VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第五話 占い師VSボディビルダー(3)

  • 2015.12.09 Wednesday
  • 13:12
JUGEMテーマ:自作小説
占いは人生相談。必要なのは言葉を紡ぐ力で、決して超能力とか霊能力じゃない。
あの若ハゲのオカルト野郎みたいに、インチキで商売なんて出来ないんだ。
ここから先は俺とマッチョマンの真剣勝負で、彼が心の底から顔を上げた時に俺の勝ちとなる。
でもそうならないと、俺はまたしてもタダ働き。
だからこれ以上ないくらいに、真剣に言葉を探ってみた。
このマッチョマンにとって、一番必要な言葉は何なのかを・・・・・。
俺はしばらく黙り込む。するとマッチョマンが口を開いた。
「あのさ、今さらなんだけど・・・・、」
「何ですか?」
「君って何占いなの?手相やタロットじゃないみたいだけど・・・・、」
「まあ・・・強いて言うなら人相学っすね。」
「でも君の話し方を聞いてると、人相学だけじゃないような気がする。なんだか話術で上手く乗せられて、ベラベラ喋らされてるような・・・・、」
「おお、鋭いっすね。」
「これってなんだか尋問みたいだよね。もしかして・・・・前は警官やってたとか?」
俺は「まさか」と笑いながら首を振った。
「昔っからこういうのは得意なんですよ。自分で言うのもなんだけど、俺ってけっこう聴き上手だから。
相手に気持ちよく喋ってもらうには、まずはちゃんと話を聴かないと。そんで要所要所で相槌打ったりしながら、さらに会話を弾ませるんです。
そうすりゃ相手は気持ちよくなって、さらに喋るってわけですよ。」
「ああ、なるほど。そうやって相手から情報を引き出してるわけだ?そして上手いこと言って納得させると。」
「そういうことっす。占いって、要は人生相談みたいなもんですよ。だから相手の情報を少しでも集めて、一番良い言葉を選んで、そっと投げかけてあげるんです。
そうすりゃ客は大満足で、上手くいけばリピーターになってくれますからね。」
「へえ・・・上手いことやってるんだなあ。君は球技も得意って言ってたから、何でも器用にこなすタイプなんだね。」
「そうっすよ。で、あんたはその逆。頭は悪くないし、勘だって鈍い方じゃない。だけど上手くいかないのは、肝心なところで不器用だからでしょ?」
「そうなんだよ・・・・。僕は自分でも努力家だと思ってるし、今まで真面目にトレーニングをやってきた。
だけどいまいち自信が持てないのは、きっと不器用なせいだと思う。君の言う通り、肝心なところで力を発揮できないんだよ。」
「あんたが筋トレを始めた理由って、きっと肉体の為じゃないですよね?鍛えたかったのはこっちじゃないんですか?」
そう言って胸を叩くと、「その通りだよ」と頷いた。
「身体を鍛えれば強くなると思ってたけど、でもそんなことなかった。僕の心は弱いままで、今でも女性恐怖症が治らない。
女子に呼び出されたあの時だって、君みたいに気が強かったら、あんなに惨めになることもなかったんだ。」
「でもそれは今さらどうこう言ったって変わんないでしょ。」
「分かってるよ。だからこうして鍛えてきたんじゃないか。」
マッチョマンは腕まくりをして、逞しい筋肉を見せつける。
鍛えまくった二の腕が、小さな山のように盛り上がっていた。
「僕は強くなった。でもそれは筋肉だけだよ。今でも・・・・・女性が怖いってことは変わらない。」
「まあ恐怖症なんてそう簡単に治らないでしょ。残念だけど、こればっかりは俺の手に負えないっすよ。恐怖症をどうにかしたいなら、それは医者の仕事だし。」
「でもこれは勝負だろ?だったら僕を納得させてみてくれよ。別に恐怖症を治してもらおうなんて思ってないし、君にそんなことは期待してない。
ただ・・・・僕を納得させてほしい。お金を払ってもいいって思えるくらいの言葉を、僕に聞かせてくれよ。」
マッチョマンの目は真剣で、さっきまでのオロオロした表情とは違う。
《なんだよ、ちゃんとそういう顔出来るんじゃん。》
この挑発的な目、そして表情。このマッチョマン、根っからの弱虫ってわけじゃないらしい。
しかしだからこそ、下手なことは言えない。別にタダで占うのはいいんだけど、それ以上にこの勝負に負けたくなかった。
だから俺は、ある一つの提案を出すことにした。
「ねえ、実は俺って、女の友達や知り合いが多いんですよ。」
「分かるよ、そういう感じがするもん。」
「それにけっこうモテます。」
「それも分かる。だって君カッコいいし、会話が上手いもん。だったら女性にモテるのは当然だよ。」
「でもね、そんな俺でも女性を怖いと思う時はあります。」
「へえ、どんな時に?」
「決まってるじゃないっすか。本気で好きになった時ですよ。」
そう言ってマッチョマンの目を見つめた。
「どうでもいい女の子相手だと、いくらでも仲良くなれるし、いくらでも会話が弾みます。
けど本気で好きになった女の子の前だと、どうしてもカッコつけちゃうんですよ。だからね・・・・本気で好きになった女と付き合うと、いつも怖いんです。
屁理屈や誤魔化しが利かないし、そもそもそんなことしたくない。正面切って、堂々と向かい合いたいんですよ。」
「その時に女性を怖いと思うの?」
「はい。だってどうでもいい女はどうでもいいけど、本気で好きになった女には嫌われたくないから。それに傷つけたくないし。
だからね、なんだか腫物に触るような感じになっちゃって、会話もセックスも上手くいかないんですよ。」
「それって好きな女性の前だと緊張しちゃうってこと?」
「そうです。だって失うのが怖いし、傷つけるのも嫌だし。だからね、普段よりもずっと大人しくなって、つまらない男に成り下がっちゃうんですよ。
そうするとね、結局フラれちゃうんです。大切にしようとすればするほど、相手と遠ざかっちゃう。そして別れを切り出されるんです。
だから俺は、本気で好きになった女が一番怖いんですよ。こんだけ女慣れしてるのに、今でも治らないんです。」
一息にそう答えると、マッチョマンは何とも言えない顔で俺を見ていた。
同情のような、でも怒っているかのような、よく分からない目だった。
「女にモテるからって、女に対して強くなるわけじゃないんです。俺は肝心なところで女に弱いんですよ。
ただの遊びとか、身体だけが目的とか、結局そういうのって、相手を女として見てない証拠なんですよ。女じゃなくて、ただのメスとして見てる。
でも本気で好きになると、どうしても女として見ちゃうんです。だからいくら女性経験が多くても、結局女には弱いまま。
鍛えてマッチョになっても、心が弱いままのあんたと一緒ですよ。」
俺は自分の本音を見せた。
本気で好きになった女は怖い。それは昔からそうだし、今でも変わらない。
だけど女性恐怖症ともなれば、そもそも全ての女が怖いわけだ。
だったら本気で好きになる女と出会ったこともないわけで、それは女の良さをまったく知らないってことでもある。
「もしよかったらなんですけど・・・・、」
そう前置きして、ゆっくりと切り出した。
「今度俺と合コン行きません?」
「合コン?」
「ええ。俺って女友達は多いから、中にはすごく優しい子とか、母性本能の強い子とかいますよ。
それに昔はキャバ嬢やってた子もいて、男を盛り上げるのが上手い子もいる。だからとりあえずそういう子たちに接して、女の良い部分に触れてみませんか?」
「・・・・合コン・・・・この僕なんかがそんな場所行って大丈夫なのかな・・・・。」
マッチョマンは不安そうに俯く。逞しい筋肉がシュンとしぼみ、小さな岩みたいに丸くなる。
「平気っすよ。あんたが女に免疫がないだってことは、女の子にたちに伝えておきます。だからそう気張らずに楽しめるはずですよ。」
「でも・・・・女性恐怖症の男なんて馬鹿にされるだけなんじゃ・・・・、」
「だからそんな事しない女の子を集めますって。みんな良い子ばっかりだから、あんたを傷つけるような事は絶対に言いません。
そうやって一度女に接してみれば、怖い部分だけじゃなくて、良いなあと思える部分だって見つかるはずですよ。」
「でも・・・・やっぱり合コンは・・・・、」
「ならこう言い換えましょう。合コンじゃなくて飲み会。ちょっと女の子が多い飲み会です。それならいいでしょ?」
「う〜ん・・・・飲み会かあ。まあそれなら合コンほどハードルは高くないかな。」
「でしょ?なら決まり。そうやって女の子と接してみれば、ちょっとは心も軽くなるかもしれないですし。」
「そうかな?」
「そうっすよ。そんで『ああ、女の子ってこういう良い部分もあるんだなあ』って思えるようになったら儲けものですよ。そうしたら、もしかしたら彼女だって出来るかも。」
「そんな上手くいくかな?」
「さあね、保証は出来ません。」
「なんだよ、偉そうに言っときながらいい加減な・・・・、」
「でも事実ですもん。そもそも世の中、保証されてる事の方が少ないっすよ。仕事でも恋愛でもね。」
「それはそうだけど・・・・、」
「だからね、どんな事でも最初の一歩が肝心なんです。ずっと同じ場所に立ってるだけだと進歩はないけど、一歩でも前に進めば、それは進歩なんですよ。
一番いけないのは、ただメソメソ嘆くだけ。どんなに嘆いたって、自分が動かなきゃ変わんないっすから。」
笑顔でそう締めくくると、マッチョマンは腕組みをして考え込んだ。
太っとい腕に筋肉の筋が浮かび、この部分だけ見れば、気の弱い男だなんて誰も思わないだろう。
「そんな良いガタイしてんですから、それだけで充分会話のネタになりますよ。女の子から『ちょっと触らせて〜』なんて言われて。」
「そ・・・・そうなの?」
「女の子って、けっこう簡単にボディタッチしてきますからね。もちろんそうじゃない子もいるけど、でも男が思ってるほど敬遠はしませんよ。」
「・・・・・・・・・・。」
「敬遠されるのは、とにかく不潔な奴、野蛮で態度の悪い奴、あとは人の話も聞かないでベラベラ喋ってるような奴だけです。」
「それは誰からも嫌われると思うけど・・・・、」
「そうですよ。だからきちんとした服装で、ちゃんと相手の話を聞く。そして礼儀正しい男なら、女の子は敬遠したりしませんよ。」
「なら・・・・僕は大丈夫かな?」
「もちろん。だってあんた野蛮でもないし、礼儀が悪いわけでもないし。それに服装だってそれなりにきちんとしてるし。」
「これ・・・・ダサくない?」
「ダサいかどうかよりも、清潔感があるかどうかが重要なんです。あんた良い身体してるから、そのポロシャツ似合ってますよ。」
「あ、ありがとう・・・・。」
「下は今日みたいなジーンズでいいです。やたらとダメージ加工されてるとだらしなく見えることもあるけど。でもそのジーンズはそんなことないし。」
「これ、つい最近買ったからね。」
「なら問題ないです。もし会話に困った時は、俺がフォローしますから。だから行きましょうよ、女の子との飲み会。
だってこういうのは経験が大事だから。ここで言葉で納得させても、それはその時だけで終わりです。だからちょっと勇気出して行ってみましょうよ。」
そう言ってポンと肩を叩くと、マッチョマンは口元をギュッと噛みしめた。眉間に深い皺が寄り、怒っているのか困っているのか分からない。
「・・・・・・・・・・・・。」
しばらくそのままの状態だったが、やがてふと顔を上げた。
「君、良い奴だね。
「そうっすか?別に普通だと思うけど。」
「いやいや、良い奴だよ。だって普通はそこまでしてくれないもん。だからね、僕嬉しかった。この勝負は君の勝ちでいいよ。」
そう言って財布を取り出し、中から万札を抜いた。しかも二枚も。
それをポンとテーブルの上に置くと、「占い、楽しかったよ」と笑った。
「え?あ・・・・いやいや!ちょっと待って下さい。こんなに貰えないっすよ。」
万札を突き返すと、マッチョな腕で押し返された。
「いいんだよ、これは勝負なんだから。」
「いや、でも通常料金の十倍っすよ、これ・・・・、」
「でも時間はオーバーしてるだろ?だから延長料ってことでいいから。」
「十倍も延長してないでしょ。それに何より、さっきの返事を聞かせて下さいよ。女の子との飲み会に行くのかどうか。」
「いや、申し訳ないけどそれは無理だ。」
「なんで!?ちゃんと優しい子を選びますから・・・・、」
「いや、そういう事じゃないんだよ。」
「じゃあどういうことっすか?このままずっと女に縁のないままでいいんすか?」
「いいってわけにはいかないだろうね。でも行くわけにはいかないんだよ。」
「じゃあ女性恐怖症のままでいいんすか?そんなんじゃ彼女も結婚も出来な・・・・・・、」
「いるよ。」
マッチョマンは俺の言葉を遮り、「ちゃんといるよ」と笑った。
「いる?いるって何が?」
そう尋ねると、マッチョマンはスマホを取り出した。そして「ほら」と画面を見せつける。
「これ・・・・この前のガテンマッチョ。」
「彼女。」
「ん?」
「彼女ね、僕の奥さんなんだ。」
「・・・・・・はい?」
変な声を出して、口を開けて固まる。
「彼女ね、元プロレスラーなんだ。」
「ぷ・・・・プロレスラー・・・・?」
「もう引退してるけどね。」
「へ・・・・へえ〜・・・・・・。」
「僕ね、数年前まで別の街に住んでたんだよ。その街のジムで彼女と出会って、仲良くなったの。付き合って二ヶ月のスピード婚だったんだよ。」
「ほ・・・・ほお〜・・・・・・。」
「まあ見た目がこんな感じだから、よく男に間違われるんだけどね。でも僕にとってはそれがよかった。
だって・・・・彼女全然女っぽくないでしょ?だから女性恐怖症が出ることもなかったんだ。」
「・・・な、なるほど・・・・・・。」
「僕はマッチョだけど、女性が苦手。でも向こうは逆に、そういう男の方がよかったみたい。偉そうにしてる男見ると、ぶん殴って関節技かけたくなるらしいから。」
「そ・・・・それは・・・怖いっすね・・・・。」
「それに普通の男だと、彼女が酔っぱらった時に手がつけられないからさ。でも僕なら大丈夫。長年鍛えたこの肉体で、ちゃんと彼女を受け止めてあげられるからね。」
そう言って、俺の足より太い腕を見せつける。
「ちゃんと奥さんがいるのに、女の子との飲み会に行ったらまずいからさ。だから申し訳ないんだけど、こればっかりは無理なんだ。」
「・・・・・・・・・・・。」
俺はまだ口を開けて固まっていた。気の抜けた「へえ〜・・・」という生返事をしながら、「既婚者だったんすねえ・・・・」と呟いた。
「隠しててゴメンね。でも占い師っていうなら、これくらいは当てられるかと思って。」
「・・・・さすがに・・・・これは当てられないかな・・・・。」
「何言ってるの。普通の人が当てられないことを当てるのが占い師でしょ?」
「・・・・・返す言葉もないっす。」
「それにこれは勝負だから、あえて情報を与えずにおいたんだ。君が本物の占い師なら見抜くだろうと思って。」
「・・・・それも・・・・返す言葉がないっす・・・・。」
俺は頭を抱えて、「ああ〜・・・」とテーブルに突っ伏した。
「あの・・・・、」
「なんだい?」
「この前ジムで喧嘩してたのは何だったんすか?」
「ああ、あれね。あれは彼女の気が立ってたんだよ。だって女性には・・・・・ね?毎月そういう日があるでしょ?」
「・・・・なるほど。それでカッカしてたと。」
「いつもはあの程度で怒らないんだけどね。女性の日にトレーニングなんてしなくてもいいと思うんだけど、イライラするから逆にジッとしてられないみたいで。」
「でもあの時のあんたは、すごく奥さんのこと睨んでましたよね?しかも足元まで震えて。あれっててっきりビビってるのかと思ってたけど、違うんすか?」
「いや、ビビッてなんかないよ。ただ彼女に悪いことしたなあと思って。大事な人なんだから、あそこまで怒る前に気づいてあげればよかったと思ってさ。
だから自分に腹立ててただけなんよ。」
そう言って、「僕って気が利かない旦那だよ、でも彼女は許してくれたけど」と惚気た。
「・・・・はいはい・・・なるほど。よく分かりました。」
俺は顔を上げ、二枚の万札を突き返した。
「これ、やっぱり受け取れないっす。」
「なんで?」
「だってどう考えたって俺の負けっすもん。受け取ったらダサいですよ。」
「でも僕は負けを認めたんだよ?」
「なら俺も負けを認めます。だからドローってことで、お金は無しでいいっす。」
そう言って強引に突き返すと、マッチョマンは「欲がないなあ」と笑った。
「僕ね、女性は苦手なんだけど、仕事は上手くいってるんだ。」
「そうなんすか?」
「これでも一応社長なの。ほら、ジムに脂ぎったオジサンがいたでしょ?あれはウチの専務。」
「専務・・・・・。」
「ずっと昔から仕事を手伝ってもらってるんだ。だから結婚式の時もスピーチしてもらってさ。」
「・・・・・そ、そうなんすか?」
「それで喧嘩になる度に、ああやって止めてくれるの。実はあの人も元プロレスラーで、その世界じゃちょっと名前の知れた人なんだよね。
だからあの人の言うことなら、奥さんも素直に聞くんだよ。」
「へえ・・・あの人も・・・。なんかプロレスラーだらけだな・・・・・。」
「ちなみに奥さんには新人の教育係をやってもらってる。さすがに元プロレスーだけあって、若い子を鍛え上げるのは上手いんだよ。」
「そりゃ・・・・すごい怖そうっすね。」
「僕ね、女性には疎いけど、でもその分他のことは頑張ったんだ。ボディビルもそうだし、仕事もそう。
まだまだ自慢できるほど大きな会社じゃないけど、でもそれなりに上手くいってるんだ。だから君も仕事で成功したいなら、欲を持った方がいいよ。
女性関係には強いかもしれないけど、仕事にはちょっと欲が無さすぎるんじゃないかな。」
そう言って万札をしまい、「話を聴いてくれてありがとう」と笑った。
「すごく楽しかったよ。」
「そりゃ何よりっす・・・・。」
「またジムにおいでよ。トレーニングのこと、色々教えてあげるからさ。」
そう言って立ち上がり、逞しい背中を見せつけながら去って行った。
「なんなんだこれ・・・・・・。」
テーブルに戻り、椅子に座って項垂れる。
「これって完璧に俺の負けじゃんか・・・・。ていうか、最初からただからかわれてただけなのかも・・・・。」
偉そうにアドバイスしてしまったことがすごく馬鹿らしいし、恥ずかしく思えてくる。
顔が赤くなるのを感じて、思わずテーブルに突っ伏した。
「しばらくは変わった客は来ないでほしいな。なんか気が滅入るわ・・・・。」
隣に目をやると、オカルト野郎のテーブルが目に入った。
「俺も・・・今日はサボろうかな・・・・。」
やる気も稼ぐ気もなくなって、このまま寝てしまいたい気分だった。

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第四話 占い師VSボディビルダー(2)

  • 2015.12.08 Tuesday
  • 13:18
JUGEMテーマ:自作小説
会話上手というのは、聴き上手と言い換えてもいい。
聴くのが上手い奴ほど、会話は弾むものだ。
しかしただ黙っていても、相手は喋ってくれない。それが人見知りな奴なら尚更で、何か喋るきっかけを与えてやらないといけないのだ。
まず俺はマッチョマンの悩みを当ててやった。
それはズバリ、気が小さいということ。
これを当てると、マッチョマンは「さすがだなあ」と笑っていた。
しかしこれはキッカケに過ぎない。笑って受け流せるということは、俺の答えは核心をついていないのだ。
マッチョマンにとっての真の悩みは、気が小さいということじゃない。
そこからさらに掘り下げないと、本当の悩みは見えてこないのだ。
だから俺は、あえて踏み込んだ質問をした。・・・・いや、質問というより断言だな。
するとマッチョマンは「恥ずかしながら・・・・」と顔を赤くした。
「そうなんだよ・・・僕は女性が苦手なんだ・・・・。」
俺は「多分そうだと思いました」と笑った。
「申し訳ないけど、あんたからは男臭さってほとんど感じないんです。そういう男って、とにかく女に縁がないんですよ。」
「やっぱり分かる?」
「ええ、そりゃもう。」
「どの辺がそう思うのかな?」
「ん〜・・・なんていうか、良い人過ぎなんですよ。」
「ああ、それよく言われるよ。」
「そういう人って好きな女が出来ても、結局良い人で終わっちゃうもんなんです。男として見てもらいたいなら、嫌われてもいいから積極的にならないと。」
「だよね・・・・それは分かってるんだけど・・・・。」
「そういえばこの前ジムで言ってましたよね?高校生なのに、小学生の弟に腕相撲で負けたって。」
「ああ、言ったよ。」
「じゃあ弟の年齢を教えてくれません?」
「年齢?どうして?」
「だって小学生って言ったって、小一と小六じゃ全然違うでしょ?それって大人と子供くらい力の差がありますよ。だから弟さんは何年生だったのかなと思って。」
「ああ、ええっと・・・・・、」
「今弟さんは幾つですか?」
「僕の10歳下だから、今は26だね。」
「なら腕相撲で対決した時、あんたは高校何年生でした?」
「高2だよ。まだ17になって間もなかった。」
「そうなると、その時の弟さんは7歳ってことっすね?」
「ええっと・・・・そうなるな・・・・。」
「ならあんたは17歳の時に、7歳の弟と腕相撲をして負けたと?」
「・・・・まあ・・・・うん。」
マッチョマンはバツが悪そうに俯く。これみよがしにおでこを掻き、目を合わせようとしなかった。
《分っかりやすいなこの人。》
ちょっと笑いそうになりながら、それでも我慢して続けた。
「普通に考えて、17歳が7歳に腕相撲で負けるってあり得ないですよね?」
「・・・・・そうかな?」
「そうですよ。だって7歳って小2くらいでしょ?だったら小6の子でも充分勝てますよ。それを17歳の高校生が負けるってのはあり得ないでしょ?」
「・・・・いや、まあ・・・・。」
「だからね、俺はこう思ってるんですよ。あんたが腕相撲で負けたのは、弟じゃなくて女の子なんじゃないかって。」
そう尋ねると、マッチョマンは顔を上げて「違うよ!」と叫んだ。
「いくら何でも女の子には負けな・・・・・、」
「いやいや、いくら何でも7歳の子に負けるほどあり得ないことじゃないでしょ。」
「・・・・それは・・・・、」
「実はね、俺も経験があるんすよ、同級生の女友達に負けた経験が。」
少し顔を近づけながら言うと、マッチョマンは一気に食いついた。
「ほんとに!?」
「ほんとっす。俺も高二の時に、女友達と腕相撲したんすよ。でもまったく勝てなかったんす。
三回やったけど、三回とも負け。その後ハンデもらって、ちょっと傾いた状態からやったんです。でも負けちゃって。」
わざとらしく肩を竦めながら言うと、マッチョマンは「そうか・・・君もか・・・・」と呟いた。
「あれってけっこうショックっすよね。俺もその日はずっとへこんでましたもん。だけど俺って、そんなに強さとかこだわる方じゃなかったし、それに運動神経はよかったんす。
だから体力なくても、そんなに惨めになることはなくて。」
「そうか・・・君は強さにこだわりがないんだね・・・・。」
「そうっす。だって腕っぷしがあるより、頭が良い方がいいじゃないっすか。そりゃ格闘家にでもなりたいなら話は別だけど、俺は球技の方が好きだったし。」
「運動神経は良いって言ってたね。なら野球やサッカーも?」
「もうバッチリ出来ましたよ。何度も部活に誘われたし、俺も本気でそっちの道に行こうかと思ったくらいだし。」
「いいなあ・・・・運動神経が良いのか。そりゃコンプレックスになることもないか。」
「ちなみに失礼だけど、あんたは運動神経は・・・・、」
「良くないよ。体育の時間なんて憂鬱だったし、特に球技の時は最悪だった。ほんとにもう・・・・地獄だったよ・・・・、」
マッチョマンは落ち込み、「実はさ・・・・、」と続けた。
「女性が苦手なのは、それが理由なんだよね。」
「ほうほう。」
「あれは高二になったばかりの頃だったよ。僕のいた学校は、学年が変わってすぐに球技大会があるんだ。でもって僕らの学年はバレーだった。」
「ああ、それキツイっすね。あれって球技苦手な人にとっては地獄でしょ?」
「そうなんだよ。案の定みんなの足引っ張っちゃって、そこにいるだけで迷惑って感じだった。
でもね、僕のクラスにはバレー部の奴がいたんだ。それもけっこう上手くてさ、中学の時なんか県大会で準優勝してるんだよ。」
「おお、そりゃ心強いじゃないですか。」
「まあそうなんだけど・・・・でも部活やってる奴が、球技大会で本気出すわけないじゃない。」
「そりゃそうでしょ。県大会で準優勝するような奴が本気出したなら、あっさり終わっちゃいますって。」
「ああいう時って、上手い奴はわざと下手な奴にボールを回すんだよね。誰も頼んでないのに・・・・、」
「それは仕方ないですよ。だってあれはお祭りっつうか、学校のイベントだから。上手い奴は他の奴にボールを回しますよ。」
「それが地獄なんだよ。だって僕のところにボールを回されたって、何にも出来ないんだから。ろくにトスも出来ないから、ただボールを落とすばかり。
ほんとにもう・・・・足引っ張っちゃって・・・・、」
「じゃああんたのクラスは負けちゃったわけですか?」
「学年でビリ。もうほとんど僕のせいみたいなもんだよ・・・・。」
「ふう〜ん・・・・でもそのバレー部の奴もヒドイっすね。いくら何でも、そんなに何回もボール回さなくてもいいのに。」
「いや、別に僕だけに回してたわけじゃないよ。彼はみんなに均等に回してた。でも僕だけが毎回落としちゃって・・・・、」
「ああ、それで負けたら確かにへこみますね。」
「だろ?でもそれだけならよかったんだよ。あんなのどうせ学校にイベントだし、みんなすぐに忘れてくれるから。」
「優勝しても特に何もないですしね。」
「でもさ、そうはいかなかったんだ。球技大会が終わった次の日、学校へ行くとある女の子から呼び出された。」
「呼び出されたって・・・・まさか告られたんすか?」
「いやいや、違うよ。その逆、僕に文句を言いに来たんだよ。」
「文句?」
「ああ。僕を呼び出したその子は、バレー部の男の子のことが好きだったみたいなんだ。だからせっかく彼からボール回してもらってるのに、それを落とすのが気に食わなかったらしい。」
「あ〜・・・・いますね、そういう女。面倒臭くて鬱陶しい奴が。」
「うん、まあ・・・・確かに・・・、」
「彼女ならまだしも、どうせ友達ですらないんでしょ?」
「本人は友達と思ってたみたいだよ。バレー部の子は違うって言ってたけど。」
「じゃあただの痛い女じゃないすか。俺なら鼻に肉でも詰め込んでドブに捨てときますね。」
「はははは!君すごいね、僕もそういうことが言えたらいいんだけど。」
「俺ね、自分がムカついた時は意外とパワーが出るんすよ。他の時はぜんぜんダメなんすけどね。」
「それは潜在的に力があるってことだよ。君、強い部類の人間だね。」
「そうっすかね?腕力なんて全然無いけど。」
「でも喧嘩であんまり負けたことないでしょ?」
「うん、それが不思議と。ああいう時って、なんか身体が熱くなるんすよ。だから勢いで乗り切っちゃうっていうか。」
「じゃあやっぱり強い部類の人間だよ。僕とは逆だ。」
マッチョマンは笑い、「で、話を戻すけど」と続けた。
「美術室の自販機の裏に呼び出された僕は、その子から延々と罵られた。しかも他にも女の子がいて、一斉に捲し立ててくるんだよ。
あの頃の僕は、心だけじゃなくて身体だって弱かった。だからもう涙目になるしかなくて・・・・、」
「そりゃあ辛かったっすね。俺がいりゃ耳と鼻にブロッコリー詰めて、沼に沈めてやったのに。」
「僕にはとてもそんな勇気はなかったよ。だからとうとう泣き出しちゃってね。それであんまりえぐえぐ泣くもんだから、さすがに向こうも気の毒になってきたみたいで。」
「なら許してもらえたわけだ?」
「まあ一応は・・・・。けどね、許してはもらえたんだけど、今度は面白半分にからかい始めたんだよ。こいつ男のクセに女より細いって。
だからちょっと腕相撲してよって、美術室に連れていかれて・・・・、」
「なるほど、そこで女の子に負けたわけだ。」
俺は腕相撲のジャスチャーをしながら尋ねた。
「・・・相手は全部で五人いた。でも五人全員に負けたよ。しかもその中の一人は、僕より全然小柄だったんだ。でもあっさり負けちゃってさ。そうするとみんなゲラゲラ笑うわけ。」
「そりゃ確かに地獄っすね。」
「そうだよ・・・地獄なんだよ・・・。でも本当の地獄はその後から始まった。」
「もしかしてイジメっすか?」
「それに近いような感じだよ。別に暴力とか、お金を取られたりとかはなかったけど、事あるごとにパシリにさせられた。
やれジュースを買って来いとか、雑誌を買って来いとか。たまにエロ本を買って来いっていうのもあったよ。」
「それ、そいつらの男友達が頼んだんじゃないですか?」
「それは分からないけど、でもすごく恥ずかしかった。それは高校を卒業するまで続いて、僕はすっかり女性恐怖症になったってわけ。」
「さすがにそれは同情しますよ。でも高校を出たんなら、もうその女どもからは解放されたんでしょ?」
「うん、僕はすぐに地元から離れて働き出したからね。でもって高校の頃からこっそり始めた筋トレを、その後も続けた。」
「腕相撲に負けたから筋トレに目覚めたんだ?」
「だって悔しかったから。別にその女の子に勝ちたいとかじゃなくて、あんなに惨めに負けた自分が許せなかった。
だから働きながらずっとトレーニングを続けて、けっこう良い身体になってきたんだ。
それでアマチュアのボディビルの大会とかにも出るようになって、一度だけ優勝したこともあるよ。」
「おお!マジすっか!凄いじゃないですか。」
「そんなに大きな大会じゃなかったんだけど、でも嬉しかったな。それが僕の人生で、唯一自慢できることだよ。」
マッチョマンはようやく笑顔を見せた。自分にとってたった一つの自慢を語る時、とても良い表情をしていた。
「でもね、優勝はそれっきり。今じゃ予選落ちばっかりだよ。だからそろそろこの道も捨てようかなと思ってさ。」
「ふう〜ん・・・・なんかもったいないっすね。せっかくそこまで鍛え上げたのに。」
まるでプロレスラーみたいな身体を見つめながら、やっぱり良いガタイだなと感心する。
マッチョマンは心の内を語り、落ち込んだような、でもどこかスッキリしたような顔をしている。
だけどまだ勝負は終わっていない。
だって肝心の俺のアドバイスはここからなんだから。


 

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第三話 占い師VSボディビルダー

  • 2015.12.07 Monday
  • 13:18
JUGEMテーマ:自作小説
人間にとって必要なのは、強い肉体か?それとも賢い頭か?
・・・・まあ間違いなく賢い頭なんだろうけど、でも肉体的な強さだって必要だと思う。
俺はそれなりに良い大学を出てるし、そこまで頭は悪くないと思う。
だけど肉体的な強さにはコンプレックスがあって、女の子と腕相撲をして負けた事もある。
別に運動音痴ではないし、スポーツは得意な方だ。
特に球技は上手かったから、マジでそっちの道へ進んでもいいかと思ったこともある。
しかしいかんせんトレーニングというのが嫌いで、運動神経は良くても体力がない。
だからサッカーにしろバスケにしろ、後半になると動けなくなる。
友達からはもっと鍛えろと笑われるし、腕相撲で負けた女の子には「落ち込むことないよ」と勝ち誇ったように同情されてしまった。
だからまあここらで一発、肉体改造をしようと思ったわけだ。
家の近所には市民体育館があって、その中にトレーニングルームがある。
一回500円で利用することが出来るので、最近はよく通っているのだ。
暇を見つけては足を伸ばし、ダンベルだのバイクマシンだのを使って鍛えている。
でもなかなか簡単に筋肉はついてくれない。
俺の腕は相変わらず細いままで、この部分だけ写真に撮れば、女と言っても信用してもらえるほどだ。
別にそこまでマッチョになりたいわけじゃないんだけど、さすがに腕相撲で女の子に負けないくらいにはなりたい。
だからせっせとトレーニングに励み、今日もダンベルを片手に鍛えていた。
長椅子に座り、他の人を見様見真似でやってみる。
ダンベルの重さは三キロ。もっと重いのでやれば肉もつくんだろうけど、あいにくこれくらいじゃないとトレーニングが続かない。
数回やっては持ち替え、また数回やっては別の腕に持ち替える。
すると一人のマッチョマンが傍へ来て、「それだと肘を痛めるよ」と声を掛けてきた。
「反動をつけてやっちゃいけないんだ。関節に負担が掛かるし、勢いでやっても鍛えられないから。」
「はあ・・・・。でも重くて上がんなくて・・・・、」
「じゃあもっと軽いのでやればいいよ。回数だって少なくしていいし、しんどいと思ったら休めばいい。」
そう言って一キロのダンベルを持って来て、「こっちにしなよ」と差し出した。
「いや、それ一番軽いやつじゃないですか。」
「そうだよ。でもこれでいいんだよ。」
「でもそれだと筋肉がつかないんじゃ・・・・、」
「間違ったやり方してる方が、もっと筋肉がつかないよ。それどころか肘を痛めるから。」
「はあ・・・・。」
「カッコつけて重いのでやっても無駄だよ。特に体力のない人はね。」
「あ、分かります?」
「見れば分かるよ。細くても筋肉の付いてる人はいるけど、君の場合はそうじゃない。だから最初は無理しない方がいいよ。」
そう言って俺の何倍も太い腕を見せつけながら、「ほら」と一キロのダンベルを突きつける。
「じゃあ・・・そう言うなら・・・・、」
ダンベルを持ち替え、同じように持ち上げてみる。
「そうそう。反動をつけずにね。こういうのはゆっくりやらないと意味ないんだ。勢いだとダメだから。」
「これなら勢いつけなくても出来そうです。」
「あえて勢いつけてやる場合もあるんだけどね。そういうのはある程度筋肉がついてからだから。」
「じゃあこれでやってみます。」
頭を下げ、一キロのダンベルでトレーニングを再開する。
マッチョマンは満足そうに頷き、「分からないことがあったら何でも聞いてよ」と笑った。
そして自分のトレーニングに戻り、馬鹿みたいに重そうなバーベルを担いでスクワットをしていた。
《すげえガタイしてんなあ。なんかやってんのかな?》
マッチョマンの肉体は尋常ではなく、どこぞの美術館の彫刻みたいだった。
クソ重たそうなバーベルを簡単に担ぎ、それでスクワットをするなんて・・・・・。
《プロレスラー?それかウェイトリフティングとか?なんか分からないけど、ぜったいに何かやってる人だよな。》
明らかに素人じゃない体つきっていうのは、素人の俺でも分かる。
じっとマッチョマンの筋肉を見つめていると、スクワットを終えて振り返った。
「最近よく見るね、君。」
「ええ、まあ・・・。ちょっと肉体改造をしようかなと。」
「君、細いもんね。でも鍛えたらちゃんと強くなるよ。」
そう言って、それとなく自分の筋肉を見せつけるマッチョマン。
そもそもピチピチのタンクトップを着ているあたりが、筋肉に自信がある証拠だろう。
細身の俺にあのタックトップは似合いそうにない。
「なんかやってるんですか?」
「ん?何が?」
「いや、スポーツとか格闘技とか。すげえ身体してるから。」
「ああ、これ?ちょっとボディビルを。」
「ボディビル?あのマッチョを見せ合う感じのやつっすか?」
「そうだよ。高校くらいの頃から始めてね、もう20年以上やってるよ。」
「へえ〜・・・なら相当年季の入った筋肉なんすね。」
そう言うと、マッチョマンは「年季って」と笑った。
「僕も昔は君みたいに細かったんだよ。」
「そうなんすか?」
「鍛えてる奴ってのはだいたいそうだよ。だって元々マッチョな身体してるなら、鍛える必要なんてないだろ?」
「んん〜・・・・まあそうっすね。俺も細い身体どうにかしようと思ってここへ来てますから。」
「僕もね、昔は肉体的にコンプレックスがあったんだよ。高校の時にさ、小学生の弟に腕相撲で負けるくらいだったから。」
「ああ、それはちょっとヤバイっすね。」
「だろ?それが悔しくて鍛え始めたんだ。そうするとさ、筋肉がつく喜びってのを知った。そうなるともうやめられないよ。」
そう言ってさりげなく筋肉を見せつけ、スクワットに戻っていった。
《なるほどねえ・・・弱いから鍛えるか。まあ考えてみりゃそうだよな。》
マッチョマンの言う通り、元々強いなら鍛える必要なんてない。
そりゃ中には元々マッチョでも鍛える人はいるだろうけど、でもそういう人の方が少ないのかもしれない。
《ならここへ来てる人ってのは、みんな肉体的にコンプレックスがあるってことなのか?》
周りを見渡すと、二人の男と一人の女がトレーニングに励んでいた。
女はイヤホンで音楽を聴きながら、エアロバイクを漕いでいる。
目がチカチカするほどの鮮やかなトレーニングウェアを着ていて、顔はそこそこ美人だ。
《あれは鍛えるというよりダイエットかな?強くなりたいって感じじゃないもんな。》
その女から少し離れた所には、腹の出たオッサンがいた。
椅子に座り、足で重りを持ち上げるマシンでトレーニングをしている。
その顔はギッタギタに脂ぎっていて、汗と混ざってダイヤのように輝いていた。
《あの人、足と腕の筋肉はすごいな。でも腹がタプタプじゃねえか。もっと腹筋とかしたらいいのに。》
脂のオッサンは鬼の形相で重りを挙げている。
その顔は真っ赤で、これ以上力むと脳の血管が破裂するんじゃないかと思うほどだった。
そしてそのオッサンの隣では、ちょっと厳つい感じの男が懸垂をしていた。
髪は角刈りで金髪。それにピチピチのタンクトップを着ていて、肌は小麦色に焼けていた。
《ありゃあガテン系のマッチョだな。さっきのマッチョマンとは違う意味でガタイがいい。意外とああいう奴の方が力がありそうだな。》
ガテンマッチョは軽々と懸垂をこなし、やがては指でぶら下がって懸垂を始めた。
《すげえな。あんなに鍛えて何になりたんだ?》
誰もかれもが真剣にトレーニングをしていて、俺だけ一キロのダンベルで鍛えているのが恥ずかしくなってくる。
なんだかテンションが下がって来て、今日はもう帰ろうと思った。
ダンベルを戻し、大して汗も掻いてないのにタオルで拭う。
喉なんて全然乾いてなくて、持ってきたドリンクに一度も口をつけることはなかった。
《なんかアレだな。こういう所へ来るのはちょっと早かったかな。》
筋トレといえばジム、ジムといえば筋トレ。
そんな風に思っていたけど、ここで鍛えるには、俺はあまりにも筋肉が無さすぎる。
まずは家で腕立てでもしてからデビューしよう。
帰り際、マッチョマンの後ろを通りながら「そんじゃお先に」と声をかける。
マッチョマンはまだスクワットをしていて、「おう!」とだけ返事をした。
ドアを開け、初夏なのにひんやりする寒い廊下に出る。
そして階段の方へ向かった時、トレーニングルームから怒鳴り声が聞こえた。
《なんだ?誰かキレてんのか?》
興味をそそられて戻ってみる。そしてドアのガラスから中を見てみると、マッチョマンとガテンマッチョが言い争いをしていた。
《おお!すげえな・・・・マッチョ同士の喧嘩だ。》
ワクワクしながら見ていると、ガテンマッチョがまた怒鳴った。厳つい顔のクセに、けっこう高い声してやがる。
「いつまでも使ってんじゃねえよお前!ルールぐらい守れや!!」
そう言って顔を近づけ、今にも掴みかかりそうな勢いだった。
「毎回毎回なんだよお前、ええ!独り占めしていいとでも思ってんのか?」
ガテンマッチョは喧嘩腰で詰め寄り、猛獣みたいな顔で睨み付けている。
するとそこへ腹の出た脂のオッサンが走ってきて、ガテンマッチョを止めた。
「おいやめとけ。」
「こいつふざけてますよ・・・・毎回自分がその場所独占しやがって・・・・。」
「喧嘩すんなよ。」
「スクワットだけじゃないですよこいつ。ベンチプレスも独占してる時があるんだから。ここへ来る奴はほとんどそれがメインなのに、独り占めしてんすよ?怒るでしょ普通。」
「いいから落ち着け。ガキじゃないんだから喧嘩しても意味ねえだろ。」
脂のオッサンはガテンマッチョを引き連れ、椅子が並んだ休憩スペースへと連れていった。
俺は中へ入り、マッチョマンの方へ近づく。
「なんかあったんすか?」
そう尋ねると、マッチョマンは何も答えなかった。
「あの人マジ切れしてましたね。危うく手え出しそうな感じだったけど・・・・大丈夫すか?」
そうは言いながらも、内心では殴り合いの喧嘩を期待していた。
マッチョ同士が目の前で殴り合う。そんなのは滅多に見られる光景じゃないので、ワクワクしながら覗いていたのだ。
何かあったらすぐに友達に報告しようと、スマホまで持ってたのに。
「なんかあのオッサンが止めてくれたからよかったけど、じゃなきゃ喧嘩になってましたね。向こうも良いガタイしてるし、すげえ殴り合いになっただろうな・・・。」
思わず本音が出てしまい、チラリとマッチョマンの様子を窺う。
「・・・・・・・・・・。」
「どうしたんすか?あいつのことじっと見て。」
「・・・・いや・・・別に・・・・、」
「あんたもめっちゃ拳握ってますね。まさか・・・・やる気だったとか?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「でもやめた方がいいっすよ。見てる分には面白いけど、当事者にとっちゃ喧嘩なんて最悪でしょ?中高生じゃないんだし、こんなのでしょっぴかれるなんてダサいっすからね。」
そう言って笑いかけても、マッチョマンの表情は硬い。
カッと目を見開き、震えるほど拳を握り、その場に立ち尽くしていた。
「そんな怒ってんすか?」
「・・・・・・・・・・・。」
「まあいきなり怒鳴られちゃ腹立ちますよね。俺もバイトの時に、偉そうに言ってきたオッサンに掴みかかったことありますもん。まああの時は若かったっすけどね。」
「・・・・・・・・・・・。」
「まあアレっすよ。ああいうのはどこにでもいるんで、気にしちゃ損ですよ。」
「・・・・そうだね・・・・。」
ようやく言葉を発したマッチョマンは、やはり拳を握ったままだった。
しかし俺は、ここである違和感を覚えた。
《この人・・・・・ビビッてんのか?》
さっきから気になっていたけど、声が少し震えている。それにいくら怒ってるからって、ここまで拳は震えないだろう。
よく見ると足元も震えていて、表情も強張っていた。
《この人・・・・動きたくても動けないんだな。だからこうして立ち尽くして・・・・。》
どうやらマッチョマンは、その彫刻のような肉体とは裏腹に、気はかなり弱いらしい。
じっと立ち尽くしているのは、怒っているからではなく、動きたくても動けないほどビビッているからだ。
そしてガテンマッチョの方を睨んでいるのも、決してガンを飛ばしてるわけじゃない。
いつまた向かって来るのかと、気が気でならないのだ。
《なるほどねえ・・・・。マッチョだからって気が強いとは限らないわけだ。まあ元が弱いから鍛え始めたって言ってたし、気が弱くても不思議じゃないけど。》
これ以上何か喋りかけても、多分反応は無いだろう。
俺は「それじゃ」と会釈をしてから、トレーニングルームを後にした。
そして市民体育館を出てから、トレーニングルームの入っている四階を見上げた。
大きなガラスの窓から、さっきのマッチョマンが見える。
どうやら帰り支度をしているようで、すぐに視界から消えた。
《そこにいたらまたガテンマッチョと喧嘩になるかもしれないもんな。さっさと退散した方がいい。》
もし脂のオッサンが止めてなかったら、いったいどうなっていたのか?
ガテンマッチョは殴りかかったか?それともマッチョマンの方から謝ったか?
《多分マッチョマンが謝っただろうな。誰もいない二人きりの場所なら、きっとそうしてるはずだ。》
マッチョマンが頭を下げなかったのは、きっと周りに人がいたからだ。
弱いと思われるのが嫌で、意地になって睨み返していたんだろう。
身体を鍛えたからって、心まで強くなるとは限らないってことだ。
翌日から、俺はジムに行くのをやめた。
それは昨日のマッチョ同士の喧嘩がどうとかではなく、ただ単に行くのが面倒臭くなったからだ。
よくよく考えれば筋トレなんて家でも出来るわけで、だったら金を払ってわざわざ行かなくてもいいかと思ったのだ。
あれから三日、今日は仕事に来る前に、腕立てと腹筋をした。大した回数じゃないけど、それなりに筋肉は張っている。
まずはこういう小さなところから始めないと。
ゆくゆくは細マッチョのような身体になって、海でも堂々と身体を見せつけられるかもしれない。
そんな風に考えながら、今日の仕事をこなしていく。
隣のオカルト野郎はまた休みで、何か傷つくことがあったのかもしれない。
しかしあいつがいない方が捗るってもんで、今日はなかなか快調だ。
時間は午後の二時だが、11時から始めてすでに10人も客がきた。
まあ内容はいつもと同じように、恋愛だの結婚だのの相談がほとんどだ。
この前の銀鷹君のように、タダでもいいやと思えるような相手は来ない。
まあそういう客ばかり来られても困るんだけど、似たような客ばかりだと、正直飽きてくる。
だからここらで変わった客でも来ないかと思っていると、ふと見知った顔が目に入った。
「あれ・・・・ジムのマッチョマンだなよな?」
占い屋の近くにある靴屋で、あのマッチョマンがウロウロしていた。
どうやらトレーニングシューズを選んでいるらしく、やがてレジ袋を提げて出てきた。
そして目の前を通り過ぎる時に、俺は「どうも」と手を挙げた。
「奇遇っすね、こんな所で。」
そう言って笑いかけると、マッチョマンは一瞬固まっていた。
しかしすぐに俺だと分かり、「ああ」と近づいてきた。
「こんな所で何してるの?」
「占いですよ占い。」
「占い?もしかして君、占い師なの?」
「そうっす。15分2000円ですよ、どうっすか?」
「占いかあ・・・・あんまりそういうのはちょっと・・・・、」
「男の人はあんまり興味ないかもしれないですね。でもせっかくなんでどうっすか?割り引いて1500円にしときますよ。」
「うん・・・いや、でも・・・・・、」
「迷ってるってことは、興味があるってことでしょ?ものは試しだし、やってみません?」
男にしろ女にしろ、気が弱い奴ほど占いに興味を示す。
だって気が強い人間なら、占い師の言葉なんて必要としないからだ。
この前の出来事で、このマッチョマンが気の弱い人だってことは知っている。
ならばここで押せば、きっと乗ってくれるだろうと思った。
「ここで会ったのも何かの縁だし、どうっすか?」
「う〜ん、占いねえ・・・・、」
「この前はトレーニングのやり方教えてもらったし、そのお礼に割引価格でいいですから。なんか一つくらい悩みとかあるでしょ?」
「そりゃあるよ。あるけど・・・・なんかこういうのは抵抗が・・・・、」
「みんな最初はそう言うんですよ。でもね、やってみるとけっこう面白いもんですよ。俺、こう見えても腕はいいし。」
「そうなの?」
「ええ、自信はありますよ。だって俺のおかげで結婚したカップルだっているし。」
「それは凄いね。ええっと・・・・じゃあどうしようかな・・・・、」
マッチョマンはかなり迷っている。あと一押しすれば完全に乗って来るだろう。
「ならこうしません?もし占いに満足いかなかったら、料金はいらない。でも納得したなら金を払う。」
「う〜ん・・・・なんかそれ賭け事みたいだよね。ギャンブルはあんまり・・・・、」
「いやいや、ギャンブルじゃないっすよ。これは勝負です。」
「勝負?」
「ええ、俺とあんたの勝負。納得させたら俺の勝ち。でなけりゃあんたの勝ち。まあギャンブルっていうか、簡単なゲームみたいなもんすよ。どうです?気晴らしにやってみません?」
「ゲーム・・・・まあそういう感覚なら・・・・。」
マッチョマンは眉間に皺を寄せて迷う。
そしてゆっくりと椅子を引きながら、「じゃあ占ってもらおうかな」と座った。
「じゃあゲーム開始っすね。で、どんな悩みを?」
そう尋ねると、「当ててみてよ」と笑った。
「占い師なんだからそれくらい出来るでしょ?」
「いいっすね、その挑発的な感じ。じゃあ分かりました。勝負開始ってことで。」
俺も笑い、マッチョマンとの対決が始まった。

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第二話 占い師VS路上芸術家(2)

  • 2015.12.06 Sunday
  • 14:13
JUGEMテーマ:自作小説
芸術って何なのか?
まさか占い師になって、そんな事を考える羽目になるとは思わなかった。
俺は男の作品を見つめながら、「綺麗ですね」と笑いかける。
「でもアレですよ。こういうのは専門家に見てもらった方がいいんじゃないですかね?芸術の意見とかって、占い師の仕事じゃないし。」
さっきから何度もそう言って、早々にお引き取り願おうとしていた。
しかし男は「意見言って下さい」と譲らない。
「それ、どう思います?直感でいいんで聞かせて下さい。」
「いや、だからさ・・・こういうのって専門家に・・・・、」
「でも俺はお金払ってるんです。あんたの意見・・・・拝借させて下さい。」
「・・・・・・・・・・。」
男の目は真剣で、何としても意見を言わせるつもりだ。
この時俺が考えていたことはただ一つ。
《帰ってくんねえかなあ・・・・この人。》
面倒くさい奴というのはどこにでもいて、出来ればあまり関わりたくない。
しかし金を払ってもらう以上は仕事であり、無碍に追い返すのはよくない。
どこからか悪い評判が立って、今後の商売に影響しないとも限らないからだ。
「じゃあ・・・・・質問。」
男の作品を指さしながら、「これって色紙?」と尋ねる。
「色は綺麗だと思うよ。でも・・・・何で出来てるのか分からない。これ、紙じゃないよね?」
そう尋ねると、男は嬉しそうに「違います!」と頷いた。
「それ、クーピーなんですよ!」
「クーピー?」
「ほら、あのクレヨンの細長い感じのやつ。子供の頃にお絵描きとかで使いませんでした?」
「・・・・ああ!知ってる知ってる!幼稚園の時とかに使ってたわ。」
「でしょう!あれの削りカスで表現してるんです。」
「削りカス?」
「ええ。あれって使ってると先が潰れてくるでしょ?だから鉛筆削りで削るんです。そうしたらね、まるで鰹節みたいに綺麗な削りカスが出て来るんですよ。」
「鰹節のカスって綺麗なの?」
「いや、そういう事じゃなくて、形がですよ。薄い膜みたいな感じの削りカスが出来るんです。」
「ああ・・・まあ何となくイメージ出来るけど・・・・、」
「アレってすごく綺麗なんすよ。だからそのまま捨てるのはもったいないと思って、それで作品を創ってるんです。」
「ふ〜ん・・・まあ確かに色は綺麗だけど・・・・でもよくそんなに削りカスを集められるね?もしかしてわざと削ってるの?」
「最初はたまたま出来た削りカスを使ってたんです。でも今は削りカスを集める為にクーピー買い込んでるんですよ。」
「それけっこうお金かからない?」
「いや、元がそう高くないんで平気っす。絵具とかパステル使い続けるより、けっこう安上がりなんで。」
「じゃあコストはいいわけじゃん。」
「そうなんですよ。アートってけっこう金がかかるから、その辺は大変なんすよ。専用の紙とか画材とかって、良い値段するから。」
「じゃあコスト軽減も考えた上で、これでやってるんだ?」
「まあ・・・・そういう部分も無きにしもあらずっていうか・・・・。」
「いや、そこが一番じゃないの?金が無いんじゃ続けられないし。」
「いや、それは違うっすよ。アートって自分が良いと思ったモンを使って表現するわけだし、お金だけで割り切れるもんじゃないっす。
占い師だって、タロットとか手相とかあるでしょ?何でもいいって感じでやってるわけじゃないっすよね?」
「まあそうだね。俺は手相でもタロットでもないけど。」
「じゃあ何なんすか?」
「んん?まあ〜・・・・強いて言うなら人相学かな。」
「人相学っすか?じゃあ顔見て占うんすか?」
「強いて言えばね。顔もそうだし、それにその人の言動や仕草。そういうのを見て、だいたいこういう人間だろうなってカテゴライズするわけ。」
「カテゴライズ?」
「要するにタパーンみたいなもんだよ。人間って一人一人違うもんだけど、でもやっぱり共通する部分ってあるでしょ?
で、その共通する部分が多い人達を、一つのカテゴリにしちゃうわけ。そうすると、だいたいこの人はこういう人間なんだろうなあって予測出来るでしょ?」
「ああ、なるほど・・・・。」
「そのカテゴリを、自分の中で幾つか作ってるわけよ。俺って昔からそういうのは得意だったから、これがけっこう当たるんだ。
それで何十組もカップルを成立させたし、結婚までいった奴もいる。」
「マジっすか!それ凄くないですか?」
「だから占い師やってんの。前はカフェの店員だったけど、そんなもんで一生食ってけないんじゃん?」
「まあそうっすね。俺もチラシ配りのバイトやってたけど、あの時は生活がきつかったっすもん。」
「俺は一生カフェのバイトなんて嫌だったから、こうして占い師になったわけよ。友達とも色々相談してさ、これが向いてるんじゃないかってことで始めたわけ。」
「じゃあ今はカフェの時よりかは・・・・、」
「もちろん収入は上がったよ。でなきゃやってないから。」
「はあ〜・・・・・すげえっすね。自分で道見つけて、それで飯食ってるなんて。」
男は感心したように呟き、「じゃあ人を見るのが得意って事なんすね?」と尋ねた。
「まあね。今のところは上手くいってるよ。」
「それじゃモノを見る目があるってわけっすね?」
「・・・・どうだろう?人を見ることは出来ても、それ以外の物はちょっとなあ・・・・。」
そう言いながら作品を手に取り、「これ、やっぱり俺の仕事じゃないよ」と返した。
「申し訳ないけど、いい加減はアドバイスは出来ない。アートのことなんて分からないし、知りもしないことを偉そうに言いたくないし。」
「いやいや!でもカップルを成立させて、結婚までいった人もいるんですよね?」
「それは人の相性を見て、こいつらなら上手くいきそうだなってアドバイスしただけだから。アートとは関係ないよ。」
「そんなことないっす!あんたならきっと・・・・・ええっと・・・・、」
「ああ、観月、下は真一。」
「観月さんなら、一般人より良い意見言えるはずっす!だって自分の力活かして飯食ってんだから、鋭いこと言えるはずっすよ!」
「いや、だからさ・・・・それとこれとは別じゃん?」
「ならただの感想でいいっす。俺の作品を見て、観月さんが思ったこと・・・・・率直に聞かせて下さい。」
男はそう言って頭を下げる。派手なバンダナがこちらを向き、真面目に頭を下げてるのか、それともふざけているのか分からない。
《これ、アレだな。なんか言わないと絶対に引き下がらないな。》
時間はもう10分を過ぎようとしていて、このまま引っ張れば延長料金がもらえるだろう。
でもこれ以上は本当に面倒くさいので、早々にお引き取り願うことにした。
「じゃあ・・・・」と前置きしてから、一枚のアクリル板を手に取る。
「これさ、色は綺麗なんだけど、何を言いたいのか分からないんだよね。」
「ああ、それっすか?それは宇宙です。」
「・・・・・ごめん、具体的にはどの辺が宇宙なわけ?」
「ほら、ここに土星とかあるでしょ?こっちには太陽。」
そう言って指をさすが、まったくもって分からない。ただクーピーの削りカスを散りばめているようにしか見えなかった。
「宇宙ねえ・・・・銀河系の方がいいんじゃない?色がカラフルだし。」
何気なく答えると、「ああ!そういう見方も出来るっすね」と納得した。
「それにさ、そっちのやつ。」
「ああ、これ?」
そう言って別のアクリル板を指さすと、「これ、戦場っす」と答えた。
「こっちのグレーの部分が土で、赤い部分が炎。そんで金色の所が死体っす。」
「なんで死体が光ってるんだよ・・・・。」
「いや、魂が天に昇る感じを表現しようと思って。」
「そんなの説明されて初めて分かることだよね?初見じゃ絶対に分からない。」
「観月さんでも?」
「他の誰でもだよ。だいたいさ、クーピーの削りカスを使うってアイデアはいいと思うけど、内容が分からないんじゃ意味ないよね?
それだったらどんな画材使っても一緒じゃないの?」
「そう・・・・・思いますか?」
「俺にはそう思える。だって素人だもん。だから専門家に見てもらえって言ってんの。違う意見が聞けるかもしれないでしょ?」
「そんな・・・・観月さんでも分からないなんて・・・・・、」
「初めて会った人間をなんでそんなに信用してんだよ・・・・。何度も言うけど、俺はアートに関しちゃ素人だから。だから思ったことを言っただけ。」
そう言いながら時計を見ると、あと二分ほどで終了だった。
《さっさと終われってんだよまったく・・・・。だいたいへこむくらいなら最初から聞くなよな。》
男は本気で落ち込んでいて、薄っすらと涙まで溜めている。
《マジかよ・・・・。こいつ本気でこんなモンを良いと思ってたのか?》
純粋というか馬鹿というか・・・・・しかしそこまで本気だったのなら、もう少し言葉を選んでやればよかったかなと後悔する。
「なあ?一つ聞いていい?」
「・・・・・・っす。」
「今さ、どうやって食ってるわけ?売れない作品で生計が成り立つわけないよね?」
「・・・・・・っす。」
「え?なんて?」
「・・・・貯金・・・・・切り崩してるっす・・・・。」
「ああ、そうなんだ。じゃあけっこう貯めてたんだね?」
「色々とバイトやって・・・・生活切り詰めてたんす・・・・。そんで一年間アートに没頭して、それ持って勝負かけようと思って・・・・、」
「それで出来たのが、その削りカスアートなわけだ?」
「・・・・・・っす。」
「ならこのまま上手くいかなかったらどうするの?普通の仕事を探す?」
「・・・・・分からないっす・・・・。失敗した時のこと・・・・考えてなかったんで・・・・・、」
「すごい冒険だなオイ。」
「だって・・・・上手くいくと思ってたから・・・・・、」
「まあそういう勢いは大事だと思うよ。それがないと、新しい道に踏み出せないからな。だけど実際問題として、その作品じゃ売れないでしょ。
だからさ、昨日のオッサンが言ったように、ちょっと作品を見つめ直してみたら?」
そう言うと、男はようやく顔を上げた。
「泣くなよいい男が。」
「・・・すんません・・・・。」
「あ、ちなみにもう15分経ってるんだよね?どうする?延長する?」
「はい・・・。あ、いや・・・・でもお金があんまり・・・・、」
「ああ〜・・・・ならいいや。出来た時に持って来てよ。」
「・・・・・・っす。」
「絶対ね。」
男はまた俯き、まるで遺影のように作品を抱えている。
これはこれでちょっと面白い光景だけど、でも笑うともっとへこむだろう。
ここはあのオッサンが言葉足らずで出来なかったことを、この俺がやるしかない。
「俺さ、二年前からこの仕事を始めたんだけど、正直始める時は不安だったよ。上手くいかなかったらどうしようって、けっこう怖かった。
だからそれなりに勇気はいったんだよね。新しい事に挑戦する時って、やっぱそれなりに度胸がいるから。」
「はあ・・・・・。」
「でもさ、逆も然りだと思わない?自分が正しいと思ってやってることがさ、実は自分の為にならないって事もあると思う。
でもさ、そういう時って中々やめられないんだよね。だって辞めるってことは捨てるってことにも等しいから、勇気がいるもんだよ。」
「そう・・・・っすかね?」
「辞めて分かることってあると思うんだよ。だからさ、ここらでちょっとアートから離れてみるってのはどうかな?」
そう言って少しだけ顔を近づけ、「もしあんたが本当にアートを必要としてるなら、きっとまた始めるよ」と続けた。
「俺さ、どんなことでも縁だと思うんだよね。人でも夢でも、縁があるかどうかって大事なことだよ。
だからもしあんたがアートに縁があるなら、きっとまた戻って来るし、出会えるよ。だからここはちょっと勇気を出して、別れてみるってのはどうかな?」
「別れるって・・・・それ恋人みたいっすね?」
「そう考えると分かりやすい。だって腐れ縁とかってあるじゃん。断ち切った方が本人の為なのに、ズルズルと引き伸ばしちゃってさ。
もう愛情も何もないのに、なんか寂しいから一緒にいるみたいな。」
「ああ、それ分かるっす。俺もそういう彼女いましたもん。」
「ならさ、別れたこと後悔してる?今でも一緒にいればよかったなあって思う?」
「いや、全然。あのまま続けてたって、ただの惰性っていうか・・・・前に進めない感じでしたからね。」
「ならアートだって一緒だよ。今はべったりくっ付いてるから分からないだろうけど、しばらくの間別れてみれば、自分にとって必要な相手だったかどうか分かるはずだよ。
それでさ、アートは人間じゃないんだから、あんたのこと嫌ったりしないよ。ヨリを戻そうって言っても、フラれたりしない。また必ずやり直せるよ。」
そう、時には辞めることも必要。
俺もあの時カフェの店員を辞めていなければ、今でもおしぼりとコーヒーを運んでいただろう。
慣れた仕事を手放すのは勇気がいるが、そうしないと前に進めない時だってある。
この男はアートに固執するあまり、少し周りが見えなくなっている部分はある。
だって・・・・こんなわけの分からないもので、本当に道が開けると思い込んでいたんだから。
きっと専門家が見たところで、一蹴されるのがオチだと思う。
だけど俺は専門家じゃないので、こればっかりは偉そうに口に出来ない。
まあ言えることは言ったわけだし、この男の望み通り、作品の意見も聞かせてやった。
時間はもう20分を超えていて、これ以上のタダ働きはごめんだ。
だってこの男が、後から本当に金を払うなんて期待していないから。
「一生懸命作った作品が売れないっていうのは、そりゃショックだと思うよ。でも売れないもんは売れないんだよ。」
「・・・・そう・・・・っすね・・・。」
「だからさ、ここはちょっとアートと距離を置こうよ。そうすりゃ一番大事な部分が見えて来るはずだから。」
「一番大事って・・・・なんすか?」
「あんたが金の為にアートをやってるのか?それともアートこそが自分の人生と思ってやってるのかってことだよ。
もしも金の為っていうのなら、別のことでもいいわけじゃん?」
「ああ、まあ・・・・・、」
「でもアートが自分の人生だとしたら、きっと辞めない。それを判断する為にも、今は別れる時だと思う。」
そう言って時計の針を止め、「じゃあここまで」と話を終わらせた。
「俺だってこれで食ってんだ。これ以上はタダじゃ出来ないよ。」
「いや、でも金は後から・・・・・、」
「別にいいよ。延長料はサービスで。」
「・・・・・・・っす。」
男は頭を下げ、いそいそと作品をしまう。そしてテーブルに2000円を置いた。
馬鹿デカいバッグを肩に掛け、ゆっくりと立ち上がった。
そして丁寧に椅子を戻し、また小さく頭を下げる。
「なんか色々とありがとうございました。」
「別にお礼なんていいよ。こっちはお金もらってるわけだし。」
「・・・・俺・・・観月さんみたいに、やっぱ自分の信じる道で生きたいっす。だから・・・・いつかきっとアートに戻って来ます。」
「自分で決めることだよ、好きにしたらいいと思う。まだそこまで歳いってないんだし、時間はあるでしょ。」
そう言って笑いかけると、男は「幾つに見えます?」と尋ねた。
「ん〜・・・・多分30台前半?」
「ああ、やっぱそれくらいに見えますよね。」
男は可笑しそうに笑い、「もっと若いっす」と答えた。
「いま幾つなの?」
「17っす。」
「マジで!?」
思わず立ち上がりそうになって、「ほんとかよ・・・・?」と睨んだ。
「よく老けて見られるんすけど、まだ17なんすよ。」
「・・・・・高校は?」
「辞めました。」
「ならその歳でフリーターやって、アートの世界に飛び込もうとしてたのか?」
「そうっす。だってやりたいことに歳とか関係ないっすから。」
「親は反対とかしなかったの?」
「そりゃしましたよ。ウチけっこう金持ちなんで、なんでそんな道行くんだみたいな。」
「なんだよ・・・ボンボンなのかよ・・・・。」
「でもそれは親の金っすから。俺のじゃないし。」
「いや、でもまだ17じゃん。別に親のスネ齧ってもいい年頃だろ。」
「まあそうなんすけど・・・・でもやっぱ誰かの言いなりとか嫌なんで。自分の人生なんだから、自分の生きたいように生きたいっていうか。」
「俺が17の時なんて、そんなまっとうなこと考えなかったな。ダチとその辺フラフラしてたわ。」
「いや、それが普通だと思いますよ。俺、自分で変わってるって自覚してるんで。」
「なら俺の意見なんて参考にならなかっただろうな。なんか偉そうに言っちゃって恥ずかしいじゃんか・・・・。」
「そんなことないっすよ。だって観月さん、自分のやりたいことで飯食ってるんすもん。冗談抜きで尊敬しますよ。」
「まあそう言ってもらえると嬉しいけどさ・・・・。」
なんか予想外のことを聞かされて、こっちの方が驚いてしまう。
「じゃあ・・・・今は一人暮らし?」
「そうなんすよ。でも17のガキに部屋貸してくれるとこなくて。」
「まあ親に反対されてるもんな。未成年だと保護者の同意がなきゃ無理か。」
「そうなんす。だから自分で家建てたんすよ。」
「はあ!?家を建てる・・・・・?」
「まあ家っつっても、雨風凌げる程度ですけどね。竜胆公園の森の奥に、拾ってきた木とか板で小屋を作ったんです。」
「それ・・・・勝手に住んでもいい場所なのか?」
「まあダメでしょうね。でもホームレスのおっちゃんとかもいて、けっこうみんな親切なんすよ。」
「・・・・お前すごいわ。こっちが尊敬するよ。」
俺は立ち上がり、テーブルの2000円を返した。
「これいいよ。」
「え?いや、でも・・・・・、」
「なんかお前面白かったからさ。こういう仕事してなきゃ、お前みたいな変わりもんの話を聞くこともなかっただろうし。」
「いやいや!それはダメっすよ!だってこれ・・・観月さんに占ってもらったお金で・・・・、」
「じゃあもしビッグアーティストになったら、何十倍にもして返してよ。」
しぶる男に金を押し付け、「まあまた来なよ」と肩を叩いた。
「木曜以外ならここにいるからさ。たま〜に他の日も休んでるけど。」
「ああ・・・・なんかすんません・・・。タダで占ってもらって・・・・。」
男はそう言いながら、「じゃあコレ・・・」と何かを取り出した。
「名刺?」
「はい。売れた時の為に作っとこうと思って。」
「銀鷹武史・・・・めっちゃ強そうな名前だな。」
「ケータイとかの番号も書いてあるんで。」
「分かった。じゃあ俺のもやるよ。」
テーブルに戻り、バッグの中をゴソゴソと漁って、数少ない名刺を取り出した。
そこに電話番号を書き、「ほい」と手渡した。
「自分の番号を書いて渡すなんて、女の子以外にやったことないわ。」
「マジすか?じゃあ俺が初めてなんすね。」
「うん、まあ・・・・やっぱりお前って面白いからさ。17でそこまでやる奴なんて滅多にいないと思うし、だから飯とか困ったら連絡してこいよ。なんか奢ってやるから。」
「マジっすか!じゃあありがたく頂きます!」
銀鷹君は嬉しそうに言い、「そんじゃ」と頭を下げて去って行く。
「あのオッサンに言っとくよ。銀鷹君が謝ってたって。」
「よろしくお願いします。そんじゃまた。」
銀鷹君はニコリと笑い、手を振って去って行った。
「・・・・変わった奴もいるもんだ。まさか男に名刺渡して、しかもタダで占ってやるなんて・・・・。これって俺の負けだよな?」
自分より10も年下の奴が、あそこまで頑張ってるとつい応援してくなってしまう。
でも俺だってまだまだ若いわけだし、このままビルの隅の占い師で終わるつもりはない。
まだこれといって先は見えないけど、そろそろ次の道を考えてもいいかもしれない。
「占い師をやめるつもりはないけど、やっぱ今のままじゃなあ・・・・。」
銀鷹君からもらった名刺をいじりながら、自分のテーブルへと戻る。
今日はそこそこ客が来てくれて、まあそれなりに儲かった。
しかし銀鷹君の印象が強すぎて、どの客の悩みも同じにしか聞こえなかった。


            *


翌日、ハゲのオカルト占い師が出勤してきたので、銀鷹君が謝りに来たことを伝えた。
するとハゲはこう一言。
「言われなくても知ってるよ。そういう未来が見えたもん。」
「霊能力で?」
「当たり前だろ。君みたいな屁理屈占い師じゃないんだから。」
「・・・・だったら休むなよハゲ・・・・。」
「ん?なんか言った?」
「いや、何も。」
愛想笑いで誤魔化し、「屁理屈はてめえだろ・・・・」と呟く。
「あのさ・・・・・、」
「はい?」
突然声色を変えて話しかけてきたので、気味が悪いと思って睨んでしまう。
「あの子若かったでしょ?」
「ええ、まあ・・・・・、」
「多分16か17くらいだと思うんだよねえ。」
「よく分かりますね。」
「だから僕にはそういう力があるから。君とは違うんだよ。」
「・・・・なら俺の年齢は?」
「26だろ?」
「前に教えましたっけ?」
「だからあ!見れば分かるの。何度も言わせないでよ。」
「・・・・じゃあおたくの年齢も当ててみましょうか?」
「いいよ。幾つに見える?」
「・・・・・45から50の間。」
そう答えると、オッサンはニヤリと笑った。
「ハズレ。」
「なら本当は?」
「25。」
それを聞いて一瞬固まる。
「・・・・・・・マジで?」
「僕って老け顔だし、それに禿げてるだろ?だからよく中年に見られるんだけど、実は若いんだよ。まだ20代半ば。」
「・・・・・・・・・・。」
「君より年下なんだよ。ビックリしただろ?」
オカルト禿げ野郎は憎たらしそうに笑い、「オッサンオッサン言ってるけど、君の方がオッサンだよ」と馬鹿にしやがった。
俺は立ち上がり、思い切り頭を叩いた。
「てめえ年下じゃねえか!それ知ってりゃ敬語なんて使わなかったんだ!このハゲ!」
「君が勝手に使ってたんだろ!僕のせいじゃ・・・・、」
「知ってるなら黙ってんじゃねえよ!ああ、ムカつくわお前!」
そう言ってまた頭を叩くと、「キャリアは僕の方が上だよ!」と言い返してきやがった。
「そっちこそ先輩に敬意を払えよ!屁理屈占いのくせに!」
「黙れ若年ハゲ!これからはタメ口だかんな!」
もう一発頭を叩き、イライラしながら座る。
銀鷹君にしろ、このオッサンもどきにしろ、最近の若者はいったいどうなってるのか?
・・・・いや、もしかしたら、俺だって他人から見たら変わり者の若者なのかも・・・。
《断じてこのオッサンもどきと一緒にされたくないな。》
そうは思いながらも、やっぱり一緒なのかもと、ちょっと不安になった。

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第一話 占い師VS路上芸術家

  • 2015.12.05 Saturday
  • 10:55
JUGEMテーマ:自作小説
「占い」というと、人は何を思い浮かべるだろう?
手相?タロット?それとも四柱推命?
オカルトなところだと水晶とか前世とか、占いだか霊能力だか分からないものもある。
世の中には様々な占いがあるけど、でもやることは一緒だ。
悩みを持つ相手に、そいつが一番望んでいる言葉をかけてやる。
そうすりゃスッキリした顔で帰っていくってもんだし、また悩みを抱えた時にはリピーターになってくれる。
俺は占い師になって二年の間に、多くの悩みの聞いてきた。
やれ婚活の条件に見合う男がいないだの、やれ昔っから好きな男に告白出来ないだの。
まあだいたい結婚や恋愛に関する悩みが多いし、やって来る客のほとんどは女だ。
女ってやつはとにかく占いが好きで、ネタみたいな感覚で楽しむ奴もいれば、真剣に俺の言葉を頂戴する奴もいる。
中にはどこぞの教祖様のように崇めてくる女もいて、ごく稀にストーカー行為をしてくる奴もいる。
面倒っちゃ面倒なんだけど、でも逆に言えばそれだけ客の心を掴んでるってことだ。
たま〜に男の客も来たリするが、こっちは冷やかしがほとんどだ。
真剣な悩みを相談してくる奴は少ない。
以前に「傾きかけた会社を立て直すにはどうしたらいいか?」と聞いてきたオッサンがいたが、あの時はあまり良いアドバイスは出来なかった。
会社の経営なんて分からないし、下手なこと言って失敗でもさせたら、それこそ後ろから刺されかねない。
だからまあ・・・俺としては女の客の方がありがたい。
ついさっきも茄子に口紅を付けたような顔の女が来て、あり得ない条件で婚活に励んでいる現状を聞かされた。
だから俺はやんわりとアドバイスをして、いつも通り優しい言葉を投げかけて悩みを受け止めてやった。
女はスッキリした顔で席を立ち、軽い足取りで去って行った。
しかも二度の延長までしてくれたので、たった45分で6000円の儲けだ。
この仕事の良い所は、ほとんど元手が掛からないという事。
経費なんてほぼ0に近く、掛かるとしたら毎月の場所代くらいだ。
六階建てのビルの一角に、占い所が並ぶスペースがあって、その一番隅を使わせてもらってる。
ビルが何かの催し物をする時は営業出来ないが、それ以外の時だと、毎月2000円払えば使わせてもらえる。
だって・・・・ここは別のビルへと通じる通路の入り口で、およそ普通の商売が出来る場所じゃないからだ。
だったら占い師なんて怪しい連中にでも貸して、多少なりとも稼ぎを得ようとするこのビルのオーナーは賢いと思う。
無駄を無くし、隅までつついて利益を上げると言うのは、経営者の鑑だろう。
今日は水曜で、時刻は午後一時半。
まともな勤め人なら当然働いているわけで、休日に比べると客は少ない。
しかし祝日や土日に休めない仕事もあるので、そういう仕事をしている女がちらほらやって来る。
俺はパイプ椅子にもたれ、大きく背伸びをした。眠気がさして欠伸をすると、隣のオッサン占い師から「ちょっと・・・」と声がかかった。
「なんすか?」
「なんすか?じゃないだろう。さっきみたいな事やめてくれないかな?」
「ん?」
「こっちの客を取るなって言ってんの。」
「ああ、あの茄子女?」
「僕の方に座りかけてたじゃない。なんで横から声をかけて奪っちゃうの?」
「いや、だってこっちをチラチラ見てたから。」
「見てないよ。こっちの椅子に座ろうとしてたじゃない。」
「ふ〜ん・・・・でもアレじゃないすか?やっぱこっちに気が変わったとか。」
「そんな事ないよ。君が奪ったの。」
「じゃあ未来を予言すればいいじゃないですか。アンタ前世が見えるとか霊感商法やってんだから、当然霊力があるんでしょ?
だったら茄子女が俺の方に来る未来も見えてたでしょ?」
「霊感商法って何だよ?犯罪者みたいに言うなよ。」
「ああ、すんません。俺、そういうの信じないもんで。」
「だったら何で占い師を・・・・・、」
オッサンは顔を赤くしながら、グチグチと嫌味を飛ばしてくる。
俺がここで商売を始めた二年前から隣にいて、前世とかオーラとかで占いをするオカルト野郎だ。
俺はこのオッサンが嫌いだし、向こうも多分同じだろう。
だからこういう言い争いはしょちゅうで、ほとんどの場合は俺が「はいはい」と無視して終了する。
《何度同じやり取りをすれば気がすむんだか・・・・。霊力磨く前に脳ミソ磨けよ。》
心の中で悪態をつき、また欠伸をする。
オッサンはまだ嫌味を言っているが、目の前に客が来て笑顔に切り替わった。
そして俺に一瞥を寄こし、《取るなよ》と目で訴えかけた。
《誰も取らねえよ、そんな面倒臭そうな客。》
首を回しながら、また欠伸を放つ。
今、オッサンの前に現れた客・・・・・これは誰がどう見ても面倒くさいと思うタイプだ。
その客は男で、歳は30前半くらい。下はジーンズだが、上はなぜかポンチョを着ている。しかもインディアンが着てそうな本格的なやつを。
頭にはカラフルなバンダナを巻いていて、耳には幾つものピアス。
鬚はボサボサのチリチリで、目が半分ここではない世界を見ているような感じだった。
こんな客は頼まれてもお断りで、俺は腕を組んで目を逸らした。
《たまにいるんだよな・・・・こういうタイプが。》
男はオッサンの前に座り、悩みを語り始めた。
俺は聴き耳を立て、さも興味もなさそうな顔をしながら様子を窺った。
《・・・・・・・・・・・・。》
男はしばらく喋り続け、大袈裟に身振り手振りを交えていた。
その悩みの内容とは、『どうして俺の作品は世間に認めてもらえないのか?』ということだった。
男は路上アーティストらしく、道端で自分の作品を展示している。
そして欲しいという客がいれば、作品を売っているというのだ。
しかし売れ行きは芳しくなく、しかも褒められたこともほとんどない。
自分には才能があるはずなのに、どうして誰も見向きもしないのか?
これは悪霊が邪魔をしているか、もしくは先祖供養が足りないせいで、上手くいかないのではないか?
そんな感じの悩みをぶちまけ、もしそうならどうすれば解決できるか相談していた。
《出た出た・・・・痛い勘違い野郎が・・・・。》
おお怖・・・・と思いながら、チラリとオッサンの様子を窺う。
《悩み事がほぼオカルトだからな。このオッサンにはうってつけだけど、果たしてどうなるか・・・・・?》
聴き耳を立てながら、オッサンのアドバイスを吟味する。
オッサンはしきりに数珠を触りながら、じっと目を凝らして路上アーティストを見つめる。
そして「あなたに悪霊は憑いていないし、先祖が邪魔しているわけでもない」と答えた。
《うん、まあ・・・・そうだよな。そんなこと俺でも言える。》
誰でも言えることを言っても、占い師としては商売が成り立たない。問題はここから先、どういう具合に言葉を繋ぐかだ。
俺は二年ほどこのオッサンの隣に座っているので、だいたい先の展開の予想はついていた。
超の上にクソを乗っけたほど正直なこのオッサンは、言葉をオブラートに包むということを知らない。
だから頭に浮かんだ言葉を、そっくりそのまま口から吐き出すのだ。
「君が頑張ってるのは分かるけど、上手くいかないのは君自身のせいだから。もう一度じっくり自分の作品を見つめ直してみたらどうかな?」
そう言ってから、「少なくとも霊のせいじゃないね。誰も邪魔なんてしてない」と続けた。
「上手くいかないのは自分のせいで、君は周りが見えなくなってるんだよ。ていうか才能があるだけと思い込んでるだけかもしれない。
だからここはしっかりと自分の作品を見つめ直して・・・・、」
おそらく・・・・いや、もっとも言われたくないだであろう言葉を客に投げかけ、ドヤ顔で微笑むオッサン。
このせいでたまにキレる客がいるというのに、それを学習しない辺りは、ある種の才能かもしれない。まあ誰も欲しくない才能だけど。
俺はいつ男がキレだすのだろうと、少しワクワクしながら待っていた。
すると予想に反して、男は涼しい顔をしていた。
そして肩に掛けた馬鹿デカいバッグから、幾つかのアクリル板を取り出した。
大きさはA4サイズほどで、中には色とりどりの紙が挟んである。
《なんだ・・・・?千切り絵か?》
おそらく色紙を千切って、それを細かく詰めているのだろう。
色合いはとても綺麗だが、いったい何を表現しているのかは分からない。
男は得意気にそれを見せ、オッサンに意見を求めた。
《さあ、どうするオッサン?あんたに芸術を批評する美的センスがあるのか?》
俺なら「ああ、綺麗だね。でも芸術の批評は占い師の仕事じゃないから」と突き返すだろう。
いらぬ事を言って相手を怒らせる可能性があるなら、最初からスパっと逃げを打つのも手だ。
しかしそこは、超の上にクソが乗るほど正直なオッサン。
「これ、何?」と真顔で尋ねた。
男は少しイラついたように、宇宙をイメージしていると答える。
「ふ〜ん・・・・じゃあこっちは?」
今度は別のアクリル板を指さし、「これも分からない」と言う。
男はまたイラついたようで、今度は戦場だと答える。
そんなやり取りが何度も続き、「僕には分からないや」と突き返した。
「美術は専門じゃないからね。占い師に聞かれても・・・・、」
苦笑いしながら、男の作品を突き返す。
《ああ・・・・やっぱアホだわコイツ・・・・・、》
男の眉間に皺が寄り、作品をバッグに戻す。そして金をテーブルに叩きつけて、飛び上がる勢いで立ち上がった。
オッサンはビクっと身を竦め、「何・・・・?」と怯える。
男は無言のまま睨みつけ、「死ねハゲ」と椅子を蹴り飛ばした。
《まあそうなるよな。俺が客でもキレる自信がある。》
蹴られたパイプ椅子が、オッサンの机にぶつかって倒れている。
「・・・・・・・・・・・・。」
オッサンは泣きそうな顔で椅子を戻し、親に叱られた子供みたいに俯いていた。
《あんな偉そうに言うクセにメンタルが弱いんだよなあ・・・・。霊力の前に、そのノミみたいなハートをどうにかしろよ。》
オッサンは終始沈んだ顔のままで、当然そんな奴のところに客は来ない。
途中で店じまいを始め、少ない荷物を抱えてトボトボと帰路についた。
これを可哀想と思うか?それともマヌケと思うか?
優しい奴なら同情もするんだろうが、あいにく俺は後者だ。
「あのハゲ・・・・明日来ないな。」
打たれ弱い奴というのは、嫌な事があると次の日まで引きずる。
俺の予想通り、翌日オッサンは来なかった。
こういうことは今までに何度もあって、大して驚きもしない。
休めば売り上げが下がるだけだが、まああのオッサンの売り上げなんざ知ったこっちゃない。
休もうが出勤しようが、元々空気みたいな奴なんだし。
しかしこの日、オッサンが休んだ代わりに、いらぬ者が俺の前に現れた。
そう・・・・昨日の路上アーティストだ。
どうやら彼はオッサンに悪いことをしたと思っているらしく、謝りに来たとのこと。
しかしそのオッサンがいないので、俺に話しかけてきたのだ。
《悪いと思うなら最初からキレるなよ。》
そう思いながらも、「今日は休みみたいですよ」と伝える。
男は申し訳なさそうな顔のまま、俺が謝っていたと伝えてくれないか?と頼んできた。
「ああ、いいですよ。今度来たら言っときます。」
そう答えると、軽く頭を下げて去ろうとした。しかしすぐに戻って来て、なぜか俺の前に座った。
「・・・・なんですか?」
まさかとは思いつつ尋ねると、男はデカいバッグを下ろしながら答えた。
「ただ伝えてもらうのは悪いんで、占ってもらいます。ええっと・・・これが料金?15分2000円ですか?」
「・・・・・・・・・・。」
財布を取り出し、中身を確認しながら頷いている。
そして俺の方を見つめながら、ゆっくりと昨日の作品を取り出した。
この瞬間だけ、値段を三倍にしようかと思った。



 

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