不思議探偵誌〜探偵の熱い夏〜 第四話 マッシュルームはお好き?

  • 2016.07.10 Sunday
  • 14:11

JUGEMテーマ:自作小説

髪型で呪いをかける。
そんな呪術師がいるらしい。
そして何を隠そう、俺は今日その呪術師にカットしてもらった。
今はマリオのキノコのような頭をしている。
窓ガラスに映った自分を見つめ、不似合いなマッシュルームカットを恨めしく思う。
「よくもこんな髪型にしてくれやがって。この久能司を怒らせたことを後悔させてやる。」
今、窓ガラスの向こうにはその呪術師がいる。
そして俺の隣には、荒野に咲く一輪の花のような美女がいた。
名前は凛坂美琴、27歳。
隣にいるだけでいい香りがしてくるが、今は息子を膨らませている場合ではない。
俺は美容院のドアを開け、「おいアンタ」と詰め寄った。
「よくもこんな髪型にしてくれたな。元に戻してもらおう。」
そう言うと、呪術師は「はい?」と首を傾げた。
「元に戻すって、何を今さら・・・・、」
「もうネタは上がってんだ。アンタは相手の髪型を変えることによって、呪いを掛けるんだろう?」
「・・・・頭大丈夫かい?」
呪術師の美容師は鼻で笑う。
「いいかよく聞け。世の中にはな、科学では説明の出来ないことがあるんだ。
俺がその証拠を見せよう。」
そう言って店内を見渡し、カット台の上に指輪が置いてあるのを見つけた。
「いいか、あの指輪をよく見てろ。」
俺は意識を集中させて、念力を発動させる。
するとカット台に置かれている指輪が、ズズっと3センチほど動いた。
「どうだ?」
「どうだって言われても・・・・あのカット台ちょっと濡れてるから。
水で滑ったんでしょ?」
「ほう、言い逃れをするか。ならば今度はこうだ!」
俺は途中で買って来たエロ本を取り出す。
「この芸術書には袋とじが付いている。破らなければ中は見えない。」
そう言って額にエロ本・・・もとい芸術書を当てて、意識を集中させた。
「むうう・・・見える。この袋とじの中の女優は、今売り出し中の天の川ヌメ子だ!」
近くにあったハサミを掴み、丁寧に袋とじを切る。
「・・・・見ろ、やはり中は天の川ヌメ子だ。」
「だから何?あらかじめ破ったやつを見てたんでしょ?」
「違う!これは今日発売なんだ。しかもついさっき書店に並んだ。中身を確認する余裕などない!」
「二冊買って、一冊破けばすむじゃない。バカなのかいあんた?」
呪術師は鼻で笑うを通り越し、呆れた顔をした。
「どうでもいいけど、営業の邪魔するなら帰ってくれるかい?」
「どうあっても呪術師と認めないつもりだな?」
「誰が呪術師だよ、まったく・・・。夏の暑さで頭ヤラれてんじゃないのかい?」
そう言ってそっぽを向き、「これ以上は警察呼ぶよ」と言った。
「どこまでもシラを切る気か・・・・。いいだろう、だったら最後の能力、未来予知を見せて・・・・、」
俺は何かないかと店内を見渡す。
すると花の美女、凛坂女史が駆けこんできた。
「お義姉さん。」
「あら、美琴ちゃんじゃない。どうしたの?」
呪術師はニコニコ笑って手を振る。
「今日は仕事じゃないのかい?」
「いい加減兄さんと別れて下さい!」
「またそれかい・・・・。いくら美琴ちゃんでも、その頼みだけは聞けないね。
だってあんたの兄さんは、私がいなきゃロクに何も出来ないから。
今別れたら確実に死ぬよ。」
「そんなことない!私が・・・・私が兄さんを幸せにしてみせる!」
凛坂女史は拳を握り、いかに兄を愛しているかについて語った。
呪術師は肩を竦め、呆れたように首を振っている。
《なんだこれは?いったいどうなってるんだ?》
状況が飲み込めず、「あの・・・」と声を掛ける。
「これはいったいどういうことなんですか?」
「それはこっちのセリフだよ。あんたこそ一体何なんだい?」
呪術師は顔をしかめる。
するろ凛坂女史は「私が雇った探偵よ!」と叫んだ。
「探偵?」
そう言って疑わしそうな目で俺を見る。
「申し遅れました、ワタクシこういう者です。」
名刺を渡すと、「超能力探偵・・・・久能司」と呟いた。
「美琴ちゃん・・・あんたまたこんなしょうもない人達を頼って・・・・、」
「しょ、しょうもないですって!」
「あんたは黙ってな!」
そう言って目を吊り上げ、「いいかい?」と凛坂女史の肩を叩いた。
「あんたが自分の兄さんを好きな気持ちはよく分かる。
あれだけ良い男は滅多にいないからねえ。」
「だったら私に譲ってよ!」
「それは出来ないよ。だってあんたらは兄妹じゃないか。」
「実の兄妹じゃないわ!血は繋がってないんだから!」
それを聞いた俺は、「なぬ!」と驚いた。
「凛坂女史・・・・実の兄妹ではないというのはいったい・・・・、」
「あんたは黙ってて!」
「・・・・はい。」
お前が俺を雇ったんだろう!・・・・と言いたかったが、あまりの剣幕に気後れする。
「いいかい美琴ちゃん、いくら血が繋がっていなくても、あんた達兄妹は戸籍上は血縁関係にあるんだ。
だから結婚出来ないんだよ。」
「ウソよ!戸籍を訂正さえすれば、結婚は可能だって聞いたわ!」
「・・・・確かに、それなら可能だね。
あんたは昔に養子としてももらわれて、その時に法律の手違いがあって、実の子供という事になってしまった。
だから戸籍の訂正さえすれば結婚は出来るだろうさ。
でもね、だからってやっぱり・・・・、」
「だってあなたは兄さんのことが好きじゃないんでしょう!だったら別れればいいのに・・・・、」
「あんたの兄さんの方から猛アプローチしてきたんだよ。
樹利亜さんに髪を切ってもらうと、人生が明るくなるような気がするんです。
だからこれから一生僕の傍で髪を切って下さい!ってね。
こんなプロポーズされたら、美容師として嬉しいに決まってるよ。」
「何言ってるの!あなたは呪術師よ!
兄の髪型を落ち武者に変えて、心まで落ち武者にしてしまったじゃない!
明るくするどころか、地獄のドン底よ!」
「あれはあんたの兄さんが事業で失敗したせいだろ?
羊羹にナスビ詰め込んで、そんなもん誰が買うってんだい。」
「あれは美味しかったわ!買わない客がバカなのよ!」
「不味かったよ。食えたもんじゃない。」
「あなたが兄に呪いを掛けたから、おかしくなってしまったの!いいから兄を返してちょうだい!」
凛坂女史は悲鳴のように喚く。
俺の事務所へ来た時のような、凛とした振る舞いはどこにもない。
ていうか、そもそも俺は何の為に雇われたんだ・・・・?
困った顔で腕を組んでいると、呪術師が「あんたも災難だねえ」と言った。
「美琴ちゃんは昔からお兄さん一筋でね。他の男なんて目に入らないんだ。」
「はあ・・・・。」
「でもってそのお兄さんが私と結婚しちゃったもんだから、悔しくてたまらないんだよ。」
「あの・・・・あなた方は昔からの知り合いで?」
「そうだよ。私は美琴ちゃんとお兄さんの通っていた高校で教師をやっててね。」
「先生だったんですか?」
「昔はね。でもって実家が床屋なもんで、そっちも手伝ってた。今は教師を辞めたから、こうして美容院に務めてるわけさ。」
「ははあ・・・・教師と生徒の禁断の恋というやつですね?」
「違う違う。私が政明君と付き合い始めたのは、彼が社会人になってからだから。」
「そうなんですか。なんか色々と危ないことを想像してしまって・・・・。」
俺は咳払いをしながら「まあ細かい所はツッコミませんが・・・」と言った。
「でも凛坂女史は、どうして俺を雇ったんです?俺はこの場所にはいらないような気が・・・・、」
「うん、いらないね。」
「だったらなぜ・・・・・、」
「この子はね、昔からオカルト好きなんだよ。
だから思い通りに行かないことがあると、そういう物に頼っちまう。
あんたは超能力探偵とかホラ吹いて仕事してんだろ?
だからこの子の目にとまっちまったわけさ。」
「失敬な!ホラじゃありませんよ!さっき実際に緒能力を見せたでしょう。」
「あんなのどうとでもなるじゃないか。」
「・・・・まだ見せていない能力があるんです。」
俺は表情を引き締め、「未来を当てましょう」と言った。
目を閉じ、意識を集中させる。
すると一秒先の未来が浮かんで来た。
「危ない!」
浮かんだ未来は、凛坂女史が呪術師に殴りかかるところだった。
俺は弾かれたように駆け出し、呪術師の盾となった。
しかし次の瞬間、俺は宙を待っていた。
一回転して床に叩きつけられ、「のおおおおお・・・・」とエビ反り状態になる。
「な・・・・なんで・・・・?」
「それはこっちのセリフだよ!なんでいきなり割って入るんだい!?」
「だって・・・凛坂女史が殴りかかろうとしてる未来が見えたから・・・・、」
「あのね、私はこう見えても合気道四段なんだよ。美琴ちゃんのパンチなんかなんてことないさ。
でもいきなりあんたが入って来るから、思わず投げちゃったじゃないか。」
呪術師は「ほら」と俺を立たせる。
「あんた未来が見えるんだろ?ならどうしてこういう事態を予測出来なかったんだい?」
「見えるのは一秒先まででして・・・・、」
「それ見えてるって言えるのかい?」
呪術師はため息をつき、「もうあんたは帰りな」と言った。
「これ以上美琴ちゃんに付き合うことはないよ。」
「いや、しかしですね・・・まだ依頼料を貰ってなくて・・・・、」
「なら今度ここへ来なよ。タダで頭を戻してやるから。」
「ほ、ホントですか!」
このヘンテコな頭とおさらば出来るかと思うと、「では引き揚げます」と頷いた。
「明日か明後日には来るので、よろしくお願います。」
そう言って頭を下げ、店を後にする。
凛坂女史はまだ喚いていて、それを宥めるように呪術師が説得していた。
こんなことになると分かっていれば、元々依頼など受けなかった。
もう少し未来予知の能力が強ければ、回避出来た未来かもしれないな。
投げられた背中を押さえながら、「痛ってえ・・・」と背伸びをする。
コンビニの窓に自分の姿が映り、その情けない頭にうんざりした。
「キノコ・・・・これキノコだよな?」
髪をつつき、ツンツンと押す。
すると店の中で買い物をしていた美女が、俺の方を見てクスリと笑った。
「うん、まあ・・・・美女に笑ってもらえるなら、もうしばらくこのままでもいいかな。」
ヘンテコな髪形も、美女の笑顔を誘発出来るなら価値がある。
「キノコの頭も悪くないもんだ。」
俺は店から出て来た美女に笑いかけ、マッシュルームの頭をなびかせた。
「あの・・・・マッシュルームはお好きですか?」
「はい?」
美女は笑いを堪えている。
「よかったらランチを奢らせて下さい。良いキノコを出す店を知っているんです。」
美女は大ウケし、友達を呼んでもいいならと頷いてくれた。
その友達とやらも美女で、二人して俺の頭をネタに楽しんでくれている。
俺は二人の美女に笑顔を振りまきながらこう思った。
カッコいい髪型なら、カッコいい性格に。
落ち武者の髪型なら、落ち武者みたいな性格に。
なら面白い頭なら、面白い性格になるのかもしれない。
今日の俺のトークは絶妙で、美女たちの笑顔が絶えない。
あの呪術師、案外本物かもなと思った。

 

不思議探偵誌〜探偵の熱い夏〜 第三話 髪型の呪い

  • 2016.07.09 Saturday
  • 10:06

JUGEMテーマ:自作小説

髪を切った。
かなり長くなっていたし、それに夏だし。
いつもは近所の床屋に行くのだが、今日は気分を変えて隣町の美容室へ来ていた。
エロイお姉さん・・・・もといスタイルの良い美容師たちが、キビキビと働いている。
中にはまだ子供なんじゃないかと思える若い子もいるが、おそらく研修か何かで来ているのだろう。
若者たちが一生懸命働く姿は、なんとも気持ちの良いものだった。
ちなみに俺の頭をカットしているのは、志茂田景樹を若返えらせたようなオバサンだ。
さすがベテランだけあって、手際はいい。
俺はクセ毛なので、今回はストレートパーマをあててもらった。
そして今風のオシャレな髪形にしてほしいと頼んだ。
ええっと、何て言ったっけ・・・・・そう!アシンメトリーってやつだ。
散髪は気持ちいいので、うつうつと微睡む。
しばらく眠っていると、オバサンが「お兄さん」と呼んだ。
「終わったよ。」
そう言ってグイと顔を掴まれ、鏡を見せられる。
「どう?カッコいいでしょ?」
「・・・・・・・・・・。」
「クセ毛が真っ直ぐになって、しかも今風でオシャレ。」
「・・・・・・・・・・。」
「これなら女の子にモテるわよ。」
そう言って顔を近づけ、ニマっと笑った。
「あの・・・、」
「んん?」
「これって・・・・、」
「そう、マッシュルームカット。」
「・・・・キノコじゃねえか。」
マリオに出て来るキノコの上の部分だけを、頭に乗せたような髪型になっている。
そういえば昔にイジリー岡田という夜の番組専門の芸人がいたけど、彼もこんな髪型をしていた。
「はいこれで終わり。四万ね。」
「高ッ!」
「これでも割り引いてるのよ。ほんとなら倍だから。」
「そ、それはぼったくりでは・・・・、」
「イヤなら元に戻す?その分料金を貰うけど。」
「どれくらい?」
「同じ金額・・・・、」
「今のままでいいです。」
サッと立ち上がり、金を払って店を出る。
オバサンは「また来てね〜!」と手を降るが、俺は心の中の藁人形に彼女の顔を重ね、五寸釘を打ち付けた。
「クソ!なんてことだ・・・・頭が亀頭・・・・・キノコみたいじゃないか。」
ガラスに映った自分を見つめ、「はあ〜・・・」とため息をつく。
こんなことなら行きつけの床屋にしておけばよかった。
こんなキノコみたいな頭じゃ、まともな依頼は来ない・・・・まあ元々来ないが。
事務所に戻り、鏡を見つめながら切ない気持ちになる。
気分転換にエロ本でも読もうと思った時、ドアがノックされた。
「はいはい・・・。」
どうせ新聞の勧誘か何かだろうと思い、「間に合ってるよ」と顔を出す。
しかしそこにいたのは新聞の勧誘ではなかった。
在りし日の吉永小百合のように、うら若くて美しい乙女だった。
まるで清楚が服を着て歩いているような美女で、周りの景色さえ輝いて見える。
俺はビシッと顔を決め、「当探偵事務所所長の、久能司です」と笑顔を振りまいた。
「お仕事の依頼でしょうか?」
ニコリと微笑むと、彼女は「はい・・・」と俯いた。
「実はお願いしたことがありまして・・・・、」
「この久能司、どのような依頼でも必ず解決してみせます。ささ!中へ。」
美女を招き入れ、ソファに座らせる。
「少々お待ちを。」
台所に行ってコーヒーを淹れ、「安物ですが」とカップを置いた。
「いえ、お構いなく・・・・、」
恥ずかしそうにするその笑顔は、まるで荒野に咲く一輪の花のよう。
俺は向かいに腰を下ろし、名刺を取り出す。
エロくない程度に手を触れながら、「どうぞ」と渡した。
一輪の花の美女は、じっと名刺を見つめる。
「久能・・・・司さん・・・・。」
「ええ。人呼んで超能力探偵です。」
「超能力・・・・本当に使えるんですか?」
花の美女は疑わしそうな顔をする。
俺は「はは!」と胸を張った。
「もちろんです。念力、透視、そして未来予知が出来ます。」
「そ、そんなにたくさん出来るんですか!」
「念力は物を動かす力です。軽い物なら3センチほど動かせますよ。」
「3センチ・・・・。」
「ええ。」
「他には?」
「透視は1センチ先まで見ることが出来ます。
封を切らずとも、中身を読むことが出来る。
だからエロ本の袋閉じなんかもバッチリと・・・・・、」
「え・・・・エロ本・・・?」
「・・・いえ、こっちの話で。」
コホンと咳払いをして、微妙な空気を仕切り直す。
「最後は未来予知。1秒先まで当てることが出来ます。
この能力のおかげで、犬のウンコを踏まずに済んだこと数知れず。
とても実用的な能力です。」
「はあ・・・・・。」
花の美女の顔がだんだんと曇っていく。
しかし俺は慌てない。
こんなのはいつものことで、要は依頼を解決することが大事なのだ。
「で、本日はどのような依頼で?」
胸ポケットから手帳とペンを取り出す。
ここに書かれているのはエロ本の発売日だけだが、それは内緒だ。
花の美女は恥ずかしそうに俯き、手の中で名刺を弄ぶ。
「実は私・・・・兄がいまして・・・、」
「ほう、お兄さんがいらっしゃるんですか?」
「兄はとても出来た人なんです。昔から文武両道で、誰からも慕われる人でした。」
「あなたのお兄さんなら、さぞ美形でしょうね。女性にもモテたんじゃありませんか?」
「身内の私が言うのもあれですけど、兄に敵う男性は中々いないと思います。」
そう言って目を伏せ、「ここだけの話ですけど・・・・」と切り出した。
「子供の頃、少しだけ兄に想いを寄せていたことがあるんです。」
「それはまた・・・・、」
「もちろん子供の頃の話ですよ。それもほんの一時の。」
「身近にそこまで立派な男がいたら、子供心に憧れるのも無理はありませんよ。」
「そう言って頂けると助かります。」
花の女は小さく笑い、「でも・・・」と表情を曇らせた。
「最近の兄は変わってしまって・・・・、」
「変わる?どんな風に?」
「実は先月、兄が結婚したんです。」
「それはおめでとうございます。お相手の女性はさぞ美しい方なんでしょうね。」
そう言って笑いかけると、「いえ・・・」と首を振った。
「こんな言い方をしてはあれですけど、どうしてこの人をって思うような・・・・、」
「お兄さんと釣り合うような人ではないと?」
「はい・・・・。歳もかなり上だし、それにその・・・・・兄と釣り合うほどの方とは到底・・・・、」
花の女は言葉を濁す。
おそらく兄に釣り合うような美人ではないと言いたいのだろう。
「ならあなたは不満なわけだ?敬愛するお兄さんが、不釣り合いな人と結ばれてしまったから。」
「ええ・・・。だけどそれだけならまだ我慢出来たんです。」
「他にも理由が?」
ペンを回しながら、じっと言葉を待つ。
花の女はしばらく俯き、カッと目を見開いた。
「兄はとてもカッコいいんです。それはもう・・・・神話にでも出てくるような、誰からも愛される英雄のようなほど・・・・・、」
「そこまでの方ですか?」
「だけど今の奥さんと結ばれてから、全然ダメになってしまったんです。」
「ダメ・・・というのは、どういう風に?」
「まず体形が崩れました。以前は彫刻のように素晴らしい肉体だったのに、今ではぽっちゃりとたるんで・・・、」
「太ってしまったわけだ?」
「はい・・・。それに頭も悪くなっているような・・・・、」
「頭も?」
「以前は哲学や歴史の本を愛読していたんです。
それが今じゃ低俗な本ばっかり・・・・、」
「低俗・・・・ですか?」
「男の人が好んで読むような本です。」
「ああ、なるほど。」
どうやらエロ本のことらしい。
エロ本は決して低俗ではいし、ある種の芸術だと思っている。
しかし今は話の腰を折る時ではない。黙って先を聞いた。
「だんだんとダメな人になっていって、遂にはギャンブルや借金まで・・・・、」
「ああ、それはよくないですね。ギャンブルと借金という組み合わせは、人生を破滅させる王道ですよ。
すぐにやめさせた方がいい。」
「何度も注意してるんですけど、まったく聞いてくれないんです。
それもこれも、全てはあの女と結ばれてから・・・・私の敬愛していた兄を台無しにしてしまったんです。」
花の女は、初めて憎しみの表情を浮かべた。
清楚な雰囲気とのギャップのせいで、より恐ろしさが増す。
俺はゴクリと息をの飲み、これは怒らせたら怖いタイプだなと思った。
「兄は変わってしまった・・・。それもこれも、全ては髪型の呪いのせい・・・・。」
「髪型の呪い?」
意味が分からず、オウム返しに呟く。
花の女は強い目で頷いた。
「髪型は人生を左右すると言ったら、信じてくれますか?」
「髪型が人生を・・・・?」
俺は思わず口を曲げる。
花の女は「ある呪術師がいるんです」と言った。
「そいつは髪型を変えることによって、人の人生を弄ぶんです。
カッコいい髪型なら、カッコいい人生に。
情けない髪型なら、情けない人生に。」
「それは・・・なんともまた・・・・、」
「もし落ち武者のような髪型にされてしまったら、落ち武者のような人生を歩んでしまう。
そして今の兄は、まさに落ち武者のような髪型なんです。」
悔しそうに言って、さらに憎しみを強くする。
「兄を落ち武者の人生から救うには、今の髪型をやめさるしかありません。
だけどすでに人生の敗北者となってしまった兄は、『僕には落ち武者の髪がお似合いさ』と言って、直そうとしないんです。」
「・・・・ほう。なるほど・・・・。」
俺は手帳を見つめながら、《この人痛いな・・・》と思った。
《どこまで本気で言ってるのか分からないけど、でも多分頭のどこかがやられてる。
こりゃあまともな依頼は取れそうにない。》
綺麗な花には棘がある。
その言葉通り、花の女には棘があった。
オカルトという名の棘が・・・・・。
《いくら美人でも、棘が大きすぎると関わりたくない。ここは上手いこと言ってお引き取り願うしか・・・・、》
そう思っていると、女はバッグから一枚の写真を撮り出した。
「これが兄の奥さんです。」
「ほう・・・・拝見させて頂きます。」
写真を受け取り、次の瞬間には「ほぎゃ!」と叫んでいた。
「こ、こ、こ、これは・・・・・、」
「どうしたんです?まさか・・・・お知り合いとか?」
花の女は不思議そうな目で見つめる。
俺は自分の頭を指さし、こう言った。
「私も呪いにかけられているかもしれません・・・・・。」

 

不思議探偵誌〜探偵の熱い夏〜 第二話 若き芸術家の悲しみ

  • 2016.07.08 Friday
  • 12:45

JUGEMテーマ:自作小説

『ぜっっっっったいにイヤです!』
電話の向こうから由香里君の拒絶がこだまする。
悲鳴にも近いその拒絶は、何がなんでもイヤだという鉄の意志の表れだろう。
『なんで私がヌードモデルなんかやらなきゃいけないんですか!』
「だってあの子・・・・ええっと黄緑君だっけ?
その子がどうしてもって言うから・・・・・、」
『断って下さい!』
「いや、でも約束しちゃったんだよ。」
『なんでそんな勝手な約束するんですか!?』
「だって君と同じ大学だって言うからさ。」
『私はそんな人知りません!大学が一緒でも、ゼミや学部が違えば会うことなんてありませんから!』
「でもねえ・・・彼は今度のコンクールに懸けてるんだよ。
来年からは就活で忙しいから、絵を描いてる場合じゃないんだとさ。
だから大学最後のチャンスとして、何としても入賞したいみたいなんだ。
お願い出来ないかな?」
『イヤったらイヤです!』
由香里君の声はどんどん大きくなる。
耳がキンキンしてきて、電話を耳から離した。
『だいたいどうして久能さんに頼むんですか!
そんなにお願いしたいなら、直接私に言うのが筋でしょ。
人を頼るその根性が気に入りません。』
「いや、彼は君が留学してることを知らなかったんだよ。
もし君がいたら、直に頼んでたと思うよ。」
『もしそうだとしても、初対面の人にいきなりヌードモデルだなんて・・・・私は絶対にお断りです。』
「なら初対面じゃなければいいの?」
『え?』
「ほら、俺は君と付き合いが長いから。だから俺からお願いすれば・・・・、」
そう言いかけると、『久能さん』と声が低くなった。
『だんだん分かってきましたよ、久能さんの魂胆が。』
「ん?」
『要するに、久能さんは私の裸が見たいだけなんでしょう?』
「まさか。」
『いいえ、絶対にそうに決まってます。どうせ今頃イヤらしい顔してるんでしょう?』
そう言われて、俺は鏡を見てみた。
まるで原始人のように鼻の下が伸びて、ついでに鼻息も荒くなっている。
息子が天井を向いているのは言うまでもない。
『言っておきますけどね、絶対にモデルなんてやりませんから。
その黄緑君って人にそう伝えておいて下さい。』
「いや、でもねえ・・・・、」
『何を言っても無駄ですから。ていうかどうして勝手に約束なんか・・・・、』
由香里君は不満そうにグチグチ言っている。
俺は「クソ・・・・」と小さく舌打ちをした。
「せっかく一眼レフを買ったってのに・・・・損しちまったな。」
『え?』
「ん?」
『今・・・・一眼レフがどうとか言いませんでした?』
「いや、言ってないよ。」
『ウソ!はっきり聞こえましたよ!
どうせ私の裸を撮るつもりだったんでしょう?イヤらしい・・・・。』
「いや、まあ・・・その・・・なんだ。僕と君は付き合いが長いから、そろそろお互いの本当の姿を見せ合ってもいいんじゃないかと思ってね。」
天を向いた息子を撫でながら、小声で「鎮まれい・・・」と宥める。
由香里君は『はあ〜・・・』とため息をつき、『久能さん』と言った。
『昔からエッチなのは知ってますけど、そんなことばかりしてると、他の所に就職先を変えますよ?』
「ええ!」
『何を驚いているんですか!』
由香里君は鬼のように怒る。
俺は息子と共に元気を失くした。
「ゆ、由香里君・・・・君はこの事務所から去ってしまうと言うのか・・・・・・、」
『イヤらしいことばかりしてると、そうなるかもってことです。』
「そんな・・・・俺はただのスキンシップのつもりで・・・・、」
『どこかですか!ただのセクハラですよ!』
由香里君の怒りはMAXに達したらしく、もし目の前にいたら正拳突きを喰らっているところだろう。
『とにかくモデルなんてお断りです。』
「じゃあ何ならOKなんだ?」
『何にもOKなんて出しません!』
「いや、でもねえ・・・・せっかくの夏なんだよ。
君は留学に行って楽しいかもしれないけど、こっちはビッグ・マダムのママと飲み明かすことくらいしか・・・・、」
『またあんな店行ってるんですか!?』
「独り身ってのは夜が寂しいからさ。つい・・・・、」
『従業員のほとんどがすっぽんぽんの店なんて最低です。
しかもみんな男の人なんでしょう?』
「まあね。でも女並に綺麗だよ。もしよかったら君も・・・・、」
『行きません!』
「だったら何ならOKしてくれるんだい?」
悲しい声でそう言うと、『久能さん・・・』と憐れむような声が返ってきた。
『要するに寂しいんですね?』
「ん?」
『だって私がいないから、一人ぼっちで寂しいんでしょう?』
「失敬な。飲み友達くらいいるぞ。」
『でも仕事中は一人じゃないですか。』
「ま、まあ・・・・そうだけど・・・・、」
『私が留学に行くって言った時も、すごく寂しそうな顔してましたもんね。
たったの一ケ月なのに。
顔は笑ってたけど、目は落ち込んでましたよ。」
「いや、それはだな・・・その・・・・なんだ。君が向こうで危ない目に遭ったらどうしようとか・・・・、」
ごにょごにょ言うと、由香里君は笑った。
『こう見えてもそれなりに腕は立つんです。そんじょそこらの暴漢には負けませんよ。』
「身をもって知ってるよ。」
『ふふふ、もうちょっと待ってて下さい。
あと二週間もすれば帰りますから。』
「君ねえ・・・まるで俺がお母さんの帰りを待つ子供みたいじゃないか。」
『違うんですか?』
「・・・・・違うと思うよ、多分。」
『素直じゃないなあ。』
由香里君はまた笑い、『いいですよ、帰ったら一緒にプールでも行きましょう』と言った。
「ぷ、プール?」
『はい。』
「ということは・・・・・君は水着に・・・・・、」
『プールに行くんだから当然でしょう?』
「・・・・・・・・・・。」
『思えば一緒にどこかへ出かけたことなんてないですもんね。
一緒にいるのは仕事の時だけで、プライベートで出掛けるなんてことなかったし。
だから久能さんさえよければ・・・・・、』
「・・・・・一眼レフを買ったかいがあ・・・・、」
『写真はダメですよ。』
「・・・・・息子が萎えた。」
『はい?』
「いや、何でもない・・・・。」
ううん!と咳払いをして、「まあ楽しみにしてるよ」と答えた。
『帰るまでもうちょっとかかるけど、それまで我慢してて下さい。
また電話しますから。』
「ああ、それじゃ。」
『久能さんもしっかり仕事して下さいよ。私が帰った時に潰れてるなんてことがないように。』
「努力するよ。君も残りの留学期間を楽しんでくれ。じゃあ。」
電話を切り、ふうと息をつく。
「プールかあ・・・・そんな場所へ行ったのは何年前だろうなあ。」
もう遠い昔のことのような気がして、少しだけワクワクする。
「ついに由香里君の水着を拝める日がきたか。モデルは無理だったが、収穫はあったな。」
椅子から立ち上がり、タバコを咥える。
そしてトレンディドラマのように窓の外を見つめた。
「俺の方は大変喜ばしいことがあったけど、問題は黄緑君だ。
もう依頼料はもらっちゃったし、しかも全部エロ本に使ってしまった。
さて、どうしたらいいのやら・・・・。」
渋い目で街を眺め、煙を吐き散らす。
「・・・・・奴に聞いてみるか。」
スマホを手に取り、とある店にかける。
「・・・・・ああ、もしもし?俺だけど。
実はさ、ちょっとお願いしたことがあるんだけど・・・・・、」

          *

翌日、俺は黄緑君のアトリエに来ていた。
アトリエと言っても美術部の部室なんだけど、絵やら画材やらが散らかっていて、まるで画家の住処のように見える。
そして窓際の椅子には、一人の人物が据わっていた。
服を脱ぎ、裸体を晒しながら、女とは思えない鍛え抜かれた背中を見せつけて座っている。
「さあ黄緑君、思う存分描いてくれたまえ。」
そう言って手を向けると、黄緑君は「あの・・・」と困った顔をした。
「どうして背中を向けてるんですか?僕は正面から描きたいんですけど。」
「ええっと・・・・さすがに正面は抵抗があるらしくて。背中ならOKということなんだ。」
「・・・・まあ百歩譲ってそれはよしとします。でもどうして顔を隠してるんですか?
これじゃ誰だか分からない・・・・。」
椅子に座った人物は、般若のお面を着けていた。
こちらを振り返り、黒い髪をなびかせる。
「これ、怖いんですけど・・・・、」
「ええっと・・・アレだよ、顔を見られるのは恥ずかしいらしくて。」
「でもそれじゃ誰だか分からないじゃないですか。」
「とりあえず身体だけ描けばいい。顔は後日ってことで。」
「なんでそんな面倒臭いことを・・・・、」
「だって恥ずかしいからさ。ヌードモデルなんて初めてで、さすがに抵抗があるんだよ。」
「抵抗があるのに引き受けてくれたんですか?」
「そこはまあ・・・・俺の説得で。」
ビシッと親指を立てると、黄緑君は「顔が見れないんじゃ意味がない」と言った。
「僕は写実画なんですよ。顔を見せてもらわないと。」
「だから後日に見せるって。」
「でも・・・・・、」
「四の五の言わない。彼女も忙しいんだから、さっさと描いてくれ。」
ポンと背中を叩くと「なんだかなあ・・・」と描き始めた。
「君は彼女の肉体美が描きたかったんだろう?」
「確かにすごい筋肉してますよね。女性とは思えない。
でも・・・・こんなに肩幅あったかな?」
「あるさ、直に見たら。」
「意味が分からないです。」
黄緑君はせっせと絵を描く。
俺は「上手いもんだな」と感心した。
「さすがは美術部だ。」
「でもよく引き受けてくれましたね。本条さんは留学中だったんでしょ?
それなのにこんなにすぐモデルをやってくれるなんて。」
「そこはほら、俺と彼女の仲だから。」
「もしかして付き合ってるんですか?」
「そうじゃなくて、俺は所長、彼女は助手だ。所長命令には逆らえないさ。」
「でも彼女バイトでしょ?そこまでやってくれるもんなのかな・・・・?」
「だからつべこべ言わない。時間は夕方の五時までだから、あと三時間しかないぞ。」
「分かってます。筆の速さには自信があるんで、それまでに仕上げちゃいますよ。」
「そうしてくれ。」
俺は頷き、外へ出てタバコを吹かす。
「あ、ここ禁煙ですよ。」
「え?大学なのに?」
「大学だからです。吸いたいなら一階の喫煙ルームに行って下さい。」
「なんだよ、大学まで禁煙がトレンドなのか。俺の時代とは変わったもんだ。」
タバコを咥えながら、喫煙ルームに向かう。
今日は日曜日で、学生の数は少ないようだ。
一本目を吸い尽くし、外でジュースを買う。
そして二本目を吸いに喫煙ルームへ入ろうとした時、「ぎゃああああああ!」と悲鳴が聴こえた。
「この声は黄緑君!」
俺は急いでアトリエまで向かう。
ドアを開けながら「どうした!?」と叫んだ。
「ち・・・ち・・・ち・・・・、」
「ち?血が出てるのか?」
「違います!本条さんに・・・・・あってはいけない物が・・・・、」
「何い!?」
俺は般若の面を着けたモデルを見る。
するとこちらを向いていて、出してはいけない物を晒していた。
「NOおおおおおおおおおおお!」
俺は上着を脱ぎ、男性の象徴とも言うべき物を隠すように巻き付ける。
「おいコラ!正面を向くなと言っただろう!」
そう怒ると、モデルは「だって・・・」と言った。
「その子、とっても可愛いんだもの。私のタ・イ・プ!」
般若の面を着けたまま投げキスを飛ばすモデル。
黄緑君は「これはどういうことですか!」と睨んだ。
「なんで本条さんにそんな物が付いてるんですか!?」
「あ、いや・・・・これはその・・・・、」
「ねえ坊や、あなたウチの店で働かな・・・・げぶッ!」
「喋るんじゃない!」
グイッとアレをつねり、「こんなモン見せやがって・・・」と怒る。
「正面を向くなとあれほど言っただろう・・・。」
「でも久能ちゃん、あの子があんまり可愛いから。私のタ・イ・プ・・・・・・、」
「それはもう聞いたよ!」
「ヒャン!つねらないで!」
モデルは腰を引き、その場にうずくまる。
俺は黄緑君を振り返り、「ははは・・・」と笑った。
「あ、あのだね・・・・これはつまり・・・・、」
「・・・・なるほど、そういうことだったんですね・・・・、」
黄緑君はゆっくり立ち上がる。
俺に詰め寄り、「よくも騙してくれたな」と言った。
「だ・・・騙すなんて人聞きの悪い。俺は君の依頼をこなそうとしただけで、でもちょっとした手違いがだね・・・・、」
「どうして・・・・どうして言ってくれなかったんですか・・・・・、」
「いや、だって・・・ねえ。こっちは依頼料をもらってるわけだし、ちゃんとそれに応えないとと思っただけで・・・・、」
「こんな事になるなら、モデルなんて頼むんじゃなかった・・・・。僕は自分が情けない!」
黄緑君は泣きながら首を振る。
まるでブライト艦長に殴られて、「親父にも殴られたことないのに!」と叫ぶアムロのような顔で。
「こんな・・・・こんなのって・・・・、」
「あの・・・・黄緑君、依頼料は返すから。全部エロ本に使っちゃったんだけど、明日返品してくるよ。
なあに、あそこの本屋のオヤジは知り合いだから、開封しててもきっと返品してくれ・・・・、」
「そうじゃない!そんなこと言ってるんじゃないんだよ!」
黄緑君はものすごい形相で叫ぶ。
ストリートファイター兇覗蠎蠅旅況發魘瑤蕕ぁ顔をゆがめているリュウを一時停止した時のように。
「本条さんが・・・・本条さんが・・・・、」
「あ、あの・・・・ちょっと落ち着こうか?顔がスト兇嚢況發魘瑤蕕辰浸のザンギエフみたいな顔になってるから・・・・、」
「本条さんが・・・・・・・、」
「分かった!なら俺が脱ごう!こう見えてもそれなりに鍛えて・・・・・、」
「本条さんが・・・・・男だったなんて!」
「そう、彼女は男だ。実はビッグ・マダムというお店のママで・・・・・・って、はい?」
俺はピタリと固まる。
モデルになる為に脱ぎかけていたズボンを上げ、「黄緑君?」と顔を覗き込む。
「僕は知らなかった!本条さんが男だったなんて!」
「・・・・・いやいやいや!それは違う・・・・・、」
「僕は女性画が描きたかったんだ!フェルメールのように、写真すらも超える美しい女性画を!
それが・・・・それがこんな結末になるなんて・・・・、」
「あ、あのさ・・・・君は大きな誤解をしているよ。由香里君はれっきとした女で・・・・、」
「じゃあさっきのアレは何なのさ!?」
そう言ってモデルの下半身に巻き付いた、俺のシャツを睨んだ。
「あんなのが付いてたんじゃ・・・・男に決まってるじゃないか・・・。」
「ええっと・・・・あれはだね、実は由香里君じゃなくて・・・・、」
「男なんだろ!彼女・・・・いや、彼は男なんだろ!」
「違うよ!由香里君はれっきとした女だ。」
「じゃあアンタ見たのかよ!?」
「へ?」
「ちゃんとその目で確認したのか?本条さんが女だって・・・・ちゃんと見たことあるのかよ!?」
「・・・・・・いや、ないけど。」
そう、この目で確認したことなどあるわけない。
・・・・まさか、由香里君は実は男で・・・・・って、ないから!
「もういい・・・・僕は他のモデルを探す・・・・、」
「あ、黄緑君・・・・。」
「依頼料は返さなくていいです。勘違いした僕が悪いんだから・・・・。」
「だからさ・・・彼女は女で・・・・、」
「でもその目でみたことはないんだろ?」
「・・・・もし見ようとしたら、翌日には棺桶に入ってるだろうな。」
「ほら、ほらほら!きっとあなただって騙されてるんだ・・・・本条さんは男なんだよ。」
そう言ってフラフラとした足取りで美術室を出て行った。
「・・・・・そう言われればこの目で確認したことはないな。
女とは思えないほど強いし、それに男勝りだし・・・・。実は男だったりして・・・・・・、」
俺まで疑いはじめ、「いやいや、ないから!」と首を振った。
「・・・・まあいいか。依頼料は返さなくていいんだし、由香里君もモデルをやらずに済んだ。
一件落着ってことで。」
モデルの下半身に巻いたシャツを取り、「仕事は終わりだ」と言った。
「さっさと帰るぞ。」
「ねえ久能ちゃん・・・・。」
「なんだ?」
「さっきの彼、ものすごくタイプなの。ウチの店に勧誘してもいいかな?」
「好きにしろ。ただしその前にお面を外せ。そして下は隠せ。」
俺はシャツを着ながら、日照りの強い外へと出る。
色々あったけど、とりあえず依頼は完了。
くあっと欠伸をしながらアトリエを後にした。

          *

あの一件から三日後、ビッグ・マダムのママからLINEが来た。
『えへへ〜!可愛い男の子ゲット〜!』
そこには写真が添えられていて、すっぽんぽんになった黄緑君がいた。
『もう絵の道は諦めたんだって。
これからは自分の肉体美を究める道に行くそうよ。
今はジムに通って筋肉を鍛えてる。
ゆくゆくは世界的なボディビルダーになるんだって張り切ってるわ!』
俺はすぐに返信を打つ。
近いうちに店に遊びに行くよと。
LINEを閉じ、スマホを置く。
うんと背伸びをしながら、「暇だな・・・」と鼻くそをほじった。
「依頼が解決したのはいいけど、相変わらずの暇さだ。
ギャラは全てエロ本に消えたし、これじゃいつか潰れるかもな。」
ほじった鼻くそを飛ばしながら、「帰るか・・・」と立ち上がる。
するとタラリ〜ン!とスマホが鳴って、由香里君からのメールが届いた。
『この前のモデルの話、ちゃんと断ってくれましたか?
もし引き受けたりなんかしたら承知しないですからね。』
「大丈夫、心配ないよ。」
笑いながら返信を打つ。
『とりあえず帰国したら事務所に寄るつもりです。
その後は大学に寄って、その黄緑君って子に会うつもりです。
そういう頼みをする時は、ちゃんと本人に言いなさいって。
あ、でも引き受けるつもりはないですけどね。』
「うん、それがいい。大学へ行って、彼の誤解をきちんと解いて・・・・、」
そう打とうとして、ピタリと手を止めた。
「・・・・・いや、大学へは寄らない方がいい。
しばらく休学することをお勧めする。」
そう返信して、事務所を後にした。
由香里君は『どうしてですか?』と尋ねて来るが、「戻ってくれば分かる」と返した。
「ちなみに俺は何も悪くない。勘違いしたのは黄緑君だ。
だからまあ・・・・後はよろしく頼む。」
そう打つと、『また何かやらかしたんですか?』と返ってきた。
そして数分後、電話が掛かってきた。
『ちょっと久能さん!どういうことですか!
さっき大学の友達に電話したら、私が男って噂が広まってるじゃないですか!
いったい何をやらかして・・・・、』
「あ〜・・・・電波が悪いみたいだ。あ〜由香里君?ゆか・・・く・・・・、」
『コラ!誤魔化すな!どういうことか説明して・・・・、』
俺は電話を切り、何も聞かなかったことにする。
「由香里君が帰って来る前に、どこかに身を隠した方がいいかもしれないな。
下手すれば棺桶に入ることになる。」
何度も電話が掛かってくるが、聴こえないフリをする。
今日はビッグ・マダムに寄って、朝まで飲んでいくことにした。

 

不思議探偵誌〜探偵の熱い夏〜 第一話 美術部の青年

  • 2016.07.07 Thursday
  • 11:38

JUGEMテーマ:自作小説

超能力探偵、久能司。
人は俺のことをそう呼ぶ。多分・・・・・。
宝くじを当て、脱サラをして始めた探偵業。
今までに様々な依頼が持ち込まれ、それを見事な推理で解決してきた・・・・・はず。
本当はビシッと言い切りたいのだが、なかなかそうもいかない。
俺の元に持ち込まれる依頼は、およそカッコいい探偵のこなす仕事ではないからだ。
UFO研究家との対談とか、幽霊の婚約指輪を探すとか。
酷い時なんか、依頼者のSM趣味を誤魔化す為に、相手の奥さんに謝りに行ったこともある。
まああれは自分から首を突っ込んだんだけど・・・・・。
ああ!他にもっと酷いのがあった・・・・。
頭が二つあって、全身が毛むくじゃらで、しかも関西弁を喋るヘビを探すというものだ。
そんな依頼は藤岡弘、に任せておけと思ったが、信じられないことに本当にそのヘビが見つかった。
今では上の階で働いている、『月刊ケダモノ』の編集長のペットになっている。
どれもこれも自慢出来るような仕事ではなく、華やかでカッコいい探偵生活とは無縁だった。
俺は鼻くそをほじりながら、壁の時計を見る。
時刻は午後二時半。
一か月前からまったく依頼が来なくて、多分今日も来ない。
だからそろそろ店じまいすることにした。
表の看板を『閉店中』に変えて、デスクでエロ本を読む。
「むほ!この女優脱いだのか・・・・。」
エロイ足に、エロイ鎖骨、そして両手でも余りそうなおっぱい・・・・。
ゴクリと唾を飲み、息子が元気になっていくのを感じる。
するとその時、タラリ〜ン!とスマホが鳴った。
どうせ何かの下らないチェーンメールだろうと思ったが、液晶を見て「お!」と唸った。
『久能さん、元気にしてますか?』
そう送ってきたのは、我が探偵事務所の助手、本条由香里君だ。
今は大学の三回生で、オーストラリアに留学している。
三回生で留学とは珍しいが、真面目な彼女は卒業に充分な単位を得ている。
あとは卒論だけで、卒業後は我が探偵事務所のエージェントとして働くことになっていた。
まあエージェントなんて言っても、バイトから社員への雇用契約に変わるだけだけど。
ていうか彼女がいないと、この事務所はままならない。
本当はもっと良い所で働けるだろうに、『しょうがないから残ってあげます』と言ってくれたのだ。
持つべきものは優秀で優しい部下。俺は実に恵まれている。
スマホをいじり、メールを読んでいった。
『ちゃんと仕事してますか?依頼が来ないからって、サボっちゃダメですよ。』
「俺は子供か。」
『どうせエッチな本とか読んでるんだろうけど、私が帰ったら全部処分しますからね。』
「いっつも処分してるじゃないか。」
『ああ、それと事務所の戸締りはちゃんとして下さいね。
あとコンロを使ったらちゃんと火を消すこと。』
「だから俺は子供か。」
『一ケ月だけの短期留学だから、あと半月もしたら帰ります。
それまでちゃんと仕事してて下さいね。
帰ったらお茶淹れてあげますから。』
「今度は爺さん扱いか。」
『それじゃまた。ああ、それとお土産は何がいいですか?
定番のチョコレートかコーヒーにしようかと思うんですけど、何かリクエストあります?』
「う〜ん・・・そうだな。じゃあオーストラリアのエロ本を・・・・っと。」
ポチッと送信すると、すぐに返信が来た。
『シバきますよ?』
「冗談。コーヒーでいいよ。
ていうか俺のことはいいから、留学を楽しんで来なよ。」
『そうですね。じゃあ戸締りと火の始末だけ気をつけて下さい。
またメールしますから。それじゃ。』
「ああ、また。」
スマホを閉じ、「ふあ〜・・・」っと欠伸をする。
「さてと・・・・・・帰るか。」
真面目に働けと言われても、依頼がないんじゃ働きようがない。
貧乏暇なしと言うけれど、暇な方が貧乏になるに決まってる。
「このまま依頼が来なかったら、由香里君が帰って来る前に潰れたりしてな。」
半ば冗談、半ば本気で言いつつ、事務所を出る。
季節は八月の半ばで、外に出た途端に汗がにじむ。
元気になっていた息子も力を失い、早く家に帰って元気にしてやらねばと思った。
すると俺と入れ違いに、事務所のあるビルに駆け込んでいく青年がいた。
しかしすぐに出てきて、事務所の看板を見上げた。
《なんだ?もしかして依頼者か?》
ゆっくりと近づき、「あの・・・・」と話しかける。
「ウチの事務所に何か御用ですか?」
ジャニーズ風のイケメン青年は、驚いた顔でこっちを振り向く。
「あ、あの・・・・・、」
俺と事務所の看板を交互に指さし、口をパクパクさせている。
「はい、私が久能探偵事務所の所長、久能司です。」
「あ・・・・ああ!」
「人呼んで超能力探偵、どのようなご依頼でしょうか?
ニコっと営業スマイルを振り撒く俺。
《久しぶりの依頼だからな・・・・何としても逃すわけにはいかん!》
嘘くさいほど笑顔を振りくが、脇にエロ本を抱えているのを思い出して、サッと隠す。
「あ、あの・・・・頼みがあるんです。」
「ええ、何なりと。この久能司、どんな依頼でも解決してみせます。」
「ここの探偵さんは、どんな依頼でも受けてくれるって聞きました。
だからその・・・・・恥ずかしいお願いなんですが・・・・、」
「遠慮なさらずにご相談下さい。」
「俺・・・・美術部に入ってて、何としても次のコンクールで入賞したいんです!
だからその・・・・・、」
「その?」
「・・・・ヌードモデルになって下さい!」
青年は顔を真っ赤にしながら頭を下げる。
俺は首を傾げ、「ヌードモデルですか?」と尋ねた。
「あなたは・・・この久能司の肉体美を描きたいと?」
「あ、いや・・・その・・・・・、」
「私も職業柄、肉体は少々鍛えてあります。
探偵は常に危険が付き物、それゆえに毎日のストレッチとプロテインは欠かしません。
ちなみに通信教育でコマンドサンボを習ったこともありますよ。続けたのは一週間だけですがね、ははは!」
「いえ、その・・・・・、」
「しかしあれですな、私の肉体に目を付けるとはお目が高い。
本来の探偵業とは異なりますが、我が事務所も少々の経営難。
ギャラ次第では、ヌードモデルを引き受けることもやぶさかでは・・・・、」
そう言って胸元のボタンを外すと、「あなたの裸体に興味はありません!」と言われた。
「え?」
「ここに本条由香里さんという方がいらっしゃいますよね?」
「ええ、我が事務所の助手を務めておりますが・・・・・、」
「彼女にヌードモデルをお願いしたいんです。」
「ゆ・・・・由香里君に?」
「はい!」
青年は強い目で頷く。
俺は胸元のボタンを閉じ、ポンと青年の肩を叩いた。
「あのね君・・・・、」
「はい。」
「ここはそういうお店じゃないんだよ。」
「・・・・・はい?」
「この事務所から少し離れた所に、ビッグ・マダムというお店がある。
そこのママは基本的に裸族だから、頼めばモデルをやってくれるよ。」
そう言ってポンポンと背中を叩き「じゃあ」と手を振る。
しかし青年は追いかけてきて、「そういう意味じゃありません!」と叫んだ。
「僕は真剣にお願いしてるんです。本条さんにモデルをやってほしいんです。」
「いや、だからそれは無理だって。」
「どうして?本人に聞いたわけでもないのに。」
「あのね、由香里君は超が付くほど真面目で、そんな頼みは絶対に聞いてくれない。
ていうかもし聞いてくれるなら、とっくに俺がお願いしてるから。」
「でも・・・・、」
「それに彼女は空手の達人だよ?去年なんか全国大会で三位になってるんだから。
下手に手を出したら大怪我をして・・・・、」
「それなんですよ!」
青年はビシッと指をさす。
「僕はとある空手の大会で彼女を見つけたんです。
そして・・・あの凛とした佇まい、芯の強そうな目、それに何より、鍛え抜かれた肉体に目を奪われたんです。」
青年はうっとりしながら目を細める。
俺は「おい君・・・」と詰め寄った。
「鍛え抜かれた肉体に目を奪われたって・・・・どういう意味だ?」
「はい?」
「まさか・・・・更衣室を覗いたのか?」
「なッ!ち・・・・違いますよ!」
「君!今すぐその時のことを詳しく教えるんだ!俺も覗きに行くから!」
「だ〜か〜ら〜!違いますって!道着の袖や裾から見える手足が、すごく鍛え込まれていたんです。
それに目を奪われたって意味ですよ!」
「・・・・なんだ、つまらん。」
プイッとそっぽを向くと、「なんなんだこのオッサンは・・・」と言われた。
「俺はまだ34だ、オッサンではない。」
「俺はまだ21です。ちなみに本条さんと同じ大学です。」
「何?君は彼女と同じ大学・・・・?」
「ええ。」
「そうなのか・・・・それならそうと言ってくれないと。それを知ってれば・・・・・、」
「知ってれば?」
「・・・・・・いや、特にない。」
「だからなんだよこのオッサン・・・・。」
青年はバカでも見るような目で俺を蔑む。
「まああれだ、その依頼ばっかりは無理だから。」
「どうしてもですか?」
「どうしてもだ。」
こんな依頼を引き受けたら、由香里君が帰って来た時に殺される。
俺は「他を当たってくれ」と言い残し、青年を後にした。
・・・・しかしふと立ち止まり、「なあ?」と振り返る。
「その・・・・君はどういう絵を描くんだ?」
「どういう絵って・・・・、」
「ほら、あるだろう。印象派とか抽象画とか。」
「ああ、写実画ですよ。」
「本当か!」
青年に詰め寄り、「で、どの程度の腕前なんだ?」と睨んだ。
青年はスマホを取り出し、「僕の作品です」と写真を見せた。
「・・・・こりゃすごい。まるで写真並じゃないか。」
「そうですか?これくらい描く奴なんてザラにいますけど・・・・、」
「これは風景の絵だな。人物のはないのか?」
「こっちが人をモデルにしたやつです。」
「・・・・・ぬううう!」
何とも美しい女性が、裸で滑り台を降りている。
その絵は写真と遜色ないほど素晴らしかった。
「なあ君・・・・・、」
「はい。」
「その・・・・由香里君を描いたとして、それをコンクールに出すんだよな?」
「ええ。」
「なら・・・・その絵は誰でも見られるわけだ?」
「入賞すれば・・・・・。」
「なるほど・・・・。」
「あの・・・・なんかイヤらしい顔になってますけど?」
「ちなみに現場には俺が同行しても?」
「は?」
「だから絵を描く現場だよ。アトリエとかあるだろう?俺もそこへ同伴していいのか聞いてるんだ。」
「それは・・・・本条さん次第じゃないですか。」
「なら彼女がいいと言えば、問題ないんだな?」
「本当なら他人に来てほしくないんだけど、もしあなたから説得してくれるというのであれば・・・・、」
「する!するさ!」
「あの・・・・なんか下の方が膨らんでるんですけど・・・・、」
「気にするな、息子が元気を取り戻しただけだ。」
俺はニコニコと笑いながら、「君の依頼を引き受けよう」と言った。
「ただしギャラは貰うけどな。」
「いいですよ、モデルを依頼するわけだし。」
「よし、それじゃ契約成立だ。」
俺はギュッと彼の手を握る。
「ははは!心配するな、俺が由香里君を説得してみせるから。」
息子はますます元気を増し、夏の暑さなど吹き飛んでいく。
青年は「変態かよ・・・」と呟いた。

 

新しい小説

  • 2016.07.07 Thursday
  • 11:36

JUGEMテーマ:自作小説

新しい小説を載せます。

以前に載せた不思議探偵誌という小説の続編です。

カテゴリの小説3に以前の不思議探偵誌が載っています。

新しいのを書くので、よかったら読んでやって下さい。

 

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