は追いかける為にもあるんです。」
それを聞いた星野さんは言った。
「随分カッコイイこと言うね。
君は自分の夢が叶う前に死んでしまったわけだけど、悔しくはないの?
今までの努力が無駄だったって思わないの?」
すると佳恵さんは言った。
「正直、夢が叶わなかったのは悔しいです。
でも夢を叶える為にやってきた努力が無駄だったとは思いません。
それだけは、はっきりと言えます。」
それを聞いた星野さんはしばらく黙ってしまった。
月の位置が変わったようで、俺達の影の形も変わった。
しばらく黙ったあと、星野さんは口を開いた。
「何だか、俺と君達は根本的に考え方が違うみたいだね。
俺は君達の言っていることが理解出来ない。
夢なんて、最初から持たない方がいいんだ。」
すると佳恵さんは言った。
「あなたの言う通り、私達は根本的に考え方が違うようです。
これ以上、お互いに何を言っても無駄でしょう。」
その言葉を聞いた星野さんは頷いた。
「そうだね。
これ以上お互いに何を言っても無駄だね。
もうそろそろ一人にしてくれないかな。
俺はゆっくりと街の景色を眺めていたいんだ。」
佳恵さんは頷いた。
「分かりました。
さあ、皆さん。
もう帰りましょう。
丘の上に幽霊はいた。
美保さんの言ったことは本当だった。
それが証明されたんですから、目的は果たしました。」
佳恵さんの言葉を合図に、俺達は帰ることにした。
帰る間際、一瞬だけ星野さんを振り返った。
月明かりに照らされたその横顔は、やはりどこか寂しそうだった。
「皆さんは、何でもいいから自分の夢を持って下さいね。」
丘の帰り道で佳恵さんが言った。
俺も木原も、そして美保も頷く。
丘の上にいた幽霊。
その幽霊は、俺達とは違う考え方を持った、ちょっと寂しい幽霊だった。

                                  第十四話 完

幽霊ハイスクール 第十四話 丘の上の幽霊

  • 2010.11.11 Thursday
  • 09:10
 学校の昼休みの時間、木原と美保とで弁当を食べていた。
俺達三人と佳恵さんで、楽しく会話をしていたのだが、その中で美保が幽霊を見たと言った。
「本当だって。
私、この前幽霊を見たんだから。」
俺は弁当の唐揚げを食べながら聞いていた。
「どこで見たんだよ。」
木原が聞く。
「学校の裏の丘よ。
この前部活でその丘を走ってたんだけど、頂上の所で見たのよ。」
美保は興奮しながら言う。
「それで、どうしてそれが幽霊だと思うんだ?」
俺は聞いた。
「消えたのよ。」
「消えた?」
「うん。
私が頂上の辺りを走っていると、若い男の人がいたのね。
何をやってるんだろうって思って見ていると、いきなり姿が消えたのよ。
普通の人間にそんなことは出来ないでしょ。
あれは絶対に幽霊よ。」
美保は力強く言う。
「何かの見間違いなんじゃないの。」
木原が言う。
「そんなことは絶対にないわ。
私、ちゃんと見たんだもん。」
俺は佳恵さんの方を見て聞いてみた。
「美保があんなこと言ってるけど、佳恵さんはどう思う?」
「そうですね。
美保さんの話だけでは何とも言えません。」
「佳恵さん、私の言ってること、信じてくれないの?」
「いえ、そういうわけではないんですが。」
すると木原が言った。
「じゃあ確認しに行こうぜ。
本当に幽霊がいるかどうか。」
美保はお茶を飲むと、頷いた。
「いいわよ。
なんか私の話を信じてもらえてないみたいだし。
その丘に言って幽霊がいるってことをはっきりさせましょう。」
「じゃあ今日の放課後にその丘へ行ってみようぜ。」
木原が言う。
しかし美保は「それは無理。」と言った。
「もうすぐ部活の試合が近いのよね。
だから部活は休めないの。
放課後は無理よ。」
すると木原は卵焼きを食べながら言った。
「じゃあ今夜にしよう。
そうだな。
夜の八時くらい。
それならいいだろ?」
「うん。
その時間なら大丈夫。」
美保はまたお茶を飲んで言った。
「そういうことだ、健太郎。
今夜八時に、学校に集合しよう。
それからその丘に行ってみることにしようぜ。」
俺はまた唐揚げを食べながら頷いた。
「分かったよ。
どうせこうなると思ってったんだ。」
すると木原が言った。
「どういう意味だ?」
「だから、その幽霊がいるかもしれない場所に行こうって、木原が言い出すってことさ。」
「だって気になるだろ。」
「俺はそこまで気にならないな。」
「なんだよ、冷たいやつだな。
じゃあ健太郎は行かないのか?」
すると美保が言った。
「健太郎も来てよ。
私の話が本当だって証明したいんだから。
それに健太郎が来ないと佳恵さんが来れないじゃない。
もし幽霊がいたら、佳恵さんならすぐに分かるでしょ。」
美保は食べ終えた弁当をかたづけながら言った。
「誰も行かないとは言ってないよ。
俺も今夜その丘に行くよ。」
「そうこなくちゃ。
でも夜に丘を登ることになるからな。
懐中電灯がいるな。」
木原が言った。
「それなら私が持ってくるわ。」
美保が答えた。
「じゃあ決まりだな。
今夜八時に学校の前に集合な。」
すると佳恵さんが言った。
「丘に登るのは夜だから、皆さん気をつけて下さいね。」
そして佳恵さんは俺の肩にポンと手を置いた。
木原はそれを見逃さなかった。
「おい、今佳恵さんが健太郎に触らなかったか?」
すると佳恵さんは笑顔で言った。
「はい。
私、健太郎君に触れるようになったんです。」
「ええー!」
木原と美保が驚く。
「本当なの、佳恵さん?」
美保が聞く。
「はい、本当です。
昨日の夜からです。」
それを聞いた木原が言った。
「コラ!
健太郎。
お前、佳恵さんに触れるなんて、羨ましすぎるぞ!
もしかして、佳恵さんに変なことはしてないだろうな!」
木原が掴みかかる勢いで詰め寄って来る。
「何言ってんだよ。
お前が羨ましがるのは分かるけど、俺が佳恵さんに変なことなんかするわけないだろ。」
「本当か!」
「本当だよ。
ていうか顔が近いよ。」
案の定、木原は俺と佳恵さんがお互いに触れるようになったことをすごく羨ましがっていた。
昨日の夜、佳恵さんと抱きしめ合ったり、膝枕してもらったことは黙っておこう。
もしそんなことを言ったら、木原は嫉妬の炎で怒り狂うかもしれない。
「佳恵さん、俺に触ってみて!」
木原が言う。
佳恵さんは木原の肩に触ろうとした。
しかし佳恵さんの手は、木原の肩をすり抜けてしまった。
「クソ!
俺には触れないのか。」
落ち込む木原。
そんなことをやっているうちに昼休みは終わった。
そして授業も全て終わり、放課後になって木原が言った。
「じゃあ今夜八時に学校の前に集合な。」
俺と美保が頷く。
「じゃあ私は部活に行ってくるね。
また今夜。」
美保は手を振って部活に行った。
「おい、健太郎。」
「何だよ。」
木原が怖い顔をして寄って来る。
「佳恵さんに触れるようになったからって、変なことをしたら許さないからな。」
「だから変なことなんかしないって。
お前もさっさと部活に行けよ。」
すると木原は佳恵さんの方を見て言った。
「佳恵さん、もし健太郎に変なことをされたらすぐに言ってね。
俺がぶっ飛ばしてやるから。」
佳恵さんは苦笑いしていた。
「もういいからさっさと部活へ行け!」
そう言って俺は木原の肩を押した。
「クソ!
健太郎のやつ。
羨ましすぎるぜ。」
そう言い残して木原も部活へと行った。
「じゃあ俺達は帰ろうか。」
「そうですね。」
そして俺と佳恵さんは家に帰り、夜になるのを待った。
晩ご飯を食べ終え、自分の部屋でマンガを読んでいた。
ふと時計を見ると、もう午後七時四十分だった。
「やばい。
そろそろ学校に行かなきゃ。」
俺は家を出て学校に向かった。
「本当に幽霊がいるのかな。」
俺は言った。
「さあ、どうでしょうね。
行ってみないと分かりませんね。」
「べつに美保の言ったことを疑っているわけじゃないけどな。
もし幽霊がいたとしても、もう俺は驚かないし。」
「健太郎君は、幽霊に対して完全に免疫ができましたね。」
「そりゃあたくさん幽霊を見てきたからな。
それに何たって、俺の傍にはずっと幽霊がいるわけだし。」
そう言うと佳恵さんは笑った。
「それもそうですね。」
そしてしばらく歩いて、学校に着いた。
まだ誰も来ていなかった。
暗くなった学校を見る。
明かりが点いているのは、職員室だけだった。
「おう、もう来てたのか。」
木原が自転車に乗ってやって来た。
「こんばんわ、木原君。」
佳恵さんが挨拶する。
「こんばんわ、佳恵さん。
月明かりに照らされた佳恵さんも、とっても綺麗だね。」
「ありがとうございます。」
もう佳恵さんは、木原に褒められるのには慣れていた。
あっさりと木原の褒め言葉を受け流す。
「みんな、もう来てたんだ。」
美保もやって来た。
「こんばんわ、美保さん。」
「こんばんわ、佳恵さん。」
これで全員揃った。
「野村、懐中電灯は持って来たか?」
木原が聞く。
「うん、持って来た。」
美保が手に持った懐中電灯を見せる。
「よし、じゃあ学校の裏の丘に登ろう。」
木原は校門のすぐ近くに自転車をとめると言った。
俺達は学校を東から回って、裏の丘の登り口までやって来た。
美保が懐中電灯を点ける。
足元がパッと明るくなった。
「今夜は月明かりで周りがよく見えるね。
懐中電灯はいらなかったかもしれないね。」
美保が言った。
「備えあれば憂い無しさ。
懐中電灯はあった方がいい。」
俺は言った。
丘はそんなに高くはない。
頂上まで行くのも、歩いて十分程度だ。
「本当に幽霊がいるかな。」
木原が言った。
「いるわよ。
私見たんだもん。」
俺達は丘の頂上を目指して登った。
そして頂上までやって来た。
「どこにいるんだ、幽霊。」
木原が言う。
「前見た時は、あの辺りにいたの。
美保が学校側とは反対側に生えている木を指差して言った。
「誰もいないな。
佳恵さん、ここに幽霊はいる?」
俺は聞いた。
「はい、います。
今はそこから街を見下ろしています。」
そう言って佳恵さんは俺達から少し離れた、街が見下ろせる場所を指差した。
美保がその場所を懐中電灯で照らす。
俺達はじっとそこを見た。
すると、突然若い男性が姿を現した。
「うわ!」
「きゃあ!」
木原と美保は驚いた。
突然現れた幽霊は、俺達をチラリと見ると、また街を見下ろした。
丘の上に幽霊はいた。
月明かりと懐中電灯に照らされたその幽霊は、じっと街を見下ろしていた。

                                 第十四話 つづく

幽霊ハイスクール 第十三話 幽霊と触れ合う

  • 2010.11.10 Wednesday
  • 09:12
 晩ご飯を食べて、自分の部屋でくつろいでいた。
ベッドに転がりながらマンガを読んだり、ただゴロゴロしていたり。
怠惰に時間を浪費していた。
「最近は寒くなってきたんじゃないですか?」
佳恵さんが聞いてくる。
今は十一月の下旬だ。
確かに寒くなってきた。
でも佳恵さんの聞き方だと、まるで自分は寒さを感じていないように思われる。
俺はベッドに座り、佳恵さんに聞いてみた。
「ねえ、佳恵さん。
幽霊は寒さを感じないの?」
「はい。
暑さも寒さも感じません。」
「それっていいね。
最高じゃん。」
すると佳恵さんはクスリと笑って言った。
「健太郎君は、寒いのは苦手なんですか?」
「苦手だよ。
暑いのも寒いのも苦手だ。
春と秋が一番過ごしやすいな。」
「なんだかお年寄りみたいなことを言いますね。」
佳恵さんが笑った。
「佳恵さんは、生きている時は寒いのは苦手だった?」
「いえ、私は寒いのは平気でした。
それより暑いのが苦手で。」
「じゃあ夏は嫌いだったんだ。」
すると佳恵さんは首を横に振った。
「そんなことはありませんよ。
夏は大好きです。
あの夏の何とも言えない独特の雰囲気が、私は好きでした。
だって夏ってなんだかワクワクするでしょう。」
「確かにそれはあるな。
夏は意味もなくワクワクする。」
「でも健太郎君も私も、暑いのは苦手なんですよ。
不思議ですね。
暑いのは苦手なのに、私は夏が嫌いじゃなかった。
健太郎君は夏は好きですか?」
「うん、まあ好きかな。」
「じゃあ冬は?」
「冬は、そうだなあ、べつに嫌いってわけじゃないな。
冬には冬の雰囲気があっていいと思う。」
佳恵さんはコクリと頷いた。
「私も同感です。
冬には冬の雰囲気があります。
私は冬が大好きですよ。
なんだか人の温もりを感じられるような気がします。」
そう言うと、佳恵さんは俺の隣に座った。
「冬は人の温もりが感じられるか。
確かにそんな気もするな。」
「そうでしょう。
だから私は冬が好きなんです。」
そう言って佳恵さんは微笑んだ。
「でも寒いのは嫌だな。」
「健太郎君は寒がりなんですか?」
「うん、そうだよ。
冬はずっとこたつに入っていたい。」
「それでみかんを食べるんでしょう。」
「そう、その通り。
冬はこたつでみかん。
それでマンガを読む。
これが正しい冬の過ごし方さ。」
それを聞いて佳恵さんは笑った。
「冬は家に閉じこもるんですね。
外には出ないんですか?」
「うん、あまり出ない。
だって寒いもん。」
「でも雪が降ると嬉しくありませんか?」
「雪かあ、どうだろう。
子共の頃は、雪が降ると外ではしゃいでいたけどな。」
「私は大人になってからも、雪が降るとはしゃいでいましたよ。」
それを聞いて俺は笑った。
「なんか佳恵さん、子供みたいだね。」
「そうですか?」
「うん。
普通大人は雪が降ってもはしゃがないよ。」
「そうかもしれませんね。
私が子供なだけなのかも。」
俺は雪が降ってはしゃいでいる佳恵さんを想像してみた。
なんか可愛らしい気がする。
「今年の冬は、雪は降りますかね?」
「さあ、どうだろうね。
佳恵さんは降って欲しいの?」
「はい。
雪は大好きですから。」
「もし佳恵さんが雪に触れたら、俺と二人で雪だるまでも作れるのにね。」
「私、健太郎君と一緒に雪だるまを作りたいです。
でも雪に触れないから無理ですね。
残念。」
佳恵さんは本当に残念がっていた。
「もし雪が降ったら、俺が雪だるまを作るよ。」
「本当ですか?」
「うん、本当。
佳恵さん、雪だるま見たいでしょ?」
「はい、見たいです。」
そう言って佳恵さんは笑った。
その次の瞬間、不思議なことがおこった。
俺と佳恵さんは驚いて、顔を見合わせた。
もう一度さっきと同じことをしてみる。
さっきと同じこととは、俺の肩と佳恵さんの肩を近づけることだった。
すると、俺の肩が佳恵さんの肩に触れるのだ。
確か人間と幽霊は触れ合えないはずだ。
「佳恵さん、手を出してみて。」
俺は言った。
佳恵さんは手を出す。
俺はその手に触れてみた。
触れる。
今まで佳恵さんに触れなかったのに、今は触れる。
一体どうなっているんだろう。
俺が考えていると、佳恵さんが言った。
「もしかしたら、私の波長と、健太郎君の波長が完全に一致したのかもしれません。」
「波長が一致?」
「はい、そうです。
普通は人間と幽霊は触れ合えませんが、波長が完全に一致すれば、触れ合えるのかもしれません。
私と健太郎君が出会って、もう二ヶ月以上が経ちます。
その間に、波長が完全に一致したのかもしれません。」
「そんなことがあるのか?」
「私にも詳しいことは分かりません。
でも可能性があるとしたら、それしか考えられないんです。
私もこんなことは初めてですから、驚いています。」
俺は佳恵さんの肩に触れてみた。
触れる。
俺は佳恵さんに触れるようになったということか。
すると佳恵さんが、俺の手を握ってきた。
「触れますね。
私、健太郎君に触れるようになりました。」
佳恵さんは笑顔で言った。
今、佳恵さんは俺の手を握っている。
体温は感じない。
でも柔らかさは感じる。
なんだか不思議な感じだった。
「健太郎君、私に触れるようになりましたけど、嬉しいですか?」
佳恵さんが聞いてくる。
俺は返事に困った。
触れるようになって嬉しいと言ったら、なんかいやらしい感じがする。
しかし佳恵さんは言った。
「私は健太郎君に触れるようになって嬉しいです。」
そう言って、握っている俺の手に力を込めてきた。
「私、死んでからずっと、生きている人間に触ることが出来ませんでした。
悲しい時も、寂しい時も。
でも今は健太郎君に触れるようになった。
とっても嬉しいです。」
俺も正直なところ、佳恵さんに触れるようになって嬉しかった。
「ねえ、健太郎君。」
「何?」
「一つお願いがあるんですけど。」
そう言って佳恵さんは遠慮がちな感じで俺を見た。
「何?
お願いって。」
佳恵さんは言いにくそうにもじもじしたあと、恥ずかしそうに言った。
「あのね、健太郎君のこと抱きしめてもいいですか?」
俺はドキっとした。
一体どういう意味で言っているのだろう。
「佳恵さん、それはどういう意味で・・・。」
すると佳恵さんは慌てた。
「ごめんなさい。
変な意味じゃないんです。
私、死んでからずっと生きている人間には触れませんでした。
だから、その、生きている人の温もりを感じたいんです。
幽霊の私に、健太郎君の体温は伝わりません。
でも、抱きしめる感触で、人の温もりを感じたいんです。
嫌ですか?
私に抱きしめられるのは。」
俺はドキドキしていた。
嫌じゃない。
嫌じゃないけど、緊張する。
俺はふうっと息を吐き出してから言った。
「いいよ。
抱きしめても。」
「本当ですか?」
「うん、本当。」
「ありがとう、健太郎君。」
そう言うと佳恵さんが抱きしめてきた。
俺は緊張で固まっていた。
「久しぶりです。
生きている人の感触。」
佳恵さんが俺を抱きしめながら言う。
俺はどうしたらいいんだろう。
俺も抱きしめた方がいいんだろうか。
俺は緊張でドキドキしながらも、佳恵さんの背中に手を回した。
俺も佳恵さんを抱きしめた。
佳恵さんの柔らかい感触が伝わってくる。
俺はずっとドキドキしたままだった。
そうやってしばらく佳恵さんと抱きしめて合っていた。
「ありがとう、健太郎君。」
そう言って佳恵さんは、俺から体を離した。
「久しぶりに、人の温もりに触れることが出来ました。
とても懐かしかったし、とても嬉しかったです。」
「そうかい。
それはよかった。」
俺はまだ緊張していた。
「健太郎君、本当に嫌じゃなかったですか?」
俺は緊張しながら答えた。
「全然。
佳恵さんが喜んでくれたなら、それでいいよ。」
本当は、俺も嬉しかった。
けど口には出さなかった。
「健太郎君、抱きしめさせてくれたお礼に、膝枕してあげます。」
佳恵さんは言った。
「え、いいよ、べつに。」
俺は恥ずかしくなって言った。
「いいから、遠慮せずに。」
そう言って佳恵さんが俺の頭を自分の膝に持っていく。
俺は幽霊と抱きしめ合ったあと、膝枕までされてしまった。
木原が知ったら、死ぬほど羨ましがるだろう。
「これからも仲良くしましょうね。」
そう言って佳恵さんが微笑む。
俺は佳恵さんに膝枕されたまま、佳恵さんの微笑む顔を見てコクリと頷いた。

                                 第十三話 完

幽霊ハイスクール 第十二話 幽霊とデート(2)

  • 2010.11.09 Tuesday
  • 09:17
 俺の友達の木原には、背後霊が憑いていた。
その背後霊は、とても可愛い女の子だった。
そして木原のことが好きだと言った。
しかし木原は幽霊とは交際出来ないと言った。
すると木原の背後霊、小坂真美と名乗ったその幽霊は、一度でいいから私とデートして欲しいと言った。
そうすれば成仏出来ると。
木原は幽霊とのデートを承諾した。
そしてなぜか、俺と佳恵さんもそのデートについて行くことになった。
「じゃあますは映画を観に行こう。」
小坂さんがはしゃぐように言った。
俺達は映画館に向かうことにした。
「木原君はどんな食べ物が好きなの?」
小坂さんが聞く。」
「焼き肉かな。」
「へえ、そうなんだ。
じゃあどんな女の人がタイプ?」
木原はチラリと佳恵さんを見た。
「美人で知的な人だな。」
「じゃあ私みたいなのはタイプじゃないの?」
小坂さんが不安そうに聞く。
「いや、小坂さんも十分可愛いと思うよ。
君みたいな子も、俺は好きだよ。」
「よかった!」
小坂さんは微笑んだ。
それからも小坂さんは、木原を質問責めにした。
どんな色が好きか?
どんな服が好きか?
どんなテレビが好きか?
今まで女の子と付き合ったことはあるのか?
キスしたことはあるのか?
木原は時々困りながらも、全ての質問に答えていた。
そして映画館にやって来た。
今日の上映予定は、最近公開されたばかりの恋愛映画と、少し前からやっているアクション映画だった。
「私、恋愛映画が観たい。」
小坂さんの希望で、俺達は恋愛映画を観ることになった。
映画館に入って二人分の料金を払う。
幽霊である佳恵さんと小坂さんは無料で映画が観れるわけだ。
何しろ映画館の店員に姿が見えないのだから。
俺達は前の方の席に座った。
木原の隣に、小坂さんが座る。
その隣に、俺と佳恵さんが座った。
小坂さんは恋愛映画に夢中だった。
食い入るように観ている。
一方の木原は、少し退屈そうだった。
やがて映画が終わり、俺達は映画館を出た。
「面白かったね。
ね、木原君。」
「え、あ、うん。
そうだね。」
「最後のキスシーンなんか泣けたよね。
ね、木原君。」
「う、うん、そうだね。」
木原はあまり映画をちゃんと観ていなかったのだろう。
小坂さんに話を合わせているのがバレバレである。
しかしそんなことに気付かない小坂さんは、映画について、木原に語っていた。
木原は曖昧な返事をしていた。
「ねえ、木原君。
お腹が減ったんじゃない?」
小坂さんが聞く。
「まあ、少し。」
「じゃあご飯を食べに行こう。」
俺達は映画館の近くにあるファミレスに行くことにした。
「ねえ、木原君。
手を繋ごうよ。」
小坂さんが言った。
「え、でも、幽霊は人間に触れないんじゃ・・・。」
「知ってるわ、そんなこと。
でも手を繋ぎたいの。
ねえ、木原君。
手を出してよ。」
そう言われて木原は手を出した。
その手に小坂さん自分の手を重ねようとする。
実際に手を握っているわけじゃないけど、握っているように見える。
小坂さんはとても嬉しそうだった。
そしてファミレスに着いた。
二名様ですねと聞かれ、そうですと答えた。
俺達は店員に席へ案内された。
木原と小坂さんが並んで座り、その向かいに俺と佳恵さんが座った。
ボタンを押して店員を呼び、メニューを見て注文をいれた。
「さっきも聞いたけど、木原君て女の子と付き合ったことがないのね。」
小坂さんが言う。
「ああ、そうだよ。
俺は女の子には縁がないんだ。」
すると小坂さんは言った。
「じゃあ初デートの相手は私ってわけね。
何だか嬉しい。」
小坂さんは喜んでいた。。
そして俺と木原が頼んだメニューが運ばれて来た。
「あー、私が幽霊じゃなかったら、木原君にご飯を食べさせてあげられるのに。」
小坂さんは悔しそうに言った。
木原はもくもくとご飯を食べ始めた。
「木原君、美味しい?」
小坂さんが笑顔で聞く。
「うん、美味しいよ。」
木原も笑顔で答える。
「小坂さん、楽しそうですね。」
佳恵さんが言ってくる。
「まあ好きな人とデートできてるんだから、楽しいと思うよ。」
俺は言った。
やがてご飯を食べ終え、ファミレスを出た。
「ねえ、近くに川があったよね。
川沿いを散歩しようよ。」
小坂さんが言う。
俺達は川沿いの道に向かった。
「ねえ、木原君。
また手を繋ご。」
小坂さんにそう言われ、木原は手を出した。
その手に小坂さんが自分の手を重ねる。
きっと小坂さんは本当に手を繋ぎたいんだろうなと思った。
人間と幽霊は触れ合えない。
だから今は手を繋いでいるふりをしているだけだ。
もし小坂さんが生きていたら、木原と本当に手を繋げたのに。
「ねえ、木原君。
もっと川の近くに行ってみようよ。」
小坂さんが言った。
川の周りは堤防を兼ねた階段になっており、川の近くまで行くことが出来る。
俺達は川の近くまで下りて来た。
「座ろ。」
小坂さんが言う。
木原と小坂さんは、並んで腰を下ろした。
そのすぐ近くに、俺と佳恵さんも腰を下ろした。
小坂さんは、木原に寄り添うように体をくっつけている。
「木原君、私のことどう思う?」
「可愛いと思うよ。」
「そうじゃなくて、私のこと、好き?」
木原が黙る。
小坂さんは木原を真剣な目で見つめていた。
「もし小坂さんが生きている人間なら、交際を申し込んでいたかもしれない。」
木原は言った。
「本当?」
「ああ、本当だよ。」
「嬉しい。」
小坂さんは自分の頭を木原の肩に乗せた。
「私ね、もっと生きていたかった。
それでもっとたくさん楽しいことをしたかった。」
木原は黙って聞いている。
「もし生きていたら、本当に木原君と付き合えたのにね。
残念だな・・・。」
俺はその言葉を聞いて切なくなった。
よく考えれば、小坂さんは俺より短い人生を送ったのだ。
やりたいこともたくさんあっただろう。
もっと友達とも遊びたかっただろう。
横を見ると、佳恵さんがとても悲しい顔をしていた。
「でも死んじゃったものは仕方ないもんね。
私は今は幸せよ。
こうして木原君と二人でいられるんだもの。」
「小坂さん・・・。」
木原が呟いた。
「私、木原君とずっとこうしていたい。
こうやって、ずっと二人で川を眺めていたい。」
すると木原は言った。
「いいよ。
小坂さんの気がすむまで、こうして二人で川を眺めていよう。」
「本当に?」
「ああ、本当さ。」
「木原君・・・、ありがとう。」
こうして長い間、二人は一緒に座って川を眺めていた。
本当に長い間、そうしていた。
小坂さんは木原にピタリと寄り添っている。
木原は、小坂さんの手に自分の手を重ねていた。
やがて夕陽が川をオレンジ色に染め始めた。
俺と佳恵さんは、黙って二人を見つめていた。
「木原君。」
小坂さんが言った。
「なんだい?」
「今日は私とデートしてくれてありがとう。
とっても幸せな一日だった。」
「小坂さん・・・。」
「できれば、ずっと木原君と二人でいたい。
でも、それが無理なのは分かってる。
私、もう成仏しなきゃいけないから。
そういう約束だったもんね。
デートしたら成仏するって。」
そう言って小坂さんは立ち上がった。
「木原君、私、木原君のことが大好きよ。
私が成仏しても、私のことを忘れないでね。」
そう言って小坂さんは涙を流した。
幽霊でも涙を流すんだと、俺は思った。
木原も立ち上がった。
そして小坂さんを抱きしめた。
人間である木原は幽霊の小坂さんには触れないけど、それでも抱きしめていた。
小坂さんも木原を抱きしめる。
「俺、忘れないよ。
小坂さんのこと。」
「木原君・・・。」
「今日は俺も楽しかった。。
俺、女の子から好きだなんて言われたのは初めてだから、すごく嬉しかった。」
「何度でも言ってあげるよ。
私は木原君のことが好き。
大好き。」
しばらく二人は抱きしめ合っていた。
横を見ると、佳恵さんも泣いていた。
「ねえ、木原君。
最後にお願いがあるの。」
小坂さんが木原を見つめて言った。
「なんだい?」
「キスして。」
「キス?」
「うん、ダメ?」
木原は少し黙ってから、頷いた。
「いいよ。
キスしよう。」
その言葉を聞いて、小坂さんが目をつむる。
木原がそっと小坂さんの唇に、自分の唇を重ねた。
しかしお互いに触れ合えないので、唇の感触は伝わっていないはずだ。
もし小坂さんが生きていたら、本当にキス出来たのに。
しかしそんなことは考えても仕方のないことだった。
木原はそっと小坂さんから唇を離した。
「私のファーストキス。」
小坂さんが言った。
「俺だってファーストキスだよ。」
木原も言った。
すると小坂さんは、木原から体を離した。
「私のお願いを聞いてくれてありがとう。
とっても嬉しかった。」
小坂さんの体が光に包まれていく。
「小坂さん。
出会えてよかったよ。」
木原は言った。
「うん、私も。」
そして小坂さんは最後に言った。
「ありがとう、木原君。
さようなら。」
すると小坂さんの体は光に包まれ、空へと昇って行った。
木原はしばらく小坂さんが昇って行った空を見つめていた。
そして俺と佳恵さんの方を向くと言った。
「さて、帰るか。」
俺と佳恵さんは木原のあとをついて行った。
木原が泣いているのが、背中から伝わってきた。

                                 第十二話 完

幽霊ハイスクール 第十二話 幽霊とデート

  • 2010.11.08 Monday
  • 08:14
 今日は祝日で学校は休みである。
俺は新刊のマンガを買う為に、本屋に向かっていた。
「健太郎君、この前はありがとうございました。」
「何のこと?」
「ほら、ファッション誌を買って読ませてくれたじゃないですか。」
「ああ、あのことね。」
この前、俺は佳恵さんに女性もののファッション誌を買ってあげた。
そして物に触れない佳恵さんにかわって、俺がページをめくって読ませてあげたのだ。
佳恵さんはとても喜んでいた。
「何なら今日も買ってあげようか、ファッション誌。」
「え、いいんですか?」
「べつにいいよ。
そんなに高い物じゃないし。」
「やった!
嬉しい!」
佳恵さんが抱きつく仕草をしてくる。
まあ佳恵さんは俺に触れないので、本当に抱きつくことは出来ないのだが。
でも、俺はこの抱きついてくる仕草が結構嬉しかったりする。
「また俺が読ませてあげるからね。」
「はい、楽しみにしています。」
そして俺は本屋に入り、マンガとファッション誌を買った。
今日は特に予定はない。
家に帰ったら、佳恵さんにファッション誌を読ませてあげよう。
そう思って歩いていると、前からよく知った顔が歩いて来た。
木原だった。
「よう、健太郎に佳恵さん。」
「よう、木原。」
「こんにちは、木原君。」
木原は佳恵さんを見つめて言った。
「佳恵さん、今日も相変わらず綺麗だね。」
また木原が佳恵さんを褒め始めた。
「いつも褒めて頂いてありがとうございます。」
佳恵さんが笑って応じる。
「佳恵さんみたいな美人な幽霊、他にいないよ。」
木原は言った。
なぜこいつは恥ずかしいセリフをあっさりと言えるのだろう。
「そんなことありませんよ。
私より美人な幽霊はたくさんいますよ。」
佳恵さんが言った。
「いや、佳恵さんが一番美人だ。
しかも知的だ。
まさに俺の好みだ。」
このまま放っておけば、木原ずっと佳恵さんを褒め続けるだろう。
俺は木原に言った。
「おい、木原。
お前は今日佳恵さんを褒める為に街に来たのか?」
「いや、暇だからぶらぶらしてただけだよ。
健太郎はこのあと何か予定はあるのか?」
「いや、特にないけど。」
「じゃあどこかに遊びに行こうぜ。」
「ああ、いいよ。」
そして俺と木原は並んで歩き出した。
すると佳恵さんが言った。
「木原君。」
「何?」
笑顔で応じる木原。
「その、言おうかどうしようかずっと迷っていたんですけど・・・。」
「なになに、その気になる言い方。
なんでも言ってよ。」
「はい、それじゃあ言わせて頂きます。」
すると佳恵さんはコホンと咳払いをしてから言った。
「三日ほど前から、木原君に背後霊が憑いています。」
「ええー!」
木原は驚いた。
俺も少し驚いた。
「俺に背後霊が・・・。
ねえ、佳恵さん。
悪い霊じゃないよね。」
木原が心配そうに聞く。
「はい、悪い霊ではありません。」
「そっか、よかった。」
木原は安堵した表情になった。
「それで、どんな背後霊なの?」
俺は聞いてみた。
「可愛らしい女の子の霊です。
どうやら木原君に好意を持っているみたいです。」
「俺に好意を持った可愛らしい女の子の霊・・・。」
木原は呟いた。
何やら真剣な顔をしている。
そして木原は言った。
「佳恵さん、俺の背後霊に、姿を見せるように言ってよ。」
「分かりました。
あ、私が言うまでもなく、背後霊が姿を現します。」
俺は木原の後ろを見た。
木原も振り返って自分の後ろを見ている。
すると女の子の霊が現れた。
歳は俺と木原より少し下というところだろうか。
肩までの髪に、クリっとした可愛らしい目をしている。
薄いピンクのブラウスに、白いズボンを穿いていた。
とても可愛い女の子だった。
「や、やあ。
どうも。」
木原が女の子の霊を見て言う。
女の子の霊は、恥ずかしそうに木原を見つめていた。
「俺、木原良人っていうんだ。
君は何ていうの?」
木原が聞く。
「小坂真美・・・。
木原君っていう名前はあなたにとり憑いたこの三日間で知ったわ。
でも下の名前は知らなかった。
良人っていうのね。」
小坂真美と名乗った霊は、木原をじっと見つめていた。
「あ、あの。
どうして俺にとり憑いたの?」
木原が聞く。
すると小坂さんは恥ずかしそうにしながら言った。
「木原君のことが好きだから。」
それを聞いて木原は何とも言えない表情をしていた。
木原は幽霊から告白されたのである。
これがもし生きている人間なら、木原は喜んだかもしれない。
しかし幽霊からの告白である。
木原は複雑な心境だろう。
「あのさ、どうして俺のことが好きなのかな?」
木原が聞いた。
「似てたから。」
「似てたから?
誰に?」
「私の好きだった人に。」
しばらく沈黙が流れる。
そして木原は言った。
「じゃあなんでその好きな人にとり憑かなかったの?」
「告白して、ふられたの。
それに今は、その人は引っ越して遠くに行っちゃったから。
その後、私は事故に遭って死んじゃったの。
それで私が幽霊になって街をさまよっていると、木原君を見つけたの。
木原君、私の好きだった人にすごく似てたから。
だから木原君にとり憑いたの。」
木原は黙っていた。
俺は木原に近寄り、茶化すように言った。
「よかったじゃないか、木原。
こんな可愛い子に告白されて。」
しかし木原は黙ったままだった。
「おい、どうしたんだよ、木原。」
木原は黙って何かを考え込んでいた。
そしてしばらく黙ったあと、口を開いた。
「ごめん、小坂さん。
小坂さんは可愛いけど、やっぱり幽霊なんだよ。
人間と交際することは出来ない。
申し訳ないけど、君の気持ちは受け取れない。」
木原はとても真剣な表情だった。
すると小坂さんが言った。
「分かってるわ。
人間と幽霊が付き合えないなんて。
でも私、自分の気持ちを伝えたかったの。」
「その気持ち、分かります。」
佳恵さんが言った。
「私ね、心残りがあって成仏出来ないの。」
小坂さんが言った。
「心残りって、その好きだった人のこと?」
木原が聞いた。
「うん。
もうその人には会えないけど、こうして木原君とは出会えた。
ねえ、私のお願いを聞いてくれる?」
「お願いって何?」
「一度でいいから、私とデートして欲しいの。」
「デート?」
「うん。
一度でいいの。
そしたら私、成仏出来るわ。」
すると木原は言った。
「あのさ、一つ確認したいんだけど。」
「何?」
「君はさっき俺のことが好きだって言ったよね。」
「うん、言った。」
「でもそれは、君が好きだった人に俺が似てるから好きだってことだよね。」
「うん、そうよ。」
「それって、本当に俺のことを好きだって言えるのかな。」
そう言われて、小坂さんは黙ってしまった。
「君の気持ちは嬉しい。
でも好きな人に似てるからっていう理由だけで、本当に俺のことが好きなの?」
木原は真剣な表情で言った。
すると小坂さんは言った。
「木原の君の言いたいことは分かるわ。
私が木原君を、好きだった人のかわりにしようとしてるんじゃないかって思ってるんでしょ?」
「ああ、そうだよ。」
「それなら誤解よ。
私は本当に木原君のことが好きになったの。
そりゃあきっかけは好きだった人に似てたからだけど、今は本当に木原君のことが好きなの。
私の木原君に対する気持ちは本物よ。
だから私とデートして欲しいの。」
それを聞いてまた木原は黙り込んだ。
「ねえ、ダメ?
木原君は私のことが嫌い?」
小坂さんが木原の顔を覗き込むようにして聞いてくる。
「木原君、小坂さんの気持ちは本物だと思います。
真剣に考えて、答えを出してあげて下さい。」
佳恵さんが言った。
すると木原は「分かった。」と言った。
「君の気持ちが本物だってことは分かった。
俺でよかったら、デートしよう。」
「本当に?」
「ああ、本当さ。」
「やった!
嬉しい!
ありがとう、木原君。」
小坂さんはとても喜んでいた。
「健太郎と佳恵さん。
二人も一緒について来てくれないかな?」
木原が言った。
「何でだよ。
デートだろ。
二人で行けよ。」
しかし小坂さんは言った。
「私は構わないわよ。
木原君の友達と、そこの幽霊のお姉さんがついて来ても。
ダブルデートって感じがしていいじゃない。」
そういうわけで、木原は幽霊とデートすることになった。
そしてなぜか俺と佳恵さんもついて行くことになった。
「初めてのデートの相手が幽霊とはな。」
木原が呟いた。
「じゃあデートに行こう!
まずは映画でも観に行こうよ。」
小坂さんがはしゃぐように言った。
こうして木原と幽霊のデートが始まった。
初めてのデートの相手が幽霊。
それは貴重な体験だぞと、俺は木原に対して心の中で呟いた。

                                 第十二話 つづく


幽霊ハイスクール 第十一話 ピアノを奏でる幽霊

  • 2010.11.07 Sunday
  • 09:18
 三時間目の授業が終わり、休み時間の間、俺は木原と喋っていた。
「高校を卒業したらどうしようかな。」
木原が頬杖をつきながら言う。
「お前はこの前の進路アンケートは、何て書いたんだ?」
「未定って書いた。」
「まだ進学するか就職するか決めていないのか?」
「ああ、迷ってるんだよ。
あまり大学に進学する気にはなれないし、かといって就職も今の時代は難しいだろうし。
どうしよう。」
俺はこの前、将来のことで佳恵さんに相談にのってもらった。
木原も俺と同じように、将来のことについて悩んでいるらしい。
「なあ、健太郎。
俺はどうしたらいいと思う。」
「そんなこと聞かれても困るよ。」
木原の将来へのアドバイスなど思いつかなかった。
すると木原は、小声で佳恵さんに聞いた。
「ねえ、佳恵さん。
俺はどうしたらいいと思う。
進学かな?
それとも就職かな?」
佳恵さんは真面目な顔で木原の話を聞いてから答えた。
「それは私には分かりません。
木原の君の人生ですから、木原君のしたいようにすればいいと思います。」
それを聞いた木原はため息を吐いた。
「やっぱりそうだよなあ。
最終的には自分で決めるしかないんだよなあ。」
木原とそんなふうに話していると、少し離れた所にいる女子グループの会話が聞こえてきた。
「本当だって。
私この前音楽室の前を通ったら聞いたんだもん。
ピアノの音を。」
「でも音楽室には誰もいなかったんでしょ?」
「そうなの。
音楽室の扉を開けたら誰もいなかったの。
それで扉を閉めたら、またピアノの音が聞こえてきたの。」
「やだ、怖い。」
「そうでしょ。
私も怖くなっちゃって、すぐに音楽室の前から走って逃げたのよ。」
「それって幽霊に仕業じゃない?」
「やっぱりそう思う?」
「私は幽霊の仕業だと思う。
絶対そうだよ。」
耳を澄まして、俺と木原は女子グループの会話を聞いていた。
「あんなこと言ってるぜ。
健太郎はどう思う。」
「さあな。」
「さあなって。
感心ないのかよ。」
「なんかここのところ、やたら幽霊と出会うから、幽霊に対して免疫ができたみたいなんだ。
もし音楽室に幽霊がいたとしても、俺は驚かないな。」
すると木原は頷いた。
「確かにな。
佳恵さんに会ってから、色んな幽霊と会ってるもんな。
でも気になるよな、音楽室の幽霊。
誰もいない音楽室からピアノの音がする。
どこの学校にもありあそうな噂だけど、でもやっぱり気になるよな。」
「どうせまた調べに行こうとか言うんだろ。」
「よく分かったな。
今日の放課後、音楽室に行ってみないか?」
「まあ、俺はべつにいいけど。」
「よし、じゃあ決まり。
放課後に音楽室に行こう。
佳恵さんも一緒にね。」
木原は佳恵さんにウィンクをした。
相変わらず恥ずかしいことを平気でやるやつだ。
「健太郎君達が行くなら、私も行きますよ。」
そういうわけで、放課後に音楽室に行ってみることにした。
もし幽霊がいるのなら、佳恵さんが教えてくれるだろう。
休み時間の終了のチャイムが鳴り、俺の席に来ていた木原は自分の席へと戻って行った。
そして授業がだんだんと終わっていって放課後になった。
木原が俺の所へやって来る。
「じゃあ音楽室に行ってみようぜ。」
俺と木原は教室を出た。
そこで美保と会った。
「あんた達、二人でどこかに行くの?」
美保が尋ねてくる。
俺は音楽室の幽霊のことを話した。
「ちょっと、どうしてそんな面白そうな話に私を誘ってくれないのよ。」
美保は怒っていた。
「じゃあお前も来ればいいじゃないか。」
木原が言う。
「うん、行く。
今日は部活は休むわ。」
こうして美保も行くことになった。
音楽室は、俺達のいる向かいの東校舎の三階にある。
俺達は東校舎の三階までやって来た。
そういえば以前、この東校舎の三階の物置部屋に幽霊がいた。
吉野君という俺達と同年代の幽霊で、心残りがあって成仏出来ないと言っていた。
その心残りとは、友達と思いっ切り遊んだことがないということだった。
俺と木原、そして美保と佳恵さんで吉野君と遊んだ。
俺達と遊んで満足した吉野君は、成仏していった。
そんな物置部屋を通り過ぎ、音楽室の前までやって来た。
今はピアノの音は聞こえない。
「じゃあ扉をあけてみるか。」
木原が言った。
俺と美保は頷いた。
木原が扉を開ける。
中には誰もいなかった。
「佳恵さん、この部屋に幽霊はいる?」
美保が聞いた。
「はい、います。
ピアノの椅子に座っています。」
俺達はピアノ椅子をじっと見た。
すると誰もいないピアノが鳴り始めた。
美保は驚いていた。
「幽霊がピアノを弾いてるの?」
木原が聞く。
「はい。
皆さんの姿を見た途端、ピアノを弾き始めました。」
俺達はピアノの音に耳を澄ました。
とても綺麗な音色だった。
「佳恵さん、ピアノを弾いている幽霊に、俺達に姿を見せてくれるようにお願いしてくれないかな。」
「分かりました。」
佳恵さんはピアノへと近づいて言った。
そして何やら話している。
すると、ピアノの椅子に若い女性の幽霊が現れた。
俺達より年上だが、佳恵さんよりは年下という感じだ。
長い髪を綺麗に後ろで結っていた。
そして青いドレスを着ていた。
俺達は幽霊を見ても驚かなかった。
どうやら幽霊を見ることに慣れたらしい。
その幽霊は、今もピアノを弾いている。
とても上手だった。
俺達はしばらくピアノの音色に聴き入っていた。
そしてピアノがやんだ。
俺達は拍手をした。
するとピアノを弾いていた幽霊は、椅子から立ち上がってお辞儀をした。
「すごい!
とっても上手。」
美保が言う。
「うん、思わず聴き入っちゃった。」
木原が感心したように言った。
俺達はピアノの幽霊に近づいた。
「すごくピアノが上手ですね。」
俺は言った。
「ありがとう。」
ピアノの幽霊は二コリと微笑んだ。
「俺、坂入健太郎っていいます。」
すると木原と美保も名乗った。
「木原良人です。」
「野村美保です。」
ピアノの幽霊はまた二コリと笑い、自分の名前を言った。
「松井麻子といいます。
ピアニストです。」
「とてもお上手なピアノでした。」
佳恵さんが言った。
「ありがとう。
もう一曲いかが?」
松井麻子と名乗った幽霊は言った。
「うん、聴きたい。」
美保が言った。
すると松井さんは椅子に座り、ピアノを弾き始めた。
俺達はその素晴らしい音色に、また聴き入っていた。
さすがピアニストだけあって上手だ。
心に響いてくる音色だった。
そして松井さんがピアノを弾き終えると、俺達はまた拍手をした。
「本当に上手だね。
でもどうしてこんな所でピアノを弾いてるの?」
木原が聞いた。
「私、ピアノの発表会に行く途中に、事故に遭って死んでしまったの。
でも幽霊になっても、ピアノは弾きたくて。
だからこうして学校を転々としながらピアノを弾いているの。」
そこで俺は思った。
確か幽霊は物に触れないんじゃないかと。
そのことを佳恵さんに聞いてみた。
「たまにいるんです。
幽霊になっても物に触れる人が。
特に自分の思い入れの強かった物には触れるみたいです。」
そうなのか。
俺は納得した。
「今日はとっても良い日だわ。
私のピアノをちゃんと聴いてくれる人がいるんだもの。」
松井さんは嬉しそうに言った。
「いつもは一人で弾いてるんですか?」
美保が聞いた。
「うん。
だって誰も幽霊のピアノなんて聴きに来ないでしょ。
学校にはピアノがあるから、学校を転々としてるけど、みんな私がピアノを弾くと怖がって逃げちゃうの。
当然よね。
誰もいない部屋からピアノが鳴ってるんですもの。」
松井さんは少し寂しそうに言った。
「じゃあ今日は俺達が松井さんのピアノを聴いてあげるよ。」
木原が言った。
「本当?
じゃあ私、たくさん弾いちゃう。」
それからしばらく、松井さんのピアノを聴いた。
どの曲も素晴らしく、俺達は感心しながら聴いていた。
そして松井さんが最後の曲を弾き終えると、俺達は盛大な拍手を送った。
松井さんは椅子から立ち上がって、深くお辞儀をしてから言った。
「ありがとう。
私のピアノを聴いてくれて。」
すると松井さんは音楽室の窓の方に向かって行った。
「どうしたの?」
美保が聞く。
「さっきも言ったけど、私は色んな学校を転々としているの。
もう次の学校に行くわ。
今日は本当に良い日だった。
みんな私の曲を聴いてくれてありがとう。」
そう言うと松井さんは、音楽室の窓をすり抜けて宙を飛んで行った。
俺達は窓を開け、松井さんに手を振った。
「素敵なピアノをありがとうー!」
みんなでそう叫んだ。
松井さんは一瞬だけこちらを振り返り、手を振って、またどこかへと飛んで行ってしまった。
「とっても素敵なピアノだったわね。」
美保が言う。
「ええ、心に響く音色でした。」
佳恵さんも松井さんのピアノを褒めていた。
「音楽室に、幽霊はいたな。」
木原が言ってくる。
「ああ、とっても素晴らしいピアニストの幽霊がな。」
俺は松井さんが飛んで行った方を見つめていた。
ピアニストの幽霊は、これからもどこかの学校で、あの美しい音色を奏で続けるのだろう。

                                 第十一話 完

幽霊ハイスクール 第十話 幽霊の恋愛

  • 2010.11.06 Saturday
  • 09:11
 六時間目の授業の終了のチャイムが鳴った。
これで今日の授業は全て終了だ。
俺は帰る用意を始めた。
教室を出る時、木原と美保に会った。
「じゃあね、健太郎に佳恵さん。」
美保が手を振って部活に行く。
「佳恵さん、また明日ね。」
木原が佳恵さんを見つめて言う。
「はい、また明日。」
それを聞いた木原は笑顔になり、木原も部活へと行った。
「さて、帰るか。」
何の部活にも入っていない俺はさっさと帰ることにした。
「健太郎君は、どうして部活をやらないんですか?」
佳恵さんが聞いてくる。
「面倒くさいから。」
俺は短く答えた。
「せっかくの高校生活なんだから、何か部活をやった方がいいと私は思いますけど。」
「だって面倒くさいものは面倒くさいだもん。
そういう佳恵さんは、高校の時は何か部活に入っていたの?」
「はい、水泳部に入っていました。」
意外だった。
佳恵さんの雰囲気からすると、もし部活に入っていたなら文科系の部活だと思っていた。
「これでも結構速かったんですよ。
県大会で2位になったこともあります。」
「そりゃあすごいね。」
俺は少し驚いて言った。
そして学校を出て家に向かう。
「健太郎君は、中学の時も何の部活にも入っていなかったんですか?」
「中学の時は、少しだけ卓球部に入ってた。
でもすぐ辞めちゃったけどね。」
部活というのはどうも俺の性に合わない。
俺は学校が終わったら、すぐに家に帰りたいのだ。
「もったいないですねえ。」
佳恵さんが言った。
「そうかな。」
「そうですよ。
部活に入れば、良い思い出ができるのに。」
そんなもんだろうか。
俺は特に部活で良い思い出が欲しいとは思わなかった。
それから家に向かって歩いていると、途中にある文房具屋と本屋の間に佳恵さんが目を向けていた。
「どうしたの?」
「あそこに男性と女性の幽霊がいます。
何か言い争っているみたいです。」
俺は驚いて文房具屋と本屋の間を見た。
誰もいない。
「本当にあそこに幽霊がいるの?」
「はい。
あ、女性の幽霊がこっちにやって来ました。」
俺は思わず身構えた。
すると佳恵さんが誰もいない所に向かって話し始めた。
「え、何、何ですか?」
誰かと喋っているようだ。
「いきなりそんなことを聞かれても・・・。」
何やら困っているようだ。
「どうしたの、佳恵さん。」
「女性の幽霊の方が、私に話しかけてきたんです。
でもちょっと困ってしまって。」
俺は佳恵さんの前を見た。
やはり誰もいない。
いや、幽霊がいるのだろうけど、俺には見えていないだけなのだろう。
「佳恵さん、その幽霊に俺にも姿を見せるように言ってくれないかな。」
「はい、分かりました。」
そして佳恵さんは誰もいない方に向かって何やら話し始めた。
すると佳恵さんの前に、女性の幽霊が現れた。
女性の幽霊は俺を見ている。
俺は愛想笑いをした。
女性の幽霊は、髪はショートカットで、派手な服にミニスカートを穿いていた。
俺は自分の名前を名乗った。
「あの、どうも。
坂入健太郎といいます。」
女性の幽霊は俺の名前など聞いていないというふうに、プイっとそっぽを向いた。
そして女性の幽霊は佳恵さんに言った。
「ね、あなたも思うでしょ。
翔太が悪いって。
私っていう女がありながら、他の女に手を出すなんて。」
何やら怒っているようだ。
佳恵さんは困った表情をしていた。
「何がどうなってるの、佳恵さん?」
「それが、こちらの女性の方が、付き合っている男性の幽霊の方に浮気をされたみたいで。」
幽霊が付き合う?
しかも浮気?
一体どういうことだ。
俺が考えていると、その女性の幽霊は言った。
「こんな所で話してもあれだから、あなた達もこっちに来てよ。」
そう言われて、俺と佳恵さんは文房具屋と本屋の間の中に入って行った。
「ちょっと翔太!
反省してるの?」
女性の幽霊が、文房具屋と本屋の間の奥を見て怒っている。
きっと翔太という男性の幽霊がいるのだろうけど、俺には姿が見えない。
「ねえ、佳恵さん。
男性の幽霊にも俺に姿を見せるように言ってよ。」
その言葉を聞いた女性の幽霊が言った。
「私から言ってあげるわよ。」
そう言うと、髪を茶髪にした、遊び人ふうの男性の幽霊が現れた。
「なあ、奈美子。
もう何回も謝ったじゃないか。
いい加減許してくれよ。」
翔太と呼ばれた男性の幽霊は言った。
「そう言って今まで何回も浮気してきたでしょ。
ねえ、そこの幽霊さん。
あなたも浮気する男なんて最低だと思うでしょ。」
奈美子と呼ばれた女性の幽霊にそう聞かれ、佳恵さんは困っていた。
「ま、まあ、確かにそうですね。」
佳恵さんは言った。
「ほら。
あの人もこう言ってるじゃない。
浮気をするなんて最低よ!」
「だからいい加減許してくれよ。
もうしないから。」
何が何だか分からなくなってきた。
幽霊同士が付き合って、それで浮気がどうのとか言って喧嘩している。
一体どうなっているのだろう。
俺は聞いてみることにした。
「あの、奈美子さん。」
「何よ。」
「奈美子さんは、その翔太さんという方と付き合っているんですよね。」
「そうよ。」
「あの、幽霊でも恋愛ってするんですか?」
すると翔太さんが笑った。
「そうだよな。
生きている人間には不思議に思うよな、坊主。」
坊主と呼ばれてしまった。
「俺も生きている頃には、幽霊が恋愛をするなんて思ってもいなかったな。」
翔太さんは言った。
「でもな、坊主。
幽霊でも、恋愛はするんだよ。
俺は奈美子のことが好きなんだ。」
「だったらどうして浮気なんかしたのよ!」
奈美子さんが怒る。
「ねえ、聞いてよ。
これでもう浮気は五回目よ。
私許せないわ。
あなたもそう思うでしょ。」
佳恵さんがそう聞かれた。
「はい、まあ、浮気はよくないことだと思います。」
「ほら、こう言ってるじゃない。
私のことが好きなら、どうして浮気なんかしたのよ!」
「いや、それは気の迷いというか・・・。」
「気の迷い?
そんなことで浮気するの?
信じられない。」
奈美子さんは腕を組んで、翔太さんに背を向けた。
「なあ、奈美子。
もう機嫌を直してくれよ。
もう絶対浮気はしないから。」
「今までもそう言って浮気してきたじゃない。」
「今回は本当に約束する。
もう浮気はしない。
なあ、そこのあんた。
あんたからも奈美子に機嫌を直すように言ってくれよ。」
佳恵さんは翔太さんにそう言われ、困った顔をした。
「なあ、頼む。
あんたからも機嫌を直すように言ってくれ。」
再度お願いされて、佳恵さんは困った顔のまま言った。
「あのう、奈美子さん。
翔太さんもああ言っていることですし、許してあげたらどうでしょう。」
すると奈美子さんは佳恵さんを睨んだ。
「じゃああなたは好きな男に浮気されて許せるの?」
「いえ、それは許せませんね。」
即答だった。
「ほら、この人も浮気は許せないって言ってるわ。
私、今回だけは許さないから。」
すると翔太さんは奈美子さんに近づいて肩に手を置いた。
「頼むよ。
俺が本当に好きなのは奈美子だけなんだって。
お願いだから、信じてくれよ。」
しばらく沈黙が流れる。
すると奈美子さんが言った。
「もう絶対に浮気しない?」
「ああ、しない。」
「本当にしない?」
「本当にしない。」
「約束してくれる?」
「ああ、約束するよ。」
それから奈美子さんはしばらく考え込む表情になってから言った。
「もし次に浮気したら、私、成仏するからね。」
それを聞いて翔太さんは慌てた。
「待ってくれよ。
それだけは勘弁してくれ。
成仏する時は、二人揃ってしようって言ったじゃないか。
俺を残して成仏なんてやめてくれよ。」
俺と佳恵さんは黙って二人のやり取りを見ていた。
「ねえ、翔太。
本当に私のことが好き?」
「ああ、大好きだよ。」
「愛してる?」
「もちろん愛してるよ。」
「分かったわ。
じゃあ許してあげる。
でも次はないわよ。」
「ああ、分かってる。
もう浮気はしない。」
それから翔太さんは、奈美子さんの正面に回って抱きしめた。
「奈美子、愛してるよ。」
「翔太・・・。」
二人は見つめ合い、それからキスを始めた。
軽いキスから、だんだんと濃厚なキスになっていく。
俺はそれをじっと見つめていた。
すると佳恵さんが俺の視界をふさぐように立ちはだかり、そして言った。
「さあ、もう行きますよ。」
「でももうちょっとキスシーンを見ていたいな。」
俺は言った。
すると佳恵さんは怒るように言った。
「人のキスをじろじろ見るものじゃありません!
さあ、行きましょう!」
佳恵さんに強く促され、俺は仕方なく文房具屋と本屋の間から出て来た。
「佳恵さん。」
「何ですか?」
「幽霊でも恋愛ってするんだね。」
「そうですね。
私も初めて見ました。」
それから家に向かってもくもくと歩いた。
そして家に着く頃になって佳恵さんが言った。
「健太郎君は、浮気するような男の人になっちゃダメですよ。」
とても強い口調で、しかも真剣な目で言われた。
「はい。
分かりました。」
俺は素直に頷いた。
幽霊でも恋愛はする。
新たな発見だった。

                                   第十話 完

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