不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第十九話 古代の怨念(1)

  • 2017.07.21 Friday
  • 08:45

JUGEMテーマ:自作小説
土偶が街を襲っている。
マネキンや銅像、プラモデルや地蔵にまで魂を吹き込んで、人々を襲っている。
人形に捕えられた人たちは、土偶のビームによって奴隷と化した。
人形の群れ、洗脳された人間。
それらが俺たちに襲いかかる。
要するにかなりのピンチってわけだ。
しかし残念ながら、俺は戦うことが出来ないでいた。
超能力を使いすぎて、立っていることすら出来ないほどフラフラになってしまったのだ。
そんな俺を守ろうと、由香里君が人形たちの前に立ちはだかる。
しかし土偶のビームを受けて洗脳されてしまった。
「久能殺す!」
そう叫びながら、俺に向かってカカト落としを放つ。
今の俺は人形に押さえつけられている。
空手の達人である彼女の蹴りをまともに喰らえば、ただでは済まないだろう。
《クソ!もうダメか・・・・。》
目を閉じ、ギュッと拳を握る。
しかしその時、不思議なことが起きた。
なぜかは分からないが、とつぜん股間が熱くなったのだ。
焼けるほど熱さを感じて、思わず唸る。
するとその瞬間、股間から眩い光が放たれた。
《な、なんだ・・・・いったい何が起きているんだ!?》
異様な出来事に、誰もが呆気に取られる。
カカト落としをかまそうとしていた由香里君も、足を上げたまま固まる。
土偶も『ググ』と唸った。
『なぜ急に股の間が光りだしたのだ?』
警戒するようにピカピカと目を光らせる。
『ググ・・・嫌な予感がする。おい小娘!ボケっとしていないでさっさとそいつを殺せ!』
土偶がビシっと指を向けると、由香里君は「死ね!」とカカト落としを打ってきた。
《万事休すか・・・・。》
股間が熱くなったところで、いったいなんだというのだ?
不思議な現象ではあるが、この窮地を脱することは出来そうにない。
《この俺もここで終わりか。でもまあ・・・由香里君に殺されるなら、それも悪くないか。》
事故や病気で死ぬのではない。
最高の相棒の手にかかって死ぬのだ。
考えようによっては、そこそこカッコイイ最後かもしれない。
そう思って目を閉じると、「久能さん!」と茂美が叫んだ。
「こんなのがカッコイイ最後なわけないでしょ!」
そう言って由香里君の前に立ちはだかる。
茂美の頭上にカカト落としが迫る。
このままでは脳天が割れるだろう。
「危ない!」
「ふふふ、平気よ。」
余裕の笑みを見せる茂美。
彼女は埴輪を掲げて、由香里君のカカト落としを受け止めていた。
「おお!」
埴輪は不思議な力を放って、茂美を守っていた。
「この埴輪の力なら、彼女を正気に戻せるかもしれないわ。」
「本当か!?」
茂美は頷き、由香里君に向かって埴輪を投げつけた。
避けようとする由香里君だったが、驚くことに埴輪はそれを追いかけた。
まるでロックオンしたミサイルのように。
「くッ・・・・この!」
由香里君は突きや蹴りで払おうとするが、埴輪はそれもかわしてしまう。
そして・・・・、
「きゃああああああ!」
由香里君の胸にブスリと突き刺さった。
「由香里君!」
「平気よ久能さん。よく見てて。」
そう言って由香里君を指差す。
すると埴輪から眩い光が放たれて、由香里君を吸い込んでしまった。
「あれは・・・・、」
「そう、埴輪と合体したの。」
「さっき俺たちが中に入った時のようにか?」
「そうよ。あの中は埴輪のエネルギーで満ちてる。だったら土偶の洗脳が解けるかもしれないわ。」
埴輪はピカピカと光っていたが、やがて力をなくしたように地面に落ちた。
茂美はそれを拾い、大切そうに胸の谷間にしまった。
「由香里ちゃんのことは私に任せて。その代わり・・・・、」
「ああ、この土偶は俺が捕らえる!」
股間はまだ熱く輝いている。
これが何の役に立つのか分からないが、闘志だけは燃えてきた。
「行くぞ土偶!」
古文書を掲げ、宙に浮く土偶に向ける。
すると奴めは『グググ』と笑った。
『やれるものならやってみろ。』
そう言って洗脳された人間たちを盾にした。
「邪魔だ!どけ!」
『無駄よ無駄。その人間どもは私の操り人形だ。』
「貴様・・・・卑劣な真似を・・・・、」
これでは古文書の稲妻は使えない。
ならば・・・・、
「俺にはまだ武器がある!喰らえ!」
念動力を使って、土偶を地面へ叩きつけようとした。
しかしまったく動かない。
いくら眉間に意識を集中させても、何も起こらなかった。
「そんな・・・なぜだ!?」
『グググ、どうやらエネルギー切れのようだな。』
「な、なに・・・・。」
『貴様、立っているのもやっとの状態ではないか。度重なる超能力の使用で、限界がきているのだろう?』
「・・・・・あ。」
言われて気づく。
そうだった・・・・今の俺はガス欠なんだ。
『グググ、もはや貴様に武器はない。』
「クソ!」
『放っておいても問題ないが、いちおうトドメを刺しておこうか。』
土偶は古文書を掲げる。
ブリザードを撒き散らすつもりだ。
しかし今の俺は宇宙服を着ている。
これがある限りブリザードなど怖くない。
『・・・・と、思っているのだろう?』
土偶は俺の心を見透かす。
『何も冷気を振りまくだけが能ではない。こういうことも出来るのだ!』
そう叫んで、自分の周りに巨大な氷柱を浮かばせた。
『さて、この氷柱を飛ばせばどうなるか?』
「そいつで串刺しにしようってのか?」
『グググ、貴様のようなアホにはお似合いの末路だろう?』
「ふざけやがって・・・・。」
『悔しがっても何も出来まい?ググググ!!』
土偶は古文書を回す。
すると氷柱の先端が俺の方を向いた。
『穴だらけになって死ぬがいい!』
氷柱は弾丸のように飛んでくる。
その時、わずかに残った力のおかげで、未来予知が発動した。
氷柱の軌道が読める。
そのおかげでどうにか回避することが出来た。
しかしその代償として・・・・、
「くッ・・・・もう完全にガス欠だ・・・・。」
ついに立っていることさえ出来なくなる。
膝をつき、がっくりと項垂れた。
『ググググ!愚かな奴よ。無駄な抵抗はさらなる絶望を招くだけというのに。』
土偶はまた氷柱を生み出す。
その数はさっきの三倍。
しかも俺だけでなく、茂美にも狙いを定めた。
「やめろ!殺すなら俺だけにするんだ!」
『グググ、皆殺しにするに決まっているだろう。』
「敵は俺だけだ。そっちの女は関係ない!」
『大ありだ。私のUFOを奪おうとしたのだからな。』
土偶は空を見上げる。
そこにはいつの間にか巨大なカボチャが浮かんでいた。
中から爺さんと婆さんが出てきて、「ファッキュー!」と中指を立てる。
「なんてこった。また土偶に洗脳されたのか。」
『どう足掻いても貴様らに勝ち目はない。抵抗せず、大人しく死ね!』
氷柱が再びこちらを向く。
「まずい!逃げるんだ茂美さん!」
そう言って彼女を振り向くと、驚いた顔で俺を見ていた。
「どうした?」
「久能さん・・・・それ・・・、」
「ん?」
「気づかないの?」
「何が?」
「息子さんが・・・・大変なことになってるわ。」
茂美は怪物と出くわしたかのよに、俺のあそこを指差す。
そして俺自身もまた、自分の息子を見て悲鳴を上げた。
「ぬうあ!なんじゃこありゃあああああ!」
息子が埴輪になっていた。
いや、正確には股間から埴輪の立体映像が浮かんでいた。
「どうしてこんなことに・・・・、」
『だしょ。』
「こ、この声は・・・・、」
股間に浮かぶ立体映像から、特徴的な声が聴こえた。
「ティムティム女王か!?」
『最悪だしょ・・・・。』
「何が?」
『まさかこんな場所から召喚されるなんて・・・・。』
悲し気な声を響かせるティムティム女王。
と、次の瞬間!
土偶が『貴様あ!』と氷柱を飛ばしてきた。
「うおおおお!」
『大丈夫だしょ。』
股間に浮かぶ立体映像が、空に浮かんで行く。
そしてティムティム女王の姿に変わって、氷柱を弾いた。
「おお、助かった・・・・。」
『ホっとしてる場合じゃないだしょ。』
「え?」
『早くこの土偶を捕まえるだしょ。』
「あ、ああ・・・そうだったな。しかしもうエネルギーが・・・・、」
『しょうがないだしょね、ほれ!』
ティムティム女王は杖から光を飛ばす。
その光は俺の股間へと吸い込まれていった。
「ああ・・・・力が漲る・・・・。」
ドクウドクンと脈打って、身体の中から力が湧き上がる。
特に息子が。
『胸を狙ったのに、なんでそこに吸い込まれるんだしょ・・・・。』
呆れ気味の女王陛下。
すると土偶が『ティムティム!』と叫んだ。
『よくもまあ私の前に姿を現せたものだ!』
土偶は怒り狂っている。
女王陛下は『だしょ』と笑みを返した。
『こんな事もあろうかと、その探偵に「召喚の儀」を掛けておいたんだしょ。』
『召喚の儀だと?仲間がピンチになった時に緊急召喚されるアレか?』
『だしょ。だけどあんな場所から召喚されるようにした覚えはないだしょ。ほんとは胸から出て来るはずだったんだしょ。
あの男の性欲・・・・底が知れぬだしょ。』
呆れていた顔は、少しだけ感心に変わる。
『グググ。』
『何がおかしいだしょ?』
『確かにお前が現れたのは予想外だ。しかしそう長くはここにいられまい?』
『そ、それはあ・・・・、』
『お前の魂は南極にあるはず。こんな離れた場所に召喚された所で、大したことは出来ないはずだ。』
勝ち誇たように笑う土偶。
ティムティム女王は『だしょ・・・』と項垂れた。
『お前の言う通りだしょ。あと一分くらいで帰らないといけないだしょ。』
《短すぎだろ!》
『それにその探偵に力を与えてしまったから、ほとんどエネルギーが残ってないだしょ。』
《なんか申し訳ないな・・・・・。》
ティムティム女王はとても残念そうだ。
しかし『だしょが!』と顔を上げた。
『洗脳された人間を元に戻すくらいなら出来るだしょ!』
そう言ってガバっと手を広げる。
『人間を盾にされては、その探偵は戦えないだしょ。私が力になってやるだしょ。』
俺を振り返り、ニコっと笑う。
《う〜ん・・・惜しい。もうちょっと大人だったら息子が喜んだのに。》
愛らしいその笑顔は、まだ子供のあどけなさが残る。
御年225万歳とはいえ、容姿がこれでは欲情できない。
『しなくていいだしょ。』
「・・・・心を読むな。」
ティムティム女王は『後は任せただしょ』と言った。
『この技を使えば、わらわは南極へ戻ってしまうだしょ。』
「OK、洗脳された人々が助かるだけでも充分だ。エネルギーも貰ったし、これなら戦えるさ。」
『たまには男らしい顔するんだしょね。これなら心配ないだしょ。』
そう言ってまた微笑んだ。
《う〜ん・・・やっぱり惜しい。もうちょっとエロいボディだったら欲情を・・・・、》
『だからしなくていいだしょ!』
間抜けなやり取りをしていると、土偶が『黙れ!』と叫んだ。
『ティムティム!今日こそ貴様を塵に還してやる!』
『怖い顔して怒るなだしょ。』
『怒るに決まってるだろう!200万年前のあの恨み・・・忘れたとは言わせぬぞ!』
『まだあんなの気にしてるんだしょか?ほんっとに恨み深い奴だしょねえ。』
『時間の問題ではない!貴様に受けた屈辱・・・・今でも激しく燃えておるのだ!!』
土偶は古文書を掲げて、大量の氷柱を浮かばせた。
『探偵!』
女王が叫ぶ。
『稲妻で迎撃を!』
「いや、そんなことをしたら洗脳された人たちが・・・・、」
『もう解けてるだしょ。』
「え?いつの間に・・・・。」
周りを見ると、人々が眠ったように倒れていた。
『仕事は速さが肝心だしょ!お前もモタモタするなだしょ!』
「さすがはムー大陸の女王、伊達にだしょだしょ言ってるわけじゃないな。」
女王の足を引っ張るわけにはいかない。俺は高く古文書を掲げた。
バリバリと稲妻が鳴って、氷柱を打ち砕いていく。
『ググ・・・おのれ!』
悔しそうに唸る土偶。
ビカビカっと目を光らせて、『お前たち!』と叫んだ。
『そいつらを八つ裂きにしろ!』
そう言って命令を飛ばすと、人形たちはいっせいに襲いかかってきた。
「みんなまとめて丸焦げにしてやる!」
もう一度稲妻を放とうと古文書を掲げる。
すると後ろから誰かの手が伸びてきて、サっと奪われた。
「うお!誰だ!?」
「儂じゃよ。」
「爺さん!」
カボチャのUFOがいつの間にか近くに来ていた。
爺さんは「ひゃっはあ〜!」と叫んで、古文書を持ったままUFOの中に隠れてしまった。
「おいコラ!それを返すんだ!」
追いかけようとすると、人形の群れが立ちはだかった。
「どけ貴様ら!」
『うるさい。』
「ぐほあッ・・・・、」
地蔵のパンチがめり込む。
文字通り石の拳は、由香里君の正拳突きより効いた。
「あ、頭が割れる・・・・。」
フラフラと倒れると、今度は銅像が圧し掛かってきた。
「ぐはあッ!」
マウントポジションを取られてしまう。
相手は銅像なので、上に乗られるだけでもかなりのダメージだ。
「おのれ・・・・こうなったら超能力で・・・、」
眉間に意識を集中させて、念動力を発動させる。
しかしその時、美人なお姉ちゃんの太ももが目に入った。
「なんとエロイ脚だ・・・・。」
煩悩に満たされ、集中力が切れる。
『あはは!バッカでえ〜!』
「・・・・マネキン。」
どうやら人形の足に見惚れていたらしい。
我ながらなんとも情けない。
上には銅像、周りには地蔵やマネキンの群れ。
超能力を使おうとしても、色気で邪魔されてしまう。
なんというピンチ!
「ティムティム女王!こいつらを何とかしてくれ!」
あらんかぎりの声で叫ぶと、土偶が『帰ったぞ』と答えた。
「え?」
『もう疲れたらしい。』
「そんな・・・・、」
『南極からここまで魂を飛ばしていたのだからな。今頃お家でお昼寝でもしているだろう。』
「まんま子供じゃないか!」
『グググ、今度こそ・・・・今度こそ終わりだ!貴様を抹殺し、全ての人間を奴隷にしてやる!
そのあとは大軍を率いて、南極に攻め入ってやる!憎きティムティムの首を討ち取るのだ!』
怒りに染まるように、真っ赤に目を輝かせる。
どうやらティムティム女王に相当な恨みを抱いているらしい。
それも並々ならぬ恨みを。
しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。
だって俺は・・・・、
『グググ、もう逃げられまい?古文書も奪われ、超能力も使えない。』
「卑怯だぞ!マネキンにエロいポーズを取らせるなんて!」
『人形に欲情するお前がどうかしているのだ。アホだなほんとうに。』
呆れたように笑う土偶。
『もういい』と言って、俺の傍へ降りてきた。
『最後は私みずからトドメを刺してやろう。』
そう言ってまた氷柱を浮かばせた。
尖った先端が俺の方を向き、命を狙おうとする。
『グググ、最後に言い残すことは?』
「・・・・・・・・。」
『遺言くらいなら聞いてやると言っているのだ。』
「・・・・優しいな。だったら一つだけ。」
俺は目を閉じる。
そこに思い描くのはただ一人、由香里君だ。
最高の相棒にして、かけがえのない戦友。
もし彼女がいなければ、ここまで探偵を続けることは出来なかっただろう。
「由香里君・・・・君と一緒に探偵ができて幸せだった。」
宝くじを当て、脱サラして始めた探偵業。
傍にはいつだって彼女がいた。
何度か廃業せざるをえない危機もあったが、それも二人で乗り越えてきた。
「君と出会えたことが、俺にとって一番の幸せかもしれないな。」
なんとなくニヒルに笑ってみる。
死に際にこんな余裕があるなんて、案外肚が据わってるじゃないかと、おかしくなってしまった。
『ググ、遺言しかと聞き届けた。だが悲しむことはない。あの小娘もすぐに後を追うのだから。』
土偶の殺気が膨らむ。
目を閉じていても、氷柱がすぐそこまで迫っているのが分かった。
「さよならだ、由香里君。」
「誰がさよならなんですか?」
そう声がして、バキバキっと何かが砕ける音がした。
目を開けてみると、氷柱がガラスのように砕け散っていた。
「・・・・・・・・。」
ゆっくりと後ろを振り向く。
するとそこには正気に戻った由香里君が。
足先には氷の破片が付いている。
「・・・・目が覚めたのか?」
「はい!埴輪と茂美さんのおかげで。」
ニコっと笑い、「立って下さい」と手を引かれる。
「私たち、こんな所で終わるほどヤワじゃありませんよ?」
「・・・・・強いな、相変わらず。」
「だって久能さんがいてくれるから。一人じゃここまで戦えませんよ。」
そう言って「二人で久能探偵事務所、そうでしょ?」と胸を小突かれた。
「さよならなんて言わないで下さい。それとも私が他の所に就職先を替えてもいいんですか?」
「・・・ギャラを三倍にしてでも引き止めるさ。」
「なら時給換算で3000円、忘れないで下さいね。」
「ボーナスも付けるさ。ついでに慰安旅行にも行こう。海の見えるホテルで、君の肩を抱きながら朝陽を迎えるのさ。」
「いいですね、私もそういうのやってみたいです。」
「本気か?いつもならセクハラだとか怒るのに。」
「エッチな気持ちだけならセクハラです。でもそうじゃないなら・・・・。」
「由香里君・・・・。」
二人で見つめ合っていると、『グググ!』と土偶が怒った。
『この期に及んでイチャつくとはいい度胸だ!まとめて串刺しになるがいい!!』
今度は先ほどの五倍の氷柱を浮かばせる。
「久能さん!私は人形たちの相手をします。土偶は任せますよ。」
「OK大丈夫さ。君がいてくれるなら、マネキンごときの色香に惑わされることはない。」
超能力さえ邪魔されないのなら、この程度の氷柱はどうにでもなる。
『貴様ごときに何ができるか!死ね!』
無数の氷柱が襲いかかる。
しかしもはやこれは脅威ではない。
ティムティム女王からたっぷりエネルギーをもらったおかげで、体力も息子も絶好調だ。
眉間に意識を集中させて、最大級の超能力で迎え撃った。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第十八話 人形の街(2)

  • 2017.07.20 Thursday
  • 10:47

JUGEMテーマ:自作小説

戦いとは過酷なものである。
相手は自分の思い通りには動かず、自分だって自分の思い通りに動けるわけではない。
こんなはずじゃなかった!
その連続をどれだけ乗り越えられるかで、勝利への道が近づくのだ。
さて、いま目の前にそびえる巨大な壁。
とてつもなく大きな「こんなはずじゃなかった!」
これを乗り越える為にはどうするべきか?
俺は真剣に悩んだ。
「まさかこんな展開になるとはなあ。」
目の前にそびえる真っ白な壁。
それは古代アトランティスの便器だ。
ここは便器の中。
用を足したあと、水が吸い込まれていくあの場所にいる。
「大変だ。もし水を流されたら、俺までどこかへ流されてしまう。」
行き着く先は肥溜めか?
それとも下水道か?
どこかは分からないが、嬉しい場所でないことは確かだ。
「なあ由香里君、これを乗り越えるにはどうしたらいいかな?」
そう尋ねると「知りません」と怒った。
「なんで私までトイレの中に叩き込まれなきゃいけないんですか?」
「だって仕方ないじゃないか。あの土偶が強すぎたんだから。」
「私も茂美さんも、ちゃんとそれぞれの敵を倒しました。なのに久能さんだけ負けちゃって。」
そう、俺は負けたのだ。
1000年分の便秘を解消した土偶は強かった。
あり得ない速さで飛びまくり、その都度ソニックブームが襲いかかる。
さすがの俺もお手上げだった。
「まあこういう事もあるさ。」
「私は嫌です!トイレの中だなんて!」
「そりゃ俺だって嫌だよ。でもねえ・・・あの土偶は強すぎるから。君だって勝てなかったんだろ?」
「それは・・・そうですけど。」
俺が敗北したあと、土偶は由香里君に襲いかかった。
さすがの由香里君も、音速で飛び回る相手には敵わない。
あっさりと膝をつかされて、便器の中に叩き込まれた。
その次は茂美が襲われた。
この女はあろうことか、自力でUFOを乗っ取ってしまった。
爺さんと婆さんを洗脳し(本人いわく説得だそうだが)、UFOを我が物としてしまった。
しかしそこへ土偶が襲いかかった。
茂美は応戦したが、古文書の冷気でバキバキに凍らされてしまった。
そして俺たちと一緒に便器の中へ。
俺たち三人は土偶に敗北したあと、奴の目から出るビームを受けて、便器に収まるほど小さくされた。
今は親指ほどのサイズしかない。
「奴の目から出るビーム、まるでドラえもんのスモールライトだったな。
あんな切り札があったんじゃ、勝てなくて仕方ないさ。」
のほほんと笑うと、「笑ってる場合ですか!」と怒られた。
「どうにかしてここから出ないと、世界は土偶に支配されちゃうんですよ?」
「分かってるさ。でもどうにもこうにも・・・・なあ?」
そう言って茂美を振り返ると、便器の水のおかげで半分ほど氷が溶けかかっていた。
「寒いわ・・・・。」
「よく生きてるな。」
「だって埴輪と合体してたから。」
「でも今は元に戻ってるじゃないか。」
「そうなのよ。バキバキに凍らされたあと、急に合体が解除されちゃって。
どうやら大きなダメージを受けると、合体は解けちゃうみたいね。」
「生身で氷漬けにされて、それでよく生きていられるもんだ。」
「寒さには強いのよ。でもねえ、さすがにこれは堪えるわ。」
ブルっと震えながら、パキパキに凍った頭を撫でた。
「これじゃ髪が傷んじゃうわ。」
「その程度ですむあんたが怖いよ。本当は宇宙人か何かなんだろう?」
「かもね。」
冗談か本気か分からない顔で笑う。
「とにかく!」
由香里君が叫ぶ。
「ここから出ないと話になりません。久能さん、瞬間移動を使って下さい。」
「いや、それは無理だよ。」
俺は上を指差す。
「便座が閉じてるんだ。ここで使ったら頭を打つだけだ。」
「大丈夫です。トイレから出る瞬間に、私が蹴り上げますから。」
「そんなこと出来るのかい?」
「出来るかどうかじゃなく、やるしかないでしょう?」
「でも瞬間移動は相当なスピードだよ?いくら君でも・・・、」
「もう!弱気にならないで下さい!やってみないと分からないじゃないですか。」
「相変わらず男前だな。この件が終わったら君が所長をやってみるかい?」
「それいいですね。久能さんを助手にして、毎日コキ使ってあげます。」
「それはいいけど、読書の時間はだけは許してほし・・・・、」
「エッチな本は全部捨てます。そういう動画を見るのも禁止です。」
「厳しいな、やっぱり所長の座は譲りたくない。」
「だったらやって下さい。大丈夫、私と久能さんなら必ずできます。」
強気な顔で、グっと拳を握る。
すると茂美も「やるべきよ」と言った。
「さすがに命の危機を感じてきたわ。」
「唇が紫になってるな。」
「早く出ないと凍死しちゃう。」
「俺としてはそうなってくれた方がありがたいんだが・・・・・痛ッ!」
「もう!意地悪言わないで!さっさとやってちょうだい。」
「だったらまた埴輪で暖まればいいだろう?」
「何言ってるの?埴輪だってバキバキに凍ってるのよ。文句はいいからやって。」
「へいへい。」
俺は頭上を見上げる。
《重そうだなあ、あの便座。》
今の俺たちは小人のようになっている。
便器は監獄のように巨大で、出口を塞ぐ門は重そうだ。
だがしかし、助手がやる気になっているのに、俺だけ尻込みするのは情けない。
「じゃあ今から瞬間移動を使う。由香里君、タイミングを合わせてくれ。」
「任せて下さい!」
目を閉じ、頭の中に外の景色をイメージする。
《外へ出たい・・・・外へ出たい・・・・。便器の中からオサラバしたいんだ。》
イメージしながらそう願うと、一瞬で便座まで舞い上がった。
・・・・その瞬間、由香里君は見事は蹴りを放って、便座をこじ開けた。
そのおかげで俺たちは無事脱出。
「すごいぞ由香里君!よくやった!」
なんと心強い助手だろう。
感嘆を惜しまずにはいられない。
しかし当の由香里君は「まだです」と言った。
「ただ外へ出ただけですから。」
「そうだな、俺たちは小人のままだ。どうすれば元に戻れるのか・・・・、」
腕を組み、険しい顔で唸る。
すると茂美が「これ、もしかしたら使えるかも」と言った。
「なんだそれは?」
「UFOの中にあったのよ。」
茂美は何かの粉末を手にしていた。
ポケットから大量に出して、「これ肥料なの」と言った。
「肥料?」
「お爺さんとお婆さんが言ってたのよ。これを野菜に与えると、信じられないくらい大きく成長するって。」
「なるほど、要するに巨大化する薬ってわけか?」
「おそらくね。これを飲めば元のサイズに戻れるかもしれないわ。」
「おお!じゃあ早速飲んでみよう。」
茂美は俺と由香里君に「はい」と粉末を分ける。
少し青みがかったその粉は、手に持っているだけで不思議なパワーを感じた。
「すごいエネルギーが宿っているのが分かる。これならいけるかもな。」
「だけどちょっと怖いですね。もし上手くいかなかったらって思うと・・・、」
「どうした?さっきは強気だったのに。」
「だって便座を蹴り上げるなんて簡単だから。でもわけの分からない薬はちょっと・・・・、」
不安がる由香里君。
すると茂美が「先に飲むわ」と言った。
「私だってたまには良いとこ見せなくちゃ。」
「そうだな、いつもトラブルばかり起こすからな。」
「人を疫病神みたいに言わないでちょうだい。」
ムスっとしながら、バフバフと肥料を頬張る。
《なんて豪快な薬の飲み方だ・・・・。》
腹を空かした犬のごとく、あっという間に肥料を平らげる。
するとしばらくしてから、茂美はどんどん大きくなっていった。
「おお!」
「すごい!」
ウルトラマンに変身するハヤタ隊員のごとく、茂美は巨大化していく。
そのおかげでスカートの中が丸見えに・・・、
「見るんじゃありません。」
由香里君に目を塞がれる。
せっかくいい所だったのに。
「どうです成美さん?」
「バッチリよ。」
「なら私も!」
由香里君も肥料を食べる。
彼女もウルトラマンのごとく巨大化していった。
「おお!すごいぞ!由香里君の服の中も丸見えに・・・・、」
「踏み潰しますよ?」
「失敬。」
なんと冗談の分からない子か。
ちょっとくらいいいじゃないかと思ったが、目が笑ってないので悪ふざけはやめよう。
俺も肥料を頬張る。
すると見る見る大きくなって、元のサイズに戻った。
「なんちゅう薬品だ・・・・そりゃカボチャも空を飛ぶってもんだ。」
感心していると、由香里君が「そのカボチャがいなくなってます」と言った。
「・・・本当だな。」
「土偶もいなくなってるし。」
「UFOに乗って逃げたか?」
「ねえ久能さん、透視能力で土偶を捜せませんか?」
「ん?いやあ、それは難しいな。だってこれは物を透かして見る能力だから。
見えなくなったモノを探す能力じゃないんだよ。」
そう言ってから、「ぬうあ!」と気づいた。
「どうしたんです!?」
「今の俺はパワーアップしてるんだった。」
「ええ。」
「となれば当然透視能力も・・・・、」
「もしかして探し物が見つかるほど強力になったとか?」
「いや、そうじゃない。」
「じゃあなんなんですか?」
「・・・・・・・・。」
「なんですか?じっと見つめて。」
「・・・・・・・・。」
「久能さん?」
「・・・・・・・・。」
「・・・・ああ!」
由香里君は俺の下腹部を見て叫ぶ。
「覗くな!」
「ごはあッ!」
「こんなことの為に超能力を使わないで下さい!」
「す、すまん・・・つい出来心で。」
「今度やったら久能さんの所へ就職するのやめますよ。」
「す、すまない。悪気はなかったんだ。」
「悪気しか感じません。」
ツンとそっぽを向いて、頬を膨らませる。
すると茂美が「ねえ」と口を開いた。
「今の久能さんって、どれくらい先まで透視出来るの?」
「そうだな・・・・・。」
眉間に意識を集中させて、遠くを見つめる。
「・・・・10キロくらい先かな。」
「そんなに?」
「でもすごく疲れる・・・・。パワーアップした分、エネルギーも消費するみたいだ。」
目がチカチカして、頭も痛くなってくる。
息子も元気を失くした。
《ティムティム女王も言っていたな、乱用は禁物だと。最悪は種無しになっちゃうとか。》
「いいじゃない、種なんかなくても。」
「また心を読んだな?」
「あのね、久能さんと私の力、二つ合わせれば土偶を見つけられるかもしれないわ。」
「どういうことだ?」
「久能さんの透視能力に、私の読心術を合体させるのよ。そうすればどうなるか?」
「どうなるんだ?」
「すごい地獄耳になるわ。」
「なんだそりゃ?」
「この埴輪を使うの。この中に久能さんと私、二人を吸い込ませる。
そうすれば私たちの力が合わさって、遠い場所の心の声まで聴こえるはずよ。」
自信満々に言う茂美。
それを聞いた由香里君は「いいですねそれ」と頷いた。
「目で捜すより、心の声で捜した方が見つかりやすいですよ。」
「でしょ?幸い埴輪の氷も溶けてきたし。」
そう言ってニコリと俺を見つめた。
「というわけで・・・・これを久能さんの胸にこう!」
埴輪を思いっきり俺の胸に突き刺す。
「ぐはあ!」
激痛が走る・・・・それと同時に俺は埴輪の中に吸い込まれた。
「今度は私。」
茂美は自分の胸にも突き刺す。
すると埴輪という身体を通じて、俺と茂美は一つになった。
『おお!なんか・・・アレだな。すごい体験というか、妙な感覚だ。』
『すぐに慣れるわ。』
『・・・・・・・・・。』
『久能さん?』
『今まで一晩共に過ごすと言いながら、いつもはぐらかされてばかりだった。
それが今日、こうして願いが叶うなんて・・・・、』
『ねえ由香里ちゃん、久能さんが私のお尻を触ってるわ。』
「はあ!?」
『あ、今度は胸を・・・・、』
「久能さん!!」
由香里君は鬼の形相で詰め寄る。
俺は『嘘を言うな!』と怒鳴った。
『どこも触ったりしてないだろう!』
『あれ?じゃあ私の勘違いかしら?』
「久能さん、こんな時にまでセクハラなんて・・・・、」
『待て待て!俺は何もしちゃいない!』
「ほんとに・・・・?」
『茂美の言うことなんか信じるな!』
「・・・・・・・・。」
なんとも疑わしそうな目で睨んでいる。
こうやって誤解されるのは、日頃の行いが悪いせいだろう。
だがしかし!今はコントをやっている場合ではない。
『茂美さん、頼むから冗談はやめてくれ。』
『ふふふ、からかい甲斐があるわあ。』
不敵に笑うこの女は、俺をいじめて楽しんでやがる。
・・・見ていろ、いつか本当に床を共にして・・・、
『あ、今度は太ももに・・・・、』
『OK悪かった。もう何も言わない。』
これ以上由香里君を怒らせるわけにはいかない。
すでに拳に血管が浮いているのだから。
『ええっと・・・俺と茂美さんの力で、土偶の声を捜せばいいわけだな?』
『そうよ。さあ、私の手を握って。』
『握るのか?』
『エロくない程度にね。』
『わ、分かった・・・・。』
言われた通り、エロくない程度に手を握る。
そして透視能力を発動させると、なんと遠くの声が聴こえるようになった。
《な、なんだこれは!?街の方からたくさんの人々の声が!!》
騒音激しい電車の中にいるような、耳を塞ぎたいほどのうるささに駆られる。
『うおおおお・・・・頭が痛い・・・・。』
『我慢して。どうにかして土偶の心の声を捜すの。』
『ぐうう・・・・長くはもたんな。』
遠くから聴こえる人々の声。
これは内なる心の声だ。
(あの姉ちゃん良い足してんなあ。)
(くっそあの女!よくもター君寝取りやがって・・・・絶対殺してやる!)
(あ、アカン・・・・うんこ漏れそう。)
(もう会社行きたくない・・・学生の頃に戻りたいよ・・・・。)
(死にたい・・・もう死にたい・・・・生まれてこない方がよかった。)
耳に響く人々の声、その多くはネガティブなものだ。
どれもこれもうんざりするほど暗い気持ちになってくる。
お姉ちゃんの良い足に見とれるのは共感できるが。
『茂美さん、あんたよくこんな声に耐えていたな。』
『ふふふ、もう嫌になったかしら?』
『予想はしていたさ、きっと明るい声なんて聴こえてこないって。でもこうまで暗い気持ちが耳に入るとな。気が滅入るよ。』
『そんなものよ、人間なんて。だけど今はそんなこと話してる場合じゃないわ。』
『ああ、とっとと土偶を見つけないと。』
早くこんな能力から解放されたい。
その為にはあの土偶を見つけるしかないのだ。
(いやあああ!助けて!!)
誰かの悲鳴が聴こえる。
その悲鳴はだんだんと増えていって、多くの叫びが耳を揺さぶった。
(なんだあれは!?)
(土偶だ!土偶が人を襲ってる!)
(きゃあああ!人形が・・・お店の人形が動き出した・・・・、)
(おい!マネキンが勝手に動いてるぞ!)
(いやあ!お地蔵さんまで動いている!)
(こっちは銅像が動いてるぞ!)
(ひいいいい!二宮金次郎が追いかけてくるうううう!!)
阿鼻叫喚とはこの事だ。
誰もが恐怖に怯えている。
その原因はもちろんあの土偶。
じっと耳を澄まし、奴の声が聴こえないか注意を払った。
すると阿鼻叫喚の中に、(グググ)と特徴的な笑いが混じっていた。
(恐れろ人間ども!この世界は私が支配するのだ!)
《あの野郎・・・・人を襲ってやがる!》
(貴様ら低俗な現代人は、人形の奴隷でちょうどいいくらいだ。)
悲鳴の数は増えていく。
俺は茂美から手を離し、元の透視能力に切り替えた。
すると・・・・・、
《な、なんてことだ・・・・。街中に人形が溢れている・・・・。》
土偶を中心として、大勢の人形が闊歩している。
マネキンから銅像からプラモデルまで、ありとあらゆる人形が群れをなしている。
そして手当たり次第に人間を襲って、土偶の前に連れていった。
土偶は目を光らせて、真っ赤なビームを放つ。
それを受けた人間たちは、洗脳されたように土偶に従った。
『クソ!なんてことをしやがるんだ!』
もはや透視している場合ではない。
すぐにでも助けに行かないと。
『茂美さん、街はえらいことになっているぞ。』
『分かってるわ、私にも阿鼻叫喚が聴こえたから。』
茂美も神妙な顔で頷く。
そして『埴輪から出ましょ』と、俺のケツを蹴飛ばした。
『ぐはあ!』
ドンと外へ投げ出され、顔面から突っ込む。
「久能さん!どうでしたか?見つかりました?」
心配そうな顔をする由香里君。
俺は「街は地獄さ」と答えた。
「そんな・・・・。」
「幸いこの山へ来る途中に、あの街は通ってる。瞬間移動ですぐに行けるはずだ。」
頭の中に街をイメージする。
《街へ行きたい・・・・あの街へ飛んでいきたい・・・・。》
山の麓に広がる街を、強くイメージする。
すると一秒もたたない間に街へと飛んでいった。
「これは・・・・・・。」
「ひどい・・・・・・。」
俺も由香里君も絶句する。
ここはまさに地獄だった。
『グググ、愚かな人間どもよ。人形たちの前にひれ伏すがいい。』
街は悲鳴とパニックで満たされていた。
土偶は次々に洗脳をかけていき、人間を奴隷化していく。
「なんて酷い・・・・。」
由香里君が歯を食いしばる。
「久能さん!すぐにあの土偶を捕まえましょう!」
そう言って駆け出すが、俺は走ることが出来なかった。
それどころか立っていることすら辛い・・・・・。
「どうしたんですか?顔色が悪いですよ。」
「・・・・どうやら超能力を使いすぎたようだ。」
「大丈夫ですか?」
「・・・ああ、なんとか・・・、」
「でも顔が真っ青ですよ。」
心配そうな由香里君。
すると茂美まで「重症ね」と言った。
「由香里ちゃんの胸に手が当たってるのに、息子さんが反応しないなんて・・・・これはもう・・・・、」
「やめてくれ!」
俺は首を振った。
「その先は言わないでくれ・・・・・。」
そう、分かっている。
これ以上超能力を使えば、俺は種無しになってしまう。
今のとろこ子供を作る予定はないが、それでも種無しになるのは嫌だ。
「久能さん・・・・。」
由香里君は物陰に俺を寝かせる。
「ここでじっとしてて下さい。私と茂美さんでなんとかしますから。」
「いや、俺だけ休んでるわけには・・・・、」
「何言ってるんです。無理して戦ったら命に関わりますよ。」
「だが君たち二人で勝てる相手では・・・・、」
「いいんです、久能さんが命を落とすより。」
「由香里君・・・・。」
健気に微笑むその顔が、グサリと心に突き刺さる。
するとその瞬間、俺たちの頭上に奴が飛んできた。
『グググ、こんな所まで追いかけてくるとは。』
ピカピカと目を光らせて、俺たちを威圧する。
『秘宝から抜け出して、ここまで来たことは褒めておこう。
だがしかし!それは更なる災いを呼ぶと知れ!』
土偶は大きな声で『ナアアアアアアア!!』と叫ぶ。
まるでサカリのついた猫みたいに。
するとその声を聞きつけた人形の群れが、俺たちを囲んだ。
いや、人形だけじゃない。
洗脳された人間までもが・・・・。
「いかん!逃げるんだ由香里君!!」
「久能さんを置いて逃げられません。」
「俺のことはいい。どうか君だけでも生き延びて・・・・、」
そう言いかける俺に向かって、由香里君は小さく首を振った。
「久能さんのいない世界を生きたって、意味なんてありません。」
こんな絶望的な状況なのに、その笑顔には曇り一つない。
なんとも素直な笑顔だった。
「・・・君は・・・まさか俺のことを・・・・、」
『ググ!私の目の前でイチャつくとはいい度胸だ。』
土偶はまた目を光らせる。
『その小娘、貴様の愛する者と見た。ならば私の手駒とし、お前にトドメを刺してやろう。』
土偶の目からビームが放たれる。
それは由香里君を包んで、彼女の意志を支配しようとした。
「ああああああああ!」
「由香里君!!」
俺は手を伸ばす。
しかし茂美が「無駄よ!」と止めた。
「離せ!由香里君を助けないと・・・・、」
「だから無理だってば。・・・・もう手遅れよ。」
茂美は冷たく言い放つ。
次の瞬間、由香里君の目が赤く染まった。
ゆっくりとこちらを振り向き、猛獣のように襲いかかってきた。
「死ね久能!」
「うおおおおお!」
由香里君のカカト落としが炸裂する。
咄嗟に茂美が引っ張ってくれたおかげで、どうにか直撃は免れた。
「由香里君!目を覚ますんだ!」
『ググ、無駄だ。その小娘の意志は私が支配している。もう貴様の味方ではない。』
「そんな・・・・なんてことだ!」
『人形たちよ、その男を押さえつけろ。』
周りを囲んでいた人形たちが、俺と茂美を拘束する。
「おい離せ!」
「ちょっと!胸を掴まないで!」
いくら抵抗して多勢に無勢。
そこへ由香里君が近づき、真っ赤な目で俺を睨んだ。
「久能・・・・殺す!」
「おいよせ!目を覚ますんだ!!」
必死に呼びかけるが、彼女の耳には届かない。
それどころか不敵に微笑んでいる。
「・・・・死ね!」
彼女の足が高く跳ね上がる。
渾身のカカト落としが目の前に迫る。
「由香里君!目を覚ましてくれええええ!!」
このままでは死ぬ・・・・。
あらん限りの声で叫んだとき、不思議なことが起きた。
なんと元気を無くしていた息子が、突然反り立ったのだ。
「な、なんだ・・・・息子が・・・股間が熱い・・・・。」
何が起きているのか分からない。
しかし何かが起きようとしていることは分かる。
股間が焼けるように熱い。
そして燃えるように疼く。
怒張した息子が、淡い光を放ち始めた。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第十七話 人形の街(1)

  • 2017.07.19 Wednesday
  • 09:25

JUGEMテーマ:自作小説
南極の地下に眠る古代都市。
俺たちはそこでムー大陸の女王と出会った。
見た目は幼いが、御年225万歳。
不思議な力の持ち主で、色々と手助けをしてくれた。
俺は今、彼女のおかげで偉大なパワーを手に入れた。
瞬間移動という新たな能力、それに加えて元々の超能力もパワーアップした。
これならばあの土偶が相手でも戦えるだろう。
南極の地表に出た俺たちは、熱い闘志を燃やした。
見渡す限り白銀の世界、凍てつく冷気が襲いかかるが、俺たちの闘志はそんなものに負けたりはしな・・・、
「寒い!」
由香里君が腕をさする。
茂美も「死ぬ!」と震えた。
そういえばこの二人は宇宙服を着ていない。
ここは極寒の南極。
残念ながら闘志だけで生きてける世界ではなかった。
「久能さん!早く瞬間移動して下さい!!」
由香里君が叫ぶ。
俺は頷き、人形塚をイメージした。
《あそこへ行きたい。俺たちを運んでくれ。》
そう念じると、凄まじい勢いで空に昇った。
そしてほんの一瞬で人形塚の近くまでやって来た。
「うおお・・・・本当に瞬間移動した。」
我ながら驚く。
この力があれば、大阪や東京のキャバクラにだって一瞬で行けるじゃないか!
乱用は禁物だと分かっているは、少しくらいならと息子が膨らむ。
「またエッチなこと考えてるんですか。」
由香里君が女王陛下のように冷たい目を向ける。
それを気持ちいいと感じる俺は、もはや病気なのかもしれない。
「まあなんだ。これからが本当の仕事になる。注意してかかるように。」
「偉そうに言わないで下さい。さっきまで危うく凍死するところだったんですから。」
そう言ってツンとそっぽを向く。
そして「茂美さん!」と彼女に駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
茂美は苦しそにうずくまっていた。
南極の冷気にやられてしまったのか?
「しっかりして下さい!」
由香里君は心配そうに揺さぶる。
俺も「病院へ行くか?」と尋ねた。
「今の俺には瞬間移動能力がある。辛いならすぐにでも病院へ・・・・・、」
「・・・・・ひどい。」
「え?」
「ひどいわこんなの・・・・・・。」
あの茂美が泣いている。
これはかなりの重症とみた。
「茂美さん、今すぐ病院に行こう。放っておいたら命に関わる・・・・・、」
「見てよコレ!せっかく写真を撮ったのに!」
泣きながらスマホを見せる。
それは真っ白に凍りついていた。
「これじゃ中のデータは壊れてるわ!せっかく本物の古代人を撮ったのに!」
茂美は大地に突っ伏し、「来月号があああああ!」と叫ぶ。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
由香里君と顔を見合わせる。
スマホはカチコチになっているのに、自分は何ともない茂美。
俺たちのように宇宙服や古代服を着ているわけでもないのに、どうして平気なのか?
いっそこいつ自身をネタにした方が、雑誌は売れるのではないか?
そもそもこいつ自身が宇宙人か古代人なのではないのか?
いや、もしかしたらUMAなのかも・・・・、
「私は人間よ。」
「うお!心を読まれた!」
「見て、埴輪が戻ってきたの。」
茂美の手の中には、あの埴輪が握られていた。
「いつの間に!?」
「気がついたら握ってたのよ。」
「ならティムティム女王を呼び出してくれないか?彼女が一緒なら心強い。」
「無理よ、魂はあの神殿にあるから。ここには宿ってないわ。」
「そうか、残念だ。」
「でもこれのおかげで心を読むことが出来るわ。」
「・・・・・・・・。」
「何よその目は?」
「それはあんたが一番持ってはいけない能力だと思ってな。」
「ふふふ、久能さんの心、丸見えよ。」
不敵なその笑顔は、悪魔の微笑み。
もはやこいつには逆らうまい。
「そうそう、その心意気。私が雇い主だってこと、忘れないようにね。」
「あんたの部下になった覚えはない。」
「土偶の捕獲は私の依頼よ。もし解決してくれたら、それなりの報酬を払うわ。」
「・・・・・・・。」
「ねえ由香里ちゃん、今久能さんがイヤらしいことを考えたわ。私と一晩共にできたらって・・・、」
「な、何を言う!」
由香里君の表情が曇る。
殺気の宿ったその目は猛禽類のようだ。
「だいたいそれは茂美さんから言い出したんだろう?もし依頼を解決できたら、一晩共にしてもいいと・・・・、」
「ね?イヤらしいこと考えてたでしょう?」
悪魔の微笑が魔王の悦に変わる。
由香里君は鬼神のようになってしまった。
「ち、違うぞ!茂美さんの言ってることはデタラメだ!」
「・・・・・・・。」
由香里君は無言で近づいてくる。
恐ろしい殺気を放ちながら。
「だから誤解だぞ!俺は決してそのような邪なことはだね・・・・、」
「てええりゃああああ!!」
「ひいいいいいい!!」
鬼神が迫ってくる。
俺は頭を抱えてしゃがんだ。
正拳突きか?それともカカト落としか?
どんな技が来るにせよ、相当な威力であることは間違いない。
しかし・・・・・、
「・・・・あれ?」
攻撃が来ない。
どうしたのかと顔を上げると、由香里君は俺の後ろに向かってキックを放っていた。
「な、何してるんだい・・・?」
「決まってるでしょ、借りを返したんです。」
そう言ってニコリと笑う。
「借りって・・・まさか!」
由香里君が蹴飛ばした方を振り向く。
するとその先に土偶が倒れていた。
「出やがったか!」
土偶は人形塚の傍に倒れている。
『ムググ・・・・』と唸り声を響かせて、『よくも!』と睨んだ。
『よくもこの私を蹴飛ばしてくれたな!人間の小娘の分際で!!』
「あんたこそ人形の分際で世界征服なんか企んで!そんなの叶うと思ってるの?」
『グググ・・・・言わせておけば。』
土偶の目が赤く光る。
かなりご立腹のようだ。
『後悔するぞ・・・・人間ども。』
「それはこっちのセリフ。今の私は南極の時とは違うわよ。」
由香里君は本気だ。
前のように油断してやられることはないだろう。
ないだろうけど、さすがにあの土偶と一騎打ちはまずい。
「土偶よ、俺も相手だ。」
『ググ。』
「パワーアップした俺の能力、受けてみるがいい!」
眉間に意識を集中させる。
使うは念動力。
土偶の傍にある大きな岩を、フワリと宙に浮かせた。
「潰れろ!!」
大きな岩を土偶めがけて飛ばす。
しかしアッサリとかわされてしまった。
『こんな攻撃を喰らうか!貴様らこそ潰してやる!!』
土偶はピカピカ目を光らせる。
すると遠い空からカボチャのUFOが飛んできた。
「おい!UFOは反則だぞ!」
『戦いに反則もクソもあるか!行けUFO!奴らを叩きのめせ!!』
カボチャの中から爺さんと婆さんが出てきて、「ファッキュウー!!」と中指を立てる。
「やばい・・・・。」
いくらなんでもUFOが相手では勝目はない。
そう思っていると、茂美が突然叫び出した。
「こうなったら来月号はUFO特集よ!もう一度中に乗って、くまなく調べてやるわ!!」
「乗るってどうやって?」
「埴輪と合体するのよ!」
茂美は胸に埴輪を突き刺す。
「おい!」
とうとう脳ミソがパンクしたか?
そう思ったが、次の瞬間には土偶に吸い込まれていた。
「さあ!思う存分調べてやるわ!何もかも丸裸にして、来月号の目玉にしてやる!」
闘志を燃やすかのように、真っ赤に輝く。
そして弾丸のごとくUFOに向かっていった。
爺さんと婆さんは慌てて入口を閉めようとするが、間一髪茂美の方が速かった。
「婆さん!変な人形が!」
「便所に流せ!」
UFOの中から怒号が響く。
なんだかよく分からんが、ここは茂美に任せよう。
『ググ・・・またしても邪魔を。』
UFOを封じられた土偶はさらに怒る。
『だがこの程度で終わると思うな!他にも仲間はいるぞ!』
土偶は人形塚を振り向いて、『であえ!であえええい!!』と叫んだ。
すると中から大量の人形が現れた。
マネキン、剥製、ぬいぐるみ、日本人形に西洋人形、プラモデルまでいる。
「そいつらは中で眠っていた人形たち!」
『こいつらには洗脳をかけてある。今は私の手駒だ。』
「クソ!すでに仲間を増やしていたか。」
人形の群れはジリジリと迫ってくる。
俺は古文書を掲げて、バリバリと稲妻を走らせた。
「お前らに恨みはない。恨みはないが・・・・黙ってやられるわけにはいかない。
悪いがこいつで焼き払わせてもらう。」
この人形たちは元々埴輪の味方。
それを倒すのは心苦しいが、ここは心を鬼にするべき場面だろう。
しかし・・・・、
「待って下さい。」
由香里君が前に出てくる。
「この人形たちは私に任せて下さい。」
「何?君一人でこの大群を相手にする気か?」
「だって稲妻を当てたら死んじゃうじゃないですか。」
「元々死んでるんだ。魂はもう失くなっていて、残留思念だけが残っている。」
「それでも稲妻で焼くのは可哀想です。だけど私なら手加減できる。」
ギュッと拳を構え、人形たちを睨みつける。
「痛い思いはするだろうけど、焼き払うよりかはマシですから。」
「由香里君・・・・本当に一人で平気か?」
「どうにかしてみせます。」
そう言って「土偶は任せますね」と頷いた。
「思いっきり蹴ってやったから、借りは返しました。」
「やり足りないって顔してるがな。」
「やり返すことだけ考えてると、復讐になっちゃうから。空手は暴力じゃないんです。」
さすがは由香里君、なんとも立派だ。
「分かった、ならそっちは任せる。」
「久能さんも気をつけて下さい。油断のならない相手ですから。」
人形たちはジリジリと迫ってきて、周りを囲んでいく。
すると由香里君、完全に囲まれる前に「てえええりゃあああ!」と飛びかかった。
得意の回し蹴りが炸裂する。
しかしその蹴りは普通の蹴りではなかった。
まるで竜巻旋風脚のように、グルグルと回りながら敵を蹴散らした。
いくら彼女が強いとはいえ、これは異常だ。
きっとティムティム女王からもらった古代服のせいだろう。
宇宙服ほどではないにしろ、それなりにパワーアップするようだ。
「これなら心配ないな。」
人形たちは彼女に任せ、土偶と向き合う。
「残念だったな。UFOも人形も封じられたぞ?」
『グググ・・・・人間め。だがこの程度で諦める私ではない!』
土偶はピカピカと目を光らせる。
と、次の瞬間、突然眉間に痛みが走った。
《これは・・・予知能力か!?》
未来予知は自分の意志とは関係なしに発動する。
多くの場合、危険が迫った時だ。
そして今、俺の足元から危険が迫っていた。
本来なら一秒先の未来しか見えないが、今の俺はパワーアップしている。
一秒よりも遥か先の未来が浮かんで、慌てて飛び退いた。
すると予知通り、さっきまで立っていた場所からある物体が現れた。
それは便器だった。
真っ白に磨かれた、洋式タイプの便器。
土偶は便器の上に乗って、『グググ』と笑った。
『これこそは古代アトランティスの秘宝なり!』
「その便器が・・・?』
『これをこうして被るのだ。』
「装着品なのか・・・・。」
頭から便器を被る土偶。
被るといっても土偶は手のひらサイズなので、便器の中にすっぽり隠れてしまった。
しかしこれはこれで恐ろしい。
姿が見えないということは、何を仕掛けてくるか分からないということ。
俺は硬く身構えた。
『グググ・・・私にこれを使わせたこと、後悔するぞ。』
《くッ・・・・この秘宝は命を削ると言っていたな。
そこまでのリスクを背負ってまで使う物だ、きっと凄まじいパワーを秘めているに違いない。》
果たして俺の力だけで勝てるだろうか?
いささか不安になってくる。
するとその瞬間、便器の中から水が溢れてきた。
「な、なんだ!?」
溢れる水は洪水のようで、辺りを濡らしていく。
最後はジャーっと水を流す音が聴こえて、『ふう』とため息が漏れた。
そして・・・・・、
『グググググ・・・・どうだ!』
便器の中から土偶が出てくる。
なぜかやたらとスリムになっていた。
顔はそのままなのに、スタイルだけが良くなっているという、なんともアンバランスな体型だ。
そうだな・・・・例えるならサザエさんの顔に、峰不二子のボディとでも言おうか。
『おいどうだ!』
「どうだと言われても・・・・なんとも答えようが・・・・、」
『1000年分の便秘を今解消した。スリムになっただろう?』
「べ、便秘?」
『私は体内の構造上、どうしてもお通じが悪くなるのだ。』
「そ、そうか・・・。コーラックでも飲んだらどうだ?」
『それもアリだが、私のお通じは特殊でな。
ある程度体内に貯めておかないと、肛門からエネルギーが漏れてしまうのだ。そうなれば命に関わる。』
そう言って頭のてっぺんからオナラを吹き出した。
《そこに肛門があるのか・・・。まるでニコちゃん大王だな。》
なんとも特殊な構造である。
ケツが頭頂部にあるのなら、そりゃあ便秘にもなるだろう。
重力という物理法則が、便を掴んで離さないだろうから。
ていうかそれが理由で便器を頭から被っていたのか。
「お前がお通じに悩まされる体質であることは分かった。だが便を解消したからどうだというんだ?」
『グググ、体内の循環が良くなって、何倍にもパワーアップするのだ。』
「パワーアップだと!」
『普段はエネルギーが漏れるから、循環が悪くなっても便意を我慢する必要がある。』
「身体に悪いぞ。」
『そして1000年分の便を受け止めるには、普通の便器ではダメだ。
古代アトランティスの便器でなければ受け止めきれな・・・・、』
「細かい解説はいい。色々と想像してしまうからな。」
『今の私は体内の循環が良くなり、身体の隅々までエネルギーが駆け巡っている。
もう貴様に勝目はないぞ。グググググ!』
なんてことだ・・・・お通じを解消してパワーアップするだなんて。
しかも古代の秘宝が、便を受け止める為だけにあるなんて。
やはりこいつに常識は通用しない。
・・・だがしかし!弱点もある。
お通じが良くなった後は、頭上の肛門からエネルギーが漏れるらしい。
ということは、そう長くは戦えないはずだ。
長期戦に持ち込めば、こちらにも充分な勝機が・・・・、
『ない!』
「なに?」
『私のエネルギー切れを狙っているのだろう?』
「まさかお前も心が読めるのか!?」
『読心術は使えない。だがお前の顔を見れば、だいたいの想像はつく。』
「なるほど、自分でちゃんと弱点を理解してるってわけか。」
『当然だ。伊達に長く土偶をやっていない。』
表情から心を読むのと、土偶を長くやることに何の因果関係があるのか分からないが、とにかくこちらの考えは筒抜けということらしい。
『今の私は強いぞ。長期戦に持ち込むなどまず無理と知れ!そして死ね!』
土偶はドリルのように回転する。
そして・・・・、
《また未来予知が!》
眉間に痛みが走り、土偶の攻撃が見えた。
俺はサっとしゃがんで頭を抱えた。
その瞬間、頭上一センチのところを土偶が飛んでいった。
そのスピードは尋常ではなく、音速を超えた時に起きる現象、ソニックブームが放たれた。
「うおおおおおお!」
凄まじい爆音、そして衝撃波。
俺は高く吹き飛ばされた。
『グググ、空中ではかわせないだろう?』
そう言ってまたドリルのように突っ込んできた。
《まずい!直撃したら終わりだ!》
慌てて念動力を使う。
眉間に意識を集中させて、土偶の軌道を変えさせた。
そのおかげで右に逸れていき、地面に突っ込んだ。
地面が揺れ、もうもうと土煙があがる。
『ググ・・・超能力か!!』
あれだけのスピードで激突したのに、かすり傷すら負っていない。
俺の背中に冷や汗が流れた。
《なんてパワーとタフネスだ。まともにやり合っても勝てない。》
こんな強敵を相手に、いったいどう戦えばいいのか?
「俺は勝てるのか?この恐ろしい人形に。」
『グググ、無駄なあがきはやめることだ。絶望が広がるだけだぞ!』
ピカリと目を光らせて、また突っ込んでくる。
「うおおおおお!」
どうにかかわしたが、またソニックブームの衝撃を食らってしまった。
「ぐはあ!」
『グググググ!もはや勝負は決したな。』
高らかに笑う土偶。
俺は大地に横たわった。
この土偶はあまりに強い。
パワーアップした超能力でさえ通用しない。
果たして俺はどうなってしまうのか?
便所から流れ出た水が、じんわりと宇宙服に染み込んでいった。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第十六話 氷の中の古代人(2)

  • 2017.07.18 Tuesday
  • 08:18

JUGEMテーマ:自作小説

どんな時代にも流行はある。
お歯黒だったりボンタンだったり、山姥みたいなガングロだったり。
俺の青春時代はヤンキーが流行っていた。
そして今はというと、『萌え』が流行りになっている。
本来はアンダーグラウンドだったオタク文化が、何を血迷ったか地表に溢れてきた。
その影響か、元素や戦艦まで美少女になる始末。
今や萌えに敵う流行などないのだ。
どんなに高尚なことを語ろうとも、どんなに人生の意義について考察しようとも、そんなものは次の一言で一蹴されてしまう。
『可愛いは正義』
老人でさえ『アリスリローテッド』にハマる時代なので、どこもかしこも萌えに支配されてしまっているのだ。
それは古代都市も同じようで、ここにも萌え化の波が押し寄せていた。
今、宙に美少女が浮かんでいる。
気の強そうな目、ツインテールの黒髪、顔や腕には紋章のような彫り物が入っている。
そして卑弥呼とクレオパトラを足して二で割ったような服を着ていた。
手にはエジプト王みたいな杖を持っていて、なんとも神々しいオーラを放っていた。
この美少女の正体は人形。
古代ムー大陸で作られた埴輪だ。
俺と由香里君が敵に囲まれ、ピンチになった瞬間、まさかの美少女へと変身した。
《古代都市にも萌えが広がっていたとはなあ。》
俺の知らない間に、ここまでワールドワイドな文化になっていたとは。
萌えの力恐るべしである。
『萌えじゃないだしょ。』
美少女が口を開く。
俺は彼女を見上げたまま固まった。
「心が・・・読めるのか?」
『わらわは26代目ムー大陸の女王、ティムティムだしょ。』
「ティムティム・・・・・。なんというか・・・けっこう微妙な名前で・・・・、」
『言っとくけどチンチンの変化系じゃないだしょ。』
「え?」
『今こう思っただしょ?チンチン・・・チンティン・・・・ティンティン・・・ティンティム・・・・ティムティムって。』
「やはり心が読めるのか・・・・。」
『天罰!!』
「あぎゃあ!」
杖から雷を落とされる。
由香里君まで感電して、「ぴぎゃッ!」と跳ね起きた。
「な、な、なんですか!!」
「おお、目が覚めたか。」
「すっごいビリっとしましたけど・・・・何かあったんですか?」
「ああ、埴輪がチンチン女王に変身して・・・・、」
『天罰!!』
「ぐぎゃあッ!」
「ぎゅふうッ!」
二人して倒れる。
一瞬だけ髪の毛がアフロになった。
「な・・・なんなんですかさっきから・・・・、」
「分からん・・・・埴輪がいきなり萌え化したんだ・・・・。」
「萌え・・・・?」
「美少女に変わったのさ。」
「またそんな妄想を・・・・・、」
「上を見るがいいさ。女王陛下がお怒りだ。」
由香里君は立ち上がり、頭上を睨む。
「なんですかあの子・・・・なんか宙に浮いてますけど・・・・。」
「だから分からん。」
「ていうか今日平日ですよね?学校はどうしたんだろう?」
真面目な顔で言う由香里君。
この子もなかなかズレている。
『そこの女子。』
ビシっと杖を向けるティムティム女王。
由香里君は「私?」と指差した。
『ハレンチだしょ。』
「ハレンチって・・・何が?」
『すっぽんぽんなんて恥ずかしいだしょ。』
「す、すっぽん・・・・、」
由香里君は自分の身体を見る。
目を見開き、一瞬で茹でダコみたいに赤くなった。
「きゃあああああ!なんで!?」
慌てて背中を向ける。
俺は「覚えてないのかい?」と尋ねた。
「さっき目を開けた時に説明しただろう?君はペンギンどもに裸にされて・・・・、」
「見ないで下さい!」
「あおふッ!!」
「ていうか久能さんがやったんでしょ?」
「ち、違う!俺は君を守ろうとしたんだぞ!」
「・・・・・・・・・。」
「ほんとだ!君を無理矢理すっぽんぽんになんかしたら、俺は棺桶に入ることになる。それくらい分かってるさ。」
「・・・・それもそうですね。」
渋々ではあるが頷いてくれた。
するとティムティム女王が『仕方ないだしょなあ』と言った。
『すっぽんぽんなんてハレンチだしょ。これはサービスだしょ。』
杖を掲げ、チョイと振る。
「おお!」
「すごい・・・・。」
由香里君はすっぽんぽんではなくなった。
卑弥呼とクレオパトラを足して2を掛けたような服装に変わった。
しかも膝上のミニだ。
これはこれでたまらん!
「どうですか久能さん、似合ってます?」
嬉しそうに回る由香里君。
俺は息子を反り立てた。
「そういうリアクションはいらないです。」
「最高級の褒め言葉さ。」
「最低のボディランゲージです。」
ツンとそっぽを向く由香里君。
するとそこへ茂美がやって来た。
「なんだかよく分からないけど、助かったみたいね。」
「ああ、まさか埴輪が萌え化するなんてなあ。」
『だから萌えじゃないだしょ!』
ティムティム女王は俺たちの前に下りてくる。
見た目は幼いが、女王を名乗るだけあって、威厳のある顔つきをしていた。
『わらわは子供じゃないだしょ。』
「え?どう見ても中学生くらいにしか・・・・、」
『これでも225万歳だしょ。』
「・・・・それはツッコんだ方がいいのかな?」
『ボケたわけじゃないだしょ。』
ポコンと杖で叩かれる。
『わらわは古代ムー大陸の女王なんだしょ。そしてここにいるペンギンたちは、古代人の生き残りなんだしょ。』
「生き残り?このモフモフした生物が?」
『見た目はペンギンでも、中身は古代人なんだしょ。』
「なら古代人らしくすればいいじゃないか。どうしてペンギンの振りを?」
『ここは南極だしょ。だから寒さに対応する為に、ペンギンの姿を借りてるんだしょ。』
「なるほど、天然の毛皮を着込んでるってわけか。」
『だしょ。』
「でもそれなら服を着ればいいじゃないか。わざわざペンギンにならなくても・・・・、」
『うるさいだしょ!可愛いからいいんだしょ!』
またポコンと叩かれる。
どうやらペンギンが可愛いから、下々の者たちにその姿を強要しているようだ。
なんともワガママなお姫様だ。
『違うだしょ!寒さに対応する為だしょ!』
「はいはい、そういうことにしておくよ。」
『女王の頭を撫でるなだしょ!』
225万歳なんて抜かしているが、中身はまるっきり子供だ。
しかしこの子のおかげで助かったのは事実。
俺は礼を言った。
「女王陛下、あなたのおかげで命拾いしました。なんと感謝すればいいか。」
『分かればいいんだしょ。』
今度は偉そうにふんぞり返っている。
しょうもないことを考えると心を読まれてしまうので、なるべく無心を心がけた。
「あの・・・・、」
由香里君が手を上げる。
『なんだしょ?』
「まずは助けてくれてありがとう。」
『わらわを敬うがいいだしょ。』
ふんぞり返る女王陛下。分かりやすい性格をしている。
『誰が単細胞だしょ。』
「痛・・・・そこまで思ってないぞ。」
『悪意を感じたでしょ。』
「はいはい、無心に徹しますよ。」
また心を読まれる。
なんともやりづらい相手だ。
でも心が読めるのは当たり前か。
マネキンに宿っていた茂美は、読心術を持っていた。
その能力は埴輪から来ていたものなのだろう。
『無心になるんじゃなかっただしょか?』
「気をつけるさ。」
『お前の頭の中、イヤらしいことで一杯だしょ。不潔だしょ。』
「子供に言われると恥ずかしいな。」
『だから子供じゃないだしょ!』
また叩かれる。
全然話が進まなくて、由香里君は「久能さん!」と怒った。
「話の腰を折らないで下さい。」
「別にそんなつもりはないさ。ただその子が俺の心の読むからだな・・・・、」
「邪なことばっかり考えてるからそうなるんです。ちょっとあっちへ行ってて下さい。」
そう言って俺の背中を押しやる。
「ええっと・・・ティムティム女王でしたよね?」
『だしょ。』
「尋ねたいことがあるんです。どうして私はこんな所へ連れて来られて・・・・・、」
『生贄にする為だしょ。』
「やっぱりそうなんですか。じゃあなんで・・・・、」
『あの泥人形に命を吹き込む為だしょ。』
「どうしてそんなことを・・・・、」
『いちいち質問しなくていいだしょ。』
「え?」
『心の中が読めると言っただしょ?』
「ああ、はい・・・。」
由香里君は困った顔でうろたえる。
「ほらね、心を読まれるとやりづらいだろう?」
「久能さんはそっちにいて下さい。また話が進まなくなるから。」
「へいへい。」
どうやら俺は不要らしい。
まあ質問しなくても答えてくれるそうなので、黙って聞いていればいいだけだ。
無駄な労力は省けるわけで、その分由香里君のコスプレでも堪能しよう。
『その男、お前のことをイヤらしい目で見てるだしょ。』
俺に杖を向ける女王陛下。
由香里君は「お気になさらず」と言った。
「いつものことですから。」
『だしょか。きっと毎日苦労してるんだしょな、その男のせいで。』
「ええ、とっても。」
ニコリと微笑むその笑顔、殺気が誤魔化しきれていない。
『ではお前たちの疑問に答える。まず一つ目、ここはどういう場所か知りたいのだしょ?』
「はい。南極の下にこんな都市があるなんて信じられません。」
『だしょうな。ここは古代人の生き残りが集う場所。主にムー大陸とアトランティスの末裔が住んでるんだしょ。
どちらの大陸も、地殻変動とか戦争とか、それに火山の噴火とかなんとか、色んなことがあって沈んでしまっただしょ。
僅かに生き残った古代人たちは、新天地を求めて世界を彷徨っただしょ。
そして彷徨い続けてるうちに、新たな人類が誕生してきたんだしょ。』
「新たな人類?」
『現代人の祖先だしょ。彼らは長い時間をかけて、だんだんと今の人間の姿に変わっていっただしょ。
そして文明を持ち、自分たちの世界を創り上げていったんだしょ。』
「へええ、面白い。ずっと聞いてたいです、その話。」
『話として聞く分には面白いかもしれないだしょが、わらわたち古代人にとっては大変なことだったんだしょ。』
「どうしてですか?」
『古代人と現代人では、価値観も生き方も違いすぎるんだしょ。
下手に関わると、大きな争いになりかねないんだしょ。』
「そういうものなんですか?私なら仲良くしたいと思うけど。」
『もちろんわらわだってそう思っただしょ。
だけど現実は酷なもので、異なる種族の共存は難しいだしょ。
それこそお互いに文明を持った者同士だと、最悪は戦争ということもあるだしょからね。』
「う〜ん・・・色々と難しいんですね。」
『わらわは古代人を導く女王だから、色々と考えねばならんのだしょ。平民のお前には分からん苦労だしょ。』
「すいません・・・。それで現代人が出てきた後はどうしたんですか?」
『とにかく現代人に見つからないようにする必要があっただしょ。
だからここに街を作り、ひっそりと暮らしているわけだしょ。』
「つまり古代人の隠れ家ってことですね?」
『だしょ。幸い大きな争いもなく、みんな平和に暮らしてきただしょ。つい最近までは。』
「どういうことだしょ?」
《由香里君・・・・語尾がうつってるぞ。》
女王陛下がジロっと睨む。
俺は肩を竦めながら、口にチャックをした。
『実は南極大陸の下にある海底火山が、にわかにアクティブになってきてるだしょ。
それに加えて地球温暖化のせいで、古代都市の周りの氷が弱くなってるんだしょ。
最近では地表から本物のペンギンまで落ちてくる始末。もうここには住めないだしょ。』
「それは大変だしょ。どこかにお引越ししないと。」
『そうなんだしょが、それは難しいだしょ。』
「どうしてだしょ?」
『だってこれほどの大都市を隠せる場所となると、南極以外に考えれないだしょ。
現代人の文明もにわかに進んできてるから、他の場所だとすぐに見つかってしまうだしょ。』
「なるほど・・・・。」
『それにわらわはペンギンが好きだから、にわかにここを離れたくないだしょ。』
「私もペンギンが好きだから、その気持ちは分かるだしょ。」
『あ、ちなみにここに住んでるペンギン型の古代人は、ペンゲンという名前だしょ。
長い時間をかけて、古代人は一つの種族へと変化したんだしょ。』
「ペンギンと人間、だからペンゲン?」
『だしょ。』
《とんだ親父ギャグだな。》
『そこ、うるさいだしょ。』
「痛ッ!」
ちょっと愚痴っただけじゃないか、なんてめざといガキだ。
『このままだと古代都市は滅びるだしょ。だけどお引越しも難しいだしょ。
となればやることは一つ!守り神を作ることだしょ!』
「守り・・・・、」
「神・・・・・?」
由香里君と顔を見合わせる。
「それってまさか・・・・、」
「さっきの泥人形?」
『だしょ。あれに人間の魂を入れて、新たな人形神を作るんだしょ。
そうすれば偉大かつ広大なパワーを発揮して、ここを守ってくれるだしょ。』
「ふうむ・・・なるほどなあ。偉大かつ広大なパワーで。それなら君がやればいいんじゃないか?
なんたって古代ムー大陸の女王なんだろ?実際に強そうだし。」
『出来ればやってるだしょ。でも残念ながら無理だしょ。』
「どうして?」
『わらわは一度死んでるだしょ。土偶との戦いで。』
「そういえば茂美さんが言っていたな。魂が消滅したって。」
『かつてわらわはこの埴輪を作り、中に自分の魂を閉じ込めたんだしょ。
人形神となり、この古代都市を守る為に。
だけど土偶との戦いで消え去ってしまったんだしょ。
それを悲しんだここの住人たちが、復活の儀式を用いて、どうにかこうにか魂を呼び戻したわけだしょ。』
「ほう、となると生き返ったわけか?」
『生き返りはしないだしょ。ただ魂だけがこの神殿にあるんだしょ。』
「半分幽霊みたいなもんか?」
『だしょ。わらわはすでにお亡くなりになっているので、再び人形神になることは無理なんだしょ。』
「ふうむ、人形の世界も複雑だな。」
『人形神のいなくなった今、古代都市を守る力はなくなってしまっただしょ。
そう遠くない未来、ここは海底火山の影響で沈んでしまうだしょ。だから・・・・、』
「由香里君をさらったと?」
『そのお嬢さんはなかなかいい魂を持ってるだしょ。純粋で健全で、それでいて逞しくて強いだしょ。
お前みたいに煩悩に汚れ切った者とは違うだしょ。』
「自覚してるさ。でも由香里君を渡すわけにはいかない。生贄にするのは諦めてくれ。」
ティムティム女王は『やっぱり無理だしょか』と残念そうにする。
『人形神になれば、毎日ペンギンと触れ合えるんだしょがねえ。』
そう言ってチラチラ由香里君を見る。
すると彼女は「それはいいだしょね」と微笑んだ。
「私も毎日ペンギンをモフモフしたいだしょ。」
『だしょ〜?』
「でも残念ながらそれは出来ないだしょ。だって卒業したら久能探偵事務所に就職するだしょから。」
『そんな煩悩マンよりも、ペンギンパラダイスの方がいいだしょよ。』
「でも私がいないと、煩悩マンは寂しくて死んでしまうかもしれないだしょ。見捨てるのは可哀想だしょ。」
「由香里君、君も散々に言ってくれるな。」
「なんたってウサギなみの寂しがり屋だしょ。だから傍にいてあげないと心配なんだしょ。」
そう言ってニヤニヤと俺を見つめた。
「というわけで、お人形さんになるのは無理だしょ。」
『どうしてもだしょか?』
「どうしてもだしょ。」
しょんぼりするティムティム女王。
一国の運命が掛かっているのだから、落ち込むのも無理はないだろう。
「女王陛下、俺に妙案がある。」
『なんだしょ・・・・・?』
「あそこで興味深そうにペンゲンの写メを撮ってるオカルト編集長がいるだろう?よければあれを生贄に捧げて・・・・、」
『あんなもん生贄に捧げたら、人形が腹を壊すだしょ。』
即行で拒否する女王。
茂美は人形からも敬遠される存在のようだ。
『このままではここは滅ぶだしょ。やっぱりお引越ししかないだしょかねえ・・・・。』
この世の終わりみたいな顔で落ち込んでいる。
『地表から楽に入れるようになったせいで、土偶まで侵入してくるし・・・・、』
「おお!それだそれ!」
俺はポンと手を打った。
「あいつはなんでここに来てたんだ?」
『決まってるだしょ、ここを侵略して、ペンゲンたちを従わせるつもりだったんだしょ。そうすれば手下が増えるから。』
「世界征服の足掛かりにする為か。」
『あいつは欲深い奴だしょ。今でも世界の覇権を諦めてないんだしょ。
この世を人形の世界に変えて、人間たちを奴隷にするつもりなんだしょ。』
「恐ろしいな・・・・。奴の行先に心当たりはないか?」
『おそらく人形塚に行ったんだと思うだしょ。あそこにはまだ秘密があるから。』
「ほう、どんな?」
『あそこには古代アトランティスの秘宝が眠ってるんだしょ。それを使えばパワーアップ出来るだしょ。
でも命を削るリスクもあるから、今まで使わなかったんだしょ。』
「命を削る秘宝か・・・・。そんな危険な物を使おうとしてるってことは、けっこう追い詰められているんだな?」
『大昔のわらわとの戦いで、大した力は残ってないんだしょ。でも今はUFOを手に入れたから、どうなるか分からんだしょ。
そのうえ古代アトランティスの秘宝まで使われたら、もう打つ手がないかも・・・。』
「OK分かった。この超能力探偵、久能司が一肌脱ごうじゃないか。なあ由香里君?」
「はい!私だって借りを返さないと気が済みませんから。」
やるべきことは決まった。
これから人形塚に向かい、土偶の企みを阻止する。
しかし南極から出る手段がない。
《参ったな・・・・。》
ボリボリと頭を掻いていると、『心配しなくていいだしょ』と言われた。
『お前は超能力探偵なんだしょ?』
「ああ。今までに解決してきた事件は数限りなし。FBIからモサドまで、みんなが俺を頼る始末さ。」
『UFOとかザリガニとか、そんなもんばっか探してたんだしょ。可哀想に。』
「・・・・人の心を読むのはためて頂きたい。」
心が丸裸にされるというのは、なんとも恥ずかしい。
これならまだ全裸になった方が・・・・、
『脱がなくていいだしょ。』
「え?ああ・・・・すまない。」
『今からお前にパワーを与えるだしょ。』
「パワー?」
『一時的に超能力をパワーアップさせるだしょ。そうすれば南極から出られるだしょ。』
「それって・・・まさか・・・・、」
『瞬間移動を使えるようにしてあげるだしょ。』
「本当か!?」
『でも多用は禁物だしょ。ものすごい負担がかかるから、下手したら100歳くらい老けちゃうだしょ。』
「OK平気さ。超能力を乱用するほど馬鹿じゃない。」
『それと元々持ってる超能力もパワーアップさせてあげるだしょ。』
「それはありがたい。あんな土偶と戦うには、それなりの武器が必要だ。」
『念動力、透視能力、未来予知。全てパワーアップするだしょ。もちろんだけどこっちも乱用は禁物だしょ。』
「馬の耳に念仏さ。」
『最悪は精力が尽き果てて、種無しになるから気をつけるだしょ。』
「分かってるって。やってくれ。」
俺はガバっと手を広げる。
ティムティム女王は杖を掲げ、『だしょ〜!』と念力を送った。
「お・・・おおおお・・・・身体が熱い・・・・。パワーが漲ってくる・・・・。」
胸が熱い・・・・脳が熱い・・・・そして息子も熱い・・・・。
『そこにパワーを送った覚えはないだしょ・・・・。』
呆れ気味に言われてもなお、あそこは天に向かってそびえ立っていく。
『誰かモザイクかけてほしいだしょ・・・・。』
「ごめんなさい、悪気はないんです。ただこういう体質なもので・・・・、」
俺に代わって由香里君が頭を下げる。
ジロっと睨まれ、「いい加減にして下さい」と怒られてしまった。
『もう充分だしょ。これ以上は身体に悪いし、汚いモノも見たくないし。』
蔑むような目で睨まるが、それはそれで快感だと思う俺は、やはりくる所まできているのだろう。
「女王陛下、この久能司が必ずや土偶を捕まえてみせます。」
『よ、寄るなだしょ!』
「大船に乗ったつもりで待っていて下さい。」
『分かったら寄るなだしょ!握手とかいいから!』
本気で嫌がるティムティム女王。
後ろから由香里君に叩かれてしまった。
「それじゃティムティム女王、私たちは土偶を捕まえに行ってきます。」
『頼んだだしょ。』
由香里君には笑顔で応えるクセに、俺には冷たい目が向けられる。
どうやら嫌われてしまったようだ。
「じゃあ久能さん、人形塚まで瞬間移動しましょ。」
「ああ。・・・・って言っても、どうやったらいいんだ?」
『頭の中にイメージするだしょ。一度行ったことのある場所なら、一瞬で飛んでいけるだしょ。』
「なるほど、ルーラみたいなものか。」
『だしょ。だから建物や洞窟の中で使ったらえらいことに・・・・、』
ティムティム女王が言い終える前に、俺は瞬間移動を使ってしまった。
すると一瞬で宙に飛び上がり、天井にぶつかった。
「ぐはあ!」
頭蓋骨が割れそうな衝撃が走る・・・・・。
地面へ落下して、また頭を打った。
「ごはあッ!」
『・・・・馬鹿だしょか?』
また冷たい目が向けられる。
由香里君は「すいません・・・」と苦笑いした。
『街の外れから外に出られるだしょ。そこから瞬間移動を使うといいだしょ。』
「はい!色々ありがとうございました。」
ペコっと頭を下げて、「ほら行きますよ」と首根っこを引きずられた。
「茂美さんも。日本へ帰りますよ。」
「うふふ・・・本物の古代人の写真。来月号は売れるわあ。」
スマホの写真を見つめながらウットリする茂美。
こんな状況でも雑誌の売上を気にするとは、編集者の鑑だ。
俺たちは街の外れへ向かっていく。
そこには長い梯子があって、天を突くように地表へ伸びていた。
「由香里君、先に行きたまえ。」
「久能さんが先にどうぞ。」
「いやいや、君が先に・・・・、」
「覗くのが目的だってバレバレの顔してます。」
そう言って膝上の丈を押さえる。
顔は笑っているが、殺気は鋭い。
仕方ないなと諦めて、長い梯子に手を掛けた。
えっちらおっちらと上っていくと、遠くにティムティム女王の影が見えた。
手を振りながら『頑張るだしょよ〜!』とエールを送ってくれた。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第十五話 氷の中の古代人(1)

  • 2017.07.17 Monday
  • 09:28

JUGEMテーマ:自作小説
人生というのは何があるか分からない。
階段から落ちて死ぬこともあれば、拾った宝くじで億万長者になることもある。
一寸先は闇なのが人生。
それは分かっているが、まさか南極で遭難することになるとは思わなかった。
UFOに乗り、土偶を追いかけ、なんやかんやあっての現在。
見渡す限り白銀の世界で、日本へ帰る手段はない。
こうなってはもう現実逃避するのに限る。
《そういえばあの女優脱いだんだよなあ。》
先月見たエロ本を思い出し、スリスリと息子を撫でた。
「何やってんですか?」
由香里君にポコっと頭を叩かれる。
「何って夢の世界に浸っていたのさ。」
「どうせエッチなことでも考えてたんでしょう?」
そう言って恥ずかしげに俺の下半身をチラ見する。
「そう恥ずかしがるな。見たいなら堂々と・・・・、」
「いりません!」
また叩かれる。
「そう怒るなよ。事態は最悪だが、イラついても解決しないぞ。」
「だからってエッチな妄想してる場合ですか?
幸いこの宇宙服のおかげで命の危険はないけど、このままじゃ土偶を捕まえられえませんよ。」
ムスっとしながら「ああ悔しい!」と叫ぶ。
「私たち何にも出来なかった。いいようにあしらわれて、最後は置き去りなんて。
絶対に・・・・ぜえええええったいに捕まえてやる!」
空に向かって叫ぶ由香里君。
本当にこのこの子の闘志は凄まじい。
「確かに君の言う通りだ。追い詰めたと思ったら、逆にこっちが追い詰められてしまった。
土偶だからって、ちょっと舐めすぎだったかもしれないな。」
「私も反省してるんです。もっと慎重になればよかったって。
感情的になって飛びかかって、あっさり負けちゃうなんて・・・・あああ悔しい!」
「うむ。君の闘志は南極より熱いようだな。」
「感心してないで、これからどうしたらいいか考えて下さい。でないとここから出ることも出来ない。」
「同感さ。」
白銀の世界を見渡しながら、俺は一つの疑問を抱いていた。
「あの土偶はなんでこんな場所にいたんだろうな?」
「それ、私も気になってたんです。」
「奴は世界征服を企んでいる。だったら人のいない僻地になんて用はないはずなのに。」
「何か秘密があるんですかね?」
「そう考えるのが妥当だな。」
「この南極に、世界征服する為の秘密が眠ってるんですよ、きっと。なんだと思います?」
「分からない。」
そう、分からない。
だってここには何もないのだから。
あるのは氷と寒さだけ。
あとは遠くに歩く皇帝ペンギンの群れだけだ。
「由香里君、見たまえ。こんな寒い場所でも命が根付いているよ。」
そう言って指をさすと「皇帝ペンギン!」とはしゃいだ。
「可愛いですねえ、ヒョコヒョコ歩いて。」
「そうか?あれだけデカイと可愛いとは思えないんだが。」
「世界で一番大きなペンギンですからね。一メートルくらいあるらしいですよ。」
「ほう、どうりでデカイわけだ。」
「赤ちゃんがまた可愛いんですよ!灰色の羽毛に包まれてて、しかもモフモフしてるんです。」
「詳しいな。君がペンギン博士だとは知らなかったよ。」
「私、もうちょっと近くで見てきます。」
「あ、おい・・・・・、」
由香里君は嬉しそうに駆け出していく。
「戻るんだ!何があるか分からないぞ。」
「でもこんなチャンス滅多にないですよ!間近で野生の皇帝ペンギンを見られるなんて。」
どうやらまた童心にかえってしまったようだ。
「やれやれ」と頭を掻きながら、ペンギンに吸い寄せられていく由香里君を見つめた。
「まあこの宇宙服があるから大丈夫か。滅多なことじゃ危険はないだろう。」
寒ささえ防げるのなら、南極にはこれといった危険はないはずだ。
だってどこを見ても氷だらけなのだから。
「なあ茂美さん。」
俺は後ろを振り返る。
彼女は埴輪の光で暖を取っていた。
「久能さん、これ便利よ。まるで簡易ストーブ。」
「あんたは宇宙服を着てないからな。その埴輪から離れたら即死だな。」
「そうなのよ。だから私はここにいる。久能さんどうにかしてちょうだい。」
あっけらかんと言う態度にイラっとくる。
「あのな、元はといえばあんたが原因なんだぞ。土偶を封印していた古文書さえ取ったりしなければ、こんな事にはならなかった。」
「そうねえ、一寸先は闇ね。」
「反省してるのか?」
「反省はしない主義なの。いつだって前を見てるからね。」「
「無責任の間違いじゃないのか?」
顔をしかめて皮肉を飛ばすが、まったく効いちゃいない。
妖艶な微笑みを返してくるだけだ。
「茂美さん、あんたを頼ろうとは思わない。下手に動かれたらまたトラブルを起こすだろうから、そこでじっとしていたらいいさ。」
「さすがは久能さん、男らしいわ。」
「しかし意見くらいは欲しいな。」
「意見?」
「あの土偶はどうして南極なんかにいたんだ?」
「どうして私に聞くの?」
「あんたはその埴輪の中にいた。だから埴輪に宿っている記憶を知っていた。
土偶が世界征服を企んでいることや、埴輪がそれを止めようとしたことを。」
「ええ。」
「だったら他にも何か知っているんじゃないか?」
「例えば?」
「例えば・・・・そうだな。この南極の下に、古代文明が眠っているとか。」
「それ本気で言ってるの?」
「例えばの話だ。」
「そうねえ・・・・、」
茂美は上目遣いに考える。
「埴輪の記憶に南極は出てこなかったわ。」
「本当か?もっとちゃんと思い出してくれ。」
「ちゃんと思い出してるわ。人を馬鹿みたいに言わないで頂戴。」
ツンと唇を尖らせる。
俺は「頼むよ」と言った。
「今のところ、ヒントになりそうな情報を持っているのはあんただけなんだ。
今までに見た埴輪の記憶の中に、南極と関係するようなモノはなかったか?」
「考え中よ、ちょっと黙ってて。」
唇に指を当て、上目遣いに考えるその表情は、なんとも息子を刺激する。
「久能さん・・・・、」
「何か思い出したか?」
「息子さんを膨らませすぎよ。」
「・・・・これは失敬。」
全身タイツであることをすっかり忘れていた。
「で、何か思い出したか?」
「ちょっとね、気になることが一つ。」
「ほう?」
「埴輪の記憶の中に、ペンギンが見えたのよ。」
「ペンギン?」
「とても大きなペンギンよ。」
「どれくらい?」
「あれくらい。」
そう言って皇帝ペンギンを指差す。
「あれ?」
「そう。」
「どんな風に見えたんだ?」
「人をさらって行くの。」
「なんだって?」
「ガバっと口を開けて、丸呑みにしちゃうのよ。」
「そりゃおっかいないな。」
「そして自分たちの巣へ持ち帰るの。」
「もしかして餌にされてしまうのか?」
「さあ、そこまでは。」
茂美はクスっと肩を竦める。
俺は「なるほどなあ」と頷いた。
「皇帝ペンギンが見えたわけか。」
埴輪の記憶の中に南極はない。
しかし皇帝ペンギンが見えるということは、やはり南極が絡んでいるのだろう。
俺は大きな大きなペンギンを見つめる。
長い行列を作って、どこかへ向かっていた。
するとそのうちの一羽が由香里君に近づいていった。
そしてクチバシを巨大化させて、パクリと飲み込んでしまった。
「うおおおおおおい!何してんだペンギン!!」
慌てて助けに走る。
後ろから「あれよ!」と声がした。
「あんな風に人を飲み込んじゃうの。」
「だからそういうことは早く言え!」
由香里君を飲み込んだペンギンは、お腹がパンパンに膨れ上がっている。
「・・・・げふ!」
「この野郎!ゲップしてんじゃない!」
ペンギンは群れから外れて、どこかへ走っていく。
「逃がすか!」
ペンギンは泳ぎは得意だが、足は速くない。
だからすぐに捕まえられると思ったのに、意外と速かった。
マリオがBダッシュするような感じで、シュタシュタシュタと足を動かしている。
「あれ絶対にペンギンじゃないな。」
ここまで来ればもう分かる。
あのペンギンも、きっと人形とか宇宙人なのだ。
「今さら何が出てきても驚かん!」
人形だろうが宇宙人だろうが地底人だろうが、何でもかかってくるがいい!
この久能司が受けて立つ!
・・・・・と思ったのだが、ペンギンは突然消えてしまった。
まるで手品のように。
「どこ行った!?」
ペンギンが消えた場所をくまなく探す。
すると氷の大地の上に、ポッカリと穴が空いていた。
「ここへ逃げたのか?」
首を伸ばし、覗き込む。
その時、足元の氷がパキっと音を立てた。
「ま、まずい・・・・・。」
足元の氷がどんどんヒビ割れていく。
そして逃げる間もなく、氷の中に落っこちてしまった。
「NOオオオオオオオオ!!」
どうして突然氷が割れるのか?
南極の氷はそんなに薄いのか?
理由は分からないが、俺は一瞬で飲み込まれてしまった。
氷の下には空洞が広がっていて、どこまでも落ちていく。
《なんでこんな空洞が・・・・・。》
落とし穴にしてはあまりに深すぎる。
俺はどこまでも真っ逆さまに落ちていく。
しかし途中で何かにぶつかって、思い切り頭を打った。
「ぐほあッ・・・・・。」
痛い・・・・頭蓋骨が割れそうだ。
しかしその程度で済んだのは、きっと宇宙服のおかげだろう。
生身であの高さから落下したら、今頃あの世行きだ。
「まったく・・・宇宙人様々だな。」
だがホッとしたのも束の間。
今度は下に向かって滑り出した。
「うおおおおおお!」
どうやら坂になっているらしい。
しかも氷のようにツルツル滑る。
「NOオオオオオオオオ!!」
ウォータースライダーのごとく、さらに深い穴へ真っ逆さま。
抵抗しても無駄で、どんどん深い場所へ吸い寄せられていく。
こうなったらもうなるようになればいい。
悟りの境地のごとく、心を無にする。
しかしまたしても何かにぶつかって、「ぐはあッ!」と叫んだ。
今度は尻を打った・・・・泣きそうなほど痛い。
もし俺が痔を患っていたら、確実に気絶しているだろう。
「なんなんだいったい・・・・、」
ケツを撫でながら立ち上がる。
すると目の前に驚くべき光景が広がっていた。
「こ、これは・・・・・、」
あまりの衝撃に、ケツの痛みさえ忘れる。
目の前に広がる信じられない光景・・・・それは古代都市だった。
どこぞのオカルト本にでも載っていそうな、古代と未来を融合させた、変てこな街がそびえていた。
「・・・・なんてことだ。南極の下にこんな物が・・・・、」
ピラミッドのような建物、空中を走る道路、大きな神殿に、空飛ぶ乗り物。
我が目を疑わずにはいられない。
しかし驚くのはまだ早かった。
なんと古代都市にはたくさんのペンギンがいた。
地表にいたのと同じ皇帝ペンギンだ。
そいつらはまるで人間みたいに、そこらじゅうを歩いている。
オシャレな服を着こなし、乗り物を運転し、ショッピングを楽しんでいる。
「そんな馬鹿な・・・・・、」
もう何を見ても驚かない。
そう思っていたのに、こうして驚いている。
そしてすぐにそれ以上の驚きが・・・・、
「由香里君!」
一羽の皇帝ペンギンが、由香里君を抱えて走って行く。
「おい待て!」
Bダッシュのごとくシュタシュタ走っていくペンギン。
由香里君は気を失っているようで、いくら呼んでも返事をしない。
「クソ!彼女をどうするつもりだ!?」
ペンギンは街を駆け抜け、奥にそびえる神殿に入って行く。
「はあ・・・はあ・・・なんて足の速い・・・・、」
とてもペンギンとは思えない。
ていうかペンギンの姿をしているだけで、実はペンギンではないのだろう。
この見るからに古代都市のような街、ここに生息しているということは、奴らは古代人なのかもしれない。
「おいペンギンもどき!由香里君を返すんだ!」
後を追い、俺も神殿に入る。
するとそこにはたくさんのペンギンが並んでいた。
奥には王冠をかぶったペンギンがいて、運ばれてきた由香里君を抱きかかえた。
そして・・・・、
「ぬおあ!」
なんと彼女の来ている宇宙服を、クチバシで引き裂いてしまった。
「何をしている!?」
止めようと走り出すと、大勢のペンギンが群がってきた。
「うおおおお!離せこの野郎!」
あっという間にペンギンの山が出来て、俺は下敷きにされる。
その間に由香里君は全裸にされてしまって、王冠をかぶったペンギンの隣に寝かされた。
「お前ら!いったい何をするつもりだ!?」
王様ペンギンは天に向かって手を叩く。
すると王冠から炎が吹き上げて、その中に泥人形のような物体が浮かんだ。
「なんだあれは・・・・。」
泥人形は胎児のように丸まっている。
ペンギンたちはギャアギャアと喚き出し、王様が怪しげな呪文を唱え始めた。
するとその瞬間、由香里君がビクンと仰け反った。
そして・・・・なんと幽体離脱してしまった!
彼女の体内から、薄く透き通る霊魂が現れたのだ。
「奴ら・・・・まさか・・・・、」
頭に二つの文字が過ぎる。
『生贄』
「いかん!このままでは由香里君が泥人形になってしまう!」
圧し掛かるペンギンを押しのけて、どうにか右手だけを出す。
「お前らの思い通りにさせるか!」
古文書を掲げて、稲妻を放つ。
眩い閃光と、耳をつんざく雷鳴が轟く。
ペンギンたちは驚き、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。
しかし王様だけは逃げない。
じっとこちらを睨んでいる。
「おい貴様!由香里君を元に戻せ!さもないと焼鳥にするぞ!!」
もう一度古文書を掲げる。
すると王様は呪文を呟き、由香里君の霊魂を戻した。
「由香里君!」
慌てて彼女の元まで走る。
「大丈夫か!しっかりしろ!」
「・・・・・・ううん。」
「よかった、息はあるようだな・・・・。」
まだ目を覚まさないが、鼓動は聞こえる。
俺は彼女を抱きかかえて、王様ペンギンから離れた。
「お前は何者だ?ていうかここはなんなんだ?」
古文書を向けながら、ジリジリと後ずさる。
すると逃げていたペンギンたちが戻って来て、逃げ場を塞がれた。
「しまった・・・・囲まれたか!」
前後左右にペンギンがいる。
なんともシュールな光景だが、笑っている場合ではない。
「こりゃかなりのピンチだな・・・・。」
背中に冷や汗が流れる。
その時、由香里君が目を覚ました。
「・・・・久能さん?」
「由香里君!大丈夫か?」
「頭が・・・・ボーっとするんです・・・。まるで・・、」
「まるで?」
「二度寝を我慢してる時みたいな・・・・。」
「それは辛いな。しかし今は寝ていた方がいいかもしれん。なにせ周りは敵だらけだ。」
「敵・・・・?」
「ああ、ペンギンの姿をした謎の生命体に囲まれている。危うく君は生贄にされる所だったんだよ。こんなすっぽんぽんにされて。」
「すっぽんぽんって・・・まさか・・・・、」
「こいつらのせいだ。決して俺がやったんじゃないぞ。」
「・・・・・・・・。」
「ほんとだ!俺じゃない!!」
疑わしい目で睨む由香里君。
ちゃんと誤解を解いておかないと、後で殺されかねない。
「状況が状況だ、今は我慢してくれ。」
「・・・信じます、久能さんを。」
「ほっ。」
とりあえず後から殺されることはなくなった。
だがこのままではペンギンどもに殺されかねない。
いったいどうすれば・・・・、
「久能さん!」
突然誰かの声が響く。
「久能さん!どこ?」
「この声は茂美さんか?」
俺は神殿の入り口を振り向き、「ここだ!」と叫んだ。
「・・・・あら?そんな所で何してるの?」
「見ての通りさ。」
肩を竦めると、茂美は「あらまあ」と驚いた。
「すごい状況になってるわね。」
「予想だにしない事態さ。」
「こんな短時間でそこまでの関係になるなんて。」
「ん?」
「だってこれから由香里ちゃんを抱く所だったんでしょ?」
「はい?」
「お互い大人なんだし、そろそろいい頃合いだと思うわよ。」
そう言って「邪魔しちゃ悪いから」と去って行く。
「ちょっと待て!驚くのはそこじゃないだろう!」
「え?」
「見て分かるだろ!俺たちが今どんな状況か。」
「だからベッドインする前の・・・・、」
「違う!あんたの目はどうかしてるぞ!」
俺は周りを指さし、「敵に囲まれてるんだ!」と叫んだ。
「こんな状況でベッドインなんかできるか!」
「そう言われればそうね。」
「だいたい由香里君をこんな目に遭わせたのはこいつらだ!」
「そうなの?」
「由香里君を生贄に捧げようとしたんだ。そこの泥人形にな。」
王様ペンギンはまだ炎を噴き出している。
その中には胎児のように丸まった泥人形が。
「あの人形に由香里君の魂を捧げようとしていたんだ。」
「まあ。」
「このままじゃまた生贄にされてしまう。」
「そう言われても・・・・ねえ?」
茂美はクスっと微笑む。
圧倒的な数の敵を前に、戦う気はなさそうだ。
「私じゃ役に立てそうにないわ。」
「そう言わずに。あんたの悪知恵ならどうにか出来るだろ?」
「買いかぶりよ。私はただのオカルト編集長なんだから。」
「都合の良い時だけ謙虚になるな。」
「だって事実だもの。残念だけどもう終りね。」
「サラっと諦めるんじゃない。あんたならきっと妙案が思いつく。ない頭を絞って考えてくれ。」
「失敬ね、それなりに脳ミソは詰まってるわ。」
醜い言い争いをしていると、王様ペンギンが近づいてきた。
「クソ!由香里君は渡さんぞ!」
古文書を向け、稲妻を放つ。
するとその瞬間、茂美の方から何かが飛んできた。
「あれは・・・・埴輪!?」
古代ムー大陸の埴輪が、ペンギンたちの頭上に舞い上がる。
その瞬間、全てのペンギンが「へへえ〜!」とひれ伏した。
「なんだこいつら・・・・どうしたんだ?」
印籠を突きつけられたかのように、誰もがひれ伏してしまう。
王様ペンギンまでもが。
『埴輪の方が可愛いだしょ。』
埴輪の声が響く。
『土偶より可愛いだしょ。そう思うだしょ?』
どうやら俺に語り掛けているらしい。
これはピンチを乗り切るチャンスの到来。
俺は迷わず答えた。
「埴輪の方が可愛いぞ。」
『だしょ〜!』
気の抜けた返事をして、ピカッと光る。
と、次の瞬間。
埴輪は美少女に変わっていた。
「ぬおお!萌え化した!!」
ニコリと微笑む美少女。
ペンギンたちはさらにひれ伏す。
由香里君が「萌えとか言ってないで、仕事して下さい・・・」と寝言を呟いた。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第十四話 土偶の怒り(2)

  • 2017.07.16 Sunday
  • 10:01

JUGEMテーマ:自作小説

古代アトランティスで生まれたという謎の土偶。
そいつが今、世界征服を企んでいる。
・・・字面にするとなんともアホな事件だが、事実なんだから仕方ない。
俺たちはUFOに乗り、土偶の捜索を行っていた。
そして・・・・、
『いた!センサーに反応があったわ!』
茂美が叫ぶ。
その瞬間、汲み取り式のトイレから汚物が溢れてきた。
「うおおおお!」
とんでもない臭いが充満する。
由香里君も「なんですかこれ!?」と鼻をつまんだ。
『だからセンサーが反応したのよ。』
「なに?」
『センサーはUFOの下側に付いてるの。それが反応すると、肥溜めが振動してトイレが大変なことになるのよ。』
「なんだその欠陥構造は!UFOなんて超文明の乗り物なら、もっと合理的にしとけ!」
『私に言われても。これはお爺さんとお婆さんの持ち物だから。』
爺さんと婆さんは必死に消火活動に当たっている。
雑巾とバケツとブラシを持って。
「金輪際UFOなんて乗りたくないな。」
うんざりしながら首を振る。
由香里君も童心から目が覚めたようで、「さ、仕事ですね」と言った。
「田舎のお婆ちゃんごっこはもういいのか?」
「はい!じゅうぶん堪能しました。」
「じゃあ久々に二人で事件に挑むか?」
「今回だってバッチリ解決しましょうね!」
俺たちはコツンと拳を合わせる。
『ふふふ、やる気は充分ね。なら・・・・行くわよ!土偶の所へ!』
茂美は目一杯レバーを動かす。
UFOは凄まじい速さで地球へ向かっていった。
大気圏に突入し、空を突っ切り、瞬く間に大地が見えてくる。
『さ、着いたわよ。』
「もう?」
『だってマッハ50で飛んだもの。』
「う〜ん・・・凄すぎて全然ピンとこない。」
『最大速度は光の三分の一の速さよ。それでも宇宙を旅するには不十分だけど。』
「ふうむ、それもピンとこないな。」
『このカボチャ、まだまだ成長の途中ね。もっと大きくなればワープだって出来るはずよ。』
「なるほど。楽しい解説だけど、今はUFOのレクチャーを受けている暇はない。早く土偶を捜さないと。」
『捜すも何も、UFOのすぐ傍にいるわ。』
「なに!?」
『センサーに反応があったから、距離一センチの所まで近づいたの。ドアの付近にいるはずよ。』
「もう少し離れて降りろ。でないと事故るぞ。」
『気をつけるわ。ちなみに出口は床下の貯蔵庫よ。どこかに取っ手があるはず。』
そう言われて、俺はくまなく床を調べた。
すると畳と畳の間に、小さな取っ手が突き出ていた。
「これか。」
カパっと開けると、中には漬物などを保管する貯蔵庫があった。
その床にはもう一つ扉が。
「いよいよ土偶とご対面か。」
緊張して鼓動が速くなる。
由香里君も「ドキドキしますね」と深呼吸した。
「じゃあ・・・行くか。」
「はい。」
俺たちは貯蔵庫に降りる。
そして床下の取っ手を掴み、バコ!っと外した。
するとその瞬間、とんでもない冷気が溢れてきた。
「うおおおお!なんだこりゃ!?」
「寒い!凍っちゃう!!」
慌てて蓋を閉める。
すると茂美が『言い忘れてたけど』と近づいてきた。
『外は南極だから。』
「へ?」
『マイナス90度の世界よ。』
「なんだって!」
『普段着のままで出たら、気道の水分が凍りついて窒息死に・・・・、』
「そういうことは先に言え!」
危うく死ぬところだった・・・・ほんとにこの女は。
「久能さん、どうしますか?」
由香里君が困った顔をする。
俺も「う〜む・・・」と困った顔をするしかなかった。
「さすがにマイナス90度はなあ・・・・呼吸しただけでアウトなんだから、どうにも出来ないな。」
「でもせっかく土偶を見つけたんですよ。このまま見逃すんですか?」
「まさか。どうにか手を考えるさ。」
俺は爺さんと婆さんの元へ向かう。
トイレの掃除は終わったようで、今はミヤネ屋を見ていた。
いったいどこから電波を拾っているのか分からないが、UFOに地球の常識を押し付けるのは野暮というもの。
ここは一つ、地球の科学を超えたその力を借りるしかあるまい。
「すいません、防寒着ってありますか?出来ればUFOならではのすごい防寒着がいいんですが。」
「ん?タンスのどっかにあるじゃろ。なあ婆さん。」
「斎藤さんがくれた奴があるよ。宇宙は冷えるからこれ着とけって。」
婆さんはタンスの奥を探る。
そしてなんとも奇妙な服を取り出した。
「ほれ。」
「あの・・・・これは?」
「宇宙服らしいぞ。」
「宇宙服・・・?」
婆さんの言う宇宙服は全身タイツだった。
とんねるずのモジモジ君が着ているような奴だ。
しかも胸の辺りに宇宙人のアップリケが着いていて、頭からはアンテナが二本伸びている。
「これ・・・・本当に防寒着で?」
「斎藤さんはそう言うとった。なあ爺さん?」
「うむ。それを着て宇宙に出ると、呼吸も出来るんじゃ。」
「マジかよ・・・・。」
「それに初夏のような快適な着心地がするんじゃ。マグマの中でも平気らしいでな。」
「さすがは宇宙人の産物。これならどこへだって行けるな。」
ここはUFOの中、それならば地球の文明を凌駕する防寒着がないかと思ったのだが、ビンゴだった。
「ほら由香里君、これを。」
「え?ああ・・・・・、」
「どうした?浮かない顔して。」
由香里君は嫌そうな顔で防寒着を睨む。
「これ、本当に着るんですか?」
「着ないと死ぬぞ。」
「そうですけど・・・・このデザインはちょっと・・・、」
「言いたいことは分かる。宇宙人のアップリケが付いた全身タイツ。
それを着て南極に行けというんだから、イッテQの手越君でさえビックリの企画だ。」
「代わりはないんですかね?」
嫌そうな顔で尋ねると、爺さんは「無い」と答えた。
「それ以外の防寒着は、儂の股引と婆さんの毛糸のパンツくらいじゃ。そっちの方がいいか?」
「・・・・いえ、これでいいです。」
さっきまでの楽しそうな表情はどこへやら?
冬の雨空のように沈んだ顔になる。
「・・・・着替えてきます。」
由香里君は「他に部屋ありますか?」と婆さんに尋ねる。
「そこに風呂場がある。」
「ちょっとお借りしますね。」
タイツを抱えたまま、浮かない表情で風呂場へ消えていった。
ドアが磨りガラスなので、微妙に風呂場の向こうが見える。
『あんまりガン見してると、後で由香里ちゃんに殺されるわよ?』
「分かってるさ。しかしこれから命駆けの仕事をするんだ。せめて息子くらい元気にしてやらないと。」
『もう充分反り立ってるわ。』
「そ、そうだな・・・。」
ツンツンと息子をつついて、俺も着替える。
バッチリ宇宙服を着込み、再び貯蔵庫に降りる。
取っ手を握り、「いいか?」と由香里君に尋ねた。
「いつでも。」
拳を握り、力強く頷く。
いざとなったら戦うつもりだろうか?
空手家VS土偶。
異種格闘技でも敬遠しそうなシュールなカードだが、少し見てみたい気もする。
ガバっと蓋を開けると、先ほどと同じように冷気が吹き込んできた。
しかし寒くない。
まるで新緑美しい初夏にいるような、快適な心地だった。
《さすがは宇宙人の服、大したもんだ。》
冷気を吸い込んでも寒くならないし、出来れば一着ほしいくらいだ。
そんなことを考えていると、由香里君が「危ない!」と叫んだ。
「え?」
次の瞬間、蓋の向こうから何かが現れた。
「ふふふ、こんな所まで追いかけてくるなんてね。」
「し、茂美さん・・・・。いや違う!お前は・・・・、」
冷気の向こうから現れたのは、茂美の姿を借りた人形だった。
「こんな所まで追いかけて来るなんて・・・ご苦労なことだわ。」
妖艶に微笑みながら、古文書を掲げる。
「また冷気を撒き散らすつもりか!?」
「いいえ、その服があるんじゃ冷気は効かない。だから・・・人質を取ることにするわ。」
そう言って由香里君を振り向いた。
古文書を向けて、ブツブツと何かを唱え始める。
《こいつ・・・・由香里君に何をするつもりだ?》
慌てて「逃げろ!」と叫ぶ。
「何をしてくるか分からない!そいつから離れるんだ!」
しかし彼女は逃げない。
それどころか戦う気満々だった。
「この土偶には借りがあるんです。よくも人を騙して生贄にしようなんて・・・・。」
拳を握り、キっと睨み付ける。
「よすんだ!早く逃げろ!」
「土偶なんかに負けません。茂美さんの姿を借りて私たちを騙すなんて・・・・絶対に許さない!」
由香里君は鬼のような表情に変わる。
拳を構えて、「とおりゃああ!」と飛びかかった。
しかし・・・・、
『ふふふ、馬鹿な子ね。』
土偶は片手でパンチを受け止める。
「そんなッ・・・・・、」
「いくら強かろうが所詮はガキ。私の敵じゃなくてよ。」
ニヤリと笑い、力任せにねじり上げる。
「あああああ!」
悲鳴を上げる由香里君。
しかしグっと歯を食いしばり、渾身の膝蹴りを放った。
だが土偶はこれも片手で受け止める。
手足を掴まれた由香里君は、そのまま持ち上げられた。
「ぐうッ・・・・この・・・・、」
「抵抗しても無駄よ。痛い思いをするだけ。」
土偶はグッと力を込める。
捕まれた由香里君の手足が、メキメキと音を立てた。
「きゃあああああ!」
「由香里君!!」
おのれ・・・これ以上俺の相棒を傷つけさせてなるものか!
「おい土偶!こっちを向け!」
「なに?」
だるそうに振り向く土偶。
俺は目の前に古文書を突きつけた。
「由香里君を離すんだ。さもないと丸焦げになるぞ。」
古文書をバリバリと放電させる。
いくらこの土偶が強かろうと、この電撃を受けては一たまりもあるまい。
「死にたくなければ由香里君を離すんだ。」
そう言ってさらにバチバチ放電させた。
しかし土偶は「ふふふ」と首を振る。
「ほんとに馬鹿な男ね。」
「なんだと?」
「いま電撃を撃ったら、この子も感電死するわよ。」
「・・・・・・あ。」
「超能力はあっても頭は悪いのね。そう警戒するような相手じゃなかったかしら?」
クスクスと馬鹿にしたように笑われる。
すると由香里君が「撃って下さい・・・」と言った。
「このままじゃ土偶を捕まえられない・・・・。」
「馬鹿言うな!君まで死んでしまうぞ。」
「だけどこのまま見逃すなんてもっと嫌です・・・・。私だって・・・・久能事務所の一員なんですから。」
そう言ってニコリと微笑む由香里君。
俺は《なんて覚悟だ》と感心した。
「由香里君・・・・君はすでにプロの探偵だよ。依頼の為に命を懸けるなんて。」
「そんなの久能さんだって同じじゃないですか・・・・。なんだかんだ言いながら、いつだって命懸けで依頼を果たしてきたでしょ?
時には身体を張って依頼人を守ってきたじゃないですか・・・・。」
「それはそうだが・・・・でも君まで命を懸けることは・・・・、」
「何言ってるんです。久能さんだけ命を懸けるなんて、そんなの許しませんよ?」
痛みに耐えながら、クスっと微笑む。
「ふふふ、仲が良くていいことね。」
土偶はさらに力を込める。
由香里君はまた悲鳴を上げた。
「きゃあああああああ!」
「やめろおおおおお!」
俺は飛びかかった。
勢いつけて体当たりをかませば、由香里君を手放すかもしれない。
そうしたらその瞬間に、古文書の電撃を放ってやる!
逃げられないようにしっかりと締め上げて。
俺も死ぬだろうが、由香里君が死ぬよりはマシだ。
「覚悟おおおおおお!」
アメフトのようにタックルをかます。
しかしあっさりとかわされた。
「ぐへあ!」
「ふふふ、まったく馬鹿な男。」
見下され、笑われる。
しかし俺は立ち上がった。こんな奴に由香里君を殺されるわけには・・・・、
『どいて!』
「ぐへあッ!」
後ろから何かが突進してきた。
俺は吹き飛ばされて、壁に叩きつけられる。
「ごはあッ!」
思いっきり後頭部を打って、「ぬううおおああああ・・・」と悶絶した。
するとまた誰かがぶつかってきた。
「ぐはあッ!」
「きゃあ!」
「・・・・由香里君!」
「久能さん・・・・大丈夫ですか?」
「君こそ平気か!?いや、それよりよく助かった!」
「茂美さんが・・・・、」
そこには土偶の頭にしがみつく埴輪がいた。
『私の肉体、返してもらうわよ。』
「この!離れなさい!」
『それはこっちのセリフ。人様の身体を好き勝手に使うなんて・・・・許さないわ。』
埴輪が熱く輝く。
土偶は「あああああ!」と仰け反った。
『チャンス!』
茂美は土偶の胸目がけて突撃する。
しかし土偶も負けていない。
古文書から冷気を放った。
ピキピキと凍り付く茂美。悔しそうな声で『やるわね』と呟いた。
『でもこの程度のパワーじゃ私は止められないわ。伊達にオカルト雑誌の編集長をやってないのよ!』
そう言ってドリルのように回転し始める。
そのパワーは強力で、古文書の冷気さえ吹き飛ばしてしまった。
《どこのバトル漫画だこれは!》
しかし当の本人たちは真剣で、『むううう!』とか「はあああ!」と気をぶつけ合っていた。
もはやサイヤ人の戦いに等しい。
俺たちの出る幕はない。
《茂美さん、ここはあんたに任せたぞ!》
息を飲みながら戦いを見守る。
両者のパワーはほぼ互角だが、わずかに茂美が勝るようだ。
土偶はジリジリと後退していく。
「おのれ・・・・なんて馬鹿力なの!」
『私は執念深いのよ。自分の身体を奪われたまま引き下がると思う?』
「くッ・・・・たかがオカルト編集長の分際で!」
土偶は「もういいわ!」と叫んだ。
「そんなに欲しけりゃ返してあげる。でもその代わり・・・・その子のを人質に取らせてもらうわ!」
土偶は由香里君に古文書を向ける。
そして怪しげな呪文を呟き始めた。
「させるか!」
俺は由香里君を抱きかかえる。
大事な相棒をこれ以上傷つけさせるものか!
「由香里君!俺が守るからな!」
「久能さん!私だって・・・・、」
「いいんだ、これくらいさせてくれ。君にはいつも世話になりっぱなしだから。」
そう言って微笑むと、「久能さん・・・」と切ない顔をした。
「ほんとに仲睦まじいこと。だったらまとめて洗脳してあげるわ!」
呪文を唱え終えた土偶は、古文書から怪しげな文字を飛ばした。
『危ない!その文字に触れたら土偶の操り人形になるわ!』
「な、なんだって!」
いきなりそんな事を言われても、避けるに避けられない。
「久能さん!逃げて下さい!」
「何を言う!君を置いて逃げられるか!」
犠牲になるのは俺だけでいい。
由香里君を突き飛ばし、全身で怪しげな文字を受け止めた。
「ぐわあああああ!」
「久能さん!」
「由香里君・・・・俺はもうダメだ・・・・。後は任せた・・・・。」
「そんな・・・・・久能さああああああん!」
悲しい悲鳴がこだまする。
超能力探偵、久能司・・・・ここに散る。
そう思ったが、別になんともならなかった。
「あれ?なんで?」
この文字を受けたら洗脳されるのではないのか?
不思議に思っていると、文字は由香里君の方にも飛んでいった。
「きゃあああああ!」
「由香里君!」
「久能さん・・・・私・・・・、」
「しっかりするんだ!傷は浅いぞ!」
「いえ・・・・傷一つ負ってません。」
「なに?」
「この宇宙服のおかげで。」
人を洗脳する怪しげな文字は、宇宙服によって跳ね返されていた。
「おお!こりゃすごい!」
「この宇宙服、敵の攻撃も防げるみたいですね。」
「うむ、もはや究極の鎧だな。」
さすがは宇宙人の産物。
細かい原理は分からないが、すごいことは間違いない。
「くッ・・・・古代文明よりも、宇宙人の文明の方が上みたいね。」
土偶は悔しそうに歯ぎしりをする。
するとそこへ茂美が突撃した。
『隙ありよ。』
「しまったッ・・・・、」
回転しながら突っ込む茂美。
土偶の胸にめり込んで、バチバチっと電気が弾けた。
眩い閃光に目を閉じる。
そして次に目を開けた時、茂美は自分の肉体を取り戻していた。
「ふう、やっぱりいいものね。自分の身体は。」
そう言って妖艶なポーズを決める。
俺の息子は反り立ったが、今は欲情している場合ではない。
「成美さん!無事か?」
「ええ、ご覧の通り。」
これまた妖艶に微笑み、指先でクルクルと何かを回した。
それは埴輪だった。
「ようやく土粘土の身体からお別れできた。その代わりあなたは・・・・、」
茂美は目の前を睨む。
そこには・・・・・、
『グウウ・・・おのれ!』
手のひらサイズの土偶が、目をピカピカと光らせている。
「そいつが黒幕か?」
「そうよ。これさえ捕まれば全て解決。」
茂美はサッと手を伸ばす。
しかし土偶はピュンと宙に舞い、『まだだ!』と叫んだ。
『まだ諦めない!私こそが世界の支配者に相応しいのだ!』
ビカビカ!っと目を光らせて、怪しい文字を飛ばしてくる。
「無駄だ!この宇宙服の前では、そんな攻撃は効かない!」
『誰がお前たちを攻撃するといった?』
「なに?」
『私の狙いはこっちだ!』
土偶はクルっと向きを変えて、爺さんと婆さんに文字を飛ばす。
「いかん!逃げろ!」
大声で叫ぶが、爺さんと婆さんはミヤネ屋に夢中で気づかない。
ていうかこんな状況でよくテレビを見ていられるものだ。
怪しげな文字は爺さんと婆さんを直撃する。
その瞬間、スっと立ち上がって、土偶に跪いた。
『私はお前たちの主だ。これからは何でも言うことを聞くように。』
「へへえ〜。」
「ははあ〜。」
二人は数珠を取り出し、「ナンマイダ〜」と拝み始めた。
『はははは!これでUFOは私の物だ!』
高らかに笑う土偶。
『まずは手始めに奴らを葬れ!』
「ナンマイダ〜。」
爺さんと婆さんは「ほうりゃ!」と飛びかかってくる。
「勝手に人の家に上がり込みおって!」
「叩き出してくれる!」
「あんたらが乗せたんだろう!」
爺さんと婆さんは俺たちを貯蔵庫へ押しやる。
「待って下さい!俺たちは敵じゃない!」
「悪者の言葉など聞く耳もたん!」
「出て行け!」
「クソ・・・・・。」
相手が老人とあっては、手荒な真似は出来ない。
「久能さん、どうしたら・・・・。」
「どうにもこうにも・・・・・。」
俺たちはUFOの外へ投げ出される。
茂美は上手いこと隠れていたが、すぐに見つかって「アバズレめ!」と叩き出された。
「死ね!お前らなど死んでしまえ!」
「土偶様に逆らう者は悪鬼じゃ!羅刹じゃ!畜生じゃああああ!」
ものすごい形相で罵詈雑言を浴びせられる。
「ちょっと待って下さい!あなたたちは洗脳されているんだ!」
「やかまし!」
「死ね!」
「うお!唾を飛ばすな・・・・。」
爺さんと婆さんは「フャッキュー!」と中指を立てる。
そしてそのままどこかへ飛び去ってしまった。
「うおおおおおおい!南極に置き去りにするな!!」
いくら呼んでも戻って来ない。
そんな・・・・こんな僻地に置き去りなんて・・・・。
辺りは極寒の世界・・・・冷気が猛威を振るう白銀の空間。
幸い宇宙服のおかげで死にはしないが、こんな状況をどうすればいいのか?
「久能さん・・・・大変なことになっちゃいましたね。」
「ああ、予想だにしない事態だ。」
俺たちはただただ途方に暮れる。
少し離れた場所で、茂美が「ああ、暖かい・・・」と埴輪をカイロ代わりにしていた。
「二人もこっちに来れば?この埴輪、いいストーブよ。」
埴輪は薄く光っている。
不思議な力で冷気から身を守っているようだ。
「まったく・・・今日はなんて日だ。」
こうなっては自分の運命を呪うしかない。
白銀の景色の中、エロいことを考えて気を紛らわした。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第十三話 土偶の怒り(1)

  • 2017.07.15 Saturday
  • 10:06

JUGEMテーマ:自作小説
UFOに乗る日がやってくるなんて、いったい誰が想像できよう。
それもカボチャのUFOに乗るなんて。
今までにも不思議な出来事はたくさんあったけど、今日は一番イカレた日だ。
「見て見て久能さん!すごいですよ!」
由香里君は嬉しそうにはしゃぐ。
窓の傍に張り付いて、外の景色を眺めていた。
「へえ〜地球ってこうなってるんだあ。」
そう言って「ほらほら久能さんも!」と腕を引っ張られた。
「見てください、地球は青いですよ。」
「ああ、よく見えるよ。」
「ほら、遠くにはお月様もありますよ。」
「ふむ、デカイ岩だな。」
「そんな風情のない言い方しないで下さい。あ!その向こうには太陽もありますよ!すごい・・・・。」
目をキラキラさせながら、子供のようにはしゃいでいる。
確かにテンションの上がる光景だが、俺は素直に喜べない。
なぜなら・・・・、
「なあ茂美さん、こんな物に俺たちを乗せて、いったいどうしようっていうんだ?」
埴輪となった茂美に尋ねると、『土偶を捜すのよ』と答えた。
「こんな宇宙から捜せるのか?」
『宇宙だから捜せるの。ねえお爺さん。』
「そうじゃぞ。このカボチャはすごいんじゃ。探し物を見つけるくらいわけないぞい。」
「そうそう。何十年も前に亡くした、爺さんのへその緒も見つかったしな。」
「それに婆さんの入れ歯も見つかった。まさか火山口の付近にあったとはな。」
「どこに落としてるんだよ・・・・。」
爺さんと婆さんはのんびりと茶を飲んでいる。
UFOの中はあの宇宙人一家と同じで、とても昭和的なインテリアだ。
黒電話に、ダイアルを回してチャンネルを変えるテレビ。
照明は裸電球で、窓には簾がかかっている。
ちなみに床は畳で、トイレは汲み取り式だ。
水道や冷蔵庫も完備していて、UFOの中だけで生活出来るだろう。
住むには素晴らしい所だと思うが、いかんせんこれはUFO。
操縦者がいなければ飛ばないわけで、今は茂美が運転していた。
小さな埴輪の身体で、せっせとレバーを動かしている。
『ああもう!こんな身体じゃ上手く動かせないわ。』
イライラしながらレバーを叩く。
俺からすればUFOを飛ばせるだけでも大したもんだと思うが・・・・。
「探偵さん、お茶でもどうじゃ?」
「そっちのお嬢さんも。」
「いや、今はそんな気分じゃ・・・、」
「あ、頂きます。」
「おい由香里君、もうちょっと緊張感を持つんだ。子供じゃないんだから。」
「いいじゃないですか。田舎のお婆ちゃんの家に来たみたいで楽しいし。」
そう言って爺さんたちの傍に座った。
「せんべい食うか?」
「麩菓子もあるぞ。」
「うわあ!ほんとにお婆ちゃんの家に来たみたい!」
キャッキャと嬉しそうにする由香里君は、完全に童心にかえっている。
俺は「どいつもこいつも・・・」と首を振った。
「茂美さん、さっさとその土偶とやらを見つけてくれ。」
『今やってるわ。』
「俺は早くUFOなんてものからオサラバしたいんだ。」
『滅多に出来ない経験よ。エンジョイしたらいじゃない。』
「そうやってはしゃげるほど子供じゃないんでね。」
壁に持たれかかり、この不可解な出来事にうんざりする。
「なあ茂美さん。」
『なにかしら?』
「もう一度確認するが、その土偶は世界征服を狙ってるんだよな?」
『そうよ。人形たちに魂を宿し、仲間を増やそうとしているの。』
「サトーヨーカドーの事件がそうだな?」
『ええ。それに征服の為に大きな力を手にいれたがっているわ。』
「だから不時着したUFOに会いに行ったわけだ?」
『行ったはいいけど、宇宙人には会えなかった。だから久能さんを行かせたのよ。
あなたなら何か秘密を探ってくれるんじゃないかと期待して。』
「それで俺に接触してきたわけか。」
『だって超能力探偵だからね。普通では解決できない事件だって解決しちゃうし。』
「だからって土偶に利用されたくなかったよ。まだ振り込め詐欺に遭った方がマシだな。」
『ふふふ、今さら嘆いてもしょうがないわ。』
「確かに。で、一つ聞きたいことがある。それは・・・、」
『それは、その土偶とはいったい何者なのか?ついでにこの埴輪も何者なのか?』
「その通りだ。この二つは本当に古代のオーパーツなのか?」
『そうよ。こうして埴輪と同化したおかげで、埴輪の記憶が見えるの。その記憶が告げているわ。
この埴輪とあの土偶は、間違いなく古代のオーパーツよ。』
「ふうむ・・・古代人はほんとにいたってわけか。なんとも厄介な代物を残してくれたものだ。」
『土偶が生まれたアトランティスも、埴輪が生まれたムー大陸もすでに消滅している。
その後、この二つの人形は大きな戦いを繰り広げたみたいでね。』
「大きな戦いねえ。まさか人形同士で戦争でもしたのか?」
『その通りよ。』
「そうか、事実であっても知りたくない事実だな。笑えないし教養にもならない。」
『土偶は世界の覇権を求めていたわ。人間を奴隷としてコキ使い、人形が君臨する世界を作ろうとした。
それはなぜかというと、あの土偶を生み出した古代人が、世界の覇権を目論んでいたからよ。』
「ちょっと待て。だったらその土偶には・・・・、」
『古代人の魂が宿ってるわ。』
「そんなまさか・・・・、」
『それは埴輪も同じだった。この人形にも古代人の魂が宿っていたの。
だけど土偶との戦いで消滅してしまった。今は残留思念だけが宿っている状態なの。
だから本当の力を発揮するには、生贄を捧ないといけないわ。』
「新たに魂を入れろってことか?」
『そういうことね。』
「今はあんたの魂が宿ってる。なら本来の力を発揮して、どんな願いも叶えられるわけだ?
だったらその力で土偶を消しされば・・・・、」
『無理よ。私は自分の魂を生贄に捧げる気はないから。これはあくまで肉体が奪われている間の緊急措置。
そうでなきゃ埴輪の中に入ろうなんて思わないわ。』
「似合ってるけどな。」
『冗談言わないで。もう私の胸も太ももも見られなくなるわよ?』
「OK、今のは冗談だ。」
茂美のことは嫌いだが、あのエロいボディには興味がある。
嫌いだ嫌いだと言いつつも逆らえないのは、あの色気のせいなのだ。
『埴輪はどうにか土偶に勝った。だけど自分自身は力を使い果たしてしまって、また土偶が暴れたらどうしようもない。
だから古文書を作り、その力で封印していたのよ。』
「でもあの仙人みたいな爺さんは、古文書は埴輪を封印する為にあるって言ってたぞ?」
『それは自分の力を悪用されない為に、ついでにそうしたの。本来は土偶を封印する為の物なのよ。』
「そうだったのか・・・・。」
だんだんと謎が解けてきて、頭の中がクリアになる。
しかしここである疑問が。
「なあ茂美さん。」
『なに?』
「ふと思ったんだがな・・・・。」
『ええ。』
「そもそもあんたが人形塚に行かなければ、こんな事態にはならなかったんじゃないか?」
そう尋ねると、何も言わずに沈黙した。
「2ちゃんねるのオカルト板で情報を得て、人形塚までやってきた。
そして土偶の傍にある古文書を手に取ってしまったことが、全ての原因なんじゃないのか?」
『どうして?』
「だって古文書の力で土偶を封印していたんだろう?あんたがそれを奪ってしまったから、こんな事になってるんじゃないのか?」
『あるいはそうかもしれないわ。』
「あるいはもクソも、それしかないじゃないか。」
『だって知らなかったんですもの、あの巻物にそんな意味があるなんて。』
「なら知っていれば・・・・、」
『多分取ったでしょうね。』
「ならやっぱりアンタが原因じゃないか!」
『あるいはね。』
クスっと笑う茂美。
埴輪なので表情はないが、心の中では微笑んでいるだろう。
《クソ!まただ・・・・またこの女が原因だ。》
今までにもこういう事はよくあった。
だからもしやと思ったのだが、やっぱりこいつが犯人だった。
「あんたは希代のトラブルメーカーだ。呆れを通り越して賞賛したくなるよ。」
『でしょう?オカルト雑誌の編集長としては、これほどの才能はないわね。』
「皮肉で喜ぶな。いっつも余計なトラブルばかり起こしやがって。」
『でもその分久能さんの仕事に繋がる。WinWinよ。』
「何がWinWinだ。巻き込まれるこっちの身にもなれ。」
まったく・・・・こいつの頭は宇宙人よりブっ飛んでる。
もしこいつがこの世にいなければ、世界のトラブルの半分は減っているかもしれない。
呼吸をするようにトラブルを巻き起こし、散歩でもするように厄介事を撒き散らす。
「要するにアンタが全ての元凶だってことは分かった。しかしまだ分からないことがある。」
『いいわよ、なんでも聞いて。』
そう言って斜め45度にポーズを取るが、埴輪なので色気もクソもない。
「偽物のアンタは、どうして俺にこの場所へ行くよう依頼したんだ?」
そう、これが一番の疑問だった。
マネキンの騒動を治めてこいと言ったのは分かる。
奴は俺を警戒していた。
だからどうでもいい仕事を頼んで、邪魔されるのを防ごうとしたのだろう。
UFOの件に関しては、俺の手を借りて宇宙人の超文明を手に入れようとたわけだ。
しかし今回の依頼は分からない。
俺がこの人形塚へ来ることは、土偶としては避けたかったはずだ。
ていうかそもそも、どうして由香里君を生贄に捧げようとしたのか?
埴輪が復活してしまえば、困るのは土偶の方ではないのか?
しかしこの問いに対し、茂美はとてもシンプルな答えを持っていた。
『土偶は埴輪と決着を着けたがっているの。以前の戦いでは負けたからね。
だから由香里ちゃんを生贄に捧げて、完全に復活させようとしたわけ。』
「なるほど。リベンジしていってわけだ。じゃあなんで俺をこの場所に寄こした?
俺がここへ来たら、由香里君を助けるって分かってただろうに。」
『それは久能さんも生贄にする為よ。』
「なッ・・・・俺もか!?」
『本当なら、あなたはすでにこの世にいないはずだった。
仙人のお爺さんや朝上さんによって、埴輪への生贄にされていたはずだから。』
「なら彼らは土偶の手下だったのか?」
『協力するように脅されていたのよ。本心から従っていたわけじゃないわ。
そして私が苦しんでたのも土偶のせい。
このままじゃユカリちゃんは消える。それを助けるには埴輪を手にれるしかないって言われたでしょ?』
「ああ。だから断れなかった。」
『私は土偶の呪いで苦しみ、久能さんはそれを助ける為にここへやって来た。この意味わかるでしょ?』
「・・・・俺は罠に嵌ったってことだな?生贄にされる為に。」
『ええ。だけど危機を察知した埴輪が、私の魂を再び吸い寄せたわけ。久能さんを助ける為に。』
「その土偶はそんなに俺のことを警戒していたのか?」
『かなりね。超能力は古代にもあった力で、そのパワーは絶大。まあ久能さんのはショボイけど。』
「自覚してるさ。役に立ったことはあまりない。」
『だけど超能力は超能力。だから生贄にすることで抹殺しようと企んだのよ。』
「なるほど・・・危うく殺されるところだったわけか。」
今さらながら背筋が寒くなる・・・・。
しかしこうして生きているのは、茂美さんが助けてくれたおかげだ。
そして何より・・・・・、
『仙人の爺さんや朝上女史は、本当は俺を生贄にするつもりだった。しかしなぜかそうしなかった。
そのおかげで俺は生きてるわけだが・・・・それには何か理由があるんだろうな?」
『もちろん。あの人形たちは埴輪によって魂を得た連中でね。
ただ脅されて協力していただけなのよ。
だけど久能さん、埴輪を手に入れる為に、思いのほか頑張ったでしょ?忍者やカラスを倒したりして。
それを見た人形たちは、久能さんなら土偶を捕まえることが出来るんじゃないかと思って、手助けしたのよ。』
「ふうむ・・・人形たちも色々思惑があるんだな。」
『すべての人形が土偶の味方ってわけじゃないわ。例えば人形塚で眠っていた人形たちもそうよ。
あれは埴輪によって魂を得ていた人形たちだからね。』
「でもあの人形たちはすでに魂がないんだろう?どうして動いたんだ?」
『残留思念よ。魂はなくても記憶はある。
だから久能さんを応援しようと動き出したってわけよ。』
「あまりありがたくない応援だが、敵じゃないならホッとしてるよ。
あんな数で襲われちゃ一たまりもなったからな。」
古墳から人形たちが出てきた時のことを思い出し、また背筋が寒くなる。
『さて、知りたいことは以上かしら?』
「今の所はな。・・・・・あ、でも一つだけ。」
『なに?』
「もしその土偶を連れ戻したら、依頼料は払ってくれるのか?」
『もちろん。だって私の身体が懸ってるし。だからもし連れ戻してくれたら、お礼に一晩過ごしても・・・・。」
茂美は斜め45度のポーズで挑発する。
埴輪なので色気はないが、俺の脳内に保存してある茂美の肉体で再生された。
「よし!この俺がバッチリ解決してみせよう。」
『さすがは久能さん、心も下半身もやる気満々ね。』
茂美のおかげで、とりあえずの事情は分かってきた。
しかし仕事はこれからが本番。
その土偶を捕まえないと、さらに珍事件が多発してしまう。
いくら俺が超能力探偵といえども、これ以上アホらしい依頼はウンザリだ。
「聞いたか由香里君。土偶を捕えれば全て解決だ。」
そう言って振り返ると、婆さんの肩を揉んでいた。
「ああ、そこそこ!あんた上手いねえ。」
「けっこう張ってますよ。カチカチになってる。」
「婆さんが終わったら儂もいいか?」
「ちょっと待っててねお爺ちゃん。もうちょっとで終わるから。」
せっせと肩を揉む由香里君。
もしかしたらお爺ちゃんお婆ちゃん子なのかもしれない。
「由香里君、年寄り孝行はいいが、今から仕事だぞ?もうちょっと気を引き締めるんだ。」
「だって嬉しいから。ウチのお爺ちゃんとお婆ちゃん、私が中学に上がる前に亡くなっちゃったんです。
こうしてると子供の頃にかえったみたいで。」
「そうか、じゃあ仕方ない。土偶が見つかるまでエンジョイしたらいいさ。」
「はい!あ、久能さんも後で揉んであげましょうか?」
「そこまで年寄りじゃない。」
「でも疲れた顔してます。意地張らないで。」
「じゃあ・・・お願いしようかな。実はこの前から股関節の調子が悪くてね。是非とも誰かに揉んでほし・・・・、」
「UFOから落としますよ?」
「冗談。」
怒る由香里君。やはりあそこのマッサージは無理だったか。
「なら儂が揉んでやるぞい。」
「え?」
「こう見えても儂、若い頃は按摩をやっとったんじゃ。」
「あ、いや・・・今のは冗談で・・・・、」
「股関節と言うとったな。ほれ、ズボンとパンツを脱げ。「
「あ、いや、ほんとに大丈夫ですから!ちょ・・・・ああああああ!!」
事態は予想もしない方向へ転がっていく。
土偶の企み、埴輪の思惑。
それにUFOの中で行われる、股関節へのマッサージ。
どれもこれも頭が痛くなることばかりだ。
唯一の救いといえば、爺さんのマッサージが気持いいこと。
もちろん変な意味じゃなくて。
施術を終える頃、俺の股関節は180度開脚するようになっていた。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第十二話 埴輪VS土偶(2)

  • 2017.07.14 Friday
  • 07:59

JUGEMテーマ:自作小説

古代ムー大陸の産物であるという不思議な埴輪。
そこにはなぜか茂美の魂が宿っていた。
そして茂美の魂は、俺と由香里君を古墳の中から救い出してくれた。
埴輪は不思議な光を放って、宙へ舞い上がっていく。
すると俺たちも宙に舞い上がった。
「久能さん!これって・・・・、」
由香里君が驚く。俺も驚く。
埴輪は外まで飛んでいき、それに引っ張られるように俺たちも外へ連れ出された。
「な、なんか知らんが助かった・・・・。」
ホっとして尻もちをつく。
あのまま古墳の中にいたら、人形たちにどんな目に遭わされていたか・・・・。
「久能さん!」
由香里君がしがみついてくる。
「あ、あれ・・・・、」
「ん?・・・・うおおおお!」
古墳の中からワラワラと人形が出て来る。
どうやら穴を這い上がってきたらしい。
「逃げるぞ由香里君!」
「はい!」
立ち上がって駆け出すと、目の前に埴輪が立ちはだかった。
「どけ!」
『待って。怖がることはないわ。』
「なに?」
『あの人形たちは敵じゃない。』
そう言って人形たちの方へ飛んでいった。
『この子達は味方よ。』
「味方だって?」
『そう、味方。』
「意味が分からない。なんでそいつらが味方なんだ?」
そう尋ねると、『うふふ』と笑った。
『共通の敵がいるからよ。』
『なんだそりゃ?』
「さっき私の偽物が逃げていったでしょ?あれがそう。」
「偽物って・・・・俺たちを殺そうとしたあの茂美か?」
『私も鈍ったわあ。まさかねえ、人形に身体を乗っ取られちゃうなんて。』
かなり気怠い声で言う。
やれやれと首を振りたいのだろうが、埴輪なので身体ごと動いていた。
「茂美さん、はっきり言って分からないことだらけだ。ここ最近の不可解な出来事、いったいどうなってる?」
『どうして私に聞くの?』
「むしろどうしてあんた以外に聞かないといけないんだ?」
『疑わしそうな目。もしかして私が一連の事件の黒幕だとでも思ってるの?』
「ああ。あんたならやりかねないからな。」
『さすがの私もここまで無茶はしないわ。若い頃ならやったかもしれないけど。』
「それが冗談に聞こえないからタチが悪い。」
『ふふふ、いいわ。何があったのか教えてあげる。でないと依頼も出来ないからね。』
「依頼だと?」
『ええ。』
「今さら何を依頼しようってんだ?今度は土偶でも探せというのか?」
『ご名答、さすがは久能さん。』
そう言ってクスクス笑う。
「冗談で言っただけだぞ?」
『冗談でも正解は正解。実はさっき逃げていった私の偽物なんだけど、あれは土偶が操ってるのよ。』
「まさか。」
『今度の特集で「古代アトランティスに存在したという謎の土偶!」っていうのをやる予定だったの。
それで色々と取材した結果、この人形塚の存在を知ってね。』
「よくこんな怪しい場所を見つけたな。」
『2ちゃんねるのオカルト板で誰かが言ってたのよ。』
「信じるなよそんなもん。」
『意外と当たりがあるのよ。月間ケダモノの大事な情報源。』
「どんな雑誌作りをしてるかよく分かるよ。」
呆れながら首を振る。
すると由香里君が「茂美さん?」と尋ねた。
「本物の茂美さんですか?」
『そうよ。』
「ほんとにほんとですよね?」
『ほんとにほんとよ。』
「茂美さん!』
ガバっと抱きつく。
茂美は『あらあら』と笑った。
「よかった!さっきの茂美さん、絶対に変だって思ってたんです。」
『怖い思いをしたわね。可哀想に。』
「お姉さんみたいに慕ってたのに、急に裏切られて・・・・すごいショックでした。
でも偽物だったんですね!あの茂美さんは。」
『私が由香里ちゃんをこんな目に遭わせるわけないじゃない。』
「そうですよね!茂美さんがこんな酷いことするはずないです!」
由香里君は嬉しそうに頷く。
俺は《そいつならやりかねないぞ》と心の中でツッコんだ。
『久能さん。』
「なんだ?」
『由香里ちゃんをこんな目に遭わせて。』
「なんで俺のせいなんだ?」
『だって私の偽物がこの子を連れて行ったからこんな事になったのよ?』
「ん?どういうことだ・・・?」
『十日前に由香里ちゃんが事務所を出ていったでしょ?私の偽物に連れられて。』
「え?いや、ちょっと待て・・・・ならあの時由香里君を連れて行ったのは・・・・、」
『偽物の私。』
「そんな・・・・・。」
『あれが本物の私なら、この子を連れて行くわけがないでしょ?
だって久能さん、由香里ちゃんがいないと死にそうなほど寂しがるじゃない。』
「まあ・・・なんだ、由香里君は俺の相棒だからな、その・・・寂しいというか、いてくれないと困るというか・・・、」
『意地っ張りね。』
クスクス笑って、『まあからかうのはこれくらいにして』と口調を正す。
『話を戻すけど、古代アトランティスの土偶を求めて、私はこの人形塚に来たわけよ。』
「そうかい。それでお目当ての土偶が見つかって、そいつに身体を乗っ取られたと?」
『そうよ。この人形塚には、埴輪と土偶の二つが眠っていたの。そしてそれぞれの傍に巻物が置かれていたわ。』
「巻物ってこれのことか?」
古文書を見せると、『そうよ』と頷いた。
『私が用があったのは土偶の方だから、それを手に取ったわけ。
そしたらその瞬間、意識が朦朧としてきてね。そして気がついたら身体を乗っ取られてたのよ。』
「ふむ、本当にあった怖い話でも採用しそうにない嘘臭さだな。」
『ほんとのことよ。あの土偶は私の体内に入ってきて、私の魂を追い出した。』
「肉体を失ったわけか。それでよく天に召されなかったな?さすがは茂美さん、妖怪じみた生命力だ。」
『チクチク皮肉を飛ばさないでよ。私は被害者なんだから。』
「何が被害者だ。2ちゃんねるの情報を信じて、ノコノコこんな所まで来たのが悪いんだろ。」
『まあねえ・・・こんな事になると分かってれば、もうちょっと慎重に事を運んだわね。』
『失敗失敗』とあっけらかんと笑っている。
こいつのメンタルはダイアモンドより硬そうだ。
『肉体を追い出された私の魂は、危うく昇天しかけたわ。でもその時にこの埴輪に助けられたの。』
「どういうことだ?」
『質問をされたのよ。埴輪と土偶、どっちが可愛い?って。』
「あんたもか?」
『私はどっちも同じレベルよって答えたの。そうしたらこの埴輪、すごく怒ってね。
だからあなたの方が可愛いわって褒めてあげたわ。
そうしたらほら!こうして私の魂を吸い込んで、天に召されないように助けてくれたの。』
茂美は嬉しそうに笑う。
俺は「チッ!」と舌打ちした。
『今舌打ちが聴こえたような気がしたんだけど?』
「歯の隙間に食べカスが挟まっていたんだ。気にしないでくれ。」
『私はしぶといの。そう簡単にこの世を去ったりしないわ。』
「よく知ってるよ。クマムシなみの生命力だってな。」
『褒め言葉として受け取っておくわ。』
さっきこいつのメンタルはダイアモンドなみだと思ったが、それは間違いだ。
メンタルだけでなく、生命力も桁外れだ。
「で、それからどうなった?あんたはずっとここに閉じ込められていたのか?」
『いいえ、一時的に抜け出したわ。』
「抜け出した?」
『この人形塚に、とあるマネキンが眠っていたの。その子はホンジョウユカリって名前でね。』
「ホンジョウ・・・・、」
「ユカリ・・・・・・。」
由香里君と同時に呟く。
『埴輪がね、そのマネキンを使って、ここから出ろって言ったの。
そしてあの土偶を止めてくれって。
誰か頼りになる者の手を借りて、なんとしても土偶を取れ戻せってね。』
「ちょっと待て!ということは・・・・、」
『そう、ホンジョウユカリは私。』
「・・・・・・・・・。」
言葉がない。
何を言えば適切なのか、俺のボキャブラリーの範疇を超えていた。
しかし由香里君はそうではなかった。
このなんともアホな真実に対して、質問する言葉を持っていた。
「あの・・・ちょっといいですか?」
『何かしら?』
「そのマネキンって、もう自分の魂は失っていたんですよね?」
『そうよ。』
「だったらそのマネキンが抱えていた私への恨み・・・・どうして茂美さんが知ってるんですか?」
『?』
「だって久能さんが言っていました。私の話題になると、鬼のように怒り狂うって。」
『ああ、そのこと。』
茂美はなんでもないことのようにクスっと笑う。
『そのマネキンがね、手紙を握りしめていたのよ。』
「手紙?」
『ある女の子への恨みつらみを綴った手紙を。』
「そ、それってまさか・・・・、」
『そう、由香里ちゃん。』
「・・・・・・・。」
由香里君の顔が青くなる。
ヨロヨロとよろけて、今にも昇天しそうになった。
「大丈夫か?」
肩を支えると、「ちょっとトラウマが加速して・・・」と頭を押さえた。
『あのマネキンの恨み、相当なものだったみたい。』
「内容は言わないで下さい・・・・きっと気絶しちゃう。」
『まあねえ、無関係の私が呼んでも、ゾッとする文章だったわ。
自力でここまでやってきた後に、最後の力を振り絞って書いたみたい。』
茂美は『怖いわねえ』とため息をつく。
由香里君は何も言えずに放心していた。
『そのマネキンの身体を借りた私は、すぐに久能さんの会いに行くことにしたわ。
なんたってこんなオカルトじみた事件を解決できるのは、あなたしかいないからね。』
「俺しか引き受けないからの間違いじゃないのか?」
『ふふふ、卑屈になっちゃダメよ。これでも久能さんを信頼してるんだから。』
「どうだか。」
『だけど私が会いに行くと、なんとそこには偽物の私がいるじゃない。
しかも上手いこと言って、由香里ちゃんを引き抜こうとしている。』
「あんたあの時いたのか!?」
『ドアの向こうからじっと見てたのよ。』
「ホラーだな・・・・。」
『助けてあげたいけど、どうにも出来ない。そこで私は、自分の家に向かったわけ。
そして偽物の私が帰ってきたところで、襲いかかったのよ。』
「襲うだと?」
『奇襲をかければ勝てると思ってね。』
「すごい根性だな。あんたらしいよ。」
『でも勝てなかった。だって向こうは巻物を持っていたから。
あっさりと凍らされて、一晩中冷凍庫にぶちこまれたわ。』
「あんたの家はずいぶん大きな冷凍庫があるんだな。」
『それなりに儲けてるからね。』
「なんとも羨ましい。俺もオカルト雑誌を作ろうかな?」
『なら私の出版社へ・・・・、』
「冗談だ。それで・・・あんたは氷漬けにされた。その後はどうなった?」
『ご存知の通りよ、私は久能さんの元に連れて行かれた。』
「どうして俺の元へ持ってきたんだ?その辺にでも捨てておけばよかっただろうに。」
『監視させる為よ。』
「監視?」
『久能さんは超能力探偵だからね。誰かから依頼を受けて、あの人形塚を調べるかもしれない。
もしそうなった時、それを阻止するように言われていたの。最悪は殺しても構わないってね。』
「・・・・・・・・。」
『あら、いいわねその顔。ピンで張り付けられたみたいに引きつってる。』
「笑うところか。あんたは俺を殺そうとしていたってことだろ?」
『やろうと思えばできたわね。でも心配しないで、久能さんを殺したら、あの土偶を連れ戻せなくなる。
そうなれば私の身体だって戻って来ないわ。』
「自分の身体が戻ってくるなら、俺を殺してたか?」
『・・・・・・・・・・。』
「なぜ黙る!?」
『怖がるかなと思って。』
「だから笑うな。まったく・・・あんたと関わると本当にロクなことがない。心臓に悪いよ。」
いったいこいつの脳ミソはどうなっているのか?
もしかしたら宇宙からやってきた謎の生命体なのかもしれない。
やれやれと思いながら目を逸らすと、爺さんたちの亡骸が目に入った。
「爺さん、朝上女史・・・・・。」
ここまで案内してくれた人形たちが、魂の抜け殻となって横たわっている。
朝上女史は熊のぬいぐるみに戻っているし、爺さんは日本人形に戻っている。
カラスは剥製に、忍者と新藤さんはマネキンに・・・・。
「なんて惨いことを。」
膝をつき、そっと手を合わせる。
『久能さん、悲しんでいる暇はないわ。』
「ああ・・・・なんとしてもその土偶を捕まえないと。
ショッピングモールのマネキン騒動、不時着した宇宙人一家、今までに起きた怪奇現象は、きっとその土偶が関わっているんだろう?」
『そうよ。奴はある目的の為に動いているの。
だから他の人形たちに魂を宿し、仲間を増やそうとしている。
そして宇宙人にまで接触して、大きな力を手に入れようとしたわ。
このまま放っておけば、地球は人形が支配する星に変わってしまう。』
「ずいぶんとワールドワイドな話になってきたもんだ。一探偵の俺に解決できるかな?」
『出来るわ、だってあなたは超能力探偵だもの。』
茂美はクスっと笑いながら、空高く浮かび上がった。
「おい!どこへ行く?」
『ちょっとUFOをね。』
「なに?」
意味不明なことを言い残し、どこかへ飛び去っていく。
するとその数分後、茂美は巨大なカボチャと連れて戻ってきた。
そのカボチャは光り輝いていて、ふわふわと空に浮かんでいる。
「あれは・・・まさか・・・・、」
息を飲んで見守っていると、カボチャの中から爺さんと婆さんが出てきた。
「あ!あんたたちは・・・・、」
「おう探偵さん!」
「また会ったな。」
大滝秀治似の爺さんと、志村けんがコントの時に演じるような婆さんが出て来る。
「あんたらは宇宙人一家の事件の時の・・・・、」
「見てくれ!斎藤さんからもらった肥料を使ったら、こんなに大きなカボチャが出来た。」
「さすがは宇宙人、良い肥料を使ってる。」
「そういう問題じゃないだろ・・・・。」
この二人はどこかズレている。
「久能さん・・・・これっていったい・・・・、」
由香里君が信じられないという風に首を振る。
「あれはUFOさ。」
「UFO・・・・・。」
「宇宙人の家族が作り方を教えてくれたんだ。ちなみに元はただの野菜だ。」
「へ、へえ・・・・私の知らない間に、ずいぶんと科学はすすんでいたんですねえ〜。」
いつもと違う変な口調になっている。
立て続けに起きた怪奇現象に、思考とメンタルがついていっていないようだ。
「深く考えるな。頭が痛くなるぞ。」
「・・・・・・・。」
「ふむ、もはや無我の境地って顔だな。もうちょっと頑張れば悟りが啓けそうだ。」
今日は普段見られない由香里君の顔が拝める。
面白いのでほっぺをつついた。
そこへ茂美がやって来て、『行くわよ』と言った。
「ん?」
『UFOに乗って。』
「・・・・はい?」
『由香里ちゃんも。』
「・・・・・・・・・。」
『急がないとまた土偶が悪さをするわ。』
そう言って『やってちょうだい!』とUFOに向かって叫んだ。
爺さんと婆さんは親指を立て、カボチャから光を飛ばした。
「うおッ・・・なんだこれは!?」
光を受けた俺と由香里君は、宙へ浮き上がる。
そしてゆっくりとカボチャの方へ吸い寄せられていった。
「おい茂美さん!いったい何をするつもりだ!?」
『ふふふ、それはUFOに乗ってのお楽しみ。』
「だから笑うところじゃないだろ!」
空に浮かぶカボチャ、宙を舞う埴輪。
そしてそのカボチャへ吸い寄せられていく俺と由香里君。
「久能さん、これ夢ですよね?」
とうとう現実逃避を始めた由香里君。
「夢だったら怖くないですよね!」と、不健康な笑顔を見せる。
《根が真面目な子だからなあ。波状攻撃で襲いかかってくる怪奇現象に耐えられなかったか。》
事が終わったら、何か美味しいものでもご馳走してあげよう。
ていうか俺も現実逃避したい気分だ。
由香里君を抱き寄せ、「俺がついているからな」と励ます。
そしていつものノリでお尻を撫でると、鼻づらに鉄拳がめり込んだ。
「夢でもシバきますよ。」
「それでこそ由香里君・・・・戻って来てくれて本当に嬉しいよ。」
鼻血を出しながら嬉しいとホザく俺は、来るところまで来ているのだろう。
「やっぱり俺の相棒は君じゃなきゃ。卒業後も頼むよ。」
ポンと胸にタッチする。
由香里君はニコリと微笑む。
鼻の穴から脳ミソが噴き出そうなほどのカカト落としを喰らった。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第十一話 埴輪VS土偶(1)

  • 2017.07.13 Thursday
  • 08:04

JUGEMテーマ:自作小説
ここは暗い古墳の中。
人形を弔うための共同墓地だ。
深さは五メートルほど。
中にはたくさんの人形が眠っていて、マネキン、ぬいぐるみ、剥製や日本人形など、種類は様々だ。
そんな薄気味悪い場所で、由香里君と再会した。
俺の元を去ってから10日ほどしか経っていないが、とても懐かしく感じた。
しかし茂美のせいで俺たちは死にかけた。
ブリザードのような冷気を見舞われて、危うく凍死しかけたのだ。
しかしとある埴輪のおかげで助かった。
古代ムー大陸のオーパーツ、謎の埴輪。
こいつが冷気を消し去り、俺たちの命を救ってくれた。
「お前のおかげで助かったよ。礼を言う。」
手のひらサイズほどの小さな埴輪。
そいつを握り締めながら礼を言う。
すると由香里君が「何が起きたんですか?」と尋ねた。
「いきなり寒さが消えて、久能さんも私も助かったけど・・・・、」
「こいつのおかげさ。」
「埴輪?」
「意識が朦朧とする中、こいつが語りかけてきたんだ。『埴輪と土偶、どっちが可愛い?』って?」
「なんですかそれ?」
「分からない。でも俺はこう答えたよ、埴輪の方が可愛いと。そうしたらほら、こうして助かったってわけさ。」
肩を竦めながら、クスっと笑う。
「不思議な埴輪ですね、それ。」
「こいつを手に入れた者は、どんな願いも叶うという。」
「茂美さんもそう言っていました。でもその為には・・・・、」
「生贄だな?」
「ええ。私ったらそれを知らずに、茂美さんに利用されて・・・・。久能さんが助けに来てくれなかったら、今頃は・・・、」
「でもこうして助かった。その先は言わなくていいさ。」
彼女の口に指を当てる。
「さて、助かったはいいけど、問題はどうやってここから出るかだ。」
スマホのライトを上に向ける。
かなり深い穴なので、登るのは無理だろう。
由香里君は自分のスマホを取り出し、どこかへ電話しようとした。
しかし「ダメだ・・・」と首を振った。
「圏外です。」
「だろうな、かなり深い山だから。」
「でもどうにかしてここから出ないと。」
力強い目で上を睨む由香里君。
じっと何かを考えこんでいる。
「ねえ久能さん。」
「ん?」
「私・・・あそこまで飛べるかもしれません。」
「無理だよ、いくら君の健脚でも。」
「一人なら無理だと思います。だけど久能さんが手伝ってくれるなら・・・・。」
そう言って「こうやって」と、レシーブのように手を組んだ。
「おお、なるほど!忍者が壁を登る時みたいに、君を持ち上げればいいんだな?」
「そうです。久能さんの力と私の力、二つ合わせればここから出られるはずですよ。」
由香里君は自信満々に頷く。
確かに彼女の脚力なら可能かもしれない。
この脚がいかに強力かということは、身を持って知っている。
「よし!じゃあやるか。」
「はい!」
俺は壁際に立ち、レシーブのように手を組む。
「いつでもいいぞ。」
「じゃあ・・・・行きます!」
由香里君は軽く助走をつけて、俺の手を踏み台にした。
「とおりゃ!」
「たあああああ!」
彼女がジャンプするタイミングに合わせて、腕を持ち上げる。
すると見事なジャンプで上まで飛んで・・・・・・、
「ああ!」
「由香里君!」
あと少しの所で届かない。
落ちてくる由香里君をか抱えようとしたが、身軽な彼女は一人で平気だった。
シュタっと着地して、「もう一回!」と叫ぶ。
「おう!」
さっきと同じようにジャンプする。
しかし残念・・・・あと一歩届かない。
何度も何度もチャレンジしたが、ギリギリの所で上手くいかなかった。
やがて俺の手が痺れてきて、「ちょっと休憩させてくれ・・・」と言った。
「大丈夫ですか?」
「平気さ、ちょっと休めば。」
手をブラブラさせながら強がってみせる。
「座った方がいいですよ。」
「そうだな・・・・って言っても、そこらじゅう人形だらけだからなあ。」
「私も助走つける時に踏んじゃいました。でも今は仕方ないですよ。」
「かつて魂を持っていた人形たち・・・・座るのは忍びないが・・・・、」
悪いとは思いつつ、なるべく大きなぬいぐるみの上に腰を下ろす。
俺が落ちてきた時にクッションになってくれた、アノマロカリスのぬいぐるみだ。
「ねえ久能さん。」
体育座りのように足を抱えながら、由香里君が口を開く。
「どうして久能さんはここへ来たんですか?」
「ああ、そういえばまだ言ってなかったな。こいつを探しに来たんだ。」
俺は手のひらの埴輪を見せる。
「実は君の代わりにやって来た助手がいてね、そいつはマネキンなんだよ。」
「マネキン!?」
「茂美が連れてきた。」
「・・・・・・・・。」
「いいねその表情、あらゆる負の感情が詰まってる。」
「絶対にまともなマネキンじゃないですね、それ。」
「ああ、まともじゃない。それを今から説明するよ。」
俺は由香里君がいない間の出来事を話した。
ショッピングモールのマネキンの騒動、不時着したUFOと宇宙人の一家。
そして由香里君の代打を務めているマネキンが、消滅の危機にあることを。
「・・・・というわけなのさ。元々は茂美の依頼だったんだけど、今は違う。
どうもあのマネキンを見捨てることが出来なくて・・・・、」
そう言いかけたとき、由香里君が顔を近づけてきた。
「お、おい・・・どうしたんだ?」
「そのマネキン・・・・、」
「うん・・・・、」
「私、知ってるかもしれません。」
「なんだって?」
「だって私に恨みを持ってるんでしょ?」
「ああ。君の話題を出すと、顔が般若のごとく歪むんだ。そして髪の毛はヤマタノオロチになる。」
「だったらやっぱりそうだ・・・。」
「何か心当たりが?」
「はい。けっこう昔のことなんですけど・・・、」
由香里君の表情が強ばる。
俺も表情を引き締め、耳を傾けた。
「あれはまだ私が中学生だった頃です。学校の帰り道にあるゴミ捨て場に、マネキンが捨てられていたんです。
あちこち汚れてて、すごく不気味な感じでした。」
「そりゃ不気味だろう。普通はゴミ捨て場にそんな物はないからな。」
「私も友達も怖くなって、すぐに帰りました。だけどその夜、夢にそのマネキンが出てきたんです。」
「なに?」
「それで私にこう言ったんです。私を人形塚に連れて行ってほしいって。
それはとある山の中にあって、案内するからお願いって。」
「人形塚・・・・それってまさか・・・、」
「きっとここの事だと思います。だけど私は断りました。だって怖いから・・・。」
「俺でも断るさ。」
「あの時はまだ空手もやってなかったし・・・、」
「それは関係ないと思うけど。」
「でも空手をやるまでは、けっこう引っ込み思案だったんですよ。
そのクセ正義感だけは強くて、何もできずに自分にイライラって感じでしたから。」
「ほう、君にもそんな時代があったとはな。」
本気で驚いていると、「今はそんな話はいいですね」と笑った。
「ええっと・・・マネキンが夢に出てきて、その時は断ったんです。
だけどすごく気になるから、次の日学校へ行く途中に、そのマネキンに会いに行ったんです。
そうしたらどこにもいなくなってて・・・、」
「回収されたのか?」
「だと思います。他のゴミも失くなってたから。だけどその日もまた夢に出てきたんです。
私は怖くなって、急に目が覚めました。それでトイレに行こうと思って電気を点けたら・・・・、」
「点けたら・・・・・?」
「いたんです、私の部屋に。」
「・・・・・・・・。」
背筋がゾクっとする・・・・。
まさかホラー話を聞かされるとは思わなかった。
「顔色悪いですよ?」
「気持ちよく聞ける話じゃないからな。でも続きが気になる。その後はどうなったんだ?」
「声も出ないほど怖かったですよ。でも逃げなきゃって思って、ドアに向かって走ったんです。
そしたら長い髪が巻きついてきて・・・・、」
「それなんかのテレビ番組に送るといい。心霊特集とかで採用されるぞ。」
「いいですよそんなの。」
由香里君はツンと唇を尖らせる。
「すまん、話の腰を折ってしまったな。」
手を向け、先を促す。
由香里君は唇を尖らせながら話した。
「足に髪が巻きついてきて、そのまま引きずられたんです。
このままじゃ殺れるって思って、大声を出そうとしました。
でも口まで塞がれて・・・・。」
「かなり怖いな、トラウマになりそうだ。」
「ほんとに怖かったですよ。いま思い出してもゾっとします。」
その割には平気な顔をしている。
きっと芯が強いせいだろう。
彼女と結婚する男は、確実に尻に敷かれるだろうな。
「もうほんとにヤバいって思って、とにかく暴れまわったんです。
そしたらそのマネキンはまたお願いしてくるんですよ。
私を山へ連れて行ってって。私は嫌だって首を振りました。
それで近くにあった花瓶を掴んで、思い切り頭を叩いたんです。」
「さすがは由香里君、空手をやる前でもじゅうぶん強いじゃないか。」
「とにかく必死でしたから。それでマネキンの髪が緩んだ隙に、どうにか抜け出したんです。
そうしたらそのマネキン、『助けて!』って叫んだんです。」
「助けて?」
「はい。それもすごく必死な感じで。だからちょっと気になって、どうしたの?って聞いたんです。」
「ふむ、やはり由香里君だ。普通ならそこまで『どうしたの?』なんて聞けない。」
「だってすごく必死だったから。何か困ってるのかなと思って。」
「で、マネキンはなんと?」
「山へ連れて行ってほしいって。そこには人形を弔う古墳があって、そこへ入れてほしいんだって。
私はもうすぐ消えてしまうから、あなたにお願いしたいって。」
「なるほど・・・・。」
俺は辺りにライトを向ける。
所狭しと並んだ人形は、魂を失った亡骸だ。
人が死ねば墓に入るのと同じく、あのマネキンもまたここへ弔ってほしかったのだろう。
「私は聞きました。どうしてそれを私に頼むのって?」
「もっともな質問だな。他にも大勢人間はいるのに。」
「ですよね。でもちゃんと理由があったみたいで。」
「どんな?」
「名前が同じだからって言うんです。私はホンジョウユカリ、あなたも本条由香里。
学校の帰り道で私と出会った時、友達からそう呼ばれてるのが聞こえたみたいで。」
「同姓同名だから、何か運命的なものでも感じたのかな?」
「そう言ってました。たまたま通りかかった人が、自分と同じ名前だった。
これは神様の計らいに違いないって。」
「ふうむ・・・・気持ちは分からんでもないけど、君にとっちゃ迷惑な話だな。」
「最初は怖かったけど、でもだんだんと可哀想になってきたんです。
だってもうすぐ死んじゃうんだって思ったら、山へ連れていってあげるくらいならいいかなって。」
「優しいな。それで本当に連れて行ってあげたのかい?」
「場所を聞いたら信州だって言うから、ちょっと遠いなと思って。
だからお父さんに車を出してもらえないか聞いてくるから、ちょっと待っててって言ったんです。」
「お父さんもとんだ災難だな。」
「すぐにお父さんを起こして、事情を話しました。でも全然信じてくれなくて。」
「そりゃそうだ。でも君の性格からすると、諦めずに説得したんだろう?」
「はい。お父さんは『怖い夢でも見たんだろ?』って笑ってました。
それで渋々って感じて、私の部屋まで来てくれたんです。
だけどそのマネキンはいつの間にかいなくなってて。」
「逃げたのか?」
「分かりません。だけど床に長い髪が散らばって、文字みたいになってたんです。
あんたを許さない、絶対に呪ってやるって。」
「またホラーに逆戻りか。その話、ぜひ夏に聞きたかったね。」
「・・・・・・・・。」
「冗談、そう怒るな。」
唇だけでなく、頬まで膨らませている。
これはこれで可愛らしい表情で、もう少し見ていたい。
しかしすぐに真顔に戻り、「その時から・・・」と続けた。
「しばらく間、誰かの視線を感じるようになったんです。きっとあのマネキンが呪いに来たんだろうって怖くなりました。
だけどお父さんは全然信じてくれないし、床に散らばった髪を見ても『お前のイタズラだろ?』って笑ってるだけで。
お母さんも同じで、『怖い夢見ただけよ』って。
友達はちょっとは信用してくれたけど、でも中学生ですからね。何か出来るわけじゃないから、結局どうにもならなくて。」
「まるでストーカーに遭ってるような恐怖だったろうな。さぞ怖かったろう?」
「ほんとにもう・・・・。だけどある日を境に、ピタっと視線を感じなくなったんです。
私はホっとして、あれはただの夢だったんだって自分に言い聞かせて・・・・。
それから何年も経って、すっかり忘れてました。その時のこと。」
「そんな出来事を忘れるなんて、肚が据わってるというか、鈍いというか・・・・、」
「・・・・・・・。」
「だから冗談、そう睨むな。」
ポンポンと頭を撫でると、拗ねるようにそっぽを向いた。
「でも一つ疑問だな。」
「何がです?」
「だってそのマネキンはもうすぐ消えてしまうって言ってたんだろう?」
「はい。だからここへ来たがってたみたいで。」
「でもまだ生きてる。消えかけてるけど、ちゃんとまだ生きてるんだよ。どうしてだろう?」
「私に聞かれても分かりません。何か秘密があるんじゃないですか?」
「秘密ねえ・・・・。」
ここ最近立て続けに起こった、不可解な出来事。
マネキンの騒動、不時着した宇宙人一家、この人形塚、不思議な埴輪。
そして・・・・茂美。
これら不可解な出来事は、果たして偶然だろうか?
・・・・いや、そんなはずはない。
一つ二つなら偶然ですむだろうが、こうも立て続けに起きては・・・。
「どこかで一つに繋がっているのかもしれないな。」
手のひらの埴輪を見つめながら、「お前が犯人じゃないのか?」と睨んだ。
「不思議な力で不可解な現象を起こしているんだろう?」
そう語りかけるも、返事はない。
さっきは奇跡を起こしてくれたのに、今はウンともスンとも言わなかった。
「分からない事だらけだよまったく。」
うんざりして首を振る。
すると由香里君が「いやあ!」と叫んだ。
「どうした!?」
「に、人形たちが・・・・、」
由香里君は震えながら指をさす。
「こ、これは・・・・、」
俺も彼女と同じで震えそうになる。
なぜなら穴の中で眠りについていた人形たちが、ワサワサと動き出したからだ。
クッション代わりにしているアノマロカリスのぬいぐるみまで、モソモソと動き出した。
「きゃああ!久能さん!」
「クソ!なんだいきなり!こいつら死んでるんじゃないのか?」
どの人形もゾンビのように動き出す。
今すぐ逃げ出したいが、ここは深い穴の中。
しかも前後左右、そして足元まで人形だらけときている。
逃げ場はどこにもなく、二人して怯えるしかなかった。
「久能さん・・・・なんなんですかこれ?どうしていきなり・・・・、」
「分からん!分からんが・・・・戦うしかなさそうだ。」
俺は古文書を取り出す。
バリバリと電気が走り、人形たちを威嚇した。
するとその瞬間、突然手の中が熱くなった。
「な、なんだ!?」
『埴輪の方が可愛いだしょ。』
「お前・・・また不思議な力を発揮するつもりか?」
埴輪は熱を増し、思わず「熱ッ!」と捨ててしまった。
その瞬間、パアアっと光って、よく知る声が響いた。
『久能さん。』
「こ、この声は・・・・、」
『私よ。』
「茂美さん!?」
なぜかは分からないが、埴輪から茂美の声が聴こえる。
「久能さん、これって・・・・、」
由香里君も引きつる。
ギュッと俺の腕にしがみついて、後ろへ隠れた。
『久能さん、私よ。茂美よ。』
また茂美の声が響く。
《どうして?なんで埴輪から茂美の声が?いったい何がどうなっているんだ!?》
ガチコンコファイトクラブばりに、熱いナレーションでツッコんでしまう。
誰も予想だにしなかった異様な事態!
吹き荒れる混乱の嵐!
いったい・・・・どうなってしまうのか!?

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第十話 おかえり由香里君(2)

  • 2017.07.12 Wednesday
  • 12:44

JUGEMテーマ:自作小説

人形たちに案内されて、山頂までやって来た。
周りは高い木々に囲まれていて、眼下の景色が見えない。
頂上までやって来たのに見晴らしが悪いとは、なんとも気の利かない山だ。
だが今はそんなことはどうでもいい。
ここへ来た目的はただ一つ、ムー大陸の埴輪を手に入れることなのだ。
俺は目の前を睨みつける。
そこには小さな古墳があって、こんもりと土が盛り上がっていた。
正面には入り口があり、しゃがまないと通れないほと低い。
奥は真っ暗で、異界へ続く道のように不気味だ。
「これが人形塚?」
振り向くと、爺さんが「そうじゃ」と頷いた。
「人形の魂を鎮める場所じゃ。」
「なるほど、魂を宿してしまった人形の墓ってわけか。」
「共同墓地みたいなもんじゃな。古墳の中にはたくさんの人形が眠っておる。」
「ふむ。それはそうと、話す時くらい地中から出てきたらどうだ?」
爺さんはツルピカの頭だけを出している。
なかなかシュールな光景だ。
「この方が落ち着くんじゃ。」
「俺は話しづらい。」
「ふん、仕方ないな。」
そう言ってニュルニュルっと出て来る。
何度見ても慣れない登場の仕方だ。
「古墳の中には大勢の仲間が眠っておる。その中に埴輪もおる。」
「ならその埴輪も、かつては魂を宿していたということか?」
「うむ。というより、その埴輪こそが他の人形に魂を宿していたんじゃ。」
「どういうことだ?」
「儂らのボスということじゃ。」
「ボス?」
「ここにいる者たちは皆、あの埴輪のおかげで魂を宿したのじゃ。」
そう言って忍者や朝上女史を振り向く。
「なるほど、自然に宿ったわけじゃなかったのか。」
「当たり前じゃろ。元々が生き物ではないのに、魂を宿すわけがなかろう。
マネキンもぬいぐるみも、それに剥製も・・・・みんなあの埴輪のおかげで命を得たのじゃ。この儂もな。」
「爺さんもか!?ならあんたも・・・・、」
「人形じゃ。」
ツルピカの頭を光らせながら、ニカっと笑う。
「元は日本人形でな。」
「日本人形?あれは女の子の姿じゃないのか?どうしてそんな爺さんになってるんだ?」
「宿ったのが爺さんの魂じゃったんじゃ。」
「それはつまり・・・・あんたの魂は、元は人間の爺さんだったってことか?」
「そうじゃ。」
「ならそこの忍者も、そして朝上女史も・・・・、」
「みんな元々は人間の魂じゃ。そこのカラスも。」
「なんてことだ・・・・そんなオカルトじみたことが起きていたなんて。」
愕然とするしかなかった。
今まで散々『月間ケダモノ』を馬鹿にしていたのに、まさかここまでオカルトが浸透していたなんて・・・・。
「驚くのも無理はない。じゃが今は埴輪を手に入れるのが先じゃろう?」
「ああ、そうでなければ、ユカリ君が消滅してしまう。」
俺は古墳の入口を睨む。
「中に危険は?」
「ない。」
「そうか、なら行ってくる。」
スマホのライト機能をオンにして、狭い入口に入って行く。
しゃがまないといけないほど低い・・・・・。
「あ、ちょっと待って。」
朝上女史が駆けてくる。
「危険はないけれど、気をつけて下さい。」
「どうして?ただ埴輪を取って来るだけだろう?」
「そうなんだけど、探偵さんにとってはショックな事実がこの中に・・・・、」
「ショック?どんな?」
「行けば分かりますわ。」
意味深なことを言う。
ちょっと不安になるじゃないか。
「そういえばさっき、頂上に来れば俺の大切な人がどうとか言っていたな?それと関係があるのか?」
「モロに。」
「モロか・・・・。」
この古墳の中には、いったいどんな秘密が潜んでいるのか?
不安を感じつつ、狭い入口へ入った。
「ほんとに狭いなこの入口・・・・。」
あまりに天井が低いので、四つん這いで進んでいく。
すると先の方に深い穴が出てきた。
かなり不気味だが、調べないわけにはいかない。
「いったい何があるってんだ?」
意を決してライトを向ける。
するとそこには・・・・、
「そ、そんな!これはいったい・・・・、」
穴の中には無数の人形が眠っていた。
マネキン、ぬいぐるみ、剥製、日本人形に西洋人形、プラモデルまである。
様々な人形たちが、所狭しと身を寄せ合っている。
しかし俺が驚いたのはそのことではない。
ここは人形塚なのだから、こういう光景があるだろうということは予想していた。
俺が驚いたのは・・・・・驚いたのは・・・・、
「由香里君!!!」
我が事務所の助手、超能力探偵久能司の最高のパートナーが、穴の中で横たわっていた。
大勢の人形に囲まれて、眠り姫のように目を閉じている。
「由香里君!由香里君!!」
何度も大声で呼びかけるが、返事をしない。
いったいなぜこんな所に彼女が・・・・いや!今はそんなことを考えている場合ではない。
「由香里君!今行くからな!」
穴は深い、きっと5mくらいはあるだろう。
しかし由香里君を助ける為だ。
俺は意を決して飛び込んだ。
「とおりゃあ!」
暗い穴の中を落ちていき、人形たちの上に倒れた。
「ぐはあ!」
背中を・・・背中をモロに・・・・、
だがぬいぐるみがクッションになってくれたおかげで、そう大きな怪我はしなかった。
「助かったよ。」
巨大なアノマロカリスのぬいぐるみに礼を言う。
そしてすぐに由香里君に駆け寄った。
「由香里君!しっかりするんだ!!」
「・・・・・・・・。」
「由香里君!!」
抱いた肩には体温がある。
呼吸もしているようだし、心音も聴こえる。
「よかった・・・。」
とりあえず生きている。
もしかしたらという最悪の状況が過ぎったが、息があることにホッとした。
「由香里君!分かるか!?俺だ!久能だ!」
大声で呼びかけながら、軽く頬を叩く。
「由香里君!」
抱き起こし、「しっかりしろ!」と揺さぶる。
するとその時、眠り姫のように組んでいた手から、ポロリと何かが落ちた。
「これは・・・、」
由香里君の膝に落ちた、小さな何かを拾う。
「・・・・埴輪。」
手のひらサイズほどの小さな埴輪、イヤミの「シェー」みたいなポーズをしている。
頭には長い紐がついていて、ネックレスのようなアクセサリーにも見える。
「これが古代ムー大陸の埴輪か・・・・。」
これを手にした者は、どんな願いも叶うという。
「これさえあれば、ユカリ君を助けてやれるな。だが今は・・・・、」
今はこっちの由香里君を助ける方が先だ。
「由香里君!しっかりしろ!」
何度も揺さぶっていると、「んん・・・」と目を開けた。
「おお!気づいたか!?」
「・・・・・久能さん?」
「そうだ!俺だ!」
やっと目を開けてくれてホッとする。
「由香里君・・・・いったいどうしてこんな所に・・・・、」
「久能さん!!」
由香里君はガバっと抱きついてくる。
「お、おい・・・・、」
「怖かった・・・・怖かったあああああああ!」
大声で叫んで、ワンワンと泣き出す。
《由香里君・・・・。》
俺はそっと彼女を抱きしめる。
いつだって気丈でまっすぐな彼女が、こんな大声で泣くなんて初めてだ。
ナイフを持った暴漢にだって、毅然と立ち向かったことがあるのに・・・・。
「なあ由香里君、いったいどうしたんだ?何があった?」
ポンポンと背中を撫でながら、涙を拭ってやる。
由香里君は「ごめんなさい・・・」と呟いて、すぐに涙を引っ込めた。
ズズっと鼻をすすりあげ、いつもの強気な表情に戻る。
《さすが根が強いだけあって、もう泣き止んじまった。》
もうちょっと泣いてくれていてもいいのにと思う。
こんな由香里君を見るのは新鮮だし、こうやって彼女をあやすなんて今までになかった。
出来ればもうちょっと甘えてほしかったが、どうやらその気はないようだ。
由香里君は自分の足で立ち上がり、パンパンと頬を叩いた。
「油断しました。」
「なに?」
「私・・・・あの人に騙されていたみたいです。」
「あの人?」
俺も立ち上がり、「いったい誰のことだ?」と尋ねた。
「君は俺の相棒だ。世界でたった一人のな。」
「久能さん・・・。」
「代わりなんて利かないほど大事な人だ。だからこんな目に遭わせた奴を許さない。」
ガシっと由香里君の肩を掴んで、「誰だ?」と詰め寄る。
「君を騙し、傷つけた奴は誰だ?」
「・・・・・・・・・。」
「どうして黙る?言いにくいことでもあるのか?」
「・・・・自分でも信じられないんです。なんであの人が・・・・、」
「迷うことはない。誰が相手だろうと、君をこんな目に遭わせた奴は万死に値する。」
怒りが燃えて、眉間に皺が寄る。
「頼む、教えてくれ。君は誰にこんな目に遭わされたんだ?」
まっすぐ見つめながら、答えを待つ。
するとぼそりと呟いた。
「茂美さんです・・・・。」
「なんだと?」
「あの人が・・・・私をここへ・・・・、」
「そんなまさか!どうして茂美の奴が・・・・、」
そう言いかけたとき、どこからか「ふふふ」と声が響いた。
「感動の再会は終わったかしら?」
「この声は・・・・、」
頭上にライトを照らす。するとそこには・・・・、
「茂美さん!」
「こんにちわ、久能さん。」
腰に手を当てながら、妖艶な色気を振りまく。
「どうしてアンタがここに!?」
「うふふ・・・どうしてかしら?」
わざとらしく言って、色気のある笑みを飛ばす。
すると由香里君が「茂美さん」と前に出た。
「どうしてですか?どうして私をこんな目に・・・・、」
「生贄にする為よ。」
「生贄?」
「そう、埴輪を復活させる為に。」
意味深なことを言いながら、また笑みを飛ばす。
「何がなんだかサッパリって顔してるわね?」
「当然です。だって茂美さんが私を騙すなんて・・・・そんなの信じられないから。」
由香里君は悲しそうに俯く。
「私は一人っ子です。だからずっと兄弟に憧れてました。
茂美さんは頼りになるし、いつも私たちのことを気にかけてくれるし、だから・・・・姉のように慕ってました。
それなのに・・・・どうしてこんな事を・・・・、」
ギュッと拳を握る由香里君。
目には薄っすらと涙が。
「教えて下さい!どうして・・・どうしてこんな事したんですか!?」
そう言って俺の手から埴輪を奪い取る。
「茂美さんは言ってましたよね?古代ムー大陸の埴輪で特集を組むって。
それで私に助手として手伝ってくれって。」
「ええ。」
「それでこの山へ来て、ここに入れられて・・・・。
なにも危険はないから、この埴輪を握ってろって・・・・。」
「それはどんな願いも叶えてくれる埴輪。だけどその為には生贄が必要なの。」
「でもそんなこと一言も言わなかったじゃないですか!
何も危ないことはないって・・・ただこの穴に入って、これを握っていればいいって。」
茂美に見せつけるように、高く埴輪を持ち上げる。
「だけどここに入ってこれを握った瞬間、意識が朦朧としました。
それで・・・・私の魂が、この埴輪に吸い取られそうになったんです。」
表情に恐怖が戻る。
俺は「それは本当か?」と尋ねた。
「本当です。もしあのままだったら、今頃私は・・・・、」
「もういい。もう・・・・よく分かった。」
由香里君の手から埴輪を奪う。
こんな危険な物、彼女に持たせておくわけにはいかない。
「詳しい事情は分からないが、あんたは由香里君を利用したんだな?」
茂美に埴輪を向けると、不敵に微笑んだ。
「茂美さん、俺は今まであんたのことを信頼していたよ。
いつも下らない依頼ばかり持ち込むし、厄介なトラブルも引き起こす。
しかしあんたのおかげで助かっていたのも事実だ。」
「褒めてくれて嬉しいわ。」
「だがそれも今日で終わりだ。由香里君をこんな目に遭わせるなんて・・・・、」
ギュッと埴輪を握りしめる。
このまま砕いてしまいたいが、ユカリ君を助けないといけないので、それは出来ない。
「茂美さん、一つ頼みがある。」
「何かしら?」
「金輪際、俺たちの前に現れないでくれ。」
「嫌だと言ったら?」
「あんたを許さない。」
俺は由香里君を守るように立ちはだかる。
これ以上大切な相棒を傷つけられてなるものか!
しかし茂美は「ふふふ」と不敵に笑った。
「久能さん。」
「なんだ?」
「あなたに何が出来るのかしら?」
「なに?」
「ここは人形たちの墓場、暗い暗い古墳の中。今私がいる場所にさえ手が届かないでしょ?」
そう言って挑発的に手を広げた。
確かに彼女の言う通りで、ここからでは何も出来ない。
奴は穴の上に立っていて、何をしようとも手が届かない。
「私が許せないというのなら、今ここで殺してごらんなさいな。」
「ぐッ・・・・貴様・・・・、」
「悔しいわねえ。傍に大切な人がいるっていうのに、あなたには何も出来ない。」
「そんなことはない!外には爺さんや朝上女史がいる。彼らは俺たちの味方だ。
大声を上げれば、すぐに助けに来て・・・・、」
「馬鹿な男。」
「なんだと?」
「私がどうやってここへ入って来たと思ってるの?」
「どうやってって・・・・お前!まさか・・・・、」
「奴らはもうこの世にはいない。その身に宿った魂はすでに消滅したわ。」
「お・・・お前がやったのか?」
「もちろん。そうでなきゃここには入れなかったからね。」
肩を竦め、クスっと微笑む。
「奴らは私の邪魔をしようとした。だから抹殺したのよ。」
「見損なったぞ茂美さん!まさかそこまで冷酷なことをする奴だったとは・・・・、」
「見抜けなかったあなたが間抜けなのよ。そっちの相棒さんも。」
そう言って由香里君を見下す。
「いくらしっかり者の助手でも、しょせんまだま子供。あっさりと私の言うことを信じるなんて・・・・馬鹿ね。」
辛辣な言葉を投げかけられて、由香里君の顔が悔しそうに歪む。
「茂美さん、あんたはどうかしてるぞ。由香里君にまで手を出そうなんて・・・・いったい何があった?
何が目的でこんな酷いことを・・・・、」
「酷いこと?」
「そうだ!なんの罪もない人間や人形をいたぶるなんて・・・、」
「酷いのはそっちよ!」
茂美の顔が歪む。
カッと目を見開き、赤く血走った。
《なんだ・・・・あの冷静沈着な女が、こんな感情的になるなんて・・・・。》
いつもの茂美らしくない。
彼女はいつだって凛としていて、何を言われようとも動じたりしないはずなのに。
「いい久能さん?酷いのは私じゃない。本当に酷いのは・・・・酷いのは・・・・、」
茂美の顔はさらに歪む。
やはり今日の彼女は普通じゃない。
「どうしたんだ?何があった?」
「うるさい!黙れポンコツ探偵!」
「自覚してるさ。ただ今日のあんたもずいぶんポンコツじゃないか?」
「なんですって?」
「普段のあんたなら、そんな風に取り乱したりしない。
それに何が目的かは知らないが、いつものあんたなら俺に邪魔されるようなヘマはしないはずだ。」
「だからうるさいって言ってるのよ!」
鬼のような形相に変わって、懐から巻物を取り出す。
「それ以上減らず口を叩くなら、今ここで殺してやるわ。」
巻物から吹雪きが放たれる。
辺りがツンドラのような極寒に変わった。
「うおおおお!その巻物、まさか・・・・、」
「そうよ、久能さんが持っている物と同じ物。」
「古文書・・・・他にもあったのか・・・・。」
茂美は古文書を掲げる。
するとさっきよりも寒さが増した。
もはや寒いというより、痛いといった方が正しい。
肌を切るような冷気が吹き荒れる。
「きゃああああ!」
「大丈夫か由香里君!」
彼女を抱きしめて、少しでも冷気から守る。
「久能さん!」
「平気だ。何も心配いらない。」
「でもヒゲとか髪の毛がカチコチに・・・、」
「心配するな。君だけでも必ず助けるさ。」
「久能さん・・・・。」
冷気は激しく吹き荒れて、もはやブリザードに等しい。
「うふふ、そのまま仲良く凍りなさい。人形たちと一緒にね。」
不敵な笑いを響かせながら、茂美は去っていく。
「おい待て!お前はいったい何を企んでいる!?どうしてこんなことをするんだ!!」
やはり今日の茂美はおかしい。
奴の頭が狂ってるのはいつものことだが、今日は特別に狂っている。
「クソ!このままじゃ本当に氷漬けになってしまう・・・・。」
ブリザードは確実に俺たちの命を削っていく。
もはや息子がどうとか冗談を飛ばせるレベルじゃない。
「久能さん・・・・私たちはここで・・・・、」
「大丈夫、君は守る。」
「でもこの寒さじゃ・・・・、」
「平気さ、こうしていれば。」
俺は自分の服を脱ぎ、由香里君に着せた。
「ちょっと何してるんですか!」
「何って、君を温める為さ。」
「そんなことしたら久能さんが凍えちゃうじゃないですか!」
「いいさ。」
「なッ・・・・、」
「君が助かるならそれでいい。」
「そ、そんなの私は嫌です!久能さんを犠牲にして助かるなんて・・・、」
「俺はその方がいい。それで君が助かるなら本望さ。」
「どうして・・・・どうしてそんな・・・、」
由香里君は首を振る。
俺は凍えながらもこう言った。
「君がいない間、なんだか気が抜けちゃってさ。全然探偵をやっている気がしなかったよ。
その時気づいたのさ、君という相棒がいてこその久能探偵事務所なんだってね。」
「・・・・久能さん。」
由香里君は泣きそうな顔をする。
俺は微笑みを返したが、寒さのあまり表情が動かない。
「ああ・・・・だんだん眠くなってきた・・・。」
「ダメ!寝ちゃダメですよ!」
由香里君がガクガク揺さぶる。
でも意識は遠のいていく。
由香里君の腕の中で、視界が朦朧としていった。
《俺の人生もここまでか・・・・。》
なんという情けない終わり方か。
茂美の奴に殺されてしまうなんて。
・・・・願わくば、どうか由香里君だけでも助かってほしい。
俺はどうなってもいいから、彼女だけは・・・・、
『埴輪の方が可愛いだしょ?』
「・・・・・・・・ッ!」
今・・・・なんか声が聴こえた。
『土偶より埴輪の方が可愛いだしょ?』
《な・・・なんだ?誰だこの声は?》
『埴輪の方が可愛いだしょ?』
《これは・・・・まさかの古代ムー大陸の埴輪か!?》
『ねえ?どっちが可愛いと思うだしょ?』
《・・・・それ、今にも死にそうな人間に尋ねることか?》
『どっち?あんたどっち派だしょ?』
《・・・・そうだな。どちらかというと埴輪の方が・・・・、》
『よっしゃOK!助けてあげるだしょ。』
《なに・・・・?》
ヒップホップみたいな軽快な口調で言う。
・・・・次の瞬間、埴輪を握っている手の中が暑くなって、ブリザードは消し飛んだ。
「うおおお・・・なんて暖かいんだ・・・・。まるでサウナにいるような・・・・。」
冷え切った身体が温もっていく。
朦朧としていた意識が戻ってくる。
気がつけば何事もなかったかのように復活していた。
「なんなんだ?いったいどうなって・・・・、」
「久能さん!」
由香里君が抱きついてくる。
彼女の身体もすっかり温もっていた。
「よかった・・・死んじゃうんじゃないかと思った・・・・。」
「大袈裟だな、こうして生きてるさ。」
「でも死にかけてたじゃないですか!もしこのまま死んじゃったらどうしようって・・・・、」
「そうだな、確かに危なかった。」
「よかった・・・・助かってよかった・・・・。」
また泣き出す由香里君。
俺はポンポンと彼女の背中を撫でた。
「ええっと・・・・まあ、その・・・なんだ。詳しい事情は分からないが、一つ言いたいことがある。」
由香里君は顔を上げる。
頬が赤くなって、目も赤く染まっていた。
「帰って来てくれるかい?」
まっすぐ見つめながら、返事を待つ。
由香里君は涙を拭いて、強く頷いた。
「もちろんです!」
ようやく相棒が戻って来てくれた。
そう長い間離れていたわけじゃないが、彼女が傍にいないと、どうもしっくりこない。
エロ本を読んでも、鉄拳が飛んでこないなんて寂しすぎる。
もし彼女がいなくなったら、俺はエロ本を読むのさえやめてしまうだろう。
どうして茂美がこんな事をして、どうして由香里君がこんな目に遭ったのかは分からない。
しかし今はとりあえずこう言いたかった。
「おかえり由香里君。」
感情が昂っているせいか、由香里君はまた抱きついてくる。
俺も手を回し、ギュッと抱きしめた。
息子も色々な喜びを感じて、反り立つように天を向く。
それを察知した由香里君は、ニコっと笑った。
「そういう意味で抱きついたんじゃないですからね。」
笑顔のまま拳を握る。
俺の脳天に雷が落ちた。

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