カオスジャーニー 第一話 輪廻の時

  • 2014.06.18 Wednesday
  • 01:17
輪廻の時


全ては等しい。
善も悪も、光も闇も、強者と弱者も。
全ては流転する時の流れから逃れることは出来ない。
破壊と創造は神でさえも止めることは出来ない。
新たな命が産まれ、育ち、老い、死んでいく。
しかしそれは終わりであると同時に始まりでもあり、連綿と続く悠久の輪から抜け出すことは出来ない。
もし、お前の国が、お前の世界が繁栄を極めているのなら、それは滅びの兆候である。
燃え尽きる蝋燭が最後の輝きを放つように、お前を取り巻く世界もやがては燃え尽きるであろう。
その時、お前自身がどうなっているかは分からない。
滅びゆく世界と同様に、お前の命も死を迎えるかもしれないし、そうでないかもしれない。
しかし、お前の愛するものは全て失われるであろう。
国も、家族も、夢や恋人、そして飼い犬さえも滅びるだろう。
もしお前が死を免れたとしても、お前はすがりつくものを失くし、途方に暮れるだろう。
よく聞くがいい、お前は自分の立っている世界を知らない。
力の信奉者であり、正義に駆られるお前の心がどれほど脆いか、その時に知るのだ。
そうでなければ、お前は世界と共に滅んだ方が幸せだろう。
なぜなら、最も辛い孤独を耐え、ただ一人戦わなければならないのだから。
お前はまだ真の戦いを経験してはいない。
敵は外に在らず、お前の中に在ると知るべきだ。
失い、傷つき、悲しみ、涙に暮れる。その時、お前の中に何が在るかよくよく見極めるのだ。
輪廻の時が迫った時、お前の心には絶望さえないのだから・・・。
一つ助言をするならば、お前の目に映るほとんどのものは幻でるということだ。
そして今のお前の心もまた、幻で満たされている。
幻想の中にある真なる声に気づかなければ、お前は滅びるだろう。
しかし、全ては等しい。個の命も、世界の命運も全てが等しく在る。
何かもかも失い、岐路に立たされた時、残されるのは自分の意思だけだと覚えておくといい。
もし生き延びていればまた会いに来よう。
今は束の間の安息を楽しむといい・・・・始まりの終わりは近いのだから・・・。





死神の宴


朝の稽古は清々しい。
剣の一振り一振りに汗が飛び散り、筋肉が引き締まっていくのが分かる。
「お父さん、おはようございます。」
剣を振っていた円龍二は動きを止めて頭を下げた。
「毎日精が出るな。努力を怠らないのはいいことだぞ。」
龍二の父、円清明は青い軍服に身を包んで微笑みを向けた。
「今からお勤めですか?」
「そうだ。太平の時にこそ注意を怠ってはいかんからな。
軍人とは戦う者に在らず、国を守る者だ。」
清明の口癖に小さく頷き、龍二は再び剣を振り出した。
「私もあと五年もすれば立派な隊士になってみせます。そしてお父さんと肩を並べて仕事をするのが夢なんです。」
「そうか。ならその時を楽しみにしているよ。お前も仕事に遅れるなよ。」
清明は脇に抱えていた帽子をかぶり、広い庭を抜けて外に待つ車に向かった。
迎えの者が並んで敬礼し、清明は稽古に励む息子を振り返ってから車に乗り込んだ。
《良い息子を持った。いずれはこの国を守る優秀な軍人になるだろう。
しかし・・・出来れば戦いの道には進んでほしくなかったが・・・。》
一抹の寂しさを抱えながら、声明は運転手に合図を出した。
強力な装甲と分厚い頑丈なガラスで覆われた車が走り出して行く。
清明は世界で三強に入る国、ヨスガの国の軍人であった。
そして三つからなる魔導隊、科学防護隊、国防隊のうち、国防隊の副司令官という高い地位に就いていた。
もし敵が攻めてくれば最前線で戦うのが国防隊の任務であり、そのような仕事で副司令官という地位に就くことは名誉なことだと感じていた。
何十年も平和が続いているこの世界だが、争いというのはいつ起こってもおかしくはない。
清明は軍人としていつでも死ぬ覚悟を持ち、いつでも戦う覚悟を持っていた。
そしてそれ以上に、強く平和を願う心を持っていた。
『軍人とは戦う者に在らず、国を守る者である』
これは清明にとって揺るぎない信念であった。
勝つ為の戦いはせず、平和を保つ為の戦いこそ軍人の本懐である。
強力な軍隊の指導者でありながら、一度も戦火を経験したことがないのは名誉だと思っていた。
《願わくば、この平和な時代が息子や孫の代まで続きますよう・・・。》
護国神、スサノオノミコトに祈りを捧げながら、声明は職場へ向かっていった。


            *


龍二は見習いの隊士であった。
一年前に国防軍の試験に合格し、二年に及ぶ隊士研修の真っ最中であった。
研修といっても学校に通うわけではなく、実際の現場で先輩達の仕事を体感しながら経験を積んでいき、最後に行われる本隊士試験に合格しなければならない。
配属された第二岬防衛基地に着くと、すれ違う先輩隊士に頭を下げながら自分のロッカーに向かった。
そして茶色の軍服に着替え、同僚が待つ新人の雑魚部屋に向かった。
「おう、相変わらず早いな。」
仲の良い同僚の早坂進が声を掛けてきた。
「お前こそ随分早いじゃないか。いつもはギリギリに来るくせに。」
「いや、ちょっと用があってな。」
そう言って短い黒髪を掻く早坂だったが、龍二は彼が朝早くにやって来た理由を知っていた。
「ついに決心したのか?琴美に告白することを。」
「・・・まあな。あの腐れ上官と別れたって噂だし、それにいつまでもウダウダしてられねえから。」
早坂はとても端整な顔立ちで、この国の人間にしては珍しく朱色の瞳を持っていた。
背はやや低めだが肩幅はがっちりとしており、がさつなように見えて繊細な神経の持ち主で、よく女に告白されていたがどの相手とも付き合おうとしなかった。
「お前は女にモテるくせに、どうしてあんなじゃじゃ馬がいいんだ?」
「じゃじゃ馬だからいいんだよ。俺に寄ってくる女どもはどいつも甘ったるい奴ばっかりだからな。俺はそういう女は願い下げなんだ。」
「贅沢な悩みだな。他の奴らが聞いたら怒りそうだ。」
「モテない男のことなんて知るかよ。恨むなら美形に産んでくれなかった親を恨めってんだ。」
龍二は笑いながら畳に腰を下ろし、柔軟運動を始めた。
口は悪いが根は良い奴だと知っており、そわそわと緊張する早川を見ながら柔軟を続けていった。
時間が経つにつれて雑魚部屋に隊士が集まり、それぞれが雑談を交わしたり組手をしたりと思い思いの時間を過ごしていた。
やがて基地内に大きな鐘が鳴り、龍二は腰を上げて背を伸ばした。
「さて、今日も一日務めを果たすか。」
周りも表情を引き締めて部屋から出て行き、龍二もドアへ向かった。
「どうした?何を座り込んでるんだよ?」
早坂は浮かない顔のまま立ち上がろうとせず、窓の外を見つめていた。
龍二は彼の傍に近寄って顔を覗き込んだ。
「どうした?思い詰めた表情をして?」
「・・・琴美がまだ来てねえ・・・。」
「ん?ああ、そういえば・・・。」
いつもは龍二の次くらいに早くやって来るはずなのに、今日はまだ姿を見ていなかった。
「俺はてっきりお前が告白してフラれたのかと思っていたけど・・・。」
「龍二って勤務前は自分の世界に没頭するよな。俺・・・ずっとドキドキしながら待ってたんだけど・・・。」
「そうか。まあ何か事情があって遅れているんだろう。お前も遅刻すると怒鳴られるぞ。
早く行こう。」
「・・・・・そうだな。あの腐れ上官に偉そうな顔されたくねえし、告白は勤務が終わってからでも出来るしな。」
早坂は膝に手をついて立ち上がり、龍二と並んでドアに向かった。
「今日は雷撃砲の訓練だっけ?そんなもん科学防護隊の仕事なのに、なんで俺達が訓練するんだろうな。」
「いざとなったら俺達も使う兵器だろ。白兵戦だけが戦闘じゃないさ。」
「何の為に国防隊を志願したんだか・・・。俺はこの肉体こそが最大の・・・、」
その時だった。
突然基地内に非常警戒のベルが鳴り響き、隊士たちが慌ただしく行き交いだした。
「なんだ?今日は非常訓練なんてあったっけ?」
「いいや、何も聞いていないぞ。それに先輩達の顔は本当に焦っているように見えるが・・・。」
耳を突く不快で不安を掻き立てるベルは鳴り続け、龍二と早坂は顔を見合わせて走り出した。
向かう先は早坂が腐れ上官と呼ぶ羽場という隊士の元で、何かあった時にはこの上官の元へ集合することになっていた。
鍛えられた足で廊下を駆け抜け、一目散に羽場の部屋を目指した。
「早くしろよ龍二!」
「待てよ!俺はお前みたいに気功を会得してないんだから・・・。」
生まれながらにして全身の気穴が解放されている早坂は獣並みの速さで駆けていく。
龍二は必死に彼の後を追い、息を切らして羽場の部屋の前に辿り着いた。
「早坂準隊士!失礼します!」
早坂は大声で叫んでからドアを開けた。
しかし部屋に入った途端に立ち竦み、ドアの前で固まってしまった。
「お、おい・・・。どうしたんだよ?」
龍二は早坂の脇から中を覗き込んだ。
室内には羽場の大きな机が置かれていて、いつもはそこに座っているはずなのに姿がなかった。
不審に思ってぐるりと室内を見渡すと、目を疑うものが床に転がっていた。
「は・・・羽場上官・・・・。」
龍二も早坂と同じように立ち竦み、唇を震わせて慄いた。
床に転がっているのは、羽場の頭と胴体だった。
頭はスイカのようにポツンと床に転がり、胴体は首から血を流して倒れていた。
「・・・こ、これは・・・どういう・・・、」
その瞬間、龍二は背後に身の毛もよだつ悪寒を感じて振り返った。
「なッ・・・。危ないッ!」
咄嗟に早坂を押し倒し、勢い良く床に倒れ込んだ。
次の瞬間には大きな鎌が二人の頭上をかすめていった。
「な、なんだよ・・・。いきなり叫んで・・・、」
そう言って顔を上げた早坂は発狂したように奇声を上げた。
「う、うわあああああッ!」
龍二は早坂を抱えたまま目の前に立つ者を見上げていた。
それは死神だった。黒い衣を纏って大きな鎌を持ち、髑髏の顔を覗かせている。
そして骨だけの身体をした馬に跨っていた。
見るだけで気絶しそうなほど恐怖を感じる殺気を纏い、再び鎌を振り上げてきた。
「伏せて!」
突然誰かが叫び、龍二と早坂は咄嗟に身を屈めた。
すると眩い閃光と爆音が響き、龍二は耳を塞いで強く目を閉じた。
《この衝撃波・・・雷撃砲・・・?》
龍二は恐る恐る顔を上げて目を開いた。
死神は二人に背を向けており、黒い衣から煙を上げて何かを睨んでいた。
その視線の先には一人の女が立っていて、雷撃砲と呼ばれる特殊な武器を死神に向けていた。
「琴美!」
龍二は立ち上がって叫び、早坂は腰を抜かしたまま琴美と呼ばれた女を見つめていた。
「早く逃げて!モタモタしてたら殺されるよ!」
琴美は再び雷撃砲を放った。凄まじい雷鳴が響き、死神に巨大な稲妻が突き刺さる。
龍二は早坂を立たせ、腕を引っ張って駆け出した。
「ボケっとしてるな!逃げるぞ!」
しかし早坂は腕を振りほどいて琴美の方へ駆け出した。
「おい!戻れ!」
「馬鹿野郎!琴美を置いて逃げられるか!」
死神は雷撃砲を二発もくらって平然としており、鎌を振り上げて手綱を引いた。
骨の馬は気持ちの悪い雄叫びを上げて琴美に向かっていく。
「このッ・・・。」
琴美は雷撃砲を構え、引き金を引いた。
しかし小さな電気が放たれただけで、稲妻は発生しなかった。
「エネルギー切れ・・・。」
愕然とする琴美に死神の鎌が襲いかかる。
「うおおおおおお!琴美に手え出すんじゃねええええ!」
早坂は拳に気功を溜めて死神を殴りつけた。
ハンマーで叩いたような重い音が響くが、死神はまったくダメージを受けていなかった。
「馬鹿!なんで逃げないのよ!」
「うるせえ!お前だけ残して逃げられるか!」
そう叫んで再び死神を殴ろうとする早坂。
しかし鎌であっさりと拳を切り落とされ、返す刃で首を斬りつけられた。
何の音も無く鎌は振り抜かれ、早坂の頭は宙を舞って地面に落ちた。
「早坂ああああああああッ!」
龍二は奇声を発して駆け出し、腰に付けていた短剣で斬りかかった。
短剣の刃は黒い衣を貫いて死神に突き刺さったが、そこには何の手ごたえもなかった。
「くそッ・・・。」
慌てて短剣を抜いて飛び退いたが、その刃はボロボロに朽ちていた。
「なッ・・・・、化け物かよ・・・。」
「危ないッ!」
呆然としていると、琴美が飛びかかって龍二を押し倒した。
「うおッ!」
倒れた勢いで頭を打ちつけ、後頭部を押さえながら前を見ると琴美の顔があった。
「こ、琴美!大丈夫かッ?」
慌てて身体を起こすと、ボトリと琴美の頭が落ちていった。
彼女も早坂と同様に首を斬られ、ボールのように頭が転がっていく。
「こ、琴美いいいいいいッ!」
胴体だけの琴美を抱きかかえ、龍二は絶叫した。
死神は龍二の前に立ち、髑髏の顔を向けてじっと見下ろした。
「うう・・・ううう・・・・。」
恐怖のあまり動くことが出来ず、龍二の股の間はじわりと濡れていった。
その時後ろからバタバタと足音が聞こえ、誰かに身体を引きずられていった。
「しっかしりろ!早く逃げるぞ!」
それは同僚の見習い隊士達だった。
雷撃砲や火炎砲を構え、龍二を担ぎ上げて死神から逃げていく。
「追って来たぞ!」
「迎撃しろ!撃てるもんは全部ブチ込んでやれ!」
見習い隊士たちは武器を構えて引き金を引いた。
巨大な火球や稲妻が撃ち出され、死神に直撃して大爆発を起こす。
「やったかッ?」
「無駄だ!この程度じゃ倒せない!」
「上の人間は何してんだよッ?」
「ほとんど殺されちまってるよ!だから俺達が生き残ってんだろうが!」
死神は爆炎の中から何事も無かったかのように現れた。
禍々しい気を纏い、手綱を引いて見習い隊士の元に突っ込んでくる。
「撃て撃て!迎撃しろッ!」
火球と稲妻が撃ち出されるが、死神は鎌の一振りで全て消し去ってしまった。
「・・あ・・ああ・・・・。」
「そんな・・・。」
隊士の表情は絶望に変わり、背を向けて慌てて逃げ出していく。
しかし振り向いた先には別の死神がいた。
それも一人や二人ではない。何人もの死神が大鎌を携えてこちらを睨んでいた。
見習い隊士たちは挟まれ、じりじりと追い詰められていく。
死神の中には上官や一等兵士の生首を掴んでいるものもいて、その中には基地内で最強と呼ばれる特殊部隊の首も混じっていた。
「・・・い、いやだ・・・死にたくない・・・。」
隊士の一人は恐怖に負けて逃げ出すが、あっさりと追いつかれて首を落とされた。
それを皮切りに見習い隊士は蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑い、次々と死神の餌食となっていく。
龍二を担いでいた隊士も彼を放り投げて逃げ出したが、死神に頭を掴まれて首を斬られた。
目の前で次々と仲間が殺されていき、龍二は恐怖と絶望で現実感を失っていった。
《なんだこれ・・・。どうなってるんだ・・・?夢かなんかじゃないのか?》
そこらじゅうに人の首が転がっていて、床や地面は首から流れる血で赤く染まっていた。
それを見た途端に身体から力が抜けていき、地面に手をついている感覚さえなくなった。
現実感を失った思考はグラグラと揺さぶられ、吐き気を覚えて今朝食べた物を嘔吐した。
《お父さん・・・助けて・・・死にたくない・・・・。》
隊士になる時は死を覚悟したはずだったのに、いざ目の前に死をぶら下げられるとそんな覚悟はどこかへ飛んでいってしまった。
《死にたくない!生きたいんじゃなくて死にたくない!》
これって矛盾しているんじゃないだろうかと考え、そんな冷静さがかえって恐怖を煽った。
涙で滲む視界の中で、死神が鎌を振り上げるのが見えた。
『死ぬ』
ただ一点、その言葉だけが頭の中をよぎった。
死神の鎌がスローモーションのようにゆっくりと自分に迫ってくる。
世界は色を失くし、音も消えて何も聞こえなくなった。
ここで人生が終わる。立派な隊士になる夢も、父と肩を並べて仕事をする夢も、そして来年の春に結婚するはずだった幸せも、全てここで終わる。
「・・・・死にたくない・・・・・・・。」
最後の呟きは自分の耳に届き、迫りくる刃を前にして意識が途切れた。
暗い暗い闇の中に沈み、溺れるように落ちて行く。
そこには愛しい者達の顔が並んでいた。父と母、姉と飼い犬のケン、早坂や琴美、多くの同僚達。そして・・・結婚を約束していた美春という幼馴染。
《・・・みんな・・・。》
最初は走馬灯かと思ったが、そうではないことに気づいた。
闇の中に浮かぶ愛しい人達の顔は、皆が悲しそうに血の涙を流していたからだ。
そして落ちて行く龍二に背を向け、光に包まれて闇の中から消えていく。
《そうか・・・死んだのは俺じゃなくて、周りの方なんだ・・・。
あの光は、天国へ誘う為のものか・・・。
ということは、お父さんもお母さんも死んだのか?姉ちゃんもケンも、美春も・・・。
みんな俺を置いて天国に行ってしまうのか・・・。》
龍二は悲しみに暮れ、無音の闇の中で静かに泣いた。
《俺はどうして生きてるんだ?死神に殺されたはずなのに・・・。
みんなと一緒に死なせてくれよ!独りなんて嫌だ!》
そう思った時、闇の中に一筋の光が射し、フラッシュバックのように映像が映し出された。
それは龍二の国の姿だった。空に大勢の死神が飛び交い、生首を持って駆け回っている。
繁栄を極めたヨスガの国は、死神の群れに蹂躙されていた。
世界最強を誇るヨスガの魔導隊が必死に戦っているが、死神は草でも刈るように最強の隊士を殺していく。
魔法と科学の粋を集めて造った兵器で死神に挑むが、死神はどんな攻撃も受け付けなかった。
《そうか・・・死神に勝てるわけないんだ。だって、こいつらは『死』そのものなんだから。殺すなんて無理に決まっている・・・。》
ヨスガの国の中心に位置する、スサノオノミコトの石像の周りだけは安全なようで、死神の鎌から逃れた人々が身を寄せ合って怯えていた。
《護国神、スサノオ・・・。どうしてこの国を護ってくれなかったんだ?》
映像はパッと切り替わり、他の国々が映し出された。
どの国でも死神が暴れていて、ヨスガ以外の三強の国も蹂躙されていた。
完全に崩壊させられる国もあれば、ヨスガの国のように護国神の周りだけ無事な国もあった。
そのどれもが強力な神の石像で、スサノオ、ホルス、ゼウス、ヴィローシャナ、セラフ、等の各神話や宗教における最高神や最強神を象ったものであった。
遥か昔、この世界を去った神々は今でもその力を残していると聞いたが、それは本当だったようだ。
《死神め・・・。ずっとずっと昔に俺達の先祖が地獄に蓋をしたはずなのに・・・、どうして湧いて出て来た?いったい何が始まろうとしているんだ?》
映像はプツリと消え、闇の中に差していた光は強く輝いて龍二を包んだ。
そして矢のように高速で闇の中を飛び抜け、トンネルの出口のように眩い光が見えてきた。
《俺は生きている。なら、これからどこへ向かおうとしているんだ・・・?》
もし元の世界に戻ることが出来たとしても、そこにはヨスガの国はない。
いや、他の国さえも滅び、自分の立っていた世界はもうそこにはない。
龍二は深く絶望し、涙さえ枯れて闇の出口へ飛ばされていく。
その時ふとあることを思い出した。
それは数日前に見た奇妙な夢、まるで世界の終わりを告げるような口調で、誰かが語りかけてくる夢だった。
あの時は気にも留めなかったが、もしかして予知夢であったのかもしれない。
しかしあの予知夢を語っていた声は誰のものだ?例えようのない不思議な声だった。
しかし、どこかで聞いたことがあるような気が・・・・・。
闇の中を落ちて行く龍二は、出口の光を睨んでハッと思い出した。
《そうだ!あれは生まれて来る時に聞いた声だ。
お母さんのお腹からあの世界へ飛び出す時に聞いた声・・・・。
そして、今のこの状態もあの時にそっくりだ。
覚えているぞ、まだ外の世界を知らない胎児だった時のことを。
俺はこうして光に包まれながら、闇のトンネルを抜けたんだ。
その先には光が溢れていて、その光の先へ飛び出た時に俺は生を受けたんだ。
あれは・・・・・俺が始まった瞬間だった・・・・。》
それに気づいた時、龍二の身体は溶けて無くなった。
夢も、愛しい者も、そして自分の肉体さえ失い、後には意思だけが残った。
それはとても純粋な水のように透き通り、そして輝いていた。
龍二は一瞬であったが全ての苦痛や悲しみから解放され、感情さえも失っていった。
しかし突然暗い絶望が押し寄せ、解放されたはずの苦痛や悲しみが瞬く間に戻ってきた。
《なんだ?どうなってるんだ・・・?》
ふと自分を見ると、失われたはずの肉体が戻っていた。
しかしそれは元の龍二の肉体ではなかった。
皮膚は薄黒く変色し、胸には何かの紋章のようなものが刻まれていた。
それは心臓が鼓動を刻むたびに激痛を発し、思わず息がつまりそうになった。
変色した皮膚からは黒い汗が滲み、蒸発して黒い水蒸気へと変わっていく。
《これは・・・まるで死神の放っている気と一緒じゃないか!》
恐怖と絶望に震えていると、今度は龍二を包んでいた光が身体の中に吸い込まれていった。
すると皮膚はブルーグレーに変色し、胸の紋章の痛みも消え去った。
しかし紋章は残ったままで、緑色の鈍い光を放つようになった。
《いったい、俺はどうなっているんだ・・・?》
龍二は何も分からないまま闇を落ちていく。
そして光の出口をくぐり抜け、高い空へと投げ出された。
眼下には破壊と蹂躙を受けた自分の国が広がっていて、スサノオの石像がそびえているのが見えた。
雲を突き破り、高速で風を切りながらスサノオの石像へ落下していく。
そして石像とぶつかる瞬間に気を失い、またしても闇に包まれてしまった。
《何が何だか分からない・・・。いっそこのまま死なせてくれ・・・。》
龍二は闇の中で目を閉じ、愛しい者の顔を思い浮かべながら意識の底へと沈んでいった。

新しい小説

  • 2014.06.18 Wednesday
  • 01:12
新しい小説を書きます。カオスジャーニーという小説です。
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