グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十九話 血に染まる(3)

  • 2016.04.08 Friday
  • 09:43
JUGEMテーマ:自作小説
西の空から、小さなシルエットが迫って来る。
それは凄まじい速さでこちらに向かっていた。
『やっぱ来ると思ったよ。殺したはずなのに、なんか殺した気がしなかったからさ。』
そう言って緑川は、迫り来るシルエットを睨む。
そして早く来いと言わんばかりに、大きく手を振った。
ミノリもそのシルエットに気づき、『あれは・・・・?』と不思議に思う。
『・・・・・・・・ああ、沢尻。』
迫り来るシルエットの正体に気づき、『まだ生きてたのね』と笑った。
『あれあんたの宿敵でしょ?譲るわ。』
『いいけどさ、でもあいつってお前のこと狙ってるぞ。』
『まさか。目的はあんたでしょ。』
『そうだけど、でもあいつにとっちゃ俺がラスボスみたいなもんなんだよ。』
『ラスボス?』
『一番の敵であり、最後に戦うべき相手ってこと。それでさ、普通はラスボスと戦う前に中ボスだよ。だって弱いんだから。』
そう言って沢尻に手を振り、『早く』と呼んだ。
沢尻はだんだんとこちらに近づいて来て、その姿を露わにする。
『あれ、あいつ人間に戻ってるじゃん。』
緑川は不思議に思い、『もしかして花を飲み込んだせいかな?』と呟いた。
『花?何の花?』
『いや、だから化け物を殺す花だよ。お前が言ってたじゃん。』
『馬鹿ね、あれはケントが飲み込んで・・・・・、』
『違うね、ケントが沢尻に託したんだよ。だってそうでなきゃ説明がつかないもん。』
『何の?』
『俺さ、ここに来る前に沢尻を殺したんだよ。』
『それホント?』
『うん。でもあいつは生き返った。それってきっと、ケントの花と関係あるんじゃないかなと思ってさ。』
『あの花にそんな力は無いわ。』
『そっか、なら別のことが原因なんだな。でもどっちにしたって、沢尻は生き返った。それであいつが花を飲み込んだんだよ。俺を殺す為に。』
そう言って宙に舞い上がり、ミノリに斬りかかった。
『ちょっと・・・・、』
ミノリはあっさりとかわし、『カク!』と呼んだ。
赤い怪人が緑川の前に立ちはだかり、骨切り刀を向ける。
『なんだかよく分からないけど、でも沢尻が花を飲み込んだっていうのは本当なの?』
『ただの推測。でも当たってると思う。』
『そう・・・。ならケントの所に行っても無駄ね。あいつを殺さなきゃ・・・・・、』
ミノリは沢尻を睨み、『ただの人間なら怖くないわ』と微笑んだ。
『もうアチェもいないし、あいつには何の力もない。ケントを殺すより遥かに楽ね。』
そう言って沢尻の方へ向かって行く。
『カク、そいつを止めといてね。』
命令を受けて、カクは緑川に斬りかかる。
ミノリはその隙に沢尻の方へ向かい、『こんにちは』と手を振った。
『悪いけど死んでね。』
羽から鱗粉を放ち、沢尻を眠らせようとする。
しかし沢尻は真っ直ぐ突っ込んできて、平気な顔で鱗粉の嵐を抜けた。
『効かないの?』
ミノリは驚き、今度は蝶の大群を放って迎え撃つ。
すると沢尻はふっと息を吹き、キラキラと光る粉を放った。
その粉は蝶の大群に触れた瞬間、色鮮やかな花を咲かせた。
蝶は花に養分を吸い取られ、枯れ木のように崩れていく。
『ケントの技・・・・・やっぱりあいつの花を飲み込んでるのね。』
ミノリは蝶の化け物に変身して、サッと身を翻した。
そして木立の中から、緑川が投げた虫殺しの槍を見つけ出した。
それを振り回しながら、沢尻の方へと向かう。
『残った敵はあんたと緑川だけ。先に殺してあげるわ。』
そう言って槍を構えて突っ込むと、沢尻は両手を広げて立ち止まった。
『何?』
ミノリは訝し気に顔をゆがめる。
すると彼の後ろに、ペケの幻が重なって見えた。
『ペケ・・・・そいつに宿ってるの?』
ペケの幻は、沢尻の後ろで両手を広げている。
そしてその頭上には、ぼんやりと光る、黒い太陽が浮かんでいた。
『あ・・・・・・、』
ミノリは慄き、動きを止める。
『妖怪の・・・・王・・・・。』
ゴクリと息を飲み、少しだけ後ずさる。
『・・・・ずっと昔にこの星へ降りた・・・・遠い星の生命体・・・・。』
そう呟いて、『邪魔しないでくれる?』と言った。
『あんたはもう自分の居場所を持ってるでしょ?だったら私の邪魔しないで。』
黒い太陽を見上げ、槍を向ける。
『それに地球外生命体同士は戦わない決まりでしょ?その約束を破ったなら、あんただって居場所を失うかもよ?』
強い口調で言って、黒い太陽を牽制する。
『・・・・・・ん?あんた・・・・昔より光が弱くなってない?それに炎も小さいし・・・・・、』
そう言ってじっと見つめ、『ああ、なるほど・・・・』と頷いた。
『あんたも寿命が来てるのね。一人じゃ寂しいからって、妖怪を生み出した。しかも異界まで作って、自分の居場所を手に入れた。
でもそれも限界に来てる。このままじゃ異界ごと消滅して、妖怪は居場所を失うわ。だから私を殺し、「向こう」に妖怪を住まわせるつもりなのね。』
可笑しそう言って、『どいつもこいつも・・・・、』と吐き捨てる。
『よっぽど「向こう」が好きなのね。あんなものは仮初の世界に過ぎないのに、なぜかみんな欲しがろうとする。
「こっち」で受け入れられなかったり、上手く適応できない奴らが「向こう」へ群がって来る。もうあそこは社会不適合者の集まりね。』
ケラケラと笑い、『馬鹿ばっかり』と罵る。
『いいわ、弱ってるあんたなら勝てるかもしれない。元々妖怪なんて吐き気がするほど嫌いだし、親玉のあんたごと消し去ってやるわ。』
ミノリはまた自分の胸を斬り裂き、心臓を取り出す。
『これは王の心臓。弱るといけないからあまり使いたくなかったんだけど、そうも言ってられないわ。
自由に生命体を生み出す王の力で、邪魔な奴らは全員殺してやる。』
そう言って心臓に爪を突き刺し、グリグリといじくった。
すると青い血が噴き出して、悲鳴を上げるように脈打った。
飛び散った青い血は、大地に、川に、木立に、そしてUMAや妖怪の死骸に降り注ぐ。
するとそこから新しい命が誕生した。
ミノリとよく似た小さな生き物が、まるで蛆虫のように大量に湧いて出て来た。
『ほら、私がたくさん。みんな死んじゃうわよ。』
心臓を胸に戻し、沢尻に飛びかかる。
すると新たに生まれた無数のミノリも、沢尻の方へと飛びかかった。
このミノリたちは、ただの分身ではない。オリジナルと同等の力を持った、恐るべきUMAである。
その手には骨切り刀とよく似た刀を持ち、蝶の化け物に変身して襲いかかった。
すると黒い太陽は激しく燃え盛り、辺りに光を照らした。
黒い光が麓を覆うと、どこからともなく河童モドキが現れる。
河童モドキはペケの頭を掲げ、『グェ!グェ!』と雄叫びを上げた。
すると黒い光の中から、妖怪やUMAの群れが現れた。
ウェンディゴにオボゴボ、モスマンにミルメコレオ、それにドッペルゲンガーや牛鬼に、他にも大勢の化け物が現れた。
化け物の群れは、黒い太陽の光を受けて妖しく輝く。そして天にも届くほどの声で吠えた。
黒い太陽は一際大きく輝き、そしてゆっくりとしぼんでいく。
燃え尽きるロウソクのように、最後の輝きとばかりに燃え上がってから、静かに消滅していった。
河童モドキは奇声を上げ、ペケの頭をふりかざす。
化け物の群れも奇声を上げ、雷鳴のような合唱が響き渡った。
『なんなのこいつら・・・・・、』
ミノリは狼狽え、『まあいいわ』と沢尻を睨む。
『あんたを殺して、その次は緑川を・・・・・、』
そう言って、大勢のミノリで一斉に襲いかかろうとした瞬間、沢尻は地面へ落ちていった。
黒い太陽が消え去り、宙を飛んでいられなくなったのだ。
真っ逆さまに地面へ落ちていくと、河童モドキが受け止めた。
『グェ!』
沢尻は身を起こし、目の前にペケの顔を見せられる。
「・・・・・・・・。」
そっと手を伸ばし、その顔に触れる。
黒い太陽もペケも、そして妖怪もUMAも、自分の味方をしてくれる。
ミノリという強敵を倒す為に、人間との共闘を望んでいる。
自分たちの居場所を守る為に、今だけは手を取り合おうとしていた。
沢尻は「すまんな・・・」と河童モドキに言い、空を見上げる。
そこには大勢のミノリがいて、憎そうにこちらを睨んでいた。
「思い通りにならなくて怒ってる面だな。いい気味だ。」
そう言って「そっちは頼む」と河童モドキに笑いかけた。
「俺はあいつをやる。生かしておいたらいけない奴だ。」
沢尻は緑川の方に目を向ける。
すると彼はカクをバラバラに切り裂いていて、何度も刀を突き刺していた。
『こいつしぶとい。再生とかしなくていいんだよ。』
苛立ちながら、執拗に刀を突き刺す。
カクは挽き肉のように潰されてしまい、その後に何度も踏み潰される。
もはや原型をとどめておらず、スープ状になるまで踏みつけられた。
『・・・・・・やっと終わった。』
再生しないカクを睨んで、満足そうに笑う。
そして沢尻を睨み、『なに生き返ってんだよ』と殺気立った。
『殺しただろ?どうして生きてるんだ?』
「さあな。」
『・・・・いや、この言い方は違うな。生きてるのは俺だけだから、どうして直ったんだって言い方の方が正しい。』
「お前のこだわりなんざどうでもいい。一つ確かなのは、お前を仕留める為に地獄から戻って来たってことだけだ。」
『だからさ・・・何の映画のセリフだよそれ?いちいち臭いんだよクズ野郎。』
緑川は首狩り刀を振り上げ、沢尻に飛びかかろうとする。
しかしその時、少し離れた所から銃声が響いた。
タタタタタ!と連続的に響き、空へ向かって火を吹いている。
放たれた弾丸はミノリを狙っていて、彼女を殺そうと飛んでいく。
しかしあっさりとかわされて、「チッ・・・」と舌打ちをした。
「おい沢尻!人間に戻ってるじゃないか。」
「東山・・・・・。」
「30分で戻って来るって約束だったろ?遅いから迎えに来てやったぞ。」
そう言って菱形の鏡を取り出し、ドッペルゲンガーを呼び寄せる。
そして自分と同じ姿に変化させて、銃を撃たせた。
「ボケっとしてるな。ここで仕留めなきゃチャンスを失うぞ。」
東山は正確な射撃でミノリを狙う。すると一発の弾丸が羽を射抜いた。それもオリジナルのミノリの羽を。
「おい見ろ!親玉に当たったぞ。この状況に向こうも混乱してるらしい。これならいけるかもな!」
ミノリを睨み、馬鹿にしたように笑いかける。
『・・・・・ムカつく。ほんとに・・・・なんなのよ・・・・・、』
ミノリの顔から笑みが消え、獣のように鼻づらに皺を寄せる。
そして一斉に東山に襲いかかった。
すると河童モドキが吠えて、妖怪やUMAが集まって来る。そしてミノリの大群を迎え撃った。
東山も銃を撃ち、化け物に加勢する。
「沢尻!ここで仕留めなきゃならんぞ!こいつらを生かして返すな!」
東山は辺りに転がる仲間の死体を見つめる。
多くの人間が殺されて、もはやここは死体の山になっている。
しかし次に争いが起きれば、こんなものでは済まさない。
出来れば両方、最低でもミノリか緑川のどちらかを仕留めなければ、また悲劇を繰り返す。
東山は化け物に混じって戦う。
ミノリは強敵で、一体一体がとてつもなく強い。
小銃を連射してもあっさりとかわされ、しかも睡眠作用のある鱗粉を放ってくる。
東山は防毒マスクを被り、一歩も退かない覚悟で戦った。
河童モドキも先頭に立ち、口から粘液をまき散らした。
セリー状の透明な液体が、ミノリの動きを封じる。
そこへウェンディゴや牛鬼が襲いかかり、どうにか一体仕留めた。
しかしその間にこちらは何体もやられていて、小さな死体の山が出来ていた。
コピーのミノリは口から毒針を伸ばし、まるで蜂のように刺してくる。
その毒は強力で、大型のUMAでも一撃で痙攣し、小型のUMAなら即死するほどだった。
オリジナルのミノリも虫殺しの槍を振り回し、ウェンディゴを突き刺す。
『オオオオオオオオ・・・・・・、』
マルでさえ殺すほどの毒は、他の化け物では耐えることは出来ない。
『いくら粘っても無駄。死体が転がるだけよ。』
そう言って腕をかざすと、カクに貸していた骨切り刀が戻ってきた。
片手に虫殺しの槍、片手に骨切り刀を持ち、たやすく化け物の大群を葬っていく。
このままでは負けることは目に見えているが、それでも東山は踏ん張った。
相手の動きを読み、正確な射撃で頭を撃ち抜く。
『イギャアアアアアア!!』
「効く!当たれば倒せる!」
動きは素早いが、銃弾を跳ね返すほど頑丈ではない。
当てることさえ出来れば、小銃でも充分に勝てる。
ドッペルゲンガーも東山の動きを真似して、ミノリを一体撃ち抜いた。
『ギャアアアア・・・・、』
「いいぞ!その調子だ!」
敵は強いが、勝てない相手ではない。
なぜなら戦うのは自分だけではなく、多くの化け物がいるからだ。
諦めなければ、必ずミノリを倒せると信じていた。
戦いは激しさを増し、遠くから望遠レンズで狙っているマスコミも興奮する。
レポーターは説明にならないほどの早口でまくしたて、恐怖と興奮が入り混じった口調で状況を伝えた。
そして東山から少し離れた場所では、二人の男が睨み合っていた。
沢尻と緑川。
刑事と殺人鬼が、互いを殺そうと刃を交えた。

グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十八話 血に染まる(2)

  • 2016.04.07 Thursday
  • 10:34
JUGEMテーマ:自作小説
水中へ逃げた緑川にトドメを刺そうと、ミノリは巨大な手を差し向けた。
『サル』と呼んでから、『人間はもうほっといていいわ。緑川にトドメを』と言った。
すると巨大な手は、ゆっくりと川の方へ向かった。
幾つものゾンビを操りながら、緑川を殺そうとする。
指先から伸びる糸で操られた死者たちが、気持ちの悪い動きをしながら川の中を探った。
すると人間に味方していた妖怪やUMAが、何かの気配を探るように辺りを見渡し始めた。
キョロキョロと目を動かしたり、クンクンと鼻を動かしてみたり、または耳を立てて集中してみたり。
そして一斉に麓の木立の中を睨み、そちらへ向かって駆けていった。
それを見たミノリは『まずい』と言って分身を解き放つ。
木立に向かった化け物を殺そうと、何十体も分身を放った。
やがて木立の中から争う音が聞こえてきた。
木が折れる音や、化け物の叫び声。
すると巨大な手は動きを止め、川の中を探っていた死者も動きが止まった。
しばらくすると、木立の中から獣の悲鳴が響いた。
それはとても甲高い声で、『ウキャ!』だの『ホッ!』だのと喚ている。
そしてすぐにその声の主が、木立から飛び出してきた。
それは真っ白なサルの骸骨だった。
器用に枝を伝い、川に逃げ込む。
すると巨大な手はそのサルを守るように、川の前に立ちはだかった。
幾つもの死者を操り、追いかけて来る妖怪やUMAを迎え撃つ。
双眼鏡でそれを見ていた鏑木は、「まさかあのサルが・・・・、」と呟いた。
「あの骸骨のサルが、巨大な手を操ってるのか?」
巨大な手は明らかにサルを守ろうとしている。
鏑木は無線を取り、すぐに米軍に伝えた。
木立の中から出て来た、あの骸骨のサルを撃てと。
すると蝶の大群と戦っていた戦闘ヘリの一機が、巨大な手の方へと向かった。
機関銃とロケット弾を飛ばし、激しい爆炎が上がる。
しかし巨大な手は相変わらず無傷で、吹き飛んだのは操られる死者や化け物だけだった。
それでもヘリは攻撃を続ける。
川をなぞるように機関銃を撃ち、大きな水柱がドミノのように上がった。
すると川の中からサルが現れて、また木立の中へ逃げようとした。
ヘリがすぐにミサイルを放ち、木立ごと吹き飛ばす。
『ギイイイイイイイイイイイ!!』
耳をつんざく雄叫びが聴こえ、サルが飛び出して来る。
そして巨大な手を操り、ヘリを鷲掴みにした。
その握力は凄まじく、装甲を割り、ローターをグニャリと曲げてしまった。
パイロットは悲鳴を上げ、それを見た仲間のヘリが助けようと向かって来る。
しかし巨大な手はしっかりとヘリを握っていて、下手に攻撃することが出来ない。
「手はほっとけ!サルだ!骨のサルを狙え!」
鏑木は無線機に向かって怒号を飛ばす。
しかし巨大な手はそうはさせまいと、掴んだヘリを投げつけた。
助けにやって来たヘリは、慌てて急旋回する。
投げられたヘリはそのまま川の中に落下して、爆炎を上げた。
「クソッタレ!」
鏑木は悔しそうに吠える。
巨大な手はさらに別のヘリに襲いかかり、またしてもメキメキと握り潰してしまった。
米軍はこの巨大な手を止める為に、骸骨のサルに攻撃をしかけた。
戦車や装甲車から機関銃が放たれ、巨大な手の操り主を粉砕しようとする。
しかしそこへ蝶の大軍がやって来て、自らを盾として攻撃を防いだ。
サルは川に逃げ込み、木立の中で化け物に受けた傷に苦しんだ。
至る所にヒビが入り、痛そうに『ホッ!ホッ!』と鳴いている。
そして激しい憎しみを抱いて、次々にヘリに襲いかかった。
巨大な手を動かし、まるでオモチャのように掴んでは投げ飛ばしてしまう。
暴れ狂う巨大な手は、マルよりも恐ろしい存在だった。
死者を操り、どんな攻撃も効かず、戦闘ヘリでさえオモチャ扱いするほどのパワー。
こんなものと戦っても勝ち目はなく、どうにかして骸骨のサルを仕留める必要があった。
しかし巨大な手の暴れぶりに、米軍も自衛隊も成す術がない。
このままでは化学兵器を搭載した装甲車までやられなかねないので、米軍はすぐに発射の準備に入った。
本来なら一か所に敵を集めてから撃つつもりだったが、そんな余裕もない。
化学兵器を搭載したミサイルは、徐々に角度を上げていく。そして麓の少し奥に狙いを定めた。
骸骨のサルはその動きに勘づき、巨大な手を差し向けた。
あの装甲車から放たれるミサイルは、通常のミサイルではないと感づいたのだ。
装甲車に巨大な手が迫る。それを撃ち落とそうと攻撃を仕掛けるが、まったく効果がない。
銃弾も砲弾も命中しているのに、一切傷がつかない。
このままでは本当にミサイルを撃つ機会を失う。
米軍の指揮官はすぐに発射命令を出した。
装甲車の操縦士は発射ボタンを押し、一発のミサイルが空へと放たれる。
それは麓の木立の奥で炸裂し、霧状の液体が撒かれた。
辺り一面に降り注ぎ、化け物たちの頭上に降り注ぐ。
するとその液体に触れた化け物たちは、一斉にのたうち回った。
蝶の大群も骸骨のサルも、そして人間に加勢していた妖怪やUMAも、気が狂ったかのように転げ回った。
『イギイイイイイイイイイイ!!』
骸骨のサルは苦しそうに身体を掻きむしり、七転八倒にのたうち回る。
まず最初に耐えがたい痒みが襲ってきて、全身に虫が湧いたような不快感に見舞われる。
それはすぐに痛みへと変わり、身体じゅうをドリルを突き刺され、そこに焼けた鉄を流し込まれるような激痛が走った。
その毒は風によって向きを変え、人間の方へも押し寄せた。
後退していた自衛隊にもその毒は襲いかかり、歩兵たちは一斉に苦しみ始めた。
化け物たちと同じように、この世の終わりのような叫びを上げて死んでいく。
「なんだこれは!マスクで防げるんじゃないのか!?」
鏑木は急いで部隊を後退させる。
毒は米軍の歩兵にも降り注いだが、毒にやられている様子はない。
「おい!こりゃどういうことだ!?吸い込まなきゃ大丈夫じゃなかったのか!?触れただけで効果が出てるじゃないか!」
そう無線に怒鳴ると、何の返事もなかった。
「事前に聞いていた情報と違うぞ!あれは呼吸器系を侵す毒で、しかも狭い範囲でしか効果がないんじゃないのか!いったいどうなってる!!」
大声で怒鳴りつけると、米軍の指揮官はこう答えた。
『分からない。こっちも混乱している。』
「嘘を言え!お前ら正確に毒の情報を伝えなかったな!」
『そんな事はない!情報は漏らさず伝えた!』
「ならどうして俺の部下が死んでるんだ!そっちの歩兵はピンピンしてるじゃないか!事前に解毒剤を飲んでいたとしか考えられない!」
『言いがかりだ!この毒は吸い込まなければ問題ないと聞いている!』
「聞いているって・・・・そっちも毒の詳しい情報は知らないのか?」
『新開発された兵器だ。大まかな説明は受けているが、詳細な部分までは分からない。しかし触れただけで効果を発揮するなんてことは知らなかった。』
「じゃあなんで効果を発揮してるんだ?人間も化け物も苦しんでるじゃないか!」
『だから分からないと言ってるだろう!そもそもこんな毒なら、近距離で使うはずがない!化け物を殺す安全な毒だということで使用したんだ!』
「化け物を殺す毒が安全なわけがないだろう!そっちは無事でこっちは死人が出てる!これは問題だぞ!」
『化学兵器を使いたいと言ってきたのは日本側だ!我々はただ協力したに過ぎない!責任は無い!』
「ふざけるなよ!こんな毒だと分かってれば、使わせるはずがなかった・・・・・、」
そう言い返そうとして、鏑木は口を噤んだ。
空中を漂う毒の霧が、妙に青く見えたからだ。
「なんだこれは?キラキラと光って・・・・まるで毒の鱗粉みたいな・・・・、」
その時、鏑木はハッと気づいた。
麓の奥のミノリにを向けると、彼女は羽から鱗粉をまき散らしていた。
それはキラキラと青く輝き、毒の霧と混ざって降り注いでいた。
「まさか・・・・これはミノリのせいか?あいつの鱗粉が混ざったから、米軍の毒が変質したのか?」
そう思ったものの、「しかし米軍側には被害が出ていない・・・」と疑問に思った。
「どうして俺たちだけ毒の効果が・・・・・、」
部隊を後退させながら、青く光る毒が降り注ぐのを見つめる。
するとその毒は米軍の歩兵に触れた瞬間、パッと消えてしまった。
「なんだ?」
鏑木は双眼鏡でじっと見つめる。
「消えた・・・・んじゃないな。あれは吸い込まれているのか?」
よく見ると、鱗粉は歩兵の体内に吸い込まれていた。
まるで掃除機のように、服の上からでも中へ吸い込まれている。
しばらく睨んでいると、やがて歩兵に異変が現れ始めた。
膝をついて苦しみ、自ら防毒マスクを外す。
そして喉を掻きむしり、苦しそうに喘いでいた。
そのうち皮膚が変色し始め、朽ちた樹皮のようにヒビ割れる。
やがてはボロボロと崩れ落ち、骨や筋肉が露わになった。
大勢の歩兵が同じように苦しみ、助けて求めている。
するとミノリが頭上にやって来て、その様子を可笑しそうに見つめた。
そして自分の胸を斬り裂き、ドクドクと脈打つ心臓を取り出した。
「何をしてるんだ・・・・?自分の心臓を取り出すなんて・・・・・、」
ミノリは両手で心臓を持ち、その一部を切り落とす。
すると切られた心臓の一部が地面に落ちた瞬間、毒で苦しむ歩兵たちが群がった。
それが救いの女神であるかのように、我先にと心臓に飛びかかる。
鏑木はその異様な光景を睨みながら、別の場所で動きがあったことに気づく。
川の方から、『イギイイイイイイイ!!』と悲鳴が聞こえたのだ。
「これはあのサルの・・・・・、」
双眼鏡を向けると、そこには緑川が立っていた。
首狩り刀をだらりと下げ、川面を睨んでいる。
その視線の先には、サルの頭が落ちていた。
「あいつ・・・・あのサルを殺しやがったのか・・・・、」
緑川は首狩り刀を振り、骨を細切れに切り裂いていく。
まるで野菜でも刻むかのように、いとも簡単にバラバラにしてしまった。
すると宙に浮かんでいた巨大な手が、ぶるぶると震え出した。
そして爆音を轟かせながら、四方八方に飛び散った。
飛び散った破片からは無数の人間の思念が浮かび上がって、悲鳴を上げながら辺りを漂う。
空はその思念によって覆い尽くされ、雲のように広がっていく。
そして風に吹かれて消えていった。
鏑木はゴクリと息を飲み、「あれは人間だったのか・・・・・?」と呟いた。
骸骨のサルは緑川によって殺され、巨大な手は消滅した。
ミノリが連れて来た恐ろしいUMAは、死神の手によって駆逐されてしまった。
これは喜ぶべきことなのか?
鏑木は判断に困っていた。
マルと巨大な手がいなくなったことは嬉しいが、その代わりに恐ろしい死神が現れた。
今度はその死神の相手をしなければならず、いったいどれほどの死者が出るのかと首を振った。
切り札の化学兵器はミノリに利用され、逆にこちらが痛手を被ることになった。
辺りに漂っていた鱗粉は、すでに風に吹かれて消えている。
しかしのその毒を受けた米軍の歩兵は、未だに苦しんでいた。
ゾンビのようなおぞましい姿になり、ミノリの心臓に群がっている。
予想もしない事ばかりが起きて、鏑木はただ混乱していた。
撤退すべきか?それとも最後まで戦うべきか?
眉間に皺を寄せながら窮地に立たされる。
するとミノリの心臓に群がっていた歩兵たちが、突然ヘドロのように溶け始めた。
スライムのようにドロドロした物体になり、ミノリの心臓を中心に固まっていく。
「まさか・・・・・・、」
鏑木は無線機を取り、「すぐに攻撃しろ!」と伝えた。
「新しい化け物が生まれるぞ!今すぐ攻撃するんだ!」
そう怒鳴ると、しばらくの沈黙があった。
米軍側も混乱していて、すぐに判断が下せなかったのだ。
しかしミノリの心臓を中心に集まったヘドロは、やがて人の形へと変わり始めた。
その姿はマルにそっくりで、再び恐ろしい怪人が生まれようとしていた。
このままではまた強敵が増えてしまう。米軍はすぐに攻撃を開始して、新たに誕生しようとしている怪人を葬ろうとした。
ミサイルが、戦車の砲弾が、そしてロケット弾が怪人を消し去ろうとする。
しかしそこにミノリが立ちはだかり、骨切り刀を振り上げて襲いかかった。
どんなに硬い物でも切断する骨切り刀は、例え戦車の装甲でも容易に斬ってしまう。
ミノリは二本の刀を振り回し、容易く戦車や装甲車を切り裂いていった。
頑丈さが売りの兵器は、骨切り刀の前では成す術がない。
ミノリは蝶のごとくヒラヒラと、そして俊敏に動く。
そのスピードと複雑な動きの前では、とてもではないが狙いを定めることなど出来なかった。
戦車も装甲車もあっという間に数を減らし、遂には全ての車両がバラバラにされてしまった。
斬られた車両からは、同じようにバラバラになった人間の遺体が出て来る。
その中には米軍の指揮官もいて、頭と胴体が五つに分断されていた。
指揮官を失ったことで、米軍は一気に統制を失う。
戦車も装甲車も失い、歩兵は怪人の材料となって生まれ変わろうとしていて、残っているのは戦闘ヘリだけだった。
それもわずかに三機ばかりで、すでにほとんどの武器は使い果たしていた。
この状態で戦い続けるのは無理で、鏑木の元に撤退を求める無線が入った。
「・・・・それしかないか。これ以上ここにいたら全滅だ・・・。」
鏑木が答える前に、米軍のヘリは去って行く。
ミノリはそれを追うことはせず、鏑木の方に目を向けた。
二本の刀をユラユラと振って見せ、『あなたはどうするの?』と問いかける。
「・・・・・・撤退する。」
短くそう言って、部隊を撤収させる。
本来なら死んでもミノリたちを止めることが任務だったが、それは死んで止められる場合の話である。
ここで戦いを挑んでも、自分を含めて部下が無駄死にするだけだった。
鏑木は本部に撤退のする事を伝え、すぐに部隊を退いた。
戦車や装甲車を反転させ、戦闘ヘリも麓から去って行く。
遠く離れた場所には機動隊が控えていて、彼らにも撤退しろと伝えた。
人間たちは亀池山の麓から去り、後には化け物だけが残される。
するとそれと入れ違いになるように、遠くから一機のヘリが飛んで来た。
それは東山たちを乗せたヘリで、一直線に麓へと向かう。
しかし撤退していく自衛隊に気づいて、彼らの元へと降りて行った。
ミノリは遠巻きにそれを眺めながら、『うん』と嬉しそうに頷く。
『これでしばらくは挑んで来ないでしょ。でも次に来る時はもっと大部隊ね。強い武器もたくさん持って来るだろうし。』
そう言って後ろを振り返り、『あんた勝てる?』と言った。
『人間はあんたも殺すつもりよ?一人で勝てる?』
そう問われた緑川は、首を傾げて『さあ?』と答えた。
『ていうか戦わなくていいじゃん。』
『そう答えると思ったわ。でも人間はあんたを追って来るわよ。』
『追って来られる数なんて知れてるだろ?俺は「向こう」に逃げられるんだから、大部隊で追いかけたり出来ないよ。』
『そうね。でも「向こう」は無くなるわ。私が消滅させるから。』
『それって俺を殺すってことだろ?』
『もちろん。あんたを殺さないと、王の半分が手に入らないからね。』
ミノリはクスクスと笑い、元の姿に戻った。
小さな身体で骨切り刀を揺らし、緑川の方に向ける。
するとヘドロになった米軍の歩兵が、ミノリの心臓の一部を依代として、怪人に生まれ変わった。
今度の怪人は鼻しかなく、真っ赤なマントに真っ赤な肌をしていた。
『うん、上出来。この怪人は三角のカクとでも名付けようかしら。』
そう言って骨切り刀を一本に戻し、『はい』と投げ渡した。
『それあげるわ。まずはそこの緑川ってやつを殺してちょうだい。私はその間にやることがあるから。』
ミノリはクルリと背中を向け、どこかへ飛び立とうとする。
『おい、どこ行くんだ?』
緑川は追いかけようと羽ばたく。すると真っ赤な怪人が襲いかかってきた。
『どけよカス。』
首狩り刀を振って腕を斬り落とし、返す刀で胴体を斬りつけようとした。
するとカクはマントを開き、米軍の思念を放ってきた。
緑川はモロにそれを受けてしまい、呪い殺されそうになる。
しかし首狩り刀も呪いを放ち、その思念を押し返した。
『あははは、また首狩り刀が短くなっちゃったわね。』
『なんだよこれ?しょうもない時間稼ぎだな。』
『時間を稼ぐ必要があるのよ。だって・・・・ケントの奴が余計なことをしてくれたから。』
『余計なこと?』
『周りを見てみなさいよ。色が変わってる奴らがいるでしょ?』
ミノリはそう言って周りに手を向ける。
辺りは毒で死んだ化け物の死骸で埋め尽くされていて、その中に赤や黄色、それに青などの鮮やかな色に染まった者がいた。
『ああ、ほんとだ。』
『よく見てみると、身体の中に花びらが見えるはずよ。』
『・・・・・ああ、あるな。ぼんやり浮かんでる。』
『これはケントの仕業よ。あいつは妖怪やUMAを全て消し去るつもりでいる。』
『そうなの?』
『あいつの頭の中には、とても不思議な花が一輪だけ咲いててね。それを誰かが飲み込むと、飲み込んだ本人を養分にして花粉をまき散らすの。
その花粉にやられたものは、やがて花を咲かせて死んでしまう。』
『へえ、あいつそんなことも出来るんだ。』
『花は宿主の死体を養分として、大きな花を咲かせるわ。それはまた花粉をまき散らし、やがて他のUMAや妖怪にも伝染する。
ケントは一度だけこの花を使っったことがあったわ。私を殺す為に。』
『でもお前は生き残ってるじゃん。ということは防ぎようがあるんだろ?』
『その通り。だからその為にケントを潰しに行って来るわ。あいつは多分自分で花を飲み込んだはずよ。でなきゃここまでの力は発現しない。』
そう言って色が変わった化け物たちを睨み、『あんたはそれまでカクと戦ってなさいな』と笑った。
『戻って来たら殺してあげるから。』
『いやいや、ちょっと待てよ。』
『なに?』
『その花を飲み込んだ奴は死ぬんだろ?だったらもしケントが飲み込んだなら、あいつはほっといても死ぬんじゃないの?』
『そうよ。でもね、あいつは恐ろしい奴なの。以前にこの力を使った時も、一度死んだわ。だけどその前に種子を残していたの。』
『種子?』
『ケントの死後、その種子が芽吹き、また新たなケントとして復活する。』
『なんだそれ?いくらでも生き返るってことじゃん。そんなのアリなの?』
『肉体が滅ぶ前に、思念だけ切り離しておくのよ。』
『ああ、なるほど・・・・。切り離した思念を、種子に宿らせるってこと?』
『そういうこと。それにどっちにしろ、ケントを殺さなきゃいずれ私まで死ぬかもしれない。
この力がどの程度の範囲まで及ぶのかは分からないけど、でも不安の種は取り除かなきゃ。』
『それなら歓迎だな。』
『何が?』
『だって今の俺もUMAだからさ。ほっといたら俺まで死ぬんだろ?』
『もちろんよ。なんなら一緒に来る?』
『やめとく。隙を見せたら寝首を掻かれそうだし。』
『それはあんたの方でしょ。』
ミノリはケラケラと笑い、『まあどっちにしろあんたじゃケントには勝てないわ』と言った。
『私はあんたの相手をしてる暇はない。ここで大人しく戦ってなさい。
カクに殺されるならそれまでだし、生き残っても私が殺す。逃げても必ず見つけ出す。死神にだって死は訪れるのよ。』
そう言って『バイバイ』と手を振り、山へ飛び去って行く。
『なあミノリ。』
『何よ?』
面倒くさそうに振り向くと、緑川はこう尋ねた。
『どうして「こっち」で暴れたの?』
『決まってるでしょ。あんたをおびき出す為よ。』
『そんなことしなくても、来てくれれば歓迎したのに。』
『嘘ばっかり。こっちから行ったら逃げるでしょ。』
『そんな事ないよ。俺はお前を探してたんだぞ。だって俺だって王の力が欲しいからさ。それにお前ってムカつくから殺そうと思ってたし。』
『そうなの?だったら「こっち」で暴れるだけ無駄だったわね。でもまあ・・・・こうしてノコノコ現れてくれたからよかったわ。
もうじき死ぬんだし、残された短い時間を堪能しなさいよ。』
ミノリは興味もなさそうに背中を向け、「向こう」へと消えようとする。
緑川はそんな彼女を見つめながら、『アホだなアイツ』と罵った。
『ケントが花を飲み込んだなんて本気で思ってるのか?化け物の色が変わってるのは、あいつのせいに決まってるのに。』
小声で呟いて、西の空を眺める。
そこには小さなシルエットが浮かんでいて、猛スピードでこちらに迫っていた。

グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十七話 血に染まる(1)

  • 2016.04.06 Wednesday
  • 09:47
JUGEMテーマ:自作小説
亀池山の麓では、地獄の蓋が開いたような恐ろしい戦いが繰り広げられていた。
ミノリ、マル、巨大な手、そしてその手に操られる人間や化け物の死体。
そしてそれらと戦うのは、自衛隊、在日米軍。
さらに人間側に味方するUMAと妖怪だった。
人と化け物が入り乱れる、言葉では表しがたい光景。
川は血に染まり、麓の木々には死体が転がり、橋の上では銃弾と化け物が飛び交い、空の上では蝶の大群と戦闘ヘリが混じり合っていた。
自衛隊の指揮を取る鏑木は、部隊を前線から後退させようとしていた。
本来ならば化学兵器を積んだ装甲車が来た時点で、麓から離れていなければならない。
しかしあまりに戦いが激しい為に、下手に退くと前線を圧される危険があった。
米軍側は早く後退しろと促して来るが、とてもそんな事が出来る状況ではなかった。
現代兵器との戦いに慣れ始めたマルが、機敏な動きで猛威を振り撒いていたからだ。
恐ろしい毒を持つ槍を振り回し、人間も化け物も貫いていく。
そして戦車や戦闘ヘリが相手なら、マントから妖怪の思念を飛ばし、中にいる操縦士を呪い殺してしまう。
いかい装甲が厚かろうと、動かしているのは生身の人間。
一つでも妖怪の思念に憑りつかれると、おぞましい幻覚を見せられて発狂し、自殺してしまうのである。
マルがいる限りは一瞬たりとも油断できず、常に最大の戦力を持って押し返すしかなかった。
それに死者が増えれば増えるほど巨大な手に操られ、逆に敵を増やしてしまうことになる。
死人を出すことは戦力を欠くだけでなく、相手に兵隊を与えているようなものだった。
そして最大最強の敵であるミノリは、ただ笑ってそれを見ていた。
いったい何が目的で「こっち」に現れたのか?
鏑木はそれを探ろうとしていたが、彼女の笑みからは何も読み取れず、ただ恐怖を感じるだけだった。
この均衡状態はいつまで続くのか?
今は妖怪やUMAの加勢のおかげでどうにか均衡を保っているが、これがいつまで続くか分からない。
せめて敵側の強敵を一人でも討ち取らなければ、時間と共にこちらが不利になるだけだった
ミノリの分身などいくら倒しても意味はなく、彼女の本体か、もしくはマルか巨大な手を討ち取らなければならない。
そうしないと後退することも出来ず、化学兵器で殲滅する作戦を実行することも出来なかった。
「どうすりゃいい・・・・。」
戦局を睨みながら、誰をターゲットに絞るべきか考える。
ミノリの本体を討ち取れれば一番いいが、それは無理だと分かっていた。
彼女からは底知れぬ恐怖と力を感じていて、下手に手を出せば一気に均衡が崩れる可能性がある。それもこちら側に不利な状況に。
ならば狙うは、マルか巨大な手しかない。
しかし巨大な手の方は、いくら攻撃しても効かない。
暖簾に腕押しとばかりに、銃撃も砲弾もダメージを与えることが出来なかった。
残るはマルしかいないが、これもまた強敵である。
加勢に現れたウェンディゴをあっさりと葬り、戦車や戦闘ヘリでさえ歯が立たない。
マルが攻撃を仕掛ける度に、必ず誰かが死ぬような状況だった。
鏑木は唇を噛み、「どうすりゃいいんだ・・・・」と強敵たちを睨む。
するとその時、無線から連絡が入った。
「はい?」
こんな時に何の用だと苛立ち、思わず声が荒くなる。
『陸上自衛隊の鏑木一佐ですか?』
無線機から知らない男の声が聴こえ、顔をしかめる。
「そうですが・・・・あんたは?」
本部からの連絡ではないのかと、訝しく思う。
『公安の者です。』
「公安・・・・・、」
『山田と呼んで下さい。』
そう言って『今そちらへ向かっています』と言った。
『ニュースの中継を見ているんですが、かなり酷い状況のようですね?』
「だから何だ?公安が何でこっちに・・・・・、」
『SATを送り届けます。』
「は?SAT・・・・・?」
鏑木はオウム返しに尋ねる。
「なんでSATがこっちに・・・・・、」
『あれ、御存じありませんか?』
「何が?」
『SATの隊長の東山さんは、UMAと手を組んでるんですよ。きっと戦力になります。』
そう言われて、鏑木は「ああ!」と思い当たった。
「確か「向こう」で俺と部下と一緒に戦った・・・・・、」
『そうです。彼なら化け物との戦いにも慣れています。きっと力になってくれるでしょう。』
「応援はありがたいけどね、でも今はその程度で状況が変わるようなもんじゃないんだ。来たいなら来ればいいけど、死ぬのがオチだと思うぞ。」
『どうして?東山さんは優秀な人ですよ。』
「それは聞いてるけど、でもこの状況をニュースで見てるんだろう?だったらSATの応援なんて、何の足しにもならな・・・・・、」
そう言い返すと、無線機の向こうで『代われ』と声がした。
『SATの東山って者だ。』
「ああ、あんたが・・・・・、」
『どうして前線から下がらない?化学兵器が使えないぞ。』
「今の状況では下がれない。そんな事をしたら、敵が勢いづくだけだ。』
『しかし今のままじゃ死人が増えるだけだ。ここは前線から下がって、米軍にミサイルを撃たせろ。』
「だからそんな事をしたら・・・・・、」
『応援に向かってるのは俺たちだけじゃない。』
「何?」
『沢尻も向かってる。』
それを聞いた鏑木は「あの刑事が・・・・」と唸った。
『沢尻は緑川を追って行った。約束だと30分で帰るはずだったのに、まだ戻らない。』
「戻らないって・・・・なら緑川にやられたんじゃないのか?」
『いや、それはない。』
「どうして言い切れる?」
『俺と手を組んでるUMAの様子がおかしいんだ。ドッペルゲンガーって奴なんだが、こいつは真っ黒い影みたいな姿をしてる。でもさっきから赤く染まってやがるんだ。』
「・・・・意味が分からん。どういうことだ?」
『そっちで様子に変化はないか?化け物どもの色が変わってるとか。』
「・・・・・いや、ない・・・・・・・、」
そう言おうとして、「ん?」と顔をしかめた。
「・・・・・・いや、待て。よく見ると・・・・・加勢に現れた化け物の色が・・・・・、」
『赤くなってるか?』
「・・・・赤だけじゃない・・・・。青だったり緑だったり・・・・それに黄色だったり。ほんの少しだが、色が変わってる奴らがいる。」
『じゃあそいつらの中に、花弁はみえないか?』
「花びら?・・・・・いや、そういうのは見えないが・・・・、」
『俺の組んでるUMAには見えるんだよ。身体の中に、幾つもの赤い花弁が浮かんでるんだ。だから赤く見えてる。』
「そうなのか?で、それがどうしたんだ?そいつが見えるといいことでもあるのか?」
『良い事かどうかは分からんが、少なくとも沢尻が生きてるのは確かだ。』
「だからどうして?簡潔に説明しろ。」
『話すと長くなるんだが、あいつはケントからある物を預かっていてな。』
「ケント?・・・・ああ、墓場の主ってやつか。」
『そいつが沢尻に花を託したんだ。もしミノリが生き残ったら、この花を潰せと。逆にもし緑川が生き残ったら、この花を飲み込めと。』
「それで?」
『あの花を潰すと「向こう」は消滅する。だからもしかしたら沢尻があの花を潰したのかと思って、ドッペルゲンガーに「向こう」へ運んでもらったんだ。
そしたらまだ「向こう」はあった。ということは、沢尻はあの花を潰したわけじゃない。飲み込んだんだよ。』
「ならそのせいで、化け物の色が変わり始めたってのか?」
『だと思う。だから沢尻はまだ生きてる。あいつは最後の手段を使ってでも、緑川を倒そうとしてるんだ。』
「ああ・・・・・なるほど。そういうことか。」
鏑木は「やっと納得がいった」と頷いた。
「その花を飲み込むってことは、緑川が生き残った場合の話だ。沢尻は奴と戦い、そして殺されそうになった。だからケントから預かった花を飲み込んだってことだな?」
『ああ。もし殺されていたら、花を飲み込むなんて出来ないだろ?』
「だったら緑川を仕留めたってことか。」
『いや、そこまでは分からない。しかし沢尻が生きているのは確かだと思う。そしてもし生きていたら、あいつは必ず戻って来るはずだ。そう約束したからな。』
「じゃああんたらがこっちへ向かってるってことは、沢尻もここへ来るってことか・・・・。」
『あいつはずっと化け物と戦ってきた。俺たちのように特別な戦闘訓練を受けているわけでもないのに、今まで生き延びてきたんだ。
だからあいつなら、この状況をどうにかしてくれるかもしれない。』
そう言って一呼吸置き、『あいつは必ずそっちへ現れる。だから部隊を下がらせろ』と続けた。
『今のままじゃ死人が増えるだけだ。だから部隊を下げて、化学兵器を使え。ミノリの本体は無理かもしれないが、他の奴らは倒せるだろう。』
「しかし絶対に沢尻が来るという保証は・・・・・、」
『俺が保証する。』
「は?」
『あいつは生きてる。生きてるならこの状況を放っておくわけがない。だから必ず来る。』
「・・・・・・・・・・。」
『短い間だが、あいつと一緒にいてどういう人間か分かった。あいつは正義がどうこうとかじゃなくて、ある意味緑川と一緒なんだ。
自分がこうだと思ったら、決して道を曲げない。異常なほどの執着心で、目的を成し遂げようとするんだ。だから必ずやって来る。』
「・・・・・・・・・・。」
『緑川が殺人をやめないように、沢尻も自分の信念を曲げることはない。あいつは自分が間違ってると思うことは、何がなんでも叩きのめそうとするんだ。
それは正義の為じゃない。身も蓋もない言い方だが・・・・・頭がイカれてやがるんだ。』
そう言って『どうか俺の言うことを信じてほしい』と頼んだ。
『今のあいつは完全な化け物になっちまった。緑川と同じだ。だから空を飛んでそっちへ向かってると思う。きっと俺たちよりも早く着く。』
「完全な化け物って・・・・心まで化け物になったわけじゃないだろうな?」
『そっちは人間のままだ。だから奴が来ると信じて、前線から下がって・・・・・、』
「そうは言っても、そう簡単に決断は・・・・・、」
鏑木は声を荒げて言い返そうとする。しかし途中で口を噤み、『どうした?』と東山が尋ねた。
『まさか・・・・沢尻が来たか?』
期待を込めて尋ねると、しばらくの沈黙があった。
『おい、どうした?沢尻が来たのか?それとも新手でも現れたか?』
「・・・・・・どっちかっていうと・・・・後者だな。」
『なら新しい化け物が・・・・・、』
「緑川だ。」
『何?』
「死神が現れがやった・・・・・。」
鏑木は息を飲み、『もう切るぞ』と言った。
『あいつまで現れた以上、このまま後退することは出来ない。応援に来たいなら来ればいいが、こっちの邪魔だけはしてくれるなよ。』
そう言って無線を切り、突然現れた死神を睨んだ。
彼は麓の橋の向こうから現れ、ゆっくりと歩いて来る。
その手には首狩り刀を持っていて、刃渡りが三メートルにまで成長していた。
「あいつ・・・・・また人を殺しやがったのか・・・・。」
大きくなった首狩り刀を見て、鏑木は息を飲む。
警察署での出来事を思い出し、背筋にゾワリと悪寒が走った。
その時、無線が鳴って米軍から連絡が入る。
『あいつは敵か?』と聞かれて、すぐには答えられなかった。
なぜなら敵であることに間違いはないが、どういう目的でここに現れたのかが分からなかったからだ。
もし・・・もしもミノリを殺す為にやって来たのならば、下手に手を出さない方がいい。
化け物同士で潰し合ってくれた方が、こちらに有利になるからだ。
しかしもし人間に襲いかかってきた時、もはや戦いの均衡は保てなくなる。
鏑木は決断を迫られ、無線を握ったまま緑川を睨んでいた。
そしてその緑川は、じろじろと周りを見つめながら、橋の途中で足を止めた。
血を流す人間や化け物を見つめ、なぜかニコニコと笑っている。
『面白ろい。』
そう呟いたのを、鏑木は聴き逃さなかった。
銃撃や砲弾の音で声は聞こえないが、唇の動きから確かにそう呟いたのを見抜いた。
鏑木は無線機に向かって、あいつは敵だと伝える。
それもとびきり恐ろしい敵で、全力をもって叩くべきだと。
米軍は『了解した』と言い、緑川に狙いを定める。
戦車が、装甲車が、そして歩兵のライフルや携行ミサイルが彼に向けられる。
するとその動きを瞬時に察知して、緑川は舞い上がった。
大きな羽を動かし、そのままマルの方へ飛んでいく。
マルは緑川に気づいておらず、歩兵や妖怪と戦っている。
するとミノリが『マル!』と叫んだ。
マルは後ろを振り向き、すぐ目の前に緑川が迫っているのに気づいた。
そして虫殺しの槍を振り、毒液をまき散らした。
緑川は右へ旋回して、見事に毒液をかわす。
そして首狩り刀を鎖鎌のように振り回し、マルに向かって投げた。
マルは槍でそれを受け止めようとするが、途中で首狩り刀の軌道が変わった。
緑川が巧に髑髏の数珠をさばき、刀の動きを変えたのだ。
マルはその動きについていけず、左腕を斬り落とされてしまった。
『・・・・・・・・・・・。』
マルは緑川を睨み、白いマントをいっぱいに広げる。
すると無数の妖怪の思念が彼に襲いかかった。
ガシャドクロ、牛鬼、ぬらりひょんにテケテケ、そして河童や件など、妖怪の思念が群れを成して襲いかかる。
近くにいた妖怪や人間は、その巻き添えを喰らって呪い殺されていく。
マントから放たれたおぞましい思念は、マルの周りを地獄絵図のように変えていった。
そんな恐ろしい思念たちが緑川に襲いかかる。
しかし彼は冷静な顔のまま、逃げることも防ぐこともしなかった。
ただ棒立ちのまま妖怪の思念を受け止めたのだ。
多くの思念が緑川に憑りつき、この世のものとも思えぬ幻覚を見せて、死に誘おうとする。
身体の隅々まで入り、身体まで奪おうとした。
しかし妖怪の思念が纏わりついた瞬間、首狩り刀を震え出した。
まるで赤子のような鳴き声を上げながら、数珠繋ぎの髑髏が血の涙を流す。
そしてプチプチと音を立てながら外れていって、巨大な髑髏へと変わった。
数十個もの巨大な髑髏が口を開け、断末魔の叫びをあげる。
そして群がってきた妖怪の思念を、逆に呪い殺していった。
『オギャアアアアアアアア!!』
『ギオオオオオオオオオオオオ・・・・・。』
首狩り刀の髑髏は人間の思念である。緑川によって無残に殺された、憎しみと怒りを抱いた思念である。
それらが巨大な髑髏に変わり、妖怪の思念とぶつかる。
地獄絵図はさらに地獄のように変わり、思念同士がぶつかるその場所は、誰も近づくことが出来なかった。
鏑木はごくりと唾を飲み、恐れをなしてその光景を見ていた。
「なんなんだ・・・・こいつら・・・・・、」
敵は化け物である。それは分かっている。
しかし死者の魂ともいうべき思念が飛び交い、殺し合い、喰らい合う光景は見るに堪えなかった。
その光景も、そして叫び声も、腹の底から恐怖を覚えるものである。
ただこの景色を見ているだけで、この叫びを聞いているだけで、魂が抜かれてしまいそうなほど恐ろしかった。
それは他の人間も一緒で、自衛隊も米軍も度胆を抜かれていた。
戦うことも忘れ、地獄のようなその光景に目を奪われる。
妖怪もUMAも、そして巨大な手さえも動きを止めていた。
ただしミノリだけは別で、興味深そうにそれを見つめている。
人間の思念と妖怪の思念が殺し合う光景を、のほほんとした顔で楽しんでいた。
そして何かに気づき、『あ・・・・・』と口を押えた。
思念同士は激しく争っていて、マルは負けじとさらに思念を放つ。
しかしその時、突然マルの後ろに緑川が現れた。
陽炎のようにゆっくりと現れ、マルに向かって首狩り刀を振る。
ミノリは『後ろ!』と叫んだが、時すでに遅し。
首狩り刀はマルの首を一閃し、頭を斬り落としていた。
『・・・・・・・・・!』
マルの頭が、驚きの目で緑川を見つめる。
すると緑川はニコリと微笑み、ツバメ返しのようにVの字に刀を振った。
マルの頭は三つに分断され、そのまま地面へ落ちていく。
緑川も地面に降り立ち、マルの頭を思い切り踏みつける。
そして虫でも殺すように、グリグリとすり潰した。
しかしまだ胴体の方は立っていて、槍を振って襲いかかる。
緑川は素手で槍を受け止めると、そのまま腕を切り落とした。
そして虫殺しの槍を奪い取り、マルの心臓に突き刺した。
毒液がドクドクと注がれて、マルの胴体は一瞬にしてヘドロへと変わった。
「・・・・・・・・・・。」
鏑木は口を開けたまま、言葉を失う。
あれほど脅威をふるったマルが、いとも簡単に殺されてしまった。
開いた口は塞がらず、それは他の人間も一緒だった。
マルが死んだ傍では、まだ思念同士が殺し合っている。
しかし時間が経つにつれて薄くなり、やがて風に吹かれて消えてしまった。
辺りはシンと静まり返り、誰もが立ち尽くす。
緑川はニコリと笑って、『もっと潰し合えよ』と言った。
『お前らどうせ作りもんなんだ。その辺の石ころと変わらないだろ?』
そう言って宙へ舞い上がり、首狩り刀を振り回した。
それは立ち尽くしていた人間や化け物に襲いかかり、ほんのひと振りで幾つもの命が失われていく。
そして死んだ人間の数だけ髑髏が増えていった。
すると黙って見ていた米軍が、緑川に向けて攻撃を始めた。
戦車の大砲を向け、轟音を響かせて火を吹く。
緑川は大砲が発射される前に逃げていて、しかもその手には虫殺しの槍を握っていた。
米軍は一斉に射撃を始め、緑川を撃ち落とそうとする。
しかし彼は蝶の大群の中に紛れ込み、それを盾とした。
蝶は銃弾や砲弾を浴びて、粉々に吹き飛ぶ。緑川はそれを見て、ケラケラ笑いながら逃げていく。
そして槍を振り回して、辺り一面に毒液をまき散らした。
触れただけで命を奪う恐ろしい毒が、雨のように降り注いだ。
米軍は歩兵を後退させ、戦車や装甲車が盾となって受け止める。
「後退!後退!」
鏑木は大声で指示を出し、部隊を前線から退かせる。
なぜなら前に出てきた装甲車の一群には、化学兵器を搭載した車両があったからだ。
今このタイミングで退かなければ、緑川はさらに暴れ、ミサイルを撃つ機会さえ奪われる。
自衛隊は急いで後退し、歩兵は防毒マスクを着用した。
米軍も歩兵はマスクを被り、自衛隊と同じように下がっていく。
前線にいるのは戦車と装甲車、それに戦闘ヘリだけとなって、一斉に攻撃を始めた。
緑川は嵐のような銃弾や砲弾を掻い潜り、蝶の大群を盾としながらミノリの本体に迫る。
虫殺しの槍を逆手に持ち、狙いをつけて投げ飛ばした。
ミノリは平然と構えていて、サッと槍をかわして見せる。
そして巨大な蝶の化け物に変身し、羽から骨切り刀を取り出した。
それを二本に分離させ、両手に持って緑川を迎え撃つ。
『あんたアチェを殺したわね?』
そう言って骨切り刀を振り、緑川を牽制した。
『あんたの中から王の気配を感じる。』
『だから?』
『それちょうだい。』
『なんで?』
『欲しいからよ。王を全部吸い取って、私はこの星から飛び去る。』
『飛び去ってどうするの?きっと宇宙旅行なんかすぐに飽きるぞ?』
『どこか別の星に住むわ。ここにはもう興味ない。』
『じゃああげない。俺以外の誰かが喜ぶことなんてしたくないから。』
『あははは!あんた私と一緒!自分のことしか考えてないわ。』
『一緒じゃないよ。だって俺は生きてるもの。でもお前は作りもんだろ?プラモや人形と何が違うんだよカス。』
緑川は器用に旋回して、二本の骨切り刀を掻い潜る。
そして懐に入り込むと、刀を振ると見せかけて銃を撃った。
それはミノリの羽を貫き、小さな穴を空ける。
『無駄よ、そんなことしたって。』
『いや、無駄じゃない。確かめたいことがあったから。』
『ん?何を?』
『お前も毒を持ってるのかなと思ってさ。』
緑川は穴の空いた羽を睨み、そこにキラキラと光る粉が舞うのを見つめた。
それをわざと吸い込むと、途端に眠気が押し寄せた。
『やっぱり・・・・鱗粉の毒が・・・・、』
『あ、バレた?』
『毒を持ってるだろうとは思ってたけど、どういう毒か知りたかった。お前のやつは眠くなるんだな。』
『便利でしょ?気に入った男がいたら、これで眠らせて手籠めにしちゃうの。』
『虫の性欲なんて知らないよ、気持ち悪い。』
『今はあんたも虫でしょ?しかも汚ならしい蛾じゃない。』
二人は罵り合い、聴くのも絶えない言葉を次々に発していく。
そして口喧嘩をしながら斬り合い、お互いに仕留める隙を窺っていた。
『骨切り刀じゃ分が悪いぞ?』
そう言って首狩り刀を振り回し、あえて骨切り刀を狙う。
この刀さえ壊してしまえば、ミノリは力は半減するからだ。
しかしミノリは慣れた手つきで首狩り刀を捌いていく。
上手く峰の部分を叩き落とし、決して刃の部分に触れないようにしていた。
『悪いけどね、首狩り刀との戦いは慣れてるのよ。それに弱点も知ってる。』
そう言って数珠繋ぎの髑髏を狙おうとした。
緑川はサッと刀を引き、その一撃をかわす。
ミノリはしつこく髑髏を狙ってきて、幾つかの髑髏を切り払った。
小さな髑髏が真っ二つに割れ、その分だけ首狩り刀が短くなる。
『ね?』
『うるさいな、知ってるよそんなの。』
緑川はそれでも骨切り刀を狙い、尖った先端を切り落とした。
『お前が首狩り刀との戦いに慣れてるなんて分かってるよ。だってアチェやケントと戦ってたんだろ?』
『あの二人は手強かったわ。あんたなんかよりもずっとね。』
『そりゃ作りもんだもの。壊れることはあっても、死ぬことはないからビビらないだろ。』
『そうじゃなくて、知性と勇気を備えていたからよ。悪いけどあんたにはどっちもない。ただの殺戮者ってだけ。私の敵じゃないわ。』
『じゃあ殺してみろ。』
『あはは!何その安っぽい挑発。ほんと子供ね。アチェが愛想を尽かすのも分かるわ。』
ミノリは巧みに二本の刀を振り、緑川を追い詰めていく。
首狩り刀を上手く弾きながら、空いた手で殴り飛ばした。
緑川は体勢を崩し、後ろへ落ちていく。
ミノリは追撃とばかりに羽で叩き、川の中へと落とした。
大きな羽の威力は絶大で、緑川は全身の骨が折れるほどの衝撃を受けた。
しかしすぐに川から立ち上がり、ミノリを見上げた。
『やたらと力があるな・・・・。正面からじゃ勝てないかも。』
『どうやったって勝てないわよ、あんたじゃ。』
そう言って何十匹もの分身を解き放ち、緑川を襲わせた。
それと同時に羽をはばたき、睡眠作用のある鱗粉をまき散らした。
青く光る粉が辺りに広がり、それを吸い込んだ者は眠ってしまう。
ただしミノリの分身はその鱗粉を受けても眠らず、一斉に緑川に飛びかかってきた。
緑川は呼吸を止め、水の中に逃げ込む。
『馬鹿。』
ミノリはクスクスと笑い、『サル』と呼んだ。
『人間はもうほっといていいわ。緑川にトドメを。』
そう言うと、巨大な手が川の方へと飛んで行った。

グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十六話 共闘宣言(2)

  • 2016.04.05 Tuesday
  • 10:42
JUGEMテーマ:自作小説
『緑川。』
名前を呼ぶと、緑川はヒクヒクと触覚を動かした。
『何をしてる?』
『展示物を見てる。』
『見りゃ分かる。それは・・・・UFOの破片と書いてあるな?』
台に置かれたプレートを見てそう尋ねる。
『ここは自治体が運営してるはずだ。UFOの破片だなんてオカルト臭いもんをよく置いてるな。』
『いや、これは本物の破片だよ。』
『まさか「墓場の王」の一部だなんて言わないよな?』
『さすがにそれはないけどさ・・・・でもこのUFOの持ち主を知ってるよ。』
『ほう、それは誰だ?』
『フラッドウッズモンスター。』
『フラッド・・・・・・・ああ、あの丸い顔をした奴か。』
『俺さ・・・・あいつに利己主義者って言われたよ。』
『当たってるじゃないか。お前ほど自分の事しか考えてない奴はいないぞ。』
『でもってさ、俺は社会の寄生虫みたいに言われた。』
『俺に言わせれば寄生虫以下だな。お前は疫病を振り撒く病原菌と一緒だ。』
『そっちの方がいいよ。寄生虫ってのはさすがにな・・・・腹が立つから。』
そう言って破片を床に落とし、思い切り踏みつけた。
しかしビクともせず、硬い音が響くだけだった。
『さすがは本物のUFO。めちゃくちゃ硬い。骨切り刀でもないと斬れないな。』
『こいつでもいけるかもしれないぞ?』
『ああ、肉挽き刀。まあ出来るかもね。』
興味も無さそうに言って、その破片を蹴り飛ばす。
それは窓ガラスを割って、外の芝生へと落ちていった。
『緑川。』
『ん?』
『ここへ来た目的はなんだ?俺はてっきり亀池山に向かったと思ってた。』
『ならそっちへ行けば良かったじゃん。お前こそどうしてここにいんの?』
『さあな。気がつけばここへ来ていた。』
『どうせ「こっち」の端っこへ行ったんだろ?』
『そうだ。妙に気になってな。』
『だったら俺と一緒じゃん。』
『お前もここが気になったと?』
『うん、なんか悪い予感がしたんだよね。だから来てみた。』
『悪い予感なのに来てみたのか?』
『俺にとって良くない事があるなら、さっさと潰しとこうと思ってさ。そしたら案の定、この町に妖怪やUMAがわんさか集まってた。しかもなんか俺に恨みを持ってるみたいでさ。』
『お前はペケを殺したからな。妖怪から恨みを買うのは当然だ。』
『妖怪だけじゃなくて、UMAも敵意を持ってる感じだったぞ。』
『妖怪と同盟でも組んだんじゃないか?あいつらにとっちゃ、お前もミノリも敵でしかない。なら共闘して倒そうとしてるんだろう。』
『なるほど・・・・だからここに嫌な予感を感じてたのか。』
『妖怪たちはペケを崇拝してるよ。奴の首をかかげて、士気を高めていた。』
『へえ、化け物でもそういう人間臭いことするんだな。』
『俺も遺体の一部をもらった。』
そう言ってベルトに差した骨を見せると、『それペケの?』と首を傾げた。
『おそらくな。きっと仲間の証なんだろう。』
『仲間?』
『人間と化け物の。』
『なんで?』
『さっきも言ったが、奴らはミノリやお前を倒そうとしてる。だから人間と手を組むことにしたんだろう。』
『ああ、なるほど・・・・俺もミノリも共通の敵だからか?』
『そうだ。』
『ならお前は、また俺を殺しに来たってこと?』
『それ以外にお前を追う理由がない。』
『しつこいなやっぱ。』
『それが刑事だ。』
『なんか知らないけど怪我まで治ってるし。』
『いつの間にか治っていた。理由は分からんが、舌の毒針も再生してるぞ。』
そう言って口を開けると、そこには鋭い針が生えていた。
『お前がつけた傷はもう癒えた。今度こそ仕留める。』
地面を蹴り、タックルをかます勢いで間合いを詰める。
緑川は咄嗟に後ろへ退き、鱗粉を撒こうとした。
『させるか!』
沢尻は銃を抜いて、二発の弾丸を放つ。緑川は慌てて回避し、『弾切れなんじゃないの?』と睨んだ。
『嘘に決まってるだろ!』
『お前・・・・・・、』
狼狽える緑川に向かって、沢尻はタックルをかます。
そしてレスリングのようにそのまま床に押し倒した。
『敵の言うことを信じるなんて、意外とお人好しなんだ。』
そう言って馬乗りになり、口の中に銃を突っ込んだ。
『ごッ・・・・・、』
『終わりだ。』
沢尻は引き金を引く。しかしその瞬間に銃を持つ腕に痛みが走り、銃口が口の中から逸れてしまった。
弾は緑川の首をかすめ、床に穴を空ける。
『またこれか・・・・・、』
痛んだ腕を見てみると、そこには匕首が刺さっていた。
『お前が死ねよ。』
緑川は舌の毒針を伸ばす。
沢尻はそれを掴むと、肉挽き刀を当てて切り落とそうとした。
しかしまた匕首が飛んできて、咄嗟に刀で受け止めた。
『馬鹿。』
緑川はニヤリと笑い、するりと匕首をすり抜けさせる。そしてそのまま沢尻の首を狙った。
『馬鹿はお前だ。』
沢尻はこの動きを読んでいたように、肉挽き刀から手を放して匕首を受け止めた。
『素手で・・・・・、』
『見事なもんだろ?ヤクザのドスもこうやって止めたことがある。』
匕首を握りしめたまま、刀身に銃を当てる。そして引き金を引くと、銃が火を吹いて匕首をへし折った。
正真正銘最後の弾丸が発射され、ポイと銃を投げ捨てる。
緑川は舌打ちをして、『いつまで乗ってんだよホモ野郎』と後頭部を蹴り飛ばした。
『ぐッ・・・・・、』
沢尻は前のめりに倒れるが、すぐに起き上がる。
すると目の前に銃を突き付けられて、咄嗟に首を捻った。
それと同時に銃口が火を吹き、沢尻の顔をかすめる。
右側の頬が抉られ、鮮血が飛び散った。
『お返し。』
緑川はニコリと笑い、素早く首狩り刀を振る。
沢尻は肉挽き刀で受け止めるが、バランスを崩してうつぶせに倒れ込んだ。
その瞬間、首筋に殺気を感じ、身を切るような悪寒が走った。
振り向くと、すぐ目の前に首狩り刀が迫っていた。もはやかわす余裕はない。
このまま殺されるのだと諦めた時、何かが窓ガラスを突き破って、緑川に体当たりをした。
『・・・・・・・ごほッ・・・・、』
緑川は吹き飛ばされ、壁の本棚を突き破る。
沢尻は呆然としながら、「何だ・・・?」」と身を起こした。すると窓ガラスからまた何かが入ってきた。
それは白く細長い生き物で、身体の脇に無数の羽が生えていた。
そして少し遅れてから、黒くて丸いボウリング玉のような物体や、ゆらゆらと動く煙が入って来た。
『こいつら・・・・・さっき集まってた化け物か?』
中に入ってきたのはスカイフィッシュとツチノコ、そして煙々羅だった。
緑川はスカイフィッシュの体当たりを受けて吹き飛ばされ、壁にめり込んで悶絶していた。
脇腹を押さえ、苦しそうにえづいている。
そこへ妖怪やUMAが襲いかかり、緑川は慌てて逃げ出した。
沢尻の上を飛び抜け、出口へ向かおうとする。
しかし外には、巨大な髑髏の妖怪ガシャドクロがいて、出口を塞いでいた。
緑川は首狩り刀を振って殺そうとするが、またスカイフィッシュの体当たりを受けて吹き飛ばされる。
ガシャドクロの肋骨にぶつかって、苦しそうに身を起こした。
『お前ら・・・・・、』
歯を食いしばりながら立ち上がると、頭上からガシャドクロの拳が振り下ろされた。
それを間一髪かわすと、今度は足に何かが噛みついてきた。
『・・・・・・・・・・・。』
目を向けると、それは人面犬だった。
中年の男の顔をした犬が、必死に歯を立てている。
それに目を奪われていると、今度はどこからか冷たい風が吹いてきた。
辺りに白い霧が立ち込め、緑川はまさかと思って冷気の先を睨んだ。
すると遠く離れた場所から、ウェンディゴが迫っていた。
このままではまずいと思い、慌てて逃げようとする。すると今度は地面が割れて、巨大な目が現れた。
『なッ・・・・・・、』
驚いて後ずさると、地面はさらに割れて、牛の頭をした巨大な蜘蛛が現れた。
それは牛鬼という妖怪で、ウェンディゴに引けを取らないほど大きい。
『・・・・・・・・・・・・・。』
緑川は息を飲み、咄嗟に鱗粉をまき散らそうとした。
しかしその時、背筋に悪寒を感じてしゃがみこんだ。
次の瞬間、緑川の頭上を肉挽き刀が駆け抜ける。そして沢尻の『チッ』という舌打ちが聴こえた。
『相変わらず勘がいいな。致命傷になるような攻撃には反応しやがる。』
『・・・・・これ全部お前が呼んだのか?』
『知らん。しかし援護に来てくれたのは間違いなさそうだ。』
そう言って周りの妖怪やUMAに目を向け、『これのおかげかな?』とペケの骨を振った。
『仲間の証だ。』
『・・・・なら俺も骨を拾っとくんだったな。』
『無駄だよ、そんなことしたって誰もをお前を仲間だなんて思わない。』
沢尻は肉挽き刀を振り、緑川の頭上に振り下ろした。
それを首狩り刀で受け止める緑川だったが、ガシャドクロに捕まれて、身動きを封じられてしまった。
『おい!』
『無駄だ、もう逃げられんさ。』
チャンスとばかりに、沢尻はまた刀を振る。そこへウェンディゴも駆けて来て、緑川は窮地に陥った。
『うざ・・・・・・。』
舌打ちをしながら、面倒くさそうに顔をしかめる。
そして次の瞬間、緑川は忽然と姿を消した。
首狩り刀が地面に落ち、沢尻の足元でカランと鳴る。
『消えた・・・・。』
さっきまでガシャドクロの手に握られていたのに、今はどこにもいない。
『まさか「向こう」へ逃げたのか?』
沢尻は焦るが、それはあり得ないと思い直す。
『いや、「こっち」から「向こう」へ行くには、亀池山からじゃないと無理だ。だったらどこへ・・・・・、』
触覚を立てながら気配を探っていると、頭上から空気の動きを感じた。
見上げると、そこには虫のように小さい何かが飛んでいた。
『危なかった。死んじゃうとこだったよ。』
『緑川・・・・・・。』
『大きさを変えられるって便利だよね?』
そう言って笑う緑川は、人間の手の平ほどの大きさに縮んでいた。
そして次の瞬間、巨大な蛾の化け物に変身した。
『・・・・・・・・・・・。』
驚きのあまり、沢尻は言葉を失う。
緑川は『ビックリしただろ?』と笑い、鱗粉をまき散らした。
『まずい・・・・・!』
沢尻はすぐに口元を覆ったが、鱗粉は大量に撒かれていた。
辺り一面にキラキラと降り注ぎ、それを吸い込んだ者は激しい嘔吐に見舞われる。
妖怪やUMAの大半が鱗粉にやられ、身を捩ってえづき出した。
緑川は元の姿に戻り、サッと手をかざす。
するとガシャドクロの傍に落ちていた首狩り刀が飛んできて、すっぽりとその手に収まった。
『とりあえずみんな死ね。沢尻もな。』
そう言って凄まじい速さで宙を駆け巡り、縦横無尽に刀を振り回した。
その刃は豆腐のように化け物を切り裂き、荒れ狂う死神の鎌となって命を奪っていく。
鱗粉の毒が利かない化け物たちも、その素早い太刀から逃れる術はなく、蟻が踏み潰されるように次々と死んでいった。
形勢は一気に逆転し、辺りは虐殺ショーが繰り広げられる。
頭が落ち、腕が落ち、胴体が割られて臓物が飛び出す。
その刃は沢尻にも襲いかかるが、どうにか肉挽き刀で受け止めた。
『ぐッ・・・・・、』
『ストーカーの骨なんか捨てちまえよ。両手使わないと死ぬぞ。』
そう言って鎖鎌のように刀を振り回し、目に映るものは全て切り払った。
『オゴオオオオオオオオオ!』
嘔吐していたウェンディゴが、怒り狂って強烈な電気を放つ。
しかしあっさりと足を切り落とされて、その場に崩れた。
『ゴオオオオオオオ!』
それでもまだ戦う気は衰えず、口から強烈な冷気をまき散らした。
すると緑川は『アホ』と笑い、空高くに逃げていった。
冷気は辺り一面を覆い、極寒のブリザードのように吹き荒れる。
そのせいで妖怪やUMAのほとんどが凍り付き、命を落としていった。
残ったのは大きくて耐力のある化け物だけで、ガシャドクロと牛鬼のみだった。
『デカブツは良い的だよ。』
冷気を受けて動きが鈍くなったところへ、首狩り刀を一閃させる。
ガシャドクロは頭蓋骨を割られ、牛鬼は頭と胴体が切り離される。
どちらも断末魔の叫びをあげて、そのまま崩れていった。
『ウゴオウオオオオオオオオ!』
ウェンディゴはさらに怒り狂って冷気を吐き出すが、足がないのでは思うように動けない。
そして緑川にあっさりと背後を取られて、頭に刀を突き刺された。
『ゴオオオオオオオ・・・・・・・、』
『図体だけの馬鹿。』
そう言ってグリグリと刀を回し、最後は横一閃に薙ぎ払う。
ウェンディゴの脳はぐちゃぐちゃにシェイクされ、頭の上半分が落ちていく。
そのまま後ろへ倒れていき、シェイクされた脳をばら撒きながら絶命していった。
『・・・・・・・・・・・・。』
沢尻は建物に中に避難していて、どうにか冷気の直撃は免れていた。
しかしそれでも身体の半分が凍り付き、寒さで動くことが出来なかった。
そこへ緑川がやって来て、『ははは』と馬鹿にしたように笑う。
『あのまま凍死してた方が楽だったのに。』
そう言いながら近づいて、頭を蹴り飛ばした。
『ぐがッ・・・・・・・、』
『まあよく頑張ったと思うよ。』
『・・・・緑・・・・・川・・・・・・、』
『腹の子供はもらうな。』
『・・・・・・・・・・・・・。』
『この身体だっていつか死ぬわけだし、その時は子供の身体を乗っ取らなきゃいけないから。』
『クズめ・・・・・・、』
沢尻は悔しそうに吐き捨てるが、緑川は『でも俺に子供を育てさせるつもりだったんだろ?』と笑った。
『お前は俺の目的に気づいてた。いつかこの身体に寿命が来た時、子供の身体を乗っ取るつもりだって。』
『・・・ああ・・・・お前みたいなクズなら・・・・そうするだろうと思ってな・・・・・、』
『でもそれはお前にとっても好都合なことだった。だって子供の身体を乗っ取るとなると、俺が育てなきゃならないからな。
そして子供が大きくなった時、俺を倒してくれるだろうと期待してたんだろ?』
『この子は・・・・アチェの血も引いてる・・・・・。なら・・・・彼女の意志を受け継いで・・・・お前を殺してくれるかもしれない・・・・・。』
『なるほどね。でもそうはならない。俺好みに育てるからさ。そして立派に成長したら、身体だけ頂く。』
『・・・・・・・・・・・・・。』
『だから子供はちょうだいね。』
そう言って服を引き千切り、腹に刃を当てた。
それをゆっくりと手前に引くと、いとも簡単に腹が裂けてしまった。
『うごうあああああ・・・・・・、』
『・・・・・小さい卵が三つあるな。まあ一つでいいや。三人も孵ったら面倒だし。』
腹に手を入れ、強引に卵を引きずり出す。
『うごおおおおおおおあああああああ!』
ブチブチと嫌な音を立て、腹の中から卵をもぎ取った。
緑川はじっとそれを見つめ、『これでいいや』と一つだけ飲み込んだ。
残りの分は床に投げ捨て、グチャリと踏み潰してしまう。
グリグリと足を動かし、虫でも殺すようにすり潰した。
『み・・・・緑・・・・・、』
『お前はもういらない。さよなら。』
そう言って首を刎ねようとした時、また窓からスカイフィッシュが飛んで来た。
『もういいから。』
緑川は軽く刀を振るい、スカイフィッシュを切り落とす。
次々に妖怪やUMAが入って来るが、いとも簡単に切り裂いていった。
『雑魚が群れても雑魚だから。0にいくら掛けても0にしかならないんだよ。』
切り落としたツチノコやスカイフィッシュを踏み潰し、沢尻の首に刀を当てる。
『・・・・・・・・・・・。』
『凄い目で睨むね。死ぬのが怖い?』
『・・・・・クソ野郎・・・・・。』
『威勢がいいね。もっといたぶってやりたいけど、でも長居は出来ない。』
そう言って窓の外へ目をやる。
『まだ化け物がやって来る音が聴こえる。敵にはならないけど鬱陶しいから、さっさと引き上げなきゃ。』
『・・・・お前は死ぬ。絶対にお前の思い通りにはならない。』
『かもね。でもそうなったらなったで仕方ないよ。失敗を怖がってちゃ何も出来ないからさ。』
ニコリと言って、沢尻の首に当てた刀を引く。
『緑川・・・・・お前は必ず・・・・・・、』
首狩り刀は何の抵抗もなく食い込み、そのまま首を切って落とした。
『か・・・らず・・・・・自分の・・・・こど・・・・も・・・に・・・・・・、』
首を落とされた沢尻は、パクパクと口を動かす。
頭にだけになってもしばらく生きていたが、やがて糸の切れた人形のように動かなくなってしまった。
緑川は刀を構え、さらに細切れにしようとする。
徹底的に破壊して、万が一でも蘇生する可能性を潰したかった。
しかし割れた窓から二体のドッペルゲンガーが入ってきて、両手を広げて襲いかかってきた。
緑川は首狩り刀で斬りつけ、あっという間に一体を倒した。
残ったドッペルゲンガーは緑川に化け、肉挽き刀を拾って斬りかかってくる。
『その刀貰おうと思ってたのに・・・・、』
先に奪われてしまい、悔しそうに舌打ちをする。
そこへ続々とUMAや妖怪が迫ってくる気配を感じて、すぐに建物から逃げ出した。
宙へ舞い上がり、空から襲って来る巨大ムカデやモスマンを切り払う。
『まあ卵は頂いたしいいか。最悪沢尻が生き返っても、どうせ何も出来ないだろうし。』
そう言って襲い掛かって来る化け物を切り伏せ、隙を見て退散した。
UMAや妖怪たちは大声で喚き、緑川を追い払ったことに歓喜する。
やがて河童モドキもやって来て、じっと沢尻の死体を見つめた。
『・・・・・・・・・・・・。』
河童モドキは、沢尻の手からペケの骨を取り上げる。しばらくその骨を見つめ、おもむろに沢尻の首に当てた。
それを斬られた首の中に、強引に押し込んでいく。
首からはわずかに骨がはみ出ていて、彼の遺体は異様な姿になった。
河童モドキは『グェ』と鳴き、床に転がった彼の頭を拾う。
そして首から突き出たペケの骨の上に、しっかりと挿し込んだ。
『グェ。』
河童モドキが鳴くと、ドッペルゲンガーが近くへやって来た。そしてウネウネと動きながら、沢尻の体内へと入り込んでいった。
沢尻の首が黒い影に覆われ、切断された部分が繋がっていく。
そして妖怪たちに抱えられて、天文台の外へと出された。
『グェ』
河童モドキは、空を見上げて大きく鳴く。
その空は真っ黒に染まっていて、月のない夜のように闇が広がっている。
しかし闇に覆われながらも、なぜか明るい。それは空の上から、黒い光が射しているせいだった。
妖怪たちは奇声を上げ、UMAも獣のように鳴く。
その声は、まるで神を讃える歌であり、畏敬の念を捧げる祈りのようでもあった。
すると首を落とされたはずの沢尻が、ゆっくりと目を開けた。
まるで黒い光に命を吹き込まれるように、この世へと戻ってきた。
そして不思議なことに、UMAとなっていた身体が人間に戻っていた。
触覚と羽は消え、真っ白な体毛も抜け落ち、目も複眼ではなくなっている。
「・・・・・・・・・・。」
沢尻は身を起こし、元に戻った自分の姿を見て、「なんだ・・・・?」と呟く。
そして頭上から黒い光が射していることに気づき、目を細めながら見上げた。
「・・・・・・・・・・・・。」
黒い光は空から射していて、その中心に真っ黒な球体がある。
・・・・いや、正確には、黒い炎で燃え盛る球体が浮かんでいた。
それはまるで、暗闇の中の太陽であり、見ているだけで鳥肌が立つほど恐ろしかった。
「・・・・・・UFO?それとも・・・・・、」
謎の黒い太陽は、真夏の太陽のように激しく燃え盛る。
しかしそこから放たれる光は、夏の陽射しのように暖くはない。
冬の雨空のように、冷たくて陰鬱な光だった。
沢尻は立ち上がり、黒い太陽に手を伸ばす。その時、脳裏にペケの顔が浮かんで、こう呟いた。
『・・・・・花を・・・・・・。』
次の瞬間、黒い太陽は消え去り、空は青に戻っていた。
妖怪とUMAはうるさいほど奇声を上げ、空に向かって手を伸ばしている。
沢尻は繋がった首を撫で、自分が生きていることを実感する。
そして銃のホルダーに手を伸ばし、中から一輪の花を取り出した。
花弁は真っ赤に色づき、血のような真紅の汁が垂れていた。

グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十五話 共闘宣言(1)

  • 2016.04.04 Monday
  • 13:25
JUGEMテーマ:自作小説
怪我を負った沢尻は、痛みを我慢しながら空を飛んでいた。
緑川を追いかけて「こっち」へ来たものの、すっかり見失ってしまった。
彼にやられた傷はまだ熱を持っていて、羽を動かすだけでも激痛が走る。
しかし少しずつではあるが、血の流れは治まっていた。
時間が経てばこのまま治るだろうと思ったが、緑川はそれまで待ってくれない。
いつどこから襲って来るか分からず、どうにか先に見つけ出す必要があった。
『・・・・あいつの行きそうな場所はどこだ?ミノリのところか?それとも山へ戻ったか?・・・・いや、また人の首を落としに行った可能性も・・・・・、』
行先が定まらず、フラフラと飛び続ける。
「こっち」の景色は「向こう」と変わらないが、妙に色が霞んで見える。
建物も人も、それに景色さえも、色褪せた写真のようだった。
『・・・「こっち」の街へ来るのは初めてだ・・・・。こんな風に景色が見えるのか・・・・。』
亀池山で戦っている時は、景色を眺めている余裕などなかった。
しかしこうしてじっと眺めていると、確かに色が霞んでいるのが分かる。
『そもそも「こっち」っていったい何なんだ?「墓場の王」が生み出した世界らしいが、どういう構造になってるんだ?』
アチェからは詳しく「こっち」の世界のことを聞かされていない。
もっぱら緑川や「こっち」の出来事ばかりを聞かされていた。
しかしそもそも「こっち」の世界とはどういう場所なのか?
それも知らずに今まで戦っていたのかと思うと、なんだか滑稽な気分になってきた。
『この世界はどこまで続いているんだ?まさか「向こう」と同じってことはないよな・・・・。
もしそうだとしたら、王は地球と同じ大きさの世界をもう一つ作りだしていることになる。それはいくら何でも・・・・、』
そう呟きながら、色が霞んだ景色を飛んで行く。
『緑川はアチェの脳を吸った。それは王の脳を吸ったのと同じことだ。それなら「こっち」の世界にも詳しいはずだ。
なら俺は、奴の庭で戦ってるようなもんだ。不利だな・・・・・。』
もしかしたら、緑川はこっちに気づいていて、すでにどこかから狙っているかもしれない。
しかしいくら触覚を立てても、何も感じない。五感を集中させても気配すら掴めなかった。
『近くにいないことは間違いないな。ならやっぱり山の方へ向かったのか・・・・・?』
切られた傷の痛みを我慢しながら、亀池山のある方角を睨む。
『本気で飛べば、ここからだと10分くらいか。ここは一かバチか、亀池山に向かうしかないか。』
霞んだ街並みを見下ろしながら、亀池山へ飛んで行く。
するとその時、ふと違和感を覚えた。
『なんだこれ・・・・・、』
そう呟きながら、元の場所に戻ってみる。
『・・・・・・・・・・・。』
沢尻は違和感を抱えたまま、また山の方へと向かった。
『おかしい・・・・どなってんだこれ?』
山へ近づけば近づくほど、景色の色が濃くなっていく。
さっきは霞んで見えたのに、今はクッキリと色が浮かび上がっていた。
『どうして色が濃くなるんだ?』
不思議に思いながら、さらに山へと近づく。色はじょじょに強さを増し、やがて霞みは完全になくなった。
『・・・・・・ああ、そういうことか。』
沢尻は頷き、『色が薄くなるほど「こっち」の限界に来てるんだ』と呟いた。
「亀池山から離れれば離れるほど、「こっち」の景色は薄くなる。なら・・・・・色が完全に消え去る場所が「こっち」の端っこってわけか。』
そう呟いてから、すぐに次の疑問が浮かんだ。
『ならもしその限界を超えたらどうなる?消滅するのか?それとも「向こう」へ戻るのか?』
しばらく考えて、『・・・「向こう」へ戻るってのはないか』と呟いた。
『もしそんな事が出来るなら、ミノリは麓に現れたりはしなかっただろう。「こっち」の端っこまで行って、そこから「向こう」へ出ればいいんだから。
なら・・・・どうなる?やっぱり消滅しちまうのか?』
考え出すと止まらないのが悪いクセで、すぐに『こんなこと考えてる場合じゃないな』と首を振った。
『今は緑川だ。奴を見つけないと。』
そう言いながら再び山を目指したが、やはり「こっち」の世界の端が気になった。
それは単なる好奇心からではなく、その場所に何かがあるような気がしてならなかったからだ。
『・・・・・・・・行ってみるか。』
勘の良さは自分でも自信がある。
だからこれほどまでに気になるということは、そこへ行けば重要な手掛かりがあるのではないかと思った。
沢尻は自分の勘を信じ、山から離れていく。
緑川と戦った建物を越え、その向こうにあるショッピングモールや病院も越え、さらに遠くへと羽ばたいていく。
景色はどんどん色を失くし、セピア調へと霞んでいく。そしてとうとう白黒の景色に近づいた時、ふと目の前の光景が変わった。
『・・・・これは・・・・どこだ?』
景色が色を失くした瞬間、まったく違う場所へ出ていた。
そこは亀池山の西部にある、なだらかな山の田舎町だった。
ローカル線の線路が伸び、コンクリートの護岸の川が流れ、遠くの丘には天文台が見える。
『ここは○○町じゃないか・・・・さっきまで俺がいた場所とは反対側だ。』
そう言いながら景色を見つめ、『ここにもほとんど色がないな』とぼやいた。
『まるで白黒写真を見てるようだ。ならこの場所も「こっち」の端っこということに・・・・・、』
そう言いかけて、『ああ!そういうことか・・・・・、』と何かに気づいた。
『「こっち」の世界は、端まで行くと反対側へ出て来るんだ。突然景色が変わったのはその為か・・・・・。』
山に囲まれた田舎町を見下ろしながら、『こっちへ来てよかった』と呟く。
『あのまま山へ行っていれば、きっと緑川を見つけることは出来なかっただろう。でも・・・・今はビンビン気配を感じる。』
そう言って触覚を動かし、『あいつはこの近くにいる』と確信した。
『どうしてこんな場所へ逃げたのか分からないが、ここにいることは確かだ。』
緑川の気配を全身で感じながら、ゆっくり町へ降りていく。
眼下には大きな川が流れていて、その近くにホームセンターやスーパーが並ぶ商業施設があった。
そこの駐車場に降り、ホームセンターの陰へ身を隠す。
『誰もいないな。ここにも避難命令が出ているのか?』
この場所は亀池山から30キロも離れている。
しかし自衛隊と化け物が戦っているのだから、広範囲に避難命令が出ていた。
『この近くには小学校と中学校があったはずだ。みんなそこに避難しているのかもしれない。』
そう言って学校の方へ触覚を向けた。
『・・・・・・学校から音や動きを感じるな。きっと避難している人たちだろう。しかし緑川の気配は別の場所から感じる。これは・・・・天文台の方だな。』
触覚を動かしながら、数キロ先の天文台を睨む。
それは緩やかな丘の上に建っていて、夜になれば星がよく見える場所だった。
『・・・・・どうする?怪我が癒えるまで待つか。それともこのまま奇襲を仕掛けるか?』
沢尻はじっと考える。怪我が癒えないまま戦っては不利だが、モタモタしていると逃げられてしまう可能性がある。
『・・・・奇襲ってのは難しいか。こっちが奴の気配に気づいてるってことは、奴もこっちに気づいてる可能性が高い。あいつも俺と同じくらいに鋭い奴だからな。』
どうしたものかと迷っていると、誰かにクイクイと手を引っ張られた。
何かと思って振り向くと、そこには見たこともない異様な生物がいた。
『・・・・・・・・・・・・。』
沢尻は息を飲み、その生き物を見つめる。
爬虫類のような大きな目に、錐のような鋭い牙。
背中には甲羅を背負い、指の間には水掻きがある。
その姿は河童によく似ていたが、どこか別の生き物が混ざっているようにも見えた。
『なんだこりゃ・・・・河童・・・・じゃないよな。もっと不気味な顔をしてやがる。』
その目は吊り上がっていて、肉食獣のような獰猛さを感じる。
爪は長く伸びていて、まるで鎌のように湾曲していた。
『・・・・・チュパカブラ?』
ネットで調べたUMAの中に、これとよく似た生き物がいたことを思い出す。
『まるで河童とチュパカブラの合いの子のようだ・・・・。』
そう言って睨んでいると、その生き物は近くを流れる川を指さした。
『なんだ?』
『・・・・・・・・・・。』
奇妙な生物は、川を指さしながら沢尻の手を引く。
『どうした?あの川に何かあるのか?』
『・・・・・・・・・・・・・。』
『ていうかお前は何なんだ?河童モドキみたいな姿をしているが、もしかしてチュパカブラとの雑種じゃないよな?』
『・・・・・・・・・・・・・。』
河童モドキは何も答えず、ただ沢尻を引っ張っていく。
そしてコンクリートで護岸された川まで来ると、『グェッ、グェッ』と鳴いた。
『誰か呼んでるのか?』
『グェッ、グェッ』
河童モドキは鳴き続ける。すると淀んだ川の中から、数匹の河童が現れた。
『ここにも河童が・・・・・・。』
『グェッ、グェッ』
河童モドキは川に飛び込み、河童の元へ近づく。
そして会話をするように鳴き合い、川の中へ潜っていった。
『なんだってんだ?』
じっと睨んでいると、河童モドキは何かを持って浮き上がって来た。
それを掲げながら、何度も大声で鳴く。
『それは・・・・・あの怪人の・・・・・、』
河童モドキが持っていたのは、ペケの頭だった。
それを沢尻の前まで持って来ると、他の河童たちも周りに集まって来た。
『なんだよ?それがどうしたってんだ?』
『グェッ』
『何言ってるのか分からん。』
『グェッ・・・・・・グェ。』
河童モドキはペケの頭を持ち上げ、何かを伝えようとしている。
沢尻は困惑し、『なんなんだよ』と顔をしかめた。
その時、周りから化け物の気配が迫って来るのを感じて、咄嗟に身構えた。
肉挽き刀を構え、ごくりと息を飲む。
すると川の中から、多くの河童とチュパカブラが現れた。建物の中からはツチノコやのっぺらぼう、それに見たこともない変てこな妖怪がわんさかと湧いて来た。
『・・・・・・・・・・・・・。』
呆気に取られていると、今度は空からも何かが迫って来る。
それは一枚の白い布で、まるで生き物のように動いていた。
『・・・・・一反木綿?』
そう呟くと、遠くの空からさらに大勢の生き物が飛んで来た。
スカイフィッシュに巨大ムカデ、それにフクロウの頭をした人間や、蛾の化け物など。
『あの蛾・・・・アチェによく似てる。』
空を埋め尽くすほどの大群が飛んできて、その後ろからはヘビの頭をした鳥、煙の姿をした妖怪、それに真っ白に輝く人の形をした物体など、次々に押し寄せてきた。
『・・・・・・・・・・・・。』
沢尻は言葉を失くし、茫然と立ち尽くす。
川の上流からはオボゴボや巨大なウミヘビ、そして山の方からはウェンディゴや巨大な髑髏が迫っていた。
建物の中からはミルメコレオ、それにドッペルゲンガーや人面犬まで出てきて、まるで化け物のカーニバルのように多種多様な種類が揃う。
『なんなんだ?いったいどうなってる?』
あっという間に周りを取り囲まれ、もはや逃げ場はなくなる。
沢尻は河童モドキを睨み、『お前は囮か?』と尋ねた。
『俺をおびき出して、こいつらに殺させるつもりか?』
そう尋ねても、河童モドキは『グェッ』としか答えない。
そしてペケの頭を持ち上げ、それが何かの象徴であるかのようにかざした。
周りに集まったUMAや妖怪も、大声で騒ぎ始める。
辺りは化け物の大合唱に包まれ、沢尻はどうすることも出来ずに立ち尽くすしかなかった。
『・・・・・・・・・・。』
この化け物たちが、もし自分を殺そうとしているなら、いつ襲いかかってきてもおかしくない。
しかしどうもそんな様子ではなかった。
敵意は感じないし、戦いを挑んでくる様子もない。
ただペケの頭の周りに集まり、『グェッ』だの『ギャッ』だの、獣じみた声で叫んでいるだけだった。
その声は大きく、やがて地鳴りのような怒号に変わる。
河童モドキはペケの頭をかかげながら、気が狂ったように飛び跳ねていた。
『こいつら・・・・・、』
馬鹿みたいに騒ぐ化け物を見て、どうして化け物たちがここへ集まって来たのかを理解した。
『お前ら戦うつもりなんだな?ペケの仇を討とうとしてるんだろ。』
そう言って河童モドキに歩み寄り、『今、あの山の麓で戦いが起きている』と語った。
『お前らの仲間がミノリと戦ってる。おかげで人間は助かってる。』
『グェッ』
『聞いちゃいないな。』
苦笑しながら、『で、お前らは行かなくていいのか?』と尋ねた。
『ミノリは強敵だ。もっともっと戦力がいる。士気を高めるのはいいことだが、そろそろ加勢しに行ってやれ。お前らにはお前らの戦いが、俺には俺の戦いがある。』
そう言って天文台の方を睨み、空へ舞い上がろうとした。
しかし河童モドキに腕を掴まれ、『なんだ?』と目を向けた。
『グェッ。』
『悪いが俺は行けないぞ。あの男を仕留めなきゃならないんでな。』
『グェッ、グェッ。』
『なんだ?ペケの頭なんか差し出して。』
『グェッ。』
『・・・・・・触れってか?』
河童モドキはペケの頭を押し付けてくる。
沢尻は『生首に触るってのは気が進まないが・・・・、』と、ほんの少しだけ触れた。
『触ったぞ。』
『グェッ!』
河童モドキは喜び、沢尻の腕を引っ張る。そして強引に化け物の中心に連れていき、大きな声で鳴いた。
『だから何なんだ!?これ以上お前らに付き合ってる暇は・・・・・、』
『グェッ。』
『なんだそれは?何かの骨か?』
目の前に白い骨を差し出され、訝し気に睨んだ。
『・・・・・腕の骨のようだが・・・・ずいぶん大きいな。人のものじゃない。もっと大きな・・・・・、』
そう言いかけて、『もしかしてペケの骨か?』と尋ねた。
河童モドキはペケの頭を持ち上げ、『グェッ』と鳴く。
『・・・・ペケは妖怪にとって守り神みたいなもんだった。その骨を俺に預けるってことは・・・・仲間の証ってことか?』
『グェ、グェ。』
『・・・・もしかして、人間と共闘しようって言ってるのか?』
『グェッ、グェッ。』
『まあ利害が一致してるからな、共闘の申し出は嬉しいさ。だったらなおのこと仲間の加勢に行くべきだ。俺は緑川を仕留めに・・・・、』
『グェ。』
河童モドキは後ろを振り返り、小さく鳴いた。
すると何十匹ものUMAや妖怪が前に出て来て、沢尻を持ち上げた。
『おい!』
『グェ!』
『離せ!俺はあの天文台に・・・・・、』
『グェ・・・・グェッ。』
『なんだよ?』
顔をしかめて尋ねると、河童モドキは天文台の方を睨んだ。
『・・・・・お前らもあの男と戦おうってのか?』
『グェ・・・・。』
『ペケの頭?・・・・・そうか、ペケは緑川にトドメを刺された。ならあの男だって、お前らにとっちゃ仇だな。』
沢尻はUMAや妖怪が集まってきた本当の意味を理解した。
『お前らはミノリだけじゃなく、緑川も討ちたいんだな?』
『グェッ、グェッ。』
『何言ってるか分からんが・・・・何となくは分かる。』
そう言って空へ舞い上がり、『でも死ぬかもしれんぞ?』と言った。
『緑川は恐ろしい男だ。大勢で襲いかかっても、ただ死者が増えるだけかもしれない。それでも行くか?』
そう問うと、河童モドキはペケの頭をふりかざした。
『・・・・・分かった。なら行くか?』
『グェ。』
河童モドキは短く鳴き、川の方へと戻っていく。
『おい?』
他の化け物たちもくるりと背を向け、川や空、そして建物の中に引き返していった。
『なんだよ・・・・・一緒に戦うんじゃないのか?』
都合の良いように解釈してしまったことに、少し恥ずかしさを感じる。
手にした骨を見つめ、『これもペケのもんじゃなかったりしてな』と首を振った。
しかしせっかく貰ったものを捨てられず、ベルトの脇に差し込んだ。
『さて・・・・行くか。』
天文台を見つめながら、宙に舞い上がる。
すると緑川から受けた怪我が治っていることに気づき、『なんで?』と首を捻った。
『いつの間にか塞がってる・・・・。』
不思議に思いながらも、『まあいいか』と頷く。
『どういう理由か知らんが、傷が治ったんだ。これでまともに戦える。』
そう言って羽ばたき、天文台へとやって来た。
緩やかな丘の上に建つ天文台は、真っ白な壁に陽の光を反射させている。
入り口には、子供向けに作られた可愛らしいキャラクターが飾ってあって、その奥は小さな展示場になっていた。
そこから上の階に登り、大きなテラスに出ると、天体望遠鏡のある部屋に行くことが出来る。
沢尻はピンと触覚を立て、緑川の位置を探る。
すると入り口の付近から僅かに空気の流れを感じた。
『・・・・・・・・・・。』
少しずつ天文台に近づき、ゆっくりと降りていく。
肉挽き刀を構え、堂々と正面から入り込んだ。
星をかたどった可愛らしいキャラクターを尻目に、入口付近にある展示場に目を向ける。
するとそこには緑川が立っていて、熱心に何かを見つめていた。
沢尻は展示物に目を向け、ぐるりと瞳を動かす。
展示場といっても質素なもので、申し訳程度に展示品が並んでいるだけである。
隕石のレプリカ、ミニチュアのロケットやスペースシャトル。それに地球儀に天体の模型。
他には小さな本棚に収まった図鑑や資料、そして二メートル四方の宇宙のジオラマ。
中には怪しげなものもあって、UFOの破片や宇宙人の写真なども飾ってあった。
緑川が熱心に見ていたのは、UFOの破片である。
それは他の展示物と並んで、台の上にポツンと置かれていた。
くすんだ茶色をしていて、銅のようにも見える。
形は歪で、パズルのピースのようだった。
緑川は熱心にそれを観察しながら、そっと手に取った。
重さを確かめるように振り、コンコンと叩いてみる。
小さな金属音が鳴り、僅かに埃が舞った。
『緑川。』
名前を呼ぶと、ヒクヒクと触覚を動かした。

グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十四話 死神再び(3)

  • 2016.04.03 Sunday
  • 14:17
JUGEMテーマ:自作小説
隠れていた親子を逃がすと、沢尻は図書館を睨んだ。
壊れたドアを押し開け、わざと足音を立てながら中へ入る。
「・・・・・・・・・・。」
動く人影を睨み、拳銃を向ける。
すると人影はゆっくりとこちらを向き、血に濡れた顔を見せつけた。
顔の左半分が真っ赤に染まり、側頭部に大きな傷が走っている。
皮膚はえぐれ、骨はヒビ割れ、触覚が根本から折れていた。
『・・・・・やってくれるね、お前。』
そう言って舌を伸ばし、怪我をした部分に毒針を当てる。
『まさかお前までUMAになってるなんて・・・・・しかも俺とそっくりだ。何をしたの?もしかしてアチェの死体でも飲み込んだ?』
『ああ、それとわずかに脳が残っていた。それも飲み込んだよ。』
『そっか・・・・。ということは、あいつは妊娠してたんだな。』
毒針を抜き、そっと怪我を撫でる。
すると途端に血は止まり、抉れた皮膚まで再生しようとしていた。
折れたはずの触覚もピンと伸び、ヒラヒラと動かして見せる。
『いいもんだろ?UMAになるって。人間の時とは比べものにならいないくらいに感覚が鋭くなる。それに空だって飛べるし。』
可笑しそうに笑いながら、一歩ずつ進んで来る。
『アチェは妊娠していた。だからお前に飲み込むように言って、UMAに変えさせたんだ。いつか自分の子供を産んでもらう為に。違うか?』
『合ってるよ、それで。俺の体内には化け物の子供がいる。』
『それ、俺の子供でもあるけどな。』
『それも知っている。』
『産むの?憎き俺の子供をさ?』
緑川は首狩り刀を振り、目の前にあったテーブルを斬りつける。
生き物でない物は切断出来ないが、衝撃を与えることは出来る。
緑川はUMAとなった力を見せつけるように、軽々とテーブルを吹き飛ばした。
そして首狩り刀の切っ先を向け、『本当に俺の子供を産むつもりかよ?』と睨んだ。
『ああ。』
『なんで?』
『もし俺が負けた時、その子にお前を討ってもらおうと思ってな。』
『まあそんなところだろうと思った。で?生まれた子供は誰に育てさせるつもり?まさか早苗?』
『そう考えていたが、それはやめた。』
『なら誰に預けるの?』
『さあな?』
『教えてくれよ、誰に預けるの?』
そう言って、今度は大きな本棚を斬りつける。
凄まじい音が響いて、本棚は宙を舞う。中から大量の本をが舞い散って、雨のように落ちていった。
するとそれを見た沢尻は、声を上げて笑った。
『・・・・・何?』
『いや、お前でも焦ることがあるんだと思ってな。』
『は?』
『だって・・・・お前は怖がってるんだろう?生まれて来る子供のことを。』
『まさか。』
『いや、絶対に怖がってる。俺に勝つ自信はあっても、生まれて来る子供には勝つ自信が無いのさ。なぜならその子は、お前とアチェの血を引いてるからだ。
成長すれば、きっとお前以上に優秀なハンターになる。だから大人になる前に殺したいんだろう?』
『・・・・・・・・・・・。』
『言っておくがな、この子は最後の希望だ。もし俺が負けた時、代わりにお前を討ってもらわないといけないからな。』
『へえ。』
『お前は自分の子供に殺されるかもしれないんだ。いや、かもしれないじゃない。必ずそうなる。俺が負けた時は、この子がお前を狙う死神になるんだ。』
腹に手を当てながら、緑川の眉間に拳銃を向ける。
この子は腹の中にいながら、お前を殺そうとしているぞという風に。
『・・・・・・うん。』
緑川は小さく頷き、クスクスと笑った。
『どうした?』
『いや・・・・お前って意外と頭悪いんだなあと思って。』
『何だが?』
『だってさ、もし俺が自分の子供を怖がってるなら、アチェの死体をそのまま放っておくと思う?』
『・・・・・・・・・・・・。』
『あいつは死ぬ前に俺とやりまくったから、充分に妊娠してる可能性があった。だからもし子供が生まれるのを恐れるなら、アチェの死体をすり潰してるよ。中の子供ごとな。』
『・・・・・・・・・・・・。』
『でもそうしなかったのは、単に面白いと思ったから。』
『面白い?』
『うん。純粋にさ、俺の子供ってどんな風なのか見てみたかった。しかもアチェとの子供だから、余計に興味がある。それだけだよ。』
そう言ってケラケラ笑うと、沢尻は『それは嘘だな』と言った。
『嘘じゃないよ。だってここでお前を殺せば終わりじゃん。いつ子供を産むつもりだよ?』
『そうだな、俺が殺される時は、腹の中の子も殺されるってことだ。』
『だろ?だったら意味ないじゃん。もし俺が自分の子供のことを怖がってたとしても、結局ここで殺すんだから。』
そう言ってまた刀を突きつけ、『そんなもんは、何の希望にもならないよ』と切り捨てた。
『お前も子供も、この場で死ぬんだから。何にも変わらない、そうだろ?』
『・・・・・・・・・・・・。』
沢尻はそう問われて、口を噤んだ。拳銃を向けたまま、何かを思案している。
そしてニコリと口元を緩め、『そうだな』と答えた。
『お前の言う通りだ、間違いない。』
『・・・・・・・・・・。』
『俺が死ねば子供も死ぬ。だから希望にはならないな。』
沢尻は肩を竦め、笑って見せる。それを見た緑川は、不満そうに顔をしかめた。
『お前・・・・何考えてるの?』
『何って・・・・お前と同じ事さ。』
『は?』
『こうやって話してみて、お前の意図がはっきり分かった。どうして妊娠したアチェを放っておいたのか?その理由がよく分かった。』
『へえ。』
『そしてそれは、俺にとっても好都合だ。なぜならお前の真の狙いは、俺の狙いでもあるからだ。』
『・・・・・・・・・・・。』
『お前は「ある目的」があって、子供を欲しがってる。しかもアチェとの間に出来た子だ。だからいっそうこの子を欲しがってる。』
『・・・・・・・・・・・・・。』
『結論から言うと、お前はこの子を殺せない。そうだろ?』
そう言って引き金に力を込め、射抜くような視線を向けた。
『さっきしつこく聞いてきたな、この子を誰に育てさせるつもりかと。その答えはお前も知ってるはずだ。』
『・・・・・・・・・・・・・。』
『いつの世だって、よほどの事情が無い限りは、子は親が育てる。だから化け物の子供だって・・・・・なあ?』
『お前・・・・・、』
緑川は口元を歪め、『ムカつくなほんと』と罵った。
『人に真意を見抜かれるって、すごくムカつくもんだ。今すぐ殺していい?』
『ああ、俺もそのつもりだ。お前に明日はない。』
『逮捕しなくていいの?』
『お前はもう人間じゃないだろ。だったら法では裁けない。俺がこの手で裁く。』
『何それかっちょいい。映画の見過ぎ?』
そう言った瞬間、緑川は鱗粉をまき散らした。
『そう来ると思ったよ。』
沢尻も鱗粉をまき散らし、最上階はキラキラと光る粉で満たされていく。
このままでは二人とも鱗粉の毒を受けるので、同時に外へと飛び出した。
窓ガラスを割り、建物の上空へと舞い上がる。
『せっかく羽が生えたんだ、狭い場所で戦う必要はない。』
そう言って銃を向けると、緑川は『そうだね』と頷いた。
『でもお前はここでは負ける。UMAになってそう時間が経ってないんだろ?だったら空中戦なんてこなせないだろ。』
『何言ってやがる。さっきの頭の傷、いったい誰にやられたんだっけ?』
拳銃を振りながら、『もっぺん近距離からぶち込んでやろうか?』と銃口を向けた。
『さっきのは奇襲だろ?まさかお前までUMAになってるなんて思わなかったからさ。』
『報道のヘリを襲うなんて・・・・メディアに反発でもしてるのか?』
『別に、目の前にあったから。』
『外道だな。』
沢尻は拳銃をフルオートで発射する。13発の弾丸が緑川に向かって襲い掛かるが、あっさりとかわされてしまった。
『近距離じゃなきゃ当たんないよ。』
緑川はそう言って、下の方へ飛んで行く。そして建物の中へ入ろうとした。
すると沢尻はその動きを読んでいたように、すぐに後を追いかけた。
そして建物へ入ろうとした一瞬を狙って、頭上から斬りかかった。
肉挽き刀の歪な刃が、緑川の頭に振り下ろされる。
次の瞬間、刀は火花を散らして硬い音を響かせた。
緑川の首狩り刀が、肉挽き刀を正面から受け止めたのだ。
『読んでた?』
『お前のことだ。どうせ中の人たちを人質に取るつもりだったんだろう?』
『当たり、楽して勝ちたいもんね。』
『残念だがそうはさせない。』
そう言って強く肉挽き刀を押し当てると、刃が回転し始めた。
チェーンソーのように激しく回り、首狩り刀を切断しようとする。
二つの刀はせめぎ合い、やがて首狩り刀の方がじょじょに割れ始めた。
『こっちの方が強いみたいだな。』
沢尻はさらに刀を押し当て、そのまま切断しようとする。
すると緑川は柄の髑髏を一つもぎ取り、それを短いナイフに変えた。
『なッ・・・・・・・・、』
『こういう事も出来るの。知らなかった?』
ナイフを構え、沢尻の心臓目がけて突き刺す。
しかし沢尻は咄嗟に身体を捻り、そのナイフから逃れた。
そして拳銃を向け、緑川の額に押し当てた。
『近距離なら当たるんだよな?』
『まだ弾が・・・・・、』
『一発だけな。』
そう言って引き金を引き、銃口から火を吹かせた。
弾丸は至近距離から発射され、緑川の頭を射抜こうとする。
しかし咄嗟に頭を捩り、こめかみを掠めていった。
『せっかく治したのにまた・・・・・、』
先ほどと同じ場所を怪我して、ダラリと血が流れる。
左目に血が入り、視界の半分が霞んでしまった。
『やば・・・・・、』
そう呟くのと同時に、触覚が空気の動きを察知する。
背後から何かが迫るのを感じて、振り向きざまに刀を振った。
また硬い音が響き、肉裂き刀とぶつかる。
『お前・・・・・・、』
『武器はこっちの方が有利だ。そのまま挽き肉に変えてやる。』
沢尻はまた肉挽き刀を押し当て、チェーンソーのように回転させる。
首狩り刀はビキビキと音を立てて割れていった。
『面倒くさいなお前。』
『しつこいのが性分でな。』
『俺はしつこいのは嫌いなんだよ。』
緑川は首狩り刀から手を放し、そのまま後ろへ退く。
そして柄から伸びた髑髏を持って、鎖鎌のように振り回した。
『無駄だ。接近すれば怖くない。』
沢尻は一瞬で懐に入り、首を狙って刀を振る。
しかしその瞬間、銃声が響いてこめかみに激痛が走った。
『ぐッ・・・・・・、』
『な?近くなら当たるだろ。』
緑川は拳銃を構えていて、沢尻の口の中に突っ込んだ。
『上手くかわしたけど、今度は無理だよ。』
『・・・・・・・・・・・。』
『後ろに逃げても無駄、首狩り刀で殺すから。』
そう言って首狩り刀を振り回したまま、銃を押し付けた。
『まあちょっとだけ楽しかったよ。でもしつこいのは嫌いなんだ、だからさよなら。』
沢尻の口に銃を突っ込んだまま、引き金を引こうとする。
しかしその時、遠くの方からバタバタと小さな音が聴こえて来て、一瞬だけ動きが止まった。
沢尻はその隙を見逃さず、素早く銃口から逃れる。そして肉挽き刀を振って、緑川の頭を薙ぎ払おうとした。
『危なッ・・・・・・、』
緑川はサッと身をかわす。そして沢尻から距離を取った。
『なんか来てるな・・・・・これヘリか?』
そう言って遠くの空を睨んでいると、『自衛隊だよ』と沢尻が答えた。
『俺が呼んだ。』
ポケットからケータイを取り出し、ユラユラと振って見せる。
『お前を見つけてすぐに連絡した。今頃機動隊と自衛隊がこっちに向かってるはずだ。』
『なら・・・これは戦闘ヘリの音か?』
『ああ。遅れて戦闘機も来てくれるとさ。』
『・・・・・・・・・・・。』
『しかもかなりの数が来る。いくら俺たちが空を飛べるって言ったって、さすがに戦闘ヘリや戦闘機の大軍に囲まれちゃ勝ち目がないよな?』
『・・・・・・・・・・・。』
『今から来るのは全て俺の仲間だ。だからお前は、俺と警察、そして自衛隊を全て相手にしなくちゃならない。さて・・・・これでも勝てるか?』
そう言って刀を向け、『大人しく降参するか?』と尋ねた。
『なんで?』
『このままだと確実に負けるぞ?』
『うん、でも「向こう」に逃げりゃいいだけ・・・・・、』
そう言いかけて、緑川は『あ・・・』と固まった。
『・・・・・もしかしてこれが狙い?』
『そうだ。「こっち」で戦ったら、お前はいつ人を殺すか分からないからな。』
『うん、まあ・・・・そうかな。ピンチになったら人質を取るだろうし。』
『さっきはならなくても取ろうとしたな?』
『だって楽して勝ちたいじゃん?それに首狩り刀が短くなったら、また伸ばさないといけないし。』
『それだよ、その刀が恐ろしいんだ。』
沢尻は肉挽き刀を向け、『その刀さえ無ければ、ここまでの悲劇は起こらなかった』と言った。
『そいつは強くなるのに人の首を必要とするからな。』
『面白いだろ、気に入ってるんだ。』
『ものは相談なんだが、コレと交換しないか?』
『肉挽き刀と?』
『ああ、こっちの方が強いぞ。それに首を落とす手間もない。』
『う〜ん・・・・・確かにその刀はけっこう気に入ってたんだよな。でも首狩り刀と比べると・・・・・・、』
『見劣りするか?』
『俺、色んな刃物を使ったけど、やっぱコレが一番しっくり来る。』
そう言って首狩り刀を見つめ、『死神に相応しい武器だと思わない?』と微笑んだ。
『それにさ、残念だけど肉挽き刀じゃあいつには勝てない。』
『あいつ?』
『ミノリだよ。あいつは骨切り刀を持ってるからな。肉挽き刀だと分が悪い。』
『確かに・・・・あの刀相手じゃ肉挽き刀は相性が悪いな。』
『そう、相性なんだよ。どっちが強いとかじゃなくてさ。だから武器は使い様ってわけ。』
緑川は後ろへ下がり、背中へ手を伸ばす。
ヘリの音はだんだんと近づいて来て、遠くからは戦闘機のジェット音まで聴こえてきた。
『緑川・・・・・何をするつもりか知らんが、このままここにいちゃ終わりだぞ?』
『分かってるって。でもさっき言ったじゃん。楽して勝ちたいって。だから「向こう」へ行くにしても、準備がいるだろ?』
『準備?』
『まあ殺せれば一番いいんだけど、お前って感が鋭いからさ。だからこれくらいでも充分かなって・・・・・、』
そう言って一気に間合いを詰めて、首狩り刀を振った。
沢尻は肉挽き刀を構え、その一撃を受け止める。
そして刃を回転させて、首狩り刀に食い込ませた。
『何を企んでる?切り札が壊れるぞ。』
さらに肉挽き刀を押し込み、首狩り刀を粉砕しようとする。
すると緑川は、背中の羽の中から何かを取り出し、それを振りかぶった。
沢尻は反射的に刀を動かして、緑川が振りかぶった何かを防ごうとした。
次の瞬間、金属同士がぶつかる音が響いた。
『それは・・・・・・、』
沢尻は目を凝らし、緑川が振りかぶった何かを睨んだ。
『・・・・・匕首?』
『・・・・・・・・・・・。』
緑川は無言のまま匕首を押し当て、肉挽き刀を押し返そうとする。
『そんなもんでこの刀がどうにかなると思って・・・・・、』
そう言って肉挽き刀の刃を回転させた時、我が目を疑うことが起きた。
緑川の手にした匕首が、するりと肉挽き刀をすり抜けてしまったのだ。
『なッ・・・・・・、』
驚きを隠せない様子で、咄嗟に後ろへ下がる。
しかし緑川の素早い太刀に、胸と両腕を深く抉られてしまった。
『がッ・・・・・・・、』
『ついでにこっちも貰うな。』
そう言って顎を掴み、無理矢理口を開かせる。
そして口の中に匕首を突っ込み、そのまま貫こうとした。
沢尻は反射的に緑川を蹴り飛ばし、慌てて匕首から逃れる。
しかし口の中に激しい痛みを感じて、血を吐き出した。
『・・・おご・・・・・ッ』
『これ頂き。』
緑川はニコニコ笑いながら、何かを振って見せる。
それは沢尻の口の中から切り取った、舌の毒針だった。
『これが無きゃ毒を打てないでしょ?怪我が治るまで時間が掛かるよお。』
可笑しそうにケラケラ笑い、切り取った毒針を銃で打ち砕く。
『さて、俺は「向こう」に逃げる。戦う気があるなら追ってくれば?』
『お・・・・お前・・・・・・、』
『まあやっても結果は見えてると思うけど。それじゃ。』
ニコニコと笑いながなら、陽炎のようにゆっくりと消えていく。
沢尻は『貴様・・・・・・、』と怒り、口から血を垂れ流した。
戦闘ヘリと戦闘機はすぐそこまで迫っていて、緑川の消えた空を駆け抜ける。
ヘリはぐるりと旋回してから引き返して来て、ドアの中から自衛官が現れた。
「緑川は!?」
『・・・・・いない・・・・もうここには・・・・・、』
「あんたが沢尻だな?酷い怪我を負ってるようだが・・・・・、』
化け物の姿をしている沢尻を見つめながら、自衛官は顔をしかめる。
「早くこっちへ!そのままじゃ死ぬぞ。」
『・・・・生憎化け物の身でね・・・・そう簡単には死なないさ。』
切られた胸と腕には激痛が走っているが、UMAとなった今では、致命傷になるほどのものではなかった。
『・・・・死にはしない・・・・・死にはしないが・・・・これじゃ奴を仕留めるのは・・・・・、』
両腕が使えず、しかも怪我を治す毒針まで奪われた。これでは戦っても結果は見えていて、出来れば怪我が癒えるまで待っていたかった。
しかしここでオメオメと引き下がれば、またイタチごっこの始まりになってしまう。
『おいあんた!伝言を頼む!』
ヘリの自衛官に向かって大声で叫ぶ。
『SATの東山って奴に伝えてくれ!山田さんのパソコンが終わるまでに戻れそうにない。』
「は?山田さんのパソコン・・・・・?」
何のことか分からず、自衛官は首を傾げる。
沢尻は『頼んだぞ』と言い残し、陽炎のように薄くなっていった。
「お・・・おい・・・・あんた・・・・・、」
驚く自衛官を尻目に、沢尻は「向こう」へと消えていく。
例えこの命が尽きたとしても、緑川に一矢報いる為に。
そして・・・・・・腹に宿った化け物の子を、緑川に育てさせる為に。

グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十三話 死神再び(2)

  • 2016.04.02 Saturday
  • 12:02
JUGEMテーマ:自作小説
亀池山から遠く離れた場所に、大きな文化ホールがあった。
五階建ての立派な建物で、図書館やトレーニングルームまで入っている。
ここには街から避難した人が集まっていて、所狭しと身を寄せ合っていた。
布団の上に寝転ぶ者や、漫画を読みふける者、それに悲痛な顔で俯く者など、様々な様子で過ごしていた。
麓はどういう状況になっているのか?
スマホやパソコン、それに備え付けのテレビから逐一情報が入って来る。
報道のヘリは近くを飛ぶことが出来ず、離れた場所から望遠レンズで狙っていた。
そこに映される映像はあまりにもショッキングで、気分を悪くする者、逆に興奮して叫ぶ者もいた。
おぞましい化け物が溢れ、自衛隊や警察と戦っている。
そこへ米軍の応援まで駆けつけて、戦いはさらに激しさを増していった。
麓の遠くから米軍の戦車や装甲車がやって来る様子が映り、画面を見ている人達は、さらに緊張を増した。
ニュースを伝えるレポーターはわざとらしいほど興奮した口調で喋り、緊迫感を煽ろうとしている。
大きな声で、しかも早口で捲し立てる中、突然『え?』と黙り込む。
画面の前の人たちは、いったい何があったのかと食い入るように見つめた。
レポーターはカメラに映っていることも忘れ、何度も誰かに話しかけている。
カメラには映っていないスタッフに向かって、何度も何度も『ほんとに?』と確認していた。
やがてカメラの方を向き、マイクを握り直して口を開く。
『新しい情報が二つ入りました。まず一つ目ですが、在日米軍は化学兵器を搭載したミサイルを発射するとのことです。』
そう伝えた途端、画面を見ている人達がどよめいた。
『使用する兵器の種類は明らかにされていませんが、化学兵器を使用するのは間違いないということだそうです。
ただし大きな被害になることを抑える為に、威力は限定しているとのこと。そして使用するのは一発だけとのことです。』
カメラは応援に駆け付ける米軍の装甲車や戦車を映し、『あれのいずれかから発射されるのでしょうか?』と捲し立てた。
『この件に関しては、詳しい情報が入り次第お伝えします。そして次の情報ですが・・・・・、』
そう言って、口にするのを躊躇うように息を飲んだ。
『夜明けの死神と称される殺人犯が、また現れたようです。場所は○○市の総合病院、そして・・・・・○○町の中学校でも目撃されたとのこと。
病院の方からはすでに姿を消していますが、警察が駆けつけた時には・・・・・・中にいたほとんどの方が・・・亡くなられていたとのことです。』
画面の前の人たちは、さらにどよめきを増す。
今までは興奮して見ていた者も、途端に恐怖に引きつった。
『犠牲者の正確な数は明らかになっていませんが、大きな病院であった為にかなりの人がいた模様・・・・・え?400人・・・・・・、』
スタッフからそう伝えられ、レポーターは口を開けて青ざめる。そしてまた新たな情報が入り、放心したように固まっていた。
『・・・・・え〜・・・・先ほど○○町の中学校でも目撃されたとのことですが・・・・ここには亀山市から避難された方々がいらっしゃったそうです。
警察と自衛隊が駆けつけた時には、ここでもほとんどの方が・・・・・・、』
そう言って息を飲み、『ほぼ全ての方が亡くなられていたそうです・・・・・・』と続けた。
先ほどまでは興奮気味に捲し立てていたのに、今では消え入りそうな声になっていた。
『夜明けの死神こと緑川鏡一は・・・・やはり現場から姿を消していたとのこと・・・・・・。今後もまた現れる可能性があり・・・・警戒が必要です。』
そう言って結んだものの、何をどう警戒したらいいのかと、自分でも苛立っている様子だった。
カメラは再び山の麓を映し、凄惨な戦いが画面に流れる。
この異様な事態に耐え切れず、大きなショックを受けた者も多かった。
画面から離れて布団に横たわったり、ここにも現れるんじゃないかと不安になったり、纏まっているとかえって狙われるんじゃないかと逃げ出そうとしたり。
誰もが我が身を案じ、家族を案じ、どうかこの場所へ来ないでくれと願った。
米軍が化学兵器を使用すると聞いた時は驚いたが、今はそんな事すらどうでもよくなっていた。
どうか・・・・どうかこの場所には来ないでほしい・・・・。
そう願いながら頭を抱えるか、誰かと身を寄せ合うしかなかった。
建物の上空からは報道のヘリの音が聴こえていて、それがより神経を逆撫でする。
恐怖は恐怖を呼び、こっそりと避難所を抜け出す者もいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
建物の中には、重く、静かな空気が流れる。
スマホやパソコン、それにテレビからはまだ中継の音声が流れていて、誰もがそれに耳を立てていた。
・・・・感覚が鋭敏になる。恐怖で神経が尖っていく。
高まった五感は、第六感ともいうべき超人的な感覚へと研ぎ澄まされ、誰もが一様にある思いを抱いていた。
『死神はここに来る』
研ぎ澄まされた五感が、良からぬ気配が迫っていることを告げていた。
避難所からは逃げ出す者が増え、静かな空気はパニックの喧騒へと変わっていく。
するとその時、凄まじい爆音が響いて、建物全体が揺れた。
喧騒は一瞬だけ鎮まり、すぐに大きなパニックへと変わった。
いったい何が起きたのかと、誰もが右往左往する。
自衛隊がこの建物へ誤射したのか?それとも化け物が襲ってきたのか?
その答えは、画面でニュースを見ていた者たちが知っていた。
「ヘリが落ちた!」
一人がそう叫んで、スマホの画面を見せつける。
そこにはこの建物が映っていた。
屋上からもくもくと煙が出ていて、赤い炎が見える。
その炎の中には、ひしゃげたヘリコプターの羽があった。
落下の衝撃で機体が潰れ、ほとんど原型を留めていない。
炎に包まれる機体からは人の腕らしきものが見えていて、力無く垂れていた。
それを見て発狂する者もいれば、画面に釘づけになる者もいた。
そして食い入るように見ていた一人が、「なんかいる!」と指をさした。
「なんか動いてる!」
誰もが画面を見つめ、映像の中にかすかに動く影を見つける。
それは人の姿をしているが、大きな羽を持っていて、しかも頭には触覚がある。
目は虫のように大きく、しかもその手には巨大な刀を持っていた。
刀からはポタポタと血が流れ、柄の部分から数珠つなぎの髑髏が伸びている。
「・・・・・・・・・・・。」
叫ぶことも忘れ、ただ映像の中のその生き物に釘付けになる。
そいつはキョロキョロと周りを見渡した後、ふわりと宙に舞い上がった。
レポーターが喚くように実況を続けているが、そんな言葉など耳に入って来ない。
人々は異様なその生き物を食い入るように見つめ、そして一人が「あ!」と叫んだ。
そいつは宙に舞い上がった後、屋上から下へと飛んでいった。
カメラはその動きを追い、そいつが窓ガラスを割って、建物の中に入っていく様子を映した。
「・・・・・・・・・・・。」
今までカメラ越しに見ていた出来事が、とうとう自分たちのすぐ傍までやって来る。
皆は慌てて逃げ出し、出口に向かって押し寄せる。
人の波がいきなり動いたことで、ドミノ倒しに崩れていった。
「痛え!」「おい!そこどけ!」「足踏んでんだよお前!」「ウチの子が潰れる!どいてって!」「テメエのガキなんか知るかよ!」
我先にと逃げ出そうとして、三つある全ての出口が詰まってしまう。
人の群れは流れを変え、二階へ繋がるエントランスや、障害者用のスロープに殺到する。
「おい!車椅子の人がいるんだぞ!」
「ここにいたら殺されるんだよ!さっさとどけやコラ!」
危険から抜け出そうとするパニックで、力の弱い者ほど虐げられていく。
子供、老人、妊婦、それに身体の不自由な者は、人の波に弾かれて押し倒されていった。
それを助けようとする者もいたが、荒れ狂う人波の前では無力に等しい。
体力のある者達はとにかく上の階を目指し、二階のテラスの階段から逃げようとした。
しかしそのおかげで、一階の出口には余裕が出来る。
それに気づいて引き返す者もいれば、気づかずに二階へ上がっていく者もいる。
「おい今のうちだ!」
子供や老人を助けようとしていた人たちは、この隙にと出口へ向かう。
先ほどに比べれば弱くなった人の波を掻き分け、どうにかドアの近くにまで到達した。
すると逃げ出そうとしていた前の人波が、慌てて引き返してきた。
「こっち駄目だ!」「向こう!向こうの出口から!」「ていうか誰か警察呼べよ!」
そう叫んで引き返して来て、逃げようとする人波とぶつかる。
大勢の人が転んで、一人の若者が骨を折った。
「痛っでええええええ!」
足を押さえ、涙を流してのたうち回る。
しかしそんな事はおかまいなしに、人々は建物内を右往左往する。
若者はさらに踏みつけられ、声にならない声で叫んだ。
するとそこへ、人並みを掻き分けて誰かが走って来た。
そして自分の身体を盾にして、激しい人波から彼を守った。
若者はその者を見上げ、「助けて!」とすがる。
しかしすぐに「ひい!」と後ずさり、「殺さないで!」と懇願した。
『・・・・・・・・・。』
「嫌だ!死にたくない!」
そう言って折れた足を引きずりながら、必死に逃げようとする。
しかし走って来た人波にぶつかり、また転んでしまった。
「痛ッ・・・・・・、」
左の膝があり得ない方向へ曲がって、気絶しそうなほど痛む。
すると『じっとしてろ!』と先ほどの者が駆けてきた。
『動くと余計悪くなるぞ!』
「来るな!死にたくない・・・・、」
『誰も殺したりしない!治してやるからじっとしてろ。』
そう言って押さえつけ、若者の足を睨んだ。
「嫌だあああああああ!」
今、若者の目の前には、人とは思えぬ生き物がいた。
頭からは触覚が伸び、目は虫のように大きい。
そして背中には羽が生えていて、手にはノコギリ状の刀を持っていた。
『ちょっと痛むが我慢しろ。』
そう言って、口から針の生えた舌を伸ばす。
それを若者の足に当てると、ブスリと刺し込んだ。
「いっぎゃあああああああ!」
『暴れるな!』
「嫌だあああああ!嫌だよおおおおおお!」
『痛いのは我慢しろ!このままだと二度と歩けなくなるぞ。』
そう言って針の先から毒液を注入し、折れた足を治していった。
「ああ・・・あ・・・あああ・・・・・・、」
『しばらく痛むだろうが、すぐに良くなる。それまで動くな。』
「・・・・・・・・・・・・。」
『・・・・・気絶したか?』
若者は泡を吹きながら失神し、股の間がじわりと濡れていった。
『まあこの方がいい。』
そう言って立ち上がり、『みんな落ち着け!』と叫んだ。
『俺は刑事だ!みんなを助けに来た!』
一階すべてに響き渡るほどの声で叫び、懐から何かを取り出す。
『亀山署の沢尻という刑事だ。夜明けの死神を追ってここまで来た。』
沢尻は警察手帳を揺らし、『俺は本物の刑事だ、安心してくれ』と言った。
『こんな化け物みたいな姿をしているが警察だ。みんなを助けに来た。』
「・・・・・・・・・・・・・。」
パニックを起こしていた群衆が、その声に大人しくなる
『みんな聞いてくれ。すぐにここへ機動隊が駆け付ける。それまでは大人しくしててくれ。ああ、それと・・・・上の階には絶対に上がるなよ。』
そう言って羽を動かし、宙に舞い上がった。
群衆のパニックは一気にトーンダウンし、その代わりに大きなどよめきが起きる。
「なんだあれ・・・・・?」「刑事だって」「いや、どう見ても化け物じゃん・・・・」「空飛んでる・・・・」「アレ、さっきテレビに映ってた化け物じゃないの?」
「ていうかなんか怪我してない?」「肩から血が出てる・・・・」
ざわざわと喧騒が起き、誰もが呆気に取られる。
しかし沢尻はそんな喧騒を意に介さず、二階へ繋がる階段へ飛んで行く。
すると二階はさらに人でごった返していて、怒号が飛び交っていた。
「どけよお前!」「お前こそどけコラ!」「下に行きたいのよ!」「テラスどこ!?」
大勢の人たちが、、非難轟々にひしめき合っている。
「上は駄目だ!化け物がいる!」「でもさっき下から入って来たって・・・・、」「馬鹿!上にいんだよ!早く逃げないと降りて来る。」「一回は入口が塞がってるのよ!」
「ここも塞がってるよ!」「いいからどけって!」
誰もがドアへ殺到し、身動きが取れなくなっている。
非常階段では人が溢れ、落ちそうになっている者もいた。
沢尻は拳銃を抜き、そのまま群衆の上に舞い上がる。
そして二発の銃声を鳴らして、『落ち着け!』と叫んだ。
『もうじき警察が来る!それまで大人しくしてるんだ!』
そう言って皆の注目を引くと、途端にパニックが起きた。
「イヤああああああ!」「化け物!」「さっき下から入って来た奴だ!」「なんで!?さっきは上にいたのに・・・・、」「下に回って来たんだよ!早く逃げろ!」
群衆はさらに乱れ狂い、沢尻は『落ち着けつってんだろ!!』とまた銃を放った。
『さっき上から入って来た奴は別物だ!俺はあいつを追って来た刑事だ!』
そう言っても誰も信用せず、慌てて逃げ出して行く。
『クソ・・・・、』
そう舌打ちしたものの、こんな姿では無理もなかった。
『死にたくないなら、せめて上には来るなよ!』
騒ぐ群衆を後にして、すぐに上の階を目指す。
最上階は五階で、そこへ辿り着くまでにやはり逃げまどう人達に出くわした。
「出たあ!」「もう一匹いる!」
そう叫んで、上の階へと引き返そうとする。
『上に行くな!殺されるぞ!』
銃を向け、『従わない奴は撃つぞ!』と脅した。
「うわああああ!」「銃まで持ってんぞ!」
群衆は慌てて下へ向かい、我先にと階段を下りていく。
そして全ての人達が逃げたのを見送ると、最上階へ続く階段を睨んだ。
『緑川・・・・・いよいよ決着の時だ。』
血が流れる肩を押さえ、痛みを堪えながら指を入れる。
『・・・・・・・・・ッ!』
顔をしかめながら指を動かすと、小さな金属の塊が出てきた。
『銃まで持ってやがるとはな・・・・。しかも意外と腕が良い。』
そう言って取り出した弾丸を睨み、床へ投げ捨てた。
カツンと音を立て、ひしゃげた弾丸が転がっていく。
沢尻は一気に階段を舞い上がり、最上階へと辿り着いた。
『・・・・・・・・・・・・。』
この階には図書館が入っていて、傍には喫茶店がある。
沢尻は喫茶店の中を覗き込み、まだ誰か残っていないか確認した。
するとテーブルの下で震える親子を見つけた。
『大丈夫か?』
そう声を掛けると、母親の方が「ひいい!」と逃げようとした。
『待て!俺は警察だ。』
「嫌!触らないで!」
子供の手を引き、図書館の方へ逃げようとする。
『ダメだ!そっちにはあいつがいる!』
親子を抱え、階段の方へと連れ出す。
「嫌あああああああ!」
「お母さああああああん!」
『安心しろ!傷つけたりしない!』
「化け物!誰かあああああ!」
『だから落ち着けって・・・・・、』
母親は暴れ狂い、我が子を守ろうと必死に蹴ってくる。
子供の方は泣き喚き、階段の手すりから手を放そうとしなかった。
するとその時、図書館の自動ドアの向こうで、何かが動いた。
それは沢尻とよく似た姿をしていて、虫の目に大きな羽を持っていた。
『見ろ!あいつだ!あいつがみんなを襲うんだ!』
親子の顔を図書館の方に向け、『恐ろしい殺人鬼がいるんだよ!』と怒鳴った。
子供は「お母さああああああん!」と鳴き続けるが、母親の方は「あ・・・・、」と息を飲む。
「あ・・・・あれ・・・・・窓から入って来た怪物・・・・、」
『そうだ、あいつが死神と呼ばれる殺人者だ。ここにいたら危ない、すぐに下まで降りろ。』
「・・・・・・・・。」
『子供を守らないと・・・・・な?』
そう言って肩を叩き、階段の方へ押しやる。
『すぐに警察が来る。だから下の階で大人しく待ってるんだ。下手に逃げようとすると、人波に揉まれて危険だから。』
母親は呆然としながら、沢尻の顔を見上げる。
しかしすぐにコクコクと頷き、子供を抱き上げた。
そして慌てて階段を下りていき、姿を消した。
子供の泣き声はまだ響いていて、触覚がビリビリと反応する。
沢尻はその触覚を図書館の方へ向け、中で動く人影の気配に集中させた。
・・・・・ゆっくりと足を進め、自動ドアへ向かう。
逃げ惑う群衆がぶつかったせいか、右の扉はヒビ割れていて、完全に開くことが出来ない。
それを手で押し開けると、わざと足音を立てながら図書館に入った。

グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十二話 死神再び(1)

  • 2016.04.01 Friday
  • 14:09
JUGEMテーマ:自作小説
亀池山の麓では、戦いが激しさを増していた。
ミノリは無尽蔵に分身を放ち、市街地まで攻め込もうとする。
それを阻止しようと、自衛隊のヘリが立ち向かう。そして応援に駆け付けた在日米軍も奮闘していた。
強力な近代兵器は、あっさりとミノリの分身を葬る。しかしその数の多さに圧倒されていた。
しかも死者が出る度に、巨大な手の傀儡として操られてしまう。
味方を失うということは、ゾンビを増やすという二重の悪循環を生み出していた。
また怪人マルの強さは別格で、超人的な動きで毒の槍を振るっていた。
マルの怪力は装甲車をも貫き、槍を一振りするだけで、3、4人が死んでいく。
さらに槍を振り回して毒を撒けば、誰も近くには寄れなかった。
それにとにかく動きが速く、銃も大砲も照準を合わせられない。
かろうじて戦闘ヘリの機関銃だけがマルを牽制することが出来たが、それでも仕留めるには至らなかった。
なぜならマルのマントには、妖怪の思念が宿っているからだ。
これを放出されると、どんな硬い装甲もスルリとすり抜け、中にいる人間を呪い殺してしまう。
マルがマントを開いている間は、たとえ戦車でも近づくことが出来なかった。
蝶の大群に、死者を操る巨大な手、そして虫殺しの槍を振るうマル。
それらの奥に、ミノリの本体が控えていた。
可愛らしい妖精のような姿で、じっと戦局を睨んでいる。
鏑木は大隊の指揮を取りながら、ミノリの本体に目をやった。
「あいつを仕留めないと終わらないな・・・・・。」
化け物どもの親玉はミノリであり、彼女が生きている限りは戦いは続く。
鏑木は無線機を取り、「もっと応援を寄こして下さい!」と叫んだ。
「こっちはどんどん味方を失ってる。しかも仲間が死ぬ度に、巨大な手に操られて襲ってくるんだ!もっと強力な武器を寄こして下さい!」
無線機の向こうからは、すでに米軍の中隊が向かったとの返答が来る。
しかし鏑木は「ちまちまやったって意味ないんですよ!」と怒鳴った。
「いくら人がいようが、このままじゃ死人が増えるだけです!もっと強力な武器で、一息に焼き尽くさないと・・・・、」
そう怒鳴った時、我が耳を疑うような言葉が返ってきた。
「・・・・・は?化学兵器?」
一瞬固まり、無線機に向かってポカンと口を開ける。
「・・・・・ええ・・・・ええ・・・・・。ああ・・・・・・・。」
マヌケな声を出しながら、「了解しました」と切る。
「・・・・・・・マジか。」
ゴクリと息を飲み、山の方を見つめる。
近くにいたオペレーターが、何かあったのかという目で見つめていて、鏑木はこう答えた。
「化学兵器を使用するそうだ。」
「え?か、化学・・・・?」
「米軍が持って来る。ミサイル装甲車から、一発だけ発射される。」
「ミサイルから・・・・・・、」
「米軍の応援が到着する前に、俺たちはこの場から離れろとさ。」
「・・・・でも・・・・そんな物を使用して大丈夫なんですか?」
「分からん。ただ奴らには毒が有効だそうだ。」
「しかし化け物を殲滅したとしても、後には毒が残るんじゃ・・・・・、」
「そうかもな。でもこのままだと、化け物はいずれ街へと侵攻していく。そっちの被害の方が大きいと踏んだんだろう。」
そう言って空を見上げ、蚊柱のごとく舞う蝶を睨んだ。
「こいつらは全部コピーみたいなもんだ。親玉を仕留めることが出来れば、あとは俺たちだけでも何とかなる。」
大群の奥にはミノリの本体が控えていて、不敵な笑みをたたえている。
鏑木は彼女を睨みながら、ゆっくりと視線を下ろした。
「・・・・山から新しい化け物が湧いて来てるが、あいつらはなんで俺たちに味方する?」
先ほどから、山の麓から新手の化け物が現れていた。しかもなぜか人間に味方をしている。
ツチノコやのっぺらぼう、そして川からは河童やチュパカブラ、そして空からはスカイフィッシュや巨大なムカデが現れ、蝶の大群と戦っている。
それにウネウネと不気味に動く影の化け物や、ライオンの頭にアリの身体を持った化け物、白い煙の姿をした化け物や、人の顔をした蜘蛛など、多くの化け物が溢れてくる。
極め付けには見上げるほど巨大な雪男まで現れて、冷たい息をばら撒いた。
自衛隊も警察もどよめき、とうとう怪獣まで現れたと、気が狂って笑いだす者もいた。
そしてそれらのすべての怪物が、人間に味方している。
・・・・いや、正確には、ミノリの敵として暴れている。
新手の化け物たちは、必ずしも人間を守ろうとはしていない。
ただミノリに戦いを挑んでいるようだった。
鏑木は息を飲み、「おかげで助かってるが・・・・・」と戸惑った。
「しかしいつ俺たちに襲いかかって来るか分からん。好きに暴れられても混乱するだけだし・・・・こいつらごと毒で葬るってのは、悪い手じゃないよな。」
地上、空、川、至るところで戦いが繰り広げられて、人間も化け物も命を落としていく。
まるで地獄絵図のような光景の中で、鏑木は任務に集中した。
彼に下った任務は、例え死んでも化け物の侵攻を食い止めること。
自分も銃を持ち、群れから逸れた蝶を撃ち落とした。


            *


麓での戦いが激しさを増す頃、警視庁から一機のヘリが飛び立った。
そこには沢尻、東山、そしてSATのメンバーが乗り込んでいて、向いには早苗を連れて来たスーツの男が座っていた。
その横には公安の幹部も座っていて、沢尻と東山にこう話した。
「化学兵器の使用許可が下りました。米軍の装甲車から、一発だけミサイルが発射されます。」
「ミサイルで・・・・、」
東山が唸る。
「そんなことをしたら、それこそ甚大な被害が・・・・、」
「範囲を限定できるように、威力を抑えてあります。要は敵の親玉であるミノリを叩けばいいわけですから。」
「まあ奴さえ死ねば、あとは俺たちだけでも戦えそうだが・・・・それでもな。ミサイルでってのは・・・・、」
「あなたが進言したんですよ?」
「それを言われちゃ黙るしかない。」
東山は憮然としながら、「しかしどうして俺たちまで亀池山に向かうんだ?」と尋ねた。
「いきなりヘリに乗れと言われて、しかも行き先はあの山だ。今は自衛隊と米軍が奮闘していて、俺たちが行っても邪魔なだけだろう?」
「沢尻さんがいるじゃないですか。彼はもうほとんど化け物だ。きっと戦力になってくれる。」
そう言って、公安の幹部は沢尻に目を向けた。
「虫のような複眼に、頭には触覚。それに舌には針が伸びて、おまけに大きな羽まで生えている。」
「わざわざ口に出さんでもいいだろう。」
東山は苛立たしそうに言う。
すると沢尻は「事実なんだからしょうがない」と笑った。
そして肉挽き刀をカツンと床に鳴らし、「あんた・・・・・、」と目を向けた。
「名前は?」
「・・・・・・・・・。」
「本名じゃなくていい。名前がないと話しづらい。」
「では山田と呼んで下さい。」
「なら山田さん・・・・幾つか聞きたいことがある。」
そう言って肉挽き刀を持ち上げ、「こいつに塗る毒は貸してもらえるんだろうか?」と尋ねた。
「ミサイルでぶっ放す許可が出たんだ。刀に塗る分くらいは貸してもらえるんだろ?」
「ああ、その事なんですが・・・・、」
山田は小さく咳払いをしてこう答えた。
「ご自身の毒を塗ってはどうですか?」
「俺の毒?」
「ええ。あなたはアチェを飲み込んで、彼女とよく似た化け物になったんでしょう?」
「そうだ。」
「だったら毒針があるはずです。それに嘔吐を引き起こす鱗粉も。」
「それはそうだが、一撃で緑川を仕留められるようなものじゃない。」
「残念ですが、米軍はウチには毒は貸せないと。」
「どうして?」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・ああ、なるほどな。」
沢尻はすぐに頷き、「ミサイルに積んでる毒は、新しく開発した兵器ってことか?」と尋ねた。
「どうせあの国のことだ。いい実験になると思って使うつもりなんだろう?」
「さあ?」
「だからわざわざ米軍が出張って来たんだ。化け物を潰すだけなら、自衛隊に貸せば済む話なのに。」
「どう想像しようと自由ですが、あなたに貸せる毒はありません。どうしてもというなら、ご自身の毒を。」
山田は肩を竦め、「力に慣れなくて申し訳ないが・・・・」と誤魔化した。
「何が起きても、今のアホ総理に責任を取らせれば済むもんな。あんたらは痛くも痒くもない。」
「先ほども言ったように、想像は自由です。」
「答える気はないってことか。」
そう言って「なら次の質問だ」と尋ねた。
「このままヘリで向かってたら時間が掛かり過ぎる。」
「一時間というところですね、ここからだと。」
「だったら俺だけ先へ行く。」
「その羽で飛んで行くんですか?」
「多分その方が早い。」
「そうかもしれませんが、単騎で突っ込んでもやられるだけかもしれませんよ?」
「いや、そうはならない。」
「なぜ?」
「俺は前線には行かない。少し離れた場所で待機する。」
「ほう。」
「何がほうだ。元々そうさせるつもりなんだろう?」
「というと?」
「俺も東山も、対緑川用に当てるつもりなんだろ?なら前線に行って死なれちゃ困るだろうが。」
「まあ・・・・そうですね。」
「緑川は必ず「こっち」へ現れる。ミノリを殺す為に。」
「ええ。」
「しかしその為には、また大量殺人を犯さないといけない。刀が短いままじゃ戦えないからな。」
「はい。」
「俺はそんな事を見過ごすことは出来ない。奴が再び殺人を犯す前に止めてみせる。」
「あなたならそうするでしょうね。」
「警察ならそうするべきなんだよ。でも相手は緑川だから、普通の警官じゃ止めることは出来ない。」
「死人が出るだけです。」
「だから俺がやるべきなんだ。でもそうなると、俺はあんたらの指示を無視して、好きなように動き回る。それをされると困るから、こうしてわざわざ前線の近くまで運ぶんだろう?
あそこで待っていれば、いずれ必ず緑川が現れるから。」
「奴はミノリを殺したがっているようですからね。姿を見せる可能性は高いでしょう。」
「でもそこに緑川が現れるってことは、すでに大量殺人を犯した後だ。」
「そうなりますね。」
「だから俺だけでも先に行かせてほしい。化け物になったおかげで、こんな物まで生えてきたんだから。」
そう言って背中の羽を揺らした。
「こいつで飛んでいって、緑川を捜す。そして犯行に及ぶ前に仕留める。」
肉挽き刀を構え、ゆっくりと山田に向けた。
「条件は対等だ。」
「・・・・・・・・・。」
「お互いに化け物で、お互いに強力な武器を持ってる。それに毒だって。」
「・・・・・・・・・・・。」
「緑川は異常なほど勘の鋭い奴だが、それは俺だって同じだ。俺は今までずっとあいつを追いかけてきた。一度は銃弾だってぶち込んだんだ。
だから今回だって必ず見つけ出し、仕留めて見せる。」
「・・・・・前線の状況はひっ迫しています。もしかしたら、沢尻さんにも参戦してもらないといけないかもしれません。」
「だったら尚の事、俺だけ先に飛んで行った方がいいじゃないか、違うか?」
「・・・・・・・・・・・。」
「化け物どもはずっとこっちにはいられない。二時間ごとに「向こう」へ戻る必要がある。」
「ええ・・・・・。」
「ミノリの分身は残ってるだろうが、それ以外の奴らはいったん退く必要がある。」
「そうですね。」
「だったら俺が前線へ行かないからって、すぐにどうこうなったりはしないという事さ。」
「・・・・・・・・・。」
「それにな、奴らは「こっち」と「向こう」の行き来は自由だが、しかしどこへでも出られるわけじゃない。
「こっち」から「向こう」へ帰るのは楽だが、「向こう」から「こっち」へ来るとなると、亀池山にいないといけないはずだ。
もしどこへでも自由に出られるのなら、ミノリは最初から市街地を襲ってるはずだからな。」
「・・・・・そうでしょうね。もしそんな事が可能なら、奴らはどこでもドアを持ってるのと同じだ。勝ち目はない。」
「ならしばらくは大丈夫さ。自衛隊も米軍も、それに警察だって奮闘している。それに今は妖怪やUMAの加勢もあるし、ある程度は時間が稼げるだろう。」
「どうしても自分を自由にしろと言いたいわけで?」
「緑川を追いかけるなら、フットワークは軽い方がいい。」
「要するに集団行動が苦手なんでしょう?」
「群れて行動するのは好きじゃない。」
「警察は組織ですよ?探偵じゃない。」
「そういう性分なんだ。」
「よく今までクビになりませんでしたね。」
「勘がいいんでな、検挙率だけは高いんだよ。それでクビが繋がってる。」
「・・・・・・・・・・。」
「だから俺だけ独立部隊ってことにしてくれ。」
「それはいけません。」
「なあ・・・・あんただって警察の人間じゃないか。この状況で最も良い選択は、俺を自由にさせることだ。そう思うだろ?」
「同業者でも、あなたは刑事、私は公安、全然違います。」
「公安だからこそ、この状況では融通を利かせてくれよ。なんたって国家の危機なんだぞ?」
「ええ。」
「俺は必ず緑川を仕留めてみせる。それを信じてもらえないか?」
「申し訳ないが、あなたを亀池山に連れて行くのが私の仕事でね。個人的には応援したいが、そうもいかないんですよ。」
「須藤長官の命令か?」
「そうです。」
「あんたはえらくあの人と仲が良さそうだったが・・・・次の長官の椅子でも狙ってるのか?」
「まさか。」
山田はとんでもないという風に笑う。
「そういうものに興味はありません。今の仕事が好きなだけです。」
「一生現場にってやつか?」
「そうです。」
「そうか、なら俺と同じだ。出世なんざクソくらえ、現場に出てこそ刑事だ。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・沢尻さん、刀を下ろして下さい。」
山田はそう言って、目の前に突き付けられた刀を払った。
「今のあなたに暴れられたら、我々では止められません。」
「わざわざ暴れる必要もないさ、鱗粉をばら撒けばな。」
「そんな事をしたらヘリごと落ちてしまいますよ。」
「そうだな。でもうんと言ってくれないなら、やるかもしれない。」
「馬鹿な・・・・・、」
「そう思うか?俺ならやりかねんぞ、なあ?」
そう言って東山に目を向けると、「俺に振るな」と顔をしかめた。
「行きたいなら行けばいいだろう。誰もお前を止めることは出来ない。」
「それは化け物になったからか?」
「なってなくてもだ。お前がどれだけイカれてるか、嫌というほど知ってるからな。」
「それは褒め言葉か?」
「どう受け止めたら褒め言葉になるんだ?骨の髄までおかしくなったか?」
「元々だ。」
肩を竦めて笑うと、東山はため息まじりに首を振った。
「山田さん、行かせてやれよ。」
「・・・・・・・・・・。」
「こいつは無理にでも行こうと思えば出来る。でもそうしないのは、一応義理は通したいからだ。」
「義理?」
「こいつは頭はイカれてるが、そういうとこだけは律儀でな。だから心底嫌いになれない。」
「・・・・・・・・・・。」
「無理に出ていけば、後であんたが責められることになる。」
「逆じゃないですか?無理に出て行ってくれた方がありがたい。許可を出したらそれこそ責められる。」
「あんたを見張りとして置いてるってことは、長官はあんたを信頼してるってことだ。ならあんたが許可を出したなら、それはそれで問題ないってことだ。」
「そうですね。」
「なら行かせてやってくれ。じゃないとこいつは無理にでも出て行く。あの長官のことだ、あんたが使えないと踏んだら、すぐに切り捨てるだろう。」
「何人もそういう人を見て来ました。」
「だろう?だからこいつの気持ちを汲んでやってくれ。これはあんたの為にやってることなんだ。」
「別に私は困りませんよ?」
「ド田舎の署で、電卓を叩くだけの仕事をさせられるかもしれんぞ?」
「それはあり得ません。私を切るということは、長官も自分の首を絞めることになりますから。」
「ほう・・・・やっぱりずいぶん仲がいいんだな。」
「ええ、そりゃもう。」
ニコリと微笑み、「でも沢尻のさんの心遣いには感謝します」と言った。
「現場こそ命って考え方は、嫌いじゃありません。」
「俺だってそうだ。デスクワークなんざ御免だ。」
「東山さんもですか?」
「当たり前だ。一日中椅子に座ってるくらいなら、100キロ行軍でもした方がマシだな。」
「ならこの場所には、現場が好きな人間しかないわけですね。」
山田は可笑しそうに笑い、自分の手元を見つめる。そして小さな声で「30分」と言った。
「デスクワークが溜まってましてね。移動中に済ませてしまおうと思います。まあ30分もあれば終わるでしょう。」
そう言って隣の部下に手を出すと、薄いノートパソコンを寄こしてきた。
「ブラインドタッチが出来なくてね。だからパソコンをいじってる間は、他のものが目に入らない。」
パソコンを開き、カタカタとキーボードを叩き始める。
その目は液晶しか見ておらず、慣れた手つきでキーボードを打っていた。
「・・・・・感謝する。」
沢尻は立ち上がり、ドアの方へと歩く。そして背中の羽を伸ばし、軽く羽ばたいて見せた。
「いけそうなだ・・・・。」
そう言ってドアを開け、外に流れる風を受ける。
すると東山が立ち上がり、「ほれ」と何かを差し出した。
「GPS、パソコンが終わるまでに戻って来なきゃならんだろ?」
キーボードを叩く山田に目を向けながら、「ほら」と押し付ける。
しかし沢尻は首を振り、「それがなくても戻って来れるさ」と言った。
「化け物になって、前よりも勘が鋭くなってるんだ。遠くにいても、多分お前らの気配を探ることは出来る。」
そう答えると、東山は「正真正銘の化け物だな」とGPSを引っ込めた。
沢尻は小さく笑い、ドアの縁に足を掛ける。
眼下には小さく街が映っていて、ここへ飛び出すのかと、少し勇気がいった。
もう一度羽を動かし、「・・・・大丈夫だよな?」と自分に言い聞かせる。
そしてスカイダイビングのように派手に飛び出そうとした時、「沢尻」と東山が呼んだ。
「・・・・亀池山で待っている。」
沢尻は頷き、笑みを返す。そして思い切り外へ飛び出すと、風に煽られてバランスを崩した。
東山は身を乗り出し、ヒヤヒヤしながらその様子を見つめた。
沢尻は不器用に羽を動かしながら、どうにか体勢を立て直そうとする。
まるで初めて歩く幼児のように、フラフラと方向が定まらない。
しかしどうにか身体を安定させて、前に進んでいった。
しばらくするとコツを掴み、器用に旋回までして見せる。
そして遥か上空まで舞い上がり、そのまま遠くへ消えていった。
東山はじっと見送り、「もし緑川を見つけたら、戻って来ないだろうな・・・・」と呟いた。
「勝つにしても負けるにしても、激しい戦いになるだろう。30分で終わるはずがないぞ?」
そう言って山田を振り返ると、パソコンから顔を上げようとしない。
我関せずという感じで、返事すら寄こさなかった。
東山は空を見上げ、自分にも羽があればと思った。

グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十一話 父と娘(2)

  • 2016.03.31 Thursday
  • 11:27
JUGEMテーマ:自作小説
ドアの向こうから現れた女性を見て、沢尻は驚く。
「早苗・・・お前病院じゃないのか!?」
「うん・・・・そうだっんだけど、こっちの人が・・・・・、」
早苗はスーツの男に目を向ける。
「・・・・・公安か?」
沢尻が尋ねると、公安の幹部が頷いた。
「あなたの話を聞いていて思いました。これは娘さんと話し合ってもらう必要があると。」
「何がだ?」
「もしあなたが負けた時、化け物の子供を産むんでしょう?そしてそれを娘さんに育てさせるつもりだと。」
「・・・・・もしかして・・・・そのこと早苗に話したのか?」
「ええ。そうしたらお父さんに会いたいと言うから、こうして来てもらいました。」
そう言ってケータイを取り出し、「ついさっき呼んだんですよ」と笑った。
「目を盗んでコソコソ話か。いかにも公安らしい。」
沢尻は早苗に目を向け、「お腹の子は無事か?」と尋ねた。
「うん・・・・全然大丈夫。」
「そうか・・・・。緑川と戦ったんだってな、怖かっただろう?」
「うん・・・・・。」
「よく生きててくれた・・・・・ホッとした。」
「それなら・・・・・最初に会いに来てほしかったな・・・・。」
早苗は腹をさすり、思いつめた顔で俯いた。
「なあ沢尻。」
警察長官が口を開き、「いくら何でも、娘に話くらい通しておくべくだろう」と言った。
「お前が緑川に負けたら、この子は化け物の子を育てなきゃならない。それをいきなり押し付けるってのは、いくら親子でも無粋だろう?」
「・・・・なら・・・・俺が最初に提案した作戦を・・・・、」
「それしかなさそうだからな。」
そう言って公安の幹部に目配せをする。
「我々は、最初から沢尻さんの案を受け入れるつもりでいましたよ。ねえ長官?」
「うん、まあ・・・・一番良い方法かなあと。」
「倫理的な問題は多々ありますが、そもそも今起きている事自体が、倫理どうこうを超えています。
それに対抗する為には、こっちも倫理で物事を選んでいられませんので。」
二人は立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
「東山。」
長官は足を止め、「辞めるのは自由だがな・・・・」と前置きしてから切り出した。
「それはこの件が終わってからにしろ。」
「・・・・いいんですか?もう辞めるって言っちまったのに。」
「ならせめて沢尻と娘の話が終わるまで待ってろ。決めるのはそれからでもいいだろ。」
そう言ってから「それでいいよな?」と総監に尋ねた。
「別に私はどっちでも。」
「東山の代わりなどそうそうおらんだろ。こいつが抜けて苦労するのはお前だぞ。」
「そうですかね?事態が収拾出来なけりゃ連帯責任でしょ?」
「いや、俺は取らんよ。この件の総指揮はお前に任せてるわけだし。」
「警察の中ではね。でも全体の指揮を取ってらっしゃるのは官房長官だ。」
総監はゆっくりと立ち上がり、「ご決断を」と促した。
「本当なら総理に委ねなきゃなりませんが、アレは使い物にならんでしょ。だから官房長官がお決めになって下さい。」
そう言って長官、総監、公安の幹部の三人で見下ろした。
「・・・・・・・・・・・。」
決断を迫られた官房長官は、「お前ら・・・・・、」と睨みつける。
「俺が警察の出身じゃないからって・・・・この扱いはないだろう。」
苛立ちを誤魔化すように、トントンと足を踏み鳴らす。口元は歪み、神経質に爪を噛み始める。
「今までの全部芝居か?お膳立てだけしといて、最後は俺に丸投げするつもりだったんだろう?」
「まさか。」
長官が笑う。
「何がまさかだ。白々しい・・・・。」
「たまたまですよ、こうなったのは。なあ?」
そう言って公安の幹部に目を向けると、無言で肩を竦めた。
長官も肩を竦め返し、官房長官に顔を近づけた。
「官房長官、あなたが次の総理に推薦しようとしてる豊川大臣、我々も全力で応援させて頂きます。」
「ん?」
「対立候補は警察出身の馬場君でしょう?本来ならそっちを応援したいのですが、我々は豊川外務大臣を応援させて頂こうかなと思っております。」
「・・・・うん。」
「豊川大臣といえば、官房長官が育てたも同然の方です。そんな方に総理になって頂ければ、この国も良い方向に向かうんじゃないかなあと・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「我々一同、是非ご協力させて下さい。」
そう言って軽く頭を下げると、官房長官は表情を和らげた。
足踏みをやめ、への字に曲がっていた口が元に戻る。
「・・・・あのね、この件の最高責任者は私じゃないから。」
「はい。」
「これは一国を揺るがすほどの事態で、官房長官ごときが責任を取れるようなものじゃない。」
「ええ。」
「だったら誰が責任を取るべきか・・・・ハッキリしてるよね?」
「もちろん。」
「なら良い。」
官房長官はニコリと微笑み、軽い足取りで立ち上がる。
「総理が交代する日も近いですな・・・・。」
総監が苦笑交じりに呟くと、誰もが白々しい態度で宙を睨んでいた。
「・・・・というわけで、後は親子で話し合え。ただしそう時間は取れないからな。」
長官は沢尻の肩を叩き、東山の肩も叩いて頷きかける。
そして早苗にも小さく微笑みかけ、他の者と連れだって部屋を出て行った。
「・・・・・・・・・・。」
後には沢尻、早苗、そして東山が残される。
「・・・・・・俺も出るよ。」
そう言って東山が出て行こうとすると、「いや、ここにいてくれ」と沢尻が止めた。
「あんたには迷惑かけっぱなしだからな、こんな大切な場面で除け者には出来ない。」
「馬鹿を言うな。これは親子で話し合うべき事だ。部外者がいたら邪魔なだけだ。」
踵を返し、ドアへ向かおうとする。すると早苗も「いいんです」と引き止めた。
「ここにいて下さい。」
「いや、しかし・・・・、」
「お父さんがこんな風に言うなんて、滅多にないんです。それって、東山さんのことをそれだけ信頼してるってことですから。」
「こんな狂人に信頼されても・・・・、」
ぶっきら棒に言い捨てるが、その表情は満更でもなかった。
「お父さんが信頼する人なら、私だって信用します。だから・・・・・一緒に聞いてて下さい。」
早苗の声は静かで力強く、幼い顔立ちとは似合わないほど迫力に満ちていた。
東山はボリボリと頭を掻きながら、「やっぱり親子だな・・・」と小声で笑う。
「分かったよ。そこまで言うなら俺も聞かせてもらおう。」
そう言って、腕を組んで壁にもたれ掛かった。
部屋には沈黙が流れるが、それを最初に打ち破ったのは早苗だった。
「お父さん・・・・その目・・・・・、」
「ああ、もうじき化け物になる。」
「・・・・・痛い?」
「最初は痛かったが、今は平気だ。まるで万華鏡のように見えて面白いぞ。」
冗談交じりに言って、すぐに真顔に戻る。
「早苗・・・・お父さんがこんな身体になることを選んだのはな・・・・・、」
「分かってる。アチェの子供を産む為でしょ?」
「緑川の子供でもある。」
「あいつ・・・・最悪の人殺しだよね・・・・。吐き気がするくらい嫌な奴。」
「お前は俺と似てるからな、ああいうタイプは一番許せないだろう。」
「当たり前じゃん。あいつが警察署で何をしたか・・・・・、」
そう言って、早苗は唇を噛んだ。
「何も出来なくて悔しかった・・・・・・、」
「いや、お前は立派に戦ったよ。半田なんて警察の偉いさんは、ブルブル震えてただけだからな。自分が責任者だったてのに。」
「普通はそうなると思うよ。でも私にはミントがいたから・・・・・、」
「ああ、お前は凄いよ。ケントにしか心を開かなかったUMAが懐いたんだ。そして一緒に戦った。本当に立派だ。」
沢尻は優しい目で頷きかけ、「でもな・・・・」と続けた。
「俺が産むかもしれない子供は、緑川の子でもあるんだ。」
「お父さんも充分凄いよ。よくそんなの産もうと思ったね、やっぱどこかズレてるっていうか・・・・そりゃお母さんも愛想尽かすよ。」
「それは自覚してる。」
笑いながら言い、「でもお前も大概だがな」と言った。
「いくらUMAと手を組んでるからって、あの緑川と戦ったんだ。普通じゃ出来ない。」
「普通じゃない父親を持ってるからね。私も頭がおかしいのかも。」
「そんな事はないさ。お前は良い子に育ってる。」
「お母さんのおかげでね。」
今度は早苗が笑い、「お父さんに育てられてたら、今頃刑事になって殉職してたかも」と肩を竦めた。
「うん、まあ・・・・・否定出来ないのが辛いところだ。」
「私ももうじきお母さんになるわけだし、ちゃんと育てないとね。絶対に刑事にはさせないから。」
「それがいい。」
沢尻は自嘲気味に笑う。
早苗は真顔に戻り、「私の答えはもう決まってるんだ」と言った。
「もしお父さんが緑川に負けちゃったら、私はどうするか決めてる。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「その時は私が戦う。」
「お前が?」
意外な答えに、沢尻は戸惑う。
「だってそうでしょ?生まれて来る子供にそんなの押し付けるわけにいかないじゃん。」
「いや、しかし・・・・、」
「言いたいことは分かってる。もし化け物の子供が生まれたら、ちゃんと戦えるように育てろって言いたいんでしょ?」
「ああ・・・・。」
「そして私の子供とパートナーを組ませるつもりでいる。」
「そうだ。幼い頃から一緒に育てば、信頼関係も築けるだろう。そうすればきっと良いパートナーになれる。」
「そうかもね。でもそれは出来ない。私は自分の子供にそんなことをさせるつもりはないし、それに・・・・・、」
「それに?」
「・・・・小さい頃から育てたりしたら、きっと化け物の子供にだって愛情が湧く。そうなったら・・・・緑川と戦わせるなんて出来ないから。」
そう言って早苗は、自分の腹に手を当てた。
「だから私がやる。お父さんが化け物の子供を産んだら、私がそれを飲み込む。そして私も化け物になって、お父さんの仇を討つ。」
「・・・・・・・・・・。」
強い口調で言い切る早苗に、沢尻は言葉を失くす。
痒くもないのに鼻を掻き、「早苗・・・・、」と呼ぶ。
「そんなことはお母さんが許さないだろう。」
「孫を戦わせることだって許さないよ。」
「そうだな・・・。でもこれは前にも言ったが、お父さんはまだ見ぬ孫のことよりも、お前の方が大事なんだ。だからお前を戦わせるなんて・・・・・、」
「お母さん昨日死んだよ。」
「何?」
唐突に言われて、沢尻はポカンと口を開ける。
「昨日蝶の大群が襲って来たでしょ?あの時家の方にまで来て・・・・・、」
「やられたのか・・・・・?」
「蝶を追いかけて来た自衛隊が、ヘリコプターの機関銃を撃ったの。その流れ弾が家に当たって、一階が滅茶苦茶になった・・・・。中には母さんがいて、それで・・・・・、」
「・・・・・・・・・・・。」
「今のお父さんも一緒にいた。二人とも・・・・すごく酷い状態で・・・・、」
「・・・・・・・・・・・。」
「私の家だけじゃなくて、他の家にも当たって死んだ人がいる・・・・。まだ避難が終わってない地区だったのに・・・・・焦ったヘリコプターが勝手に撃って・・・・・、」
「・・・・・・・・・・・。」
「病院で聞かされたの・・・・今日の朝・・・・・。さっきのスーツを着た人に・・・・・。お父さん以外には、このことは言うなって」
「・・・・・あいつら・・・・隠蔽してたのか・・・・。」
沢尻は拳を握り、血管を浮かび上がらせる。
今すぐにでも彼らを追いかけ、殴り飛ばしたかった。
しかし早苗はまだ言葉を続けようとしていて、それを聞くまではここを離れるわけにはいかない。
深呼吸して怒りを抑え、拳から力を抜いた。
「・・・・・遺体は?」
「自衛隊の基地に・・・・。でもすごく酷い状態だからって、私は見せてもらえなかった。」
「なら間違いという可能性もあるんだな?」
「・・・・・分からない。さっき私を連れて来た人に、そう言われただけだから・・・・・、」
「お母さんと連絡は?」
「着かない・・・・。」
「そうか・・・分かった。後はお父さんに任せとけ。」
「任せとけって・・・・・何を?」
「亡くなったのがお母さんかどうか確認する。もしそれが事実だったら、民間人を誤射した事実を隠蔽したことになる。」
「そんなの私でも分かるよ。」
「だったらその事実を公表しないと。さっきまでここに座ってたクソ共を、今の椅子から引きずり降ろしてやる。」
そう言って再び拳を握ると、「戦う相手が違うじゃん」と早苗は言った。
「お父さんが戦うのは緑川でしょ?」
「もちろんだ。しかしもしお母さんが誤射されていたなら、それを放っておくわけには・・・・・、」
「何言ってるのよ・・・・緑川を放っておいたら、もっとたくさんの人が死ぬじゃない・・・・・。だったらそっちをどうにかしてよ、その為に化け物になったんでしょ!」
早苗はテーブルを叩き、「お父さんは何も分かってない!」と怒鳴った。
「何でもかんでも正義を求めたって、結局何も出来ないじゃん!だったら一番悪い奴をどうにかしてよ!あいつがいなかったら、誰も不幸にならなかった!!」
「早苗・・・・、」
「お母さんが死ぬこともなかったし、お父さんが化け物になることだってなかった!信ちゃんだって、化け物に操られずに済んでたかも・・・・、」
そう言って顔を覆い、「全部あいつが悪いんだ!」と吠えた。
「あいつが憎い!ぶっ殺してやりたい!」
「・・・・・・・・・・・。」
「この手で殺してやりたい!何にも悪いことしてない人をたくさん殺して、今でも平気で生きてる!そんなの絶対に許せない!私が・・・・この手で・・・・、」
そう言って頭を抱え、うずくまるように泣き崩れた。
沢尻は早苗の隣に腰を下ろし、そっと肩を抱く。そしてあやすように背中を撫でた。
「・・・・すまん・・・・お父さんが不甲斐ないせいで・・・・、」
「違う!誰も悪くない!悪いのは全部緑川よ!」
「・・・・そうだな・・・・あいつがいなけりゃ、ここまでの事にはならなかったかもしれんな・・・・・。」
「・・・・復讐させてよ・・・・。私もあいつと戦いたい・・・・・。」
早苗は抑えていた感情をぶちまけ、か細い声で泣き続ける。
沢尻は強く抱きしめながら、娘にこれ以上の負担はかけられないと思った。
顔を上げ、後ろを向くと、東山が立っていた。
「・・・・もういいだろう。」
東山は神妙な顔でそう言った。
「・・・・・・・・。」
その一言で、早苗に化け物の子供を預けることを諦める。そして拳銃のホルダーを開け、一輪の花を取り出した。
そこには小さな花弁がついていて、「花が・・・・」と見つめた。
「それは?」
東山が尋ねる。
「山を下りる時に話したろう。ケントからの預かり物だ。」
「ああ・・・・それがそうなのか。」
「ミノリが緑川に勝ったら、これを握りつぶして「向こう」を消滅させる。逆にもし緑川が勝ったら、これを飲み込まないといけない。」
「飲み込むとどうなるかは・・・・、」
「さあな?飲み込んでからのお楽しみだ。」
そう言って花を揺らし、「これは最後の切り札だ」と睨んだ。
「もしミノリが緑川を殺したならば、俺は迷わずこれを握りつぶす。そうすればケントは死に、巨大なイナゴが解き放たれる。そして「向こう」を完全に喰らい尽くすんだ。」
「そうなれば、ミノリは放っておいても死ぬな。」
「ああ、しかし緑川はどんな手を使っても生き残ろうとするだろう。そしてずっと「こっち」の世界で猛威を振るい続けるはずだ。」
「なら安易に使えないな、それは。」
「ああ・・・・。化け物どもを殲滅するってだけなら、これを潰せば終わるんだが・・・・そう簡単にはいかない。」
「なら・・・・いっそのこと飲み込んでみるか?」
「・・・・嫌な予感しかしない・・・・・。」
花弁をつけた花を見つめ、そっとホルダーに戻す。
「これを使うのは最後の最後だ。」
「なら・・・・、」
「緑川を仕留める。さっきから腹の底がウズウズしててな。もうじき完全な化け物になるんだろう。」
「分かった、じゃあ肉挽き刀を貰ってこよう。」
東山は足早に部屋を出て行く。肉挽き刀をもらう為、そして最後の親子の時間を邪魔しない為に。
残された沢尻は、ポンポンと早苗の頭を撫でる。
「早苗・・・・・正直言うと、お父さんは自信がない。」
そう言ってテーブルに目を落とす。よく磨かれた表面は鏡のようで、複眼に自分の姿が映る。
「多分・・・・いや、きっとお父さんは死ぬ。」
「・・・・・・・・・・。」
「でもお前は一人になるわけじゃない。子供が生まれて来るんだから。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「だけど緑川がいたんじゃ、お父さんは安心して死ねない。だから決してタダではやられない。何としても緑川を仕留めて見せる。
お前にも、生まれて来る子供にも何も背負わせたりはしない。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「でもな・・・・もしそれでも化け物の子供を産む羽目になったら、その時は・・・・・、」
その時はそいつを殺してくれ。そう言おうとして、すぐに口を噤んだ。
何も背負わせないと言っておきながら、これではただ早苗を追い詰めるだけだと首を振った。
「すまん・・・・今のは忘れてくれ。もし化け物の子供が生まれてきても、それはお父さんが責任を持つ。お前は何も背負わなくて・・・・、」
そう言おうとした時、早苗は「面倒見るよ・・・・」と顔を上げた。
「殺したりなんかしない・・・・ちゃんと面倒を見る・・・・。」
「それは・・・・・、」
「だって殺すなんて可哀想じゃん!何も悪いことしてないのに・・・・。だから私が面倒を見る。」
「いや、それはお父さんの望むことじゃ・・・・、」
「私はお父さんの娘だから、その子を育てる。それでお父さんの意志を引き継いで、きっと緑川をやっつける。だから・・・・・心配しないで。」
赤く腫れた目で見つめ、「私だって戦えるよ」と微笑んだ。
「一度緑川と戦ってるんだから。あの時は負けちゃったけど、でも次は勝ってみせる。だからお父さんは何も心配しないでいいよ。
私のことや生まれて来る子供のことを気にせずに、緑川と戦って。そうじゃなきゃ・・・・きっとあいつには勝てない。」
「早苗・・・・。」
「誰かを守るとか、誰かを助けるとか、そういうのじゃきっと勝てない。ただ緑川を倒すってことだけ考えてないと、あいつには勝てないよ・・・・。」
娘にそう言われて、沢尻は「そうだな」と頷く。
早苗の方が、今何をすべきかよく分かっている。
いったい何の為に化け物になろうとしているのか、もう一度自分に言い聞かせた。
腹の底からは、おぞましい衝動が湧き上がる。
身体全体を包み込むような、不気味で得体の知れない感覚が駆け巡る。
沢尻は激しい痛みに襲われ、その場にうずくまった。
東山が肉挽き刀を持って来る頃、右目もUMAに変わっていた。

グレイヴ&リーパー〜墓場の王〜 第六十話 父と娘(1)

  • 2016.03.30 Wednesday
  • 14:18
JUGEMテーマ:自作小説
どんな物にも区別は必要で、それが無くなるというのは恐ろしいことだった。
下手に薬と薬を混ぜると毒となるように、燃える油に水をかけるとさらに炎上するように、物事の境界線が消えるということは、身体を蝕む病魔のように全てを侵すことがある。
今、亀池山の麓では、その境界線が失われつつあった。
沢尻と東山が「こっち」へ戻って来て一日、亀池山の麓では異様な世界が広がっていた。
大きな蝶の化け物が飛び交い、毒の槍を持った真っ白な怪人が暴れ、人の何倍もある巨大な手が死者を操っていた。
警察も自衛隊も、そんな化け物の侵攻を防ぐ為に、地獄のような死闘を演じていた。
銃弾が飛び交い、砲撃やミサイルが飛び交い、そこら中に死体が転がり、足の踏み場もないほど血に溢れている。
麓の川にその血が流れ込み、真っ赤に染まって唐辛子のスープのようになっていた。
周囲の住人は避難を余儀なくされ、代わりに大勢の警察や自衛隊、それに報道陣が詰めかける。
自衛隊の制止を無視した報道のヘリが、巨大な蝶の群れに張り付かれ、混乱したパイロットが操縦を誤る。
ヘリは真っ逆さまに墜落し、下で戦っていた機動隊の元で爆炎を上げた。
「おい!侵入する奴は民間のヘリでも撃墜しろ!無駄な死者が出る!」
そう叫んだのは鏑木で、大隊の指揮を取りながら怒号を上げた。
化け物と人間は一進一退の攻防を繰り広げているが、明らかに人間の方に分が悪かった。
戦力は拮抗していても、誰も化け物と戦うことに慣れていなかったからだ。
警察も自衛隊も次々に応援が到着するが、化け物を見て思わず息を飲んだ。
辺りは血が溢れる戦場になっていて、それを見ただけで足が竦む。
「こんなの警察の仕事じゃない!」とその場で辞めようとする者もいたし、「化け物と戦うなんて想定してないぞ!」と叫ぶ自衛官もいた。
しかしそれでも、誰かが戦わねば化け物が街に押し寄せる。いや、すでに昨日までは押し寄せていた。
蝶の化け物の大群が、人間の街を襲撃していたのだ。
自衛隊の奮闘のおかげでどうにか殲滅出来たが、多くの被害をもたらした。
警察も自衛隊も多数の死者を出し、何百人という民間人も犠牲になった。
そして今日、化け物が溢れて来るこの山で、戦いを繰り広げていた。
もし自分たちだけで手に余るようなら、在日米軍にも協力を依頼する準備は出来ていた。
すでに幾つかの米軍基地は、出動の準備を整えていた。
それほどまでに過酷な戦いの中、沢尻と東山は前線に行くことを許されなかった。
二人は警視庁にいて、上司にこれまでの詳しい経緯を説明させられていたからだ。
目の前には警察庁長官、警視総監、顔も名前すらも知らない公安部の人間、それに内閣官房長官までが座っていて、誰もが厳しい視線を向けていた。
東山はありのままの真実を話すことに、戸惑いを覚えていた。
なぜなら沢尻の体内には、アチェと緑川の子供が宿っているからだ。
しかし当の沢尻は、臆することなくその事実を話した。
アチェを飲み込み、あの二人の子供が腹の中にいると。
それを聞いた時、誰もが驚きを隠せず、しばらく口を噤んだ。
しかし沢尻は平然と続けた。
「俺が化け物になり、緑川を仕留めます。でも万が一俺が負けた時は、腹の子が俺の意志を引き継ぎます。」
そう言って顔に巻いた包帯を取り、UMAとなった左目を見せつけた。
今度はどよめきが起き、国を預かるはずの面々が、素人のように口を開けて固まる。
誰もが黙り込む中、警察庁長官が口を開いた。
「話には聞いていたが・・・・こうして目にすると異様だな・・・・・。」
それは誰もが思う本心だった。命懸けで戦った部下にそんな言葉を浴びせたくなかったが、誰かが言わないと先に進まない空気だった。
「沢尻・・・・お前は本気で言ってるのか?化け物になって緑川を仕留めるなんて。」
「はい。それしか手は残されていません。」
「・・・・で、お前が負けた時は、化け物の子供を産むと?」
「はい。」
「それを娘に育てさせて、自分の孫と手を組ませると?」
「はい。」
「全部本気で言ってるのか?」
「俺は放っておいても化け物になります。アチェを飲み込んだせいだと思いますが、身体の内から気味の悪い衝動がこみ上げるんです。」
「・・・・・・・・・。」
「それならば、まずは俺が緑川と戦い、敗れた時は生まれて来る子供に任せるしかありません。」
「・・・・・どう判断を下したらいいのか・・・・何とも言えん。」
長官は腕を組んで顔をしかめる。すると隣に座っていた官房長官が、「勝てる見込みは?」と尋ねた。
「今現在、自衛隊と警察が化け物と戦っている。しかし君の話しぶりを聴いていると、緑川はそれを上回るほどの脅威に思える。」
「その通りです。」
「しかしあいつは一人だろう?誰と手を組んでるわけでもない。そこまで脅威になる男なのか?」
そう尋ねると、これには警視総監が答えた。
「あいつは沢尻のいた署を襲っています。その際にウチの特殊部隊と戦闘になっていますが、全員殺されました。」
「知ってるよ。陸自の特殊部隊にも引けを取らない連中だったんだろう?それを一方的に倒した。」
「ええ。しかもその場には自衛隊もいましたし、沢尻の娘・・・・そして彼女と手を組んだ化け物もいました。」
「それも聞いている。」
「しかし何も出来なかった。自衛隊も機動隊もゲロを吐くばかりで、化け物でさえ手足を潰されて動けなかった。
しかも半田に至っては、奴の恐怖にあてられてすぐに辞表を出しました。今じゃ子羊みたいに震えてますよ。」
そう言って、苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。
「今までの奴の犯行を見ても、異常としか言いようがない。普通の人間ならとうに捕まるかくたばってるかしているはずなのに、今でもピンピンしてる。
それどころか、さらに力を増していってるようだ。だったら人間だけで対抗出来ますかな?」
「それは奴が化け物と手を組んでいたからじゃないのか?」
「そうですが、沢尻の娘も化け物と手を組んでいました。」
「ううん・・・・・。」
「だったらやっぱり、あの男が異常という事になりませんか?化け物と手を組んでいようがいまいが、とんでもない脅威になるほどの犯罪者ですよ。」
「しかしな・・・・沢尻君が化け物になって戦うのはともかく、さすがに化け物の子を産むのはまずいだろう。しかも父親は緑川ときてる。
そんなことを受け入れると言うのは、私には難しいな。」
「ですが他に案がありますか?私は沢尻の案を支持しますよ。仮にもし化け物の子を産むことになったなら、必ず隠し通してみせます。」
「いや、そういう問題じゃなくてさ・・・・人間が化け物の子を産み、それを育てるっていうのがマズイんだよ。」
「倫理的にという意味で?」
「人間として受け入れ難いと言ってるんだ。須藤君もそう思うだろう?」
そう言って官房長官は、警察長官に目を向けた。
「ここへ来る前に、佐々木防衛大臣、それにアメリカ大使とも話をしてね、これはもうどんな手を使ってでも、事態を治めないといかんという事で一致した。
しかしいくらなんでも、化け物の子を産むなんて・・・・。しかも自分の娘にそれを育てさせるだなんて・・・・私にはとても・・・、」
官房長官はムスっとした顔で腕を組む。これ以上何も言いたくないと言う風に、真一文字に唇を結んだ。
すると須藤長官は思案気な顔で、公安の幹部に目を向けた。
「これさ、人間の仕業ってこたあないよな?」
そう問われて、「どういうことで?」と首を傾げた。
「なんかもう・・・全ての話がぶっ飛んでるよな、これ。どっかの国の誰かがさ、ウチの国で生物実験でもやってさ、それをばら撒いてるってことはないのかな?」
そう問われた公安の幹部は、小さく笑った。
「そう思いたい気持ちも分かりますが、人間じゃどう頑張ってもこんな事は無理でしょう。」
「だよな。なら・・・・どうするよ?」
「さあ?私はそれを判断出来る立場にありませんので。」
「これからは化け物の監視もお前らの仕事に追加しとくか?」
「ははは。」
「まあ冗談はさておき、とりあえずは溢れて来る化け物の殲滅が先だろう。問題はその後だが・・・・、」
須藤長官は笑顔を消し、じっと沢尻を見つめる。
「沢尻、悪いが犠牲になってくれるか?」
そう問うと、「元々そのつもりです」と答えた。
「お前の話じゃ、放っておいても「向こう」は消滅する可能性があるんだろう?」
「ええ。しかし緑川のことですから、どうやったって生き残ろうとするでしょう。その時、どんな手段に出るか想像もつきません。」
「ならあいつ一人の存在が、「向こう」全体よりも恐ろしいということだな?」
「私はそう思っています。」
「・・・・・なら今度は東山に聞こうか。」
そう言って目を向けると、東山は俯いた顔を上げた。
「はい・・・・。」
「お前はどう思う。近くで緑川の戦いぶりを見ていたんだろう?こいつが犠牲になれば、緑川を仕留められそうか?」
「・・・・・難しいと思います。」
「なんで?」
「・・・・・あれは本物の死神と言っても過言じゃありません。相手が誰だろうと、その首を刎ねるでしょう。」
「SATの隊長にそこまで言わせるほどか?」
「どんな特殊部隊の人間でも、同じことを言うと思いますよ。」
「なら奴を討つ可能性があるとしたら、それはどんな事が考えられる?」
長官はまた笑顔に戻り、「素直に答えてほしい」と言った。
「忌憚のない率直な意見を聞かせてくれ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「躊躇うことはない。この異様な事態を解決する為には、お前のように前線で戦っていた者の意見が大事だ。
どうだ?化け物との戦いを肌で感じてきた身として、どんな可能性が考えられる?」
そう問われて、東山は今までの戦いを思い出す。
初めて「向こう」へ行き、ウェンディゴと戦ったこと。頂上の池でミノリの大群と戦ったこと。
そしてつい昨日の、あのおぞましい戦いのこと。
ミノリ、ペケ、緑川、そしてミノリの連れてきた強力なUMA、どれも思い出すだけで鳥肌が立ちそうだが、しっかりと頭の中に思い描いた。
あの戦いを思い浮かべるだけで、肌が切り裂けような錯覚に襲われ、吐き気まで催してくる。
しかしそれでも何度も思い浮かべ、緑川を倒すにはどうしたらいいかを、記憶の中から探った。
「・・・・・・・毒。」
「ん?」
「毒が・・・・・有効かもしれません。」
そう言って顔を上げ、「あの戦いを思い出していると、毒が一番効くんじゃないかと思います」と頷いた。
「ペケという強い怪人がいたんですが、敵の使う毒槍を恐れていました。それにアチェもよく毒の鱗粉を使っていたし、緑川もそうしていたはずです。」
「ああ、警察署で鱗粉をばら撒いていたと聞いた。そのせいでみんなゲロまみれだ。」
「それに緑川が化け物になってしまったのも、アチェの毒を受けたからです。
奴は怪我を負う度にその毒で治してもらっていたそうですが、それが限界を迎えてUMAになったんだろうと思います。」
「なるほどな・・・・・毒か。」
「毒は弱者の武器です。弱い者が強い者を葬る時、毒が最も有効な手段です。それは歴史も証明しているはずです。」
「確かに・・・・暗殺にはよく毒が用いられた。現代でも、化学兵器は核と並んで使ってはいけない武器の一つだ。」
「昔も今も、毒はそれほど強力ということです。自然界を見渡したって、弱い奴ほど毒を持ってる。虫、魚、爬虫類・・・・毒を持つのはだいたいこんなところでしょう。」
「まあトラやライオンにそんな物は必要ないだろうからな。」
「ええ・・・・。そして俺たちが相手にしようとしているのは、トラやライオンなんですよ。もし虫やトカゲが猛獣を殺せるとしたら、やはり毒しかない。」
「俺たちは虫か。」
「緑川から見れば、そうなると思います。奴はアリでも踏み潰すように人間を殺すんです。それほどまでに見下されてるってことです。
だったらそれを逆手にとって、毒を持つアリになればいい。ちっぽけな虫だと思わせておいて、毒を撃ち込んでやればいいんですよ。」
東山は強い口調で言い切る。半田に進言した時は相手にされなかったが、今なら通る可能性がある。
「向こう」の化け物が「こっち」に押し寄せた今なら、この進言を真面目に検討してくれるはずだと信じていた。
須藤は「毒ねえ・・・」と呟き、隣に目を向ける。
公安の幹部は、何食わぬ顔で知らんぷりを決めていた。
すると黙って聞いていた官房長官が、「まさか化学兵器を使おうなんて言うんじゃないだろうな?」と息巻いた。
「東山の意見を素直に受け取れば、そういうことになりますな。」
須藤が返すと、「そんな・・・・、」と顔をしかめた。
「そんな物はウチの国にはない。」
「アメリカから借りるというのは?」
「馬鹿を言う。」
「どうしてです?官房長官は先ほど、どんな手を使ってでも事態を収拾すべきだと仰ったはずですが?」
「それは表現の問題だよ。それくらいの覚悟でないと、化け物を駆逐するなど出来んという意味だ。」
「そうでしょうか?どんな手を使ってでも対処しないと、被害が拡大するからだけだと思いますが?」
「しかしいくら何でも化学兵器ってのは・・・・、」
「まあ甚大な被害が出るでしょうな。」
「そうだよ。それこそ化け物どころじゃない被害が出るかもしれない。そうなったら本末転倒だろう?」
「しかし沢尻たちの話を聞いていると、通常の武器では対処が難しいようです。」
「そんなことは分かってる。でも難しくてもやるしかないんだよ。化学兵器の使用がどういう結果をもたらすか?この国の人間なら分かるだろう。」
官房長官はそう言って「断じてそんな選択肢はあり得ない」と突っぱねた。
「ではどうしますか?」
「通常兵器でどうにかするしかない。」
「なら警察にも自衛隊にも、多くの犠牲者が出ますな。」
「だからそんなことは分かってるんだよ。クドイなお前は・・・・・、」
官房長官は苛立たしそうに言って、「美津君はどう思うんだ?」と警視総監に尋ねた。
「君も化学兵器に賛成なのか?」
「はあ・・・・。」
「なんだその曖昧な返事は?ふざけてるのか?」
「いえ、私が何を言ったところで、官房長官が駄目だと仰るならそれまでですから。」
「そうだよ。駄目なもんは駄目だ。」
「それに意見を求めるなら、防衛省やアメリカ大使館の方がいいんじゃないですかね?もし使うにしたって、ウチはそんな物は持ってないわけですから。」
「・・・・アメリカに意見を求めたところで、答えは決まってるよ。」
「まああの国のことですから、事態が事態なら使用は認めるでしょうな。」
「自分の国のことではないからな。」
「いや、自分の国でもやるでしょう。ひっ迫した状況なら、すぐに決断を下すと思いますよ?」
「それは何か?俺に対する嫌味か?」
「そうではありませんが、決断すべき時は、そうするべきだと進言しているだけです。」
「なら君が俺の代わりをやってみるか?全ての責任を背負ってな。」
「いえ、お断りします。」
「ほら見ろ、化学兵器なんて安易に使えんよ。」
「使用の是非については、私は何も言えません。決定を下すのは内閣ですから。」
「使うのは国内なんだよ!お前んとこの部下が化学兵器を使えと言ってるんだ。この国で!」
「はい。」
「自分たちが無関係とでも言いたいのか!?ええ!」
「そんなつもりはありません。お気に障ったのなら、私の言葉遣いが悪かったのでしょう。お詫びいたします。」
そう言って小さく頭を下げ、じっと口を噤んだ。
「どいつもこいつも・・・・・、」
官房長官はグイと水を飲み、東山を睨んだ。
「実際に奴らとの戦いを経験した君の意見は貴重だよ。」
そう言われて、東山は「はい・・・」と俯いた。
「その上で毒が有効だと言うのなら、それはそうなんだろう。」
「はい・・・・。」
「でもね、やはり安易に決断は下せないんだよ。」
「・・・・分かっています。」
「別に君を責めてるわけじゃないんだよ。ただね、そういう意見は今後控えてほしい。」
「・・・・・・・・・・。」
「化け物の対策には、通常の兵器をもってあたる。我々だけで手に余りそうなら、米軍だって動いてくれるんだから。」
「・・・・お言葉ですが、私が進言したのは、化け物への対策ではありません。緑川をいかに仕留めるかについてです。」
「同じ事だよ、結局使うなら。」
「そんな事はありません。奴一人に向けて使うなら、やり様があるはずです。」
「どんな風に?」
「・・・・もし化け物全体に向かって使えば、それは甚大な被害が出るでしょう。しかし緑川を殺すだけとなれば、限定的な使い方が出来る。」
「限定的・・・・・。」
そう言われて、官房長官は少し考え込んだ。
「例えば・・・・ライフルの弾丸に毒を込めるとかか?」
「それも考えましたが、今の奴には銃は通用しないようです。沢尻が近距離から拳銃を撃ちましたが、奴はアッサリとかわして見せました。
きっと化け物になって、超人的な反射神経を身に着けたんでしょう。」
「ならどういった形で使うんだ?まさか奴一人に向けて、化学兵器の弾頭が入ったミサイルでも撃ち込む気か?」
「そんな事をしたら、それこそ甚大な被害が出ます。」
「だろう?だったらやっぱり無理なんじゃないか。やって意味の無いことなら、やらない方がいい。」
「いえ、意味の無いことではありません。」
「なんでだ?銃も駄目、ミサイルも駄目、だったら毒を使うなんて無理だろう?」
これ以上反論するなという風に、官房長官は顔をしかめる。しかし東山は引かない。「接近して使えばいいんです」と答えた。
「接近?」
「はい、刀に毒を塗るんです。」
「刀って君・・・・・銃をかわすような奴にそんなもんが・・・・・、」
「刀だからいいんですよ。銃ならかわされるが、刀なら当たる。コイツが使えば・・・・・、」
そう言って沢尻を見つめ、「お前は緑川と戦うつもりなんだろう?」と尋ねた。
「誰がなんと言おうと、アイツとケリをつけるつもりなんだろう?」
そう問うと、「ああ」と頷いた。
「どうせ放っといても化け物になるんだ。だったら戦わないでどうする。」
「だな。でも武器は必要になるだろう?」
「ああ、肉挽き刀を使うつもりだ。」
「それしかないよな。」
二人は目を見合わせて笑う。すると官房長官が「あのノコギリみたいな刀か・・・・」と呟いた。
「あれはペケとかいう怪人が持ってた物なんだろう?」
「ええ」と東山が答える。
「獲物に当てると、チェーンソーのように刃が回転するんです。鉄だろうが岩だろうが挽き裂いてしまう武器ですよ。」
「おそろしいな、化け物の武器ってのは・・・・、」
「その恐ろしい武器に毒を塗るんです。そして化け物になった沢尻が、それを使って緑川と戦う。」
「・・・・・なるほど。それなら確かに範囲は限定されるな。」
官房長官は小さく頷く。東山も頷き返し、「あの刀はちゃんと保管してあるんですよね?」と警視総監に尋ねた。
「当然だ。」
「なら存在を知ってるのは?」
「俺たちだけだ。「向こう」の武器が俺たちの手にあるなんて知れ渡ってみろ、マスコミが騒ぎ立てるし、何よりハイエナどもが群がって来る。」
「どの国だって、未知の強力な武器は欲しがるでしょう。」
「ウチにはスパイを防止する法律がないからな。あんな物のせいで、余計なトラブルが起きるのはゴメンだ。」
そう言って公安の幹部に目を向けると、「今のところは誰にも漏れていません」と答えた。
「それでいい。はっきり言って、あんは物は必要ないと思ってる。出来ればさっさと「向こう」に捨てるべきだ。」
「私も同感です。ただ官房長官は、危うくアメリカ側に口を滑らしそうになってましたが・・・・、」
公安の幹部はそう言って、官房長官に目を向けた。
「我々以外の人間と話す時は、くれぐれもご注意を。」
「分かってる。総理にすら言ってないんだから・・・・、」
「今の総理じゃ言えんよな。」
警視総監が笑う。
「就任して半年も経ってないのに、隠し子のスキャンダルで叩かれてるんだから。」
「アレはもうじき降ろすつもりだよ。」
官房長官は苦笑いし、「誰にもあの武器の存在を漏らすつもりはない」と言い切った。
「利用するメリットよりも、周囲にバレた時のデメリットの方が大きい。」
「ですな。他国に奪われてしまった時は、なぜかウチの国が叩かれるでしょうし。」
「だから・・・・もしアレを使うのであれば、必ず緑川を仕留めてほしい。そしてすぐに「向こう」へ破棄するんだ。」
官房長官は険しい目で釘を刺す。東山は「もちろんです」と頷き、「出来るよな?」と沢尻に尋ねた。
「なんだその口調は。俺は子供か?」
「そうじゃない。相手はあの緑川なんだ。奴だって化け物だし、それに首狩り刀を持ってる。」
「分かってるさ。しかし首狩り刀は今は短く・・・・・、」
そう言いかけて、沢尻は突然黙り込んだ。
「おい、どうした?」
「・・・・・・・・・・・。」
「沢尻?」
「・・・・・犠牲者が出る・・・・。」
「何?」
「また大量殺人が起きるぞ・・・・。」
「殺人て・・・・まさか・・・・、」
「あいつはまた人を殺す気だ。でないと首狩り刀が・・・・・・・、」
沢尻は立ち上がり、声を張り上げて言う。しかしその時、警視総監のケータイが鳴った。
「はい?ああ・・・・・・、」
電話に出た警視総監の顔が、見る見るうちに曇っていく。
その表情だけで、沢尻は何が起きたのか理解した。
「緑川ですね!?」
「・・・・・・・・・・・。」
警視総監は電話を耳に当てたまま動かない。そして「分かった・・・」と頷き、舌打ちしながら電話を切った。
「緑川なんでしょう!あいつがまた殺人を・・・・・、」
「違う。」
「違う・・・?」
「新しい化け物がわんさか出てきたそうだ。」
「新しい・・・・・化け物・・・・・・?」
沢尻は固まり、「緑川じゃないんですか?」と聞き直した。
「違うと言っただろう。亀池山の麓に、新しい化け物が現れたんだ。それもわんさかと。」
「・・・・・・・・・・。」
「しかもなぜかこっち側の味方をしてるらしい・・・・。」
「こっち側って・・・・・人間のという意味ですか?」
「だそうだ。」
「どうして!?」
「知るかそんなもん。」
警視総監は、困り果てた様子で顔をしかめる。
「山の麓から河童だののっぺらぼうだの・・・・それにわけの分からん空飛ぶ生き物が現れて、人間に加勢し始めたんだそうだ。
しかしそのおかげで、こっち側に有利に均衡が崩れつつある。」
「河童に・・・・・のっぺらぼう・・・・・、」
その言葉を聞いて、沢尻はすぐに思い当たった。
「あいつら・・・・・弔い合戦をやってるんだ。」
そう呟くと、東山が「どういう意味だ?」と睨んだ。
「ペケだよ・・・・河童が遺体を回収したろう?」
「ああ、川に持って帰ってたな。」
「ペケは妖怪にとっちゃ英雄であり、守り神みたいなもんだ。あいつがいるから、ミノリは妖怪への迫害をやめた。」
「・・・・・ああ!なるほど・・・・それで弔い合戦。」
「妖怪どもは知ってるんだよ、ペケの本当の死因を。トドメを刺したのは緑川だが、しかし遅かれ早かれあいつは死んでいた。なぜなら重症を負ってたからな。」
「その重症を負わせたのはミノリだ。もしそれが無ければ、緑川にやられることもなかったかもしれないな・・・。」
「あの怪人は強いからな。ミノリが警戒するほどに。」
「ペケがいるおかげで、妖怪たちは「向こう」で暮らすことが出来た。それが殺されたとあっちゃ・・・黙ってられんわな。」
「ミノリは自分たちを迫害していた張本人だ。そいつのせいでペケが死んだ。妖怪どもにとっちゃ許せない事だろう?」
「それは分かるが、しかし空飛ぶ生き物ってのは何だろうな?もしかしてUMAか?それともそういう妖怪が?」
「分からない。しかしこれは俺の勘だが・・・・・ミノリは他のUMAからも嫌われてるんじゃないか?」
「どうして?あいつがUMAの親玉みたいなもんだろう?」
「違う、親玉は「墓場の王」だ。ミノリは他のUMAと同様に、王から生まれたに過ぎない。」
「ならどうして他のUMAから嫌われる?」
そう尋ねると、沢尻は顎に手を当てて考えた。
「・・・・おそらく・・・「向こう」を消そうとしてるからじゃないか?」
そう言って「ミノリの目的を思い出せ」と続けた。
「あいつは王の力を手に入れて、この星から飛び去ろうとしてる。そしてその時、「向こう」を消滅させるつもりだ。だったら残されたUMAはどうなる?」
「・・・・・多分・・・・一緒に消える?」
「いや、居場所を失うんだ。おそらく「こっち」に逃げて来るだろうが、でも二時間以上はいられない。それ以上時間が経つと死んでしまうからな。」
「なら結局消えることに変わりはないじゃないか。」
「・・・・そうだな。だからきっと、妖怪と手を組んでミノリを殺すつもりなんだろう。それで人間たちに味方をしている。」
「だったら好都合じゃないか!「向こう」の連中が味方してくれるなら、これほど心強いことはないぞ。」
東山は拳を握って喜ぶが、沢尻は冷静だった。
「いや・・・・そうとも言えない。」
「なぜだ?妖怪やUMAの加勢してくれるんだぞ。これなら勝てるかもしれない。」
「相手が普通のUMAならな。しかし今「こっち」で暴れてるのは、あのミノリだ。それも飛びきり強力なUMAを連れてる。骨切り刀なんて武器まであるしな。
そうなると、河童やのっぺらぼう程度の増援じゃ、どうにもならない。」
「そうか?俺はそうとは限らんと思うが。」
「なぜ?」
「なぜ?って、お前が自分で言っただろうが。妖怪はペケの弔い合戦を、UMAは自分の棲み処を守る為に戦っていると。」
「それがどうした?」
「もしその通りだとするなら、それは「向こう」にいるすべての妖怪とUMAが、ミノリを殺しにやって来るってことだ。」
「それはそうだが・・・・・、」
「これからどんどん増援が来るぞ。そうなれば、人間、妖怪、UMAの連合軍だ。奴らに勝ち目はない。」
そう言ってまた喜ぶが、沢尻は「楽観的だな」と答えた。
「そんな都合良くはいかない。」
「しかし戦いは有利になってるはずだ。そうでしょう総監?」
同意を求めるように尋ねると、「どうだろうな」と返された。
「どうしてです!?「向こう」の化け物が味方になってくれるんですよ?」
「そりゃ心強いがな・・・・しかし所詮化け物は化け物だ。どう動くかも分からんし、数が増えればこっちが混乱する。」
「それは・・・・、」
「奴らが俺たちと足並みを揃えるとは限らん。そもそも戦う目的だって違うんだし。ミノリを殺す為なら、俺たちの事なんてお構いなしに暴れるかもしれんぞ?」
「・・・・・・・・・・・。」
「それに勝つのが無理だと分かれば、ミノリに寝返る奴だって出て来るかもしれん。そうなった時、誰が味方で誰が敵か区別がつかん。
増援と言えば聞こえはいいが、要は厄介事が増えただけだ。」
そう言われて、「SATの隊長なら、それくらいの判断はしてほしいものだな」と釘を刺された。
「・・・・しかし・・・・この機に乗じない手はありません。今ここで一気に叩いてしまえば、ミノリを仕留められるかもしれ・・・・、」
「だからそう上手くはいかないと言ってるだろう。」
「だったら・・・・・・・、」
東山は尚も食い下がる。しかしこれ以上の反論が思いつかず、口を噤んだ。
悔しそうに顔をしかめていると、ふと良いアイデアが浮かんだ。
「おい沢尻!」
「なんだ?」
「お前はアチェを飲み込んだんだったな?」
「ああ、だからこの左目だ。」
「なら首狩り刀を取り返せないか?あれはアチェの武器だろう。彼女は自分が望めば、いつだって武器を取り戻すことが出来たはずだ。」
期待を込めて尋ねると、「出来るならとっくにやってる」と返された。
「残念だが、いくら望んでも首狩り刀は俺の手の中に来ない。ということは、あの刀は緑川が所有者ということだ。」
「しかしあれはアチェの武器で・・・・・、」
「そのアチェが死んだんだ。だったら第二の所有者である緑川が持つのは当然だろう。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「それにアチェを吸い込んだのは緑川も同じだ。俺が刀を取り戻せるのなら、奴だって同じ事が出来るはずだ。」
「・・・・化学兵器は使えない・・・・化け物の増援も期待出来ない・・・・そして首狩り刀を取り戻すことも出来ない・・・・何も出来ないばかりだな。」
東山は深くため息をつく。そして「ならいったいどうしたら解決出来るんだ?」と周りを見渡した。
「ミノリたちも倒せない、緑川も仕留められない。このまま奴らを放っておくのか?」
「おい東山、口の利き方に気をつけ・・・・・、」
警視総監が注意すると、「知るかそんなもん」と遮った。
「何?」
「俺はな、この件が終わったなら警察を辞めるつもりだ。」
「ほう、そうか・・・・。まあ別に構わんぞ。代わりはいるんだから。」
「澄田は死んで、半田のおっさんは子羊みたいに震えるだけ。この状況で俺が抜けても、困らないってことですね?」
「ああ、まったく。」
「そうですか、ならこの場で辞めさせてもらいますよ。」
そう言って立ち上がり、「俺にはこれがある」と菱形の鏡を取り出した。
「あんたらは理屈ばかり並べ立てて、何もしようとしない。俺の忠告通り、最初から化学兵器を使ってりゃ良かったんだ。そうすりゃ今頃、こんな酷い事には・・・・、。」
「ほう、お前がそんな忠告を出していたのか。俺は一言も聞いてないが?」
「半田のおっさんが止めてたんですよ。あの小心者のオヤジ、結局保身の事しか考えてないから。」
「あいつはもう使い物にならん。それにもう警察官ではないし。」
「だから俺も辞めると言っているんです。こいつがあれば、俺だけでも戦うことは出来る。」
菱形の鏡を振りながら、「沢尻」と呼んだ。
「お前はどうするんだ?俺の提案した、肉挽き刀に毒を塗って戦うという作戦・・・・賛成してくれるよな?」
「良い案だと思うが、緑川を殺すほどの毒となると、やはり米軍から借りる必要がある。だから俺とお前だけで戦っても、その作戦は成り立たない。」
「なら毒無しで戦えばいいだろう!肉挽き刀は強力な武器なんだ。あの刀があれば、緑川に勝つことも不可能じゃない。」
「そうだろうな。」
「だったら毒が無くても戦えるはずだ。お前はこれから化け物になり、緑川と同等の力を手に入れる。そして肉挽き刀を使えば、充分に勝つ見込みはあるだろう。
もちろん俺も強力する。だから俺と一緒に来い。こんな話の分からんジジイ連中を相手にしてたって時間の無駄だ。」
そう言って一息に捲し立てると、警察長官が大声で笑った。
「俺たちは役立たずのジジイか。」
「そうでしょう、違いますか?」
「いや、認めるよ。この件に関しては、特にこれといって何も出来ていないからな。」
「だったら後は俺たちでやりますよ。もし協力する気があるなら、米軍から化け物を殺せるほどの毒を借りて下さい。」
「うん、まあ・・・・・お前の怒りは分からんでもないが、少し落ち着け。」
いきり立つ東山を諌めていると、部屋にスーツを着た男が入って来た。
そしてしばらくすると、ドアの向こうから一人の女性が現れた。
それを見た沢尻が、「なんでここに!」と叫ぶ。
ドアの向こうから現れた女性は、早苗だった。

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