微睡む太陽 第八話 探しものはすぐ傍に(2)

  • 2017.05.12 Friday
  • 08:17

JUGEMテーマ:自作小説

新しく見つかった副業。
それは遺跡の発掘をするというものだ。
二ヶ月だけの短期だけど、そこそこ時給はいい。
しかも仕事場は兎羽山ときている。
これならば遺跡とUFOの発掘、両方できて一石二鳥というわけだ。
周りは定年退職した人が多い。
趣味を兼ねてやっているのだろう。
でも俺は実益も兼ねている。
UFOを見つけ出すという実益を。
兎羽山の中腹辺り、木立の開けた場所で、せっせと土を掘る。
ここは昔に城があったそうで、掘れば瓦や石畳の破片が出て来る。
でも俺はそんなのはどうでもいい。
UFOを見つけたいのだ。
だから誰よりも頑張った。
休憩中でさえ手を止めなかった。
さすがに喉は乾くので、お茶くらいは飲むけど。
「UFOよ、いるなら返事をしろ。俺はお前の味方だぞ。」
願いを込めながらせっせと掘る。
すると一人のじいさんが「精が出るな」と声をかけてきた。
「当然です、仕事ですから。」
「仕事は一生懸命やるもんだよ。まだ若いのにえらい。」
「仕事は人生の使命です。俺はなんとしてもUFOを見つけたいんです。」
「UFO?」
「遺跡なんてどうでもいいんです。宇宙人がここに降り立った証拠が欲しいんですよ。」
「はあ・・・変わってとるねえ。」
じいさんは俺の前に膝をつく。
そこにはたくさんの瓦や土器の破片が積み上がっていた。
「こんな短時間で、よくこれだけ掘れるもんだ。」
「それあげますよ。」
「いや、これはあんたのじゃないから。」
じいさんは可笑しそうに笑って、「ロマンがあるなあ」と呟いた。
「ロマン?」
「儂は歴史が好きでな。定年してから15年、全国各地の城や遺跡を巡り歩いた。」
「UFOはいましたか?」
「UFOはおらんけど、そこには歴史がある。でも見るだけじゃ飽き足りなくなって、今は大学に通っとるよ。
好きなことを勉強するのは、幾つになっても楽しいもんだ。」
「すいません、そこどいてもらえますか?」
「おお、すまん。」
じいさんは立ち上がり、「最近じゃ先生の仕事にもついて行くんだ」と言った。
「発掘の仕事は楽しい。この手で歴史を蘇らせるんだからな。」
「俺はUFOを見つけたいんです。」
「それもロマンだな。あるのかないのか分からないものを求める。男のロマンだ。」
「俺は現実主義者です。無いものを探したりはしません。」
「本気で信じとるんか?UFO。」
「信じるもなにも、あるんです。問題は見つからないことだけで。」
「純粋だなあ、いま幾つだ?」
「25です。」
「うん、まあ・・・・まだ遊びたい年頃だな。」
じいさんは勝手に頷いている。
そこへ何人かの若い男女がやって来た。
「斎藤さん、何してるんです?」
帽子を被った女が尋ねる。
じいさんは俺を指さし、「UFOを探してるんだと」と答えた。
「UFO?」
「根っから信じとるみたいだ。」
「へえ。」
女はじろじろ俺を見る。
「手伝いましょうか?」
「お願いします。」
人手は多い方がいい。
腰に付けた予備のスコップを差し出すと、「自分のありますから」と言った。
俺の傍にしゃがんで、土を掘っていく。
すると周りの若者たちが「また始まった」と笑った。
「琴音さあ、ほんと変人好きだよね。」
「ほんとな。男の趣味がマニアック。」
「前の彼氏もオカルトとか好きだったもんね。」
「うるさいな、ほっといて。」
女はシッシと手を振る。
若者たちは「あっちにいるから」と去って行った。
「すいません、失礼なこと言っちゃって。」
「慣れっこですから。」
女はせっせと手を動かす。
するとじいさんがポンと女の肩を叩いた。
「邪魔しちゃ悪いから、儂もむこうにいるな。」
「そういうのじゃないですよ。」
「いやいや、恥ずかしがらんで。」
じいさんはニヤニヤしながら去っていく。
女は「すいません」と謝った。
「私たち大学のゼミで一緒なんです。考古学の。」
「あのじいさんもですか?」
「はい。定年してから大学に来る人って、ちょくちょくいるんですよ。それもマニアックな学部。
昔に出来なかったことを、定年してから楽しみたいみたいで。」
「そうですか。」
どうでもいいので適当に頷く。
でも手伝ってくれるのはありがたい。
だけど掘れども掘れども、出て来るのは遺跡の破片ばかり。
俺にとっては用のない物なので「これあげます」と言った。
「欲しいけど、持って帰ったら怒られます。」
ニコっと笑って、「UFOが好きなんですか?」と尋ねた。
「仕事です。」
「?」
「UFOに乗るのが俺の仕事なんです。だから見つけないといけないんです。それに相棒もいるから。」
「相棒。」
「人間と怪人の息子です。宇宙人かもしれません。でも両親が離婚するので、心を痛めているんです。
だから宇宙へ行きたがっているんですよ。いや、帰りたがっているという方が正しいか。」
陸翔君は宇宙人の可能性がある。
四日前に見舞いに行ったきりだから、明日にでもまた行って、ちゃんと尋ねてみよう。
女はそれからも色々話しかけてくるが、面倒くさいので無視した。
手伝ってくれるのはありがたいが、邪魔をするなら帰ってほしい。
《人間の相手をしている暇はないんだ。宇宙人なら別だけど。》
時間も忘れ、せっせと土を掘る。
やがて陽が暮れてきて、主任さんが「今日はもう終わり」と手を叩いた。
「明日も朝九時にここへ集合して下さい。足がない人は市役所まで来てくれれば、いつも通りに送迎します。それじゃ解散。」
みんな「疲れた〜」とか「お疲れ」と喋り出す。
俺はリュックを背負い、山を下りた。
すると手伝ってくれていた女が「ちょっといいですか!」と追いかけてきた。
「私たちこれからゼミのみんなでご飯に行くんです。よかったら一緒にどうですか?」
「いえ、仕事がありますので。」
「仕事はもう終わったじゃないですか。」
「さっきのは労働です。UFOを見つけるという仕事も兼ねているけど。
でも今からが俺の本業なんです。お疲れ様でした、失礼します。」
会釈を残して、スタスタ下りていく。
俺は忙しいのだ。
今やUFO探しは自分の為だけではなくなった。
悠長に飯を食っている暇などない。
しかし女はしつこく、「なら明日はどうですか?」と追いかけてくる。
「私もUFO見たことあるんです!だから話を聞きたくて・・・・、」
「なんですって!?」
そうとなれば話は別だ。
「いつ?どこで?UFOの形や色は?」
「子供の頃です。アメリカに住んでたことがあって、夜中に強烈な光を感じたんです。
それで窓を開けたら、真っ白に輝くUFOがいたんです。」
「それでどうなりました!?UFOに乗ったんですか?頭にチップは?」
「いえ、見ただけです。でも誰も信じてくれなくて・・・・。
あの、こんなこと言うと笑われるかもしれませんけど・・・・、」
そう前置きして、「実は」と続けた。
「私が考古学を選考したのもそれが理由なんです。大昔、この地球には人類以外の文明があったんじゃないかって。
それはきっと宇宙から来たんだと思うんです。」
「そうでしょうそうでしょう!そうなんです!奴らはいるんですよ!俺たちより遥かに昔からね。」
「ええっと・・・・そこまでとは思わないけど、でもUFOや宇宙人って、きっとどこかにいると思うんです。
だってこの広い宇宙で、生命が私たちだけっておかしいじゃないですか。
宇宙全体の星の数って、地球上の砂浜の砂粒より多いんですよ。
だったら地球外生命がいない方がおかしいと思うんです。」
「素晴らしい!そうです!そうなんですよ!人類は一人ぼっちなんかじゃないんです!」
「ですよね!絶対そうですよね!でも周りにこれを言うと馬鹿扱いされるんです。
みんなUFOを見たことがないから信じられないだけで・・・、」
「気持ちは分かります。俺だって妄想だの病気だの言われますからね。
でも言いたい奴には言わせておけばいい。そんなの関係ないんです。」
「それに私は変人が好きなわけじゃないんです。私の話を分かってくれそうな人が好きなだけで・・・・。
みんなは変人が好きなんだろ?って言うけど、そうじゃないのに。」
「人間は悲しい生き物です。嘆いても仕方ありません。
でもね、俺はUFOを見たんです。親が殺されたあの日、弾けるオーロラの中に・・・・、」
「え?親を・・・・、」
女は驚く。
毎度のことなので、「子供の頃にアイスランドにいて・・・・」と説明した。
「・・・・そうなんですか。すいません、悪いこと聞いちゃって。」
「別に悪くありません。問題はUFOです。俺はそれを見つけないといけないんです。だからこれで失礼します。」
理解し合える人がいるのはいいことだ。
仕事にもやる気が出て来る。
《さて、ピックアップしといた人気のない場所に行かないとな。》
政府の手が及んでいない宇宙人は、きっと隠れながら生きている。
だからそういう場所を調べておいた。
まず向かうは廃村だ。
調べると意外と近くにそういう場所があった。
怪人の洋館がある場所の、さらに北の山にある。
そこなら絶対にいるはずだ!
期待を込め、山を下りる。
そして空き地に停めていた車に乗り込むと、コンコンとノックされた。
「あの・・・・、」
「はい?」
あの女がついて来ていた。
窓を開け「何か?」と尋ねる。
「その・・・・ご迷惑じゃなかったらなんですけど・・・・、」
「ええ。」
「実は聞いてほしいことがあるんです。」
「なんですか?」
「・・・・さっきちょっとだけ嘘をつきました。」
「嘘?」
「実は・・・UFOを見たのは私だけじゃないんです。」
「どういうことですか?」
「あの時、傍に妹がいたんです。一緒に手を繋いでUFOを見ていました。
それでパッとUFOが光ったかと思うと、妹はいなくなっていたんです。」
「なんですって!?」
「私はすぐに両親を起こしました。摩耶がUFOに連れて行かれたって。
そうしたら父も母も妙な顔をしたんです。『妹なんかいないよ』って。」
「それは・・・・どういう?」
「分かりません。でも両親も友達も、それに学校の先生も、みんな摩耶なんて知らないっていうんです。
私に妹なんかいないだろって。まるで記憶の一部が消されたみたいに。」
「・・・・・・・・・。」
「それだけじゃないんです。妹に関する物が全て消えていたんです。
写真もオモチャも、自転車もベッドも。」
「・・・・・なんてことだ。」
俺は震える。
それは間違いなく宇宙人の仕業だ。
「奴らは超文明の持ち主なんです!だから人間の痕跡を消すなんて、わけないんですよ!」
「私もそう思います。きっと宇宙人が妹に関する記憶とか、それに持ち物も消し去ったんだろうって。」
「あのですね、そういう話ならば、俺も聞いてほしいことがあるんですよ。」
そう言うと、女の顔が引きつった。
「まさかあなたも家族を誘拐されたとか?」
「その可能性があります。でもハッキリしないんですよ。」
俺は話した。
両親を殺されたあの日、誰かの手を握っていたことを。
そしてUFOがこっちに飛んできて、その後にその誰かが消えていたことを。
「ついこの前思い出したんです。でもまだまだハッキリしないんですよ。
これはもしかしたら、俺も記憶を消されているのかもしれない。」
俺は自分の頭を触る。
ここには宇宙人のチップが埋め込まれていて、そいつが俺の記憶を操作している可能性がある。
女は「私と同じじゃないですか!」と叫んだ。
「きっとその時に誰かいたはずですよ。その人はあなたの家族かもしれない!」
「分からないんです。家族かもしれないし、宇宙人かもしれない。肝心な所がハッキリしなくて。」
「あの・・・・よろしければ、詳しく話し合いませんか?
私の話を聞いてほしいし、あなたの話も聞かせてほしいんです。
そこに摩耶を連れ戻すヒントがあるかもしれないから。」
「俺もあなたの話を聞きたいです。そこに記憶を掘り起こすヒントがあるかもしれない。」
ドアを開け、「乗って下さい」と言う。
女は「すいません」と助手席に座って、誰かに電話を掛けていた。
「もしもし?ああ、斎藤さんですか?ちょっと用事が出来たんで、ゼミのみんなと先に行っといてもらえますか?
・・・・いやいや!そういうのじゃないです!ていうかそういうことばっかり言ってると、若い人に嫌われますよ。」
どうやらあのじいさんに電話を掛けているらしい。
俺は車を出して、「廃村に向かうけどいいですか?」と言った。
「え?廃村?」
「今から仕事なんです。」
「え?いや、廃村って・・・・そんなのどこにあるんですか?」
「しばらく走った所にあります。」
「・・・・・・。」
「どうしました?」
「あの・・・・どこかのファミレスとか喫茶店とかじゃダメですか?」
緊張した面持ちで尋ねる。
「廃村は怖いですか?」
「そりゃ怖いですけど、それだけじゃなくて・・・・ねえ?」
「?」
「だって人気がないじゃないですか。だからあなたの話は聞きたいですけど、ちょっと二人でそういう場所に行くのは・・・。」
女はビクビクしている。
なるほど、俺が紳士じゃないと疑っているらしい。
「心配はいりません。襲ったりなんてしませんから。」
「でも・・・・、」
「心配なら話は明日にしましょう。今日は廃村へ行くと決めているんです。」
「・・・・・・・・・。」
女は考える。
俺は早く決めてほしい。
一刻も早くUFOを見つけて、陸翔君と宇宙へ行かなければいけないのだから。
「降りますか?」
「・・・・いえ、その・・・・信用します。」
「なにを?」
「あなたを。」
「紳士だと思ってくれると?」
「はい。」
「じゃあ行きましょう。」
俺は廃村へと車を走らせる。
場所は地図で覚えた。
記憶力は良い方なので、まず迷うことはないだろう。
「じゃあ向こうに着くまでに聞かせて下さい。あなたがUFOと遭遇した時のことや、妹さんのことを。」
「はい。あの後に自分なりに調べたんです。UFOとか宇宙人のこと。それでちょっと気になることがあって・・・・、」
「気になること?」
「笑わないで聞いて下さいね。」
そう前置きして、気になることとやらを聞かせてくれた。
それは俺が考えもしない、目が覚めるような斬新な意見だった。
「あなたは天才だ。」
「そんな大げさな。」
「しかしそうなると、UFOや宇宙人に対する考え方を、180度変えなきゃいけなくなる。」
「あなたはどう思ってるんですか。UFOとか宇宙人のこと。」
「いいでしょう、私の考えをお聞かせします。」
暗い車内で、お互いの考えをぶつけていく。
それはとても有意義な時間で、人と意見を交換するのは大事なんだなと気づいた。
今まではこうして意見を交換できる人間がいなかった。
だから彼女と出会えたことは、ものすごく幸運なのかもしれない。
分かり合える人がいる、話し合える人がいる。
今までに感じたことのない喜びだった。
人はよく言う。
大事なものは傍にあると。
確かにそうかもしれない。
幸せや喜びは傍にあって、ただそれに気づくキッカケがないだけだ。
ということは、UFOや宇宙人だってすぐ傍にあるのかもしれない。
光の射す遠くを見るより、暗い足元を探った方が、気づくことが多いのかもしれない。
他人の考えを知るのは、とても貴重だった。

微睡む太陽 第七話 探しものはすぐ傍に(1)

  • 2017.05.11 Thursday
  • 08:54

JUGEMテーマ:自作小説
病院の窓から空を見上げる。
後ろから陸翔君が来て、「UFOいる?」と尋ねた。
「いないな。昼間は寝ているのかもしれない。」
「UFOって夜行性なの?」
「そういう種類もいるだろう。」
俺は振り返り、「あんまり動き回るな」と言った。
「大した怪我じゃなかったけど、頭を打ってるんだ。安静にするんだ。」
「平気だよ。」
陸翔君は空を見上げる。
「宇宙行ってみたいなあ」と呟きながら。
一昨日、陸翔君は怪我をした。
トンネルの傍の坂道を落っこちて。
幸い命に別状はなかったけど、少し頭を打っていた。
最初は意識が朦朧としていて、駆け付けたおばさんは顔面蒼白だった。
でも今はこうして元気になっている。
・・・・ちなみにあの宇宙人は捕まった。
奴を見た陸翔君が『ハゲだ!』と言ったので、カッとなって怒鳴ったのだ。
そのせいで陸翔君は驚き、坂を落ちた。
一時は警察に拘束されていたけど、今は自由の身になっている。
またどこぞで幽霊を売り飛ばしているに違いない。
なにわともあれ、陸翔君が無事でよかった。
二人して空を眺めていると、おばさんが戻ってきた。
「陸翔、これでいい?」
袋の中からポテチを取り出す。
陸翔君は「うん」と頷いた。
「全部食べちゃダメよ。半分だけね。」
「分かってる。UFOの人も食べなよ。」
「ああ。」
二人でボリボリポテチを頬張る。
すると今度は怪人がやってきた。
洋館に住んでいるあの怪人が。
「おう陸翔!」
「お父さん!」
怪人は「ほれ」と漫画を差し出す。
「新刊出てたぞ。」
「やった!」
ポテチを食いながら、漫画を読み出す。
おばさんが「行儀が悪い」と怒った。
「どっちか一つにしなさい。」
「平気平気。」
「何がよ?」
おばさんは「まったく」と笑う。
「でも元気になってくれてよかったわ。勇作君が見つけてくれたおかげね。」
「見つけたのはドローン少年です。」
「あの子にもちゃんとお礼を言わないと。今度お菓子をもってお宅に伺わないとね。」
そう言うと、怪人が首を振った。
「それはそうだけど、問題はそっちのUFO野郎だ。そいつがトンネルなんかに連れて行ったんだろう?」
「仕方ないのよ、そうしないと納得しなかったから。」
「いい大人がUFOだの幽霊だの・・・・馬鹿らしい。やっぱり病院に行った方がいいんじゃないか?」
「ちょっと!」
二人は喧嘩を始める。
陸翔君はチラチラと様子を窺っていた。
《離婚する親に心を痛めていたとはな。気にしていないように見えて、実は落ち込んでいたのか。》
陸翔君が坂で倒れていた時、両親が離婚するのが寂しいと呟いていた。
あれを聞いた時、俺はとんでもない誤解をしていたんだと気づいた。
《この子がUFOに乗りたいのは、足を治す為じゃなかったんだな。
宇宙へ行って、地球の小さな悩み事を忘れたかったんだ。》
宇宙は広い。果てしないほどに。
そこから地球を見れば、どんな悩みも砂塵のごとし。
だから俺は決めた。
UFOを見つけたら、絶対にこの子も乗せてやろうと。
「陸翔君、男の約束だ。」
手を出すと、「何が?」と首を傾げた。
「俺たちはUFOに乗るんだ。」
「乗りたいよね。でも見つかるかな?」
「見つけるんだ、何がなんでも。しかし米軍を相手にするのは分が悪い。」
「向こうが相手にしないだろうしね。」
「NASAに手紙を書くという手もあるが、これも希望は薄い。なぜならCIAやFBIが邪魔をするだろうからな。」
「じゃあどうやって見つけるの?」
「宇宙人は色んな場所にいるはずなんだ。いくらアメリカといえど、全ての宇宙人を拘束しているなんてあり得ない。
ということは、日本にだっているはずなんだ。」
「でも警察とか自衛隊が匿ってるかもよ?」
「そこなんだよ。この前だってハゲの宇宙人を匿おうとしていたからな。」
二人で話し込んでいると、おばさんは「何盛り上がってるの?」と尋ねた。
「UFOを見つける話です。」
「いつもよく同じ話題で盛り上がれるわね。」
「この国にも宇宙人はいるはずなんです。しかしその多くは政府によって匿われているでしょう。
どうにかして政府の手が伸びていない宇宙人を見つけないと・・・・、」
俺は真剣に考える。
日本は狭い。
ならば政府の手が届いていない宇宙人は少ないということになる。
きっと息を殺して暮らしているはずだ。
「彼らは人目につかないようにしているだろうな。」
ブツブツ言いながら空を見上げた時、ピンと閃いた。
「・・・・そうか!目立たない場所を探せばいいんだ!」
思えば今まで目立つ場所ばかり探していた。
怪しい建物とか、電波塔が建っている山とか。
そうじゃなくて、人が寄り付かない地味な場所を探せばいいんだ。
「陸翔君!安心しろ、UFOは見つかるぞ!」
「ほんと!」
「二人で宇宙へ飛び出すんだ!」
「行きたい!」
「行けるさ!行けると思っていれば、どこへだって行けるんだ!」
「だよね!」
俺たちは固い握手を交わす。
おばさんは「楽しそうねえ」と見ていたが、怪人は「馬鹿らしい」と呆れた。
「もうこいつに付き合うな。また陸翔が危険な目に遭う。」
「この前のはたまたまよ。あのホームレスの人だって、最初に陸翔が悪口を言ったのが悪いんだから。」
「だとしてもな、こんな頭のおかしな奴、俺は信用しないぞ。
こんな奴と陸翔を遊ばせるっていうんなら、陸翔の親権は俺が貰う。」
「何言ってるのよ!この前は私に譲るって言ったでしょ!」
「ならそいつと縁を切れ。でないと安心できない。」
「でも陸翔だって喜んでるわ。無理に離しちゃ可哀想よ。」
「逆だ、そいつと一緒にいると危ない。いくら喜ぶっていったって、陸翔はまだ子供なんだ。
まともな大人とそうじゃない大人の区別は付かない。」
怪人は俺を睨む。
不満たっぷりの顔で。
するとおばさんが「ちょっと来て・・・・」と怪人の手を引っ張った。
「なんだ?」
「いいから。」
二人は病室を出て行く。
陸翔君は浮かない顔で漫画に目を落とした。
「宇宙に行きたい。早くUFO見つけてよ。」
「もちろんだ。心当たりができたからな。」
「ほんと?」
「人気のない場所に行くんだ。そうすれば、政府の手が及んでいない宇宙人がいるはずだ。」
「じゃあ行こう、今すぐ。」
「ダメだ。怪我を治すのが先だ。」
「ケチ。」
「宇宙人は危険な奴もいるからな、この前思い知っただろう?」
「あの人は人間だよ。」
「いいや、宇宙人だ。でもあいつはUFOを持っていないだろう。
金に困っていたみたいだから、政府に売り渡したはずだ。」
「UFOの人って、ビックリするくらい妄想出来るよね。ある意味すごい才能だよ。」
「妄想じゃない、真実だ。」
真実はいつだって闇の中で、見ることも触れることも難しい。
でも俺には分かる。そういう直感が備わっているんだ。
モルダーじゃないけど、俺の勘がそう言ってる。
しばらく空を見ていると、おばさんが戻って来た。
「お父さんは?」
陸翔君が尋ねる。
「仕事だって。休憩中に抜けてきただけだから。」
「また来るよね?」
「もちろんよ。」
おばさんは頷き、「勇作君」と呼んだ。
「ちょっといい?」
「ええ。」
おばさんと一緒に病室を出る。
自販機がある休憩所に行って、コーヒーを奢ってもらった。
「すいません。」
「いいのよ、それよりちょっと話したいことがあってね。座って。」
おばさんは真剣な顔をしている。
何か悩んでいるようだ。
「陸翔のことなんだけどね、何か言ってた?」
「何かとは?」
「ほら、私たち離婚するじゃない?そのことで何か言ってた?」
「ええ、寂しいと言っていました。」
「やっぱり本当はショックなのね・・・・。」
おばさんは首を振る。
「さっきね、あの人と話してたのよ。陸翔のこと、もう一度真剣に考えようって。
もちろん親権は譲らないけど、でもあの子が辛い思いをするのは可哀想でしょ。
だから月に一回だけ会うって約束を、週一にしないかって提案したの。」
「それはおばさんと怪人が決めることですから、俺からは何も。」
「たまに寂しそうにしてるのよ。でも意地っ張りなところがあるから、私たちには本心は見せないのよ。
だけど勇作君になら何か言ってるんじゃないかと思ってね。それで聞いてみただけなの。」
おばさんは疲れたようにため息をつく。
俺は立ち上がり、「UFOを探しに行きましょう!」と言った。
「またそれ?」
「陸翔君はUFOに乗りたがっているんです。」
「そういう気持ちにもなるでしょうね、親が離婚するんだから。」
「大きな宇宙から地球を見れば、悲しみさえも塵と化します。
それに宇宙人の超文明なら、足だって治るかもしれません。」
「だといいけど、私はもう大人だから。妄想で気持ちを誤魔化せるほど純粋じゃないのよ。」
そう言ってから、「あ、UFOが妄想ってわけじゃなくてね」と手を振った。
「いいんです、そういう風に言われるのは慣れてますから。でも俺は信じているんです。
いや、確信しているんです。アイスランドで見たあのオーロラ、あの中にはきっとUFOがいた。
記憶の深い部分が、ほんの一瞬だけ鮮明になったんです。」
頭を下げ、病室へ戻る。
「陸翔君。」
漫画から顔を上げて、俺を見る。
「お母さんと何話してたの?」
「離婚のことについてだ。君が悲しんでいるんじゃないかと。」
「ああ、そのこと。」
「家庭の問題はよく分からないが、君のUFOへの愛は伝わった。
だから探しに行こう。それしか道はない。」
「別にそこまで追い込まれてないけど。」
「今日の朝、副業が決まってな。」
「あ、仕事見つかったんだ。よかったね。」
「しばらくは会えないかもしれない。でも休みの日はUFOを探しに行こう。きっと見つかる。そう信じるんだ。」
「分かった。僕もそれまでに怪我治すよ。」
俺たちは握手を交わす。
「それじゃ」と病室を出ると、おばさんが戻ってきた。
「帰ります。」
「もう?」
「色々と忙しくなるんです。まずは人気のない場所をピックアップしないと。」
「また会いに来てね。」
「もちろんです。」
ペコっと会釈して、病院を出て行く。
陸翔君がいる病室を見上げると、手を振っていた。
俺も手を振り返し、戦いに赴く戦士のごとく、力強い足取りで踵を返した。
《陸翔君、世界は君の知らないことだらけだ。そしてそれは俺も同じだ。
自分の記憶さえハッキリしない所があるからな。
でもUFOに乗れば、そんな些細なことはどうでもよくなる。必ず一緒に乗ろう。》
UFOの探索は、もはや俺だけの問題ではなくなってしまった。
陸翔君という相棒が出来たのだから。
俺は立ち止まり、手を見つめる。
アイスランドで両親が殺された時、俺は誰かの手を握っていた。
そしてその感触は、陸翔君の手ととてもよく似ていた。
「もしかしたら、宇宙人と手を握っていたのかもしれないな。」
弾けるオーロラの中に浮かんでいたUFO。
あれは俺のすぐ傍を駆け抜けていった。
「もしかしたら、俺と手を繋いでいた宇宙人を連れて帰ったのかもしれない。
でももそうだとすると、陸翔君は宇宙人ということになってしまうな。
そうでなければ、この手に残る感覚が似ていることに説明が付かない。」
もしあの子が宇宙人だったら、それは喜ばしいことだ。
なんたって俺の求めていたものが、すぐ傍にあるんだから。
「今度会ったら尋ねてみるか。君は宇宙人かって。」
返答を楽しみにしながら、病院を後にした。

微睡む太陽 第六話 光の国へようこそ(2)

  • 2017.05.10 Wednesday
  • 08:56

JUGEMテーマ:自作小説

目の前に暗いトンネルがある。
傍には看板が立っていて、大きな字で『入らないで下さい』と書かれていた。
入り口には工事の時に使う通行止めのアレが並んでいて、その奥は真っ黒な通路が続いている。
「行こう。」
俺は真っ直ぐにトンネルに向かった。
陸翔君は不安そうな顔で、おばさんに車椅子を押されている。
「ほんとに入るの?」
おばさんが尋ねる。
「宇宙人に会う為です。」
「・・・・分かったわ。どうしても行かないと納得しないみたいね。」
ため息をつきながら、一緒にトンネルに入っていく。
中は真っ暗で、外からの光もほとんど届かない。
おばさんは「はい」と懐中電灯を渡してきた。
「車に積んであったやつだから、電池が残ってるかどうか分からないけど。」
「助かります。」
スイッチを押すと、ぼんやり光が灯った。
ゆっくりとトンネルを歩いていく。
俺は幽霊は怖くないので、こういう場所を何とも思わない。
でも陸翔君はかなり怯えていて、おばさんの手を握っていた。
「ねえ、ほんとに幽霊がいたらどうする?」
「幽霊はどうでもいい。宇宙人に会いたいんだ。」
「どっちが怖い?」
「どっちも怖くない。」
「呪われたらどうしよう・・・・。」
あまりに不安そうなにするので、おばさんが「外で待つ?」と尋ねた。
「勇作君だけに行ってもらえばいいじゃない。別に陸翔がついて行かなくても。」
「・・・・・行く。」
「意地張って。」
怯える陸翔君と共に、先を目指した。
トンネルの中はヒビ割れが多かった。
歩道には草が生えていて、よく見れば天井にも生えている。
虫にしろ草にしろ、小さな生き物は逞しい。
きっとUMAのDNAが入ってるに違いない。
注意深く辺りを観察しながら、ゆっくりと歩いていく。
そして何もないまま外に出てしまった。
「そう長いトンネルじゃないな。」
もう一度調べようと思って引き返す。
しかし陸翔君は「もう無理・・・」と言った。
「ごめん、UFOの人だけで行って。」
「宇宙人に会いたくないのか?」
「宇宙人は会いたいけど、幽霊は嫌だ。」
「幽霊は人間の意識だ。怖がることはない。」
「僕は怖い。戻ろうお母さん。」
「そうね。」
おばさんは頷き、「先に車に行ってるわね」と言った。
「私たちは新しいトンネルの方から帰るから。」
「分かりました。向こうなら宇宙人もいないでしょうから安全です。」
「勇作君も気をつけてね。暗いから転んだりしたら怪我するわよ。」
そう言い残し、二人は新しいトンネルの方へ歩いて行った。
「素人には荷が重い仕事だったかな。」
俺はプロだ。
どんな危険も承知の上だ。
凶暴な宇宙人に襲われようとも、決して逃げたりしない。
「宇宙人め、絶対に見つけてやるぞ。」
気合を入れてトンネルに入る。
くまなく観察するが、様子はさっきと変わりない。
あっさりと反対側へ出てしまって「妙だな」と首を傾げた。
「幽霊が出るなら、宇宙人もいるはずなのに。」
もう一度入る。
途中で立ち止まり「出て来い!」と叫んだ。
「ここにいるのは分かってるんだ!隠れても無駄だぞ!」
懐中電灯が闇を切り裂く。
俺の声が静寂を切り裂く。
「なぜ姿を見せない!俺を怖がってるのか!宇宙人ともあろう者が!」
きっと宇宙人はプライドが高いはずだ。
なんたって地球より遥かに進んだ文明を持っているんだから。
きっと俺たちのことは見下しているはずだ。
だからこうやって挑発すれば、怒って出て来るに違いない。
「怖いか!この俺が!勇者の俺が恐ろしいか!」
手を広げ「かかって来い!」と叫ぶ。
「ほら!どうした!来いよ!ベネットだってナイフを捨ててかかって来たんだ!
宇宙人ともあろう者が、たかが人間が怖いっていうのか!」
『野郎!ぶっ殺してやる!』
そう叫んで出て来ると思ったのに、返事はない。
「もしかして憶病なのかな・・・・。」
宇宙人だって色んな性格の奴がいるはずだ。
だったらこのトンネルに隠れている奴は、気の弱い性格なのかもしれない。
《もしそうだとしたら、挑発は逆効果だな。》
俺は作戦を切り替えることにした。
「安心しろ!ここにはモルダーもスカリーもいない!お前を捕まえたりはしない!」
もしかしたらライトも怖がるかもしれないから、スイッチを消した。
「お前をエリア51に連れて行ったりしない!ただ俺をUFOに乗せてほしいんだ!」
暗いトンネルの中、目を凝らして見つめる。
でも全然返事はなくて、見えるのは外の光だけ。
宇宙人どころか幽霊さえ現れない。
《どうやらかなりシャイな奴だな。こりゃあ会うのに手間取るぞ。》
人間にだって人見知りがいるんだから、宇宙人だって人見知りをするかもしれない。
そんな奴と打ち解けるには、時間が必要だ。
「分かった!お前が安心したら出て来てくれ。」
歩道に座り、宇宙人が心を開いてくれるのを待つ。
・・・するとその時、コツコツと足音がした。
「現れたか!」
足音はどんどん近づいてくる。
俺は立ち上がり、音のする方を睨んだ。
・・・・外からの光を受けて、人影らしきものが見える。
それはだんだん近づいてきて、俺の手前で止まった。
「これが宇宙人・・・・。」
宇宙人はハゲていた。
それに老けていて、歯も汚い。
服は地味なポロシャツに、薄汚れたスラックス。
足元の革靴は、先っぽに穴が空いていた。
《なんてこった・・・・こりゃあ浮浪者の宇宙人だ。》
地球にだって不況があるのだから、宇宙にだって不況があるのだろう。
それならば宇宙人のホームレスがいたっておかしくない。
「あんたはここで暮らしてるのか?」
そう尋ねると、「そうだけど・・・・」と答えた。
「あんた誰?」
「俺は基(はじめ)勇作。この星の者だ。あんたはどの星から来たんだ?」
「は?」
「不況に追われてこの星へ逃げてきたんだろう?」
「まあ・・・・不況のせいでリストラに遭った。ちょっと前からこのトンネルで寝泊まりしてるんだ。」
「それは大変だな。宇宙にはハローワークとかないのか?」
「は?」
「宇宙人の社会は地球よりも進んでるはずだ。ならば職の斡旋くらいしてくれるだろう?」
「無理だよ・・・・。もう歳だし、これといった資格もないし。」
「諦めるな。資格なんか取ればいい。ていうかUFOを運転できるんだから、それを活かした仕事を見つければいい。」
「あんたさっきから何言ってんの?宇宙とかなんとか・・・・、」
「お前は宇宙人だろう?UFOに乗って来たんだろう?」
「んなわけないだろ。俺はただの人間だよ。」
「ならどうしてこんな場所にいる?」
「そりゃ雨風が凌げるからな。」
「いや、違うな。お前は宇宙人だ。そして人間の意識を抜き取って、このトンネルに連れてきてるんだろう?」
「はい?」
「ここには幽霊が出ると噂がある。」
「らしいな。俺は見たことないけど。」
「嘘だな。もしやお前・・・・・、」
「なに?」
「不況で仕事がないもんだから、犯罪に手を染めているのか!?」
「はあ?」
「人間の意識を抜き取って、それを他の星に売ってるんだろう!」
「馬鹿じゃないのか。そんなこと出来るわけないだろ。」
「その姿も本当の姿じゃないんだろう?本当の姿は、人間とは似ても似つかないものに違いない。
きっとホームレスの頭にチップを埋め込んで、それで乗っ取ったんだろう!」
俺は宇宙人の頭を掴む。
「チップを出せ!」
「やめろ!」
「そのホームレスを解放するんだ!」
「痛い!何するんだ!」
宇宙人は俺を突き飛ばす。
そして慌てて逃げ出した。
「おい待て!」
「誰か!変な奴がいる!」
「俺をUFOに乗せてくれ!」
「頭のおかしな奴がいるううう!」
「逃がさん!」
宇宙人はなかなか足が速かった。
でも俺だって負けていない。
肉体には自信があるので、すぐに追いついた。
手を伸ばし、宇宙人を捕まえようとした。
しかしその時、宇宙人の向こうから誰かが現れた。
「何やってる!?」
警察だ。
ライトを向けて、こっちに走ってくる。
「ここは立ち入り禁止だぞ!」
二人組の警官がダッシュしてくる。
宇宙人は捕まってしまった。
「お巡さん!変な奴がいるんです!」
「変な奴?」
宇宙人は俺を指さす。
警官はライトを向けて、「ここで何してる?」と言った。
「宇宙人を探してるんです。」
「はあ?」
「ていうかそいつは俺が先に見つけたんです。返して下さい。」
そう言って奪う返そうとすると、「大人しくしろ!」と掴まれた。
「離せ!」
「暴れるな!手錠掛けるぞ!」
「あんたらはそうやって、事実を隠してきたんだ!宇宙人を見つけては捕まえて、邪魔する者は牢屋に叩き込んできたんだろう!」
「いいから落ち着け!」
「そうやって捕まえた宇宙人は、米軍に引き渡すんだろう!UFOだって隠してるはずだ!」
「いいから大人しくしろって!」
警官は二人がかりで押さえ込んでくる。
「クソ!事実を公表しろ!警察は宇宙人を隠してるってな!」
足をバタバタさせながら、「みなさあ〜ん!」と叫ぶ。
「警察が事実を隠蔽しようとしています!米軍の手先となって、真実を隠そうとしているんです!」
力いっぱいの声で叫ぶが、誰も来てくれない。
なぜだ?
ここに宇宙人がいるのに。
「・・・・そうか、警察がこの付近を封鎖してるんだな。なんて卑劣な・・・・、」
警察は国家権力の象徴。
その象徴が米軍の手先になっている。
これはもう・・・・いよいよ米軍の陰謀に違いない。
《もしかしたら、アメリカ政府と宇宙人は手を組んでいるのかもしれない。
世界を支配する為に、水面下で着々と準備を進めているに違いない!》
俺はがっくりと項垂れる。
いくらなんでも、俺一人で米軍と宇宙人を相手に戦うのは無理だ。
警官が「どうしますこれ?」ともう一人の警官に尋ねる。
「う〜ん・・・捕まえるってほどでもないしなあ。」
そう言って宇宙人に目を向ける。
「あんたはここで何してたの?」
「その・・・住む場所がないもんで・・・。」
「仕事してないの?」
「・・・・リストラに。」
「ああ、そりゃ大変だね。で、こっちの人に何かされた?」
「宇宙人呼ばわりされました。幽霊を売り飛ばしてるんだろうとかわけの分からないことを言われて・・・。」
「殴られたりとかはしてない?」
「頭を掴まれました。宇宙人のチップがどうとか言われて。」
宇宙人はビクビクしながら喋る。
そして「もう行ってもいいですか?」と言った。
「あんまり騒ぎになるのは嫌なんで・・・・。」
「もうここに入っちゃダメだよ。いい?」
「はい・・・・。」
「あ、いちおう名前と年齢教えて。あと住所。」
「いや、だから家がなくて・・・・、」
色々と聞かれてから、宇宙人は解放された。
そして俺に一瞥をくれて、逃げるように去って行った。
「で、こっちの彼はどうしようか?」
「お前ら!宇宙人を逃がすな!」
「さっきは捕まえるなって言ってたじゃない。」
「保護するんだ!でないとまた幽霊を売り飛ばすぞ!」
「う〜ん・・・・この人ちょっと病気かね?」
そう言って頭を指さすと、もう一人の警官が頷いた。
「保護しときますか?」
「だな。」
「俺を保護してどうする!保護するのはあの宇宙人だ!」
俺はパトカーに乗せられる。
そして警察署まで連れて行かれた。
さわがしい署内の隅っこで、ちょこんとソファに座る。
そして色々と話を聞かれた。
親を殺されたことを話すと、警官はギョッと目を見開いた。
「ほんとに?」
「ええ。」
「目の前でねえ・・・親を・・・・。」
警官はため息をつく。
もう一人の警官が「先輩」と言った。
「これですよ。」
「ん?」
二人はパソコンの画面をのぞき込む。
「ほらこれ。21年前の事件、これでしょ。」
「ああ、これな。ちょっとしたニュースになってたな。」
どうやらネットを見ているらしい。
確かに俺の事件はニュースになった。
でも日本で起きた事件じゃないから、そこまで騒がれなかったけど。
「可哀想に。」
先輩の警官が呟く。
「四歳の頃に目の前でなあ。」
「そりゃ心も病みますよ。」
二人は可哀想な目で俺を見る。
まあこういう目も慣れっこだ。
「どうします?もう落ち着いてるみたいだし、帰しますか?」
「だな。」
そう言って頷き合った時、誰かが警察署に駆け込んできた。
「あの!」
「ああ、おばさん!」
おばさんは血相を変えて叫ぶ。
「ウチの子がいなくなったんです!」
「なんだって!」
俺はおばさんの元まで走る。
「いなくなったってホントですか!?」
「勇作君!あんたこんな所で何してるの!」
「宇宙人と色々あったんです。それより陸翔君がいなくなったって?」
「新しいトンネルを通って、外で勇作君を待ってたのよ!それで私だけちょっと車に戻ったの。
そしたらどこにもいなくなってて・・・・、」
おばさんは俺の手を握って、「知らない!?」と叫んだ。
「どこ行ったか知らない!?」
「分かりません。宇宙人と色々あったから。」
おばさんは泣きそうな顔をしている。
そこへ警官がやって来て、「どうした?」と尋ねた。
「この人がさっき話したおばさんです。それで息子の陸翔君がいなくなったそうです。」
「いなくなる?」
「行方不明なんです。」
「ええ!?」
驚く警官。
おばさんは「お願いします!」と警官の手を掴んだ。
「陸翔を捜して下さい!あの子車椅子なんです!足が不自由なんです!一人でそんな遠くに行けないはずなんです!
きっと誰かにさらわれたんです!お願いします!」
「落ち着いて下さい!」
警官は奥へおばさんを連れて行く。
おばさんは取り乱し、何度も陸翔君の名前を叫んでいた。
《アイツの仕業だな!》
俺には心当たりがある。
そう、ハゲの宇宙人だ。
《アイツめ、陸翔君の意識を抜き取って、他の星に売るつもりだな。》
怒りが湧いて、外へ駆け出した。
「おいあんた!」
後輩警官が追いかけてくる。
「俺は宇宙人のプロです!アイツを見つけて、絶対に陸翔君を助けます!」
追いかけてくる警官を振り切って、一目散にトンネルを目指す。
でもここからだとちょっと遠いので、近所の家にあった自転車を借りることにした。
《宇宙人を追いかける為だ、許せ!》
庭の土に『借ります』と書置きして、急いで漕いだ。
ギアを一番重いやつに入れて、とにかく漕ぎまくる。
だけどトンネルに向かう道は坂になっていて、スピードが落ちてしまった。
「むうう〜・・・」と立ち漕ぎするけど、あんまり進まない。なぜだ?
「・・・・ああ!ギアが重いからか。ていうか降りた方が速いな。」
自転車を捨てて、坂道を駆け上がる。
しかし途中にある脇道から車が出て来て、慌てて飛び退いた。
「どけ!こっちは忙しいんだ!」
モタモタ出て来る車に、イライラ焦る。
舌打ちしながら坂を見上げた時、怪しいものが目に入った。
「なんだアレは!?」
空に小さな物体が浮かんでいる。
ピュピュっと俊敏に動いて、トンネルの傍へ降りていった。
「偵察型のUFOか!」
きっとさっきの宇宙人が絡んでいるに違いない。
あれを使って俺たちを偵察し、陸翔君をさらったのだ。
俺は一目散に駆ける。
そして息を切らしながらトンネルの前までやって来た。
「どこだ!?」
UFOはこの辺りに降りたはずだ。
辺りを睨んでいると、トンネルの傍に中学生くらいの少年がいた。
そしてその手には・・・・、
「あれはさっきのUFO!」
俺は駆け寄り、「君は宇宙人か!?」と叫んだ。
「へ?」
「それはUFOだろ!」
「いや、ドローンだよ・・・・。」
「ドローン・・・・。」
その名は聞いたことがある。
簡単に飛ばせる小型のラジコンだ。
ニュースで問題になってるってやっていた。
「なんだ・・・UFOじゃないのか。」
がっかりする。
しかしすぐに最初の目的を思い出した。
「なあ君、車椅子の子供を見なかったか?」
「見てないけど・・・・。」
「なら宇宙人は!?ホームレスに化けてるんだ!」
「え?知らないけど・・・・。」
「実はな、車椅子の少年が宇宙人にさらわれたんだ。この辺りでな。」
「ほんと!?」
「ほんとだ。目撃者でもいればと思ったんだが・・・、」
「じゃあこれ見る?」
「なんだ?」
「これカメラ付いてるから。」
少年はドローンを差し出す。
そこには小さなデジカメが付いていた。
「これでトンネルの中撮ってたんだ。」
「君も宇宙人を探してるのか?」
「ううん。ここお化けが出るって噂があるから、心霊動画とか撮れないかと思って。
撮れたらネットに上げようと思ってたんだ。」
「なるほど。米軍が隠してる事実を、世の中に公表しようってわけだな。」
「?」
俺はデジカメを再生させる。
まずは空撮から始まり、じょじょにトンネルへ迫っていく。
ドローンはトンネルへ近づき、中へ入っていく。
しかし真っ暗で何も見えない。
やがて反対側に抜けて、パッと明るくなった。
画面がホワイトアウトする。
しかしじょじょに景色が映ってきた。
「これは!なんてことだ!!」
「どうしたの?」
「やっぱりあの宇宙人の仕業だったか!」
俺はドローンを突き返して、「陸翔君がピンチだ!」と叫んだ。
「君!すぐに救急車を呼んでくれ!」
「なんで?」
「陸翔君は怪我をしているかもしれない!」
俺はトンネルに駆け入る。
急いで反対側まで駆け抜けて、トンネルの傍にあるガードレールに駆け寄った。
その先は急な斜面になっていて、下へ降りる階段が伸びている。
ものすごく急な階段で、しかも狭い。
大人が一人通れるくらいの幅だ。
階段の周りは木立になっていて、山のように鬱蒼としていた。
「さっきの動画では、陸翔君がここを落ちていった。あのハゲの宇宙人を見てビックリして・・・・。」
浮浪者に化けたあの宇宙人。
奴めはまたこのトンネルに戻ってきた。
しかしその時、陸翔君と鉢合わせした。
宇宙人は何かを叫んで手を振った。
その瞬間、陸翔君はここへ落ちていったのだ。
「あの宇宙人め・・・・きっと念力を使ったに違いない。
それで陸翔君を階段の下へ落としたんだ・・・・。」
細い階段を睨む。
それを駆け下りていくと、傍の木に傷が出来ていた。
「新しい傷だな。ということは・・・・、」
俺は木の下を見つめる。
そこは崖といっても差し支えないほどの急斜面。
その遥か下の方で、車椅子の車輪が見えた。
木と木の間に引っかかっているようで、逆さまに倒れている。
「今行くぞ!」
鳶職人なみの身軽さを活かし、斜面を駆け下りる。
そして車椅子の所まで来ると、陸翔君を発見した。
「しっかりするんだ!」
陸翔君はうつ伏せに倒れていた。
手足を投げ出して、グッタリしている。
「しっかりしろ!」
抱え起こそうとしたが、下手に触るとよくないかもしれない。
「ここは救急車を呼ぶしかあるまい。」
スマホを取り出し、119に掛けようとする。
するとその時、上空にドローンが飛んできた。
「ここだ!ここにいるぞ!早く助けを呼んでくれ!」
ドローンはしばらく飛び回って、トンネルの方へ去って行った。
その時、誰かが俺の手を握ってきた。
振り向くと、陸翔君が「助けて・・・」と呟いている。
「すぐ救急車を呼ぶからな!」
手を握り返して励ます。
するとその時、不思議なことが起こった。
「なんだ?手が離れない。」
いくら離そうとしても離せない。
陸翔君が強く握っているからじゃない。
俺の意志に反して、この手が離れようとしないのだ。
「まさか・・・俺も宇宙人に乗っ取られたのか!?」
不安になり、なんってこったと叫びそうになる。
しかしその時、さらに不思議なことが起きた。
辺りの景色がアイスランドに変わったのだ。
場所は両親が殺されたあの港。
空には巨大なオーロラが浮かび、太陽のように炸裂した。
夜空は真昼よりも明るくなり、全ての闇が吹き飛ばされる。
その瞬間、光り輝く空の中に、一つの影が見えた。
《あれはUFO。》
丸い円盤が光の中に浮かんでいる。
そして俺の所まで降りてきて、猛スピードで飛び去った。
《これは俺の記憶か?だったらあの時、弾けたオーロラの中にUFOがいたってことか?》
眉間に皺を寄せて、記憶を掘り起こす。
その瞬間、景色が戻った。
傍には陸翔君がいて、離れなかった手がいつの間にか離れていた。
俺はすぐに119番した。
助けが来るまでの間、「頑張れよ!」と励ます。
「傷は浅い!助かるぞ!」
「UFOの人・・・・・僕を・・・・宇宙に連れていって・・・・、」
「行けるさ!UFOさえ見つかればな!」
「もうここにいたくない・・・・。お父さんと・・・お母さんが・・・・別れちゃうから・・・。寂しい。」
「・・・・・・・・・。」
俺はギュッと彼の手を握る。
「必ず連れて行ってやるさ。」
宇宙へ出れば、本物の光の国があるはずだ。
押し殺していた胸の悲しみさえ、そこでは光に変わるだろう。
救急車のサイレンが聴こえるまで、ずっと手を握っていた。

微睡む太陽 第五話 光の国へようこそ(1)

  • 2017.05.09 Tuesday
  • 13:53

JUGEMテーマ:自作小説
ウルトラマンは光の国からやってきた。
M78星雲という遠い星から。
つまりは宇宙人ってことだ。
そして今、目の前にその光の国がある。
ちょっと汚れたアーチに、『光の国へようこそ!』と書いてある。
傍にはウルトラマンをパクったようなキャラがいて、スペシウム光線をパクったポーズをしている。
おばさんは手を向け、「どう?」と笑った。
「ここなら宇宙人がいるかもしれないわよ。」
「ここはなんですか?」
「光の国よ。」
「大きなアーチがありますね。その奥には四角い建物があります。屋根のあれは星ですか?」
「子供向けのプラネタリウムがあるのよ。」
「ここはどういう場所なんですか?」
「だから光の国よ。天体望遠鏡とか、それにロケットの模型があるのよ。」
「なるほど。子供が校外学習で来るような所ですね。」
「そうよ。」
「ここがおばさんの言っていた宇宙人の出そうな場所ですか?」
「なんたって宇宙のことを集めた場所だもの。」
そう言って「行きましょ」と入って行く。
俺もアーチを潜り、じっと中を見渡した。
屋根にある星の傍に、UFOの模型があった。
「あれは・・・・、」
映画、メン・イン・ブラックを思い出す。
あの映画のラストでは、模型のUFOが実は本物のUFOだった。
そのUFOで悪い宇宙人が逃げようとしていたのだ。
「もしかしたらあのUFOも・・・・。」
ゴクリと息を飲む。
子供向けの施設になんて興味はないけど、あのUFOは怪しい。
ふらふらにそっちに向かうと、陸翔君が「どこ行くの?」と呼んだ。
「入り口はこっちだよ。」
「その建物に用はない。」
「じゃあ何に用があるの?」
「UFOだ。」
「ああ、あの模型。」
「模型に見せかけた本物かもしれない。ちょっと調べてくる。」
俺は建物の傍のフェンスに登って、そこから木に飛び移る。
そして屋根の上まで来ると、UFOの模型をつついた。
「近くで見ると大きいな。」
直径二メートルくらい。
恐らく小型の宇宙人が乗るのだろう。
「危ないよ!」
陸翔君が叫ぶ。
俺は「平気だ」と答えた。
「中から宇宙人が出てきたらどうすんの!」
「魔法使いも回復要因もいる。問題ない。」
まじまじとUFOを調べていく。
すると「な?」と陸翔君が言った。
「マジでおかしいだろ?」
「ていうか可哀想な人じゃん。」
「病院とか行った方がいいんじゃない?」
陸翔君の友達が俺を見て笑う。
「UFOの人!先に中に行ってるからね!」
「ああ。」
軽く手を挙げて、UFOの観察を続ける。
「これは見事なもんだな。」
UFOは金属で出来ていた。
普通こういう模型は、もっと軽い素材で出来ているはずなのに。
手で叩くと、ペチンペチンと鳴った。
「叩いた感触からすると、中は空洞だな。もしこれが本物なら、どこかに入り口があるはずだ。」
しゃがんで下を覗く。
でも入り口らしきものはない。
上も横も調べたが、中に入れそうな場所はなかった。
「やっぱりただの模型なのかな?」
もしやと思ったのに、空振りだったようだ。
すると下の方から「何してるの!」と声がした。
「勇作君!そんな所に登っちゃダメよ!」
「おばさん。これただの模型のようです。」
「降りてきなさい!」
「本物じゃないなら用はありません。」
屋根の縁に立って、ピョンと飛び降りる。
「ああ!」
おばさんは悲鳴を上げる。
俺は「ここは何もなさそうです」と言った。
「やっぱり廃トンネルに行きましょう。」
「何やってるの!」
「UFOを調べてたんですよ。」
「なんで飛び降りるの!怪我したらどうするの!」
「平気です。高い所は慣れてるんで。」
UFOを探すのにしょっちゅう高い所に登るから、鳶職人なみに身が軽くなった。
次の副業は鳶にしようかな。
「帰りましょう。」
そう言って歩き出すと、「見ていかないの?」と言われた。
「せっかく来たのに。」
「偽物に興味はありません。」
「でも楽しいわよ。陸翔たちは喜んでるわ。」
「俺は子供じゃありません。」
「でも中で陸翔が待ってるわよ。UFOの人まだ?って言って。」
「なら陸翔君も一緒に廃トンネルに行きましょう。そっちの方が楽しい。」
「そこは入っちゃダメな場所でしょ。」
「そういう場所こそ怪しいんです。もしかしたら誰かが宇宙人を匿ってるのかも。」
「いいから来なさい。」
おばさんは俺を引っ張る。
そして建物の中に押し込んだ。
「ほら、ロケットの模型があるでしょ?月へ行ったやつの模型らしいわよ。」
「ロケットは地球人の乗り物です。UFOじゃありません。」
「ならプラネタリウムを見ましょ。小さいけど楽しいわよ。」
「本物の夜空には敵いません。空に見えるあの星々のどこかには、きっと宇宙人がいるんです。
でもプラネタリムには・・・・、」
「いいからいいから。」
おばさんは俺をプラネタリウムのホールへ押していく。
「陸翔、入るわよ。」
友達と一緒に図鑑を見ていた陸翔君は、「UFOの人!」とやって来た。
「あれ本物だった?」
「いや、偽物だ。」
「残念だったね。」
「そう簡単に見つかるもんじゃないからな。」
顔をしかめていると、陸翔君の友達もやって来た。
「俺賢者。」
「私武道家。」
「おお!みんなちゃんと職業があるのか。」
「UFOの人は?」
「俺は勇者だな。」
「でも怪人に負けたんだろ?」
「遊び人の方がいいんじゃない?」
二人はゲラゲラ笑う。
陸翔君が「あんまからかうなよ」と言った。
「でも面白いじゃん。」
「ねえ?マジでUFOとか信じてるの?」
「信じるとか信じないとか、そういう話じゃないんだ。UFOは確実にいる。宇宙人もな。」
「そりゃいるでしょ。地球人だって宇宙人だし。」
「じゃあロケットとかスペースシャトルもUFOね。」
「視点を変えればそうなるな。でも俺は地球外生命体に会いたいんだ。きっと米軍が匿ってるに違いない。」
そう答えると、可笑しそうに笑った。
「面白いなこのおっちゃん。」
「めっちゃからかい甲斐がある。」
「だからからかうなって。本人は真剣なんだから。」
「いや、からかってもいいぞ。そんなのは慣れっこだからな。」
俺は背中を向け、「君らにもいつか分かる」と言った。
「この広い宇宙、生き物が地球にしかいないんなんてことはない。文明だって他の星にもある。」
外へ出て、UFOの模型を見上げた。
もしあれが本物なら、すぐにこの子たちを納得させてやれるのに。
しかし現実な酷なもので、あのUFOは飛ばない。
だから光の国を出て、廃トンネルに向かうことにした。
「どこ行くの?」
陸翔君が追いかけてくる。
「仕事だ。」
「拗ねた?」
「何が?」
「あいつらにからかわれて。」
「慣れっこだ。そして君らにもいつか分かる日がくる。この広い宇宙、人類は一人ぼっちじゃないってな。」
「じゃあ僕も行くよ。」
「危ないぞ?」
「いいって。ここにいるより面白そうだし。」
そう言って光の国へ戻っていく。
そしておばさん達と一緒に出てきた。
「お前らも廃トンネルの方がいいよな?」
「でもあそこ・・・出るって噂だぞ?」
「私も聞いたことある。お姉ちゃんの友達が、学校に行くのにそのトンネルを使ってたんだって。
それで部活で帰りが遅くなって、夜にそこを通った時に、誰かに肩を叩かれたって。」
「マジで?」
陸翔君の顔が引きつる。
「幽霊かあ・・・・」と呟き、「UFOの人はどう思う?」と尋ねた。
「幽霊は人間の意識を抜き出したものだ。宇宙人の機械でな。
だから幽霊のいる場所には、宇宙人がいるはずなんだ。」
「だったらお墓とかも?」
「いるだろうな。今度掘り返してみようと思う。」
そう答えると、おばさんが「ウチの墓地はやめてよ」と言った。
「あれはお寺さんから預かってるものなんだから。」
「その坊さんは宇宙人かもしれない。」
「それっぽい所はあるけど、良い人よ。」
そう言って深くため息をついた。
「どうしてもトンネルに行きたいの?」
「仕事ですから。」
「お巡さんに怒られるかもしれないわよ?」
「平気です。逃げますから。」
「・・・・・・・・。」
おばさんは首を振る。
「何を言っても無駄ね」と言って、車に向かっていった。
「いいわ、行ってみましょ。」
「ようやく理解してもらえましたか。」
俺は車へ走って行く。
陸翔君もついて来て、「ワクワクするね」と言った。
「危険もあるけどな。でもこれだけパーティーが揃ってるなら大丈夫だろう。」
勇者の俺、魔法使いの陸翔君、賢者と武道家の友達、そして回復要因のおばさん。
ムドーくらいまでの強さなら戦えるはずだ。
でも残念ながら、事はそう上手く運ばない。
友達二人が行くのを嫌がったのだ。
「俺いいや。」
「私も。」
陸翔君が「ビビんなよ」と言った。
「誘った時は行くって言ったじゃん。」
「そうだけど・・・・、」
「呪われたら怖いし。」
「なんだよ。UFOの人をからかったクセに、幽霊は信じるのかよ。」
「だって幽霊の方が実際にいそうじゃん。」
「現実味があるし。」
「僕はUFOの方が現実味があると思う。ねえUFOの人?」
「どっちも実在するぞ。そして裏で全ての糸を引いてるのは宇宙人だ。」
俺は車に乗り込む。
「行きたくない者は行かなくていい。危険だからな。」
「じゃあ俺パス。」
「私も。」
「ていうか陸翔ん家でゲームやろうぜ。」
「私もそれがいい。」
「いいや、僕は行く。怖いならお前ら帰れよ。」
子供たちの言い争いは続く。
俺は光の国を振り返り、UFOの模型を見上げた。
「待ってろよ本物のUFO。今俺が行くからな。」
この思いはラブレターであり、そして挑戦状だ。
愛と戦いは表裏一体で、だからこそ好きなものには本気になれる。
俺は廃トンネルを思い浮かべる。
真っ暗な通路の中、ひっそりとたたずむ宇宙人。
それは美して怖くて、不気味で可愛くて、何もかも内包した究極の存在だ。
全てを備えた完全無敵の超人、それが宇宙人である。
・・・・そう考えた時、ふと何かが頭を過ぎった。
《宇宙人は・・・・無敵の超人・・・・。》
アイスランドにいる頃、弾けるオーロラを見たあの瞬間を思い出す。
あの時、俺の傍に誰かがいた。
親じゃない、犯人でもない。
もう一人確かにいたんだ。
そいつは俺より小さくて、俺の手を握っていた気がする。
その手は柔らかく、指は折れそうなほど頼りない。
「勇作君?」
おばさんに呼ばれて、「はい?」と顔を上げる。
「また泣いてるけど・・・・、」
「・・・ほんとだ。」
拭った指は湿っていて、「なんですかね?」と言った。
「なんか思い出そうとすると泣くみたいなんです。」
「そりゃ辛いことがあったんだもの。泣くのは仕方ないわ。」
「いえ、両親のことじゃないんです。」
「じゃあなんで泣くの?」
「思い出せない誰かがいるんです。」
「誰?」
「分かりません。」
おばさんからハンカチを借りて、目を拭う。
するとコンコンとノックの音がして、「乗せて」と陸翔君がいった。
「ああ、すまん。」
車から降りて、陸翔君を抱える。
そして後部座席に座らせようとした時、身体を支える為に俺の手を握ってきた。
「・・・・似てる。」
「何が?」
「弾けるオーロラを見たあの時、こんな感じの手を握ってたような気がするんだ。」
「ほんと?」
「・・・・もしかしたら・・・、」
「泣いてるの?」
「・・・・他にも家族がいたのかもしれない。」
俺より小さく、そして柔らかな手。
もしかしたら、俺には弟か妹がいたのかもしれない。
しかしもしそうだとしたら、どうして今はいないのか?
どうして今まで忘れていたのか?
「そんなわけはないか。」
手を離し、ドアを閉める。
どうやら友達二人は帰るようで、おばさんの車で送って行った。
「賢者と武道家が抜けてしまったか。かなりの戦力ダウンだな。」
おばさんの車に揺られながら、廃トンネルへ向かって行く。
すると陸翔君が俺の手を握ってきた。
「こうやってたらなんか思い出す?」
「・・・・無理だな。今は何も。」
「UFOの人には弟か妹がいたのかもね。」
「そうかもしれないけど、そうだとしたら事件が増えることになる。」
「事件?」
「あの日、俺の両親は殺された。そして弟か妹も殺されたことになる。
そうじゃなきゃ、弟か妹が、今ここにいないことに説明が付かない。」
「じゃあ知ってる人に聞いてみれば?」
「いや、聞いても無駄だ。もし弟か妹がいたなら、俺を育ててくれた親戚が教えてくれるはずだからな。」
「じゃあ誰を忘れてるのさ?オーロラが弾けた時にいたのは誰?」」
「分からない。」
そう、分からない。
いくら考えても無駄なのだ。
確かなのは、あの弾けるオーロラを見た瞬間に、UFOに興味を持ち始めたことだけ。
どうしてそうなってしまったのか、それも分からない。
《・・・・よくよく考えれば、気にすることでもないか。世の中なんて分からないことだらけだ。
でも宇宙人なら、俺よりは遥かに多くのことを知っているはずだ。なんたって無敵の超人だからな。》
窓から空を見上げる。
幻日はいつの間にか消えていた。

微睡む太陽 第四話 二つの太陽(2)

  • 2017.05.08 Monday
  • 12:41

JUGEMテーマ:自作小説

九月の半ば、キリギリスが足元を跳ねていく。
バッタに似てるけど、この虫は肉食だ。
素手で触ると噛まれることがある
そしてかなり痛い。
あれはいつだったか、UFOを探す為に川原で野宿している時に、顔にこの虫が飛んできたことがあった。
どかそうと思って掴むと、思い切り指を噛まれた。
まるでペンチで挟まれたみたいに痛くて、少し血が出た。
虫ってのはこんなに小さいのに、何十倍・・・いや、何百倍もデカい人間に傷を負わせる力を持っている。
跳ねていくキリギリスを見つめながら、「こいつらもUMAの一種かもしれんな」と呟いた。
追いかけると、キリギリスはピョンピョン跳ねていく。
その先には墓地があって、おばさんが草むしりをしていた。
「こんにちわ。」
「あら、勇作君!」
おばさんは鎌を片手に走ってくる。
「今日は仕事休み?」
「俺の仕事に休みはありません。」
「そっちじゃなくて、お金を稼ぐ方の。」
「工場はクビになったので、今日は新しい副業の面接を受けてきました。」
「え?クビになったの!?」
「五日前に怪人の館でお話したと思うんですけど。」
「ああ、ごめんなさい。あの時は泣いてばっかりだったから。」
おばさんは恥ずかしそうに手を振る。
鎌が危ないので、俺はサッと身を引いた。
「残念ながら、面接官の受けはあまりよくありませんでした。」
「そうなの?」
「得意なことはなんですか?って聞かれたから、UFOを探すことです!って答えたんです。」
「ああ・・・・、」
「その瞬間に、みんな暗い顔で俺を睨みました。」
「あのね勇作君、本業のことは、あんまり人に言わない方がいいと思うの。」
「いえ、そうではありません。」
「何が?」
「面接官が暗い顔をしたのは、俺が嘘をついたからです。」
「嘘?」
「得意はことは何ですか?と聞かれて、UFOを探すことです!って答えてしまいました。
でも俺は、まだ一度も見つけてないんです。だからその嘘を見抜かれて、面接官は俺にマイナスな印象を持ったんだと思います。」
「違うわよ。UFOなんて言い出すからそんな顔したの。」
「なんでですか?」
「勇作君にとっては、UFO探しは仕事かもしれないけど、他の人はそうじゃないからよ。」
「仕事は誰だって違います。」
「そうね。でも本業のことは言わない方がいいと思う。」
「どうして?」
「どうしても。」
また鎌を振るので、もう一歩後ずさった。
するとそこへ、車椅子の少年が現れた。
「UFOの人!」
キイキイと車椅子を鳴らしながら、こっちへ走ってくる。
「怪しい場所見つかった!?」
「見つかった。今から行こう。」
「今から!?」
「なんでも急ぐのに限るんだ。モタモタしてたらUFOは逃げるからな。」
「じゃあちょっと友達誘うから!待ってて!」
そう言って、車椅子の脇からタブレットを取り出した。
最近の子供は贅沢だなと思っていると、おばさんが「どこ行くの?」と尋ねた。
「廃トンネルです。」
「廃トンネル・・・・どこの?」
「大きな車の工場がある所の、ずっと向こうのトンネルです。」
「ああ、あそこ。今は新しいのが出来てる所でしょ?」
「そうです。新しいトンネルの傍に、古い廃トンネルがあるんですよ。あそこは幽霊が出るって噂があるんです。」
「幽霊?UFOじゃなくて。」
おばさんは首を傾げる。
俺は丁寧に説明してあげた。
「いいですか?幽霊というのは、全て宇宙人の仕業なんです。」
「そうなの?」
「幽霊の正体は、宇宙人の機械によって肉体から分離させられた、人間の意識なんです。」
「まあ。」
「宇宙人は地球人とは比べものにならないほど、超高度な文明を持っていますからね。
人の意識を抜き取るくらいわけないんです。」
「なら幽霊がいるってことは、宇宙人が傍にいるってことになるわね。」
「そういうことです。あの廃トンネルには、きっと宇宙人が潜んでいるはずです。」
「う〜ん・・・・。」
おばさんは険しい顔をする。
「信用できませんか?」
「そうじゃなくて、陸翔をそんな場所に連れて行くっていうのがね・・・・。」
「もちろん危険はあります。もし凶暴な宇宙人だったら、血を抜かれたり、実験体にされる可能性もありますから。」
「明日じゃダメ?それなら私も空いてるんだけど。」
「おばさんも行くつもりですか!」
「陸翔だけ行かせるわけにはいかないわよ。」
「でもおばさんも危険な目に遭うかもしれませんよ?」
「そうだけど、あの子は車椅子だから。勇作君だけに預けるわけにはいかないの。」
「なるほど。俺はあの怪人から陸翔君を助けることが出来なかった。
だったら怪人より強いであろう宇宙人を相手にしたら、陸翔君を守れない・・・・。」
「でしょ?」
おばさんに言われるまで、そんな簡単なことに気づかなかった。
「いいでしょう、ならおばさんも一緒に来て下さい。」
「行きたいのは山々なんだけど、今日は予定があるから。」
「でも今日じゃなきゃダメなんです。」
「どうして?」
「あのトンネル、明日には完全に封鎖されるそうなんですよ。」
「そうなの?」
「入り口の看板に書いてありました。勝手に入る奴がいるから、工事して完全に封鎖するって。」
「入っちゃダメな場所なの?ならダメよ。」
「いいえ、行くべきです。そこに宇宙人がいる可能性があるなら。」
「でもねえ・・・・、」
おばさんと言い争いをしていると、陸翔君が「二人来るって!」と叫んだ。
「そうか。なら俺とおばさん、そして陸翔君と友達の二人だな。五人パーティーってわけだ。」
「え?お母さんも行くの!」
「俺だけじゃ陸翔君を守れないからな。でもお母さんは回復が得意だ。
サポート要員として活躍してくれる。あ、ちなみにその友達は魔法が使えるか?」
「無理に決まってんじゃん。」
「それは残念だな。またあの怪人みたいに、物理に強い敵が出てきたら困る・・・・。」
「ああ、ゲームに影響されてんのね。」
少年は「使える使える」と言った。
「実は僕、ちょっとだけ魔法使えるから。」
「ホントか!?」
「大したもんじゃないけどね。ドラクエでいうならメラミくらい。」
「充分だ!物理しかないよりマシだぞ!」
まさかこんな所に魔法使いがいたとは。
だからこそあの怪人にさらわれたんだろうな。
魔法を自分の物にする為に。
「魔法使いに回復要因。パーティーは完璧だ。」
これなら凶暴な宇宙人が出てきても問題ないだろう。
「じゃあ早速行くか。」
「うん!」
「ほらおばさんも。」
手を向けると、「本当に行くの?」と顔をしかめた。
「心配はいりません。パーティーは完璧です。」
「パーティー?どこで?」
「チームのことです。」
「なんのチームのパーティー?」
「物理、魔法、回復。ちゃんとバランスが取れてるってことですよ。問題ありません。」
「でもそのトンネルは入っちゃダメな場所なんでしょ?ならやっぱりダメよ。」
おばさんは頑なに譲らない。
「う〜ん・・・」と唸って、「あ!」と手を打った。
「ならあそこにしましょ!」
「おばさんもUFOの場所に心当たりが?」
「あるある!」
「どこですか!?」
俺の知らない所で、俺の知らない秘密の場所がある。
そんなの行かないわけにはいかない。
「教えて下さい!」
「慌てなくても連れてってあげるわよ。でも午後からでもいい?」
「どうして?」
「ちょっと用事がね。」
おばさんは家に戻って行く。
すると少年が「お父さんに会うんだよ」と言った。
「あの怪人に?まさか倒しに行くのか?」
「うん。」
「でもおばさんは回復要因だぞ。戦闘は出来るのか?」
「実際に戦うわけじゃないから。僕の親権をどっちが取るかで話し合い。」
「親権?もしかして・・・・、」
「離婚するんだよ。けっこう前から別居しててさ。だから家も別々なんだ。」
「陸翔君!おばさんを応援しろ!怪人の子供になっちゃいけない!」
「僕はどっちでもいいんだよね。お父さんもお母さんも優しいから。
それに会おうと思ったらどっちにも会えるし。」
「でも怪人に育てられたら、君も怪人になってしまうぞ?」
「別にいいんじゃない。それも面白そうだし。」
「そうなのか?」
「ていうかさっさと決めてほしいんだよな。じゃないと色々面倒臭くってさ。」
「う〜ん・・・・君も大変だな。」
「まあお父さんとお母さんが決めることだから。それよりさ、早くUFO見つけたいよね!」
「おばさんはどこへ連れて行く気なんだろう?」
「さあ。」
この少年も色々と事情を抱えているらしい。
最近の子供は大変だ。
しかしUFOに乗ることが出来れば、そんな悩みは吹っ飛ぶだろう。
人間の社会の些細な悩みなんて、宇宙を飛べばどうでもよくなる。
おばさんが出てくるまでの間、俺たちはドラクエの話で盛り上がっていた。

            *

どちらが陸翔君を育てるか?
その話し合いを終えたおばさんは、スッキリした顔で帰って来た。
「陸翔!お母さんと一緒に暮らすからね!」
「あ、そうなの?別にどっちでもいいけど。」
「ホントは嬉しいクセに。」
嬉しそうに肩を合わせるおばさん。
俺を振り返って、「それじゃ行きましょうか」と言った。
「私が車出すわ。」
「お願いします。」
俺は椅子から立ち上がり、「これ、ご馳走様でした」とピザの箱を振った。
「いいのよ、陸翔もお昼まだだったし。」
おばさんが怪人の家に行っている間、おばさんの家で昼飯を食っていた。
その後は陸翔君とゲームをしていて、飽きたのでテレビを見ている所だった。
「いよいよUFOだね!まず友達んとこ行かなきゃ!」
陸翔君はキイキイと車椅子を動かして、スロープを登っていく。
子供なのに大した腕力だ。
さすが怪人の血を引いているだけある。
魔法も使えるというし、将来の職業はパラディンで間違いないだろう。
俺は外に出て、一人墓地を眺めた。
「この墓のどこかに宇宙人が眠っていたりして。」
きっと人間に化けている宇宙人だっているはずだ。
メン・イン・ブラックみたいに、俺たちの生活に溶け込んでいるに違いない。
人間として生き、人間として暮らし、人間として死んでいく。
そう考えると、今にもこの墓地を掘り返したくなった。
でも残念、今日はスコップがない。
備えあれば憂いなし。
明日からは毎日持ち歩くようにしよう。
ムズムズした気持ちで墓地を見つめながら、ふと空を見上げる。
少し曇っていて、太陽の光がカーテン越しのように薄い。
その時、俺はとんでもないものを見つけた。
「あ・・・・・、」
墓地の向こうにそびえる山、そのさらに向こうに、二つの太陽が浮かんでいた。
「なんだあれは!宇宙人の襲来か!!」
大声で叫ぶと、「どうしたの?」とおばさんが出てきた。
「見て下さい!太陽が二つもあります。」
「あらほんと。」
「あれはきっと宇宙人の母船ですよ!」
「違うわ、あれは幻日よ。」
「幻日?」
「太陽が二つあるように見える現象のこと。気象の関係でこうなることがあるの。」
そう言って「久しぶりに見たわ」と笑った。
「ほら、左側にあるのが本物の太陽。あっちの方が強く光ってるでしょ?」
「ならあれが母船か!」
「右側にある小さな光が幻日よ。光の屈折でああいう風に見えるの。」
「なんてこった!分身機能も持っているのか!」
俺は頭を抱えて叫んだ。
「もしあれが敵対的な宇宙人だったら、地球は今日滅ぶことになる!」
「だからあれは幻日、UFOじゃないのよ。」
「でも太陽が二つなんておかしいですよ!きっとUFOです!」
そう叫ぶと、おばさんは首を振った。
「勇作君ならあれくらいで驚かないと思ってたわ。」
「どういうことですか?誰だってあんなの見たらビックリするでしょ!」
「勇作君はオーロラを見たことがあるんでしょ?」
「アイスランドにいた頃にね。しょっちゅう見てました。」
「ならオーロラはUFOの仕業?」
「オーロラはただの気象現象です。」
「でしょ?なら幻日だって・・・・、」
「あ、でも・・・・、」
「何?」
「父と母が死んだ時に見た、あの弾けるオーロラ。あれはただの気象現象には思えなかったなあ。
まるで太陽みたいだった。昼間より明るくなって、地球のすぐ傍に太陽が近づいてきたみたいで。」
あの時のことを思い出し、じっと幻日を睨む。
するとおばさんが顔を覗き込んできた。
「勇作君?」
「太陽が二つ。」
「泣いてるの?」
「え?」
おばさんに言われて、目尻を触る。
知らないうちに涙が出ていて、濡れた指先を見つめた。
「なんで?」
不思議に思って、また目尻を触る。
するとおばさんが、「寂しくなったらいつでも来てね」と言った。
「はい?」
「陸翔も喜ぶし、私も賑やかな方が楽しいし。」
そう言ってハンカチを渡してきた。
「すいません。」
目を拭って、また幻日を見る。
・・・・なぜか分からないけど、どんどん涙が出て来る。
悲しいわけじゃないし、目が眩んだわけでもない。
なのに涙が止まらなくて、ずっとハンカチを当てていた。
おばさんが手を握ってきて、一緒に幻日を見上げる。
きっとおばさんはこう思ってる。
父と母が殺された時のことを思い出して、悲しくなってるんだと。
でも違う。そうじゃない。
父と母は関係ないんだ。
《あの時誰かいたんだ。俺とお父さんとお母さんと、あの犯人と。他にも誰かいて、それが誰か思い出せない。》
それを思い出そうとするほど、涙が出て来る。
やがて陸翔君が出てきて、「なんで泣いてんの!」と叫んだ。
「分からない。」
俺は首を振る。
なんで泣いているのか俺にも分からない。
涙が止まらなくて、ずっとハンカチを当てていた。

微睡む太陽 第三話 二つの太陽(1)

  • 2017.05.07 Sunday
  • 09:22

JUGEMテーマ:自作小説
俺は今、怪人の館にいる。
オペラ座の怪人に出て来そうな洋館で、中身もまんま洋館だ。
天井にはシャンデリア、壁には絵画が掛かっていて、床には高そうな絨毯が敷いてある。
シャンデリアはオレンジ色の光を灯していて、家の中が夕陽のように染まる。
俺は大きなソファに座って、おばさんと向かい合っていた。
「はい、これでよし。」
口元に消毒と絆創膏を貼ってもらい、「どうも」と頭を下げる。
傍には車椅子の少年がいて、珍しい生き物でも見るみたいに、俺を観察していた。
ちなみに怪人は向かいのテーブルでテレビを見ている。
たまにチラっと振り返って、怖い目で睨んでくる。
《怪人め・・・まだやる気か。》
戦っても勝てないけど、尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。
来るなら来いと睨み返した。
「はいはい、そんな喧嘩腰にならない。」
おばさんが割って入る。
「怪人は危険です。すぐに追い出さないと。」
「今は怪人より勇作君の話を聞かせて。」
「ああ、UFOのことですか?」
「どうしてそんなに興味があるの?」
「それは俺の仕事だからです。」
「うん、だからね、どうしてそれを仕事に選んだのか聞かせてほしいの。」
「どうしてそんなに知りたいんですか?おばさんもUFOに興味が?」
「そりゃあるわよ。もしいるなら見てみたいわ。ねえ?」
そう言って少年に目を向けると、コクコクと頷いた。
「いいでしょう、お教えしましょう。」
「長くなりますがいいですか?」と前置きすると、「いいわよ」と頷いた。
「あのね、俺は日本の生まれじゃないんです。」
「そうなの?」
おばさんは驚く。
この話をすると、だいたいみんなこんな顔をする。
もう慣れっこなので先を続けた。
「俺は北欧の生まれなんです。」
「へええ!どこ?フィンランド?スウェーデン?」
「アイスランドです。父が仕事で向こうに住んでて、その時に現地の日本人女性と結婚したんです。
それで俺が生まれました。」
「アイスランド・・・・オーロラで有名な国ね。」
「俺がいたのは四歳までで、ちょっとしか向こうのことを覚えてないんですよ。
それでね、色々あって両親は死にました。その時にですね、すごいオーロラが・・・・、」
「ちょ、ちょっと待って!」
おばさんは慌てて止める。
少年も「すごい大事なとこ飛ばした」と呆れた。
「あの・・・・聞いていいことかどうか分からないけど、その・・・・話したくなかったらいいけど・・・・、」
おばさんは泣きそうな顔になる。
気を遣ってくれるのはありがたいけど、でも俺は全然気にしないので、普通に答えた。
「刺されたんです。」
「・・・・・・・・。」
「外国人の観光客とトラブルになったんです。そいつは父の財布を盗もうとしていて、それを母が見つけたんです。
その時は逃げて行ったんですけど、四日後に別の場所で会ったんですよ。
そこは港で、すごく寒かったのを覚えてます。そいつはまた誰かの財布を盗ろうとしてたんです。」
「・・・・・・・・。」
おばさんの顔が引きつっている。
目にいっぱい涙を溜めているけど、笑いを堪えているのだろうか?
「それでですね、また母がそれを見つけて、父が注意したんです。
警察呼ぶぞとか言って、そしたらそいつは急に慌て出したんです。
逃げようとしたから父が追いかけたら、いきなりナイフを出してきたんですよ。
危ないと思った母が止めに入ると、刺されてしまいました。
それで父はキレて、そいつに飛びかかったんです。
だけど父も刺されて死にました。それで誰かがすぐに警察を呼んだんですけど、そいつは逃げて行って。」
「ひどい・・・・・。」
グスっと目を拭っている。
笑っているんじゃなくて、泣いていたようだ。
「それで俺は警察に保護されました。だけどその時にですね、空にものすごいオーロラが見えたんですよ。
向こうじゃ珍しくないんですけど、その時のオーロラは半端じゃなくて。
グワワアワ!って感じで空に広がって、最後はバン!って弾ける感じて、そこらじゅうに光が走ったんです。
それでオーロラは消えて、真っ黒な夜に戻りました。
みんなすごい驚いてましたよ。警察だってポカンとしてましたからね。」
「・・・・・・・。」
おばさんは俯き、ズズっと鼻をすすっている。
少年は興味津々で、「それ知ってるかも」と言った。
「テレビでやってた。そういうすごいオーロラが出ることがあるって。普通のオーロラよりも明るくて、最後は弾けるやつがあるって。」
「あれは・・・まるで太陽だったな。この世のものとは思えないくらい、とにかくすごかった。
あれ見た時に、なんかビリビリって電気が走った感覚があったんだ。
目の前で親を殺されたのに、あれを見た瞬間に、悲しみとかショックとか、全部忘れた。
その時からだな。やたらとUFOとか未確認生物に興味を持つようになったのは。」
「じゃあそれからずっと探してるの?」
「まあな。全然見つからないけど。あ、ちなみに俺の親を殺した奴は死んだ。」
「死んだ!警察に撃たれて?」
「違う。バーン!とオーロラが弾けた瞬間に、驚いて海に落っこちた。
アイスランドは寒いから、みんな厚着なんだ。だから溺れてた。
向こうの海は寒いから、二分も浸かってればあの世行きなんだよ。」
「じゃあ犯人も親も死んだってこと?」
「そうだ。あの時は親を殺されたショックで動けなかったけど、今は全然平気。
だってあのオーロラを見てから、UFOとかUMAのことしか考えられないようになったから。
でも・・・・、」
「でも?」
「なんか忘れてる気がするんだよ。」
「何?」
「分からない。なんかその場所にもう一人いたような気がするんだよな。
家族か友達か・・・・すごい大事な人が。」
「思い出せないの?」
「あのオーロラを見た瞬間に、色んなことが吹き飛んだ。
親が殺されたことは覚えてるけど、それ以外のことはぼんやりっていうかな。」
「じゃあちょっとした記憶喪失じゃん。」
「かもな。」
「思い出そうと思わないの?」
「全然。だって俺はUFOに乗れればそれでいいから。」
「でも見つからないんでしょ?」
「そうなんだよ。絶対にいるはずなんだけど、どこ探しても見つからないんだ。
きっと米軍が匿ってるんだ。だからエリア51に手紙を出そうかと思って・・・・、」
そう言いかけた時、おばさんが手を握ってきた。
「辛かったでしょう・・・・。」
「そうなんですよ。どんなに頑張ってもUFOが見つからないですからね。ちょっと落ち込むっていうか・・・、」
「そうじゃなくてご両親のこと!」
大声で叫んで、悲しそうに首を振る。
「そんな幼い時に一人ぼっちになるなんて・・・・・、」
「でも親戚の家にもらわれたんです。けっこう良い人達だから、あんまり寂しくなかったですよ。
それに子供の時は友達も多かったし。」
俺の過去を話すと、みんなこうやって同情する。
俺は全然気にしてないんだけどな。
おばさんはブルブル首を振って、「ごめんなさい・・・・」と謝った。
「辛いこと思い出させちゃって・・・・。」
「別に辛くはないんです。問題はUFOが見つからないことで・・・・、」
そう言いかけた時、今度は怪人が近づいてきた。
そして無言でコーヒーを置いていく。
「怪人め、こんな罠に引っかからんぞ。どうせ毒でも入ってるんだろ。」
クンクン臭いを嗅いで、「毒は・・・・ないな」と飲んだ。
「お、美味しい。」
「お父さんコーヒー淹れるの得意なんだよ。夢が喫茶店のマスターだったから。」
「なるほど。そうやって客をさらうつもりだったんだな。」
「何がなんでもお父さんを怪人にしたいんだね?」
「君は騙されてる。きっと本物のお父さんは、怪人の生贄にされたんだ。あれは怪人が化けてるんだよ。」
「もう面倒臭いからそれでいいけどさ、今度UFO探しに行く時、僕も連れてってくんない?」
「君もUFOに乗りたいのか?」
「乗れるなら乗りたいでしょ。」
「いいぞ。でも山は険しい。車椅子だと厳しいから、別の場所にしよう。」
「いつもどこ探してんの?」
「色々だ。山とか森とか、それに怪しい建物とか。」
「怪しい建物ってなに?」
「俺が怪しいって感じる場所だ。」
「じゃあそういう場所があったら連れていって。」
「いいぞ。」
「友達も呼んでいい?」
「いいぞ。でも危険は覚悟しておけよ。宇宙人はたくさんいて、中には凶暴な奴もいるんだ。」
「会ったことあるの?」
「ない。でもきっとそうに違いない。」
「じゃあ覚悟しとくよ。」
少年は嬉しそうに笑う。
俺にはこの子の気持ちがよく分かった。
《きっと足を治してほしいんだろうな。》
宇宙人は超高度な文明を持っている。
歩けなくなった足を治すことくらい、なんてことないはずだ。
《こうなってはますますUFOを見つけないとな。》
ズズっとコーヒーをすすり、腕時計を見る。
「お、もう夜中の一時か。」
俺は立ち上がり、「そろそろ帰る」と言った。
「もう帰るの?泊まってけばいいじゃん。」
「ダメだ。今日工場をクビになったからな。また新しい副業を探さないといけないんだ。」
「クビ!なんで?」
「大人は色々と大変なんだ。特にこの俺はな。本業の方では給料は出ないから。」
「なんか知らないけど、仕事見つかったらいいね。」
「仕事ならある。UFOを探すことだ。」
「それ仕事なの?趣味じゃなくて?」
「違う。人生の仕事だ。」
「でも給料もらえないじゃん。生活できないよ?」
金が出ないから仕事じゃない。
この少年はそんな風に思っているらしい。
でも違う。
仕事ってのは、自分の背負った使命のことだ。
金を稼ぐのは労働であって、仕事と一緒ってわけじゃない。
「怪しい場所を見つけたらまた来る。その時は一緒に行こう。」
「うん。あ、でもこっちの家じゃなくて、お墓がある方の家に来てくれる?」
「なんで?」
「いつもは向こうにいるから。」
「ああ、そうか!君はさらわれてるんだったな。」
「ちょっと設定忘れかけてたでしょ?」
「設定?」
「なんでもない。」
「じゃあ墓地がある方の家に行くから。」
「早く怪しい場所見つけてくれよ。」
少年は期待した目で見つめる。
俺は頷き、おばさんを振り返った。
「じゃあ帰ります。」
「・・・・・・・。」
おばさんはまだ泣いていて、玄関まで見送りに来てくれた。
「まていつでも来て。寂しくなったら・・・・。」
「寂しくはありません。でもまた来ます。あの子とUFOを探さないといけないので。」
おばさんはハンカチで口元を押さえながら、コクコクと頷く。
「それと怪人には気をつけて下さい。危なくなったらすぐに110番を。」
「分かってる・・・・勇作君も気をつけて帰ってね。」
また手を握ってきて、グスっと鼻を鳴らした。
「じゃあまた。」
ペコっと会釈して、怪人の館を後にする。
車に乗り込み、真っ暗な空の下を走っていった。
「今日は色んなことがあったな。こうやって色んなことが起きてくれれば、そのうちUFOが見つかるかもしれないな。」
淡い期待を胸に、家路についた。

微睡む太陽 第二話 UFOはどこに(2)

  • 2017.05.06 Saturday
  • 09:13

JUGEMテーマ:自作小説

誰にだって生まれてきた意味があるはずだ。
サッカー選手になるとか、ミュージシャンになるとか。
俺はUFOに乗る為に生まれてきた。
だから何がなんでもUFOに乗らないといけない。
しかしこれを見つけるのが大変で、正直なところ、俺一人の手には余るかもしれない。
米軍が協力してくれたら助かるんだけど、奴らは絶対に手を貸さないだろう。
だってすでに宇宙人と接触している可能性があるからだ。
だったら絶対にそれを公表するはずがないし、手伝ってって手紙を書いても無視されるだろう。
「ズルいなあいつら、独り占めして。」
ヒラリーもトランプもきっとUFOに乗ったことがあるに違いない。
アメリカが一番に隠蔽したいのは、宇宙人がすでに地球に来ているという事実なのだ。
「もうちょっと勉強してたら、NASAに入れたかな。」
今からでも遅くない。
ちょっと宇宙のことを勉強して、NASAを目指してみようか。
そんな事を考えながら、今日はいつもとは違う山を目指していた。
いつも行くのは兎羽山。
今日はその隣にある滝尾山に行く。
朝の道路は空いていて、グングンスピードをあげた。
でも警察がネズミ捕りをしていたので、慌ててブレーキを踏んだ。
「こういうことばっかりに精出して。この星には宇宙人が来てるっていうのに・・・・。」
もっとやるべきことがあるだろうと思いながら、コソコソとパトカーの横を通り過ぎた。
その先には交差点があって、それを左に曲がると滝尾山に着く。
赤信号で足止めを喰らい、ちょっとイライラしながら周りを見渡した。
すると交差点の右手に、少し変わった家を見つけた。
「洋館?」
田舎っぽい民家が並ぶ中で、ポツンと西洋風の家が建っている。
まるでオペラ座の怪人でも出て来そうな家だ。
庭はすごく広くて、植え込みは綺麗に手入れされている。
その庭の中に、家まで続く長い道が伸びていた。
「目立つ家・・・・・怪しい。」
こういう場所にはきっと何かいる。
宇宙人はいないだろうけど、未確認生物とか怪人とか、そういうのが棲みついている可能性がある。
でも今日はUFOを探しに行かないといけないので、その家を調べるのは見送った。
交差点を左に曲がり、大きな道を真っ直ぐぬけて、工場地帯に差し掛かる。
そこも抜けて、滝尾山の入り口に着いた。
ここを登るのは初めてで、ちょっと緊張する。
「・・・・行くか。」
リュックとスコップを背負い、まだ見ぬ未開の地へ足を踏み入れた。

            *

結論から言おう。
滝尾山にUFOは来なかった。
頂上に大きな電波塔が建ってるから、もしやと思ってやって来たけど、とんだ無駄足だった。
「やっぱり米軍の協力が必要かなあ。」
本気で手紙を書こうか考える。
それか勉強してNASAに入るか。
空はすっかり暗くなっていて、ヘッドライトが闇を切り裂く。
車はぜんぜん通っていなくて、スイスイと飛ばしていった。
そして交差点に差し掛かった時、あの洋館が目に入った。
「まだ電気が点いてる。」
時刻は午後11時半。
田舎じゃ消灯時間だ。
でも洋館だけは電気が点いていた。
窓からオレンジ色の光が漏れている。
周りの民家は電気が消えているのに・・・・。
「これは怪しいな。」
俺は路肩に車に停めて、こっそりと洋館に向かった。
広い庭に、家まで続く道が伸びている。
周りは真っ暗で、外灯だけが足元を照らしていた。
「こっそり入ればバレないはず。」
身を屈め、コソコソと家に近づく。
その時、窓の近くを人影が過ぎった。
「ヤバッ!」
慌てて植え込みに身を隠す。
ちょっとだけ顔を出して、様子を窺った。
「おっさんが歩いてる。」
オレンジに灯る光の中、一人の男が歩いていた。
その後ろには車椅子に乗った少年がいた。
「ますます怪しいな。」
この家には絶対に何かある!
俺はコソコソと近づいて、家の壁に張り付いた。そして窓のすぐ下に身を隠す。
「あの車椅子の少年は、怪人に誘拐されたんだろうなあ。きっとあのおっさんが怪人だな。」
顔を上げて、また窓を覗く。
その時、いきなり窓が開いて、「何してんだ?」とおっさんが出てきた。
「怪人!」
「は?」
「なんだお前!?」
「それはこっちのセリフだろ。何やってんだお前?」
おっさんは窓を閉めて、玄関から出てきた。
けっこう良いガタイをしてる。やっぱり怪人に違いない。
「あの車椅子の少年を放せ!」
「ああ?」
「お前怪人だろ!?」
「なんだお前?頭イカれてんのか?」
おっさんは顔をしかめる。
でもイカれてるのはこのおっさんの方だ。
「ここは怪人の館だな!」
「・・・・・・・。」
「あの車椅子の少年をさらって、生贄にするんだろ!」
「お前・・・・、」
おっさんはヅカヅカ近づいてくる。
でも大丈夫、俺は少林寺拳法三級の腕前だ。
筋トレだって毎日してるし、こんな卑劣な怪人に負けるはずがない。
「死ね!」
思いっきり殴りかかると、思いっきり顎に入った。
でもおっさんはビクともしない。
ポリポリと顎を掻いて、「それ本気か?」と笑った。
「本気だ!」
「なら好きなだけ殴れ。その後俺が殴るから。」
どうやら相当肉体に自信があるみたいだ。
俺は助走をつけて何度も殴った。
顎、腹、それに足と腕も。
でも怪人はビクともしない。
どうやら物理に強いらしい。
《残念だ。俺は魔法が使えない・・・・。》
悔しくなって、拳を下ろす。
「終わりか?じゃあ一発いくぞ。」
怪人は拳を上げる。
「ガードしろ。」
「え?」
「顎割れるぞ。」
怪人が踏み込んでくる。
俺ははじめの一歩で見たクロスアームブロックをした。
どんなパンチでも防げる最強のガードだ。
でも防げなかった。
怪人はとんでもないパンチ力の持ち主で、ガードごと俺を吹っ飛した。
「あぎゃッ!」
腕が折れそうなほど痛い・・・・。
ガードしても衝撃が伝わってきて、頭の中がグワングワンする・・・・。
《負ける・・・・せめて補助魔法でも使えたら・・・・、》
悔しいけど、この怪人に挑むにはレベルが足りなかったようだ。
俺は膝をつき、「殺せ!」と叫んだ。
「ああ?」
「お前の勝ちだ!でもあの少年は逃がせ!俺を生贄にしろ!」
負けたからといって、心まで挫けては情けない。
根性を振り絞って、「殺せ!」と手を広げた。
「お前病気か?」
怪人はバカにした目で睨む。
「病気じゃない!」
「どこぞの精神病院から抜け出してきたか?」
「バカはお前だ!この怪人!」
「やっぱり病気だな。」
怪人はスマホを取り出して、「もしもし?警察ですか?」と言った。
「頭のおかしい奴が家に侵入したんです。すぐに来てもらえ・・・・、」
そう言いかけた時、家の中から誰かが出てきた。
「勇作君!」
「あ、どうも。」
それは墓地の家のおばさんだった。
「あんた何やってんの!?」
「怪人と戦ってるんです。おばさんも逃げて下さい!」
「怪人?」
おばさんはビックリしている。
まあ当たり前だろう、誰だって怪人は怖いに決まってる。
でも俺には正義があるから、逃げ出すわけにはいかなかった。
「そこのおっさんは怪人なんです!少年をさらってるんです!」
「・・・・・・。」
おばさんは怪人を見つめる。
そして「ぶふッ!」と吹き出した。
「違う違う!これ怪人じゃないから。」
「でも車椅子の子供をさらってるんですよ!すごい怪力だし。」
「それは私の息子。それでこっちは旦那。」
おばさんは怪人に近づく。
「ああ、危ない!」
「平気平気。」
怪人からスマホを取り上げて、プチっと電話を切ってしまった。
「おい!何して・・・・、」
「大丈夫、この子危ない子じゃないから。」
「はあ?どう見ても危ないだろ。頭おかしいぞコレ。」
「そんな言い方しないで。純粋なだけだから。」
おばさんは俺に近づいて、「大丈夫?」と言った。
「大きな音してたけど、まさか殴られたとか・・・・、」
「すごいパワーですよ、その怪人。でも俺は負けないんです。例え死んでもね。」
「そうね、勇作君は正義と信念だけは人一倍だもんね。」
「でも出来ればUFOに乗るまでは死にたくありません。」
「人生の仕事だもんね。」
おばさんは可笑しそうに笑って、「立てる?」と支えてくれた。
でも怪人のパンチ力は絶大で、まだダメージが抜けない。
「すいません、回復魔法を使えないもので・・・・、」
「誰も使えないから謝らなくていいのよ。」
おばさんは「手当するから中に入って」と言った。
「ちょっと口元が切れてるから。」
「平気です。回復力には自信がありますから。」
「私も手当てには自信があるのよ。昔は看護婦だったから。」
「回復要因ですか?」
「なんかよく分からないけど、回復させるのは得意よ。」
俺はおばさんに支えられて家に入っていく。
すると怪人が「おい」と止めた。
「そんなもん家に入れるな。」
「平気だって。この子が例のUFOの子だから。」
「・・・・しょっちゅう山に登るってあの青年ことか?」
「そうそう。変わってるけど悪い子じゃないの。ね?」
「俺は正義の味方です。」
「正義の味方がコソコソ人の家に入るかってんだ。」
怪人は舌打ちする。
おばさんは「はいどうぞ」と玄関の中に入れた。
すると車椅子の少年が出て来て、じっと俺を睨んだ。
「大丈夫か!?」
「え?ああ・・・・、」
「もう助かったからな!」
「何が?」
「怪人はやっつけた。後で警察に行こう。ご両親が待ってる。」
こんな家に閉じ込められて、さぞ怖かっただろう。
俺は安心させるように笑いかけた。
少年はおばさんを見上げ「この人ちょっと・・・」と切ない顔をした。
「うん、そうよ。でも口に出して言ったらダメ。」
「そうだ。下手なこと喋ると、怪人を怒らせる。大人しくしといた方がいい。」
「・・・絡みづらいな。」
少年は面倒くさそうな顔をする。
なぜ?
せっかく助けに来たのに。
そこへ怪人がやって来て、「ほんとに家に上げるのか?」と言った。
「警察に来てもらえよ。」
「でもあんたも殴ったんでしょ?この子怪我してるからあんたも悪くなるわよ?」
「俺は何発も殴られてるっての。だいたい不法侵入だろそいつ。」
「あんたは空手の先生じゃない。素人怪我させたんだから、何もなしってわけにはいかないんじゃない?」
「ああ、はいはい。なら好きにしろ。その代わり変な真似したらシバき倒すからな。」
怪人は恐ろしい顔で睨んでくる。
やっぱりこいつは人間じゃない。
「それじゃ上がって。」
おばさんは俺の背中を押す。
「お邪魔します。」
靴を脱ぎ、前向きに揃える。
その時、ドアの向こうの夜空が見えて、何かがピカリと光った。
「UFO!」
俺は一目散に駆け出す。
「ちょっと!」
「UFOが!」
「どこ!?」
「そこ!」
「何もないじゃない。」
「ピカっと光ったんです!」
「・・・・・・ああ、あれ。」
おばさんはなぜかため息をつく。
夜空を指さし、「よく見て」と言った。
「あれパチンコ屋さんのライト。」
「何言ってるんです!あれはUFOですよ!だってさっきまであんなのなかったから!」
「さっきは雲がなかったからね。でも今は雲がかかってるでしょ?だから反射してよく見えるだけ。」
「いえ、あれはUFOです。俺はあれに乗らないといけないんです。」
今、千載一遇のチャンスが巡ってきた。
ようやく生まれてきた意味を果たす時がきたのだ。
「おばさん、怪人はお任せします。俺にはやらなきゃいけないことがあるので。」
「う〜ん・・・でもねえ、もうじき消えると思うわよ、あの光。」
おばさんは壁にかかった時計を見る。
時刻は午前0時を指して、ピヨピヨピヨとひよこのオモチャが出てきた。
すると不思議なことに、UFOの光がピタっと消えた。
「なんで?飛び去ったか!」
「違う違う。営業時間が終わったの。」
「UFOはずっと光ってます。年中無休です。」
「UFOはね。でもパチンコ屋さんは営業時間があるのよ。だから今日はもうお終い。」
そう言って俺を家に押し込む。
「おばさんはUFOが気にならないんですか!?」
「気になるわよ、本物なら。」
「あれは本物です!」
「・・・・あのね、前から聞きたかったんだけど、どうしてそこまでUFOに興味があるの?」
「仕事だからです。」
「そうよね、その為に生まれてきたんだもんね。でもその理由を教えてほしいのよ。」
「理由はありません。強いて言うなら、それが俺の存在意義です。」
「ならその存在意義を聞かせてよ。」
グイグイと背中を押して、家に入れる。
バタンとドアを閉じて、「はいはい」と中に上げた。
《やっぱりこの付近にはUOが出るんだな!収穫があったぞ!》
よっしゃ!とガッツポーズをする。
車椅子の少年が「可哀想・・・」と呟いた。
「俺もそう思う。せっかくUFOが現れたのに乗れないなんて。」
「そういう意味じゃないって。その・・・・こっちが。」
そう言って頭を指さす。
「けっこう痛いっていうか・・・・、」
「陸翔(りくと)!」
おばさんが怒鳴って、少年はビクっとする。
「そういうことは言わない。」
「ごめん・・・・。」
少年はキイキイと車椅子を動かしていく。
おばさんも「ほらほら」と俺を押した。
「痛いってどういう意味ですか?あの子、怪人に何かされたんじゃ・・・・、」
「平気平気。」
今日はとても不思議な日だ。
怪人が現れ、なぜかこのおばさんが現れ、そしてUFOが現れた。
これはいよいよ俺の運命が動き出しているのかもしれない。
《UFOに乗る日もそう遠くないな。》
またガッツポーズをする。
近いうち、必ず宇宙人が俺の前に現れるはず。
NASAに就職するのはやめることにした。

微睡む太陽 第一話 UFOはどこに(1)

  • 2017.05.05 Friday
  • 10:41

JUGEMテーマ:自作小説
幼い頃から超常現象が好きだった。
テレビでそういう番組があると、必ず見ていた。
ネッシー、ミステリーサークル、チュパカブラ。
心霊系にはあまり興味はないけど、不可思議な出来事や生き物は好きだった。
特にUFOが好きで、毎晩空を見上げていた。
・・・いや、今でも見ている。
朝でも昼でも夜でも、暇さえあれば空飛ぶ円盤を探している。
UFOは一番の憧れだったし、できれば乗りたい。
出来ることなら、宇宙人がさらに来てくれないかと思っている。
だけど待てども待てども、まったく来てくれない。
テレビなんかじゃ「UFOに乗せられた!」なんて人がたくさんいるのに、なんで俺の所には来てくれないのか?
悔しいし、すごい不満だ。
こうなったら自分で探しに行くしかない。
きっとどこかにいるはずで、一生懸命探せば見つかるはずなんだ。
今日はバイトが休みで、朝から出かけた。
ちょっと曇っているけど、陽は射している。
大きなスコップを担ぎ、弁当の入ったリュックを背負い、登山用のブーツを履く。
向かうは少し離れた山。
よく行く銭湯のじいさんが、ここにUFOが出ると言っていたからだ。
だから大学を出てからは、毎日通っている。
もう三年も通い続けている。
山を探索したり、穴を掘ったりして、どうにかUFOの形跡がないか調べてる。
それにたまにはテントを張って泊まる。
頂上には大きな溜め池があって、その傍にテントを張る。
周りに木立がないから、よく空が見えるんだ。
でもあまりに空が見えるから、夜になるとUFOを探すのが大変だ。
だって星がすごくよく見えるから、UFOを見逃すかもしれない。
探し物をするには注意が必要で、いつだって神経を張りつめてなきゃいけないんだ。
俺は車を走らせて、少し離れた山までやって来る。
麓には墓地があって、傍に大きな家がある。
この墓地を管理している人の家で、朝はいつも掃除している。
俺は空き地に車を停めて、墓地へ降りた。
リュックを背負い、スコップを担ぎ、ブーツの紐をきつく結ぶ。
ほんとはテントを張りたかったんだけど、明日は朝からバイトだ。
休みを入れようとしたら、店長から『ダメ』と言われて、すごいショックだった。
まあ仕方ない。今日はテントは諦めよう。
リュックを担ぎ直して、墓地の奥に向かう。
そこから山に登れるんだ。
スコップとリュックの金具が当たって、ガランガランと音が鳴る。
すると墓地を掃除していたおばさんが「おはよう」と挨拶してきた。
「あ、どうも。」
「今日もUFO?」
「はい。」
「いつも精が出るね。」
「仕事なんで。」
「ふふ。」
おばさんはニコっと笑う。
俺は会釈して山に向かった。
「今日は午後から雨らしいけど、合羽とか持ってるの?」
おばさんが大きな声で呼ぶ。
「あ、大丈夫です。」
「この前みたいに風邪ひくよ?」
「この前引いたから大丈夫です。」
「ちょっと待ってて。」
おばさんは家に戻って、折り畳みの傘を持ってきた。
「はい。」
「あ、大丈夫です。」
「でも仕事でしょ?じゃあちゃんと持っていかないと。」
「ああ、じゃあ。」
傘を受け取って、広げてみる。
「今差してどうするの?」
おばさんは可笑しそうに笑う。
俺は「日除けです」と答えた。
「それにこの方が目立つから、UFOが見つけてくれるかもしれないし。」
「大変な仕事ね。」
「これで給料が出たらいいんですけどね。でもタダの仕事なんです。」
「人生の仕事だもんね。」
「そうなんですよ。俺はUFOに乗る為に生まれてきたんで。」
クルクルと傘を回して、山に向かっていく。
「あんまり無理しないようにね。」
「仕事だから大丈夫です。」
山道に入って、ゴツゴツした岩道を登っていく。
昔は川が流れてたらしくて、そのせいで地面は石だらけだ。
でも慣れた山だから楽チンに登れるけど。
マリオみたいにピョンピョン跳ねながら、スイスイ登っていく。
でも傘に枝が引っかかって、転びそうになった。
「今はしまっとくか。」
クルクルっと畳んで、バチンと柄を戻す。
リュックのポケットに突っ込んでから、また歩き出した。
そんなに高くない山だから、一時間ほどで登れる。
だけど一直線に頂上まで向かうわけじゃない。
怪しい場所を見つけたら、徹底的に調べるのだ。
頂上までのルートは幾つかに分かれていて、俺は分岐点で立ち止まる。
今日は左の方から攻めてみることにした。
途中でウサギみたいな形をした、大きな岩が出て来る。
おもちみたいに丸まった、可愛い感じのウサギだ。
上の尖った部分が、上手い具合に耳みたいになっている。
岩の傍には「兎羽岩」と看板が立っている。
読み方は「とばいわ」
昔に大きな兎がいて、悪さばかりしてたらしい。
でも神様に怒られて、その後は山を守る神獣になったとか。
そんな伝承が看板に書かれている。
だからこの山は「兎羽山」という。
もしほんとにそんな兎がいたら、一種の未確認生物だ。
この岩が動き出してくれたら面白いのに。
そう思いながら、岩を過ぎていく。
細い道を歩き、高い杉が並ぶ場所に出た。
枝の間から光が漏れて、倒木を射している。
そこにはアリの行列が出来ていて、せっせと餌を運んでいた。
今は10月の頭だから、もうじき冬だ。
アリにとっては一番忙しい時期かもしれない。
しゃがみこんで、しばらくアリの仕事ぶりを眺める。
・・・・誰もいない山。
ものすごい静かで、耳鳴りがしてきそうなほどだ。
たまに葉っぱが揺れる音が響くくらいで、あとは無音。
周りは木立で、ここにいるのは俺とアリと木だけ。
この山へ来るといつも感じることだけど、ここはちょっと不思議な世界だと思う。
もし街にUFOが降りてきたら、みんな驚くだろう。
UFOを信じている俺も驚く。
でもここにUFOが降りてきて、宇宙人が「よう!」って話しかけてきても、きっと違和感はない。
なんでか分からないけど、普通と違うこの空気が、そんな風に思わせるのかもしれない。
しばらくアリの行列を見つめてから、また歩き出す。
茂みを探ったり、穴を掘ってみたり。
ちなみに穴を掘るのは、墜落したUFOの破片でもないかと探してるからだ。
きっと宇宙人は地球人より昔からいるはずだから、過去に墜落したUFOがあっても不思議じゃない。
そう思って穴を掘ってるんだけど、残念ながら今のところは収穫がなかった。
「ダメだな。」
穴を掘るのをやめて、また探索を続ける。
しばらく歩くと、隣の山に続く道に出た。
傍にはコンクリートで舗装された道があって、車で登ってくることも出来る。
俺は真っ直ぐに歩き、隣の山の入り口を目指す。
ここには古いキャンプ場があるんだ。
錆びた水道、ボロい窯、それに汚い便所。
今は誰も使っていないキャンプ場だ。
でも俺は何度か使った。
夜になると不気味だけど、でもそれがいい。
いかにもUFOとかUMAが出てきそうだから。
このキャンプ場を抜けると、ブランコとか鉄棒とかが並んだ、ショボいアスレチックがある。
遊具は少ないけど、可愛らしい動物の石像がたくさんある。
タヌキ、ウサギ、イノシシ、カメ、それにクマ。
けっこうリアルに出来ていて、可愛いんだけど不気味さがある。
夜になったら動き出すんじゃないかと思って、ここでテントを張ったこともある。
でもなんにも起きなかったけど。
「な〜んか・・・今日も収穫がなさそうだな。」
今日は良い予感がしない。
ていうかいつだって良い予感がしない。
だって一度もUFOやUMAに出会ったことがないんだから。
一生懸命探しても、どうしても会えない。
それにいくら穴を掘ったって、UFOの破片は出てこない。
どうせ今日も何も起こらない。
何かを期待しても、何も起こらないんだ・・・・・。
俺はすごく寂しかった。


            *

夕方、山を下りた。
案の定収穫はなかった。
でもいいんだ。これこそ俺の仕事だから。
給料は出ないけど、人生の仕事だ。
金儲けの為にやっているんじゃない。
だからいいんだ。
山を下りた俺は、墓地の傍の家に行った。
庭におばさんがいたので、「どうも」と傘を返した。
「UFO見つかった?」
おばさんは笑いながら傘を受け取る。
「努力が足りないみたいで、まだ見つかりません。」
「雨降らなくてよかったね。」
「はい。」
会釈して「それじゃ」と去る。
「またね。」
おばさんは手を振る。
俺は車に乗って、プップーとクラクションを鳴らした。
家に帰り、荷物を置いて、銭湯に行く準備をした。
俺が住んでいるのはボロい借家だ。
二階建ての民家の、二階の部分だけが俺の部屋だ。
入り口は一階とは別々になってるけど、でも風呂と便所は全て一階にある。
そして一階には別の人が住んでるから、俺の家には風呂も便所もないのだ。
だからもっぱら銭湯。
便所は近所の公民館のを使う。
UFOの捜索道具をしまい、代わりにタオルと桶と替えの下着を持っていく。
銭湯は近くにあるので歩いていく。
徒歩で5分くらいだ。
すごくボロくて汚い銭湯なので、若者は俺しか行かない。
ていうか今でも営業してるのが不思議なくらいに客が少ない。
ペタペタとサンダルを鳴らし、銭湯にやって来る。
レンガ造りの煙突がそびえているけど、これはもう使っていない。
いくらボロい銭湯だからって、今時薪で風呂は焚かないから。
暖簾をくぐり、番台のおばあちゃんに300円払う。
すごい不愛想なばあちゃんで、何も言わずにお金だけ受け取るのだ。
俺はすぐに裸になり、便所かと思うほど汚れた風呂場に入った。
きっと潔癖症の人では入れないだろうな。
いちおうシャワーはあるので、身体を洗う。
クソ熱い湯船につかって、「UFO・・・・」と呟いた。
「いつになったら乗れるんだろ・・・・。このままジジイになっちゃうのかな?」
ボソッと呟いた一言は、隣で顔を赤くしているじいさんの耳に入ってしまった。
「ゆーふぉー?」
ほとんどのぼせた顔で、「ゆーふぉー?」と見つめてくる。
「そうです。UFOが見つからないんです。」
「そんなもんスーパーでも行ったら売ってるだろ。」
「そっちじゃないんです。空飛ぶ円盤です。」
「ああ、宇宙人が乗ってるやつか?」
「そうです。俺はあれに乗りたいんです。でも全然見つからなくて、けっこう困ってるんですよ。」
「儂見たことあるぞ。」
「え!?」
「まだガキの頃にな。空をピューンと飛んでくモンがあってな。」
「どこで見たんですか!?」
「この銭湯の上。」
「ここで?」
「ほんの一瞬な。あれは間違いなく空飛ぶ円盤だった。」
そう言って湯船から出て、身体を洗い始めた。
「あの・・・乗ったんですか?UFO。」
「乗った乗った。」
「ほんとに!?」
「頭ん中にチップも埋め込まれたな。」
「チップ!!」
俺はじいさんの横に座った。
一緒に身体を洗いながら、「それでそれで?」と詰め寄った。
「他の星に連れて行かれた。」
「ほんとに!?」
「遠い星の王女様にも会ったし、宇宙人のご飯も奢ってもらってな。」
「・・・・・・・・。」
「記念写真も撮った。」
「それ見せて下さい!」
「残念だけど、どっかに行っちまってなあ。」
そう言ってニカっと笑った。
「宇宙人はいる。間違いない。」
ポンポンと俺の肩を叩いて、「お先」と出ていった。
「マジか・・・・。」
去りゆくじいさんの背中を見つめながら、ショックで動けなかった。
ゴシゴシと身体を洗い、また湯船に浸かる。
「やっぱいるのか、宇宙人・・・・。」
頭までお湯に使って、ブクブクと息を吐く。
《俺も違う星に行ってみたい!》
すぐに風呂から上がって、番台のばあちゃんに話しかけた。
「あのね、ここUFOが来るみたいなんです!だからこの屋根の上に泊めてもらえませんか?」
必死いお願いすると、ばあちゃんは俺の後ろを睨んで「あんた!」と怒鳴った。
「またからかったね!」
「だって面白えからよ。」
「この子はそういうの本気にするんだよ。何度も言ってるだろ。」
「宇宙人くらいどっかにいるだろ。ここに来ても不思議じゃねえ。」
「あのね、この子は本気でそういうの信じるの。前にも酒屋の大下さんの家の屋根に勝手に登ったんだから。
あそこの息子がUFO見たなんて言うから。」
「だったらここの屋根にも登らせてやりゃいいじゃねえか。」
「ごめんだよ。瓦が傷むだけなんだから。」
ばあちゃんは俺を睨んで「あれは嘘だからね」と言った。
「ここにUFOなんか来ないよ。」
「でもあのじいさんは乗ったんですよ!」
「だから嘘に決まってるだろ。」
「嘘にしては具体的でした。違う星に行ったとか、王女に会ったとか。」
俺は力説する。きっとここにUFOが来たんだって。
ばあさんは「ほらね」とじいさんを睨んだ。
「こうなるんだよ。」
「面白えガキだな。」
「笑いごとじゃないよ。もし勝手に屋根に登られたら、あんたの責任だからね。」
「瓦くらい直してやるよ。それより頭の弱いそのアンちゃんに、ちょっとくらい夢見せてやりゃいいじゃねえか。」
じいさんは服を着て出て行く。
「あんた!言っていい事と悪い事があるよ!」
ばあさんは大声で怒鳴る。
風呂にのぼせたみたいに真っ赤な顔をしながら。
「まったく・・・迷惑なクソジジイめ。」
ぶつぶつ言いながら「あんなジジイの戯言信じちゃ駄目だよ」と睨まれた。
「あんたからかわれてるだけなんだから。」
「からかう?」
「ちょっと変わってるからね。」
「変わってますか?」
「自覚してない時点で変わってるよ。ちゃんと友達とかいるのかい?」
「いえ。」
「彼女は?」
「いますよ。」
「嘘ばっかり。」
「ほんとですよ。でもね、ちょっと前に別れたんです。あんた頭がおかしいって言われて。」
「なら今はいないんじゃないか。」
「顔はいいけど、頭がダメだって言われました。でもIQテストは問題なかったんですよ。だからまともなんです。」
「どっかネジが緩んでるんだよ。酷くなる前に医者行きな。」
そう言ってシッシと手を振った。
俺はいそいそと服を着替えて「屋根はダメですか?」と尋ねた。
「登ったら警察呼ぶよ。」
「ならやめます。」
ペコっと頭を下げて、外に出る。
そしてボロい屋根を振り返った。
「ここにUFOが来たのか・・・・。夜になったら来てみよう。」
その日、夜になるのを待って、銭湯に向かった。
時刻は午前一時、今なら誰もいない。
俺は持って来た脚立をかけて、屋根まで上った。
一晩中ここにいるつもりなので、夜食と飲み物も持ってきた。
今日はちょっと曇っていて、星は見えない。
でもその方がいい。
UFOが来たらすぐに分かるから。
「俺も乗せてくれ。」
そう願いながら、夜空を見上げる。
でも残念ながら、朝になってもUFOは来なかった。
やがてばあさんがやって来て「あんた!」と見つかってしまった。
「登るなって言っただろ!」
「ここUFO来ませんね。」
「早く下りてきな!でないと警察呼ぶよ!」
UFOの来ない場所に用はない。
さっさと屋根を下りると、バチンと頭を叩かれた。
「次やったらほんとに警察だからね!」
「ごめんなさい。」
ペコっと謝って、家に帰る。
そして一睡もしないままバイトに向かった。
「ふああ〜・・・眠。」
ベルトコンベアから流れてくる荷物を、出荷先のボックスに振り分けていく。
このバイトを始めて半年、慣れてはきたけど、その分退屈になってきた。
そして退屈すぎて眠ってしまって、ベルトコンベアからボトボトと荷物が落ちていった。
主任から「何度目だ!」と怒鳴られる。
「ああ、すいません・・・・。」
「またUFOでも探してたのか?ああ!?」
「はい。でも見つからなくて。」
「そりゃ残念だな。でもUFO探すより仕事を探した方がいいぞ。」
「なんで?」
「今日でクビだ。」
「ええ!」
「この前忠告しただろ。こんなミスされちゃあな、配送に時間がかかって仕方ないんだよ。みんなに迷惑がかかるんだ。」
主任は周りを見渡す。
みんな不機嫌な顔で俺を睨んでいた。
「ここにいられちゃ邪魔だから、他の仕事探せ。」
「あの・・・・今月の給料は貰えるんで・・・・、」
「気にしなくても払う。だからもう来るな。」
胸の社員カードを取られて、代わりにタイムカードを押し付けられる。
さて、これでクビになったのは何度目か?
《こっちは真面目に働いてるつもりなんだけどな。》
なにぶん本業が忙しいもので、副業に差し支えてしまう。
また新しいバイトを見つけなきゃと思いつつ、クビになった職場を去った。
UFOを探すのも楽じゃないもんだ。

新しい小説

  • 2017.05.04 Thursday
  • 08:44

JUGEMテーマ:自作小説

明日から新しい小説を載せます。

『微睡む太陽』という小説です。

UFOを追いかける青年の話です。

ストーリーがあるんだかないんだか分からない内容ですが、よかったら読んでやって下さい。

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